説明

プラスチック成形品

【課題】 低い透湿度を確保しつつ、室温を超えた温度条件下でも、有機溶媒による膨潤を生じないプラスチック成形体を提供する。
【解決手段】 2−ノルボルネンが90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン類が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して成る水素添加率が80%以上で、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0である、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物で形成された一次成形品を、照射量100〜500kGyの活性エネルギー線を照射して、架橋してなることを特徴とするプラスチック成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等において要求される、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、機械的特性、透明性、加工性等に優れる、ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を成形して得られる樹脂フィルムやシート等のプラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は透明性に優れ、低複屈折性を有することから、光学レンズや光ディスク基板、光学シート用の樹脂材料としての利用が提案されている(特許文献1、2)。また、このものは溶融時の流動性に優れ、溶出性や耐薬品性にも優れているため、包装用フィルム、医療容器をはじめとして、光学用途以外の種々の樹脂材料としても有用であることも提案されている(特許文献3、4)。
しかし、ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の多くは非晶性であることから、その用途によっては、水蒸気バリア性、耐皮脂性、耐溶剤性等が不十分であり、物性のさらなる改善が望まれていた。
【0003】
一方、特許文献5には、ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物で形成された成形品に活性エネルギー線を照射して架橋させることで、耐熱性、耐溶剤性、機械的強度などが改善されたプラスチック成形品が提案されている。
しかし、ここに記載されたノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、ガラス転移点を有する、いわゆる非晶性の重合体であり、この重合体を用いて得られるプラスチック成形品は、室温での耐溶剤性は向上するものの、室温を超えた温度環境(40℃)下では、溶解はしないが膨潤するなど不十分な場合があり、使用する用途によっては、耐溶剤性が必ずしも十分でないなどの問題があった。
【0004】
ところで、結晶性を有する(すなわち、融点を有する)ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物としては、特許文献6〜8に記載された、3環体以上のノルボルネン系単量体の繰り返し単位を含有する結晶性のノルボルネン単量体開環重合体水素添加物が知られている。これらの文献に記載のノルボルネン単量体開環重合体水素添加物から得られる樹脂フィルムやシート等のプラスチック成形品は、透明性、耐熱性及び耐薬品性に優れ、機械的強度にも優れるものである。
しかし、これら結晶性のノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、溶剤に対する溶解性に乏しく、開環重合体を水素化した後において、溶剤から析出し、触媒残渣の除去等のポリマー精製が十分に行えない場合があった。また、当該ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を使用して成形したフィルムの水蒸気バリア性は十分に要求を満たすものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−26024号公報
【特許文献2】特開平9−263627号公報
【特許文献3】特開2000−313090号公報
【特許文献4】特開2003−183361号公報
【特許文献5】特開平4−23838号公報
【特許文献6】特開2000−201826号公報
【特許文献7】特開2000−393316号公報
【特許文献8】特開2006−52333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等における、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、耐溶剤性、機械的特性、透明性、加工性等のより優れた性能の要求を満たす樹脂材料を成形して得られる樹脂フィルムやシート等のプラスチック成形品を提供することを課題とする。
【0007】
本発明者は、低い透湿度を確保しつつ、室温を超えた温度条件下でも、有機溶媒による膨潤を生じない成形体を得るべく鋭意研究を重ねた結果、ある種の結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を、先ず、所望の形状に成形した後、活性エネルギー線を照射して架橋すれば、耐溶剤性、機械的強度、水蒸気バリア性等に優れた成形品の得られることを見出した。
【0008】
ここで、ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物中に残存する不飽和結合を利用するか、あるいは架橋助剤を添加することにより、活性エネルギー線照射によって容易に架橋反応が進行する。架橋助剤の添加は、ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物中に配合するか、あるいは一次成形品の表面に浸透させるなどの方法により行なうことができる。
【0009】
この方法によれば、諸物性に優れた成形品を得ることができ、本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明によれば、2−ノルボルネンが90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン類が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して成る水素添加率が80%以上で、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0である、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物で形成された一次成形品を、架橋助剤の存在下または不存在下に、照射量100〜500kGyの活性エネルギー線を照射して、架橋してなることを特徴とするプラスチック成形品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等における、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、耐溶剤性、機械的特性、透明性、加工性等のより優れた性能の要求を満たす樹脂フィルムやシート等のプラスチック成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
(ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物)
2−ノルボルネンが90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン類が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0であるノルボルネン単量体開環重合体水素添加物であることを特徴とする。
【0013】
本発明に用いる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体は、2−ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)が90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン類が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して得られる、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0である。特に開環重合後の水素添加によって、開環重合体の、炭素−炭素二重結合の80%以上を水素添加することにより得られるものが好ましい。
【0014】
2−ノルボルネン又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を、メタセシス重合触媒の存在下に開環重合することにより2−ノルボルネン単独開環重合体又は2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環共重合体(以下、総称して「ノルボルネン単量体開環重合体」という)を水素添加することで、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を得ることができる。
2−ノルボルネンは公知の化合物であり、例えば、シクロペンタジエンとエチレンとを反応させることにより得ることができる。
【0015】
置換基含有ノルボルネン系単量体は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物であって、置換基を有するものである。本発明に用いる「置換基含有ノルボルネン系単量体」には、置換基を有する2−ノルボルネン誘導体のほか、縮合した環を有するノルボルネン化合物も含まれる。
置換基含有ノルボルネン系単量体としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体、及び3環以上の多環式ノルボルネン系単量体等が挙げられる。
【0016】
前記分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体の具体例としては、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−メチル−2−ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−エチリデン−2−ノルボルネン)、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロペンテニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−フェニル−2−ノルボルネン)等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン)、5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、2−メチルプロピオン酸5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、2−メチルオクタン酸5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシイソプロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−カルボキシ−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−カルボキシ−5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
【0017】
3環以上の多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。その具体例としては、下記に示す式(1)又は式(2)で示される単量体が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0022】
式(1)で示される単量体としては、具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等を挙げることができる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンとも言う)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンとも言う)等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
【0023】
式(2)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類等が挙げられる。
【0024】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等の無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン等の芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明においては、上記した2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体とを組み合わせて用いることもできる。
【0026】
2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状ジエン及びその誘導体;等が挙げられる。
【0027】
単量体の組成は、2−ノルボルネンが、通常90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体は、通常0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%である。
【0028】
メタセシス重合触媒としては、例えば、特公昭41−20111号公報、特開昭46−14910号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報、特開昭58−127728号公報、特開平1−240517号公報等に記載された、本質的に(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなる一般のメタセシス重合触媒;シュロック型重合触媒(特開平7−179575号公報、Schrock et al.,J.Am.Chem.Soc.,1990年,第112巻,3875頁〜等)や、グラブス型重合触媒(Fu et al.,J.Am.Chem.Soc.,1993年,第115巻,9856頁〜;Nguyen et al.,J.Am.Chem.Soc.,1992年,第114巻,3974頁〜;Grubbs et al.,WO98/21214号パンフレット等)等のリビング開環メタセシス触媒;等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、得られる重合体の分子量分布を好適な範囲に調節するには、(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分とからなるメタセシス重合触媒が好ましい。
【0030】
前記(a)遷移金属化合物触媒成分は、周期律表第3〜11族の遷移金属の化合物である。例えば、これらの遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体、アセトニトリル錯体、ヒドリド錯体、これらの誘導体、これら又はこれらの誘導体のP(C等の錯化剤による錯化物が挙げられる。
【0031】
具体例としては、TiCl、TiBr、VOCl、WBr、WCl、WOCl、MoCl、MoOCl、WO、HWO等が挙げられる。なかでも、重合活性等の点から、W、Mo、Ti、又はVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、又はアルコキシハロゲン化物が好ましい。
【0032】
前記(b)金属化合物助触媒成分は、周期律表第1〜2族、及び第12〜14族の金属の化合物で少なくとも一つの金属元素−炭素結合、又は金属元素−水素結合を有するものである。例えば、Al、Sn、Li、Na、Mg、Zn、Cd、B等の有機化合物等が挙げられる。
【0033】
具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ化合物;n−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムイオジド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素等の有機ホウ素化合物;等が挙げられる。これらの中で、第13族の金属の化合物が好ましく、特にAlの有機化合物が好ましい。
【0034】
また、前記(a)成分、(b)成分の他に第三成分を加えて、メタセシス重合活性を高めることができる。用いる第三成分としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、分子状酸素、アルコール、エーテル、過酸化物、カルボン酸、酸無水物、酸クロリド、エステル、ケトン、含窒素化合物、含ハロゲン化合物、その他のルイス酸等が挙げられる。
これらの成分の配合比は、(a)成分:(b)成分が金属元素のモル比で、通常1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:10の範囲である。また、(a)成分:第三成分がモル比で、通常1:0.005〜1:50、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0035】
また、重合触媒の使用割合は、(重合触媒中の遷移金属):(全単量体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:1,000〜1:20,000、より好ましくは1:5,000〜1:8,000である。触媒量が多すぎると重合反応後の触媒除去が困難になったり、また、分子量分布が広がるおそれがあり、一方、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0036】
開環重合は無溶媒で行うこともできるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。用いる有機溶媒としては、重合体及び重合体水素添加物が所定の条件で溶解もしくは分散し、かつ、重合及び水素添加反応に影響しないものであれば特に限定されないが、工業的に汎用されている溶媒が好ましい。
【0037】
このような有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類等の溶媒を使用することができる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及びエーテル類が好ましい。
【0038】
重合を有機溶媒中で行う場合には、単量体の濃度は、1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。前記モノマー混合物の濃度が1重量%より小さいと生産性が低くなるおそれがあり、50重量%より大きいと重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素添加反応が困難となるおそれがある。
【0039】
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。
用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン、又は1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等を挙げることができる。これらの中で、分子量調節のし易さから、α−オレフィン類が好ましい。
【0040】
分子量調節剤の添加量は、所望の分子量を持つ重合体を得るに足る量であればよく、(分子量調節剤):(全単量体)のモル比で、通常1:50〜1:1,000,000、好ましくは1:100〜1:5,000、より好ましくは1:300〜1:3,000である。
【0041】
開環重合は、単量体と重合触媒とを混合することにより開始される。
開環重合を行う温度は、特に限定されないが、通常−20〜+100℃、好ましくは10〜80℃で重合を行う。温度が低すぎると反応速度が低下し、高すぎると副反応により、分子量分布が広がるおそれがある。
重合時間は、特に制限はなく、通常1分間〜100時間である。
重合時の圧力条件は特に限定されないが、加圧条件下で重合する場合、加える圧力は通常1MPa以下である。
反応終了後においては、通常の後処理操作により目的とするノルボルネン単量体開環重合体を単離することができる。
【0042】
得られたノルボルネン単量体開環重合体は、次の水素添加反応工程へ供される。
また後述するように、開環重合を行った反応溶液に水素添加触媒を添加して、ノルボルネン単量体開環重合体を単離することなく、連続的に水素添加反応を行うこともできる。
【0043】
ノルボルネン単量体開環重合体の水素添加反応は、ノルボルネン単量体開環重合体の主鎖又は/及び側鎖に存在する炭素−炭素二重結合に水素添加する反応である。この水素添加反応は、ノルボルネン単量体開環重合体の不活性溶媒溶液に水素添加触媒を添加し、反応系内に水素を供給して行う。
【0044】
水素添加触媒としては、オレフィン化合物の水素添加に際して一般に使用されているものであれば、均一系触媒、不均一系触媒のいずれも使用することができる。得られる重合体中の残留金属の除去等を考慮すると、不均一系触媒が好ましい。
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
不均一触媒としては、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒系が挙げられる。
触媒の使用量は、ノルボルネン単量体開環重合体100重量部に対し、通常0.05〜10重量部である。
【0045】
水素添加反応に用いる不活性有機溶媒としては、前述した2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合において用いることができる有機溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0046】
水素添加反応の温度は、使用する水素添加触媒によって適する条件範囲が異なるが、水素添加温度は、通常−20℃〜+300℃、好ましくは0℃〜+250℃である。水素添加温度が低すぎると反応速度が遅くなるおそれがあり、高すぎると副反応が起こる可能性がある。
水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。水素圧力が低すぎると水素添加速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となるので好ましくない。
【0047】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、ノルボルネン単量体開環重合体中の炭素−炭素二重結合の水素添加率が通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。上記の範囲にあると、成形体の樹脂焼けに起因する着色が抑えられ好ましい。
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の水素添加率は、溶媒に重クロロホルムを用い、H−NMRにより測定して求めることができる。
【0048】
水素添加反応終了後は、反応溶液から水素添加触媒等を濾別し、濾別後の重合体溶液から溶媒等の揮発成分を除去することにより、目的とする結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を得ることができる。
溶媒等の揮発成分を除去する方法としては、凝固法や直接乾燥法等公知の方法を採用することができる。
【0049】
凝固法は、重合体溶液を重合体の貧溶媒と混合することにより、重合体を析出させる方法である。用いる貧溶媒としては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;等の極性溶媒が挙げられる。
凝固して得られた粒子状の成分は、例えば、真空中又は窒素中若しくは空気中で加熱して乾燥させて粒子状にするか、さらに必要に応じて溶融押出機から押し出してペレット状にすることができる。
【0050】
直接乾燥法は、重合体溶液を減圧下加熱して溶媒を除去する方法である。この方法には、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、掻面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置等の公知の装置を用いて行うことができる。真空度や温度はその装置によって適宜選択され、限定されない。
【0051】
以上のようにして得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合が、通常90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合が、0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜4重量%である。
【0052】
繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)の存在割合がこのような範囲にあると、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の溶剤への溶解性が良好であるためポリマーの生産性に優れ、ポリマーの精製も容易であり、かつ、成形体の機械的特性、透明性、耐熱性や水蒸気バリア性が良好となる。繰り返し単位(B)の存在割合が多すぎると、成形体の耐熱性や水蒸気バリア性が悪化するおそれがある。繰り返し単位(B)の存在割合が少なすぎると、当該重合体水素添加物の溶剤への溶解性が悪化し、ポリマーの生産性の悪化やポリマーの精製が困難になるおそれがあり、また、成形体の機械的特性が低下するおそれがある。
【0053】
得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、その重量平均分子量(Mw)が、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算で、好ましくは50,000〜200,000、より好ましくは70,000〜180,000、さらに好ましくは80,000〜150,000である。
【0054】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物のMwがこの範囲にあると、重合体の溶剤への溶解性が良好であるためポリマーの生産性に優れ、ポリマーの精製も容易であり、かつ、成形も容易であり、成形体の機械的特性や耐熱性が良好となる。すなわち、Mwが高すぎると、溶液粘度が高くなりすぎ、ろ過性が低下するため、生産性が悪化するおそれがあり、また、当該樹脂をフィルム成形する際には、フィルムの膜厚精度を高めるため樹脂温度を高くする必要が生じ、樹脂焼けに起因するダイラインが発生するおそれがある。また、Mwが低すぎると、成形品の機械的特性や耐熱性が低下するおそれや、当該重合体水素添加物が結晶性であるため、溶液に溶解し難くなり、ポリマーの生産性の悪化やポリマーの精製が困難になるおそれがある。
【0055】
得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、その分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.5〜7.0、より好ましくは2.0〜6.5、さらに好ましくは2.5〜6.0、特に好ましくは2.5〜5.5である。
Mw/Mnが狭すぎると、該重合体の温度に対する溶融粘度が敏感に変化し易くなるため、フィルム、シート等の成形品の加工性が悪化するおそれがある。また、Mw/Mnが広すぎると、成形品の機械的特性が低下するおそれがある。
【0056】
得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の融点は、通常110〜145℃、好ましくは120〜145℃、より好ましくは130℃〜145℃である。上記の範囲にあると、フィルムの耐熱性に優れるため好ましい。
【0057】
前記結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、融点を有する重合体、すなわち結晶構造を形成する重合体であるので、成形体内部に結晶部を形成し、これと非晶部とが相俟って成形品の機械的特性が向上する。それでいて、しかも結晶が大きくないので透明性の良さをも与えるのである。
【0058】
得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の異性化率は、通常40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。異性化率が高すぎると、該重合体の耐熱性が低下するおそれがある。異性化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)×100から算出することができる。13C−NMRスペクトルにおいて、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネン由来の繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネン由来の繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0059】
異性化率を上記範囲にするためには、ノルボルネン単量体開環重合体の水素添加反応において、反応温度を好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃、特に好ましくは130〜160℃とし、かつ、使用する水素添加触媒の使用量を、ノルボルネン単量体開環重合体100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部とする。このような範囲にあると、水素添加反応速度と得られるポリマーの耐熱性のバランスに優れ、好適である。
【0060】
本発明では、開環重合により、実質的にシス体である開環重合体を合成し、これを水素化して開環重合体水素添加物とすることが好ましい。水素化反応の際に、通常、トランス体への異性化が生じるが、この異性化を抑制して、トランス体の含有量を低く抑えることが好ましい。
【0061】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の異性化率が高すぎると、耐熱性が低下するおそれがある。一方、異性化率が低すぎると、開環重合体水素添加物の有機溶剤に対する溶解性が低下し、析出するおそれがある。そのため、開環重合体水素添加物の異性化率は、0%であってもよいが、10%以下の範囲内である程度の異性化率を示すものであることが好ましい。
【0062】
異性化率を上記範囲にするためには、開環重合体の水素化反応において、反応温度を好ましくは120〜170℃、より好ましくは130〜160℃とし、かつ、使用する水素化触媒の使用量を、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部とする。水素化反応の反応温度及び水素化触媒の使用量がこのような範囲にあると、水素化反応速度と得られるポリマーの耐熱性のバランスに優れ、好適である。
【0063】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、異物が少ないことが好ましい。フィルムなどのプラスチック成形品の金属残渣や異物等は、電子部品への適用において電気特性の低下を招くおそれがある。重合反応後又は水素化反応後に、孔径が0.2μm以下のフィルターにて重合体溶液を濾過することによって金属残査や異物等を精密に取り除くことができる。
【0064】
本発明に用いる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、融点を有する重合体、すなわち結晶構造を形成する重合体であるので、成形体内部に結晶部を形成(結晶化)し、これと非晶部とが相俟って成形品の引張り破断伸び等の機械的特性が向上する。
【0065】
(架橋助剤)
本発明においては、上述した結晶性ノルボルネン単量体開環重合体に架橋助剤を配合することができる。用いる架橋助剤は、特に限定されず、特開昭62−34924号公報等で公知のものでよく、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、p−ニトロソフェノール等のオキシム・ニトロソ系架橋助剤; N,N−m−フェニレンビスマレイミド等のマレイミド系架橋助剤; ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋助剤; エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート系架橋助剤; ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン等のビニル系架橋助剤; 等が例示される。中でも、アクリル系架橋助剤、メタクリレート系架橋助剤が、均一に分散させやすく、好ましい。
【0066】
また、架橋助剤の添加量は結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。架橋助剤の添加量が少なすぎると架橋が起こりにくく、架橋助剤の添加量が多すぎると架橋した樹脂成形品の耐湿性、水蒸気バリア性等が低下するため好ましくない。
【0067】
(架橋助剤添加)
架橋助剤を結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物中に添加する方法としては、成形前の材料に練り込むドライブレンド法、合成の途中で系中に入れる方法などがある。ただし、成形方法として、射出成形法または押出成形法等の高温での加熱溶融による成形を行なう場合には、架橋助剤が成形中に分解、揮散しないように、沸点や分解温度の高い架橋助剤を用いることが好ましい。プレス成形のような加熱時間が比較的短い場合、あるいは開環重合体水素添加物と架橋助剤を一緒に溶剤に溶解してキャストや紡糸して成形する場合、成形品の表面から架橋剤、架橋助剤を染み込ませるような場合には、沸点や分解温度が特に高い架橋助剤である必要はない。
【0068】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物には、架橋助剤の他、必要に応じて、酸化防止剤(安定剤)、核剤、発泡剤、難燃剤、熱可塑性樹脂や軟質重合体等のその他の重合体、滑剤等の配合剤や、染料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、ワックス等の樹脂工業分野で通常使用されるその他の配合剤を含有していてもよい。
【0069】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物に核剤及び必要に応じて用いられる配合剤を混合して樹脂組成物を調製する。樹脂組成物を調製する方法に特別な制限はないが、開環重合体水素添加物、核剤及び配合剤を、単軸押出機、2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の混練機によって溶融混合する方法が、生産性の観点から好適である。
【0070】
配合剤と混合する際の結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を含む反応液から単離したものであっても、前記反応液から不溶物を濾過した溶液のものであっても、濾過前の反応溶液のものであってもよい。また、配合剤は、それぞれ適当な溶媒に溶解したものであってもよい。結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の溶液及び/又は配合剤の溶液は、必要に応じて加熱して用いてもよい。
【0071】
以上のようにして得られる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、通常、取り扱いやすいようにペレットと呼ばれる米粒程度の大きさに加工された後、一次成形体に加工される。
【0072】
(一次成形品および成形方法)
一次成形品および成形方法は、上述した、必要に応じて架橋剤等が添加された結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を用いて得られるものであれば特に制限されない。例えば、光ディスクやレンズのように射出成形によって得られるもの、チューブや棒状に溶融押出成形したもの、溶融押出しロールで巻き取ったシートやフィルム、材料の塊を熱プレスによりシート状に成形したもの、適当な溶剤に溶解し溶液をキャストして得られるフィルム、さらにフィルムやシートを延伸したものなどが挙げられる。
【0073】
なお、一次成形品を構成する重合体全体に対して、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0074】
(架橋方法)
一次成形品を架橋するには、公知の種々の方法を利用できるが、電子線や放射線等の活性エネルギー線を照射して架橋する方法が適している。
【0075】
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、電子線や放射線を照射することにより各種活性種が生成し、架橋反応が起こる。この架橋反応は、特に架橋助剤を用いなくても、照射エネルギーが十分に高ければ、進行する。特に、水素添加率が80〜99.5%で不飽和結合が残存する開環重合体水素添加物の場合には、架橋反応が効率的に起こる。また、各種の架橋助剤を添加すれば、水素添加率が高い開環重合体水素添加物でも効率よく架橋反応を行なうことができる。
【0076】
一方、加熱架橋も可能であるが、一次成形品が、例えば、160℃で30分程度の長時間、高温にさらされるため、熱変形することがあり、加熱温度を下げると架橋反応にさらに長時間を必要とし、エネルギーの消費も大きい欠点がある。電子線や放射線による架橋は、エネルギー消費量が少なく、処理速度が大きく、成形品の温度上昇が小さいという利点がある。
【0077】
電子線や放射線による架橋は、EBC法等、塗料分野で使われているキュアリング技術を応用できる。
【0078】
(活性エネルギー線)
活性エネルギー線としては、例えば、放射性同位元素からのα線、β線、γ線;あるいは、バンデグラーフ型電子線加速器、コッククロフト、ウォルトン型電子線加速器、線型電子線加速器等の各種加速器からの電子線や各種電離性放射線;および紫外線ランプからの紫外線および遠紫外線;マイクロ波等がある。また、X線も用いることができる。
活性エネルギー線の照射量は、100〜500kGy、好ましくは100〜300kGyである。加速電圧は、通常、10〜750kV程度である。活性エネルギー線の
照射量が少なすぎると架橋が起こり難く、多すぎると熱変形や分子量の低下に繋がるため好ましく無い。
【0079】
以下に、本発明のプラスチック成形品としてフィルムを製造する場合について詳述する。
フィルムを製造する方法に特に制限はなく、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも用いることができる。
加熱溶融成形法は、上記のペレットを、重合体の融点(Tm)以上で、熱分解温度未満の温度に加熱して流動状態にしてフィルムに成形する方法である。
加熱溶融成形法には、押出成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等がある。
また、押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等により製膜した後に、延伸成形法を行ってもよい。
【0080】
加熱溶融成形法における加熱、加圧条件としては、成形機、用いる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の特性等により適宜選択すればよく、温度は、通常Tm〜(Tm+100℃)、好ましくは(Tm+20℃)〜(Tm+50℃)である。
成形時の圧力は、通常0.5〜100MPa、好ましくは1〜50MPaである。 加圧時間は、通常数秒から数十分程度である。
【0081】
本発明に用いる結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物は、Tmが比較的高く、耐熱性が高いが、200〜400℃の間で著しく低粘度になって流動性となる特徴を有している。
この理由は明確ではないが、結晶性を有するため液晶状態になり急激に粘度が下がるものと考えられる。そのため結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の溶融温度が高いにも拘らず、良く流動するので短時間でフィルムに成形することができる。
【0082】
一方、溶液流延法は、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物や必要に応じて配合される配合剤を有機溶媒に溶解して、このものを平面上又はロール上にキャスティングして、溶媒を加熱により除去してフィルム及びシートを成形する方法である。
【0083】
用いる溶媒としては、2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合反応及び開環重合体の水素添加反応の溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0084】
溶液流延法は、溶媒を揮散する温度が成形温度となり、その温度は使用する溶媒の種類によって適宜設定される。
【0085】
また、成形後に、成形品の結晶性をより強く現出するために、成形体をアニール処理しても良い。
【0086】
フィルムの厚みは特に限定されないが、通常1μmから20mm、好ましくは5μmから5mm、より好ましくは10μmから2mmである。フィルムとシートの区別に格別な規定はなく、厚みによって区別することもあるが、用途や業種における慣習により呼称が変わるのが実状である。
【0087】
フィルムの機械的強度や水蒸気バリア性を増大すべく、結晶化度を高めるために延伸を施しても良い。延伸とは、成形されたフィルムを、続いて1.1〜10倍程度伸張して塑性変形を与えることである。この塑性変形は、内部の摩擦で、結晶鎖は勿論、非晶鎖も引き伸ばして配向させる効果を有する。
【0088】
フィルムは、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を含有する層と、その他の重合体を含有する層とを有する積層体であってもよい。
【0089】
その他の重合体としては、ゴム質重合体又はその他の樹脂が挙げられ、それらの具体例は、いずれも結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物に配合して使用できるものとして前記したものと同様である。
【0090】
積層する層の数は、通常2層又は3層であるが、更に多層の積層体とすることもできる。3層以上の多層における重合体種による層の配置順序は、目的や用途により適宜設定することができる。
【0091】
また、同種の重合体の層を他の重合体の層を隔てて配置してもよく、例えば、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を含有する2つの層の間にポリスチレンを含む層を挟む3層の積層体や、さらにその一方の外側に水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体を含む層が積層された4層の積層体等が可能である。
【0092】
積層方法としては、層と層の間に接着剤を塗布して貼り合わせる方法、単層もしくは複数層のフィルム又はシートを熱もしくは高周波により融点以上に加熱して融着する方法、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物又はその他の重合体のフィルム又はシートの表面に、その他の重合体又は結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物を溶解させた有機溶媒を塗布して乾燥させる方法等がある。
また、押出機で結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物とその他の重合体とを共押出して積層体を製造することもできる。
【0093】
本発明の成形品の一つであるフィルムは、水蒸気バリア性、耐熱性、透明性、耐油性に優れ、かつ、引張り破断伸び等機の械的的特性に優れる。また、熱分解温度が高いので、加工温度範囲が広い利点を有する。また、このフィルムは水蒸気バリア性に優れる。本発明の厚さ100μmの樹脂フィルム又はシートのJIS K 7129(A法)に基づいて測定される透湿度は、通常0.50g/(m・24h)以下、好ましくは0.40g/(m・24h)以下である。
【0094】
これらの特徴を有するフィルムは、食品分野、医療分野、ディスプレイ分野、エネルギー分野、光学分野、電気電子分野、通信分野、自動車分野、民生分野、土木建築分野等の多岐の用途で利用することができる。
【0095】
なかでも、食品分野、医療分野、エネルギー分野、ディスプレイ分野等の用途に適している。
食品分野としては、ハム、ソーセージ、レトルト食品、冷凍食品等の加工食品、乾燥食品、特定保険食品、米飯、菓子、食肉、ラップフィルム、シュリンクフィルム等の食品包装袋、ブリスター・パッケージ用フィルム等として使用できる。
医療分野では、薬栓、輸液用バッグ、点滴用バッグ、プレス・スルー・パッケージ(PTP)用フィルム、ブリスター・パッケージ用フィルム等で使用できる。
エネルギー分野では太陽光発電システム周辺部材、燃料電池周辺部材、アルコール含有燃料系統部材及びそれらの包装フィルム等として使用できる。
ディスプレイ分野では、バリアーフィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、光拡散シート、集光シート等として使用できる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部又は%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0097】
以下の実施例及び比較例において、各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)ノルボルネン単量体開環重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、トルエンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0098】
測定装置として、GPC−8020シリーズ(DP8020、SD8022、AS8020、CO8020、RI8020、東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000のものの計8点、東ソー社製)を用いた。
【0099】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、測定試料をトルエンに溶解後、カートリッジフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
【0100】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(東ソー社製)を2本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
【0101】
(2)結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0102】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、140℃にて測定試料を1,2,4−トリクロロベンゼンに加熱溶解させて調製した。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが988、2580、5910、9010、18000、37700、95900、186000、351000、889000、1050000、2770000、5110000、7790000、20000000のものの計16点、東ソー社製)を用いた。
【0103】
測定装置として、HLC8121GPC/HT(東ソー社製)を用いた。
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(20)HT(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量300μml、カラム温度140℃の条件で行った。
【0104】
(3)結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物の水素化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、H−NMRにより測定した。
【0105】
(4)異性化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)
×100から算出して求めた。
ちなみに、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0106】
(5)融点は、示差走査熱量分析計(製品名「DSC6220SII」、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K7121に基づき、試料を融点より30℃以上に加熱した後、冷却速度−10℃/minで室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/minで測定した。
【0107】
(6)ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(製品名「DSC6220SII」、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K6911に基づいて測定した。
【0108】
(7)耐溶剤性は、40℃のトルエン溶液に成形体を浸漬し、24時間後の成形体の膨潤や溶解の状態を目視で観察した。
【0109】
[製造例1]
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.55部、ジイソプロピルエーテル0.30部、トリイソブチルアルミニウム0.20部、及びイソブチルアルコール0.075部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下、「2−NB」ということがある。)250部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液15部を、55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。
得られた開環重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。重合転化率は、ほぼ100%であった。
(水素化反応)
上記で得た重合反応液を耐圧の水素化反応器に移送し、そこへ、ケイソウ土担持ニッケル触媒(製品名「T8400」;ニッケル担持率58%、ズードヘミー触媒社製)0.6部を加え、200℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。この溶液を、ラジオライト#500(昭和化学社製)を濾過床として、加圧濾過器(製品名「フンダフィルター」、石川島播磨重工社製)を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、開環重合体水素添加物(A)の無色透明な溶液を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物(A)の水素化率は95%、重量平均分子量(Mw)は、82,200、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は5%、融点は140℃であった。
(樹脂組成物の調製)
得られた溶液に、重合体固形分100部当り、酸化防止剤(テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;製品名「イルガノックス1010」、チバガイギー社製)(以下「酸化防止剤(A)」と略す)0.1部、及び結晶核剤(日本タルク社製;MS、食添タルク;長径15μm)0.5重量部を加え、溶解させた。
(乾燥)
この溶液を金属ファイバー製フィルター(孔径0.5μm、ニチダイ社製)にて濾過した後、ろ液を「ゼータプラスフィルター30S」(孔径0.5〜1μm、キュノ社製)で濾過し、さらに、金属ファイバー製フィルター(孔径0.2μm、ニチダイ社製)で濾過して異物を除去した。得られたろ液を予備加熱装置で200℃に加熱し、圧力3MPaで薄膜乾燥機(日立製作所社製)に連続的に供給した。薄膜乾燥機の運転条件は、圧力13.4kPa下、内部の濃縮された重合体溶液の温度を240℃とした(第一段階乾燥)。
次に、濃縮された溶液を、薄膜乾燥機から連続的に導出し、さらに同型の薄膜乾燥機に温度240℃を保ったまま、圧力1.5MPaで供給した。運転条件は、圧力0.7kPa、温度240℃とした(第二段階乾燥)。
(ペレット化)
溶融状態の重合体を、薄膜乾燥機から連続的に導出し、クラス100のクリーンルーム内でダイから押し出し、水冷後、ペレタイザー(製品名「OSP−2」、長田製作所社製)でカッティングして樹脂組成物(A)のペレットを得た。
【0110】
[製造例2]
製造例1において、水素化反応時の触媒量を1.0部に変更した以外は製造例1と同様にして、水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物(B)を190部得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物(B)の水素添加率は99.9%、重量平均分子量は83,200、分子量分布(Mw/Mn)は3.0、異性化率は5%、融点は140℃であった。
(樹脂の調製)
開環重合体水素添加物(B)を用いたこと以外は、製造例1と同様にしてペレット化した樹脂(B)を得た。
【0111】
[製造例3]
(開環重合及び水素添加反応)
製造例1において、重合性単量体として、2−NB 240部とトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(以下、「DCP」という)10部とし、1−ヘキセンの量を0.55部、ジイソプロピルエーテルの量を0.40部、トリイソブチルアルミニウムの量を0.27部、イソブチルアルコールの量を0.10部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を20部に変更した以外は製造例1と同様にして、重合を行った。得られた開環重合体(B)の重量平均分子量は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.7であった。重合添加率は、ほぼ100%であった。その後、製造例2と同様にして、水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物(C)を190部得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物(C)の水素添加率は99.9%、重量平均分子量は81,300、分子量分布(Mw/Mn)は3.8、異性化率は9%、融点は134℃であった。
(樹脂の調製)
開環重合体水素添加物(C)を用いたこと以外は、製造例1と同様にしてペレット化した樹脂(C)を得た。
【0112】
[製造例4]
(開環重合)
窒素雰囲気下、攪拌機付きオートクレーブに、70%の2−NBのトルエン溶液33.4部、DCP 2.86部と1−ヘキセン0.020部、シクロヘンサン49.3部を加えて攪拌した。続いてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.023部を8.6部のトルエンに溶解した溶液を加えて、60℃にて30分間反応させた。重合転化率は、ほぼ100%であった。得られた開環重合体(D)の重量平均分子量は、81,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.6であった。
(水素添加反応)
上記で得た重合溶液にエチルビニルエーテル0.020部を加えて攪拌した後、水素圧力1.0MPa、150℃で20時間水素化反応を行なった。その後、室温まで冷却させ、活性炭粉末0.5部をシクロヘキサン10部に懸濁させた溶液を添加し、水素圧力1.0MPa、150℃で2時間反応させた。次いで反応液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、活性炭粉末を除去した。反応溶液を大量のイソプロパノールに注いでポリマーを完全に析出させ、ろ別して回収した。さらに、アセトンで洗浄した後、0.13×103Pa以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、開環重合体水素添加物(D)を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物(D)の水素添加率は99.9%、重量平均分子量は85,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.9、融点は101℃であった。
(樹脂の調製)
開環重合体水素添加物(D)を用いたこと以外は、製造例1と同様にしてペレット化した樹脂(D)を得た。
【0113】
[製造例5]
(開環重合及び水素添加反応)
70%ノルボルネン/トルエン溶液35.7部、1−ヘキセン0.048部、シクロヘキサン49.3部を、それぞれ6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a.5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン(以下、「MTD」という)25.0部、1−ヘキセン0.17部、シクロヘキサン65.0部に変更した以外は、製造例1と同様にして、重合を行った。得られた開環重合体(E)の重量平均分子量は14,600、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。重合添加率は、ほぼ100%であった。その後、製造例2と同様にして、水素添加反応を行い、開環重合体水素添加物(E)を得た。
(重合体物性)
得られた開環重合体水素添加物(E)の水添率は99.9%、重量平均分子量は28,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.9、ガラス転移温度は142℃であり、融点は観察されなかった。
(樹脂の調製)
開環重合体水素添加物(E)を用い、結晶核剤を添加しなかったこと以外は、製造例1と同様にしてペレット化した樹脂(E)を得た。
【0114】
[実施例1]
製造例1で得られた樹脂(A)20部をトルエン80部中に分散させたところ、沈澱なども生じない溶液(A)を得た。
上記で得られた溶液(A)を、塗工機を用いて、鏡面に仕上げたSUS板上に厚さ500μmになるように塗布した。60℃で20分間、さらに120℃で10分放置して乾燥させた。その後、形成されたシートをSUS板から剥し、120rGyのγ線を照射した。得られた単層フィルム(A)の厚さは101μmであった。
得られた単層フィルム(A)の透湿度は、0.32g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(A)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤、溶解は認められなかった。
【0115】
[実施例2]
製造例2で得られた樹脂(B)20部とトリアリルシアヌレート0.5部をトルエン80部中に分散させたところ、沈澱なども生じない溶液(B)を得た。
上記で得られた溶液(B)を用い、γ線の照射量を150rGyに代えた以外は実施例1と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(B)の厚さは101μmであった。
得られた単層フィルム(B)の透湿度は、0.32g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(B)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤、溶解は認められなかった。
【0116】
[実施例3]
製造例3で得られた樹脂(C)20部とトリアリルシアヌレート0.5部をトルエン80部中に分散させたところ、沈澱なども生じない溶液(C)を得た。
上記で得られた溶液(C)を用いた以外は実施例2と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(C)の厚さは102μmであった。
得られた単層フィルム(C)の透湿度は、0.30g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(C)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤、溶解は認められなかった。
【0117】
[比較例1]
製造例4で得られた樹脂(D)20部とトリアリルシアヌレート0.5部をトルエン80部中に分散させたところ、沈澱なども生じない溶液(D)を得た。
上記で得られた溶液(D)溶液を用いた以外は、実施例2と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(D)の厚さは101μmであった。
得られた単層フィルム(D)の透湿度は、度0.68g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(D)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤が認められた。
【0118】
[比較例2]
製造例5で得られた樹脂(E)20部とトリアリルシアヌレート0.5部をトルエン80部中に分散させたところ、沈澱なども生じない溶液(E)を得た。
上記で得られた溶液(E)を用いた以外は実施例2と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(E)の厚さは102μmであった。
得られた単層フィルム(E)の透湿度は、1.05g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(E)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤が認められた。
【0119】
[比較例3]
γ線の照射量を550rGyに代えた以外は実施例1と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(F)の厚さは103μmであった。
得られた単層フィルム(F)は、著しく変色してしまい外観が不良であった。また40℃のトルエンにフィルム(F)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤、溶解は認められなかった。
【0120】
[比較例4]
γ線の照射量を80rGyに代えた以外は実施例2と同様にしてγ線を照射した。得られた単層フィルム(G)の厚さは103μmであった。
得られた単層フィルム(G)の透湿度は、0.62g/m・dayであった。また40℃のトルエンにフィルム(G)を浸漬して24時間放置したところ、膨潤が認められた。
【0121】
<考察>
結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物得られたフィルムは、耐溶剤性、水蒸気バリア性に優れる(実施例1〜3)。
それに対し、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%の範囲になく、融点の低い2−ノルボルネン開環重合体水素添加物の場合は、非晶部分が多いためか、水蒸気バリア性、耐溶剤性に劣る(比較例1、2)。
活性エネルギー線照射量が多い場合は、変色して外観が劣る(比較例3)。活性エネルギー線照射量が少ない場合は、架橋が起こりにくく、耐溶剤性に劣る(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ノルボルネンが90〜100重量%と置換基含有ノルボルネン類が10〜0重量%とを含有してなる重合性単量体を開環重合し、水素添加して成る水素添加率が80%以上で、融点が110〜145℃、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が50,000〜200,000、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜10.0である、結晶性ノルボルネン単量体開環重合体水素添加物で形成された一次成形品を、照射量100〜500kGyの活性エネルギー線を照射して、架橋してなることを特徴とするプラスチック成形品。

【公開番号】特開2009−197201(P2009−197201A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43435(P2008−43435)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】