説明

プレストレストコンクリート構造物の構築方法

【課題】 PCタンク等の施工時に、側壁に円周方向のプレストレス力を導入する際に、側壁と底版との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくする。
【解決手段】 底版6を外周部7と中央部10とに分割して施工し、外周部7を施工する際に、外周部7を支持する基礎杭2の杭頭部3と外周部7との間に間隙19を形成し、この後に、側壁12を施工して外周部7と剛結合し、この後に、側壁12にプレストレス力を導入し、間隙19内に充填材23を充填して、杭頭部3と前記外周部7とを剛結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート構造物の構築方法に関し、特に、複数の基礎杭と、基礎杭の杭頭部に剛結合される底版と、底版の外周部に剛結合される円筒状の側壁とを備えた有底円筒形状のプレストレストコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LNGタンク等のタンクは、劣化等によってタンクに亀裂が生じた場合、タンンクエリア外部に内容物が漏洩するのを防止するため、タンクの外側に隣接した状態でプレストレストコンクリート構造物を設置し、内容物がプレストレストコンクリート構造物の外側に漏洩するのを防止している。
【0003】
この種のプレストレストコンクリート構造物の一例として、複数の基礎杭と、基礎杭に剛結合される円板状の底版と、底版の外周部に剛結合される円筒状の側壁とによって構成した有底円筒形状のプレストレストコンクリート構造物が知られている。
【0004】
上記のような構成のプレストレストコンクリート構造物は、底版及び側壁を施工して両者を剛結合した後に、予め側壁の円周方向に埋設しておいたシース管にPCストランド等の緊張材を通し、この緊張材に緊張力を付与することで側壁に円周方向のプレストレス力を導入し、側壁にひび割れが生じるのを防止している。
【0005】
しかし、上記のような構成のプレストレストコンクリート構造物は、底版と側壁とが剛結合されているため、側壁に円周方向のプレストレス力を導入した場合、底版の拘束を受けることで底版と側壁との接合部に大きな鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)が生じてしまう。
【0006】
このため、予め側壁の鉛直方向にも多数のシース管を埋設しておき、このシース管に緊張材を通して緊張力を付与することで側壁に鉛直方向のプレストレス力を導入する必要があり、側壁へのプレストレス力の導入に手間と時間と費用がかかる。
【0007】
一方、底版の拘束を小さくして、底版と側壁との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメントを緩和するため、底版を外周部と中央部とに分割し、側壁にプレストレス力を導入した後に、底版の外周部と中央部とを接続するように構成した方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特公平7−84810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のような方法にあっては、側壁に円周方向のプレストレス力を導入する際に、側壁及び底版の外周部を縮径方向にある程度は変位させることができるが、底版の外周部と基礎杭とが剛結合されているため、基礎杭の拘束により、底版と側壁との接合部に鉛直方向の曲げモーメントが生じるのは避けられず、その曲げモーメントに抵抗するプレストレス力を側壁に導入しなければならず、その作業に手間と時間と費用がかかる。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、基礎杭による拘束をなくすことで、側壁と底版との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメントを極めて小さくすることができ、これにより、側壁にプレストレス力を導入する際の手間と時間と費用を削減することができる、プレストレストコンクリート構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、複数の基礎杭と、該複数の基礎杭によって支持されるとともに、前記基礎杭と剛結合される底版と、該底版の外周部に立設されるとともに、前記底版の外周部と剛結合される円筒状の側壁とを備え、前記側壁に周方向のプレストレス力が導入されるプレストレストコンクリート構造物の構築方法において、前記底版を外周部と中央部とに分割して施工し、前記外周部を施工する際に、前記外周部を支持する前記基礎杭の杭頭部と前記外周部との間に間隙を形成し、この後に、前記側壁を施工して前記外周部と剛結合し、前記側壁にプレストレス力を導入し、前記外周部が縮径方向に変位した後に、該間隙内に充填材を充填して、前記杭頭部と前記外周部とを剛結合することを特徴とする。
【0011】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、底版の外周部を施工する際に、基礎杭の杭頭部と外周部との間に間隙を形成し、この後に、側壁を施工して外周部と剛結合し、この後に側壁に円周方向のプレストレス力を導入する。
この場合、基礎杭の杭頭部と底版の外周部との間には間隙が設けられているので、プレストレス力の導入時に、側壁及び底版の外周部の縮径方向への変位が基礎杭によって拘束されることがなく、底版の外周部と側壁との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができる。
そして、側壁にプレストレス力を導入した後に、基礎杭の杭頭部と外周部との間の間隙内に充填材を充填することにより、基礎杭の杭頭部と底版の外周部とを剛結合することができる。
【0012】
また、本発明は、前記外周部を施工する際に、前記基礎杭の杭頭部に上端が閉塞された円筒状のスペーサ部材を被嵌させ、該スペーサ部材の内面と前記基礎杭の杭頭部の外面との間に前記間隙を形成することとしてもよい。
【0013】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、底版の外周部を施工する際に、基礎杭の杭頭部にスペーサ部材を被嵌させて、スペーサ部材の内面と基礎杭の杭頭部の外面との間に間隙を形成し、この状態で底版の外周部を施工して底版の外周部とスペーサ部材の外面とを剛結合し、この後に、側壁を施工して底版の外周部と剛結合し、側壁にプレストレス力を導入する。
この場合、基礎杭の杭頭部の外面とスペーサ部材の内面との間には間隙が設けられているので、プレストレス力の導入時に、側壁及び底版の外周部の縮径方向への変位が基礎杭によって拘束されることがなく、底版の外周部と側壁との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができる。
そして、側壁にプレストレス力を導入した後に、基礎杭の杭頭部の外面とスペーサ部材の内面との間隙内に充填材を充填することにより、基礎杭の杭頭部の外面とスペーサ部材の内面とを剛結合することができ、基礎杭と底版の外周部とをスペーサ部材を介して剛結合することができる。
【0014】
また、本発明において、前記スペーサ部材の内面と前記基礎杭の杭頭部の外面との間の間隙を、プレストレス力の導入による前記側壁の変位量よりも大きく設定することとしてもよい。
【0015】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、基礎杭の杭頭部の外面とスペーサ部材の内面との間の間隙は、プレストレス力の導入による側壁の変位量よりも大きく設定されているので、側壁にプレストレス力を導入する際に、側壁の変位が基礎杭の拘束によって妨げられるようなことはなく、側壁と底版の外周部との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができる。
【0016】
さらに、本発明において、前記杭頭部の上端面と前記スペーサ部材の閉塞されている上端内面との間に、前記スペーサ部材と前記杭頭部とを水平方向に相対移動可能に支承する支承部材が介装されていることとしてもよい。
【0017】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、スペーサ部材の閉塞されている上端内面と杭頭部の上端面との間には支承部材が介装されているので、側壁にプレストレス力を導入する際に、底版の鉛直荷重が基礎杭の杭頭部にかかった場合でも、基礎杭と底版の外周部及び側壁とを円滑に相対移動させることができる。
【0018】
さらに、本発明において、前記スペーサ部材に、前記間隙内に充填材を注入するための注入管と、前記間隙内に該充填材を注入する際に、前記間隙から空気を排出させるための空気抜き管とが設けられていることとしてもよい。
【0019】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、側壁にプレストレス力を導入した後に、注入管を介してスペーサ部材の内面と基礎杭の杭頭部の外面との間の間隙内に充填材を注入することにより、間隙内の空気が空気抜き管を介して外部に排出され、間隙に充填材が充填され、充填材によってスペーサ部材の内面と基礎杭の杭頭部の外面との間が剛結合され、基礎杭と底版の外周部とがスペーサ部材を介して剛結合されることになる。
【0020】
さらに、本発明は、前記底版の外周部と中央部との間に所定の間隙を設け、前記外周部及び前記中央部を施工した後に、前記間隙内に前記外周部と前記中央部とを一体に接合する中間部を施工することとしてもよい。
【0021】
本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、側壁にプレストレス力を導入し、基礎杭と底版の外周部とを剛結合した後に、底版の外周部と中央部との間隙内に中間部を施工することにより、外周部と中央部とが中間部を介して一体に接合され、外周部と中間部と中央部とを一体化した底版が構築されることになる。この場合、中央部を外周部と並行して施工することにより、工期の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によれば、基礎杭の杭頭部と底版の外周部との間に間隙を設けることで、側壁にプレストレス力を導入する際に、側壁及び底版の外周部の縮径方向への変位に対する基礎杭の拘束を極めて小さくすることができる。
従って、側壁と底版との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができるので、側壁に導入する鉛直方向のプレストレス力を小さくすることができ、側壁にプレストレス力を導入する際の手間、時間、費用を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図5には、本発明によるプレストレストコンクリート構造物の構築方法の一実施の形態が示されている。図1はプレストレストコンクリート構造物を含むタンクの全体を示す概略断面図、図2は図1の部分拡大断面図、図3及び図4はプレストレストコンクリート構造物の施工手順を示す説明図、図5は図4の部分拡大図である。
【0024】
図1に示すように、タンク25は、例えば、内部にLNG等の内容物が収容される、上下端が閉塞された円筒状の金属製の内容器26と、内容器26の外側に隣接した状態で設けられる、外容器である有底円筒状の本実施の形態のプレストレストコンクリート構造物1とから構成されている。
なお、本実施の形態においては、プレストレストコンクリート構造物1を有底円筒状としているが、プレストレストコンクリート構造物1を内容器26の全体を覆う上下端が閉塞された円筒状としてもよい。
【0025】
本実施の形態のプレストレストコンクリート構造物1は、図1及び図2に示すように、複数の基礎杭2と、複数の基礎杭2によって支持されるとともに、複数の基礎杭2に剛結合されるコンクリート製の円板状の底版6と、底版6の外周部7に立設されるとともに、外周部7に剛結合されるコンクリート製の円筒状の側壁12とを備えている。
【0026】
上記のような構成のプレストレストコンクリート構造物1は、(1)「基礎杭の構築工程」、(2)「底版の外周部の構築工程」、(3)「側壁の構築工程」、(4)「側壁のプレストレス力導入工程」、(5)「底版の外周部と基礎杭との接合工程」(6)「底版の中央部の構築工程」を経て構築される。
【0027】
以下、各工程について説明する。
(1)基礎杭の構築工程
まず、図1及び図2に示すように、プレストレストコンクリート構造物1の構築場所に複数の基礎杭2を構築する。基礎杭2は、構築場所の地盤にコンクリート杭、鋼管杭等の既製杭を打ち込んで構築してもよいし、構築場所の地盤を削孔し、削孔した後にコンクリートを打設することよって構築してもよい。
【0028】
次に、図3に示すように、複数の基礎杭2のうち、底版6の外周部7を支持する基礎杭2の杭頭部3にそれぞれスペーサ部材15を被嵌させる。
スペーサ部材15は、上端が閉塞された円筒状の鋼管であって、基礎杭2の杭頭部3に被嵌させることにより、スペーサ部材15の内面17と基礎杭2の杭頭部3の外面4との間に所定の間隙19が形成される。
【0029】
この場合、側壁12へのプレストレス力の導入の際に、底版6の外周部7の変位方向後方側の間隔が大きくなるように、スペーサ部材15の内面17と杭頭部3の内面4の間の間隙19を設定する。
【0030】
本実施の形態においては、スペーサ部材15の内面17と基礎杭2の杭頭部3の外面4との間に30〜50mm程度の間隙19が形成されるように、スペーサ部材15の内径を設定している。また、基礎杭2の杭頭部3の外径をDとした場合に、杭頭部3の底版6の外周部7への呑み込み長さが1D以上となるように、スペーサ部材15の全長を設定している。
【0031】
スペーサ部材15の閉塞されている上端内面18と基礎杭2の杭頭部3の上端面5との間には支承部材20が介装され、この支承部材20により、底版6の鉛直荷重が基礎杭2の杭頭部3にかかった場合でも、基礎杭2に対して底版6の外周部7及び側壁12を水平方向に円滑に相対変位させることができる。
【0032】
支承部材20としては、例えば、四フッ化エチレン樹脂等の樹脂シート、樹脂板、各種ゴムシート、ゴム板、各種の金属シート、金属板等の用いることができる。要は、基礎杭2の杭頭部3とスペーサ部材15との間の摩擦係数を低減させることができる材質のものであればよい。
なお、スペーサ部材15の上端内面18と基礎杭2の杭頭部3の上端面5との間に十分な隙間が有る場合には、それらの間に支承部材20を設ける必要はないものである。
【0033】
スペーサ部材15には、注入管22と空気抜き管21が接続され、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入した後に、この注入管22と空気抜き管21を利用してスペーサ部材15と基礎杭2の杭頭部3との間の間隙19内にグラウト等の充填材23(図4及び図5参照)を充填する。注入管22及び空気抜き管21は、複数設けてもよい。注入管22及び空気抜き管21の端部は、底版6の外周部7を構築する際に設置する型枠の外方に引き出しておく。
【0034】
(2)底版の外周部の構築工程
本実施の形態では、図3に示すように、底版6を円環状の外周部7と円板状の中央部10とに分割して構築する。例えば、底版6の外周部7を先に構築し、次に側壁12を構築し、側壁12に円周方向のプレストレスを導入した後に、中央部10を構築する。
【0035】
なお、底版6の外周部7の構築と底版6の中央部10の構築を並行して行ってもよいが、その場合には、外周部7と中央部10との間に作業者が配筋作業等を行うのに十分な間隙を形成しておく。
【0036】
底版6の外周部7を構築するには、型枠を円環状に設置し、この型枠内に鉄筋を所定のパターンで配筋し、スペーサ部材15に接続されている注入管22及び空気抜き管21の端部を型枠の外方に引き出し、この状態で型枠の内部にコンクリート9を打設して固化させる。
【0037】
底版6の外周部7を構築することにより、外周部7と各基礎杭2の杭頭部3に被嵌させた各スペーサ部材15の外面とが一体に接合され、外周部7と各スペーサ部材15の外面とが結合される。
この場合、スペーサ部材15に接続されている注入管22及び空気抜き管21の端部を型枠の外方に引き出しているので、側壁12へのプレストレス力の導入後に、注入管22を介して間隙19内に充填材23を充填することができる。
【0038】
(3)側壁の構築工程
底版6の外周部7を構築した後に、外周部7の上部に円筒状に型枠を設置し、型枠の内部に鉄筋を所定のパターンで配筋するとともに、側壁12に円周方向のプレスト力を導入するための緊張材が挿通されたシース管(図示せず)を複数配置し、必要に応じて側壁12に鉛直方向のプレストレス力を導入するための緊張材が挿通されたシース管(図示せず)を配置し、この状態で型枠の内部にコンクリート9を打設して固化させる。これにより、底版6の外周部7の上部に円筒状の側壁12が剛結合された状態で構築される。
【0039】
なお、側壁12の構築は、底版6の外周部7の構築と同時に行ってもよい。その場合には、底版6の外周部7の型枠と側壁12の型枠とを一緒に組み立て、外周部7の型枠及び側壁12の型枠内に同時にコンクリート9を打設すればよい。
【0040】
(4)側壁へのプレストレス力の導入工程
上記のように側壁12を構築し、側壁12が所定の強度を発現した後に、側壁12の内部に埋設されているシース管に挿通された緊張材(図示せず)に、ジャッキ等を用いて緊張力を付与することにより、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入する。
【0041】
この場合、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入することにより、側壁12は圧縮されて縮径する方向に変位し、側壁12と一体に底版6の外周部7が縮径する方向に変位することになるが、底版6の外周部7と基礎杭2の杭頭部3とはスペーサ部材15の内面側の間隙19によって縁切りされた状態となっているので、基礎杭2の拘束により、側壁12及び底版6の外周部7の底版6の径方向への変位が妨げられるようなことはない。
【0042】
また、スペーサ部材15の内面側の間隙19は、プレストレス力の導入による側壁12及び底版6の外周部7の変位量よりも大きく設定されているので、側壁12及び底版6の外周部7を十分に変位させることができ、側壁12と底版6の外周部7との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁12の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができる。
【0043】
さらに、スペーサ部材15の上端内面18と基礎杭2の杭頭部3の上端面5との間には支承部材20が介装されているので、底版6の自重が基礎杭2の杭頭部3にかかった場合でも、基礎杭2に対して側壁12及び底版6の外周部7を円滑に相対移動させることができる。
【0044】
(5)底版の外周部と基礎杭との接合工程
図5に示すように、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入した後に、注入管22から各スペーサ部材15の内面側の間隙19内にグラウト等の充填材23を注入し、間隙19内に充填材23を充填して各スペーサ部材15と各基礎杭2の杭頭部3とを結合する。この場合、注入管22から間隙19内に注入した充填材23が空気抜き管21から排出されるのを目視することにより、間隙19内に充填材23が充填されたか否かの確認をすることができ、各スペーサ部材15と各基礎杭2の杭頭部3とを確実に結合することができる。
【0045】
(6)底版の中央部の構築工程
図4に示すように、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入した後に、底版6の中央部10に鉄筋を所定のパターンで配筋し、コンクリート9を打設して固化させる。これより、底版6の外周部7の内側に中央部10を構築することができ、外周部7と中央部10とを一体化した円板状の底版6を構築することができる。
【0046】
なお、底版6の外周部7と中央部10との間に隙間を形成し、外周部7及び中央部10を構築した後に、外周部7と中央部10との間の隙間内に鉄筋を配筋し、コンクリートを打設することにより、隙間内に外周部と中央部とを接続する中間部を構築するようにしてもよい。
上記のような各工程を経ることにより、有底円筒状のプレストレストコンクリート構造物1を構築することができる。
【0047】
上記のように構成した本実施の形態によるプレストレストコンクリート構造物1の構築方法にあっては、底版6を外周部7と中央部10とに分割して構築し、底版6の外周部7に設けたスペーサ部材15の内面側の間隙19によって底版6の外周部7と基礎杭2の杭頭部3とを縁切りした状態とし、この状態で側壁12に円周方向のプレストレス力を導入するように構成したので、側壁12及び底版6の外周部7が導入するプレストレス力に応じて変位する際に、基礎杭2による拘束を受けないようにすることができる。
【0048】
従って、側壁12に円周方向のプレストレス力を導入した場合に、側壁12と底版6の外周部7との接合部に生じる鉛直方向の曲げモーメント(側壁12の鉛直断面に対する曲げモーメント)を極めて小さくすることができるので、側壁12に導入する鉛直方向のプレストレス力を極めて小さくすることができ、側壁12へのプレストレス力の導入に要する手間、時間、費用を大幅に削減することができる。
【0049】
なお、前記の説明においては、基礎杭2の杭頭部3にスペーサ部材15を被嵌させることにより、基礎杭2の杭頭部3と底版6の外周部7との間に間隙19を形成したが、スペーサ部材15に限らず、基礎杭2の杭頭部3と底版6との間に間隙19を形成できる周知の方法を適用してもよい。
【0050】
また、前記の説明においては、LNG等の内容物が収容された金属製の内容器26からの内容物の漏洩を防止する有底円筒状のプレストレストコンクリート構造物1を対象したが、これに限らず、円周方向のプレストレス力を導入するプレストレストコンクリート構造物、例えば、水タンク等にも本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明による一実施の形態のプレストレストコンクリート構造物の構築方法によって構築されたプレストレストコンクリートを含むタンクの全体を示す概略断面図である。
【図2】図1の部分拡大断面図である。
【図3】プレストレストコンクリート構造物の施工手順を示す説明図である。
【図4】プレストレストコンクリート構造物の施工手順を示す説明図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 プレストレストコンクリート構造物(外容器)
2 基礎杭 3 杭頭部
4 外面 5 上端面
6 底版 7 外周部
9 コンクリート 10 中央部
12 側壁 15 スペーサ部材
17 内面 18 上端内面
19 間隙 20 支承部材
21 空気抜き管 22 注入管
23 充填材 25 タンク
26 内容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基礎杭と、該複数の基礎杭によって支持されるとともに、前記基礎杭と剛結合される底版と、該底版の外周部に立設されるとともに、前記底版の外周部と剛結合される円筒状の側壁とを備え、前記側壁に周方向のプレストレス力が導入されるプレストレストコンクリート構造物の構築方法において、
前記底版を外周部と中央部とに分割して施工し、前記外周部を施工する際に、前記外周部を支持する前記基礎杭の杭頭部と前記外周部との間に間隙を形成し、この後に、前記側壁を施工して前記外周部と剛結合し、前記側壁にプレストレス力を導入し、前記外周部が縮径方向に変位した後に、該間隙内に充填材を充填して、前記杭頭部と前記外周部とを剛結合することを特徴とするプレストレストコンクリート構造物の構築方法。
【請求項2】
前記外周部を施工する際に、前記基礎杭の杭頭部に上端が閉塞された円筒状のスペーサ部材を被嵌させ、該スペーサ部材の内面と前記基礎杭の杭頭部の外面との間に前記間隙を形成することを特徴とする請求項1に記載のプレストレストコンクリート構造物の構築方法。
【請求項3】
前記スペーサ部材の内面と前記基礎杭の杭頭部の外面との間の間隙は、プレストレス力の導入による前記側壁の変位量よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項2に記載のプレストレストコンクリート構造物の構築方法。
【請求項4】
前記杭頭部の上端面と前記スペーサ部材の閉塞されている上端内面との間には、前記スペーサ部材と前記杭頭部とを水平方向に相対移動可能に支承する支承部材が介装されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のプレストレストコンクリート構造物の構築方法。
【請求項5】
前記スペーサ部材には、前記間隙内に該充填材を注入するための注入管と、前記間隙内に前記充填材を注入する際に、前記間隙から空気を排出させるための空気抜き管とが設けられていることを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載のプレストレストコンクリート構造物の構築方法。
【請求項6】
前記底版の外周部と中央部との間に所定の間隙を設け、前記外周部及び前記中央部を施工した後に、前記間隙内に前記外周部と前記中央部とを一体に接合する中間部を施工することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のプレストレストコンクリート構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−156132(P2010−156132A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334413(P2008−334413)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】