説明

プロピレンの製造方法

【課題】エチレン転化率の低下を抑制すると共に、省エネルギー且つ低コスト化が可能な
プロピレンの製造方法を提供する。
【解決手段】ゼオライトを活性成分に有する触媒に、水素が分圧で0.001MPa以上
2MPa以下共存する条件で、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンの製造方法に関し、さらに詳しくは、エチレンを触媒と接触させてプロピレンを生成する反応において、水素を共存させることを特徴とするプロピレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンを製造する方法としては、ナフサのスチームクラッキング法や減圧軽油の流動接触分解法が一般的に実施されている。スチームクラッキング法ではプロピレンの他にエチレンも大量に生成し、プロピレンとエチレンの製造割合を大きく変えることは難しいため、プロピレンとエチレンの需給バランスの変化に対応するのは困難であった。そこで、エチレンだけを原料として高収率でプロピレンを製造する技術が望まれていた。
【0003】
かかる技術として、特許文献1には、エチレンを原料としたプロピレンの製造方法で、0.5nm未満の細孔径を有するアルミノシリケート触媒を用いるプロピレンの製造方法が開示されている。この方法により、エチレンからプロピレンを効率よく製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載のプロピレン製造技術では、反応の経過と共に触媒上に炭素質(コーク)が析出し、エチレンの転化率が経時的に低下することがわかっており、この経時的な転化率低下を抑制する方法が強く望まれていた。
【0006】
一方、本技術の原料として用いるエチレンは、現在、主にナフサ、エタン、プロパン等の炭化水素をスチームクラッキングすることにより得られ、その後、分離工程において精製することにより高純度のエチレンが製造されている。分離工程では一般的に、副生する水素、メタン等をエチレンから除去するために、深冷分離と呼ばれる方法が適用されるが、超低温条件での分離のためエネルギー消費および精製コストが大きいという問題がある。
【0007】
スチームクラッキングにより得られる、水素、メタン等を含むエチレンを本技術の原料として利用できれば、省エネルギー且つ低コスト化を実現することができるが、水素が共存した場合には、生成したプロピレンが水素化されてプロパンに変換されることが予想され、プロピレン収率が大幅に悪化することが懸念される。しかしながら、本反応において水素共存の影響はこれまで確認されてこなかった。
【0008】
本発明は、エチレン転化率の低下を抑制すると共に、省エネルギー且つ低コスト化が可能なプロピレンの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ゼオライトを活性成分に有する触媒の存在下、エチレンを原料としてプロピレンを合成する反応において、水素を共存させた条件で反応を行った場合にもプロパンの副生量はほとんど変わらずにプロピレン収率の悪化もほとんど起こらないことを見出した。さらに驚くべきことに、水素を共存させることにより、経時的なエチレン転化率の低下が著しく抑制されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(5)に存する。
(1)ゼオライトを活性成分に有する触媒に、水素が分圧で0.001MPa以上2MPa以下共存する条件で、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
(2)気相の温度が、200℃以上750℃以下であることを特徴とする(1)に記載のプロピレンの製造方法。
(3)エチレンが、未精製エチレンであることを特徴とする(1)または(2)に記載のプロピレンの製造方法。
(4)前記ゼオライトが、0.5nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
(5)前記ゼオライトが、CHA構造のゼオライトであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレンからプロピレンを製造するにあたって、エチレン転化率の低下を抑制すると共に、省エネルギー且つ低コスト化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
本発明によるプロピレンの製造方法は、ゼオライトを活性成分に有する触媒に、水素が分圧で0.001MPa以上2MPa以下共存する条件で、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成させることを特徴とするものである。
【0013】
このプロピレン生成反応において、反応の経過と共に触媒上に炭素質(コーク)が析出し、エチレンの転化率が経時的に低下する。本発明により、気相中に水素を共存させることにより、高いプロピレン収率を維持したままエチレン転化率の低下を抑制することを実現し得たものである。
【0014】
なお、本明細書において、エチレン転化率、プロピレン収率等は、後記[実施例]の項に記載する方法により算出される値である。また、水素とは、特に明記しない限り分子状水素を意味する。
以下、本発明で用いる触媒について説明し、続いて本発明のプロピレンの製造方法について説明する。
【0015】
(1)触媒
本発明において、触媒は、エチレンをプロピレンに変換する能力を有するものであれば特に限定されず、従来公知の触媒が用いられる。中でも、ブレンステッド酸点を有する固体状の物質、例えばゼオライトを活性成分に有する触媒(以下これを、「ゼオライト触媒」ということがある。)がより好ましい。
【0016】
活性成分であるゼオライトは、そのまま触媒として反応に用いても良いし、反応に不活性な物質やバインダーを用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して反応に用いても良い。該反応に不活性な物質やバインダーとしては、アルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゲル、石英、およびそれらの混合物等が挙げられる。
本発明で用いられるゼオライトは、次に述べる物性等をもつものである。
【0017】
(1−1)ゼオライト
ゼオライトとは、四面体構造をもつTO4単位(Tは中心原子)がO原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を指す。具体的には国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下これを「IZA」ということがある。)の構造委員会データ集に記載のあるケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が含まれる。
【0018】
ここで、ケイ酸塩には、例えばアルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩には、例えばアルミノリン酸塩、ガロリン酸塩、ベリロリン酸塩等が、ゲルマニウム塩には、例えばアルミノゲルマニウム塩等が、ヒ酸塩には、例えばアルミノヒ酸塩等が含まれる。さらに、アルミノリン酸塩には、例えばT原子をSiで一部置換したシリコアルミノリン酸塩や、Ga、Mg、Mn、Fe、Co、Znなど2価や3価のカチオンを含むものが含まれる。
【0019】
(1−2)ゼオライトの構造
ゼオライトの細孔径は特に限定されず、好ましくは0.6nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満である。
ここで、細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示す。細孔径が0.5nm未満とは、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その平均直径が0.5nm未満であることをさすが、細孔の形状が楕円形の場合は、短径が0.5nm未満であることを意味する。
【0020】
細孔径が小さいゼオライトを用いることにより、エチレンから高収率でプロピレンを製造することができる。この作用機構の詳細は明らかではないが、強い酸点の存在によりエチレンを活性化することができ、また、小さい細孔径によりプロピレンを選択的に生成させることができることによると考えられる。即ち、細孔径が小さい細孔であると、反応生成物(目的物)であるプロピレンはこの細孔から出てくることができるが、副生成物であるブテンやペンテン等は、分子が大きすぎるために細孔内にとどまったままになっていると推定される。このようなメカニズムでプロピレンの選択率が改善されると考えられる。
【0021】
なお、ゼオライトの細孔径の下限も特に限定されず、通常0.2nm以上、好ましくは0.3nm以上である。
細孔径が小さすぎるとエチレンもプロピレンも通り抜けられなくなり、エチレンと活性点との作用が起こりにくくなり反応速度が低下すると考えられる。
【0022】
ゼオライトの細孔を構成する酸素数としては、特に限定されず、通常、酸素8員環または9員環を含む構造を有するものが好ましく、酸素8員環のみで構成されているものがより好ましい。
ここで、酸素8員環または9員環を含む構造とは、ゼオライトのもつ細孔がTO4単位(但し、TはSi、P、Ge、Al、Ga等を示す。)8個または9個からなる環構造を意味する。
【0023】
酸素8員環のみで構成されているゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、AFX、CAS、CHA、DDR、ERI、ESV、GIS、GOO、ITE、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH等が挙げられる。
また、酸素9員環を含みかつ酸素9員環以下の細孔だけを有するゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、NAT、RSN、STT等が挙げられる。
【0024】
ゼオライトのフレームワーク密度は特に限定されず、好ましくは18以下、より好ましくは17以下であり、下限は、通常13以上、好ましくは14以上である。
ここで、フレームワーク密度(単位:T/nm3)とは、ゼオライトの単位体積(1nm3)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。
【0025】
上記の構造に関する観点から、ゼオライトの好ましい骨格構造はAFX、CHA、ERI、LEV、RHO、RTHであり、より好ましい骨格構造はCHAである。
CHA構造のゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。上記のとおり、ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩(ALPO−34)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO−34)等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0026】
(1−3)組成
ゼオライトは、通常プロトン交換型が用いられるが、その一部または全てがNa、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に交換されていてもよい。
【0027】
これらイオン交換サイト以外に、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に金属担持されていてもよい。ここで、金属担持は、通常、平衡吸着法、蒸発乾固法、ポアフィリング法等の含浸法で行うことができる。
【0028】
ゼオライトがケイ酸塩の場合、SiO2/M23(但し、Mはアルミニウム、ガリウム、鉄、チタン、ホウ素など3価の金属を示す。)モル比は、好ましくは1以上、より好ましくは5以上であり、上限は、通常1000以下、好ましくは500以下である。この値が低すぎると触媒の耐久性が低下する傾向があり、また高すぎても触媒活性が低下する傾向がある。
【0029】
ゼオライトがリン酸塩の場合、シリコアルミノリン酸塩の(Al+P)/Siモル比あるいは2価の金属をもつメタロアルミノリン酸塩の(Al+P)/M(但し、Mは2価の金属を示す。)モル比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、上限は、通常500以下である。この値が低すぎると触媒の耐久性が低下する傾向があり、また高すぎても触媒活性が低下する傾向がある。
【0030】
(1−4)酸量
ゼオライトの外表面の酸量(以下これを「外表面酸量」ということがある。)は、ゼオライト全体の酸量(以下これを「全酸量」ということがある。)に対して、通常5%以下、好ましくは4.5%以下、より好ましくは3.5%以下である。外表面酸量は少なければ少ないほど良く、下限は特にない。
【0031】
全酸量に対して、外表面酸量が多すぎると、ゼオライトの外表面で起こる副反応により、プロピレンの選択性が下がる傾向がある。これは、外表面での反応は形状選択的な制約を受けず、炭素数4以上の生成物が生成するためと考えられる。また、触媒の細孔で生成したプロピレンが、外表面酸点と再び作用し、副反応を起こすことによると考えられる。
【0032】
ここで、ゼオライトの外表面酸量とは、ゼオライトの外表面に存在する酸点の総量を意味する。外表面酸量とは、具体的には、前処理として真空下500℃で1時間乾燥させた後、150℃でピリジン蒸気と接触吸着させ、150℃で作動排気及びHe(ヘリウム)フローで余剰ピリジンを除いて得られたゼオライトの、昇温速度10℃/分の昇温脱離法による150〜800℃におけるゼオライト単位重量当たりのピリジンの脱離量をいう。
【0033】
また、ゼオライトの全酸量とは、前処理としてHe(ヘリウム)フロー下500℃で1時間乾燥させた後、100℃で5体積%アンモニア/ヘリウムと接触吸着させ、100℃で水蒸気に接触させ、余剰アンモニアを除いて得られたゼオライトの、昇温速度10℃/分の昇温脱離法による100〜800℃におけるゼオライト単位重量当たりのアンモニアの脱離量をいう。
【0034】
全酸量は、通常4.8mmol/g以下、好ましくは2.8mmol/g以下である。また、下限は、通常0.15mmol/g以上、好ましくは0.30mmol/g以上である。酸量が多すぎると、コーク付着による失活が速くなり、アルミニウムが骨格から抜けやすくなるため、酸点当たりの酸強度が弱くなる傾向がある。小さすぎると、酸量が少ないため、エチレンの転化率が低下する傾向がある。
【0035】
(1−5)全酸量に対する外表面酸量の割合の低下方法
全酸量に対する外表面酸量の割合の低下は、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば、ゼオライトの外表面をシリル化する方法、ゼオライトに水蒸気処理(スチーミング)を行う方法、ジカルボン酸で処理する方法等により行うことができる。
以下に、シリル化、水蒸気処理、ジカルボン酸処理の一般的な方法を記載する。
【0036】
(1−5−1)シリル化
ゼオライト外表面のシリル化は、適当なシリル化剤を用いた、液相シリル化法や気相シリル化法等のそれ自体既知のシリル化法により行えばよい。これにより、ゼオライトの外表面酸量を低下させることができる。
【0037】
シリル化剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の4級のアルコキシシラン;トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン等の3級のアルコキシシラン;ジメトキジメチルシシラン、ジエトキシジメチルシラン等の2級アルコキシシラン;メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン等の1級のアルコキシシラン;テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のクロロシラン等が挙げられる。
【0038】
これらの中で、液相シリル化においてはアルコキシシランが好ましく、アルコキシシランとしてはテトラエトキシシランが好ましい。また、気相シリル化においてはクロロシランが好ましく、クロロシランとしてはテトラクロロシランが好ましい。
液相シリル化法で使用する溶媒は特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機溶媒や水等が挙げられる。
【0039】
液相シリル化法において、処理溶液中のシリル化剤/ゼオライトの量比(mol/mol)は、通常5以下、好ましくは3以下であり、下限は、通常0.005以上、好ましくは0.1以上である。この値が高すぎると、過剰なシリル化によって、細孔が閉塞する傾向あり、低すぎるとシリル化が不十分で外表面酸量の低下ができない場合もある。
【0040】
シリル化の温度は、シリル化剤や溶媒の種類によるが、通常140℃以下、好ましくは120℃以下であり、下限は、通常20℃以上、好ましくは40℃以上である。処理温度が高すぎると、液の蒸発によって、シリル化が効率的に起こらない場合があり、温度が低すぎるとシリル化の反応速度が遅くなる傾向がある。
処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは2時間以上であり、処理時間の上限は特にない。処理時間が短すぎると十分なシリル化が起こらず、酸量の低下が不十分となる場合もある。
【0041】
気相シリル化法においては、蒸着したシリカの重量が、ゼオライトに対して、通常20重量%以下、好ましくは18重量%以下となるように行う。蒸着量の下限は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上である。この値が高すぎると、過剰なシリル化によって、細孔が閉塞する傾向があり、低すぎるとシリル化が不十分で外表面酸量の低下ができない場合もある。
【0042】
気相シリル化の温度は、通常20℃以上、好ましくは100℃以上であり、上限は、通常500℃以下、好ましくは400℃以下である。温度が高すぎると、シリル化剤の分解やゼオライトの骨格の崩壊が起こりやすくなる傾向があり、処理温度が低すぎるとシリル化反応が進行し難い場合がある。
【0043】
(1−5−2)水蒸気処理
ゼオライトに対する水蒸気処理(以下これを、「スチーミング」ということがある。)の温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、上限は、好ましくは700℃以下、より好ましくは650℃以下である。温度が低すぎるとスチーミングの効果が小さく、高すぎるとゼオライトの構造崩壊が起こる場合もある。
【0044】
水蒸気は、ヘリウム、窒素等の不活性ガスで希釈して使用することもできる。この場合、水蒸気濃度は、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、上限はなく100%水蒸気で処理が可能である。
ゼオライトをスチーミングする前に、アルカリ土類金属を含む化合物と物理混合することも可能である。アルカリ土類金属を含む化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、中でも炭酸カルシウムが好ましい。
【0045】
アルカリ土類金属を含む化合物の量は、ゼオライトに対して、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、上限は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
アルカリ土類金属を含む化合物を混合することで、酸量が必要以上に低下するのを防ぐことができる。
【0046】
また、スチーミングは、外表面酸量を選択的に低下させるために、細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。有機物としては、例えば、ゼオライト合成時に使用する構造規定剤、反応によって生成するコーク等が挙げられる。これらの有機物うち、構造規定剤は合成された状態でゼオライトの細孔内に存在しており、コークは、炭化水素200℃以上の温度で触媒に流通させるといった方法で細孔内部に存在させることができる。
【0047】
(1−5−3)ジカルボン酸処理
ジカルボン酸による処理は、ゼオライト骨格中の金属骨格からアルミニウム等の脱離を促進することで、酸量を低減させると考えられる。しかし、ジカルボン酸は、分子の大きさがゼオライト細孔に比較して大きいため、細孔に入り込むことが出来ない。このため、ゼオライトをジカルボン酸で処理することにより、外表面酸量を選択的に低減させることができる。
【0048】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、フマル酸、酒石酸などが挙げられ、これらを混合して使用してもよい。これらの中で、シュウ酸が好ましい。
【0049】
ジカルボン酸は、溶液にしてゼオライトと混合する。ジカルボン酸の溶液中濃度は、通常0.01M以上、好ましくは1M以上であり、上限は、通常4M以下、好ましくは3M以下である。混合時の温度は、通常15℃以上、好ましくは50℃以上であり、上限は、通常95℃以下、好ましくは85℃以下である。
ゼオライトとの混合は、ゼオライト表面の脱アルミニウムを促進するために2回以上繰り返してもよい。
【0050】
また、ジカルボン酸による処理は、外表面酸量をより選択的に低下させるために、細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。有機物としては、例えば、ゼオライト合成時に使用する構造規定剤、反応によって生成するコーク等が挙げられる。これらの有機物うち、構造規定剤は、合成された状態でゼオライトの細孔内に存在しており、コークは、炭化水素200℃以上の温度で触媒に流通させるといった方法で、細孔内部に存在させることができる。
【0051】
(1−6)ゼオライトの調製方法
上記したゼオライトは、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば水熱合成法、すなわち、シリカ原料、ヘテロ元素源、およびアルカリ(土類)金属元素源を含む結晶前駆体の水性ゲルを調製し、これを加熱する方法等で合成することができる。また、水熱合成後に、上記のとおり、必要に応じて、酸量の低下処理、含浸や担持等の修飾により組成を変えることも可能である。
本発明で用いるゼオライトは、上記物性や組成を有しているものであれば良く、いずれの方法で調製されたものであってもよい。
【0052】
(2)プロピレンの製造方法
前記のとおり、本発明のプロピレンの製造方法は、上記ゼオライトを活性成分に有する触媒に、水素が分圧で0.001MPa以上2MPa以下共存する条件で、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成させることに特徴を有するものである。
【0053】
この製造方法において、プロピレンは、それ自体既知の通常用いられる方法、すなわち、原料エチレンを、適当な反応条件下、適当な反応器中で触媒と接触させる方法により生成させることができる。
以下、プロピレンの製造条件についてより詳細に説明する。
【0054】
(2−1)反応原料
原料となるエチレンは特に限定されず、例えば、石油供給源から接触分解法または蒸気分解(スチームクラッキング)法等により製造されるもの、石炭のガス化により得られる水素/CO混合ガスを原料としてフィッシャートロプシュ合成を行うことにより得られるもの、エタンの脱水素または酸化脱水素で得られるもの、MTO(Methanol to Olefin)反応によって得られるもの、エタノールの脱水反応から得られるもの、メタンの酸化カップリングで得られるもの等の公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。
【0055】
このとき各種製造方法に起因するエチレン以外の元素や化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したエチレンを用いてもよい。ただし、エチレンを精製するには、多大なエネルギーおよび精製コストが必要であることから、製品レベルまで高純度に精製される前のエチレン(以下これを、「未精製エチレン」ということがある。)を用いるのが好ましい。未精製エチレンに通常含まれる化合物としては例えば、水素、メタン、エタン等が挙げられる。
【0056】
原料エチレンとしては、アルカリ金属、硫黄化合物、重金属等が混入していないものが好ましい。
アルカリ金属の含有量は、通常1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下が適当である。アルカリ金属は触媒の被毒物質として働くので、含有の少ない原料がより好ましい。
【0057】
硫黄化合物の含有量は、化学発光法によって測定される全硫黄分として、通常20ppm以下、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下が適当である。硫黄化合物は、原料に含まれる形態または反応によって変化した形態で製品のプロピレンに混入することがあり、ポリプロピレン製造触媒等に悪影響を与えるので、含有量の少ない原料がより好ましい。
【0058】
その他、重金属も触媒性能の変化および触媒劣化の原因となることから、混入していない原料を用いるのが好ましく、通常1ppm以下が適当である。
なお、これら物質の含有量(ppm)は質量基準である。
【0059】
また、原料エチレン中に、反応器出口ガスに含まれるオレフィンをリサイクルしてもよい。リサイクルするオレフィンは、通常、未反応エチレンだが、その他のオレフィンを同時にリサイクルしても差し支えない。その他のオレフィンとしては、低級オレフィンが好ましく、分岐鎖オレフィンはその分子の大きさからゼオライト細孔内への進入が困難であるので、直鎖ブテンがより好ましい。
【0060】
なお、ゼオライト内に存在する酸点により、エタノールは容易に脱水されてエチレンに変換される。そのため、反応器に原料としてエタノールを直接導入してもよい。
【0061】
(2−2)共存させる水素
エチレンを触媒と接触させる際には水素を共存させる。これにより経時的なエチレン転化率の低下を抑制することが可能である。共存させる水素の分圧に特に制限は無いが、絶対圧で、下限は、通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上であり、上限は、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。水素分圧が低すぎるとエチレン転化率の低下を抑制する効果が小さくなり、また水素分圧が高すぎると圧力を上げるのに大きなエネルギーを消費することとなる。
【0062】
使用する水素は特に限定されず、例えば、天然ガス等のメタンを含むガスの改質により製造されるもの、ナフサ、エタン、プロパン等のスチームクラッキングによって得られるもの、水の分解によって得られるもの等の公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。このとき各種製造方法に起因する水素以外の元素や化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いても良いし、精製した水素を用いてもよい。原料のエチレンを製造する方法において、水素を副生する場合には、副生する水素をエチレンから分離することなくエチレンと一緒に反応器に供給しても良い。
【0063】
本発明の方法においては、これら水素を使用して、気相中の水素分圧を、好ましくは上記範囲内に制御してプロピレンの生成が行われる。
【0064】
(2−3)希釈剤
反応器内には、エチレン、水素の他に、反応に不活性な気体、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、それらの混合物等を存在させることができる。これらの中で、パラフィン類が好ましい。
【0065】
(2−4)反応器
反応器の形態は特に制限されず、通常、連続式の固定床反応器や移動床反応器、流動床反応器が用いられる。これらの中で、流動床反応器が好ましい。
【0066】
なお、流動床反応器に触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填しても良い。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限されない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
【0067】
反応器として流動床反応器を用いる場合、反応器に対して触媒の再生器を付設し、反応器から抜き出した触媒を連続的に再生器に送り、再生器において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。
ここで、触媒の再生器とは、反応器から抜き出された触媒を、(2−7)触媒の再生方法の項で述べる方法により、触媒を再生する再生器である。
【0068】
この場合、反応器内および再生器内の触媒の滞留時間を制御することによって、再生後の触媒を、所望のエチレン転化率となる状態まで再生させることができる。
【0069】
(2−5)反応条件
(2−5−1)基質濃度
反応器に供給する全供給成分中のエチレンの濃度、すなわち基質濃度は、特に制限されず、通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下であり、下限は、好ましくは5モル%以上である。基質濃度が高すぎると芳香族化合物やパラフィン類の生成が顕著になり、プロピレンの収率が低下する傾向がある。基質濃度が低すぎると、反応速度が遅くなるため、多量の触媒が必要となり、反応器が大きくなりすぎる傾向がある。従って、このような基質濃度となるように、必要に応じて上記希釈剤でエチレンを希釈することが好ましい。
【0070】
(2−5−2)空間速度
空間速度は特に制限されず、0.01Hr-1から500Hr-1の間が好ましく、0.1Hr-1から100Hr-1の間がより好ましい。空間速度が高すぎると反応器出口ガス中のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる傾向がある。また、空間速度が低すぎると、パラフィン類等の好ましくない副生成物が生成し、プロピレン収率が低下する傾向がある。
【0071】
ここで、空間速度とは、触媒活性成分の重量当たりの反応原料であるエチレンの流量(重量/時間)であり、触媒活性成分の重量とは触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない重量である。
【0072】
(2−5−3)反応温度
気相の温度、すなわち反応温度は、上記ゼオライト触媒とエチレンが接触してプロピレンが生成可能な温度であれば特に制限されず、通常200℃以上、好ましくは300℃以上であり、上限は、通常750℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、さらにプロピレンの収率も低下する。一方、反応温度が高すぎるとプロピレンの収率が著しく低下する。
【0073】
(2−5−4)反応圧力
反応圧力は、絶対圧で、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下であり、下限は、通常1kPa以上、好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類等の好ましくない副生成物の生成量が増え、プロピレンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0074】
(2−5−5)転化率
エチレン転化率は特に制限されず、通常20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上であり、上限は、通常95%以下、好ましくは90%以下である。エチレン転化率が小さすぎると、未反応のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる。一方、高すぎると、パラフィン類等の望ましくない副生成物が増え、プロピレン収率が低下する。
【0075】
流動床反応器で反応を行う場合には、上記のとおり、触媒の反応器内の滞留時間と再生器内での滞留時間を調整することにより、好ましい転化率で連続運転することができる。
【0076】
(2−6)反応生成物
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物であるプロピレン、未反応エチレン、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中のプロピレン濃度は、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上であり、上限は、通常95重量%以下、好ましくは80重量%以下である。
副生成物としては炭素数4以上のオレフィン類やパラフィン類が挙げられる。
【0077】
出口ガス中のエチレンは、その少なくとも一部を反応器にリサイクルして反応原料として再利用することが好ましい。その際、水素、メタン、エタンを含むエチレンをリサイクルすることが好ましい。リサイクルされる水素はエチレン転化率の低下を抑制する効果があり、メタン、エタンは希釈剤として働くことによりエチレン濃度を好ましい範囲にすることが可能となる。
【0078】
出口ガスは、それ自体既知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行うことにより、目的物であるプロピレンを得ることができる。
【0079】
(2−7)触媒の再生方法
本発明により、経時的なエチレン転化率の低下は抑制されるが、抑制の程度が十分でない場合には、再生器で触媒を再生して用いることが好ましい。
【0080】
触媒の再生方法としては、触媒に付着したコークを除去できる方法であれば、その条件に特に制限はないが、水素を含むガスに触媒を接触させて再生することが好ましい。水素を含むガスで再生することにより、高いプロピレン選択率を維持した状態での触媒の再生が可能となる。
【0081】
再生器の形態は特に制限されず、通常連続式の固定床再生器や流動床再生器が選ばれる。好ましくは流動床再生器である。
【0082】
固定床で再生する場合は、触媒を抜き出さずに反応器に入れたまま再生ガスを流すことによって、再生することが好ましい。また、触媒を一度抜きだして、反応器とは別の再生器に充填してから再生ガスに接触させて再生してもよい。移動床、流動床の場合は、反応器に対して触媒の再生器を付設し、反応器から抜き出した触媒を連続的に再生器に送り、再生器において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。また、触媒を系内に補充あるいは系内から一部をパージしながら反応、再生を行ってもよい。
【0083】
再生温度は、通常300℃以上、好ましくは400℃以上であり、上限は、通常750℃以下、好ましくは650℃以下である。温度が低すぎると、再生速度が低く、再生に長時間要する。一方、温度が高すぎるとゼオライトの骨格が崩壊を起こすこともある。
【0084】
再生の程度は、再生後の触媒を、プロピレンの生成反応(製造)を行うときと同じ温度、圧力および空間速度において、エチレンと接触した際に、エチレン転化率が、通常50〜90%、好ましくは60〜90%になるように行うことが好ましい。再生後のエチレン転化率が高すぎるとプロピレンの選択率が低くなる。また、エチレン転化率が低すぎると未反応のエチレンが多くなりプロピレン収率が低下する。
【0085】
(3)ポリプロピレンの製造
本発明の方法で得られたプロピレンを用いて、ポリプロピレンを製造することができる。ポリプロピレンの製造方法は特に限定されず、常法に従って、適当な反応器の中で、プロピレン製造用触媒にプロピレンを接触させて重合させればよい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、各炭化水素の転化率や選択率は、ガスクロマトグラフィーによる測定値から、次の式により算出した値である。また、下記の各式において、プロピレン、エチレンまたはプロパン由来カーボンモル流量(mol/Hr)とは、プロピレン、エチレンまたはプロパンを構成する炭素原子のモル数を意味する。
【0087】
エチレン転化率(%)=〔[反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン流量(mol/Hr)]/反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)〕×100
プロピレン選択率(%)=〔反応器出口プロピレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
プロパン選択率(%)=〔反応器出口プロパン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
プロピレン収率(%)=[エチレン転化率(%)×プロピレン選択率(%)]/100
【0088】
<調製例>
(ゼオライトの調製)
25wt%のN,N,N−トリメチル−1−アダマントアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を30gと1Mの水酸化ナトリウム水溶液を73gと水を185gとを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)を4.5g加え、攪拌した後に、シリカ源としてフュームドシリカを21g加えて十分攪拌した。さらにフュームドシリカの重量に対して2wt%のCHA型ゼオライトを種結晶として加えて、攪拌した。得られたゲルをオートクレーブに仕込み、撹拌条件下160℃、24時間間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で乾燥させた。乾燥後に、空気雰囲気下、580℃で焼成し、その後、1Mの硝酸アンモニウム水溶液で80℃、1時間のイオン交換を2回行なった。100℃で乾燥した後、空気雰囲気下、500℃での焼成し、プロトン型のCHA型ゼオライトを得た。
【0089】
(ゼオライトの物性)
上記で得られたゼオライトは、CHA構造を有するプロトン型のアルミノシリケートであり、SiO2/Al23比は16(モル比)、細孔径は0.38nmである。
【0090】
(ゼオライトのシリル化)
上記で得られたゼオライトをテトラエトキシシランでシリル化を行った。ゼオライト1gに対して、溶媒のヘキサメチルジシロキサン10ml、シリル化剤のテトラエトキシシラン5mLを加えて100℃で撹拌条件下、6時間のリフラックス処理を行った。処理後、濾過によって固液を分離し、得られたシリル化ゼオライトを100℃で2時間乾燥した。
【0091】
(シリル化ゼオライトの酸量)
上記で得られたシリル化ゼオライトについて、全酸量、外表面酸量をそれぞれ、アンモニア昇温脱離法、ピリジン昇温脱離法にて測定し、全酸量に対する外表面酸量は2%であった。測定は以下の通りに行った。
【0092】
全酸量測定
試料30〜50mgをHe雰囲気下500℃で1時間放置して有機物、水などの吸着物を脱着した。その後、100℃にて5体積%アンモニア/He雰囲気下で15分間保持しアンモニアを吸着させ、その後100℃で水蒸気に接触させて余剰アンモニアを除いた。次いでHe雰囲気下、10℃/分で昇温して、100〜800℃で脱離したアンモニア量を質量分析法によって検出した。
【0093】
外表面酸量測定
試料30mgを真空下500℃で1時間放置して有機物、水などの吸着物を脱着した。その後、150℃にて100%ピリジン下で15分間保持し、作動排気及びHeフローで余剰ピリジンを除いた。次いでHe雰囲気下、10℃/分で昇温して、150〜800℃で脱離したピリジン量を質量分析法によって検出した。
【0094】
<比較例1>
上記の調製例で得られたシリル化ゼオライトを用いて、エチレンを原料とするプロピレンの生成反応を次のとおり行った。
【0095】
反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、上記ゼオライト400mgを充填した。エチレンおよび窒素を、エチレンの空間速度が13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、窒素70体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。反応開始後、0.8時間、2.1時間、3.3時間後に反応器出口ガスの分析を行い、反応成績を確認した。表1に反応結果を示した。
【0096】
表1に示すとおり、エチレン転化率は0.8時間後には97%という高いレベルであったが、反応時間が長くなるにつれて大きく低下し、3.3時間後には29%まで低下した。これは触媒へのコーク付着によるものと考えられる。尚、0.8時間後のプロピレン選択率が低いのはこの触媒の特徴であり、コークがある程度付着することにより高いプロピレン選択性を発現する。
【0097】
<実施例1>
反応器に供給する窒素を水素に変えた以外は、比較例1と同様に反応を行った。その際の水素分圧は絶対圧で0.07MPaである。表1に反応結果を示した。
【0098】
表1に示すとおり、水素を共存させることにより、比較例1に比べてエチレン転化率の低下が抑制された結果、3.3時間後にもエチレン転化率が51%までしか低下しなかった。これは水素によって付着したコークの除去が反応と同時に進行しているからであると推定される。さらに水素共存によるプロピレン収率の悪化も見られなかったことから、水素共存の有効性が明らかになると共に、水素を含む未精製エチレンの利用が可能であることが確認された。
【0099】
<比較例2、実施例2>
反応温度を450℃に変更した以外は、それぞれ、比較例1および実施例1と同様に反応を行った。表1に反応結果を示した。
【0100】
比較例2では、3.3時間後のエチレン転化率が12%まで低下したが、実施例2では水素を共存させることにより42%までしか低下しなかった。これは水素によって付着したコークの除去が反応と同時に進行しているからであると推定される。
【0101】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、石油化学原料及び製品の製造等の分野に特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを活性成分に有する触媒に、水素が分圧で0.001MPa以上2MPa以下共存する条件で、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
【請求項2】
気相の温度が、200℃以上750℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
エチレンが、未精製エチレンであることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、0.5nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトが、CHA構造のゼオライトであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。

【公開番号】特開2011−79818(P2011−79818A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205578(P2010−205578)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「革新的環境・エネルギー触媒の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】