説明

プラズマCVD成膜方法およびプラズマCVD装置

【課題】容量結合型のプラズマCVDにおいて、熱および反応ガスイオンに起因する基板の損傷を抑制することができ、かつ、緻密で膜質の良好な膜を、高い被覆性で成膜することを可能にする。
【解決手段】基板を配置する第1電極にHF〜VHF帯の周波数を有する高周波電力を供給し、対向電極となる第2電極に、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数を有する電力もしくはパルス周波数のDCパルス電力を供給することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量結合型のプラズマCVDによる被処理物の表面への成膜に関し、詳しくは、被処理物の昇温や損傷を防止して、好適な膜を成膜できるプラズマCVD成膜方法およびプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、プラスチックフィルム等のフィルム状基板の表面に、ガスバリア性、反射防止性、透明導電性などの目的とする機能を発現する膜(機能性膜)を成膜してなる機能性フィルム(機能性シート)が、光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池などの、各種の用途に利用されている。
また、目的とする性能を発現する製品を得るために、光学素子、ガラス板やプラスチック板、半導体装置等の各種のデバイスなど、各種の物品の表面に、ガスバリア膜、反射防止膜、防曇膜、透明導電膜等の目的とする機能を発現する膜を成膜することも行なわれている。
【0003】
このような被処理物への成膜方法として、容量結合型プラズマCVD(CCP(Capacitively Coupled Plasma)−CVD)が知られている。
周知のように、CCP−CVDとは、第1電極と、この第1電極の対向電極となる(電極対を成す)第2電極とを用い、両電極間に、反応ガスを供給し、かつ、電圧を印加することにより、プラズマを生成して反応ガスを解離・電離させてラジカルやイオンを生成し、第1電極と第2電極との間に配置した被処理物の表面にプラズマCVDによる成膜を行なうものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、下部電極に高周波電源を接続して、上部電極を接地し、下部電極に被処理物を配置して、成膜系内にモノシランを含む反応ガスを導入し、下部電極を加熱することなく、下部電極より高周波電力を投入することにより、下部電極にセルフバイアスを生成しつつ、被処理物の表面に窒化シリコン膜または酸化シリコン膜を成膜する、CCP−CVDによる成膜方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、高周波電源(13.56MHz超〜60MHz)に接続された上部電極と、高周波バイアス電源(300kHz〜13.56MHz)に接続された下部電極とを有し、下部電極に被処理物を載置して、成膜系内に窒素ガス、アンモニアガス、過酸化水素ガス、アルゴンガス、およびヘリウムガスの1以上を反応ガスとして導入する手段を有するプラズマCVD装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−58103号公報
【特許文献2】特開平8−213378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に示されるような、下部電極(基板を配置する電極)にセルフバイアスを生成するCCP−CVDや、特許文献2に示されるような、下部電極に、上部電極よりも低周波数のバイアス電力を供給するCCP−CVDでは、プラズマによって生成された反応ガス由来のイオンのうち、低エネルギーイオンだけではなく、高エネルギーイオンも被処理物に引き込まれる。
【0008】
そのため、成膜中に、被処理物の温度が向上してダメージを受けたり、高エネルギーイオンの入射によって被処理物の表面や成膜している膜自体が損傷してしまう場合が有る。
また、イオンの引き込みによって起こるエッチング現象や再スパッタリング現象、さらには、表面マイグレーションの促進などにより、膜質向上や被覆性の向上効果が期待できるが、膜質向上も被覆性向上も、対象とする被処理物(凹凸が有ってもよい)によって、最適なイオン利用度が異なる。此処で、特許文献1や特許文献2に示されるようなプラズマCVDでは、高エネルギーなイオンほど、早くバイアス電位に反応し、成膜に利用され易い。そのため、高エネルギーイオンのみを制御することは、困難である。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、容量結合型プラズマCVDによる成膜において、高エネルギーイオンを選択的に制御することができ、特に、低エネルギーイオンを被処理物に引き込みつつ、成膜に悪影響を及ぼす高エネルギーイオンの被処理物への引き込みを抑制することができ、これにより、被処理物の温度上昇や被処理物表面の損傷を低減し、さらに、被覆性の向上が可能となる形状の対応範囲の拡大や、膜質の向上等も図ることができるプラズマCVD成膜方法、および、プラズマCVD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のプラズマCVD成膜方法の第1の態様は、容量結合型プラズマCVDによって、被処理物の表面に成膜を行なうに際し、第1電極と、この第1電極の対向電極となる第2電極とを設け、前記第1電極に被処理物を配置すると共に、前記第1電極にHF〜VHF帯の周波数の電力を供給し、かつ、前記第2電極に、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数の電力を供給しつつ、前記被処理物の表面に成膜を行なうことを特徴とするプラズマCVD成膜方法を提供する。
また、本発明のプラズマCVD成膜方法の第2の態様は、容量結合型プラズマCVDによって、被処理物の表面に成膜を行なうに際し、第1電極と、この第1電極の対向電極となる第2電極とを設け、前記第1電極に被処理物を配置すると共に、前記第1電極にHF〜VHF帯の周波数の電力を供給し、かつ、前記第2電極に、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を供給しつつ、前記被処理物の表面に成膜を行なうことを特徴とするプラズマCVD成膜方法を提供する。
【0011】
また、本発明のプラズマCVD装置の第1の態様は、被処理物を配置される第1電極と、前記第1電極の対向電極となる第2電極と、前記第1電極に接続される、HF〜VHF帯の周波数の電力を出力する第1電源と、前記第2電極に接続される、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数の電力を出力する第2電源と、前記第1電極と第2電極との間に反応ガスを導入するガス導入手段とを有することを特徴とするプラズマCVD装置を提供する。
【0012】
さらに、本発明のプラズマCVD装置の第2の態様は、被処理物を配置される第1電極と、前記第1電極の対向電極となる第2電極と、前記第1電極に接続される、HF〜VHF帯の周波数の電力を出力する第1電源と、前記第2電極に接続される、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を出力するDCパルス電源と、前記第1電極と第2電極との間に反応ガスを導入するガス導入手段とを有することを特徴とするプラズマCVD装置を提供する。
【0013】
このような本発明の成膜方法およびプラズマCVD装置において、前記第1電極に供給する電力の周波数は、13.56MHz〜300MHzであるのが好ましい。
また、本発明の成膜方法およびCVD装置共に、前記第2電極に供給するのは負のバイアス電位であるのが好ましく、また、第1の態様においては、前記第2電極に供給する電力の周波数は50kHz〜3MHzであるのが好ましく、他方、第2の態様においては、前記第2電極に供給するDCパルス電力のパルス周波数は50kHz〜3MHzであるのが好ましい。
【0014】
また、本発明の成膜方法およびCVD装置において、前記被処理物が長尺なシート状物であり、かつ、前記第1電極が、このシート状物を周面で支持して回転することにより長手方向に搬送する円筒状のドラムで、前記第2電極が、前記ドラムの周面に対面してドラムの回転方向に配列される少なくとも1つの電極であるのが好ましく、また、被処理物の表面が有機物であるのが好ましく、さらに、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、および、酸窒化シリコン膜のいずれかを成膜するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成を有する本発明は、第1電極と、この第1電極の対向電極となる(電極対を成す)第2電極とを有し、両電極間に電圧を印加すると共に、両電極間に反応ガスを導入して被処理物の表面にCVDによる成膜を行なう容量結合型CVDにおいて、第1電極に表面に成膜される被処理物を配置すると共に、第1電極には、HF〜VHF帯の高周波電力を供給し、第2電極には、前記第1電極に供給する電力よりも周波数が低く、かつ、13.56MHz以下の周波数を有する電力、もしくは、前記第1電極に供給する電力よりも周波数が低く、かつ、13.56MHz以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を供給して、成膜を行なう。
このような構成を有する本発明では、プラズマによって生成される反応ガス由来のイオンのうち、基板の昇温や損傷や、成膜した膜自身の損傷等を起こし易い高エネルギーイオンを被処理物の表面に引き込むことを大幅に抑制しつつ、膜質や段差被覆性の向上に有効な低エネルギーイオンは、被処理物表面への成膜に有効に利用して、成膜を行なうことができる。
そのため、本発明によれば、高エネルギーイオンによる被処理物の温度上昇や、被処理物表面の損傷/破壊を大幅に抑制して、かつ、膜質の良好な膜を、高い段差被覆性で成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のプラズマCVD成膜方法およびプラズマCVD装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明のプラズマCVD成膜方法の第1の態様を実施する、本発明のプラズマCVD装置の第1の態様の一例を概念的に示す。
【0018】
図1に示すプラズマCVD装置10(以下、CVD装置10とする)は、容量結合型プラズマCVD(CCP(Capacitively Coupled Plasma)−CVD)によって、基板Z(被処理物/基材)の表面に成膜(膜を形成)する装置である。
このようなCVD装置10は、基本的に、真空チャンバ12、基板ホルダ14、シャワー電極16、シールド18、第1電源20、第2電源24、マッチングボックス26および27、真空排気手段28、ならびに、ガス供給手段30を有して構成される。
また、図1に示されるように、基板ホルダ14、シャワー電極16、およびシールド18は、真空チャンバ12内に配置される。
【0019】
図示例のCVD装置10は、CCP−CVDによる成膜において、第1電極である基板ホルダ14にHF〜VHF帯の周波数の電力を供給し、第2電極であるシャワー電極16に、第1電極に供給する電力の周波数よりも低く、かつ、13.56MHz以下である周波数の電力を供給しつつ、基板Zに成膜を行なう以外には、基本的に、通常のCCP−CVDによる成膜を行なうものである。
すなわち、本発明は、CCP−CVDによる成膜において電極対を成す電極に供給する電力の周波数が異なる以外には、基本的に、通常のCCP−CVDによる成膜を行なう。
【0020】
本発明において、基板Z(被処理物)には特に限定はなく、CCP−CVDによる成膜が可能なものであれば、全ての物(物品)が利用可能である。
具体的には、基板Zとしては、フィルム状物(シート状物)、ガラス板やプラスチック板等の各種の板状物、レンズや光学フィルタなどの光学素子、有機ELや太陽電池などの光電変換素子、液晶ディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイパネル等、各種の物品(部材)が、基材として利用可能である。中でも特に、フィルム状物は、基板Zとして好適である。
【0021】
また、基板Zの材料にも、特に限定はないが、本発明の効果が好適に発現できる等の点で、表面が有機物である物が好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの高分子材料からなる基板Zが、好適な一例として例示される。
また、本発明において、基板は、上記各種の物品を本体(基材)として、その表面(少なくとも成膜面)に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための有機物や無機物からなる層(膜)が形成されているものであってもよい。さらに、半導体基板やディスプレイ基板のように、凹凸が意図して形成されている基板であってもよい。
【0022】
真空チャンバ12は、プラズマCVD装置、スパッタリング装置、真空蒸着装置等の各種の真空成膜装置で利用されている公知の真空チャンバである。
また、真空排気手段68も、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。
【0023】
基板ホルダ14は、基板Zを所定の成膜位置に保持するもので、各種の真空成膜装置で利用されている基板ホルダが、各種、利用可能である。
なお、基板ホルダ14における基板Zの保持手段には、特に限定はなく、公知の基板Zの形状に応じた各種の方法が利用可能である。あるいは、基板ホルダ14は、基板Zを保持(固定)するのではなく、単に基板Zを載置するのみであってもよい。なお、基板ホルダ14には、基板Zの位置決め手段を有するのが好ましい。
また、図示例においては、好ましい態様として、基板ホルダ14は、基板Zを加熱するための、加熱手段を内蔵する。また、加熱手段に代えて、基板Zを加熱および冷却可能な加熱/冷却手段を内蔵するのも好ましい。
【0024】
ここで、図示例においては、基板ホルダ14は、本発明における第1電極としても作用するものであり、後述する第1電源20に接続されており、HF〜VHF帯の周波数の電力を供給される。
【0025】
なお、図示例のCVD装置10においては、好ましい態様として、第1電極である基板ホルダ14に、直接的に基板Zを配置(載置)している。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、第1電極には電極としての作用のみを持たせ、基板Zは、別途、設けられる基板保持手段によって、第1電極から離間して、第1電極の近傍に配置するようにしてもよい。
【0026】
図示例において、シャワー電極16は、一例として中空の直方体であって、シールド18によって、最大面を第1電極である基板ホルダ14と対面して配置される。
このシャワー電極16は、第1電極である基板ホルダ14の対向電極となる第2電極であり(すなわち、第1電極と電極対を成す第2電極)、反応ガスの導入管30aに挿通された導線(図示省略)によって後述する第2電源24に接続される。このシャワー電極16には、後述する基板ホルダ14(第1電極)に供給する電力よりも低い周波数を有し、かつ、周波数が13.56MHz以下である電力が、第2電源24から供給される。
シャワー電極16は、天井から垂下されるシールド18に収容されて、所定位置に保持される。シールド18は、基板ホルダ14と対向する面が開放する、シャワー電極16の外形と略同形状の内壁面を有する直方体状の筐体である。また、このシールド18は、電磁波を遮蔽する電磁波シールドとしても作用する。
【0027】
シャワー電極16の基板ホルダ14との対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成されている。さらに、シャワー電極16内は、導入管30aによってガス供給手段30と接続され、反応ガスが供給される。
すなわち、シャワー電極16は、第2電極のみならず、反応ガスの導入手段としても作用するものであり、ガス導入手段30からシャワー電極16内に供給された反応ガスは、基板ホルダ14との対向面に形成された貫通穴から、第1電極である基板ホルダ14と、第2電極であるシャワー電極16との間に供給される。
【0028】
ガス供給手段30は、プラズマCVD装置やスパッタリング装置等に利用されている公知のガス供給手段である。
本発明で成膜する膜には、特に限定はない。従って、ガス供給手段30が供給する反応ガスは、成膜する膜に応じた、公知のものを利用すればよい。例えば、窒化シリコン膜を成膜する際であれば、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスとを、酸化シリコン膜を成膜する際であれば、シランガスと酸素ガスとを、酸窒化シリコン膜を成膜する際であれば、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスと、酸素とを、それぞれ、シャワー電極16に供給すればよい。本発明は、このような窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、酸窒化シリコン膜の成膜に好適である。
また、ガス供給手段30は、このような成膜に直接寄与する反応ガス以外にも、アルゴンガス等の不活性ガスを、補助的なガスとしてシャワー電極16に供給してもよい。
【0029】
なお、本発明は、反応ガスの導入手段として、シャワー電極を利用する構成に限定はされず、第2電極には、電極としての作用のみを持たせ、例えば、第1電極と第2電極との間に、ガスを供給するためのノズルを設けて、此処から反応ガスを供給する方法等、プラズマCVD装置において利用されているガス導入手段が、各種、利用可能である。
【0030】
前述のように、第1電源20は、第1電極である基板ホルダ14に、マッチングボックス26を介してHF〜VHF帯(3MHz超〜300MHz)の周波数を有する電力(以下、便宜的に、高周波電力とする)を供給するものである。第1電源20としては、HF〜VHF帯の周波数を有する電力を供給できるものであれば(HF〜VHF帯の周波数を有する電源であれば)、公知の高周波電源が、各種、利用可能である。
また、第1電源20と基板ホルダ14との間には、マッチングボックス26が配置される。マッチングボックス26は、第1電源20からの電力のインピーダンスを整合する、高周波電源を用いる装置に用いられる、公知の整合器である。
【0031】
他方、第2電源24は、第2電極であるシャワー電極16に、第1電極である基板ホルダ14に供給する高周波電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下の周波数(特に30kHz〜3MHzが好ましい)を有する電力(以下、便宜的に、低周波電力とする)を供給するものである。
第2電源24も、基板ホルダ14に供給する高周波電力よりも低い周波数で、かつ、13.56MHz以下の周波数を有する電力を供給できるものであれば、公知の電源(高周波電源)が、各種、利用可能である。また、第2電源24とシャワー電極16との間にも、マッチングボックス26と同様のマッチングボックス27が配置される。
【0032】
本発明は、電極対に電圧を印加して、電極間に反応ガスを供給してプラズマを生成するCCP−CVDによる成膜において、このように、基板Zを配置する基板ホルダ14(第1電極)に高周波電力を、対向電極となるシャワー電極16(第2電極)に低周波電力を、それぞれ供給して、基板Z(被処理物)の表面(成膜面)に成膜を行なうことにより、加熱による基板のダメージ、高エネルギーイオンによる基板Z表面の損傷を防止しつつ、逆テーパ状の段差等でも高い被覆性で、良好な膜質の膜を成膜することを可能にしたものである。
【0033】
従来のCCP−CVDでは、低温での良質な膜の成膜や、イオンの積極的な利用による膜の良質化等を目的として、前述の特許文献1に示されるように、通常の基板を配置する第1電極(下部電極)に高周波電力を供給して、対向電極である第2電極(上部電極)を接地し、あるいは、特許文献2に示されるように、第1電極に低周波電力を供給し、第2電極に高周波電力を供給して、基板への成膜を行なうことが知られている。
ところが、このような従来のCCP−CVDによる成膜では、基板に高エネルギーのイオンが引き込まれるために、温度上昇に起因する基板のダメージや、高エネルギーイオンによる基板表面の損傷等が生じてしまう。また、このような従来のCCP−CVDによる成膜では、イオンの引き込みによって起こるエッチング現象や再スパッタリング現象、表面マイグレーションの促進などにより、膜質向上や被覆性の向上効果が期待できるが、高エネルギーなイオンほど、早くバイアス電位に反応して成膜に利用され易いため、高エネルギーイオンのみを制御することは、困難である。
【0034】
これに対し、本発明によれば、基板Zを配置する基板ホルダ14に高周波電力を供給して、対向電極となるシャワー電極16に低周波電力を供給して、CCP−CVDによる成膜を行なう。
【0035】
CCP−CVDにおいては、プラズマ電位と電極電位との差が両電極で同等であれば、イオンは、周波数の高い電力を供給される電極より、周波数の低い電力を供給される電極に強く引き込まれる。この傾向は、高エネルギーなイオンほど、強い傾向にあると考えられる。
そのため、本発明によれば、基板Zの加熱や損傷の原因となる高エネルギーイオンを、低周波数のシャワー電極16側に優先的に引き込むことが出来るので、基板Zへの高エネルギーイオンの入射を、大幅に抑制することができる。その結果、本発明によれば、加熱による基板Zのダメージや、高エネルギーイオンの入射に起因する基板Zの表面の損傷や破壊、および、成膜した膜の損傷や破壊を好適に防止することができる。
【0036】
また、第1電極に電力を供給しているので、バイアスの効果を得ることもできる。そのため、膜質の向上や段差被覆性の向上に有効な低エネルギーのイオンは、より高い効率で基板Zに引き込むことができ、この低エネルギーイオンによって、緻密で良好な膜質の膜を成膜できる。
つまり、本発明では、第1電極(基板ホルダ14)により真空チャンバ12内に放電を起こして、反応ガスを解離・電離させてラジカルやイオンを生成し、第1電極によるバイアス効果によりイオンを成膜に利用するが、その際に、第2電極(シャワー電極16)に低周波電力を供給することによって、成膜に利用するイオンのエネルギーを制御することができ、特に高エネルギーイオンの基板Z(被処理物)への引き込みを抑制できる。これにより基板Zの表面に引き込むイオンのエネルギー選択という新たな制御機能を追加できるため、イオンを利用したプラズマCVD法において、従来以上に膜質や被覆性などの制御性を向上でき、様々なアプリケーションに最適な膜を提供できる。
【0037】
すなわち、本発明によれば、CCP−CVDによる成膜において、基板Zの損傷や成膜した膜自身の損傷を好適に防止しつつ、緻密で膜質の良好な膜を成膜することができる。
そのため、本発明は、高分子材料からなる基板Zなど、熱によるダメージを受け易く、また、表面の硬度が低くて高エネルギーイオンよる損傷も受け易い、表面(成膜面)が有機物からなる基板Zへの成膜には好適である。また、本発明によれば、基板Zの表面の損傷を大幅に低減して、緻密な膜を成膜できるので、成膜面に高い表面平滑性が求められ、かつ、膜が緻密であることが要求される、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、酸窒化シリコン膜などのガスバリア膜の成膜には、好適であり、基板Zとしてプラスチックフィルム等が用いられることが多いガスバリアフィルムの製造には、特に好適である。
【0038】
本発明において、高周波電力は、3MHz〜300MHzが好ましく、特に、13.56MHz〜100MHzが好ましい。
高周波電力を、この範囲とすることにより、高速成膜が可能である、大面積化が容易である、低周波電力によるイオンの制御効果が高い等の点で好ましい結果を得ることができる。
他方、低周波電力は、50kHz〜13.56MHzが好ましく、特に、100kHz〜3MHzが好ましい。
低周波電力を、この範囲とすることにより、高周波電力による放電への干渉を少なくできる、低周波電力によるイオンの制御効果が高い等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0039】
また、本発明においては、シャワー電極16(第2電極)には、バイアス電位が掛かる結果となるが、シャワー電極16に掛けるバイアス電位は、負のバイアス電位であるのが好ましい。
一般的に、CVDによる成膜に利用されるイオンは、正のイオンが多いので、シャワー電極16に負のバイアスを掛けることにより、効率の良い成膜を行なうことができる、高周波電力による放電への干渉を少なくできる、低周波電力によるイオンの制御効果が高い等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0040】
本発明においては、第1電極である基板ホルダ14に供給する高周波電力の周波数、および、第2電力に供給する低周波電力の周波数以外の成膜条件には、特に限定はない。
従って、電極に供給する電力量、成膜圧力、反応ガスなどのガスの供給量、基板温度等の各種の成膜条件は、成膜する膜の種類や、要求される成膜レート等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0041】
このようなCVD装置10では、通常のCCP−CVDによる成膜装置と同様にして、基板Zに成膜を行なえばよい。
すなわち、まず、基板ホルダ14の所定位置に基板Zを配置して真空チャンバ12を閉塞する。次いで、真空排気手段28によって真空チャンバ12内を排気して、また、ガス導入手段30からシャワー電極16に反応ガスを供給して、真空チャンバ12内を所定の成膜圧に調整する。さらに、第1電源20から基板ホルダ14に高周波電力を、第2電源24からシャワー電極16に低周波電力を、それぞれ供給して、基板Zの表面にCCD−CVDによる成膜を行なえばよい。
【0042】
図2に、本発明のプラズマCVD成膜方法の第2の態様を実施する、本発明のプラズマCVD装置の第2の態様の一例を概念的に示す(以下、両者をまとめて第2の態様ともいう)。
前述の本発明の成膜方法およびCVD装置の第1の態様(以下、両者をまとめて第1の態様ともいう)は、第1電極にHF〜VHF帯の高周波電力を供給し、第2電極に第1電極に供給する電力の周波数よりも低い周波数を有し、かつ、13.56MH以下である低周波電力を供給しつつ、基板Zに成膜を行なうものである。これに対し、本発明の第2の態様は、前記第1の態様における低周波電力に代えて、第2電極に、第1電極に供給する電力の周波数よりも低い周波数で、かつ、13.56MH以下であるパスル周波数を有するDCパルス電力を供給する。
【0043】
本発明の第2の態様は、これ以外は、前記第1の態様と全く同様である。
従って、図2に示すプラズマCVD装置40(以下、CVD装置40とする)は、前記CVD装置10において、シャワー電極16に低周波電力を供給する第2電源24に代えて、第2電極であるシャワー電極16に、第1電極に供給する電力の周波数よりも低い周波数で、かつ、13.56MH以下であるパスル周波数を有するDCパルス電力を出力するDCパルス電源42が接続される以外には、全く同じ構成を有する。
そのため、図2に示すCVD装置40においては、同じ部材は図1に示すCVD装置10と同じ符号を付し、説明は異なる部位を主に行なう。
【0044】
上記したように、DCパルス電源42は、第2電極であるシャワー電極16に、第1電極である基板ホルダ14に供給する電力の周波数よりも低周波数で、かつ、13.56MH以下であるパルス周波数(例えばLF〜MF帯(30kHz〜3MHz))を有するDCパルス電力を供給するものである。
DCパルス電源42は、第1電極に供給する電力の周波数よりも低周波数で、かつ、13.56MH以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を供給できるものであれば、公知のDCパルス電源が、各種、利用可能である。
【0045】
このようなCVD装置40においても、先のCVD装置10(本発明の第1の態様)と全く同様の効果を得ることができる。
すなわち、本発明の第2の態様においても、高エネルギーイオンが基板Zに入射するのを抑制して、高エネルギーイオンに起因する基板の昇温ダメージや損傷、成膜した膜の損傷等を抑制し、かつ、緻密で膜質の良好な膜を成膜することができる。
【0046】
本発明の第2の態様において、シャワー電極16に供給するDCパルス電力のパルス周波数は、50kHz〜13.56MHzとするのが好ましく、特に、100kHz〜3MHzが好ましい。
シャワー電極16に供給するDCパルス電力のパルス周波数低周波電力を、この範囲とすることにより、高周波電力による放電への干渉を少なくできる、低周波電力によるイオンの制御効果が高い等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0047】
図1に示すCVD装置10、および、図2に示すCVD装置40は、共に、個体状の基板Zに成膜を行なう、いわゆるバッチ式の装置である。しかしながら、本発明は、これに限定はされず、長尺なシート状の基板に連続的に成膜を行なうものであってもよい。
【0048】
図3に、その一例を示す。
図3に示す成膜装置50は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面に、CCP−CVDによって成膜を行なって、ガスバリアフィルムなどの機能性フィルムを製造するものである。
この成膜装置50は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール58から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつガスバリア膜等の目的とする膜を成膜して、成膜した基板Zをロール状に巻き取る、前述のいわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0049】
このような成膜装置50は、供給室52と、成膜室54と、巻取り室56とを有する。
なお、成膜装置50は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、基板Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)を有してもよい。
【0050】
供給室52は、回転軸62と、ガイドローラ64と、真空排気手段68とを有する。
長尺な基板Z巻回した基板ロール58は、供給室52の回転軸62に装填される。
回転軸62に基板ロール58が装填されると、基板Zは、供給室52から、成膜室54を通り、巻取り室56の巻取り軸60に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。
成膜装置50においては、基板ロール58からの基板Zの送り出しと、巻取り室56の巻取り軸60における基板Z(成膜済の基板Z)の巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室54において、基板Zに、CCP−CVDによる成膜を連続的に行なう。
【0051】
供給室52においては、図示しない駆動源によって回転軸62を図中時計方向に回転して、基板ロール58から基板Zを送り出し、ガイドローラ64によって所定の経路を案内して、基板Zを、隔壁70に設けられたスリット70aから、成膜室54に送る。
【0052】
図示例の成膜装置50においては、好ましい態様として、供給室52に真空排気手段68を設けている。供給室52に真空排気手段68を設け、成膜中は、後述する成膜室54と同じ真空度とすることにより、供給室52の圧力が、成膜室54の真空度(ガスバリア膜の成膜)に影響を与えることを防止している。
なお、真空排気手段68は、先の図1に示すCVD装置10の真空排気手段28と同様、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段も同様である。
【0053】
前述のように、基板Zは、ガイドローラ64に案内されて、成膜室54に搬送される。
成膜室54は、基板Zの表面に、図1に示すCVD装置10と同様に、基板を保持する第1電極にHF〜VHF帯の周波数を有する高周波電力を供給し、第2電極に、第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数を有する低周波電力を供給しつつ、CCP−CVDによって目的とする膜を成膜するものである。
【0054】
図示例において、成膜室54は、ドラム72と、シャワー電極74a,74b、74c、および74dと、ガイドローラ76および78と、ガス供給手段80と、第2電源82と、第1電源84と、真空排気手段86と、マッチングボックス90および92とを有する。
【0055】
成膜室54のドラム72は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ76によって所定の経路に案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、基板Zを後述するシャワー電極74a〜74dに対面する所定位置に保持(配置)しつつ、長手方向に搬送する。また、ドラム72は、温度調整手段を有し、成膜中の基板Zの温度を調整可能とするのが好ましい。
【0056】
このドラム72は、本発明における第1電極としても作用するものであり、第1電源84に接続され、この第1電源84から、HF〜VHF帯の周波数を有する高周波電力を供給される。
【0057】
第1電源84は、先のCVD装置10の第1電源20と同様のものであり、基板Zを配置する第1電極であるドラム72に、マッチングボックス90を介してHF〜VHF帯(3MHz超〜300MHz)の周波数を有する高周波電力を供給するものである。
また、マッチングボックス90も、先のマッチングボックス26と同様、高周波電源を用いる装置に用いられる、公知の整合器である。
【0058】
シャワー電極74a〜74dは、先の図1に示すCVD装置10のシャワー電極16と同様の構成を有するものであり、すなわち、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極である。
図示例において、シャワー電極74a〜74dは、貫通穴が多数形成された1つの最大面をドラム72の周面に対面して、この最大面の中心からの垂線がドラム72の法線と一致するように配置される。
【0059】
図示例においては、シャワー電極が、4個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、シャワー電極は1〜3個でも、4個以上でもよい。
また、本発明は、シャワー電極を用いて成膜するのにも限定はされず、通常の板状の電極と、ガス供給ノズルとを用いるものであってもよいのも、成膜装置10と同様である。
【0060】
ガズ供給手段80は、先の図1に示すCVD装置10のガス供給手段30と同様、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極74a〜74dの内部に、反応ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極74a〜74dのドラム72との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極74a〜74dに供給された反応ガスは、この貫通穴から、シャワー電極74a〜74dとドラム72との間に導入される。
【0061】
ここで、シャワー電極74a〜74dは、先のシャワー電極16と同様、本発明における第2電極としても作用するものであり、第2電源82に接続され、第2電源82から、HF帯未満の周波数の電力を供給される。
第2電源82は、先の図1に示すCVD装置10の第2電源24と同様のものであり、マッチングボックス92を介して、第2電極であるシャワー電極74a〜74dに、第1電源84がドラム72(第1電極)に供給する電力よりも周波数が低く、かつ、13.56MHz以下(例えばLF〜MF帯(30kHz〜3MHz))の周波数を有する低周波電力を供給する。なお、マッチングボックス92は、先のマッチングボックス88と同様のものである。
【0062】
供給室52から供給され、ガイドローラ76によって所定の経路に案内された基板Zは、第1電極であるドラム72の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム72に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。
成膜室54内は、真空排気手段86によって所定の真空度に減圧されている。また、シャワー電極74a〜74dには、ガス供給手段80から反応ガスが供給されて、シャワー電極74a〜74dと基板Z(ドラム72)との間に、反応ガスが供給される。さらに、シャワー電極74a〜74dには、第2電源82から、ドラム72に供給される電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下の周波数を有する低周波電力が供給され、また、ドラム72には第1電源84からHF〜VHF帯の周波数を有する高周波電力が供給される。
これにより、ドラム72によって支持されつつ搬送される基板Zの表面に、CCP−CVDによってガスバリア膜が成膜される。
【0063】
なお、この第2電源82に代えて、第2電極であるシャワー電極74a〜74dに、第1電源84がドラム72に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下(例えばLF〜MF帯(30kHz〜3MHz))であるパルス周波数を有するDCパルス電力を供給するDCパスル電源を設けて、前記図2に示すCVD装置40と同様に、本発明に第2の態様による成膜を行なうようにしてもよいのは、もちろんである。
【0064】
ドラム72に支持/搬送されつつ、シャワー電極74a〜74dと対面する領域を通過し成膜された基板Zは、ガイドローラ78によって所定経路に案内されて、成膜室54と巻取り室56とを分離する隔壁94に形成されたスリット94aから、巻取り室56に搬送される。
【0065】
図示例において、巻取り室56は、ガイドローラ96と、巻取り軸60と、真空排気手段88とを有する。
巻取り室56に搬送された基板Z(ガスバリアフィルム)は、ガイドローラ96に案内されて巻取り軸60に搬送され、巻取り軸60によってロール状に巻回されて、次の工程に供される。
また、先の供給室52と同様、巻取り室56にも真空排気手段88が配置され、成膜中は、巻取り室56も、成膜室54における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0066】
以上、本発明のプラズマCVD成膜方法およびプラズマCVD装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0068】
[実施例1]
図1に示すCVD装置10を用いて、基板Zの表面に厚さ300nmの窒化シリコン膜を成膜した。
【0069】
基板Zは、厚さ188μmのPETフィルム(東レフィルム加工株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミナイス」)を用いた。
この基板Zを、基板ホルダ14の所定位置に配置し、真空チャンバ12を閉塞した。なお、この時点での基板ホルダ14の温度は25℃(室温)であった。
【0070】
次いで、真空排気手段28を駆動して真空チャンバ12内を排気し、圧力が0.01Paとなった時点で、ガス供給手段30からシャワー電極16に、反応ガスとしてシランガス、アンモニアガスおよび窒素ガスを供給し、真空チャンバ12内の圧力(成膜圧力)が70Paとなるように、真空排気手段28による排気を調節した。
なお、シランガス、アンモニアガスおよび窒素ガスの流量は、流量比をシランガス:アンモニアガス:窒素ガス=1:3:10とし、成膜速度が150nm/minとなる流量に調整した。成膜速度と反応ガス流量との関係は、予め、実験で調べておいた。
【0071】
次いで、第1電源20から第1電極である基板ホルダ14に13.56MHzの高周波電力を供給し、また、第2電源24から第2電極であるシャワー電極16に600kHzの低周波電力を供給し、基板Zの表面への窒化シリコン膜の成膜を開始した。
なお、基板ホルダ14に供給した電力量は1.5W/cm2、シャワー電極16に供給した電力量は0.4にW/cm2(電極面積に対する電力量)とした。
【0072】
2分を経過した時点で、第1電源20および第2電源24からの電力供給、ガス供給手段30からの反応ガスの供給、および、真空排気手段28の駆動を停止して、次いで、真空チャンバ12を大気開放して、窒化シリコン膜を成膜した基板Zを取り出した。
この時点での基板Zの温度(基板到達温度)は、65℃であった。
【0073】
基板Z(PETフィルム)の熱負けを、目視観察によって調べた。その結果、評価は◎であった。
なお、熱負けの評価は、
成膜前と外観の変化が無い場合を◎;
変形が認められるがガスバリアフィルムとしての使用可能である場合を○;
基板Zが溶融して再凝固した形跡は認められないが、ガスバリアフィルムとしての使用が不可能な変形が認められる場合を△;
基板Zが溶融して再凝固した形跡が認められる場合を×; と評価した。
【0074】
また、窒化シリコン膜を成膜した基板Zについて、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、ガスバリア性(水蒸気透過率[g/(m2・day)])を測定した。
その結果、ガスバリア性は、0.002[g/(m2・day)]であった。
【0075】
さらに、窒化シリコン膜の表面粗さRaをAFM(原子間力顕微鏡 1μm視野)によって測定したところ、1.12[nm]であった。
【0076】
また、基板Zをシリコンウエハに代えて、全く同様にして、基板Zの表面に厚さ300nmの窒化シリコン膜を成膜した。
得られた窒化シリコン膜の屈折率を測定した結果、1.77〜1.79であった。
以上の結果は、下記表1に記す。
【0077】
[比較例1]
シャワー電極16に電力を供給せずに接地(アース)した以外は、前記実施例1と同様にして基板Zの表面に窒化シリコン膜を成膜した。さらに、基板Zをシリコンウエハに代えて、同様にして窒化シリコン膜を成膜した。
成膜終了時の基板Zの温度は70℃であった。
また、実施例1と同様にして、基板の熱負け、ガスバリア性、窒化シリコン膜の表面粗さ、および、シリコンウエハ上に成膜した膜の屈折率を測定した。
その結果、基板の熱負けは○; 、水蒸気透過率は0.012[g/(m2・day)];、 表面粗さは1.88[nm]; 、屈折率は1.78〜1.81; 、であった。
結果を下記表1に併記する。
【0078】
[比較例2]
シャワー電極16に供給する電力を13.56MHzにし、基板ホルダ14に供給する電力を600kHzとした以外は、前記実施例1と同様にして基板Zの表面に窒化シリコン膜を成膜した。さらに、基板Zをシリコンウエハに代えて、同様にして窒化シリコン膜を成膜した。
成膜終了時の基板Zの温度は115℃であった。
また、実施例1と同様にして、基板の熱負け、ガスバリア性、窒化シリコン膜の表面粗さ、および、シリコンウエハ上にに成膜した膜の屈折率を測定した。
その結果、基板の熱負けは×;、 表面粗さは1.88[nm]; 、屈折率は1.78〜1.81; 、であった。なお、水蒸気透過率は、基板Zが水蒸気透過測定が不可能なほど変形してしまい、測定することができなかった。
結果を下記表1に併記する。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例2]
成膜時間を5秒として成膜する窒化シリコン膜の膜厚を約10nmとし、また、基板Zを基板ホルダに配置する際における基板ホルダ14の温度を70℃とした以外には、実施例1と同様にして、基板Zの表面に窒化シリコン膜を成膜した。
この厚さ約10nmの窒化シリコン膜の表面粗さRaを、実施例1と同様に測定したところ、0.85nmであった。
【0081】
[比較例3]
シャワー電極16に電力を供給せずに接地(アース)した以外は、前記実施例2と同様にして、基板Zの表面に窒化シリコン膜を成膜した。
得られた厚さ約10nmの窒化シリコン膜の表面粗さRaを同様に測定したところ、1.38nmであった。
【0082】
[比較例4]
シャワー電極16に供給する電力を13.56MHzにし、基板ホルダ14に供給する電力を600kHzとした以外は、前記実施例2と同様にして基板Zの表面に窒化シリコン膜を成膜した。
得られた厚さ約10nmの窒化シリコン膜の表面粗さRaを同様に測定したところ、1.64であった。
実施例2、比較例3および4で測定された厚さ約10nmの窒化シリコン膜の表面粗さRaを、下記表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
上記表1および表2に示されるように、本発明によれば、ガスバリア性に優れた膜が成膜されており、すなわち、緻密で膜質が良好な膜が成膜できる。また、従来の成膜方法である比較例に比して、基板の到達温度が低く、基板Z(PETフィルム)の基板の熱負けも防止できる。
さらに、窒化シリコン膜の表面粗さ、特に、膜厚約10nmの表面粗さから、プラズマや反応ガスイオン等による基板Zの損傷度合いが好適に知見できるが、本発明によれば、従来の方法である比較例に比して、反応ガスイオン等によるPETフィルムの表面の損傷が少ないことも分かる。
以上の結果より、本発明の効果がは、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のプラズマCVD装置の第1の態様の一例の概念図である。
【図2】本発明のプラズマCVD装置の第2の態様の一例の概念図である。
【図3】本発明のプラズマCVD装置の第1の態様の別の例の概念図である。
【符号の説明】
【0086】
10,50 (プラズマ)CVD装置
12 真空チャンバ
14 基板ホルダ
16,74a,74b,74c,74d シャワー電極
18 シールド
20,84 第1電源
24,82 第2電源
26,27,90,92 マッチングボックス
28,68,86,88 真空排気手段
30,80 ガス供給手段
42 DCパルス電源
50 成膜装置
52 供給室
54 成膜室
56 巻取り室
58 基板ロール
60 巻取り軸
62 回転軸
64,76,78,96 ガイドローラ
70,94 隔壁
72 ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量結合型プラズマCVDによって、被処理物の表面に成膜を行なうに際し、
第1電極と、この第1電極の対向電極となる第2電極とを設け、前記第1電極に被処理物を配置すると共に、前記第1電極にHF〜VHF帯の周波数の電力を供給し、かつ、前記第2電極に、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数の電力を供給しつつ、前記被処理物の表面に成膜を行なうことを特徴とするプラズマCVD成膜方法。
【請求項2】
容量結合型プラズマCVDによって、被処理物の表面に成膜を行なうに際し、
第1電極と、この第1電極の対向電極となる第2電極とを設け、前記第1電極に被処理物を配置すると共に、前記第1電極にHF〜VHF帯の周波数の電力を供給し、かつ、前記第2電極に、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を供給しつつ、前記被処理物の表面に成膜を行なうことを特徴とするプラズマCVD成膜方法。
【請求項3】
被処理物を配置される第1電極と、前記第1電極の対向電極となる第2電極と、前記第1電極に接続される、HF〜VHF帯の周波数の電力を出力する第1電源と、前記第2電極に接続される、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下である周波数の電力を出力する第2電源と、前記第1電極と第2電極との間に反応ガスを導入するガス導入手段とを有することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項4】
被処理物を配置される第1電極と、前記第1電極の対向電極となる第2電極と、前記第1電極に接続される、HF〜VHF帯の周波数の電力を出力する第1電源と、前記第2電極に接続される、前記第1電極に供給する電力よりも低周波数で、かつ、13.56MHz以下であるパルス周波数を有するDCパルス電力を出力するDCパルス電源と、前記第1電極と第2電極との間に反応ガスを導入するガス導入手段とを有することを特徴とするプラズマCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−1551(P2010−1551A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163489(P2008−163489)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】