説明

プレキャスト合成部材の製作方法

【課題】コンクリート部に対する要求品質が高い合成部材でも、その高品質性を確保できること。
【解決手段】現場サイトにおいて、予め工場生産された鋼製パネル20に、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10を取り付け、前記鋼製パネル20と前記プレキャストコンクリート部材10との間に流動性固化剤を流し込むことにより、前記鋼製パネル20と前記プレキャストコンクリート部材10とを一体化してなるプレキャスト合成部材30を製作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤や岸壁の本体に使用されるケーソンの製作などに適用され、予め工場生産された鋼製パネルと予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材とを現場サイトにおいて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材(鋼コンクリート構造体)を製作するプレキャスト合成部材の製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製パネルとコンクリート部材からなる合成部材は、一般に、予め工場生産された鋼製パネルに、現場サイトにて、コンクリートを打設して製作されている。この場合、現場サイトでの打設の際のコンクリートの乾燥収縮や、日射の影響による鋼製パネルの熱膨張によってコンクリートにひび割れが発生することが問題点として挙げられている(例えば、特許第3372445号)。
【0003】
そこで、適用対象により厳しい品質が要求される場合には、コンクリート部材そのものを工場生産し、十分な養生(強度が発現するまで型枠を外さず、十分に湿度を与えた状態)を施すことで、高品質のコンクリート部材を製作している。工場生産されるコンクリート部材には、部材のすべてを完成させたいわゆるプレキャストコンクリート部材と、工場で途中まで製作し、現場にて残りの製作を行って完成させるハーフプレキャスト部材などがある。
【0004】
したがって、鋼製パネルとコンクリート部材からなる合成部材の品質を確保するには、現場サイトにおいて、工場生産された鋼製パネルと工場生産されたプレキャストコンクリート部材とを一体化させることが有用である。しかし、この両者を一体化させるには、接着剤を用いるなどの手段を選ぶことになるが、そのようなことは知られていない。接着剤は、鋼製パネルとプレキャストコンクリート部材間に発生するせん断力に対しては十分な強度を有するが、剥離力に対する強度が期待できないためである。
【0005】
このため、従来、予め工場生産された鋼製パネルと予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材とを現場サイトにおいて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材を製作する方法については、見当たらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3372445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、鋼製パネルとコンクリート部材とからなる合成部材の新規な製作方法であって、予め工場生産された鋼製パネルと予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材とを現場サイトにおいて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材を製作するプレキャスト合成部材の製作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
請求項1の発明は、現場サイトにおいて、予め工場生産された鋼製パネルに、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材を取り付け、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材との間に流動性固化剤を流し込むことにより、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材とを一体化してなるプレキャスト合成部材を製作することを特徴とするプレキャスト合成部材の製作方法である。
【0010】
請求項2の発明は、現場サイトにおいて、予め工場生産され、複数の配列された鉄筋が該各鉄筋の一部分を部材表面と平行をなして直線状に延びるように該部材表面から突出させて平板状のコンクリートで埋設されたプレキャストコンクリート部材を、予め工場生産され、平板状のベース鋼板上に前記各鉄筋の前記突出部分を係止するための係止部を有する複数の縦リブが固着された鋼製パネルに、前記係止部に前記鉄筋の前記突出部分を入れることで取り付け、次いで、前記ベース鋼板と前記コンクリートの前記鉄筋突出部分側の面との間に流動性固化剤を流し込むことにより、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材とを一体化してなるプレキャスト合成部材を製作することを特徴とするプレキャスト合成部材の製作方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるプレキャスト合成部材の製作方法は、予め工場生産された鋼製パネルと予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材とを現場サイトにおいて流動性固化剤を用いて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材を製作するようにしている。したがって、コンクリート部に対する要求品質が高い合成部材でも、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材を用いるようにしているので、その高品質性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1,第2実施形態による製作方法で用いる工場生産されたプレキャストコンクリート部材を示す平面図である。
【図2】図1のプレキャストコンクリート部材のA矢視正面図である。
【図3】図1のプレキャストコンクリート部材のB矢視側面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による製作方法を説明するための説明図であって、その(a)は正面説明図、その(b)はC矢視側面説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態による製作方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は本発明の第1,第2実施形態による製作方法で用いる工場生産されたプレキャストコンクリート部材を示す平面図、図2は図1のプレキャストコンクリート部材のA矢視正面図、図3は図1のプレキャストコンクリート部材のB矢視側面図、図4は本発明の第1実施形態による製作方法を説明するための説明図であって、その(a)は正面説明図、その(b)はC矢視側面説明図である。
【0015】
図1〜図3に示すように、この実施形態による製作方法で用いる工場生産されたプレキャストコンクリート部材10は、複数の、図例では8本の配列された構造鉄筋としての矩形枠体状の異形鉄筋11を、該各異形鉄筋11の約半分の部分が部材表面と平行をなして直線状に延びるように該部材表面から突出した状態で平板状のコンクリート11で埋設してなるものである。
【0016】
また、図4に示すように、この実施形態による製作方法で用いる工場生産された鋼製パネル20は、平板状のベース鋼板(底鋼板)21上に、複数の、図例では4枚の長尺板状をなす鋼製の縦リブ22を、個々の異形鉄筋11に対して2枚の縦リブ22が直交するように所定の間隔をあけて並べて固着したものである。
【0017】
前記各縦リブ22には、プレキャストコンクリート部材10の各異形鉄筋11の前記突出部分を係止するための係止部22aがL字状切欠きとして設けられている。また、ベース鋼板21には、プレキャスト合成部材となれさた際のプレキャストコンクリート部材10と鋼製パネル20とのずれ止めのための多数のスタッド23が固着されている。
【0018】
次に、図4を参照して、この実施形態による製作方法を説明する。まず、図4の上段部分に示すように、現場サイトにおいて、予め工場生産された前記鋼製パネル20を平置きし、この平置きされた鋼製パネル20の上方から、予め工場生産された前記プレキャストコンクリート部材10を下降させ、鋼製パネル20の前記係止部22aを形成する前記L字状切欠きの入口側切欠き部に、プレキャストコンクリート部材10の各異形鉄筋11の前記突出部分を入れる。
【0019】
引き続き、図4の中段部分に示すように、プレキャストコンクリート部材10を水平移動させ、鋼製パネル20の前記L字状切欠きの奥側切欠き部の奥部分にまで、さらにプレキャストコンクリート部材10の異形鉄筋突出部分を入れることにより、鋼製パネル20にプレキャストコンクリート部材10を取り付ける。
【0020】
次に、鋼製パネル20の周りに適宜の型枠を配置し、図4の下段部分に示すように、ベース鋼板21とコンクリート12の鉄筋突出部分側の面との間に流動性固化剤、例えばセメントミルクを流し込むことにより、鋼製パネル20とプレキャストコンクリート部材10とを一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材30を得る。なお、前記流動性固化剤としては、セメントミルクの他に、流動性に優れた高流動コンクリート及び中流動コンクリートが挙げられる。
【0021】
このように、本実施形態によるプレキャスト合成部材の製作方法は、予め工場生産された鋼製パネル20と予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10とを現場サイトにおいて流動性固化剤を用いて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材30を製作するようにしている。
【0022】
したがって、コンクリートに発生するひび割れの有無やその度合い、コンクリートの表面性状(コンクリート表面に気泡の痕などが残るとその後のコンクリートの耐久性にも悪影響がある)などに関するコンクリート部に対する要求品質が高い合成部材でも、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10を用いるようにしているので、その高品質性を確保することができる。
【0023】
図5は本発明の第2実施形態による製作方法を説明するための説明図である。ここで、前記の図1〜図4に示すものと同一部分には同一の符号を付している。前記の図1〜図4に示すものとの相違点は、平置きで使用される前記プレキャスト合成部材30とは違って、防波堤や岸壁の本体に使用されるケーソンなどにおいて起立姿勢で使用されるプレキャスト合成部材30’を製作する点にある。
【0024】
図5の左側部分に示すように、現場サイトにおいて、予め工場生産され、起立姿勢(立位姿勢)で支持されている鋼製パネル20に対して、鋼製パネル20の縦リブ22側から、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10を接近させ、鋼製パネル20の係止部22aを形成するL字状切欠きの入口側切欠き部に、プレキャストコンクリート部材10の各異形鉄筋11の突出部分を入れる。
【0025】
引き続き、プレキャストコンクリート部材10を下方へ移動させ、鋼製パネル20のL字状切欠きの奥側切欠き部の奥部分にまで、さらにプレキャストコンクリート部材10の異形鉄筋突出部分を入れることにより、鋼製パネル20にプレキャストコンクリート部材10を取り付ける。
【0026】
次に、図5の右側部分に示すように、ベース鋼板21とコンクリート12の鉄筋突出部分側の面との間に流動性固化剤、例えばセメントミルクを流し込むことにより、鋼製パネル20とプレキャストコンクリート部材10とを一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材30’を得る。
【0027】
このように、この第2実施形態によるプレキャスト合成部材の製作方法は、予め工場生産された鋼製パネル20と予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10とを現場サイトにおいて流動性固化剤を用いて一体化し、該一体化してなるプレキャスト合成部材30’を製作するようにしている。したがって、コンクリート部に対する要求品質が高い合成部材でも、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10を用いるようにしているので、その高品質性を確保することができる。
【0028】
そして、この第2実施形態による製作方法では、起立姿勢で使用されるプレキャスト合成部材30’を製作するものであるから、セメントミルクなどの流動性固化剤を上方より容易に流し込むことができるとともに、現場サイトでの型枠も不要、もしくは少なくて済み、現場サイトにおいて鋼製パネル20とプレキャストコンクリート部材10とを一体化するのに要する施工時間を短縮することができるので、合成部材の製作コストの低減に寄与することができる。
【0029】
なお、この第2実施形態及び前記第1実施形態では、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材10として、前記図1に示すように、下向きにコンクリートを打設したものを使用している。この場合、プレキャストコンクリート部材10の最下部は骨材(砂、石)が沈降しやすいために緻密なコンクリートとなる。よって、プレキャスト合成部材30,30’は、プレキャストコンクリート部材10のコンクリート打設時の前記最下部の側が部材表面となるようにしているので、プレキャスト合成部材30,30’で構成される構造物の長寿命化に役に立つものとなっている。
【符号の説明】
【0030】
10…プレキャストコンクリート部材
11…異形鉄筋
12…コンクリート
20…鋼製パネル
21…ベース鋼板
22…縦リブ
22a…係止部(L字状切欠き)
23…スタッド
30,30’…プレキャスト合成部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場サイトにおいて、予め工場生産された鋼製パネルに、予め工場生産されたプレキャストコンクリート部材を取り付け、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材との間に流動性固化剤を流し込むことにより、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材とを一体化してなるプレキャスト合成部材を製作することを特徴とするプレキャスト合成部材の製作方法。
【請求項2】
現場サイトにおいて、予め工場生産され、複数の配列された鉄筋が該各鉄筋の一部分を部材表面と平行をなして直線状に延びるように該部材表面から突出させて平板状のコンクリートで埋設されたプレキャストコンクリート部材を、予め工場生産され、平板状のベース鋼板上に前記各鉄筋の前記突出部分を係止するための係止部を有する複数の縦リブが固着された鋼製パネルに、前記係止部に前記鉄筋の前記突出部分を入れることで取り付け、次いで、前記ベース鋼板と前記コンクリートの前記鉄筋突出部分側の面との間に流動性固化剤を流し込むことにより、前記鋼製パネルと前記プレキャストコンクリート部材とを一体化してなるプレキャスト合成部材を製作することを特徴とするプレキャスト合成部材の製作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−163813(P2010−163813A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7903(P2009−7903)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】