説明

プロピレンの製造方法

【課題】エチレンから高収率で効率よくプロピレンを製造する方法を提供する。
【解決手段】Cu、Fe、Co、CrおよびPtよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有するゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを含む反応ガスを接触させてプロピレンを生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンの製造方法に関し、さらに詳しくは、ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを含む反応ガスを接触させて、プロピレンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを製造する方法としては、従来からナフサのスチームクラッキング法や減圧軽油の流動接触分解法が一般的に実施されている。スチームクラッキング法ではプロピレンの他にエチレンも大量に生成し、プロピレンとエチレンの製造割合を大きく変えることは難しいため、プロピレンとエチレンの需給バランスの変化に対応するのは困難であった。そこで、エチレンだけを原料として高収率でプロピレンを製造する技術が望まれていた。
【0003】
かかる技術として、特許文献1には、エチレンを、0.5nm未満の細孔径を有するアルミノシリケート(アルミノケイ酸塩)触媒と接触させて、プロピレンを製造する方法が開示されている。この方法により、エチレンからプロピレンを効率よく製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のアルミノケイ酸塩を触媒とするプロピレンの製造方法においては、未使用の触媒を用いた場合には、反応初期はエチレン転化率が非常に高いものの、プロピレンはほとんど生成せず、プロパン等のパラフィン類が主に生成する。
そして反応時間の経過と共に、触媒上にコークが析出してくると、エチレン転化率は徐々に低下するが、主生成物はプロピレンになる。これにより高いエチレン転化率にも関わらず高いプロピレン選択性を発現し、工業的に実施する上で最も良好な反応成績が得られる。
しかし、さらに反応時間が経過し、コーク析出量がさらに増加すると、高いプロピレン選択性は維持されるものの、エチレン転化率が著しく低下することがわかっている。
このことはコークの付着した触媒を用いて反応することにより、高いプロピレン選択性が発現すること、および触媒に付着するコークには、エチレンを触媒に接触させてプロピレンを製造する際に適した状態があることが推定される。
【0006】
そのため、ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを接触させてプロピレンを製造する方法を工業的に実施する際、経時的なエチレン転化率の低下を抑制し、かつコーク除去を実施するための効率のよい触媒再生が可能な方法が強く望まれていた。
尚、本明細書中で「コーク」とは、触媒表面および触媒内部の少なくともいずれかに存在する炭化水素または炭素の総称を示している。
【0007】
本発明は、前記反応において、エチレン転化率が低下した触媒を効率よく再生でき、かつエチレン転化率の低下が抑制され、エチレンから高収率で効率よくプロピレンを得ることができる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の金属元素を含有するゼオライトを触媒として用いることにより、触媒の再生が著しく促進され、また、水素共存下で反応を行うとエチレン転化率の低下を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(9)に存する。
(1)Cu、Fe、Co、CrおよびPtよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有するゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを含む反応ガスを接触させてプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
(2)前記金属元素が、Cuであることを特徴とする(1)に記載のプロピレンの製造方法。
(3)前記金属元素の含有量が、ゼオライトに対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のプロピレンの製造方法。
(4)前記ゼオライトが、0.5nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
(5)前記ゼオライトが、CHA構造のゼオライトであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
(6)前記ゼオライトが、アルミノケイ酸塩であることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載のプロピレン製造方法。
(7)前記ゼオライトが、SiO2/Al23モル比が1以上1000以下のアルミノケイ酸塩であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載のプロピレン製造方法。
(8)前記反応ガスが、水素を含有するガスであることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
(9)前記触媒が、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスを接触させて再生した触媒であることを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エチレンからプロピレンを製造するにあたって、金属元素を含有するゼオライトを触媒として用いることにより、水素による触媒の再生が促進され、また経時的なエチレン転化率の低下を抑制することができ、それによって触媒再生の省エネルギー化および低コスト化を実現することができる。すなわち、本発明により、エチレンから高収率で効率よくプロピレンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
【0012】
本発明のプロピレンの製造方法は、Cu、Fe、Co、CrおよびPtよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有するゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを含む反応ガスを接触させてプロピレンを生成させることに特徴を有するものである。
【0013】
このプロピレン生成反応において、反応の経過と共に触媒上に炭素質(コーク)が析出し、エチレン転化率が経時的に低下する。本発明は、特定の金属元素を含有するゼオライトを触媒として用いることにより、エチレン転化率が低下した触媒を効率よく再生することができ、かつエチレン転化率の低下を抑制することが可能となったものである。
【0014】
なお、本明細書において、エチレン転化率等は、後記[実施例]の項に記載する方法により算出される値である。
【0015】
まず、本発明で用いる触媒(1)について、続いて本発明のプロピレンの製造方法(2)について、その詳細を説明する。
【0016】
(1)触媒
本発明で用いる触媒は、Cu、Fe、Co、CrまたはPtのうち少なくとも1つの金属元素を含有するゼオライトを活性成分に有し、エチレンをプロピレンに変換する能力を有するものであれば特に限定されない。かかる触媒を用いることにより、水素中での触媒再生を促進し、水素共存下においてエチレン転化率の低下を抑制することが可能となる。これは、水素化に活性を示す金属によって、触媒上に析出した炭素質の除去が促進されるためと考えられる。
【0017】
本発明で用いるゼオライトが含有する前記金属の中で、Cuが最も好ましい。再生によりプロピレン選択率を下げることなく、再生前よりもエチレン転化率を向上させることができ、効率のよいプロピレンの製造が可能であるためである。
金属の含有量は、ゼオライトに対し、好ましくは0.01質量%以上、10質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上、5質量%以下である。
なお、ゼオライトへ金属を含有させる方法については後述する。また、本明細書において、「ゼオライトを活性成分に有する触媒」を、単に「ゼオライト触媒」と略称することがある。
【0018】
活性成分であるゼオライトは、そのまま触媒として反応に用いても良いし、反応に不活性な物質やバインダーを用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して反応に用いても良い。反応に不活性な物質やバインダーとしては、アルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゲル、石英、およびそれらの混合物等が挙げられる。
本発明で用いられるゼオライトは、次に述べる物性等をもつものである。
【0019】
(1−1)ゼオライト
ゼオライトとは、四面体構造をもつTO4単位(Tは中心原子)がO原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を指す。具体的には国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下これを「IZA」ということがある。)の構造委員会データ集に記載のあるケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が含まれる。
【0020】
ここで、ケイ酸塩には、例えばアルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩には、例えばアルミノリン酸塩、ガロリン酸塩、ベリロリン酸塩等が、ゲルマニウム塩には、例えばアルミノゲルマニウム塩等が、ヒ酸塩には、例えばアルミノヒ酸塩等が含まれる。さらに、アルミノリン酸塩には、例えばT原子をSiで一部置換したシリコアルミノリン酸塩や、Ga、Mg、Mn、Fe、Co、Znなど2価や3価のカチオンを含むものが含まれる。
【0021】
(1−2)構造
ゼオライトの細孔径は特に限定されず、好ましくは0.6nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満である。
ここで、細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示す。細孔径が0.5nm未満とは、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その平均直径が0.5nm未満であることをさすが、細孔の形状が楕円形の場合は、短径が0.5nm未満であることを意味する。
【0022】
細孔径が小さいゼオライトを用いることにより、エチレンから高収率でプロピレンを製造することができる。この作用機構の詳細は明らかではないが、強い酸点の存在によりエチレンを活性化することができ、また、小さい細孔径によりプロピレンを選択的に生成させることができるものと考えられる。即ち、細孔径が小さい細孔であると、反応生成物(目的物)であるプロピレンはこの細孔から出てくることができるが、副生成物であるブテンやペンテン等は、分子が大きすぎるために細孔内にとどまったままになっていると推定される。このようなメカニズムでプロピレン選択率が改善されると考えられる。
【0023】
なお、ゼオライトの細孔径の下限も特に限定されず、通常0.2nm以上、好ましくは0.3nm以上である。
細孔径が小さすぎるとエチレンもプロピレンも通り抜けられなくなり、エチレンと活性点との作用が起こりにくくなり反応速度が低下すると考えられる。
【0024】
ゼオライトの細孔を構成する酸素数は特に限定されず、通常、酸素8員環または9員環を含む構造を有するものが好ましく、酸素8員環のみで構成されているものがより好ましい。
ここで、酸素8員環または9員環を含む構造とは、ゼオライトのもつ細孔がTO4単位(但し、TはSi、P、Ge、Al、Ga等を示す。)8個または9個からなる環構造を意味する。
【0025】
酸素8員環のみで構成されているゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、AFX、CAS、CHA、DDR、ERI、ESV、GIS、GOO、ITE、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH等が挙げられる。
また、酸素9員環を含みかつ酸素9員環以下の細孔だけを有するゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、NAT、RSN、STT等が挙げられる。
【0026】
ゼオライトのフレームワーク密度は特に限定されず、好ましくは18以下、より好ましくは17以下であり、下限は、通常13以上、好ましくは14以上である。
ここで、フレームワーク密度(単位:T/nm3)とは、ゼオライトの単位体積(1nm3)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。
【0027】
前記構造に関する観点から、ゼオライトの好ましい骨格構造はAFX、CHA、ERI、LEV、RHO、RTHであり、より好ましい骨格構造はCHAである。
【0028】
CHA構造のゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。前記のとおり、ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩(ALPO−34)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO−34)等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0029】
ゼオライトがケイ酸塩の場合、SiO2/M23(但し、Mはアルミニウム、ガリウム、鉄、チタン、ホウ素など3価の金属を示す。)モル比は、好ましくは1以上、より好ましくは5以上であり、上限は、通常1000以下、好ましくは500以下である。この値が低すぎると触媒の耐久性が低下する傾向があり、また高すぎても触媒活性が低下する傾向がある。ゼオライトの組成は原料のモル比を変えることによって制御でき、例えばアルミノケイ酸塩の場合、得られるゼオライトのSiO2/Al23モル比は、原料のシリカ原料とアルミナ源のモル比とほぼ等しくなる。
【0030】
ゼオライトがリン酸塩の場合、シリコアルミノリン酸塩の(Al+P)/Siモル比あるいは2価の金属をもつメタロアルミノリン酸塩の(Al+P)/M(但し、Mは2価の金属を示す。)モル比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、上限は、通常500以下である。この値が低すぎると触媒の耐久性が低下する傾向があり、また高すぎても触媒活性が低下する傾向がある。
【0031】
(1−3)ゼオライトの調製方法
前記したゼオライトは、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば水熱合成法、すなわち、シリカ原料、ヘテロ元素源、およびアルカリ(土類)金属元素源を含む結晶前駆体の水性ゲルを調製し、これを加熱する方法等で合成することができる。
本発明で用いるゼオライトは、前記物性や組成を有しているものであれば良く、いずれの方法で調製されたものであってもよい。
【0032】
(1−4)ゼオライトへの金属元素の導入
ゼオライトへのCu、Fe、Co、Cr、Ptといった金属元素を導入する方法は特に限定されないが、これら金属の前駆体を用いて、イオン交換法、あるいは含浸法によって行うことが好ましい。また、前記水熱合成によってゼオライトを合成する際に添加しておいても良い。これらの金属は、1種用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0033】
金属元素の導入量(含有量)は、ゼオライトの質量に対して、0.01質量%以上、10質量%以下が好ましい。さらに好ましくは、0.05質量%以上、5質量%以下である。金属元素の導入量が少なすぎると、ゼオライト中の金属元素が存在するケージの割合が少ないため、金属元素導入の効果が表れ難い。金属元素の導入量が多すぎると、金属元素によって細孔が閉塞するため、細孔を有効に用いることができない。
【0034】
金属の前駆体としては、導入に用いる溶媒に溶解するものであればよく、例えば硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物、アンミン錯体塩、クロロ錯体塩などが挙げられる。これらの中で、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体塩が好ましい。
【0035】
イオン交換法、あるいは含浸法に用いる溶媒は、金属の前駆体を溶解し、ゼオライトの細孔内に浸入することが可能なものであればよく、例えば水、メタノール、エタノールなどが挙げられる。
【0036】
(1−4−1)イオン交換法
イオン交換法による金属の導入は、それ自体既知の方法により行うことができる。イオン交換法に用いるゼオライトのカチオンは特に限定されず、通常、ナトリウム型、アンモニウムイオン型、あるいはプロトン型が用いられる。
以下に、イオン交換法の一般的な方法について述べる。
【0037】
イオン交換法は、カチオン交換能を持つ担体に金属を導入する際に用いられる方法であり、担体上のカチオンと溶液中の金属カチオンを交換することにより、金属の導入を行う方法である。
【0038】
用い得る金属の前駆体や溶媒は、前記の通り、金属の前駆体が溶媒に溶解するものであればよい。金属の前駆体溶液の濃度は特に限定されず、前駆体溶液の濃度を低くするほど導入量は減少するが、金属が均一に導入される傾向がある。
【0039】
イオン交換は、金属の前駆体溶液にゼオライトを懸濁させ、攪拌することで行う。攪拌を行う温度は、室温から溶媒の沸点程度である。攪拌時間は、イオン交換が十分平衡に達する時間であればよく、通常1〜6時間程度である。金属の導入量を増加させるため、イオン交換を複数回繰り返すことも可能である。
【0040】
所定の時間攪拌を行った懸濁液からのゼオライトの分離は、通常の固液分離操作、例えば濾過や遠心分離によって行う。
【0041】
イオン交換を行った担体を乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、例えば空気中、不活性ガス中、真空中などで行われる。乾燥温度は、通常、室温から溶媒の沸点程度である。
【0042】
乾燥した担体の焼成を行う雰囲気は、目的とする導入状態によって適切に選択する必要がある。例えば、空気中で焼成すれば金属酸化物の状態で導入され、水素中で焼成すれば金属状態で導入される。また、不活性ガス中で焼成を行う場合は、用いた金属の前駆体によって焼成後の状態は異なる。
【0043】
焼成温度は金属の前駆体の分解温度よりも高温であればよく、通常200℃〜600℃、好ましくは300℃〜500℃である。焼成温度が低すぎると金属の前駆体成分が残留しやすく、焼成温度が高すぎると金属のシンタリングや金属と担体の間で固相反応が起こりやすいという傾向がある。
【0044】
(1−4−2)含浸法
含浸法による金属の導入は、それ自体既知の方法、例えばポアフィリング法、蒸発乾固法、平衡吸着法、インシピアントウェットネス法などにより行うことができる。以下に、ポアフィリング法の一般的な方法について述べる。
【0045】
ポアフィリング法は、ゼオライト等の多孔性の担体の細孔内に金属を導入する際に用いられる方法であり、細孔容積分の金属の前駆体溶液を担体に少しずつ加え、その後、乾燥、熱処理を行うことで金属の導入を行う方法である。
【0046】
担体の細孔容積は、それ自体既知の方法、例えば、液体窒素温度において、担体に窒素を吸着させ、窒素の吸着量を測定することにより求めることができる。
【0047】
用い得る金属の前駆体や溶媒は、前記の通り、金属の前駆体が溶媒に溶解し、溶媒がゼオライトの細孔に浸入可能なものであればよい。金属の前駆体溶液の濃度は特に限定されず、金属の導入量によって任意に決めることができる。
【0048】
含浸は、ゼオライト粉末に金属の前駆体溶液を数滴滴下し、混合することを繰り返すことで行う。このとき前駆体溶液の滴下が遅く、混合が十分であるほど、金属は均一に導入される傾向がある。
【0049】
金属を含浸したゼオライトを乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、例えば空気中、不活性ガス中、真空中などで行われる。乾燥温度は、通常、室温から溶媒の沸点程度である。乾燥温度が低いほど金属の前駆体溶液の移動が起こりにくいため、均一な導入が可能であるが、溶媒の一部が残留しやすく、乾燥に時間がかかる。そのため、低温で十分に乾燥した後に高温で短時間の乾燥を行う、もしくは減圧下において低温で乾燥を行うのが好ましい。
【0050】
乾燥したゼオライトの焼成を行う雰囲気は、目的とする導入状態によって適切に選択する必要がある。例えば、空気中で焼成すれば金属酸化物の状態で導入され、水素中で焼成すれば金属状態で導入される。また、不活性ガス中で焼成を行う場合は、用いた金属の前駆体によって焼成後の状態は異なる。
【0051】
焼成温度は、金属の前駆体の分解温度よりも高温であればよく、通常200℃〜600℃、好ましくは300℃〜500℃である。焼成温度が低すぎると金属の前駆体成分が残留しやすく、焼成温度が高すぎると金属のシンタリングや金属とゼオライトの間で固相反応が起こりやすくなる傾向がある。
【0052】
(1−5)ゼオライトの修飾
前記金属元素の導入以外に、例えば、ゼオライトの外表面の酸点を選択的に低下させる等の修飾を行っても良い。これらの修飾は、金属元素の導入の前に行っても良いし、後に行っても良い。
【0053】
ゼオライトの全酸量に対して、外表面酸量が多すぎると、ゼオライトの外表面で起こる副反応により、プロピレンの選択性が下がる傾向がある。これは、外表面での反応は形状選択的な制約を受けず、炭素数4以上の生成物が生成するためと考えられる。また、触媒の細孔で生成したプロピレンが、外表面酸点と再び作用し、副反応を起こすことによると考えられる。ゼオライトの全酸量に対する外表面酸量は、好ましく5%以下、さらに好ましくは3.5%以下である。
【0054】
外表面酸点を選択的に低下させる方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば、ゼオライトの外表面をシリル化する方法等により行うことができる。
【0055】
(2)プロピレンの製造方法
本発明のプロピレンの製造方法は、前記ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを接触させてプロピレンを生成させることに特徴を有するものである。この製造方法において、プロピレンは、それ自体既知の通常用いられる方法、すなわち、原料エチレンを、適当な反応条件下、適当な反応器中で触媒と接触させる方法により生成させることができる。
以下、プロピレンの製造条件について説明する。
【0056】
(2−1)反応原料
原料となるエチレンは特に限定されず、例えば、石油供給源から接触分解法または蒸気分解法等により製造されるもの、石炭のガス化により得られる水素/CO混合ガスを原料としてフィッシャートロプシュ合成を行うことにより得られるもの、エタンの脱水素または酸化脱水素で得られるもの、MTO(Methanol to Olefin)反応によって得られるもの、エタノールの脱水反応から得られるもの、メタンの酸化カップリングで得られるもの等の公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。
【0057】
このとき、各種製造方法に起因するエチレン以外の元素や化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したエチレンを用いてもよい。ただし、エチレンを精製するには、多大なエネルギーおよび精製コストが必要であることから、製品レベルまで高純度に精製される前のエチレン(以下これを、「未精製エチレン」ということがある。)を用いるのが好ましい。未精製エチレンに通常含まれる化合物としては、例えば、水素、メタン、エタン等が挙げられる。
【0058】
原料エチレンとしては、アルカリ金属、硫黄化合物、重金属等が混入していないものが好ましい。
アルカリ金属の含有量は、通常1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下が適当である。アルカリ金属は触媒の被毒物質として働くので、含有の少ない原料がより好ましい。
硫黄化合物の含有量は、化学発光法によって測定される全硫黄分として、通常20ppm以下、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下が適当である。硫黄化合物は、原料に含まれる形態または反応によって変化した形態で製品のプロピレンに混入することがあり、ポリプロピレン製造触媒等に悪影響を与えるので、含有量の少ない原料がより好ましい。
その他、重金属も触媒性能の変化および触媒劣化の原因となることから、混入していない原料を用いるのが好ましく、通常1ppm以下が適当である。
なお、これら物質の含有量(ppm)は質量基準である。
【0059】
また、原料エチレン中に、反応器出口ガスに含まれるオレフィンをリサイクルしてもよい。リサイクルするオレフィンは、通常、未反応エチレンだが、その他のオレフィンを同時にリサイクルしても差し支えない。その他のオレフィンとしては、低級オレフィンが好ましく、分岐鎖オレフィンはその分子の大きさからゼオライト細孔内への進入が困難であるので、直鎖ブテンがより好ましい。
【0060】
なお、ゼオライト内に存在する酸点により、エタノールは容易に脱水されてエチレンに変換される。そのため、反応器に原料としてエタノールを直接導入してもよい。
【0061】
(2−2)水素の共存
エチレンを触媒と接触させる際には水素を共存させてもよい。これにより経時的なエチレン転化率の低下を抑制することができ、前記した金属元素を含有するゼオライトを触媒として用いた場合には、その傾向が大きくなる。共存する水素の分圧(水素分圧)に特に制限は無いが、下限は、通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上であり、上限は、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。水素分圧が低すぎるとエチレン転化率の低下を抑制する効果が小さくなり、また水素分圧が高すぎると圧力を上げるのにより大きなエネルギーが必要となる。
【0062】
使用する水素は特に限定されず、例えば、天然ガス等のメタンを含むガスの改質により製造されるもの、ナフサ、エタン、プロパン等のスチームクラッキングによって得られるもの、水の分解によって得られるもの等の公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。このとき各種製造方法に起因する水素以外の元素や化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いても良いし、精製した水素を用いてもよい。原料のエチレンを製造する方法において、水素を副生する場合には、副生する水素をエチレンから分離することなくエチレンと一緒に反応器に供給しても良い。
なお、本明細書において、水素とは、特に明記しない限り、分子状水素を意味する。
【0063】
(2−3)希釈剤
反応器内には、エチレン、水素の他に、反応に不活性な気体、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、それらの混合物等を存在させることができる。これらの中で、パラフィン類が好ましい。
【0064】
(2−4)反応器
反応器の形態は特に制限されず、通常、連続式の固定床反応器や移動床反応器、流動床反応器が用いられる。これらの中で、流動床反応器が好ましい。
なお、流動床反応器に、触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填しても良い。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
【0065】
反応器として流動床反応器を用いる場合、反応器に対して触媒の再生器を付設し、反応器から抜き出した触媒を連続的に再生器に送り、再生器において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。
ここで、触媒の再生器とは、反応器から抜き出された触媒を、(2−7)触媒の再生方法の項で述べる方法により、触媒を再生する再生器である。
【0066】
この場合、反応器内および再生器内の触媒の滞留時間を制御することによって、再生後の触媒を、前記したとおりの所望のエチレン転化率となる状態まで再生させることができる。
【0067】
(2−5)反応条件
(2−5−1)基質濃度
反応器に供給する全供給成分中のエチレンの濃度(基質濃度)は特に制限されず、通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下であり、下限は、好ましくは5モル%以上である。基質濃度が高すぎると芳香族化合物やパラフィン類の生成が顕著になり、プロピレンの収率が低下する傾向がある。基質濃度が低すぎると、反応速度が遅くなるため、多量の触媒が必要となり、反応器が大きくなりすぎる傾向がある。従って、このような基質濃度となるように、必要に応じて前記希釈剤でエチレンを希釈することが好ましい。
【0068】
(2−5−2)空間速度
空間速度は特に制限されず、0.01Hr-1から500Hr-1の間が好ましく、0.1Hr-1から100Hr-1の間がより好ましい。空間速度が高すぎると反応器出口ガス中のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる傾向がある。また、空間速度が低すぎると、パラフィン類等の好ましくない副生成物が生成し、プロピレン収率が低下する傾向がある。
【0069】
ここで、空間速度とは、触媒活性成分の質量当たりの反応原料であるエチレンの流量(質量/時間)であり、触媒活性成分の質量とは触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない質量である。
【0070】
(2−5−3)反応温度
反応温度は、エチレンが触媒と接触してプロピレンが生成可能な温度であれば特に制限されず、通常200℃以上、好ましくは300℃以上であり、上限は、通常750℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、さらにプロピレンの収率も低下する。一方、反応温度が高すぎるとプロピレンの収率が著しく低下する。
【0071】
(2−5−4)反応圧力
反応圧力は、絶対圧で、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下であり、下限は、通常1kPa以上、好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類等の好ましくない副生成物の生成量が増え、プロピレンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0072】
(2−5−5)転化率
エチレン転化率は特に制限されず、通常20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上であり、上限は、通常95%以下、好ましくは90%以下である。エチレン転化率が小さすぎると、未反応のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる。一方、高すぎると、パラフィン類等の望ましくない副生成物が増え、プロピレン収率が低下する。
【0073】
流動床反応器で反応を行う場合には、前記のとおり、触媒の反応器内の滞留時間と再生器内での滞留時間を調整することにより、好ましい転化率で連続運転することができる。
【0074】
(2−6)反応生成物
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物であるプロピレン、未反応エチレン、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中のプロピレン濃度は、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上であり、上限は、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
副生成物としては炭素数4以上のオレフィン類やパラフィン類が挙げられる。
【0075】
出口ガス中のエチレンは、その少なくとも一部を反応器にリサイクルして反応原料として再利用することが好ましい。その際、水素、メタン、エタンを含むエチレンをリサイクルすることが好ましい。リサイクルされる水素はエチレン転化率の低下を抑制する効果があり、メタン、エタンは希釈剤として働くことによりエチレン濃度を好ましい範囲にすることが可能となる。
【0076】
出口ガスは、それ自体既知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行うことにより、目的物であるプロピレンを得ることができる。
【0077】
(2−7)触媒の再生方法
本発明におけるエチレン転化率が低下した触媒の再生方法は以下の通りである。
エチレン転化率が低下した触媒とは、本発明における触媒を用いたエチレンからプロピレンを生成させる反応において、エチレン転化率を上昇させることにより工業的にプロピレン製造が効率的となる程度までエチレン転化率が低下した触媒を意味する。
具体的には、エチレン転化率が低下した触媒のエチレン転化率は、未使用の同触媒を使った反応初期と比べて、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。
【0078】
再生方法は、触媒に付着したコークを除去できる方法であれば、再生する条件に特に制限はないが、上記触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させる方法が好ましい。前記方法による再生では、エチレン転化率が反応初期と同等に回復するとともに、再生工程前の同触媒のプロピレン選択率を維持させることができる点で好ましい。
【0079】
再生を行うための装置は、水素を含むガスと触媒とが以下の条件のもとに接触し得るものであれば特に制限はないが、具体的には、通常連続式の固定床再生器、流動床再生器や移動床再生器が選ばれる。好ましくは流動床再生器である。
固定床で再生する場合は、エチレンからプロピレンを生成する反応を行う反応器から触媒を抜き出さずに水素を含むガスを流す方法が好ましく用いられる。また、触媒を、上記反応器から抜きだして、反応器とは別の再生器に充填してから再生ガスに接触させて再生してもよい。
【0080】
移動床、流動床の場合は、前記反応器に対して触媒を再生するための装置を付設し、該反応器から抜き出した触媒を連続的に該装置に送り、該装置において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。また、触媒を系内に補充あるいは系内から一部をパージしながら反応、再生を行ってもよい。
【0081】
再生に用いる水素を含むガスとは、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上であり、0.02MPa以上が好ましく、0.05MPa以上がより好ましい。水素分圧を0.01MPa以上とすることにより、コーク除去速度の低下を防ぐことができる。
【0082】
水素分圧の上限は特に制限はないが、絶対圧で通常4MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、0.7MPa以下が特に好ましい。水素分圧は高いほうが好ましいが、4MPa以下とすることにより、高圧水素を製造するためのエネルギーが大きくなるのを防ぎ、高圧装置の設置が必要となるのを防ぐことができる。
【0083】
また、上記ガスは酸素を含まない。ここで、「酸素を含まない」とは、酸素濃度が0.1%未満であること意味する。これ以上酸素を含むガスを用いると、触媒のプロピレン選択率が低下する。
【0084】
また水素の爆発安全性の観点では酸素が5%を超えると爆発限界となるため、酸素はより少ないほうがよく、酸素濃度は低ければ低いほど、酸素分圧が低くなり、水素によるコーク除去が支配的に起こることから好ましい。
【0085】
下限は酸素をまったく含まない0%である。酸素分圧とすると、通常0.005MPa以下が好ましく、0.001MPa以下がより好ましく、0.0001MPa以下がさらに好ましく、0MPaが最も好ましい。
【0086】
本発明の水素を含むガスに含まれる水素ガスの製造方法は特に限定されず、例えば、メタンおよびメタノールの水蒸気改質による得られるもの、炭化水素の部分酸化で得られるもの、炭化水素を二酸化炭素で改質することにより得られるもの、石炭のガス化によって得られるもの、IS(Iodine−Sulfur)プロセスに代表される水の熱分解によって得られるもの、光電気化学反応より得られるもの並びに水の電気分解で得られるもの等、各種の製造方法により得られるものを任意に用いることができる。
【0087】
このとき、酸素以外の元素および化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いてもよいし、精製した水素を用いてもよい。
【0088】
また、再生に用いた後のガスには水素の他に炭化水素が含まれるが、それをそのままリサイクルして再生に用いても良いし、炭化水素の一部を除去したものをリサイクルして再生に用いてもよい。
【0089】
水素以外に含まれるガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、パラフィン類(メタン等)などの炭化水素類等を使用することができる。これらのうち、触媒との反応性が低い点で、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、およびパラフィン類が好ましい。
【0090】
上記再生方法において、水素を含むガスの空間速度は上記触媒の再生が行える範囲であれば特に制限はされないが、具体的には、0.01Hr-1〜500Hr-1が好ましく、0.1Hr-1〜200Hr-1がより好ましく、10Hr-1〜100Hr-1がさらに好ましい。
【0091】
空間速度を前記下限以上とすることにより、再生する触媒層入口から出口にかけて水素濃度が下がるのを防ぐとともに、触媒から除去された炭化水素濃度が上がるのを防ぎコーク除去速度の低下を抑制することができる。また、触媒層入口と出口の水素濃度の差が大きくなるのを防ぎ、均一な再生を起こり易くすることができる。
【0092】
空間速度を前記上限以下とすることにより、再生ガスの必要量を抑え、コストの面で有利となる。
【0093】
再生を行う装置に供給する全供給成分中の水素の濃度は高い方が好ましく、通常20体積%以上が好ましく、60体積%以上がより好ましく、70体積%以上がさらに好ましい。当該水素濃度を20体積%以上とすることにより、水素分圧の低下に伴うコーク除去速度の低下を防ぐことができる。
【0094】
再生を行う装置中の温度(以下、「再生温度」と称することがある)は、通常300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、450℃以上がさらに好ましい。また、通常750℃以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、550℃以下がさらに好ましい。
【0095】
再生温度を400℃以上とすることにより、十分な再生速度が得られ、再生に長時間要するのを防ぐ。一方、再生温度を750℃以下とすることにより、ゼオライトの骨格の崩壊を防ぐことができる。
【0096】
再生温度は、再生を行う装置内の温度を調整する方法でも、供給するガスの温度を調整する方法によっても調整することができる。
【0097】
再生を行う時間は、再生温度等の条件によって最適な範囲が変わるため、特に限定されるものではないが、通常30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。また、通常180分以下が好ましく、120分以下がより好ましい。
【0098】
再生を行う時間を30秒以上とすることにより、コーク除去が不十分となるのを防ぎ、反応した際のエチレン転化率の低下を防ぐことができる。また、180分以下とすることによりコーク除去が過度に進行することによるプロピレン選択率の低下を防ぐことができる。
【0099】
尚、流動床による再生器を用いた場合には上記再生時間は、再生器内の触媒滞留時間のことを示す。
【0100】
かくして再生された触媒は、エチレン転化率が、再生前よりも10%以上高いことが好ましく、プロピレン選択率が、通常40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、通常95%以下であることが好ましい。
【0101】
ここで、前記エチレン転化率および前記プロピレン選択率は、前記したプロピレンの製造方法と同じ温度、圧力および空間速度において、再生後の触媒にエチレンを気相で接触させてプロピレンを生成した際のエチレン転化率及びプロピレン選択率をいう。
【0102】
前記温度は200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。また、通常700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。
【0103】
前記圧力は2MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、0.7MPa以下がさらに好ましい。また、1kPa以上が好ましく、50kPa以上がより好ましい。
【0104】
前記空間速度は0.01Hr-1〜500Hr-1であることが好ましく、0.1Hr-1〜100Hr-1がより好ましい。
【0105】
つまり、本発明の方法によれば、プロピレンの選択率が反応初期の低い値まで戻らない程度まで、触媒のエチレン転化率を回復させることができる。
【0106】
上記触媒の再生は、本発明の目的を達成する範囲において適宜おこなうことができ、触媒や反応条件によって再生を開始する時期は適宜選択することができるので特に限定はされないが、エチレン転化率が、未使用の同触媒を使った反応初期と比べて好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下となった時点で行うことが好ましい。
【0107】
上記触媒再生を行う装置の出口ガスには、水素の他に、触媒のコークが水素化分解されて生成した炭化水素が含まれる。含まれる炭化水素としては、例えば、エチレン、プロピレン、エタンおよびプロパン等が挙げられる。
【0108】
再生器出口ガスはそのまま燃料として利用しても良いが、上記炭化水素を回収することが好ましい。回収する方法としては、例えば、再生器出口ガスを反応器入口にエチレン原料と共に供給する方法、再生器出口ガスを反応器出口のガスと混合して分離する方法および再生器出口ガスと反応器出口ガスを別々に分離精製する方法が挙げられる。
【0109】
水素と炭化水素の分離方法は既知の方法が用いられ、例えば、蒸留分離、膜分離、PSAおよび吸収分離等が用いられる。
【0110】
(3)ポリプロピレンの製造
本発明の方法で得られたプロピレンを用いて、ポリプロピレンを製造することができる。ポリプロピレンの製造方法は特に限定されず、常法に従って、適当な反応器の中で、プロピレン製造用触媒にプロピレンを接触させて重合させればよい。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例において、各炭化水素の転化率や選択率は、ガスクロマトグラフィーによる測定値から、次の式により算出した値である。なお、各式において、各炭化水素(プロピレン、エチレンまたはプロパン)「由来カーボンモル流量(mol/Hr)」とは、各炭化水素を構成する炭素原子のモル流量を意味する。
【0112】
エチレン転化率(%)=〔[反応器入り口エチレンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンモル流量(mol/Hr)]/反応器入り口エチレンモル流量(mol/Hr)〕×100
プロピレン選択率(%)=〔反応器出口プロピレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
プロパン選択率(%)=〔反応器出口プロパン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/[反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
プロピレン収率(%)=[エチレン転化率(%)×プロピレン選択率(%)]/100
【0113】
<調製例>
次の方法により、金属非含有ゼオライト、金属含有ゼオライトを調製し、比較例または実施例のプロピレン生成反応の触媒として用いた。
【0114】
(ゼオライトの調製)
25wt%のN,N,N−トリメチル−1−アダマントアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を59gと1Mの水酸化ナトリウム水溶液を146gと水を371gとを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)を4.4g加え、攪拌した後に、シリカ源としてフュームドシリカを42g加えて十分攪拌した。原料中のSiO2/Al23モル比は15とした。さらにフュームドシリカの質量に対して2wt%のCHA型ゼオライトを種結晶として加えて、攪拌した。得られたゲルをオートクレーブに仕込み、撹拌条件下160℃、48時間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で乾燥させた。乾燥後に、空気雰囲気下、580℃で焼成し、その後、1Mの硝酸アンモニウム水溶液で80℃、1時間のイオン交換を2回行なった。100℃で乾燥した後、空気雰囲気下、500℃での焼成し、プロトン型のCHA型ゼオライト(金属非含有ゼオライト)を得た。
【0115】
(ゼオライトの細孔径)
上記で得られたゼオライトは、CHA構造を有するプロトン型のアルミノシリケートであり、細孔径は0.38nmであった。
【0116】
(ゼオライト表面への金属の導入)
得られたゼオライトに対し、ポアフィリング法によって、それぞれ、銅、鉄、コバルト、クロム、ニッケルおよび白金の導入を行った。金属の導入量は、ゼオライトに対して、銅、鉄、コバルト、クロムおよびニッケルは1質量%、白金は0.1質量%とした。金属源として、硝酸銅(II)三水和物、硝酸鉄(III)九水和物、硝酸コバルト(II)三水和物、硝酸クロム(III)九水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物およびジニトロジアンミン白金(II)を用い、全量が0.982mlとなるように蒸留水を加え、金属塩水溶液を調製した。金属塩水溶液をゼオライト1gに数滴滴下し、ゼオライトを混合することを繰り返し、全量を含浸させた。含浸後、室温で乾燥した後に、100℃で1時間乾燥した。乾燥後、窒素雰囲気下、450℃で焼成を行い、各金属が導入されたゼオライト(金属含有ゼオライト)を得た。
【0117】
(ゼオライトのシリル化)
金属非含有ゼオライトおよび金属含有ゼオライトのそれぞれを、テトラエトキシシランでシリル化を行った。ゼオライト1gに対して、溶媒のヘキサメチルジシロキサン10ml、シリル化剤のテトラエトキシシラン2.5mlを加えて100℃で、撹拌条件下、6時間のリフラックス処理を行った。処理後、濾過によって固液を分離し、得られたシリル化ゼオライトを100℃で2時間乾燥した。
【0118】
<比較例1>
金属非含有ゼオライトを用いて、エチレンを原料とするプロピレンの生成反応を次のとおり行った。
反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、前記ゼオライト100mgを充填した。エチレンおよび窒素を、エチレンの空間速度が13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、窒素70体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。反応開始後、0.8時間、2.1時間、3.3時間後に反応器出口ガスの分析を行い、反応成績を確認した。
【0119】
プロピレン生成反応を3.3時間行った後、水素を空間速度が0.54mol/g−cat・hで反応器に供給し、450℃、0.1MPaで30分間、触媒の再生を行った。その後、前記と同じ条件で再びプロピレン生成反応を行い、水素再生前との累計の反応時間にして4.2時間、5.4時間後に反応器出口ガスの分析を行い、反応成績を確認した。表1に反応結果を示した。
【0120】
表1に示すとおり、比較例1の金属非含有ゼオライトは反応開始0.8時間後にはエチレン転化率が98%と高い値を示したが、3.3時間後には32%まで低下した。これは触媒へのコークの付着によるものと考えられる。水素再生によって4.2時間後のエチレン転化率は41%に回復した。これは触媒に付着したコークが除去されたことによるものと考えられる。なお、0.8時間後のプロピレン選択率が低いのはゼオライト触媒の特徴であり、コークがある程度付着することにより高いプロピレン選択性を発現する。
【0121】
<比較例2>
用いる触媒をニッケル含有ゼオライトに変えた以外は、比較例1と同様に実験を行った。表1に反応結果を示した。
【0122】
ニッケル含有ゼオライトは0.8時間後にはエチレン転化率は94%であったが、2.1時間後には2%にまで低下し、プロピレン選択率も43%と、金属非含有ゼオライトを用いた比較例1と比べて非常に低い値となった。この反応成績は実用に全く適さないレベルであるため、2.1時間で反応は停止し、以降の再生操作は行わなかった。ニッケル含有ゼオライトによる反応成績の悪化および活性低下の加速に関して理由は定かではないが、ニッケルがオレフィンのオリゴマー化等の副反応を引き起こしている可能性が考えられる。
【0123】
<実施例1〜5>
用いる触媒を、それぞれ、銅、鉄、コバルト、クロムおよび白金含有ゼオライトに変えた以外は、比較例1、2と同様に実験を行った。表1に反応結果を示した。
【0124】
表1に示すとおり実施例1の銅含有ゼオライトを用いた場合、反応開始から3.3時間後までは比較例1と同程度のエチレン転化率であった。実施例2〜5の鉄、コバルト、クロム、白金を含有している場合は、エチレン転化率は比較例1と比べて低い値となった。このことから、銅はプロピレンの生成を抑制しないが、鉄、コバルト、クロム、白金はプロピレンの生成を抑制していると推定される。
【0125】
再生後転化率−再生前転化率の値を見ると、どの金属を含有するゼオライトにおいても、比較例1よりもエチレン転化率の上昇が大きかった。銅、鉄、コバルト、クロム、白金はいずれも水素化に活性を示す金属であることから、水素雰囲気において炭素質が除去される反応を促進したと考えられる。比較例2のニッケルも水素化に活性を示す金属であるが、エチレン転化率の低下が速いため、本反応に用いることはできない。以上より、銅、鉄、コバルト、クロム、白金といった金属を含有するゼオライトを用いることで水素再生が促進されることが確認された。
【0126】
実施例1の銅含有ゼオライトは、水素再生により、4.2時間後のエチレン転化率が59%に達し、比較例1よりも高い値となった。これは銅がプロピレンの生成を阻害することなく、水素による炭素質の除去を促進したことによると考えられる。また、プロピレン選択率が水素再生前後において比較例1よりも高くなっていることから、銅を含有するゼオライトを用いてプロピレンを製造することの有効性が明らかになった。
【0127】
<比較例3>
金属非含有ゼオライトを用いて、エチレンを原料とするプロピレンの生成反応を次のとおり水素共存下で行った。
反応装置、反応管、触媒量は比較例1、2、実施例1〜5と同様のものを用いた。エチレンおよび水素を、エチレンの空間速度が13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、水素70体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。反応開始後、0.8時間、2.1時間、3.3時間、4.6時間、5.8時間後に反応器出口ガスの分析を行い、反応成績を確認した。表2に反応結果を示した。
【0128】
表2に示すとおり、比較例1と比べてエチレン転化率の低下が抑制されているものの、水素共存下においても転化率は経時的に低下し、3.3時間後において51%、5.8時間後に16%となった。比較例1と比べてエチレン転化率の低下が抑制されたのは、水素が共存することによって、プロピレンの生成と同時に炭素質が除去されたことによると考えられる。
【0129】
<実施例6>
用いる触媒を銅含有ゼオライトに変えた以外は、比較例3と同様に実験を行った。表2に反応結果を示した。
【0130】
表2に示すとおり、比較例3と比べ、エチレン転化率の低下は抑制されており、3.3時間後において55%、5.8時間後には20%と、比較例3よりも高い値となった。これは、銅の存在により、プロピレンの生成と同時に起こる炭素質の除去が促進されていることによると考えられる。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、石油化学原料及び製品の製造等の分野に特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Fe、Co、CrおよびPtよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有するゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを含む反応ガスを接触させてプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
【請求項2】
前記金属元素が、Cuであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記金属元素の含有量が、ゼオライトに対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、0.5nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトが、CHA構造のゼオライトであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライトが、アルミノケイ酸塩であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のプロピレン製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライトが、SiO2/Al23モル比が1以上1000以下のアルミノケイ酸塩であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のプロピレン製造方法。
【請求項8】
前記反応ガスが、水素を含有するガスであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項9】
前記触媒が、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスを接触させて再生した触媒であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のプロピレンの製造方法。

【公開番号】特開2011−79819(P2011−79819A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205579(P2010−205579)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「革新的環境・エネルギー触媒の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】