説明

プレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置

【課題】 プレス成型のストロークの長さと成型加圧力の大きさを、部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換できるとともに、プレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置を提供する。
【解決手段】 金型に進退動作を付与して所定の成型ストロークと成型加圧力によって鋼板にプレス加工を行う形式のものであって、プレス工程に連続する状態で電気抵抗溶接式の部品溶接装置17が配置され、少なくとも一方の電極が変換機構20を介して基部材に取付けられ、この変換機構20はプレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを部品溶接装置17としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレス装置の成型動作を利用して鋼板部品に他の部品を電気抵抗溶接で溶接するものに関している。
【背景技術】
【0002】
複数のプレス型を用いて順次成型を進行するトランスファー式のプレス装置が実用化されている。下記の特許文献1に開示されているトランスファープレスは、プレス型がほぼ鉛直方向に配列され、プレス加工は上方から下方へ順次進められる。
【特許文献1】特開2006−110560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような上下方向式のトランスファープレスや、ほぼ水平方向に順次プレス加工がなされるトランスファープレスが知られているが、これらのプレス工程に連続させた状態でプレス部品に他の部品を溶接することに関しては、特別な技術的配慮が必要である。とくに、トランスファープレスの成型ストロークを利用して電気抵抗溶接の電極に進退動作を行わせる場合には、プレス工程の成型ストロークの長さや成型加圧力の大きさを溶接工程に適した値に変換する必要がある。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを、部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換できるとともに、プレス装置に組み込まれる形式の電気抵抗溶接装置の提供を目的とする。
【問題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、プレス装置は一対の金型のいずれかまたは双方に進退動作を付与して所定の成型ストロークと成型加圧力によって鋼板にプレス加工を行う加工工程を有する形式のものであって、前記加工工程に連続する状態で部品溶接装置が配置され、この部品溶接装置は加工工程にともなって進退動作をする一対の基部材の各々に取付けられた電気抵抗溶接電極を含んだ状態で構成され、少なくとも一方の電気抵抗溶接電極が変換機構を介して前記基部材に取付けられ、この変換機構は前記プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを前記部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換するものであることを特徴とするプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【発明の効果】
【0006】
前記プレス装置の加工工程において成型された鋼板部品は連続的に部品溶接装置に送られ、プロジェクションナットやワッシャ等の部品が鋼板部品に電気抵抗溶接で溶接される。あるいは、素材鋼板や鋼板部品に前記部品が電気抵抗溶接で溶接された後、連続的に加工工程においてさらにプレス成型が加えられる。
【0007】
このような動作において、基部材と電気抵抗溶接電極との間に配置された変換機構が、前記プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを前記部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換する。したがって、プレス装置における成型ストロークの長さや成型加圧力の大きさが部品溶接装置に適したものに変換され、プレス装置の金型の進退動作を利用した部品溶接が実現する。
【0008】
このため、プレス装置自体の動作性を変更することなく、プレス装置と電気抵抗溶接を単一の装置として成立させることができ、合わせて設備の簡素化が可能となる。また、既存のプレス装置に前記変換機構を介在させた電気抵抗溶接電極を組み込むだけであるから、プレス装置の改造を最小限にとどめて多機能化された生産設備がえられる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記プレス装置はトランスファー式のものであり、前記部品溶接装置がトランスファー工程のいずれかの工程箇所に配置されている請求項1記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0010】
トランスファー式プレス装置によって、例えば、鋼板に対して折り曲げ工程のつぎに穴開け工程を行い、ついでプロジェクションナットを電気抵抗溶接で溶接する。あるいは、穴開け工程のつぎにプロジェクションナットの溶接を行ってから折り曲げ工程を行う。このようにトランスファー工程のいずれかの工程箇所に部品溶接装置が連続した状態で配置されているので、プレス成型と部品溶接が連続性をもって配列され、生産性の高い工程形成が実現する。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向と同方向とされている請求項2記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0012】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向と同方向とされている。すなわち、第1金型で成型された鋼板部品は前記加圧方向に移行(トランスファー)されて、第2金型にセットされ2番目の成型が施される。このように加圧方向とトランスファー方向が同方向であるから、油圧シリンダのような加圧装置と金型とを一列配置にすることができて、装置全体がコンパクトにまとまる。とくに、トランスファー方向がほぼ鉛直方向であるときには、工場スペースを最小化するのに効果的である。
【0013】
請求項4記載の発明は、前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向にほぼ直交する方向とされている請求項2記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0014】
第1金型で成型された鋼板部品は横隣の第2金型へ簡単に移行(トランスファー)されるので、鋼板部品の移送が簡単に行える。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記部品溶接装置がトランスファー工程の最終工程箇所に配置されている請求項2〜請求項4のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0016】
トランスファープレス装置の最終工程箇所に前記部品溶接装置が配置されているので、部品溶接装置を前工程の金型に影響を与えたりすることのない状態でプレス装置に追加することができ、部品溶接装置の追加的な設置が簡単に行えて経済的である。さらに、プロジェクションナット等の部品の溶接が完了した鋼板部品が直ちにプレス装置から送出されるので、部品搬送の点においても有利である。また、プレス加工とは異なった種類の電気抵抗溶接工程が最終工程に位置づけられているので、プレス金型などに影響をおよぼすことなくプレス工程と溶接工程を配列することが可能となる。加えて、部品溶接装置が最終工程箇所に配置されているので、周辺に障害になるような部材が少なくて、プロジェクションナット等の部品を供給することが容易に行える。
【0017】
請求項6記載の発明は、前記変換機構は前記基部材に固定された加圧部材と電気抵抗溶接電極が固定された被動部材とが相対変位可能な状態で組み合わされている請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0018】
前記加圧部材と被動部材とが相対変位可能な状態で組み合わされている。したがって、プレス装置の金型ストロークと同じストローク長さである加圧部材が被動部材に対して相対変位をすると、その相対変位長さは電極ストロークにとっては無効ストロークとなる。換言すると、金型ストロークが電極ストロークよりも長すぎる分だけ無効ストロークとされる。したがって、前記相対変位によって過長ストロークが吸収され、電気抵抗溶接に適した電極ストロークが確保される。このようにしてプレス装置固有の成型ストロークを電気抵抗溶接に適した溶接ストロークに変換でき、プレス装置と電気抵抗溶接装置との共存が実現する。
【0019】
請求項7記載の発明は、前記加圧部材と被動部材との間に弾性体が配置されている請求項6記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0020】
このように弾性体を介在してあるので、その弾性的特性を選択することによって、電極の加圧力を所定値に設定することができて、良好な電気抵抗溶接が可能となる。
【0021】
請求項8記載の発明は、前記弾性体は、圧縮コイルスプリングである請求項7記載プレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0022】
圧縮コイルスプリングを用いることによって、前記加圧部材の過長ストロークを吸収することができ、同時に、圧縮コイルスプリングの全圧縮や全圧縮直前の状態で溶接加圧力を適正値として確保することができる。
【0023】
請求項9記載の発明は、前記プレス装置で成型された前記鋼板部品の所定箇所または電気抵抗溶接電極に対して、鋼板部品に溶接される部品を供給する部品供給装置が配置されている請求項1〜請求項8のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0024】
前記部品供給装置によってプロジェクションナット等の部品が所定の箇所に供給されるので、部品溶接が確実に達成される。
【0025】
請求項10記載の発明は、前記部品供給装置は、供給ロッドに部品を保持して供給する形式のものである請求項9記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0026】
前記供給ロッドによって所定の箇所に差し込むようにして部品供給がなされるので、プレス装置の一部に配置された部品溶接装置であっても、正確な部品供給がなされ、精度の高い溶接動作が確保できる。
【0027】
請求項11記載の発明は、少なくとも前記変換機構と前記部品溶接装置とが前記基部材に対して着脱可能な溶接ユニットを構成している請求項1〜請求項10のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置である。
【0028】
上述のような溶接ユニットであるから、このユニットをプレス装置に対して自由に着脱することができる。また、ユニット化によって一対の電極の軸心を正確に合わせることができる。さらに、溶接する部品の種類が変わる場合には、溶接ユニットを他のものに取り換えて使用することができるので、工程変換時の変換作業が簡素化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
つぎに、本発明のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0030】
図1〜図5は実施例1を示す。
【0031】
まず、プレス装置について説明する。
【0032】
図1(A)はプレス装置全体の側面図、同図(B)は(A)図の(B)−(B)断面図であり、以下に述べるプレス装置は一般的に採用されている形式のものである。床1に固定されたベース部材2に4本の支柱3が固定されている。この支柱3はほぼ鉛直方向に起立しており、その上部にほぼ水平方向に配置された支持板4が固定されている。支柱3の内側にそれと同方向に4本のガイドポスト5が配置されている。このガイドポスト5はベース部材2に固定されている。
【0033】
分厚い鋼板で作られた5つの基部材が配置されている。それらは、第1基部材6、第2基部材7,第3基部材8,第4基部材9、第5基部材10が平行な状態で配置されている。第1基部材6から第4基部材9の四隅に前記ガイドポスト5が貫通しており、これらの基部材はガイドポスト5に沿って摺動できるように支持されている。そして、一番下の第5基部材10はベース部材2に固定されている。
【0034】
各基部材の間に金型が配置されている。第1基部材6と第2基部材7の間に折り曲げ加工をする第1金型11が配置され、第2基部材7と第3基部材8との間に絞り加工をする第2金型12が配置され、第3基部材8と第4基部材9との間に穴開け加工をする第3金型13が配置されている。そして、支持板4にプレス装置の加圧手段である油圧シリンダ15が固定され、ほぼ鉛直方向に進退するピストンロッド16が第1基部材6に結合されている。
【0035】
このプレス装置は、第1金型11で成型された鋼板部品が第2金型12から第3金型13へと順次移送されて加工されるトランスファープレスであり、各金型で成型される工程が加工工程である。そして、プレス装置のトランスファー方向は、油圧シリンダ15の加圧方向と同方向とされている。
【0036】
油圧シリンダ15のピストンロッド16が突き出ると、各基部材6、7、8および9の間隔がガイドポスト5に沿って縮小され、最初に第1金型11が閉じて折り曲げ加工がなされる。その後、さらにピストンロッド16が突き出ると、第2金型12が閉じて絞り加工がなされる。さらにピストンロッド16が突き出ると、第3金型13で穴開け加工がなされる。このようにして各金型11、12、13、によって複数箇所においてに成型加工がなされる。この成型加工が完了するとピストンロッド16が戻されて、閉じていた各金型11、12、13は図1(A)に示すように、順次開いた状態となる。図示していないが、金型11、12、13が順次閉じ再び開くようにするために、復帰機構が採用されている。その一例として、ガイドポスト5に組み合わせた圧縮コイルスプリングや、引き戻しロッド等が採用できる。
【0037】
つぎに、部品溶接装置について説明する。
【0038】
第4基部材9と第5基部材10との間に部品溶接装置17が配置されている。この部品溶接装置17は電気抵抗溶接を行う形式のものであり、第4基部材9側に取付けられた電気抵抗溶接電極が可動電極18であり、第5基部材10側に取付けられた電気抵抗溶接電極が固定電極19である。両電極18,19は同軸上に配置され、油圧シリンダ15によるストローク動作で可動電極18が進退するようになっている。可動電極18または固定電極19のいずれかが後述の変換機構20を介して基部材に取付けられている。ここでは、第4基部材9と可動電極18との間に変換機構20が配置してある。
【0039】
符号21が鋼板部品であり、固定電極19上に載置されている。そして、第5基部材10に固定された支持治具22,23によって、鋼板部品21の位置決めがなされている。
【0040】
つぎに、変換機構について説明する。
【0041】
前記変換機構20は、プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを前記部品溶接装置17としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換するものである。変換機構20にこのような機能を持たせるためには種々な構造が採用できるが、ここでは第4基部材9とともに進退する加圧部材25と、可動電極18が取付けられた被動部材26が相対変位可能な状態で組み付けられた形式のものである。この相対変位は第4基部材9の進退方向になされる。
【0042】
前記被動部材26は四角いブロック状の部材であり、その中央部に第4基部材9の進退方向に沿ってシリンダ孔27が設けてあり、その中に摺動自在な状態で加圧部材25が挿入されている。加圧部材25とシリンダ孔27の底面との間に弾性体である圧縮コイルスプリング28が挿入してある。シリンダ孔27と平行な位置関係で2つのガイド孔29が設けられ、ここに第4基部材9側に固定されたガイドロッド30が摺動自在に貫通している。このガイドロッド30の先端にストップフランジ34が形成され、これによって被動部材26の最下位置が設定されている。
【0043】
符号L1で示すように、加圧部材25と被動部材26との相対変位長さが設定されている。固定電極19に鋼板部品21を貫通して突き出ているガイドピン24が設けられ、ここに鉄製のプロジェクションナット31が載置されている。第4基部材9が下降してきて可動電極18がプロジェクションナット31に押し付けられると、今度は前記相対変位長さL1を縮小しながら加圧部材25がシリンダ孔27内に相対的に進入する。この進入によって圧縮コイルスプリング28が圧縮されて溶接に必要な加圧力が設定される。その後、溶接電流が通電されて溶着用突起37が鋼板部品21に溶着する。
【0044】
上述のように、プレスストロークの長さとされている第4基部材9のストローク長さが、相対変位長さL1を設置することによって溶接ストロークの長さに変換されたことになる。換言すると、相対変位長さL1が溶接ストロークとしては無効長さとして存在している。つまり、金型ストロークが電極ストロークよりも長すぎる分だけ無効ストロークとされる。したがって、前記相対変位によって過長ストロークが吸収され、電気抵抗溶接に適した電極ストロークが確保される。
【0045】
また、圧縮コイルスプリング28の圧縮反力がL1の縮小とともに増大するが、この最終的な圧縮反力が可動電極18の溶接加圧力となるように圧縮コイルスプリング28のばね定数が設定されている。あるいは、圧縮コイルスプリング28が全圧縮されたときの油圧シリンダ15の加圧力を溶接加圧力とすることもできる。なお、図3において符号32,33は、溶接電流の導線である。
【0046】
つぎに、鋼板部品に溶接される部品について説明する。
【0047】
図1(C)〜(F)に部品が図示されている。(C)図は、前述の鉄製のプロジェクションナット31を示す。これは四角い形の本体35の中央部にねじ孔36が開けられ、本体35の片側の四隅に溶着用突起37が設けられたものである。(D)図は、円形のワッシャ38であり、中央部に通孔39が形成され、片側の面に溶着用突起40が形成されている。(E)図は、鋼板をハット型に成型した板金部品41であり、中央部に通孔42が設けられ、フランジ43に溶着用突起44が形成してある。(F)図は、鉄製のプロジェクションボルト45であり、雄ねじが成型された軸部46と軸部46と一体の円形のフランジ47とフランジ47の中央部に設けられた溶着用突起48から構成されている。
【0048】
つぎに、部品供給装置について説明する。
【0049】
部品供給装置全体は符号50で示されている。前記プレス装置で成型された鋼板部品21の所定箇所または可動電極18、固定電極19のいずれかに対して、鋼板部品21に溶接される部品を供給する。ここでは前記プロジェクションナット31を供給ロッド51に保持して前記ガイドピン24に供給する場合である。
【0050】
図4(A)に示すように、供給ロッド51は、鉛直線に対して傾斜した姿勢で配置され、ガイド筒52内に摺動自在に挿入されている大径の摺動ロッド53と、この摺動ロッド53よりも小径でプロジェクションナット31のねじ孔36を貫通するガイドロッド54から構成され、両ロッド53と54の境界部に押出し面55が形成されている。ガイド筒52の端部に供給管56が溶接され、その開口部の前方にストッパ部材57が配置されて仮止室58が形成されている。ストッパ部材57に固定された永久磁石59によってプロジェクションナット31がストッパ部材57に吸着されてナットの一時係止位置が設定される。この一時係止状態で、ねじ孔36とガイドロッド54が同軸となるようになっている。
【0051】
図4(A)に示す状態から供給ロッド51が進出すると、ガイドロッド54がねじ孔36を貫通する。ガイドロッド54の先端がガイドピン24に接近した時点で押出し面55がナット31の上面に当たると、ナット31は永久磁石59の吸引力に抗して押し出されてガイドロッド54に沿って滑降し2点鎖線図示のように、ねじ孔36内にガイドピン24が入り込んだ状態になり、ナット供給が完了する。
【0052】
図4(B)に示した例は、供給ロッド61がほぼ水平方向に配置されたもので、その先端部に切欠き形状の保持部62が形成されている。この供給ロッド61は符号63で示すスクエアーモーションを行うようになっている。なお、保持部62の近傍に保持用の永久磁石64が埋設してある。供給ロッド61がスクエアーモーションを行うことによって、ねじ孔36内にガイドピン24が入り込んだ状態になって、ナット供給が完了する。
【0053】
図4(C)に示した例は、可動電極18にプロジェクションナット31を保持する例である。可動電極18の端面中央に位置決めピン65が固定され、その近傍に永久磁石66が埋設されている。一方、供給ヘッド67にナット31を載置して可動電極18に到達させるものであり、切欠き状の載置部68が形成されている。載置部68上のナット31の落下や位置ずれを防止するために、永久磁石69が供給ヘッド67に埋設されている。供給ヘッド67に供給ロッド70が斜め方向に結合されている。
【0054】
矢線71の方向に供給ヘッド67が進出してきてナット31と位置決めピン65が同軸になった位置で進出が停止する。つぎに、矢線72の方向に供給ヘッド67が移動しねじ孔36内に位置決めピン65が進入する。それから矢線73の方向に供給ヘッド67が後退すると、ナット31が永久磁石66に保持されて、ナット供給が完了する。
【0055】
図4(D)に示した例は、図1(F)に示したプロジェクションボルト45を可動電極18に供給する場合である。供給ヘッド75に上方に開放した保持凹部76が形成され、その底部にボルト45のフランジ47が着座するようになっている。この着座状態を安定させるために、永久磁石77が供給ヘッド75に埋設してある。保持凹部76の底部に空気噴射口78が開口しており、空気通路79から噴射空気が供給される。供給ヘッド75の供給ロッド80が斜め方向に結合してあり、その内部に空気通路79が連通している。
【0056】
可動電極18の端面中央に受入孔81が設けられ、その奥に保持用の永久磁石82が固定されている。
【0057】
図4(D)は、供給ロッド80が斜め上方から進出してきて軸部46が受入孔81と同軸になった位置で停止した状態を示している。この状態から供給ヘッド75が上方へ移動し軸部46の先端部が受入孔81に進入した時期に空気噴射口78から圧縮空気が噴射される。これによって、ボルト45は勢いよく受入孔81内に進入しフランジ47が可動電極18の端面に密着して、ボルト供給が完了する。
【0058】
図2は、部品溶接装置17に部品供給装置50が組み付けられた状態を示す側面図である。ここに示されている部品供給装置50は、図4(A)に示したタイプのものであり、供給ロッド51を進退させるエアシリンダが符号49で示されている。供給管56はパーツフィーダ60に接続されている。符号83は変圧器、84は制御ボックスである。
【0059】
以上に説明した実施例1では図1や図2に示すように、部品溶接装置17が最終のプレス工程の後に配置されているが、これをプレス工程の途中に配置することも可能である。例えば、鋼板にナット31を溶接してから次のプレス工程で折り曲げ加工を行うようなことができる。
【0060】
図1(A)に示すプレス装置には、鋼板部品21を移送するロボット装置85がプレス装置の付属機構として配置されている。このロボット装置85の動作は、最初に部品溶接装置17で部品溶接が完了した鋼板部品21を取り出し、そこへ第3金型13で穴開け加工が完了した鋼板部品21を移送する。同様にして、第2金型12で絞り加工が完了した鋼板部品21を第3金型13にセットする。ついで、第1金型11で折り曲げ加工が完了した鋼板部品21を第2金型12にセットする。そして、第1金型11に素材鋼板が供給される。このような順を追った移送が矢線図示のようにして完了すると、油圧シリンダ15の動作で第1金型11から順次成型がなされる。このときの第4基部材9のストロークによって鋼板部品21にプロジェクションナット31が溶接される。
【0061】
つぎに、変換機構の弾性体の変形例を説明する。
【0062】
図3において説明した弾性体は圧縮コイルスプリング28であるが、それを変形した例が図5に示されている。シリンダ孔27にピストン87が摺動自在に挿入され、このピストン87に加圧部材25が結合されている。シリンダ孔27内には空気が封入されており、ピストン87には絞り孔88が設けてある。また、シリンダ孔27の内端部に硬質ゴムでできた緩衝材89が配置してある。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の実施例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0063】
第4基部材9が下降して可動電極18がナット31に当たると、今度はピストン87が相対的にシリンダ孔27内を移動する。このときに圧縮された空気が絞り孔88を通過してピストン87の上側に移動し、このときの絞り抵抗によって可動電極18がナット31に加圧された状態となる。そして、最後にピストン87が緩衝材89に圧接すると、緩衝材89の弾性変形によって可動電極18に溶接に適した加圧力が付与される。なお、ここでの流体は空気であるが、これを作動油のような液体に置き換えることも可能である。それ以外の作用は、図3に示したものと同じである。
【0064】
なお、上記各種のエアシリンダに換えて、進退出力をする電動モータを採用することもできる。
【0065】
上述の動作を、制御装置またはシーケンス回路や、それからの動作信号で作動空気を送り出す空気切換弁や、エアシリンダの所定位置で信号を発して前記制御装置に送信するセンサー等の一般的に使用されている制御手段によって確保することができる。
【0066】
以上に説明した実施例1の作用効果は、つぎのとおりである。
【0067】
前記プレス装置の加工工程において成型された鋼板部品21は連続的に部品溶接装置17に送られ、プロジェクションナット31やワッシャ38等の部品が鋼板部品21に電気抵抗溶接で溶接される。あるいは、素材鋼板や鋼板部品に前記部品が電気抵抗溶接で溶接された後、連続的に加工工程においてさらにプレス成型が加えられる。
【0068】
このような動作において、第4基部材9と可動電極18との間に配置された変換機構20が、プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを部品溶接装置17としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換する。したがって、プレス装置における成型ストロークの長さや成型加圧力の大きさが部品溶接装置17に適したものに変換され、プレス装置の金型の進退動作を利用した部品溶接が実現する。
【0069】
このため、プレス装置自体の動作性を変更することなく、プレス装置と電気抵抗溶接を単一の装置として成立させることができ、合わせて設備の簡素化が可能となる。また、既存のプレス装置に前記変換機構20を介在させた可動電極18を組み込むだけであるから、プレス装置の改造を最小限にとどめて多機能化された生産設備がえられる。
【0070】
前記プレス装置はトランスファー式のものであり、前記部品溶接装置17がトランスファー工程のいずれかの工程箇所に配置されている。
【0071】
トランスファー式プレス装置によって、例えば、鋼板に対して折り曲げ工程のつぎに穴開け工程を行い、ついでプロジェクションナット31を電気抵抗溶接で溶接する。あるいは、穴開け工程のつぎにプロジェクションナット31の溶接を行ってから折り曲げ工程を行う。このようにトランスファー工程のいずれかの工程箇所に部品溶接装置17が連続した状態で配置されているので、プレス成型と部品溶接が連続性をもって配列され、生産性の高い工程形成が実現する。
【0072】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段である油圧シリンダ15の加圧方向と同方向とされている。
【0073】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の油圧シリンダ15の加圧方向と同方向とされている。すなわち、第1金型11で成型された鋼板部品21は前記加圧方向に移行(トランスファー)されて、第2金型12にセットされ2番目の成型が施される。このように加圧方向とトランスファー方向が同方向であるから、油圧シリンダ15のような加圧装置と金型11〜13を一列配置にすることができて、装置全体がコンパクトにまとまる。とくに、トランスファー方向がほぼ鉛直方向であるときには、工場スペースを最小化するのに効果的である。
【0074】
前記部品溶接装置17がトランスファー工程の最終工程箇所に配置されている。
【0075】
トランスファープレス装置の最終工程箇所に前記部品溶接装置17が配置されているので、部品溶接装置17を前工程の第3金型13に影響を与えたりすることのない状態でプレス装置に追加することができ、部品溶接装置17の追加的な設置が簡単に行えて経済的である。さらに、プロジェクションナット31等の部品の溶接が完了した鋼板部品21が直ちにプレス装置から送出されるので、部品搬送の点においても有利である。また、プレス加工とは異なった種類の電気抵抗溶接工程が最終工程に位置づけられているので、プレス金型などに影響をおよぼすことなくプレス工程と溶接工程を配列することが可能となる。加えて、部品溶接装置17が最終工程箇所に配置されているので、周辺に障害になるような部材が少なくて、プロジェクションナット等の部品を供給することが容易に行える。
【0076】
前記変換機構20は前記第4基部材9に固定された加圧部材25と可動電極18が固定された被動部材26とが相対変位可能な状態で組み合わされている。
【0077】
前記加圧部材25と被動部材26とが相対変位可能な状態で組み合わされている。したがって、プレス装置の金型ストロークと同じストローク長さである加圧部材25が被動部材26に対して相対変位をすると、その相対変位長さL1は電極ストロークにとっては無効ストロークとなる。換言すると、金型ストロークが電極ストロークよりも長すぎる分だけ無効ストロークとされる。したがって、前記相対変位によって過長ストロークが吸収され、電気抵抗溶接に適した電極ストロークが確保される。このようにしてプレス装置固有の成型ストロークを電気抵抗溶接に適した溶接ストロークに変換でき、プレス装置と電気抵抗溶接装置との共存が実現する。
【0078】
前記加圧部材25と被動部材26との間に弾性体28、緩衝材89が配置されている。
【0079】
このように弾性体28、緩衝材89を介在してあるので、その弾性的特性であるばね定数を選択することによって、可動電極18の加圧力を所定値に設定することができて、良好な電気抵抗溶接が可能となる。
【0080】
前記弾性体は、圧縮コイルスプリング28である。
【0081】
圧縮コイルスプリング28を用いることによって、前記加圧部材25の過長ストロークを吸収することができ、同時に、圧縮コイルスプリング28の全圧縮や全圧縮直前の状態で溶接加圧力を適正値として確保することができる。
【0082】
前記プレス装置で成型された前記鋼板部品21の所定箇所または可動電極18、固定電極19に対して、鋼板部品21に溶接される部品を供給する部品供給装置50が配置されている。
【0083】
前記部品供給装置50によってプロジェクションナット31等の部品が所定の箇所に供給されるので、部品溶接が確実に達成される。
【0084】
前記部品供給装置50は、供給ロッド51,61,70,80に部品を保持して供給する形式のものである。
【0085】
前記供給ロッド51,61,70,80によって所定の箇所に差し込むようにして部品供給がなされるので、プレス装置の一部に配置された部品溶接装置17であっても、正確な部品供給がなされ、精度の高い溶接動作が確保できる。
【実施例2】
【0086】
図6は、実施例2を示す。
【0087】
この実施例2は、少なくとも前記変換機構20と前記部品溶接装置17とが、第4基部材9と第5基部材10に対して着脱可能な溶接ユニットを構成しているものである。溶接ユニット全体は符号100で示されている。ボルト付け(図示していない)などで第4基部材9と第5基部材10に着脱自在とされた基板90,91が配置され、基板90に加圧部材25やガイドロッド30等が取付けられ、また、基板91に固定電極19,支持治具22,23が固定されている。
【0088】
可動電極18や固定電極19のユニット性を維持するために、ガイドポスト92が基板90,91の四隅に配置されている。このガイドポスト92は、基板90に固定されたガイドパイプ93の中に、基板91に固定されたガイドロッド94が進退自在に挿入されたものである。ガイドロッド94の抜け止めをするために、ガイドロッド94に固定した突起95がガイドパイプ93に設けた長孔96内に進入している。この長孔96によってガイドポスト92にストローク動作が可能とされている。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の実施例1と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0089】
少なくとも前記変換機構20と前記部品溶接装置17とが前記第4基部材9と第5基部材10に対して着脱可能な溶接ユニット100を構成している。
【0090】
上述のような溶接ユニット100であるから、このユニットをプレス装置に対して自由に着脱することができる。また、ユニット化によって一対の可動電極18と固定電極19の軸心を正確に合わせることができる。さらに、溶接する部品の種類が変わる場合には、溶接ユニット100を他のものに取り換えて使用することができるので、工程変換時の変換作業が簡素化される。それ以外の作用効果は、先の実施例1と同じである。
【実施例3】
【0091】
図7は、実施例3を示す。
【0092】
この実施例3は、プレス装置のトランスファー方向をプレス装置の加圧方向に対してほぼ直交させたものである。静止状態の第5基部材10と油圧シリンダ15で進退する第4基部材9との間に第2金型12、第3金型13、部品溶接装置17がトランスファー方向97に沿って配列されている。このトランスファー方向97と油圧シリンダ15の進退方向とがほぼ直交している。なお、図示していないが、第5基部材10にプレス成型ストロークを付与することも可能である。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の各実施例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0093】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向にほぼ直交する方向とされている。
【0094】
第2金型12で成型された鋼板部品は横隣の第3金型13へ簡単に移行(トランスファー)され、さらに部品溶接装置17へ移行されるので、鋼板部品の移送が簡単に行える。それ以外の作用効果は、先の各実施例と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
上述のように、本発明によれば、プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを、部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換できるとともに、プレス装置に組み込まれる形式の電気抵抗溶接装置がえられるので、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】プレス装置の側面図と各種部品の断面図である。
【図2】部品溶接装置に部品供給装置が組み付けられた側面図である。
【図3】変換機構の断面図である。
【図4】各種の部品供給装置を示す断面図である。
【図5】他の変換機構の断面図である。
【図6】溶接ユニットの側面図である。
【図7】他のプレス装置の側面図と固定電極部分の断面図である。
【符号の説明】
【0097】
6 第1基部材
7 第2基部材
8 第3基部材
9 第4基部材
10 第5基部材
11 第1金型
12 第2金型
13 第3金型
15 油圧シリンダ
17 部品溶接装置
18 可動電極
19 固定電極
20 変換機構
21 鋼板部品
25 加圧部材
26 被動部材
28 圧縮コイルスプリング
L1 相対変位長さ
31 プロジェクションナット
38 ワッシャ
41 板金部品
45 プロジェクションボルト
50 部品供給装置
51 供給ロッド
61 供給ロッド
70 供給ロッド
80 供給ロッド
89 緩衝材
90 基板
91 基板
92 ガイドポスト
97 トランスファー方向
100 溶接ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置は一対の金型のいずれかまたは双方に進退動作を付与して所定の成型ストロークと成型加圧力によって鋼板にプレス加工を行う加工工程を有する形式のものであって、前記加工工程に連続する状態で部品溶接装置が配置され、この部品溶接装置は加工工程にともなって進退動作をする一対の基部材の各々に取付けられた電気抵抗溶接電極を含んだ状態で構成され、少なくとも一方の電気抵抗溶接電極が変換機構を介して前記基部材に取付けられ、この変換機構は前記プレス装置の成型ストロークの長さと成型加圧力の大きさを前記部品溶接装置としての溶接ストロークの長さと溶接加圧力の大きさに変換するものであることを特徴とするプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項2】
前記プレス装置はトランスファー式のものであり、前記部品溶接装置がトランスファー工程のいずれかの工程箇所に配置されている請求項1記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項3】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向と同方向とされている請求項2記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項4】
前記プレス装置のトランスファー方向は、プレス装置の加圧手段の加圧方向にほぼ直交する方向とされている請求項2記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項5】
前記部品溶接装置がトランスファー工程の最終工程箇所に配置されている請求項2〜請求項4のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項6】
前記変換機構は前記基部材に固定された加圧部材と電気抵抗溶接電極が固定された被動部材とが相対変位可能な状態で組み合わされている請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項7】
前記加圧部材と被動部材との間に弾性体が配置されている請求項6記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項8】
前記弾性体は、圧縮コイルスプリングである請求項7記載プレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項9】
前記プレス装置で成型された前記鋼板部品の所定箇所または電気抵抗溶接電極に対して、鋼板部品に溶接される部品を供給する部品供給装置が配置されている請求項1〜請求項8のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項10】
前記部品供給装置は、供給ロッドに部品を保持して供給する形式のものである請求項9記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。
【請求項11】
少なくとも前記変換機構と前記部品溶接装置とが前記基部材に対して着脱可能な溶接ユニットを構成している請求項1〜請求項10のいずれかに記載のプレス装置に組み込まれる電気抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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