説明

プリンター

【課題】着色剤を印刷媒体に定着させる必要がある方式のプリンターにおいて、高速に印刷を行うこと。
【解決手段】搬送経路内の印刷媒体を複数のローラーによって挟むニップ状態と挟まないニップ解除状態とを実現可能であるとともに前記ニップ状態にて前記印刷媒体を搬送する第1搬送機構と、前記搬送経路の最上流にて前記印刷媒体を搬送する第2搬送機構と、印刷後、所定期間が経過していない前記印刷媒体を搬送する場合、前記第1搬送機構を前記ニップ解除状態とし、前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を搬送する搬送制御部とを備えるプリンターを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラーを利用して印刷媒体を搬送するプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のローラーによって印刷媒体を挟むニップ状態によって当該印刷媒体を搬送する技術が知られている。例えば、特許文献1においては、2個のローラーによって印刷媒体を挟んで印刷媒体を搬送する給紙ローラーや搬送ローラーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−98698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、インクジェットプリンターなど、印刷媒体にインク等の着色剤を記録した後、着色剤を印刷媒体に定着させる必要がある方式のプリンターにおいて、高速に印刷を行うことができなかった。すなわち、着色剤を印刷媒体に定着させるために着色剤を自然乾燥、あるいはヒーター等によって乾燥させる構成とした場合、乾燥するまで所定期間を要し、所定期間経過以前に印刷媒体を2個のローラーで挟んで搬送すると、ローラーに着色剤が転写されてしまう。特に、一旦印刷媒体に印刷を行い、搬送経路を逆方向に搬送した後に再度印刷を行う構成においては、複数回の印刷を繰り返す必要があるため、再度の印刷の前に所定期間の待機が必要とされると、印刷を高速に進めることができない。
本発明は上記課題にかんがみてなされたもので、着色剤を印刷媒体に定着させる必要がある方式のプリンターにおいて、高速に印刷を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、ニップ状態によって印刷媒体を搬送する第1搬送機構と搬送経路の最上流にて印刷媒体を搬送する第2搬送機構とを備えるプリンターにおいて、印刷後、所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合、第1搬送機構をニップ解除状態とし、第2搬送機構によって印刷媒体を搬送する。すなわち、印刷後、所定期間が経過しておらず、印刷された着色剤が第1搬送機構のローラーに転写され得る状態においては、ニップ解除状態とし、最上流に配置されることによって着色剤の転写が発生しない第2搬送機構によって印刷媒体を搬送する構成とする。この構成により、着色剤の印刷媒体への定着が完了していない状態であっても印刷媒体を搬送することが可能になり、着色剤を印刷媒体に定着させる必要がある方式のプリンターにおいて、高速に印刷を行うことが可能になる。
【0006】
ここで、第1搬送機構は、複数のローラーによって印刷媒体を挟むニップ状態と、当該複数のローラーによって印刷媒体を挟まないニップ解除状態とを実現可能であり、ニップ状態によって印刷媒体を搬送することができればよい。すなわち、ニップ状態においてはローラーから印刷媒体の印刷面に対して圧力が作用し、当該ニップ状態において少なくとも一つのローラーを回転させることによってローラー断面でのローラーの周と印刷媒体との接点における接線方向に印刷媒体が搬送されるように構成する。また、ニップ解除状態において、ローラーから印刷媒体の印刷面に対する圧力(上述の接線と垂直な方向に対する圧力)が抑制され、あるいは圧力が作用しない状態となり、印刷媒体の印刷面上に未定着の着色剤が存在する場合であっても当該着色剤がローラーに転写されないように構成する。なお、ニップ状態とニップ解除状態とはアクチュエータによってローラーの位置を変動させるなどして実現されれば良く、アクチュエータはモーターによって駆動されても良いし、油圧機構等によって駆動されても良く、種々の構成を採用可能である。さらに、ローラーは少なくとも2個存在すればよいが、3個以上であっても良い。
【0007】
第2搬送機構は、搬送経路の最上流に配置された、印刷媒体を搬送するための機構であれば良く、ローラーを回転させてロール状に蓄積された印刷媒体を送り出し、また、巻き取ることによって印刷媒体を搬送する機構であっても良いし、第1搬送機構のように複数のローラーで印刷媒体を挟むとともにローラーを回転させて印刷媒体を搬送する機構であっても良い。すなわち、第2搬送機構は搬送経路の最上流に配置されるため、いずれの方式であっても採用可能である。
【0008】
搬送制御部は、印刷媒体への印刷タイミングに合わせて印刷媒体を搬送することができるとともに、印刷後、所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合に、第1搬送機構をニップ解除状態として第2搬送機構によって搬送するように構成されていればよい。なお、所定期間は、着色剤が印刷媒体に印刷された後、当該着色剤が定着するまでの期間であり、印刷後の経過期間は印刷の度に実測されても良いし、実測されなくても良い。すなわち、印刷後に所定のシーケンスで印刷媒体を搬送することによって印刷媒体上の印刷済の部分のうち、印刷後に所定期間が経過していない部分が存在し、かつ当該部分が第1搬送機構のローラー間に到達し得ることが明らかであることを設計段階で確認しておけば、印刷後の経過期間を印刷の度に実測する必要はない。
【0009】
なお、印刷ヘッドから着色剤であるインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、印刷ヘッドよりも搬送経路下流側において搬送経路に対して平行に配置されたヒーターによってインクを乾燥させて定着させる構成が採用される場合がある。当該ヒーターでインクを乾燥させる処理を行っている過程で印刷媒体を逆方向に搬送して印刷ヘッドの上流まで戻し、再度印刷を行う構成の場合、所定期間は、ヒーターによって印刷媒体に印刷されたインクが乾燥する以前の期間となる。
【0010】
さらに、第1搬送機構におけるニップ状態において、第2搬送機構によって印刷媒体を搬送する場合よりも印刷媒体の印刷面に対して大きな圧力が作用する構成で、着色剤の印刷後、所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合、第1搬送機構をニップ解除状態とし、第2搬送機構によって印刷媒体を搬送するように構成してもよい。すなわち、第1搬送機構におけるニップ状態では印刷面に対して相対的に大きな圧力が作用することに起因して未定着の着色剤が転写し得るが、第2搬送機構によって印刷媒体を搬送する場合には印刷面に対して相対的に小さな圧力が作用することに起因して未定着の着色剤が転写しない状態において、着色剤の転写を防止するために所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合に第1搬送機構をニップ解除状態とする。なお、第1搬送機構におけるニップ状態において、第2搬送機構によって印刷媒体を搬送する場合よりも印刷媒体の印刷面に対して大きな圧力が作用する構成としては、第2搬送機構がローラーを回転させてロール状に蓄積された印刷媒体を送り出し、また、巻き取ることによって印刷媒体を搬送する機構である構成が挙げられる。
【0011】
さらに、搬送経路内で印刷媒体を逆送させることによって共通の印刷ヘッドで印刷媒体に対して複数回印刷を行う構成に本発明を適用しても良い。例えば、印刷ヘッドよりも搬送経路の上流側かつ第2搬送機構よりも搬送経路の下流側に第1搬送機構が配置される構成において、ニップ状態とされた第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体を下流側に向けて搬送しながら印刷ヘッドによって白色インクを吐出して印刷媒体に第1の印刷を行った後、第1搬送機構をニップ解除状態とし、第2搬送機構によって印刷媒体を上流側に向けて搬送する。この構成によれば、第1の印刷を行った後に、白色インクが第1搬送機構のローラーに転写されることを防止しながら、再印刷を実行可能な位置まで印刷媒体を引き戻すことができる。
【0012】
そして、再度ニップ状態とされた第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体を下流側に向けて搬送しながら印刷ヘッドによって有彩色インクを吐出して印刷媒体に第2の印刷を行うことにより、白地の領域に有彩色インクで画像を表現する印刷を行うことができる。以上の構成は印刷媒体上の所定領域に白インクを印刷して画像を表現する領域を形成し、当該領域に対して再印刷を行って多色での画像を表現する構成、例えば、透明なフィルム状の印刷媒体に対して画像を形成する構成に適用することが好ましい。
【0013】
さらに、再印刷を行う場合に好ましい構成例として、第2の印刷において、基準位置検出センサによって検出された印刷媒体の基準位置に基づいて印刷媒体上の印刷開始位置を特定して印刷を行う構成を想定可能である。具体的には、基準位置検出センサによって検出された印刷媒体の基準位置と印刷媒体上の印刷開始位置との関係を、第1の印刷と第2の印刷とにおいて一致させる構成とする。すなわち、第1の印刷の後、印刷媒体を搬送経路の上流に向けて逆送させるが、この場合に第1搬送機構をニップ解除状態にすることにより、搬送機構による印刷媒体の予定搬送量に対して印刷媒体の実際の搬送量が正確に追従しにくい状態となる。そこで、第1の印刷における印刷開始位置を印刷媒体の基準位置に基づいて特定しておき、第2の印刷においても印刷開始位置を印刷媒体の基準位置に基づいて特定して印刷を行えば、第1の印刷と第2の印刷とで印刷位置にずれが発生することを防止することができ、高画質に印刷を行うことが可能になる。
【0014】
ここで、基準位置検出センサは、印刷媒体の基準位置を検出することによって印刷媒体の基準位置と印刷媒体上の任意の位置との関係を特定できればよく、この構成により、第1の印刷において印刷を開始した印刷開始位置を特定することができればよい。すなわち、印刷媒体の基準位置(媒体の端部や基準マークが記載された位置等)を基準位置検出センサによって検出した段階で印刷を開始するのであれば、基準位置検出センサによって印刷媒体の基準位置を検出した段階で印刷ヘッドによる印刷が行われる領域の端部が印刷開始位置となる。また、印刷媒体の基準位置を基準位置検出センサによって検出した後、印刷媒体を所定量搬送した段階で印刷を開始するのであれば、基準位置検出センサによって印刷媒体の基準位置を検出した後、印刷媒体を所定量搬送した段階で印刷ヘッドによる印刷が行われる領域の端部が印刷開始位置となる。従って、第1の印刷において印刷媒体の基準位置に基づいて印刷開始位置を特定しておけば、第2の印刷において印刷媒体の基準位置から同等の関係にある位置を印刷開始位置とすることで、第2の印刷において正確な印刷領域に再印刷することが可能になる。
【0015】
さらに、以上のようなプリンターは、印刷後、所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合に第1搬送機構をニップ解除状態とする方法の発明や、搬送制御のプログラムの発明としても成立し得る。また、以上のような装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、複合的な機能を有する装置において共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(1A)は本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンターの構成を模式的に示す図、(1B)はインクジェットプリンターが備える制御部および制御部によって制御されるハードウェアを示す図である。
【図2】印刷処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)インクジェットプリンターの構成:
(2)印刷処理:
(3)他の実施形態:
【0018】
(1)インクジェットプリンターの構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンターの構成を模式的に示す図、図1Bはインクジェットプリンターが備える制御部および制御部によって制御されるハードウェアを示す図である。本実施形態にかかるインクジェットプリンターは、インクを吐出する印刷ヘッド30を備え、プラテン50上に図1Aにて一点鎖線で示す印刷媒体Pを搬送して基準位置検出センサ40によって印刷媒体上の基準マーク(+マーク等)を検出して印刷開始位置を特定して印刷ヘッド30からインクを吐出することによって印刷を行う。
【0019】
なお、本実施形態において印刷ヘッド30は白および複数の有彩色のソルベントインクを吐出可能なヘッドであり、透明なフィルムからなる印刷媒体Pに白インクを印刷し、その後、白インクが印刷された領域を印刷領域として有彩色インクを印刷することによって透明なフィルムに所望の有彩色画像を印刷することが可能である。印刷は、後述するローラー20に蓄積された印刷媒体Pを下流側に搬送して、印刷ヘッド30とプラテン50との間に到達させ、さらに、印刷媒体Pを印刷ヘッド30よりも下流に搬送しながら行われる。
【0020】
ここで、フィルム状に印刷されたソルベントインクは一般に乾きにくいため、本実施形態におけるインクジェットプリンターは、印刷ヘッド30およびプラテン50の下流側にヒーター60を備えている。ヒーター60は曲面かつ板状の熱放射部を備えるヒーターであり、当該曲面は印刷媒体Pの搬送経路に沿って当該搬送経路と平行になるように設置されている。本実施形態においてヒーター60の曲面は、図1に破線の矢印で示すように印刷媒体Pの搬送経路に沿って所定の長さLになるように設計されている。すなわち、当該所定の長さLは、印刷ヘッド30によって印刷を行った印刷媒体Pを所定の搬送速度で搬送しながらヒーター60によって暖める状態で印刷を続けた場合、印刷済の部分が当該所定の長さLの範囲を通過することによってインクが乾燥するように設計されている。本実施形態においては、印刷ヘッド30によって印刷を実行しながら印刷媒体Pを所定の搬送速度で搬送した場合において、当該所定の搬送速度で所定の長さLの範囲を通過するまでに要する期間をインクの乾燥に要する所定期間とする。
【0021】
また、本実施形態においては、印刷ヘッド30にて印刷媒体Pに対して一旦白インクを印刷した後に、搬送経路内において印刷媒体Pを逆送させ、再度印刷媒体Pに対して有彩色インクを印刷する。このため、本実施形態における印刷媒体Pの搬送機構は、搬送経路に沿って印刷媒体Pを上流から下流に向けて搬送することが可能であるとともに、搬送経路に沿って印刷媒体Pを下流から上流に向けて逆向きに搬送することが可能である
【0022】
本実施形態における印刷媒体Pの搬送機構は、ローラー10a,10bによって印刷媒体Pを挟んで搬送する搬送機構と、ローラー20に巻き付けられてロール状に印刷媒体Pを蓄積するとともに当該ローラー20を回転させて印刷媒体Pを搬送する搬送機構とを含む。
【0023】
本実施形態において、ローラー20は、印刷媒体Pの蓄積部を兼ねており、当該ローラー20に蓄積された印刷媒体Pが送り出されることによって印刷媒体Pが搬送経路内を搬送されるため、ローラー20は、印刷媒体Pの搬送経路の最上流に位置する。また、ローラー20には、モーター21が接続され、当該モーター21が所定方向あるいは所定方向と逆方向に回転することによってロール状に蓄積された印刷媒体Pを送り出し、または、巻き取ることができる。以上のように。本実施形態においては、ローラー20とモーター21とが搬送経路の最上流にて印刷媒体Pを搬送する第2搬送機構に該当する。
【0024】
ローラー10a,10bは、印刷ヘッド30よりも搬送経路の上流側かつ第2搬送機構よりも搬送経路の下流側に位置し、ローラー10a,10bの回転軸が平行となるように設置される。本実施形態において、ローラー10aの位置は固定されるとともに、回転軸を中心として回転可能となるようにインクジェットプリンター内に支持されている。また、ローラー10aにはモーター11aが接続され、当該モーター11aが所定方向あるいは所定方向と逆方向に回転することによってローラー10aを所定方向あるいは所定方向と逆方向に回転させることができる。
【0025】
ローラー10bは、当該ローラー10bの回転軸がローラー10aの回転軸と平行に配向した状態で位置を変動させることができるようにインクジェットプリンター内に支持されている。すなわち、ローラー10bは、ローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触する位置(図1Aに実線で示すローラー10bの位置)と、ローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触しない位置(図1Aに破線で示すローラー10bの位置)との間で移動可能に構成されている。移動経路は図1Aに破線の矢印で示すように直線状であっても良いし、曲線状であってもよい。また、ローラー10bにはモーター11bが接続され、当該モーター11bが所定方向あるいは所定方向と逆方向に回転することによってローラー10bを、図1Aに実線で示す位置と、破線で示す位置とに移動させることができる。
【0026】
ここで、図1Aに実線で示すローラー10bの位置は、上述のようにローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触する位置であるとともに、モーター11bによってローラー10bからローラー10aに向けた力が作用する状態である。従って、この状態においてローラー10aとローラー10bとの間に印刷媒体Pを挟んでローラー10aを所定方向あるいは所定方向と逆方向に回転させることによって印刷媒体Pを搬送経路の上流から下流に向けて搬送し、あるいは、下流から上流に向けて逆向きに搬送することができる。ここでは、以上のようにローラー10aとローラー10bとの間に印刷媒体Pを挟んだ状態をニップ状態と呼ぶ。
【0027】
一方、図1Aに破線で示すローラー10bの位置は、上述のようにローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触しない位置であるため、ローラー10aとローラー10bの間に印刷媒体Pが存在する状態において、ローラー10aとローラー10bとで印刷媒体Pを挟んでいない(圧力を作用させていない)状態となる。ここでは、ローラー10aとローラー10bとで印刷媒体Pを挟んでいない状態をニップ解除状態と呼ぶ。以上のように,本実施形態においては、ローラー10a,10bおよびモーター11a,11bが、ニップ状態とニップ解除状態を実現可能であるとともにニップ状態にて印刷媒体Pを搬送する第1搬送機構に該当する。
【0028】
第1搬送機構のニップ状態においては、上述のようにモーター11bによってローラー10bからローラー10aに向けた力が作用するため、当該ニップ状態において印刷媒体Pに印刷されたインクが乾いていない場合、インクがローラー10bに転写され得る。一方、ローラー20は印刷媒体Pの搬送経路の最上流に位置するため、印刷媒体Pがローラー20まで搬送される間にインクの乾燥が促進され、ローラー20にて印刷済の印刷媒体Pを巻き取ってもインクが印刷媒体Pに転写されることはない。
【0029】
さらに、第1搬送機構のニップ状態においてはモーター11bによってローラー10bからローラー10aに向けた力が作用するが、第2搬送機構においてモーター21を駆動してローラー20によって印刷媒体Pを巻き取る状態において、ロール状に蓄積された印刷媒体Pに作用する力は主に印刷媒体Pの長さ方向(ロールの周方向)に向けた力となる。従って、第1搬送機構のニップ状態において印刷媒体Pの印刷面(印刷媒体Pが印刷ヘッド30とプラテン50との間に存在する状態においてプラテン50に平行な印刷ヘッド30側の面)に作用する圧力は、第2搬送機構によって印刷媒体Pを搬送する場合に印刷媒体Pの印刷面に作用する圧力よりも大きい。このため、ニップ状態において印刷媒体Pに印刷されたインクが乾いていない場合、インクがローラー10bに転写され易く、ローラー20においては、インクの転写が発生しにくい。
【0030】
本実施形態にかかるインクジェットプリンターは、上述のようにヒーター60を備えているため、印刷媒体Pに対して印刷を行った後、ヒーター60から印刷済の印刷媒体Pに対して熱が放射された状態で所定期間経過すれば印刷済の部分におけるインクは乾く。しかし、上述のように白インクを印刷した後に、搬送経路内において印刷媒体Pを逆送させ、再度印刷媒体Pに対して有彩色インクを印刷する構成において、当該白インクの乾燥を待つ構成とすると、印刷媒体Pの印刷領域に対して白インクが最後に印刷されたタイミングから所定期間が経過するまで待機した後に印刷媒体Pを逆送させる必要がある。従って、高速に印刷を行うことはできない。
【0031】
そこで、本実施形態においては、ニップ解除状態を利用し、白インクが最後に印刷されたタイミングから所定期間が経過する以前に印刷媒体Pを逆送しても白インクが転写されないように構成して高速に印刷を実行できるように構成した。本実施形態にかかるインクジェットプリンターは、図1Bに示すように制御部70を備え、制御部70と、印刷ヘッド30,基準位置検出センサ40,ヒーター60,モーター11a,11b,21が図示しないインタフェースによって接続されている。そして、制御部70が各部に制御信号を出力して各部を制御することによって印刷媒体Pを搬送しながら印刷ヘッド30にて印刷を行うことができる。この構成において、制御部70が図2に示すフローチャートに従って印刷処理を実行することによって、白インクが最後に印刷されたタイミングから所定期間が経過する以前に印刷媒体Pを逆送しても白インクが転写されないようにローラーおよび搬送タイミングを制御して印刷を行う。従って、本実施形態においては制御部70が搬送制御部を構成する。
【0032】
(2)印刷処理:
図2に示す印刷処理において、制御部70は、まず、第1搬送機構をニップ状態に設定する(ステップS100)。すなわち、制御部70は、モーター11bに制御信号を出力して当該モーター11bを駆動し、図1Aに実線で示すようなローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触する位置にローラー10bを移動させる。むろん、ここでは、ローラー10a,10bの間に印刷媒体Pが搬送された後にニップ状態になるように構成してもよい。
【0033】
次に、制御部70は、第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体Pを搬送する(ステップS105)。すなわち、制御部70は、モーター11a,21に制御信号を出力して当該モーター11a,21を所定方向に回転駆動し、ローラー20を所定方向に回転させることによって印刷媒体Pを送り出すとともにローラー10aを所定方向に回転させることによって、印刷媒体Pを上流から下流に向けて搬送する。
【0034】
次に、制御部70は、白インクを印刷する(第1の印刷:ステップS110)。すなわち、制御部70は、モーター11a,21および印刷ヘッド30に制御信号を出力し、印刷ヘッド30からのインク吐出に同期するタイミングで印刷媒体Pを搬送し、印刷対象の画像を示す印刷データに従って印刷ヘッド30から白インクを吐出させる。
【0035】
なお、当該白インクの印刷に際して制御部70は、印刷媒体P上の基準位置と印刷ヘッド30による印刷開始位置との関係を記録しておく。すなわち、制御部70は基準位置検出センサ40に対して制御信号を出力することによって基準位置検出センサ40を稼働させ、当該基準位置検出センサ40が出力する信号に基づいて印刷媒体P上の基準位置を検出する。そして、当該基準位置を検出した後、白インクによる印刷を開始するまでの間に第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体Pを搬送した搬送量を、印刷開始位置を示す情報とし、図示しないRAM等に記録する。
【0036】
次に、制御部70は、第1搬送機構をニップ解除状態に設定する(ステップS115)。すなわち、制御部70は、モーター11bに制御信号を出力して当該モーター11bを駆動し、図1Aに破線で示すようなローラー10aの外周とローラー10bの外周とが接触しない位置にローラー10bを移動させる。次に、制御部70は、第2搬送機構によって印刷媒体を逆方向に搬送する(ステップS120)。すなわち、制御部70は、モーター21に制御信号を出力し、モーター21を所定方向と逆方向に回転駆動し、ローラー20を所定方向と逆方向に回転させることによって印刷媒体Pを巻き取り、印刷媒体Pを下流から上流に向けて予め決められた量だけ搬送する。
【0037】
なお、本実施形態においては、ステップS110によって印刷媒体Pの印刷領域の最後に印刷される部分に白インクが印刷されるとステップS115,S120が実行される。従って、本実施形態においては、白インクが最後に印刷された部分がヒーター60の搬送方向に沿った方向の長さLに相当する長さだけ下流に搬送される以前に印刷媒体Pが逆方向に搬送されることになる。このため、白インクが印刷された後、所定期間が経過していない状態で印刷媒体Pを逆方向に搬送することになるが、本実施形態においては、ステップS115において予めニップ解除状態としているため、白インクの印刷媒体Pへの定着が完了していない状態であってもローラー10bに対して白インクを転写させることなく印刷媒体Pを搬送することが可能になる。
【0038】
ステップS120にて、予め決められた搬送量だけ印刷媒体Pを逆方向に搬送させると、制御部70は、第1搬送機構をニップ状態に設定し(ステップS125)、第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体Pを搬送する(ステップS130)。以上のように、本実施形態においては、ステップS120にて印刷媒体Pを下流から上流に向けて予め決められた量だけ搬送した後にステップS125にて再度ニップ状態とするが、本実施形態における印刷媒体Pおよび白インクの組み合わせにおいては、印刷媒体Pの印刷領域に対して白インクが最後に印刷された部分が下流から上流に向けて搬送され、再度ローラー10a,10b間に到達する前に乾燥する。従って、ステップS120を実行している間に実質的に所定期間が経過し、ステップS125の実行完了後にステップS130を実行してもローラー10bに対して白インクを転写させることなく印刷媒体Pを搬送することが可能である。
【0039】
ステップS130にて、印刷媒体Pの搬送を開始すると、制御部70は、印刷ヘッド30が印刷開始位置に到達したか否かを判定する(ステップS135)。すなわち、制御部70は、基準位置検出センサ40が出力する信号に基づいて印刷媒体P上の基準位置を検出した後、第1搬送機構および第2搬送機構によって印刷媒体Pを上述の搬送量だけ搬送した場合に印刷ヘッド30が印刷開始位置に到達したと判定する。
【0040】
ステップS135にて印刷ヘッド30が印刷開始位置に到達したと判定されない場合、制御部70は、ステップS135を繰り返す。一方、ステップS135にて印刷ヘッド30が印刷開始位置に到達したと判定された場合、制御部70は、有彩色インクを印刷する(第2の印刷:ステップS140)。すなわち、制御部70は、モーター11a,21および印刷ヘッド30に制御信号を出力し、印刷ヘッド30からのインク吐出に同期するタイミングで印刷媒体Pを搬送し、印刷対象の画像を示す印刷データに従って印刷ヘッド30から有彩色インクを吐出させる。このように、本実施形態においては白インクと有彩色インクとにおいて印刷開始位置を一致させるため、白インクによる印刷と有彩色インクによる印刷とで印刷位置にずれが発生することを防止することができ、高画質に印刷を行うことが可能になる。
【0041】
(3)他の実施形態:
上述の実施形態は本発明を実施するための一例であり、印刷後、所定期間が経過していない印刷媒体を搬送する場合に第1搬送機構をニップ解除状態とする限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、プリンターは少なくとも第1搬送機構および第2搬送機構を備えていれば良く、むろん、当該第1搬送機構および第2搬送機構以外の搬送機構を備えていても良い。
【0042】
さらに、ニップ解除状態からニップ状態へ移行するタイミングは、インクの転写が発生しないようなタイミングであれば良く、ステップS120における搬送が完了し、再度ローラー10a,10b間に到達する段階でインクが未乾燥の状態となり得るのであれば、待機期間を設けてインクが乾燥するまで(印刷後、所定期間が経過するまで)の期間が確保されるように構成としても良い。また、プリンターにおいて、ヒーター60を備えない構成としても良く、この場合、所定期間は印刷ヘッド30による印刷後、インクが乾燥して転写しない状態となるまでの期間に相当する。
【符号の説明】
【0043】
10a,10b…ローラー、11a,11b…モーター、20…ローラー、21…モーター、30…印刷ヘッド、40…基準位置検出センサ、50…プラテン、60…ヒーター、70…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路内の印刷媒体を複数のローラーによって挟むニップ状態と挟まないニップ解除状態とを実現可能であるとともに前記ニップ状態にて前記印刷媒体を搬送する第1搬送機構と、
前記搬送経路の最上流にて前記印刷媒体を搬送する第2搬送機構と、
印刷後、所定期間が経過していない前記印刷媒体を搬送する場合、前記第1搬送機構を前記ニップ解除状態とし、前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を搬送する搬送制御部と、
を備えるプリンター。
【請求項2】
前記第1搬送機構の前記ニップ状態においては、前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を搬送する場合よりも前記印刷媒体の印刷面に対して大きな圧力が作用する、
請求項1に記載のプリンター。
【請求項3】
前記第1搬送機構は印刷ヘッドよりも前記搬送経路の上流側かつ前記第2搬送機構よりも前記搬送経路の下流側に配置され、
前記搬送制御部は、
前記ニップ状態とされた前記第1搬送機構および前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を下流側に向けて搬送しながら前記印刷ヘッドから白色インクを吐出して前記印刷媒体に第1の印刷を行った後、
前記第1搬送機構を前記ニップ解除状態とし、前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を上流側に向けて搬送し、
再度前記ニップ状態とされた前記第1搬送機構および前記第2搬送機構によって前記印刷媒体を下流側に向けて搬送しながら前記印刷ヘッドから有彩色インクを吐出して前記印刷媒体に第2の印刷を行う、
請求項2に記載のプリンター。
【請求項4】
前記印刷媒体の基準位置を検出する基準位置検出センサを備え、
前記印刷ヘッドは、前記基準位置検出センサによって検出された前記基準位置と前記印刷媒体上の印刷開始位置との関係を、前記第1の印刷と前記第2の印刷とにおいて一致させて印刷を行う、
請求項3に記載のプリンター。
【請求項5】
前記印刷ヘッドよりも前記搬送経路の下流側において前記搬送経路に沿って配置されたヒーターを備え、
前記所定期間は、前記ヒーターによって前記印刷媒体に印刷されたインクが乾燥する以前の期間である、
請求項3または請求項4のいずれかに記載のプリンター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−157999(P2012−157999A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17633(P2011−17633)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】