説明

プラズマ放電装置および排気ガス処理装置

【課題】少ない消費電力で効率的に、排気ガス中の微量物質を除去する。
【解決手段】陽極13と陰極14との間にプラズマ放電を発生させるためのプラズマ放電装置において、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を生成する波形生成手段16と、波形生成手段16で生成された放電波形の電圧を出力する出力手段16と、出力手段16の出力を所定の増幅率で増幅し、陽極13と陰極14との間に印可する増幅手段15とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ放電装置および排気ガス処理装置に関し、より詳細には、プラズマ放電によって燃焼排気ガス中の微量物質を分解処理する排気ガス処理装置と、これに適用することができるプラズマ放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガス中には、煤等の粒子状汚染物質、窒素酸化物等のガス状汚染物質などの有害成分である微量物質が含まれている。これら微量物質を排気ガスから除去する方法として、プラチナ、パラジウム等の酸化触媒、γアルミナ、ゼオライトなどのHC吸着材に、排気ガスを接触させ、分解処理することが行われている。しかしながら、触媒による方法は、単位時間当りの排気ガスの分解処理能力が低く、分解処理する排気ガスの容量を大きくするためには、排気ガス処理装置の大型化が避けられない。
【0003】
そこで、プラズマ放電中の電場に排気ガスを通過させ、微量物質を分解処理する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。図1に、従来のプラズマ放電を用いた排気ガス処理装置の構成を示す。内燃機関の排気管1の途中に配置されたチャンバー2内に、陽極3と陰極4とが対向して設置されている。陽極3は、導電性の電極3aをセラミックス等の誘電体3bで挟んだ構造を有している。陰極4は、導電性の電極からなる。陽極3は増幅器5に接続され、陰極4と増幅器5と高周波高電圧電源6とは、アースに接続されている。陽極3に高周波高電圧が印加されると、陽極3と陰極4との間にプラズマが発生する。高周波高電圧は、高周波高電圧電源6で生成されたパルス状の交流電圧を、増幅器5により増幅することにより得られる。
【0004】
このような排気ガス処理装置は、常時、陽極3と陰極4とに通電することによりプラズマを発生させ、排気ガスを分解処理するので、消費電力が大きいという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−49525号公報
【特許文献2】特開2002−221027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、陽極3と陰極4とを触媒で被覆しておき、プラズマ放電のための通電によって、陽極3と陰極4とを触媒活性温度まで昇温させることが行われている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば、プラズマ放電を停止した後も、触媒による排気ガスの分解処理が継続するので、プラズマ放電のための電力消費を抑えることができる。
【0007】
しかしながら、この方法によっても、プラズマを発生させるための高周波高電圧を供給するプラズマ放電装置においては、大きな電力を必要とするという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、少ない消費電力で効率的に、排気ガス中の微量物質を除去することができる排気ガス処理装置に適用するためのプラズマ放電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、陽極(13)と陰極(14)との間にプラズマ放電を発生させるためのプラズマ放電装置において、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を生成する波形生成手段(16)と、該波形生成手段で生成された前記放電波形の電圧を出力する出力手段(16)と、該出力手段の出力を所定の増幅率で増幅し、前記陽極と陰極との間に印可する増幅手段(15)とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラズマ放電装置において、前記陽極(13)と前記増幅器(15)との間に挿入された波形プローブ(17)と、前記波形生成手段で生成された前記放電波形(波形1)を前記所定の増幅率で増幅した波形(波形3)と、前記波形プローブからの波形(波形2)との差分を、前記所定の増幅率で除した差分波形(波形4)を、前記波形生成手段に出力する波形モニタ(18)とをさらに備え、前記波形生成手段(16)は、生成した前記放電波形(波形1)に前記差分波形(波形4)を加算することを特徴とする。
【0011】
他の実施形態によれば、このようなプラズマ放電装置を、陽極と陰極との間を流通する排気ガス中の微量物質を分解処理する排気ガス処理装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を、電極間に印加してプラズマを発生させるので、少ない消費電力で効率的に、排気ガス中の微量物質を除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。電極間に印加された高周波高電圧によって加速された高エネルギー電子により、励起した分子、原子が混在する状態が、プラズマ状態である。例えば、ガス状汚染物質の一つであるメタンガス(CH)を、プラズマ放電中の電極間を通過させると、高エネルギー電子により励起メタン(CH)が生成される。励起メタンはプラスに帯電しているので、陰極に衝突し、陰極上での分解反応により、無害の二酸化炭素と水となる。
【0014】
このとき、励起メタンの陰極への衝突スピードが速いほど、分解反応率は高くなる。従って、電極間の電圧をなるべく高くした方がよい。しかしながら、電圧を高くするほど、プラズマ放電装置の消費電力は増大する。
【0015】
図2に、従来の排気ガス処理装置における放電波形を示す。図1に示した高周波高電圧電源で生成されたパルス状の交流電圧波形であり、0Vを中心にプラス側とマイナス側とが対称の波形となっている。励起メタンを発生させ、メタンの分解反応に寄与するのは、プラス側の電圧波形であり、所定のしきい値電圧a以上の波形に対応するエネルギーである。それ以外の波形部分の電力は、熱エネルギーに変換されるだけであり、分解反応には寄与しない。
【0016】
そこで、分解反応に寄与しない波形部分を抑制することにより、消費電力の低減を図る。図3に、本発明の一実施形態にかかる排気ガス処理装置における放電波形を示す。放電波形は、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であり、放電基底電圧bをマイナス電圧に設定する。放電基底電圧bをマイナス電圧に設定することにより、増幅器においてグランドへ電子を放出する。すなわち、プラス側の波形の面積とマイナス側の波形の面積は等しい。また、放電前に陽極と陰極との間に電圧差を発生させておくことにより、放電開始時、すなわち電圧波形の立ち上がりを速くする。
【0017】
このようにして、本実施形態によれば、同じ消費電力であっても、微量物質の分解反応に寄与するプラス側の波形のみを出力するとともに、電圧波形の立ち上がりを速くすることにより、励起された微量物質の陰極への衝突スピードを速くして、効率的に分解処理を行うことができる。
【0018】
図4に、本発明の一実施形態にかかる排気ガス処理装置の構成を示す。排気ガス処理装置は、任意の電圧波形を生成することができる高周波高電圧電源16と、高周波高電圧電源16の出力を増幅する増幅器15と、増幅器15に接続された陽極13と陰極14とから構成されている。陽極13と陰極14とは、内燃機関の排気管11の途中に配置されたチャンバー12内に、対向して設置されている。陽極13は、導電性の電極13aをセラミックス等の誘電体13bで挟んだ構造を有している。陰極4は、表面を鏡面研磨した金属、Fe、Al、SUSなどの導電性の電極からなる。分解反応を促進するために、イオン化傾向の高いAu、Ag、Ptを用いることが、より好ましい。なお、陰極14と増幅器15と高周波高電圧電源16とは、共通のアースに接続されている。
【0019】
陽極13と増幅器15との間には、波形モニタ18に接続されたプローブ17が挿入され、電極に印加された高周波高電圧を観測することができる。波形モニタ18で観測された波形は、演算装置19に供給され、後述するように、波形制御のための演算に用いられる。
【0020】
高周波高電圧電源16は、プラス側のピーク電圧200V、放電基底電圧−50V、周期100μsの非対称の波形を出力する。増幅器15は、プラス側のピーク電圧で20kVまで増幅し、陽極13と陰極14との間に印可する。電力は、0.4kWである。高周波高電圧が印加されると、陽極13と陰極14との間にプラズマが発生する。
【0021】
図5に、排気ガス処理装置における実際の放電波形を示す。実線cは、本実施形態にかかる排気ガス処理装置の放電波形であり、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有し、放電基底電圧をマイナス電圧に設定してある。高周波高電圧電源16内の波形生成回路におけるパラメータは、上述の通りである。点線dは、従来の排気ガス処理装置の放電波形であり、0Vを中心にプラス側とマイナス側とが対称の波形となっている。ピーク電圧20kV、周期100μs、電力は0.4kWである。
【0022】
本実施形態にかかる排気ガス処理装置の放電波形では、図5の囲みeに示すように、マイナス側への放電の立ち上がりを抑制している。マイナス側への放電は、増幅器15におけるグランドへの電子放出のためにあり、メタンガスの分解反応には寄与していない。また、陰極での過剰電子の逆流現象を解消するためにも、後述するフィードバック制御を行うことにより、マイナス側への放電の立ち上がりを抑制する。また、従来の排気ガス処理装置の放電波形のように、パルス放電後の周期20μsの波形fは、メタンの分解反応には寄与しないので、消費電力低減のためにも抑制することが望ましい。
【0023】
図6に、排気ガス処理装置におけるメタンの除去率を示す。図5に示した放電波形を、1mm間隔の陽極13と陰極14との間に印可し、温度300℃の排気ガスを1.4m/h通過させたときの、排気ガスのメタンの除去率を示す。実線gは、本実施形態にかかる排気ガス処理装置のメタンの除去率であり、電極間に印加するパルス電圧(ピーク−ピーク)を、10kVp−p、15kVp−p、20kVp−pと順に変えた。点線hは、従来の排気ガス処理装置のメタンの除去率であり、同様に、電極間に印加するパルス電圧を、10kVp−p、15kVp−p、20kVp−pと順に変えている。本実施形態にかかる排気ガス処理装置は、およそ21分でメタンの80%を除去しているのに対して、従来の排気ガス処理装置では、およそ26分で50%しか除去していない。
【0024】
本実施形態によれば、プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を、電極間に印加してプラズマを発生させるので、少ない消費電力で効率的に、排気ガス中の微量物質を除去することができる。
【0025】
次に、本実施形態にかかる排気ガス処理装置における放電波形の波形制御について説明する。プラズマ放電に寄与する電極間のパルス状の電圧波形は、増幅器のトランスの特性、放電器である電極の特性により、高周波高電圧電源16から出力された波形とは異なる。そこで、以下のようにフィードバック制御を行う。
【0026】
最初に、図3に示した非対称の放電波形(以下、波形1という)を、高周波高電圧電源16内の波形生成回路において作成する。高周波高電圧電源16は、生成された波形の電圧を増幅器15に出力する。波形1は、増幅器15により所定の増幅率で高電圧に増幅され、陽極13に供給される。陽極13と増幅器15との間に挿入されたプローブ17により、増幅器15の出力波形(以下、波形2という)を取り込む。
【0027】
演算装置19は、波形1を所定の増幅率で増幅した波形3を計算し、波形モニタ18から出力された波形2との間で、波形3−波形2の差分を計算する。演算装置19は、この差分を所定の増幅率で除した波形4を、高周波高電圧電源16内の波形生成回路に出力する。波形生成回路は、波形1に波形4を加算して出力することにより、図3に示した波形となるように、フィードバック制御される。
【0028】
パルス状の電圧波形は、矩形波の場合を示したが、三角波、ノコギリ波、サイン波のいずれであつても構わない。図7に、放電波形によるメタンの除去率の相違を示す。図6に示したメタンの除去率の測定と同じ条件で、パルスの波形のみを変えて測定した結果である。実線jはサイン波、実線kはノコギリ波、実線lは矩形波、実線mは三角波であり、メタンの除去率に優位差は見られなかった。
【0029】
なお、本実施形態においては、波形生成手段と電圧を出力する手段とを、高周波高電圧電源16として示したが、それぞれを別の装置としても良いし、増幅手段である増幅器15と高周波高電圧電源16とを一体の装置としてもよい。また、本実施形態においては、演算手段を、波形モニタ18と演算装置19として示したが、同一の装置であっても、別々の装置であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来のプラズマ放電を用いた排気ガス処理装置の構成を示す図である。
【図2】従来の排気ガス処理装置における放電波形を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる排気ガス処理装置における放電波形を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる排気ガス処理装置の構成を示す図である。
【図5】排気ガス処理装置における実際の放電波形を示す図である。
【図6】排気ガス処理装置におけるメタンの除去率を示す図である。
【図7】放電波形によるメタンの除去率の相違を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1,11 排気管
2,12 チャンバー
3,13 陽極
4,14 陰極
5,15 増幅器
6,16 高周波高電圧電源
17 プローブ
18 波形モニタ
19 演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間にプラズマ放電を発生させるためのプラズマ放電装置において、
プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を生成する波形生成手段と、
該波形生成手段で生成された前記放電波形の電圧を出力する出力手段と、
該出力手段の出力を所定の増幅率で増幅し、前記陽極と陰極との間に印可する増幅手段と
を備えたことを特徴とするプラズマ放電装置。
【請求項2】
前記陽極と前記増幅器との間に挿入された波形プローブと、
前記波形生成手段で生成された前記放電波形を前記所定の増幅率で増幅した波形と、前記波形プローブからの波形との差分を、前記所定の増幅率で除した差分波形を、前記波形生成手段に出力する演算手段とをさらに備え、
前記波形生成手段は、生成した前記放電波形に前記差分波形を加算することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ放電装置。
【請求項3】
陽極と陰極との間にプラズマ放電を発生させ、前記陽極と陰極との間を流通する排気ガス中の微量物質を分解処理する排気ガス処理装置において、
プラス側にのみパルス状の電圧波形を有する非対称の波形であって、放電基底電圧をマイナス電圧に設定した放電波形を生成する波形生成手段と、
該波形生成手段で生成された前記放電波形の電圧を出力する出力手段と、
該出力手段の出力を所定の増幅率で増幅し、前記陽極と陰極との間に印可する増幅手段と
を備えたことを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項4】
前記陽極と前記増幅器との間に挿入された波形プローブと、
前記波形生成手段で生成された前記放電波形を前記所定の増幅率で増幅した波形と、前記波形プローブからの波形との差分を、前記所定の増幅率で除した差分波形を、前記波形生成手段に出力する演算手段とをさらに備え、
前記波形生成手段は、生成した前記放電波形に前記差分波形を加算することを特徴とする請求項3に記載の排気ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−220488(P2007−220488A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39824(P2006−39824)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(503373850)株式会社スタイ・ラボ (5)
【Fターム(参考)】