説明

プレコート金属板の製造方法

【課題】光触媒機能、塗膜密着性、加工性、耐候製、外観(美観)耐久性等に優れるプレコート金属板を有利に製造する方法を提案する。
【解決手段】塗装金属板の少なくとも一方の表面に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー塗料を塗布してクリアー被膜を形成し、次いで、そのクリアー被膜の表面に、酸化チタン微粒子含有液体を分散状態にスプレーして、不連続状の光触媒含有被膜を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板の製造方法に関し、とくに電機機器製品の外装材、建築用内・外装材あるいは道路等の土木関連構築部材などの分野において用いられるものであって、加工性や耐候性の他、美観耐久性にも優れるプレコート金属板を有利に製造する方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
プレコート金属板は、成形加工後に塗装する必要がないため、加工メーカーにかかる負担が軽減されるという観点から、電機機器製品の各種部材、建築物の屋根・壁などの外装材やパーティション等の内装材、土木工事関連資材などとして、広く使用されている。このようなプレコート金属板は、通常、プレス成形やロール成形、エンボス成形などの方法によって90度曲げ、あるいは180度曲げなどを含む様々な加工を受ける材料の1つである。そのため、この材料は、単に、加工性に優れるだけでなく、長期の塗膜耐久性にも優れるものが求められている。
【0003】
こうした要求に応えられるプレコート金属としては、一般に、金属の表面に、熱硬化型のポリエステル系樹脂やより耐候性の良好なフッ素系樹脂などを200℃以上の温度で焼付けして、塗膜を形成したものが用いられている。
【0004】
ところで、近年、プレコート金属板に対しては、高性能化、高機能化のニーズが高まっており、中でも耐候性に優れること、例えば、黴や菌類、藻類などが付着しにくく、大気中の浮遊煤煙や各種油性ミスト、排気ガス、カーボンブラックなどの燃焼生成物その他の各種物質の付着がしにくく、さらには、長期に亘って美観が変化しないこと、即ち、美観耐久性に優れるという特性が求められるようになっている。
【0005】
しかしながら、従来、抗菌機能や耐汚染機能のような単一の機能が付与されたプレコート金属板というのは既に開発され、市販されているものの、これらの機能を複合的に高レベルで有しているプレコート金属板は、いまだ十分なものが提供されていないのが実情である。たとえば、塗膜表面での黴や菌類・藻類の成長を抑制あるいは防止する方法としては、銀や銅などを含む化合物を塗膜中に分散させた、いわゆる抗菌プレコート金属板などが開発されており、また、塗膜表面の耐汚染性を改善する技術としては、塗膜表面に親水性を付与することにより、表面に付着した異物を雨水等によって速やかに洗い流して、付着物の堆積を抑制するようにしたものが開発されている。
【0006】
さらに、付着した有機物等を分解させるための技術としては、光触媒を利用する方法もある。この光触媒を利用する技術は、塗膜中に光触媒活性のある物質を分散させ、この塗膜表面に付着した有機物を活性酸素により分解する方法である。
【0007】
しかし、塗膜中に分散含有させた光触媒は、表面に付着した有機物などを分解する機能を有する一方で、マトリックスである塗膜自体をも徐々に分解して塗膜の白亜化(チヨーキング)や塗膜の減耗を促進するという欠点もある。そのため、樹脂層を有するプレコート金属板については、この光触媒を樹脂層中に含有させることには限界がある。
【0008】
そこで、従来、マトリックスとなる塗膜には、分解しにくい無機質材料やフッ素樹脂等の有機質材料を使用したり、あるいはこの塗膜を有機・無機複合体にしたりする方法なども提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。また、光触媒をプレコート金属板に適用するその他の技術としては、光触媒とフッ素樹脂ワックスを含む無機質塗膜を、保護層を介して形成する方法などの提案もある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−55207号公報
【特許文献2】特開2006−233073号公報
【特許文献3】特開2006−192716号公報
【特許文献4】特開2007−181951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、光触媒活性のある物質を無機質塗膜中に分散させるという特許文献1の技術は、変・退色などの耐候性には優れるものの、塗膜自体の柔軟性が乏しいため、これをプレコート金属板にそのまま適用すると、曲げ加工や絞り加工を施した場合にクラックが発生しやすく、塗膜剥離が起ることがある。そのため、ほとんど加工を施さない用途か、加工後に塗装するポストコート金属板のようなものに限定して使用されていた。
【0011】
また、光触媒活性のある物質をフッ素樹脂塗膜中に分散させるという特許文献2の技術は、屋外の南面に位置する外装材に適用した場合、光触媒によるマトリクス成分の分解を招くと同時に、光触媒機能が十分に発揮されないという問題がある。これらの問題を克服するためには塗膜厚さを大きくすれば解決できるが、膜厚が大きくなると加工性などの特性がむしろ低下してしまうといった新たな問題が発生する。
【0012】
また、光触媒活性のある物質を有機・無機複合体からなる塗膜中に分散させるという特許文献3の技術は、無機質塗膜に比べると加工性には優れるるものの、プレコート金属板に必要な加工性レベルを満足するには、さらなる薄膜化が必要となるため、結果的に光触媒機能の低減を招くという問題がある。
【0013】
さらに、光触媒活性物質をフッ素樹脂ワックスと合せて無機質塗膜中に分散させるという特許文献4の技術は、外装材に適用した場合にやはり、光触媒によってマトリクス成分が分解するという問題がある。
【0014】
このように、塗膜に光触媒機能を付与するための従来技術は、プレコート金属板への適用がそもそも困難か、プレコート金属板に求められるレベルの特性、例えば、加工性、光触媒機能、マトリクスの耐分解性に劣るものであった。
【0015】
さらに、光触媒機能が付与された塗膜層は、一般に、高屈折率の被膜であることから、この被膜を連続塗装ラインでロール塗装法により形成しようとした場合、塗布時に発生する付着量むらによって干渉色を発色したり、加工性の低下を招くなどの問題を抱えている。特に、処理する下地素材の表面が高光沢のものや、表面粗さの小さいものは、前記干渉色が目立ちやすく、美観を損ねるという問題もあり、いずれにもしても上記各従来技術は十分にその目的を達していると言えるものではなかった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、高い光触媒機能を具えると共に、塗膜密着性や曲げ加工性の良好なプレコート金属板の製造方法を提案することにある。
【0017】
また、本発明は、耐候性のみならず外観均一性や美観耐久性などの特性に優れたプレコート金属板を製造することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者らは、プレコート金属板を製造するための従来技術が抱えている上述した問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、表面に着色樹脂層を有する塗装金属板の上に、まず、所定の厚さのクリアー塗料を塗布し、次いで、光触媒含有液を均一に塗布するのではなく、この光触媒含有液自体を微細に霧化してその液滴が分散状態になるようなスプレー塗装を行うことにより、プレコート金属板として必要な特性、即ち、加工性や耐候性に優れると同時に光触媒特性ならびに美観耐久性にも優れるプレコート金属板が得られることを知見し、本発明に想到した。
【0019】
即ち、本発明は、着色樹脂層によって被覆された塗装金属板の少なくとも一方の表面に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー塗料を塗布してクリアー被膜を形成し、次いで、そのクリアー被膜の表面に、酸化チタン微粒子を含有する光触媒含有液の液滴が分散状態になるようにスプレー塗布し、その後、乾燥し、焼付けることにより、不連続状の光触媒含有被膜を被覆形成することを特徴とするプレコート金属板の製造方法である。
【0020】
本発明に係るプレコート金属板の製造方法においては、
(1)前記スプレー塗布は、光触媒含有液を微細に霧化して液滴が分散状態となるように噴射させることのできる回転式霧化スプレー装置にて行うこと。
(2)前記光触媒含有被膜が、30〜95%の被覆率で島状に分散した被覆であること、
(3)前記酸化チタン微粒子が、アナターゼ型結晶質酸化チタンを含むこと、
(4)前記クリアー被膜の膜厚が、0.2μm以上であること、
(5)前記ケイ素化合物が、アクリルシリコン樹脂であること、
(6)前記スプレー塗布、乾燥、焼付けの処理が、連続コイル塗装ラインで行われること、
が、より好適な解決手段を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好な加工性と外観特性ならびに、光触媒機能とを併せ具えるプレコート金属板を有利に製造することができる。また、本発明によれば、塗膜の耐候性に優れるだけでなく、美観耐久性や外観均一性にも優れるプレコート金属板を簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プレコート金属板の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に示す実施形態は、本発明の好適と考えられる方法の一例を示すものである。従って、本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではない。
本発明に係るプレコート金属板の製造方法では、塗装金属板の最表層に形成される光触媒含有被膜の形成方法に特徴がある。
(1)塗装金属板;
本発明で使用する塗装金属板としては、前処理が施こされた金属板表面に、下塗り塗膜および着色顔料を含む上塗り塗膜とからなる着色樹脂層を被覆したものが用いられる。基材である金属板は、特に種類の限定があるわけではないが、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムー亜鉛合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、アルミニウム板、あるいはステンレス鋼板などを用いることができる。
【0024】
前記下塗り塗膜およびその上に塗り重ねる上塗り塗膜にについては、これもまた、種類の限定があるわけではなく、公知の塗料を焼付けて形成することができる。例えば、下塗り塗膜用塗料の例としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等およびこれらの変性樹脂や複合樹脂を主成分とし、架橋剤としてメラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート化合物等を使用することができ、この塗料にはさらに、防錆顔料や各種顔料を配合することができる。
【0025】
一方、上塗り塗膜用塗料としては、着色顔料を含み、下塗り塗膜との密着性の良好なものが選ばれる。例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂およびこれらの変性樹脂や複合樹脂を主成分とし、メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート化合物等の架橋剤を含む塗料やフッ素系樹脂塗料などを用いることができる。なお、この上塗り塗膜は、最終的に外観の色調を支配するものであるから、酸化チタン、ベンガラ、マイカ、カーボンブラック、焼成ブラック、チタンイエロー、黄色酸化鉄、フタロシア二ンブルー、フタロシア二ングリーンなどの各種着色顔料を配合することが好ましい。さらには、必要に応じ、この上塗り塗膜中には、合成シリカ等の光沢調整剤や塗装作業性の改善のための消泡剤、表面調整剤あるいは塗膜の傷付き防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0026】
こうして得られる着色樹脂層は、様々な色調や光沢のものが採用される。この場合、光沢はつや消し剤の添加により、また表面粗さは塗膜中に金属酸化物などの無機物および/またはポリアミド樹脂やアクリル樹脂等の樹脂系の微粒子を添加することにより調整することができる。
【0027】
本発明の作用、効果をより確実ものにするためには、加工性や耐候性、とくに屋外での美観耐久性を確保するという観点において、着色樹脂塗膜層の主体となる樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂が質量比で85:15〜50:50であるオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂を主成分とするものが好ましい。ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂を混合する理由は、結晶性樹脂であるポリフッ化ビニリデンの結晶化を抑制することにより、美観耐久性や加工性を向上させ、さらには下塗り塗膜やこの着色樹脂の上層に形成するクリアー樹脂との密着性を向上させるためである。
【0028】
前記アクリル樹脂としては、熱可塑性のものや熱硬化性のものを単独または複合して使用することができる。熱可塑性アクリル樹脂の例としては、ポリフッ化ビニリデンとの相溶性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブテル、(メタ)アクリル酸アミルなどから選ばれるいずれか1種または2種以上のモノマーの重合体、あるいはこれらのモノマーとアクリル酸やスチレンなどとの共重合体を用いることができる。
【0029】
一方、熱硬化性アクリル樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、ギリシジル基、イソシアネート基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂とアルキル化メラミン、ポリオール、ポリアミドなどの硬化剤とから構成されるものを用いることができる。
上塗り塗膜の主体樹脂であるポリフッ化ビニリデンは、これの使用比率が質量比で85%を超えると、プレコート金属板としての塗装性の低下や、塗膜の結晶性が高くなりすぎて加工性の低下を招く、また、質量比が50%未満になると、ポリフッ化ビニリデンのもつ耐久性、特に耐候性の大幅な低下を招き好ましくない。発明者らの知見によると、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂との好ましい質量比は、85:15〜75:25である。
【0030】
なお、前記着色樹脂層中の上塗り塗膜は、塗装金属板を製造する通常の方法、例えば有機溶剤で希釈した薬液をロールコーターやカーテンコータ一によって塗布し、ただちに230℃〜270℃程度の温度に保持して焼き付けることにより連続的に形成することができる。
【0031】
(2)クリアー被膜層;
前述した塗装金属板の表面にはまず、クリアー被膜が形成される。このクリアー被膜は、塗装金属板および最表層として形成される光触媒含有被膜との強固な密着性を得るためと、この光触媒含有被膜中に配合される酸化チタン微粒子の光触媒作用によって、塗装金属板が経時的に分解し劣化するのを防止する作用を担うものである。
【0032】
このような作用をもつクリアー被膜層の主成分としては、ケイ素化合物であることが必要であり、例えばアクリルシリコン樹脂、トリアルコキシシランおよびその縮合物、アクリルシリケートおよびその縮合物、オルガノヒドロキシシランおよびその縮合物、あるいはこれらの組成物とシリカの複合組成物などが使用できる。かかるクリアー被膜を形成することによる上述した効果を得るためには、膜厚として0.2μm以上が必要である。より好ましい膜厚は、0.5μm以上である。膜厚の上限に関しては特に規定はないが、組成物自体の柔軟性が乏しい場合は、加工性低下を抑えるために、より薄い膜であることが好ましい。例えば、1μm以下にすると、クリアー被膜の成分や種類によらず常に良好な加工性が得られるようになる。
【0033】
クリアー被膜層の主要な構成成分であるケイ素化合物として特に好ましいものは、アクリルシリコン樹脂である。アクリルシリコン樹脂としては、アクリレートとシリコンを複合化、共重合化あるいは他の架橋剤で架橋させたものや、アクリレートまたはシリコンを含有する架橋剤を用いて他成分を架橋させたもの等が使用できる。
【0034】
上記アクリルシリコン樹脂のアクリレート成分は、被膜に柔軟性を付与し、さらに、下層である塗装金属板との強固な密着性を得る上で、効果がある。クリアー被膜の加工性が改善されると、プレコート鋼板に加えらる各種加工時に、クラックの発生が少なくなり、このことによってクリアー被膜の膜厚適用範囲を広げることが可能になる。
【0035】
上記クリアー被膜中のアクリレート成分としては、メチルアクリレートメチルメタアクリレートなどのアルキル含有アクリル系モノマー、オリゴマーないしはポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの水酸機含有アクリル系モノマー、オリゴマーないしはポリマー、アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸系モノマー、オリゴマーないしはポリマー、さらにはアミド基やグリシジル基を含有するアクリル系モノマー、オリゴマーまたはポリマー等の1種または2種以上を使用することができる。
【0036】
なお、前記アクリルシリコン樹脂のシリコン成分は、上層に形成される光触媒層との密着性を向上させる効果と、上層に含まれる光触媒によるクリアー被膜の分解を防ぐ効果とを有する。シリコン成分としては、例えば、メチルトリ工トキシシラン、ジメチルジエトキシラン、フェ二ルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物やその加水分解物、あるいはその縮合物の1種または2種以上を使用することができる。
【0037】
前記クリアー被膜には、さらに、使用する塗装金属板の色調を変えない範囲で、各種添加剤、例えばシリカ微粒子、分散剤、カップリング剤、あるいは紫外線吸収剤などを添加してもよい。
【0038】
このクリアー被膜を連続塗装ラインで形成するためには、前記各成分を有機溶剤にて希釈し、得られた溶液(クリアー塗料)を、金属板表面にカーテンコータ一、ロールコーターあるいはダイコータ一等を介して塗布し、その直後、あるいは上層の光触媒含有液の塗布後に、焼け付ける方法をとる。例えば、上記クリアー塗料の主成分としてアクリルシリコン樹脂を用いる場合は、その焼き付け処理は150℃〜200℃程度の温度で焼き付ける方法がよい。
【0039】
(3)光触媒含有被膜;
前記クリアー被膜の表面に被覆される光触媒含有被膜は、本発明のプレコート金属板に新たな機能、つまり、内・外装材料として使用されたときに表面に付着する各種有機物等を分解して清浄化し、表面の美観を永く保持させる機能を付与すために、光触媒活性を有する物質、好ましくは酸化チタン微粒子含有液を用いて不連続状の島状分布となるように形成されるものである。
【0040】
酸化チタンとしては、塗料などの白色顔料であるルチル型酸化チタンが広く知られている。このルチル型酸化チタンも光触媒活性を示すが、本発明で求めている光触媒含有被膜としては、もっと高レベルの光触媒活性を必要とするために、アナターゼ型結晶質酸化チタンを用いることが好ましい。なお、酸化チタン以外にも光触媒活性を示す微粒子としては、例えば、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化クロム、酸化錫などがあるが、これらは本発明で期待しているような高いレベルの光触媒特性が得られるものではない。なお、アナターゼ型結晶質酸化チタンとしては、0.001〜0.2μm程度の粒子径のものが塗装性および光触媒特性の両面で最適である。このようなアナターゼ型結晶質酸化チタンとしては、例えば石原産業(株)製のST−01、ST−21、St−30Lなどがあげられる。
【0041】
前記アナターゼ型結晶質酸化チタンは一般に、紫外線領域の短波長の光に対して活性を示す。従って、プレコート金属板を外装部材に適用する場合、太陽光の紫外線により光触媒特性を生ずるので問題はないが、もしこれを太陽光の照射がほとんどない内装部材等に使用する場合は、可視光応答型のアナターゼ型結晶質酸化チタンを用いることが好ましい。その可視光応答型酸化チタンとしては、窒素や硫黄あるいは炭素をドープした酸化チタン、酸素欠乏型の酸化チタン、色素増感型の酸化チタン、金属担持型の酸化チタン等を用いることができる。
【0042】
なお、この光触媒含有被膜には、上記のようなアナターゼ型結晶質酸化チタンのほかに、非晶質酸化チタンを配合することもできる。この非晶質酸化チタンを混合すると、塗装薬液としての安定性が向上し、光触媒含有被膜のバインダーとしての作用や皮膜の加工性や耐久性を向上させることができる。
【0043】
(4)光触媒含有被膜の形態;
本発明のおいて、前記光触媒含有被膜は、クリアー被膜の表面上にあって、不連続状に、好ましくは島状の分布となるような被覆率を以って形成する。その理由は、クリアー被膜の上に被覆形成されるこの光触媒含有被膜の存在は、干渉色の発生に影響を与えること、光触媒含有被膜自体の加工クラック性の発生に影響を及ぼすこと、あるいは光触媒自体の機能にも影響することになるからである。そこで、これらの影響を考慮した上で、該光触媒含有被膜としては、不連続で島状の分布となるように、面積率にして30%〜95%の被覆率となるようにすることが好ましい。なお、ここでいう被覆率とは、金属板の表面積に対する光触媒含有被膜部分の合計接触面積の割合である。
【0044】
(5)製造方法;
塗装金属板表面へのクリアー被膜および光触媒含有被膜の積層形成方法を、図1に模式的に示す。まず、塗装金属板1の表面(全面)に、ロールコーター2を介してクリアー被膜形成用塗料を均一に塗布する。次いで、第一オーブン3を使って乾燥し焼付けを行う。その後、被覆されたクリアー被膜の上に、塗布装置4によって、光触媒含有液が微細に霧化され、飛行する液滴が分散状態となって被着するようにスプレー塗布し、その後、第二オーブン5で乾燥し焼付けを行う。
【0045】
なお、本発明においては、クリアー被膜についてはこれを乾燥・焼付けすることなく、直ちに光触媒含有液を塗装し、後で一緒に乾燥・焼付けを行うようにしてもよい。ここで、光触媒含有液用塗布装置4は、光触媒粒子を分散含有させた光触媒含有液自体を、分散状態にしてスプレー塗装ができるものであれば特に限定するものではないが、回転霧化式スプレー装置によって微細化分散状態にして塗布する方法が好ましい。
【0046】
光触媒含有液を微細に霧化されて飛行する液滴を分散状態に塗布する方法として、回転霧化式スプレー装置を用いる場合、回転数により塗布される光触媒含有液の液滴径が変化する。例えば、本発明では、回転霧化式スプレー装置の回転数は毎分500回転以上とすることが好ましい。この回転数が毎分500回転未満では、液滴径が不均一になるため好ましくない。より好ましい回転数は毎分1000回転以上である。また、スプレーガンを用いる場合は、ノズル径やガス圧を調整して、液滴径が均一になるようにすることが好ましい。この場合、島状に分布している光触媒含有被膜の個々の島の大きさは、回転数やノズル径、ガス圧等を調整して0.1〜10mm程度の大きさになるような液滴径にすることが好ましい。
【0047】
これらの方法に対し、例えば従来のように、連続塗装ラインでロール塗布法などで被膜(クリアー被膜、光触媒含有被膜)を連続状に塗布形成した場合、膜厚のバラツキやロービングやチヤターマークなどの塗布むらによって干渉色が筋状に見えて美観が低下する。しかも、得られた被膜は、柔軟性に乏しくい光触媒含有被膜が連続被膜であるため、プレコート金属板として必要な加工性が得られず、好ましくない。
【0048】
本発明において、島状分布となる前記光触媒含有被膜の付着量は特に規定しないが、好ましい光触媒特性を発揮し、該被膜自体の白濁化や塗布むら等の発生を抑制するという観点から、TiO換算で、20mg/m以上2000mg/m以下の範囲内の付着量にすることが望ましい。より好ましい光触媒含有被膜の付着量は、TiO換算の付着量で50mg/m以上500mg/m以下である。
【0049】
前記光触媒含有被膜中には、酸化チタン微粒子からなる光触媒含有物の他、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、などの金属の酸化物や化合物、あるいはリン酸化合物の1種または2種以上の無機化合物を被膜形成のバインダーや添加剤として含むものでもよい。また、この層については、樹脂などの有機物をバインダーとして添加することも考えられるが、光触媒活性による分解が不可避となるため好ましくない。
【0050】
また、前記光触媒含有被膜には、さらに、色調を変えない範囲内で、抗菌剤、活性炭やゼオライトなどの吸着剤などを添加することにより、美観耐久性、抗菌性などの機能をより高めることは有益である。
【0051】
上述の被膜(クリアー被膜、光触媒含有被膜)は、塗装金属板の少なくとも片面に形成されるものが好ましいが、両面に同一の被膜構造のものを形成してもよい。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
a.基板表面に、着色樹脂層を有する塗装金属板(A)として、板厚0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼帯(JIS G 3302、SGCC Z25)を、連続塗装ライン内において、ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂とが質量比で80:20に調整されたオルガノゾル系焼付け型フッ素樹脂「プレカラーNo.8800(BASFコーティングスジャパン(株)製)」に対し、着色顔料として酸化チタンと焼成ブラックを、そして、表面調整用に焼成シリカを混合してなる塗料(a−1)を、乾燥後の塗膜厚が略21μmとなるように形成した光沢値25の塗装溶融亜鉛めっき鋼帯着色樹脂塗膜が塗布された塗装金属板(A)を準備した。
b.次いで、上記の塗装金属板(コイル状)を、図1に示す塗装ラインで、アクリル成分として、n−ブチルアクリレートとメチルメタクリレート、シリコン成分としてγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランからなる重量平均分子量が約2万のアクリルシリコン樹脂溶液(b−1)を、乾燥後の膜厚が0.8μmとなるようにロール塗装装置2によって均一に塗布した後、第一オーブン3で最高到達温度180℃となるように乾燥・焼付け処理して、クリアー被膜(B)を形成した。
c.次いで、アナターゼ型酸化チタンとして、石原産業(株)製ST−21を固形分比で20質量%になるように、非晶質酸化チタン分散液「日本パーカライジング(株)製PTI−5600」に混合した薬液(c−1)を、付着量がTiO換算で100mg/mとなるように、回転式霧化スプレー装置4にて島状に塗布した後、第二オーブン5にて最高到達温度200℃で乾燥し、島状の光触媒含有被膜(C)を形成した。
【0053】
回転式霧化スプレー装置は、旭サナック(株)製のものを使用し、回転数を3000rpmとした。このときの光触媒含有被膜(C)の被覆率は約60%であった。
【0054】
上記のようにして得られたプレコート鋼帯(No.1)を下記の各種試験に供した。その結果を、表1に併せて示す。
【0055】
(実施例2〜9)
実施例1に対し、着色樹脂層が塗布された塗装金属板(A)、クリアー被膜(B)、光触媒含有被膜(C)、およびクリアー被膜(B)処理後の乾燥、焼付けの有無のいずれかを、代えたこと以外は、実施例1と同じ条件で本発明のプレコート鋼帯(No.2〜7)を得た。その試験結果を表1に示す。
【0056】
(比較例)
塗装金属板(A)、クリアー被膜(B)、光触媒含有被膜(C)の条件を表1に示す本発明適合範囲を外れる条件としたこと以外は、実施例1〜9と同じ条件、方法でプレコート鋼帯(No.8〜12)を得た。その試験結果を表1に併せて示す。
【0057】
(試験・評価方法)
(1)外観均一性
得られたプレコート鋼板の外観について目視にて評価を行った。
○:白濁化や干渉色むら等の発生がなく外観良好
△:若干白濁化や干渉色が発生
×:白濁化や干渉色が発生
【0058】
(2)曲げ加工性
20℃の室内にて試験板と同厚の板2枚をはさみ180°の折り曲げを行い、凸部における塗膜のクラック発生状態を目視にて評価した。
◎:クラックを認めない
○ :クラックをわずかに認める
△:クラックが明らかに発生
×:クラックが激しく発生
【0059】
(3)曲げ密着性
20℃の室内にて試験板と同厚の板2枚をはさみ180°の折り曲げを行い、凸部に対しセロハンテープ(ニチバン製)を貼付してテープ剥離試験を行い、塗膜が剥離した面積を評価した。つまり、この数が小さいほど塗料の加工部の付着性が優れることとなる。
○:剥離なし
△:剥離率30%未満
×:剥離率30%以上
【0060】
(4)耐候性
以下の条件で促進耐候性試験を1000時間実施し、外観を評価した。
◎:色調・光沢変化をほとんど認めない
○:色調・光沢変化をわずかに認める
△:色調・光沢変化を明らかに認める
×:激しい白亜化など色調・光沢変化を著しく認める
〔促進耐候性試験条件〕
サンシャインカーボンアーク灯の数:1灯(フィルターは用いない)
電源電圧 :単相交流180〜230V
消灯−照射のサイクル :60分−60分
照射時の条件
ブラックパネル温度計の示す温度:63±3%
相対湿度 :(50±5)%
消灯時の条件
空気温度 :30℃
相対湿度 :98%以上
試験片裏面への冷却水の温度 :約7℃
試験片表面への水の噴射 :行わない
試験片表面が受ける放射照度 :300〜700nmについて285±50W/m
【0061】
(5)美観耐久性
200mm×300mmに切断した試験板を、(a)道路隣接の建物の壁(地上約1mの高さ)、(b)水田に隣接の小屋の壁(地上に接触)に、垂直の状態でそれぞれ6ケ月間暴露し、その後の外観を評価した。
○:表面の付着物がほとんどなく美観を維持
△:表面が軽度に付着物に覆われ初期の美観がほぼ消失
×:洗浄しても除去できないレベルの激しい付着物(藻類などの生物、カーボンなど)が存在し初期の美観が消失
【0062】
表1に示す試験結果からわかるように、
(1)クリアー被膜(B)を形成しないNo.8および塗料成分が本発明不適合の例であるNo.12は、耐候性試験による外観変化(耐候性劣化)が発生し、
(2)光触媒含有被膜(C)を形成しないNo.9、あるいは光触媒活性のある酸化チタンを含有していない塗料を用いたNo.11は、暴露試験後の美観が大きく低下し、
(3)光触媒含有被膜(C)が島状ではなく連続被膜であるNo.10は、干渉色の発生があり外観均一性に劣るとともに加工性が低下
する傾向を示した。
これに対し、本発明方法に適合する条件で製造されたNo.1〜No.7の各発明例では全てにおいて優れた特性が得られた。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、電気機器製品用部材、車輌用部材、建築物の内・外装材、屋外構造物など、特に、風・雨・粉塵・排ガスに曝される部材に適用して有用な技術である。
【符号の説明】
【0065】
1 塗装金属板
2 ロールコーター
3 第1オーブン
4 スプレー塗装装置
5 第2オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色樹脂層によって被覆された塗装金属板の少なくとも一方の表面に、ケイ素化合物を主成分とするクリアー塗料を塗布してクリアー被膜を形成し、次いで、そのクリアー被膜の表面に、酸化チタン微粒子を含有する光触媒含有液の液滴が分散状態になるようにスプレー塗布し、その後、乾燥し、焼付けることにより、不連続状の光触媒含有被膜を被覆形成することを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【請求項2】
前記スプレー塗布は、光触媒含有液を微細に霧化して液滴が分散状態となるように噴射させることのできる回転式霧化スプレー装置にて行うことを特徴とする請求項1に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒含有被膜が、30〜95%の被覆率で島状に分散した被覆であることを特徴とする請求項1または2に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項4】
前記酸化チタン微粒子が、アナターゼ型結晶質酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項5】
前記クリアー被膜の膜厚が、0.2μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素化合物が、アクリルシリコン樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプレコート金属板の製造方法。
【請求項7】
前記スプレー塗布、乾燥、焼付けの処理が、連続コイル塗装ラインで行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のプレコート金属板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−221109(P2010−221109A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70136(P2009−70136)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】