説明

プラズマアーク電源およびその制御方法

【課題】低電流域で、複数台の電源ユニットを同時に駆動することによるエネルギーロスを防止し、より安定した負荷電流を得る。
【解決手段】電源ユニットU1のみでパイロットアーク電流から小電流域の負荷電流の生成を負担し、小電流域を越えると残りの(N−1)台の電源ユニットU2〜U4を駆動し、全電流を合成した電流を負荷に供給するようにして、低電流域での電力消費を抑えた安定したプラズマアーク電源とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電源ユニットを用いた溶接機や切断機のプラズマアーク電源およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接機や切断機に用いられるプラズマアーク電源としてインバータ式のものがよく知られている。溶接機や切断機は、用途に応じて小電流域から大電流域まで容量を調整して使用される。
【0003】
特許文献1には、同一構成の複数台のインバータ式抵抗溶接機をそれぞれインバータ毎に溶接トランスを介して接続し、この溶接トランスの二次側を直接並列接続すると共に同期信号と通信手段によって電源の容量アップができるようにする技術が開示されている。このように、標準容量のインバータで構成される電源ユニットを複数台並列接続して電源装置とし、交流電源のゼロクロスから作成した同期信号によって各インバータを同期起動するようにしているため、容量を後から容易に増減でき、故障の際の交換が短時間で済むようにできる。
【0004】
ところで、溶接や切断のエネルギーPはインダクタンス値Lと電流Iの2乗との積で求めることができ、P=(1/2)*L*I*Iで表わされる。特許文献1のように各電源ユニットが同期して同時起動する場合、電流を各電源ユニットで分散して出力するため、例えば電源ユニットの数を4つとするとエネルギーPは、P=4*{(1/2)*L*(I/4)*(I/4)}となる。従って全体の、P=(1/8)L*I*Iとなり、エネルギーPは一つの電源で実行する場合の4分の1となる。こういったエネルギーPのロスは、本来低いエネルギーしか必要としなくてもいい小電流域においては効率が悪いという問題がある。4つの電源ユニットを用いた場合、一つの電源を用いた場合と同様のエネルギーを得るためには、各電源ユニットの電流を4倍に上げるか、複雑な計算をしてインダクタンスLをその都度変更しなければならない。また特許文献1に開示された発明では、電源ユニットが全て同時に駆動されるため、複数の電源ユニットに対してプラズマアーク発生時の不安定な状態が電流のふらつき分も含めて加算されるため、出力される負荷電流がより不安定状態となり、安定するまでに時間がかかるといった問題も含んでいた。
【0005】
そこで、本出願人は特許文献1に先立って特許文献2に示す発明をなした。特許文献2は、N台の直流電源装置を備え、所定の直流電源装置のみ運転して負荷にパイロットアーク電流を給電した後、各直流電源装置を並列運転する電源において、並列運転指令信号が供給される並列運転指令端子からの信号を積分信号とこの信号の反転信号を生成する積分器と、負荷給電量の基準信号と反転信号とを乗算する第1の乗算器と、基準信号を1/Nに減衰する減衰器と、積分信号と減衰器の出力信号とを乗算する第2の乗算器と、第1の乗算器と第2の乗算器の出力信号とを加算する加算器を備え、加算器の出力信号により所定の直流電源装置により残りの直流電源装置の出力設定信号を形成するものである。このように構成することにより、所定の直流電源装置がまず単独運転されてパイロットアークを生成し、その後所定の直流電源装置が基準電源の1/Nに相当する電流値に滑らかに下降し、他の直流電源装置が基準電源の1/Nに相当する電流値に滑らかに上昇してすみやかに並列運転に移行でき、アークスタート時の給電を安定させることが開示されている。特許文献2の発明によれば、特許文献1で開示された作用効果も全て達成することができ、しかもアークスタート時の安定性をも効果として得ることができる。
【0006】
特許文献2による直流電源装置の電流の制御タイミングにつき、図5を用いて説明する。図5ではNを4とし、所定の直流電源装置を電源ユニットU1、(N−1)台の直流電源装置を3台の電源ユニットU2、U3、U4としている。負荷電流としてICを得る場合、t1で電源ユニットU1により電極にパイロットアーク電流IPを流してパイロットアークを開始し、トーチを母材に近づけてプラズマアーク電流Iaを発生させる。プラズマアーク電流Iaの検出により、電源ユニットU1はメインアークに移行すると同時に電源ユニットU2、U3、U4が駆動される。電源ユニットU1のアーク電流はIa/4に徐々に下降制御され、電源ユニットU2、U3、U4は夫々のアーク電流がIa/4になるように徐々に上昇制御される。このようにして得た電流を全て加算することで、安定した負荷電流Iaを得て溶接や切断を行う。次に電源を調整して負荷電流をIbに変更すると、全ての電源ユニットU1〜U4のアーク電流がIb/4まで上昇し、これらを加算して負荷電流Ibを得ることができる。
【特許文献1】「特開平8−1350号」公報、「インバータ式抵抗溶接機の並列システム」
【特許文献2】「特開平6−190562号」公報、「プラズマアーク用電源」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の発明によっても特に小電流領域で並列駆動によりエネルギーが1/Nになってしまうという問題点を含んでいる。例えば母材が非常に薄い金属板の溶接や切断断時、或いは母材に小電流域を用いて文字や記号を刻印するような小電流のみ必要な場合にも全ての直流電源装置を使用するため、省電力での作業ができずエネルギーが無駄になるという問題がある。
【0008】
例えばプラズマアーク電流Iaとして100A必要な場合、4つの電源ユニットで負担する電流は25Aずつであり、パイロット電流とそれ程変わらない電流を得るために、全電源ユニットを駆動することとなる。このような小電流域で全ての電源ユニットがノイズなどの影響で急激に上下動した場合、全電源ユニットの変動が加算されてノイズなどの影響が4倍に増幅されてしまう。大電流を供給している場合にはその影響は小さいが、小電流域で電流値が大きく変動するとトーチの温度が急上昇して電極が変形する恐れやアーク切れを起こす可能性があった。またインダクタンスをLとすると、エネルギーPは一台の電源ユニットでは5000*Lであるのに対し、4台を駆動することにより1250*Lにまで落ちてしまう。用途に応じてエネルギーをある程度得るためにはインダクタンスLを変更して対応することも考えられるが、インダクタンスの可変領域を抑え、簡単な構成で広い領域の負荷電流を得て故障対応や設備投資を容易にできるという、複数の電源ユニットを用いるメリットがなくなってしまう。さらに環境に配慮して、本来電力消費が少ないと考えられる小電流域で、簡単な構成で電力の無駄を抑えて省エネルギーを達成することが社会的にも求められている。
【0009】
そこで、この発明は、複数の電源ユニットの駆動タイミングを制御することで、小電流域でエネルギーの無駄を省けるとともに安定したプラズマアーク電源を適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、プラズマアーク電源において、N台の直流電源ユニットのうち1台の直流電源ユニットによりパイロットアーク電流を出力し、小電流域においては引き続き1台の直流電源ユニットのみで負荷電流を供給し、出力設定手段により小電流域を超える負荷電流が指示されたとき、リレー回路を駆動して1台の直流電源ユニットのみで負荷電流を所定の電流値まで上昇させ、前記1台の直流電源ユニットの電流値が前記所定の電流値に達すると(N−1)台の直流電源ユニットが駆動されるようリレー信号を出力するとともに、N台の直流電源ユニットが信号分配器によって決定された電流値に基づいて分配された電流を生成して得た全出力を負荷電流とするものである。
【0011】
即ち、この発明が適用されるプラズマアーク電源は、N台の直流電源ユニットを有し、パイロットアーク電流を出力する1台の直流電源ユニットのみで小電流域を負担し、残りの(N−1)台の直流電源ユニットは、小電流域を超える負荷電流を得る場合のみに駆動して負荷電流を生成するものである。このように直流電源ユニットの駆動タイミングを制御することにより、初期の設備投資を容易にして故障時の対応が簡単にできるという、複数の直流電源ユニットを用いるプラズマアーク電源のメリットを全て生かした上で、更に出力が不安定になる可能性のある小電流域でも安定した負荷電流を得ることができ、小電流域での消費電力を抑えることが可能になる。
【0012】
また(N−1)台の直流電源ユニットの立ち上がりは非常に緩やかなソフトスタートを採用することができる。そのため、(N−1)台の直流電源ユニットの立ち上げ時に発生するオーバーシュートを抑えることができる。
【0013】
小電流域を超える負荷電流を得るためにN台全ての直流電源を駆動したとき、負荷電流をN等分して分配する(つまり、各直流電源ユニットが生成する電流を均等に負担する)ことができる。その場合は、N台の直流電源装置および放熱構造などの周囲の環境を同様に構成することができる。
【0014】
また、パイロットアーク電流を出力する1台の直流電源ユニットと、それ以外の(N−1)台の各直流電源ユニットで生成する電流値が異なるようにすることもできる。例えば、(N−1)台の各々が負担する電流値を1台の負担する電流値よりも大きくして、パイロットアーク電流を含めてN台の直流電源ユニットが生成する総電流値を均等に分担するようにして、回路の担う負担をほぼ等分にすることで機器全体の故障等のリスクを分散させることもできる。小電流域としておよそ100A以下の電流とすれば、小電流域を負担するために必要な直流電源ユニットは1台で十分であり、複数台の直流電源ユニットで生成した合成電流を用いる必要はない。つまり、消費電力やノイズ対策などさまざまな観点から、小電流域を100A以下にすると好適である。このように1台の直流電源ユニットで100A以下程度の領域を負担し、それを超える負荷電流を得る場合にのみ他の(N−1)台の直流電源ユニットを駆動するようにすれば、パイロットアーク電流を流してプラズマアークを発生させた直後の不安定な状態にさらに不安定要素を付加することが防止でき、その上、少ないエネルギーのみ必要な作業時に消費電力を低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明によれば、プラズマアーク電源およびその制御方法において、小電流域でエネルギーの無駄を省けるとともに安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.第1実施形態
この発明の一実施形態を図1〜図3を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態を示すブロック図、図2は電流に関するフローチャート、図3はタイミングチャートであり、それぞれN=4の場合を例示している。
【0017】
(1)プラズマアーク電源の構造
図1に示すプラズマアーク電源は、溶接機や切断機に用いられる。
同一構成の電源ユニットU1〜U4は、運転スイッチ5をONにすると、リレー回路7、信号分配器6に立ち上がりのタイミングが制御されて駆動される。電源ユニットU1〜U4はそれぞれ出力電流I1〜I4が図示しない検出器によってフィードバック制御され、指示された所定の電流を出力するよう制御される。母材に与えられる負荷電流Icは出力設定手段8により電流値が指示されて、用途に応じて変更可能とされている。出力設定手段8により指示される負荷電流Ibの値は、信号分配器6を介してリレー回路7に入力される。
【0018】
信号分配器6は、指示された値に応じて、1台の直流電源ユニットである電源ユニットU1のみ駆動するか、あるいは(N−1)台の直流電源ユニットである電源ユニットU2〜U4も駆動して全電源ユニットU1〜U4で指示された負荷電流Ibを分配するかを決定し、リレー回路7に信号を供給する。
【0019】
リレー回路7は、電源ユニットU1の駆動を開始させるとともに電源ユニットU2〜U4の駆動タイミングを遅延するリレー信号を生成し、このリレー信号を信号分配器6を介して各電源ユニットU1〜4Uに供給する。
【0020】
(2)プラズマアーク電源の制御方法
次に、図2のフローチャートおよび図3のタイミングチャートを用いて、プラズマアーク電源の制御方法について説明する。この場合は、例えば、小電流域を100A以下とし、電源ユニットU1〜U4の定格電流を100Aとする。
【0021】
(スタート〜ST3)
最初に、図2のフローチャートにおいて、スタート〜ST3での動作を説明する。
運転スイッチ5がオンになりt1でスタート信号が出力されると、図示しないガスバルブからアークをスタートさせるためのスタート用プラズマガスがトーチに供給される。一定期間後t2で高周波HFが発生し、t3で電源ユニットU1を駆動してパイロット電流IPを流すとパイロットアークが発生する(ST1)。次に、トーチが負荷である母材に近づくことにより、t4で主電極と負荷との間にプラズマアーク電流が発生する(ST2)。t4でプラズマアーク電流を検出すると、ガスバルブが開閉してスタート用のプラズマガスからメインアーク時に使用されるシールド用メインガスへとガス交換を開始する。電源ユニットU1の出力電流I1が安定すると、t5でメインアークへの移行を開始する。
【0022】
出力設定手段8により指示された負荷電流Ibの値は信号分配器6に入力され、信号分配器6は指示された負荷電流Ibが100A以下かどうか判断し(ST3)、判断結果をリレー回路7に出力する。
【0023】
(ST4〜ST6)
次に、図2のフローチャートにおいて、ST4〜ST6での動作を説明する。なお、この場合の電流値の変化は、図3に図示されていない。
指示された負荷電流Ibが100A以下の場合、リレー回路7は、信号分配器6を介して電源ユニットU1に対してリレー信号を供給し、電流が安定した後にt5で電流の上昇を開始させ(ST4)、電源ユニットU1の電流I1が指示された負荷電流Ibになると(ST5)電流の上昇を終了させる。そして、電源ユニットU1の電流はIbに保持される(ST6)。このとき残りの電源ユニットU2〜U4は待機状態にある(電源ユニットU2〜U4は電流を供給しない)。つまり、負荷電流Ibが100A以下の場合は、電源ユニットU1のみが電流を供給し、その電流が負荷電流になる。
【0024】
(ST7〜ST12)
次に、図2のフローチャートにおいて、ST7〜ST12の動作を説明する。なお、この場合の電流値の変化は、図3の右側部分に図示されている。
【0025】
指示された負荷電流Ibが100Aを超える場合は、リレー回路7が電源ユニットU2〜4の駆動を遅延させるリレー信号を生成し、信号分配器6を介して各電源ユニットU1〜U2に電流の上昇を開始するタイミングを供給する。一方、信号分配器6は、指示された負荷電流Ibを分配して得られた目標値を電源ユニットU1〜U4に供給する(ST7)。具体的には、電源ユニットU1の電流I1の目標値は定格電流IMAXであり、電源ユニットU2〜U4の電流I2〜I4の目標値は(Ib−IMAX)/3である。リレー回路7からのリレー信号により、電源ユニット1は上述と同様に電流が安定した後にt5で電流の上昇を開始し(ST8)、電源ユニットU1の電流が定格電流である100A(=IMAX)に達するタイミングt6で(ST9)、電源ユニットU2〜U4を駆動して電流I2〜I4を上昇させる(ST10)。このとき、直流電源ユニットU2〜U4に分配される電流は、徐々に上昇する。そして、(Ib−IMAX)/3まで電流が上昇したら(ST11)、その電流を保持する(ST12)。t7で全ての電源ユニットU1〜U4が定格電流に達し、本例では400Aの負荷電流Ibを得ることができる。
【0026】
図3に示すように、負荷電流は、t3からt5までの例えば100A以下の小電流域は電源ユニットU1の生成する電流I1と同一で、t5以降は電源ユニットU1〜U4が生成した電流I1〜I4の合成電流Ib=I1+I2+I3+I4となる。
【0027】
(ST13〜エンド)
次に、図2のフローチャートにおいて、ST13〜エンドを説明する。負荷電流供給中に運転スイッチ5がオフにされる(ST13)と、電源ユニットU1のみが駆動されていた場合(ST3〜ST6)には電源ユニットU1を、電源ユニットU1〜U4が駆動されていた場合(ST7〜ST12)には全ての電源ユニットU1〜U4をオフにして(ST14)、制御動作を終了する。
【0028】
本実施形態では、同一構成の電源ユニットU1〜U4を用いるため、電源ユニットの開発や電機特性の調整が容易である。また、電源ユニットを増減するだけで溶接機や切断機の容量の変更を後からできるため、設備への初期投資が容易で、一部の電源ユニットに故障が発生した場合にユニット交換のみで対応でき、従来よりも安定性が高く環境に配慮したプラズマアーク電源を得ることができる。
【0029】
本実施形態では、リレー回路7が電源ユニットU1が定格電流になるタイミングを予測して、電源ユニットU2〜U4の駆動開始タイミングを制御するリレー信号を出力することを示したが、リレー信号により電源ユニットU2〜U4の駆動を遅延させておき、電源ユニットU1の電流I1がIMAXになったことを検出して、電源ユニットU2〜U4の駆動を開始することもできる。
【0030】
なお、t9以降において電源ユニットU1の出力する電流I1と他の電源ユニットU2〜U4のそれぞれが出力する電流I2、I3、I4は同一であっても良いが、異なっていても良い。
また、電源ユニットU2〜U4の電流I2〜I4の供給開始時期は、電源ユニットU1の電流I1が最大値になる瞬間としたが、その前後であっても良い。ただし、直流電源ユニットU2〜U4に分配される電流の供給開始時期は、直流電源ユニットU1に供給される電流が最大値の70%以上になる時以降であることが好ましい。
【0031】
2.第2実施形態
前記実施形態では電源ユニットU1が定格電流に到達するタイミングで残りの電源ユニットU2〜U4を駆動開始する例を示したが、図4に示すように、電源ユニットU1からの電流が定格電流の例えば80%に達したら残り電源ユニットU2〜U4を駆動開始するようにしてもよい。なお、この場合の負荷電流Ibは前記実施形態の負荷電流Ibより小さい。
【0032】
具体的には、電源ユニットU1の電流I1の目標値は定格電流IMAXより低いIra(例えば80A)であり、電源ユニットU2〜U4の電流I2〜I4の目標値Irbは(Ib−Ira)/3である。リレー回路7からのリレー信号により、電源ユニット1は上述と同様に電流が安定した後にt5で電流の上昇を開始し、電源ユニットU1の電流が定格電流より低いIraに達するタイミングt6で、電源ユニットU2〜U4を駆動して電流I2〜I4を上昇させ、(Ib−Ira)/3まで電流を上昇したら、その電流を保持する。
【0033】
このように、各電源ユニットを定格電流で使用しないため、電源ユニットの寿命が長くなる。
また、電源ユニットU2〜U4の電流I2〜I4の供給開始時期は、電源ユニットU1の電流Iraになる瞬間としたが、その前後であっても良い。
【0034】
なお、t7以降において電源ユニットU1の出力する電流I1と他の電源ユニットU2〜U4のそれぞれが出力する電流I2、I3、I4は同一であっても良いが、異なっていても良い。
【0035】
次に、図5を用いて、すでに負荷電流Ibが得られた状態から、さらに大きな負荷電流Idが要求された場合について説明する。t8において負荷電流Idが指示されると、全電源ユニットU1〜U4の電流が上昇する。このとき、信号分配器6は負荷電流IbをN分割つまり4等分し、t8からt9まで電源ユニットU1〜U4で負担して生成する電流I1〜I4は全て同じ値をとるようにする。t9で電源ユニットU1が例えば100Aの定格電流IMAXまで上昇して、その後定格電流IMAXの電流を負担する。また、電源ユニットU2〜U4の生成する電流は(Id−IMAX)/3となる。
【0036】
なお、t9以降において電源ユニットU1の出力する電流I1と他の電源ユニットU2〜U4のそれぞれが出力する電流I2、I3、I4は同一であっても良いが、異なっていても良い。
【0037】
なお、電源ユニットU1が他の電源ユニットU2〜U4と同時に定格電流に達する例を示したが、電源ユニットU1が他の電源ユニットU2〜U4より早く定格電流に達するように各電源ユニットU1〜U4の電流を上昇させるように、各電源ユニットU1乃至U4の生成する電流を信号分配器6で分配することもできる。
また、電源ユニットU2〜U4が電源ユニットU1よりも早く定格電流に達するようにしてもよい。
【0038】
3.本発明の効果
プラズマアーク発生直後の小電流域では不安定な状態にあり、例えば図3のt4でガスの交換を行う際にも電流が上下してしまう。しかし、本例のように1台の電源ユニットのみでプラズマアーク発生直後の電流を負担するため、複数の電流の上下動が合成されることがなく、安定した状態でメインアークに移行できる。さらに、約80〜100A以下の小電流域では引き続き1台の電源ユニットで負荷電流Ibを供給するため、エネルギーのロスが少なく安定した電源を得ることができる。
【0039】
また複数台の残り電源ユニットの駆動は、十分に電流が上昇した後に緩やかに上昇するように行われるため、(N−1)台の電源ユニット立ち上げ時のオーバーシュートを抑えることができ、良好に溶接や切断を行うことができる。
【0040】
4.本発明の変形例
各電源ユニットの定格電流は100Aでなくてもよく、これに限定されるものではない。
電源ユニットの数N=4を例示したが、電源ユニットの数は用途に応じていくつ設けてもよい。
上述の各実施形態は、単独で用いることもできるし、種々の要素を組み合わせて用いることができる。
【0041】
本発明は、フィードバック制御される複数の直流電源を用いて、負荷電流を一定に制御する溶接機や切断機の電源であれば、どのような電源にも適用することができる。
また、本発明に係るプラズマアーク電源の制御方法は、ハードウェアおよびソフトウェアのいずれか一方はまたはそれらの組み合わせによって実現可能である。特に、上記制御方法はプラグラムとして実現可能であり、そのプログラムは各種記録媒体に記録可能である。
【0042】
以上、ここで説明した内容は、あくまでもこの発明を実施するための一例であり、この発明を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、同一構成のN台の電源ユニットを用いて、1台の電源ユニットと残りの(N−1)台の電源ユニットの駆動タイミングを制御することで、小電流域でエネルギーの無駄を省けるとともに安定したプラズマアーク電源を得ることができるため、産業上の利用可能性が十分にある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明による一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による一実施形態の制御動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明による一実施形態の制御動作を示すタイミングチャートである。
【図4】第2の実施形態の制御動作を示すタイミングチャートである。
【図5】第2の実施形態の制御動作を示すタイミングチャートである。
【図6】従来の電源ユニットのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1 電源ユニットU1
2 電源ユニットU2
3 電源ユニットU3
4 電源ユニットU4
5 運転スイッチ
6 信号分配器
7 リレー回路
8 出力設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変更可能な負荷電流の出力を指示する出力設定手段と、それぞれの出力電流の検出信号によりフィードバック制御されるN(N≧2)台の直流電源ユニットと、前記N台の直流電源ユニットのうち(N−1)台の直流電源ユニットの駆動タイミングを遅延するリレー信号を出力するリレー回路と、前記負荷電流を分配して前記N台の直流電源ユニットが生成する電流値を決定する信号分配器とを備えたプラズマアーク電源において、
前記N台の直流電源ユニットのうち1台の直流電源ユニットがパイロットアーク電流を出力し、
小電流域においては、引き続き前記1台の直流電源ユニットのみが負荷電流を供給し、
前記出力設定手段により小電流域を超える負荷電流が指示された場合、前記リレー回路が前記1台の直流電源ユニットのみを駆動して負荷電流を所定の電流値まで上昇させ、
前記1台の直流電源ユニットの電流値が前記所定の電流値に達すると、前記リレー回路が前記(N−1)台の直流電源ユニットを駆動するようリレー信号を出力するとともに、前記N台の直流電源ユニットが前記信号分配器によって決定された電流値に基づいて電流を生成し、その結果、前記N台の直流電源ユニットの合成出力を前記負荷電流とする、プラズマアーク電源。
【請求項2】
前記信号分配器は、前記小電流域を超えるよう指示された前記負荷電流を1/Nに分配する、請求項1記載のプラズマアーク電源。
【請求項3】
前記信号分配器は、前記負荷電流を第1の電流と第2の電流に分配するとともに前記第2の電流を1/(N−1)に分配し、
前記第1の電流は前記1台の直流電源ユニットで生成され、前記第2の電流は前記(N−1)台の直流電源ユニットでそれぞれ1/(N−1)ずつ生成される、請求項1記載のプラズマアーク電源。
【請求項4】
前記小電流域が100A以下である、請求項1〜3いずれかに記載のプラズマアーク電源。
【請求項5】
前記(N−1)台の直流電源ユニットに分配される電流は、供給開始初期には徐々に上昇する、請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマアーク電源。
【請求項6】
前記(N−1)台の直流電源ユニットに分配される電流の供給開始時期は、前記1台の直流電源ユニットに供給される電流が最大値の70%以上になる時以降である、請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマアーク電源。
【請求項7】
小電流域を越える負荷電流を指示されていない場合は、前記1台の直流電源ユニットのみで前記負荷電流を供給する、請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマアーク電源。
【請求項8】
出力電流の検出信号によりフィードバック制御されるN(N≧2)台の直流電源ユニットを備えたプラズマアーク電源の制御方法であって、
前記N台の直流電源ユニットのうち1台の直流電源ユニットによりパイロットアーク電流を出力させる第1ステップと、
小電流域においては、引き続き前記1台の直流電源ユニットのみで負荷電流を供給させる第2ステップと、
小電流域を超える負荷電流が指示されたか否かを判断する第3ステップと、
前記小電流域を超える負荷電流が指示されたと判断すると、前記1台の直流電源ユニットのみから負荷電流を上昇させながら供給する第4ステップと、
前記1台の直流電源ユニットの電流値が所定の電流値に達したか否かを判断する第5ステップと、
前記1台の直流電源ユニットの電流値が前記所定の電流値に達したと判断すると、前記(N−1)台の直流電源ユニットを駆動するとともに、前記N台の直流電源ユニットにそれぞれ分配された電流を生成させ、前記N台の直流電源ユニットの合成出力を前記負荷電流とする第6ステップと、
を備えたプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項9】
前記第6ステップでは、前記N台の直流電源ユニットには前記負荷電流の1/Nが分配される、請求項8に記載のプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項10】
前記第6ステップでは、前記負荷電流を第1の電流と第2の電流に分配するとともに前記第2の電流を1/(N−1)に分配し、
前記第1の電流は前記1台の直流電源ユニットで生成され、前記第2の電流は前記(N−1)台の直流電源ユニットでそれぞれ1/(N−1)ずつ生成される、請求項8に記載のプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項11】
前記小電流域が100A以下である、請求項8〜10のいずれかに記載のプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項12】
前記第6ステップでは、前記(N−1)台の直流電源ユニットに分配される電流は、供給開始初期には徐々に増大する、請求項8〜11のいずれかに記載のプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項13】
前記第6ステップでは、前記(N−1)台の直流電源ユニットに分配される電流の供給開始時期は、前記1台の直流電源ユニットに供給される電流が最大値の70%以上になる時以降である、請求項8〜11のいずれかに記載のプラズマアーク電源の制御方法。
【請求項14】
前記第3ステップで小電流域を越える負荷電流を指示されていないと判断すると、前記1台の直流電源ユニットのみで前記負荷電流を供給する第7ステップをさらに備える請求項8〜13のいずれかに記載のプラズマアーク電源の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−168343(P2008−168343A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322131(P2007−322131)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】