説明

プラズマ溶接装置

【課題】 複数ノズルのプラズマトーチを用いてホットワイヤ方式で高能率の肉盛溶接を行い、スパッタは低減する。
【解決手段】 中央孔5と平行に又はある傾斜角をもって同一円周上に等角度ピッチで分布する複数の電極配置空間1a,1bおよび複数のノズル4a,4bを有するインサートチップ1と、中央孔5にワイヤ15を案内するワイヤガイド13,6と、各電極配置空間1a,1bに先端部を挿入した電極2a,2bと、インサートチップ1を冷却するための冷却水流路9wと、各電極配置空間1a,1bにパイロットガスを供給するためのパイロットガス流路9pと、を備えるプラズマトーチ;電極2a,2bと溶接対象材16の間に、電極側が負で溶接対象材側が正のプラズマアーク電流を流す溶接電源17,18;および、ワイヤ15と溶接対象材16との間に、ワイヤ側が正で溶接対象材側が負の電流を流すホットワイヤ電源21;を備えるプラズマ溶接装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマトーチには、溶接,肉盛り,切断などの高熱溶接の種類に応じて各種形態がある。特許文献1には、電極棒10の先端直下に側方からワイヤ16を送り込んで、電極棒先端の下方にある母材(溶接対象材)を、プラズマ溶接,ホットワイヤ形態のプラズマ溶接,プラズマMIG溶接あるいはプラズマワイヤ肉盛をする方法が記載されている。特許文献2には、インサートチップ111の中央のワイヤ送通孔から下方の母材に垂直にワイヤ153を送り出し、該ワイヤの側方にワイヤと平行に配置された電極棒126によって、チップ111の下部の、該ワイヤ送通孔が開いたプラズマ孔113にプラズマを噴射してワイヤ先端を溶かすプラズマMIG溶接トーチが記載されている。特許文献3には、中心位置に電極棒を配置したインサートチップ1のプラズマノズルの下方に、側方からワイヤ3を送り込むホットワイヤ形態のプラズマ溶接方法およびプラズマワイヤ肉盛方法が記載されている。特許文献4には、インサートチップ33の中心位置に電極棒を配置したプラズマトーチのプラズマが形成したプールに向けて、該プラズマトーチの側方から消耗電極であるワイヤ39を送給するプラズマMIG溶接が記載されている。特許文献5には、インサートチップ9のプラズマ噴射ノズルの上方かつ中心に配置した有底筒状のプラズマ電極8の、中心穴である底穴と、その下方のノズルプラズマ噴射ノズルを通して下方の母材に垂直にワイヤを送給し、該ワイヤをプラズマ電極8が生成するプラズマで溶かすプラズマMIG溶接方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭39− 15267号公報
【特許文献2】特開昭52−138038号公報
【特許文献3】特開昭53− 31544号公報
【特許文献4】特表2006−519103号公報
【特許文献5】特開2008−229641号公報。
【0004】
【特許文献6】特願2009−177371号,平成21年7月30日出願) 特許文献1〜4のいずれの溶接方法およびプラズマトーチも、1個の電極棒と一本のワイヤを用いて、該電極棒が母材との間に形成したプラズマ流に、電極棒/母材間の側方からワイヤを送給し、通電するので、ワイヤ電流で発生した磁束とプラズマ電流で発生する磁束との相互作用で磁気的アンバランスが発生する。すなわち、ワイヤよりも上側(インサートチップ側)とワイヤよりも下側(母材側)でプラズマアーク状態が異なり、ワイヤの上側のプラズマはワイヤから離れる方向にアーク力を受け、ワイヤの下側のプラズマはワイヤに近づく方向にアーク力を受ける。ワイヤ先端の溶融の動揺に伴い、母材に対するプラズマの作用位置が動揺するので、プラズマアークが不安定である。特許文献5では、有底筒状のプラズマ電極8の底穴の円周エツジにアークが集中し、集中点が周方向に移動するので、やはりプラズマが動揺し、プラズマ電極8の底穴の円周エツジ及びインサートチップ9のノズル縁の損耗および溶融ワイヤのプラズマ電極8やプラズマノズル9への付着が激しく、長時間安定した溶接作業を維持できない。
【0005】
これらの課題を解決するため、本出願人は、通し穴である中央孔(5)と、該中央孔(5)と平行に又はある傾斜角をもって該中央孔の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数の電極配置空間(1a,1b)と、各電極配置空間(1a,1b)に連通し、前記中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数のノズル(4a,4b)と、を備えるインサートチップ(1)、を装備した複数ノズルのプラズマトーチを用いるプラズマ溶接装置を提示した(特許文献6)。これによれば、プラズマアークと同軸中央部へワイヤを供給することで高能率で作業性が良く、ワイヤに通電しても磁気吹きによるアーク乱れを発生しない安定性が高い肉盛り溶接が可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記複数ノズルのプラズマトーチを用いて高能率の肉盛溶接を行う場合、アークに送給するワイヤに通電してワイヤの溶融効率を高くするホットワイヤ方式においては、連続且つ一定のワイヤをバランスよくプールに滴下させるために、ワイヤ送給量を増加させるが、単電極プラズマ溶接では使用しないような太径(約φ2.0 mm以上)のワイヤを使用すると、送給と溶融のバランスをとる安定したワイヤ送給制御が難しくなる。このバランスが崩れたとき、ワイヤ先端に溶滴が留まって肥大化してそれが溶融プールの外側に落下してスパッタが発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、複数ノズルのプラズマトーチを用いてホットワイヤ方式で高能率の肉盛溶接を行うにおいて、スパッタ発生の可能性を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)通し穴である中央孔(5),該中央孔(5)と平行に又はある傾斜角をもって該中央孔の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数の電極配置空間(1a,1b)、および、各電極配置空間(1a,1b)に連通し、前記中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数のノズル(4a,4b)を有するインサートチップ(1)と、該インサートチップ(1)の前記中央孔(5)にワイヤ(15)を案内するワイヤガイド(13,6)と、前記インサートチップ(1)の各電極配置空間(1a,1b)に先端部を挿入した複数の電極(2a,2b)と、前記インサートチップ(1)を冷却するための冷却水流路(9w)と、各電極配置空間(1a,1b)にパイロットガスを供給するためのパイロットガス流路(9p)と、を備えるプラズマトーチ;
前記複数の電極(2a,2b)と溶接対象材(16)の間に、電極側が負で溶接対象材側が正のプラズマアーク電流を流す溶接電源(17,18);および、
前記ワイヤ(15)と溶接対象材(16)との間に、ワイヤ側が正で溶接対象材側が負の電流を流すホットワイヤ電源(21);
を備えるプラズマ溶接装置。
【0009】
なお、理解を容易にするために括弧内には、図面に示し後述する実施例の対応要素又は相当要素の記号を、例示として参考までに付記した。以下も同様である。
【発明の効果】
【0010】
これによれば、各ノズル(4a,4b:図4)を通って、電極配置空間(1a,1b)に挿入された各電極(2a,2b)と溶接対象材(16)との間を流れる各アーク電流には、それぞれが誘起する磁束Ma,Mbの上部分は互いに打ち消すので、下部分が作用してフレミングの左手の法則で表される上向きの力が作用し、アーク同士が互いに引き合って、上方に多少曲がった形で対称形となる。しかもノズル(4a,4b)の、中央孔(5)の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチの分布により、各力が同じく中央孔(5)の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布するので、プラズマの安定性が高い。すなわち、磁気吹きによるアークのふらつきを生じない。溶接対象材(16)の近傍では、各アーク電流が同一方向の加算となり、合成磁束Mcを誘起するので、アークを絞る磁気的ピンチ力が強く、溶接対象材(16)に対する熱収束効果(エネルギー密度)が高く、しかも作用位置がふらつくことが無い。
【0011】
通常の単電極プラズマ溶接では使用しないような太径(約φ2.0 mm以上)のワイヤを使用すると、太径のワイヤは細い径のワイヤより溶けづらいので、送給速度を遅くする。ワイヤが短絡アーク時は、安定していてスパッタの発生は無いが、バランスが崩れたとき溶滴が大きくなる。このときワイヤが負極だと、陰極点の力で溶滴がふらつき、スパッタが発生しやすくなる。
【0012】
しかし、本願発明により、ホットワイヤ電源(21)からワイヤ(15)と溶接対象材(16)との間に、ワイヤ側が正で溶接対象材側が負の電流を流すと、ワイヤを太径にしても、陽極点は広範囲な面上で挙動するので、溶滴が円錐状に溶融し、ワイヤ先端から流水状に流れ落ちるため、溶滴のふらつきがないのでスパッタの発生はなく、送給と溶融のバランスをとる安定したワイヤ送給制御を容易に行うことができる。ワイヤの溶融安定性が良好になり、溶融効率も向上するため、1パスで多量の肉盛をすることができる。
【0013】
太径のワイヤは、細径のワイヤより線引き工定数が少ないので安価である。本願発明によれば、この安価な太径のワイヤをホットワイヤで加熱し、高能率でスパッタの極めて少ない肉盛溶接を行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例のプラズマ溶接装置を示し、プラズマ溶接トーチは縦断面を示す。
【図2】図1に示すインサートチップ1を拡大して示し、(a)は正面図、(b)は(c)上の2b−2b線での縦断面図、(c)は底面図である。
【図3】図1に示すプラズマトーチの、冷却水路9w,パイロットガス路9pおよびシールドガス路9sを示し、(a)は冷却水路9wを示す縦断面図、(b)はパイロットガス路9pを示す縦断面図であって(c)上の4b−4b線の縦断面図、(c)は(b)上の4c−4c線の横断面図、(d)はシールドガス路9sを示す縦断面図であって(e)上の4d−4d線の縦断面図、(e)は(d)上の4e−4e線の横断面図である。
【図4】図2の(b)相当の、インサートチップ1の拡大縦断面図であり、第1電極2aと第2電極2bが発生する各アークによって誘起される各磁束MaとMb、および、合成磁束Mcを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(2)前記インサートチップ(1)は更に、前記中央口(5)に連続して溶接対象材(16)に対向する先端面に開き前記中央口(5)よりも大径の拡大口(1d)、を有し、前記ノズル(4a,4b)は、前記先端面よりも内側で前記拡大口(1d)に開いた、上記(1)に記載のプラズマ溶接装置。これによれば、電極配置空間(1a,1b)に挿入された各電極(2a,2b)と溶接対象材(16)との間を流れる各アーク電流が、インサートチップの先端面(拡大口1dの母材対向開口)の前後で合流するので、プラズマアーク同士は最短に近い距離で合流できるため、互いの磁気干渉によるアーク曲がり変化を小さくでき、安定したアークで、溶接精度が向上する。
【0016】
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明より明らかになろう。
【実施例】
【0017】
図1に、本発明の一実施例であるプラズマ溶接装置を示す。図1に示すプラズマ溶接トーチのインサートチップ1は、インサートキャップ7を絶縁台9にねじ締めすることにより、絶縁台9に固定されている。シールドキャップ8はねじ締めにより絶縁台9に固定されている。2つ割でx方向に分離した第1電極11と第2電極12(図3の(c),(e))は、絶縁体の外ケース30の内部にある。第1電極11と第2電極12との間の空間を、絶縁本体14の中空円筒状のステムが通って、該ステムの先端部の、図示を省略した雄ねじが、絶縁台9の中心の、図示を省略した雌ねじ穴にねじこまれ、これにより、電極台11,12が縦方向に圧縮するように締め付けられて、絶縁台9,電極台11,12および絶縁本体14が一体に結合している。
【0018】
インサートチップ1の軸心に中央孔5があり、絶縁台9および絶縁本体14の軸心には、中央孔5と同軸のガイド穴(本実施例ではワイヤガイド穴)がある。インサートチップ1の中央孔5にはワイヤガイド6が挿入されており、絶縁本体14の軸心のガイド穴にもワイヤガイド13が挿入されている。絶縁本体14の頭部に挿入された溶接ワイヤ15は、ワイヤガイド13および6を通してインサートチップ1に送り込まれる。
【0019】
インサートチップ1には、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチである180度で分布し中央孔5と平行に位置する2個の電極配置空間1a,1bがあり、各電極配置空間に、絶縁台9を貫通し各電極台11,12にねじ10a,10bで固定された第1電極2a,第2電極2bの先端部が挿入されて、各電極配置空間の軸心位置に、センタリングストーン3で位置決めされている。インサートチップ1の、母材16に対向する先端面には、中央孔5と同心であるが、中央孔5よりも大径の拡大口1dがあり、各電極配置空間1a,1bにつながったノズル4(4a,4b)が、大径口1dに開いている。
【0020】
図2に、インサートチップ1を拡大して示す。本実施例のインサートチップ1には、通し穴である中央孔5と、該中央孔5に連続して母材16に対向する先端面に開いた中央孔5よりも大径の拡大口1dと、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に180度ピッチで分布する、中央孔5と平行に位置する2個の電極配置空間1a,1bと、各電極配置空間1a,1bに連通し拡大口1dに開いた、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に180度ピッチで分布する2個のノズル4a,4bと、を備え、しかも、ノズル4a,4bは、インサートチップ1の、母材16に対向する先端面よりも内側で、拡大口1dに開いている。
【0021】
なお、本実施例では、1対(2個)の電極2a,2bを装備するプラズマトーチのインサートチップであるが、3本又は4本など、複数の電極を用いるプラズマトーチのインサートチップでは、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に等角度度ピッチで分布する、中央孔5と平行に位置する複数の電極配置空間と、各電極配置空間に連通し拡大口1dに開いた、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数のノズルを備える。例えば3本の電極を備えるプラズマトーチのインサートチップは、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に120度ピッチで分布する、中央孔5と平行に位置する3個の電極配置空間と、各電極配置空間に連通し拡大口1dに開いた、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に120度ピッチで分布する3個のノズルを備える。また、4本の電極を備えるプラズマトーチのインサートチップは、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に90度ピッチで分布する、中央孔5と平行に位置する4個の電極配置空間と、各電極配置空間に連通し拡大口1dに開いた、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に90度ピッチで分布する4個のノズルを備える。
【0022】
また、拡大口1dは省略し、中央孔5およびノズルノズル4a,4bの下端開口をチップ1のフラットな下端面とすることができる。また、電極配置空間1a,1b(およびそこに装備する電極2a,2b)は、中央孔5と平行のみならず、中央孔5に対してある傾斜角を持つ斜め姿勢にすることも出来る。
【0023】
図3に、図1に示すプラズマトーチの、冷却水流路9w,パイロットガス流路9pおよびシールドガス流路9sを示す。冷却水は、図3の(a)に示す冷却水給水流路9wiを通って、インサートチップ1の外周面とインサートキャップ7の内周面との間の空間に入り、そこから冷却水排水流路9woを通ってトーチ外に出る。一方のパイロットガスは、図3の(b)および(c)に示すガス流路9paおよび電極挿入空間を通って電極配置空間1aに入り、電極先端部でプラズマとなってノズル4aを通りそして拡大口1dを通ってトーチの先端面から噴出する。他方のパイロットガスは、ガス流路9pbおよび電極挿入空間を通って電極配置空間1bに入り、電極先端部でプラズマとなってノズル4bを通りそして拡大口1dを通ってトーチの先端面から噴出する。シールドガスは、図3の(d)および(e)に示すシールドガス流路9sを通って、インサートキャップ7とシールドキャップ8との間の円筒状の空間に入り、そしてトーチの先端から噴出する。
【0024】
図1に示すように、電極2a,2bと母材16の間に、電極側が負で母材側が正のプラズマアーク電流を流すプラズマ電源17,18により、電極2a,2bにアークを発生すると、プラズマアーク電流が各電極2a,2bと母材16の間に流れて、1プール2アーク溶接が実現する。プラズマアーク19にワイヤ15が送給され、ワイヤ15に対して各電極2a,2bおよびノズル4(4a,4b)が対称に位置するので、ワイヤ15に対してプラズマが安定する。すなわち、図4を参照すると、電極配置空間1a,1bに挿入された各電極2a,2bと母材16との間を、各ノズル4a,4bを通って流れる各アーク電流には、それぞれが誘起する磁束Ma,Mbとの間に、フレミングの左手の法則で表される上向き(又は下向き:z)の力が作用し、同一方向であり、しかもノズル4a,4bの、中央孔5の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチの分布により、各力が同じく中央孔5の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布するので、磁気的にバランスがとれ、プラズマの安定性が高い。つまり、磁気吹きによるアークのふらつきを生じない。母材16の近傍では、各アーク電流が同一方向の加算となり合成磁束Mcを誘起するので、アークを絞る磁気的ピンチ力が強く、母材16に対する熱収束効果(エネルギー密度)が高く、しかも作用位置がふらつくことが無い。尚かつ、ワイヤ15は、プラズマアーク19の上端部より入り、溶融プール20に至る迄の間アークより熱を受けることになり、有効な予熱効果として働き、ワイヤの溶着効率がアップし、高速溶接や高能率溶接ができる。従来の、側方からのワイヤ送給の場合は、ワイヤはプラズマアークに対してほぼ直角に入るため、プラズマアークに入った僅かな距離で溶融プールに熔け落ちるようにしなければならず、ほとんどワイヤの予熱効果は無い。このため溶着効率は低く、溶接速度も遅い。
【0025】
また本実施例によれば、ワイヤが中央より挿入されるため、ワイヤの挿入方向性が無く、曲線溶接でもトーチを回転させる制御が不要である。従来は、ワイヤはトーチ進行方向より挿入することから、曲線溶接時には、トーチ又はワイヤを曲線に相対して回転制御する装置が必要であった。
【0026】
図1に示すように、ワイヤ15と母材16との間に、ワイヤ側が正で母材側が負の電流を流すホットワイヤ電源21を備える。ホットワイヤ電源21からの電流は、トーチ内ガイド13をとおり、ガイド13先端部近傍よりワイヤに通電し、絶縁ガイド6内ではワイヤをジュール熱で加熱し、プラズマ19で、電極2a,2bよりのプラズマアークと合流し、母材16に流入する。このとき、ホットワイヤ電流のジュール熱がプラズマ領域内で最大になる(集中する)ので、溶接入熱量が多く、高溶着量,高能率溶接となり、高速溶接が可能である。しかも、ホットワイヤ電流と電極2a,2bよりのプラズマアーク電流とは対称および同軸であることから、磁気的バランスがとれ、磁気吹きによるアークのふらつきが発生しない。
【0027】
溶接能率を高くするためにワイヤ15を太径にしても、ホットワイヤ電源21からワイヤ15と溶接対象材との間に、ワイヤ側が正で溶接対象材側が負の電流を流すので、陽極点は広範囲な面上で挙動し溶滴が円錐状に溶融してワイヤ先端から流水状に流れ落ちるため、溶滴のふらつきがないのでスパッタの発生はなく、送給と溶融のバランスをとる安定したワイヤ送給制御を容易に行うことができる。ワイヤの溶融安定性が良好になり、溶融効率も向上するため、1パスで多量の肉盛ができる。
【符号の説明】
【0028】
1:インサートチップ
1a,1b:電極配置空間
1d:拡大口
2(2a,2b):電極
2a:第1電極
2b:第2電極
3:センタリングストーン
4(4a,4b):ノズル
5:中央孔
6:ガイド
7:インサートキャップ
8:シールドキャップ
9:絶縁台
9w:冷却水路
9p:パイロットガス路
9s:シールドガス路
10(10a,10b):電極固定ねじ
11:第1電極台
12:第2電極台
13:ガイド
14:絶縁本体
15:ワイヤ
16:母材
17,18:電源
19:プラズマ
20:プール
Ma:第1アークの誘起磁束
Mb:第2アークの誘起磁束
Mc:合成磁束
21:ホットワイヤ電源
22:MIG溶接電源
24:粉体槽
25:粉体送給機
26:キーホールガス
27:切断ガス
30:外ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通し穴である中央孔,該中央孔と平行に又はある傾斜角をもって該中央孔の中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数の電極配置空間、および、各電極配置空間に連通し、前記中心軸を中心とする円周上に等角度ピッチで分布する複数のノズルを有するインサートチップと、該インサートチップの前記中央孔にワイヤを案内するワイヤガイドと、前記インサートチップの各電極配置空間に先端部を挿入した複数の電極と、前記インサートチップを冷却するための冷却水流路と、各電極配置空間にパイロットガスを供給するためのパイロットガス流路と、を備えるプラズマトーチ;
前記複数の電極と溶接対象材の間に、電極側が負で溶接対象材側が正のプラズマアーク電流を流す溶接電源;および、
前記ワイヤと溶接対象材との間に、ワイヤ側が正で溶接対象材側が負の電流を流すホットワイヤ電源;
を備えるプラズマ溶接装置。
【請求項2】
前記インサートチップは更に、前記中央口に連続して溶接対象材に対向する先端面に開き前記中央口よりも大径の拡大口、を有し、前記ノズルは、前記先端面よりも内側で前記拡大口に開いた、請求項1に記載のプラズマ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−130934(P2012−130934A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284335(P2010−284335)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】