説明

プロオピオメラノコルチコトロピン(POMC)mRNA発現上昇抑制剤

【課題】POMCmRNA発現上昇抑制作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とするPOMCmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供する。
【解決手段】POMCmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤に、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロオピオメラノコルチコトロピン(POMC)mRNA発現上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、ソバカス、日焼け後の皮膚色素沈着症等は、皮膚内に存在する色素細胞(メラノサイト)が活性化することにより、メラニンの産生が著しく亢進した結果として生じるものであり、中高年齢層における肌の悩みの一つになっている。
【0003】
皮膚表皮細胞から分泌されメラノサイトを刺激し、メラニンの生成を促進する作用を持つホルモンである副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やメラノサイトを活性化するサイトカインとしての色素細胞刺激ホルモン(α−MSH)は、プロオピオメラノコルチン(POMC)を前駆体として産生されることが知られている。そのため、POMCの産生を抑制すること、すなわちPOMCmRNAの発現上昇を抑制することで、結果的にメラニンの生成を抑制することができ、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等を予防又は改善することができると考えられる。
【0004】
従来、POMCの発現を抑制する作用を有するものとしては、例えば、パンテノール、塩酸ピリドキシン及びニコチン酸アミド等が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−176810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、POMCmRNA発現上昇抑制作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とするPOMC発現上昇抑制剤、POMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤、POMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等を予防、治療又は改善可能なPOMCmRNA発現上昇抑制剤を提供することができるとともに、POMCmRNAの発現上昇に起因する各種疾患を予防又は治療可能なPOMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有する。
【0010】
ここで、本発明において「抽出物」には、上記植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0011】
本発明において使用する抽出原料は、オランダガラシ、オタネニンジン、センブリ及びソウハクヒである。2種以上の植物を抽出原料として用いる場合、上記植物を任意に組み合わせて使用することができる。
【0012】
オランダガラシ(学名:Nasturtium officinale)は、アブラナ科に属し、サラダ等に利用されている。オランダガラシはヨーロッパから中央アジア原産で、日本でも広く自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉、茎、花、根、地上部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉及び地上部である。
【0013】
オタネニンジン(学名:Panax ginseng)は、ウコギ科に属する植物であり、中国東北部等に自生又は韓国や中国等で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、茎部、地上部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0014】
センブリ(学名:Swertia japonica)は、リンドウ科に属する植物であり、九州から北海道までの山野で自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、地下部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは全草である。
【0015】
ソウハクヒは、クワ(学名:Morus alba)の根の皮を乾燥したものであり、クワは日本各地に自生又は栽培されておりこれらの地域から容易に入手することができる。抽出原料としてはクワの根の皮を使用する。
【0016】
上記抽出原料からの抽出物に含有されるPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有する物質の詳細は不明であるが、天然物の抽出に一般に使用されている抽出方法によって、上記抽出原料からこれらの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0017】
例えば、上記抽出原料を必要に応じて乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0018】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等
が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温
度で使用するのが好ましい。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0021】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0022】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0023】
以上のようにして得られるオランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物は、POMCmRNA発現上昇抑制作用を有しているため、それらの作用を利用してPOMCmRNA発現上昇抑制剤の有効成分として使用することができる。
【0024】
また、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物は、そのPOMCmRNA発現上昇抑制作用を利用して、POMCmRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、血管新生抑制剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、がん細胞の転移を抑制する医薬組成物等)の有効成分として用いることもできる。
【0025】
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物のみからなるものでもよいし、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を製剤化したものでもよい。
【0026】
オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を製剤化したPOMCmRNA発現上昇抑制剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等が挙げられる。
【0027】
なお、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、必要に応じて、POMCmRNA発現上昇抑制作用を有する植物抽出物等を、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0028】
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0029】
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物が有するPOMCmRNA発現上昇抑制作用を通じて、POMCの発現の上昇を抑制することができ、これによりメラノサイトを活性化するサイトカインとしてのα−MSHの生合成を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物が有するPOMCmRNA発現上昇抑制作用を通じて、ストレス性の皮膚掻痒症等を予防、治療又は改善をすることができる。ただし、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもPOMCmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0030】
なお、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0032】
なお、本実施例で使用する、オランダガラシ抽出物、ニンジン(オタネニンジン)抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物は、オランダガラシ抽出液、ニンジン(オタネニンジン)抽出液、センブリ抽出液及びソウハクヒ抽出液(全て丸善製薬社製)の各凍結乾燥品を各植物の抽出物(試料)として用いた。
【0033】
〔試験例3〕POMCmRNA発現上昇抑制作用試験
各植物抽出物について、以下のようにしてPOMCmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0034】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife−KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0035】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON社製)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife−KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料濃度は下記表を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.no.311−02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0036】
この総RNAを鋳型とし、POMC及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT−PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT−PCR反応により行った。POMCのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりPOMCmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0037】
POMCmRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。結果を表1に示す。
【0038】
〔表1〕
試料名 試料添加濃度(μg/mL) POMCmRNA発現上昇抑制率(%)
オランダガラシ抽出物 1 66.3
10 29.0
オタネニンジン抽出物 1 41.2
10 14.8
センブリ抽出物 1 36.1
ソウハクヒ抽出物 1 46.2
【0039】
表1に示すように、オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物には、優れたPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等の予防・改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とするプロオピオメラノコルチコトロピン(POMC)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項2】
オランダガラシ抽出物、オタネニンジン抽出物、センブリ抽出物及びソウハクヒ抽出物より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とするプロオピオメラノコルチコトロピン(POMC)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。

【公開番号】特開2011−1325(P2011−1325A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147220(P2009−147220)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】