説明

プラズマ成膜装置

【課題】簡易な構成で、アノードの清掃を容易に行うことができ、また、生産効率が高いプラズマ成膜装置を提供することを目的とする。
【解決手段】容器101と、プラズマを発生させるプラズマガン1と、プラズマを受けるアノード48と、容器101の一部を成しその内部に成膜空間42を有する成膜室4と、アノード48と成膜空間42との間に設けられ、容器101の内部空間のアノード48に対向する位置に進出し及びそこから退避することにより、アノード48に対して成膜空間42を遮蔽及び開放し、かつ、放電電極として機能する遮蔽部材52と、遮蔽部材52を進出及び退避するよう駆動するための駆動機構53と、アノード48と遮蔽部材52との間に放電によりプラズマを発生するための電圧を印加する電源36と、を備える、プラズマ成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ成膜装置の構造、特にアノード周辺の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ成膜装置は、プラズマガンから発生したプラズマをイオン源として用いて成膜する装置である。このような成膜装置では、基板を成膜する成膜材料(例えば、絶縁材料)の一部が、発生したプラズマを受けるアノードに付着する。これにより、アノードに絶縁膜が形成され、プラズマガン(正確には、カソード)−アノード間の見かけ上の抵抗値が高くなり、主電源からプラズマガンに印加する放電電圧が高くなる。そして、プラズマガン−アノード間の抵抗値が、主電源の電圧限界を超えると放電が起こらなくなるという問題があった。
【0003】
また、プラズマ成膜装置に設けられているアノードは、通常は、チャンバを構成する壁にボルトで締結して取り付けられている。このため、アノードを清掃するためには、このボルトを取り外して行わなければならず、アノードの清掃時間がかかり、また、ボルトを取り外すことによって必要となるメンテナンスの作業時間がかかるという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、アノードをスパッタリングするイオンドーピング装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されているイオンドーピング装置では、イオン源内壁(チャンバ内壁)とフィラメントの間でプラズマを発生させ、このプラズマを利用してアノード電極をスパッタリングし、アノード電極上の堆積物を除去することが可能である。
【特許文献1】特開2000−340165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなイオンドーピング装置では、除去した堆積物は、チャンバ内を浮遊し、チャンバ内に配設されている基板やターゲット等に付着するため、基板に不純物が成膜されるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、簡易な構成で、アノードの清掃を容易に行うことができ、基板等に不純物が成膜されないプラズマ成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明に係るプラズマ成膜装置は、内部を減圧可能な容器と、該容器の内部にプラズマを発生させるプラズマガンと、前記容器の内部において前記プラズマを受けるアノードと、前記プラズマガンで発生したプラズマを前記アノードの側へ流動させるプラズマ流動機構と、前記容器の一部を成すように形成され、その内部に、成膜空間を有し、基板及びターゲットが前記流動するプラズマを挟んで対抗するように設けられた成膜室と、前記アノードと前記成膜空間との間に設けられ、前記容器の内部空間の前記アノードに対向する位置に進出し及びそこから退避することにより、前記アノードに対して前記成膜空間を遮蔽及び開放し、かつ、放電電極として機能する遮蔽部材と、該遮蔽部材を前記進出及び退避するよう駆動するための駆動機構と、前記アノードと前記遮蔽部材との間に放電によりプラズマを発生するための電圧を印加する電源と、を備える。
【0008】
これにより、簡易な構成で、アノードの清掃を容易に行うことができ、基板に不純物が成膜されない。
【0009】
本発明のプラズマ成膜装置では、前記電源を前記アノード及び前記ターゲットに選択的に接続するための第1切り替え器を備えてもよい。
【0010】
本発明のプラズマ成膜装置では、前記電源を前記アノード及び前記基板に選択的に接続するための第2切り替え器を備えてもよい。
【0011】
本発明に係るプラズマ成膜装置では、前記容器の外部には、前記流動するプラズマをシート状に変形するシートプラズマ変形機構が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラズマ成膜装置によれば、簡易な構成で、アノードの清掃を容易に行うことができ、基板に不純物が成膜されないので生産効率を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るプラズマ成膜装置の概略構成を示す模式図である。図2は、図1に示したプラズマ成膜装置のII−II線に沿った断面を示す断面図である。なお、図2においては、一部を省略している。また、図1及び図2において、プラズマ成膜装置の構造における方向を、便宜上、三次元直交座標系のX軸、Y軸及びZ軸の方向で表わす。
【0014】
まず、本実施の形態1に係るプラズマ成膜装置の構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示すように、プラズマ成膜装置100は、YZ平面において略十字形状をなしており、Z軸方向から見て順番に、プラズマガン1と、シートプラズマ変形室2と、成膜室4と、アノード室6と、を有している。プラズマガン1の一端は、その端壁を構成する第1フランジ12によって閉鎖されている。プラズマガン1の他端は、プラズマガン1とシートプラズマ変形室2とが気密に連通するようにしてシートプラズマ変形室2の一端に接続されている。シートプラズマ変形室2の他端は、シートプラズマ変形室2と成膜室4とが気密に連通するようにして成膜室4の一端に第1ボトルネック部3を介して接続されている。成膜室4の他端は、成膜室4とアノード室6とが気密に連通するようにしてアノード室6の一端に第2ボトルネック部5を介して接続されている。アノード室6の他端はその端壁を構成する第2フランジ47によって閉鎖されている。このようにして、プラズマガン1と、シートプラズマ変形室2と、第1ボトルネック部3と、成膜室4と、第2ボトルネック部5と、アノード室6と、第1フランジ12と、第2フランジ47と、が容器101を構成している。容器101の内部は、後述するように減圧可能である。
【0016】
プラズマガン1は、円筒状の第1筒部材10を有している。第1筒部材10の内部空間により、放電空間11が形成される。第1筒部材10の一方の端部は、放電空間11を塞ぐように第1フランジ12が配置されている。第1フランジ12には、第1フランジ12の中心部を気密的に貫通して、Z軸に沿って延びるように、タンタル(Ta)で構成された円筒状の補助陰極13が配設されている。補助陰極13の基端は、図示されないアルゴン(Ar)ガスタンクと適宜な配管により接続されており、補助陰極13の先端からArガスが放電空間11内に供給される。また、補助陰極13の先端近傍の外周面には、6ホウ化ランタン(LaB6)で構成された円環状の主陰極14が設けられている。補助陰極13と主陰極14によって、カソード15が構成されている。カソード15は、直流電源からなる主電源18の負極と抵抗体R1を介して電気的に接続されている。
【0017】
プラズマガン1には、補助陰極13と同軸状にZ軸に沿って延びるように、補助陰極13よりも径の大きいモリブデン(Mo)、又は、タングステン(W)で構成された円筒状の保護部材16が、第1フランジ12に気密的に配設されている。保護部材16の先端には、タングステンで構成された円環状の窓部材17が設けられている。この保護部材16と窓部材17により、カソード15が保護される。
【0018】
プラズマガン1は、一対の円環状の中間電極19、20を有している。これらの中間電極19、20は、それぞれ主電源18と適宜の抵抗体R2、R3を介して電気的に接続され、所定のプラス電圧が中間電極19、20に印加される。これにより、カソード15で発生したアーク放電が維持され、プラズマガン1の放電空間11には、荷電粒子(ここではAr+と電子)の集合体としてのプラズマが形成される。
【0019】
第1筒部材10の径方向の外側(プラズマガン1の周囲)には、磁力の強さをコントロールできる環状の第1電磁コイル(プラズマ流動機構)21が、第1筒部材の周壁を取り囲むように設けられている。この第1電磁コイル21に電流を流すことにより、プラズマガン1の放電空間11には、コイル磁界及び中間電極19、20による電界に基づく磁束密度のZ軸方向の勾配が形成される。このような磁束密度のZ軸方向の勾配により、プラズマを構成する荷電粒子は、この放電空間からZ軸方向に運動するよう、磁力線の回りを旋回しながらZ軸方向に進み、これらの荷電粒子の集合体としてのプラズマが、略等密度分布してなる円柱状のプラズマ(以下、円柱プラズマという)CPとして、シートプラズマ変形室2へ引き出される。
【0020】
第一筒部材10の他方の端部には、シートプラズマ変形室2が設けられており、シートプラズマ変形室2とプラズマガン1とは、適宜な手段により、気密的に、かつ、電気的に絶縁されて接続されている。
【0021】
シートプラズマ変形室2は、Z軸方向の軸を中心とした第2筒部材22を有しており、第2筒部材22は、非磁性体(例えば、ステンレスやガラス)で構成されている。そして、第2筒部材22の内部空間により、輸送空間23が形成される。
【0022】
また、第2筒部材22の適所には、バルブ24により開閉可能な真空ポンプ接続口25が設けられている。真空ポンプ接続口25には、図示されない真空ポンプ(例えば、ターボポンプ)が接続されている。この真空ポンプにより、真空引きされ、シートプラズマ変形室2の内部空間(輸送空間23)は、円柱プラズマCPを輸送可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0023】
さらに、第2筒部材22の外側(シートプラズマ変形室2の周囲)には、第2筒部材22(正確には、輸送空間23)を挟んで、互いに同極(ここではN極)が対向するようにして、Y軸方向に磁化され、かつ、X軸方向に延びる一対の角形の永久磁石26A、26Bが設けられている。
【0024】
また、永久磁石26A、26Bのカソード15に近い側には、環状の成形電磁コイル27(空心コイル)が、第2筒部材22の周面を囲むように配設されている。なお、成形電磁コイル27には、カソード15側をS極、アノード50側をN極とする向きの電流が通電されている。この永久磁石26A、26Bと成形電磁コイル27からシートプラズマ変形機構102が構成される。
【0025】
そして、成形電磁コイル27に電流を流すことによって、シートプラズマ変形室2の輸送空間23に形成されるコイル磁界と、永久磁石26A、26Bによって、この輸送空間23に形成される磁石磁界との相互作用により、シートプラズマ変形室2の輸送空間23を円柱プラズマCPがZ軸方向に移動する。この間に、円柱プラズマCPは、XZ平面に沿って拡がる、均一なシート状のプラズマ(以下、シートプラズマという)SPに変形される(図2参照)。このようにして変形されたシートプラズマSPは、成膜室4へ流入する。
【0026】
成膜室4は、Y軸方向の軸を中心とした円筒状の第3筒部材28を有しており、第3筒部材28は、非磁性体(例えば、ステンレス)で構成されている。第3筒部材28の一方の端部は、第1蓋部材29で閉鎖されており、また、他方の端部は、第2蓋部材30で閉鎖されている。
【0027】
第3筒部材28のシートプラズマ変形室2近傍側の周面の中央部には、X軸方向に延びる第1スリット孔31が形成されている。この第1スリット孔31には、シートプラズマ変形室2と成膜室4の内部空間が連続するように、筒状の第1ボトルネック部3が気密的に設けられている。なお、第1ボトルネック部3の高さ(Y軸方向寸法)及び長さ(Z軸方向寸法)並びに幅(X軸方向寸法)は、シートプラズマSPを適切に通過するように設計されている。また、第1スリット孔31の幅は、変形されたシートプラズマSPの幅よりも大きく形成されていればよく、適宜な大きさに設計される。これにより、シートプラズマSPを構成しない余分なアルゴンイオン(Ar+)と電子が、成膜室4に導入されるのを防止することができ、シートプラズマSPの密度を高い状態に保つことができる。
【0028】
また、第3筒部材28の内部には、シートプラズマSPを挟んで対抗するように、基板ホルダ34と、成膜材料としてターゲット37と、が配設されている。基板ホルダ34は、基板33を保持しており、基板ホルダ34は、ホルダ部34aと支持部34bを有している。支持部34bは、第2蓋部材30を気密的に、かつ、進退自在に貫通し、第2駆動機構35と接続されており、Y軸方向に移動可能に構成されている。また、基板ホルダ34は、第2バイアス電源32の負極と適宜な配線により電気的に接続されており、第2バイアス電源32は、ホルダ部34aにシートプラズマSPに対して負のバイアス電圧を印加する。なお、基板ホルダ34の支持部34bと第2蓋部材30とは、絶縁されている。
一方、ターゲット37は、ターゲットホルダ38に保持されており、該ターゲットホルダ38は、ホルダ部38aと支持部38bを有している。支持部38bは、第1蓋部材29を気密的に、かつ、進退自在に貫通し、第1駆動機構39と接続されており、Y軸方向に移動可能に構成されている。また、ターゲットホルダ38は、第1バイアス電源36の負極と第1切り替え器50を介して適宜な配線により電気的に接続されている。第1切り替え器50は、第1バイアス電源36の負極を、ターゲットホルダ38の支持部38bと、後述する第1スイッチ51と、に選択的に接続する。第1切り替え器50が、第1バイアス電源36とターゲットホルダ38を電気的に接続すると、第1バイアス電源36は、ホルダ部38aにシートプラズマSPに対して負のバイアス電圧を印加する。なお、ターゲットホルダ38の支持部38bと第1蓋部材29とは、絶縁されている。また、第1駆動機構39及び第2駆動機構35は、公知の駆動機構を使用しており、例えば、エアシリンダ、伝導モータによるねじ送り方式(ボールネジ機構)、ラック&ピニオン方式、手動によるねじ送り方式等を使用することができる。
【0029】
そして、この基板33とターゲット37との間の空間が、成膜空間42を構成する。
【0030】
また、第2蓋部材30の適所には、バルブ40により開閉可能な真空ポンプ接続口41が設けられている。真空ポンプ接続口41には、図示されない真空ポンプが接続されている。この真空ポンプ(例えばターボポンプ)により真空引きされ、第3筒部材28の内部空間は、スパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0031】
第3筒部材28の外部には、磁力の強さをコントロールできる第2電磁コイル43及び第3電磁コイル44が、互いに対を成して第3筒部材28の周面を囲むように配設されている。第2電磁コイル43と第3電磁コイル44は、互いに異極同士(ここでは、第2電磁コイル43はN極、第3電磁コイル44はS極)を向かい合わせて設けられている。
【0032】
この第2電磁コイル43及び第3電磁コイル44に電流を流すことにより作られるコイル磁界(例えば5G〜300G程度)によって、シートプラズマSPの幅方向(X軸方向)は、成膜室4の成膜空間42を跨ぐようにZ軸方向に移動する間に、ミラー磁界として、その幅方向拡散を適切に抑えるように形状を整形される。
【0033】
また、第3筒部材28のアノード室6近傍側の周面の中央部には、X軸方向に延びる第2スリット孔45が形成されている。この第2スリット孔45には、成膜室4とアノード室6の内部空間が連続するように、筒状の第2ボトルネック部5が気密的に設けられている。なお、第2ボトルネック部5の高さ(Y軸方向寸法)及び長さ(Z軸方向寸法)並びに幅(X軸方向寸法)は、第1ボトルネック部3と同様にシートプラズマSPを適切に通過するように設計されている。また、第2スリット孔45の高さ及び幅は、上述した第1スリット孔31と同様に構成されている。
【0034】
アノード室6は、第2ボトルネック部5を介して成膜室4(正確には、第3筒部材28)と連通するZ軸方向に中心軸を有する第4筒部材46を有している。第4筒部材46は、非磁性体(例えば、ステンレス)で構成されている。第4筒部材46の一方の(成膜室4側)端部には、第2ボトルネック部5が気密的に設けられている。そして、他方の端部には、その内部空間を塞ぐように第2フランジ47が気密的に設けられている。
【0035】
第2フランジ47のカソード15に近い方の面には、アノード48が設けられている。アノード48は、主電源18の正極と第1スイッチ51を介して適宜な配線により電気的に接続されている。第1スイッチ51は、アノード48を主電源18の正極と、第1切り替え器50と、に選択的に接続する。第1スイッチ51が、アノード48を主電源18に接続すると、主電源18によってアノード48には、カソード15との間で適宜の正の電圧(例えば100V)が印加される。
【0036】
また、第4筒部材46の内部には、遮蔽部材52が配設されており、遮蔽部材52は、遮蔽板52aと支持部材52bを有している。遮蔽板52aは、導電性を有しており、アノード48と対抗する面が、アノード48と同じか、又は大きくなるように構成されている。支持部材52bは、導電性部材で構成され、遮蔽板52aを支持し、かつ、これと電気的に接続されている。また、支持部材52bは、第4筒部材46を気密的に、かつ、進退自在に貫通し、駆動機構53と接続されている。また、遮蔽部材52の支持部材52bと第4筒部材46とは絶縁されており、支持部材52bは、適宜な配線により第2スイッチ54の一端と接続されている。そして、第2スイッチ54の他端は、接地されている。駆動機構53は、遮蔽部材52の遮断板52aをY軸方向において、容器101の内部空間のアノード48に対向する位置に進出し、そして、そこから退避するよう駆動する。これにより、遮蔽部材52が、容器101内のアノード48に対して成膜空間42を遮蔽及び開放する。
【0037】
なお、本実施の形態では、遮蔽部材52(正確には、遮蔽板52a)をY軸方向に移動させることにより、容器101内のアノード48に対して成膜空間42を遮蔽及び開放したが、これに限定されず、支持部材52bを軸にして遮蔽板52aを回動させることにより、容器101内のアノード48に対して成膜空間42を遮蔽及び開放してもよい。また、遮蔽部材52(正確には、支持部材52b)を第4筒部材に配設したが、これに限定されず、容器101内の成膜空間42とアノード48との間、例えば、第2ボトルネック部5等に配設してもよい。
【0038】
第2フランジ47の裏面(カソード15から遠い方の面)には、アノード48側をS極、大気側をN極とした永久磁石49が配置されている。これにより、永久磁石49のN極から出てS極に入るXZ平面に沿った磁力線により、アノード48に向かうシートプラズマSPの幅方向(X軸方向)の拡散を抑えるようにシートプラズマSPが幅方向に収束され、シートプラズマSPの荷電粒子が、アノード48に適切に回収される。
【0039】
また、プラズマ成膜装置100は、その動作を制御する制御装置201を備えている。
【0040】
なお、本実施の形態では、プラズマガン1、シートプラズマ変形室2及びアノード室6のXY平面に平行な断面を、円形であると説明したが、これに限定されるものではなく、多角形等であってもよい。また、成膜室4のXZ平面に平行な断面を、円形であると説明したが、これに限定されるものではなく、多角形等であってもよい。
【0041】
次に、本実施の形態1に係るプラズマ成膜装置100の動作について説明する。この動作は、制御装置201の制御によって実現される。
【0042】
まず、プラズマ成膜装置100の成膜室4内に、基板33とターゲット37が搬入される。そして、図示されない真空ポンプの真空引きにより、プラズマ成膜装置100を構成するプラズマガン1、シートプラズマ変形室2、成膜室4及びアノード室6内のそれぞれが真空状態になる。このとき、真空ポンプ接続口が2箇所に設けられているので、プラズマ成膜装置100内の減圧を迅速に行うことができる。
【0043】
次に、第1バイアス電源36をターゲットホルダ38に接続するように、第1切り替え器50を切り替え、アノード48を主電源18に接続するように、第1スイッチ51を切り替える。また、第2スイッチ54をOFFにして遮蔽部材52をグランドと切断する。そして、プラズマガン1に設けられた補助陰極13の先端から、Arガスが放電空間11内に供給され、補助陰極13でグロー放電が行われる。このグロー放電により、補助陰極13の先端部分の温度が上昇すると、この熱で主陰極14が加熱されて高温になり、アーク放電が行われる。このようにして、カソード15からプラズマ放電誘発用熱電子が放出され、プラズマが発生する。発生したプラズマは、中間電極19、20による電界と第1電磁コイル21による磁界により、カソード15からアノード48側に引き出され、円柱状に成形される。そして、形成された円柱プラズマCPは、第1電磁コイル21によって形成される磁場の磁力線に沿ってシートプラズマ変形室2に導かれる。
【0044】
シートプラズマ変形室2に導かれた円柱プラズマCPは、一対の永久磁石26A、26Bと成形電磁コイル27から発生する磁場によってシート状に広がって(XZ平面に延びるように)、シートプラズマSPに変形される(図2参照)。このシートプラズマSPは、第1ボトルネック部3及び第1スリット孔31を通過して成膜室4に導かれる。
【0045】
成膜室4に導入されたシートプラズマSPは、第2電磁コイル43、第3電磁コイル44による磁場によって、幅方向の形状が整えられ、ターゲット37と基板33の間の空間にまで導かれる。ターゲット37には、ターゲットホルダ38を介して、シートプラズマSPに対して負のバイアス電圧が印加される。また、基板33にも、基板ホルダ34を介して、シートプラズマSPに対して負のバイアス電圧が印加される。ターゲット37が負にバイアスされることにより、Ar+イオンがターゲットを効率よくスパッタする。スパッタされたターゲット37を構成する原子は、垂直方向にシートプラズマSP中を通過し、このとき陽イオンにイオン化される。この陽イオンは、負にバイアスされた基板33上に堆積し、電子を受け取り、基板33を成膜する。
【0046】
そして、シートプラズマSPは、永久磁石49の磁力線により幅方向に収束され、アノード48が、シートプラズマSPを受ける。
【0047】
次に、本実施の形態1に係るプラズマ成膜装置100のアノード48の清掃について、図1乃至図4を参照しながら説明する。
【0048】
図3は、図1に示したプラズマ成膜装置100のアノード48と遮蔽部材52の遮断板52aとの間でプラズマを発生させ、アノード48を清掃している状態を示す模式図である。図4は、図3に示したプラズマ成膜装置100のIV−IV線に沿った断面を示す断面図である。なお、図4においては、一部を省略している。また、図3及び図4において、プラズマ成膜装置の構造における方向を、便宜上、三次元直交座標系のX軸、Y軸及びZ軸の方向で表わす。
【0049】
上述のように、スパッタされたターゲット37を構成する原子は、シートプラズマSP中を通過するときに、陽イオンにイオン化される。そして、この陽イオンの一部が、第3電磁コイル44の磁場や永久磁石49の磁力線により、アノード48にまで導かれ、アノード48上に堆積して絶縁膜等が形成される。
【0050】
この形成された絶縁膜を放置すると、カソード15−アノード48間の電圧値が上昇し、プラズマが形成されなくなるため、アノード48を清掃しなければならないが、本実施の形態では、以下のようにしてアノード48を清掃する。
【0051】
図1に示すように遮蔽部材52の遮蔽板52aは、容器101内の内部空間のアノード48に対向する位置から退避され、アノード48に対して成膜空間42を開放しており、また、容器101内は、プラズマを発生させることができる程度にまで真空引きされているとする。
【0052】
まず、駆動機構53によって、遮蔽部材52の遮蔽板52aが、容器101内のアノード48に対向する位置にまで駆動され、アノード48に対して成膜空間42が遮蔽される(図3参照)。そして、第1バイアス電源36とアノード48とが電気的に接続されるように、第1切り替え器50及び第1スイッチ51を切り替える。また、第2スイッチ54をONにして、遮蔽部材52を接地する。すると、第1バイアス電源36によってアノード48にマイナス電圧が印加され、アノード48と遮蔽部材52(正確には、遮蔽板52a)との間の放電によりプラズマが発生する。そして、永久磁石49及び第3電磁コイル44から発生する磁場により、アノード48のカソード15と対抗する面(以下、表面という)がスパッタリングされ、アノード48の表面に堆積して形成された絶縁膜等が清掃される。このとき、プラズマを構成するAr+イオンが、アノード48の表面を略垂直にスパッタするため、アノード48を構成する原子は、略垂直にたたき出される。このため、スパッタされた原子は、遮蔽板52a上に堆積し、成膜空間42側に流出するのを妨げられる。これにより、基板33やターゲット37等に不純物が付着されず、また、基板33に不純物が成膜されない。
【0053】
このように、本実施の形態1に係るプラズマ成膜装置100では、簡易な構成で、アノード48を清掃することが可能となり、また、基板33に不純物が成膜されないので、生産効率を高めることが可能となる。
【0054】
なお、本実施の形態では、遮蔽部材52の遮蔽板52aは、容器101内のアノード48に対して成膜空間42を遮蔽及び開放するが、遮蔽板52aで、アノード48に対して成膜空間42を遮蔽したときに、容器101の第1フランジ12と遮蔽板52aの間を気密状態に保って遮蔽するような構成としてもよい。このような構成にすると、より確実に、基板33やターゲット38等に不純物が付着されず、また、基板33に不純物が成膜されないようにすることが可能となる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係るプラズマ成膜装置は、基本的構成は、実施の形態1に係るプラズマ成膜装置と同じであるが、以下の点で異なる。
【0055】
図5は、本実施の形態2に係るプラズマ成膜装置の概容構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、図1と同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0056】
図5に示すように、本実施の形態2に係るプラズマ成膜システム100では、第1バイアス電源36の負極を、ターゲットホルダ38の支持部38bと第1スイッチ51とに選択的に接続する第1切り替え器50に代えて、第2バイアス電源32の負極を、基板ホルダ34の支持部34bと第1スイッチ51とに選択的に接続する第2切り替え器55を有する。
【0057】
これにより、第2バイアス電源32とアノード48とが電気的に接続されるように第2切り替え器55及び第1スイッチを切り替えると、第2バイアス電源32によってアノード48にマイナス電圧が印加され、アノード48と遮蔽板52aとの間でプラズマが発生する。そして、発生したプラズマでスパッタリングすることにより、アノード48を清掃することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、第2バイアス電源32によってアノード48にマイナス電圧が印加されたが、適宜な手段により主電源18によってアノード48にマイナス電圧が印加されるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のプラズマ成膜装置は、アノードの清掃を容易に行うことができ、また、生産効率が高いプラズマ成膜装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態1に係るプラズマ成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1に示したプラズマ成膜装置のII−II線に沿った断面を示す断面図である。
【図3】図1に示したプラズマ成膜装置のアノードを清掃している状態の模式図である。
【図4】図3に示したプラズマ成膜装置のIV−IV線に沿った断面を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るプラズマ成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 プラズマガン
2 シートプラズマ変形室
3 第1ボトルネック部
4 成膜室
5 第2ボトルネック部
6 アノード室
10 第1筒部材
11 放電空間
12 第1フランジ
13 補助陰極
14 主陰極
15 カソード
16 保護部材
17 窓部材
18 主電源
19 中間電極
20 中間電極
21 第1電磁コイル(プラズマ流動機構)
22 第2筒部材
23 輸送空間
24 バルブ
25 真空ポンプ接続口
26A 永久磁石
26B 永久磁石
27 成形電磁コイル
28 第3筒部材
29 第1蓋部材
30 第2蓋部材
31 第1スリット孔
32 第2バイアス電源
33 基板
34 基板ホルダ
34a ホルダ部
34b 支持部
35 第2駆動機構
36 第1バイアス電源
37 ターゲット
38 ターゲットホルダ
38a ホルダ部
38b 支持部
39 第1駆動機構
40 バルブ
41 真空ポンプ接続口
42 成膜空間
43 第2電磁コイル
44 第3電磁コイル
45 第2スリット孔
46 第4筒部材
47 第2フランジ
48 アノード
49 永久磁石
50 第1切り替え器
51 第1スイッチ
52 遮蔽部材
52a 遮蔽板
52b 支持部材
53 駆動機構
54 第2スイッチ
55 第2切り替え器
100 プラズマ成膜装置
101 容器
102 シートプラズマ変形機構
201 制御装置
CP 円柱プラズマ
P プラズマ
R1 抵抗体
R2 抵抗体
R3 抵抗体
SP シートプラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧可能な容器と、
該容器の内部にプラズマを発生させるプラズマガンと、
前記容器の内部において前記プラズマを受けるアノードと、
前記プラズマガンで発生したプラズマを前記アノードの側へ流動させるプラズマ流動機構と、
前記容器の一部を成すように形成され、その内部に、成膜空間を有し、基板及びターゲットが前記流動するプラズマを挟んで対抗するように設けられた成膜室と、
前記アノードと前記成膜空間との間に設けられ、前記容器の内部空間の前記アノードに対向する位置に進出し及びそこから退避することにより、前記アノードに対して前記成膜空間を遮蔽及び開放し、かつ、放電電極として機能する遮蔽部材と、
該遮蔽部材を前記進出及び退避するよう駆動するための駆動機構と、
前記アノードと前記遮蔽部材との間に放電によりプラズマを発生するための電圧を印加する電源と、を備える、プラズマ成膜装置。
【請求項2】
前記電源を前記アノード及び前記ターゲットに選択的に接続するための第1切り替え器を備える、請求項1に記載のプラズマ成膜装置。
【請求項3】
前記電源を前記アノード及び前記基板に選択的に接続するための第2切り替え器を備える、請求項1に記載のプラズマ成膜装置。
【請求項4】
前記容器の外部には、前記流動するプラズマをシート状に変形するシートプラズマ変形機構が設けられている、請求項1に記載のプラズマ成膜装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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