説明

プラント水処理装置、電気脱塩装置の制御方法および蒸気タービンプラント

【課題】系統水に薬剤注入を必要とする蒸気タービンプラントの水処理を、不純物イオン脱塩浄化負荷、アンモニア等の薬剤消費および熱損失が少なく水質の変化に追随し安定に実施する。
【解決手段】プラント水処理システムにおいて、電気脱塩装置は、電気脱塩器本体130と、直流電源151と、浄化水移送ポンプ152と、電気脱塩装置制御部140と、入口水質測定部160と、出口水質測定部170とを備える。電気脱塩器本体は、筐体と、一対の隔膜と、一対の電極と、脱塩部と、各濃縮部とを有する。電気脱塩装置制御部140は、入口水質測定部160と出口水質測定部170からの信号を入力とし、直流電源151への電気脱塩器本体130への印加電圧指令値と浄化水移送ポンプ152への流量指令値とを演算し出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンプラントの復水給水系の高温電気脱塩による水質改善に係るプラント水処理装置、電気脱塩装置の制御方法および蒸気タービンプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に加圧水型原子力発電プラント(以下、「PWR」という。)では、蒸気発生器を介して一次冷却系と二次冷却系とに分かれており、一次冷却系内の原子炉で発生した高温高圧水を蒸気発生器で熱交換し二次冷却系側で蒸気を発生させている。
【0003】
PWRの二次冷却系では蒸気発生器で発生した蒸気を蒸気タービンに送り、この蒸気タービンをタービン駆動させて発電を行っている。
【0004】
一方、火力発電プラントでは、ボイラにおいて石炭や石油を燃焼させ水を加熱して蒸気を発生させ、この蒸気で蒸気タービンを駆動して発電を行っている。
【0005】
いずれの蒸気タービンプラントにおいても、蒸気タービンを駆動して膨張した蒸気は、復水器に導入されここで冷却されて凝縮し復水となる。
【0006】
この復水は、必要に応じて復水脱塩装置でイオン交換樹脂等によるイオン除去の脱塩処理がなされ、その後、給水加熱器で加熱されて蒸気発生器やボイラに給水として供給される。
【0007】
PWRでは、蒸気発生器に供給される水は二次冷却系内の配管や機器等の構造材の腐食抑制の観点から薬剤が注入される。すなわち、pH調整剤としてアンモニアやアミン化合物、脱酸素剤としてヒドラジンなどが用いられる。
【0008】
一方、蒸気発生器では、給水により持ち込まれたイオン等の不純物や腐食生成物が濃縮されるため、蒸気発生器内の伝熱管の腐食や伝熱性能低下を発生させる原因となっている。このため、蒸気発生器内の水の一部を排出(ブローダウン)する操作が行われている。
【0009】
蒸気発生器からのブローダウン水は、復水脱塩装置等の既設の水質浄化設備に導かれて浄化される。ブローダウン水に含まれる薬剤であるpH調整剤は、復水脱塩装置の脱塩処理で除去された後、別途新しい薬剤が注入される。復水脱塩装置でpH調整剤を除去し、別途新しい薬剤を注入することは、復水脱塩装置でのイオン除去負荷を増大させ、薬剤注入コストを増加させる原因となっている。
【0010】
蒸気発生器のブローダウン水から、復水脱塩装置でのブローダウン水のイオン除去を軽減し、注入薬剤コストを軽減する方法として、復水脱塩装置(復水脱塩塔)をバイパスする手段が特許文献1に開示されている。
【0011】
特許文献2には、低温の電気再生式脱塩装置で除去したアンモニアをリサイクルする技術が開示されているが、このリサイクル技術においては、除去されるアンモニアと同時に濃縮される陽イオンを分離精製する技術を必要とし、コスト増につながる欠点がある。
【0012】
これに対し、特許文献3〜6に記載されている高温脱塩システムにおいては、ブローダウン水を高温高圧において電気脱塩する手段を提供している。
【0013】
アンモニアは高温においてはほとんどイオンにならないため、電気泳動を利用した電気脱塩システムにおいてはほとんど除去されない。それに対し、除去すべきコバルトやナトリウム、鉄等のイオンについては、イオンの性状であるため、除去が可能である。
【0014】
このため、高温脱塩システムを用いればブローダウン水から不純物イオンのみを選択的に除去でき、薬剤注入によって不純物イオンに比べ高濃度に注入調整されるアンモニアを残存させる脱塩手法を提供することが可能である。
【0015】
これにより復水脱塩装置におけるイオン除去負荷を軽減させることができ、かつ、アンモニアの薬剤注入コストの軽減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−171585号公報
【特許文献2】特開平11−47560号公報
【特許文献3】特開2009−268999号公報
【特許文献4】特開2008−178826号公報
【特許文献5】特開2009−216495号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】原子炉水化学ハンドブック、p.158−163、コロナ社、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献3〜6に記載されている高温脱塩システムにおいては、ブローダウン水を高温高圧において電気脱塩する。高温水を電極間に通水し、その電極に電圧をかけることにより、陽イオンはマイナス電極の方向に、陰イオンはプラス電極の方向に移動する。
【0019】
この電気泳動の原理を利用し、さらにすべての材料を耐熱性にし、また、容器を耐圧性にすることによってブローダウン水の条件である温度約300℃、圧力約10MPaにて稼働しようとするものである。
【0020】
PWRの二次冷却系における不純物は、蒸気発生器での腐食を抑制するため、塩化物イオン濃度を100ppb以下、ナトリウム濃度を70ppb以下とすることが強く求められている。
【0021】
この水質を維持するために給水の1〜3%を目途にブローダウンしており、代表的な蒸気タービンプラントでは給水流量が5200t/hであることから、52〜156t/hの高温水を処理する必要がある。(非特許文献1を参照)
電気脱塩においては、上記流量を処理するために電極間に50〜300V程度の電圧を与える。装置においては絶縁対策を施すことが考えられているが、ある程度の漏えい電流の発生が避けられず、その量は印加電圧に比例して大きくなる。
【0022】
この電力は本来不必要なエネルギーであり、電気を作るための発電所で電気を浪費してしまい全体の発電効率を低下させるという課題が発生する。
【0023】
また、炉水濃度の基準値を超えてしまうと蒸気タービンプラントを停止しなければならず、高温脱塩システムは安定的にまた急な水質の変化にも対応することが求められている。
【0024】
そこで、本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、系統水に薬剤注入を必要とする蒸気タービンプラントの水処理が、不純物イオン脱塩浄化負荷、アンモニア等の薬剤消費および熱損失が少なく、水質の変化に追随して安定に実施できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上述の目的を達成するため、本発明に係るプラント水処理システムは、蒸気タービンプラントの復水器の下流側の復水中のイオンを除去する復水脱塩装置と、前記復水脱塩装置の下流側において、蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整のためにpH調整剤を注入する薬剤注入装置と、前記蒸気発生装置からのブローダウン水を浄化する電気脱塩装置と、を具備するプラント水処理システムにおいて、前記電気脱塩装置は、前記ブローダウン水からイオン分を分離し、イオン分離低減後の浄化水およびイオン分の濃縮された濃縮水を生成する電気脱塩器本体と、前記電気脱塩器本体における電位差を確保するための直流電源と、前記浄化水を前記蒸気発生装置への給水系に移送する浄化水移送ポンプと、前記直流電源の電圧および前記浄化水移送ポンプの流量を制御する電気脱塩装置制御部と、前記電気脱塩器本体入口の前記ブローダウン水の水質を検出する入口水質測定部と、前記電気脱塩器本体出口の前記浄化水の水質を検出する出口水質測定部と、を備え、前記電気脱塩装置制御部は、前記入口水質測定部と前記出口水質測定部からの信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させる、ことを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る電気脱塩装置の制御方法は、蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整を行う蒸気タービンプラントのプラント水処理システムにおける電気脱塩装置の制御方法であって、電気脱塩器本体入口のブローダウン水の水質を検出するステップと、前記電気脱塩器本体出口の浄化水の水質を検出するステップと、入口水質測定部および出口水質測定部からの前記水質信号を入力とし、前記電気脱塩器本体で印加する電圧指令値を演算し直流電源に出力するステップと、前記入口水質測定部および前記出口水質測定部からの前記水質信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させるステップと、を有することを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明に係る蒸気タービンプラントは、蒸気発生装置と、前記蒸気発生装置で発生した蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮させ復水を生成する復水器と、前記復水を前記蒸気発生装置に送水するポンプと、前記蒸気発生装置からのブローダウン水を浄化する電気脱塩装置と、前記復水脱塩装置の下流側において、前記蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整のためにpH調整剤を注入する薬剤注入装置と、を備える蒸気タービンプラントであって、前記電気脱塩装置は、前記ブローダウン水からイオン分を分離し、イオン分離低減後の浄化水およびイオン分の濃縮された濃縮水を生成する電気脱塩器本体と、前記電気脱塩器本体における電位差を確保するための直流電源と、前記浄化水を前記蒸気発生装置への給水系に移送する浄化水移送ポンプと、前記直流電源の電圧および前記浄化水移送ポンプの流量を制御する電気脱塩装置制御部と、前記電気脱塩器本体入口の前記ブローダウン水の水質を検出する入口水質測定部と、前記電気脱塩器本体出口の前記浄化水の水質を検出する出口水質測定部と、を備え、前記電気脱塩装置制御部は、前記入口水質測定部と前記出口水質測定部からの信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、系統水に薬剤注入を必要とする蒸気タービンプラントにおける水処理が、不純物イオン脱塩浄化負荷、アンモニア等の薬剤消費および熱損失が少なく、水質の変化に追随して安定に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るプラント水処理装置を備えた蒸気タービンプラントの第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るプラント水処理装置の第1の実施形態における電気脱塩器本体の構成を示す概念図である。
【図3】本発明に係るプラント水処理装置の第1の実施形態における入口および出口水質測定部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係るプラント水処理装置の第1の実施形態の説明のための電気脱塩器本体での脱塩率の電圧依存性を示すグラフである。
【図5】本発明に係るプラント水処理装置の第1の実施形態における電気脱塩装置制御部の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に係るプラント水処理装置の第1の実施形態の蒸気タービンプラントの起動および停止時のブローダウン水の温度およびアンモニアの解離の概略を示す図である。
【図7】本発明に係るプラント水処理装置を備えた蒸気タービンプラントの第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に係るプラント水処理装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明に係るプラント水処理システムの実施形態について説明する。ここで、同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0031】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係るプラント水処理装置を備えた蒸気タービンプラントの第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【0032】
蒸気発生器1は、たとえば火力発電所のボイラやPWRの蒸気発生器であって、蒸気を発生させるものである。蒸気発生器1で発生した蒸気は、高圧タービン2aおよび低圧タービン2bを有する蒸気タービン2に送られ、高圧タービン2a、低圧タービン2bにより熱エネルギーは機械的エネルギーに変換され、発電機3により機械的エネルギーが電気エネルギーに変換され、発電がなされる。
【0033】
復水器4は海水冷却の熱交換器であり、蒸気タービン2で仕事をした蒸気は、復水器4において海水により冷却され凝縮し復水となる。復水器4から出た復水は復水ポンプ11によって復水系10を経由して給水系20に送られる。
【0034】
復水系10は、復水脱塩装置12、低圧給水加熱器13、脱気器14を有する。復水脱塩装置12は、復水中のイオン成分を除去する。また、脱気器14は直接接触式の熱交換器であり、復水と加熱用蒸気を混合させることにより復水中の溶存酸素量を低減させる。
【0035】
脱気器14を出た復水は、熱交換器153を経て、給水ポンプ21により昇圧され、高圧給水加熱器22を経て蒸気発生器1に送られる。また、給水系20には、薬液注入装置23により、給水のpH調整剤としてアンモニアやアミン化合物、脱酸素剤としてヒドラジンなどが注入される。
【0036】
蒸気発生器1からは、ブローダウン水201として給水流量の1〜3%が電気脱塩装置100に排出される。
【0037】
電気脱塩装置100は、電気脱塩器本体130、直流電源151、浄化水移送ポンプ152、給水系20に設置された熱交換器153、電気脱塩器本体130の入口、出口に設置される入口水質測定部160、出口水質測定部170および電気脱塩装置制御部140を有する。
【0038】
ブローダウン水201は入口水質測定部160で水質をモニタされた後、電気脱塩器本体130に入り浄化され、浄化水202と濃縮水203が生成される。浄化水202は出口水質測定部170で水質を再測定された後、浄化水移送ポンプ152にて送水され、蒸気発生器1の直前の給水系20に戻される。また、濃縮水203は、熱交換器153を経由して系外に排出される。
【0039】
電気脱塩器本体130に設置された電極間へは、電気脱塩装置制御部140の制御に基づいた電圧の直流電力が直流電源151により供給される。
【0040】
図2は本実施形態における電気脱塩器本体の構成を示す概念図である。
【0041】
電気脱塩器本体130は、筐体131およびこれに収納される一対の電極132および一対の隔膜133を有する。筐体131は、ブローダウン水201を受け入れ、その内部でイオン成分を濃縮した後にこの濃縮水203と、イオン成分を除去した浄化水202とを生ずる。
【0042】
筐体131内は、互いに間隔をあけて互いに平行に配置された一対の隔膜133により三つの空間に区切られている。このうち隔膜133に挟まれた中央の空間は脱塩部135であり、隔膜133の外側の空間には筐体131の側面に沿って広がる一対の電極132が備えられている。この電極132は、外部の直流電源151により、所定の電圧の直流電力を供給される。
【0043】
脱塩部135では、浄化水202が生成される。また二つの濃縮部136では、濃縮水203が生成される。すなわち、脱塩部135に流入したブローダウン水201のうちのイオン成分は隔膜133を介して濃縮部136に移行することにより、ブローダウン水201は、浄化水202と濃縮水203とに分離される。
【0044】
なお、隔膜133は、平板状の平行配置のものを例に挙げたが、同心筒状(円筒状、楕円筒状、角筒状等)のものでもよい。
【0045】
電気脱塩装置制御部140は、入口水質測定部160の測定結果である入口水質信号160aと出口水質測定部170の結果である出口水質信号170aを用い、供給する直流電力の電圧値を決定し、直流電源151に印加電圧指令値140aを出力する。また同様にして決定した流量指令値140bを浄化水移送ポンプ152に出力する。
【0046】
入口水質信号160aによりブローダウン水201の水質が低下している側に移行した場合は、電気脱塩装置制御部140は直流電源151に対する印加電圧指令信号を増加させる。水質が良くなった場合は、効率を重視して、電気脱塩装置制御部140は直流電源151に対する印加電圧指令信号を減少させる。
【0047】
電気脱塩器本体130の実験において、温度280℃、流量500cc/min、ナトリウムイオン10ppbを90%浄化した時の電圧・電流は45V、10.5mAであった。
【0048】
しかしナトリウムイオンが隔膜間の距離を移動した時に流れる理論電流は0.01mA程度であり、ほとんどが漏洩電流であった。このことから印可した電力はほとんどが漏洩電流であり、オームの法則から印可する電圧・電流が低ければ低いほど失われる電力は小さくなる。
【0049】
そこで入口水質測定部160および出口水質測定部170の信号から目標とする浄化水202の水質を達成できる最小の電圧・電流にすることにより、電力損失を最小にすることができる。
【0050】
図3は、本実施形態に係るプラント水処理装置における入口および出口水質測定部の構成を示すブロック図である。
【0051】
入口水質測定部160の入口水質測定部冷却器161によって室温程度まで冷却された試験水の水質を測定する機器として第1の導電率計162、第1のpH計163、第1の溶存酸素計164、第1の溶存水素計165が配置されている。
【0052】
また、出口水質測定部170の出口水質測定部冷却器171によって室温程度まで冷却された試験水の水質を測定する機器として第2の導電率計172、第2のpH計173、第2の溶存酸素計174、第2の溶存水素計175が配置されている。
【0053】
導電率はイオンの濃度を直接的に反映する値であり、1ppbで0.1μS/cmに相当する。しかし上述したようにアンモニアは高温と室温ではイオンのなりやすさが変化し、低温ではイオン化しやすくなるため、アンモニアとそれ以外のイオンの濃度を分けるための指標としてpHを用いる。
【0054】
pHによって算出したアンモニア濃度を差し引いた導電率が除去すべき不純物が寄与した導電率となる。また溶存酸素濃度と溶存水素濃度は鉄やニッケル等がどれくらいイオンになるかの指標となるため、必要がある場合にはその値を制御に組み込んでもよい。
【0055】
図4は、本実施形態に係るプラント水処理装置の電気脱塩器本体での脱塩率の電圧依存性を示すグラフであり、PWRの蒸気発生器1のブローダウン水201を模擬した温度、圧力で不純物濃度が10ppb程度で行った試験結果である。
【0056】
なお、この実験では電極間距離は5mmないし10mm程度と、通常の実機の蒸気タービンプラントに比べると非常に小さい。横軸は電極間にかけた電圧、縦軸は出入口のイオン濃度測定結果から算出した脱塩率である。電圧をかけることによってアンモニア以外は脱塩率が上昇しており、高い脱塩率は、高い電圧をかけることによって達成できる。
【0057】
例えば、ブローダウン水201が給水流量の1%、給水の導電率が0.1μS/cmであるとすると、ブローダウン水201は10μS/cm相当の不純物を処理する必要がある。ナトリウムの電気脱塩器本体130の効率が例えば76%となる60Vで行った場合には浄化水202は2.4μS/cmで再び給水系20に戻る。
【0058】
これが混合していくと0.13μS/cmとなる。それを30Vで行うと効率は45%まで低下し、0.22μS/cmまで低下する。水質の目標値を0.13μS/cm以下とすると77%の効率が必要となり、直線性を仮定すると61Vが必要となる。
【0059】
しかし0.15μS/cmを目標とすると67%が目標となり、51Vで十分となる。51Vと61Vとでは抵抗が同じと考えると1.43倍の電力消費量が異なる。
【0060】
高温電気脱塩として熱損失は最小としていても、高温脱塩装置を利用することにより熱損失が発生する。そのため入口導電率が小さい場合にはポンプ流量を小さくすれば熱損失を小さくできる。効率の目標を76%から67%に落とす場合には流量は0.88倍でいいことになり、熱損失も0.88倍になる。
【0061】
このように、効率の目標値を少し下げることにより、熱損失を大幅に下げることができる。
【0062】
図5は、本実施形態における電気脱塩装置制御部の構成を示すブロック図である。電気脱塩装置制御部140は、引き算部141、除算部142およびゲイン143を有する。
【0063】
引き算部141は、第1の導電率計162および第2の導電率計172からの各導電率信号を入力とし、第1の導電率計162の導電率信号から第2の導電率計172の導電率信号を差し引いた値を出力する。
【0064】
除算部142は、引き算部141からの導電率の差の値を、第1の導電率計162の導電率信号の値で除し、その商を出力する。ゲイン143は、除算部142の出力に所定の値を乗じて制御信号として、直流電源151に印加電圧指令値を、浄化水移送ポンプ152側に流量指令値を出力する。
【0065】
なお、電気脱塩器本体130の効率については、実験で確認した値を初期値として用いる。さらに、出入口の水質測定の結果からフィードバックすることにより、より正確な制御をすることができる。効率は一般的には除去率を用いており出口入口の導電率の差を入口導電率で割ったものがそれに相当する。
【0066】
図6は、本実施形態に係る蒸気タービンプラントの起動および停止時のブローダウン水の温度およびアンモニアの解離の概略を示す図である。
【0067】
蒸気タービンプラントの起動当初は給水の温度が低く、起動プロセスが進行するに従って給水の温度が上昇する。このため、蒸気発生器1からのブローダウン水201も、蒸気タービンプラントの起動当初は温度が低く、順次温度が上昇してくる。
【0068】
アンモニアがイオンになる割合は250℃のときに比べて25℃のときは約4倍である。このため、プラント起動当初は、アンモニアの解離の割合が大きく、蒸気タービンプラントの起動当初から電気脱塩装置100を動かすと電気脱塩器本体130ではアンモニアを除去してしまう。
【0069】
そのため図6のように、蒸気タービンプラント起動時には250℃を超えるまでは電気脱塩器本体130はスタンバイ状態にしておき、温度が高くなってから徐々に通水を開始する。また蒸気タービンプラント停止時においては、250℃までは電気脱塩器本体130を運転しておき、250℃以下になってから電気脱塩器本体130をスタンバイ状態に移行させる運転方式を採用する。
【0070】
以上のように構成されたプラント水処理システムにより、電気脱塩器本体130に印加する電圧を極力低減し水質が悪化の場合には印加電圧を増加させることにより、電気的負荷を抑制することができる。特にpHを指標に電気脱塩器本体130に印加する電圧を制御することにより、アンモニアとそれ以外のイオンの濃度の制御が全体として合理的な形で実現できる。また、通常の蒸気タービンプラントの運転状態ではアンモニア水は分解、イオン化しないことから、浄化水とともに再循環するため、アンモニア等の薬剤消費および熱損失も少ない状態で維持することができる。さらに、特に蒸気タービンプラントの起動、停止時に電気脱塩装置を運転することによるアンモニアの無駄な除去を避けることができ、水質の変化に追随して安定で合理的な水処理を実施することができる。
【0071】
この結果、水質の変化に追随して安定な水処理を実施することができる。
【0072】
[第2の実施形態]
図7は、本発明に係るプラント水処理装置を備えた蒸気タービンプラントの第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【0073】
高温電気脱塩のシステムを導入しても、海水リークの対策のため復水脱塩装置12をなくすことはできない。そのため水質が悪化し、導電率が高くなって蒸気タービンプラントの運転に影響を与える場合には、運転中に復水脱塩装置12を使用する方式とする。
【0074】
このため、入口水質測定部160および出口水質測定部170の両者が設定値を超えた場合、電気脱塩装置制御部140からは、復水器4下流側の復水を復水脱塩装置12に通水する指令を発する。具体的には、復水脱塩塔入口弁12aを開とし、復水脱塩塔バイパス弁12bを閉とするよう指令信号を発する。
【0075】
これにより蒸気発生器1に持ち込まれる不純物濃度が増加した場合に対応して、必要な水質を確保することができ、水質の変化に追随して安定な水処理の機能を確保することができる。
【0076】
[第3の実施形態]
図8は、本発明に係るプラント水処理装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【0077】
たとえば加圧水型原子炉の二次冷却水などには水質基準がある。この水質基準を逸脱すると蒸気発生器1への給水ができなくなることから通常運転状態を維持することができなくなり、原子炉を停止する必要がある。そのため高温脱塩システムの故障や不調は早期に発見する必要がある。
【0078】
このため高温脱塩システムに異常が発生した場合には、中央制御室にある制御盤145に警報を発し、さらに安全のため電気脱塩器本体130への電圧印加をやめ、また、浄化水移送ポンプ152の停止、電気脱塩装置100の給水系統からの隔離を実施する。
【0079】
異常の発見には、浄化水移送ポンプ152の振動などの機械的なモニタリング以外には、電圧と電流の関係等のモニタリングが可能である。高温脱塩システムでは、45V程度で1セル当たり数十mA程度を予定していることから、この電流がたとえば2倍以上あるいは半分以下になる場合には装置の故障の可能性が高いため、異常と判定する。
【0080】
(効果)
本実施形態では、特に電気脱塩装置100に異常があった場合の処置を加えることにより、水質の異常による蒸気タービンプラントの計画外の停止のような事態を回避し、安定で合理的な運転を実現することができる。
【0081】
〔その他の実施形態〕
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0082】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。たとえば、第1の実施形態に、第2の実施形態の特徴である復水脱塩装置の運用を併せてもよい。また、第1および第2の実施形態において、第3の実施形態の特徴である制御盤での警報を加えてもよい。
【0083】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0084】
1 ・・・蒸気発生器(蒸気発生装置)
2 ・・・蒸気タービン
2a ・・・高圧タービン
2b ・・・低圧タービン
3 ・・・発電機
4 ・・・復水器
10 ・・・復水系
11 ・・・復水ポンプ
12 ・・・復水脱塩装置
12a ・・・復水脱塩塔入口弁
12b ・・・復水脱塩塔バイパス弁
13 ・・・低圧給水加熱器
14 ・・・脱気器
20 ・・・給水系
21 ・・・給水ポンプ
22 ・・・高圧給水加熱器
23 ・・・薬液注入装置
100 ・・・電気脱塩装置
130 ・・・電気脱塩器本体
131 ・・・筐体
132 ・・・電極
133 ・・・隔膜
135 ・・・脱塩部
136 ・・・濃縮部
140 ・・・電気脱塩装置制御部
140a ・・・印加電圧指令値
140b ・・・流量指令値
141 ・・・引き算部
142 ・・・除算部
143 ・・・ゲイン
145 ・・・制御盤
151 ・・・直流電源
152 ・・・浄化水移送ポンプ
153 ・・・熱交換器
160 ・・・入口水質測定部
160a ・・・入口水質信号
161 ・・・入口水質測定部冷却器
162 ・・・第1の導電率計
163 ・・・第1のpH計
164 ・・・第1の溶存酸素計
165 ・・・第1の溶存水素計
170 ・・・出口水質測定部
170a ・・・出口水質信号
171 ・・・出口水質測定部冷却器
172 ・・・第2の導電率計
173 ・・・第2のpH計
174 ・・・第2の溶存酸素計
175 ・・・第2の溶存水素計
201 ・・・ブローダウン水
202 ・・・浄化水
203 ・・・濃縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンプラントの復水器の下流側の復水中のイオンを除去する復水脱塩装置と、
前記復水脱塩装置の下流側において、蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整のためにpH調整剤を注入する薬剤注入装置と、
前記蒸気発生装置からのブローダウン水を浄化する電気脱塩装置と、
を具備するプラント水処理システムにおいて、
前記電気脱塩装置は、
前記ブローダウン水からイオン分を分離し、イオン分離低減後の浄化水およびイオン分の濃縮された濃縮水を生成する電気脱塩器本体と、
前記電気脱塩器本体における電位差を確保するための直流電源と、
前記浄化水を前記蒸気発生装置への給水系に移送する浄化水移送ポンプと、
前記直流電源の電圧および前記浄化水移送ポンプの流量を制御する電気脱塩装置制御部と、
前記電気脱塩器本体入口の前記ブローダウン水の水質を検出する入口水質測定部と、
前記電気脱塩器本体出口の前記浄化水の水質を検出する出口水質測定部と、
を備え、
前記電気脱塩装置制御部は、前記入口水質測定部と前記出口水質測定部からの信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させる、
ことを特徴とするプラント水処理システム。
【請求項2】
前記入口水質測定部と前記出口水質測定部は、導電率、pH、溶存酸素濃度または溶存水素濃度のうち少なくとも一の計測項目を対象とすることを特徴とする請求項1に記載のプラント水処理システム。
【請求項3】
前記入口水質測定部は少なくとも導電率を対象とし、
前記電気脱塩装置制御部は、前記電気脱塩器本体入口のブローダウン水の導電率の増加に応じて前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値を増加させ、前記直流電源へ出力すること、
を特徴とする請求項2に記載のプラント水処理システム。
【請求項4】
前記入口水質測定部は少なくとも導電率を対象とし、
前記電気脱塩装置制御部は、前記電気脱塩器本体入口のブローダウン水の導電率と前記電気脱塩器本体出口の浄化水の導電率との差を前記入口の導電率で除した値の増加に応じて前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値を増加させ、前記直流電源へ出力すること、
を特徴とする請求項2に記載のプラント水処理システム。
【請求項5】
前記電気脱塩装置制御部は、前記電気脱塩器本体入口のブローダウン水の導電率と前記電気脱塩器本体出口の浄化水の導電率が所定の値を超えた場合に、前記復水脱塩装置に復水脱塩塔入口弁の開指令および復水脱塩塔バイパス弁の閉指令の信号を出力することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載のプラント水処理システム。
【請求項6】
前記電気脱塩装置制御部は、前記蒸気タービンプラントの起動過程において、初期は前記直流電源から前記電気脱塩装置への電力供給を停止し、前記電気脱塩器本体入口のブローダウン水の温度が上昇して所定の値に到達したときに電力を供給するよう、指令信号を前記直流電源に出力する請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のプラント水処理システム。
【請求項7】
前記電気脱塩装置制御部は、前記蒸気タービンプラントの停止過程において、前記電気脱塩器本体入口のブローダウン水の温度が低下して所定の値に到達したときに電力供給を停止するよう、指令信号を前記直流電源に出力する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のプラント水処理システム。
【請求項8】
前記電気脱塩器本体への印加電圧の測定手段をさらに有し、
前記電気脱塩装置制御部は、測定された前記電気脱塩器本体への印加電圧が所定の値を超える場合は、前記直流電源からの電力供給を停止し、前記浄化水移送ポンプを停止し、かつ前記電気脱塩装置を前記給水系から隔離するように、指令信号を発することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のプラント水処理システム。
【請求項9】
前記電気脱塩器本体は、
筐体と、
それぞれが前記筐体内の空間を仕切る、互いに間隔をあけて配置された一対の隔膜と、
前記隔膜の外側に配置された一対の電極と、
を有して、前記一対の隔膜と前記筐体とで囲まれた脱塩部と、前記各隔膜と筐体とで囲まれた二つの濃縮部とが前記筐体内に形成されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント水処理システム。
【請求項10】
蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整を行う蒸気タービンプラントのプラント水処理システムにおける電気脱塩装置の制御方法であって、
電気脱塩器本体入口のブローダウン水の水質を検出するステップと、
前記電気脱塩器本体出口の浄化水の水質を検出するステップと、
入口水質測定部および出口水質測定部からの前記水質信号を入力とし、前記電気脱塩器本体で印加する電圧指令値を演算し直流電源に出力するステップと、
前記入口水質測定部および前記出口水質測定部からの前記水質信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させるステップと、
を有することを特徴とする電気脱塩装置の制御方法。
【請求項11】
蒸気発生装置と、
前記蒸気発生装置で発生した蒸気によって駆動される蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから排出された蒸気を凝縮させ復水を生成する復水器と、
前記復水を前記蒸気発生装置に送水するポンプと、
前記蒸気発生装置からのブローダウン水を浄化する電気脱塩装置と、
前記復水脱塩装置の下流側において、前記蒸気発生装置へ供給される給水のpH調整のためにpH調整剤を注入する薬剤注入装置と、
を備える蒸気タービンプラントであって、
前記電気脱塩装置は、
前記ブローダウン水からイオン分を分離し、イオン分離低減後の浄化水およびイオン分の濃縮された濃縮水を生成する電気脱塩器本体と、
前記電気脱塩器本体における電位差を確保するための直流電源と、
前記浄化水を前記蒸気発生装置への給水系に移送する浄化水移送ポンプと、
前記直流電源の電圧および前記浄化水移送ポンプの流量を制御する電気脱塩装置制御部と、
前記電気脱塩器本体入口の前記ブローダウン水の水質を検出する入口水質測定部と、
前記電気脱塩器本体出口の前記浄化水の水質を検出する出口水質測定部と、
を備え、
前記電気脱塩装置制御部は、前記入口水質測定部と前記出口水質測定部からの信号を入力とし、水質の低下に応じて、前記直流電源への前記電気脱塩器本体への印加電圧指令値と前記浄化水移送ポンプへの流量指令値とを増大させる、
ことを特徴とする蒸気タービンプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−52354(P2013−52354A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192615(P2011−192615)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】