説明

プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法及び破断検知システム

【課題】プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断を検知する。
【解決手段】プレストレストコンクリート構造物(10)に圧縮応力を与えるPC鋼材(12A−12H)の破断を検知する方法であって、プレストレストコンクリート構造物(10)に導電材パターン(16A−16F)を形成し、導電材パターン(16A−16F)の電気抵抗を測定し、前記電気抵抗の増加に基づいてプレストレストコンクリート構造物(10)のひび割れを検知し、前記ひび割れに基づいて前記PC鋼材(12A−12H)の破断を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断を検知する検知方法及び破断検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図5(A)に示すように、プレストレストコンクリート(Prestressed Concrete)桁(以下、PC桁と称する。)100は、プレストレストコンクリート体(以下、PC体と称する。)101と、PC体101の内部を貫通するシース102と、シース102の中に通したPC鋼材103と、シース102に充填されたグラウト104を有する。そして、PC鋼材103に引張り応力F1を加えることで、PC鋼材103はPC体101に圧縮応力F2を付与する。この圧縮応力F2はPC体101に加わる引張応力に対抗する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、図5(B)に示すように、A1で示す箇所でグラウトの充填不良があると、シース102内に水や空気が入る。この水、空気は、PC鋼材103を腐食させる。腐食が進み、PC鋼材103が破断すると、PC体101に加わる圧縮応力が低下する。これにより、PC体101にひび割れC11が発生する。
【0004】
しかし、PC桁100のひび割れC11からPC鋼材103の破断等を推定する技術は存在しなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断を検知するプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法及び破断検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明を実施形態に限定するものでない。
【0007】
本発明の第1の特徴に係わるプレストレストコンクリート構造物(10)に圧縮応力を与えるPC鋼材(12A−12H)の破断を検知する方法であって、プレストレストコンクリート構造物(10)に導電材パターン(16A−16F)を形成し、導電材パターン(16A−16F)の電気抵抗を測定し、前記電気抵抗の増加に基づいてプレストレストコンクリート構造物(10)のひび割れを検知し、前記ひび割れに基づいて前記PC鋼材(12A−12H)の破断を決定する。
【0008】
以上の第1の特徴において、前記ひび割れの幅に基づいてPC鋼材(12A−12H)の破断量を決定する。
【0009】
前記ひび割れの箇所に基づいてPC鋼材(12A−12H)の破断箇所を決定する。
【0010】
複数のひび割れの長さを比較して相対的に長いひび割れを決定し、前記相対的に長いひび割れの箇所又は近傍をPC鋼材(12A−12H)の破断箇所として決定する。
【0011】
本発明の第2の特徴に係わる プレストレストコンクリート構造物(10)のPC鋼材(12A−12H)の破断検知システム(15)は、圧縮応力を与えるPC鋼材(12A−12H)を有するプレストレストコンクリート構造物(10)に形成された導電材パターン(16A−16F)と、導電材パターン(16A−16F)の電気抵抗を計測する抵抗測定器(18)と、導電材パターン(16A−16F)の電気抵抗の増加に基づいてPC鋼材(12A−12H)の破断を決定する制御装置(19)を有する。
【0012】
以上の第2の特徴において、制御装置(19)は、前記ひび割れの幅に基づいてPC鋼材(12A−12H)の破断量を決定する。
【0013】
制御装置(19)は、前記ひび割れの箇所に基づいてPC鋼材(12A−12H)の破断箇所を決定する。
【0014】
制御装置(19)は、ひび割れの長さを比較して相対的に長いひび割れを決定し、前記相対的に長いひび割れの箇所又は近傍をPC鋼材(12A−12H)の破断箇所として決定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特徴によれば、導電材パターンの電気抵抗の増加に基づいてプレストレストコンクリート構造物のひび割れを検知し、このひび割れに基づいてPC鋼材の破断を決定することができる。
【0016】
ひび割れの幅に基づいてPC鋼材の破断量を決定することができる。
【0017】
ひび割れの箇所に基づいてPC鋼材の破断箇所を決定することができる。
【0018】
相対的に長いひび割れの箇所又はその近傍をPC鋼材の破断箇所と決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係るPC桁の側面図である。
【図2】図1に示すII−IIに沿ったPC桁の断面図である。
【図3】ひび割れの入ったPC桁の端部構造の側面図である。
【図4】PC桁のPC鋼材の破断検知システムの概要図である。
【図5】(A)はPC桁の側面図であり、(B)はひび割れの入ったPC桁の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
第1の実施形態
図1に示すように、PC桁10の両端は支承21A、21Bによって支持されたPC体11を有する。図2に示すように、PC体11は、基部11aと、基部11aから上方へ延びる腹部11bと、腹部11bの上に配置されると共に側方へ延びるフランジ部11cを有する。PC体11は内部に配置された鉄筋13A、13B、13C、13Dを有する。
【0022】
図1に示すように、PC桁10は、PC体11内に配置された第1−第8のPC鋼材12A−12Hと、PC体11の表面に配置された第1−第6の導電材パターン16A−16Fを有する。なお、シースおよびグラウトの図示は省略されている。
【0023】
第1−第8のPC鋼材12A−12Hは、それぞれ、両端で引っ張られて、PC体11に圧縮応力を加える。第1−第8のPC鋼材12A−12HはPC鋼線、PC鋼より線、又は、PC鋼棒を含む。
【0024】
PC体11内に配置された第1−第8のPC鋼材12A−12Hは、PC体11に下から上へ順に配置されている。第1−第8のPC鋼材12A−12Hは、PC体11の長手方向の一端部から中央部LCへ向けて長手方向に対して斜めに下がる。第1−第8のPC鋼材12A−12Hは、PC体11の中央部LCで、基部に沿って長手方向に延びる。第1−第8のPC鋼材12A−12Hは、PC体11の中央部LCから他端部へ長手方向に対して斜め上方へ延びる。
【0025】
第1−第6の導電材パターン16A−16Fは、導電塗料を所定のパターンでPC体11の表面に塗布したものである。導電材パターン16A−16FはPC体11の長手方向の端から中心LCへ向かって延び、先端部に凹凸を繰り返した形状を有する。第1−第3の導電材パターン16A、16B、16Cは、第1−第3の導電材パターン16A、16B、16Cの順に下から上へPC体11に配置されている。第1−第3の導電材パターン16A、16B、16Cは、第1−第3の導電材パターン16A、16B、16Cの順でPC体11の長手方向において長くなる。第4−第6の導電材パターン16D、16E、16Fは、第4−第6の導電材パターン16D、16E、16Fの順に下から上へPC体11に配置されている。第4−第6の導電材パターン16D、16E、16Fは、第4−第6の導電材パターン16D、16E、16Fの順にPC体11の長手方向において長くなる。
【0026】
図2、4を用いて、PC桁10のPC鋼材の破断検知システム15を説明する。
【0027】
破断検知システム15は、導電線パターン16A―16Fに絶縁電線17A、17Bで接続した抵抗測定器としてのテスタ18と、テスタ18に電気的に接続した制御装置19を有する。ここで、制御装置19は、ROM、RAM、CPUを有する。ROMは測定及び解析用のプログラムを格納する。RAMは測定データ及び解析データを一時的に格納する。CPUは、測定用及び解析用のプログラムを実行する。
【0028】
次に、PC桁10Aのひび割れとPC鋼材12A−12Hの破断との関係について説明する。図3は、PC桁10Aのひび割れとPC鋼材12A−12Hの破断との関係を調べるための予備実験を説明するためのPC桁10Aの断面図である。
【0029】
図3において、D1−D8で示す意図的に設けた開口部を利用して第1−第8のPC鋼材12A−12Hを切断すると、PC体11に加わる圧縮応力が低下する。これは、A2で示す区間にグラウトの充填不良が発生し、かつ、水や空気の出入りによりPC鋼材の腐食が進み、PC鋼材が破断したことに相当する。これにより、ひび割れC1−C9がPC体11に発生する。
【0030】
すなわち、PC体11内のPC鋼材12A−12Hが一定割合以上で破断すると、PC桁10Aにひび割れが発生することがこの予備実験で確認される。よって、この予備実験の結果をまとめておき、この予備実験の結果と、実際に発生したひび割れを対比することで、PC鋼材12A−12Hの破断を検知することができる。
【0031】
また、予備実験によれば、PC体11のひび割れの幅が大きくなると、PC鋼材12A−12Hの破断量、つまり、破断本数が増加する場合もある。よって、ひび割れの幅とPC鋼材の破断量との相関関係を予備実験で得て、予備実験の結果とひび割れの幅とを対比
することで、PC鋼材12A−12Hの破断量を決定することができる。
【0032】
また、PC桁10のひび割れの箇所とPC鋼材の破断箇所との相関関係を予備実験で得て、この予備実験の結果とひび割れの箇所とを対比することでPC鋼材12A−12Hの破断箇所を決定することができる。
【0033】
このように、本発明は、PC桁の表面に発生するひび割れとPC桁の内部のPC鋼材の破断とに一定の関係があることに着目し、PC桁の表面に発生するひび割れとPC鋼材の破断との関係を示すデータを予め種々の予備実験により蓄積し、この蓄積されたデータを基に実際に現場で生じたひび割れと比較することにより、PC桁を破壊することなく、その内部のPC鋼材の破断を検知することができる。
【0034】
次に、PC桁10のPC鋼材12A−12Hの破断検知方法をより具体的に説明する。
【0035】
図1において、例えば、第2の導電材パターン16Bを選択する。図2において、第2の導電材パターン16B、16Bに絶縁電線17A、17Bを接続し、第2の導電材パターン16Bの電気抵抗を抵抗測定器としてのテスタ18で監視する。ここで、ひび割れが第2の導電材パターン16Bの測定区間を横切っていると、測定区間の電気抵抗が増加する。制御装置19は、電気抵抗の所定の増加に基づいて測定区間におけるひび割れの発生を決定する。そして、制御装置19は、ひび割れと予備試験で得たデータとに基づいてPC鋼材12A−12Hの破断を決定する。
【0036】
また、ひび割れの幅を測定する。制御装置19は、ひび割れの幅と予備実験で得たデータとに基づいてPC鋼材12A−12Hの破断量を決定する。さらに、ひび割れの箇所を確認する。制御装置19は、ひび割れの箇所と予備実験で得たデータとに基づいて、PC鋼材12A−12Hの破断箇所を決定する。
【0037】
さらに、テスタ18を用いて、残りの第1の導電材パターン16A、第3−第6の導電材パターン16C−16Fの電気抵抗を測定する。同様に、制御装置19はPC鋼材12A−12Hの破断、破断量、破断箇所を予備実験で得たデータに基づき決定する。
【0038】
以上の実施形態によれは、第1−第6の導電線パターン16A−16Fの電気抵抗の増加に基づいてひび割れを検知し、このひび割れに基づいてPC鋼材12A−12Hの破断を検知することができる。
【0039】
ひび割れの幅に基づいてPC鋼材12A−12Hの破断量を決定することができる。
【0040】
ひび割れの箇所に基づいてPC鋼材12A−12Hの破断箇所を決定することができる。
【0041】
第2の実施形態
この実施形態では、ひび割れの長さを相対的に比較することにより、PC鋼材12A−12Hの破断箇所を検知する。
【0042】
図3に示す予備実験によれば、A2で示す部位及び近傍のひび割れC1−C3は、その他の部位のひび割れC4−C9より長くなる傾向があった。それは、PC鋼材12A−12Hの破断により、A2で示す部位のPC体11の強度が他の部位よりも低下するからである。よって、PC鋼材12A−12Hの破断箇所及びその近傍のひび割れC1−C3の長さは、他の部位のひび割れC4−C9の長さより大きくなるため、この特性を用いて破断箇所を決定することもできる。
【0043】
次に、PC鋼材12A−12Hの破断箇所の検知方法をより具体的に説明する。
【0044】
検知された複数のひび割れの長さを測定する。制御装置19は複数のひび割れの長さを比較し、相対的に長いひび割れを決定する。制御装置19は相対的に長いひび割れの箇所又はその近傍をPC鋼材12A−12Hの破断箇所として決定する。
【0045】
本実施形態によれば、相対的に長いひび割れの箇所又はその近傍をPC鋼材12A−12Hの破断箇所として決定することができる。
【0046】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、また、各実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。PC鋼材の破断箇所および破断量からPC桁の残存耐力評価方法を用いて、残存耐力を推定してもよい。また、本発明は、PC桁に限らず、あらゆるPC構造物に適用可能である。また、例えば、PC桁の表面に形成する導電材パターンは、特に限定されず、PC桁の形状、内部のPC鋼材の本数や位置等により、任意に設計可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 PC桁
11 PC体
12A−12H 第1−第8のPC鋼材
15 PC鋼材の破断検知システム
16A−16F 第1−第6の導電材パターン
18 テスタ
19 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリート構造物に圧縮応力を与えるPC鋼材の破断を検知する方法であって、
プレストレストコンクリート構造物に導電材パターンを形成し、
導電材パターンの電気抵抗を測定し、
前記電気抵抗の増加に基づいてプレストレストコンクリート構造物のひび割れを検知し、
前記ひび割れに基づいて前記PC鋼材の破断を決定する、
プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法。
【請求項2】
前記ひび割れの幅に基づいて前記PC鋼材の破断量を決定する、
請求項1に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法。
【請求項3】
前記ひび割れの箇所に基づいて前記PC鋼材の破断箇所を決定する、
請求項1又は2に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法。
【請求項4】
複数のひび割れの長さを比較して相対的に長いひび割れを決定し、
前記相対的に長いひび割れの箇所又は近傍をPC鋼材の破断箇所として決定する、
請求項1乃至3の何れかに記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知方法。
【請求項5】
圧縮応力を与えるPC鋼材を有するプレストレストコンクリート構造物に形成された導電材パターンと、
導電材パターンの電気抵抗を計測する抵抗測定器と、
導電材パターンの電気抵抗の増加に基づいてPC鋼材の破断を決定する制御装置を有する、
プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記ひび割れの幅に基づいて前記PC鋼材の破断量を決定する、請求項5に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ひび割れの箇所に基づいて前記PC鋼材の破断箇所を決定する、請求項5又は6に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知システム。
【請求項8】
前記制御装置は、ひび割れの長さを比較して相対的に長いひび割れを決定し、前記相対的に長いひび割れの箇所又は近傍をPC鋼材の破断箇所として決定する、請求項5乃至7の何れかに記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材の破断検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−180063(P2011−180063A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46454(P2010−46454)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】