説明

プレキャストコンクリート部材

【課題】表面を覆う板材とコンクリートとの間の相対変位を吸収し易いプレキャストコンクリート部材を提供する。
【解決手段】同一断面形状が所定方向に沿って連続するように形成されて、表面を覆う板材に取り付けられる取付部材30が埋設されて形成されるプレキャストコンクリート部材1の、取付部材30と、コンクリート20との間に、板材10とコンクリート20との相対変位を吸収するための変位吸収部材50を前記所定方向に沿わせて備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を覆う板材を備えたプレキャストコンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面を覆う板材を設けたプレキャストコンクリート部材としては、例えば、プレキャストコンクリート部材の表面を覆うアルミニウム製の外面板の裏面に取り付けられた取付部材が、コンクリート内に埋設されたプレキャストコンクリート部材が知られている。このようなプレキャストコンクリート部材は、コンクリートとアルミニウム板との熱膨張率の差により生じる相対変位を吸収するように構成されている。具体的には、アルミニウム板の裏面に複数のスタッドボルトを溶接し、複数の開口を設けた取付部材を、前記開口に挿通させ、前記スタッドボルトに各々ナットを螺合させることにより、取付部材をアルミニウム板に取り付けている。このとき、取付部材に設けた開口の内径は、スタッドボルトの外径より大きく形成され、取付部材とナットとの間にはワッシャが介在されている(例えば、特許文献1参照。)。このため、熱膨張率の差によりコンクリートとアルミニウム板との間に相対変位が生じる際には、スタッドボルトの外径と開口の内径との差分の範囲にて、相対変位を吸収することが可能である。
【特許文献1】特許第2745286号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のプレキャストコンクリート部材にあっては、取付部材に複数の開口が設けられており、その開口の各々にスタッドボルトが挿通されているので、複数のスタッドボルトの各々が必ずしも開口の中心に位置しているとは限らない。すなわち、コンクリートとアルミニウム板との間の相対変位を確実に吸収させるためには、スタッドボルトの外径に対し、開口の内径を十分に大きくする必要がある。ところが、ワッシャを介装してナットで取付部材を取り付けるため、開口の大きさはある程度制限される。このため、熱膨張率の差によるコンクリートとアルミニウム板との間の相対変位を吸収できない畏れがあるという課題があった。
【0004】
本発明の目的は、表面を覆う板材とコンクリートとの間の相対変位を吸収し易いプレキャストコンクリート部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のプレキャストコンクリート部材は、表面を覆う板材と、同一断面形状が所定方向に沿って連続するように形成され、前記所定方向が前記板材の板面に沿わされて、前記板材の一方の面に取り付けられる前記板材の取付部材と、を備え、前記取付部材が埋設されて形成されるプレキャストコンクリート部材において、前記取付部材と、コンクリートとの間に、前記板材と前記コンクリートとの相対変位を吸収するための変位吸収部材を、前記所定方向に沿わせて備えている。
【0006】
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、板材に取り付けられた取付部材の同一断面形状が連続する方向に沿って、変位吸収部材が設けられているので、板材とコンクリートとの間にて生じる相対変位を、変位吸収部材にて吸収し、プレキャストコンクリート部材自身及び板材の相対変位による変形を抑えることが可能である。すなわち、変位吸収部材が設けられている方向の相対変位に対しては、変位吸収部材が剪断方向に変形するか、または、変位吸収部材とコンクリートとの間が縁切りされることにより、取付部材及び板材とコンクリートとの相対変位が許容され、プレキャストコンクリート部材自身及び板材の変形を抑えることが可能である。特に、板材が外壁材等である場合には、温度変化が大きい環境にプレキャストコンクリート部材が取り付けられることになるが、板材とコンクリートとの熱膨張率が相違する場合であっても、外壁材に歪み等が生じにくいプレキャストコンクリート部材を実現することが可能である。
【0007】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記取付部材は、前記板材のほぼ全長に亘って設けられていることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、取付部材が板材のほぼ全長に亘って設けられているので、板材及びプレキャストコンクリート部材の補強部材としても取付部材を機能させることが可能である。このとき、取付部材の長さが長くなることにより、例えば板材の膨張量と、コンクリートの膨張量との差がより大きくなり相対変位量が大きくなったとしても、変位吸収部材により相対変位を吸収することが可能であるため、高強度で歪みの生じにくいプレキャストコンクリート部材を実現することが可能である。
【0008】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記所定方向における前記取付部材の一方の端部は前記コンクリートに当接され、他方の端部は他の変位吸収部材に当接されていることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、取付部材の一方の端部はコンクリートに当接されているため、取付部材及び板材は所定方向におけるコンクリート側に移動することはできない。このため、取付部材及び板材は他方の端部側に設けられた変位吸収部材を押圧する方向に移動することになる。すなわち、取付部材及び板材とコンクリートとを特定の方向に相対変位させることが可能である。このため、複数のプレキャストコンクリート部材を並べて配置するような場合であっても、隣接するプレキャストコンクリート部材同士の相対変位によりプレキャストコンクリート部材同士が干渉したり、各々の相対変位の障害となることを防止することが可能である。
【0009】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記取付部材は、前記板材との取付面をなし前記所定方向に沿わされた帯状の当接部と、前記当接部における前記所定方向と交差する交差方向の両縁部からそれぞれ、前記当接部と垂直な方向に立設された側壁部と、前記側壁部における前記当接部と反対側の縁部から互いに離れる方向に各々延設され、前記当接部と平行に設けられた2つの定着部と、を有しており、前記2つの定着部と対面する対面部が、一方の前記定着部から他方の定着部に架け渡されて、前記対面部における前記交差方向の両縁部が、前記定着部の反対側の面まで折り返されているカバー材が、前記定着部と前記カバー材との間に、前記交差方向において間隙を備えて、前記取付部材に取り付けられることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、取付部材の2つの定着部と、当接部と側壁部とにて形成される溝状の部位はカバー材にて覆われることになる。このため、取付部材がコンクリートにて固定される部分は小さくなるので取付部材とコンクリートとが縁切りされ易く、熱膨張等により取付部材とコンクリートとの間に生じた相対変位を吸収し易い構造とすることが可能である。特に、定着部とカバー材との間に、交差方向において間隙を備えたので、取付部材とコンクリートとの間に、交差方向において生じた相対変位を、間隙により吸収させることが可能であるため、交差方向における相対変位をより吸収し易い構造とすることが可能である。
【0010】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記取付部材は、複数設けられ、複数の前記取付部材は、前記所定方向に沿わされて互いに平行に配置されていることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、取付部材が複数設けられることにより、板材及びプレキャストコンクリート部材の補強部材としての機能を向上させることが可能である。さらに、複数の取付部材は所定方向に沿わされて互いに平行に配置されているので、取付部材及び板材とコンクリートとの相対変位がほぼ同じ方向に発生するため、プレキャストコンクリート部材における各部位の相対変位が互いに干渉し合うことを抑えることが可能である。
【0011】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材の表面は、金属であることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、コンクリートと金属との熱膨張率の相違に起因して、環境温度等の変化により金属製の板材とコンクリートとの間にて生じる相対変位を吸収させることが可能である。すなわち、板材表面が金属であるため、表面がなめらかで美観に優れたプレキャストコンクリート部材を形成し、かつ、環境温度等の変化による歪み等が生じにくいプレキャストコンクリート部材を実現することが可能である。
【0012】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材はアルミニウム板であることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、板材がアルミニウムなので、軽量なプレキャストコンクリート部材を形成することが可能である。
【0013】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材は、2枚のアルミニウム製薄板と、前記2枚のアルミニウム製薄板間に樹脂を介装した積層板であることとしてもよい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、内部を樹脂としたので、板材としてアルミニウムの無垢材を用いる場合と比較して、より軽量化を図ることができると共に、アルミニウムのなめらかな表面を有するプレキャストコンクリート部材を実現することが可能である。
【0014】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材と前記取付部材とは、リベットにて固定されていることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、板材と取付部材とをリベットにて固定するため、板材にはスタッドボルト等を溶接する必要がない。このため、板材の表面に溶接跡等が露出する畏れがなく、美観に優れたプレキャストコンクリート部材を実現することが可能である。
【0015】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材は、外装材であることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、板材を活かし美観の優れた外装材を容易に形成することが可能である。殊に、プレキャストコンクリート部材を外壁等の環境温度が大きく変化する場所に用いて、熱膨張率の差により板材とコンクリートとの相対変位が生じても、その相対変位を変位吸収部材により吸収させることが可能である。
【0016】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記変位吸収部材は、弾性部材であることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、板材とコンクリートとの相対変位は弾性部材の弾性により吸収させることが可能である。
【0017】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記弾性部材は、発泡ポリエチレンであることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、弾性部材は圧縮性が高い発泡ポリエチレンなので、板材とコンクリートとの相対変位を十分に吸収させることが可能である。さらに、プレキャストコンクリート部材の軽量化を図ることが可能である。
【0018】
かかるプレキャストコンクリート部材において、前記板材における前記コンクリート側の面には、コーティングが施されていることが望ましい。
このようなプレキャストコンクリート部材によれば、コーティングにより板材のコンクリートと接する側の面を、コンクリートと縁切りされ易く、かつ、縁切りされた後に板材とコンクリートとが滑りやすくなるため、板材とコンクリートとの相対変位を吸収させる機能をより向上させることが可能である。また、板材の外部に露出する側の面を、容易に美観に優れた外装材とすることが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプレキャストコンクリート部材によれば、コンクリートと板材との間の相対変位を吸収する性能を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態としてのプレキャストコンクリート部材について図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、プレキャストコンクリート部材の一実施形態を示す正面図、図2は、図1の側面図である。
【0022】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材1は、図示するように、一方の表面を覆う板材としての外装材10と、打設したコンクリートにて形成されるコンクリート基材20と、前記外装材10に固定されコンクリート基材20内に埋設される取付部材30と、内部への水等の液体の浸入を防止するための各種シール材と、熱膨張率の差等によりコンクリート基材20と外装材10との間に生じる相対変位を吸収するための変位吸収部材と、を有し、内部には縦筋、横筋、巾止め筋等(不図示)が配設されている。ここで外装材10とは、外壁材、天井部材、内壁材(柱、梁を含む)、床材等、外部に露出する表面材を示している。
【0023】
本実施形態の外装材10は、2枚のアルミニウム製薄板11間に防火性心材12が介装された積層外装材である。2枚のアルミニウム製薄板11において、各々外部に露出する側の面11a(図6)には、コーティングが施されている。一方のアルミニウム製薄板11におけるコーティングは、外壁材としての色や模様を実現する塗装であり、他方のアルミニウム製薄板11におけるコーティングは、アルミニウムの酸化を防止するための酸化防止皮膜である。また、防火性心材12には、例えば、不燃性無機フィラーが混入されている。この外装材10としては、例えば、アルポリック(三菱化学産資株式会社製、登録商標)が挙げられ、その板厚は4mm程度である。
【0024】
図3は、取付部材を説明するための斜視図である。図示するように、前記取付部材30は、溝状のアルミニウム製の押出し成形部品であり、同一断面形状が長手方向に沿って連続するように形成されている。この取付部材30は、外装材10の長手方向の長さとほぼ同じ長さを有して、ほぼ全長に亘って設けられている。
【0025】
取付部材30の溝部(第1溝部)31は、外装材10との取付面をなし所定方向としての外装材10の長手方向に沿わされた帯状の当接部としての底部32と、底部32における長手方向と交差する交差方向としての短手方向(以下、幅方向ともいう)の両縁部からそれぞれ、底部32と垂直な方向に互いに対面するように立設された側壁部33と、側壁部33における底部32と反対側の縁部から互いに離れる方向に各々延設され、底部32と平行に設けられた2つの定着部34とを有している。また、底部32には、幅方向の中央に前記長手方向に沿って、底部32を構成する部位が第1溝部31の内側に突設されて下側に開放された第2溝部35が設けられている。第2溝部35には、第2溝部35の底部35aに、長手方向に沿って適宜間隔を隔てて複数の穴部35bが設けられている。この穴部35bには、外装材10に取付部材30を固定するためのリベット36(図4)が挿通される。
【0026】
図4は、図1のA−A断面図、図5は、図4におけるE部の拡大図、図6は、図1のB−B断面図、図7は図1のC−C断面図、図8は図4のD−D断面図である。
【0027】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材1には、3本の取付部材30が、その長手方向を外装材10の板面及び長手方向に沿わされるとともに、外装材10の短手方向に並べて平行に配置され、リベット36により固定されている。そして、第2溝部35と外装材10とで画成される空間内には、取付部材30がリベット36にて固定された後に防水材41が注入されている。
【0028】
3本の取付部材30のうち、外装材10の幅方向における中央に位置する取付部材30aを除き、両端側に配置された2本の取付部材30bには、図8に示すように2つの側壁部33の外側面に、その長手方向に沿わされて各側壁面の全域を覆うように、例えば発泡ポリエチレンにて形成された変位吸収部材としての弾性材シート50が設けられている。また、第1溝部31には、第1溝部31内に打設したコンクリートが入り込むことを防止するバッカー材42が全長に亘って嵌め込まれている。さらに、2本の取付部材30bには、2つの定着部34の一方において外装材10と対向する面34aから反外装材側の面34bを通って他方の定着部34において外装材10と対向する面34aに至るまでの間を取り巻いて、取付部材30を全長に亘ってカバーする樹脂製のカバー材37が各々設けられている。すなわち、このカバー材37は、取付部材30の2つの定着部34と対面する対面部37aが、一方の定着部34から他方の定着部34に架け渡されて、対面部37aにおける幅方向の両縁部37bが、定着部34の反対側の面まで折り返されている。このカバー材37は、2つの定着部34に案内されて、長手方向にスライド可能であり、コンクリート基材20の滑り抵抗を軽減させて、コンクリート基材20と取付部材30との間に生じる相対変位を吸収し易くしている。また、カバー材37は、図5に示すように、取付部材30に取り付けられた状態で、定着部34とカバー材37との間に、幅方向において間隙39を備えており、この間隙39により、コンクリート基材20と取付部材30との間に生じる幅方向の相対変位をより吸収することも可能である。
【0029】
また、取付部材30の長手方向における一方の端部30c側には、図7に示すように、取付部材30にカバー材37を組み付けた状態において、その断面が占める領域より大きく形成されたブチルゴム製のシール材(以下、ブチルシールという)43が、取付部材30及びカバー材37に当接されている。このブチルシール43は、打設したコンクリートが、第1溝部31、第2溝部35及び取付部材30とカバー材37との間隙に入り込むことを防止している。さらに、このブチルシール43の外側には、ブチルシール43より大きな領域を覆い直方体状に形成されたシール44が、コンクリート基材20に形成された凹部21に嵌め込まれている。
【0030】
プレキャストコンクリート部材1の周縁における、外装材10とコンクリート基材20との境界部には、所定の空間に押し込まれて、当該空間を形成する互いに対向する内壁を押圧するように成形されたゴム製の成形シール45が全周に亘って嵌め込まれている。
【0031】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材1は、以下のようにして成形される。まず、外装材10とほぼ同じ大きさに形成された型枠を、平坦な基台上に配置する。配置された型枠内に、取付部材30がリベット36にて固定された外装材10を取付部材30が上方に向くように配置する。このとき、取付部材30と外装材10との間に接着剤を塗布させて、取付部材30と外装材10との間の防水性を向上させても良い。さらに、上述したように、第2溝部35内には防水材41が注入され、第1溝部にはバッカー材が嵌め込まれ、各側壁面には弾性材シート50が設けられ、カバー材37が定着部34に沿って挿通されている。すなわち、シール44及び成形シール45以外は既に配置されており、シール44及び成形シール45が取り付けられる位置には、空間を形成するためのスペーサが配置されている。この状態にて、各種縦筋、横筋、幅止め筋等が配筋された後、型枠内にコンクリートが打設される。
【0032】
本プレキャストコンクリート部材1は、例えば、外壁材として建物の外周部分に固定される。このため、外気温度等の変化に伴って、プレキャストコンクリート部材1の温度も変化する。このとき、コンクリート基材20とアルミニウム製の外装材10との間では、熱膨張率の違いからコンクリート基材20と外装材10との間にて剪断力が生じる。この剪断力によりコンクリート基材20と外装材10との間の接合が離れ、コンクリート基材20と外装材10とが相対移動可能となる。このとき、取付部材30の長手方向には、一方の端部30c側にのみブチルシール43が設けられており、反対側の端部30dはコンクリート基材20に当接している。このため、取付部材30の長手方向におけるコンクリート基材20と外装材10との相対変位は、ブチルシール43により吸収されることになる。すなわち、コンクリート基材20と外装材10とは、ブチルシール43が設けられていない側の端部30dを基準として相対移動することになる。
【0033】
また、3本の取付部材30のうち、2本の取付部材30bには、各々2つの側壁部33の外側面全領域に弾性材シート50が設けられ、第1溝部31内にはバッカー材42が設けられ、また、定着部34を覆うようにカバー材37が設けられている。残る1本の取付部材30aには弾性材シート50、カバー材37のいずれも設けられておらず、取付部材30aはコンクリート基材20により固定される。このため、2本の取付部材30bにおいては、幅方向におけるコンクリート基材20と外装材10との相対変位、または、熱膨張率の差等による幅方向の変位を吸収することにより生じた側壁部33の曲げ変形が、側壁部33に設けられた弾性材シート50の弾性変形により吸収されることになる。一方、幅方向の中央に設けられた1本の取付部材30aとコンクリート基材20との間にて幅方向におけるコンクリート基材20と外装材10との相対変位は生じにくいので、コンクリート基材20と外装材10とは、幅方向において、弾性材シート50等が設けられていない1本の取付部材30aを基準として中央から両端部方向に向かって相対変位することになる。
【0034】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材1によれば、外装材10に取り付けられた取付部材30の同一断面形状が連続する方向に沿って、弾性材シート50が設けられているので、外装材10とコンクリート基材20との間にて生じる相対変位を、弾性材シート50にて吸収し、プレキャストコンクリート部材1自身及び外装材10の変形を抑えることが可能である。すなわち弾性材シート50が設けられている方向の相対変位に対しては、弾性体シート50が剪断方向に変形するか、または、弾性材シート50とコンクリート基材20との間が縁切りされることにより、取付部材30及び外装材10とコンクリート基材20との相対変位が許容される。これにより、プレキャストコンクリート部材1自身及び外装材10の変形を抑えることが可能である。特に、プレキャストコンクリート部材1が外壁材等である場合には、温度変化の激しい環境にプレキャストコンクリート部材1が取り付けられることになるが、外装材10とコンクリート基材20との熱膨張率が相違する場合であっても、外壁材に歪み等が生じにくいプレキャストコンクリート部材1を実現することが可能である。さらに、取付部材30は同一断面形状が所定方向、すなわち取付部材30の長手方向に沿って連続しているので、弾性材シート50とコンクリート基材20との間が縁切りされた際には、弾性材シート50とコンクリート基材20を、相対変位が生じやすい状態とすることが可能である。また、外装材10におけるコンクリート基材20側の面には、コーティングが施されているので、コーティングにより外装材10とコンクリート基材20とが縁切りされ易く、かつ、縁切りされた後に外装材10とコンクリート基材20とが滑りやすくなるため、外装材10とコンクリート基材20との相対変位を吸収させる機能をより向上させることが可能である。ここで、取付部材30の断面形状は、本実施形態の上記断面形状に限るものではなく、例えば、コ字状、H字状、または、底部における幅方向の一方の縁部のみに側壁部を設け、側壁部の他方の縁部から底部とは反対側に底部と平行な定着部を有する、所謂クランク状等の同一断面形状が連続する形態であれば良い。
【0035】
また、取付部材30が外装材10のほぼ全長に亘って設けられているので、外装材10及びプレキャストコンクリート部材1の補強部材としても取付部材30を機能させることが可能である。このとき、取付部材30の長さが長くなることにより、例えば外装材10の膨張量と、コンクリート基材20の膨張量との差がより大きくなり相対変位量が大きくなったとしても、弾性材シート50により相対変位を吸収することが可能である。さらに、このような取付部材30が複数設けられることにより、外装材10及びプレキャストコンクリート部材1の補強部材としての機能を向上させることが可能である。そのうえ複数の取付部材30は長手方向に沿わされて互いに平行に配置されているので、取付部材30及び外装材10とコンクリート基材20との相対変位がほぼ同じ方向に発生するため、プレキャストコンクリート部材1における各部位の相対変位が互いに干渉し合うことを抑えることが可能である。
【0036】
また、取付部材30の一方の端部30dはコンクリートに当接されているため、取付部材30及び外装材10はコンクリート側に移動することはできない。このため、取付部材30及び外装材10は他方の端部30c側に設けられた他の変位吸収部材としてのブチルシール43を押圧する方向に移動することになる。すなわち、取付部材30及び外装材10とコンクリート基材20とを特定の方向に相対変位させることが可能である。このため、複数のプレキャストコンクリート部材1を並べて壁面等を形成するような場合であっても、隣接するプレキャストコンクリート部材1同士の相対変位により、プレキャストコンクリート部材1同士が干渉したり、互いの相対変位の障害となることを防止することが可能である。
【0037】
本実施形態の外装材10は、2枚のアルミニウム製薄板11と、前記2枚のアルミニウム製薄板11間に樹脂製の防火性心材12を介装した積層板としたので、外装材10としてアルミニウムの無垢材を用いる場合と比較して、軽量化を図ることができると共に、表面はアルミニウムのなめらかな美観を有するプレキャストコンクリート部材1を実現することが可能である。さらに、外装材10が積層板なので、プレキャストコンクリート部材1の内側に配置されるアルミニウム製薄板11と取付部材30とをリベット36にて固定することが可能であり、表面側のアルミニウム製薄板11を傷つけることなく外装材10をコンクリート基材20に取り付けることが可能である。このため、美観に優れたプレキャストコンクリート部材1を実現することが可能である。
【0038】
本実施形態では外装材10を、2枚のアルミニウム製薄板11間に防火性心材12を介装した積層板としたが、アルミニウムの無垢材としても良い。しかしながら、アルミニウムの無垢材を用いる場合には、重量が大きくなると共に、スタッドボルト等を溶接することが必要となる。このため、軽量化が図れないばかりでなく、外装材10の表面に溶接跡等が露出する畏れがあるので、上記実施形態のように積層材を用いた方がより美観に優れて軽量なプレキャストコンクリート部材1を実現することが可能であるという点で優れている。また、表面がなめらかで美観に優れたプレキャストコンクリート部材1を形成するためには、外装材としてアルミニウム以外の金属板を用いても良いが、プレキャストコンクリート部材1の軽量化を図ることができるという点で上記実施形態のプレキャストコンクリート部材1が優れている。また、本実施形態では外装材10においてプレキャストコンクリート部材1の外部に露出する側の面を、コーティングしたので、さらに美観に優れた外装材とすることが可能である。
【0039】
本実施形態においては、弾性部材としての弾性材シート50を発泡ポリエチレン製としたが、これに限るものではなく、各種ゴムなどでもよい。しかしながら、発泡ポリエチレンは圧縮率が高く、一般的なゴムより軽量であるため、外装材10とコンクリート基材20との相対変位を十分に吸収させることが可能であり、プレキャストコンクリート部材1の軽量化を図ることが可能であるという点で優れている。また、本実施形態においては、弾性部材を弾性材シート50としたが、弾性部材は必ずしもシート状でなくても良い。すなわち、弾性部材のサイズ及び厚さは、吸収すべき外装材10とコンクリート基材20との相対変位の大きさに応じて設定される。
【0040】
本実施形態においては、弾性材シート50を、2本の取付部材30が有する2つの側壁部33の外側面に、各側壁面の全域を覆うように設け、さらにカバー材37を備えた例について説明したが、カバー材37は必ずしも設ける必要はない。この場合には、一方の側壁面側から他方の側壁面までの全領域を覆うように弾性材シート50を設けても良い。
【0041】
本実施形態においては、取付部材30を外装材10における長手方向のほぼ全長に亘って設ける例について説明したが、必ずしもほぼ全長に亘って設ける必要はなく、外装材の長さに応じて、長手方向の半分、1/3等適宜な長さに変更しても良い。また、取付部材は、外装材10の幅方向に沿って配置してもよく、さらに取付部材30は、プレキャストコンクリート部材1を施工現場等にて建物の外周部分等に取り付けた際に、鉛直方向及び水平方向のいずれの方向に沿うように配置されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】プレキャストコンクリート部材の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】取付部材を説明するための斜視図である。
【図4】図1のA−A断面図である。
【図5】図4におけるE部の拡大図である。
【図6】図1のB−B断面図である。
【図7】図1のC−C断面図である。
【図8】図4のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 プレキャストコンクリート部材
10 外装材(板材)
20 コンクリート基材(コンクリート)
30 取付部材
50 弾性材シート(変位吸収部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を覆う板材と、
同一断面形状が所定方向に沿って連続するように形成され、前記所定方向が前記板材の板面に沿わされて、前記板材の一方の面に取り付けられる前記板材の取付部材と、を備え、
前記取付部材が埋設されて形成されるプレキャストコンクリート部材において、
前記取付部材と、コンクリートとの間に、前記板材と前記コンクリートとの相対変位を吸収するための変位吸収部材を、前記所定方向に沿わせて備えたことを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項2】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記取付部材は、前記板材のほぼ全長に亘って設けられていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記所定方向における前記取付部材の一方の端部は前記コンクリートに当接され、他方の端部は他の変位吸収部材に当接されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記取付部材は、前記板材との取付面をなし前記所定方向に沿わされた帯状の当接部と、
前記当接部における前記所定方向と交差する交差方向の両縁部からそれぞれ、前記当接部と垂直な方向に立設された側壁部と、
前記側壁部における前記当接部と反対側の縁部から互いに離れる方向に各々延設され、前記当接部と平行に設けられた2つの定着部と、を有しており、
前記2つの定着部と対面する対面部が、一方の前記定着部から他方の定着部に架け渡されて、前記対面部における前記交差方向の両縁部が、前記定着部の反対側の面まで折り返されているカバー材が、
前記定着部と前記カバー材との間に、前記交差方向において間隙を備えて、前記取付部材に取り付けられることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記取付部材は、複数設けられ、複数の前記取付部材は前記所定方向に沿わされて互いに平行に配置されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材の表面は、金属であることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材はアルミニウム板であることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材は、2枚のアルミニウム製薄板と、前記2枚のアルミニウム製薄板間に樹脂を介装した積層板であることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項9】
請求項8に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材と前記取付部材とは、リベットにて固定されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材は、外装材であることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記変位吸収部材は、弾性部材であることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項12】
請求項11に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記弾性部材は、発泡ポリエチレンであることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記板材における前記コンクリート側の面には、コーティングが施されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−125079(P2006−125079A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315656(P2004−315656)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】