説明

プラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置

【課題】凹みの有無にかかわらず被洗浄面の洗浄効果を向上させること。
【解決手段】プラズマ励起ガス洗浄装置を構成するプラズマ照射器1は、プラズマ照射ノズル2から被洗浄面11aにプラズマ励起ガスP/Gを照射することにより被洗浄面11aを洗浄する。プラズマ照射ノズル2には、その外周を取り囲むように設けられた噴射口3aを有するガス噴射ノズル3が設けられる。プラズマ照射ノズル2からプラズマ励起ガスP/Gを照射するときに、ガス噴射ノズル3の噴射口3aから窒素ガスN/Gを噴射するようになっている。これにより、照射されるプラズマ励起ガスP/Gの外周をガスカーテンG/Cにより取り囲みながらプラズマ励起ガスP/Gを被洗浄面11aに照射するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマ励起ガスを照射することにより被洗浄面を洗浄するプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1乃至3に記載される技術が知られている。特に、特許文献1には、電気部品の所要の領域部分にプラズマ化したガス気流(プラズマ励起ガス)の照射が可能なノズルを有するプラズマ照射器を用いて、その領域部分にプラズマ励起ガスを照射して洗浄する洗浄方法が記載される。また、特許文献2には、対向する電極間にITOガラスを位置させると共に、その電極間にノズルから処理ガスを流し、その電極間にてグロー放電プラズマを発生させて処理ガスを活性化させることによりITOガラス表面をプラズマ励起ガスにより洗浄処理することが記載される。
【0003】
ここで、洗浄対象として、プラスチック塗装前の素地表面に付着した油脂成分等を、プラズマ励起ガスにより洗浄除去することが考えられる。また、この洗浄方法を、プラスチック成形物の生産ラインに組み入れることが考えられる。この洗浄方法に、特許文献1又は2に記載の技術を採用することが考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−28597号公報
【特許文献2】特開2004−121939号公報
【特許文献3】特公昭62−55120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1及び2に記載の洗浄方法では、プラズマ照射器やノズル及び対向電極を接近させることができない凹んだ部分の素地表面には、プラズマ励起ガスが当たり難く、油脂成分等の汚れを完全に除去できない懸念がある。このように汚れを完全に除去できない状態で、後工程として素地表面に塗装等の後工程を行ったのでは、塗装後の製品の外観品質を損なうおそれがある。
【0006】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、凹みの有無にかかわらず被洗浄面の洗浄効果を向上させることを可能としたプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、プラズマ照射ノズルから被洗浄面にプラズマ励起ガスを照射することにより被洗浄面を洗浄するプラズマ励起ガス洗浄方法であって、照射されるプラズマ励起ガスの外周をガスカーテンにより取り囲みながらプラズマ励起ガスを被洗浄面に照射することを趣旨とする。
【0008】
上記発明の構成によれば、プラズマ照射ノズルからプラズマ励起ガスが被洗浄面に照射されることにより、プラズマが被洗浄面上の汚染物質に作用して化学変化が生じ、その汚染物質が被洗浄面から除去される。ここで、プラズマ照射ノズルから照射されるプラズマ励起ガスの外周がガスカーテンにより取り囲まれるので、プラズマ励起ガスが外気から遮断され、プラズマ励起ガスの到達距離が伸びる。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力が、プラズマ照射ノズルから照射されるプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことを趣旨とする。
【0010】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力がプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことから、ガスカーテンがプラズマ励起ガスの勢いで崩されることがない。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、プラズマ照射ノズルから被洗浄面にプラズマ励起ガスを照射することにより被洗浄面を洗浄するプラズマ励起ガス洗浄装置であって、プラズマ照射ノズルの外周を取り囲むように設けられた噴射口を有するガス噴射ノズルを備え、プラズマ照射ノズルからプラズマ励起ガスを照射するときに、ガス噴射ノズルの噴射口からガスを噴射することを趣旨とする。
【0012】
上記発明の構成によれば、プラズマ照射ノズルからプラズマ励起ガスが被洗浄面に照射されることにより、プラズマが被洗浄面上の汚染物質に作用して化学変化が生じ、その汚染物質が被洗浄面から除去される。ここで、プラズマ照射ノズルの外周を取り囲むようにガス噴射ノズルの噴射口が設けられるので、ガス噴射ノズルから噴射されるガスにより、プラズマ励起ガスを取り囲むようなガスカーテンが形成される。従って、プラズマ照射ノズルから被洗浄面に照射されるプラズマ励起ガスの外周がガスカーテンにより取り囲まれるので、プラズマ励起ガスが外気から遮断され、プラズマ励起ガスの到達距離が伸びる。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力が、プラズマ照射ノズルから照射されるプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことを趣旨とする。
【0014】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力がプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことから、ガスカーテンがプラズマ励起ガスの勢いで崩されることがない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、凹みの有無にかかわらず被洗浄面の洗浄効果を向上させることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ガスカーテンにより外気を確実に遮断することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、凹みの有無にかかわらず被洗浄面の洗浄効果を向上させることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、ガスカーテンにより外気を確実に遮断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
この実施形態では、プラスチック製品を塗装する前に、その素地表面を被洗浄面としてプラズマ励起ガスを照射することにより素地表面を洗浄する場合に具体化して説明する。図1に、この実施形態のプラズマ励起ガス洗浄装置を構成するプラズマ照射器1の一部を断面図により示す。図2に、その照射器1の先端面を平面図により示す。このプラズマ照射器1は、プラズマ照射ノズル2と、そのプラズマ照射ノズル2の外周を取り囲むように設けられたガス噴射ノズル3とを備える。このプラズマ照射器1は、プラズマ照射ノズル2から、プラスチック製品(この場合、自動車用の「プラスチック製バンパー」)11の素地表面11aにプラズマ励起ガスP/Gを照射することにより、その素地表面11aを洗浄するようになっている。図2に示すように、プラズマ照射ノズル2の照射口2aは円形状をなす。ガス噴射ノズル3の噴射口3aは、その照射口2aの外周を取り囲む円環状をなす。プラズマ照射ノズル2とガス噴射ノズル3との間には、所定の隙間4が設けられる。そして、プラズマ照射ノズル2の照射口2aからプラズマ励起ガスP/Gを照射するときに、ガス噴射ノズル3の噴射口3aから窒素ガスN/Gを噴射するようになっている。
【0021】
この実施形態で、プラズマ励起ガスP/Gは、窒素ガスをプラズマ励起することにより生成される。この実施形態で、プラズマ励起ガスP/Gは、以下の構成により生成される。すなわち、プラズマ照射ノズル2と、このノズル2の中に設けられたトーチ(図示略)とを備える。プラズマ照射ノズル2とトーチの何れか一方が陰極、他方が陽極として機能する。そして、洗浄時には、プラズマ照射ノズル2の中に反応用の窒素ガスを供給しながらノズル2とトーチとの間にパルス放電を発生させる。これにより、プラズマ照射ノズル2の中の窒素ガスを加熱して電離させ、イオンと電子となったプラズマ状態とする。このようにプラズマ励起させた窒素ガス(プラズマ励起ガス)P/Gを、プラズマ照射ノズル2の照射口2aからプラズマジェットとして噴出させ、バンパー11の素地表面11aに照射する。上記のように「パルス放電」とすることにより、放電電流がトーチ内部にとどまり(放電がトーチ内部だけに限定され)、その結果として、素地表面11aへの熱負荷を軽減することができる。この実施形態で、プラズマ照射ノズル2に供給される窒素ガスの流量は、例えば「35(リットル/分)」に設定される。また、窒素ガスのプラズマ照射ノズル2の内部の圧力は、例えば「1.03〜1.06(気圧)」に設定される。ここで、反応用ガスとして、窒素ガス以外に、酸素、アルゴンガスや空気を使用することができる。
【0022】
この実施形態で、ガス噴射ノズル3から噴射される窒素ガスN/Gは、ポンプにより高圧に加圧された窒素ガスが、このノズル3に供給されるようになっている。この実施形態で、ガス噴射ノズル3に供給される窒素ガスN/Gの流量は、例えば「35〜700(リットル/分)」に、その供給圧力は、例えば「1.08(気圧)」に設定される。この実施形態では、ガス噴射ノズル3から噴射される窒素ガスN/Gの圧力は、プラズマ照射ノズル2から照射されるプラズマ励起ガスP/Gの圧力よりも高く設定される。その圧力差は、「3(kgf)」程度が最適と考えられる。ここでも、窒素ガスN/Gの他に、酸素、アルゴンガスや空気を使用することができる。
【0023】
この実施形態では、上記したプラズマ照射器1を使用することにより、プラズマ照射ノズル2から素地表面11aにプラズマ励起ガスP/Gを照射することにより素地表面11aを洗浄するに際して、その照射されるプラズマ励起ガスP/Gの外周を窒素ガスN/GよりなるガスカーテンG/Cにより取り囲みながらプラズマ励起ガスP/Gを素地表面11aに照射するというプラズマ励起ガス洗浄方法が実施される。
【0024】
以上説明したこの実施形態におけるプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置によれば、プラズマ照射器1のプラズマ照射ノズル2からプラズマ励起ガスP/Gが、プラスチック製バンパー11の素地表面11aに照射されることにより、プラズマが素地表面11a上の油脂成分等の汚染物質に作用して化学変化が生じ、その汚染物質が素地表面11aから除去される。ここで、このプラズマ照射器1では、プラズマ照射ノズル2の照射口2aの外周を取り囲むようにガス噴射ノズル3の噴射口3aが設けられるので、図1に示すように、ガス噴射ノズル3から噴射される窒素ガスN/Gにより、プラズマ励起ガスP/Gを取り囲むようなガスカーテンG/Cが形成される。従って、プラズマ照射ノズル2から素地表面11aに照射されるプラズマ励起ガスP/Gの外周がガスカーテンG/Cにより取り囲まれて外気から遮断され、プラズマ励起ガスP/Gの到達距離が伸びる。このため、図1に示すように、プラスチック製バンパー11の平坦な素地表面11aのみならず、図3に示すように、このプラズマ照射器1の先端を近付けることができない、バンパー11の凹み12の中の素地表面12aについても好適に洗浄することができる。この意味で、凹み12の有無にかかわらずバンパー11の素地表面11a,12aの洗浄効果を向上させることができる。加えて、ガスカーテンG/Cを形成する窒素ガスN/Gが素地表面11a、12aに勢いよく衝突するので、その勢いにより汚損物質を吹き飛ばすという効果を得ることもできる。その意味で、プラズマ励起ガスP/Gだけで洗浄する場合に比べて洗浄効果を一層向上させることができる。
【0025】
また、この実施形態では、ガス噴射ノズル3から噴射される窒素ガスN/Gの圧力が、プラズマ励起ガスP/Gの圧力よりも高いことから、ガスカーテンG/Cがプラズマ励起ガスP/Gの勢いで崩れることがない。このため、プラズマ励起ガスP/GをガスカーテンG/Cにより外気から確実に遮断することができる。この意味で、このプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置を使用しての洗浄に係る信頼性を向上させることができる。
【0026】
ここで、上記したプラズマ励起ガス洗浄方法及びプラズマ励起ガス洗浄装置を、プラスチック製バンパーの生産ラインに組み入れて採用した場合について説明する。
【0027】
図4に、このバンパーの生産工程をフローチャートにより示す。以下、図4に示す番号に従って説明する。先ず、(1)の工程では、バンパーを射出成形する。次に、(2)の工程では、バンパー素地裏面のワイピング(アルコール脱脂)を行う。この工程では、3名の作業者を要する。次に、(3)の工程では、後工程の塗装に備えてバンパー表面のマスキングを行う。この工程では、3名の作業者を要する。次に、(4)の工程では、エアブローを行う。この工程では、2名の作業者を要する。
【0028】
その後、(5)の工程では、素地表面の油脂成分等を除去するためにプラズマ励起ガス洗浄を行う。従来は、油脂成分等を除去するために、(5’)に示すように、素地表面のワイピングが行われ、そのために3名の作業者を要していた。これに対し、この実施形態では、プラズマ励起ガス洗浄により、油脂成分等を除去する同じ目的を達成することができる。また、この洗浄を機械装置により自動化することにより、従来のように作業者による手間を省くことができる。この自動化の一例として、上記したプラズマ照射器1をロボットに持たせて、この照射器1をロボットにより製品表面に近付けて前後左右に移動させる。また、製品表面の凸凹形状に合わせて、プラズマ照射器1をロボットにより上下にも移動させることが考えられる。
【0029】
その後、(6)の工程では、洗浄後の素地表面にプライマー塗布をする。このようにして、バンパーの塗装前に、その素地表面に付着した油脂成分等を、プラズマ励起ガス洗浄により除去することができる。これにより、汚れを完全に除去した状態で、後工程としてバンパーの素地表面に塗装を行うことができ、塗装後の製品としての外観品質を向上させることができる。
【0030】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
【0031】
例えば、前記実施形態では、図1,3に示すように、プラズマ励起ガスP/GとガスカーテンG/Cとの間に空隙5ができたが、図5に示すように、プラズマ励起ガスP/GとガスカーテンG/Cとの間に空隙を生じさせないように、両者P/G,G/Cを接近させてもよい。この場合、プラズマ照射ノズル2の照射口2aに対し、ガス噴射ノズル3の噴射口3aをより接近させると共に、その窒素ガスN/Gの噴射角度を内方へ大きく傾ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プラズマ励起ガス洗浄装置を構成するプラズマ照射器の一部を示す断面図。
【図2】プラズマ照射器の先端面を示す平面図。
【図3】プラズマ照射器の一部を示す断面図。
【図4】バンパー生産工程を示すフローチャート。
【図5】プラズマ照射器の一部を示す断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 プラズマ照射器
2 プラズマ照射ノズル
2a 照射口
3 ガス噴射ノズル
3a 噴射口
11 バンパー
11a 素地表面
12 凹み
12a 素地表面
P/G プラズマ励起ガス
N/G 窒素ガス
G/C ガスカーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ照射ノズルから被洗浄面にプラズマ励起ガスを照射することにより前記被洗浄面を洗浄するプラズマ励起ガス洗浄方法であって、
前記照射されるプラズマ励起ガスの外周をガスカーテンにより取り囲みながら前記プラズマ励起ガスを前記被洗浄面に照射することを特徴とするプラズマ励起ガス洗浄方法。
【請求項2】
前記ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力が、前記プラズマ照射ノズルから照射されるプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ励起ガス洗浄方法。
【請求項3】
プラズマ照射ノズルから被洗浄面にプラズマ励起ガスを照射することにより前記被洗浄面を洗浄するプラズマ励起ガス洗浄装置であって、
前記プラズマ照射ノズルの外周を取り囲むように設けられた噴射口を有するガス噴射ノズルを備え、前記プラズマ照射ノズルから前記プラズマ励起ガスを照射するときに、前記ガス噴射ノズルの前記噴射口からガスを噴射することを特徴とするプラズマ励起ガス洗浄装置。
【請求項4】
前記ガス噴射ノズルから噴射されるガスの圧力が、前記プラズマ照射ノズルから照射されるプラズマ励起ガスの圧力よりも高いことを特徴とする請求項3に記載のプラズマ励起ガス洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−18260(P2009−18260A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183331(P2007−183331)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390020422)日進機工株式会社 (7)
【出願人】(592032636)学校法人トヨタ学園 (57)
【Fターム(参考)】