説明

プラスチック基材用塗料組成物、およびこれより形成された複合塗膜

【課題】プラスチック基材と硬化保護膜との付着性が良好な複合塗膜を形成できるプラスチック基材用塗料組成物、およびこれより形成された複合塗膜の実現。
【解決手段】塗膜形成成分を有するプラスチック基材用塗料組成物であって、前記塗膜形成成分は、ウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基よりなる群から選ばれる1種の置換基を有するシランカップリング剤(B)を含有し、かつ、当該塗膜形成成分100質量%中、前記ウレタン(メタ)アクリレートを25〜97質量%、前記シランカップリング剤(B)を3〜20質量%含有することを特徴とするプラスチック基材用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材用塗料組成物、およびこれより形成された複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料を構成材料とするプラスチック製品は、車両、船舶、建築等の分野において、装飾用材料、無機ガラスの代替材料、ミラー、レンズ、その他各種光学材料や各種表示材料として幅広く用いられている。
一般的に、プラスチック材料は表面が傷つきやすいため、通常、プラスチック材料からなる基材上に、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等をコーティングして、基材表面をハードコート処理することが知られている。
しかし、プラスチック製品には、より優れた耐傷性が求められており、上述したようなハードコート処理では必ずしも耐傷性は十分ではなかった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、反応容器内でケイ素有機系化合物ガスをプラズマ化し、プラスチック基板表面に硬化保護膜(プラズマ重合被膜)を形成させる方法が開示されている。
また、特許文献2には、プラスチック材料表面に、(メタ)アクリル酸エステルをプラズマ重合して形成されたプラズマ重合被膜上に、珪素化合物をプラズマ重合してプラズマ重合被膜を形成した複合膜が開示されている。
【特許文献1】特開平6−228346号公報
【特許文献2】特開平6−1870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法で形成される硬化保護膜では、プラスチック基材に対する付着性が十分ではなかった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、プラスチック基材と硬化保護膜との付着性が良好な複合塗膜を形成できるプラスチック基材用塗料組成物、およびこれより形成された複合塗膜の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラスチック基材用塗料組成物は、塗膜形成成分を有するプラスチック基材用塗料組成物であって、前記塗膜形成成分は、ウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基よりなる群から選ばれる1種の置換基を有するシランカップリング剤(B)を含有し、かつ、当該塗膜形成成分100質量%中、前記ウレタン(メタ)アクリレートを25〜97質量%、前記シランカップリング剤(B)を3〜20質量%含有することを特徴とする。
【0007】
ここで、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)は、環状構造を有する活性エネルギー線硬化性成分を30質量%以上含むことが好ましい。
また、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)は、平均架橋点間分子量が100〜1000であることが好ましい。
さらに、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、1〜20質量部の光重合開始剤を含有することが好ましい。
【0008】
また、本発明の複合塗膜は、前記プラスチック基材用塗料組成物をプラスチック基材の表面に塗布して形成された塗膜上に、ケイ素有機系化合物ガスのプラズマ化により硬化保護膜が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチック基材用塗料組成物によれば、プラスチック基材と硬化保護膜との付着性を良好にできる。
また、本発明によれば、プラスチック基材と硬化保護膜との付着性が良好な複合塗膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[プラスチック基材用塗料組成物]
本発明のプラスチック基材用塗料組成物(以下、「塗料組成物」という場合がある。)は、塗膜形成成分を有する。
塗膜形成成分は、活性エネルギー線硬化性化合物(A)とシランカップリング剤(B)を含有する。
【0011】
<塗膜形成成分>
(活性エネルギー線硬化性化合物(A))
活性エネルギー線硬化性化合物(以下、「A成分」という場合がある。)は、ウレタン(メタ)アクリレートを含む。
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応物が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方を示すものとする。
【0012】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等の多価アルコール、多価アルコールとアジピン酸等の多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0013】
上述したポリイソシアネート化合物とポリオールを反応させ、得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって、ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。また、反応には公知の触媒を使用できる。
また、ウレタン(メタ)アクリレートとしては、市販のものを用いてもよく、例えば、ダイセルサイテック社製のウレタンオリゴマー「エベクリル1290」、日本合成化学工業社製のウレタンオリゴマー「紫光UV−3200B」等が挙げられる。
【0014】
ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、塗膜形成成分100質量%中、25〜97質量%であり、30〜75質量%が好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であれば、塗料組成物より形成される塗膜上に塗布される硬化保護膜が剥離しにくくなる。
【0015】
A成分は、上述したウレタン(メタ)アクリレート以外の他の化合物を含有してもよい。他の化合物としては、例えば分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0016】
A成分は、環状構造を有する活性エネルギー線硬化性成分(以下、「環状成分」という場合がある。)をA成分100質量%中、30質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは40質量%以上である。環状成分の含有量が30質量%以上であれば、本発明の塗料組成物より形成される塗膜上に塗布される硬化保護膜が剥離しにくくなる。
【0017】
環状構造としては特に制限されず、例えば脂環構造や芳香環構造などが挙げられる。
また、環状成分は、上述したウレタン(メタ)アクリレートおよび/または他の化合物からなる。よって、環状構造のウレタン(メタ)アクリレートおよび/または環状構造の他の化合物の含有量が、合計して上記範囲内であることが好ましい。
【0018】
環状構造のウレタン(メタ)アクリレートは、例えばポリイソシアネート化合物として、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環構造を有するポリイソシアネート化合物や、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香環構造を有するポリイソシアネート化合物を用い、上述したポリオールを反応させ、得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって得られる。脂環構造を有するポリイソシアネート化合物を用いれば脂環構造のウレタン(メタ)アクリレートが、芳香環構造を有するポリイソシアネート化合物を用いれば芳香環構造のウレタン(メタ)アクリレートが得られる。
一方、環状構造の他の化合物としては、脂環構造を有する化合物が好ましく、具体的には、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
また、A成分は、平均架橋点間分子量が100〜1000であることが好ましく、より好ましくは120〜700であり、さらに好ましくは150〜500である。平均架橋点間分子量が100以上であれば、本発明の塗料組成物より形成される塗膜が必要以上に硬くなるのを防止すると共に、硬化保護膜が剥離しにくくなる。一方、平均架橋点間分子量が1000以下であれば、塗料組成物より形成される塗膜が必要以上に柔らかくなるのを防止すると共に、硬化保護膜が割れるのを抑制できる。
【0020】
なお、本発明において、平均架橋点間分子量とは、A成分を構成する各モノマーの平均分子量を該モノマーの反応性官能基数で除して算出した架橋点間分子量の平均値(すなわち、各架橋点間分子量値を各モノマーの割合に応じて換算した合計値)のことである。例えば、A成分がジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート(DPHA)を含有する場合、DPHAの平均分子量は578であり、反応性官能基数は6であることから、架橋点間分子量の値は96である。なお、DPHAの反応性官能基とは、アクリロイル基(ビニル基)を指す。
【0021】
A成分の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、50〜97質量%が好ましく、70〜97質量%がより好ましい。A成分の含有量が50質量%以上であれば、活性エネルギー線硬化性を十分に確保できる。一方、A成分の含有量が97質量%以下であれば、塗料組成物より形成される塗膜上に塗布される硬化保護膜が剥離しにくくなる。
【0022】
(シランカップリング剤(B))
シランカップリング剤(以下、「B成分」という場合がある。)は、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基よりなる群から選ばれる1種の置換基を有する。B成分がイソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基よりなる群から選ばれる1種の置換基を有するシランカップリング剤であることで、本発明の塗料組成物より形成される塗膜上に塗布される硬化保護膜が剥離しにくくなる。
【0023】
B成分の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、3〜20質量%であり、6〜20質量%が好ましい。B成分の含有量が3質量%以上であれば、塗料組成物より形成される塗膜上に塗布される硬化保護膜が剥離しにくくなる。一方、B成分の含有量が20質量%以下であれば、塗料組成物より形成される塗膜が白濁するのを防止すると共に、硬化保護膜が剥離しにくくなる。
【0024】
イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、例えば3−メタクリロキシプロプルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
(その他樹脂)
塗膜形成成分は、塗料組成物の流動性を改質するために熱可塑性樹脂をさらに含んでもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸2−エチルヘキシル等のホモポリマーや、これらの共重合体等の(メタ)アクリル樹脂が例示できる。これらの中でも、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂は、得られる塗料組成物の用途に応じて添加されるものであり、その含有量は塗膜形成成分100質量%中、0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。熱可塑性樹脂を含有しない場合であっても、本発明の効果は十分に発揮されるが、含有量が上記範囲内であれば、形成される塗膜の付着性、耐水性等の諸物性を保持しつつ、さらに塗料組成物の流動性を改質することができる。
【0027】
<その他成分>
本発明の塗料組成物は、光重合開始剤を含有していてもよい。
光重合開始剤としては、例えば商品名として、イルガキュア184、イルガキュア149、イルガキュア651、イルガキュア907、イルガキュア754、イルガキュア819、イルガキュア500、イルガキュア1000、イルガキュア1800、イルガキュア754(以上、チバスペシャリティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)、カヤキュアDETX−S、カヤキュアEPA、カヤキュアDMBI(以上、日本化薬社製)等が挙げられる。これら光重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0028】
光重合開始剤の含有量は、前記A成分100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な架橋密度が得られる。
【0029】
塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤などが挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、塗料組成物は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、表面調整剤、可塑剤、顔料沈降防止剤等、通常の塗料に用いられる添加剤を適量含んでいてもよい。
【0030】
塗料組成物は、上述したA成分およびB成分の他、必要に応じて熱可塑性樹脂を含有する塗膜形成成分と、光重合開始剤、溶剤、各種添加剤等の任意成分とを混合することにより調製できる。
こうして調製された塗料組成物を硬化後の塗膜厚さが1〜50μm程度となるように、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法等でプラスチック基材表面に塗装した後、例えば100〜3000mJ程度(日本電池(株)製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて1〜10分間程度照射することにより、塗膜を形成できる。
活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線等も使用できる。
【0031】
[複合塗膜]
本発明の塗料組成物は、プラスチック基材の被覆用として好適である。
プラスチック基材を構成するプラスチック材料としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0032】
上述のプラスチック基材の表面に本発明の塗料組成物を塗布し、該塗料組成物より形成された塗膜上に硬化保護膜を設けることで、プラスチック基材と硬化保護膜の付着性が良好な複合塗膜が得られる。
前記硬化保護膜は、例えばケイ素有機系化合物ガスをプラズマ化することで形成できる。プラズマ化の方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の塗料組成物よりなる塗膜が形成したプラスチック基材をプラズマ重合装置に備え、減圧下、ヘキサメチレンジシロキサンガスと酸素ガスを通気しながら放電させてプラズマを発生させることで、塗膜上に硬化保護膜が形成する。放電の際の圧力や電力等は特に制限されないが、硬化保護膜の厚さが0.01〜10μmになるように、圧力や電力等を調整するのが好ましい。
【0033】
このような複合塗膜の用途としては特に制限はなく、アルミサッシ等の建材や、自動車等の車両部品など、種々のものが例示できる。
【0034】
以上説明した本発明の塗料組成物は、ウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、特定の置換基を有するシランカップリング剤(B)を有する塗膜形成成分を含有するので、プラスチック基材と硬化保護膜とを強固に付着させることができる。
また、本発明によれば、プラスチック基材と硬化保護膜との付着性が良好な複合塗膜を形成できる。
さらに、本発明の塗料組成物は活性エネルギー線硬化性であるので、熱硬化性の塗料に比べて硬化に要する時間が短時間で済み、生産性も良好である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
ここで、実施例および比較例で用いた各成分の内容を以下に示す。また、ウレタンアクリレートおよび他の化合物の物性について表1に示す。
【0036】
(1)環状ウレタンオリゴマー:以下に示す方法にて調製した。
1,6−ヘキサンジオール(宇部興産社製)59質量部、水添キシリレンジイソシアネート(三井武田ケミカル社製)194質量部を、攪拌機、温度計を備えた500mlのフラスコに仕込み、窒素気流下において70℃で4時間反応させた。ついで、このフラスコ中にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート(共栄化学工業社製)116質量部、ハイドロキノン0.6質量部、ジブチルスズジラウレート0.3質量部を加え、フラスコ内の内容物に窒素をバブリングしながら、70℃でさらに5時間反応させ、環状ウレタンオリゴマーを得た。
【0037】
(2)ウレタンオリゴマー1:ダイセルサイテック社製、「エベクリル1290」。
(3)ウレタンオリゴマー2:日本合成化学工業社製、「紫光UV−3200B」。
(4)6官能モノマー(DPHA、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート):日本化薬社製、「カヤラッドDPHA」。
(5)3官能モノマー(TMPTA、トリメチロールプロパントリアクリレート):東亞合成社製、「アロニックスM−309」。
(6)2官能モノマー:BASF社製、「Laromer HDDA」。
(7)2官能脂環モノマー:日本化薬社製、「カヤラッドR−684」。
(8)1官能脂環モノマー:ダイセルサイテック社製、「エベクリルIBOA」。
(9)エポキシシラン:東レ・ダウコーニング社製、「Z−6043」。
(10)(メタ)アクリロイルシラン:東レ・ダウコーニング社製、「Z−6530」。
(11)イソシアネートシラン:信越化学工業社製、「KBE−9007」。
(12)その他シランカップリング剤1:信越化学工業社製、「KBM−803」。
(13)その他シランカップリング剤2:東レ・ダウコーニング社製、「Z−6062」。
(14)ポリメタクリル酸メチル:藤倉化成社製、「アクリベースLH101」、固形分含有量40質量%。
(15)光重合開始剤:チバスペシャリティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア184」。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例1]
表2に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、液状の塗料組成物を調製した。
ついで、ポリカーボネート樹脂基板(100×100×3mm)に、得られた塗料組成物を硬化後の塗膜厚が10μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装した。ついで、熱風乾燥炉内にて60℃×3分間の条件で溶剤を乾燥させた後、高圧水銀灯により500mJ(日本電池社製UVR−N1による測定値)の紫外線を2〜3分間照射して塗膜を形成した。これをプラズマ重合装置(ULVAC社製、「CPV−450」)にセットし、減圧下、ヘキサメチレンジシロキサンガスを20sccmと、酸素ガスを100sccmの割合で通気しながら、圧力を2.3×10−1Paに調節・保持し、1356MHz、800W/cmの低周波電力を与えながら放電させてプラズマを発生させた。この状態で、80℃で1時間保持し、塗膜厚が1.5μmの硬化保護膜を塗膜上に形成させた。これを試験片とした。なお、sccmとはmL/分のことである。
【0040】
<評価>
このようにして得られた試験片について、硬化保護膜の塗膜に対する(すなわち、ポリカーボネート樹脂基板に対する)付着性を以下に示すような各条件にて評価した。結果を表2に示す。
【0041】
(初期付着性の評価)
試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:硬化保護膜が全く剥がれない。
△:硬化保護膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
【0042】
(温水付着性の評価)
試験片を40℃の温水に240時間浸漬した後、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:硬化保護膜が全く剥がれない。
△:硬化保護膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
【0043】
(耐熱付着性の評価)
試験片を110℃の雰囲気中に240時間放置した後、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:硬化保護膜が全く剥がれない。
△:硬化保護膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
【0044】
(温冷付着性の評価)
試験片を−40℃で2時間保持した後80℃で2時間保持することを1サイクルとし、合計50サイクル行った後、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:硬化保護膜が全く剥がれない。
△:硬化保護膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
【0045】
[実施例2〜12、比較例1〜6]
表2〜4に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、液状の塗料組成物を調製した。こうして得られた塗料組成物を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製、評価した。結果を表2〜4に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表2〜4から明らかなように、実施例によれば、プラスチック基材に対する硬化保護膜の付着性が良好であった。
一方、シランカップリング剤(B成分)の含有量が塗膜形成成分100質量%中、3〜20質量%の範囲外である比較例1〜3では、実施例に比べてプラスチック基材に対する硬化保護膜の付着性が劣っていた。特に、温冷付着性の評価においては、1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
また、特定の置換基を有さない他のシランカップリング剤を用いた比較例4、5では、実施例に比べてプラスチック基材に対する硬化保護膜の付着性が劣っていた。特に、温冷付着性の評価においては、1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
また、ウレタンアクリレートの含有量が塗膜形成成分100質量%中、20質量%である比較例6では、実施例に比べてプラスチック基材に対する硬化保護膜の付着性が著しく劣っていた。特に、温水付着、耐熱付着、および温冷付着性の評価において、1個以上の硬化保護膜が剥がれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成成分を有するプラスチック基材用塗料組成物であって、
前記塗膜形成成分は、ウレタン(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基よりなる群から選ばれる1種の置換基を有するシランカップリング剤(B)を含有し、かつ、当該塗膜形成成分100質量%中、前記ウレタン(メタ)アクリレートを25〜97質量%、前記シランカップリング剤(B)を3〜20質量%含有することを特徴とするプラスチック基材用塗料組成物。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)は、環状構造を有する活性エネルギー線硬化性成分を30質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック基材用塗料組成物。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)は、平均架橋点間分子量が100〜1000であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック基材用塗料組成物。
【請求項4】
前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、1〜20質量部の光重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック基材用塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック基材用塗料組成物をプラスチック基材の表面に塗布して形成された塗膜上に、ケイ素有機系化合物ガスのプラズマ化により硬化保護膜が形成されたことを特徴とする複合塗膜。

【公開番号】特開2009−173755(P2009−173755A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13101(P2008−13101)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】