説明

プレストレストハイブリット床版の製造方法及びその方法による床版

【課題】床版の長さを従来の角形鋼管を使用した床版の限界長を延長できるようにし、形鋼を使用した床版の適用分野を拡大する。
【解決手段】形鋼同士を接触させて平行に並べ、接触部分を溶接によって剛結して一体化してある。必要に応じて一定間隔で鋼板製の接合部材2を形鋼に対して直角に配置して溶接し、形鋼同士を強固に一体化してある。形鋼の間の空間内部の軸方向には、緊張材3が形鋼の断面の中立軸の下側にeだけ偏心させた位置に配置されている。このため、緊張材3に導入された緊張力によって床版1には上向きのキャンバーが形成されると共にプレストレスが導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や建築物の床版であって、I形鋼、H形鋼、溝形鋼などの形鋼の既成部材(以下、形鋼と総称する)を並列させて接合して一体化し、形鋼部材の軸方向にプレストレスを加えて上向きのキャンバーを形成し、所定のキャンバーを確保するようにした形鋼を使用した床版の製造方法及び床版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、小規模な橋梁工事において、角形鋼管等の既成部材を並設し、角形鋼管の側部に開口を設けて鉄筋などの棒状鋼材を挿通し、引張力を与えて定着することによって角形鋼管を一体化して床版橋とする工法が開発された。引張力が与えられた棒状鋼材の両端部を角形鋼管の両側端に定着して角形鋼管を横方向に相互に連結することによって荷重を水平方向に分散させて床版橋を構成する角形鋼管がずれるのを防止したものである。(特許文献1〜6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3725892号公報
【特許文献2】特許第3814287号公報
【特許文献3】特開2006−299706号公報
【特許文献4】特開2007−297836号公報
【特許文献5】特開2008−169619号公報
【特許文献6】特開2008−169620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の角形鋼管等を用いた床版橋は、運搬及び組立て設置が容易で、大型クレーンを必要とせずに短期間で施工することができ、小径間の橋梁に適している。
従来の角形鋼管を用いた床版橋は、並設した角形鋼管等を横方向に引張力を与えて相互に連結してずれを防止し、角形鋼管等を一体化して床版橋としたものである。しかしながら、角形鋼管等は既製品であり、その断面が製品として規格化されているため桁高が制限され、支間距離をあまり長くすることはできず、小径間の橋梁に適用が限定されていた。
また、曲げ剛性が鉄筋コンクリート部材に比較して小さく、変形と振動のしやすいものであり、自重及び荷重が作用した際の撓み及び振動が大きく、床版として使用に支障が生じているのが現状である。
本発明は、床版を構成する部材の形鋼の軸方向にプレストレスを付与することによって形鋼を使用した床版の限界長を部材の断面高さを大きくすることなく延長できるようにするものである。
加えて部材の剛性を大きくして変形及び振動を抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複数の形鋼を接触または非接触状態で平行に並べて一体化して床版とし、緊張材を形鋼の軸方向に沿って部材断面の中立軸より下側に偏心させて配設して緊張することによって形鋼からなる床版に上向きキャンバーを形成するようにしたものであり、形鋼にプレストレスを導入することによって床版の支間距離を大きくできるようにしたものである。
形鋼は、I形鋼、H形鋼や溝形鋼を組み合わせて一体化したものであり、種々の既成部材を組み合わせることができる。形鋼の一体化のための接合手段は、溶接に限定されるものでなく、PC圧着接合、または、ボルト接合などから適宜選択する。また、単独の接合手段のみだけでなく、形鋼を非接触として平行に並べ、接合部材を使用して一体化したものでもよい。
形鋼の軸方向に沿って配設する緊張材を可撓性のPCストランドとし、部材断面の中立軸より下側に偏心させた位置において、位置保持ユニットによって予め定めた曲線状に配設して設計荷重にあわせた合理的なプレストレス状態とすることも可能である。
緊張材は、形鋼の内部だけでなく断面外部の部材の下側にも補助部材を設けることによって配設することができる。この場合、断面中立軸からの緊張材の偏心量を大きく取れるので緊張力を小さくでき、緊張材の断面を小さくすることができるため材料費のコストを低減することができる。
また、並設した形鋼の間に構成される空間内に緊張材を配設すると共にコンクリートを充填することよって床版の剛性を高め、使用時の撓み及び振動を小さくすることができる。コンクリートの充填は、少なくとも並設した形鋼の間の空間の1つおきにしたり、または、適宜の任意の数の空間を空けて行う。
緊張材への緊張力の導入方式としてプレテンション方式を採用した場合は、緊張材の定着装置が不要となり、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0006】
工場製品である形鋼を使用するので急速施工が可能であって短期間の工期ですみ、コストの低減を図ることができるということに加え、緊張材を形鋼の断面の中立軸より下側に偏心させた位置に配設して緊張することによって形鋼からなる床版に上向きキャンバーを形成してあるので、使用時荷重による撓みが相殺されて使用時に障害となる変形が生ずることはない。
部材の軸方向にプレストレスが付与してあるので、部材の高さを高くすることなく支間の限界長を長くすることができ、中間支柱が不要となり、コストの低減及び施工期間の短縮を図ることができる。
また、並設した形鋼の間に構成される空間内に緊張材を配設すると共にコンクリートを充填することよって剛性を高め、使用時の振動を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】I形鋼を溶接した床版の平面図。
【図2】I形鋼を溶接した床版の横断面図。
【図3】I形鋼を溶接した床版の縦断面図。
【図4】本発明の床版の他の実施例の縦断面図。
【図5】H形鋼を溶接した床版の横断面図。
【図6】両端部材を床版の両端に接続して延長した床版の正面図。
【図7】緊張材を部材断面の外側に配設した床版の正面図及び横断面図。
【図8】緊張材を部材断面の外側に配設して両端部材を接続して延長した床版の正面図。
【図9】I形鋼の間の空間にコンクリートを充填した床版の横断面図。
【符号の説明】
【0008】
1 床版
10 I形鋼
11 H形鋼
2 接合部材
3 緊張材
31 PCストランド
4 定着装置
45 補助部材
5 位置保持ユニット
6 コンクリート
101 中間部
102 両端部材
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に平面図及び図2に横断面図を示すものは、形鋼として複数のI形鋼を並設して一体化した床版1であり、I形鋼10同士を接触させて並べ、接触部分を溶接によって剛結して一体化してある。更に、必要に応じてI形鋼10の軸方向に一定間隔で鋼板製の接合部材2をI形鋼10に対して直角に配置し、接合部材2の周囲をI形鋼10に溶接してI形鋼10同士を強固に一体化してある。接合部材2は鋼板に限らず棒状部材であってもよく、また、設置位置は床版1の上面だけでなく下面にも設けてもよい。
使用するI形鋼10の本数を増減することによって床版1の必要な横幅が得られる。
【0011】
図3に示すように、並設したI形鋼10の間に構成される空間の軸方向には、プレストレスを導入するための緊張材3が、I形鋼10の断面の中立軸の下側にeだけ偏心させた位置に直線配置されている。このため、緊張材3に導入された緊張力によって床版1には上向きのキャンバーが形成される。
【実施例2】
【0012】
図4に示すように、実施例1と同様にI形鋼10を並設した床版であって、緊張材3は可撓性のPCストランド31である。可撓性を利用して曲線状に配設したものであり、I形鋼10の断面に作用する曲げモーメントの大きさに合わせて中立軸からの偏心量を変化させ、荷重が作用したときに生じる応力がキャンセルされるようにしたものである。PCストランド31を曲線状に配置するため、並設したI形鋼10の間に構成される空間には、PCストランド31の挿通孔が設けてある位置保持ユニット5が設けてあり、この位置保持ユニット5によってPCストランド31が所定の位置に維持され、配設状態が予め定めた曲線状となる。
このPCストランド31は、ストランドの素線の全周が防錆塗装されているものを使用するのが好ましい。
【0013】
並設したI形鋼10の間の空間の内部にPCストランド31を曲線状に配設するには、I形鋼10に挿入する前にPCストランド31を位置保持ユニット5に挿入して配設すべき曲線状としておく。
次に、I形鋼10の一端から位置保持ユニット5に仮止めした状態のPCストランド31をI形鋼10の間の空間の内部に挿入し、位置保持ユニット5の位置を調整して所定の位置に固定し、PCストランド31を所定の曲線状に配置する。
【0014】
I形鋼10の端部に定着装置をセットしてI形鋼10の間に構成される空間の内部に配設してあるPCストランド31を緊張定着して床版1に所定のプレストレスを導入してI形鋼10からなるプレストレスト床版を完成させる。
PCストランド31は、I形鋼10の断面の中立軸より下側に偏心して配置されているため、PCストランド31を緊張して床版1にプレストレスを導入するのに伴い、床版1には上向きの所定のキャンバーが形成される。
なお、定着装置4は、必要に応じて再緊張できるタイプのものとすることが好ましい。
【実施例3】
【0015】
図5に示すものは、形鋼としてH形鋼11を使用して床版1を構成したものであり、H形鋼11のフランジ同士を突き合わせて溶接して床版1としたものである。この場合も実施例1と同様に必要に応じてH形鋼の軸方向に一定間隔で接合部材2をH形鋼11に対して直角に配置し、H形鋼11の上下いずれか、または両方のフランジに溶接して固定する。
H形鋼11のフランジを突き合わせ溶接して箱状の閉じた空間が形成されているので、実施例1のI形鋼を使用した場合と同様に緊張材3をこの空間内に配設してプレストレスを付与する。
【実施例4】
【0016】
図6に示すものは、形鋼の全長にプレストレスを導入せず、中間部101のみにプレストレスを導入したものである。プレストレスを導入して上向きのキャンバーを形成した形鋼の両端にプレストレスを導入しない形鋼からなる両端部材102を溶接等で接続して床版の全長を延長したものである。
一例を挙げると、中間部101を15mの長さとし、接続する両端部材102を5mとすることによって全長25mの床版1が得られる。
このようにすることによって、完成した床版1の端部にはプレストレス導入のための定着装置4が露出していないため、床版1の端部構造がシンプルとなり、床版1の端部支持部の納まりがよくなる。また、床版全体が三分割となるため、工場で製造して現場に搬入することが容易となる。
【実施例5】
【0017】
図7に示すものは、プレストレス導入用の緊張材3を形鋼断面の外側である形鋼の下側に補助部材45を設けて配設するものであり、形鋼の軸方向両端部の下側にアングルを溶接して補助部材45としたものである。緊張された緊張材3は、補助部材45に定着されており、床版1にプレストレスを付与すると共に上向きのキャンバーを形成する。緊張材3の断面中立軸からの偏心量(e)が大きく、断面内部に緊張材3を配設する場合に比べて緊張力を小さくすることができ、緊張材3の断面を小さくすることができるのでコストの低減に寄与する。
緊張材3の配列は、図7(2)、(3)に示すように、床版1を構成するそれぞれのI形鋼10の下側に設けたり、I形鋼10の部材接合部の下に設置するなど、床版1にバランスよくプレストレスが導入されるようにする限りにおいて自由にレイアウトすることができる。
上記補助部材45はアングルに限定されるものでなく、その他の鉄骨鋼材から適宜に選択したり、特別に設計した部材を使用してもよい。
図8に示す例は、図7に示す実施例5の床版を実施例4と同様に中間部101としたものであり、両端にプレストレスを導入しない形鋼を並列して一体化したものからなる両端部材102を溶接等の接合方法で接続して床版1の全長を長くしたものである。
【実施例6】
【0018】
図9(1)に示すようにI形鋼10を平行に並べて溶接し、並設したI形鋼10の間の空間の内部に緊張材3を配設し、緊張力を付与して床版1に上向きのキャンバーを形成した状態にする。ここで、I形鋼10の間の空間の内部にコンクリート6を打設するものである。コンクリート6が硬化した後、緊張材3の定着を開放することによって形鋼及び空間内部のコンクリートにプレストレスが導入される。このようにプレテンション方式によってプレストレスを導入して完成した床版1には緊張材の定着装置を不要としたものである。
また、形鋼のみから構成される床版に比較して、本実施例は形鋼とコンクリートとの複合構造物となるので剛性を大きくすることができ、撓み及び振動を小さくすることができる。
なお、上記コンクリートの代わりにモルタルを使用して充填してもよい。また、プレストレスの導入方式をポストテンション方式とすることもできる。
図9(2)に示す例は、図9(1)の変形例であり、空間内にコンクリートの打設をし易くするため、I形鋼10同士を接触させずに適宜な間隔を空けて平行に並べ、適宜の接合部材を設けて一体化した床版1であり、I形鋼10の底部フランジ部分には鉄筋50等の補強部材が設置してある。
以上に示す実施例における各構成については、本願発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更が自在であり、本発明の構成を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の形鋼を接触または非接触状態で平行に並べて一体化して床版とし、緊張材を形鋼の軸方向に沿って部材断面の中立軸より下側に偏心させて配設して緊張することによって床版に上向きのキャンバーを形成する形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、緊張材がPCストランドであり、このPCストランドを位置保持ユニットによって予め定めた曲線状に配設する形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、緊張材は形鋼の下側に配設されている形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれかにおいて、形鋼の間の空間の少なくとも1つおきに間隔を空けて緊張材を配設すると共にコンクリートを充填する形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、上向きのキャンバーを形成した床版の両端にプレストレスを付与していない形鋼を複数平行に並べて一体化して床版とした両端部材を接続して床版の長さを延長する形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法によって製造した形鋼を使用したプレストレストハイブリット床版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−122410(P2011−122410A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283267(P2009−283267)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】