説明

プレコート金属材料用水系表面処理剤、表面処理金属材料及びプレコート金属材料

【課題】耐食性(×カット及び端面耐食性)、一次塗装密着性(常温)、一次塗装密着性(冷間)、二次塗装密着性、耐コインスクラッチ性、深絞り性、耐アルカリ性、耐酸性及び耐湿性に優れた皮膜を形成することができ、貯蔵安定性も良好であるノンクロム系水系表面処理剤の提供。
【解決手段】プレコート金属材料における下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、第1級アミノ基を有するシランカップリング剤(A)、特定の構造を有し、ガラス転移温度が0〜100℃であるカチオン性ウレタン樹脂(B)及び特定のノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)を特定の相互比率で含有する該水系表面処理剤、及びプレコート金属材料。該処理剤はさらに、ヘキサフルオロ金属酸(D)、金属化合物(E)及び/又は第1級アミノ基と反応し得る官能基を有するシランカップリング剤を含有し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装密着性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れ、加えて冷間折り曲げ密着性及び深絞り性が良好なプレコート金属材料を作製するための下地処理剤として有用であって、且つ、貯蔵安定性も良好なノンクロム系水系表面処理剤、並びに該処理剤を用いて形成された皮膜を有する金属材料及びクロムフリー系プレコート金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などの部品に、加工後塗装されていた従来のポスト塗装製品はリン酸塩などの前処理が多く施されているが、近年特に家電用に関しては、このような前処理に代わって、着色した有機皮膜を被覆したプレコート鋼板が使用されるようになってきている。このプレコート鋼板は、下地処理を施した鋼板上に有機皮膜を被覆したもので、美観を有しながら、良好な加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のクロメート処理液を塗布し、水洗することなく乾燥することで端面耐食性を改善したプレコート鋼板が開示されている。このようなクロムを含有する下地処理を施したプレコート鋼板は、クロメート処理、有機皮膜の複合効果によって耐食性と共に、加工性、塗装密着性を有し、更に加工後塗装を省略して生産性向上や品質安定化を図るため、現在では汎用的に使用されている。しかしながら、クロメート処理及びクロム系防錆顔料を含む有機皮膜から溶出する可能性のある6価のクロムの毒性問題から、最近ではクロムフリー塗装下地、クロムフリー有機皮膜に代替する要望が高まっている。
【0004】
プレコート鋼板の加工は、曲げ加工、絞り加工などが挙げられる。塗膜が鋼板に追従できない場合、亀裂、剥離といった塗膜の破壊問題が発生する。そこで、このような加工に耐えられるように下地処理に求められる第一の特性は塗装密着性であり、下層である素地金属及び上層であるプライマー等との2つの界面ともに良好に密着することが求められる。この塗装密着性は沸騰水に所定時間浸漬後に評価する場合もあり、これを特に塗装二次密着性と呼び、沸騰水に浸漬する前の塗装密着性である塗装一次密着性と区別する。これら一次、二次の密着性とも、後加工により複雑な形状物に加工されることを前提とするプレコート鋼板には必須の極めて重要な特性である。折り曲げ試験は極めて厳しい試験として、プレコート鋼板の密着性評価に用いられる。更に厳しい試験として冷間時の折り曲げ試験が挙げられる。これは、寒冷地で行なわれる加工に対して求められる特性であり、常温より皮膜が硬くなり、加工密着性が悪化する。従って、常温での折り曲げ試験より厳しい試験として用いられる。
折り曲げ密着性より更に厳しい加工に深絞り加工が挙げられる。深絞り加工は、曲げ加工と異なり、塗膜の剥離に加えシワが発生し問題となる。
これらの加工によって外観を損なうだけでなく、耐食性が低下する場合もある。
【0005】
プレコート鋼板の下地処理に求められる第二の特性として、耐コインスクラッチ性が挙げられる。これは密着性のみでなく、下地処理の皮膜硬度などにも影響される特性である。
【0006】
次にプレコート鋼板の下地処理に求められる第三の特性として、耐食性が挙げられる。プレコート鋼板の場合、通常、鋼板の上に順に、下地処理、プライマー塗布処理、そしてトップコート塗布処理を行う。従来のクロメート処理を施したプレコート鋼板の場合、下地処理層のみで無く、プライマー層にもクロメートを含有する。特に通常0.5μmを超えて使用されることの無い下地処理に比べ、3〜10μmと厚く使用されるプライマー層は多くのクロム成分を防錆顔料として含有し、プレコート鋼板に対する耐食性付与の主たる役割を担っている。ところが、クロムを含有しないプレコート鋼板におけるプライマーは、クロム系防錆顔料を含むプライマーに到底及ばない耐食性しか付与できないのが実状である。そのため、クロムフリーのプレコート鋼板において、下地処理部分は耐食性付与の役割を従来のクロメートシステム以上に担うことが望まれている。
【0007】
クロメート処理に代わる非クロム系防錆処理方法として特許文献2には、タンニン酸とシランカップリング剤を含有する水溶液で亜鉛及び亜鉛合金を表面処理することで、耐白錆性及び塗装密着性を向上させる技術が開示されているが、この方法ではプレコート鋼板に要求される耐コインスクラッチ性、耐食性を十分には確保することはできない。
特許文献3には、亜鉛めっき鋼板等の表面に適用するためのシランカップリング剤、水分散性シリカ、ジルコニム化合物及び/またはチタン化合物を必須成分として含み、更にチオカルボニル基含有化合物及び/または水溶性アクリル樹脂を含んでも良い金属表面処理剤が開示されているが、この表面処理剤ではプレコート鋼板に要求される塗装密着性及び耐食性を満足できない。
【0008】
また、特許文献4には、シランカップリング剤、水分散性シリカ及び水性樹脂からなる金属表面処理剤が開示されているが、この表面処理剤でもプレコート鋼板に要求される塗装密着性及び耐食性は十分なものとは言えない。
特許文献5には、亜鉛めっき鋼板の表面にシリカ微粒子とポリアクリル酸などの結合剤を含む化成皮膜を形成することが記載されている。しかしこの方法を用いて達成される塗装密着性、耐食性は、クロメート処理した場合に達成されるそれらには及ばないのである。
特許文献6には、アニオン性ポリウレタン、シランカップリング剤、水溶性ジルコニウム化合物、架橋剤を含有する表面処理剤が記載されている。しかし、この表面処理剤は一時防錆性付与目的で用いられるものであり、下地皮膜に転用してもプレコート鋼板に要求されるレベルの塗装密着性、耐薬品性を達成できない。
【0009】
特許文献7には、特定の金属イオン、フルオロ酸、シランカップリング剤、カチオン性ウレタン樹脂を含有する表面処理剤が記載されている。しかし、この表面処理剤をもってしてもより厳しい塗装密着性が要求される現在において十分とは言えない。
特許文献8には、水性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィンワックス、カルボジイミドを含む架橋剤、シランカップリング剤を有する表面処理剤が記載されている。しかし、実施例に記載されたカルボジイミドを含む架橋剤を用いた場合、架橋が進行しすぎて皮膜が硬くなり、むしろ塗装密着性が悪化する。
特許文献9には、水分散性ウレタン樹脂、有機化合物及びジルコニウム化合物を含有する表面処理剤が記載されており、有機化合物は種々のものを含み、シランカップリング剤及びカルボジイミド樹脂も包含される。しかしながら、プレコート鋼板用に開発されたものではないため、プレコート鋼板に要求される性能としては十分とは言えない。
【0010】
プレコート鋼板には深絞り加工のような厳しい後加工に耐え得る塗装密着性が要求される。一時防錆性付与用の処理液によって達成される密着性は、エリクセン押し出しレベルの加工密着性であり、折り曲げ試験を合格するレベルの加工密着性は達成されない。同様のことが、耐指紋性表面処理液や潤滑用表面処理液をプレコート鋼板の下地処理に転用した場合にも当てはまり、折り曲げ試験を合格するレベルの加工密着性は達成されない。このように、プレコート鋼板に要求される十分な塗装密着性と、十分な耐食性をあわせ持つ表面処理剤は現在のところ実用化されておらず、早急な開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−100180号公報
【特許文献2】特開昭59−116381号公報
【特許文献3】特開2001−316845号公報
【特許文献4】特開2001−164195号公報
【特許文献5】特開2002−80979号公報
【特許文献6】特開2004−204333号公報
【特許文献7】特開2005−120469号公報
【特許文献8】特開2004−338397号公報
【特許文献9】特開2007−51323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、環境に対応したノンクロム水系表面処理剤でありながら、プレコート金属材料に対する塗装下地として使用した場合に、得られるプレコート金属材料が塗膜の塗装密着性(塗膜の加工密着性)、耐薬品性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れるのみならず、冷間折り曲げ密着性、深絞り性及び貯蔵安定性も良好な水系表面処理剤、該処理剤からの皮膜を表面に有する金属材料、及び該皮膜上にさらに上層皮膜を形成させた加工密着性、耐薬品性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れる、クロムフリー系プレコート金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、塗装鋼板用下地処理剤として、特定のシランカップリング剤(A)、特定のカチオン性ウレタン樹脂(B)及び特定のポリカルボジイミド化合物(C)を特定の相互割合で含有する水系表面処理剤が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
かかる本発明は、プレコート金属材料における下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、
(1)第1級アミノ基を有するシランカップリング剤(A)、
(2)式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、R及びRは同一であるかもしくは異なって炭素数2〜10のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、XはNH又はOを表し、Yは酸アニオンを表す)で表される構造を分子内に有し、ガラス転移温度が0〜100℃であるカチオン性ウレタン樹脂(B)及び
(3)芳香環を有するジイソシアナート化合物の脱炭酸反応又は芳香環を有するジイソシアナート化合物と脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナート化合物との脱炭酸反応によって得られ、5〜15個のカルボジイミド結合を有する重合体の両末端イソシアナト基をポリオール系化合物もしくはポリアミンで封止し、ポリアミンで封止した場合には、さらに酸又はアルキル化剤を作用させて得られるノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)
を含有し、成分(A)と成分(B)との固形分質量比(A)/(B)が5/1〜1/3であって、成分(B)と成分(C)との固形分質量比(C)/(B)が5/1〜1/5であって、pHが3〜12である該水系表面処理剤に関する。
【0017】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の皮膜物性としての、抗張力が10〜30N/mm又は40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%又は300〜500%である場合には、より良好な加工密着性が達成される。
また、ノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)のカルボジイミド当量が200〜400である場合には、加工性を最適化することができる。
また、
【0018】
本発明の水系表面処理剤はヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸及びヘキサフルオロケイ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘキサフルオロ金属酸(D)を成分(D)と成分(B)との固形分質量比(D)/(B)が1/200〜1/2となるように含有していてもよく、それにより耐食性及び金属材料に対する密着性を向上させることができる。
本発明の水系表面処理剤はバナジウム化合物、チタン化合物(ただし、ヘキサフルオロチタン酸を除く)、タングステン化合物、モリブデン化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、セリウム化合物、ニオブ化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ハフニウム化合物、ホロニウム化合物及びイットリウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(E)を成分(E)の金属(Em)と成分(B)の固形分との質量比(Em)/(B)が1/200〜1/2となるように含有していてもよく、それによりクロスカット部及び端面部における耐食性を向上させることができる。
【0019】
本発明の水系表面処理剤は第1級アミノ基と反応し得る官能基を有するシランカップリング剤をシランカップリング剤(A)の第1級アミノ基:それと反応し得る官能基との当量比が10:1〜3:1となるように含有していてもよく、それにより耐食性を向上させることができる。
【0020】
本発明は、また、水系表面処理剤からの乾燥皮膜であって、10〜1,000mg/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料、及び該金属材料の乾燥皮膜を有する表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させて得られた加工密着性、耐薬品性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れる、クロムフリー系プレコート金属材料に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプレコート金属材料用水系表面処理剤は良好な貯蔵安定性を有し、また該水系表面処理剤からの皮膜を下地皮膜として有する本発明のプレコート金属材料は、複合皮膜がクロムを含まないにもかかわらず、耐食性(×カット部耐食性及び端面耐食性)、折り曲げ密着性(1次折り曲げ密着性及び2次折り曲げ密着性)、耐薬品性(耐アルカリ、耐酸性)、耐コインスクラッチ性及び耐湿性に優れるのみならず、更に冷間折り曲げ密着性及び深絞り性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明のプレコート金属材料用水系表面処理剤は特定のシランカップリング剤(A)、特定のカチオン性ウレタン樹脂(B)及び特定のポリカルボジイミド化合物(C)を必須成分として含有する水系表面処理剤である。
【0023】
シランカップリング剤は、加水分解することにより生成するシラノール基の−OHの活性が高く、母材である素地金属Mと酸素原子を介し、−Si−O−Mの強固な化学結合をする。この化学結合は、特に下地金属との良好な密着性に寄与する。また、上層に含まれる有機官能基との反応により、上層との密着性向上にも寄与する場合もある。シランカップリング剤に極性の強いO、Nなどを構成要素とした官能基が導入されている場合、上層との密着性はさらに向上する。
【0024】
本発明で使用するシランカップリング剤(A)は第1級アミノ基を有するシランカップリング剤である。第1級アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2 −アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2 −アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2 −アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2 −アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
シランカップリング剤(A)に加え、第1級アミノ基と反応し得る官能基を有するシランカップリング剤を用いることによって、耐食性を向上させることができる。かかるシランカップリング剤として、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン等のグリシジル基もしくは隣り合った炭素原子に結合したエポキシ基を有するシランカップリング剤、ウレイドプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。第1級アミノ基とそれと反応し得る官能基との使用割合は、過不足無く反応する割合である必要はなく、第1級アミノ基:それと反応し得る官能基との当量比として、10:1〜3:1の範囲であるのが好ましく、8:1〜4:1の範囲であるのがより好ましく、7:1〜5:1の範囲であるのがより一層好ましい。
【0026】
第1級アミノ基を有するシランカップリング剤(A)は、カルボジイミド結合を含むポリカルボジイミド化合物(C)と反応し得る。第1級アミノ基の窒素上の非共有電子対がカルボジイミド結合の中心炭素へ求核付加して窒素−炭素結合を形成する。その結果、イミドを形成しカルボジイミド中の窒素原子が負電荷を帯びるため更に反応が進行し架橋が起こる。この架橋反応は、酸の存在により加速する。但し、酸が多すぎると架橋反応を阻害する。
架橋反応が進行することによって、形成される皮膜がより緻密化し、バリア性が向上する。その結果、耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)や耐食性、耐湿性などに効果を発揮する。また、上層塗膜と反応し架橋が進行することにより上層塗膜との密着性が向上する結果、折り曲げ試験(常温、冷間)や深絞り試験において皮膜ハガレが生じ難くなる。
【0027】
本発明で使用するカチオン性ウレタン樹脂(B)は式(I)
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、R及びRは同一であるかもしくは異なって炭素数2〜10のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、XはNH又はOを表し、Yは酸アニオンを表す)で表される構造を分子内に有し、ガラス転移温度が0〜100℃であるカチオン性ウレタン樹脂である。
及びRにおける炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられるが、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、メチル基もしくはエチル基であることがより好ましい。R及びRにおける炭素数2〜10のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2−エチル−ヘキサン−1,6−ジイル基、デカメチレン基等が挙げられるが、炭素数2〜6のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜4のアルキレン基であることがより好ましい。Yとしては無機酸アニオンでも有機酸アニオンでもよく、また、特に制限されず、例えばHSO、ハロゲンイオン(Cl、F等)、HPO、HPO、CHSO、HCO、CHCOなどが挙げられる。
【0030】
カチオン性ウレタン樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は0〜100℃であることが必要であり、0℃〜80℃であることが好ましく、20〜70℃であることがより好ましい。Tgが100℃を越えると、カチオン性ウレタン樹脂(B)が剛直すぎるか、カチオン性ウレタン樹脂(B)の凝集力が高くなるため、折り曲げ密着性及び深絞り性が悪化する。Tgが0℃未満の場合、カチオン性ウレタン樹脂(B)が柔らかくなりすぎ、深絞り成型時に塗膜のカジリが発生しやすくなる。
【0031】
カチオン性ウレタン樹脂(B)は、下地皮膜に強靭性及び柔軟性を付与し、かつ塗装密着性の向上に寄与する結果、折り曲げ密着性及び耐コインスクラッチ性、更に冷間折り曲げ密着性、かつ深絞り性向上に効果的に作用する。
【0032】
抗張力は、曲げ加工や絞り加工に対して局部への応力を緩和する。伸度も同様に応力を緩和する。これらの機械的物性は、ウレタン樹脂の構造に起因するものである。特に抗張力は、ウレタン樹脂中のウレタン結合密度及びウレア結合密度や用いているイソシアナート種に影響を受け、ウレタン結合密度及びウレア結合密度が高いほど抗張力も高くなる。これらウレタン結合及びウレア結合は、極性基であるため素材及び上層との密着性に影響を与える。従って、ウレタン結合及びウレア結合が樹脂中に多いほど密着性が強くなる。これら抗張力や伸度に影響を与える因子は、Tgである。Tgが低い場合、伸度が増大し、Tgが高い場合、抗張力が増大する。
【0033】
カチオン性ウレタン樹脂(B)は、その皮膜物性として、抗張力が10〜30N/mm又は40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%又は300〜500%であることが好ましく、抗張力が10〜30N/mmで、かつ、伸度が300〜500%であるか、抗張力が40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%であることがより好ましい。また、上記それぞれの場合において、抗張力は10〜20N/mm又は45〜75N/mmであることがより好ましく、50〜70N/mmであることがより一層好ましい。また、伸度は3〜40%又は400〜500%であることがより好ましく、5〜30%又は450〜500%であることがより一層好ましい。これら抗張力及び伸度を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)のTgは20〜70℃であることが好ましい。
抗張力が10〜30N/mmで、かつ、伸度が300〜500%である場合、抗張力が低くても十分な伸度があるため、強加工において高い追従性が発揮され、良好な加工密着性が達成される。また、抗張力が40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%で
ある場合、非常に高い抗張力が発揮されるために、本発明の表面処理剤から形成される皮
膜は強加工において発生する応力に耐えることができ、良好な加工密着性を発揮する。
【0034】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の重量平均分子量は、1,000〜1,000,000であるのが好ましく、2,000〜500,000であるのがより好ましい。該分子量が1,000未満では皮膜形成性が不十分で、一方1,000,000を超えると処理剤の安定性が低下する傾向となる。
【0035】
かかるカチオン性ウレタン樹脂(B)はポリオール、ジイソシアナート並びに式(II)
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、R、R、R及びXは式(I)におけると同義である)で表される第三級アミンを、最終的に得られるカチオン性ウレタン樹脂(B)のガラス転移温度、必要に応じその皮膜物性としての抗張力及び伸度やその重量平均分子量が所定範囲内に入るように、個々の原料及び使用割合を選択して、不活性有機溶媒中で、重縮合反応に付すことによって得られる重合体を、酸又はアルキル化剤と反応させて上記第三級アミンに由来する第三級アミン部分を形成する窒素原子の少なくとも一部に水素原子又はアルキル基を結合させてカチオン化させることにより得ることができる。
【0038】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の製造に使用するポリオールはウレタン樹脂の製造に通常用いられるものでよく、狭義のポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを包含する。
【0039】
上記において、狭義のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族又は脂環式ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の3価以上の脂肪族又は脂環式ポリオールなどが挙げられる。
【0040】
上記において、ポリエーテルポリオールとしては、例えばトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等のトリ(アルキレングリコール)以上のポリ(アルキレングリコール);上記したような狭義のポリオールやトリ(アルキレングリコール)以上のポリ(アルキレングリコール)のエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物;トリグリセリン以上のポリグリセリンなどが挙げられる。
【0041】
上記において、ポリエステルポリオールとしては、上記したような狭義のポリオール又は上記したようなポリエーテルポリオールと多価カルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性誘導体との直接エステル化反応又はエステル交換反応により得られるポリエステルポリオール;上記したような狭義のポリオール又は上記したようなポリエーテルポリオールとラクトン又はそれを加水分解開環して得られるヒドロキシカルボン酸化合物との縮合反応により得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;トリメリット酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の3量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸などが挙げられる。多価カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、酸無水物;酸クロライド、酸ブロマイド等の酸ハライド;メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級脂肪族エステルなどが挙げられる。上記ラクトンとしては、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0042】
上記において、ポリカーボネートポリオールとしては、例えば13−プロパンジオール、14−ブタンジオール、16−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはポリテトラメチレングリコール等のグリコールと、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネートもしくはジフェニルカーボネート等のカーボネートと、ホスゲンとの反応によって得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。
【0043】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の製造に使用するジイソシアナートは脂肪族ジイソシアナート、脂環式ジイソシアナート及び芳香族ジイソシアナートを包含するが、脂肪族又は脂環式ジイソシアナート化合物が、それを用いた場合に耐薬品性、防食性等だけではなく、耐候性に優れた被膜が得られるので好ましい。ジイソシアナートの具体例としては、特に限定するものではないが、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、リジンジイソシアナートエステル、水添キシリレンジイソシアナート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート等が挙げられ、中でも、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、リジンジイソシアナートエステル、水添キシリレンジイソシアナート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等が好ましい。
【0044】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の製造に使用する、式(II)で表される第三級アミンの具体例としては、N−メチルビス(ヒドロキシエチル)アミン、N−エチルビス(ヒドロキシエチル)アミン、N−メチルビス(ヒドロキシプロピル)アミン、N−エチルビス(ヒドロキシプロピル)アミン、N−メチルビス(ヒドロキシブチル)アミン、N−エチルビス(ヒドロキシブチル)アミン、N−メチルビス(アミノエチル)アミン、N−エチルビス(アミノエチル)アミン、N−メチルビス(アミノプロピル)アミン、N−エチルビス(アミノプロピル)アミン、N−メチルビス(アミノブチル)アミン、N−エチルビス(アミノブチル)アミン等が挙げられる。
【0045】
ポリオール、ジイソシアナート及び式(II)で表される第三級アミンの重縮合反応は、ウレタン樹脂を製造する際に通常採用される重縮合反応と同様に行えばよく、該重縮合反応は、通常、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテルなどの不活性有機溶媒中で行う。
【0046】
第三級アミン部分を形成する窒素原子の少なくとも一部に水素原子又はアルキル基を結合させてカチオン化する反応は、通常、上記で得られる重縮合反応液に、酸又はアルキル化剤を添加して行うことができる。酸は無機酸でも有機酸でもよく、また、特に制限されず、例えば硫酸、ハロゲン化水素酸(塩化水素ガス、塩酸、フッ化水素酸等)、亜リン酸、リン酸、アルキル硫酸(メチル硫酸、エチル硫酸等)、ギ酸、酢酸などが挙げられる。アルキル化剤としては、特に制限されず、例えばジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸、又は塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル等のハロゲン化アルキルなどが挙げられる。カチオン性ウレタン樹脂(B)の水溶性もしくは水分散性の観点から、イオン化はアルキル化剤を用いて行う方が好ましい。
通常、カチオン化後、水を加え、ついで不活性有機溶媒を蒸留などにより除去して水溶液形態又は水系エマルジョン形態のカチオン性ウレタン樹脂(B)とする。
【0047】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の水への溶解又は分散は、自己溶解性又は自己分散性に基づいて達成されていてもよく、またカチオン性界面活性剤(例えばテトラアルキルアンモニウム等)及び/又はノニオン性界面活性剤(例えばアルキルフェニルエーテル等)の存在によって達成されていてもよい。しかしながら、界面活性剤の使用はカチオン性ウレタン樹脂(B)の金属材料への密着性や耐水性へ悪影響を及ぼす恐れがあるため、界面活性剤を使用しないか、使用するとしても使用量を抑えることが好ましい。
【0048】
カチオン性ウレタン樹脂(B)は、シランカップリング剤(A)との固形分質量比(A)/(B)が5/1〜1/3となるように配合することにより、上層との優れた密着性を得ることができる。固形分質量比(A)/(B)は3/1〜1/2であることが好ましく、2/1〜1/1であることがより好ましい。固形分質量比(A)/(B)が1/3未満では皮膜硬度が低下するため十分な耐コインスクラッチ性が得られにくくなり、5/1を超えると素地金属との密着性がかえって低下し、折り曲げ密着性が悪化する。
【0049】
本発明で使用するノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)(以下、単にポリカルボジイミド化合物(C)と言う場合がある)は、芳香環を有するジイソシアナート化合物の脱炭酸反応又は芳香環を有するジイソシアナート化合物と脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナート化合物との脱炭酸反応によって得られ、5〜15個のカルボジイミド結合を有する重合体の両末端イソシアナト基をポリオール系化合物もしくはポリアミンで封止して得られるノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物である。ポリアミンで封止した場合には、さらに酸又はアルキル化剤を作用させて式(IV)又は(V)に由来する第二もしくは三級アミン部分を形成する窒素原子の少なくとも一部に水素原子もしくはアルキル基を結合させてカチオン化することによりカチオン性にする。
ポリオール系化合物としては式(III)
【0050】
【化4】

【0051】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは2〜30の整数を表す)で表されるポリ(アルキレングリコール)もしくはそのモノアルキルエーテルを挙げることができ、ポリアミンとしては、式(IV)
【0052】
【化5】

【0053】
(式中、R〜R10は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R11は炭素数2〜4のアル
カントリイル基を表す)で表されるポリアミン、又は式(V)
【0054】
【化6】

【0055】
(式中、R12は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R13は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R14は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、mは2〜30の整数を表す)で表されるポリ(アルキレンジアミン)N−アルキル誘導体を挙げることができる。
【0056】
脱炭酸によって得られるポリカルボジイミド化合物1分子中のカルボジイミド結合の数は5〜15であることが必要であり、7〜13であることが好ましい。カルボジイミド結合数を上記範囲に保つ場合には、塗装密着性及び深絞り性など素材あるいは上層塗料との密着性が向上するだけでなく、ポリカルボジイミド化合物の構造が柔軟になるため、加工密着性が向上する。カルボジイミド結合数が5を下回るとポリカルボジイミド化合物自体の反応性が上昇し、硬く脆い皮膜になりやすく、15を超えると、反応性が低下しすぎて架橋不十分となるだけでなく、水分散性も低下する。
上記カルボジイミド結合数は以下のようにして決定することができる。カルボジイミド結合数は封止前のポリカルボジイミド化合物、すなわち、両末端イソシアナト基のポリカルボジイミド化合物の状態において決定する。ポリカルボジイミド化合物の製造に使用する2種 (1種の場合もある) のジイソシアナート化合物について、ジイソシアナート化合物1(OCN−R−NCO)のモル分率をp、ジイソシアナート化合物2(OCN−R−NCO)のモル分率をqとし、封止前のポリカルボジイミド化合物[OCN−(R−N=C=N−)−R−NCO(式中、RはR又はRを表し、nは5〜15の整数を表す)中の−R−N=C=N−を1ユニットとすると、カルボジイミド結合数[すなわち、カルボジイミド基(−N=C=N−)の数]及び1ユニットの分子量は以下の数式で表される。なお、以下の数式において、ジイソシアナート化合物1及びジイソシアナート化合物2をそれぞれ単に化合物1及び化合物2として表す。また、下数式において、ポリカルボジイミドは封止前のポリカルボジイミド化合物を表し、44はCOの分子量である。
カルボジイミド結合数=

ポリカルボジイミドの分子量−(化合物1の分子量×p+化合物2の分子量×q)
1ユニットの分子量

1ユニットの分子量=化合物1の分子量×p+化合物2の分子量×q−44
【0057】
カチオン性もしくはノニオン性ポリカルボジイミド化合物(C)は、下地皮膜を緻密化して造膜性の向上に寄与するので、耐薬品性及び耐食性が向上する。また、カルボジイミド基(−N=C=N−)は、上層の塗布工程及び焼付け工程において、上層中の官能基と強固な結合を形成できる。従って、塗装密着性の向上に効果的に作用する。但し、架橋点が多すぎる場合、結合密度が増えるためバリアー性の高い皮膜を形成できる反面、加工性が悪くなる。ポリカルボジイミド化合物1分子中に平均してどれだけの間隔に1個のカルボジイミド基が存在するかを表す用語としてカルボジイミド当量があり、ポリカルボジイミド化合物(C)のカルボジイミド当量は、200〜400であることが好ましい。カルボジイミド当量は、カルボジイミド結合数が増えれば小さくなり、封止剤(前記ポリオール系化合物もしくはポリアミン)の分子量が大きくなると大きくなる。カルボジイミド基の反応性は、官能基周辺の電子密度によって異なる。カルボジイミド基に電子供与的に作用し得る原子団が結合していれば、反応性は下がるが、電子吸引的に作用し得る原子団が結合していれば、反応性は上がる。
カルボジイミド当量は、下記数式によって求めることができる。下記数式において、(C)はポリカルボジイミド化合物(C)の意である。
カルボジイミド当量=(C)の分子量/(C)1分子中に含まれるカルボジイミド基数
上記観点から、加工性はカルボジイミド当量を上記範囲内で設定することによって最適化を図り、塗装密着性は、ポリカルボジイミド化合物(C)を構成するジイソシアナート単位を塗装密着性の向上により効果的に作用する、芳香環を有するジイソシアナート単位とすることによって最適化を図ることが一般に好ましいが、それでも加工性が低下する恐れがある場合には適宜脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナート単位を配して塗装密着性と加工性とのバランスを取ることが好ましい。脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナートに比し、芳香環を有するジイソシアナートは、また、一般に、耐薬品性及び耐食性の向上にもより有効に作用する。
【0058】
ポリカルボジイミド化合物(C)の製造に使用する芳香環を有するジイソシアナートとしては、例えば3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアナート(TMXDI)等が挙げられる。
ポリカルボジイミド化合物(C)の製造に使用する脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナートとしては、例えばテトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、リジンジイソシアナートエステル、水添キシリレンジイソシアナート、1,4−シクロヘキシルジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート(H12MDI)、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート(IPDI)等が挙げられる。
【0059】
ジイソシアナートの脱炭酸によるポリカルボジイミド化合物の合成の方法は特に制限されず、ポリカルボジイミド化合物の合成に通常用いられる方法を用いることができ、例えば、ジイソシアナートを、不活性有機溶媒中、カルボジイミド化触媒の存在下、一定の温度をかけて脱炭酸による方法が挙げられる。カルボジイミド化触媒として1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド又は3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、又はこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシドを使用することができる。また、不活性有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、ベンゼン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0060】
ついで、得られるポリカルボジイミド化合物の溶液に、ポリオール系化合物もしくはポリアミン、好ましくは上記式(III)で表されるポリ(アルキレングリコール)もしくはそのモノアルキルエーテル、上記式(IV)で表されるポリアミン、又は上記式(V)で表されるポリ(アルキレンジアミン)N−アルキル誘導体を添加し反応させて両末端のイソシアナト基を封止する。式(III)〜(V)において、R、R〜R10、R12及びR13の定義における炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられるが、メチル基及びエチル基が好ましい。R及びR14としてはエチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基等が挙げられるが、エチレン基及びプロピレン基が好ましい。R11としてはエタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基等が挙げられる。
式(III)で表されるポリ(アルキレングリコール)もしくはそのモノアルキルエーテルの具体例としては、nが2〜30のポリ(エチレングリコール)及びそのモノメチルもしくはモノエチルエーテル、nが2〜30のポリ(プロピレングリコール)及びそのモノメチルもしくはモノエチルエーテル等が挙げられる。式(IV)で表されるポリアミンの具体例としては3,3−ビス(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3,3−ビス(ジエチルアミノ)プロピルアミン等が挙げられる。式(V)で表されるポリ(アルキレンジアミン)N−アルキル誘導体の具体例としてはmが2〜30のポリ(エチレンジアミン)の末端アミノ基の一方がモノメチル化もしくはジメチル化又はモノエチル化もしくはジエチル化されたもの等が挙げられる。
【0061】
両末端イソシアナト基の封止を式(IV)又は式(V)のポリアミンを用いて行った場合には、ポリカルボジイミド化合物を含有する反応溶液に、ついで、酸又はアルキル化剤を添加して、式(IV)又は式(V)に由来する第二もしくは三級アミン部分を形成する窒素原子の少なくとも一部に水素原子もしくはアルキル基を結合させてカチオン化する。酸は無機酸でも有機酸でもよく、また、特に制限されず、例えば硫酸、ハロゲン化水素酸(塩化水素ガス、塩酸、フッ化水素酸等)、亜リン酸、リン酸、アルキル硫酸(メチル硫酸、エチル硫酸等)、ギ酸、酢酸などが挙げられる。アルキル化剤としては、特に制限されず、例えばジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸、又は塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル等のハロゲン化アルキルなどが挙げられる。
通常、カチオン化後、水を加え、ついで不活性有機溶媒を蒸留などにより除去して水溶液形態又は水系エマルジョン形態のポリカルボジイミド化合物(C)とする。
【0062】
ポリカルボジイミド化合物(C)は、通常、水溶液形態又は水分散形態で使用する。水分散形態はエマルジョン形態でもコロイダルディスパージョン形態でもよい。水への溶解又は分散は、自己溶解性又は自己分散性のいずれに基づいて達成されていてもよく、またカチオン性界面活性剤(例えばテトラアルキルアンモニウム塩等)及び/又はノニオン性界面活性剤(例えばポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等)の存在により達成されていてもよい。しかしながら、界面活性剤の使用はカチオン性ウレタン樹脂(B)やポリカルボジイミド化合物(C)の金属材料への密着性や耐水性へ悪影響を及ぼす恐れがあるため、界面活性剤を使用しないか、使用するとしても使用量を抑えることが好ましい。
【0063】
ポリカルボジイミド化合物(C)は、カチオン性ウレタン樹脂(B)との固形分質量比(C)/(B)が5/1〜1/5となるように配合することにより、上層との優れた密着性を得ることができる。固形分質量比(C)/(B)は1/1〜1/2であることが好ましく、1/1〜2/3であることがより好ましい。固形分質量比(C)/(B)が1/5未満では皮膜硬度が低下するため十分な耐コインスクラッチ性が得られにくくなり、5/1を超えると皮膜硬度が過度に上昇し塗装密着性がかえって悪化する。
【0064】
本発明の水系表面処理剤には、任意成分として、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸及びヘキサフルオロケイ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘキサフルオロ金属酸(D)を配合することができる。ヘキサフルオロ金属酸(D)は液中に遊離フッ素イオン又は錯フッ素イオンを放出し、基材に対するエッチング剤としての役割を果たすものである。その結果、金属材料に対する密着性及び耐食性を付与又は向上させる。ヘキサフルオロ金属酸(D)は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明の水系表面処理剤には、ヘキサフルオロ金属酸(D)の他に、他の遊離フッ素イオン又は錯フッ素イオンを放出する化合物を、本発明の塗装密着性やその他の効果を損わない程度において配合してもよい。かかる化合物として、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0066】
ヘキサフルオロ金属酸(D)は、シランカップリング剤(A)との固形分質量比(D)/(A)が1/200〜1/2となるように配合することがその効果を発揮させるために必要である。固形分質量比(D)/(A)は1/100〜1/4であることが好ましく、1/50〜1/10であることがより好ましい。フッ素含有無機化合物(D)の配合量が1/200より少ないと耐食性が不十分となり、1/2より多いと塗装密着性又は液安定性が低下する傾向となる。
【0067】
本発明の水系表面処理剤には、任意成分としてさらに、バナジウム化合物、チタン化合物(ただし、ヘキサフルオロチタン酸を除く)、タングステン化合物、モリブデン化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、セリウム化合物、ニオブ化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ハフニウム化合物、ホロニウム化合物及びイットリウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(E)を配合することができる。金属化合物(E)はインヒビター(腐食抑制物質)として作用し、クロスカット部及び端面部における耐食性を向上させる効能を有する。金属化合物(E)の耐食性向上メカニズムは、明確でないが、価数を幾つか取り得ることがポイントとなっているようである。また、価数変化のない場合でも、pHによってヘテロポリ酸としての形態を取り得る。このヘテロポリ酸が素材表面に吸着し耐食性向上に寄与する。金属化合物(E)としては、上記金属の炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化錯化合物、有機酸塩、有機錯化合物等が挙げられる。
【0068】
バナジウム化合物、チタン化合物(ただし、ヘキサフルオロチタン酸を除く)、タングステン化合物、モリブデン化合物及びアルミニウム化合物として、具体的には、五酸化バナジウム、メタバナジン酸HVO、メタバナジウム酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH、三塩化バナジウムVCl、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチルグリコレート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラー2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラウレート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタニウムビスアセトン、メタタングステン酸H[H1240]、メタタングステン酸アンモニウム(NH[H1240]、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸H10[W124610]、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、リンバナドモリブデン酸H15−X[PV12−XMoO40]・nH2O(6<X<12,n<30)、酸化モリブデン、モリブデン酸HMoO、モリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブリン酸アンモニウム(NH[POMo1236]・3HO、モリブドリン酸ナトリウムNa[POMo1236]・nHO等)、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、等が挙げられる。
【0069】
ニッケル化合物、コバルト化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、セリウム化合物、ニオブ化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ハフニウム化合物、ホロニウム化合物及びイットリウム化合物として、具体的には、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトネートNi(OC(=CH)CHCOCH、塩化ニッケル、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH]Cl、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、ヘキサフルオロケイ酸ニッケル、塩化コバルト、クロロペンタアンミンコバルト塩化物[CoCl(NH]Cl、ヘキサアンミンコバルト塩化物[Co(NH]Cl、クロム酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、硝酸コバルト、酸化コバルト2アルミニウムCoO・Al、水酸化コバルト、リン酸コバルト、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、亜鉛アセチルアセトネートZn(OC(=CH)CHCOCH、リン酸2水素亜鉛、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛、過マンガン酸HMnO、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、リン酸2水素マンガンMn(HPO、硝酸マンガンMn(NO、硫酸マンガン(II)、(III)もしくは(IV)、フッ化マンガン(II)もしくは(III)、炭酸マンガン、酢酸マンガン(II)もしくは (III)、硫酸アンモニウムマンガン、マンガンアセチルアセトネートMn(OC(=CH)CHCOCH、ヨウ化マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、ヘキサフルオロケイ酸マンガン、酸化セリウム、酢酸セリウムCe(CHCO、硝酸セリウム(III)もしくは(IV)、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウム、塩化セリウム、五酸化ニオブ(Nb)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)、フッ化ニオブ(NbF)、ヘキサフルオロニオブ酸アンモニウム(NH)NbF、酸化スズ(IV)、スズ酸ナトリウムNaSnO、塩化スズ(II) 、塩化スズ(IV)、硝酸スズ(II)、硝酸スズ(IV)、ヘキサフルオロスズ酸アンモニウム(NH)SnF、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素マグネシウム、酸化マグネシウム、ヘキサフルオロケイ酸マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酸化ハフニウム、リン酸ハフニウム(IV)、硫酸ハフニウム(IV)、酸化ホロニウム、酸化イットリウム、等が挙げられる。
【0070】
本発明の水系表面処理剤中において、上記金属化合物(E)は、溶解した状態でも、一定の粒子径を持つコロイドとして分散された状態でもよい。コロイドとして用いる場合、その粒子径は、一次粒子径として1〜100nmであることが好ましい。
【0071】
金属化合物(E)は、カチオン性ウレタン樹脂(B)に対し、金属原子/(B)(固形分)の質量比として1/200〜1/2となるように配合することが好ましく、1/100〜1/4となるように配合することがより好ましく、1/50〜1/8となるように配合することがより一層好ましい。金属化合物(E)の配合量が1/200より少ないと耐食性を向上する効果が発揮されず、1/2を超えると塗装密着性が低下する傾向となる。上記金属化合物(E)は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
本発明の水系表面処理剤には、また、造膜性の向上を始めとする様々な観点から、カチオン性ウレタン樹脂(B)と相溶し、本発明の効果を損わない限りにおいて、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂又はフェノール系樹脂などの他の樹脂を配合してもよい。この際、その造膜性を向上させ、より均一で平滑な塗膜を形成させるために有機溶剤を用いてもよい。
【0073】
本発明の水系表面処理剤には、また、本発明の効果を損わない限りにおいて、オキサゾリン化合物を配合してもよい。オキサゾリン化合物は、皮膜中に適度に極性基を導入することによって、素材との密着性及び上層塗膜との密着性を向上させる。
【0074】
本発明の水系表面処理剤には、また、被塗面に均一な皮膜を得るための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤、増粘剤、溶接性向上のための導電性物質、意匠性向上のため着色顔料等を、水系表面処理剤の液安定性や皮膜性能を損わない範囲で配合し得る。
【0075】
本発明の水系表面処理剤で用いる媒体は通常水であるが、皮膜の乾燥性の改善などの目的で少量(例えば水性媒体全体の10容量%以下)のアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤を併用してもよい。
【0076】
本発明の水系表面処理剤のpHは、3〜12の範囲であることが好ましく、4〜7の範囲であることがより好ましく、5〜7.5の範囲であることがより一層好ましい。pHが3〜12の範囲にある場合には、本発明の効果を良好に発揮させることができ、また、貯蔵安定性を良好に保つことができる。pH調整の必要がある場合には、アンモニア、ジメチルアミンやトリエチルアミン等のアルカリ成分、又は酢酸、リン酸等の酸性成分を添加することができる。
【0077】
本発明の水系表面処理剤における合計固形分濃度の下限については、本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、上限については液安定性の観点から制限される。本発明の金属表面処理剤の合計固形分濃度は0.1〜40質量%の範囲に調整するのが好ましく、1〜30質量%の範囲に調整するのがより好ましく、5〜25質量%の範囲に調整するのがより一層好ましい。
【0078】
本発明の水系表面処理剤は、シランカップリング剤(A)、カチオン性ウレタン樹脂(B)及びカチオン性もしくはノニオン性ポリカルボジイミド化合物(C)、並びに、必要に応じて、ヘキサフルオロ金属酸(D)、金属化合物(E)及び/又はその他の任意成分を、分散媒である水に添加し、撹拌することによって製造することができる。各成分の添加順序については特に制限は無い。
【0079】
次に、本発明の表面処理方法について述べる。
本発明のプレコート金属材料用水系表面処理剤を適用できる金属材料としては、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、アルミ−亜鉛合金化めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板、その他のめっき鋼板(ニッケルめっき鋼板、スズめっき鋼板等)など一般に公知の金属材料が挙げられる。特に好適な金属材料は亜鉛を含有するめっき鋼板である。
【0080】
本発明の水系表面処理剤による処理に先立つ前処理工程については特に制限はないが、通常は、本処理を行なう前に被処理金属材料に付着した油分、汚れを取り除くために、アルカリ脱脂剤又は酸性脱脂剤で洗浄するか、湯洗、溶剤洗浄等を行い、その後必要に応じて酸、アルカリなどによる表面調整を行なう。金属材料表面の洗浄においては洗浄剤が金属材料表面になるべく残留しないように洗浄後水洗することが好ましい。
【0081】
本発明の水系表面処理剤による処理は、水系表面処理剤を塗布した後、乾燥することにより行う。塗布方法について特に制限なく、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどの通常の塗布方法を採用し得る。処理液温度についても特に制限はないが、本処理剤の溶媒は水が主体であるため、処理液温度は0〜60℃であるのが好ましく、5〜40℃であるのがより好ましい。
【0082】
本発明の水系表面処理剤を塗布した後の乾燥工程については、カチオン性ウレタン樹脂(B)及びカチオン性もしくはノニオン性ポリカルボジイミド化合物(C)の硬化を促進する必要がなく付着水の除去だけを行う場合は必ずしも加熱を必要とせず風乾、もしくはエアーブロー等の物理的除去でも構わないが、カチオン性ウレタン樹脂(B)及び有機架橋剤(C)の硬化を促進しまたは軟化による被覆効果を高めるためには加熱乾燥する必要がある。その場合の温度は、50〜250℃が好ましく、60〜220℃がより好ましい。
【0083】
形成される下地皮膜の付着量は乾燥皮膜質量として10〜1,000mg/mが必要であり、20〜500mg/mが好ましく、30〜250mg/mがより好ましい。乾燥皮膜質量が10mg/m未満である場合には十分な耐食性が得られず、1,000mg/mを超えると加工密着性が低下し、コスト面でも不利になる。
【0084】
なお、上記のようにして形成された下地皮膜はプレコート金属材料のための下地皮膜として通常用いられるが、接着性に優れていることから、耐指紋性や潤滑性等を付与した1〜3層の皮膜層を上層に有する高機能コーティングの下地としても使用することができる。また、導電鋼板用下地としても用いることができる。
【0085】
次に本発明のプレコート金属材料について述べる。該プレコート金属材料は、金属材料表面上に、本発明の水系表面処理剤を用いて上記のようにして形成させた下地皮膜の上に、さらに上層皮膜層を形成させることにより製造される。上層皮膜層の形成は、下地皮膜の上にノンクロメートプライマーを塗布乾燥後、さらにトップコートを塗布する塗装法や、プライマーを使用せずに直接トップコートを塗布する塗装法や、ラミネートフィルムを貼付する方法など、プレコート鋼板に対して一般的に用いる塗装法を用いて行なうことができる。
【0086】
ノンクロメートプライマーとしては、クロメート系の防錆顔料を配合していないプライマーであればいずれのプライマーでも使用できる。ノンクロメートプライマーは、通常樹脂及び、必要に応じ着色顔料や防錆顔料等を含有する。樹脂としては水系、溶剤系、紛体系等のいずれの形態のものでもよい。樹脂の種類としては、一般に公知のものであればよく、例えば、ポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブチラール系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0087】
着色顔料としては、公知の無機及び有機着色顔料を用いることができ、例えば、無機着色顔料としては酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸バリウム(BaSO)、アルミナ(Al)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe、Fe)等を、有機着色顔料としてはハンザエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料等を用いることができる。防錆顔料としては、一般に公知のノンクロメート系のもの、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防衛顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、水分散性シリカ、フュームドシリカ等の微粒シリカなどを用いることができる。さらに、消泡剤、分散補助剤、塗料粘度を下げるための希釈剤等の添加剤も適宜配合することができる。
【0088】
ノンクロメートプライマーの塗布方法は特に制限されず、一般に使用される浸漬法、スプレー法、ロールコート法、エアスプレー法、エアレススプレー法等を使用することができる。プライマーの塗布膜厚は、乾燥膜厚として1〜30μmであることが好ましく、2〜20μmであるのがより好ましい。1μm未満では耐食性が低下し、また30μmを超えると加工時の密着性が低下する傾向となる。ノンクロメートプライマーの焼き付け乾燥条件については、特に制限はなく、例えば130〜250℃、時間を10秒〜5分とすることができる。
【0089】
トップコートとしては特に制限はされず、通常の塗装用トップコートのいずれをも用いることができる。トップコートは樹脂及び、必要に応じ着色顔料や防錆顔料等を含有する。樹脂、着色顔料及び防錆顔料、並びに添加物としてはノンクロメートプライマーで使用したものと同様のものを用いることができる。トップコートの塗装方法や焼き付け乾燥条件はノンクロメートプライマーの場合と同様でよい。トップコートの塗布膜厚は、乾燥膜厚として、3〜50μmであることが好ましく、5〜40μmであるのがより好ましい。3μm未満では均一な着色外観が得られにくく、さらにプライマーを施さずにトップコートを塗布した場合に耐食性が低下する。また50μmを超えると密着性が低下する上、コスト面で不利になる。
【実施例】
【0090】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
1.水系表面処理剤の調製
表1〜5に記載したシランカップリング剤、ウレタン樹脂及びポリカルボジイミド化合物、並びに用いる場合のヘキサフルオロ金属酸、用いる場合の他のフッ素イオン放出化合物及び用いる場合の金属化合物を、この順序で、脱イオン水に、表1〜5に記載した固形分質量比になるように加え、ついで十分に分散させるため5分間攪拌した。ついで脱イオン水を加えて固形分濃度を7質量%に調整した。
使用した各成分は以下の通りである。
【0092】
シランカップリング剤(A)又は対応物
A1:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
A2:2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
A3:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
A4:γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン
【0093】
カチオン性ウレタン樹脂(B)又は対応物
使用したカチオン性ウレタン樹脂B1、B2、B3及びB4は以下の手法にて調製した。
カチオン性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(水分散体)B1
ポリエーテルポリオール(合成成分:ポリテトラメチレングリコール及びエチレングリコール、分子量1500)150質量部、トリメチロールプロパン6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン24質量部、イソホロンジイソシアナート94質量部及びメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃に保ちながら反応させて得たウレタンプレポリマーに、硫酸ジメチル15質量部を添加し、50℃で60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。ついで、水576質量部を加え、均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収してカチオン性の水溶性ポリウレタン樹脂(B1)を得た。
【0094】
カチオン性ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(水分散体)B2
ポリエーテルポリオール(合成成分:ポリテトラメチレングリコール及びエチレングリコール、分子量1000)150質量部、トリメチロールプロパン6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン12質量部、イソホロンジイソシアナート145質量部及びメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃に保ちながら反応させて得たウレタンプレポリマーに、硫酸ジメチル15質量部を添加し、50℃で60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。ついで、水576質量部を加え、均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収してカチオン性の水溶性ポリウレタン樹脂(B2)を得た。
【0095】
カチオン性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(水分散体)B3
ポリエステルポリオール(合成成分:イソフタル酸、アジピン酸及び1,6−へキサンジオール、エチレングリコール、分子量1700)135質量部、トリメチロールプロパン5質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン22質量部、イソホロンジイソシアナート86質量部及びメチルエチルケトン120質量部を反応容器に入れ、70℃に保ちながら反応させて得たウレタンプレポリマーに、硫酸ジメチル17質量部を添加し、50℃で60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。ついで、水615質量部を加え、均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して、カチオン性の水溶性ポリウレタン樹脂(B3)を得た。
【0096】
カチオン性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(水分散体)B4
ポリカーボネートポリオール(合成成分:1,6−ヘキサンカーボネートジオール(下記構造参照)、エチレングリコール、分子量2000)130質量部、トリメチロールプロパン4質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン21質量部、イソホロンジイソシアナート75質量部及びメチルエチルケトン120質量部を反応容器に入れ、70〜75℃に保ちながら反応をさせて得たウレタンプレポリマーに、硫酸ジメチル22質量部を添加し、50℃で60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。ついで、水633質量部を加え、均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して、カチオン性の水溶性ポリウレタン樹脂(B4)を得た。
【0097】
【化7】

【0098】
アニオン性ウレタン樹脂(B5)
スーパーフレックス420(ポリカーボネート系ウレタン樹脂、固形分32質量%、第一工業製薬社製)
アニオン性ウレタン樹脂(B6)
アデカボンタイターHUX320(エーテル/エステル系ウレタン樹脂、固形分32質量%、アデカ製)
【0099】
ウレタン樹脂及びその皮膜の物性の測定方法
a)ガラス転移温度
動的粘弾性測定装置(レオログラフソリッドS 東洋精機製作所製)を使用して測定した。
b)抗張力及び伸度
b−1)樹脂皮膜作成方法
PPフィルム上で、膜厚150μmのフィルムを形成させた。
乾燥条件:23℃×RH65%×24時間
熱処理:108℃×2時間(溶媒などを除去)
b−2)物性の測定
次に形成させたフィルムをPPフィルムから剥がして、引張試験機(AUTOGRAPH AGS−1KNG、島津製作所製)にて抗張力及び伸度を測定した。
抗張力:最大点(破断点)の抗張力(N/mm)を測定した。
伸度:最大点(破断点)の伸度(%)を測定した。
【0100】
カチオン性又はノニオン性ポリカルボジイミド化合物(C)又は対応物
ポリカルボジイミド化合物の製造においては、下記の、芳香環を有するジイソシアナート(Ca)と芳香環を有するジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナートもしくは脂環式ジイソシアナート(Cb)とを等モルずつ組み合わせて使用した。
芳香環を有するジイソシアナート(Ca)
TMXDI:m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート(下式参照)
【0101】
【化8】

【0102】
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート
TDI:トリレンジイソシアナート
XDI:キシリレンジイソシアナート
芳香環を有するジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナートもしくは脂環式ジイソシアナート(Cb)
TMXDI:m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアナート
IPDI:イソホロンジイソシアナート
HMDI:4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート
【0103】
ポリカルボジイミド化合物の製造例1
m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート700質量部(2.87mol)を、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド(カルボジイミド化触媒)14質量部の存在下、180℃で32時間反応させて、両末端がイソシアナト基で縮合度12のポリカルボジイミド化合物を得た。得られたポリカルボジイミド化合物224質量部に重合度12のポリオキシエチレンモノメチルエーテル115質量部を加え、100℃で48時間反応させて両末端のイソシアナト基を封止し、ついで50℃で、蒸留水509質量部を徐々に加えてポリカルボジイミド化合物水溶液を得た。
【0104】
ポリカルボジイミド化合物の製造例2
ジフェニルメタンジイソシアナート338質量部(1.35mol)と4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート354質量部(1.35mol)とを3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド2.9質量部の存在下、180℃で32時間反応させて、両末端がイソシアナト基で縮合度12のポリカルボジイミド化合物を得た。得られたポリカルボジイミド化合物224質量部に重合度12のポリオキシエチレンモノメチルエーテル115質量部を加え、100℃で48時間反応させて両末端のイソシアナト基を封止し、ついで50℃で、蒸留水509質量部を徐々に加えてポリカルボジイミド化合物水溶液を得た。
【0105】
ポリカルボジイミド化合物の製造例3
m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート700質量部を、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド(カルボジイミド化触媒)14質量部の存在下、180℃で32時間反応させて、両末端がイソシアナト基で縮合度12のポリカルボジイミド化合物を得た。得られたポリカルボジイミド化合物224.4質量部と3,3−ビス(ジメチルアミノ)プロピルアミン10.2質量部とを80℃で1時間反応させた後、ジメチル硫酸12.6gを加え1時間攪拌した。これに蒸留水509.1gを50℃で徐々に加え、ポリカルボジイミド化合物水溶液を得た。
上記製造例1、2又は3と同様にして表1のポリカルボジイミド化合物の水溶液を製造した。
【0106】
ヘキサフルオロ金属酸(D)又は対応物
D1:ヘキサフルオロジルコニウム酸
D2:ヘキサフルオロチタン酸
D3:ヘキサフルオロケイ酸
D4:炭酸ジルコニウムアンモニウム
【0107】
金属化合物(E)
E1:バナジルアセチルアセトナート
E2:チタンアセチルアセトナート
E3:モリブデン酸アンモニウム
【0108】
2.試験板の作製
2.1供試材
・電気亜鉛めっき鋼板(以下記号:EG)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり20g/m(両面めっき)
・溶融亜鉛めっき鋼板(以下記号:GI)
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当たり50g/m(両面めっき)
・アルミ−亜鉛合金めっき鋼板(以下記号:GL)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり50g/m(両面めっき)
2.2 前処理
上記の供試材をアルカリ脱脂剤であるCL−N364S(日本パ−カライジング(株)製)を濃度20g/L、温度60℃の水溶液とし、これにEG材及びGL材を10秒間浸漬し、純水で水洗した後乾燥した。また、GI材については、CL−N364Sを用いた上記と同様の脱脂後、LN−4015(日本パーカライジング(株)製)を用いて100g/Lに建浴した温度50℃の水溶液中に浸漬し、Ni付着量が5mg/mとなる条件のもと表面調整を行った後、水道水にて水洗し、温風乾燥した。
【0109】
2.3 表面処理
・ノンクロメート水系表面処理
前処理後の供試材の表面(片面)に、表1〜表5に示す組成の水系表面処理剤を用いて、ロールコーターにて乾燥皮膜量が表1〜表5に示す量となるように塗布し、熱風乾燥炉で到達板温度が80℃となるように乾燥した。表1〜表3は本発明の表面処理剤であり、表4及び5比較例としての表面処理剤である。
・塗布型クロメート処理
前処理後の供試材の表面(片面)に、塗布クロメート薬剤としてZM−1300AN(日本パ−カライジング(株)製)を用いて、ロールコーターにてCr付着量が40mg/mとなるように塗布し、熱風乾燥炉で到達板温度が80℃となるように乾燥した。
【0110】
2.4 プライマー及びトップコートの塗布
2.3で作製した各処理板の処理表面上に、後記表6の2種のプライマー(共に溶剤系)のいずれかを塗布し、210℃で乾燥及び焼付けを行うことにより、乾燥膜厚4μmのプライマー層を設けた。
【0111】
ついで、トップコート(Vニット#5000、大日本塗料(株)製)を塗布し、220℃で乾燥及び焼付けを行うことにより、乾燥膜厚20μmのトップコート層をプライマー層に積層した。
作製された各塗装鋼板から各試験に適した大きさの板を切り出して試験板とし、耐食性試験、塗装密着性試験、耐コインスクラッチ性試験、深絞り試験、耐アルカリ性試験、耐酸性試験及び耐湿性試験に供した。
【0112】
3.評価試験
3.1 耐食性
作製した各試験板の塗膜に、金属素地に達する傷をカッターで入れ、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施した。判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。また、端面耐食性は、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。□以上を合格とした。
<評価基準−カット部>
◎:2mm未満
○:2mm以上4mm未満
□:4mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
×:10mm以上
<評価基準−端面>
◎:4mm未満
○:4mm以上6mm未満
□:6mm以上8mm未満
△:8mm以上12mm未満
×:12mm以上
【0113】
3.2 塗装密着性試験
3.2.1 一次塗装密着性試験(常温)
各試験板について、JIS−G3312の試験法に準じて、内側間隔板を挟まない0T折曲げ試験を20℃で行い、テープ剥離後の塗膜剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って塗装密着性の評価を行った。◎を合格とした。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離箇所はあるが、剥離面積5%未満
□:剥離面積5%以上20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
【0114】
3.2.2 一次塗装密着性試験(冷間)
各試験板を、予め−20℃の冷凍庫にて2時間冷却し、取り出した直後に、JIS−G3312の試験法に準じて、内側間隔板を挟まない0T折曲げ試験を行い、テープ剥離後の塗膜剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って塗装密着性の評価を行った。□以上を合格とした。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離箇所はあるが、剥離面積5%未満
□:剥離面積5%以上20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
【0115】
3.2.3 二次折り曲げ密着性
各試験板を沸水中に2時間浸漬した後、1日放置し、一次塗装密着性試験(常温)と同様の折曲げ試験を行った。判定基準は以下の通りである。○以上を合格とした。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離箇所はあるが、剥離面積5%未満
□:剥離面積5%以上20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
【0116】
3.3 耐コインスクラッチ性
10円硬貨を各試験板に対して45°の角度に設置し、塗膜を3kgの荷重、一定速度でこすり、塗膜の傷つき度を肉眼で観察し、下記判定基準に従って耐コインスクラッチ性の評価を行なった。□以上を合格とした。
<評価基準>
◎:剥離なし(プライマーのみ露出した場合を含む)
○:剥離箇所はあるが、剥離面積5%未満
□:剥離面積5%以上20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
×:剥離面積50%以上
【0117】
3.4 深絞り試験
各試験板を高速深絞り試験機(東京試験機製作所(株)製)にセットし、以下の条件での深絞り試験に付した。△以上を合格とした。
金型:円筒型、金型寸法:ブランク径110mmφ、パンチ外径50mmφ、ダイ内径51.64mmφ、パンチR:3mm、クリアランス:0.82mm、加工速度:40spm、しわ押え圧力:1kgf/cm
<評価基準>
◎:目視により、しわ又は剥離が認められない
○:目視により10%未満のしわ又は剥離が認められる
□:目視により10%以上25%未満のしわ又は剥離が認められる
△:目視により25%以上50%未満のしわ又は剥離が認められる
×:目視により50%以上のしわ又は剥離が認められる
【0118】
3.5 耐アルカリ性
各試験板を5質量%の水酸化ナトリウム水溶液に室温で24時間浸漬した後、発生したブリスターの大きさと発生密度を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐アルカリ性の評価を行った。□以上を合格とした。
◎:ブリスターなし
○:1つのブリスターが0.6mm未満でかつ発生密度がFである。
□:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上〜1mm程度でかつ発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm〜0.4mm程度でかつ発生密度がMである。
△:1つのブリスターの大きさが1mm〜1.5mm程度でかつ発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.4mm〜1mm程度でかつ発生密度がMであるか、1つのブリスターの大きさが0.2mm以下でかつ発生密度がMDである。
×:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上であるか、ブリスターの大きさが0.2mm以上でかつ発生密度がMDであるか、ブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである。
発生密度に関して使用した記号は以下の意味を有する。
F:ブリスター発生個数がごく僅かである。
M:ブリスター発生個数が少ない。
MD:ブリスター発生個数が多い。
D:ブリスター発生個数が非常に多い。
【0119】
3.6 耐酸性
各試験板を5質量%の硫酸水溶液に室温で24時間浸漬した後、発生したブリスターの大きさと発生密度を肉眼で観察し、3.5と同様の判定基準で評価を行った。□以上を合格とした。
【0120】
3.7 耐湿性
各試験板の塗膜に金属素地に達する傷をカッターで入れ、湿度98%、温度40℃の雰囲気の恒温恒湿器中に1000時間放置した。ついで、カット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定し、下記の判定基準に従って耐湿性を評価した。○以上を合格とした。
◎:1mm未満
○:1mm以上2mm未満
□:2mm以上4mm未満
△:4mm以上8mm未満
×:8mm以上
【0121】
3.8 水系表面処理剤の貯蔵安定性
水系表面処理剤を40℃の恒温装置中に3ヶ月貯蔵した後、ゲル化又は沈殿の状態を肉眼で観察し、次の基準に従って貯蔵安定性を評価した。△以上を合格とした。
<評価基準>
○:変化無し
△:増粘
×:ゲル化又は沈殿している
【0122】
4.評価結果
表7〜表11に試験結果を示す。
実施例1〜45は、耐食性(×カット及び端面耐食性)、一次塗装密着性(常温)、二次塗装密着性、冷間での一次塗装密着性、耐コインスクラッチ性、耐アルカリ性、耐酸性、深絞り性及び耐湿性の各性能が、金属材料に関わらず、何れも良好であり、また水系表面処理剤の貯蔵安定性も良好であった。
具体的には、実施例1〜24においては、クロメート処理(比較例25〜27)と比較して、一次塗装密着性(常温)、二次塗装密着性、冷間での一次塗装密着性及び深絞り性は同等であったものの、耐食性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性は劣っていた。実施例25〜32においては、一次塗装密着性(常温)、二次塗装密着性、冷間での一次塗装密着性及び深絞り性はクロメート処理と同等の水準を維持しつつ、耐食性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性の少なくとも1つが向上していた。さらに、実施例33〜44においては、耐食性(×カット及び端面耐食性)、一次塗装密着性(常温)、二次塗装密着性、冷間での一次塗装密着性、耐コインスクラッチ性、耐アルカリ性、耐酸性、深絞り性及び耐湿性のすべての性能がクロメート処理と同等であった。なお、水系表面処理剤の貯蔵安定性はすべての実施例において、クロメート処理と同等であった。
一方、本発明の範囲外である比較例1〜24の処理薬剤は、耐食性(×カット部及び端面耐食性)、一次塗装密着性(常温、冷間)、ニ次塗装密着性、耐コインスクラッチ性、深絞り性、耐アルカリ性、耐酸性及び耐湿性並びに水系表面処理剤の貯蔵安定性の少なくとも1つが極端に劣っているか、これらの性能が全体的に劣っており、性能のバランスが取れなかった。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
【表4】

【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】

【表7】

【0130】
【表8】

【0131】
【表9】

【0132】
【表10】

【0133】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート金属材料における下地処理剤として用いる水系表面処理剤であって、
(1)第1級アミノ基を有するシランカップリング剤(A)、
(2)式(I)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、R及びRは同一であるかもしくは異なって炭素数2〜10のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、XはNH又はOを表し、Yは酸アニオンを表す)で表される構造を分子内に有し、ガラス転移温度が0〜100℃であるカチオン性ウレタン樹脂(B)及び
(3)芳香環を有するジイソシアナート化合物の脱炭酸反応又は芳香環を有するジイソシアナート化合物と脂肪族もしくは脂環式ジイソシアナート化合物との脱炭酸反応によって得られ、5〜15個のカルボジイミド結合を有する重合体の両末端イソシアナト基をポリオール系化合物もしくはポリアミンで封止し、ポリアミンで封止した場合には、さらに酸又はアルキル化剤を作用させて得られるノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)
を含有し、成分(A)と成分(B)との固形分質量比(A)/(B)が5/1〜1/3であって、成分(B)と成分(C)との固形分質量比(C)/(B)が5/1〜1/5である該水系表面処理剤。
【請求項2】
カチオン性ウレタン樹脂(B)の皮膜物性としての、抗張力が10〜30N/mm又は40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%又は300〜500%である請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項3】
抗張力が10〜30N/mmで、かつ、伸度が300〜500%であるか、抗張力が40〜80N/mmで、かつ、伸度が3〜50%である請求項2記載の水系表面処理剤。
【請求項4】
ノニオン性もしくはカチオン性ポリカルボジイミド化合物(C)のカルボジイミド当量が200〜400である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項5】
ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸及びヘキサフルオロケイ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘキサフルオロ金属酸(D)を含有し、成分(D)と成分(B)との固形分質量比(D)/(B)が1/200〜1/2である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項6】
バナジウム化合物、チタン化合物(ただし、ヘキサフルオロチタン酸を除く)、タングステン化合物、モリブデン化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、セリウム化合物、ニオブ化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ハフニウム化合物、ホロニウム化合物及びイットリウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(E)を含有し、成分(E)の金属(Em)と成分(B)の固形分との質量比(Em)/(B)が1/200〜1/2である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項7】
カチオン性ウレタン樹脂(B)がポリオール、ジイソシアナート並びに式(II)

(式中、R、R、R及びXは式(I)におけると同義である)で表される第三級アミンを、最終的に得られるカチオン性ウレタン樹脂(B)のガラス転移温度が上記範囲内に入るように、個々の原料及び使用割合を選択して、不活性有機溶媒中で、重縮合反応に付すことによって得られる重合体を、酸又はアルキル化剤と反応させて上記第三級アミンに由来する第三級アミン部分を形成する窒素原子の少なくとも一部に水素原子又はアルキル基を結合させてカチオン化させることにより得られるカチオン性ウレタン樹脂である請求項1〜6のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項8】
第1級アミノ基と反応し得る官能基を有するシランカップリング剤を含有し、シランカップリング剤(A)の第1級アミノ基:それと反応し得る官能基との当量比が10:1〜3:1である請求項1〜7のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の水系表面処理剤からの乾燥皮膜であって、0.01〜1g/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料。
【請求項10】
請求項9記載の金属材料の乾燥皮膜を有する表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させて得られたプレコート金属材料。


【公開番号】特開2009−275287(P2009−275287A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98410(P2009−98410)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】