説明

プロセスフレアヘッダーからの有機物の回収

【課題】アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造中に利用されるシアン化水素の回収を改善する。
【解決手段】プロピレン又はイソブチレンのアンモ酸化反応の反応器流出液から得られるプロセスフレア材料から、HCN回収ユニットを通して、廃棄有機物、主としてシアン化水素(HCN)及びアクリロニトリルを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの改良された製造プロセスに関する。特に、本発明は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造中に利用されるシアン化水素の回収を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが商業規模でのプロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化により製造される場合に生成する副産物シアン化水素(HCN)の回収は、反応器流出液を水で急冷して、次に急冷の結果として得られる気体流(アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル並びに副産物HCNを含む)を吸収装置に通過させることにより達成されている。吸収装置において、水及び気体が、向流中で接触せしめられて、HCN及びアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルのほぼすべてが除去される。次いで、HCN及びアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを含む水性流を、一連の蒸留カラム及び関連する分離・精製用デカンタに通す。この分離・精製デカンタは、ほぼ全量のHCNを含む蒸気流から生成物アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを分離・精製するためのものである。
【0003】
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造に用いられる典型的な回収・精製システムは、米国特許第4,234,510号明細書及び第3,885,928号明細書に記載されている。これらの特許は、本出願の譲受人に譲渡されており、本願に参照として組み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,234,510号明細書
【特許文献2】米国特許第3,885,928号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主目的は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造における副産物HCNの改良された回収プロセスを提供することにある。本発明の更なる目的は、灰化その他の回収プロセスに向けられるアクリロニトリル及びHCNの量を減少させるアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの改良された製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明のさらに別の目的は、有機物回収プロセスに、プロセスフレアヘッダー材料の少なくとも一部を送ることによって、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造用のプロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応の反応器流出液において得られる有機材料の改良された回収方法を提供することにある。
【0007】
本発明のまた別の目的は、水相向流スクラビング、有機物相向流スクラビング、水相並流スクラビング、有機物相並流スクラビング、蒸留、抽出、浸出、吸着、吸収、選択的凝縮及び選択的反応を用いて、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造するためのプロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応の反応器流出液内で得られる有機材料の回収を実効あるものにすることにある。
【0008】
本発明の別の目的は、プロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応の間に得られるプロセスフレアヘッダー内容物の一部を接触器に搬送し、接触器内でプロセスフレアヘッダー内容物を水流と接触させ、プロセスフレアヘッダー内容物に含まれている有機材料の少なくとも一部を上記水流内に吸収させるアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のまた別の目的は、1以上の向流スクラバー、並流スクラバー、蒸留カラム、抽出カラム、浸出カラム、吸着塔、吸収塔または選択的凝縮塔を用いて、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法の改良を実効あるものにすることにある。
【0010】
本発明のさらに別の目的、利点及び新規な特徴の一部は以下の説明に記載されており、一部は以下の実施例により当業者には明らかであろうし、また本発明の実施により教示されるであろう。本発明の目的及び利点は、特許請求の範囲に特に規定されている方法及び組みあわせによって、理解され明らかとなるであろう。上述の目的その他の目的を達成するために、本願に具体的に且つ広範囲に記載されている本発明の目的によれば、本発明の方法は、プロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化中に得られる反応器流出液を急冷塔に搬送し、熱い流出ガスを水性スプレイと接触させて冷却し、冷却された反応器塔頂流出物を吸収塔に通し、HCN及び未精製のアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを水に吸収させ、HCN及びアクリロニトリルまたはメタクリロニトリル及び他の不純物を含む水溶液第1の蒸留カラム(回収塔)に通し、ここで水及び不純物の大部分を塔底液体生成物として除去し、一方、HCN、水、少量の不純物及びアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを塔頂蒸気流として除去する。プロセスの間中、プロセスユニットからの種々の蒸気流は、プロセスフレアヘッダーへと排気される。プロセスフレアヘッダーは、これらの材料を安全且つ効果的に廃棄するために、高温の熱酸化器又はフレアに送る。
【0011】
本発明は、さらなるHCN回収ユニットをプロセスフレアヘッダーに加えることによって、従来の操作を改良する。
本発明の好ましい実施形態において、回収プロセスは、プロセスフレアヘッダーの内容物を向流2相接触器に送ることによって実施される。接触器において、プロセスフレアヘッダーのガス状成分は、プロセス容器内を上方に送られ、下方に流れる水流はガス状プロセスフレアヘッダー材料に接触して、HCNが抽出される。
【0012】
本発明は、HCNをより効果的に回収することを可能とする。この改良された回収は、少量のHCNが灰化され、結果的に排ガス燃焼からの放出を減少させる。
【0013】
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの一般的な回収及び精製並びに本発明を説明する。流動床反応器内で、流動床アンモ酸化触媒と接触させながら、アンモニア及び酸素を含むガスによるプロピレン又はイソブチレンのアンモ酸化により得られる反応器流出液は、搬送ラインを経て急冷塔に搬送される。熱い流出ガスは、水性スプレイと接触することで冷却される。次いで、所望の生成物(アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル、アセトニトリル及びHCN)を含む冷却された流出ガスは、搬送ラインを経て、吸収塔の底部に送られ、生成物は、吸収塔の頂部から吸収塔に流入する水に吸収される。吸収されなかったガスは、吸収塔の頂部に配置されているパイプを介して吸収塔から通過して、プロセスフレアヘッダー又はさらなる回収プロセスに送られてもよい。次いで、所望の生成物を含有する水性流は、吸収塔の底部から、底部ラインを経て、第1の蒸留カラム(回収塔)の上部に送られ、さらに生成物が精製される。生成物は、回収塔の頂部から液体として回収されて、供給ラインを経て、第2の蒸留カラム(ヘッドカラム)に送られる。一方、水及び他の不純物は、回収塔の底部から除去される。回収塔の頂部に存在する非凝縮性ガスもまた、プロセスフレアヘッダーに送られる。ヘッドカラムにおいて、HCNは塔頂物となって塔から除去され、塔頂物凝縮器において冷却されて、得られる材料は還流ドラムに送られる。還流ドラムからの液体還流は、ヘッドカラムの上部に戻される。蒸気相材料もまた、還流ドラムから除去されて、HCN生成物凝縮器において冷却される。冷却され、部分的に凝縮されたHCN生成物凝縮器の流出液は、HCNノックアウトポットまで送られる。HCNの液体部分は、HCNノックアウトポットから除去されて、回収プロセスに戻される。凝縮されなかったHCNは、他の非凝縮性材料と一緒に、HCNノックアウトポットから除去され、プロセスフレアヘッダーを経て、灰化装置まで直接的に送られてもよいし、あるいは当該技術分野で公知の慣習的な手段によって精製され回収されてもよい。安全に廃棄するために、プロセスフレアヘッダーまで送られる別のプロセス流も存在する。
【0014】
アクリロニトリル及びメタクリロニトリル製造プロセスでの生成物の回収・精製の際に生じる大きな操作上の問題は、主として急冷塔及びヘッドカラムにおける重合HCNの形成である。特に、重合HCNは、トレイ上及びカラム供給位置よりも上方のヘッドカラム内のトレイ及び内部に形成する。固形状の重合HCNは、蒸留トレイ、溢流堰、下降管などを汚染し、ヘッドカラム内での液体/蒸気界面の水圧バランスを混乱させる。
【0015】
重合HCNの形成は周知であるが、よく理解されているわけではなく、定量化されていない。プロセスユニット、特にヘッドカラムが慣例のメンテナンスの間に検査されて清浄化される場合、重合HCNは、腐食性副産物及び塵の堆積物と一緒にプロセスから除去される。歴史的には、重合HCNの量は正確には測定されておらず、プロセス操作性に対する影響として質的に評価されている。
【0016】
さらに、プロセスフレア材料中のHCN量の非常に正確な測定は、非常に困難である。窒素及び軽質炭化水素などの多量の非凝縮性ガスがプロセスフレアヘッダーに排気されるので、HCN含有量が算出される場合には、わずかなサンプリングエラーが増幅される。かようなサンプリングエラーは、アイソキネテックサンプリング処置中のわずかな不釣り合い、組成決定技術のわずかな計算誤差、及び試料劣化の結果として生じ得る。さらに、製造及び回収プロセスの力学的性質に起因して、より大きな差異が生じ得る。材料をプロセスフレアヘッダーに送るユニットは、一定の範囲の条件下で操作される。そして、1のプロセスユニットごとの混乱は、混乱したユニットからの熱または材料を受け入れるすべてのプロセスユニットの操作に影響する。よって、いかなるサンプリングも、プロセス操作の明確な理解に基づかなければならず、さらに典型的な操作を最もよく示すパラメータの仮定に基づかなければならない。
【0017】
プロセス化学及びプロセスフレアヘッダー材料組成の不完全な理解の結果として、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル製造装置のオペレータは、該装置の周囲で材料バランスをとる場合、HCN損失の大部分の原因を重合HCNの形成に求めてきた。数年来のプラントデータに基づいて、かような装置において製造された副産物HCNの1%未満がプロセスフレアヘッダーに送られていると、一般的に考えられている。この材料の損失は経済的な損失であるが、プロセスフレアヘッダー材料におけるHCNの希薄な濃度は、材料を回収するために必要であった最大の測定値を正当化していなかった。この高価な副産物は、安全上の理由によって、プロセスフレア内で燃焼されていた。なぜなら、回収コストは、非常に高いと考えられていたからである。
【0018】
プロセスフレア内でのHCNの灰化の結果として生じる環境の影響をさらに減少させようという努力において、さらなる向流スクラバーを組み込んでプロセスフレアヘッダーの内容物を処理した。プロセスフレアヘッダーの内容物を、反対方向に流れる水性液体流と接触させた。プロセスフレアヘッダー材料の非凝縮性の部分は、水性液体流から外れて、従来のように、プロセスフレアヘッダーに送られて燃焼した。水性液体流は、回収・精製プロセスに戻されて、反応器から出て所望の生成物を吸収するために用いられる大きな水流と混じり合わされて、続いて所望の精製レベルまで蒸留された。
【0019】
プロセスフレアヘッダースクラバーから回収プロセスに戻された水性液体流の成分を評価すると、理論収率の約10%の副産物HCNが回収され、プロセスフレアヘッダー材料中に存在すると考えられていたHCNの量よりもほぼ10倍の量の多さであることが判明した。プロセスフレアヘッダー材料中の高レベルのHCNは、かような装置のオペレータにはまったく予想されていなかった。材料が実際に回収されるまで、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルの製造及び精製の分野の当業者には、長年の作業の間にプロセスフレアに送られてしまっていた高レベルの価値あるHCN副産物も、これらのレベルでHCNを回収することによって得ることができたであろう経済的利得も、理解されていなかった。
【0020】
プロセスフレアヘッダー中の蒸気相材料におけるHCNの計測値と比較すると、向流水性スクラビングによる回収は、予想されたHCNの回収量の数倍にも及んだ。正確な蒸気相HCN計測の困難性は、非常に多量のHCNがプロセス装置内で重合されたと考えられていたこと及びメンテナンス処理中に回収された重合HCNの実際の量を急冷することの困難性と相まって、当該分野の専門家を少量のHCNだけがプロセスフレアヘッダー材料から回収され得るという結論に導いていた。回収プロセスを実際に行うことによってのみ、プロセスフレア内で燃焼したHCNの真の先の量(previous amount)の表示が与えられた。
【0021】
向流水性接触器がプロセスフレアヘッダー材料からHCNを回収するために用いられていたが、この分野で公知の他のプロセスを用いても同様の結果を得ることができるであろう。かようなプロセスとしては、限定されないが、水相向流スクラバー、有機物相向流スクラバー、水相並流スクラバー、有機物相並流スクラバー、蒸留、抽出、浸出、吸着、吸収、選択的凝縮、選択的反応などを挙げることができる。より高い背圧を生じることなくフレアヘッダーシステムを作動させるためには、低い圧力降下という別の抑制がある。さらなる問題は、通常の排気流から追加の材料をスクラブ又は捕捉するためのシステムを組み込む際の緊急解放・制御システムとしてフレアシステムの一体性を維持することに関する。
【0022】
好ましくは、アンモ酸化反応は、流動床反応器内で行われるが、搬送ライン反応器等の他のタイプの反応器内で行われてもよい。アクリロニトリルの製造用の流動床反応器は、従来から周知である。例えば、本願に参照として組み込まれている米国特許第3,230,246号明細書に記載されているような反応器設計が適切である。
【0023】
アンモ酸化反応が生じるための条件もまた、本願に参照として組み込まれている米国特許第5,093,299号明細書、同第4,863,891号明細書、同第4,767,878号明細書及び同第4,503,001号明細書によって明らかなように、この分野で周知である。典型的には、アンモ酸化プロセスは、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルを製造するために昇温された温度で、アンモニア及び酸素の存在下で、プロピレン又はイソブチレンを流動床触媒と接触させることによって、行われる。いかなる酸素源が用いられてもよい。しかしながら、経済的な理由から、空気を用いることが好ましい。典型的な供給流中のオレフィンに対する酸素のモル比は、0.5:1〜4:1の範囲、好ましくは1:1〜3:1の範囲である。反応における供給流中のオレフィンに対するアンモニアのモル比は、0.5:1〜5:1の間で変動してもよい。アンモニアとオレフィンとの比率に上限はまったくないが、経済的な理由から5:1の比率を越える理由は一般的にない。
【0024】
反応は、約260℃〜600℃の範囲の間の温度で行われるが、好ましくは310℃〜500℃の間、特に好ましくは350℃〜480℃の間の温度で行われる。本質的ではないが、接触時間は、一般的に、0.1〜50秒の範囲であり、好ましい接触時間は1〜15秒である。
【0025】
米国特許第3,642,93号明細書に記載されている触媒に加えて、本発明の実施に適切な他の触媒は、本願に参照として組み込まれている米国特許第5,093,299号明細書に記載されている。
【0026】
当業者には明らかなように、特許請求の範囲に開示された範囲若しくは特許請求の範囲から導かれる範囲を逸脱しない限りにおいて、上述の開示及び議論に鑑みて、本発明の種々の変形をなし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造のためのプロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応の反応器流出液内で得られる有機材料の改良された回収方法であって、プロセスフレアヘッダー材料の少なくとも一部を有機物回収プロセスに送る工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記有機物回収プロセスは、水相向流スクラビング、有機物相向流スクラビング、水相並流スクラビング、有機物相並流スクラビング、蒸留、抽出、浸出、吸着、吸収、選択的凝縮、及び選択的反応からなる群より選択されるプロセスを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、前記有機物回収プロセスは、水相向流スクラビングを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、前記有機物回収プロセスは、水相並流スクラビングを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
プロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化中に得られるプロセスフレアヘッダー内容物の一部を接触器に搬送することを含むアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法であって、上記プロセスフレアヘッダー内容物を水流と接触させ、上記プロセスフレアヘッダー内容物に含まれる有機材料の少なくとも一部を上記水流中に吸収させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、前記接触器は、向流スクラバー、並流スクラバー、蒸留カラム、抽出カラム、浸出カラム、吸着塔、吸収塔及び選択的凝縮塔からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6の方法であって、前記接触器は、向流スクラバーであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6の方法であって、前記接触器は、並流スクラバーであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6の方法であって、前記接触器は、蒸留カラムであることを特徴とする方法。

【公開番号】特開2011−102236(P2011−102236A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−282638(P2010−282638)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【分割の表示】特願2000−549582(P2000−549582)の分割
【原出願日】平成11年5月18日(1999.5.18)
【出願人】(507303398)イネオス・ユーエスエイ・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】