説明

プラノプロフェン含有水性医薬組成物

【課題】本発明の目的は、プラノプロフェンの水溶性が改善されており、優れた防腐性及び抗炎症作用を有しているプラノプロフェン含有水性医薬組成物を提供することである。
【解決手段】(A)プラノプロフェン及び/又はその塩、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを組み合わせて配合して、水性医薬組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防腐性を有し、プラノプロフェンの水溶性が改善されているプラノプロフェン含有水性医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラノプロフェンは、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を併せ持つ非ステロイド系抗炎症剤として知られており、安全性も高いことから多くの医薬製剤に使用されている。
【0003】
医薬分野において、防腐剤は、プラノプロフェンを含む組成物に限らず、多くの処方において配合されている。医薬分野で使用されている従来の防腐剤には、刺激性や細胞毒性を示すものがあり、安全性が十分に確保できていないものがある。また、従来の防腐剤に対して耐性を示す微生物が報告されており、従来の防腐剤のみの使用では十分な防腐作用が得られないことがある。このような従来の防腐剤の欠点に加え、近年、医薬分野での安全性に対する関心の高まりによって、従来の防腐剤を使用せずに、又はその使用量を低減して、防腐性を十分に備えさせる技術が切望されている。しかしながら、プラノプロフェンは防腐性を有していないため、プラノプロフェンを含む医薬組成物に防腐性を備えさせるには、従来の防腐剤を配合せざるを得ないのが現状であった。
【0004】
また、プラノプロフェンは、従来実用化されている抗炎症剤の中では、抗炎症作用が比較的穏やかであるため、深刻な炎症に対しては軽減効果が十分に奏されないことがある。そのため、プラノプロフェンの有用性や実用的価値を更に高めるために、プラノプロフェンの抗炎症作用を増強できる処方の開発も望まれている。更に、プラノプロフェンの水溶性は、比較的低いという欠点がある。
【0005】
一方、アルギン酸には、Ca2+イオン等の二価以上の陽イオンによって部分的に架橋されてゲル化(高粘度化)する作用があり、アルギン酸を含む水性医薬組成物を皮膚や粘膜に適用すると、皮膚や粘膜上に存在するCa2+イオンとアルギン酸が接触することにより、皮膚や粘膜上で水性医薬組成物が高粘度化することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、メントールは医薬分野においては清涼感や爽快感を付与することを目的として配合されるテルペノイドの1種であり、添加物として広く用いられている。
【0007】
しかしながら、プラノプロフェン、アルギン酸、及びメントールの中では、メントールだけが防腐性を示すことが明らかにされているが、メントール単独の防腐性では水性医薬組成物に実用的な防腐性を備えさせることは困難であることが分かっている。このメントールの防腐性の作用機序は未解明であり、今日において、様々な成分の存在下におけるメントールの防腐性の増強に有効な成分を見出すには、過度の試行錯誤を強いることになる。
【0008】
また、プラノプロフェンを含む水性医薬組成物において、アルギン酸及びメントールが、プラノプロフェンの水溶性にどのような作用を及ぼすかについては明らかにされていない。更に、アルギン酸及びメントールについては、プラノプロフェンの抗炎症作用に対する影響は明らかにされていない。
【非特許文献1】Journal of controlled release 44 (1997), 201-208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、プラノプロフェンを含有する水性医薬組成物に関して検討を進めたところ、プラノプロフェンの水溶性は、他の配合成分によって変動する場合があることが確認された。特に、点眼剤等のように、多数の配合成分を組み合わせて製造される水性医薬組成物では、配合成分の種類によってはプラノプロフェンの水溶性が低下し、沈殿物や不溶化物が生じ易くなる場合があることが分かった。また、界面活性剤等の溶解補助剤を配合しても、プラノプロフェンの水溶性を向上させることは困難であった。而るに、プラノプロフェン含有水性医薬組成物を用いて、多様な製剤処方を実現する上で、プラノプロフェンの水溶性を改善させることも重要である。特に、水性医薬組成物においては、製造時に処方濃度よりも高い濃度で予備溶解すことが多く、僅かな水溶性の改善であっても、製剤処方の自由度や製造上の自由度が格段に向上される。
【0010】
そこで、本発明の目的は、プラノプロフェンの水溶性を改善し、優れた防腐作用を有する、プラノプロフェン含有水性医薬組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、プラノプロフェンの抗炎症作用が増強されている水性医薬組成物を提供することである。更に、本発明の他の目的は、長期間保存しても澄明性を保持して外観や性状を良好な状態に保つことができる、プラノプロフェン及び/又はその塩を含有する水性医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、驚くべきことに、下記の知見を得た:
(i) (A)プラノプロフェン及び/又はその塩の抗炎症作用が、(B)アルギン酸及び/又はその塩との共存によって増強される。
(ii) (A)プラノプロフェン及び/又はその塩と、(B)アルギン酸及び/又はその塩とを併用した水性医薬組成物では、長期間保存しても水性医薬組成物の澄明性を保持できる。
【0012】
そこで、本発明者等は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねたところ、水性医薬組成物において、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを組み合わせて配合することにより、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性を改善できるので、多様な製剤処方に対応可能で、安定性が一層優れた水性医薬組成物を提供できることを見出した。更に、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含む水性医薬組成物では、これらの成分の単独使用では認められない優れた防腐作用が獲得されたり、アルギン酸及びメントールの存在下における防腐作用をプラノプロフェンが顕著に向上させたりすることによって、格段に優れた防腐効果を奏し得ることをも見出した。そして更に、このような防腐効果は、上記水性医薬組成物に、更に、(E)イミダゾリン系血管収縮剤、クロルフェニラミン及びクロルフェニラミンの塩の内の少なくとも1種を配合することによって一層顕著になることを見出した。また更に、本発明の水性医薬組成物は、上記効果に加えて、疲れ目や眼精疲労の改善効果にも優れていることをも見出した。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げる水性医薬組成物である:
項1. (A)プラノプロフェン及び/又はその塩、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含有することを特徴とする、水性医薬組成物。
項2. 更に、(D)溶解補助剤を含有する、項1に記載の水性医薬組成物。
項3. (D)溶解補助剤が非イオン性界面活性剤である、項2に記載の水性医薬組成物。
項4. 非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、項3に記載の水性医薬組成物。
項5. 更に、(E)イミダゾリン系血管収縮剤、クロルフェニラミン、及びクロルフェニラミンの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、項1乃至4のいずれかに記載の水性医薬組成物。
項6. 更に、テトラヒドロゾリン、クロルフェニラミン、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、項1乃至4のいずれかに記載の水性医薬組成物。
項7. (B)成分が、グルロン酸に対するマンヌロン酸の構成比が、0.4〜3.0であるアルギン酸、及び/又はその塩である、項1乃至6のいずれかに記載の水性医薬組成物。
項8. 眼科用組成物である、項1乃至7に記載の水性医薬組成物。
項9. 眼科用組成物が点眼剤である、項8に記載の水性医薬組成物。
【0015】
更に、本発明は、下記に掲げる水溶性の改善方法である:
項10. (A)プラノプロフェン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性医薬組成物に、(C)メントールを配合することを特徴とする、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性の改善方法。
項11. (B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含む水性医薬組成物に、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩を配合することを特徴とする、該水性医薬組成物の保存効力を改善する方法。
項12. (B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含む水性医薬組成物に(A)プラノプロフェン及び/又はその塩を配合することを特徴とする、該水性医薬組成物
に疲れ目又は眼精疲労改善効果を付与する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性医薬組成物は、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性を改善できるので、長期間保存しても沈殿物や不溶化物の生成を抑制可能であり、更には多様な製剤処方にも対応可能であり、製造上の自由度も格段に向上する。
【0017】
また、本発明の水性医薬組成物は、優れた保存効力(即ち、防腐作用)を発現することができる。
【0018】
更に、本発明の水性医薬組成物は、プラノプロフェン及び/又はその塩の抗炎症作用が増強されているので、従来のプラノプロフェン含有組成物では対処が困難であった深刻な炎症に対しても、軽減効果を奏し得る。また、本発明の水性医薬組成物は、上記効果に加えて、疲れ目や眼精疲労の改善効果にも優れているので、眼科用組成物としての有用性が高い。
【0019】
そして更に、本発明の水性医薬組成物は、長期間保存しても、該水性医薬組成物の澄明性が保持され、外観や性状を良好な状態に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書中、w/v%は、質量対体積百分率を示し、溶液100mLに溶けている各成分(溶質)の重量gを意味するものである。また、コンタクトレンズという語句は、特記しない限り、ハード、酸素透過性ハード、ソフト等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する意味で用いる。また、本明細書において、水性医薬組成物とは、組成物中に水を少なくとも5重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含有する医薬組成物を意味する。更に、本明細書において、防腐作用又は防腐性とは、細菌の繁殖を防止して、腐敗を生じさせない作用又は性質のことを示し、当該防腐作用又は防腐性には、静菌及び殺菌の双方の作用又は性質が包含される。ここで、静菌とは細菌の菌数を増加させないことであり、殺菌とは細菌を死滅させ菌数を減じさせることである。
【0021】
(I)水性医薬組成物
本発明の水性医薬組成物は、プラノプロフェン及び/又はその塩(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0022】
また、プラノプロフェンの塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。このような塩としては、例えば、無機塩基との塩[例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等]や、有機塩基との塩[例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等との塩]などが挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0023】
また、プラノプロフェン及び/又はその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0024】
本発明の水性医薬組成物には、これらのプラノプロフェン及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくはプラノプロフェンである。
【0025】
本発明の水性医薬組成物中のプラノプロフェン及び/又はその塩の配合割合は、特に制限されるものではなく、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。プラノプロフェン及び/又はその塩の配合割合の一例として、水性医薬組成物の総量当たり、これらが総量で0.0001〜2w/v%、好ましくは0.0005〜0.2w/v%、更に好ましくは0.001〜0.1w/v%が例示される。より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤であれば、プラノプロフェン又はその塩が総量で、特に好ましくは0.01〜0.1w/v%、更に特に好ましくは0.01〜0.05w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤であれば、プラノプロフェン又はその塩が総量で、特に好ましくは0.001〜0.01w/v%、更に特に好ましくは0.001〜0.005w/v%が例示される。
【0026】
上記割合でプラノプロフェン及び/又はその塩を含むことによって、本発明の水性医薬組成物において、防腐作用、抗炎症作用、澄明性の保持効果及び疲れ目改善効果を一層効果的に獲得することができる。
【0027】
本発明の水性医薬組成物は、更にアルギン酸及び/又はその塩(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。
【0028】
アルギン酸とは、マンヌロン酸(以下、単に「M」と表示することもある)とグルロン酸(以下、単に「G」と表示することもある)から構成される多糖類であり、マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、及びマンヌロン酸とグルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。
【0029】
本発明に使用されるアルギン酸において、そのグルロン酸に対するマンヌロン酸の構成比率(M/G比;モル比)については、特に制限されず、例えばM/G比が0.4〜3.0の範囲に含まれるものが広く使用される。アルギン酸を水性医薬組成物に配合する場合において、一般に、M/G比が小さい程、水性医薬組成物の粘性が上昇する傾向がある。かかる事項を考慮すると、水性医薬組成物において、プラノプロフェン及び/又はその塩の適用部位における滞留性を向上させるという観点からは、M/G比が2.5以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.6以下であることが望ましい。特に、プラノプロフェンの水溶性改善効果、防腐性、抗炎症作用、水性医薬組成物の澄明性の保持効果、疲れ目改善効果等をも一層向上させるという観点からは、M/G比が、好ましくは0.4〜2.0、より好ましくは0.5〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.6の範囲に含まれるものを使用することが望ましい。なお、本発明において、M/G比は、アルギン酸をブロック単位で分画し、それぞれを定量することにより算出される値であり、具体的には、A. Haug et al., Carbohyd. Res. 32(1974), p.217-225に記載の方法に従って測定される。
【0030】
また、本発明に使用されるアルギン酸において、MM画分、GG画分及びMG画分の比率についても、特に制限されず、水性医薬組成物の用途や形状に応じて適宜選択することができる。
【0031】
また、本発明で使用されるアルギン酸は、低分子量のものであってもよく、また高分子量のものであってもよい。
【0032】
また、アルギン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。アルギン酸の塩として、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアルギン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の水性医薬組成物には、これらのアルギン酸及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。中でも、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムは水溶性であり、本発明において好適に使用される。特に、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0034】
本発明の水性医薬組成物中のアルギン酸及び/又はその塩の配合割合は、特に制限されるものではなく、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。アルギン酸及び/又はその塩の配合割合の一例として、水性医薬組成物の総量当たり、これらが総量で0.001〜5w/v%、好ましくは0.002〜2w/v%、更に好ましくは0.005〜1w/v%が例示される。より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤であれば、アルギン酸及び/又はその塩が総量で、特に好ましくは0.001〜0.5w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.2w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤であれば、アルギン酸及び/又はその塩が総量で、特に好ましくは0.001〜0.2w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.1w/v%が例示される。
【0035】
また、本発明の水性医薬組成物は、更にメントール(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。本発明の水性医薬組成物は、メントールを含むことにより、上記(B)成分又は更に他の配合成分との共存下で生じるプラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性の低下を抑制でき、更には、防腐性の向上をより顕著ならしめることができる。
【0036】
本発明で使用されるメントールは、d体、l体、dl体のいずれであってもよいが、好ましくはl体である。また、本発明において、(C)成分として、メントールを含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油等が挙げられる。
【0037】
本発明の水性医薬組成物中のメントールの配合割合は、特に制限されるものではないが、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。メントールの配合割合の一例として、水性医薬組成物の総量当たり、これらが総量で0.00001〜0.5w/v%、好ましくは0.00005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.0001〜0.05w/v%が例示される。より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤であれば、メントールの配合割合が、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.05w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤であれば、メントールの配合割合が、特に好ましくは0.0001〜0.02w/v%、更に特に好ましくは0.001〜0.01w/v%が例示される。なお、(C)成分として、メントールを含む精油を使用する場合は、当該精油の配合割合は、配合される精油中のメントール含有量が上記割合を満たすように設定される。
【0038】
本発明の水性医薬組成物において、上記(A)成分に対する上記(B)及び(C)成分の比率についても特に制限されない。プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性の改善効果、抗炎症作用の増強、防腐作用の発現、及び疲れ目改善効果の発現を、より一層顕著ならしめるという観点から、上記(A)成分に対する上記(B)及び(C)成分の比率として、以下に示す範囲が例示される:
(A)成分1重量部に対して、(B)成分が0.005〜200重量部、且つ(C)成分が0.005〜100重量部;好ましくは(B)成分が0.01〜50重量部、且つ(C)成分が0.01〜50重量部;特に好ましくは(B)成分が0.05〜5重量部、且つ(C)成分が0.02〜50重量部;更に特に好ましくは(B)成分が0.5〜3重量部、且つ(C)成分が0.02〜30重量部。
【0039】
また、上記比率を充足する場合、水性医薬組成物の澄明化をより顕著ならしめ、保存安定性を効果的に向上させることもできる。
【0040】
更に、本発明の水性医薬組成物は、溶解補助剤(以下、単に(D)成分と表記することもある)を配合することができる。溶解補助剤は、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性を低減させることがあるが、本発明の水性医薬組成物では、上記(A)〜(C)成分を組み合わせて含むことによって、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性が改善されているので、溶解補助剤が存在しても、その水溶性は安定に保持される。また、本発明の水性医薬組成物は、溶解補助剤を含むことにより、他に添加される配合成分の種類や濃度の幅が広がり、多様な製剤処方に対応することが可能になる。さらに、製造時においても、より高濃度の予備調製等が可能となり、製造条件の自由度を向上させる事も可能となる。
【0041】
本発明に使用される溶解補助剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、例えば、多価アルコール類、アルコール類、高分子化合物、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。溶解補助剤として使用される多価アルコール類の好ましいものとしては、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールが挙げられる。また、溶解補助剤として使用されるアルコール類の好ましいものとしては、エタノールが挙げられる。溶解補助剤として使用される高分子化合物の好ましいものとしては、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90、ポリビニルアルコールが挙げられる。また、溶解補助剤として使用される非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー;モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(60)硬化ヒマシ油等のPOE硬化ヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤の中でも、好ましくは、ポロクサマー407、ポリソルベート80、POE(60)硬化ヒマシ油であり、これらの中でも特に好ましくはポリソルベート80である。尚、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレンの略である。また、括弧内の数字は付加モル数を示す。上記溶解補助剤の中で、好ましくは非イオン性界面活性剤であり、更に好ましくは、ポロクサマー407、ポリソルベート80、POE(60)硬化ヒマシ油であり、特に好ましくはポリソルベート80である。
【0042】
本発明の水性医薬組成物において、上記溶解補助剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明の水性医薬組成物中の溶解補助剤の配合割合は、特に制限されるものではなく、該剤の種類、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。溶解補助剤の配合割合の一例として、水性医薬組成物の総量当たり、これらが総量で0.0001〜3.0w/v%、好ましくは0.0005〜1.0w/v%、更に好ましくは0.001〜0.5w/v%が例示される。より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤であれば、溶解補助剤の配合割合が、特に好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に特に好ましくは0.05〜0.3w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤であれば、溶解補助剤の配合割合が、特に好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に特に好ましくは0.01〜0.2w/v%が例示される。
【0044】
更に、本発明の水性医薬組成物は、イミダゾリン系血管収縮剤、クロルフェニラミン、及びクロルフェニラミンの塩よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、これらを単に(E)成分と表記することもある)を含有してもよい。
【0045】
上記(E)成分の内、血管収縮剤とは、拡張した抹消血管を収縮させ、眼科領域では結膜の充血症状を緩和し、また耳鼻科領域では鼻粘膜の充血に伴う鼻詰まりを緩和するために用いられる薬物である。また、イミダゾリン系血管収縮剤とは、イミダゾリン骨格を有する化合物からなる血管収縮剤である。本発明に使用されるイミダゾリン系血管収縮剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、2−イミダゾリン骨格を有する化合物からなる血管収縮剤が例示される。このようなイミダゾリン系血管収縮剤として、具体的には、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、オキシメタゾリン、及びこれらの塩等が例示される。上記化合物の塩としては、塩酸塩、硝酸塩等の無機酸塩が例示される。また、上記化合物及びその塩は、水和物の形態であってもよい。更に、上記化合物は、d体、l体、dl体のいずれであってもよい。これらの中で好ましくはテトラヒドロゾリン、ナファゾリン、及びそれらの塩、更に好ましくは、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、及び硝酸ナファゾリン、特に好ましくは塩酸テトラヒドロゾリンが挙げられる。これらのイミダゾリン系血管収縮剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
また、上記(E)成分の内、クロルフェニラミン及びその塩は、抗ヒスタミン剤として公知の化合物である。クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、塩酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。また、上記化合物及びその塩は、水和物の形態であってもよい。更に、上記化合物は、d体、l体、dl体のいずれであってもよい。これらの中で好ましくはクロルフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミンが挙げられ、特に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
上記(E)成分の内、テトラヒドロゾリン、クロルフェニラミン、及びこれらの塩の少なくとも1種を配合することによって、本発明の水性医薬組成物の防腐性がより一層増強されるという格別の効果を達成できるので、これらの化合物は、上記(E)成分の中でも特に好適な配合成分である。
【0048】
本発明の水性医薬組成物に上記(E)成分を配合する場合、その配合割合については、特に制限されるものではなく、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。
【0049】
例えば、上記(E)成分として、イミダゾリン系血管収縮剤を配合する場合、水性医薬組成物の総量当たり、イミダゾリン系血管収縮剤が総量で0.000005〜1.0w/v%、好ましくは0.00001〜0.5w/v%、更に好ましくは0.00006〜0.1w/v%となる割合が例示される。イミダゾリン系血管収縮剤の配合割合として、より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤の場合は、特に好ましくは0.0006〜0.1w/v%、更に特に好ましくは0.0015〜0.05w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤の場合は、特に好ましくは0.00006〜0.01w/v%、更に特に好ましくは0.00015〜0.005w/v%が例示される。
【0050】
また、例えば、上記(E)成分として、クロルフェニラミン及び/又はその塩を配合する場合、水性医薬組成物の総量当たり、クロルフェニラミン及び/又はその塩が総量で0.00001〜0.5w/v%、好ましくは0.00005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.0001〜0.05w/v%となる割合が例示される。クロルフェニラミン又はその塩の配合割合として、より具体的には、水性医薬組成物が点眼剤の場合は、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.006〜0.03w/v%;水性医薬組成物が洗眼剤の場合は、特に好ましくは0.0001〜0.005w/v%、更に特に好ましくは0.0006〜0.003w/v%が例示される。
【0051】
本発明の水性医薬組成物は、上記成分に加えて、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の水性医薬組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、ε−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩などが挙げられる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明の効果を一層効率的に奏させる観点から、上記緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤が好適である。当該ホウ酸緩衝剤の具体例として、ホウ酸及びその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)が例示される。特に、ホウ酸、ホウ砂が好適である。また、当該リン酸緩衝剤の具体例として、リン酸及びその塩(リン酸水素ニナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸ニ水素カリウム、及びそれらの水和物など)が例示される。特に、リン酸、リン酸水素ニナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、それらの水和物が好適である。一般に、リン酸緩衝剤を含有する水性医薬組成物は防腐性が弱い傾向にあるが、本発明の水性医薬組成物は、リン酸緩衝剤を含むことによって効果的に防腐作用を付与でき、本発明の効果をより有効に享受する事が可能となるので好ましい。更に、本発明の水性医薬組成物が眼科用組成物である場合には、リン酸緩衝剤を含むことによって、眼粘膜に適用した際に、潤いの持続、滑らかさ、ゴロゴロ感の改善等の使用感の向上が認められるという利点もある。
【0052】
本発明の水性医薬組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類や期待される効果等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、水性医薬組成物の総量当たり、該緩衝剤が0.01〜3w/v%、好ましくは0.1〜2.5w/v%、更に好ましくは0.3〜2.3w/v%、特に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0053】
また、本発明の水性医薬組成物は、プラノプロフェン及び/又はその塩の化学的安定性が著しく損なわれない範囲で、生体に許容される範囲内のpHに調節することができる。適切なpHは、該水性医薬組成物の適用部位、剤形等により異なるが、通常6〜9、好ましくは6.5〜8.5、更に好ましくは6.8〜8.2、特に好ましくは7〜8である。かかる範囲内から著しく逸脱すると、プラノプロフェン及び/又はその塩の安定性が低下する可能性がある。pHの調節は、前記緩衝剤、或いは当該技術分野で通常使用されているpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0054】
本発明の水性医薬組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤形等により異なるが、通常0.3〜4.2、好ましくは0.3〜2.1、更に好ましくは0.5〜1.8、より好ましくは0.6〜1.5、特に好ましくは0.8〜1.5である。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類などを用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十四改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0055】
本発明の水性医薬組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的に、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
【0056】
エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、メチル硫酸ネオスチグミン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、ε−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩酸ジフェンヒドラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物、スルファメトキサゾール、スルファイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルファイソミジンナトリウム、グルコース、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン等。
【0057】
また、本発明の水性医薬組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0058】
マクロゴール、ポロキサミン、アルキルジアミノエチルグリシン、塩化ベンザルコニウム、パラベン類、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、ウイキョウ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油、エデト酸ナトリウム、塩化ベンゼトニウム、クエン酸、トロメタモール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、酢酸ナトリウム、酢酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等。
【0059】
また、本発明の水性医薬組成物には、防腐性が備わっているので、防腐剤を別途添加しなくてもよいが、必要に応じて、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラベン類、ソルビン酸、ソルビン酸塩、フェネチルアルコール、グルコン酸クロルヘキシジン、デヒドロ酢酸ナトリウム、硫酸オキシキノリン等の防腐剤を含んでいてもよい。防腐性という観点からは、本発明の水性医薬組成物は、塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤に耐性を示すBurkholderia cepaciaに対しても、効果的な殺菌又は増殖抑制を示すことができるという利点がある。
【0060】
本発明の水性医薬組成物の形状は、液状であってもよいが、軟膏等の半固形状であってもよい。好ましくは液状である。
【0061】
また、本発明の水性医薬組成物は、上記(A)〜(C)成分に基づく有用な薬理作用を発現できるため、医薬品や医薬部外品等の製剤として使用できる。本発明の水性医薬組成物の製剤形態の具体例として、点眼剤(点眼液又は点眼薬ともいう)[但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、洗眼剤(洗眼液又は洗眼薬ともいう)[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、眼軟膏剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用組成物(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)等の眼科用組成物;点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物;口腔咽頭薬、含嗽薬(含嗽用剤)等の口腔用組成物;点耳薬;シロップ剤、エキス剤等の経口投与用組成物;注射剤等の皮下投与用組成物等が挙げられる。上記(A)〜(C)成分の薬理作用を鑑みれば、中でも好ましくは眼科用組成物であり、更に好ましくは点眼剤及び洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤である。本発明の水性医薬組成物は、疲れ目或いは眼精疲労の改善効果にも優れているので、眼科用組成物として使用する場合には、疲れ目改善或いは眼精疲労改善の用途において特に好適である。
【0062】
本発明の水性医薬組成物は、プラノプロフェン及び/又はその塩の抗炎症作用を増強して発現することができるので、抗炎症用の水性医薬組成物として特に有用である。
【0063】
本発明の水性医薬組成物は、目的とする製剤形態や用途に応じた公知の方法により製造できる。
【0064】
(II)水溶性の改善方法、保存効力の改善方法、及び疲れ目又は眼精疲労改善効果の付与方法
前述するように、水性医薬組成物中で上記(A)〜(C)成分を組み合わせて配合することによって、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性を改善することができる。また、後記する実験例1に示すように、上記(A)及び(B)成分を組み合わせて配合した場合に比して、上記(A)〜(C)成分を組み合わせて配合した方が、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性が向上している。これらの知見に基づいて、本発明は、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩、及び(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性医薬組成物に、(C)メントールを配合することを特徴とする、プラノプロフェン及び/又はその塩の水溶性の改善方法を提供する。
【0065】
また、前述するように、水性医薬組成物中で上記(A)〜(C)成分を共存させることによって、優れた保存効力を備えさせることができる。従って、本発明は、更に別の観点から、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含む水性医薬組成物に、(A)プラノプロフェン及び/又はその塩を配合することを特徴とする、該水性医薬組成物の保存効力を改善する方法を提供する。
【0066】
更に、前述するように、水性医薬組成物中で上記(A)〜(C)成分を共存させることによって、優れた疲れ目改善効果又は眼精疲労改善効果を備えさせることができる。従って、本発明は、更に別の観点から、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含む水性医薬組成物に(A)プラノプロフェン及び/又はその塩を配合することを特徴とする、該水性医薬組成物に疲れ目又は眼精疲労改善効果を付与する方法を提供する。
【0067】
これらの方法において、使用する(A)〜(C)成分の種類、これらの水性医薬組成物中の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、水性医薬組成物の用途や製剤形態等については、前記「(I)水性医薬組成物」と同様である。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実験例1−7では、アルギン酸は、全てM/G比の規格が1.0〜1.6のLessonia nigrescens由来のものを使用した。
【0069】
実験例1 水溶性評価試験
表1に記載の処方に従い、水性医薬組成物を調製した(試験例1及び2)。これらの水性医薬組成物100mLをビーカーに収容して、これにプラノプロフェン0.5gを添加し、約3時間室温にて撹拌した。その後暗所にて、3日間室温で静置した。次いで、保存後の各水性医薬組成物を、クラボウステラディスク13(孔径0.2μm;ディスク径13mm)にて濾過した。斯くして得られたろ液中のプラノプロフェン濃度を測定し、各水性医薬組成物におけるプラノプロフェンの溶解度を求めた。
【0070】
得られた結果を表1に示す。この結果から、アルギン酸及びメントールを共存(試験例1)させることにより、アルギン酸との共存(試験例2)の場合に比して、プラノプロフェンの水溶性を改善できることが確認された。
【0071】
【表1】

【0072】
実験例2 防腐性の評価試験−1
表2に示す組成の水性医薬組成物(実施例1)を用いて、日本薬局方(第15改正)に定める方法に準じて保存効力試験(防腐力試験)を行い、水性医薬組成物の防腐性を評価した。具体的には、Pseudomonas aeruginosa(ATCC 9027株)を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン平板培地の表面に接種して、33℃で24時間培養を行った。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約1×108CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。その後、生菌数が約1.0×106CFU/mLとなるように、この細菌浮遊液に対して、表2に示す水医薬性組成物を適量添加した後に、25℃で14日間静置した。なお、菌種の水性医薬組成物を添加した。
【0073】
保存14日後に、1mL当たりの生菌数を測定したところ、実施例1の水性医薬組成物は非常に優れた防腐作用を示した。
【0074】
【表2】

【0075】
実験例3 防腐性の評価試験−2
表3に示す組成の水性医薬組成物(実施例1−3及び比較例1)を用いて、日本薬局方(第15改正)に定める方法に準じて保存効力試験(防腐試験)を行い、水性医薬組成物の防腐性を評価した。具体的には、Escherichia coli (ATCC 8739株)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 9027株)及びBurkholderia cepacia (JCM 5506株)を、それぞれ、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン平板培地の表面に接種して、33℃で24時間培養を行った。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約1×108CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。この細菌浮遊液に対して、表3に示す各水性医薬組成物を適量添加した後に、25℃で所定期間静置した。なお、Escherichia coliの場合は生菌数が約1.6×106CFU/mL、Pseudomonas aeruginosaの場合は生菌数が約2.0×106CFU/mL、及びBurkholderia cepaciaの場合は生菌数が約1.6×106CFU/mLとなるように、各水性医薬組成物を添加した。また、Escherichia coli及びPseudomonas aeruginosaの場合は3日間静置した後に1mL当たりの生菌数を測定し、Burkholderia cepaciaの場合は7日間静置した後に1mL当たりの生菌数を測定した。スタート時と静置後の1mL当たりの生菌数の対数値(log(CFU/mL))の差を算出し、対数値の減少値(Value of
log Reduction)を求めた。
【0076】
【表3】

【0077】
Escherichia coliについて評価した結果を表4、Pseudomonas aeruginosaについて評価した結果を表5、及びBurkholderia cepaciaについて評価した結果を表6に示す。これらの結果から、プラノプロフェン、アルギン酸及びl-メントールを併用した場合では、十分な保存効力を有しており、優れた防腐性を備え得ることが明らかとなった。更に、上記3成分に加えて、テトラヒドロゾリン又はマレイン酸クロルフェニラミンを併用すると、保存効力がより一層高まり、細菌が完全に死滅したことも確認された。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
実験例4 抗炎症作用の評価試験
表7に記載の処方に従い、各水性医薬組成物を調製し0.2μmフィルター(クラボウ株式会社製)で滅菌濾過して用いた(参考例1、比較参考例1及び2、コントロール)。また、別途、アラキドン酸ナトリウム(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)を生理食塩水(日本薬局方 大塚生食注、大塚製薬株式会社製)に0.5w/v%となるように溶解した後に、0.2μmフィルター(クラボウ株式会社製)で濾過することにより、アラキドン酸溶液を調製した。
【0082】
【表7】

【0083】
斯くして調製した水性医薬組成物及びアラキドン酸溶液を用いて、以下の試験を行い、抗炎症作用について評価した。なお、以下記載する評価方法は、当該技術分野で抗炎症作用の評価のために一般的に採用されている方法に準じている。
【0084】
まず、日本白色種ウサギ(雄、2kg、オリエンタル酵母株式会社より購入)の右眼にコントロールの水性医薬組成物を5μL、左眼に参考例1、比較参考例1又は比較参考例2の水性医薬組成物を5μL点眼した。その30分後に両眼にアラキドン酸溶液を20μL点眼して前房内に炎症を誘発させた。2時間後に、ウサギの眼から前房水を採取した。炎症の進行に伴い血管から房水内に漏出してくる血漿タンパク質量を炎症の指標とし、採取した前房水に含まれるタンパク質濃度をタンパク質定量キット(Bio-Rad Protein Assay、Bio-Rad社製)を用いて定量した。なお、定量の指標となる呈色反応の程度は、分光光度計(Multiscan MS、Labsystems社製)用いて測定した。測定された前房水中のタンパク質濃度から、下記計算式に従って、相対的炎症強度(%)を算出した。なお、有意差検定はStudent-t検定で行った。
【0085】
【数1】

【0086】
得られた結果を図1に示す。アルギン酸を単独で含む水性医薬組成物(比較参考例1)を投与した眼では、アラキドン酸溶液によって炎症が顕著に誘発された。また、プラノプロフェンを単独で含む水性医薬組成物(比較参考例2)では、相対的炎症強度が60%程度に低減された。これに対して、プラノプロフェンとアルギン酸を組み合わせて含有する水性医薬組成物(参考例1)では、相対的炎症強度が30%程度と著しく低減されていることが確認された。以上の結果から、アルギン酸単独では、抗炎症作用を示さないが、プラノプロフェンとアルギン酸を併用することにより、プラノプロフェンの抗炎症作用が相乗的に増強されて発現されることが明らかとなった。
【0087】
実験例5 プラノプロフェン含有水性医薬組成物の安定性評価試験
表8に記載の処方に従い、プラノプロフェン含有水性医薬組成物を調製した(参考例2及び比較参考例3)。これらのプラノプロフェン含有水性医薬組成物を用いて、以下の試験を行い、光曝露条件下での安定性について評価した。
【0088】
各々のプラノプロフェン含有水性医薬組成物を透明ガラス製スクリュー管(容量10mL)に8mLずつ充填し、これらを試験サンプルとした(n=2)。この試験サンプルに対して、光安定性試験装置(「Light-Tron LT-120 D3CJ型」、ナガノ科学株式会社製)を用いて、D65ランプを光源として、室温25℃の下、0.5万lxの光を2時間連続照射し、試験溶液を積算照射量1万lx・hrの光に曝光した。光照射前後の各試験サンプルの濁度(A680)について、680nmにおいて光路長1cmのセルで測定した。
【0089】
得られた結果を表8に示す。この結果から、アルギン酸には、プラノプロフェンを含む水性医薬組成物において、澄明な状態を保持させる作用があることが確認された。
【0090】
【表8】

【0091】
実験例6 疲れ目改善効果の評価試験
表9に示す組成の水性医薬組成物(実施例4及び比較例2)を用いて、疲れ目改善効果について評価した。
【0092】
【表9】

【0093】
具体的には、疲れ目を感じ易い3名の被験者に対して、VDT作業(パソコン画面を見な
がらの文字入力作業)に30分間従事させて、被験者の目に負荷をかけた。次いで、実施例4の水性医薬組成物を両眼に2滴ずつ点眼して、フリッカー値(点眼後フリッカー値)を測定した。その後、十分な間隔をあけて目の疲労を回復させた後、比較例2の水性医薬組成物を用いて、同様の方法で点眼後フリッカー値の測定を行った。
【0094】
なお、フリッカー値とは、点滅光の点滅周波数を次第に高くしていった際に、肉眼により点滅を識別できなくなる臨界周波数のことであ。疲れ目の指標として用いられており、フリッカー値が低い程、疲労度が大きいことを示している。本試験において、フリッカー値は、下記の装置及び条件で測定した。
【0095】
装置名:労研デジタルフリッカー値測定器 RDF-1(柴田科学株式会社 製)
照度 :測定者の見易い照度に設定
距離 :測定者の見易い位置(「K」の文字が最も明確に見える位置)に設定
SCANつまみ(下降させる初期フリッカー周波数) :55Hz
MANU-AUTO :AUTOに設定
【0096】
この結果、3名の被験者の全てにおいて、実施例4の水性医薬組成物の点眼後フリッカー値が、比較例2の水性医薬組成物の点眼後フリッカー値に比べて、顕著に大きい値を示した。具体的には、3名の被験者は、実施例4の水性医薬組成物の点眼後フリッカー値が、比較例2の水性医薬組成物の点眼後に比して、それぞれ3.5Hz、2.7Hz及び2.9Hz大きい値を示した。以上の結果から、プラノプロフェン、アルギン酸及びl-メントールを併用した水性医薬組成物では、疲れ目改善効果又は眼精疲労改善効果に優れており、眼科用組成物として有用性が高いことが確認された。
【0097】
実験例7 使用感の評価試験
表10に示す組成の水性医薬組成物(実施例5及び6)を用いて、点眼時の使用感について評価した。
【0098】
【表10】

【0099】
具体的には、各水性医薬組成物を滅菌済点眼容器に適量充填し、2種類の水性医薬組成物を1組として7名の被験者に配布した。各被験者は2種類の水性医薬組成物を最低1時間以上の間隔を空けて使用し、「全体的な好み」、「潤いの持続性」、「点眼時の滑らかさ」、及び「眼内でのゴロゴロ感のなさ」の4項目について比較評価を行った。なお比較評価の方法は、下記の判定基準に従って7段階のスコア化することで評価した。
<判定基準>
+3:実施例6に比べて、実施例5の方が格段に優れている。
+2:実施例6に比べて、実施例5の方が優れている。
+1:実施例6に比べて、実施例5の方がやや優れている。
±0:実施例6と実施例5は、同等である。
−1:実施例5に比べて、実施例6の方がやや優れている。
−2:実施例5に比べて、実施例6の方が優れている。
−3:実施例5に比べて、実施例6の方が格段に優れている。
【0100】
結果を図2に示す。図2から明らかなように、使用感に関する全ての評価項目において、7名の被験者の評価スコアの平均値が実施例5の試験液の方が優れていた。以上の結果から、本発明の水性医薬組成物は、リン酸系緩衝剤を更に含有することによって、一層優れた使用感を得られることが判明した。
【0101】
実施例7−47
表11−14に記載の処方で、点眼剤(実施例7−17、29−36及び40−47)、及び洗眼剤(実施例18−28及び37−39)を調製した。なお、表11−14中、各配合成分の単位はg/100mLである。また、表11−14中、「アルギン酸1)」はM/G比の規格が1.0〜1.6、「アルギン酸ナトリウム2)」はM/G比の規格が0.4〜0.8、「アルギン酸ナトリウム3)」はM/G比の規格が2.0〜3.0、及び「アルギン酸ナトリウム4)」はM/G比の規格が1.0〜1.6のものを示す。
【0102】
【表11】

【0103】
【表12】

【0104】
【表13】

【0105】
【表14】

【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実験例4において、各水性医薬組成物(参考例1、比較参考例1及び2、コントロール)の抗炎症作用(相対的炎症強度;%)を評価した結果を示す図である。
【図2】実験例7において、各水溶医薬組成物(実施例5−6)の点眼時の使用感について評価した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プラノプロフェン及び/又はその塩、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)メントールを含有することを特徴とする、水性医薬組成物。
【請求項2】
更に、(D)溶解補助剤を含有する、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
(D)溶解補助剤が非イオン性界面活性剤である、請求項2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
更に、(E)イミダゾリン系血管収縮剤、クロルフェニラミン、及びクロルフェニラミンの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
眼科用組成物である、請求項1乃至4に記載の水性医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96793(P2009−96793A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50437(P2008−50437)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】