説明

プラスチゾル組成物

分散ポリマー、ポリマーの可塑剤、および少なくとも1種の希釈剤を含むプラスチゾルの粘度と、プラスチゾルから形成された物品からの液体の浸出との両方は、1)プラスチゾル中の可塑剤も含めた全ての液体成分のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均と、2)分散ポリマーのHildebrand溶解度パラメータとの差が±0.6から±1のときに最小限に抑えられる。本発明のプラスチゾルは、フィルムおよび成型品に製作するのに、また様々な金属および非金属基板に対するコーティング材料として、適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2006年7月21日に出願した米国特許出願第11/459166号の継続出願である。
【0002】
本発明は、プラスチゾル組成物に関する。より詳細には、本発明は、可塑剤を含めた液体成分のタイプおよび濃度により、プラスチゾルのポリマー部分の溶解度パラメータに対して指定範囲内に存在するこれら成分の重量平均Hildebrand溶解度パラメータが得られる場合に、プラスチゾルの粘度が最小限に抑えられるプラスチゾル組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
プラスチゾルは、限定されるものではないが、非架橋熱可塑性有機ポリマーの細粒とポリマー用可塑剤を含む液相とを含んだ分散相を含むものである。この件に関するいくつかの教本においては、プラスチゾルは分散相として任意の有機ポリマーを含むものと定義され、他方、他の教本においては、ポリマーを塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマーに限定している。本発明の記載においてはより広範囲な定義が用いられる。
【0004】
プラスチゾルの主な最終用途の適用例は、フィルム、コーティング、および成型材料としての適用である。フィルムおよびコーティングは、プラスチゾルを流動性液体として表面に塗布することによって調製される。次いでプラスチゾルの層を加熱して、いかなる揮発性液体も蒸発させ、ポリマー粒子を融着させて固体層を形成する。
【0005】
可塑剤は、分散したポリマーを溶媒和するその能力に基づいて分類することができる。混合ブチルベンジルエステル(BBP)などのある種のフタル酸エステルと、ジエチレンおよびジプロピレングリコールなどのグリコールの安息香酸エステルは、ポリ塩化ビニルに対して特に良好な溶媒和剤である。したがって安息香酸エステルは、高速加工にかけられることになるこのポリマーを含有するプラスチゾル配合物に使用するのに好ましい。多くの最終用途の適用例では、可塑剤を溶媒和することによって与えられた高い粘度の場合、所望の加工粘度を実現するために、液体炭化水素、ケトン、またはその他の種類の有機液体を使用する必要がある。得られたプラスチゾルをオルガノゾルと呼び、有機液体を希釈剤と呼ぶ。オルガノゾル中の有機液体の濃度は、典型的には、プラスチゾルの全重量に対して5重量%よりも高い。
【0006】
ビス(2−エチルヘキシルフタレート)などのその他のフタル酸ジエステル、文献ではDOPと呼ばれるPVC用の中度の溶媒型可塑剤を含有するプラスチゾルは、先に述べたより高度の溶媒型可塑剤に関連して実質的に上昇した粘度を示す可能性が低いが、依然として有機液体またはその他の粘度抑制剤の使用が必要になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,950,702号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Encyclopedia」Volume III, Chapter 26 (PVC Technology)
【非特許文献2】「the Journal of Rheology」Volume 26, Issue 6, pp 557-564
【非特許文献3】「the Journal of Applied Chemistry」 3, 76-80 (1953)
【非特許文献4】J. Kern Sears and Joseph R. Darby 編「The Technology of Plasticizers」(1982年 John Wiley and Sons発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1は、PVCプラスチゾルおよびオルガノゾル中で、レオロジー制御剤として液体炭化水素希釈剤を使用することについて論じている。評価された炭化水素は、脂肪族炭化水素と、芳香族炭化水素を13、16、および98体積%有する脂肪族の混合物とを含んでいる。そこにおけるデータは、芳香族炭化水素の含量が0.02から98%に増加するにつれて、プラスチゾルの粘度が2.0から3.3パスカル秒(Pa.s)に増大したことを実証している。これらの粘度の値は共に加工可能な範囲内にある。
【0010】
可塑剤中に、ポリ塩化ビニルの細粒から本質的になるペーストを機械的に分散させることによって調製された、低粘度プラスチゾルは、参照により本明細書に組み込まれている特許文献1に記載されている。得られたプラスチゾルによって示された低粘度は、可塑剤としての、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルベンゾエートまたはトリプロピレングリコールモノメチルエーテルベンゾエートの使用からもたらされる。プラスチゾルの粘度は十分に低いので、スラッシュ成型品、または弾力性フローリング構造などの自立型基板上へのコーティングを促進させ、有機液体の使用を必要としない。
【0011】
ポリ塩化ビニルの濃縮フタル酸エステル可塑化エマルジョンのダイラタンシーに対する様々な溶媒の作用は、S.J.WileyおよびC.W.Macoskoによって調査され、その結果は、非特許文献2に報告されている。粒子間相互作用の強度に対する特定の溶媒の作用は、立体安定化理論という言葉で解釈された。ダイラタンシーを引き起こすのに必要とされる流動強度は、連続相の溶媒品質が低下するにつれて減少した。
【0012】
従来技術は、可塑剤を含めた様々な液体とのポリマーの相溶性を予測するために、様々な数式を含む。「溶解度パラメータ」という用語は、特定溶媒の溶媒和能力を定量するために、Joel H.Hildebrandによって初めて使用された。Hildebrandは、このパラメータを、c=(ΔH−RT)/Vmとして先に定義された凝集エネルギー密度、cの平方根として表した。多数の有機化合物に関する溶解度パラメータは、Hildebrandによって開発された式を使用して計算された。
【0013】
その後、Hildebrandの式を使用して計算された同様の溶解度パラメータ値に基づいて相溶性を有するべきである、極性および無極性分子の対は、事実上非混和性であることが発見された。極性基の存在と、分子間の水素結合の可能性とによって、分子の溶解度パラメータは影響を受けた。Hansenは、分子の全溶解度パラメータが、分子の溶解度に対する双極子、極性、および水素結合寄与率の合計の平方根に等しいという彼の処方を開発する際に、これらのタイプの両方の分子間相互作用を考慮した。
【0014】
P.Teasは、三角グラフを使用して、Hansenによって記述された3タイプの分子間相互作用の寄与率を2次元で示すための方法を開発した。3つの相互作用のそれぞれに関するスケールは、三角形の3つの辺上に表す。3タイプのHansen相互作用の大きさを、特定の有機液体に関して決定したら、その値を、グラフ上の単一点としてプロットする。ポリマーに適した溶媒の群は、グラフ上の隣接点によって表されるように、有機液体の群の中でどの要素が同様の溶解度パラメータ値を示すのかを実験的に決定し、ポリマーを実際に膨潤させ、これらの液体を表す点に○印を付けることによって、定義することができる。
【0015】
P.A.Smallは、1)化合物中の官能基によって示される「Smallの定数」とも呼ばれるモル引力定数の合計を、2)化合物のモル体積で割ることによって、可塑剤およびポリマーを含む化合物の溶解度パラメータを決定するための方法を開発した。Smallの研究は、参照により本明細書に組み込まれた非特許文献3に報告されている。他に指示しない限り、下記のセクションにおける全ての溶解度パラメータ値は、Hildebrand単位で表す。多くの溶媒に関するSmallの定数は、これらの溶媒の供給者によって発行された文献に報告されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
A.可融性有機ポリマーの粒子を含む分散相と、B.液相、即ち1)前記ポリマー用の可塑剤および2)前記液相の全重量に対して5から55重量%の有機希釈剤を含む液相とを含む、プラスチゾルが提供される。前記プラスチゾルの液相の成分に関する個々のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均は、前記ポリマーのHildebrand溶解度パラメータ値と約±0.6から約±1.0だけ異なっている。重要な態様では、プラスチゾルの粘度と、このプラスチゾルから形成された物品からの液体の浸出とは共に、1)プラスチゾル中の全ての液体成分のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均と、2)有機ポリマー構成成分のHildebrand溶解度パラメータとの差が±0.6から±1である場合、最小限に抑えられる。Hildebrand溶解度パラメータ値が、相溶性ある混合物中の個々の液体に関して計算された場合、混合物の重量平均溶解度パラメータは、1)各成分に関する溶解度パラメータ値に混合物中のその重量分率を掛け、次いで2)これらの計算値を加えることによって、計算することができる。この計算の結果を、以下、重量平均溶解度パラメータと呼ぶことになる。
【0017】
別の態様では、a)少なくとも1種の有機ポリマーの細粒と、b)Hildebrand溶解度パラメータ値に基づいて、プラスチゾルに高粘度をもたらすことが予測されるものを含めたポリマー用の少なくとも1種の可塑剤と、c)プラスチゾルの希釈剤としての有機液体とを含む、低粘度プラスチゾルを予測通りにもたらすプラスチゾルを、調製するための方法が提供される。希釈剤の適正なタイプおよび量の選択は、a)ポリマー部分のHildebrand溶解度パラメータ値と、b)プラスチゾルの全ての液体成分の、Hildebrand溶解度パラメータ値の重量平均との間の数学的関係を使用することによって可能になる。これまで、適切な希釈剤/可塑剤の組合せの選択は、典型的には試行錯誤の繰返しであった。プラスチゾル組成物は、コーティング結合剤を提供するのに有効である。
【0018】
別の態様では、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールのモノおよびジイソブチレートのエステルと、有機希釈剤とを含む、液体ブレンドが提供される。有機希釈剤は、脂環式炭化水素と直鎖状および分枝鎖状の両方のパラフィン系炭化水素とのブレンドである。液体ブレンドが混和性であることは、重要でありかつ予期せぬことである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者等は、フタル酸ブチルベンジル(BBP)の代わりにジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールのジベンゾエートを特定のプラスチゾル配合物に用いた結果、プラスチゾルの粘度に25倍の上昇がもたらされたことを発見した。得られたプラスチゾルは、従来の装置を使用して加工するには粘度が高すぎた。この粘度は、可塑剤としてBBPを含有するプラスチゾルと共に伝統的に使用されてきた液体炭化水素混合物を使用して、加工可能なレベルに低下させることができなかった。両方のプラスチゾルで評価された炭化水素混合物は、芳香族炭化水素を63重量%、混合脂肪族炭化水素を15%、および直鎖パラフィン系炭化水素を22%含有した。
【0020】
BBPの代わりに安息香酸エステルを用いた場合に生ずる、前述の粘度の予期せぬ大きな上昇に関しての可能性ある説明を探し求めているうちに、本発明者等は、分散ポリマー、可塑剤、および溶媒を含むプラスチゾルの粘度が、a)ポリマーのHildebrand溶解度パラメータとb)プラスチゾル中に存在する有機希釈剤、可塑剤、および任意のその他の液体成分のHildebrand溶解度パラメータの重量平均との間の、これまで開示されていなかった数学的関係に直接関係することを発見した。a)とb)との差は、一方では高すぎるプラスチゾル粘度を避けるために、または他方ではプラスチゾルから形成された物品から液体が浸出する可能性を避けるために、指定範囲内になければならないと決定した。
【0021】
本発明のプラスチゾルの希釈剤として適切な、多くの可塑剤、ポリマー、および液体有機化合物の溶解度パラメータは、刊行物において入手可能であり、またはSmallによる、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献3によって開発されたものなどの数式を使用して、表面張力の値などの実験データから計算することができる。
【0022】
「約」という用語は、本発明の先の記述では溶解度パラメータ値の範囲の定義で見られるが、それは、1)プラスチゾルのポリマー、希釈剤、およびその他の液体成分によって示される溶解度パラメータ値を計算するのに使用される、とりわけ表面張力を含めた物理的性質の測定値が、これらが測定される実験条件によって±5%以上程度変化する可能性があり、2)本明細書に報告された、溶解度パラメータ値を計算するのに使用されるSmallの定数が、単なる近似値でありかつこれらがベースにする官能基の環境に応じて様々に変わることになるからである。液相の重量平均溶解度パラメータ値の、本発明の操作可能な範囲を定める限度が近似されるとしても、これらの範囲内の値を選択することによって、プラスチゾル配合の当業者は、最小限の実験で低粘度のプラスチゾルを調製することが可能になる。
【0023】
本明細書で使用される「プラスチゾル」という用語は、ポリマー用の少なくとも1種の可塑剤と、希釈剤として機能する少なくとも1種の液体有機化合物とを含んだ液体媒体に懸濁させた、微粒子形態の少なくとも1種の有機ポリマーを含む液体ポリマー組成物を指す。必要とされる可塑剤の他に、これらの液体希釈剤の1種または複数を合計で約5重量%超含有するプラスチゾルを、「オルガノゾル」とも呼ぶ。
【0024】
本明細書で使用される「コーティング結合剤」は、溶媒を蒸発させた後の、コーティングのフィルムのポリマー部分を意味する。
【0025】
本明細書で使用される、「混和性」という用語は、液体に溶解しまたは可溶な液体を意味する。「溶解した」は、溶解した材料が、動的光散乱によって測定したときに直径が約30nM超である粒子を少なくとも約5重量%有する微粒子形態で、液体中に存在しないことを意味する。「可溶な」は、液体に溶解した液体、または液体に溶解した固体を意味する。
【0026】
プラスチゾルを低粘度とすることに加え、本発明のプラスチゾルにおける液体成分の組合せは、ポリマーに対して十分に相溶性があるので、これらの液体は、プラスチゾルから形成された物品から浸出しないことになる。
【0027】
ポリマー
プラスチゾルに配合することができる既知のポリマーのいずれかを、本発明による低粘度プラスチゾルを調製するのに使用することができる。本発明のプラスチゾルの分散相を構成するポリマーは、フリーラジカル開始エマルジョン重合によって調製することができる、エチレン系不飽和有機モノマーのポリマーと、これらのモノマーの混合物とを含む。適切なモノマーには、1)塩化ビニルなどのエチレン系不飽和ハロカーボン、2)アクリルおよびメタクリル酸などのエチレン系不飽和酸、およびこの酸と最大8個以上の炭素原子を含有するアルコールとのエステル、および3)ビニルアルコールとエチレンなどのオレフィンとのコポリマーが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマーと、アクリルおよびメタクリル酸エステルのホモおよびコポリマーとは、可塑剤として安息香酸エステルを含有するプラスチゾルでのその広範な商業的適用可能性に基づいて、好ましい。本発明のプラスチゾルを調製するのに適した塩化ビニルポリマーは、粒度に応じて分類される。分散級樹脂は、典型的には0.5から約5ミクロンの粒度を示し、ブレンド級樹脂は、約20から約55ミクロンを示す。
【0029】
可塑剤
約25℃で液体である既知の有機可塑剤のいずれかは、本発明による低粘度プラスチゾルを調製するのに使用することができる。これら可塑剤の多くは、モノおよびジカルボン酸のエステルである。適切な可塑剤の詳細な考察は、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献4に見出すことができる。
【0030】
本発明の低粘度プラスチゾルの調製に際し、使用するのに好ましい可塑剤には:
安息香酸と2価アルコール、グリコール、およびグリコールエーテルとのジエステルと、フタル酸と1価アルコールとのジエステルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
フタル酸のエステルを調製するのに適した1価アルコールは、直鎖または分枝鎖構造にある1から8個以上の炭素原子を含有し、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、2−エチルヘキシル、イソノニル、およびベンジルアルコールが含まれるが、これらに限定されるものではない。安息香酸のエステルを調製するのに適した2価アルコールには、プロピレングリコールと、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブタンジオールなどのオリゴマーエーテルグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
安息香酸エステルおよびフタル酸エステル可塑剤を、個別にまたは混合して使用することができる。適切な混合物には、融点が25℃よりも低い共晶混合物を形成する、安息香酸のエチレングリコールおよびプロピレングリコールエステルの組合せが含まれる。エチレンおよびプロピレングリコールのダイマーおよび/またはトリマーグリコールエーテルから得られる安息香酸エステルの混合物が、本発明のプラスチゾル組成物には特に好ましい可塑剤である。好ましい安息香酸可塑剤に関する溶解度パラメータ値は、典型的には10よりも大きい。ブチルベンジルフタレートなどの好ましいフタル酸エステル可塑剤の溶解度パラメータは、典型的には10未満である。
【0033】
補助可塑剤
1次可塑剤とも呼ぶことができる、上記セクションで列挙された可塑剤の他に、本発明のプラスチゾルは、単独で使用する場合には効果的でないが1次可塑剤と組み合わせた場合には、プラスチゾルの粘度を所望のレベルに調節するよう作用する、1種または複数の補助可塑剤を任意選択で含むことができる。好ましい2次可塑剤は、1)安息香酸と、2−エチルヘキサノール、イソオクタノール、またはイソノナノールなどの1価アルコールとから得られた液体モノ安息香酸エステルと、2)2から8個またはそれ以上の炭素原子を含有する、ジオール、グリコール、およびグリコールエーテルの液体モノ安息香酸エステルと、3)2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールのモノおよびジイソ酪酸エステルなどの、市販のジオールエステルである。
【0034】
有機希釈剤
本発明のプラスチゾルの、第3の必要な成分は、必要とされる濃度レベルでポリマーの溶媒ではない少なくとも1種の有機希釈剤である。好ましい希釈剤には、25℃で液体である炭化水素およびケトンが含まれる。液体炭化水素は、典型的には、指定温度範囲内で沸騰する芳香族および/または脂肪族炭化水素の混合物として供給される。
【0035】
単独のまたは直鎖状および分枝鎖状脂肪族炭化水素と組み合わせた脂環式炭化水素の混合物は、塩化ビニルおよび少なくとも1種の安息香酸のグリコールエステルを1次可塑剤として含有する、プラスチゾルに適した希釈剤である。全ての希釈剤の全濃度は、プラスチゾル中に存在する可塑剤および任意のその他の液体成分の全重量に対し、典型的には約2から約55%であり、好ましくは約10から50%である。
【0036】
所望の濃度レベルで存在する場合、プラスチゾルの希釈剤部分は、PVCに関して9.6であるポリマーのHildebrand溶解度パラメータの両側で、0.6から1の存在範囲内にある、全ての液体成分の溶解度パラメータに関する重量平均値に寄与する。
【0037】
可塑剤が、ブチルベンジルフタレートなどのフタル酸のジエステル、即ち塩化ビニルポリマーの高度の溶媒型可塑剤である場合、好ましい希釈剤は、芳香族炭化水素と直鎖および分枝鎖アルカンとの混合物である。市販の炭化水素混合物に関するHildebrand溶解度パラメータは、アルキルベンゼンに関して8.4であり、直鎖パラフィン系炭化水素に関して7.2である。
【0038】
希釈剤としての、特定の有機液体またはこれらの液体の混合物の選択は、希釈剤の溶解度パラメータの数値のみに基づくのではなく、プラスチゾル中に存在する液体成分の組合せによって示される、重量平均Hildebrand溶解度パラメータへの寄与率の数値に基づくことが、前述の考察から明らかであるべきである。この寄与率は、成分の溶解度パラメータの値に、混合物中のその重量濃度を掛けることによって計算される。
【0039】
追加の成分
ポリマー、可塑剤、および液体希釈剤の他に、プラスチゾルは、
炭酸カルシウムなどの充填剤;
脂肪酸のカルシウムおよびバリウム塩などの熱可塑剤;
リン酸のエステル;
アゾジカルボンアミドなどの発泡剤;
酸化亜鉛などの発泡触媒;
難燃剤;
界面活性剤;
UV吸収剤;および
二酸化チタンなどの顔料
を含むが、これらに限定されるものではない追加の固体および/または液体成分を、含有してもよい。
【0040】
プラスチゾルの全ての液体成分の溶解度パラメータを決定しなければならず、これらの値は、液相に関する重量平均溶解度パラメータ値の計算に含まれた。
【0041】
本発明のプラスチゾルは、低粘度プラスチゾルを素早く付着させる必要がある最終用途の適用例に、有用である。これらの適用例には、1)浸漬、噴霧、またはコーティングローラの使用によって、金属または非金属表面に付着されたコーティング、および2)成型材料として含まれるが、これらに限定されるものではない。プラスチゾルは、布地の層、特に弾力性床仕上げ材および壁装材の構造で使用されるものへのコーティング、および金属表面への噴霧コーティングに、特に有用である。成型の適用例には、「スラッシュ成型」と呼ばれる技法、回転成型、密閉金型および開放金型の使用による、成形品の製作が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
下記の実施例は、本発明のプラスチゾル組成物の2つの好ましい実施形態について記述し、本明細書および添付の特許請求の範囲に記述される本発明の範囲を限定されるものと解釈すべきではない。添付される表において、2種のポリ塩化ビニル樹脂の部は、重量によるものである。プラスチゾルのその他の成分の量は、組み合わせた樹脂100部当たりのこれらの成分の重量(PHR)として表される。粘度測定は、1)粘度範囲に適しておりかつ20RPMの速度で回転するスピンドルを備えた、ブルックフィールドモデルRVT粘度計と、2)Burrell−ServersからモデルA−120として入手可能な押出しタイプのレオメータとを使用して、23℃で行った。
【実施例1】
【0043】
本発明の組成物を特徴付ける範囲内および範囲外にある、ポリ塩化ビニルに対する重量平均溶解度パラメータを示す液相を有するプラスチゾル組成物を、下記の成分が均質になるまでブレンドすることによって調製した:
0.5から5ミクロンの平均粒度を示す、分散級ポリ塩化ビニル樹脂60部。適切な樹脂は、PolyoneからGeon(登録商標)170シリーズの1つとして入手可能である;
20から55ミクロンの平均粒度を示し、かつPolyoneからGeon(登録商標)210シリーズとして入手可能な、ブレンド級ポリ塩化ビニル樹脂40部;
フタル酸ブチルベンジル、またはジエチレングリコールベンゾエート65重量%およびジプロピレングリコールジベンゾエート35重量%を含有する混合物から本質的になる可塑剤30部;
補助希釈剤としての2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート10部;および
充填剤としての炭酸カルシウム30部。
【0044】
1)添付の表で配合1と見なされる、可塑剤としてBBPを含有するプラスチゾルと、2)安息香酸エステルの前述の混合物を含有しかつ対照配合物Aと見なされるプラスチゾルとの両方の希釈剤は、
282から301℃の沸騰温度範囲を示すアルキルベンゼン14.4部、および222から242℃の典型的な沸騰温度範囲を示す直鎖パラフィン系炭化水素の混合物3.6部を含有する混合物18.0部と、
249から269℃の典型的な沸騰範囲を示す脂肪族炭化水素の混合物5部と
からなるものであった。
【0045】
対照配合物Aと同じ安息香酸エステルの混合物を含有する、配合物2と見なされたプラスチゾルの希釈剤は、
混合脂環式炭化水素7.2部、および混合パラフィン系炭化水素10.8部の組合せであって、この混合物が、214から230℃の典型的な沸騰範囲を示す組合せと、
249から266℃の典型的な沸騰範囲を示す、アルカンおよびシクロアルカンの混合物5部
からなるものであった。
【0046】
対照配合物Aは、配合物2の安息香酸エステルの混合物の代わりにBBPを同量ベースで用いたこと以外、本発明の配合物1と同じタイプおよび量の成分を含有していた。
【0047】
3種の配合物の粘度を、表2にまとめる。
【0048】
個々の成分に関して計算されたHildebrand溶解度パラメータと、液相に関する溶解度パラメータの重量平均値同士の差を表3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
表3のデータは、a)液体炭化水素、ジイソブチレート、および可塑剤を含めた液体成分の全てに関するHildebrand溶解度パラメータの重量平均値と、b)ポリ塩化ビニルの溶解度パラメータとの差が、配合物1および2の場合のように0.6から1の存在範囲内にある場合、プラスチゾルの粘度は有用範囲内にあったことを実証する。
【0053】
対照Aの場合、PVCの溶解度パラメータ(SP)と液体のSP値の重量平均との差0.54は、存在範囲よりも下にあり、液体成分の組合せがポリ塩化ビニルに対して非常に相溶性があることを示している。プラスチゾル粘度で観察された実質的な上昇は、ポリマーと液体成分との相溶性のこの増大に起因した、ポリマー粒子の膨潤からもたらされたと考えられる。
【実施例2】
【0054】
混和性の評価は、下記の結果を示した。
【0055】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチゾルであって、
A.可融性有機ポリマーの粒子を含む分散相と、
B.1)前記ポリマー用の可塑剤および2)前記液相の全重量に対して5から55重量%の有機希釈剤を含む液相と、
を含むプラスチゾルであって、
前記プラスチゾルの液相の成分に関する個々のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均が、前記ポリマーのHildebrand溶解度パラメータ値とは約±0.6から約±1.0だけ異なることを特徴とするプラスチゾル。
【請求項2】
前記有機ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーと、塩化ビニルおよびオレフィン系炭化水素のコポリマーと、エチレン系不飽和酸のホモポリマーおよびコポリマーと、これらのエステルとからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のプラスチゾル。
【請求項3】
前記ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択され、前記可塑剤は、安息香酸および2価アルコールのジエステルと、フタル酸および1価アルコールのジエステルとからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項2に記載のプラスチゾル。
【請求項4】
前記可塑剤は、安息香酸とジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブタンジオールとのジエステルからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項3に記載のプラスチゾル。
【請求項5】
前記プラスチゾルは、充填剤、顔料、熱安定剤、潤滑剤、難燃剤、リン酸エステル、発泡剤、発泡触媒、界面活性剤、およびUV吸収剤からなる群から選択された少なくとも1種の成分をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチゾル。
【請求項6】
前記可融性有機ポリマーは、分散級およびブレンド級のポリ塩化ビニルのブレンドであり、可塑剤は、ジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールのジベンゾエートのブレンドであることを特徴とする請求項1に記載のプラスチゾル。
【請求項7】
希釈剤は、脂環式炭化水素と、直鎖状および分枝状パラフィン系炭化水素の両方との液体混合物を含むことを特徴とする請求項6に記載のプラスチゾル。
【請求項8】
前記液相は、安息香酸と2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールとのモノエステル、安息香酸と1価アルコールとのエステル、2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールと2から8個の炭素原子を含有するカルボン酸とから得られる液体エステルからなる群から選択された少なくとも1種の補助可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載のプラスチゾル。
【請求項9】
前記補助可塑剤は、安息香酸と1価アルコールとの少なくとも1種のエステルであることを特徴とする請求項8に記載のプラスチゾル。
【請求項10】
フィルム形成成分として請求項1に記載のプラスチゾルを含むコーティング組成物であって、浸漬、噴霧、またはローラの使用によって基材に付着させるのに有効であることを特徴とする組成物。
【請求項11】
前記基材は、弾力性床仕上げ材、壁装材、および金属表面を製作するための布地からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
自立型フィルムを調製するのに有効な組成物であって、フィルム形成成分として請求項1に記載のプラスチゾルを含むことを特徴とする組成物。
【請求項13】
成型品を提供するのに有効な成型組成物であって、請求項1に記載のプラスチゾル組成物を含むことを特徴とする成型組成物。
【請求項14】
コーティング結合剤を提供するのに有効なプラスチゾル組成物であって、プラスチゾルが、
A.可融性有機ポリマーの粒子を含む分散相と、
B.液相、即ち1)前記ポリマー用の可塑剤および2)前記液相の全重量に対して5から55重量%の有機希釈剤を含む液相と、
を含み、前記プラスチゾルの液相の成分に関する個々のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均が、前記ポリマーのHildebrand溶解度パラメータ値とは約±0.6から約±1.0だけ異なることを特徴とするプラスチゾル組成物。
【請求項15】
前記有機ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーと、塩化ビニルおよびオレフィン系炭化水素のコポリマーと、エチレン系不飽和酸のホモポリマーおよびコポリマーと、これらのエステルとからなる群から選択されることを特徴とする請求項14に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項16】
前記ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択され、前記可塑剤は、安息香酸および2価アルコールのジエステルと、フタル酸および1価アルコールのジエステルとからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項15に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項17】
前記可塑剤は、安息香酸とジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブタンジオールとのジエステルからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項16に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項18】
前記プラスチゾルは、充填剤、顔料、熱安定剤、潤滑剤、難燃剤、リン酸エステル、発泡剤、発泡触媒、界面活性剤、およびUV吸収剤からなる群から選択された少なくとも1種の成分をさらに含むことを特徴とする請求項14に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項19】
前記可融性有機ポリマーは、分散級およびブレンド級のポリ塩化ビニルのブレンドであり、可塑剤は、ジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールのジベンゾエートのブレンドであることを特徴とする請求項14に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項20】
希釈剤は、脂環式炭化水素と、直鎖状および分枝状パラフィン系炭化水素の両方とから本質的になる液体混合物を含むことを特徴とする請求項19に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項21】
前記液相は、安息香酸と2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールとのモノエステル、安息香酸と1価アルコールとのエステル、2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールと2から8個の炭素原子を含有するカルボン酸とから得られた液体エステルからなる群から選択された少なくとも1種の補助可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項20に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項22】
前記補助可塑剤は、安息香酸と1価アルコールとの少なくとも1種のエステルであることを特徴とする請求項21に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項23】
可融性有機ポリマーの粒子を含む分散相と、液相、即ち前記ポリマー用の可塑剤および前記液相の全重量に対して5から55重量%の有機希釈剤を含む液相とをブレンドするステップを含み、
前記プラスチゾルの液相の成分に関する個々のHildebrand溶解度パラメータ値の重量平均が、前記ポリマーのHildebrand溶解度パラメータ値とは約±0.6から約±1.0だけ異なることを特徴とするプラスチゾル組成物の調製方法。
【請求項24】
前記有機ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーと、塩化ビニルおよびオレフィン系炭化水素のコポリマーと、エチレン系不飽和酸のホモポリマーおよびコポリマーと、これらのエステルとからなる群から選択されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマーは、塩化ビニルのホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択され、前記可塑剤は、安息香酸および2価アルコールのジエステルと、フタル酸および1価アルコールのジエステルとからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記可塑剤は、安息香酸とジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブタンジオールとのジエステルからなる群から選択された少なくとも1種の要素であることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プラスチゾルは、充填剤、顔料、熱安定剤、潤滑剤、難燃剤、リン酸エステル、発泡剤、発泡触媒、界面活性剤、およびUV吸収剤からなる群から選択された少なくとも1種の成分をさらに含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記可融性有機ポリマーは、分散級およびブレンド級のポリ塩化ビニルのブレンドであり、可塑剤は、ジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールのジベンゾエートのブレンドであることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項29】
希釈剤は、脂環式炭化水素と、直鎖状および分枝状パラフィン系炭化水素の両方とから本質的になる液体混合物を含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記液相は、安息香酸と2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールとのモノエステル、安息香酸と1価アルコールとのエステル、2から8個の炭素原子を含有する脂肪族ジオールと2から8個の炭素原子を含有するカルボン酸とから得られる液体エステルからなる群から選択された少なくとも1種の補助可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記補助可塑剤は、安息香酸と1価アルコールとの少なくとも1種のエステルであることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールのモノおよびジイソブチレートのエステルと有機希釈剤とを含む液体ブレンドであって、有機希釈剤が、脂環式炭化水素と直鎖状および分枝状パラフィン系炭化水素の両方とのブレンドであり、液体ブレンドが混和性であることを特徴とする液体ブレンド。

【公表番号】特表2009−544817(P2009−544817A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521911(P2009−521911)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/073923
【国際公開番号】WO2008/011536
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(503063065)
【Fターム(参考)】