説明

プラズマディスプレイパネルの製造装置

【課題】保護膜を形成する際に用いる基板トレイにおける基板保持の構成を、基板が自由に移動することが可能な構成とすることで、基板に撓みが発生しない、安定した保護膜形成を実現し、もって、良好な画像表示が可能なPDPを実現することを目的とする。
【解決手段】前面ガラス基板上に形成された表示電極が誘電体ガラス層で被覆され、さらにこの誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されたプラズマディスプレイパネルの製造装置であって、前記保護膜を成膜する際に使用する基板トレイ47は、前記前面ガラス基板をその保護膜形成面が下方面となるように前面ガラス基板の4辺の周辺部分で保持する枠状であり、且つ、この枠部に設けた球状の耐熱樹脂102aにより前面ガラス基板を支持することで保持する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと示す)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流面放電型のPDPは、走査電極および維持電極からなる表示電極を複数形成した前面パネルと、その表示電極に交差するようにアドレス電極を複数形成した背面パネルとを、パネル間に放電空間を形成するように対向配置して周囲を封着し、放電空間にネオン、キセノンなどの放電ガスを封入した構成であり、表示電極は誘電体ガラス層で覆われ、さらに誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されている。そして、各電極に所定の電圧を印加して放電空間で放電を発生させ、背面パネル上に設けた蛍光体層を発光させることにより画像表示が行われる。
【0003】
ここで保護膜は、耐イオン衝撃性の高い物質を用いて形成されており、放電で生じるイオン衝撃から誘電体ガラス層を保護している。また、このイオン衝撃により、保護膜そのものから2次電子を放出し、駆動電圧を低下させる役割も持つ。一般的にこの保護膜は、単結晶酸化マグネシウム(MgO)が用いられており、真空成膜技術によって形成されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−19473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護膜として一般的に用いられている酸化マグネシウムは、保護膜として使用されるということからも明らかなように、その特性として対スパッタ性が良いという性質を有するため、このことが逆にスパッタリング成膜では非常に成膜速度が遅いという欠点となってしまい、そこで酸化マグネシウムの成膜は真空蒸着による成膜によらざるを得ないという現状がある。また、成膜源であるMgO材料の形態としては粉体或いは粒状のものが多く、よってデポアップの形式での成膜が一般的である。
【0005】
以上の理由により、保護膜を形成する際には、前面ガラス基板の保護膜形成面に対して、保護膜形成領域と同等以上の開口を有した枠状の基板トレイにより基板の4辺の周辺部分を支持することで保持するという形態を採るのが一般的である。
【0006】
ここで保護膜形成時においては、前面ガラス基板の温度は200℃〜400℃程度になっており、前面ガラス基板と基板トレイとでは、ガラスと金属というように材質が異なることから熱膨張係数も異なり、前面ガラス基板と基板トレイとの間の摩擦如何によっては、保護膜成膜時において、熱膨張差に起因する撓みが前面ガラス基板に発生してしまい、割れなどの不具合発生となってしまう場合がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、保護膜を形成する際に用いる基板トレイにおける基板保持の構成を、基板が自由に移動することが可能な構成とすることで、基板に撓みが発生しない、安定した保護膜形成を実現し、もって、良好な画像表示が可能なPDPを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するために本発明のPDPの製造装置は、前面ガラス基板上に形成された表示電極が誘電体ガラス層で被覆され、さらにこの誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されたプラズマディスプレイパネルの製造装置であって、前記保護膜を成膜する際に使用する基板トレイは、前記前面ガラス基板をその保護膜形成面が下方面となるように前面ガラス基板の4辺の周辺部分で保持する枠状であり、且つ、この枠部に設けた球状の耐熱樹脂により前面ガラス基板を支持することで保持するものである。
【0009】
また、上記目的を実現するために本発明のPDPの製造装置は、前面ガラス基板上に形成された表示電極が誘電体ガラス層で被覆され、さらにこの誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されたプラズマディスプレイパネルの製造装置であって、前記保護膜を成膜する際に使用する基板トレイは、前記前面ガラス基板をその保護膜形成面が下方面となるように前面ガラス基板の4辺の周辺部分で保持する枠状であり、且つ、この枠部に設けた耐熱樹脂により前面ガラス基板を支持することで保持する構成であり、前記耐熱樹脂は、前面ガラス基板の短辺側の1辺を支持する箇所には円盤状の耐熱樹脂とし、その他の箇所には球状の耐熱樹脂としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保護膜を形成する際に用いる基板トレイにおける基板保持の構成が、基板が自由に移動することが可能な構成であり、基板に撓みが発生しない、安定した保護膜形成が実現でき、もって、良好な画像表示が可能なPDPを実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置について、図を用いて説明するが、本発明の実施の態様はこれに限定されるものではない。なお、以下に述べる実施の形態においては、120型以上さらには150型以上の大きな表示領域を持つPDPの、その前面ガラス基板、背面ガラス基板の板厚が2.5mmから4.0mmの範囲のものであればその得られる効果が大きく好ましい。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置により製造されるPDPの概略構成を示す部分斜視図である。この交流面放電型PDPは、各電極にパルス状の電圧を印加することで放電を放電空間30内で生じさせ、放電に伴って背面パネルPA2側で発生した各色の可視光を、前面パネルPA1の主表面から透過させる交流面放電型PDPである。
【0013】
前面パネルPA1は、走査電極12aと維持電極12bとがストライプ状に複数対配設された前面ガラス基板11上に、表面11aを覆うように誘電体ガラス層13が形成されている。更に、この誘電体ガラス層13を覆うように保護膜14が形成されている。
【0014】
背面パネルPA2の構造は次に示すものである。すなわちアドレス電極17は、背面ガラス基板16上にあり、走査電極12aと維持電極12bとに交差するようにストライプ状に配されている。また電極保護膜18は、アドレス電極17を覆うように形成され、アドレス電極17を保護し、可視光を前面パネル側に反射する作用を担う。そしてこの電極保護膜18上に、アドレス電極17と同じ方向に向けて伸びアドレス電極17を挟むように、隔壁19が設けられ、この隔壁19間に蛍光体層20が配されている。
【0015】
1対の走査電極12aおよび維持電極12bは1つのラインを構成し、これらとアドレス電極17とが交差する部分にセルが形成される。各セルの放電空間30内で放電を発生させ、放電に伴って蛍光体層20から発生する赤、緑、青の3色の可視光が、前面パネルPA1を透過することにより、表示が行われる。
【0016】
次に本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置における、保護膜14の形成工程について説明する。
【0017】
まず、保護膜14は物理気相法により形成される。物理気相法とは、低圧力下で固体原料を加熱し、蒸発もしくは昇華させることにより、原料の薄膜を対象とする物体上に形成する方法である。物理気相法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などがある。このうち、図2に、概略構成を断面図で示すような真空蒸着装置を例として、その原理を説明する。
【0018】
真空蒸着装置は、真空ポンプ41が接続された密閉容器42内に、主にMgO蒸発部と基板保持部からなる機器が設置されている。水冷されたハース44中にMgO材料からなる保護膜原料43は供給され、密閉容器42内を減圧状態且つ酸素雰囲気下とし、この状態で、電子銃45から放出された熱電子ビーム46を保護膜原料43に照射することで、加熱・蒸発させる。
【0019】
蒸発したMgO材料は、基板ヒータ48により所定温度まで加熱された前面パネルPA1上に付着するが(正確には、「「ガラス基板11上に、走査電極12aと維持電極12bと、それを覆う誘電体ガラス層13とを形成した状態」での、誘電体ガラス層13上に付着する」のであるが、これを表記の簡素化上、「「前面パネルPA1」上に付着する」と記す。)、前面基板PA1は開口部を有するトレイ47に乗せられて保持されることから、トレイ47の開口部によって露出した前面基板PA1上にのみ選択的に付着し、MgO材料による保護膜14が形成されることとなる。
【0020】
ここで図3に、本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置におけるトレイ47に前面パネルPA1を載置した状態の概略構成を斜視図で示す。前面パネルPA1を保持するトレイ47には、前面パネルPA1の前面ガラス基板11と接触し、且つ前面パネルPA1をその面内方向に自在に変位させることを可能とする球状の耐熱樹脂製部材、すなわち耐熱樹脂製球状基板受け102を複数配し、この耐熱樹脂製球状基板受け102により、前面パネルPA1の前面ガラス基板11は支持された状態で保持される。
【0021】
図4に、耐熱樹脂製球状基板受け102の一例を概略構成の断面図で示す。耐熱樹脂製球状基板受け102は、耐熱樹脂製球102aと、その前面ガラス基板11の移動に対する回転を確保しつつ、その位置の規制を行う規制部102bとにより構成される。このような構成の場合には、規制部102bは耐熱性樹脂である必要はない。
【0022】
上述の構成により、前面パネルPA1の前面ガラス基板11は、耐熱樹脂製球状基板受け102により金属製の基板トレイ47と接触しないように支持されることから、昇温時および降温時の、前面ガラス基板11と、基板受け102および基板トレイ47との熱容量の違いに起因する温度差により発生する熱衝撃が緩和される。また、球状の基板受け102が回転することから、前面パネルPA1は耐熱樹脂製XY規制ブロック104とのクリアランスの間での移動が自由となり、保護膜14形成の過程における、前面ガラス基板11への、蒸着中の昇温過程や基板冷却中の降温過程において、前面パネルPA1および基板トレイ47がそれぞれの熱膨張係数で伸縮したとしても、前面パネルPA1と基板トレイ47とは互いに拘束することなく変位でき、もって、前面パネルPA1に歪が発生することを防ぐことが可能となる。また、保護膜形成の際の搬送中に、振動などにより、基板トレイ47内で前面パネルPA1が移動してしまっても、前面パネルPA1は規制ブロック104により変位が規制され、且つ規制ブロック104は樹脂製であるため、規制の際に規制ブロック104と衝突が発生しても、前面パネルPA1の前面ガラス基板11が割れたりするなどの問題の発生を抑制することができる。
【0023】
ここで、耐熱樹脂製球状基板受け102の配置間隔であるが、耐熱樹脂製球状基板受け102により離散的に支持される構成であることから前面パネルPA1に撓みが発生することを考慮し、前面パネルPA1の誘電体ガラス層13に割れを生じさせない間隔が最低限必要であり、望ましくは、150mm以内の間隔で配置することが望ましい。これは、短辺側、長辺側に関わらず、同じ基準で配置することが望ましいが、短辺側の方が伸縮の距離が短いことや、たわみ量として小さくなる傾向があることから間隔が比較的大きくても良い。
【0024】
また図5に示すように、前面パネルPA1の一つの短辺側の一部に対して、耐熱樹脂製球状基板受け102を耐熱樹脂製円盤状基板受け105に置き換えた構成であっても良い。このような構成の場合は、前面パネルPA1の前面ガラス基板11は耐熱樹脂製円盤状基板受け105との間に生ずる摩擦力で固定されることとなり、蒸着中の昇温過程や基板冷却中の降温過程で前面パネルPA1および基板トレイ47に伸縮が発生する場合には、この部分を基点に前面パネルPA1と基板トレイ47との相対的な伸縮差が発生し、この相対的な伸縮差により耐熱樹脂製球状基板受け102が回転することとなり、前面パネルPA1と基板トレイ47とは互いに拘束されることなく変位でき、もって、前面パネルPA1に歪が発生することを防ぐことが可能となる。
【0025】
上述したような本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置を用いることで、PDPの保護膜形成時において前面パネルPA1に対して従来発生していた、撓みに起因する割れなどの問題を大幅に削減することが可能となる。これは、120型を超える表示画面サイズ、特には150型を越えるサイズのPDPを作製する際に顕著な効果が期待できる。
【0026】
また、以上の説明においては、保護膜としてMgO材料を用いた例を示したが、特にこれに限るものではなく、例えば他にも、Al、CaO、BaO、TiO、Y、La、CeO、HfOなどの金属酸化物や混合酸化物など、耐イオン衝撃性に優れ且つ二次電子放出係数の大きい材料であれば、種類を問わない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように本発明は、大画面、高精細のプラズマディスプレイパネルを提供する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置により製造されるPDPの概略構成を示す部分斜視図
【図2】真空蒸着装置の概略構成を示す断面図
【図3】本発明の一実施の形態によるPDPの製造装置におけるトレイに前面パネルを載置した状態の概略構成を示す斜視図
【図4】耐熱樹脂製球状基板受けの一例の概略構成を示す断面図
【図5】本発明の他の実施の形態によるPDPの製造装置におけるトレイに前面パネルを載置した状態の概略構成を示す斜視図
【符号の説明】
【0029】
PA1 前面パネル
PA2 背面パネル
11 前面ガラス基板
11a 表面
12a 走査電極
12b 維持電極
13 誘電体ガラス層
14 保護膜(MgO膜)
16 背面ガラス基板
17 アドレス電極
18 電極保護膜
19 隔壁
20 蛍光体層
30 放電空間
41 真空ポンプ
42 密閉容器
43 保護膜原料
44 ハース
45 電子銃
46 熱電子ビーム
47 基板トレイ
48 基板ヒータ
102 耐熱樹脂製球状基板受け
102a 耐熱樹脂製球
102b 規制部
104 耐熱樹脂製XY方向規制ブロック
105 耐熱樹脂製円盤状基板受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面ガラス基板上に形成された表示電極が誘電体ガラス層で被覆され、さらにこの誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されたプラズマディスプレイパネルの製造装置であって、前記保護膜を成膜する際に使用する基板トレイは、前記前面ガラス基板をその保護膜形成面が下方面となるように前面ガラス基板の4辺の周辺部分で保持する枠状であり、且つ、この枠部に設けた球状の耐熱樹脂により前面ガラス基板を支持することで保持する構成であるプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項2】
前面ガラス基板上に形成された表示電極が誘電体ガラス層で被覆され、さらにこの誘電体ガラス層を覆うように保護膜が形成されたプラズマディスプレイパネルの製造装置であって、前記保護膜を成膜する際に使用する基板トレイは、前記前面ガラス基板をその保護膜形成面が下方面となるように前面ガラス基板の4辺の周辺部分で保持する枠状であり、且つ、この枠部に設けた耐熱樹脂により前面ガラス基板を支持することで保持する構成であり、前記耐熱樹脂は、前面ガラス基板の短辺側の1辺を支持する箇所には円盤状の耐熱樹脂とし、その他の箇所には球状の耐熱樹脂とした構成であるプラズマディスプレイパネルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−113930(P2010−113930A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285120(P2008−285120)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】