説明

プラスチック材料の成形方法

【課題】 赤外線によってプラスチック材料を効率良く短時間で加熱することができ、製品の生産効率を高めることができるプラスチック材料の成形方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 プラスチック材料の成形方法であって、金型1のキャビティ30に投入されたプラスチック材料40に対して、レーザLまたは集光された赤外線を照射することにより、プラスチック材料40を加熱する段階と、キャビティ30内でプラスチック材料40を圧縮して所定形状に変形させる段階とを含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料を圧縮成形して製品を製造するためのプラスチック材料の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料を用いたプラスチックレンズの製造方法としては、上下に分割された主型を組み合せることにより、各主型の間に形成されるキャビティ内でプラスチック材料を圧縮成形してプラスチックレンズを製造する方法がある。
ここで、プラスチック材料の圧縮成形において、プラスチック材料をガラス転移温度以下で圧縮成形した場合には、圧縮成形後のプラスチック材料内に多大な歪みが残留してしまう。そのため、圧縮成形前にプラスチック材料をガラス転移温度以上に加熱して軟化させる必要がある。そこで、下方の主型にプラスチック材料を投入した後に、各主型の間に赤外線パネルヒータを挿入し、下方の主型に向けて赤外線を照射することにより、プラスチック材料を加熱している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように、赤外線によってプラスチック材料を加熱した場合には、主型を加熱することなく、プラスチック材料のみを加熱することができる。
なお、圧縮成形後に主型からプラスチック材料を取り出す際には、軟化しているプラスチック材料の変形を防ぐため、プラスチック材料をキャビティ内でガラス転移温度以下に冷却して硬化させてから取り出すことになる。このとき、前記製造方法では、主型が加熱されていないため、キャビティ内のプラスチック材料を短時間で冷却することができる。
【特許文献1】特開平7−148857号公報(段落0009、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記製造方法では、赤外線パネルヒータから赤外線が拡散して照射されており、赤外線の照射範囲を狭めることが困難となっている。そのため、直径が10mm以下のプラスチックレンズ等の小さな製品を製造する場合には、プラスチック材料以外の領域にも赤外線が照射されることになる。このように、赤外線パネルヒータによる加熱効率が低いため、プラスチック材料の加熱時間が長くなってしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、赤外線によってプラスチック材料を効率良く短時間で加熱することができ、製品の生産効率を高めることができるプラスチック材料の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、プラスチック材料の成形方法であって、金型のキャビティに投入されたプラスチック材料に対して、レーザまたは集光された赤外線を照射することにより、プラスチック材料を加熱する段階と、キャビティ内でプラスチック材料を圧縮して所定形状に変形させる段階とを含むことを特徴としている。
【0007】
ここで、プラスチック材料の材質は限定されるものではなく、製造する製品に応じて選定されるものである。
また、赤外線の種類は限定されるものではなく、近赤外線(波長が約0.7〜1.4μm)、中赤外線(波長が約1.4〜3μm)、遠赤外線(波長が約3〜100μm)のいずれかを用いることができる。
さらに、レーザは、狭い領域を照射するビーム状の赤外線であり、例えば、直径が5〜10mm程度の領域を照射するものを用いることが好ましい。このレーザを照射する方法としては、反射鏡やレンズ等を用いて集光したレーザを照射する方法や、集光することなくレーザを照射する方法など限定されるものではない。
また、集光された赤外線を照射する方法も限定されるものではなく、ハロゲンランプ等を赤外線の光源として、反射鏡やレンズ等を用いて集光することができる。
【0008】
このように、本発明のプラスチック材料の成形方法では、レーザまたは集光された赤外線をプラスチック材料に照射しており、赤外線が拡散しないため、赤外線の照射範囲を簡易に調整することができる。これにより、プラスチック材料に対して赤外線を的確に照射することができるため、赤外線によってプラスチック材料を効率良く短時間で加熱することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラスチック材料の成形方法であって、プラスチック材料は、透明材料に赤外線吸収材料が添加された材料であることを特徴としている
【0010】
ここで、赤外線吸収材料とは、照射された赤外線を吸収して発熱する材料であり、既存の顔料や染料を用いることができる。また、赤外線吸収材料の添加量は限定されるものではなく、赤外線吸収材料が添加されたプラスチック材料が実質的に透明となる程度に添加されていればよい。
【0011】
このように、本発明のプラスチック材料の成形方法では、赤外線吸収材料が添加された透明材料によってプラスチック材料が構成されているため、そのままでは近赤外線や中赤外線によって加熱することができない透明材料であっても、近赤外線や中赤外線によって加熱することができる。そして、赤外線吸収材料の添加量を調整し、添加された赤外線吸収材料による可視光の吸収を非常に少なくすることにより、実質的に透明なプラスチック材料を近赤外線や中赤外線によって効率良く短時間で加熱することができる。
【0012】
なお、赤外線吸収材料が添加されたプラスチック材料を用いているため、このプラスチック材料を圧縮成形してプラスチックレンズを製造した場合には、赤外線除去機能を備えたプラスチックレンズが必然的に製造されることになる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のプラスチック材料の成形方法であって、炭酸ガスレーザ装置を用いてレーザを照射することを特徴としている。
【0014】
このように、本発明のプラスチック材料の成形方法では、炭酸ガスレーザ装置を用いることにより、レーザを高出力で照射することができるため、プラスチック材料の加熱効率を高めることができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法であって、プラスチック材料は、含水量が0.01質量%以下のものを用いることを特徴としている。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法であって、プラスチック材料を加熱する段階の前に、プラスチック材料の含水量を0.01質量%以下にすることを特徴としている。
【0016】
ここで、プラスチック材料を急速に加熱した場合には、プラスチック材料に含まれる水分等の液分が外部に発散されることなく内部で揮発してガス化されてしまうため、加熱後のプラスチック材料に気泡が発生してしまう場合がある。
【0017】
そこで、本発明のプラスチック材料の成形方法では、プラスチック材料の含水量を0.01質量%以下にすることにより、プラスチック材料が急速に加熱された場合であっても、プラスチック材料に含まれる液分が少ないため、気泡の発生を抑制することができる。これにより、レーザまたは集光された赤外線を高出力で照射してプラスチック材料を急速に加熱することができ、加熱効率を高めることができる。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法であって、プラスチック材料に対するレーザまたは集光された赤外線の照射は、プラスチック材料を不活性ガス雰囲気下に置いた状態で行われることを特徴としている。
【0019】
ここで、プラスチック材料にレーザまたは集光された赤外線を高出力で照射した場合には、高温に加熱されたプラスチック材料の表面が、プラスチック材料を取り巻く空気中の酸素によって酸化、すなわち焦げて着色した状態となってしまう場合がある。
【0020】
そこで、本発明のプラスチック材料の成形方法では、プラスチック材料を不活性ガス雰囲気下に置いた状態で、レーザまたは集光された赤外線を照射することにより、高温に加熱されたプラスチック材料の表面が酸化することを防ぐことができる。これにより、レーザまたは集光された赤外線を高出力で照射してプラスチック材料を急速に加熱することができるため、加熱効率を高めることができる。
【0021】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のプラスチック材料の成形方法であって、不活性ガス雰囲気は、炭酸ガス、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれか1つ、または組み合せによる不活性ガスを含んだ雰囲気であることを特徴としている。
【0022】
このように、不活性ガス雰囲気が、炭酸ガス、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれか1つ、または組み合せによる不活性ガスを含んだ雰囲気であるため、加熱されたプラスチック材料の酸化を効果的に防ぐことができる。
【0023】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法であって、プラスチック材料は、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィン、アクリル、脂環式アクリル樹脂、オレフィン・マレイミド交互共重合体のいずれか1つであることを特徴としている。
【0024】
このように、本発明のプラスチック材料の成形方法では、プラスチック材料を、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィン、アクリル、脂環式アクリル樹脂、オレフィン・マレイミド交互共重合体のいずれか1つによって構成することにより、透明度が高く、光学部品に適用可能なプラスチック材料を効果的に加熱することができる。
【発明の効果】
【0025】
このようなプラスチック材料の成形方法によれば、レーザまたは集光された赤外線をプラスチック材料に照射しており、赤外線の照射範囲を簡易に調整して、プラスチック材料に対して的確に照射することができる。これにより、レーザまたは集光された赤外線によってプラスチック材料を効率良く短時間で加熱することができるため、製品の生産効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、(a)は各主型を離間させた状態の側断面図、(b)は各主型を組み合せた状態の側断面図である。図2は、本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、(a)は上方主型の平面図、(b)は下方主型の平面図である。図3は、本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、各主型の間に集光装置を配置した状態の側断面図である。
本実施形態では、プラスチック材料を圧縮成形してプラスチックレンズを製造する場合を例として説明する。
【0027】
(金型の構成)
金型1は、図1に示すように、上下に配置された上方主型10および下方主型20を組み合せることにより、上方主型10と下方主型20との間に形成される空間であるキャビティ30内に投入されたプラスチック材料を圧縮成形するように構成されている。
【0028】
(上方主型の構成)
上方主型10は、図1(a)および図2(a)に示すように、鋼製の直方体であり、その下面の中央部には、平断面が円形の凹部11が設けられている。
上方主型10の凹部11には、鋼製の円柱部材である上方入子12の上端部が嵌め込まれており、上方主型10の下面から上方入子12が下方に向けて突出した状態となっている。
この上方入子12の下端面13は、凹状の光学面を成形するための成形部であり、凹状の光学面の曲率に対応させた凸状の球面等の湾曲面となっている。
【0029】
(下方主型の構成)
下方主型20は、図1(a)および図2(b)に示すように、鋼製の直方体であり、その上面の中央部には、平断面が円形の導入穴21が設けられている。導入穴21は、上方主型10の上方入子12よりも僅かに大きな直径となっており、上方入子12を挿入することができるように構成されている。
【0030】
導入穴21の下端部22には、鋼製の円柱部材である下方入子23が嵌め込まれており、下方入子23の下面が導入穴21の底面に当接した状態となっている。
この下方入子23の上端面24は、凸状の光学面を成形するための成形部であり、凸状の光学面の曲率に対応させた凹状の球面等の湾曲面となっている。
また、導入穴21の深さは、上方入子12の突出長さよりも深く形成されており、導入穴21に上方入子12を挿入した際に、上方入子12の下端面13と下方入子23の上端面24との間に隙間が形成されるように設定されている(図1(b)参照)。
【0031】
(キャビティの構成)
キャビティ30は、図1(b)に示すように、成形対象のプラスチック材料を圧縮成形するための空間であり、上方主型10の上方入子12を下方主型20の導入穴21に挿入して、上方主型10と下方主型20とを組み合せた際に、上方入子12の下端面13と下方入子23の上端面24との間に形成される隙間である。すなわち、キャビティ30の内部上面は、上方入子12の下端面13によって構成され、キャビティ30の内部下面は、下方入子23の上端面24によって構成されている。
【0032】
(集光装置の構成)
集光装置50は、図3に示すように、近赤外線であるレーザを発振する既存の半導体レーザ装置(図示せず)を光源としており、この光源から発振された近赤外線であるレーザを、光ファイバ51によって照射部52に伝送し、この照射部52内のレンズによってレーザLを集光して照射部52から下方に向けて照射するように構成されている。
そして、上方主型10と下方主型20とを離間させた状態で、各主型10,20の間に照射部52を挿入することにより、レーザLを下方主型20の下方入子23の上端面24に照射することができるように構成されている。
なお、集光装置50の光源である半導体レーザ装置は、取り扱い易さの点を考慮すると、発振波長が808nmや940nmの装置を用いることが好ましい。
【0033】
また、集光装置50では、各主型10,20の間に照射部52を挿入した際に、レーザLの照射範囲の中心が下方入子23の上端面24の中心と一致するように構成されており、その照射範囲は、成形対象であるプラスチック材料の投影面積と一致するように設定されている。本実施形態の照射範囲は、直径が約10mmの円形領域に設定されている。
このような集光装置50では、近赤外線であるレーザLを集光して照射しており、赤外線が拡散しないため、レーザLの照射範囲を簡易に調整して、小径のプラスチック材料に対して一致させることができる。
【0034】
(プラスチック材料の成形方法)
次に、本実施形態のプラスチック材料の成形方法を用いたプラスチックレンズの製造について説明する。
図4は、本実施形態のプラスチック材料の成形方法を示した図で、(a)はプラスチック材料を下方主型に投入した状態の側断面図、(b)はプラスチック材料にレーザを照射している態様の側断面図である。図5は、本実施形態のプラスチック材料の成形方法を示した図で、(a)は上方主型を下方主型に向けて下降させた態様の側断面図、(b)は上方主型と下方主型とを組み合せた状態の側断面図である。
【0035】
本実施形態では、ポリカーボネートに赤外線吸収材料を添加したプラスチック材料を用いてプラスチックレンズを製作する場合を例として説明する。
赤外線吸収材料は、近赤外線を吸収して発熱する染料や顔料であれば限定されるものではないが、可視光域の吸収が少ないものが好ましい。例えば、顔料としては、粒子が微細で、プラスチック材料に添加した際に可視光の透過を妨げないものが好ましく、本実施形態では、集光装置50(図3参照)からレーザとして照射される近赤外線の吸収率が高い材料を、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、メロシアニン系、ローダシアニン系、スチリル系、ベーススチリス系等の中から加熱に使用する赤外線の波長に基づいて適宜に選択しており、例えば、H.W.SANDS CORPのSDAシリーズの中から発振波長に基づいて選択し、プラスチック材料が実質的に透明となる量を添加している。
なお、照射される赤外線が遠赤外線である場合には、プラスチック材料自体が遠赤外線を吸収することができるため、赤外線吸収材料を添加する必要がない。また、照射される赤外線が近赤外線や中赤外線であっても、ハロゲンランプを光源としている場合には、プラスチック材料に赤外線吸収材料を添加しなくてもよい場合がある。
【0036】
また、プラスチック材料に赤外線吸収材料を添加する方法としては、プラスチック材料の原料に赤外線吸収材料を加えて重合する方法や、プラスチック材料の原料と赤外線吸収材料とを溶融混練する方法を用いることができる。
【0037】
続いて、前記プラスチック材料からプラスチックレンズを製造する手順について、具体的に説明する。
まず、図1(a)に示すように、上方主型10と下方主型20とを上下に離間させ、図4(a)に示すように、下方主型20の導入穴21内にプラスチック材料40を投入して下方入子23の上端面24に載置する。
【0038】
その後、図4(b)に示すように、下方主型20の上方に集光装置50の照射部52を挿入し、照射部52から照射されるレーザLの照射範囲の中心を下方入子23の上端面24の中心に一致させた状態で、レーザLを照射部52から導入穴21内のプラスチック材料40に照射する。
【0039】
このように、近赤外線であるレーザLを集光して照射することにより、プラスチック材料40に添加されている赤外線吸収材料が近赤外線を吸収して発熱し、プラスチック材料40が加熱された状態となる。
このとき、近赤外線であるレーザLがプラスチック材料40に対して的確に照射されるため、近赤外線によってプラスチック材料40を効率良く短時間で加熱することができる。なお、近赤外線の照射によって下方主型20は加熱されることなく、プラスチック材料40のみが加熱された状態となっている。
【0040】
そして、図5(a)に示すように、プラスチック材料40をガラス転移温度以上に加熱して軟化させた後に、上方主型10を下方主型20に対して下降させ、上方主型10の上方入子12を下方主型20の導入穴21に挿入することにより、上方主型10と下方主型20とを組み合せる。
これにより、図5(b)に示すように、プラスチック材料40は、上方入子12の下端面13と下方入子23の上端面24との間に形成されたキャビティ30内に投入された状態となり、プラスチック材料40が上方入子12によって加圧されることにより、プラスチック材料40が変形してキャビティ30内で飽和状態となる。
【0041】
ここで、上方入子12の下端面13は、凹状の光学面の形状に対応しており、下方入子23の上端面24は、凸状の光学面の形状に対応している。そのため、キャビティ30内で飽和状態となったプラスチック材料40は、上方入子12の下端面13から下方入子23の上端面24までの高さに対応する厚みで、凹凸両側の光学面が形成されたプラスチックレンズの形状を成すことになる。
【0042】
プラスチック材料40の圧縮成形後は、プラスチック材料40を金型1から取り出す際の変形を防ぐために、プラスチック材料40をキャビティ30内でガラス転移温度以下まで冷却して硬化させる。
このとき、プラスチック材料40をレーザL(図4(b)参照)によって加熱した際には、プラスチック材料40のみが加熱されており、金型1は加熱されていないため、金型1を冷却するための時間を除くことができ、プラスチック材料40を短時間で冷却することができる。
【0043】
そして、プラスチック材料40をキャビティ30内で冷却した後に、上方主型10と下方主型20を離間させて、下方主型20からプラスチック材料40を取り出し、プラスチック材料40の円周部を加工してプラスチックレンズを完成させる。
【0044】
なお、本実施形態のプラスチック材料の成形方法によって製造したプラスチックレンズは、赤外線吸収材料が添加された実質的に透明なプラスチック材料を用いて製造されているため、必然的に赤外線除去機能を備えたプラスチックレンズとなっている。
ここで、CCD(Charge−Coupled Device)カメラ(スチールカメラおよびビデオカメラを含む)では、赤外線の入光を防ぐためにプラスチックレンズと赤外線カットフィルタを組み合せているが、本実施形態で製造されたプラスチックレンズのように、レンズ自体に赤外線除去機能を持たせることによって、赤外線カットフィルタを設ける必要がなくなり、カメラの構造を簡素化することができる。
【0045】
このように、本発明のプラスチック材料の成形方法によれば、近赤外線であるレーザLをプラスチック材料40に対して的確に照射させることにより、金型1を加熱することなく、プラスチック材料40を効率良く短時間で加熱することができ、圧縮成形後にプラスチック材料40を冷却する際には短時間で冷却することができる。これにより、金型1で連続してプラスチック材料40を製造する際に、プラスチック材料40を非常に短い時間で加熱、冷却して圧縮成形することができるため、プラスチックレンズの生産効率を高めることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。本実施形態では、図4(a)に示すように、半導体レーザ装置を光源とする集光装置50を用いて、プラスチック材料40に近赤外線であるレーザを照射しているが、その集光装置50の光源は限定されるものではなく、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ等を用いることができる。なお、本実施形態では、レーザLを集光して照射しているが、プラスチック材料40に対して的確に照射することができるのであれば、集光することなくレーザを照射したり、レーザの焦点をプラスチック材料40からずらしたりして照射してもよい。
【0047】
また、赤外線として中赤外線や遠赤外線を用いてもよく、例えば、遠赤外線を照射する構成としては炭酸ガスレーザ等を光源とする構成がある。そして、炭酸ガスレーザ装置を光源として、遠赤外線であるレーザを高出力で照射した場合には、プラスチック材料40の加熱効率を高めることができる。なお、炭酸ガスレーザ装置を光源とした構成では、光源から発振された遠赤外線であるレーザを、中空ファイバによって伝送することが好ましい。
【0048】
さらに、ハロゲンランプやカーボンヒータから照射された赤外線を反射型レンズにより集光して照射することもできる。そして、ハロゲンランプを用いた場合には、光ファイバや中空ファイバによって赤外線を伝送することなく、集光装置50内にハロゲンランプを収納することが好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、プラスチック材料40をポリカーボネートによって構成しているが、その他にポリエステル、環状ポリオレフィン、アクリル、脂環式アクリル樹脂、オレフィン・マレイミド交互共重合体等の材料を用いることにより、透明度が高く、光学部品に適用可能なプラスチック材料40を効果的に加熱することができる。
【0050】
また、プラスチック材料40の含水量を0.01質量%以下にして、プラスチック材料40に含まれる液分を少なくすることにより、プラスチック材料40が急速に加熱された場合に、プラスチック材料40の内部で水分等の液分がガス化して気泡が発生することを抑制することができる。これにより、レーザLまたは集光された赤外線を高出力で照射してプラスチック材料40を急速に加熱することができ、加熱効率を高めることができる。
【0051】
なお、プラスチック材料40は、あらかじめ含水量が0.01質量%以下に調整されているものを用いてもよいが、プラスチック材料40を加熱する段階の前段階において含水量を0.01質量%以下に調整してもよい。このように、加熱段階の前段階において含水量を調整する場合には、プラスチック材料40が金型1に投入される前に乾燥して含水量を調整することが好ましい。また、その乾燥条件としては、概ねガラス転移温度よりも高く、融点または流動開始温度よりは低い温度で、0.1〜10時間乾燥させることで所望の含水量に調整することができる。さらに、乾燥時の雰囲気は常温あるいは真空のいずれでもよい。
【0052】
ここで、図6の表に示すように、ポリカーボネートを原料として、含水量が4種類(1800ppm、530ppm、150ppm、70ppm)のプラスチック材料40・・・を形成し、各プラスチック材料40・・・に対して炭酸ガスレーザ装置によってレーザを、5w/cm2の出力で15秒間照射する実験を行った。なお、実験No.1は未乾燥の状態、実験No.2〜4はプラスチック材料40を120℃の真空乾燥機で各々所定の時間乾燥させたものである。その結果、最も含水量が少ない実験No.4の70ppm(0.007質量%)の場合には、加熱後のプラスチック材料40に気泡が全く発生しなかった。
【0053】
また、プラスチック材料40を、炭酸ガス、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれか1つ、または組み合せによる不活性ガスを含んだ不活性ガス雰囲気下に置いた状態で、レーザLまたは集光された赤外線を照射することにより、高温に加熱されたプラスチック材料40の表面が酸化、すなわち焦げて着色されてしまうことを防ぐことができる。この構成では、レーザLまたは集光された赤外線を高出力で照射してプラスチック材料40を急速に加熱することができ、加熱効率を高めることができる。
プラスチック材料40を不活性ガス雰囲気下に置く構成としては、例えば、集光装置50に取り付けた吹き付けノズルから不活性ガスをプラスチック材料40に吹き付ける構成や、チャンバ等の密閉空間内を不活性ガスで満たし、この中にプラスチック材料40を置く構成がある。
【0054】
なお、不活性ガス雰囲気の酸素濃度は、10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下であることが良い。そして、吹き付けノズルから不活性ガスを吹き付ける構成において、前記した低酸素濃度を達成するには、吹き付けノズルから噴射される不活性ガスの流速を高めたり、吹き付けノズルをプラスチック材料40に近付けることにより可能となる。また、不活性ガスで満たされた密閉空間にプラスチック材料40を置く構成では、空間内の空気を不活性ガスで十分に置換することにより可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、(a)は各主型を離間させた状態の側断面図、(b)は各主型を組み合せた状態の側断面図である。
【図2】本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、(a)は上方主型の平面図、(b)は下方主型の平面図である。
【図3】本実施形態のプラスチック材料の成形方法に用いられる金型を示した図で、各主型の間に集光装置を配置した状態の側断面図である。
【図4】本実施形態のプラスチック材料の成形方法を示した図で、(a)はプラスチック材料を下方主型に投入した状態の側断面図、(b)はプラスチック材料にレーザを照射している態様の側断面図である。
【図5】本実施形態のプラスチック材料の成形方法を示した図で、(a)は上方主型を下方主型に向けて下降させた態様の側断面図、(b)は上方主型と下方主型とを組み合せた状態の側断面図である。
【図6】本実施形態のプラスチック材料の成形方法において、加熱後のプラスチック材料に発生する気泡を含水量ごとに比較した表である。
【符号の説明】
【0056】
1 金型
10 上方主型
12 上方入子
20 下方主型
21 導入穴
23 下方入子
24 上端面
30 キャビティ
40 プラスチック材料
50 集光装置
L レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティに投入されたプラスチック材料に対して、レーザまたは集光された赤外線を照射することにより、前記プラスチック材料を加熱する段階と、
前記キャビティ内で前記プラスチック材料を圧縮して所定形状に変形させる段階と、
を含むことを特徴とするプラスチック材料の成形方法。
【請求項2】
前記プラスチック材料は、透明材料に赤外線吸収材料が添加された材料であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項3】
炭酸ガスレーザ装置を用いて前記レーザを照射することを特徴とする請求項1に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項4】
前記プラスチック材料は、含水量が0.01質量%以下のものを用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項5】
前記プラスチック材料を加熱する段階の前に、前記プラスチック材料の含水量を0.01質量%以下にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項6】
前記プラスチック材料に対する前記レーザまたは前記集光された赤外線の照射は、前記プラスチック材料を不活性ガス雰囲気下に置いた状態で行われることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項7】
前記不活性ガス雰囲気は、炭酸ガス、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれか1つ、または組み合せによる不活性ガスを含んだ雰囲気であることを特徴とする請求項6に記載のプラスチック材料の成形方法。
【請求項8】
前記プラスチック材料は、ポリカーボネート、ポリエステル、環状ポリオレフィン、アクリル、脂環式アクリル樹脂、オレフィン・マレイミド交互共重合体のいずれか1つであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のプラスチック材料の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−224648(P2006−224648A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118211(P2005−118211)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】