説明

プラズマ切断装置及びプラズマ切断方法

【課題】 アークの収束度を高め、作業効率及び切断面品質を向上して、従来よりも経済的に切断でき、しかも切断可能な切断対象材の厚み領域を広げることが可能なプラズマ切断装置及びプラズマ切断方法を提供する。
【解決手段】 プラズマ切断装置10は、内部に電極13を備え、アーク放電によりガスをプラズマ化して噴射させ、このアーク11に周囲から水を吹き付けて収束させるトーチ12を有し、更に純水化手段28が設けられ、純水化手段28によって水の電気伝導率を5μs/cm未満にして、アーク11に吹き付けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断対象材とトーチ内の電極との間にアーク放電を行い、その熱を利用して切断対象材を切断するプラズマ切断装置及びプラズマ切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アーク放電を用いる種々のプラズマ切断装置がある。
このプラズマ切断装置には、アーク放電によりガスをプラズマ化して噴射させ、このアークに周囲から水を吹き付け収束(集束)させて切断対象材に噴射する装置、いわゆるウォーターインジェクションプラズマ切断装置がある(例えば、特許文献1参照)。
ここで、アークを絞るために使用する水は、含まれるカルシウム成分が多い場合、このカルシウム成分が水の吐出口に付着してアークを不安定にする。このため、従来は、例えば、軟水化装置、逆浸透装置、又は脱イオン装置のような水質維持装置を使用して、カルシウム成分を除去した水を使用している。
【0003】
【特許文献1】特開平6−262367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水質維持装置を使用する場合、カルシウム成分の付着は抑制できるが、水の電気伝導率を十分に低減するまでには至っておらず(例えば、140μs/cm程度)、アークが水を介して飛散し収束度が低下する。
これにより、アークがトーチのノズル部分に接触し、ノズルが損傷し易くなるため、ノズルの交換頻度が多くなり不経済である。また、アークの収束度を十分に高められないため、切断対象材の切断速度が遅くなって作業効率が低下したり、切断対象材に対するのろ(スラグともいう)付着量も多くなり、除去作業に時間を要するため作業性が悪化する。そして、切断対象材の切断面が荒れ易くなり、切断面の品質が低下する。更に、切断対象材の切断可能な厚み領域を広げることができない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、アークの収束度を高め、作業効率及び切断面品質を向上して、従来よりも経済的に切断でき、しかも切断可能な切断対象材の厚み領域を広げることが可能なプラズマ切断装置及びプラズマ切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係るプラズマ切断装置は、内部に電極を備え、アーク放電によりガスをプラズマ化して噴射させ、該アークに周囲から水を吹き付けて収束させるトーチを有するプラズマ切断装置において、
純水化手段を設け、前記アークに吹き付ける水の電気伝導率を5μs/cm未満にした。
【0007】
第1の発明に係るプラズマ切断装置において、前記純水化手段と前記トーチとの間に冷却手段を設け、前記純水化手段で処理された水の温度を、前記冷却手段で25℃以下にすることが好ましい。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係るプラズマ切断方法は、アーク放電によりガスをプラズマ化し、該アークに周囲から水を吹き付け収束させ、切断対象材に前記プラズマ化したガスを噴射するプラズマ切断方法において、
水の電気伝導率を5μs/cm未満にして、前記アークに吹き付ける。
【0009】
第2の発明に係るプラズマ切断方法において、前記電気伝導率を調整した水の温度を25℃以下にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2記載のプラズマ切断装置、及び請求項3及び4記載のプラズマ切断方法は、アークの周囲からアークに吹き付ける水の電気伝導率を5μs/cm未満にするので、水の導電性を従来よりも低下させ、アークが水を介して周囲に飛散することを防止し、アークの収束度を従来よりも向上できる。これにより、例えば、従来よりもトーチのノズル部分の損傷を抑制できるので、ノズルの長寿命化が図れ経済的である。また、切断対象材の切断速度を向上でき、しかものろ付着量も低減できるので、作業効率を向上できる。そして、切断対象材の切断面を滑らかにできるので、切断面の品質を向上できる。更に、切断対象材の切断可能な厚みも厚くでき、プラズマ切断の適用範囲を広げることができる。
【0011】
特に、請求項2記載のプラズマ切断装置、及び請求項4記載のプラズマ切断方法は、電気伝導率を調整した水の温度を25℃以下にしてアークに吹き付けるので、アークの更なる収束度の向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るプラズマ切断装置の説明図、図2はプラズマ切断装置に使用するインジェクション水の導電率と純水化手段の使用期間との関係を示す説明図、図3は従来例と本発明に係るプラズマ切断装置のアーク形状を比較した説明図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るプラズマ切断装置10は、アーク放電によりガスの一例である窒素ガスをプラズマ化して噴射させ、アーク11に周囲からインジェクション水を吹き付けて収束させるトーチ12を有する装置、即ちウォーターインジェクションプラズマ切断装置であり、アーク11の飛散を抑制、更には防止して、従来よりもアーク11の収束度を向上することが可能な装置である。以下、詳しく説明する。
【0014】
トーチ12は、従来公知のプラズマ切断装置に使用するものと略同様の構成であり、内部に電極13を備えるトーチ本体14と、このトーチ本体14の外壁面15と隙間16をあけて配置される外壁部17とを有している。
トーチ本体14の先端部には、中央に噴出口18が設けられた銅製のノズル19がねじ込まれ、またトーチ本体14の内部には、電極13が絶縁材20を介してノズル19に位置決め固定されている。このトーチ本体14の内壁面21と電極13との間には、窒素ガスが流れるガス流通路22が形成され、ガス流通路22に供給される窒素ガスを、絶縁材20に形成された流通口により、螺旋状に流して電極13周囲に接触させ、ノズル19の噴出口18側へ導いている。
【0015】
電極13は、例えば、タングステンのような非消耗性のもので構成される容器状のものであり、その内部には、冷却水用供給管23が電極13の内壁と隙間を設けて配置されている。この冷却水用供給管23には、循環冷却水(以下、単に冷却水ともいう)が供給され、冷却水用供給管23から電極13内下方へ流した冷却水が、電極13の内壁面に沿って上昇し、電極13を冷却しながら外部へ排出される構成となっている。
外壁部17の先端部には、噴出口24を有し、ノズル19と軸心を同一に配置されるセラミック製のノズルキャップ25が設けられている。このノズルキャップ25は、ノズル19の外壁面と隙間26を有して設置され、しかもノズルキャップ25の噴出口24は、隙間26を介してノズル19の噴出口18の直下に配置されている。この隙間26と、前記した隙間16とで水流通路27が形成され、この水流通路27にインジェクション水が供給され、ノズル19の軸心に向かって噴出される。
【0016】
プラズマ切断装置10には、トーチ12の水流通路27に供給するインジェクション水と、冷却水用供給管23に供給する冷却水の精製を行う純水化手段28が設けられている。
この純水化手段28は、流入口と排出口を備えたタンクと、このタンク内部に配置されるイオン交換樹脂と、電気伝導率計とで構成されるものである。
これにより、水を流入口を介してタンク内へ供給し、イオン交換樹脂により精製(水中の不純物をできる限り除去)して、排出口から下流側へ送る。なお、精製した水は、電気伝導率計により、その電気伝導率(以下、導電率ともいう)が測定され、5μs/cm(マイクロジーメンス/センチメートル)未満となっていることが確認された後、下流側へ供給される。ここで、精製した水の電気伝導率が5μs/cm未満にならない場合は、純水化手段28のイオン交換樹脂を、未使用のものと交換する。
【0017】
純水化手段28とトーチ12との間には、冷却手段29が設けられている。
この冷却手段29は、例えば、純水化手段28で精製された水を下流側へ流す配管の周囲に、冷水又は冷気を流して冷却する構成のものを使用できる。
これにより、純水化手段28で処理された水の温度を、冷却手段で25℃以下、好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下にできる。
このように、純水化手段28で精製され、更に冷却手段29で温度調整された水を、インジェクション水として水流通路27に供給すると共に、冷却水として冷却水用供給管23に供給する。なお、精製及び温度調整された水を水流通路27のみに供給し、冷却水用供給管23には、前記した従来の水質維持装置で処理した冷却水を供給してもよい。
【0018】
このプラズマ切断装置10の使用に際しては、直流電源30の(−)側を電極13に接続し、直流電源30の(+)側を切断対象材31(例えば、ステンレス板)に接続して、切断対象材31とトーチ12内の電極13との間にアーク放電を行う。このとき、ガス流通路22に供給される窒素ガスは、アーク放電によりプラズマ化され、ノズル19から旋回しながら噴射される。また、水流通路27へ供給されたインジェクション水は、ノズル19とノズルキャップ25との隙間26からノズル19の軸心に向かって噴出し、アーク11に吹き付けられて、アーク11を収束させる。
なお、プラズマ切断装置のトーチの構成は、アークをインジェクション水によって収束させる構成のものであれば、この実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0019】
続いて、本発明の一実施の形態に係るプラズマ切断方法について、前記したプラズマ切断装置10を参照しながら説明する。
図1に示すように、切断対象材31に対し、空間を設けてトーチ12を配置する。
そして、切断対象材31とトーチ12内の電極13との間にアーク放電を行うと共に、プラズマ化するための窒素ガス、アーク11に吹き付けるインジェクション水、及び電極13を冷却する冷却水を、それぞれトーチ12へ供給する。なお、窒素ガスは、例えば、窒素用ボンベの流量調整バルブにより、その供給量を調整する。また、インジェクション水及び冷却水は、例えば、予め水道水を純水化手段28によって精製処理し、この処理水を貯留タンクに貯留しておき、流量計でその流量を確認しながら流量調整バルブの開閉動作により、その供給量を調整する。
【0020】
ここで、アーク11に吹き付けるインジェクション水(以下、単に水ともいう)の電気伝導率は5μs/cm未満である。この理由について、図2を参照しながら説明する。なお、図2は、水の導電率と純水化手段の使用期間との関係を、3台のプラズマ切断装置(試験例1〜試験例3)を使用して調査した結果である。
試験例1(□)では、純水化手段で精製され、導電率を5μs/cm未満にした水を使用している間(使用期間14日)、切断対象材の切断を安定に実施できた。しかし、純水化手段による精製能力が低下し、水の導電率が5μs/cmを超える点P1(7.06μs/cm)で、切断対象材の切断中にトーチからの水の吹上げが起こった。
また、試験例2(△)では、純水化手段で精製され、導電率を5μs/cm未満にした水を使用している間(使用期間10日)、切断対象材の切断を安定に実施できた。しかし、純水化手段による精製能力が低下し、水の導電率が5μs/cmを超える点P2(8.01μs/cm)で、ノズルの傷みが顕著に現れ、切断の続行が不可能となった。
【0021】
そして、試験例3(●)では、純水化手段で精製され、導電率を5μs/cm未満にした水を使用している間(使用期間14日)、切断対象材の切断を安定に実施できた。しかし、純水化手段による精製能力が低下し、水の導電率が5μs/cmを超える点P3(7.34μs/cm)で切断対象材の切れが悪くなり、更に点P4(18.56μs/cm)でノズルの傷みが顕著に現れ、切断の続行が不可能となった。
このように、導電率が5μs/cm以上の水を使用することで、切断対象材の切断の続行が不可能になった。これは、水の導電率が高いため、アークの収束度を十分に低減できないためであると考えられる。
以上のことから、従来よりもアークを収束させ、安定した切断作業を行うため、水の導電率を5μs/cm未満、好ましくは4μs/cm以下、更に好ましくは3μs/cm以下にする。一方、下限値については、水の導電率が0μs/cmに近づくほど好ましいため規定していないが、現実的には0.5μs/cm、更には1μs/cm程度である。
【0022】
また、純水化手段28で精製した水は、冷却手段29によって25℃以下に温度調整している。
プラズマ状態では、一般的に、温度が低くなるほど水の導電性が低下し、アークの飛散を防止できる。このため、更なるアークの収束効果を得るために、水の温度の上限値を25℃としているが、好ましくは20℃、更に好ましくは15℃とする。一方、下限値については、水の温度が低ければ好ましいため規定していないが、例えば、冷却効率を考慮すれば、10℃程度とすることが好ましい。
【0023】
これにより、ノズル19とノズルキャップ25との間に形成される隙間26から、ノズル19の軸心方向に向けてインジェクション水を噴出させ、アーク11に吹き付けて、アーク11の収束度を向上できる。また、冷却水用供給管23から電極13内に冷却水を供給し、電極13の冷却を行う。
以上の方法により、図3に示すように、従来良好でなかったアーク32の収束度を、十分に向上させることが可能になる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。なお、ここでは、ノズルの寿命、切断対象材の切断速度、のろ付着量、切断面品質、及び切断可能厚さについて、それぞれ調査した。
ノズルの寿命は、ノズルの噴出口がプラズマ切断不能となるまで(ノズルの噴出口が荒れるまで)の期間を測定した。なお、切断対象材は同一厚みのステンレス板を使用した。
その結果、従来は、ノズル1個当たり16トンのステンレス板の切断処理が可能であったが、実施例では、ノズル1個当たり58トンのステンレス板の切断処理が可能になった。このように、切断処理量が3.6倍となり、ノズルの寿命向上に大きく寄与できることを確認できた。
【0025】
また、図4に切断対象材の切断速度と板厚との関係を示す。ここで、従来例の平均を破線で、実施例の平均を実線でそれぞれ示す。また、のろの付着状況については、実施例ののろの付着無し(のろ無)を○、のろの付着量少(のろ少)を●、従来例ののろの付着量少(のろ少)を△、のろの付着量多(のろ多)を▲でそれぞれ示している。
図4に示すように、同じ板厚では、従来例よりも実施例の方が、切断速度を速く(例えば、200mm/分以上)できることを確認できた。これは、アークの収束度を向上できたことによるものである。
また、のろの付着量についても、実施例ではほとんどなく、後工程でのろの除去作業がほとんど不要になり、作業性が良好であることを確認できた。
【0026】
そして、切断した切断対象材(板厚25mmと50mmのステンレス板)の切断面を観察したところ、従来例では、切断面が荒れており、しかものろの付着量も多かったが、実施例では、切断面が滑らかで、しかものろの付着量も大幅に低減できることを確認できた。このように、実施例では、従来例よりも切断面の品質向上に大きく寄与できることを確認できた。
なお、図4に示すように、切断対象材の切断可能厚さは、従来40mm程度であったが、実施例では60mm程度まで可能になり、プラズマ切断装置の適用範囲を、従来よりも広げることができることを確認できた。
【0027】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記の実施した形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のプラズマ切断装置及びプラズマ切断方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、ガスとして窒素ガスを使用した場合について説明したが、アルゴンガスを使用することも、またアルゴンガスと水素ガスの混合ガスを使用することも可能である。なお、更に高速度で切断する場合には、ガスに酸素を混ぜて使用することも可能であり、この場合、電極として、例えばハフニウム又はジルコニウムを水冷用銅に埋め込んだものを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプラズマ切断装置の説明図である。
【図2】プラズマ切断装置に使用するインジェクション水の導電率と純水化手段の使用期間との関係を示す説明図である。
【図3】従来例と本発明に係るプラズマ切断装置のアーク形状を比較した説明図である。
【図4】切断対象材の切断速度と板厚との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
10:プラズマ切断装置、11:アーク、12:トーチ、13:電極、14:トーチ本体、15:外壁面、16:隙間、17:外壁部、18:噴出口、19:ノズル、20:絶縁材、21:内壁面、22:ガス流通路、23:冷却水用供給管、24:噴出口、25:ノズルキャップ、26:隙間、27:水流通路、28:純水化手段、29:冷却手段、30:直流電源、31:切断対象材、32:アーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電極を備え、アーク放電によりガスをプラズマ化して噴射させ、該アークに周囲から水を吹き付けて収束させるトーチを有するプラズマ切断装置において、
純水化手段を設け、前記アークに吹き付ける水の電気伝導率を5μs/cm未満にしたことを特徴とするプラズマ切断装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ切断装置において、前記純水化手段と前記トーチとの間に冷却手段を設け、前記純水化手段で処理された水の温度を、前記冷却手段で25℃以下にすることを特徴とするプラズマ切断装置。
【請求項3】
アーク放電によりガスをプラズマ化し、該アークに周囲から水を吹き付け収束させ、切断対象材に前記プラズマ化したガスを噴射するプラズマ切断方法において、
水の電気伝導率を5μs/cm未満にして、前記アークに吹き付けることを特徴とするプラズマ切断方法。
【請求項4】
請求項3記載のプラズマ切断方法において、前記電気伝導率を調整した水の温度を25℃以下にすることを特徴とするプラズマ切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−900(P2007−900A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183713(P2005−183713)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000176626)三島光産株式会社 (40)
【Fターム(参考)】