プレス装置
【課題】 複数のモータを駆動源としてスライダを押下するプレス装置において、偏心荷重が印加された際にもスライダを水平に保ちつつ押下させるようにする。
【解決手段】 プレス装置において、偏心荷重が印加されることになる場合に、ティーチング段階において、当該偏心荷重が印加される夫々の時点で夫々どの駆動源において駆動トルクがどの程度不足するかを決定しておき、本番加工時に当該トルク不足を補うトルク付加信号を夫々の時点に対応して夫々の対応する駆動源に対して補うようにする。
【解決手段】 プレス装置において、偏心荷重が印加されることになる場合に、ティーチング段階において、当該偏心荷重が印加される夫々の時点で夫々どの駆動源において駆動トルクがどの程度不足するかを決定しておき、本番加工時に当該トルク不足を補うトルク付加信号を夫々の時点に対応して夫々の対応する駆動源に対して補うようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば板金加工等に使用されるプレス装置に関し、特に、ベースと支持板との間で上下動するスライダにおける分散した複数の加圧点に対応して、当該スライダを押し圧する複数の駆動軸をそなえ、当該夫々の駆動軸に対応してモータが駆動源としてもうけられているプレス装置において、上記スライダを正確に水平に駆動できるようにしたプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記スライダを複数の駆動源であるモータによって押し圧するプレス装置が知られており、本願出願人も特許文献1として特許出願を行っている。
【0003】
図7は従来公知のプレス装置を示している。なお、図7は上記特許文献1に開示されているものと実質的に同じである。
【0004】
図7において、ベース401と支持板402と複数のガイド柱403とで形成された枠体404の内部には、2つのスライダ405、スライダ406が設けられ、各スライダ405、406の四隅に、ガイド柱403と係合しガイド柱403の軸方向にスライダ405、406が自在に摺動する摺動穴がそれぞれ設けられている。
【0005】
支持板402の上面には、複数個の、例えば4つの取り付け台408が設けられており、各取り付け台408には、エンコーダを内蔵した早送り用のサーボモータ409が取り付けられている。
【0006】
以下に説明する4つの取り付け台408に取り付けられた各早送り用のサーボモータ409に関連する構成・構成部品は全く同じものであるので、その1つについて説明することにする。
【0007】
取り付け台408の内部において早送り用のサーボモータ409の軸に固着された早送り用のねじ軸410は、回転自在に支持板402に軸支されると共に、スライダ406に固定されためねじ送りナット411に螺合され、スライダ406の下方にさらに設けられているスライダ405を貫通することが可能となっている。従って、上記4つの早送り用のサーボモータ409の同期した正回転・逆回転により、スライダ406が上昇或いは降下し、早送り用のサーボモータ409の回転制御でスライダ406を往復運動させることができる。
【0008】
スライダ406には、ねじ軸410を当該スライダ406にクランプする、即ち固定するダブルナットロック機構414が設けられている。このロック機構414が働くと、ねじ軸410がスライダ406に固定(ロック)され、ねじ軸410とスライダ406とが一体化し、ねじ軸410とスライダ406とは相互に移動することができないようになっている。
【0009】
スライダ406の上面には、複数個の、例えば2、3又は4つの取り付け台415が設けられおり、各取り付け台415には、エンコーダを内蔵した減速機416付の加圧用のサーボモータ417が取り付けられている。取り付け台415に取り付けられた各加圧用のサーボモータ417に関連する構成・構成部品も全く同じものであるので、以下の説明でもその1つについて説明することにする。
【0010】
取り付け台415の内部において加圧用のサーボモータ417の軸に固着されたボールねじ軸418は、内部にボールとナット部材とが設けられた差動機構付ボールねじ機構419と螺合し、スライダ406に回転自在に軸支されている。ボールねじ軸418とスライダ405の上面に固定された当該差動機構付ボールねじ機構419とで、2つのスライダ406とスライダ405とが連結された構造となっている。つまり、取り付け台415に設けられた上記複数個の加圧用のサーボモータ417を同期して正回転或いは逆回転させることにより、スライダ405が上昇或いは降下し、加圧用のサーボモータ417の回転制御でスライダ405を往復運動させることができる。
【0011】
スライダ405の下端面には上型407が取り付けられ、またベース401にはこの上型407に対応する位置に下型420が設けられている。そしてベース401と支持板402との間に、スライダ405の位置を検出するパルススケール421が4つのガイド柱403に沿ってそれぞれ取り付けられ、上型407と下型420に載置された被加工物422との接触位置を検出すると共に、上型407の上限待機位置及び下限降下位置を検出するようになっている。スライダ405などの平行制御は、上記4つのパルススケール421を基準にして行われる。
【0012】
それぞれ2個ないし4個の早送り用のサーボモータ409と、2個ないし4個の加圧用のサーボモータ417との各回転を制御し、そしてねじ軸410をスライダ406に固定(ロック)させ或いはその解除(アンロック)をさせるロック機構414を制御する制御装置423は、予め各種の設定値が入力されるようになっている他、スライダ405の位置検出をするための、即ち上型407の位置検出をするためのパルススケール421が検出する位置信号を受け入れる。そして当該制御装置423は、上限待機位置にある上型407が下型420に載置された被加工物422と接触する時点あるいは接触する直前の時点までは、早送り用のサーボモータ409によるねじ軸410の回転によって降下するスライダ406及び必要に応じて加圧用のサーボモータ417の回転によって降下するスライダ405を介して、上型407を急速に降下させる。早送り用のサーボモータ409の停止後に直ちにロック機構414をロックさせ、上型407が被加工物422と接触した時点あるいは接触する直前の時点から上型407が予め定められた下限降下位置(図7の上型407の想像線位置(407))まで降下する時点までは、上型407の降下を加圧用のサーボモータ417によって降下するようにする。即ち、スライダ405は、上記の急速降下速度にくらべて減速される。この場合制御装置423は加圧用のサーボモータ417をトルク付加モードにして、上型407が下型420に載置された被加工物422を押圧し、被加工物422を所定の形状にプレス加工を行うようにする。そして上型407が下限降下位置に到達後は、ロック機構414のロックを解除(アンロック)すると共に、加圧用のサーボモータ417によるスライダ405の上昇と早送り用のサーボモータ409によるスライダ406の上昇との両方を用いて上型407を急速に上昇させる制御を行わせる。
【0013】
早送り用のサーボモータ409の停止後ロック機構414をロックしてねじ軸410をスライダ406に固定(ロック)させるのは、上型407が下型420に載置された被加工物422をプレスする際に生じる反力で、スライダ405、差動機構付ボールねじ機構419及びボールねじ軸418などを介してスライダ406を上向きに移動させようとする力が働いても、上記説明のねじ軸410とスライダ406との一体化により、ねじ軸410はその回転が阻止されるので、スライダ406は上向きに移動することはなく停止位置を維持させるためである。つまり上型407は被加工物422に所定のプレス荷重を付与することができる。
【0014】
図8は図7に対応する電動プレス加工機の変形例についての上型の移動機構部の一実施例拡大説明図を示しており、図7と同じものは同一の符号が付されている。また図8は上記特許文献1に開示されているものと実質的に同じである。
【0015】
図8において、図示省略のベースと支持板402と複数のガイド柱403とで形成された枠体404の内部には、スライダ460が設けられ、スライダ460の四隅に、ガイド柱403と係合しガイド柱403の軸方向にスライダ460が自在に摺動する摺動穴がそれぞれ設けられている。
【0016】
支持板402の上面には、例えば2つ又は4つなど複数個の取り付け台461が設けられており、各取り付け台461には、減速機416を介して(当該減速機416は省略してもよい)エンコーダを内蔵した早送り用のサーボモータ409が取り付けられている。
【0017】
以下に説明する上記複数個の取り付け台461に取り付けられた各早送り用のサーボモータ409に関連する構成・構成部品は全く同じものであるので、その1つについて説明することにする。
【0018】
スライダ460の上面に取り付けられた取り付け台461を貫通した早送り用のサーボモータ409の出力軸462は、ボールねじ軸463の先端部にカップリング464を介して連結されている。支持板402に設けられた孔465には、ベアリングホルダ466を介してボールねじ軸463に嵌め込まれたベアリング467が取り付けられ、早送り用のサーボモータ409によって駆動されるボールねじ軸463が回転自在に支持板402に取り付けられている。
【0019】
支持板402にはロック機構468が設けられている。このロック機構468は、ボールねじ軸463に固定された歯車439と当該歯車439と噛み合う歯車片441を有するソレノイド440で構成されている。このロック機構468が働くと、歯車片441が歯車439の歯と噛み合うこととなり、ボールねじ軸463が支持板402に固定され、ボールねじ軸463と支持板402とが一体化し、ボールねじ軸463が回転することができないようになる。
【0020】
スライダ460の上面には内部が中空469の支持体470が固着されている。この支持体470の中空469には、スライダ460に設けられた孔(図示省略)と共に中央にボールねじ軸463を自在に回転させるに足る孔473を有し、上下2つのスラスト荷重用のベアリング474、475でボールねじ軸463を中心軸として回転自在に設けられたウォームホイール476と、ウォームホイール476に噛み合うウォーム477が固定されたエンコーダ内蔵の加圧用のサーボモータ478とが設けられている。ウォームホイール476の上部には、ボールねじ軸463と螺合する、内部にボールとナット部材を備えたボールねじ機構479が回転自在に支持体470の天井部に突出する形態で固定されている。
【0021】
加圧用のサーボモータ478が停止していると、加圧用のサーボモータ478の出力軸に固定されたウォーム477とウォームホイール476との噛み合いで、当該ウォームホイール476の上部に固定されたボールねじ機構479は、スライダ460と一体化するので、早送り用のサーボモータ409の正回転・逆回転によりボールねじ軸463が駆動され、ボールねじ軸463に螺合されているボールねじ機構479、ウォームホイール476、2つのベアリング474、475、支持体470などで構成される連結機構(第3の連結機構)471を介してスライダ460が上昇或いは降下し、早送り用のサーボモータ409の回転制御でスライダ460を往復運動させることができる。
【0022】
また、ロック機構468が作動し、ボールねじ軸463が支持板402と一体化した状態の下で、加圧用のサーボモータ478が正回転・逆回転すると、ウォームホイール476とボールねじ機構479とで構成される回転部が、静止状態にあるボールねじ軸463を介して回転し、スライダ460を上昇或いは降下させる。即ち加圧用のサーボモータ478の回転制御でスライダ460を往復運動させることができる。
【0023】
早送り用のサーボモータ409の停止後ロック機構468をロックしてボールねじ軸463を支持板402に固定させるのは、上型407が下型420に載置された被加工物422をプレスする際に生じる反力で、スライダ460を上向きに移動させようとする働きによりボールねじ軸463を回転させようとするが、上記説明のボールねじ軸463と支持板402との一体化により、ボールねじ軸463はその回転が阻止されるので、スライダ460は上向きに移動することはなく、スライダ460の上向きへの移動を阻止させるためである。つまり上型407は被加工物422に所定のプレス荷重を付与することができる。
【0024】
図示省略されているが、スライダ460の下端面には上型407(図7参照)が取り付けられ、またベース401(図7参照)にはこの上型407に対応する位置に下型420(図7参照)が設けられている。そしてベース401と支持板402との間に、スライダ460の位置を検出するパルススケール421が4つのガイド柱403に沿ってそれぞれ取り付けられ、上型407と下型420に載置された被加工物422(図7参照)との接触位置を検出すると共に、上型407の上限待機位置及び下限降下位置を検出するようになっている。
【0025】
各早送り用のサーボモータ409及び加圧用のサーボモータ478の各回転を制御し、そしてボールねじ軸463を支持板402に固定させ或いはその解除をさせるロック機構468を制御する制御装置480は、予め各種の設定値が入力されるようになっている他、スライダ460の位置検出をするための、即ち上型407の位置検出をするためのパルススケール421が検出する位置信号を受け入れる。そして当該制御装置480は、上限待機位置にある上型407が下型420に載置された被加工物422と接触する直前の時点までは、早送り用のサーボモータ409によるボールねじ軸463の回転及び必要に応じて加圧用のサーボモータ478による連結機構471の上記回転部の回転を介して上型407を急速に降下させる。早送り用のサーボモータ409の停止後に直ちにロック機構468をロックさせて支持板402とボールねじ軸463とを固定させ、上型407が被加工物422と接触した時点あるいは接触する直前の時点から上型407が予め定められた下限降下位置(図7の上型407の想像線位置(407))まで降下する時点までは、上型407の降下を、支持板402とボールねじ軸463との固定の下で連結機構471の回転部の回転によるスライダ460を介して上記の急速降下速度にくらべて減速させて降下する。この場合制御装置480は、支持板402とボールねじ軸463との固定の下で加圧用のサーボモータ478をトルク付加モードにして、上型407が下型420に載置された被加工物422を押圧し、被加工物422を所定の形状にプレス加工を行うようにする。そして上型407が下限降下位置に到達後は、ロック機構468のロックを解除し、支持板402とボールねじ軸463との固定開放の下で早送り用のサーボモータ409と加圧用のサーボモータ478との両方を用いてスライダ460を介して上型407を元の上限待機位置まで急速に上昇させる制御を行わせるようになっている。
【0026】
ボールねじ機構479のナット部材の内部構造は、図8図示の如く、ボールねじ軸463のボール溝に配置されたボールは、ボールねじ軸463やボールねじ機構479の回転によってその下方のボール溝から上方のボール溝に循環されるようになっており、このボールの循環により当該ボールの局部的な集中的磨耗に対する回避が行われる。
【0027】
また、ボール軸受位置調整手段481がスライダ460とベース盤482との間に設けられているので、ねじ部457を回すことにより、差動部材453が図面左右方向に移動する。従って支持体470を取り付けているベース盤482を介しボールねじ機構479のナット部材が垂直方向に微小距離移動する。これによりプレス加工の荷重時にボールねじ機構479のナット部材におけるボール溝は、ボールねじ軸463のボール溝に配置されたボールとの当接する位置が変化し、即ちプレス加工の荷重時におけるボールねじ機構479のナット部材におけるボール溝がボールに当接する位置が変わり、毎回毎回同一位置にボールが当接する構成のものに比べ、ボールねじ機構479のナット部材の耐久性が確保される。
【0028】
図7や図8に示した如きプレス装置において、プレス加工に当たって、制御装置423(又は480)は早送り用のサーボモータ409と加圧用のサーボモータ417(又は478)に対して駆動制御を行う。
【0029】
図9は早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとに対する駆動制御のためのブロック図を示す。なお、図9は、早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとの1つの組についてのブロック図のみを示しているが、複数組の夫々について同様な制御が行われると考えてよい。
【0030】
図中の符号101はプレス加工を行うに当たってのスライダのあるべき時間・位置パターン生成部であって、プレス加工が進行してゆく時間に応じて(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置を規定した情報を発生する。そして、111および121は夫々位置ループ用サーボモジュール、112および122は夫々速度ループ用サーボモジュールを示している。
【0031】
また、113は早送り用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって早送り用のサーボモータの角速度を出力する。123は加圧用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって加圧用のサーボモータの角速度を出力する。更に、114および124は積分対応部であって入力される角速度を積分することに対応しており、図7や図8の例で言えばスライダの実位置を代表するパルススケール421からの出力と考えてよい。また、115,116,117,125,126,127は夫々加算器を表している。
【0032】
プレス加工が進行してゆく時間に対応して(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置信号が例えば図示しないNC装置から生成される。即ち、位置ループ用サーボモジュール111や121側に供給されてくる。加算器115,125において、当該あるべき位置信号とスライダの実位置信号との偏差をとり、当該偏差が位置ループ用サーボモジュール111や121に入力される。位置ループ用サーボモジュール111や121は夫々、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータに対応する速度信号を発する。
【0033】
加算器116や126は、当該夫々の速度信号と、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータの実角速度信号との偏差をとり、夫々の速度ループ用サーボモジュール112や122に供給される。そして、加算器117や127において場合により生じる外乱に対処した信号となって、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータを駆動する。
【0034】
図9に示す場合には、特に加算器115や125において、スライダのあるべき信号位置とスライダの実位置信号との偏差をとる、いわゆるフィードバック制御が行われている。図示を省略しているが、図7や図8に示す如く、スライダを上下動せしめるための複数組のモータ組が存在している場合には、図9に示した如き、1組のモータ組に対応したブロック図に相当する制御が、複数組の夫々に対して行われる。そして、複数組のモータ組によって、プレス加工中にスライダが正しく水平に(傾きを生じることなく)下降してゆくように制御される。
【特許文献1】特願2003−160656
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
上述の如き従来のプレス加工装置においては、図9に示す構成において、複数の組のモータ組の夫々がフィードバック制御にもとづいて制御され、かつ当該モータ組の夫々が自己が分担する加圧点におけるスライダの位置をあるべき位置に保つようにしつつ駆動されてゆく。
【0036】
図10は複数組のモータ組が合計4組存在する場合のブロック図を示している。図10においては、図9に示す加圧用のサーボモータに対応するブロック図のみを取り上げて、4組の加圧用のサーボモータが#1軸用、#2軸用、#3軸用、#4軸用として存在しているものとして描かれている。
【0037】
図10に示す符号は図9に対応し、102は位置補正信号出力部を表している。また103は加算器を表している。
【0038】
図10に示す構成単位121−i、122−i、123−i、124−iの夫々の動作は図9に関連して説明したと同じであるが、図10においては位置補正信号出力部102がもうけられている。
【0039】
位置補正信号出力部102は、例えば4組の夫々の加圧用のサーボモータに対応する加圧点でのスライダの刻々の実位置信号を受け取り、4組の夫々の軸に対応して、当該軸において他軸(例えば遅れの最も少ない軸)に対する遅れを補正するに足る位置補正信号を生成して、加算器103−iに加えるようにする。
【0040】
このような各軸に対応する位置補正信号は、幾回かのティーチング加工段階をへて、各時刻毎に各軸に印加すべき位置補正信号を決定し、本番加工に備えるようにしている。
【0041】
図11は偏心荷重によるスライダの水平度のくずれ状態を説明する図である。図11(A)は4個の軸に対応して偏心荷重による負荷が発生した場合の状況を示し、図11(B)はその場合の#1軸と#4軸とが#2軸と#3軸とに対して遅れる状況を示している。
【0042】
図11は、図11(B)に示すように位置指令435.2mmの所までは4個の軸が一斉に0.89mmの遅れとなっていた状況の下で、図11(A)に示す負荷点(×印)の位置に急激に負荷が発生したとし以後当該偏心荷重がなくなった場合または以後偏心荷重が変化しない場合において、#1軸と#4軸とが#2軸と#3軸とに対して、例えば位置指令432・6mmにおいて約0.08mmの遅れが生じた状況を表している。この状況は、負荷分担の大きい所の#1軸と#4軸とで遅れが生じたことを表している。なお、図11(B)に示す図は、(×)印点において実測し、その間を線で結んだものであり、#1軸と#4軸との遅れを示す点線が実際には鎖線で示したように振動していることがあり得る。
【0043】
図10に示す位置補正信号出力部102は、図11に示す如き遅れ(各軸対応の遅れ)を補正するように、各軸に対して補正信号を供給する役割をもっている。そして、上述の如く、本番加工に備えるようにしている。
【0044】
しかしながら、図10に示す如き位置補正信号出力部102を用意して本番加工に備えた場合でも、次のような問題が生じることが判った。
【0045】
即ち、プレス加工の加工速度を大にした場合には、位置補正信号出力部102が、#1軸ないし#4軸からの夫々の実位置信号を受けて、当該補正信号が出力されることになり、フィードバック制御における応答の遅れのために、スライダを正しく水平に保持しつつプレス加工してゆくことができないことが判った。
【0046】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、偏心荷重に対応して、必要な軸に対して、各時刻段階または各プレス位置段階毎にトルクを高める付加駆動を行うようにし、スライダを正しく水平状態の下で下降せしめるようにしている。
【課題を解決するための手段】
【0047】
そのため本発明に係るプレス装置は、ベース、
該ベースに立設された複数のガイド柱を介し当該ベースに対して平行に保持されている支持板、
前記ガイド柱を摺動し、前記ベースと前記支持板との間で上下動することのできるスライダ、
該スライダ上に分布した複数の加圧点と係合して当該スライダを押し圧する複数の駆動軸、
該夫々の駆動軸を夫々駆動する複数のモータ、
該夫々のモータを、当該複数の夫々のモータ間で独立して駆動制御する制御手段、および
前記スライダの前記ベースに対する位置変位を測定するための変位測定手段
を有するプレス装置において、
予め行うティーチング加工においておよび/またはシミュレーションにおいて、前記夫々のモータによる前記駆動軸の回転にもとづく前記スライダの加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎の傾きを補正することのできる、前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データを抽出しておき、
プレス加工において、前記制御手段が、前記夫々のモータを互いに独立して駆動制御する前記各時刻段階または各プレス位置段階に、前記夫々のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく、付加駆動を行う
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0048】
本発明においては、偏心荷重に対応して、必要な軸ごとに適切な時刻にまたは適切なプレス位置に対応してトルクを増大せしめることができ、従来の場合などに生じていたフィードバック制御の応答の遅れに伴うスライダの非所望な傾きをなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1は4軸の駆動に対応して偏心荷重のかかる位置が逐次変化してゆく場合の状況を示している。
【0050】
図1(A)は4個の軸に対して負荷がかかってゆく状況を示し、図1(B)は、#2軸と#3軸とにかかる荷重の時間変化と、#1軸と#4軸とにかかる荷重の時間変化とを表し、図1(C)は負荷に対してスライダが下降してゆく状況を表している。
【0051】
図中の符号1はベース、2は支持板、3はガイド柱、4は枠体、5はスライダ、6はサーボモータ、7はねじ軸、8はナット部、9は負荷を表している。
【0052】
なお、本発明に用いるプレス装置は、上述の図7や図8に示す如き、早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとを備える構成をもつものであるが、図1(C)においては、図7や図8に示す如き構成を簡略化し、#1軸ないし#4軸の夫々に対応して1個のサーボモータ6−iが存在するものとして示している。
【0053】
図1(C)に示す如く、高さの異なる負荷が存在しているものとして、スライダ5が下降する際に、負荷9にもとづく負荷点は図1(A)において点線の円で示す位置に逐次発生する。この際に、#2軸と#3軸とには図1(B)の左側の図に示す如き大きさの荷重が階段状に生じ、#1軸と#4軸とには図1(B)の右側の図に示す如き大きさの荷重が階段状に生じる。
【0054】
このようなスライダ5に対して偏心荷重が印加されることになる場合に、従来の場合、図10や図11に関連して説明した如く、夫々の軸に対応して位置指令に対する遅れが生じ、その遅れはティーチング段階において位置補正信号を決定しておいて本番プレス加工に備えるようにしても上述の如く解消できない。
【0055】
図2は本発明における制御を示す一実施例ブロック図を示す。なお、図2は上述の図10に対応する図である。
【0056】
図中の符号101はプレス加工を行うに当たってのスライダのあるべき時間・位置パターン生成部であって、プレス加工が進行してゆく時間に応じて(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置を規定した情報を発生する。そして、121−iは位置ループ用サーボモジュール、122−iは速度ループ用サーボモジュールを示している。
【0057】
また、123−iは加圧用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって加圧用のサーボモータの角速度を出力する。更に、124−iは積分対応部であって入力される角速度を積分することに対応しており、図7や図8の例で言えばスライダの実位置を代表するパルススケール421からの出力と考えてよい。また、125−i、126−i、127−iは夫々加算器を表している。更に128−iは加工中の各時刻段階毎のトルク対時刻データ保持部、129−iは加算器である。なお、128−iは加工中の各時刻段階毎のトルク対時刻データ保持部としているが、加工中の各プレス位置段階毎のトルク対プレス位置データ保持部であってもよい(以下、繰り返しをさけるために、両者を含めて「各時刻段階毎」の「トルク対時刻データ」と記述することにする)。
【0058】
図2における左側に示すように、4つの軸に対し×印で示すような位置に偏心荷重が印加されるとする。この場合に、ティーチング段階において可能な範囲で対応を考慮した場合でも、図1を参照して説明した如く、制御系の応答の遅れのために、#1軸と#4軸とにおいて#2軸と#3軸にくらべて駆動に遅れが生じる。前述の図11(B)はこのような場合を表している。
【0059】
この点を解消するために、図2に示す実施例においては、夫々の軸に対する駆動に当たって、トルク対時刻データ保持部128−iから出力される付加駆動信号(トルク付加信号)を、速度ループ用サーボモジュール122−iからのトルク信号に付加するようにする。
【0060】
即ち、ある時刻での偏心荷重にもとづいて図11(B)を参照して説明した如き遅れが生じることがティーチング段階で判明した場合に、図11(B)に示す例の場合では、所定の時刻(位置指令でみて435.2mmとなる時刻またはプレス位置あるいはその直前の時刻またはプレス位置)に、#1軸と#4軸とに対応するトルク対時刻データ保持部(128−1と128−4)に対して、位置指令432.6mmにおいて約0.08mmの遅れを生じさせないような値をトルク付加信号としてセットしておくようにする。なお言うまでもなく、今の例の場合では#2軸と#3軸に対応するトルク対時刻データ保持部(128−2と128−3)には、当該タイミングの下でのトルク付加信号は零とされている。
【0061】
上記トルク付加信号をセットしておくことによって、本番加工の際に、所定のタイミングの下で、#1軸と#4軸とに対して、上述のトルク付加信号が加算器129−iを介して付加される。即ち、#1軸と#4軸とを駆動する加圧用のサーボモータ(図1に示す例で言えば、モータ6−1とモータ6−4(なお6−4は図示されていない))において、所定のタイミングでトルクが増大され、図11(B)に示す如き遅れが生じることがなくなる。予定されたタイミングとなる際に強制的に付加トルクが印加されることから、制御系に遅れが生じることなく、スライダを水平に保持しつプレス加工を行うことが可能となる。
【0062】
図3は、図3(A)に示す如き位置関係の下で偏心荷重が生じる場合に、#1軸と#4軸とに対応して上述のトルク付加信号を供給しなった場合と供給した場合とを対応づけて示している。
【0063】
なお、図3を得た実験に当たって、プレス加工のストロークが0.1mであり、0.1mのストロークのプレス加工が1秒間に40回(40ストローク/分)繰り返され、#1軸と#4軸とが0.25sec.と0.3sec.との間で3tonの負荷を受けている。
【0064】
図3(B)における遅れ対時間グラフは、#1軸ないし#4軸に一斉に供給する指令値に対して、夫々の軸がどの時刻にどのように遅れを生じるかを表している。なお、当該グラフにおいては遅れが8.85×10-3mから8.95×10-3mの範囲内のみのものを表している。
【0065】
当該グラフにおいて、#2軸と#3軸との遅れが実線に描かれ、図2に示すトルク付加信号が存在しない場合(図中のメモリ−補正なし)#1軸と#4軸とで0.25sec.の所から遅れが振動的に生じていたが、当該トルク付加信号を供給することによって#1軸と#4軸との当該振動的な遅れは解消している。即ち、#2軸と#3軸との遅れと同じとなっている。なお、当該グラフにおいて0.426近傍で遅れが8.85×10-3m以下に低下しているのは、偏心荷重にともなう負荷を含めてプレス加工のための負荷が大幅に低下したことによるものである。
【0066】
当該実験の場合、トルク付加情報として、#1軸と#4軸とに対して、0.25sec.から0.3sec.の間に、図3(B)における最下図に示す如く、約60.4%のものを付加している。
【0067】
この結果において、図3(B)のトルク対時間グラフに示す如く、#1軸と#4軸とに対して0.25sec.ないし0.3sec.の間にトルク不足が生じていたものが解消され、図3(B)の遅れ対時間グラフに関連して述べた如く、遅れが解消している。そして、プレス加工のストロークを表す位置対時間グラフにおいては、4つの軸とともに全く同じ振る舞いをもってプレス加工が進行していることが判る。
【0068】
図4は図2に示すフィードバック形式の変形例を示している。図中の符号は図2と対応している。そして130−iはティーチングの間に得られている各軸対応の指令値からの偏差(遅れ)を取り込んで保持している位置偏差対時間メモリであり、本番加工中に各時刻対応に、当該偏差信号が位置ループ用サーボモジュール121−iに直接供給される。なお、131−iと132−iとはティーチング段階と本番段階との切替スイッチを表している。
【0069】
図4においては、本番プレス加工中には、加算器125−iを介してのフィードバックのループはなくなる。即ち、本番プレス加工中においては、いわゆるフィード・フォワードの制御系となっている。当該フィード・フォワード制御系に対して、あえて言えば、「トルク不足を補う外乱」が加算器129−iに供給された形となっている。
【0070】
図5は加圧用のサーボモータに対してトルク付加情報が供給されるトルク付加用モータを別にもうけた実施例を示している。図中の符号は図1や図2に対応している。
【0071】
図5において、図2に示す時間・位置パターン生成部101からの信号にしたがうモータ6A−i(図中の加減速を行うモータ)とは別に、図2に示すトルク対時刻データ保持部128−iからの信号にしたがうモータ6B−i(図中のトルクを発生するモータ──踏ん張るモータ)をもうけている。言うまでもなく、モータ6B−iは付加トルクを供給する時間帯においてのみ回転駆動せしめられる。
【0072】
図6は図5に示す実施例の更なる変形例を示す。図中の符号は図5に対応している。そして、9−i、10A−i、10B−iは夫々歯車を表している。
【0073】
図5に示す実施例においては、1つのねじ軸7−iをモータ6A−iとモータ6B−iとが一緒に直接駆動する構成としているが、図6に示す実施例においては、歯車10A−iと10B−iと9−iとを介して1つのねじ軸7−iを駆動している。そして、図5の場合と同様にモータ6B−iは付加トルクを供給する時間帯においてのみ回転駆動せしめられる。
【0074】
図5や図6に示す一方のモータ6A−iは指令値に対して追従するパルスモータを用い、他方のモータ6B−iは当該パルスモータ6A−iにおけるトルク不足を補う例えばACサーボモータを用いることができる。
【0075】
なお、図2、図4、図5、図6において、トルク対時刻データ保持部128−iが単一の所定の時刻においてのみトルク付加信号を用意しているかの如く描いているが、一般には複数の時刻において夫々必要なトルク付加信号を発するようにされる。更に言えば、所定の夫々の時刻に対応して、指令値に対しての遅れが最も少ない軸の遅れを基準とし、他の軸に対しては当該基準とされた軸における遅れに揃うようにするトルク付加信号を用意する。勿論、必要に応じて、当該遅れが最も少ない軸に対するトルクを所定の時刻に減小せしめるように考慮してもよい。勿論、すべての軸に対してトルク付加信号が指令値に対しての遅れを補うような値であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】4軸の駆動に対応して偏心荷重のかかる位置が逐次変化してゆく場合の状況を示す。
【図2】本発明における制御を示す一実施例ブロック図を示す。
【図3】偏心荷重が生じる場合に、#1軸と#4軸とに対応して上述のトルク付加信号を供給しなった場合と供給した場合とを示す。
【図4】図2に示すフィードバック形式の変形例を示す。
【図5】加圧用のサーボモータに対してトルク付加情報が供給されるトルク付加用モータを別にもうけた実施例を示す。
【図6】図5に示す実施例の更なる変形例を示す。
【図7】従来公知のプレス装置を示す。
【図8】図7に対応する電動プレス加工機の変形例についての上型の移動機構部の一実施例拡大説明図を示す。
【図9】早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとに対する駆動制御のためのブロック図を示す。
【図10】複数組のモータ組が合計4組存在する場合のブロック図を示す。
【図11】偏心荷重によるスライダの水平度のくずれ状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ベース
2 支持板
3 ガイド柱
4 枠体
5 スライダ
6 サーボモータ
7 ねじ軸
8 ナット部
9 負荷
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば板金加工等に使用されるプレス装置に関し、特に、ベースと支持板との間で上下動するスライダにおける分散した複数の加圧点に対応して、当該スライダを押し圧する複数の駆動軸をそなえ、当該夫々の駆動軸に対応してモータが駆動源としてもうけられているプレス装置において、上記スライダを正確に水平に駆動できるようにしたプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記スライダを複数の駆動源であるモータによって押し圧するプレス装置が知られており、本願出願人も特許文献1として特許出願を行っている。
【0003】
図7は従来公知のプレス装置を示している。なお、図7は上記特許文献1に開示されているものと実質的に同じである。
【0004】
図7において、ベース401と支持板402と複数のガイド柱403とで形成された枠体404の内部には、2つのスライダ405、スライダ406が設けられ、各スライダ405、406の四隅に、ガイド柱403と係合しガイド柱403の軸方向にスライダ405、406が自在に摺動する摺動穴がそれぞれ設けられている。
【0005】
支持板402の上面には、複数個の、例えば4つの取り付け台408が設けられており、各取り付け台408には、エンコーダを内蔵した早送り用のサーボモータ409が取り付けられている。
【0006】
以下に説明する4つの取り付け台408に取り付けられた各早送り用のサーボモータ409に関連する構成・構成部品は全く同じものであるので、その1つについて説明することにする。
【0007】
取り付け台408の内部において早送り用のサーボモータ409の軸に固着された早送り用のねじ軸410は、回転自在に支持板402に軸支されると共に、スライダ406に固定されためねじ送りナット411に螺合され、スライダ406の下方にさらに設けられているスライダ405を貫通することが可能となっている。従って、上記4つの早送り用のサーボモータ409の同期した正回転・逆回転により、スライダ406が上昇或いは降下し、早送り用のサーボモータ409の回転制御でスライダ406を往復運動させることができる。
【0008】
スライダ406には、ねじ軸410を当該スライダ406にクランプする、即ち固定するダブルナットロック機構414が設けられている。このロック機構414が働くと、ねじ軸410がスライダ406に固定(ロック)され、ねじ軸410とスライダ406とが一体化し、ねじ軸410とスライダ406とは相互に移動することができないようになっている。
【0009】
スライダ406の上面には、複数個の、例えば2、3又は4つの取り付け台415が設けられおり、各取り付け台415には、エンコーダを内蔵した減速機416付の加圧用のサーボモータ417が取り付けられている。取り付け台415に取り付けられた各加圧用のサーボモータ417に関連する構成・構成部品も全く同じものであるので、以下の説明でもその1つについて説明することにする。
【0010】
取り付け台415の内部において加圧用のサーボモータ417の軸に固着されたボールねじ軸418は、内部にボールとナット部材とが設けられた差動機構付ボールねじ機構419と螺合し、スライダ406に回転自在に軸支されている。ボールねじ軸418とスライダ405の上面に固定された当該差動機構付ボールねじ機構419とで、2つのスライダ406とスライダ405とが連結された構造となっている。つまり、取り付け台415に設けられた上記複数個の加圧用のサーボモータ417を同期して正回転或いは逆回転させることにより、スライダ405が上昇或いは降下し、加圧用のサーボモータ417の回転制御でスライダ405を往復運動させることができる。
【0011】
スライダ405の下端面には上型407が取り付けられ、またベース401にはこの上型407に対応する位置に下型420が設けられている。そしてベース401と支持板402との間に、スライダ405の位置を検出するパルススケール421が4つのガイド柱403に沿ってそれぞれ取り付けられ、上型407と下型420に載置された被加工物422との接触位置を検出すると共に、上型407の上限待機位置及び下限降下位置を検出するようになっている。スライダ405などの平行制御は、上記4つのパルススケール421を基準にして行われる。
【0012】
それぞれ2個ないし4個の早送り用のサーボモータ409と、2個ないし4個の加圧用のサーボモータ417との各回転を制御し、そしてねじ軸410をスライダ406に固定(ロック)させ或いはその解除(アンロック)をさせるロック機構414を制御する制御装置423は、予め各種の設定値が入力されるようになっている他、スライダ405の位置検出をするための、即ち上型407の位置検出をするためのパルススケール421が検出する位置信号を受け入れる。そして当該制御装置423は、上限待機位置にある上型407が下型420に載置された被加工物422と接触する時点あるいは接触する直前の時点までは、早送り用のサーボモータ409によるねじ軸410の回転によって降下するスライダ406及び必要に応じて加圧用のサーボモータ417の回転によって降下するスライダ405を介して、上型407を急速に降下させる。早送り用のサーボモータ409の停止後に直ちにロック機構414をロックさせ、上型407が被加工物422と接触した時点あるいは接触する直前の時点から上型407が予め定められた下限降下位置(図7の上型407の想像線位置(407))まで降下する時点までは、上型407の降下を加圧用のサーボモータ417によって降下するようにする。即ち、スライダ405は、上記の急速降下速度にくらべて減速される。この場合制御装置423は加圧用のサーボモータ417をトルク付加モードにして、上型407が下型420に載置された被加工物422を押圧し、被加工物422を所定の形状にプレス加工を行うようにする。そして上型407が下限降下位置に到達後は、ロック機構414のロックを解除(アンロック)すると共に、加圧用のサーボモータ417によるスライダ405の上昇と早送り用のサーボモータ409によるスライダ406の上昇との両方を用いて上型407を急速に上昇させる制御を行わせる。
【0013】
早送り用のサーボモータ409の停止後ロック機構414をロックしてねじ軸410をスライダ406に固定(ロック)させるのは、上型407が下型420に載置された被加工物422をプレスする際に生じる反力で、スライダ405、差動機構付ボールねじ機構419及びボールねじ軸418などを介してスライダ406を上向きに移動させようとする力が働いても、上記説明のねじ軸410とスライダ406との一体化により、ねじ軸410はその回転が阻止されるので、スライダ406は上向きに移動することはなく停止位置を維持させるためである。つまり上型407は被加工物422に所定のプレス荷重を付与することができる。
【0014】
図8は図7に対応する電動プレス加工機の変形例についての上型の移動機構部の一実施例拡大説明図を示しており、図7と同じものは同一の符号が付されている。また図8は上記特許文献1に開示されているものと実質的に同じである。
【0015】
図8において、図示省略のベースと支持板402と複数のガイド柱403とで形成された枠体404の内部には、スライダ460が設けられ、スライダ460の四隅に、ガイド柱403と係合しガイド柱403の軸方向にスライダ460が自在に摺動する摺動穴がそれぞれ設けられている。
【0016】
支持板402の上面には、例えば2つ又は4つなど複数個の取り付け台461が設けられており、各取り付け台461には、減速機416を介して(当該減速機416は省略してもよい)エンコーダを内蔵した早送り用のサーボモータ409が取り付けられている。
【0017】
以下に説明する上記複数個の取り付け台461に取り付けられた各早送り用のサーボモータ409に関連する構成・構成部品は全く同じものであるので、その1つについて説明することにする。
【0018】
スライダ460の上面に取り付けられた取り付け台461を貫通した早送り用のサーボモータ409の出力軸462は、ボールねじ軸463の先端部にカップリング464を介して連結されている。支持板402に設けられた孔465には、ベアリングホルダ466を介してボールねじ軸463に嵌め込まれたベアリング467が取り付けられ、早送り用のサーボモータ409によって駆動されるボールねじ軸463が回転自在に支持板402に取り付けられている。
【0019】
支持板402にはロック機構468が設けられている。このロック機構468は、ボールねじ軸463に固定された歯車439と当該歯車439と噛み合う歯車片441を有するソレノイド440で構成されている。このロック機構468が働くと、歯車片441が歯車439の歯と噛み合うこととなり、ボールねじ軸463が支持板402に固定され、ボールねじ軸463と支持板402とが一体化し、ボールねじ軸463が回転することができないようになる。
【0020】
スライダ460の上面には内部が中空469の支持体470が固着されている。この支持体470の中空469には、スライダ460に設けられた孔(図示省略)と共に中央にボールねじ軸463を自在に回転させるに足る孔473を有し、上下2つのスラスト荷重用のベアリング474、475でボールねじ軸463を中心軸として回転自在に設けられたウォームホイール476と、ウォームホイール476に噛み合うウォーム477が固定されたエンコーダ内蔵の加圧用のサーボモータ478とが設けられている。ウォームホイール476の上部には、ボールねじ軸463と螺合する、内部にボールとナット部材を備えたボールねじ機構479が回転自在に支持体470の天井部に突出する形態で固定されている。
【0021】
加圧用のサーボモータ478が停止していると、加圧用のサーボモータ478の出力軸に固定されたウォーム477とウォームホイール476との噛み合いで、当該ウォームホイール476の上部に固定されたボールねじ機構479は、スライダ460と一体化するので、早送り用のサーボモータ409の正回転・逆回転によりボールねじ軸463が駆動され、ボールねじ軸463に螺合されているボールねじ機構479、ウォームホイール476、2つのベアリング474、475、支持体470などで構成される連結機構(第3の連結機構)471を介してスライダ460が上昇或いは降下し、早送り用のサーボモータ409の回転制御でスライダ460を往復運動させることができる。
【0022】
また、ロック機構468が作動し、ボールねじ軸463が支持板402と一体化した状態の下で、加圧用のサーボモータ478が正回転・逆回転すると、ウォームホイール476とボールねじ機構479とで構成される回転部が、静止状態にあるボールねじ軸463を介して回転し、スライダ460を上昇或いは降下させる。即ち加圧用のサーボモータ478の回転制御でスライダ460を往復運動させることができる。
【0023】
早送り用のサーボモータ409の停止後ロック機構468をロックしてボールねじ軸463を支持板402に固定させるのは、上型407が下型420に載置された被加工物422をプレスする際に生じる反力で、スライダ460を上向きに移動させようとする働きによりボールねじ軸463を回転させようとするが、上記説明のボールねじ軸463と支持板402との一体化により、ボールねじ軸463はその回転が阻止されるので、スライダ460は上向きに移動することはなく、スライダ460の上向きへの移動を阻止させるためである。つまり上型407は被加工物422に所定のプレス荷重を付与することができる。
【0024】
図示省略されているが、スライダ460の下端面には上型407(図7参照)が取り付けられ、またベース401(図7参照)にはこの上型407に対応する位置に下型420(図7参照)が設けられている。そしてベース401と支持板402との間に、スライダ460の位置を検出するパルススケール421が4つのガイド柱403に沿ってそれぞれ取り付けられ、上型407と下型420に載置された被加工物422(図7参照)との接触位置を検出すると共に、上型407の上限待機位置及び下限降下位置を検出するようになっている。
【0025】
各早送り用のサーボモータ409及び加圧用のサーボモータ478の各回転を制御し、そしてボールねじ軸463を支持板402に固定させ或いはその解除をさせるロック機構468を制御する制御装置480は、予め各種の設定値が入力されるようになっている他、スライダ460の位置検出をするための、即ち上型407の位置検出をするためのパルススケール421が検出する位置信号を受け入れる。そして当該制御装置480は、上限待機位置にある上型407が下型420に載置された被加工物422と接触する直前の時点までは、早送り用のサーボモータ409によるボールねじ軸463の回転及び必要に応じて加圧用のサーボモータ478による連結機構471の上記回転部の回転を介して上型407を急速に降下させる。早送り用のサーボモータ409の停止後に直ちにロック機構468をロックさせて支持板402とボールねじ軸463とを固定させ、上型407が被加工物422と接触した時点あるいは接触する直前の時点から上型407が予め定められた下限降下位置(図7の上型407の想像線位置(407))まで降下する時点までは、上型407の降下を、支持板402とボールねじ軸463との固定の下で連結機構471の回転部の回転によるスライダ460を介して上記の急速降下速度にくらべて減速させて降下する。この場合制御装置480は、支持板402とボールねじ軸463との固定の下で加圧用のサーボモータ478をトルク付加モードにして、上型407が下型420に載置された被加工物422を押圧し、被加工物422を所定の形状にプレス加工を行うようにする。そして上型407が下限降下位置に到達後は、ロック機構468のロックを解除し、支持板402とボールねじ軸463との固定開放の下で早送り用のサーボモータ409と加圧用のサーボモータ478との両方を用いてスライダ460を介して上型407を元の上限待機位置まで急速に上昇させる制御を行わせるようになっている。
【0026】
ボールねじ機構479のナット部材の内部構造は、図8図示の如く、ボールねじ軸463のボール溝に配置されたボールは、ボールねじ軸463やボールねじ機構479の回転によってその下方のボール溝から上方のボール溝に循環されるようになっており、このボールの循環により当該ボールの局部的な集中的磨耗に対する回避が行われる。
【0027】
また、ボール軸受位置調整手段481がスライダ460とベース盤482との間に設けられているので、ねじ部457を回すことにより、差動部材453が図面左右方向に移動する。従って支持体470を取り付けているベース盤482を介しボールねじ機構479のナット部材が垂直方向に微小距離移動する。これによりプレス加工の荷重時にボールねじ機構479のナット部材におけるボール溝は、ボールねじ軸463のボール溝に配置されたボールとの当接する位置が変化し、即ちプレス加工の荷重時におけるボールねじ機構479のナット部材におけるボール溝がボールに当接する位置が変わり、毎回毎回同一位置にボールが当接する構成のものに比べ、ボールねじ機構479のナット部材の耐久性が確保される。
【0028】
図7や図8に示した如きプレス装置において、プレス加工に当たって、制御装置423(又は480)は早送り用のサーボモータ409と加圧用のサーボモータ417(又は478)に対して駆動制御を行う。
【0029】
図9は早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとに対する駆動制御のためのブロック図を示す。なお、図9は、早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとの1つの組についてのブロック図のみを示しているが、複数組の夫々について同様な制御が行われると考えてよい。
【0030】
図中の符号101はプレス加工を行うに当たってのスライダのあるべき時間・位置パターン生成部であって、プレス加工が進行してゆく時間に応じて(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置を規定した情報を発生する。そして、111および121は夫々位置ループ用サーボモジュール、112および122は夫々速度ループ用サーボモジュールを示している。
【0031】
また、113は早送り用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって早送り用のサーボモータの角速度を出力する。123は加圧用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって加圧用のサーボモータの角速度を出力する。更に、114および124は積分対応部であって入力される角速度を積分することに対応しており、図7や図8の例で言えばスライダの実位置を代表するパルススケール421からの出力と考えてよい。また、115,116,117,125,126,127は夫々加算器を表している。
【0032】
プレス加工が進行してゆく時間に対応して(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置信号が例えば図示しないNC装置から生成される。即ち、位置ループ用サーボモジュール111や121側に供給されてくる。加算器115,125において、当該あるべき位置信号とスライダの実位置信号との偏差をとり、当該偏差が位置ループ用サーボモジュール111や121に入力される。位置ループ用サーボモジュール111や121は夫々、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータに対応する速度信号を発する。
【0033】
加算器116や126は、当該夫々の速度信号と、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータの実角速度信号との偏差をとり、夫々の速度ループ用サーボモジュール112や122に供給される。そして、加算器117や127において場合により生じる外乱に対処した信号となって、早送り用のサーボモータや加圧用のサーボモータを駆動する。
【0034】
図9に示す場合には、特に加算器115や125において、スライダのあるべき信号位置とスライダの実位置信号との偏差をとる、いわゆるフィードバック制御が行われている。図示を省略しているが、図7や図8に示す如く、スライダを上下動せしめるための複数組のモータ組が存在している場合には、図9に示した如き、1組のモータ組に対応したブロック図に相当する制御が、複数組の夫々に対して行われる。そして、複数組のモータ組によって、プレス加工中にスライダが正しく水平に(傾きを生じることなく)下降してゆくように制御される。
【特許文献1】特願2003−160656
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
上述の如き従来のプレス加工装置においては、図9に示す構成において、複数の組のモータ組の夫々がフィードバック制御にもとづいて制御され、かつ当該モータ組の夫々が自己が分担する加圧点におけるスライダの位置をあるべき位置に保つようにしつつ駆動されてゆく。
【0036】
図10は複数組のモータ組が合計4組存在する場合のブロック図を示している。図10においては、図9に示す加圧用のサーボモータに対応するブロック図のみを取り上げて、4組の加圧用のサーボモータが#1軸用、#2軸用、#3軸用、#4軸用として存在しているものとして描かれている。
【0037】
図10に示す符号は図9に対応し、102は位置補正信号出力部を表している。また103は加算器を表している。
【0038】
図10に示す構成単位121−i、122−i、123−i、124−iの夫々の動作は図9に関連して説明したと同じであるが、図10においては位置補正信号出力部102がもうけられている。
【0039】
位置補正信号出力部102は、例えば4組の夫々の加圧用のサーボモータに対応する加圧点でのスライダの刻々の実位置信号を受け取り、4組の夫々の軸に対応して、当該軸において他軸(例えば遅れの最も少ない軸)に対する遅れを補正するに足る位置補正信号を生成して、加算器103−iに加えるようにする。
【0040】
このような各軸に対応する位置補正信号は、幾回かのティーチング加工段階をへて、各時刻毎に各軸に印加すべき位置補正信号を決定し、本番加工に備えるようにしている。
【0041】
図11は偏心荷重によるスライダの水平度のくずれ状態を説明する図である。図11(A)は4個の軸に対応して偏心荷重による負荷が発生した場合の状況を示し、図11(B)はその場合の#1軸と#4軸とが#2軸と#3軸とに対して遅れる状況を示している。
【0042】
図11は、図11(B)に示すように位置指令435.2mmの所までは4個の軸が一斉に0.89mmの遅れとなっていた状況の下で、図11(A)に示す負荷点(×印)の位置に急激に負荷が発生したとし以後当該偏心荷重がなくなった場合または以後偏心荷重が変化しない場合において、#1軸と#4軸とが#2軸と#3軸とに対して、例えば位置指令432・6mmにおいて約0.08mmの遅れが生じた状況を表している。この状況は、負荷分担の大きい所の#1軸と#4軸とで遅れが生じたことを表している。なお、図11(B)に示す図は、(×)印点において実測し、その間を線で結んだものであり、#1軸と#4軸との遅れを示す点線が実際には鎖線で示したように振動していることがあり得る。
【0043】
図10に示す位置補正信号出力部102は、図11に示す如き遅れ(各軸対応の遅れ)を補正するように、各軸に対して補正信号を供給する役割をもっている。そして、上述の如く、本番加工に備えるようにしている。
【0044】
しかしながら、図10に示す如き位置補正信号出力部102を用意して本番加工に備えた場合でも、次のような問題が生じることが判った。
【0045】
即ち、プレス加工の加工速度を大にした場合には、位置補正信号出力部102が、#1軸ないし#4軸からの夫々の実位置信号を受けて、当該補正信号が出力されることになり、フィードバック制御における応答の遅れのために、スライダを正しく水平に保持しつつプレス加工してゆくことができないことが判った。
【0046】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、偏心荷重に対応して、必要な軸に対して、各時刻段階または各プレス位置段階毎にトルクを高める付加駆動を行うようにし、スライダを正しく水平状態の下で下降せしめるようにしている。
【課題を解決するための手段】
【0047】
そのため本発明に係るプレス装置は、ベース、
該ベースに立設された複数のガイド柱を介し当該ベースに対して平行に保持されている支持板、
前記ガイド柱を摺動し、前記ベースと前記支持板との間で上下動することのできるスライダ、
該スライダ上に分布した複数の加圧点と係合して当該スライダを押し圧する複数の駆動軸、
該夫々の駆動軸を夫々駆動する複数のモータ、
該夫々のモータを、当該複数の夫々のモータ間で独立して駆動制御する制御手段、および
前記スライダの前記ベースに対する位置変位を測定するための変位測定手段
を有するプレス装置において、
予め行うティーチング加工においておよび/またはシミュレーションにおいて、前記夫々のモータによる前記駆動軸の回転にもとづく前記スライダの加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎の傾きを補正することのできる、前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データを抽出しておき、
プレス加工において、前記制御手段が、前記夫々のモータを互いに独立して駆動制御する前記各時刻段階または各プレス位置段階に、前記夫々のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく、付加駆動を行う
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0048】
本発明においては、偏心荷重に対応して、必要な軸ごとに適切な時刻にまたは適切なプレス位置に対応してトルクを増大せしめることができ、従来の場合などに生じていたフィードバック制御の応答の遅れに伴うスライダの非所望な傾きをなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1は4軸の駆動に対応して偏心荷重のかかる位置が逐次変化してゆく場合の状況を示している。
【0050】
図1(A)は4個の軸に対して負荷がかかってゆく状況を示し、図1(B)は、#2軸と#3軸とにかかる荷重の時間変化と、#1軸と#4軸とにかかる荷重の時間変化とを表し、図1(C)は負荷に対してスライダが下降してゆく状況を表している。
【0051】
図中の符号1はベース、2は支持板、3はガイド柱、4は枠体、5はスライダ、6はサーボモータ、7はねじ軸、8はナット部、9は負荷を表している。
【0052】
なお、本発明に用いるプレス装置は、上述の図7や図8に示す如き、早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとを備える構成をもつものであるが、図1(C)においては、図7や図8に示す如き構成を簡略化し、#1軸ないし#4軸の夫々に対応して1個のサーボモータ6−iが存在するものとして示している。
【0053】
図1(C)に示す如く、高さの異なる負荷が存在しているものとして、スライダ5が下降する際に、負荷9にもとづく負荷点は図1(A)において点線の円で示す位置に逐次発生する。この際に、#2軸と#3軸とには図1(B)の左側の図に示す如き大きさの荷重が階段状に生じ、#1軸と#4軸とには図1(B)の右側の図に示す如き大きさの荷重が階段状に生じる。
【0054】
このようなスライダ5に対して偏心荷重が印加されることになる場合に、従来の場合、図10や図11に関連して説明した如く、夫々の軸に対応して位置指令に対する遅れが生じ、その遅れはティーチング段階において位置補正信号を決定しておいて本番プレス加工に備えるようにしても上述の如く解消できない。
【0055】
図2は本発明における制御を示す一実施例ブロック図を示す。なお、図2は上述の図10に対応する図である。
【0056】
図中の符号101はプレス加工を行うに当たってのスライダのあるべき時間・位置パターン生成部であって、プレス加工が進行してゆく時間に応じて(個々の時刻に対応して)スライダのあるべき位置を規定した情報を発生する。そして、121−iは位置ループ用サーボモジュール、122−iは速度ループ用サーボモジュールを示している。
【0057】
また、123−iは加圧用のサーボモータに対応する慣性モーメント対応部であって加圧用のサーボモータの角速度を出力する。更に、124−iは積分対応部であって入力される角速度を積分することに対応しており、図7や図8の例で言えばスライダの実位置を代表するパルススケール421からの出力と考えてよい。また、125−i、126−i、127−iは夫々加算器を表している。更に128−iは加工中の各時刻段階毎のトルク対時刻データ保持部、129−iは加算器である。なお、128−iは加工中の各時刻段階毎のトルク対時刻データ保持部としているが、加工中の各プレス位置段階毎のトルク対プレス位置データ保持部であってもよい(以下、繰り返しをさけるために、両者を含めて「各時刻段階毎」の「トルク対時刻データ」と記述することにする)。
【0058】
図2における左側に示すように、4つの軸に対し×印で示すような位置に偏心荷重が印加されるとする。この場合に、ティーチング段階において可能な範囲で対応を考慮した場合でも、図1を参照して説明した如く、制御系の応答の遅れのために、#1軸と#4軸とにおいて#2軸と#3軸にくらべて駆動に遅れが生じる。前述の図11(B)はこのような場合を表している。
【0059】
この点を解消するために、図2に示す実施例においては、夫々の軸に対する駆動に当たって、トルク対時刻データ保持部128−iから出力される付加駆動信号(トルク付加信号)を、速度ループ用サーボモジュール122−iからのトルク信号に付加するようにする。
【0060】
即ち、ある時刻での偏心荷重にもとづいて図11(B)を参照して説明した如き遅れが生じることがティーチング段階で判明した場合に、図11(B)に示す例の場合では、所定の時刻(位置指令でみて435.2mmとなる時刻またはプレス位置あるいはその直前の時刻またはプレス位置)に、#1軸と#4軸とに対応するトルク対時刻データ保持部(128−1と128−4)に対して、位置指令432.6mmにおいて約0.08mmの遅れを生じさせないような値をトルク付加信号としてセットしておくようにする。なお言うまでもなく、今の例の場合では#2軸と#3軸に対応するトルク対時刻データ保持部(128−2と128−3)には、当該タイミングの下でのトルク付加信号は零とされている。
【0061】
上記トルク付加信号をセットしておくことによって、本番加工の際に、所定のタイミングの下で、#1軸と#4軸とに対して、上述のトルク付加信号が加算器129−iを介して付加される。即ち、#1軸と#4軸とを駆動する加圧用のサーボモータ(図1に示す例で言えば、モータ6−1とモータ6−4(なお6−4は図示されていない))において、所定のタイミングでトルクが増大され、図11(B)に示す如き遅れが生じることがなくなる。予定されたタイミングとなる際に強制的に付加トルクが印加されることから、制御系に遅れが生じることなく、スライダを水平に保持しつプレス加工を行うことが可能となる。
【0062】
図3は、図3(A)に示す如き位置関係の下で偏心荷重が生じる場合に、#1軸と#4軸とに対応して上述のトルク付加信号を供給しなった場合と供給した場合とを対応づけて示している。
【0063】
なお、図3を得た実験に当たって、プレス加工のストロークが0.1mであり、0.1mのストロークのプレス加工が1秒間に40回(40ストローク/分)繰り返され、#1軸と#4軸とが0.25sec.と0.3sec.との間で3tonの負荷を受けている。
【0064】
図3(B)における遅れ対時間グラフは、#1軸ないし#4軸に一斉に供給する指令値に対して、夫々の軸がどの時刻にどのように遅れを生じるかを表している。なお、当該グラフにおいては遅れが8.85×10-3mから8.95×10-3mの範囲内のみのものを表している。
【0065】
当該グラフにおいて、#2軸と#3軸との遅れが実線に描かれ、図2に示すトルク付加信号が存在しない場合(図中のメモリ−補正なし)#1軸と#4軸とで0.25sec.の所から遅れが振動的に生じていたが、当該トルク付加信号を供給することによって#1軸と#4軸との当該振動的な遅れは解消している。即ち、#2軸と#3軸との遅れと同じとなっている。なお、当該グラフにおいて0.426近傍で遅れが8.85×10-3m以下に低下しているのは、偏心荷重にともなう負荷を含めてプレス加工のための負荷が大幅に低下したことによるものである。
【0066】
当該実験の場合、トルク付加情報として、#1軸と#4軸とに対して、0.25sec.から0.3sec.の間に、図3(B)における最下図に示す如く、約60.4%のものを付加している。
【0067】
この結果において、図3(B)のトルク対時間グラフに示す如く、#1軸と#4軸とに対して0.25sec.ないし0.3sec.の間にトルク不足が生じていたものが解消され、図3(B)の遅れ対時間グラフに関連して述べた如く、遅れが解消している。そして、プレス加工のストロークを表す位置対時間グラフにおいては、4つの軸とともに全く同じ振る舞いをもってプレス加工が進行していることが判る。
【0068】
図4は図2に示すフィードバック形式の変形例を示している。図中の符号は図2と対応している。そして130−iはティーチングの間に得られている各軸対応の指令値からの偏差(遅れ)を取り込んで保持している位置偏差対時間メモリであり、本番加工中に各時刻対応に、当該偏差信号が位置ループ用サーボモジュール121−iに直接供給される。なお、131−iと132−iとはティーチング段階と本番段階との切替スイッチを表している。
【0069】
図4においては、本番プレス加工中には、加算器125−iを介してのフィードバックのループはなくなる。即ち、本番プレス加工中においては、いわゆるフィード・フォワードの制御系となっている。当該フィード・フォワード制御系に対して、あえて言えば、「トルク不足を補う外乱」が加算器129−iに供給された形となっている。
【0070】
図5は加圧用のサーボモータに対してトルク付加情報が供給されるトルク付加用モータを別にもうけた実施例を示している。図中の符号は図1や図2に対応している。
【0071】
図5において、図2に示す時間・位置パターン生成部101からの信号にしたがうモータ6A−i(図中の加減速を行うモータ)とは別に、図2に示すトルク対時刻データ保持部128−iからの信号にしたがうモータ6B−i(図中のトルクを発生するモータ──踏ん張るモータ)をもうけている。言うまでもなく、モータ6B−iは付加トルクを供給する時間帯においてのみ回転駆動せしめられる。
【0072】
図6は図5に示す実施例の更なる変形例を示す。図中の符号は図5に対応している。そして、9−i、10A−i、10B−iは夫々歯車を表している。
【0073】
図5に示す実施例においては、1つのねじ軸7−iをモータ6A−iとモータ6B−iとが一緒に直接駆動する構成としているが、図6に示す実施例においては、歯車10A−iと10B−iと9−iとを介して1つのねじ軸7−iを駆動している。そして、図5の場合と同様にモータ6B−iは付加トルクを供給する時間帯においてのみ回転駆動せしめられる。
【0074】
図5や図6に示す一方のモータ6A−iは指令値に対して追従するパルスモータを用い、他方のモータ6B−iは当該パルスモータ6A−iにおけるトルク不足を補う例えばACサーボモータを用いることができる。
【0075】
なお、図2、図4、図5、図6において、トルク対時刻データ保持部128−iが単一の所定の時刻においてのみトルク付加信号を用意しているかの如く描いているが、一般には複数の時刻において夫々必要なトルク付加信号を発するようにされる。更に言えば、所定の夫々の時刻に対応して、指令値に対しての遅れが最も少ない軸の遅れを基準とし、他の軸に対しては当該基準とされた軸における遅れに揃うようにするトルク付加信号を用意する。勿論、必要に応じて、当該遅れが最も少ない軸に対するトルクを所定の時刻に減小せしめるように考慮してもよい。勿論、すべての軸に対してトルク付加信号が指令値に対しての遅れを補うような値であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】4軸の駆動に対応して偏心荷重のかかる位置が逐次変化してゆく場合の状況を示す。
【図2】本発明における制御を示す一実施例ブロック図を示す。
【図3】偏心荷重が生じる場合に、#1軸と#4軸とに対応して上述のトルク付加信号を供給しなった場合と供給した場合とを示す。
【図4】図2に示すフィードバック形式の変形例を示す。
【図5】加圧用のサーボモータに対してトルク付加情報が供給されるトルク付加用モータを別にもうけた実施例を示す。
【図6】図5に示す実施例の更なる変形例を示す。
【図7】従来公知のプレス装置を示す。
【図8】図7に対応する電動プレス加工機の変形例についての上型の移動機構部の一実施例拡大説明図を示す。
【図9】早送り用のサーボモータと加圧用のサーボモータとに対する駆動制御のためのブロック図を示す。
【図10】複数組のモータ組が合計4組存在する場合のブロック図を示す。
【図11】偏心荷重によるスライダの水平度のくずれ状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ベース
2 支持板
3 ガイド柱
4 枠体
5 スライダ
6 サーボモータ
7 ねじ軸
8 ナット部
9 負荷
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース、
該ベースに立設された複数のガイド柱を介し当該ベースに対して平行に保持されている支持板、
前記ガイド柱を摺動し、前記ベースと前記支持板との間で上下動することのできるスライダ、
該スライダ上に分布した複数の加圧点と係合して当該スライダを押し圧する複数の駆動軸、
該夫々の駆動軸を夫々駆動する複数のモータ、
該夫々のモータを、当該複数の夫々のモータ間で独立して駆動制御する制御手段、および
前記スライダの前記ベースに対する位置変位を測定するための変位測定手段
を有するプレス装置において、
予め行うティーチング加工においておよび/またはシミュレーションにおいて、前記夫々のモータによる前記駆動軸の回転にもとづく前記スライダの加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎の傾きを補正することのできる、前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データを抽出しておき、
プレス加工において、前記制御手段が、前記夫々のモータを互いに独立して駆動制御する前記各時刻段階または各プレス位置段階に、前記夫々のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく、付加駆動を行う
ことを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データは、複数のモータに対応した前記各加圧点毎に、前記スライダの下降指令値に対する遅れ量に応じて決定し抽出される
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項3】
前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データは、
複数のモータに対応した前記複数の加圧点のうちで前記スライダの下降指令値に対する遅れが最も少ない加圧点を基準とし、スライダの下降指令値に対する遅れがより大きい加圧点との差分にもとづいて決定し抽出される
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項4】
前記夫々の駆動軸を駆動する複数のモータの夫々は、
少なくとも2個のモータを組として前記駆動軸を回転するよう構成され、
前記制御手段は、
当該少なくとも1個のモータに対して、当該組の駆動軸を回転する指令値にもとづいた駆動制御を行い、
前記少なくとも1個の他のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく付加駆動のための駆動制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項5】
前記指令値にもとづいた駆動制御が行われる側のモータはパルスモータにて構成され、かつ前記付加駆動を行う側のモータはサーボモータにて構成されることを特徴とする請求項4記載のプレス装置。
【請求項1】
ベース、
該ベースに立設された複数のガイド柱を介し当該ベースに対して平行に保持されている支持板、
前記ガイド柱を摺動し、前記ベースと前記支持板との間で上下動することのできるスライダ、
該スライダ上に分布した複数の加圧点と係合して当該スライダを押し圧する複数の駆動軸、
該夫々の駆動軸を夫々駆動する複数のモータ、
該夫々のモータを、当該複数の夫々のモータ間で独立して駆動制御する制御手段、および
前記スライダの前記ベースに対する位置変位を測定するための変位測定手段
を有するプレス装置において、
予め行うティーチング加工においておよび/またはシミュレーションにおいて、前記夫々のモータによる前記駆動軸の回転にもとづく前記スライダの加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎の傾きを補正することのできる、前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データを抽出しておき、
プレス加工において、前記制御手段が、前記夫々のモータを互いに独立して駆動制御する前記各時刻段階または各プレス位置段階に、前記夫々のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく、付加駆動を行う
ことを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データは、複数のモータに対応した前記各加圧点毎に、前記スライダの下降指令値に対する遅れ量に応じて決定し抽出される
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項3】
前記夫々のモータに供給すべき前記加工中の各時刻段階または各プレス位置段階毎のトルク対時刻またはプレス位置データは、
複数のモータに対応した前記複数の加圧点のうちで前記スライダの下降指令値に対する遅れが最も少ない加圧点を基準とし、スライダの下降指令値に対する遅れがより大きい加圧点との差分にもとづいて決定し抽出される
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項4】
前記夫々の駆動軸を駆動する複数のモータの夫々は、
少なくとも2個のモータを組として前記駆動軸を回転するよう構成され、
前記制御手段は、
当該少なくとも1個のモータに対して、当該組の駆動軸を回転する指令値にもとづいた駆動制御を行い、
前記少なくとも1個の他のモータに対して、前記トルク対時刻またはプレス位置データにもとづく付加駆動のための駆動制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載のプレス装置。
【請求項5】
前記指令値にもとづいた駆動制御が行われる側のモータはパルスモータにて構成され、かつ前記付加駆動を行う側のモータはサーボモータにて構成されることを特徴とする請求項4記載のプレス装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−75864(P2006−75864A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261744(P2004−261744)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000154794)株式会社放電精密加工研究所 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000154794)株式会社放電精密加工研究所 (29)
【Fターム(参考)】
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