説明

プラスチックレンズ

【課題】高屈折率でありながら染色性にも優れるプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】プラスチックレンズは、基材と、基材に積層された染色層と、を備え、基材は、硫黄原子およびセレン原子の少なくとも一方を有する無機化合物(a)と、下記式(1)で表される化合物(b)と、チオール基を有する化合物(c)と、を含有する重合性組成物を重合硬化して形成され、高屈折率であり、染色層は、金属酸化物微粒子(d)と、有機ケイ素化合物(e)と、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を少なくとも2個以上有する多官能化合物(f)と、を含有するコーティング組成物により形成される。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性等に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。
近年では、ファッション性等の観点から、薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、屈折率1.70を超える超高屈折率素材が普及してきている。
例えば、特許文献1,2には、硫黄原子等を有する無機化合物とチオエポキシ系化合物とを重合硬化させた高屈折率の光学材料が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−2783号公報
【特許文献2】特開2004−315556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載の光学材料は、染色が困難であるという問題があった。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高屈折率でありながら染色性にも優れるプラスチックレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のプラスチックレンズは、基材と、前記基材に積層された染色層と、を備え、前記基材は、硫黄原子およびセレン原子の少なくとも一方を有する無機化合物(a)と、下記式(1)で表される化合物(b)と、チオール基を有する化合物(c)と、を含有する重合性組成物を重合硬化して形成され、前記染色層は、金属酸化物微粒子(d)と、有機ケイ素化合物(e)と、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を少なくとも2個以上有する多官能化合物(f)と、を含有するコーティング組成物により形成されることを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
前記式(1)中、mは、0以上4以下の整数を表し、nは、0以上2以下の整数を表す。
【0008】
本発明によれば、プラスチックレンズの基材が、無機化合物(a)、化合物(b)および化合物(c)を含有する重合性組成物の重合硬化により形成される。このため、基材を高屈折率とすることができる。
このような基材は染色が困難だが、本発明では、金属酸化物微粒子(d)と、有機ケイ素化合物(e)と、多官能化合物(f)と、を含有するコーティング組成物により、染色が可能な染色層を形成する。このため、染色層を染色することで染色されたプラスチックレンズを得ることができる。
したがって、本発明によれば、高屈折率でありながら染色性にも優れるプラスチックレンズを提供することができる。
【0009】
本発明のプラスチックレンズにおいて、前記多官能化合物(f)は、多官能エポキシ化合物であることが好ましい。
このような構成によれば、多官能化合物(f)として多官能エポキシ化合物を用いることにより、染色性、擦傷性に優れ、外観上に白濁やクラックといった欠陥が出にくい染色層が得られる。
【0010】
本発明のプラスチックレンズにおいて、前記染色層は、ハードコート層であることが好ましい。
このような構成によれば、従来のプラスチックレンズでも設けられることの多いハードコート層を染色層とするので、新たな機能層として別個の染色層を設ける必要がない。このため、従来のハードコート層を備えたプラスチックレンズに対して新たな機能層を増やすことなく、容易に染色性を付与することができる。
また、染色時には染色層が加熱されることとなるため、熱に強く染色時の加熱に耐えうるハードコート層を染色層とすることが好ましい。
【0011】
本発明のプラスチックレンズにおいて、前記重合性組成物に対し、前記無機化合物(a)の含有量は、1質量%以上30質量%以下であり、化合物(b)の含有量は、25質量%以上96質量%以下であり、化合物(c)の含有量は、3質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
このような構成によれば、基材を確実に高屈折率とすることができる。
【0012】
ここで、無機化合物(a)の含有率が1質量%未満であると、基材の高屈折率化が図れず、30質量%を超えると、色調、透明性、均一性、耐熱性、耐光性、比重等の光学材料に要求されるさまざまな特性のバランスが維持できなくなるため好ましくない。
また、化合物(b)の含有率が25質量%未満であると、色調、透明性、均一性、耐熱性、耐光性、比重等の光学材料に要求されるさまざまな特性のバランスが維持できなくなり、96質量%を超えると、(a)、(c)成分の含有量が低下してしまうため、基材の高屈折率化が図れなくなったり、光学材料としての特性バランスの維持が困難になり好ましくない。
化合物(c)の含有率が3質量%未満であると、基材の低黄色を実現することができず、40質量%を超えると、基材の高屈折率化が図れなくなり好ましくない。
【0013】
本発明のプラスチックレンズにおいて、前記無機化合物(a)は、硫黄であることが好ましい。
また、本発明のプラスチックレンズにおいて、前記化合物(b)は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよびビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドの少なくとも一方であることが好ましい。
このような構成によれば、基材の屈折率をより一層高めることができる。
【0014】
本発明のプラスチックレンズは、前記染色層に積層された反射防止層を備えることが好ましい。
このような構成によれば、上述のように高屈折率で染色性に優れたプラスチックレンズに、さらに反射防止機能を付与することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高屈折率でありながら染色性にも優れるプラスチックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のプラスチックレンズおよびその製造方法について実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態では、眼鏡用のプラスチックレンズを例示するが、本発明のプラスチックレンズの用途はこれに限定されず、例えばカメラ用レンズを始め各種光学レンズに好ましく適用できる。
本実施形態のプラスチックレンズは、基材上にプライマー層、染色層としてのハードコート層、反射防止層および防汚層(撥水層)をこの順に有する。
【0017】
[基材]
本実施形態の基材は、硫黄原子およびセレン原子の少なくとも一方を有する無機化合物(a)と、下記式(1)で表される化合物(b)と、チオール基を有する化合物(c)と、を含有する重合性組成物を重合硬化して形成される。
【0018】
【化2】

【0019】
前記式(1)中、mは、0以上4以下の整数を表し、nは、0以上2以下の整数を表す。
【0020】
無機化合物(a)は、硫黄原子およびセレン原子のうち少なくともいずれか一方を1個以上有する全ての無機化合物である。
無機化合物(a)は、重合性組成物中の割合が30質量%以上であることが好ましい。この割合が、30質量%未満である場合、基材の高屈折率化の効果が小さくなり好ましくない。
無機化合物(a)の添加量は、重合性組成物に対して1質量%以上30質量%以下を使用するが、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下、特に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。
【0021】
硫黄原子を有する無機化合物(a)の具体例としては、硫黄、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、硫化セレン、金属硫化物、金属水硫化物等が挙げられる。これらの中で好ましいものは硫黄、二硫化炭素、硫化リン、硫化セレン、金属硫化物および金属水硫化物であり、より好ましくは硫黄、二硫化炭素および硫化セレンであり、特に好ましくは硫黄である。
【0022】
セレン原子を有する無機化合物(a)は、硫黄原子を含む無機化合物(a)の具体例として挙げたセレノ硫化炭素、硫化セレンを除き、セレン原子を有する無機化合物をすべて含む。
具体例としては、セレン、セレン化水素、二酸化セレン、二セレン化炭素、セレン化アンモニウム、二酸化セレン等のセレン酸化物、セレン酸およびその塩、亜セレン酸およびその塩、セレン酸水素塩、セレノ硫酸およびその塩、セレノピロ硫酸およびその塩、四臭化セレン、オキシ塩化セレン等のハロゲン化物、セレノシアン酸塩、セレン化硼素、セレン化リン、セレン化砒素、金属のセレン化物等があげられる。これらの中で好ましいものは、セレン、二セレン化炭素、セレン化リン、金属のセレン化物であり、特に好ましくはセレンおよび二セレン化炭素である。
これら硫黄原子およびセレン原子の少なくとも一方を有する無機化合物(a)は、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。
無機化合物(a)は、硫黄であることが好ましい。
【0023】
化合物(b)は、上記式(1)で表される化合物である。
具体例としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、ビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドなどのエピスルフィド類が挙げられる。
化合物(b)は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
中でも好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよび/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドであり、最も好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
化合物(b)の添加量は、重合性組成物に対して25質量%以上96質量%以下を使用するが、好ましくは30質量%以上95質量%以下、より好ましくは40質量%以上90質量%以下、特に好ましくは45質量%以上85質量%以下、最も好ましくは50質量%以上80質量%以下である。
【0024】
化合物(c)は、チオール(SH)基を1個以上有する化合物である。チオール(SH)基は活性水素を有しているため、上記の無機化合物(a)および化合物(b)に添加することで、低黄色な基材を得ることができる。また、低粘度な重合性組成物を得るという観点から、化合物(c)は、チオール(SH)基を1個だけ有する化合物であることがより好ましい。
また、この化合物(c)のうち、基材の高屈折率を維持するためには芳香環を有する化合物(c)が好ましく、基材の低黄色を実現するためには化合物(c)の分子量は200未満が好ましく、化合物(c)が液状または固状で臭気が弱くハンドリングしやすい面から化合物(c)の分子量は100以上が好ましい。
【0025】
化合物(c)の具体例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、i−プロピルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、アリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、2−(2−メルカプトエチルチオ)エタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−1,3−プロパンジオール、メルカプト酢酸、メルカプトグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メチルメルカプトグリコレート、メチルメルカプトプロピオネート、(2−メルカプトエチルチオ酢酸)メチルエステル、(2−メルカプトエチルチオプロピオン酸)メチルエステル、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−ジエチルアミノエタンチオール、2−ジブチルアミノエタンチオール、2−(1−ピロリジニル)エタンチオール、2−(1−ピペリジニル)エタンチオール、2−(4−モルフォリニル)エタンチオール、2−(N−メチルアニリノ)エタンチオール、2−(N−エチルアニリノ)エタンチオール、2−(2−メルカプトエチルメチルアミノ)−エタンチオール、シクロペンチルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン、メルカプト−1,4−ジチアン、メルカプトメチル−1,4−ジチアン、メルカプトエチルチオメチル−1,4−ジチアン、チオフェノール、4−ヒドロキシチオフェノール、2−メチルチオフェノール、3−メチルチオフェノール、4−メチルチオフェノール、4−t−ブチルチオフェノール、2,4−ジメチルチオフェノール、2,5−ジメチルチオフェノール、3−メトキシチオフェノール、4−メトキシチオフェノール、5−t−ブチル−2−メチルチオフェノール、2−クロロチオフェノール、3−クロロチオフェノール、4−クロロチオフェノール、2,5−ジクロロチオフェノール、3,4−ジクロロチオフェノール、2,3−ジクロロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、3,5−ジクロロチオフェノール、2,4−ジクロロチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、2−アミノ−4−クロロチオフェノール、2−ブロモチオフェノール、3−ブロモチオフェノール、4−ブロモチオフェノール、4−ニトロチオフェノール、2−アミノチオフェノール、3−アミノチオフェノール、4−アミノチオフェノール、ベンジルメルカプタン、4−メトキシベンジルメルカプタン、4−クロロベンジルメルカプタン、2,4−ジクロロベンジルメルカプタン、4−ブロモベンジルメルカプタン、3−ビニルベンジルメルカプタン、4−ビニルベンジルメルカプタン、2−フェニルチオエタンチオール、2−ベンジルチオエタンチオール、2−メルカプトナフタレン、1−メルカプトフラン、2−メルカプトフラン、1−メルカプトメチルフラン、2−メルカプトメチルフラン、1−メルカプトチオフェン、2−メルカプトチオフェン、1−メルカプトメチルチオフェン、2−メルカプトメチルチオフェン、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトビフェニル、4−メルカプトビフェニル、メルカプト安息香酸等が挙げられる。
【0026】
化合物(c)は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
中でも好ましい具体例は、チオフェノール、2−メチルチオフェノール、3−メチルチオフェノール、4−メチルチオフェノール、ベンジルメルカプタン、4−クロロベンジルメルカプタン、1−メルカプトメチルフラン、2−メルカプトエタノール、シクロヘキシルメルカプタンであり、最も好ましい具体例は、ベンジルメルカプタンである。
化合物(c)の添加量は、重合性組成物に対して3質量%以上40質量%以下使用するが、好ましくは3質量%以上38質量%以下、より好ましくは3質量%以上35質量%以下、特に好ましくは3質量%以上33質量%以下、最も好ましくは3質量%以上30質量%以下である。
【0027】
[プライマー層]
プライマー層は、基材の最表面に形成され、基材と後述するハードコート層双方の界面に存在して、基材とハードコート層双方への密着性を発揮する性質を有し、表面処理層全体の耐久性を向上させる役割を担う。さらに外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、耐衝撃性を向上させる性質も有する。
このようなプライマー層としては、例えば、有機樹脂ポリマーと、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子(単独酸化物あるいは複合酸化物)とを含むプライマー組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0028】
有機樹脂ポリマーは、基材とハードコート層の双方に密着性を発現する。金属酸化物微粒子は、フィラーとしてプライマー層の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性や耐光性の向上を図ることができる。
上記有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含む基材に対する密着性とフィラーとなる金属酸化物微粒子の分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
一方、酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子としては、光活性のないルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを用いることが耐光性の観点から好ましい。この金属酸化物微粒子の平均粒径は、1〜200nmが好ましく、より好ましくは5〜30nmを用いる。
【0029】
プライマー組成物の塗布にあたっては、基材とプライマー組成物の被膜との密着性の向上を目的として、基材の表面を予めアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、無機あるいは有機の微粒子による剥離/研磨処理、プラズマ処理を行うことが効果的である。また、プライマー組成物の塗布/硬化方法としては、ディッピング法(浸漬法)、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法等によりプライマー組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱/乾燥することにより、プライマー層を形成できる。
また、プライマー層の膜厚は、0.01〜50μm、特に0.1〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐水性や耐衝撃性などの基本性能が実現できず、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。なお、プライマー層の屈折率は、干渉縞の発生を避けるため、基材の屈折率に合わせることが好ましい。
【0030】
[染色層(ハードコート層)]
染色層としてのハードコート層は、金属酸化物微粒子(d)と、有機ケイ素化合物(e)と、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を少なくとも2個以上有する多官能化合物(f)と、を含有するコーティング組成物により形成される。
【0031】
金属酸化物微粒子(d)としては、粒径1〜100nmのAl、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる酸化物の単独微粒子および/またはこれらの複合微粒子から選ばれる1種又は2種以上の混合物が染色層の高屈折率化の点で好ましい。
特に、Tiの酸化物、すなわち酸化チタンは屈折率が他の金属酸化物より高いので好ましい。また、酸化チタンとしては、光活性のないルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを用いることが耐光性の観点より好ましい。
【0032】
有機ケイ素化合物(e)としては、下記式(2)に示す化合物を用いると、染色層における金属酸化物微粒子(d)の強固なバインダー樹脂となるため好ましい。
SiX3−n …(2)
式(2)中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である。
式(2)で示される有機ケイ素化合物(e)は、いわゆるシランカップリング剤であり、染色層のバインダー樹脂としての役割を果たす。
【0033】
式(2)中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は2以上である。Rはビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。
また、Xは、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等があげられる。
は、炭素数1〜6の一価炭化水素基を表すが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基等を例示することができる。良好な耐擦傷性を得るには、メチル基が好ましい。
【0034】
有機ケイ素化合物(e)としては、具体的には、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。
これらの有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
多官能化合物(f)は、ハードコート層の染色性を向上し、染色層として機能させるとともに、プライマー層に対するハードコート層の密着性を向上させて、ハードコート層の耐水性およびプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。
多官能化合物(f)としては、1分子中に同じ官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有しても良いし、1分子中に異なる官能基(例えばエポキシ基とアクリル基)を合計で2個以上有してもよい。
【0036】
これらの多官能化合物(f)としては、例えば、1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ化合物として、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0037】
1分子中にアクリル基またはメタクリル基を2個以上有する多官能性アクリル化合物またはメタクリル化合物として、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびこれらのメタクリレート等が挙げられる。
1分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物として、ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物、1分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物として、ジアリルフタレート、トリアリルフタレート等が挙げられる。
また、1分子中にエポキシ基1個とアクリル基またはメタクリル基1個を同時に含む多官能化合物として、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートなどが挙げられる。
また、これらの多官能化合物(f)は、上記官能基以外にも、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン基、ウレタン結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合などの官能基や結合を有していてもよい。
【0038】
さらに、染色層に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
【0039】
このようにして得られるコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤で希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。また、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング組成物の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0040】
また、コーティング組成物の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、被膜を形成する。なお、染色層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、染色層およびハードコート層としての基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。なお、染色層の屈折率は、干渉縞の発生を避けるため、基材、プライマー層の屈折率に合わせることが好ましい。
【0041】
このような染色層に対しては、後述する反射防止層を形成する前に、染色工程により染色を行うことで結果的に眼鏡用カラーレンズを得ることができる。染色手法としては、一般の分散染料を用いた染色手法が可能であり、基材自体への染色と同様にして染色が可能である。
【0042】
分散染料を用いる染色手法は、通常、次のようにして行われる。
所定の温度にした染色浴を準備し、分散染料を染色浴中に添加して攪拌する。
分散染料としては、染着性および耐光性が良好なことが好ましく、アンスラキノン誘導体、キノフタロン誘導体、ニトロジフェニルアミン系誘導体、およびアゾ系分散染料などが挙げられる。
【0043】
分散染料は単独、または2種以上を配合して使用することができ、染色浴への添加量は、希望の染色スピードとなるように、1g〜30g/リットルの範囲で使用することができる。染色浴の温度は、通常40〜100℃の範囲であり、より好ましくは、70℃〜99℃である。
40℃未満では、染色スピードが極端に遅くなり、希望の染色濃度に達するまでの時間が極端に長くなり実使用に耐えない。また、100℃を超える場合は、加圧を行う必要があるため、装置が大型化し、作業性が低下する。
【0044】
また、染色浴中には、必要に応じて分散染料の分散を助けるための、界面活性剤や、染色スピードを早くするための、染色促進剤を添加することも可能である。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ラウリル硫酸塩等の陰イオン活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン活性剤などが挙げられる。
これらの界面活性剤の使用量は、分散染料の添加量に対して、10〜200質量%の範囲で適宜決めることが可能であり、通常は、染色浴中に、1g〜10g/リットル程度の添加量が好ましく用いられる。
【0045】
染色促進剤としては、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール等の芳香環を有するアルコール類や、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、トリクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、メチルナフタレンなどが挙げられる。これらの染色促進剤は、単独または2種以上を混合して用いてもよい。染色促進剤の添加量は、分散染料の添加量に対して、20〜1000質量%の範囲で適宜決めることが可能であり、通常は、染色浴中に、1g〜30g/リットル程度の添加量が好ましく用いられる。
【0046】
染色浴は通常の場合、水を用いて調整するが、必要に応じて水とメタノール、エタノール、イソプロパノール等の有機溶剤との混合物を用いて調整してもよい。
染色浴の温度とプラスチックレンズ(染色層)を染色浴中に浸ける時間は、希望の色調、濃度により変わるが、通常は40℃〜100℃で、1分〜60分程度、プラスチックレンズ(染色層)を染色浴中に浸けることによって、希望の濃度、色調のプラスチックレンズ(染色層)が得られる。
【0047】
[反射防止層]
反射防止層は、染色層上に形成され、有機化合物を主成分とする単層の有機薄膜である。以下、有機系反射防止層ともいう。
有機系反射防止層は、内部空洞を有するシリカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、染色層の形成に用いられた式(2)で示される有機ケイ素化合物(e)とを含んだ反射防止組成物から好ましく形成される。この有機ケイ素化合物(e)も最終的に有機系反射防止層におけるシリカ系微粒子のバインダー剤として働く。
ここで、中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、プラスチックレンズに優れた反射防止効果を付与できるからである。
【0048】
中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法等で製造することができるが、本発明では、平均粒径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。粒子の平均粒径が1nm未満になると、粒子内部の空隙率が小さくなって、所望の低屈折率が得られなくなる。また、平均粒径が150nmを超えると、有機系反射防止層のヘイズが増加するので好ましくない。なお、好ましい平均粒径は、以下の式で計算することができる。
平均粒径=(設計波長(nm)/有機系反射防止層屈折率)×1/4
なお、平均粒径1〜150nm、屈折率1.16〜1.39の中空シリカ系微粒子を含む分散ゾルが市販されている(例えば、触媒化成工業(株)製、スルーリア、およびレキューム)。
【0049】
なお、この反射防止組成物中には、有機系反射防止層の耐擦傷性(耐摩耗性)向上のために、分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物を含むことが好ましい。
このようなエポキシ基含有有機化合物としては、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
有機系反射防止層としては、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系などの樹脂と2種以上併用して成膜した有機薄膜を用いてもよい。このうち特に、プラスチックレンズとしての耐熱性、耐薬品性、耐擦傷性、などの諸特性を考慮した場合は、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂を含む低屈折率層とすることが好ましく、この際に、表面硬度の向上や、屈折率の調整のため、微粒子状無機物などを添加することも可能である。添加する微粒子状無機物としては、コロイド状に分散したゾルなどが挙げられ、低屈折率という観点から、フッ化マグネシウムゾル、フッ化カルシウムゾルなどが挙げられる。
【0051】
さらに、反射防止組成物には、必要に応じて、少量の硬化触媒や、光重合開始剤、酸発生剤、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン、ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料、油溶染料、蛍光染料、顔料等を添加し、反射防止組成物の塗布性の向上や、重合硬化後の被膜性能を改良することができる。
【0052】
このような有機系反射防止層は、上述した反射防止組成物を用いて、湿式法により染色層上に低屈折率の有機薄膜として好適に形成することができる。蒸着法やスパッタリング法などの乾式法で形成される無機系反射防止層は、下層の有機薄膜からなる染色層や基材との大きな熱膨張率差により耐熱性が低いのに対して、湿式法により形成される有機系反射防止層は、染色層や基材との熱膨張率差が小さいことから加熱によるクラックの発生が起こり難くなり、耐熱性に優れる。また、湿式法により形成することができるため、真空装置や大型の設備は不要となり、簡便に作製することが可能となる。
【0053】
湿式法による低屈折率の有機系反射防止層の形成方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法などの公知の方法を用いることができる。これらの成膜方法のうちで、プラスチックレンズのような曲面形状に膜厚が50〜150nmの薄膜をムラなく成膜することを考慮すると、ディッピング法、またはスピンナー法が好ましい。なお、染色層上に低屈折率の有機系反射防止層を形成する際には、染色層表面に前処理を行うことが好ましい。この前処理の具体例としては、表面研磨、紫外線−オゾン洗浄、プラズマ処理等により染色層表面を親水化(接触角θ=60°以下)する方法が有効である。
【0054】
有機系反射防止層の具体的な形成方法は、以下の様な手順により行われる。まず、前記式(2)の有機ケイ素化合物(e)を有機溶剤で希釈し、その後必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行う。さらに、中空シリカ系微粒子を有機溶剤中にコロイド状に分散した品を添加する。その後、必要に応じ、硬化触媒、光重合開始剤、酸発生剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌した後に反射防止組成物として用いる。
【0055】
このとき、硬化後の固形分に対して、反射防止組成物の希釈する濃度は、好ましくは固形分濃度として0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。固形分濃度が15質量%を越えた場合には、ディッピング法で引き上げ速度を遅くしたり、スピンナー法で回転数を高くしても、所定の膜厚を得ることが困難であり、膜厚が必要以上に厚くなってしまう。また、固形分濃度が0.5質量%に満たない場合には、ディッピング法で引き上げ速度を早くしたり、スピンナー法で回転数を遅くしても、膜厚が必要よりも薄くなってしまい所定の膜厚を得ることが困難である。また、速度を速くし過ぎたり、回転数を遅くし過ぎると、プラスチックレンズ上での塗りムラが大きくなりやすく、界面活性剤等の添加でも対応しきれなくなってしまう。
【0056】
反射防止組成物を基材に塗布後、熱または紫外線及びその併用によって硬化させて有機系反射防止層が得られるが、加熱処理によって硬化させることが好ましい。加熱処理の際の加熱温度は、反射防止組成物の組成、基材の耐熱性等を考慮して決定されるが、50〜200℃が好ましく、より好ましくは80〜140℃である。
得られる有機系反射防止層の膜厚は50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎると十分な反射防止効果が得られないおそれがある。また、有機系反射防止層の屈折率は、反射防止層として機能するために、下層の染色層との屈折率差が0.10以上(有機系反射防止層の屈折率として1.64以下)、好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上とする必要がある。具体的には、有機系反射防止層の屈折率は、1.30〜1.45の範囲とすることが好ましい。
【0057】
[防汚層]
以上のように、基材上にプライマー層、染色層(ハードコート層)および有機系反射防止層が形成されたプラスチックレンズには、さらにプラスチックレンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層上にフッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成することができる。
フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて有機系反射防止層上に塗布する方法を採用することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法等を用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて防汚層を形成することも可能である。
防汚層の膜厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の膜厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。
【0058】
[実施形態の作用効果]
以上のような本実施形態のプラスチックレンズによれば、例えば、次の作用効果を奏することができる。
(1)基材が、無機化合物(a)、化合物(b)および化合物(c)を含有する重合性組成物の重合硬化により形成される。このため、基材を1.70以上の高屈折率とすることができる。
このような基材単体は染色が困難だが、本発明では、金属酸化物微粒子(d)と、有機ケイ素化合物(e)と、多官能化合物(f)と、を含有するコーティング組成物により、浸漬法による染色が可能な染色層(ハードコート層)を形成する。このため、染色層を染色することでプラスチックレンズを染色することができる。
したがって、本発明によれば、高屈折率でありながら染色性にも優れるプラスチックレンズを提供することができる。
【0059】
(2)多官能化合物(f)として多官能エポキシ化合物を用いることにより、染色性、擦傷性に優れ、外観上に白濁やクラックといった欠陥が出にくい染色層が得られる。
(3)ハードコート層を染色層とするので、従来のハードコート層を備えたプラスチックレンズに対して新たな機能層を増やすことなく、容易に染色性を付与することができる。また、染色時には染色層が加熱されることとなるため、熱に強く染色時の加熱に耐えうるハードコート層を染色層とすることが好ましい。
【0060】
(4)重合性組成物に所定量の無機化合物(a)、化合物(b)および化合物(c)を含有させたので、基材を確実に高屈折率とすることができる。これにより、プラスチックレンズのさらなる薄型化、軽量化が可能となる。
(5)無機化合物(a)として硫黄、化合物(b)としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよびビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドの少なくとも一方を用いるので、基材の屈折率をより一層高めることができる。
(6)反射防止層を設けたことにより、高屈折率で染色性に優れたプラスチックレンズに、さらに反射防止機能を付与することができる。
【0061】
[変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、反射防止層を単層の有機薄膜で構成される有機系反射防止層としたが、これに限らず、無機物を主成分とする無機系反射防止層としてもよい。例えば、SiO2,SiO,ZrO2,TiO2,TiO,Ti23,Ti25,Al23,Ta25,CeO2,MgO,Y23,SnO2,MgF2 ,WO3等の無機物を主成分とする無機系反射防止層を形成してもよい。これらの無機物を単独で用いてもよく、又は、2種以上を混合して用いてもよい。
例えば、基材側から大気側に向かって順に、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2、SiO2の5層を有する反射防止層としてもよい。
このような無機物を主成分とする反射防止層を形成する際には、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて、反射防止層を形成することができる。なお、真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0062】
[実施例]
次に、本発明の実施形態に基づく実施例および比較例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。具体的には、以下に示す方法でプラスチックレンズを製造した後、屈折率、染色性などの評価を行った。
【0063】
[実施例1]
(1-1)基材形成工程
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド85質量部、硫黄10質量部をよく混合し均一とした。次いで、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド5質量部、テトラブチルホスホニウムブロマイド0.1質量部を加え、よく混合し均一とした。得られた重合性組成物を、1torr、1時間、20℃の条件下で脱気処理した。この組成物を2枚の鏡面仕上げのガラスモールドを用いて、粘着テープで保持した鋳型中に注入し、20℃で20時間加熱し、次いで40℃で5時間加熱し、次いで60℃で5時間加熱し、その後60℃から100℃まで10時間かけて100℃まで一定速度昇温させ、最後に100℃で2時間加熱し、重合硬化させた。放冷後、ガラスモールドから離型し、硬化した基材を得た。このとき、出来上がったレンズの度数が約−3Dとなるようなガラスモールドを使用した。
【0064】
(屈折率の測定)
ここで、原料樹脂の屈折率を以下のようにして測定した。
基材形成工程において、−3Dとなるようなガラスモールドを使用する代わりに、厚み2mmのフラット板となるようなガラスモールドを使用し、厚み2mmのフラット板を作製した。このフラット板からサンプルを切り出し、アッベ屈折率計(アタゴ社製 タイプ4T)を用いて、25℃におけるe線(547nm)の屈折率を測定した。
こうして測定した基材の屈折率はne=1.75であった。
【0065】
(1-2)プライマー層形成工程
ステンレス製容器内に、メチルアルコール220g、水91.8g、を投入し、十分に攪拌して混合する。攪拌混合後、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20質量%、触媒化成工業株式会社製)を加え、攪拌して混合する。攪拌混合後、水性ポリエステル(伊藤光学株式会社製)77gを加え、攪拌して混合する。シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)0.1gを添加して、2時間攪拌して混合する。これにより、プライマー層を形成するためのプライマー組成物を得る。
プライマー組成物の中に、基材を浸漬する。これにより、基材の表面に、プライマー組成物を塗布する。引き上げ速度は、200mm/minとする。プライマー組成物が塗布された基材に、80℃で30分間の加熱処理を施す。これにより、基材の表面に形成されたプライマー層を得る。これをプライマー層(α)とする。
【0066】
(1-3)染色層(ハードコート層)形成工程
ステンレス製容器内に、ブチルセロソルブ62.5gおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン67.1gを投入し、十分に攪拌して混合する。その後攪拌しながら、ステンレス製容器内に、0.1モル/リットル塩酸30.7gを滴下し、さらに4時間攪拌する。その後、一昼夜熟成させることにより、シラン加水分解物を得る。このシラン加水分解物の中に、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20質量%、触媒化成工業株式会社製)を325g、ならびにグリセロールジグリシジルエーテル(ナガセ化成株式会社製、商品名「デナコールEX−313」)12.5gを添加する。その後、鉄(III)アセチルアセトナート1.36gおよびシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7001」、以下、「L−7001」と記す)0.15g、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業株式会社製、商品名「アンテージクリスタル」)0.26gを添加して、4時間攪拌する。その後、一昼夜熟成させることにより、コーティング組成物を得る。
コーティング組成物の中に、プライマー層形成工程においてプライマー層が形成された基材を浸漬する。これにより、基材の表面に形成されたプライマー層の表面に、コーティング組成物を塗布する。引き上げ速度は、200mm/minとする。コーティング組成物が塗布された基材に、80℃で30分間の加熱処理を施す。その後、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱して、プライマー層の表面に形成された染色層(ハードコート層)を得る。これをハードコート層(α)とする。
【0067】
(1-4)無機系反射防止層形成工程
染色層を形成した基材に、プラズマ処理を施す。プラズマ処理の条件は、アルゴンプラズマ400Wで60秒間とする。プラズマ処理された染色層の表面から順に、第1層としてのSiO、第2層としてのTiO、第3層としてのSiO、第4層としてのTiO、第5層としてのSiO、第6層としてのTiO、第7層としてのSiOを、真空蒸着装置を用いて、真空蒸着法により形成する。これにより、無機層である第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層、および第7層からなる反射防止多層膜を得る。これを反射防止層(α)とする。
そして、第1層、ならびに第2層、第3層、第4層、第5層、および第6層、ならびに第7層の光学的膜厚は、それぞれλ/4となる。反射防止層の波長λは、設計値520nmとする。
【0068】
[実施例2]
反射防止層を以下のように有機系反射防止層として形成した以外は、実施例1と同様にして評価用のプラスチックレンズを製造した。
【0069】
(2-1)有機系反射防止層形成工程
ステンレス製容器内に、プロピレングリコールモノメチルエーテル48.6gおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14.1gを投入し、十分に攪拌して混合する。その後攪拌しながら、ステンレス製容器内に、0.1モル/リットル塩酸4gを滴下し、さらに5時間攪拌する。その後、イソプロパノール分散中空シリカゲル(平均粒径91nm、固形濃度30質量%、触媒化成工業株式会社製)33.3gを添加して十分に攪拌して混合する。そしてL−7001を0.03g添加し、十分攪拌し、溶解させることにより固形分濃度20%の反射防止組成物原液を得る。この固形分濃度20%の反射防止組成物原液に、300ppm濃度のシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)を含有するプロピレングリコールモノエーテル溶液114.7gを添加し、十分に攪拌し、固形分濃度約4.7%の反射防止組成物を得る。
この反射防止組成物の中に、黄変防止層を形成した基材を浸漬し、引き上げ速度100mm/minとしてディップコートして、80℃で30分間の加熱処理を施す。さらに125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱して、反射防止層を得る。これを反射防止層(β)とする。
【0070】
[実施例3]
プライマー層および染色層を以下のように形成した以外は、実施例2と同様にして評価用のプラスチックレンズを製造した。
【0071】
(3-1)プライマー層形成工程
市販の水性ポリエステル「A−160P」(高松油脂株式会社製、固形分濃度25%)186g、メタノール257g、水15g、ブチルセロソルブ37gを混合し、さらにγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)0.1gを加え3時間攪拌した。
このプライマー組成物を基材上に浸漬法(引き上げ速度150mm/min)にて塗布した。塗布した基材に100℃で20分間の加熱硬化処理を施し、基材上に膜厚1.0μmのプライマー層を形成した。これをプライマー層(β)とする。
【0072】
(3-2)染色層(ハードコート層)形成工程
ブチルセロソルブ73g、メタノール148g、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57gを混合した。この混合液に0.1モル/リットル塩酸水溶液18gを攪拌しながら滴下した。さらに3時間攪拌後、一昼夜熟成させた。この液にメタノール分散SiO微粒子ゾル(触媒化成工業株式会社製、商品名「オスカル1132」固形分濃度30%)146g、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−421」)50g、過塩素酸マグネシウム3g、0.16gのL−7001、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業株式会社製、商品名「アンテージクリスタル」)0.6gを添加し、4時間撹拌後、一昼夜熟成させてコーティング組成物とした。このコーティング組成物を、プライマー層を形成した基材上に浸漬法(引き上げ速度300mm/min)にて塗布した。塗布した基材は125℃で3時間加熱硬化処理してプライマー層上に膜厚2.5μmの染色層を形成させた。これをハードコート層(β)とする。
【0073】
[実施例4]
実施例2と同様の反射防止層(β)を形成した以外は、実施例3と同様にしてプラスチックレンズを得た。
【0074】
[比較例1]
実施例1と同様にして基材を形成し、表面処理を一切実施しなかった。
[比較例2]
コーティング組成物の調製の際に、グリセロールジグリシジルエーテルを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして評価用のプラスチックレンズを製造した。
[比較例3]
実施例1において、ハードコート層(α)に代えてハードコート層(β)を形成した。このとき、コーティング組成物の調製において、ジグリセロールポリグリシジルエーテルを配合しなかった。
【0075】
[評価方法]
以上の実施例1〜4、および比較例1〜3により得られたプラスチックレンズの染色性を以下に示す評価方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0076】
(染色性の評価)
染色層形成後に、以下のようにして染色性の評価を行った。反射防止層も染色層も形成していない比較例1については、レンズ生地(基材)のままで染色性の評価を行った。
染色液を調整するため、92℃の純水1リットルに、界面活性剤としてNES−203(日光ケミカルズ)を3cc添加し、さらに分散染料として、セイコープラックスダイヤコート用染色剤アンバーDを2g添加した後、十分に攪拌して染色浴を調整した。この染色浴に、プラスチックレンズを5分間浸漬させて染色を行い、染色前と染色後における全光線透過率をBPIフォトメーターを用いて測定し、染色前後の透過率の差によって、以下のような基準で染色性を評価した。
透過率差X=染色前の透過率−染色後の透過率
○:Xが20%以上
△:Xが10%以上20%未満
×:Xが0%以上10%未満
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から、実施例1〜4のプラスチックレンズは、染色層(ハードコート層)の染色性に優れるため、基材自体が難染色性であっても容易にカラーレンズを提供できる。
一方、比較例1のプラスチックレンズは、染色層がないため、染色が不可能である。また、比較例2および比較例3のプラスチックレンズでは、コーティング組成物に多官能化合物(f)が含有されていないため、染色性が悪く、カラーレンズとすることが困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に積層された染色層と、を備え、
前記基材は、
硫黄原子およびセレン原子の少なくとも一方を有する無機化合物(a)と、
下記式(1)で表される化合物(b)と、
チオール基を有する化合物(c)と、
を含有する重合性組成物を重合硬化して形成され、
前記染色層は、
金属酸化物微粒子(d)と、
有機ケイ素化合物(e)と、
エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を少なくとも2個以上有する多官能化合物(f)と、
を含有するコーティング組成物により形成される
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【化1】


(前記式(1)中、mは、0以上4以下の整数を表し、nは、0以上2以下の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記多官能化合物(f)は、多官能エポキシ化合物である
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記染色層は、ハードコート層である
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラスチックレンズにおいて、
前記重合性組成物に対し、
前記無機化合物(a)の含有量は、1質量%以上30質量%以下であり、
化合物(b)の含有量は、25質量%以上96質量%以下であり、
化合物(c)の含有量は、3質量%以上40質量%以下である
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラスチックレンズにおいて、
前記無機化合物(a)は、硫黄である
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラスチックレンズにおいて、
前記化合物(b)は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよびビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドの少なくとも一方である
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプラスチックレンズにおいて、
前記染色層に積層された反射防止層を備える
ことを特徴とするプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2009−217215(P2009−217215A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63738(P2008−63738)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】