プリフォームの製造方法、この製造方法に用いられる繊維基材及びプリフォーム製造装置
【課題】目ずれやシワの発生を抑制するプリフォームの製造方法を提供する。
【解決手段】
繊維基材1を賦形型2にセットするステップと、賦形型2にセットされた繊維基材1の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、繊維基材1の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的又は特定の箇所を順次押さえるステップと、を有する。
【解決手段】
繊維基材1を賦形型2にセットするステップと、賦形型2にセットされた繊維基材1の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、繊維基材1の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的又は特定の箇所を順次押さえるステップと、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォームの製造方法に関し、賦形型を用いて繊維基材を賦形するプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
賦形型を用いて繊維基材を成形する場合、凸形状の起伏の高いところから順に繊維基材を押さえる手法が知られている。この種の成形手法に関し、第1特許文献には、流動性のある治具を起伏の高い位置から繊維基材に押し当てる手法が記載されている。
【0003】
しかしながら、この流動性治具は賦形型の角部の隅まで入り込むことができないため、複雑な形状部分ではブリッジング(繊維機材が突っ張って賦形型に密着しない状態)が生じてしまうという問題があった。また、複雑な形状部分では流動性治具の賦形速度が遅く生産性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2001−269987号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明は、以上の課題を鑑みてなされたものであり、ブリッジング等の不具合の発生を抑制するとともに、生産効率を向上させることを目的とする。
本発明によれば、賦形型にセットされた繊維基材の略中央を押さえ、その後繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえるプリフォームの製造方法が提供される。
【0005】
本発明のプリフォームの製造方法によれば、ブリッジング、目ずれ、シワ等を発生させることなく、高強度のプリフォームを高い生産効率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<第1実施形態>
以下、図1〜図7に基づいて、本発明に係る第1実施形態のプリフォーム製造方法について説明する。本実施形態のプリフォーム製造方法は、賦形型を用いて所定の立体形状に繊維基材を賦形する方法である。このプリフォーム製造方法では、まず所定の立体形状を成形する賦形型を準備し、準備した賦形型に繊維基材をセットし、繊維基材をセットした状態で賦形型を型締めし、繊維基材を所定の立体形状に賦形する。
【0007】
まず、繊維基材を準備する。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維を用いることができる。本実施形態では、織物、編物(ニット)、不織布、マットなどの布帛状の連続繊維を用いる。繊維基材は、毛羽立ちの防止、形態安定性の向上の観点から、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は高分子を含む繊維集束機能を有するバインダを添加することが好ましい。
【0008】
繊維基材の準備と並行して賦形型を準備する。本実施形態で用いる賦形型は、相対的に接近可能な雌雄一対の上型と下型とを有し、間に繊維基材を挟んだ状態で上型と下型とが接近し、型締めされることにより繊維基材を所望の形状に成形する。賦形された繊維基材の離型を容易にする観点から、賦形型の賦形面にシリコン系離型材を塗布してもよいし、賦形面をシリコンフィルム又はポリエチレンフィルム等で被覆してもよい。
【0009】
準備した繊維基材を準備した賦形型にセットし、繊維基材が賦形型に隙間なく密着するように、繊維基材を賦形型に向かって押さえる。本実施形態のプリフォームの製造方法は、繊維基材の押さえ方に特徴がある。本実施形態における繊維基材の押さえ方を図1に基づいて説明する。
【0010】
本実施形態の製造方法では、まず、賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえる。特に限定されないが、略中央部P0は繊維基材の幾何中心であることが好ましい。幾何中心の算出方法は特に限定されず、一般的な手法を利用することができる。なお、繊維基材の形状が複雑である場合は、繊維基材を単純な図形にみなして幾何中心を求めてもよい。
【0011】
本実施形態の製造方法では、繊維基材の中央部を押さえた後、繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって順に繊維基材を押さえる。繊維基材は、撫でるように連続的に押さえてもよいし、予め設定された位置を順に押さえてもよい。
【0012】
繊維基材を連続的に押さえる場合は、図1に示すように、最初に賦形型にセットされた繊維基材1の略中央のP1領域に設定された中央部P0(押し付け部分S1)を押さえる。次に、P0から矢印R及び矢印Lの方向に向かって繊維基材を連続的に押さえ、賦形型に撫で付ける。
【0013】
このほか、セットされた繊維基材の略中央から端部に向かって離隔する任意の位置に予め設定された1又は2以上の部分を、中央部から離隔する順に押さえるようにしてもよい。具体的には、図1に示すように、最初に、賦形型にセットされた繊維基材1の略中央のP1領域に設定された中央部P0(押し付け部分S1)を押さえる。次に、繊維基材の略中央P1領域から繊維機材の端部へ向かって離隔する任意の位置にある領域P2、領域P3に予め設定された押し付け部分S21,S22,S31,S32を、中央部P0から離隔する順に押さえる。すなわち、S1、S21、S22、S31、S32の順に押さえる。S21とS22のP0からの距離が略同一であれば、S21とS22の順番は入れ替わってもよい。S31とS32についても同様である。P0からS1、S21、S22、S31、S32の距離が、L1、L21、L22、L31、L32であるとすれば、L1<(L21、L22)<(L31、L32)となり、繊維基材を押さえる順番は繊維基材の略中央から端部に向かって離れる方向に昇順する。言い換えると、繊維基材の端部(中央からの距離がT1)を押さえた後に、繊維基材の中央部近傍(中央からの距離がT2(T2<T1))を押さえることはない。
【0014】
ここでは、説明を簡潔にするため、中心からの離隔の程度を同心円で示し、その中心を通るX軸上に5つの押し付け部分を設定したが、押し付け部分の位置、数、間隔、方向は限定されない。押し付け部分を中心から放射状に設定してもよいし、中止から端部へ向かう螺旋状に設定してもよい。
【0015】
また、押さえる位置を予め設定する場合は、前に押さえた位置と高さが異なる(前に押さえた位置と段差がある)位置に設定することが好ましい。また賦形型に凹凸形状が形成されている場合は、その凹凸形状の谷部に形成された角部又は隅部に押し付け部分を設定することが好ましい。
【0016】
繊維基材1を賦形型2に押し付ける手順を図2に示した。図2に示すS1、S21、S22、S31、S32は、図1のそれと対応する。図2(A)は繊維基材1を賦形型2にセットした状態を示す。図2(B)は図2(A)の状態に続き、繊維基材1の略中央の押し付け部分S1を押し付けた状態を示す。続く図2(C)は押し付け部分S21とS22とを押し付けた状態を示す。さらに、図2(D)は押し付け部分S31とS32とを押し付けた状態を示す。ここでは、S1、S21、S22、S31、S32を順次押さえる手法を説明したが、S1からS21を経てS31まで連続的に撫でるように押さえてもよい。S1〜S22を経てS32までも同様である。
【0017】
このように、繊維基材の略中央から端部へ向かう方向に沿って連続的又は設定された部分を順番に、押さえることにより、シワや目ずれの発生を抑制することができ、部分的な強度差のない安定した品質のプリフォームを得ることができる。
【0018】
図2(A)の状態において、複数の繊維基材を重ねて賦形型にセットしてもよい。この状態を図3に示した。本実施形態では、図3に示すように3枚の繊維基材11,12,13を重ねて賦形型2にセットする。繊維基材を1枚1枚順次セットすると、下の基材が積層された上の基材から力を受けて目ずれやシワが発生する場合があるが、複数の繊維基材を同時にセットすることにより、このような目ずれやシワの発生を抑制することができる。また、1枚1枚順次セットするよりも生産効率を向上させることができる。
【0019】
本実施形態において、USP455045や特表2001−516406に記載されている多軸基材を繊維基材として用いることが好ましい。多軸基材の表面拡大図の一例を図4(A)に示した。本実施形態の多軸基材は、図4(B)に示す構造を有し、所定の回転軸を基準に繊維基材を0°、90°、+30°−60°、90°、−30°、+60°に回転させた状態で積層し、これを基材厚さ方向Zに沿って強化繊維を配して繊維基材の層間を結合させたものである。本例では3軸構造の多軸基材を用いたが、これに限定されず5軸構造の多軸基材を用いてもよい。多軸基材を用いることにより、基材積層の手間が省け、生産効率を高めることができる。
【0020】
また、織物基材は図5(A)に示すようなメッシュ基材であることが好ましい。メッシュ基材を用いる場合は、織糸間に形成される空隙が所定の閾値よりも大きいメッシュ基材を選択することが好ましい。空隙の大きさの程度は、Cf(カバーファクター)の値に基づいて判断することが好ましい。Cf(カバーファクター)は織物地の面積に対する糸の占める割合を示す指標値である。変形能力を備えているメッシュ基材は、複雑な立体形状に賦形することができるため、立体形状が複雑であっても品質の高いプリフォームを得ることができる。
【0021】
織物基材は図5(B)に示すような綾織組織の繊維基材であることが好ましい。綾織組織は、経糸及び緯糸それぞれが3本以上から完全組織が作られ、組織点が斜めに連続的に浮沈した斜文線を表す組織である。綾織では経緯糸が浮く長さが平織よりも長く、織物組織はその分だけ緩むため、滑らかで変形能力に富む。つまり、格子のせん断変形を容易に起こすことができるため、曲面への賦形が可能となり、目的の立体形状が複雑であっても品質の高いプリフォームを得ることができる。
【0022】
賦形型にセットされる織物基材に、予め立体形状に応じて切欠を形成することが好ましい。図6(A)は準備された織物基材である。これに切欠Dを形成したものを図6(B)に示した。段差の大きな凹凸に対応する部分については切欠を設けることによって、繊維基材の変形を容易にし、しわやヨレの発生を防止することができる。
【0023】
賦形型にセットされた繊維基材に、立体形状に応じたパッチ基材Eを配置することが好ましい。図7(A)は繊維基材を賦形型にセットした状態である。これにパッチ基材Eを配置した状態を図7(B)に示した。段差の大きい凸部分では繊維基材が目開きを起こし、強化繊維の密度が少なくなってしまう場合がある。また、切欠Dを形成した部分には繊維基材が存在しない場合がある。このような部分に、パッチ基材を配置することにより、強度の均一化を図り、機械強度を向上させることができる。
【0024】
賦形型により賦形されたプリフォームは、繊維強化複合材料の製造工程に搬送される。賦形後のプリフォームには、必要に応じてバインダを塗布する。ハンドリング性を向上させるためである。バインダは、プリフォームの形態/形状を安定させることができればよく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、でんぷん等を用いることが好ましい。
【0025】
次に、得られたプリフォームを用いて繊維強化複合材料を製造する。本実施形態では、RTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いて、繊維強化複合材料を得る。雌雄一対の気密型に予め得たプリフォームと、必要なインサート部品類をセットする。セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填する。これによりプリフォームにマトリックスを含浸させる。繊維強化複合材料のマトリックスは、特に限定されないが、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。また熱可塑性樹脂としては汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックを用いることができるが、主に後者を利用することが好ましい。エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどを例示することができる。
【0026】
マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させる。温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る。
【0027】
目ずれやシワがないプリフォームを用いることにより、繊維強化複合材料の強度も向上させることができる。
【実施例】
【0028】
繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型2に、繊維基材(東レ株式会社製 CO6343)をセットした。この状態の繊維基材を図8に示した。繊維基材を賦形型にセットした後、図8に示すA、B、C及びDの各位置から基準方向0°、基準方向から左右+45°,−45°、左方向90度の各方向に向かって繊維基材を手で押さえた。その後、賦形型を型締めし、プリフォームを得た。得られたプリフォームについて外観評価を行った。外観評価では目ずれの有無、シワの有無、及びブリッジングの有無を評価した。
【0029】
目ずれとは初期状態の経糸と緯糸との交差状態が変化してしまうことである。平織りを例に説明すると、初期状態の平織基材は、図9(A)に示すように経糸と緯糸とが直交する。賦形後、図9(B)に示すように経糸と緯糸との交差状態が変化した場合は、「目ずれ」が発生したと判断した。
【0030】
シワとは経糸又は緯糸の繊維に捩れが生じることをいう。初期状態の平織基材は、図10(A)に示すように経糸及び緯糸は真っ直ぐである。賦形後、図10(B)に示すように経糸又は緯糸に捩れが観察された場合は、「シワ」が発生したと判断した。
【0031】
ブリッジングとは、繊維基材が賦形型に沿っておらず、繊維基材が突っ張っている状態をいう。ブリッジングが発生していない状態では、図11(A)に示すように繊維基材が賦形型に密着している。これに対し、ブリッジングが発生した場合は、図11(B)に示すように繊維基材が突っ張ってしまう。賦形型から浮いて突っ張った部分が観察された場合は、「ブリッジング」が発生したと判断した。
【0032】
<実施例1>
実施例1では、繊維基材の略中央の位置Bから端部に向かって離隔する方向に沿って繊維基材を押さえてプリフォームを得た。実施例1のプリフォームの状態を図12に示した。図12に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図12に示すように、実施例1のプリフォームには、目ずれ、シワ、及びブリッジングの発生は認められなかった。
【0033】
<比較例1>
比較例1では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Aから押さえてプリフォームを得た。比較例1プリフォームの状態を図13に示した。図13に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図13に示すように、比較例1のプリフォームのX1で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0034】
<比較例2>
比較例2では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Cから押さえてプリフォームを得た。比較例2プリフォームの状態を図14に示した。図14に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図14に示すように、比較例2のプリフォームのX2で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0035】
<比較例3>
比較例3では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Dから押さえてプリフォームを得た。比較例3プリフォームの状態を図15に示した。図15に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図15に示すように、比較例3のプリフォームのX3で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0036】
繊維基材の略中央を最初に押さえ、略中央から端部に向かって順に押さえることにより、目ずれ、シワ、ブリッジングの発生を抑制することができる。
【0037】
<第2実施形態>
第2実施形態は、賦形型を用いて所定の立体形状に賦形されるプリフォーム用の繊維基材に特徴がある。繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえることにより、目ずれ、シワ又はブリッジングの発生を抑制するという技術思想に基づいて、本実施形態はプリフォーム作成時に繊維基材を押さえる位置、押さえる順番、押さえる方向を作業者に明示する繊維基材を提供する。
【0038】
本実施形態の繊維基材の一例を図16に示した。繊維基材1の略中央に設定された第1ポイント標識と、第1ポイント標識から繊維基材の端部へ離隔する順に設定された第nポイント標識(nは2以上の自然数)とが表示されている。この第1〜nポイント標識は、1〜nの番号とともに表示されることが好ましく、図16に示すように、繊維基材の中央には第1ポイント標識が番号(1st)とともに表示されている。その周囲には、第1ポイントからの距離が近い順に2から11の番号が付された第nポイント標識が表示されている。また、本例では、略中心部から連続的に押さえる部分については矢印でその方向(a,b,c,d)を示した。
【0039】
繊維基材を賦形する作業者は、繊維基材を賦形型にセットした後、まず、第1ポイント標識が表示された位置を押さえ、その後ポイント標識が表示された位置を付された番号の順番に押さえる。このような標識を予め表示した繊維基材を用いることによって、第1実施形態の方法と同様の効果を奏するとともに、熟練者以外であっても、目ずれ、シワ、又はブリッジングを発生させることなくプリフォームを作成することができる。
【0040】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の製造方法に用いられるプリフォーム製造装置である。図17(A)に本実施形態のプリフォーム製造装置3の構成の概要を示した。本実施形態のプリフォーム製造装置3は、繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型2と、賦形型2にセットされた繊維基材1の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置3とを有する。押さえ装置3は、3次元に駆動可能な押さえローラ31、32、33と、を有している。押さえローラ31、32、33の駆動はコントローラ35により独立に制御される。
【0041】
コントローラ35による制御手法を図17に基づいて説明する。図17(A)に示したプリフォーム製造装置3の押さえ機能が起動すると、コントローラ35は、押さえローラ31を繊維基材の略中央部の上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ31を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(B)に示した。図17(B)に示すように、押さえローラ31は繊維基材の略中央部に接している。
【0042】
その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を、繊維基材の略中央から端部に向かって離隔する位置N,Mの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(C)に示した。図17(C)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置N及びMに接している。
【0043】
その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を上昇させ、位置S,Tの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の端部を押さえさせる。この状態を図17(D)に示した。図17(D)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置S及びTに接している。なお、図17の(A)〜(D)は、第1実施形態の製造方法に係る図2の(A)〜(D)に対応する。
【0044】
本例では、設定された略中央部と、位置N、S、M、Tとを順次押さえるようにしたが、略中央部から位置Nを経て位置Sまで押さえローラを回転させて、連続的に押さえてもよい。中央部から位置Mを経て位置Tまでについても同様である。また、本例では押さえローラを用いて繊維基材を押さえたが、これに限定されず、ピン状の押さえ、棒状の押さえを用いることができる。なお、押さえローラの昇降及び水平移動の駆動機構は特に限定されない。
【0045】
このように押さえる位置と押さえる順番が制御可能なプリフォーム製造装置によれば、現在人手によって行っている繊維基材のセット工程を自動化することができる。また、略中心から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえることによって、第1実施形態の方法と同様の効果を奏するとともに、目ずれ、シワ、又はブリッジングを発生させることなくプリフォームの製造工程を自動化することができる。
【0046】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態のプリフォームの製造方法にて使用するプリフォームの一例を示す図である。
【図2】第1実施形態のプリフォームの製造方法の手順を説明するための図であり、図2(A)は繊維基材をセットした状態、図2(B)は略中央部を押さえた状態、図2(C)は中央から離隔した部分を押さえた状態、図2(D)はさらに中央から離隔した部分を押さえた状態を示す図である。
【図3】複数枚の繊維基材を重ねてセットした状態を示す図である。
【図4】(A)は多軸基材の拡大図、(B)は多軸基材の構造を説明するための図である。
【図5】(A)はメッシュ基材を示す図、(B)は綾織組織の繊維基材を示す図である。
【図6】(A)は切欠を形成する前の繊維基材を示す図、(B)は切欠を形成した繊維基材を示す図である。
【図7】(A)は繊維基材をセットした状態を示す図、(B)はパッチ基材を配置した状態を示す図である。
【図8】実施例及び比較例において、最初に押さえる位置を示す図である。
【図9】目ずれを説明するための図である。
【図10】シワを説明するための図である。
【図11】ブリッジングを説明するための図である。
【図12】実施例1のプリフォームの状態を示す図である。
【図13】比較例1のプリフォームの状態を示す図である。
【図14】比較例2のプリフォームの状態を示す図である。
【図15】比較例3のプリフォームの状態を示す図である。
【図16】第2実施形態の繊維基材の一例を示す図である。
【図17】第3実施形態のプリフォーム製造装置の動作手順を説明するための図であり、図17(A)は繊維基材をセットした状態、図17(B)は略中央部を押さえた状態、図17(C)は中央から離隔した部分を押さえた状態、図17(D)はさらに中央から離隔した部分を押さえた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1, 10…プリフォーム用の繊維基材
2…プリフォーム用の成形型
3…プリフォーム製造装置
31,32,33…押さえローラ
35…コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォームの製造方法に関し、賦形型を用いて繊維基材を賦形するプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
賦形型を用いて繊維基材を成形する場合、凸形状の起伏の高いところから順に繊維基材を押さえる手法が知られている。この種の成形手法に関し、第1特許文献には、流動性のある治具を起伏の高い位置から繊維基材に押し当てる手法が記載されている。
【0003】
しかしながら、この流動性治具は賦形型の角部の隅まで入り込むことができないため、複雑な形状部分ではブリッジング(繊維機材が突っ張って賦形型に密着しない状態)が生じてしまうという問題があった。また、複雑な形状部分では流動性治具の賦形速度が遅く生産性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2001−269987号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明は、以上の課題を鑑みてなされたものであり、ブリッジング等の不具合の発生を抑制するとともに、生産効率を向上させることを目的とする。
本発明によれば、賦形型にセットされた繊維基材の略中央を押さえ、その後繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえるプリフォームの製造方法が提供される。
【0005】
本発明のプリフォームの製造方法によれば、ブリッジング、目ずれ、シワ等を発生させることなく、高強度のプリフォームを高い生産効率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<第1実施形態>
以下、図1〜図7に基づいて、本発明に係る第1実施形態のプリフォーム製造方法について説明する。本実施形態のプリフォーム製造方法は、賦形型を用いて所定の立体形状に繊維基材を賦形する方法である。このプリフォーム製造方法では、まず所定の立体形状を成形する賦形型を準備し、準備した賦形型に繊維基材をセットし、繊維基材をセットした状態で賦形型を型締めし、繊維基材を所定の立体形状に賦形する。
【0007】
まず、繊維基材を準備する。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維を用いることができる。本実施形態では、織物、編物(ニット)、不織布、マットなどの布帛状の連続繊維を用いる。繊維基材は、毛羽立ちの防止、形態安定性の向上の観点から、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は高分子を含む繊維集束機能を有するバインダを添加することが好ましい。
【0008】
繊維基材の準備と並行して賦形型を準備する。本実施形態で用いる賦形型は、相対的に接近可能な雌雄一対の上型と下型とを有し、間に繊維基材を挟んだ状態で上型と下型とが接近し、型締めされることにより繊維基材を所望の形状に成形する。賦形された繊維基材の離型を容易にする観点から、賦形型の賦形面にシリコン系離型材を塗布してもよいし、賦形面をシリコンフィルム又はポリエチレンフィルム等で被覆してもよい。
【0009】
準備した繊維基材を準備した賦形型にセットし、繊維基材が賦形型に隙間なく密着するように、繊維基材を賦形型に向かって押さえる。本実施形態のプリフォームの製造方法は、繊維基材の押さえ方に特徴がある。本実施形態における繊維基材の押さえ方を図1に基づいて説明する。
【0010】
本実施形態の製造方法では、まず、賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえる。特に限定されないが、略中央部P0は繊維基材の幾何中心であることが好ましい。幾何中心の算出方法は特に限定されず、一般的な手法を利用することができる。なお、繊維基材の形状が複雑である場合は、繊維基材を単純な図形にみなして幾何中心を求めてもよい。
【0011】
本実施形態の製造方法では、繊維基材の中央部を押さえた後、繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって順に繊維基材を押さえる。繊維基材は、撫でるように連続的に押さえてもよいし、予め設定された位置を順に押さえてもよい。
【0012】
繊維基材を連続的に押さえる場合は、図1に示すように、最初に賦形型にセットされた繊維基材1の略中央のP1領域に設定された中央部P0(押し付け部分S1)を押さえる。次に、P0から矢印R及び矢印Lの方向に向かって繊維基材を連続的に押さえ、賦形型に撫で付ける。
【0013】
このほか、セットされた繊維基材の略中央から端部に向かって離隔する任意の位置に予め設定された1又は2以上の部分を、中央部から離隔する順に押さえるようにしてもよい。具体的には、図1に示すように、最初に、賦形型にセットされた繊維基材1の略中央のP1領域に設定された中央部P0(押し付け部分S1)を押さえる。次に、繊維基材の略中央P1領域から繊維機材の端部へ向かって離隔する任意の位置にある領域P2、領域P3に予め設定された押し付け部分S21,S22,S31,S32を、中央部P0から離隔する順に押さえる。すなわち、S1、S21、S22、S31、S32の順に押さえる。S21とS22のP0からの距離が略同一であれば、S21とS22の順番は入れ替わってもよい。S31とS32についても同様である。P0からS1、S21、S22、S31、S32の距離が、L1、L21、L22、L31、L32であるとすれば、L1<(L21、L22)<(L31、L32)となり、繊維基材を押さえる順番は繊維基材の略中央から端部に向かって離れる方向に昇順する。言い換えると、繊維基材の端部(中央からの距離がT1)を押さえた後に、繊維基材の中央部近傍(中央からの距離がT2(T2<T1))を押さえることはない。
【0014】
ここでは、説明を簡潔にするため、中心からの離隔の程度を同心円で示し、その中心を通るX軸上に5つの押し付け部分を設定したが、押し付け部分の位置、数、間隔、方向は限定されない。押し付け部分を中心から放射状に設定してもよいし、中止から端部へ向かう螺旋状に設定してもよい。
【0015】
また、押さえる位置を予め設定する場合は、前に押さえた位置と高さが異なる(前に押さえた位置と段差がある)位置に設定することが好ましい。また賦形型に凹凸形状が形成されている場合は、その凹凸形状の谷部に形成された角部又は隅部に押し付け部分を設定することが好ましい。
【0016】
繊維基材1を賦形型2に押し付ける手順を図2に示した。図2に示すS1、S21、S22、S31、S32は、図1のそれと対応する。図2(A)は繊維基材1を賦形型2にセットした状態を示す。図2(B)は図2(A)の状態に続き、繊維基材1の略中央の押し付け部分S1を押し付けた状態を示す。続く図2(C)は押し付け部分S21とS22とを押し付けた状態を示す。さらに、図2(D)は押し付け部分S31とS32とを押し付けた状態を示す。ここでは、S1、S21、S22、S31、S32を順次押さえる手法を説明したが、S1からS21を経てS31まで連続的に撫でるように押さえてもよい。S1〜S22を経てS32までも同様である。
【0017】
このように、繊維基材の略中央から端部へ向かう方向に沿って連続的又は設定された部分を順番に、押さえることにより、シワや目ずれの発生を抑制することができ、部分的な強度差のない安定した品質のプリフォームを得ることができる。
【0018】
図2(A)の状態において、複数の繊維基材を重ねて賦形型にセットしてもよい。この状態を図3に示した。本実施形態では、図3に示すように3枚の繊維基材11,12,13を重ねて賦形型2にセットする。繊維基材を1枚1枚順次セットすると、下の基材が積層された上の基材から力を受けて目ずれやシワが発生する場合があるが、複数の繊維基材を同時にセットすることにより、このような目ずれやシワの発生を抑制することができる。また、1枚1枚順次セットするよりも生産効率を向上させることができる。
【0019】
本実施形態において、USP455045や特表2001−516406に記載されている多軸基材を繊維基材として用いることが好ましい。多軸基材の表面拡大図の一例を図4(A)に示した。本実施形態の多軸基材は、図4(B)に示す構造を有し、所定の回転軸を基準に繊維基材を0°、90°、+30°−60°、90°、−30°、+60°に回転させた状態で積層し、これを基材厚さ方向Zに沿って強化繊維を配して繊維基材の層間を結合させたものである。本例では3軸構造の多軸基材を用いたが、これに限定されず5軸構造の多軸基材を用いてもよい。多軸基材を用いることにより、基材積層の手間が省け、生産効率を高めることができる。
【0020】
また、織物基材は図5(A)に示すようなメッシュ基材であることが好ましい。メッシュ基材を用いる場合は、織糸間に形成される空隙が所定の閾値よりも大きいメッシュ基材を選択することが好ましい。空隙の大きさの程度は、Cf(カバーファクター)の値に基づいて判断することが好ましい。Cf(カバーファクター)は織物地の面積に対する糸の占める割合を示す指標値である。変形能力を備えているメッシュ基材は、複雑な立体形状に賦形することができるため、立体形状が複雑であっても品質の高いプリフォームを得ることができる。
【0021】
織物基材は図5(B)に示すような綾織組織の繊維基材であることが好ましい。綾織組織は、経糸及び緯糸それぞれが3本以上から完全組織が作られ、組織点が斜めに連続的に浮沈した斜文線を表す組織である。綾織では経緯糸が浮く長さが平織よりも長く、織物組織はその分だけ緩むため、滑らかで変形能力に富む。つまり、格子のせん断変形を容易に起こすことができるため、曲面への賦形が可能となり、目的の立体形状が複雑であっても品質の高いプリフォームを得ることができる。
【0022】
賦形型にセットされる織物基材に、予め立体形状に応じて切欠を形成することが好ましい。図6(A)は準備された織物基材である。これに切欠Dを形成したものを図6(B)に示した。段差の大きな凹凸に対応する部分については切欠を設けることによって、繊維基材の変形を容易にし、しわやヨレの発生を防止することができる。
【0023】
賦形型にセットされた繊維基材に、立体形状に応じたパッチ基材Eを配置することが好ましい。図7(A)は繊維基材を賦形型にセットした状態である。これにパッチ基材Eを配置した状態を図7(B)に示した。段差の大きい凸部分では繊維基材が目開きを起こし、強化繊維の密度が少なくなってしまう場合がある。また、切欠Dを形成した部分には繊維基材が存在しない場合がある。このような部分に、パッチ基材を配置することにより、強度の均一化を図り、機械強度を向上させることができる。
【0024】
賦形型により賦形されたプリフォームは、繊維強化複合材料の製造工程に搬送される。賦形後のプリフォームには、必要に応じてバインダを塗布する。ハンドリング性を向上させるためである。バインダは、プリフォームの形態/形状を安定させることができればよく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、でんぷん等を用いることが好ましい。
【0025】
次に、得られたプリフォームを用いて繊維強化複合材料を製造する。本実施形態では、RTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いて、繊維強化複合材料を得る。雌雄一対の気密型に予め得たプリフォームと、必要なインサート部品類をセットする。セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填する。これによりプリフォームにマトリックスを含浸させる。繊維強化複合材料のマトリックスは、特に限定されないが、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。また熱可塑性樹脂としては汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックを用いることができるが、主に後者を利用することが好ましい。エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどを例示することができる。
【0026】
マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させる。温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る。
【0027】
目ずれやシワがないプリフォームを用いることにより、繊維強化複合材料の強度も向上させることができる。
【実施例】
【0028】
繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型2に、繊維基材(東レ株式会社製 CO6343)をセットした。この状態の繊維基材を図8に示した。繊維基材を賦形型にセットした後、図8に示すA、B、C及びDの各位置から基準方向0°、基準方向から左右+45°,−45°、左方向90度の各方向に向かって繊維基材を手で押さえた。その後、賦形型を型締めし、プリフォームを得た。得られたプリフォームについて外観評価を行った。外観評価では目ずれの有無、シワの有無、及びブリッジングの有無を評価した。
【0029】
目ずれとは初期状態の経糸と緯糸との交差状態が変化してしまうことである。平織りを例に説明すると、初期状態の平織基材は、図9(A)に示すように経糸と緯糸とが直交する。賦形後、図9(B)に示すように経糸と緯糸との交差状態が変化した場合は、「目ずれ」が発生したと判断した。
【0030】
シワとは経糸又は緯糸の繊維に捩れが生じることをいう。初期状態の平織基材は、図10(A)に示すように経糸及び緯糸は真っ直ぐである。賦形後、図10(B)に示すように経糸又は緯糸に捩れが観察された場合は、「シワ」が発生したと判断した。
【0031】
ブリッジングとは、繊維基材が賦形型に沿っておらず、繊維基材が突っ張っている状態をいう。ブリッジングが発生していない状態では、図11(A)に示すように繊維基材が賦形型に密着している。これに対し、ブリッジングが発生した場合は、図11(B)に示すように繊維基材が突っ張ってしまう。賦形型から浮いて突っ張った部分が観察された場合は、「ブリッジング」が発生したと判断した。
【0032】
<実施例1>
実施例1では、繊維基材の略中央の位置Bから端部に向かって離隔する方向に沿って繊維基材を押さえてプリフォームを得た。実施例1のプリフォームの状態を図12に示した。図12に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図12に示すように、実施例1のプリフォームには、目ずれ、シワ、及びブリッジングの発生は認められなかった。
【0033】
<比較例1>
比較例1では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Aから押さえてプリフォームを得た。比較例1プリフォームの状態を図13に示した。図13に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図13に示すように、比較例1のプリフォームのX1で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0034】
<比較例2>
比較例2では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Cから押さえてプリフォームを得た。比較例2プリフォームの状態を図14に示した。図14に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図14に示すように、比較例2のプリフォームのX2で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0035】
<比較例3>
比較例3では、賦形型にセットされた繊維基材を位置Dから押さえてプリフォームを得た。比較例3プリフォームの状態を図15に示した。図15に示す矢印が図8に示す基準方向0°に対応する。図15に示すように、比較例3のプリフォームのX3で指し示す位置に、目ずれ、シワの発生が認められた。
【0036】
繊維基材の略中央を最初に押さえ、略中央から端部に向かって順に押さえることにより、目ずれ、シワ、ブリッジングの発生を抑制することができる。
【0037】
<第2実施形態>
第2実施形態は、賦形型を用いて所定の立体形状に賦形されるプリフォーム用の繊維基材に特徴がある。繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえることにより、目ずれ、シワ又はブリッジングの発生を抑制するという技術思想に基づいて、本実施形態はプリフォーム作成時に繊維基材を押さえる位置、押さえる順番、押さえる方向を作業者に明示する繊維基材を提供する。
【0038】
本実施形態の繊維基材の一例を図16に示した。繊維基材1の略中央に設定された第1ポイント標識と、第1ポイント標識から繊維基材の端部へ離隔する順に設定された第nポイント標識(nは2以上の自然数)とが表示されている。この第1〜nポイント標識は、1〜nの番号とともに表示されることが好ましく、図16に示すように、繊維基材の中央には第1ポイント標識が番号(1st)とともに表示されている。その周囲には、第1ポイントからの距離が近い順に2から11の番号が付された第nポイント標識が表示されている。また、本例では、略中心部から連続的に押さえる部分については矢印でその方向(a,b,c,d)を示した。
【0039】
繊維基材を賦形する作業者は、繊維基材を賦形型にセットした後、まず、第1ポイント標識が表示された位置を押さえ、その後ポイント標識が表示された位置を付された番号の順番に押さえる。このような標識を予め表示した繊維基材を用いることによって、第1実施形態の方法と同様の効果を奏するとともに、熟練者以外であっても、目ずれ、シワ、又はブリッジングを発生させることなくプリフォームを作成することができる。
【0040】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の製造方法に用いられるプリフォーム製造装置である。図17(A)に本実施形態のプリフォーム製造装置3の構成の概要を示した。本実施形態のプリフォーム製造装置3は、繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型2と、賦形型2にセットされた繊維基材1の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置3とを有する。押さえ装置3は、3次元に駆動可能な押さえローラ31、32、33と、を有している。押さえローラ31、32、33の駆動はコントローラ35により独立に制御される。
【0041】
コントローラ35による制御手法を図17に基づいて説明する。図17(A)に示したプリフォーム製造装置3の押さえ機能が起動すると、コントローラ35は、押さえローラ31を繊維基材の略中央部の上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ31を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(B)に示した。図17(B)に示すように、押さえローラ31は繊維基材の略中央部に接している。
【0042】
その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を、繊維基材の略中央から端部に向かって離隔する位置N,Mの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(C)に示した。図17(C)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置N及びMに接している。
【0043】
その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を上昇させ、位置S,Tの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の端部を押さえさせる。この状態を図17(D)に示した。図17(D)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置S及びTに接している。なお、図17の(A)〜(D)は、第1実施形態の製造方法に係る図2の(A)〜(D)に対応する。
【0044】
本例では、設定された略中央部と、位置N、S、M、Tとを順次押さえるようにしたが、略中央部から位置Nを経て位置Sまで押さえローラを回転させて、連続的に押さえてもよい。中央部から位置Mを経て位置Tまでについても同様である。また、本例では押さえローラを用いて繊維基材を押さえたが、これに限定されず、ピン状の押さえ、棒状の押さえを用いることができる。なお、押さえローラの昇降及び水平移動の駆動機構は特に限定されない。
【0045】
このように押さえる位置と押さえる順番が制御可能なプリフォーム製造装置によれば、現在人手によって行っている繊維基材のセット工程を自動化することができる。また、略中心から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえることによって、第1実施形態の方法と同様の効果を奏するとともに、目ずれ、シワ、又はブリッジングを発生させることなくプリフォームの製造工程を自動化することができる。
【0046】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態のプリフォームの製造方法にて使用するプリフォームの一例を示す図である。
【図2】第1実施形態のプリフォームの製造方法の手順を説明するための図であり、図2(A)は繊維基材をセットした状態、図2(B)は略中央部を押さえた状態、図2(C)は中央から離隔した部分を押さえた状態、図2(D)はさらに中央から離隔した部分を押さえた状態を示す図である。
【図3】複数枚の繊維基材を重ねてセットした状態を示す図である。
【図4】(A)は多軸基材の拡大図、(B)は多軸基材の構造を説明するための図である。
【図5】(A)はメッシュ基材を示す図、(B)は綾織組織の繊維基材を示す図である。
【図6】(A)は切欠を形成する前の繊維基材を示す図、(B)は切欠を形成した繊維基材を示す図である。
【図7】(A)は繊維基材をセットした状態を示す図、(B)はパッチ基材を配置した状態を示す図である。
【図8】実施例及び比較例において、最初に押さえる位置を示す図である。
【図9】目ずれを説明するための図である。
【図10】シワを説明するための図である。
【図11】ブリッジングを説明するための図である。
【図12】実施例1のプリフォームの状態を示す図である。
【図13】比較例1のプリフォームの状態を示す図である。
【図14】比較例2のプリフォームの状態を示す図である。
【図15】比較例3のプリフォームの状態を示す図である。
【図16】第2実施形態の繊維基材の一例を示す図である。
【図17】第3実施形態のプリフォーム製造装置の動作手順を説明するための図であり、図17(A)は繊維基材をセットした状態、図17(B)は略中央部を押さえた状態、図17(C)は中央から離隔した部分を押さえた状態、図17(D)はさらに中央から離隔した部分を押さえた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1, 10…プリフォーム用の繊維基材
2…プリフォーム用の成形型
3…プリフォーム製造装置
31,32,33…押さえローラ
35…コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法。
【請求項2】
賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する任意の位置に予め設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記賦形型に複数の繊維基材を重ねてセットする請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項4】
前記繊維基材は、多軸基材である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項5】
前記繊維基材は、メッシュ基材である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項6】
前記繊維基材は、綾織組織である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項7】
前記所定の立体形状に応じて切欠を形成した繊維基材を前記賦形型にセットする請求項1〜6のいずれかに記載のプリフォーム製造方法。
【請求項8】
前記賦形型にセットされた繊維基材に、前記所定の立体形状に応じてパッチ基材を配置するステップを有する請求項1〜7のいずれかに記載のプリフォーム製造方法。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載された製造方法により得られたプリフォームに樹脂を含むマトリックスを含浸させるステップと、前記樹脂を硬化させるステップとをさらに有する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られたプリフォーム。
【請求項11】
前記請求項9に記載された製造方法により得られた繊維強化複合材料。
【請求項12】
賦形型を用いて所定の立体形状に賦形されるプリフォーム用の繊維基材であって、
前記繊維基材の略中央に設定された第1ポイント標識と、前記第1ポイントから繊維基材の端部へ離隔する順に設定された第nポイント標識(nは2以上の自然数)とが表示された繊維基材。
【請求項13】
第1ポイント標識〜第nポイント標識は、1からnの番号とともに表示される請求項12に記載の繊維基材。
【請求項14】
繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型と、
前記賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置と、を有するプリフォーム製造装置であって、
前記押さえ装置は、前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備えたプリフォームの製造装置。
【請求項1】
賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法。
【請求項2】
賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する任意の位置に予め設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記賦形型に複数の繊維基材を重ねてセットする請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項4】
前記繊維基材は、多軸基材である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項5】
前記繊維基材は、メッシュ基材である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項6】
前記繊維基材は、綾織組織である請求項1又は2に記載のプリフォーム製造方法。
【請求項7】
前記所定の立体形状に応じて切欠を形成した繊維基材を前記賦形型にセットする請求項1〜6のいずれかに記載のプリフォーム製造方法。
【請求項8】
前記賦形型にセットされた繊維基材に、前記所定の立体形状に応じてパッチ基材を配置するステップを有する請求項1〜7のいずれかに記載のプリフォーム製造方法。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載された製造方法により得られたプリフォームに樹脂を含むマトリックスを含浸させるステップと、前記樹脂を硬化させるステップとをさらに有する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られたプリフォーム。
【請求項11】
前記請求項9に記載された製造方法により得られた繊維強化複合材料。
【請求項12】
賦形型を用いて所定の立体形状に賦形されるプリフォーム用の繊維基材であって、
前記繊維基材の略中央に設定された第1ポイント標識と、前記第1ポイントから繊維基材の端部へ離隔する順に設定された第nポイント標識(nは2以上の自然数)とが表示された繊維基材。
【請求項13】
第1ポイント標識〜第nポイント標識は、1からnの番号とともに表示される請求項12に記載の繊維基材。
【請求項14】
繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型と、
前記賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置と、を有するプリフォーム製造装置であって、
前記押さえ装置は、前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備えたプリフォームの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−188791(P2006−188791A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1590(P2005−1590)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 次世代自動車のための先進複合材料創製技術に関する研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 次世代自動車のための先進複合材料創製技術に関する研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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