プラズマ光源
【課題】面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するプラズマ光源において、面状放電から管状放電への繋ぎ換えを容易にする。
【解決手段】対向配置された第1及び第2の同軸状電極10、10´と、第1及び第2の同軸状電極10、10´内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持するチャンバー20と、第1及び第2の同軸状電極10、10´に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置30と、を備え、第1及び第2の同軸状電極10、10´間に管状放電43を形成してプラズマ3を軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材19を有し、該接続部材19は、その中点Mにおいて、接地されるとともに、1対の同軸状電極10に、それぞれ対応する電圧印加装置30の経路を介して接続される。
【解決手段】対向配置された第1及び第2の同軸状電極10、10´と、第1及び第2の同軸状電極10、10´内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持するチャンバー20と、第1及び第2の同軸状電極10、10´に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置30と、を備え、第1及び第2の同軸状電極10、10´間に管状放電43を形成してプラズマ3を軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材19を有し、該接続部材19は、その中点Mにおいて、接地されるとともに、1対の同軸状電極10に、それぞれ対応する電圧印加装置30の経路を介して接続される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV放射のためのプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代半導体の微細加工のために極端紫外光源を用いるリソグラフィが期待されている。リソグラフィとは回路パターンの描かれたマスクを通して光やビームをシリコン基盤上に縮小投影し、レジスト材料を感光させることで電子回路を形成する技術である。光リソグラフィで形成される回路の最小加工寸法は基本的には光源の波長に依存している。従って、次世代の半導体開発には光源の短波長化が必須であり、この光源開発に向けた研究が進められている。
【0003】
次世代リソグラフィ光源として最も有力視されているのが、極端紫外光源(EUV:Extreme Ultra Violet)であり、およそ1〜100nmの波長領域の光を意味する。この領域の光はあらゆる物質に対し吸収率が高く、レンズ等の透過型光学系を利用することができないので、反射型光学系を用いることになる。また極端紫外光領域の光学系は非常に開発が困難で、限られた波長にしか反射特性を示さない。
【0004】
現在、13.5nmに感度を有するMo/Si多層膜反射鏡が開発されており、この波長の光と反射鏡を組み合わせたリソグラフィ技術が開発されれば30nm以下の加工寸法を実現できると予測されている。さらなる微細加工技術の実現のために、波長13.5nmのリソグラフィ光源の開発が急務であり、高エネルギー密度プラズマからの輻射光が注目されている。なお、プラズマ光源については、特許文献1に記載されている。
【0005】
光源プラズマ生成はレーザー照射(LPP:Laser Produced Plasma)方式とパルスパワー技術によって駆動されるガス放電(DPP:Discharge Produced Plasma)方式に大別できる。LPP方式のEUV光源については、特許文献2に記載されている。
【0006】
EUVリソグラフィ光源には、高い平均出力、微小な光源サイズ、飛散粒子(デブリ)が少ないこと等が要求される。現状では、EUV発光量が要求出力に対して極めて低く、高出力化が大きな課題の一つであるが、一方で高出力化のために入力エネルギーを大きくすると熱負荷によるダメージがプラズマ生成装置や光学系の寿命の低下を招いてしまう。従って、高EUV出力と低い熱負荷の双方を満たすためには、高いエネルギー変換効率が必要不可欠である。
【0007】
プラズマ形成初期には加熱や電離に多くのエネルギーを消費するうえに、EUVを放射するような高温高密度状態のプラズマは一般的に急速に膨張してしまうため、放射持続時間τが極端に短い。従って、変換効率を改善するためには、プラズマをEUV放射のために適した高温高密度状態で長時間(μsecオーダーで)維持することが重要になる。
【0008】
SnやLi等の常温固体の媒体はスペクトル変換効率が高い反面、プラズマ生成に溶融、蒸発等の相変化を伴うため、中性粒子等のデブリ(放電に伴う派生物)による装置内汚染の影響が大きくなる。そのため、ターゲット供給、回収システム強化も同様に要求される。
【0009】
現在の一般的なEUVプラズマ光源の放射時間は100nsec程度であり出力が極端に足りない。産業応用のため高変換効率と高平均出力を両立させる為には1ショットで数μsecのEUV放射時間を達成する必要がある。つまり、高い変換効率を持つプラズマ光源を開発するためには、それぞれのターゲットに適した温度密度状態のプラズマを数μsec(少なくとも1μsec以上)拘束し、安定したEUV放射を達成する必要がある。
【0010】
さらに、従来のキャピラリー放電では、プラズマがキャピラリー内に閉じ込められてしまうため、有効な放射立体角が小さいという欠点もあった。
【0011】
そこで、本願の発明者らは、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができることを目的として、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」(特許文献3)を創案した。
【0012】
図1は、上記プラズマ光源の実施形態図であり、対称面51に対して対向配置された1対の同軸状電極50を備え、1対の同軸状電極50にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、この面状放電により各同軸状電極50の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成することにより、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−226244号公報、「極端紫外光源及び半導体露光装置」
【特許文献2】特開2011−54376号公報、「LPP方式のEUV光源とその発生方法」
【特許文献3】特開2010−147231号公報、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記プラズマ光源においては、同軸状電極における電位の制御が困難であり、したがって各同軸状電極50間の面状放電の管状放電への繋ぎ換えの制御も困難であった。
【0015】
本発明は、上述した問題を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、1対の同軸状電極において面状放電を発生させ、この面状放電を各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するプラズマ光源において、面状放電から管状放電への繋ぎ換えを容易にするようなプラズマ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対応する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極との間を絶縁する絶縁部材とからなり、
対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材を有し、該接続部材は、その一点において、接地されるとともに、各同軸状電極にそれぞれ対応する電圧印加装置の経路を介して接続される、ことを特徴とするプラズマ光源が提供される。
【0017】
前記接続部材における一点は、対向するガイド電極の先端を結ぶ中点である、ことが好ましい。
【0018】
前記接続部材は、1対の同軸状電極の軸線に対称に複数設けられる、ことが好ましい。
【0019】
前記放電環境保持装置は、前記1対の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、1対の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことが好ましい。
【0020】
前記1対の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲む管状のガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記1対の同軸状電極の各中心電極は、前記単一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する、ことが好ましい。
【0021】
前記電圧印加装置は、前記1対の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記1対の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明の装置によれば、対向配置された1対の同軸状電極を備え、1対の同軸状電極にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、該面状放電により各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで前記面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えて前記プラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0023】
また、従来のキャピラリー放電や真空放電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマが形成され、かつエネルギー変換効率を大幅に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0024】
また、1対の同軸状電極の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマが形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0025】
さらに、面状放電から管状放電への電流経路の繋ぎ替えを容易にすることにより、管状放電を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のプラズマ光源の実施形態図である。
【図2】本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【図3】本発明によるプラズマ光源の動作説明図である。
【図4】本発明によるプラズマ光源における電流の分布を説明する図である。
【図5】第1比較例を示す図である。
【図6】第1比較例における電位分布を示す図である。
【図7】第2比較例を示す図である。
【図8】第2比較例における電位分布を示す図である。
【図9】第3比較例を示す図である。
【図10】第3比較例における電位分布を示す図である。
【図11】第3比較例における電流の分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
図2は、本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【0029】
この図において、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10、チャンバー20、及び電圧印加装置30を備える。
【0030】
1対の同軸状電極10は、対称面1を中心として対向するように、チャンバー20に配置されている。
【0031】
1対の同軸状電極10は、リング状の絶縁体18を介してチャンバー20に取り付けられ、チャンバー20とは電気的に絶縁されている。
【0032】
各同軸状電極10は、棒状の中心電極12、管状のガイド電極14及びリング状の絶縁体16からなる。
【0033】
棒状の中心電極12は、単一の軸線Z−Z上に延びる導電性の電極である。
【0034】
この例において、中心電極12の対称面1に対向する端面は円弧状になっている。なお、この構成は必須ではなく、端面に凹穴を設け、後述する面状放電2と管状放電4を安定化させるようにしてもよく、或いは平面でもよい。
【0035】
管状のガイド電極14は、中心電極12を一定の間隔を隔てて囲み、その間にプラズマ媒体を保有するようになっている。プラズマ媒体は、Liのガスであることが好ましいが、Xe,Snのガスであってもよい。また、ガイド電極14の対称面1に対向する端面は、円弧状でも平面でもよい。
【0036】
リング状の絶縁体16は、中心電極12とガイド電極14の間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する。
【0037】
絶縁体16において、中心電極12とガイド電極14の間の表面には、中心電極12とガイド電極14の間との間の面状放電2によってLiがガスを生成するようにLiまたはLi化合物の薄膜17が形成されている。
【0038】
なお、絶縁体16の形状はこの例に限定されず、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0039】
リング状の絶縁体18は、1対の同軸状電極10のガイド電極14とチャンバー20間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、ガイド電極14とチャンバー20の間を電気的に絶縁する。
【0040】
なお、絶縁体18の形状はこの例に限定されず、各同軸状電極10のガイド電極14とチャンバー20の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0041】
上述した1対の同軸状電極10は、各中心電極12が同一の軸線Z−Z上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する。
【0042】
この実施形態において、1対の同軸状電極10は、各ガイド電極14の先端が金属性の接続部材19によって電気的に接続(結線)されている。
【0043】
接続部材19は、1対の同軸状電極10の軸線Z−Z周囲に複数設けられている。接続部材19は、軸線Z−Zに回転対称に3方向、4方向などに取り付けることができる。図2においては、説明の便宜上、1個の接続部材19のみを示している。
【0044】
接続部材19は、その中点Mにおいて接地されるとともに、後述する正電圧源32及び負電圧源33を介して対応する同軸状電極10に接続している。中点Mと正電圧源32及び負電圧源33を結ぶ経路は、各同軸状電極10からの電流を帰還させる経路であることから、便宜上、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39と呼ぶことにする。
【0045】
前記中点Mは、接続部材19が対称面1と交わる中点Mである。なお、接続部材19において、接地するとともに、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に接続する位置は、接続部材19上における中点M以外の一点とすることもできる。
【0046】
また、接続部材19は、1対の中心電極12間で発生するプラズマ光8(EUV)を取り出すことができるように、その形状と配置が定められる。
【0047】
チャンバー20は、放電環境保持装置を構成し、同軸状電極10内にプラズマ媒体を供給し、かつプラズマ発生に適した温度及び圧力に同軸状電極10を保持する。チャンバー20は、排気管22によって真空ポンプに接続され、所定の圧力に維持されている。
【0048】
チャンバー20は、金属からなることが好ましい。また、チャンバー20には、プラズマ光8(EUV)を取り出すために、所定の開口窓を設けることが好ましい。
【0049】
チャンバー20には、接続部材19を接地するとともに、正電圧源32及び負電圧源33を介して対応する同軸状電極に10に接続する配線を引き出す開口部が設けられている。この開口部は、配線をチャンバー20と絶縁するとともにチャンバー20内の真空環境を維持するようにセラミックなどで構成することができる。図2においては、便宜上、この開口部は破断線により示されている。
【0050】
チャンバー20は、リング状の絶縁体18によって同軸状電極10とは絶縁されている。
【0051】
電圧印加装置30は、各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0052】
電圧印加装置30は、正電圧源32、負電圧源33及びトリガスイッチ36からなる。
【0053】
この例では、正電圧源32及び負電圧源33は、それぞれ高電圧充電器(HV Charging Device)とコンデンサからなる。トリガスイッチ36は、遅延パルス生成器(Delay Pulse Generator)、高圧パルス発生器(HV Pulser)及びギャップスイッチからなる。なお、この例では、遅延パルス生成器は、遅延のないトリガパルスを発生している。
【0054】
正電圧源32は、一方(この例では右側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より高い正の放電電圧を印加する。
【0055】
負電圧源33は、他方(この例では左側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より低い負の放電電圧を印加する。
【0056】
なお、正電圧源32及び負電圧源33には、中心電極12に供給される電流をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察するため、誘導結合された線路が設けられている。
【0057】
トリガスイッチ36は、正電圧源32と負電圧源33を同時に作動させて、それぞれの同軸状電極12に同時に正負の放電電圧を印加する。
【0058】
この構成により、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10間に管状放電(後述する)を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるようになっている。
【0059】
図3は、図2のプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)は面状放電の発生時、(B)は面状放電の移動中、(C)はプラズマの形成時、(D)は面状放電と管状方円の繋ぎ換え時、(E)はプラズマ封込み磁場の形成時を示している。
【0060】
以下、この図を参照して、本発明のプラズマ光源の動作を説明する。
【0061】
本発明のプラズマ光源は、上述した1対の同軸状電極10を対向配置し、放電チャンバー20により同軸状電極10内にプラズマ媒体を供給しかつプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持し、電圧印加装置30により各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0062】
図3(A)に示すように、この電圧印加により、1対の同軸状電極10に絶縁体16の表面でそれぞれ面状の放電電流(以下、面状放電2と呼ぶ)が発生する。面状放電2は、2次元的に広がる面状の放電電流であり、後述する実施例では「電流シート」とも呼ぶ。
【0063】
このような面状放電2により、各同軸状電極10、10において、絶縁体16表面に形成されたLiまたはLi化合物薄膜17の表面が蒸発し、Liガスを発生する。
【0064】
なおこの際、右側の同軸状電極10の中心電極12は正電圧(+)、ガイド電極14は負電圧(−)に印加され、左側の同軸状電極10の中心電極12は負電圧(−)、そのガイド電極14は正電圧(+)に印加されている。
【0065】
図3(B)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(図で中心に向かう方向)に移動する。
【0066】
図3(C)に示すように、面状放電2が1対の同軸状電極10の先端に達すると、1対の面状放電2の間に挟まれたプラズマ媒体6が高密度、高温となり、各同軸状電極10の対向する中間位置(中心電極12の対称面1)に単一のプラズマ3が形成される。
【0067】
図3(D)に示すように、面状放電2はさらに移動し、中心電極12の先端と接続部材19の中点の間Mに形成される。
【0068】
単一のプラズマ3は、1対の同軸状電極10の軸線Z−Z方向に複数設けられた接続部材19の中点Mと中心電極12の先端との間に形成された面状放電20によって軸方向に囲まれ、保持されている。
【0069】
さらに、この状態において、対向する1対の中心電極12は、正電圧(+)と負電圧(−)であり、対向する1対のガイド電極14の接続点Mは同電位(接地電位)であるので、図3(E)に示すように、面状放電2は対向する1対の中心電極12同士、及び対向する1対のガイド電極14の間で放電する管状放電4に繋ぎ換えられる。ここで、管状放電4とは、軸線Z−Zを囲む中空円筒状の放電電流を意味する。
【0070】
この管状放電4が形成されると、図に符号5で示すプラズマ封込み磁場(磁気ビン)が形成され、プラズマ3を半径方向及び軸方向に封じ込むことができる。
【0071】
すなわち、磁気ビン5はプラズマ3の圧力により中央部は大きくその両側が小さくなり、プラズマ3に向かう軸方向の磁気圧勾配が形成され、この磁気圧勾配によりプラズマ3は中間位置に拘束される。さらにプラズマ電流の自己磁場によって中心方向にプラズマ3は圧縮(Zピンチ)され、半径方向にも自己磁場による拘束が働く。
【0072】
この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率で、プラズマ光8(EUV)を長時間安定して発生させることができる。
【0073】
図4は、本発明のプラズマ光源における電流の分布を説明する図である。
【0074】
この図は、図1のガイド電極14及び接続部材19の中点M付近を拡大して模式的に示すものである。
【0075】
横方向に延びる線路はガイド電極14及び接続部材19を示し、中点MからV字状に延びる線路は正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39を示す。中点Mを接地する経路は、省略されている。
【0076】
図4(A)は、1対の同軸状電極10の中心電極12とガイド電極14または接続部材19間に面状放電2が形成された状態である(図3(B)及び図3(C)が相当する。)。
【0077】
この状態においては、正電圧源32から供給された電流I1は、図2の右側の同軸状電極10において、中心電極12、面状放電2、ガイド電極14及び接続部材19、中点M、正電圧源電流帰還路38の経路(以下、正電源電流経路という。)を流れる。
【0078】
一方、負電圧源33から供給された電流I2は、図2の左側の同軸状電極10において、中心電極12、面状放電2、ガイド電極14及び接続部材19、中点M、負電圧源電流帰還路39の経路(以下、負電源電流経路という。)を流れる。
【0079】
この状態では、正電源電流経路と負電源電流経路は、接続部材19の中点Mの一点で接するだけであるので、正電源電流経路を流れる電流I1と負電源電流経路を流れる電流I2は互いに干渉することはない。
【0080】
ここで、後述する管状放電4を形成して維持するためには、電流I1とI2は等しいことが望ましいので、以下では便宜上I1=I2=Iとして説明する。
【0081】
図4(B)は、1対の同軸状電極10間で面状放電2が衝突し(図3(D)が相当する。)、管状放電4が形成された状態である(図3(E)が相当する。)。
【0082】
面状放電2が各同軸状電極10の先端に向けて進展し、対称面1にある中点Mにおいて衝突すると、この中点M付近の面状放電2において、一方の中心電極12から中点Mに向う電流と、中点Mから他方の中心電極12に向う電流が互いにキャンセルすることになる。
【0083】
これによって、中心電極12と接続部材19(及びガイド電極14)間を流れる面状放電2による電流Iは消失する。代わって、対向する中心電極12間を電流Iが流れるようになり、管状放電4が形成される。
【0084】
これに対応して、ガイド電極14及び接続部材19に沿って流れる電流Iは消失し、負電圧源電流帰還路39からの電流Iは、接続部材19の中点Mを介して正電圧源電流帰還路38に流れ込むようになる。
【0085】
上述した本発明のプラズマ光源によれば、対向配置された1対の同軸状電極10を備え、1対の同軸状電極10にそれぞれ面状の放電電流(面状放電2)を発生させ、面状放電2により各同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3を形成し、次いで面状放電2を1対の同軸状電極10間の管状放電4に繋ぎ換えてプラズマ3を封じ込めるプラズマ封込み磁場5(磁気ビン5)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0086】
また、従来のキャピラリー放電や真空光電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3が形成され、かつエネルギー変換効率を大幅(10倍以上)に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0087】
また、1対の同軸状電極10の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマ3が形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0088】
さらに、本発明によると、正電源電流経路と負電源電流経路は、接続部材19の中点Mの一点で接するだけであるので、面状放電2から管状放電4への繋ぎ換えは、この中点Mにおける電流経路の繋ぎ換えで足りる。また、この中点Mが接地されているので、中点Mが電位が変動することはなく、繋ぎ換えを確実に行うことができる。したがって、1対の同軸状電極10間における面状放電2から管状放電4への繋ぎ換えが容易になり、管状放電4を確実に提供することができる。
【0089】
〔比較例1〕
図5は、第1の比較例を示す。第1の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、1対の同軸状電極10を直接にチャンバー20に取り付けた。さらに、接続部材19、接続部材19の中点Mの接地、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、それぞれ正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えて1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続するとともに、このチャンバー20のフランジ部を接地したものである。
【0090】
他の構成は、図1に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0091】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0092】
図6は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0093】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0094】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4´における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0095】
チャンバー20の接地点P4、P4´における電位V4、V4´は、接地電位となっている。
【0096】
ここで、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(1対のガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)については、第1の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3が第2の同軸状電極10´のガイド電極14先端の電位V3´より高くなっている。
【0097】
このような1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14から正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0098】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位より低くなる必要がある。
【0099】
したがって、第1の比較例においては、面状放電2(図3(C)及び図3(D)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0100】
〔比較例2〕
図7は、第2の比較例を示す。第2の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、1対の同軸状電極10を直接にチャンバー20に取り付けた。さらに、接続部材19の中点Mの接地、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えてそれぞれ1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続するとともに、このチャンバー20のフランジ部を接地したものである。
【0101】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0102】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0103】
図8は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0104】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0105】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2´における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0106】
第2の比較例では、チャンバー20を接地点P4、P4´で接地したのみならず、1対の同軸状電極10のガイド電極14の先端を接続部材19で接続したため、第1の比較例より電位配置は複雑になっている。
【0107】
すなわち、1対の同軸状電極10のガイド電極14における放電発生点P3、P3´間の電位差は第1の比較例よりも縮小したが、正電圧源32側の同軸状電極10を通る経路におけるチャンバー20の接地点P4での電位V4は、負電圧源33側の同軸状電極10´を通る経路におけるチャンバー20の接地点P4´での電位V4´より低下している。
【0108】
第2の比較例においても、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(ガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)については、第1の比較例よりも電位差は小さくなったものの、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3が負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3´より高くなっている。
【0109】
このような1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14から正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0110】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位より低くなる必要がある。
【0111】
したがって、第2の比較例においても、第1の比較例と同様に、面状放電2(図3(C)及び図3(D)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0112】
〔比較例3〕
図9は、第3の比較例を示す。第3の比較例は、図2に示した実施形態において、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えてそれぞれ1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続したものである。
【0113】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0114】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0115】
図10は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0116】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0117】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2´における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0118】
第3の比較例においては、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(ガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)は、等しいものとなっている。
【0119】
図11は、第3の比較例における電流の分布を示す図である。
【0120】
図11(A)に示すように、面状放電2が形成された直後(図3(A)が相当する。)に、ガイド電極14及び接続部材19を電流I12が流れ始める。この電流I12は、図3(E)に示すような管状放電4が形成されたときにガイド電極14及び接続部材19を流れる電流とは逆向きである(以下、逆方向という)。
【0121】
図11(B)に示すように、面状放電20が対称面1に向って進んだ状態(図3(C)が相当する。)においては、ガイド電極14及び接続部材19においては、逆方向の電流I12が流れる領域と、管状放電4が形成されたときにガイド電極14及び接続部材19を流れる電流の向き(以下、順方向という。)の電流I−I12が流れる領域が生じる。
【0122】
本来、管状放電4を形成するための電流Iのみを順方向に流すことが望ましいが、短パルス現象であるので、このような逆方向の電流I12を抑制することは困難である。他方、このような逆方向の電流I12の帰還電流がガイド電極14及び接続部材19の一部を順方向に流れる。これによって、ガイド電極14及び接続部材19における電流の分布は、不均一で複雑になる。
【0123】
このような不均一な電流分布により、面状放電2に及ぼす電位の影響も不均一なものとなる。これによって、面状放電2の対称面1に向けた加速均一性に影響を与え、フォーカス、衝突条件等の制御が困難になる。
【0124】
また、面状放電2を管状放電4に繋ぎ換える際には、ガイド電極14及び接続部材19において、逆方向の電流I12を順方向の電流に切り換える必要がある。しかしながら、衝突時(図3(D)が相当する。)における逆方向の電流I12が大きく、これを順方向に切り換えるには電流の時間変化値が大きくなり、逆方向の大きな誘導起電力が発生する。したがって、電流の繋ぎ換えは困難である。
【0125】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0126】
1 対称面、2 面状放電、3 プラズマ、
4 管状放電、5 プラズマ閉込め磁場、6 プラズマ媒体、
7 レーザー光、8 プラズマ光(EUV)、
10 1対の同軸状電極
12 中心電極、
14 ガイド電極
16 絶縁体、
20 チャンバー、
30 電圧印加装置、32 正電圧源、
33 負電圧源、36 トリガスイッチ、
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV放射のためのプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代半導体の微細加工のために極端紫外光源を用いるリソグラフィが期待されている。リソグラフィとは回路パターンの描かれたマスクを通して光やビームをシリコン基盤上に縮小投影し、レジスト材料を感光させることで電子回路を形成する技術である。光リソグラフィで形成される回路の最小加工寸法は基本的には光源の波長に依存している。従って、次世代の半導体開発には光源の短波長化が必須であり、この光源開発に向けた研究が進められている。
【0003】
次世代リソグラフィ光源として最も有力視されているのが、極端紫外光源(EUV:Extreme Ultra Violet)であり、およそ1〜100nmの波長領域の光を意味する。この領域の光はあらゆる物質に対し吸収率が高く、レンズ等の透過型光学系を利用することができないので、反射型光学系を用いることになる。また極端紫外光領域の光学系は非常に開発が困難で、限られた波長にしか反射特性を示さない。
【0004】
現在、13.5nmに感度を有するMo/Si多層膜反射鏡が開発されており、この波長の光と反射鏡を組み合わせたリソグラフィ技術が開発されれば30nm以下の加工寸法を実現できると予測されている。さらなる微細加工技術の実現のために、波長13.5nmのリソグラフィ光源の開発が急務であり、高エネルギー密度プラズマからの輻射光が注目されている。なお、プラズマ光源については、特許文献1に記載されている。
【0005】
光源プラズマ生成はレーザー照射(LPP:Laser Produced Plasma)方式とパルスパワー技術によって駆動されるガス放電(DPP:Discharge Produced Plasma)方式に大別できる。LPP方式のEUV光源については、特許文献2に記載されている。
【0006】
EUVリソグラフィ光源には、高い平均出力、微小な光源サイズ、飛散粒子(デブリ)が少ないこと等が要求される。現状では、EUV発光量が要求出力に対して極めて低く、高出力化が大きな課題の一つであるが、一方で高出力化のために入力エネルギーを大きくすると熱負荷によるダメージがプラズマ生成装置や光学系の寿命の低下を招いてしまう。従って、高EUV出力と低い熱負荷の双方を満たすためには、高いエネルギー変換効率が必要不可欠である。
【0007】
プラズマ形成初期には加熱や電離に多くのエネルギーを消費するうえに、EUVを放射するような高温高密度状態のプラズマは一般的に急速に膨張してしまうため、放射持続時間τが極端に短い。従って、変換効率を改善するためには、プラズマをEUV放射のために適した高温高密度状態で長時間(μsecオーダーで)維持することが重要になる。
【0008】
SnやLi等の常温固体の媒体はスペクトル変換効率が高い反面、プラズマ生成に溶融、蒸発等の相変化を伴うため、中性粒子等のデブリ(放電に伴う派生物)による装置内汚染の影響が大きくなる。そのため、ターゲット供給、回収システム強化も同様に要求される。
【0009】
現在の一般的なEUVプラズマ光源の放射時間は100nsec程度であり出力が極端に足りない。産業応用のため高変換効率と高平均出力を両立させる為には1ショットで数μsecのEUV放射時間を達成する必要がある。つまり、高い変換効率を持つプラズマ光源を開発するためには、それぞれのターゲットに適した温度密度状態のプラズマを数μsec(少なくとも1μsec以上)拘束し、安定したEUV放射を達成する必要がある。
【0010】
さらに、従来のキャピラリー放電では、プラズマがキャピラリー内に閉じ込められてしまうため、有効な放射立体角が小さいという欠点もあった。
【0011】
そこで、本願の発明者らは、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができ、構成機器の熱負荷によるダメージが小さく、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくでき、プラズマ媒体を連続して供給することができることを目的として、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」(特許文献3)を創案した。
【0012】
図1は、上記プラズマ光源の実施形態図であり、対称面51に対して対向配置された1対の同軸状電極50を備え、1対の同軸状電極50にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、この面状放電により各同軸状電極50の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成することにより、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−226244号公報、「極端紫外光源及び半導体露光装置」
【特許文献2】特開2011−54376号公報、「LPP方式のEUV光源とその発生方法」
【特許文献3】特開2010−147231号公報、「プラズマ光源とプラズマ光発生方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記プラズマ光源においては、同軸状電極における電位の制御が困難であり、したがって各同軸状電極50間の面状放電の管状放電への繋ぎ換えの制御も困難であった。
【0015】
本発明は、上述した問題を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、1対の同軸状電極において面状放電を発生させ、この面状放電を各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えてプラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するプラズマ光源において、面状放電から管状放電への繋ぎ換えを容易にするようなプラズマ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対応する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極との間を絶縁する絶縁部材とからなり、
対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材を有し、該接続部材は、その一点において、接地されるとともに、各同軸状電極にそれぞれ対応する電圧印加装置の経路を介して接続される、ことを特徴とするプラズマ光源が提供される。
【0017】
前記接続部材における一点は、対向するガイド電極の先端を結ぶ中点である、ことが好ましい。
【0018】
前記接続部材は、1対の同軸状電極の軸線に対称に複数設けられる、ことが好ましい。
【0019】
前記放電環境保持装置は、前記1対の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、1対の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことが好ましい。
【0020】
前記1対の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲む管状のガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記1対の同軸状電極の各中心電極は、前記単一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する、ことが好ましい。
【0021】
前記電圧印加装置は、前記1対の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記1対の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明の装置によれば、対向配置された1対の同軸状電極を備え、1対の同軸状電極にそれぞれ面状の放電電流(面状放電)を発生させ、該面状放電により各同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマを形成し、次いで前記面状放電を1対の同軸状電極間の管状放電に繋ぎ換えて前記プラズマを封じ込める磁場(磁気ビン)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0023】
また、従来のキャピラリー放電や真空放電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極の対向する中間位置に単一のプラズマが形成され、かつエネルギー変換効率を大幅に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0024】
また、1対の同軸状電極の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマが形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0025】
さらに、面状放電から管状放電への電流経路の繋ぎ替えを容易にすることにより、管状放電を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のプラズマ光源の実施形態図である。
【図2】本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【図3】本発明によるプラズマ光源の動作説明図である。
【図4】本発明によるプラズマ光源における電流の分布を説明する図である。
【図5】第1比較例を示す図である。
【図6】第1比較例における電位分布を示す図である。
【図7】第2比較例を示す図である。
【図8】第2比較例における電位分布を示す図である。
【図9】第3比較例を示す図である。
【図10】第3比較例における電位分布を示す図である。
【図11】第3比較例における電流の分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
図2は、本発明によるプラズマ光源の実施形態図である。
【0029】
この図において、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10、チャンバー20、及び電圧印加装置30を備える。
【0030】
1対の同軸状電極10は、対称面1を中心として対向するように、チャンバー20に配置されている。
【0031】
1対の同軸状電極10は、リング状の絶縁体18を介してチャンバー20に取り付けられ、チャンバー20とは電気的に絶縁されている。
【0032】
各同軸状電極10は、棒状の中心電極12、管状のガイド電極14及びリング状の絶縁体16からなる。
【0033】
棒状の中心電極12は、単一の軸線Z−Z上に延びる導電性の電極である。
【0034】
この例において、中心電極12の対称面1に対向する端面は円弧状になっている。なお、この構成は必須ではなく、端面に凹穴を設け、後述する面状放電2と管状放電4を安定化させるようにしてもよく、或いは平面でもよい。
【0035】
管状のガイド電極14は、中心電極12を一定の間隔を隔てて囲み、その間にプラズマ媒体を保有するようになっている。プラズマ媒体は、Liのガスであることが好ましいが、Xe,Snのガスであってもよい。また、ガイド電極14の対称面1に対向する端面は、円弧状でも平面でもよい。
【0036】
リング状の絶縁体16は、中心電極12とガイド電極14の間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する。
【0037】
絶縁体16において、中心電極12とガイド電極14の間の表面には、中心電極12とガイド電極14の間との間の面状放電2によってLiがガスを生成するようにLiまたはLi化合物の薄膜17が形成されている。
【0038】
なお、絶縁体16の形状はこの例に限定されず、中心電極12とガイド電極14の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0039】
リング状の絶縁体18は、1対の同軸状電極10のガイド電極14とチャンバー20間に位置する中空円筒形状の電気的絶縁体であり、ガイド電極14とチャンバー20の間を電気的に絶縁する。
【0040】
なお、絶縁体18の形状はこの例に限定されず、各同軸状電極10のガイド電極14とチャンバー20の間を電気的に絶縁する限りで、その他の形状であってもよい。
【0041】
上述した1対の同軸状電極10は、各中心電極12が同一の軸線Z−Z上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する。
【0042】
この実施形態において、1対の同軸状電極10は、各ガイド電極14の先端が金属性の接続部材19によって電気的に接続(結線)されている。
【0043】
接続部材19は、1対の同軸状電極10の軸線Z−Z周囲に複数設けられている。接続部材19は、軸線Z−Zに回転対称に3方向、4方向などに取り付けることができる。図2においては、説明の便宜上、1個の接続部材19のみを示している。
【0044】
接続部材19は、その中点Mにおいて接地されるとともに、後述する正電圧源32及び負電圧源33を介して対応する同軸状電極10に接続している。中点Mと正電圧源32及び負電圧源33を結ぶ経路は、各同軸状電極10からの電流を帰還させる経路であることから、便宜上、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39と呼ぶことにする。
【0045】
前記中点Mは、接続部材19が対称面1と交わる中点Mである。なお、接続部材19において、接地するとともに、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に接続する位置は、接続部材19上における中点M以外の一点とすることもできる。
【0046】
また、接続部材19は、1対の中心電極12間で発生するプラズマ光8(EUV)を取り出すことができるように、その形状と配置が定められる。
【0047】
チャンバー20は、放電環境保持装置を構成し、同軸状電極10内にプラズマ媒体を供給し、かつプラズマ発生に適した温度及び圧力に同軸状電極10を保持する。チャンバー20は、排気管22によって真空ポンプに接続され、所定の圧力に維持されている。
【0048】
チャンバー20は、金属からなることが好ましい。また、チャンバー20には、プラズマ光8(EUV)を取り出すために、所定の開口窓を設けることが好ましい。
【0049】
チャンバー20には、接続部材19を接地するとともに、正電圧源32及び負電圧源33を介して対応する同軸状電極に10に接続する配線を引き出す開口部が設けられている。この開口部は、配線をチャンバー20と絶縁するとともにチャンバー20内の真空環境を維持するようにセラミックなどで構成することができる。図2においては、便宜上、この開口部は破断線により示されている。
【0050】
チャンバー20は、リング状の絶縁体18によって同軸状電極10とは絶縁されている。
【0051】
電圧印加装置30は、各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0052】
電圧印加装置30は、正電圧源32、負電圧源33及びトリガスイッチ36からなる。
【0053】
この例では、正電圧源32及び負電圧源33は、それぞれ高電圧充電器(HV Charging Device)とコンデンサからなる。トリガスイッチ36は、遅延パルス生成器(Delay Pulse Generator)、高圧パルス発生器(HV Pulser)及びギャップスイッチからなる。なお、この例では、遅延パルス生成器は、遅延のないトリガパルスを発生している。
【0054】
正電圧源32は、一方(この例では右側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より高い正の放電電圧を印加する。
【0055】
負電圧源33は、他方(この例では左側)の同軸状電極10の中心電極12にそのガイド電極14より低い負の放電電圧を印加する。
【0056】
なお、正電圧源32及び負電圧源33には、中心電極12に供給される電流をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察するため、誘導結合された線路が設けられている。
【0057】
トリガスイッチ36は、正電圧源32と負電圧源33を同時に作動させて、それぞれの同軸状電極12に同時に正負の放電電圧を印加する。
【0058】
この構成により、本発明のプラズマ光源は、1対の同軸状電極10間に管状放電(後述する)を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるようになっている。
【0059】
図3は、図2のプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)は面状放電の発生時、(B)は面状放電の移動中、(C)はプラズマの形成時、(D)は面状放電と管状方円の繋ぎ換え時、(E)はプラズマ封込み磁場の形成時を示している。
【0060】
以下、この図を参照して、本発明のプラズマ光源の動作を説明する。
【0061】
本発明のプラズマ光源は、上述した1対の同軸状電極10を対向配置し、放電チャンバー20により同軸状電極10内にプラズマ媒体を供給しかつプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持し、電圧印加装置30により各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0062】
図3(A)に示すように、この電圧印加により、1対の同軸状電極10に絶縁体16の表面でそれぞれ面状の放電電流(以下、面状放電2と呼ぶ)が発生する。面状放電2は、2次元的に広がる面状の放電電流であり、後述する実施例では「電流シート」とも呼ぶ。
【0063】
このような面状放電2により、各同軸状電極10、10において、絶縁体16表面に形成されたLiまたはLi化合物薄膜17の表面が蒸発し、Liガスを発生する。
【0064】
なおこの際、右側の同軸状電極10の中心電極12は正電圧(+)、ガイド電極14は負電圧(−)に印加され、左側の同軸状電極10の中心電極12は負電圧(−)、そのガイド電極14は正電圧(+)に印加されている。
【0065】
図3(B)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(図で中心に向かう方向)に移動する。
【0066】
図3(C)に示すように、面状放電2が1対の同軸状電極10の先端に達すると、1対の面状放電2の間に挟まれたプラズマ媒体6が高密度、高温となり、各同軸状電極10の対向する中間位置(中心電極12の対称面1)に単一のプラズマ3が形成される。
【0067】
図3(D)に示すように、面状放電2はさらに移動し、中心電極12の先端と接続部材19の中点の間Mに形成される。
【0068】
単一のプラズマ3は、1対の同軸状電極10の軸線Z−Z方向に複数設けられた接続部材19の中点Mと中心電極12の先端との間に形成された面状放電20によって軸方向に囲まれ、保持されている。
【0069】
さらに、この状態において、対向する1対の中心電極12は、正電圧(+)と負電圧(−)であり、対向する1対のガイド電極14の接続点Mは同電位(接地電位)であるので、図3(E)に示すように、面状放電2は対向する1対の中心電極12同士、及び対向する1対のガイド電極14の間で放電する管状放電4に繋ぎ換えられる。ここで、管状放電4とは、軸線Z−Zを囲む中空円筒状の放電電流を意味する。
【0070】
この管状放電4が形成されると、図に符号5で示すプラズマ封込み磁場(磁気ビン)が形成され、プラズマ3を半径方向及び軸方向に封じ込むことができる。
【0071】
すなわち、磁気ビン5はプラズマ3の圧力により中央部は大きくその両側が小さくなり、プラズマ3に向かう軸方向の磁気圧勾配が形成され、この磁気圧勾配によりプラズマ3は中間位置に拘束される。さらにプラズマ電流の自己磁場によって中心方向にプラズマ3は圧縮(Zピンチ)され、半径方向にも自己磁場による拘束が働く。
【0072】
この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率で、プラズマ光8(EUV)を長時間安定して発生させることができる。
【0073】
図4は、本発明のプラズマ光源における電流の分布を説明する図である。
【0074】
この図は、図1のガイド電極14及び接続部材19の中点M付近を拡大して模式的に示すものである。
【0075】
横方向に延びる線路はガイド電極14及び接続部材19を示し、中点MからV字状に延びる線路は正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39を示す。中点Mを接地する経路は、省略されている。
【0076】
図4(A)は、1対の同軸状電極10の中心電極12とガイド電極14または接続部材19間に面状放電2が形成された状態である(図3(B)及び図3(C)が相当する。)。
【0077】
この状態においては、正電圧源32から供給された電流I1は、図2の右側の同軸状電極10において、中心電極12、面状放電2、ガイド電極14及び接続部材19、中点M、正電圧源電流帰還路38の経路(以下、正電源電流経路という。)を流れる。
【0078】
一方、負電圧源33から供給された電流I2は、図2の左側の同軸状電極10において、中心電極12、面状放電2、ガイド電極14及び接続部材19、中点M、負電圧源電流帰還路39の経路(以下、負電源電流経路という。)を流れる。
【0079】
この状態では、正電源電流経路と負電源電流経路は、接続部材19の中点Mの一点で接するだけであるので、正電源電流経路を流れる電流I1と負電源電流経路を流れる電流I2は互いに干渉することはない。
【0080】
ここで、後述する管状放電4を形成して維持するためには、電流I1とI2は等しいことが望ましいので、以下では便宜上I1=I2=Iとして説明する。
【0081】
図4(B)は、1対の同軸状電極10間で面状放電2が衝突し(図3(D)が相当する。)、管状放電4が形成された状態である(図3(E)が相当する。)。
【0082】
面状放電2が各同軸状電極10の先端に向けて進展し、対称面1にある中点Mにおいて衝突すると、この中点M付近の面状放電2において、一方の中心電極12から中点Mに向う電流と、中点Mから他方の中心電極12に向う電流が互いにキャンセルすることになる。
【0083】
これによって、中心電極12と接続部材19(及びガイド電極14)間を流れる面状放電2による電流Iは消失する。代わって、対向する中心電極12間を電流Iが流れるようになり、管状放電4が形成される。
【0084】
これに対応して、ガイド電極14及び接続部材19に沿って流れる電流Iは消失し、負電圧源電流帰還路39からの電流Iは、接続部材19の中点Mを介して正電圧源電流帰還路38に流れ込むようになる。
【0085】
上述した本発明のプラズマ光源によれば、対向配置された1対の同軸状電極10を備え、1対の同軸状電極10にそれぞれ面状の放電電流(面状放電2)を発生させ、面状放電2により各同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3を形成し、次いで面状放電2を1対の同軸状電極10間の管状放電4に繋ぎ換えてプラズマ3を封じ込めるプラズマ封込み磁場5(磁気ビン5)を形成するので、EUV放射のためのプラズマ光を長時間(μsecオーダーで)安定して発生させることができる。
【0086】
また、従来のキャピラリー放電や真空光電金属プラズマと比較すると、1対の同軸状電極10の対向する中間位置に単一のプラズマ3が形成され、かつエネルギー変換効率を大幅(10倍以上)に改善できるので、プラズマ形成中における各電極の熱負荷が小さくなり、構成機器の熱負荷によるダメージを大幅に低減できる。
【0087】
また、1対の同軸状電極10の対向する中間位置にプラズマ光の発光源であるプラズマ3が形成されるので、発生したプラズマ光の有効な放射立体角を大きくできる。
【0088】
さらに、本発明によると、正電源電流経路と負電源電流経路は、接続部材19の中点Mの一点で接するだけであるので、面状放電2から管状放電4への繋ぎ換えは、この中点Mにおける電流経路の繋ぎ換えで足りる。また、この中点Mが接地されているので、中点Mが電位が変動することはなく、繋ぎ換えを確実に行うことができる。したがって、1対の同軸状電極10間における面状放電2から管状放電4への繋ぎ換えが容易になり、管状放電4を確実に提供することができる。
【0089】
〔比較例1〕
図5は、第1の比較例を示す。第1の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、1対の同軸状電極10を直接にチャンバー20に取り付けた。さらに、接続部材19、接続部材19の中点Mの接地、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、それぞれ正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えて1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続するとともに、このチャンバー20のフランジ部を接地したものである。
【0090】
他の構成は、図1に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0091】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0092】
図6は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0093】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0094】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4´における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0095】
チャンバー20の接地点P4、P4´における電位V4、V4´は、接地電位となっている。
【0096】
ここで、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(1対のガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)については、第1の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3が第2の同軸状電極10´のガイド電極14先端の電位V3´より高くなっている。
【0097】
このような1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14から正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0098】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位より低くなる必要がある。
【0099】
したがって、第1の比較例においては、面状放電2(図3(C)及び図3(D)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0100】
〔比較例2〕
図7は、第2の比較例を示す。第2の比較例は、図2に示した実施形態において、絶縁体18を除き、1対の同軸状電極10を直接にチャンバー20に取り付けた。さらに、接続部材19の中点Mの接地、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えてそれぞれ1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続するとともに、このチャンバー20のフランジ部を接地したものである。
【0101】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0102】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0103】
図8は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0104】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0105】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2´における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0106】
第2の比較例では、チャンバー20を接地点P4、P4´で接地したのみならず、1対の同軸状電極10のガイド電極14の先端を接続部材19で接続したため、第1の比較例より電位配置は複雑になっている。
【0107】
すなわち、1対の同軸状電極10のガイド電極14における放電発生点P3、P3´間の電位差は第1の比較例よりも縮小したが、正電圧源32側の同軸状電極10を通る経路におけるチャンバー20の接地点P4での電位V4は、負電圧源33側の同軸状電極10´を通る経路におけるチャンバー20の接地点P4´での電位V4´より低下している。
【0108】
第2の比較例においても、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(ガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)については、第1の比較例よりも電位差は小さくなったものの、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3が負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位V3´より高くなっている。
【0109】
このような1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位配置は、管状放電4が形成された状態における、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14から正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14へ電流が向う流れにおけるものとは逆方向である。
【0110】
すなわち、管状放電4が形成された状態においては、正電圧源32側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位は、負電圧源33側の同軸状電極10のガイド電極14の先端の電位より低くなる必要がある。
【0111】
したがって、第2の比較例においても、第1の比較例と同様に、面状放電2(図3(C)及び図3(D)が相当する。)から管状放電4(図3(E)が相当する。)への繋ぎ換えは、このような逆方向の電位配置のため困難である。
【0112】
〔比較例3〕
図9は、第3の比較例を示す。第3の比較例は、図2に示した実施形態において、正電圧源電流帰還路38、負電圧源電流帰還路39を除き、正電圧源32及び負電圧源33を、正電圧源電流帰還路38及び負電圧源電流帰還路39に換えてそれぞれ1対の同軸状電極10のガイド電極14に接続されたチャンバー20のフランジ部に接続したものである。
【0113】
他の構成は、図2に示した実施形態と同様であるので、同一の指示符号を付して説明を省略する。
【0114】
図中の面状放電2は、模式的に、中心電極12からガイド電極14へ電流が流れる方向を矢印で示したものである。
【0115】
図10は、第1の比較例における、1対の同軸状電極10に面状放電2が形成されている状態(図3(B)及び図3(C)が相当する。)での電位分布を示す図である。
【0116】
正電圧源32の正側電位点P1における電位V1から、中心電極12の放電発生位置P2における電位V2、ガイド電極14の放電発生位置P3における電位V3を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4に至るまで、電位V1、V2、V3、V4は次第に低下している。
【0117】
同様に、負電圧源33の負側電位点P1´における電位V1´から、中心電極12の放電発生位置P2´における電位V2´、ガイド電極14の放電発生位置P3´における電位V3´を介して、チャンバー20の接地点P4における電位V4´に至るまで、電位V1´、V2´、V3´、V4´は次第に上昇している。
【0118】
第3の比較例においては、1対の同軸状電極10のガイド電極14先端の電位(ガイド電極14の放電発生位置P3、P3´における電圧V3、V3´が相当する。)は、等しいものとなっている。
【0119】
図11は、第3の比較例における電流の分布を示す図である。
【0120】
図11(A)に示すように、面状放電2が形成された直後(図3(A)が相当する。)に、ガイド電極14及び接続部材19を電流I12が流れ始める。この電流I12は、図3(E)に示すような管状放電4が形成されたときにガイド電極14及び接続部材19を流れる電流とは逆向きである(以下、逆方向という)。
【0121】
図11(B)に示すように、面状放電20が対称面1に向って進んだ状態(図3(C)が相当する。)においては、ガイド電極14及び接続部材19においては、逆方向の電流I12が流れる領域と、管状放電4が形成されたときにガイド電極14及び接続部材19を流れる電流の向き(以下、順方向という。)の電流I−I12が流れる領域が生じる。
【0122】
本来、管状放電4を形成するための電流Iのみを順方向に流すことが望ましいが、短パルス現象であるので、このような逆方向の電流I12を抑制することは困難である。他方、このような逆方向の電流I12の帰還電流がガイド電極14及び接続部材19の一部を順方向に流れる。これによって、ガイド電極14及び接続部材19における電流の分布は、不均一で複雑になる。
【0123】
このような不均一な電流分布により、面状放電2に及ぼす電位の影響も不均一なものとなる。これによって、面状放電2の対称面1に向けた加速均一性に影響を与え、フォーカス、衝突条件等の制御が困難になる。
【0124】
また、面状放電2を管状放電4に繋ぎ換える際には、ガイド電極14及び接続部材19において、逆方向の電流I12を順方向の電流に切り換える必要がある。しかしながら、衝突時(図3(D)が相当する。)における逆方向の電流I12が大きく、これを順方向に切り換えるには電流の時間変化値が大きくなり、逆方向の大きな誘導起電力が発生する。したがって、電流の繋ぎ換えは困難である。
【0125】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0126】
1 対称面、2 面状放電、3 プラズマ、
4 管状放電、5 プラズマ閉込め磁場、6 プラズマ媒体、
7 レーザー光、8 プラズマ光(EUV)、
10 1対の同軸状電極
12 中心電極、
14 ガイド電極
16 絶縁体、
20 チャンバー、
30 電圧印加装置、32 正電圧源、
33 負電圧源、36 トリガスイッチ、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対応する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極との間を絶縁する絶縁部材とからなり、
対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材を有し、該接続部材は、その一点において、接地されるとともに、各同軸状電極にそれぞれ対応する電圧印加装置の経路を介して接続される、ことを特徴とするプラズマ光源。
【請求項2】
前記接続部材における一点は、対向するガイド電極の先端を結ぶ中点である、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項3】
前記接続部材は、1対の同軸状電極の軸線に対称に複数設けられる、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項4】
前記放電環境保持装置は、前記1対の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、1対の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項5】
前記1対の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲む管状のガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記1対の同軸状電極の各中心電極は、前記単一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項6】
前記電圧印加装置は、前記1対の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記1対の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項1】
対向配置された1対の同軸状電極と、該同軸状電極内のプラズマ媒体をプラズマ発生に適した温度及び圧力に保持する放電環境保持装置と、各同軸状電極に極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置と、を備え、1対の同軸状電極間に管状放電を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるプラズマ光源であって、
前記各同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極の対応する先端部を一定の間隔を隔てて囲むガイド電極と、前記中心電極とガイド電極との間を絶縁する絶縁部材とからなり、
対向するガイド電極の先端を互いに電気的に接続する接続部材を有し、該接続部材は、その一点において、接地されるとともに、各同軸状電極にそれぞれ対応する電圧印加装置の経路を介して接続される、ことを特徴とするプラズマ光源。
【請求項2】
前記接続部材における一点は、対向するガイド電極の先端を結ぶ中点である、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項3】
前記接続部材は、1対の同軸状電極の軸線に対称に複数設けられる、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項4】
前記放電環境保持装置は、前記1対の同軸状電極を保持するチャンバーを含み、1対の同軸状電極と前記チャンバーの間に絶縁部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ光源。
【請求項5】
前記1対の同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、該中心電極を一定の間隔を隔てて囲む管状のガイド電極と、中心電極とガイド電極の間に位置しその間を絶縁するリング状の絶縁体とからなり、
前記1対の同軸状電極の各中心電極は、前記単一の軸線上に位置し、かつ互いに一定の間隔を隔てて対称に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項6】
前記電圧印加装置は、前記1対の同軸状電極の一方の中心電極にそのガイド電極より高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記1対の同軸状電極の他方の中心電極にそのガイド電極より低い負の放電電圧を印加する負電圧源と、前記正電圧源と負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−110259(P2013−110259A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253835(P2011−253835)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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