説明

プリプレグ用剥離紙

【課題】寸法安定性、剛性に優れ、再使用可能なプリプレグ用剥離紙を提供する。
【解決手段】熱硬化シリコーン層(I)140、ポリオレフィン系樹脂層(I)120、紙基材110、ポリオレフィン系樹脂層(II)120’がこの順に積層されることを特徴とする、プリプレグ用剥離紙である。前記ポリオレフィン系樹脂層(II)に次いで熱硬化シリコーン層(II)が積層されてもよい。安価に剛性を確保することができ、再使用が可能となり、使用後の剥離紙の廃棄量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ用剥離紙に関し、より詳細には、防湿性、寸法安定性に優れるプリプレグ用剥離紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフシャフト、釣り竿、テニスラケット、スキーストック、車の部品、自転車のボディ等のレジャースポーツ用品、航空機、宇宙および軍事関連等の分野の材料には、炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂が剥離紙に剥離可能に接着された炭素繊維プリプレグが利用されている。
【0003】
このような炭素繊維プリプレグは、プリプレグ用剥離紙に加熱溶融したエポキシ樹脂を一定の厚さで塗工し、これを冷却して半硬化状態のエポキシ樹脂層を積層させたエポキシ樹脂積層剥離紙を使用して製造される。具体的には、予めプリプレグ用剥離紙にエポキシ樹脂を積層してエポキシ樹脂積層剥離紙を調製し、このエポキシ樹脂積層剥離紙を2枚用意し、図4に示すように、2枚の前記エポキシ樹脂積層剥離紙(10)、(10’)のエポキシ樹脂層(13)、(13’)を対向して配置させ、その間に炭素繊維(20)を入れて挟み込む。エポキシ樹脂層(13)、(13’)をヒーター(30)で昇温すると前記炭素繊維(20)の間にエポキシ樹脂(13)、(13’)が含浸され、炭素繊維(20)とエポキシ樹脂(13)、(13’)が一体化した炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)が形成される。次いで、プリプレグ用剥離紙(11)の上の炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)の表面にポリエチレンフィルムなどの保護フィルム(40)を積層すれば、炭素繊維用プリプレグとなる。なお、炭素繊維用プリプレグは製品巻き取りロール(50)に巻き取られ、製造工程で除去されたプリプレグ用剥離紙(11’)は、剥離紙回収ロール(60)に巻き取られる。
【0004】
このようにして得られた炭素繊維用プリプレグは、プリプレグ用剥離紙(11)と保護フィルム(40)との間にある炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)を未架橋の状態に維持するため、低温条件で保存される。使用時には、板状または反物状の炭素繊維プリプレグから保護フィルム(40)とプリプレグ用剥離紙(11)とを除去し、未架橋の炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)を所定の厚さに積層し、次いで加熱成形して各種の形状に成形し、炭素製品を製造することができる。
【0005】
一方、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)を積層する際に、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)間に空気などが入ると空隙が生じ、層構成が破壊されるため衝撃強度が低下する場合がある。このような層構成の乱れは、層間の空隙の他に、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)がたるんだ状態で積層される場合にも発生する。例えば、炭素繊維用プリプレグを構成するプリプレグ用剥離紙(11)が収縮すると、プリプレグ用剥離紙(11)と炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)との間に剥がれが生じ、積層の際に炭素繊維含浸エポキシ樹脂層(25)が均一に積層されず、層間に乱れが発生する場合がある。炭素繊維用プリプレグは、前記したように、炭素繊維(20)をエポキシ樹脂(13)、(13’)に含浸させる際に加熱され、保存時には未架橋を維持しうる程度に冷却される。このため、プリプレグ用剥離紙は、このような温度変化の大きな環境下にも寸法安定性に優れる必要がある。現在、炭素繊維の強靭性を利用して、炭素繊維プリプレグから航空機の主翼などが製造されているが、航空機には高度の安全性が要求され、したがって、炭素繊維プリプレグを構成するプリプレグ用剥離紙にも、高度の寸法安定性が要求される。
【0006】
このような寸法安定性に優れる剥離紙として、両面に防湿層を有する原紙の少なくとも片面に剥離処理を施したプリプレグ用工程紙であって、JIS Z 0208に準拠して測定した透湿度が、200g/m2・24時間以下であることを特徴とするプリプレグ用工程紙もある(特許文献1)。貯蔵雰囲気での湿度や温度の変化により、工程紙がプリプレグから部分的に剥がれ、プリプレグ表面に凹凸が発生し、成形体にも前記凹凸によるシワやボイドが発生するという問題に鑑みてなされたものであり、工程紙の水分率の変化を抑制することによりプリプレグから工程紙が浮き剥がれることを防止し、プリプレグ表面に凹凸の生じない、高品質なプリプレグ材を提供しうるという。
【0007】
また、カナダ標準ろ水度が所定範囲の木材パルプからなる基紙に、ガラス転移温度が20℃〜100℃のアクリル系樹脂を含浸させてなる原紙に顔料とバインダーからなる目止め層を設けた加工用原紙であって、前記バインダーが、ゲル含量が80質量%以上であるラテックスであり、前記目止め層の顔料とラテックスの質量比が100/45〜100/15であることを特徴とする加工用原紙もある(特許文献2)。寸法安定性や剥離剤の目止め性に優れると共に、製紙原料として再生可能な加工用原紙が提供される、という。
【0008】
更に、木材パルプを主体とした基紙に、耐水化剤によって耐水化処理されたポリビニルアルコールが塗工又は含浸されてなり、110℃で2時間加熱後、23℃で相対湿度50%の条件下に60分放置後の幅方向の伸び率が1.0%以下であることを特徴とする工程剥離紙原紙もある(特許文献3)。プリプレグの製造工程で、中間工程用剥離紙は、加熱による紙中の水分減少により縮み、その後の冷却工程で空気中の水分を吸収して伸び、この伸縮によって炭素繊維強化樹脂と剥離紙との間で剥離が生じるという問題に鑑みてなされたものであり、加熱後に冷却により水分を吸収しても、冷却途中で一定時間が経過するまで伸びを少なくして、炭素繊維強化樹脂と剥離紙との剥離や変形を解消しうる、という。
【特許文献1】特開2005−220482号公報
【特許文献2】特開2006−274483号公報
【特許文献3】特開2007−009348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、プリプレグ用剥離紙には、高度の寸法安定性が要求される。特許文献1では、剥離紙を構成する紙基材の表面の平滑度や透湿度を規定し、特許文献2ではカナダ標準ろ水度が所定範囲の木材パルプからなる基紙を使用し、特許文献3では剥離紙の伸び率を制限することで、プリプレグ用剥離紙の寸法安定性を確保し、プリプレグの部分的な剥離を防止している。しかしながら、このような剥離紙に使用される紙基材は高価である。図4に示すように、プリプレグは、2枚のエポキシ樹脂積層剥離紙(10)、(10’)を使用して製造されるため、プリプレグの2倍の長さのプリプレグ用剥離紙が使用され、すなわちプリプレグ用剥離紙に使用される紙基材もプリプレグの2倍の長さが必要となる。したがって、安価な紙基材を使用し、かつ寸法安定性に優れるプリプレグ用剥離紙の開発が望まれる。
【0010】
また、炭素繊維プリプレグに使用される剥離紙は、一度プリプレグ用剥離紙として使用された後は、廃棄されることが一般的である。上記したように、プリプレグの2倍の長さの剥離紙が使用され、プリプレグの使用後にはこれら剥離紙の全てが廃棄されるため、廃棄処理に所定の時間や労力が課される。したがって、一度使用したプリプレグ用剥離紙は、再使用できるものであることが好ましいが、従来のプリプレグ用剥離紙は剛性に欠け、形態保持性が劣る場合がある。このため、所定の剛性を確保でき、かつ再使用しうる、強度に優れるプリプレグ用剥離紙の開発が望まれる。
【0011】
更に、プリプレグ用剥離紙は、寸法安定性と共に優れた剥離性が要求される。上記特許文献1〜3ではシリコーン系樹脂などが剥離層として使用され、紙基材層とシリコーン系樹脂層との接着性が確保される必要がある。特許文献2では所定の目止め層を積層し、特許文献3ではポリビニルアルコールを含浸などしているが、安価でかつ剥離性に優れるプリプレグ用剥離紙の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、炭素繊維プリプレグ用剥離紙について詳細に検討した結果、プリプレグ用剥離紙の寸法変化は、炭素繊維をエポキシ樹脂に含浸させる際の昇温工程で紙基材が脱水し、低温に維持した炭素繊維プリプレグを常温で使用する際の吸水によって生じること、したがって、このような温度変化に伴う脱水や吸水を防止できれば、従来の安価なクレイコート紙などを使用してプリプレグ用剥離紙を製造できること、紙基材の両面にポリオレフィン系樹脂層を積層することで寸法変化を防止できること、更に前記ポリオレフィン系樹脂層に熱硬化シリコーン層を積層すると剥離性に優れるプリプレグ用剥離紙を製造することができることなどを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプリプレグ用剥離紙は、安価な紙基材を使用して製造することができ、経済的である。
本発明のプリプレグ用剥離紙は、ポリオレフィン系樹脂層を積層するだけで優れた防湿効果を発揮し、これにより寸法安定性に優れるプリプレグ用剥離紙を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第一は、熱硬化シリコーン層(I)、ポリオレフィン系樹脂層(I)、紙基材、ポリオレフィン系樹脂層(II)がこの順に積層されることを特徴とする、プリプレグ用剥離紙である。紙基材にポリオレフィン系樹脂層を形成することで防湿性、寸法安定性および剛性を付与し、更に熱硬化シリコーン層を積層することで、剥離性を付与することができる。本発明の好適な態様の一例を示す図1を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
【0015】
(1)プリプレグ用剥離紙
本発明のプリプレグ用剥離紙は、図1に示すように、熱硬化シリコーン層(I)(140)、ポリオレフィン系樹脂層(I)(120)、紙基材(110)、ポリオレフィン系樹脂層(II)(120’)がこの順に積層されたものである。熱硬化シリコーン層(I)(140)にエポキシ樹脂層を積層することで、エポキシ樹脂積層剥離紙として使用することができる。
【0016】
一方、図2に示すように、前記ポリオレフィン系樹脂層(II)(120’)に次いで熱硬化シリコーン層(II)(140’)が積層されていてもよい。プリプレグ用剥離紙は、片面にエポキシ樹脂が積層されてエポキシ樹脂積層剥離紙となり、長尺のエポキシ樹脂積層剥離紙を保存する際にロール状に巻き取られる。したがって、紙基材の最外層の両面に、それぞれ熱硬化シリコーン層(I)(140)、熱硬化シリコーン層(II)(140’)が積層された両面剥離紙であれば、巻取り後のエポキシ樹脂積層剥離紙の円滑な引き出しを確保することができる。この際、熱硬化シリコーン層(I)と熱硬化シリコーン層(II)との剥離強度は、異なっていてもよい。剥離強度の低い面にエポキシ樹脂層を積層させロール状に巻き取ると、剥離紙とエポキシ樹脂層との密着性を確保しつつ、かつ容易にエポキシ樹脂積層剥離紙をロールからを引き出すことができる。
【0017】
(2)紙基材
本発明で使用する紙基材は、ポリオレフィン系樹脂層(120)および熱硬化シリコーン層(140)を積層する工程に耐え、炭素繊維をエポキシ樹脂に含浸させるための加熱温度に耐えるものを広く使用することができる。クラフト紙、上質紙、片艶クラフト紙、純白ロール紙、グラシン紙、カップ原紙などの非塗工紙の他、天然パルプを用いない合成紙なども用いることができる。前記したように、ポリオレフィン系樹脂層(I)、ポリオレフィン系樹脂層(II)を積層することで脱水や吸水を防止して寸法安定性に優れるため、天然パルプからなる紙を好適に使用することができる。
【0018】
本発明において、紙基材として使用する紙としては、秤量50〜300g/m2、好ましくは100〜200g/m2である。この範囲であれば、ポリオレフィン系樹脂層や熱硬化シリコーン層を積層することができ、かつ再使用に適する強度を有する剥離紙を製造することができる。また、紙は、中性紙であることが好ましい。硫酸バンドなどを含む酸性紙は、繰り返し使用されると熱劣化が発生し、このため早期に再使用が困難となる場合がある。中性紙であれば、このような熱劣化を防止することができる。
【0019】
また、本発明で使用する紙は、サイズ剤として、中性ロジンやアルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸を使用してもよく、定着剤としてカチオン性のポリアクリルアミドやカチオン性デンプン等を使用してもよい。また、上記理由により硫酸バンドを使用しないことが最も好ましいが、硫酸バンドを使用してpH6〜9の中性領域で抄紙することも可能である。その他、必要に応じて上記のサイズ剤のほか、定着剤の他、製紙用各種填料、歩留向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、結合剤、分散剤、凝集剤、可塑剤、接着剤を適宜含有していてもよい。
【0020】
更に、本発明で使用する紙基材としては、例えば一般的な、クレイコート紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙、樹脂コート紙、加工原紙、剥離原紙、両面コート剥離原紙などの予め後記する目止め層が形成された市販品を使用することもできる。
【0021】
(3)ポリオレフィン系樹脂層
ポリオレフィン系樹脂層は、紙基材と熱硬化シリコーン層(I)との間に形成される層であり、単層に限らず2層以上の多層であってもよい。また、ポリオレフィン系樹脂と無機顔料との混合物層であってもよい。
【0022】
(i)ポリオレフィン系樹脂
使用しうるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂が例示される。この中でも、ポリプロピレン系樹脂やポリメチルペンテン系樹脂は、耐熱性、加工性に優れる点で好ましい。
【0023】
本発明で使用するプロピレン系樹脂は、プリプレグ用剥離紙としての耐熱性を損なわない限り、プロピレン単独重合体に限らず、プロピレンを主体とし、このプロピレンと例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、4−ポリメチルペンテン−1などのα−オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0024】
また、ポリメチルペンテン系樹脂は、4−メチル−1−ペンテンを主成分とするポリマーであり、4−メチル−1−ペンテンの単独重合体の他、4−メチル−1−ペンテンと他のα−オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜20のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。ポリメチルペンテン系樹脂は、融点230〜240℃と耐熱性に優れる点で特に好ましい。
【0025】
前記したように、ポリオレフィン系樹脂層は、単層に限定されない。例えば、ポリプロピレン系樹脂およびポリメチルペンテン系樹脂から選ばれる第一ポリオレフィン系樹脂層(120A、120A’)と、前記第一ポリオレフィン系樹脂層を構成する樹脂とポリエチレン系樹脂との組成物からなる第二ポリオレフィン系樹脂層(120B、120B’)と、ポリメチルペンテン系樹脂からなる第三ポリオレフィン系樹脂層(120C、120c’)を積層するものであってもよい。この態様を図3に示す。この際、第二ポリオレフィン系樹脂層(120B、120B’)において、ポリエチレン系樹脂の配合量は、5〜80質量%、より好ましくは10〜50質量%である。ポリエチレンはポリプロピレン系樹脂やポリメチルペンテン系樹脂などよりも融点が低いが、第三ポリオレフィン系樹脂層(120C、120c’)としてポリメチルペンテン系樹脂層を積層することで、第一ポリオレフィン系樹脂層(120A)と紙基材(110)とを好適に接着することができ、かつエポキシ樹脂含浸時の耐熱性を確保することができるからである。なお、使用するポリエチレン系樹脂としては特に制限はなく、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれでもよい。ただし、密度によって融点が相違するため、好ましくは融点が90〜130℃、より好ましくは110〜120℃のものである。
【0026】
上記ポリオレフィン系樹脂層は、上記ポリオレフィン系樹脂を、ロールコート、グラビアコート、押出しコート、ナイフコート、ミヤバーコート、ディップコートなどで紙基材に積層することで調製することができる。なお、ポリオレフィン系樹脂層が多層である場合には、共押出しなどに紙基材に積層してもよい。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂層の厚さは、3〜40μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μmである。3μmより薄いと紙基材との接着性が低下する場合があり、一方、40μmを超えると剥離紙のカールが大きくなる場合がある。
【0028】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂層に表面処理がなされていることが好ましい。このような表面処理によってポリオレフィン系樹脂層と熱硬化シリコーン層との密着性を向上させることができる。このような表面処理としては、フレーム処理、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理などがある。また、予め、プライマーコート剤、アンダーコート剤、アンカーコート剤、接着剤、あるいは、蒸着アンカーコート剤等を任意に塗布し、表面処理することもできる。なお、前記コート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂、その他等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0029】
このような表面処理の中でも、特に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことが好適である。また、プラズマ処理としては、気体をアーク放電により電離させることにより生じるプラズマガスを利用して表面改質を行なうプラズマ処理がある。プラズマガスとしては、上記のほかに、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の無機ガスを使用することができる。更に、本発明では、プラズマ処理としては、プラズマ出力、プラズマガスの種類、プラズマガスの供給量、処理時間、その他の条件を考慮してプラズマ放電処理を行うことが好ましい。また、プラズマを発生する方法としては、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電、その他の装置を使用することができる。また、大気圧プラズマ処理法によりプラズマ処理を行なうこともできる。
【0030】
(ii)無機顔料との混合物層
混合物層としては、ポリオレフィン系樹脂に対して無機顔料を0.5〜50質量%含有したものを好適に使用することができる。
【0031】
無機顔料としては、タルク、カオリンクレイ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛などがあり、無機顔料100質量部に対して、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜30質量部を配合する。ポリオレフィン系樹脂が30質量部を上回ると目止め効果、防湿効果、寸法安定性が低減する場合があり、一方、20質量部を下回ると添加の効果が平滑性を阻害する場合がある。このような混合物層は、ポリオレフィン系樹脂が多層からなる場合に、紙基材に塗工し、目止め層として使用することができる。この際、ポリオレフィン系樹脂の塗工量は、好ましくは0.5〜20g/m2で十分である。混合物層のコーティングは、固形分100質量部に対して通常10〜1000質量部の溶剤で希釈して塗工することができる。溶剤の希釈により塗工に適正な粘度、例えば25℃において10〜3000mPa・秒の粘度を付与することができる。
【0032】
なお、紙基材に混合物層を形成した後、カレンダー処理などを行って平滑化を行ってもよい。次いで、前記した第一ポリオレフィン系樹脂層、第二ポリオレフィン系樹脂層、第三ポリオレフィン系樹脂層を積層してもよい。
【0033】
(4)熱硬化シリコーン層
本発明で用いる熱硬化シリコーン層は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金系硬化触媒からなる熱硬化性シリコーン組成物を熱硬化して形成したものを好適に使用することができる。
【0034】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの一例としては下記の如き化合物が挙げられる。
【0035】
【化1】

(上記式中におけるRは主としてメチル基であるが、その他のアルキル基またはフェニル基等のアリール基或はそれらの組み合わせで有り、l+m+nは1以上の整数であり、各シロキサン単位はランダムに配置されていてもよい。X、YおよびZのうち少なくとも1個はビニル基、アリル(−CH2−CH=CH2)基または(メタ)アクリロイル基等に付加重合性基であり、R1〜R3は単結合或はアルキレン基である。)
以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されないが、一般的には3,500〜20,000の範囲が好適である。これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは市場から入手でき本発明で容易に使用することができる。
【0036】
本発明で使用するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記一般式において−R1−X、−R2−Z、および−R3−Yのうち少なくとも1個が水素原子であるものであり、他の置換基、シロキサン単位の配列、分子量等については前記一般式と同様である。これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは市場から入手でき本発明で容易に使用することができる。
【0037】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの使用割合は、両者の有する反応性基のモル比で決まり、前者と後者の比が4:1〜1:4、特に1:1〜1:3の範囲が好ましく、この範囲を外れると離型性の低下、塗膜強度の低下、未反応の反応性基による保存性の劣化等の点で満足した性能が得られない。
【0038】
本発明では、更に白金系硬化触媒を使用する。該触媒は前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサン100質量部当たり約5〜200質量部程度が好ましい使用量である。
【0039】
上記のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金系硬化触媒からなる熱硬化性シリコーン組成物は、常温でも反応が進行し、塗工液中での反応の進行は離型性低下の原因となり、また、塗工液の保存性や取り扱い性に問題が生じる。本発明ではこの様な問題を解消する為に、常温では熱硬化性シリコーン組成物に対して反応抑制効果を有し、加熱処理時にはその抑制効果が解消する反応抑制剤を使用してもよい。具体的には、本発明で使用する反応抑制剤は、溶媒の溶液の状態では、上記の熱硬化性シリコーン組成物に対する硬化触媒の作用を抑制し、加熱された状態や溶剤が揮散した状態、即ち加熱または乾燥状態では上記硬化触媒の作用を抑制せず、むしろ促進する材料である。この様な硬化抑制剤としては、例えば、アセチレンアルコールのシリル化物等が挙げられる。これらの反応抑制剤は市場から入手して使用することができる。かかる反応抑制剤は前記熱硬化性シリコーン組成物100質量部当たり約5〜100質量部の割合で使用することが好ましい。
【0040】
このような熱硬化性シリコーン組成物としては、市販品を使用してもよく、例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの混合物からなる付加重合型シリコーン材料の主剤(信越化学工業株式会社製、KS−3603)に白金系硬化触媒からなる硬化剤(信越化学工業株式会社製、CAT−PL−50T)を混合して調製することができる。
【0041】
上記熱硬化性シリコーン組成物は、常温では固体状態であるが、加工時には加熱により液体状態に変化する材料である。
本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、強度等の充分な皮膜物性を得るために硬化性を必要とする。
【0042】
本発明の熱硬化性シリコーン層の形成方法自体は、前記熱硬化性シリコーン組成物の塗布、乾燥加熱、熟成等染料受容層の形成と同様でよく、形成される前記熱硬化シリコーン層の厚みは0.01〜10μmの範囲が好ましい。
【0043】
前記したように、本発明のプリプレグ用剥離紙が、熱硬化シリコーン層(I)と熱硬化シリコーン層(II)とを有する場合には、これらの剥離強度は異なることがこのましい。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンやオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子量、置換基の種類、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの使用割合などを変えて熱硬化シリコーン樹脂を製造し、予めこれらの剥離強度を求めることで、異なる剥離強度の熱硬化シリコーン層を積層させることができる。
【0044】
(5)プリプレグ用剥離紙の製造方法
本発明のプリプレグ用剥離紙は、紙基材上にポリオレフィン系樹脂層および熱硬化シリコーン層を積層して製造することができる。
【0045】
例えば、前記した、紙基材(110)の両面にポリオレフィン系樹脂層(120)、(120’)を積層し、ついで双方のポリオレフィン系樹脂層(120)の上に、例えば、コロナ処理などの表面処理を行って表面処理層を形成する。次いで、少なくとも一方のポリオレフィン系樹脂層上に熱硬化性シリコーン組成物を塗工し、加熱乾燥して熱硬化シリコーン膜を形成する。
【0046】
なお、本発明のプリプレグ用剥離紙の厚さは、50〜300μmであることが好ましく、より好ましくは70〜150μmである。厚さが50μmを下回ると強度が低下し、製造工程で巻き取りの際に切断しやすくなるなどのライン適性が低下する場合がある。一方、300μmを超えると、プリプレグ用剥離紙の幅カールが大きくなり、加工性が低下する場合がある。
【0047】
(6)炭素繊維プリプレグ
本発明のプリプレグ用剥離紙を用いて、前記図4に例示する方法で炭素繊維プリプレグを製造することができる。本発明のプリプレグ用剥離紙を用いた炭素繊維プリプレグは、寸法安定性に優れ、エポキシ樹脂を未架橋に維持するため低温に保存しても、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層と剥離紙との間に剥離を生ずることがない。また、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層の積層時に炭素繊維含浸エポキシ樹脂層がたるまず、炭素繊維含浸エポキシ樹脂層の部分的な重複による凹凸や空隙の発生がなく、高い耐衝撃性を有する炭素製品を製造することができる。
【0048】
しかも、紙基材とポリオレフィン系樹脂層との間における剥離が防止され、耐熱性にも優れかつ寸法安定性および機械的強度の高いポリオレフィン系樹脂層の存在および剥離性に優れる熱硬化シリコーン層の存在により安定した剥離性が維持される。
【実施例】
【0049】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
(実験例1)
上質紙(坪量104.5g/m2)の両面にタンデムタイプの押出しコーティングによりポリプロピレン(サンアロマー社、サンアロマーPHA03A、融点163℃)を5μmコーティングした。次いで片面のみコロナ処理を行い、表面の濡れ性を向上させた後に付加重合タイプのシリコーン樹脂(信越化学工業社製、商品名「KS−3603」)100質量部と剥離コントロール剤、商品名「KS−3800」2質量部の混合物)を0.3g/m2コーティングし、片面に剥離層を有するプリプレグ用剥離紙を製造した。
【0050】
次いで、得られたプリプレグ用剥離紙にビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製 JER828を40質量部とジャパンエポキシレジン製 JER1001を50質量部)とジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン製 DICY7)5質量部と3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土ヶ谷化学工業性DCMU−99)5質量部とを70℃の温浴で30分撹拌して溶解し、約65℃の状態で前記工程紙に約40g/m2を塗布し、炭素繊維を貼り付け、温度125℃、0.75MPaでニップロールで4回繰り返しニップし、エポキシ樹脂層積層剥離紙を得た。
【0051】
このエポキシ樹脂層積層剥離紙の繰返し使用に対する繰り返し剥離性評価、外観観察を評価し、併せて寸法の変化率を評価した。結果を表1、表2に示す。
繰り返し剥離性評価は、エポキシ樹脂層積層剥離紙において、エポキシ樹脂層とプリプレグ用剥離紙とが密着しているか否かを観察し、評価した。
【0052】
外観観察は、エポキシ樹脂層積層剥離紙の外観の変化を評価した。
また、寸法の変化は、110℃で2時間乾燥した後に、23℃、50%Rhに3時間放置し、原反の長手方向において、乾燥直後に対する寸法変化百分率で評価した。
【0053】
(比較例1)
上質紙(坪量104.5g/m2)の片面にポリプロピレン(サンアロマー社、サンアロマーPHA03A、融点163℃)を5μmコーティングした。次いで前記ポリプロピレン層にコロナ処理を行い、表面の濡れ性を向上させた後に付加重合タイプのシリコーン樹脂(信越化学工業社製、商品名「KS−3603」)100質量部と剥離コントロール剤、商品名「KS−3800」2質量部の混合物)を0.3g/m2コーティングし、片面に剥離層を有するプリプレグ用剥離紙を製造した。
【0054】
このプリプレグ用剥離紙を使用して、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂層積層剥離紙を作成し、実験例1と同様にエポキシ樹脂層積層剥離紙の繰返し使用に対する繰り返し剥離性評価、外観観察を評価し、併せて寸法の変化率を評価した。結果を表1、表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、熱硬化シリコーン層(I)、ポリオレフィン系樹脂層(I)、紙基材、ポリオレフィン系樹脂層(II)がこの順に積層されることを特徴とする、本発明のプリプレグ用剥離紙の積層構成を説明する図である。
【図2】図2は、図1のポリオレフィン系樹脂層(II)に次いで熱硬化シリコーン層(II)が積層された、本発明のプリプレグ用剥離紙の積層構成を説明する図である。
【図3】図3は、図1のポリオレフィン系樹脂層(I)、ポリオレフィン系樹脂層(II)が、2層からなる、本発明のプリプレグ用剥離紙の積層構成を説明する図である。
【図4】本発明によるプリプレグ用剥離紙を用いた炭素繊維プリプレグの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
10、10’ ・・・エポキシ樹脂積層剥離紙、
11、11’ ・・・剥離紙、
13、13’ ・・・エポキシ樹脂層、
20・・・炭素繊維、
25・・・炭素繊維含浸エポキシ樹脂層、
30・・・ヒーター、
40・・・保護フィルム、
50・・・製品巻き取りロール、
60・・・剥離紙回収ロール、
110・・・紙基材、
120,120’・・・ポリオレフィン系樹脂層、
120A、120A’、120B、120B’、120C,120C’・・・ポリオレフィン系樹脂層、
140、140’・・・熱硬化シリコーン層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化シリコーン層(I)、ポリオレフィン系樹脂層(I)、紙基材、ポリオレフィン系樹脂層(II)がこの順に積層されることを特徴とする、プリプレグ用剥離紙。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂層(II)に次いで熱硬化シリコーン層(II)が積層されることを特徴とする、プリプレグ用剥離紙。
【請求項3】
前記熱硬化シリコーン層(I)と熱硬化シリコーン層(II)との剥離強度が異なることを特徴とする、請求項2記載のプリプレグ用剥離紙。
【請求項4】
前記熱硬化シリコーン層(I)および/または熱硬化シリコーン層(II)は、付加重合型シリコーン樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ用剥離紙。
【請求項5】
前記熱硬化シリコーン層(I)および/または熱硬化シリコーン層(II)は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金系硬化触媒からなる熱硬化性シリコーン組成物を熱硬化して形成したものである、請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ用剥離紙。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂層(I)および/またはポリオレフィン系樹脂層(II)は、ポリオレフィン系樹脂と無機顔料との混合物層であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグ用剥離紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−82876(P2010−82876A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252453(P2008−252453)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】