説明

プレスフリット

【課題】 本発明は実質的に鉛を含まず、かつ各種部材の接合、封着に使用することができる封着部の気密性を向上させるプレスフリットを提供することを目的としている。
【解決手段】 実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリット、有機バインダーおよび溶剤とを混練する造粒工程と、造粒したものを乾燥して前記溶剤を取り除く乾燥工程と、この乾燥工程により得られたものを篩分けし 顆粒状粉末を得る篩分け工程と、前記顆粒状粉末をプレスし成型体を得るプレス成型工程と、前記成型体から前記有機バインダーを除去する加熱処理工程と、この加熱処理工程後前記成型体を前記ガラス粉末の軟化点付近まで加熱する焼結工程とを備えることを特徴とする充填率67%以上のプレスフリットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマスを主成分とするフリットを用いたプレスフリットに関するものであり、特に作業環境、廃棄物処理および封着時の気密性を改善させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
プレスフリットは、ガラス粉末やガラス粉末に耐火物フィラーを混合したもの(以下、フリットとする)をプレス成型等により、被封着物の封着面と類似する形状に加工した封着材料であり、金属、ガラス、セラミックス等の絶縁、水密、耐熱等の信頼性を要求される接着部に使用されている。
【0003】
その特徴としては、シール部分へプレスフリットをセットし加熱するだけで封着ができるため、粉末のままの封着材料と比較して取扱いやすく、使用量を一定にでき、自動化しやすい等である。その用途としては、シーズヒーターの口元封止用、エンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用や固定用、ディスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用等であった。
【0004】
従来、これらのプレスフリットは電極等の金属部品を損傷させないために極力低温で封着作業ができることが要求され、その対応として、ガラス転移点が低いPbO−B系、PbO−B−Al系、PbO−SiO系ガラスを主成分とする材料が広く使用されてきた。例えばコーニング社コード#7570はガラス転移点378℃、軟化点440℃の特性を有したPbO−B−Al系ガラスであり、プレスフリットとして広く使われている。
【0005】
しかし、最近では環境問題および作業従事者の健康面から鉛成分を含まない封着材料が強く求められており、鉛成分を含まないプレスフリットとしては、SnO 20〜68モル%、SnO 2〜8モル%、P 20〜40モル%、SnO+SnO+P 90〜100モル%、B 0〜2モル%を含有する低融点ガラス粉末30〜100体積%と耐火物フィラー0〜70体積%とを含有するもの(特許文献1)がある。このガラスは積極的にSnOを含有させることにより、封着時の結晶析出を抑制しているが、封着時の雰囲気はアルゴンや窒素など不活性雰囲気での使用が好ましいと記載されている。
【特許文献1】特開2003−238199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プレスフリットの代表的な用途としてシーズヒーターの口元封止があるが、この封止にはガスバーナーが使用され、ガラスが加熱される雰囲気は、若干の還元状態となる。このため、このような加熱方法で使用した場合、SnOの投入による封着時の結晶抑制効果が低減され、結晶析出によって良好な封着が行なえず、高い気密性を要求される部品の封止には使用できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は実質的に鉛成分を含まず、かつ各種部材の接合、封着に使用することができる封着部の気密性を向上させるプレスフリットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を鑑み、封着時の安定性が優れている酸化ビスマスを主成分とするプレスフリットを開発した。しかし、このプレスフリットを用いてのシーズヒーターの口元封止を行ったところ、気密性の悪いものが得られていた。その原因を調査したところ、封着部のプレスフリットが良好に流動しておらず、流動前の体積収縮が起きた状態で封着が終了していることがわかった。この状態では、シーズヒーターの構成部品であるヒーターパイプ、ターミナルピン、碍子とフリットとが封着されていたとしても面ではなく点でしか接着されておらず、気密性および絶縁性が不十分な状態のものとなっていた。
【0009】
これについて、フリットが低温で流動するように改良すればよいのであるが、非晶質のフリットにおいて低温で流動するものを用いると、封着物の耐熱性がこのフリットに依存することとなり耐熱性が十分確保されたものを提供することができなくなってしまう。
【0010】
そこで、本発明者らは、良好に流動するものを提供することはもちろんであるが、流動前の体積収縮の少ないものを提供できれば、流動が不十分でも良好な封着が得られるのではないかとの発想から、体積収縮を抑制する方法を検討していたところ、プレスフリットの充填率を向上させるほどに、気密性が向上することを見出し、本発明をするに至った。
【0011】
すなわち、本発明の請求項1に対応する発明は、プレスフリットにおいて、実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリットを用いて、焼結して得た焼結体におけるフリットの充填率を67%以上としたものである。この充填率とすることにより、プレスフリット中の空隙を少なくするとともに、加熱による体積収縮でのプレスフリットの変形をごく僅かなものとすることができる。
【0012】
本発明の充填率とは、単位体積中にフリットの占める割合を示しており、以下のように計算し求めることができる。
充填率=プレスフリットの嵩比重/フリットの比重
【0013】
充填率が低いとプレスフリット中の気泡、空隙が多く存在しフリットが占める体積が少ないことを意味し、充填率が高いとプレスフリット中の気泡、空隙が少なくフリットが占める体積が多いことを意味している。充填率が100%の場合はプレスフリットの気泡、空隙が全くないフリットで形成されていることとなる。
【0014】
本発明の酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリットとして例えば、Biを40〜85質量%、Bを5〜30質量%、SiOを0〜20質量%、ROを0〜55質量%、ROを0〜10質量%、Rを0〜20質量%、ROを0〜30質量%を含有するガラス粉末50〜100体積%と耐火物フィラー0〜50体積%とを含有するものが好ましい。ただしROとはZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、ROとはLiO、NaO、KO、CsO、CuOから選ばれる少なくとも一種、RとはAl、Fe、Laから選ばれる少なくとも一種、ROとは、ZrO、TiO、SnO、CeOから選ばれる少なくとも一種である。耐火物フィラーとは、シリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイトから選ばれる少なくとも一種である。
【0015】
本発明のプレスフリットは、被封着物の封着部にクラックを生じさせないために、被封着物の熱膨張係数とプレスフリットの熱膨張係数とをマッチングさせることが重要である。クラックを生じさせないためには、被封着物の熱膨張係数±10×10−7/℃となるように、フリットを構成するガラス粉末と耐火物フィラーの配合を決めれば良好な封着ができる。
【0016】
本発明のガラス粉末の熱膨張係数は70〜140×10−7/℃であり、耐火物フィラーのそれは、−10〜50×10−7/℃である。ガラス粉末50〜100体積%と耐火物フィラー0〜50体積%の範囲で配合することで被封着物の熱膨張係数とマッチングさせることができる。
【0017】
本発明のプレスフリットで充填率が67%以上であれば、プレスフリットおよび被封着物の形状、被封着物の材料、加熱方法、フリットの特性などに関わらず、プレスフリット内の空隙が少なくなり、加熱による体積収縮がごく僅かとなるため、フリットと封着部とが面に近い状態で接着されるので、高い気密性を持った封着が再現良く可能である。充填率が67%未満では、プレスフリット内の空隙が多く、加熱による体積収縮が多くなり、プレスフリットと被封着物との接触部が少ない状態で封着されるため、高い気密性が得られない。さらに好ましくは77%以上である。
【0018】
本発明で使用できるガラス粉末を構成する各成分の限定理由を以下にしめす。
【0019】
Biが40質量%未満であると、軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となり、85質量%を超えると、結晶化しやすくなり安定したガラス粉末が得られない。好ましくは、45〜83質量%である。
【0020】
が5質量%未満であると、ガラスが不安定になって結晶化し易くなり、30質量%を超えると、ガラスの軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となる。好ましくは、5〜20質量%である。
【0021】
SiOが20質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となる。好ましくは、11質量%以下である。
【0022】
ROが55質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となる。好ましくは、1〜35質量%である。RO成分を含有する場合には、ZnOおよびBaOがガラスの結晶化を起こしにくいので特に好ましい。
【0023】
Oが10質量%を超えると、ガラスの電気絶縁特性が悪くなり好ましくない。好ましくは、5質量%以下である。RO成分を含有する場合には、LiOおよびCuOが少量でも軟化温度を低下させる効果が高いので特に好ましい。
【0024】
が20質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となる。好ましくは、5質量%以下である。R成分を含有する場合には、AlおよびFeがガラスを安定化させる効果が高いので特に好ましい。
【0025】
ROが30質量%を超えると、軟化温度が高くなり所定の温度での焼成が困難となる。好ましくは、5質量%以下である。RO成分を含有する場合には、CeOがガラスを安定化させる効果が高いので特に好ましい。
【0026】
以上の成分で構成されたガラス粉末を耐火物フィラーと混合してフリットとするとき、ガラス粉末が50体積%より少ない場合、すなわち耐火物フィラーが50体積%を超えてしまうと、耐火物フィラー同士の摩擦が大きくなりフリットの粘性が高くなりフリットの流動が得られず封着性が損なわれる。また、流動性の悪化に伴い封着部に気泡が多くなり、封着部の強度が低下するという不具合も生じてしまう。
【0027】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明プレスフリットにおいて、フリットが100〜500メッシュの篩を通過するものとした。
【0028】
フリットの粒径はプレスフリットの充填率に影響を与え、フリットの平均粒径が大きいとプレスフリットの充填率が低くなり易い。一方、小さいと成型のための有機バインダーを多く使用する必要があり、加熱処理で有機バインダーを除去したあとのプレスフリットの著しい形状変形が起こり、寸法精度を得ることができない問題をおこす。このためフリットの粒径は100〜500メッシュの篩を通過した平均粒径で2.5〜8μmの粉末が好ましい。
【0029】
請求項3に対応する発明は、プレスフリットにおいて、実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリットと、有機バインダーとを混合して、10〜80メッシュの篩を通過し、さらに80〜325メッシュの篩を通過しない顆粒状粉末としたものを用いて、焼結して得た焼結体におけるフリットの充填率を67%以上としたものである。
【0030】
顆粒状粉末の粒径はプレス成型のしやすさ、精度に影響を与える。粒径が小さいと金型の凸部と凹部の隙間に粒子が入り込み、所定のプレス圧をフリットに与えて連続的にプレス成型を続けることが困難となる。また粒径が大きいと金型に投入するフリットの質量制御が困難となり密度の異なる成形体となり、加熱、焼成処理後の充填率のバラツキ原因となり好ましくない。このため、顆粒状粉末の粒径が44〜350μmの大きさの粒径となるように篩分けを行なうことが好ましい。
【0031】
充填率を67%以上とするためには、プレスフリットの作成方法によらず、上記したフリットの粒径の他に、有機バインダーの選定に注意を払う必要がある。
【0032】
有機バインダーは、フリットの軟化温度以下で有機バインダーが分解、燃焼し除去できるものを選ぶ必要がある。除去できない場合、フリット中のガラス成分(ガラス中に含まれる金属元素で電位差電位の低いもの)が還元され、フリットの流動性、転移点や軟化点等の熱特性が損なわれ、また有機バインダーが残存することにより充填率も低くなる。本発明のプレスフリットにおいて、プレス成型では炭素数16(C16)以上の高級アルコール、セルロース系樹脂またはアクリル系樹脂、テープ成型では、ブチラール樹脂またはアクリル系樹脂、押し出し成型であればアクリル系樹脂等を用いることができる。
【0033】
上記アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体などの(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキルエステル化合物の単独重合体あるいは共重合体などが挙げられる。これらのアクリル系樹脂は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよく、またその製造方法については特に限定されず、公知の懸濁重合法、乳化重合法、バルク重合法などが用いられる。
【0034】
上記セルロース系樹脂とは、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等である。
【0035】
請求項4に対応する発明は、請求項1ないし3のいずれかに対応するプレスフリットを製造する方法であって、実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリット、有機バインダーおよび溶剤とを混練する造粒工程と、造粒したものを乾燥して前記溶剤を取り除く乾燥工程と、この乾燥工程により得られたものを篩分けし 顆粒状粉末を得る篩分け工程と、前記顆粒状粉末をプレスし成型体を得るプレス成型工程と、前記成型体から前記有機バインダーを除去する加熱処理工程と、この加熱処理工程後前記成型体を前記ガラス粉末の軟化点付近まで加熱する焼結工程とを備えたものである。
【0036】
造粒工程は、微細なフリットがプレス成型金型の隙間に入り込むことを防ぎ、プレス成型を連続的に行なうために備えたものである。より詳細には、100〜500メッシュの篩を通過した平均粒径2.5〜8μmのフリットを用いて造粒を行なうものである。
【0037】
乾燥工程は、造粒したものが湿った状態であると篩分け時に篩の目詰まりの原因となるので、目詰まりを防ぐために備えたものである。より詳細には、20〜100℃の温度で、4.5〜48時間乾燥を行なうものである。
【0038】
篩分け工程は、上記したように、プレス成型金型の隙間に顆粒状粉末が入り込むのを防ぐ、およびプレス成型の充填率のバラツキを防ぐために備えたものである。
【0039】
プレス成型工程は、所望とする形のプレスフリットを得るために備えたものである。このときのプレス圧はガラス粉末の種類や顆粒状粉末の粒径および製品の形状によって決定する。平均粒径が小さい場合は圧力を弱くし、平均粒径が大きい場合は圧力を強くする。製品の形状では、円柱、三角柱、四角柱および板状のような単純な形状の場合、上下いずれか一方のプレス圧力を調整して所望とする形状を得るようにする。一方、単純な形状に少なくとも一つの貫通孔を形成する場合や、単純な形状に段差を設けた場合のように、基準となる単純な形状の表面積よりも表面積を増やしたもの(複雑な形状)を成型するときには、上下双方のプレス圧力を調整して所望とする形状を得るようにする。プレス圧が低いと有機バインダー除去後の形状変形度が大きく、形状が安定しないので、荷重は3×10Pa以上が好ましい。
【0040】
加熱処理工程は、成型体から有機バインダーを分解、燃焼により除去するために備えたものである。しかし、有機バインダーが分解、燃焼により除去できないと、有機バインダー中の炭素原子が成型体中に残存し、この炭素原子が還元剤となり、ガラス中に金属元素が含まれる場合には、その元素が還元され金属が析出し、色調が黒色化するので、有機バインダーが分解、燃焼する温度以上にする必要がある。より詳細には、100℃〜ガラス粉末の転移点以下の温度で、1〜15時間加熱するものである。
【0041】
焼結工程は、有機バインダーが除去された成型体は、衝撃に弱く容易に壊れてしまうため、焼結させることにより、成型体を緻密化させ、かつその取り扱いを容易にするためのものである。より詳細には、ガラス粉末の軟化点−30℃〜軟化点+50℃で10〜180分間焼結するものである。なお、プレスフリットの形状でアスペクト比の高いものは、焼成後の上下面形状を一定にするため、焼成実施後プレスフリットを裏返して再度焼成を実施する方法もある。
【0042】
本発明のプレスフリットは、ガラス粉末、セラミックス粉末を成型する一般的な方法で成型することができる。プレス成型であれば、フリット粉末と有機バインダー、溶剤を混合し顆粒状粉末とし、乾式プレス機でプレス成型後、有機バインダーを除去および成形体の緻密化のため加熱、焼結処理を行いプレスフリットとする。テープ成型であれば、フリット粉末と有機バインダー、溶剤等を混合しペースト状とし、ドクターブレードで有機フィルム上にペーストを塗布し乾燥する。乾燥後プレス機でシートを打ち抜き、所望の形状とした後、有機バインダーを除去および成形体の緻密化のため加熱、焼結処理を行いプレスフリットとする。押出し成型であれば、フリット粉末と有機バインダーを加熱しながら混合し、ペースト状とし、押し出し成型機の金型に注入し成型する。有機バインダーを除去および成形体の緻密化のため加熱処理を行いプレスフリットとする。
【0043】
プレス成型に好適な有機バインダーとしては、セチルアルコール(C16)などの高級アルコール類、ニトロセルロース、エチルセルロースなどのセルロース類、一部のブチラール系樹脂・アクリル系樹脂などからなり、溶剤としては、低級アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類及び炭化水素類からなる。
【0044】
フリット、有機バインダー、溶剤配合比はプレスフリットの充填率、顆粒状粉末の作成のしやすさ、加熱処理時の有機バインダー除去に影響を与える。有機バインダーの量が多いと上記したように、有機バインダー除去後のプレスフリットの著しい形状変形が起こり、逆に少ないと粉末同士の繋ぎがなくなり顆粒状粉末の作成が困難となる。溶剤は混合量が多い場合は、スラリーの粘性が少なく短時間で顆粒状粉末とすることができない。一方、少ない場合には、有機バインダーをスラリー中に満遍なく分散させることができず顆粒状粉末の作成が困難となる。このため、フリット粉末100質量%に対して、外割で有機バインダー0.5〜10質量%と溶剤1〜15質量%とを配合することが好ましい。
【0045】
フリット粉末、有機バインダー、溶剤の混合は、ボール状容器に入れ、ヘラを用いて手で混合しても良く、また、らいかい機、ヘンシャルミキサー、ボールミルなどの機械混合機、スプレードライヤー、バスケット型などの造粒機を使用してもよい。
【0046】
プレス成型に使用する金型は、ガラス・有機バインダーと反応せず、高い圧力で変形しない材質のものであれば、特に限定する必要はないが、金属を使用する場合、錆が入ると成型体内に金属および金属酸化物が入る可能性があるため、酸化しやすい材質は好ましくない。一般的には錆にくい超硬材などが利用されている。金型にキズが付きにくいよう表面処理を施すと効果的である。強度を向上させるため、金属製の金型先端部を焼き入れする方法もある。
【0047】
上記プレスフリットを作成するプレス機は、金型自体を1セットのみ装着し上部および下部の圧力でプレスを実施する単型プレス機、あるいは金型を複数セットし、テーブルが回転しながらプレスを行なうロータリープレス機等がある。また、高い圧力が必要な場合は、上・下の圧力調整が可能な高圧型のプレス機なども使用されている。高さの低い薄型のプレス機としては、下部から突き上げによるプレス方法があり、ペントロ社製のマルチプレス機などが好ましい。
【発明の効果】
【0048】
本発明のプレスフリットは実質的に鉛を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするフリットとすることにより、封着時の雰囲気に影響なく封着を行なうことができる。また、充填率を67%以上としたことで、プレスフリット内の空隙が少なくなり、例え、プレスフリットの流動が不十分であっても、封着時の体積収縮も僅かとなるため、フリットと封着部との接着面を増加させることができ、気密性の優れた封着を行なうことができる。
【0049】
したがって、シーズヒーターの口元封止用、エンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用や固定用、ディスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用等のさまざまな用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明のプレスフリットには、実質的に鉛を含有しない、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末が使用され、その好ましい具体的組成は次に示すとおりである。
【0051】
Biを40〜85質量%、Bを5〜30質量%、SiOを0〜20質量%、ROを0〜55質量%、ROを0〜10質量%、Rを0〜20質量%、ROを0〜30質量%含有するガラス粉末50〜100体積%と耐火物フィラー0〜50体積%とを含有するものからなる。RO:ZnO、BaO、SrO、MgO、CaO、FeO、MnO、CrO、CuOから選ばれる少なくとも一種、RO:LiO、NaO、KO、CsO、CuOから選ばれる少なくとも一種、R:Al、Fe、Laから選ばれる少なくとも一種、RO:、ZrO、TiO、SnO、CeOから選ばれる少なくとも一種、耐火物フィラー:シリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイトから選ばれる少なくとも一種である。
【0052】
そして、上記した組成範囲となるように、原料を混合してバッチ原料とし、このバッチ原料を白金ルツボに入れ1100〜1350℃に調整した炉内に投入し、1〜3時間熔融した。そして、熔融されたガラスは水冷ローラーでシート状に成形し粉砕後、100〜500メッシュの篩をとおし平均粒径を2.5〜8μmのガラス粉末を得た。
【0053】
このガラス粉末50〜100体積%に、一定粒度以下に調整した耐火性フィラー0〜50体積%を加えフリットとする。次に、このフリット粉末100質量%に対して、外割で有機バインダー0.5〜10質量%と溶剤1〜15質量%とを配合したものを用意し、溶剤と有機バインダーとを混合したものをフリットに混ぜ造粒したものを作成する。そして、この造粒物を20〜100℃で4.5〜48時間乾燥して溶剤を除去し、篩によって粒径44〜350μmの大きさの顆粒状粉末に整粒した。
【0054】
この顆粒状粉末の所望量を金型に入れ、3〜50×10Paの圧力でプレス成型し、この成型体を100℃〜ガラス粉末の転移点以下で1〜15時間加熱処理して、有機バインダーを除去する。さらに、続けてフリットの軟化点−30℃〜軟化点+50℃まで昇温し、10〜180分焼成し焼結させプレスフリットとする。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例および比較例を表1および2を参照して詳細に説明する。まず、実施例1ないし3および比較例1は同一組成のガラス粉末を用いて、プレスフリットを作成し、その充填率の違いによる気密性を評価した例である。実施例2で使用している有機バインダーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピルおよびポリメタクリル酸ブチルを混合したもの(ポリメタクリル酸アルキル)を使用している。
【0056】
Bi 47質量%、B 12質量%、ZnO 12質量%、SiO 12質量%、BaO 17質量%となるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を白金ルツボにいれ1300℃に調整された熔解炉内に投入して、1時間保持し熔融ガラスとした。この後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン状に成形した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、100メッシュの篩にとおし平均粒径が6μmのフリットとした。
【0057】
このフリットを30mm×10mm×10mmとなるように乾式プレス機で5×10Paの荷重で成型体を作成し、600℃で10分焼成し得られたブロックを切断、研磨して20mm×5mm×5mmの大きさとして30〜300℃までの伸び量をJIS R3102の方法で測定し平均熱膨張係数を測定したところ、82×10−7/℃であった。
【0058】
フリット100mgを白金パンにいれ、示差熱分析装置を用いて、昇温速度10℃/minで測定し、第3変局点を軟化点としてもとめたところ、560℃であった。また、フリットの比重をJIS Z8807の方法で測定したところ、5.1であった。
【0059】
次に、表1に示す有機バインダー、溶剤、配合比、プレス圧力、加熱処理、焼結処理の条件でφ5mm×1mmのプレスフリットを作成した。得られたプレスフリットの外径、高さをマイクロメーターで正確に測定し体積を求め、さらに質量を測定しプレスフリットの嵩比重を求めた。先に測定したフリットの比重で割りプレスフリットの充填率を計算したところ表1に記載のとおりとなった。
【0060】
φ2mmの穴があいた20mm×20mm×5mmのジルコニアでできた容器を用いて気密試験を行った。ジルコニアの30〜300℃までの平均熱膨張係数は80×10−7/℃であった。先に作成したプレスフリットをφ2mmの穴の上に置き電気炉で620℃ 30分の熱処理で穴を気密封止した。気密封着されたジルコニア容器を0℃に冷却した冷凍庫に1分放置し、すぐに100℃に加熱された乾燥器に投入し1分放置し、この操作を200サイクル繰り返し行い、ジルコニア容器に熱衝撃を加えた。熱衝撃を加えたジルコニア容器をヘリウムリークディテクターで気密性を確認したところ、ヘリウムのリークは認められず高い気密性が保たれていた。
【0061】
(比較例1)比較例としてフリットを60メッシュの篩にとおし平均粒径を9μmとして、上記記載と同様にプレス成型方法でプレスフリットを作成し気密試験を行った。比較例1は充填率が低く気密試験でヘリウムのリークが発生した。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例4ないし7および比較例2は、作成したプレスフリットをシーズヒーターに使用したときの特性を評価した例である。実施例4は表2に記載されているように、Bi 72質量%、B 10質量%、ZnO 9質量%、SiO 3質量%、BaO 6質量%となるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を白金ルツボにいれ1200℃に調整された熔解炉内に投入して、1時間保持し熔融ガラスとした。その後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン状に成形した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、100メッシュの篩にとおし平均粒径4.5μmのフリットとした。ここで作成したフリットの特性を前記方法で測定したところ、30〜300℃の平均熱膨張係数は100×10−7/℃、軟化点は460℃、比重は6.4であった。
【0064】
次に、ミネラルスピリット2質量%にアクリル樹脂2質量%を溶解し、このフリット100質量%に添加し、湿式造粒機で造粒した。ここで使用したアクリル樹脂は、実施例2と同様に、4成分を混合したポリメタクリル酸アルキルである。混合粉末を40℃で36時間放置してミネラルスピリットを除去した。そして、40メッシュの篩を通過し、170メッシュの篩を通過しなかった粒径88〜350μm顆粒状粉末を得た。この顆粒状粉末を金型に充填し、20×10Paで外径5mm、内径3mm、高さ8mmのドーナツ形状にプレス成型した。この成型体を300℃、3時間の加熱処理をして、有機バインダーを除去した。続けて445℃、60分の焼結処理を行い緻密化しプレスフリットとした。得られたプレスフリットの外径、内径、高さをマイクロメーターで正確に測定し体積を求め、さらに質量を測定しプレスフリットの嵩比重を求めた。先に測定したフリットの比重で割りプレスフリットの充填率を計算したところ80%であった。
【0065】
作成したプレスフリットを30〜300℃熱膨張係数が110×10−7/℃の金属でできた図1に示すシーズヒーターの口元に充填し、プロパンガスを燃料とするバーナーで3分間加熱し封着した。燃焼温度を熱電対温度計で測定したら580℃であった。このシーズヒーター温度85℃、湿度85%の環境に1000時間保管しレッドチェック試験をおこなったところ、リークは認められず気密性が保たれていた。さらにシーズヒーターの電極と、ヒーターパイプの絶縁性を測定したところ1×10Ωの抵抗であり、絶縁性の基準である1×10Ωを超えていたので絶縁性も満足していた。ここで、レッドチェック試験とは、封着した部分を赤インク中に1分間浸漬後水洗いし、封着した部分に赤い染み込みがあるか否かを目視で確認する試験である。
【0066】
(実施例5〜7)表2の組成となるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を白金ルツボにいれ所定の温度に調整された熔解炉内に投入して熔融ガラスとした。この後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン上に成型した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、200または300メッシュの篩にとおしガラス粉末とした。ガラス粉末に耐火物フィラーを所定量混合しフリットとした。ここで作成したフリットの30〜300℃の平均熱膨張係数、軟化点、比重を測定した。
【0067】
次に、溶剤に所定量有機バインダーを溶解し、上記フリット100質量%に添加し混合した。実施例5および7の有機バインダーはセチルアルコールであり、実施例6の有機バインダーは、ポリメタクリル酸アルキルである。混合粉末を乾燥し溶剤を除去し、40メッシュの篩を通過し325メッシュまたは170メッシュの篩を通過しなかった粒径44〜350μm、粒径88〜350μmの顆粒状粉末とした。この顆粒状粉末を金型に充填し、表2に記載の圧力で外径5mm、内径3mm、高さ8mmのドーナツ形状にプレス成型した。この成形体を加熱処理によって有機バインダーを除去し、次いで、焼結処理を行い緻密化しプレスフリットとした。得られたプレスフリットの外径、内径、高さをマイクロメーターで正確に測定し体積を求め、さらに質量を測定しプレスフリットの嵩比重を求めた。先に測定したフリットの比重で割りプレスフリットの充填率を計算した。
【0068】
作成したプレスフリットを30〜300℃熱膨張係数が110×10−7/℃の金属でできた図1に示すシーズヒーターの口元に充填し、プロパンガスを燃料とするバーナーで表2に示す時間および燃焼温度で封着をおこなった。実施例4に記載の信頼性試験を行ったところ、気密性、絶縁性は保たれていた。
【0069】
(比較例2)SnO+SnO 60.5質量%、P 33質量%、ZnO 5質量%、SiO 1質量%、NaO 0.5質量%となるように原料を混合してバッチ原料とする。このバッチ原料を石英ルツボにいれ1100℃温度に調整された熔解炉内に投入して60分間熔融しガラスとした。この後、熔融ガラスを水冷ローラーで0.5〜2.0mmのリボン状に成形した。このリボン状ガラスをアルミナ製ボールミルで粉砕し、200メッシュの篩にとおしガラス粉末とした。ガラス粉末にコージェライトを15体積%混合しフリットとした。ここで作成したフリットの特性を測定しところ、30〜300℃の平均熱膨張係数は102×10−7/℃、軟化点は340℃、比重は3.6であった。
【0070】
次に、エタノール6質量%にセチルアルコール4質量%を溶解し、上記フリット100質量%に添加し、湿式造粒機で造粒した。混合粉末を40℃で36時間放置してエタノールを除去し篩により88〜350μmの顆粒状粉末とした。この顆粒状粉末1gを金型に充填し、20×10Paで外径5mm、内径3mm、高さ8mmのドーナツ形状にプレス成型した。この成型体を250℃、8時間加熱処理を行い有機バインダーの除去し、次いで、400℃、1時間焼結処理を行い緻密化しプレスフリットとした。得られたプレスフリットの外径、内径、高さをマイクロメーターで正確に測定し体積を求め、さらに質量を測定しプレスフリットの嵩比重を求めた。先に測定したフリットの比重で割りプレスフリットの充填率を計算したところ79%であった。
【0071】
作成したプレスフリットを30〜300℃熱膨張係数が110×10−7/℃の金属でできた図1に示すシーズヒーターの口元に充填し、プロパンガスを燃料とするバーナーで3分間加熱し封着した。燃焼温度を熱電対温度計で測定したら580℃であった。実施例4に記載の信頼性試験を行ったところ、封着時にガラスが発泡し気密性は取れず、また、ガラス中のSnOが還元され、金属のSnが析出し絶縁性は500Ωの抵抗値となり絶縁性は保てなかった。
【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のプレスフリットを上記実施例ではシーズヒーターの口元封止用で説明したが、その他にもエンジン用グロープラグ金属部品の絶縁用、ディスプレイの排気管固定用、魔法瓶の真空封止用、磁気ヘッド用等へ利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】シーズヒーターの概念断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1:プレスフリット、2:ヒーターパイプ、3:発熱線、4:酸化マグネシウム、5:ターミナルピン、6:電極、7:碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリットを用いて、焼結して得た焼結体を以下の式で求められる充填率で67%以上としたことを特徴とするプレスフリット。
充填率=プレスフリットの嵩比重/フリットの比重
【請求項2】
前記フリットが100〜500メッシュの篩を通過したものであることを特徴とする請求項1記載のプレスフリット。
【請求項3】
実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリットと、有機バインダーとを混合して、10〜60メッシュの篩を通過し80〜325メッシュの篩を通過しない顆粒状粉末としたものを用いて、焼結して得た焼結体を以下の式で求められる充填率で67%以上としたことを特徴とするプレスフリット。
充填率=プレスフリットの嵩比重/フリットの比重
【請求項4】
前記請求項1ないし3いずれかに記載のフリットを用いてプレスフリットを製造する方法であって、実質的に鉛成分を含有せず、酸化ビスマスを主成分とするガラス粉末を含有するフリット、有機バインダーおよび溶剤とを混練する造粒工程と、造粒したものを乾燥して前記溶剤を取り除く乾燥工程と、この乾燥工程により得られたものを篩分けし 顆粒状粉末を得る篩分け工程と、前記顆粒状粉末をプレスし成型体を得るプレス成型工程と、前記成型体から前記有機バインダーを除去する加熱処理工程と、この加熱処理工程後前記成型体を前記ガラス粉末の軟化点付近まで加熱する焼結工程とを備えることを特徴とするプレスフリットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−327845(P2006−327845A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150329(P2005−150329)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000158208)旭テクノグラス株式会社 (81)
【Fターム(参考)】