説明

プロピレンオキサイドの製造方法

【課題】発熱反応を行うために適した管型反応器の容量を増大させたプロピレンオキサイドの製造方法を提供すること。
【解決手段】金属触媒の存在下でプロピレンを分子状酸素と反応させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法において、触媒粒子を含む反応帯域にプロピレンと酸素とのガス混合物を通す一方、各ラセン状の形状物が1つ又はそれ以上のラセン部を含む1個又はそれ以上のラセン状の形状物を通じて反応帯域を流れる冷却媒体により反応帯域から熱を除去することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒粒子を含む反応帯域にプロピレンと酸素とのガス混合物を通して金属触媒の存在下でプロピレンを分子状酸素と反応させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンと酸素とによるプロピレンオキサイドの製造は発熱反応であるため、反応帯域から熱を除去するための手段が必要である。そのために、例えば、冷却媒体が管と管との間の空間を流れるようになっている多管型反応器が用いられる。それらの管には、金属触媒粒子が充填され、プロピレンと酸素は下向きに管を流れ、生成するプロピレンオキサイドは反応器の底部から排出される。
【0003】
しかし、上記の多管型反応器をスケールアップしてその容量を増大させることは効率に多大な悪影響を及ぼす。これらの発熱反応において、反応速度の急激な増大(触媒の失活が伴い得る)及び/又は暴走反応の発生の原因となる望ましくない高い温度を避けるために、放出された熱は連続的に除去されなければならない。発熱反応において連続的に熱を除去するためには、管型反応器の場合、反応帯域を構成する管は、比較的小さい断面積を有して伝熱媒体が管の外面の周りを循環するようにしなければならない。反応帯域の断面積が大きい場合は、該帯域の中央部は、該帯域の外側にある伝熱媒体から離れすぎており、従って望ましくない温度上昇又は温度低下を引き起こす傾向がある。それ故、管型反応器の容量の増大は、管の直径の増大よりむしろ管の数の増加により達成されるべきである。しかし、大きな直径の反応容器に収容される多数の管を用いれば、いくつかの問題が生じる。第1に反応容器の全直径にわたって伝熱媒体を均一に分配することが困難になり、第2に各管に対して反応原料を均一に分配することが一層困難になる。各管に沿って伝熱媒体を均一に分配することが、目的の構成成分を有する反応生成物を得るために、また温度差に因る管束における応力を防ぐために必要とされている。
【0004】
特許文献1には、発熱反応を行うために適した管型反応器の容量を増大させたエチレンオキサイドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−316370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、発熱反応を行うために適した管型反応器の容量を増大させたプロピレンオキサイドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため検討した結果、触媒床を含む反応器中に1個又はそれ以上のラセン状に巻いた冷却管が設けられている反応器を用いることにより良好に反応しうることを見出して、以下に示す本発明を完成した。
[1] 金属触媒の存在下でプロピレンを分子状酸素と反応させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法において、
触媒粒子を含む反応帯域にプロピレンと酸素とのガス混合物を通す一方、各ラセン状の形状物が1つ又はそれ以上のラセン部を含む1個又はそれ以上のラセン状の形状物を通じて反応帯域を流れる冷却媒体により反応帯域から熱を除去することを特徴とする方法。
[2] 冷却媒体が2個又はそれ以上の同心のラセン状の形状物を流れる、[1]記載の方法。
[3] 隣接するラセン状の形状物のねじれ方向が互いに反対方向にある、[2]記載の方法。
[4] 中央から一層離れた距離に設置されているラセン状の形状物において一層多い数のラセン部が用いられている、[2]または[3]記載の方法。
[5] 円筒状の反応容器を用い、かつ1個又はそれ以上のラセン状に巻いた管又は管束が該反応容器の中央軸線の周りに1つの同心軸又は複数の同心軸になって設置されており、しかも各管束は実質的に同じ寸法の2個又はそれ以上のラセン状に巻いた管を含む、[1]記載の方法。
[6] 100〜350℃の範囲の温度、0.01〜6MPa絶対圧の範囲の全圧、100〜100000h−1の範囲のガス時間空間速度及び0.0001〜500m/sの範囲の線速度にて行う、[1]〜[5]のいずれか記載の方法。
[7] 金属触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法において、前記の反応器を用いることで、多管型反応器の容量を増大する場合の問題、特に反応容器の全直径にわたる伝熱媒体の均一な分配、及び管に沿った伝熱媒体の均一な分配に関する問題が生じない。また、プロセスの面では、一層高い伝熱度が得られ、非常に大きい直径のフィンを用いる必要がない。別の利点は、反応器の壁厚がプロセス圧によって決まり、冷却媒体の圧力によって決まるのではない(何故なら、プロセス圧は通常冷却媒体の圧力より低いからである。)ことである。ラセン状に巻いた冷却管は大きな膨張問題を生じず、このことにより管と反応器の壁との間の温度差に対する反応器の感受性が小さくなる。更に、触媒の装填及び取り出しは、多管型反応器の場合よりもこの型の反応器の場合の方が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
冷却媒体をラセン状の形状にするために、ラセン状に巻いた管又は管束が用いられる。好ましくは、円筒状の反応容器が用いられ、1個又はそれ以上のラセン状に巻いた管又は管束が該反応容器の中央軸線の周りに1つの同心軸又は複数の同心軸になって設置され、しかも各管束は実質的に同じ寸法の2個又はそれ以上のラセン状に巻いた管を含む。かかるラセン状に巻いた管としては、例えば、Shah,R.K.and Sekulic,D.P.,in Fundamentals of Heat Exchanger Design,John Wiley & Sons,Inc.,2007年の第21頁の図1.13に記載のものが挙げられる。かくして、冷却媒体は、各ラセン状の形状物が1つ又はそれ以上のラセン部を含み、かつ中央軸線の周りに同心状に設置された1個又はそれ以上のラセン状の形状物を通じて流れる。2個又はそれ以上の同心の管又は管束が用いられ場合、隣接する2つの管又は管束のラセン部のねじれ方向は好ましくは互いに反対方向にある。2個又はそれ以上の管束が用いられる場合、中央管から一層離れた距離に設置される管束において一層多い数のラセン状に巻いた管を用い、各管について実質的に同じ長さを維持することが好ましい。
【0010】
冷却媒体の流れがラセン状の形状になることにより、熱交換器の表面積/反応器の容量の比率を広い範囲にわたって変えることが可能になる。管の直径及び2つの層の管の層間距離(軸線方向及び半径方向の両方とも)は変えられ得る。冷却管の直径は、例えば4〜55mm、好ましくは10〜35mmの範囲で選ばれる。管又は管束の隣接する2つの輪の間の距離(半径方向の距離)は、例えば10〜50mm、好ましくは15〜25mmの範囲で選ばれ、同心軸にある隣接する2つの蛇管間の距離(軸線方向の距離)は、例えば10〜200mm、好ましくは10〜50mmの範囲で選ばれる。ラセン状に巻いた管束により、半球状のフィンの設計を用いることが可能になり、斯くして適合性の劣る平らなフィンの使用が避けられる。
【0011】
熱交換管は、最適な温度分布が反応帯域において半径方向に達成されるように反応帯域に設置される。更に、熱交換管の各群(例えば、同心軸)は別々の冷却媒体の出入口を備え、かくして熱交換管の他の群と独立して操作されて反応帯域における温度分布に関して最適な制御を達成することができる。
水又は炭化水素が、通常冷却媒体として用いられる。水は、管内において少なくとも部分的に蒸発する。このことにより、水蒸気を生成することによって反応帯域から反応熱を除去することが可能になる。少なくとも10個の炭素原子を有する炭化水素、例えばイソドデカンも好ましい。他の冷却媒体は、例えばビフェニル、熱油及びケロシンである。
本方法は、好ましくは100〜350℃の範囲の温度、0.01〜6MPa絶対圧の範囲の全圧、100〜100000h−1の範囲のガス時間空間速度、0.0001〜500m/sの範囲の線速度で実施される。プロピレンオキサイドの製造のために、特に好ましいプロセス条件は、120〜330℃の温度、0.02〜4MPa絶対圧の圧力及び500〜50000h−1の範囲のガス時間空間速度、0.001〜50m/sの範囲の線速度である。ガス供給物において、プロピレン/酸素のモル比は、好ましくは1:0.01〜1:100である。
【0012】
本発明が適用できるプロピレンオキサイドの接触気相酸化方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837、WO2012/009054、WO2012/009059、WO2012/009058、WO2012/009053、WO2012/009057、WO2012/009055、WO2012/009052、WO2012/009055等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)及び(q)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)ビスマス酸化物
(k)アンチモン酸化物
(l)レニウム酸化物
(m)コバルト酸化物
(n)オスミウム酸化物
(o)ランタノイド酸化物
(p)タングステン酸化物
(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0013】
本金属触媒は、一般にアルファ−アルミナ担体に担持されたものであり、また追加的にアルカリ金属(アルカリ金属酸化物)促進剤を含有し得る。金属触媒は、一般に触媒全体の重量を基準として計算して2〜25重量%の量で存在する。触媒は、例えば0.1〜15mm、好ましくは0.5〜5mmの直径を有する球状、筒状又は裂片状粒子の形態で本方法に用いられる。触媒粒子は、当該技術で知られた種々の方法、例えばGB1423251に記載されている方法により製造され得る。アルファ−アルミナ担体は0.01〜10m/g、好ましくは0.05〜5m/g、さらに好ましくは0.1〜3m/gの範囲の表面積を有し得る。金属触媒の量は、好ましくは触媒全体の重量を基準として計算して2〜25重量%の範囲にある。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の方法によって、発熱反応に適した管型反応器の容量を増大させたプロピレンオキサイドの製造方法を提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒の存在下でプロピレンを分子状酸素と反応させることによりプロピレンオキサイドを製造する方法において、
触媒粒子を含む反応帯域にプロピレンと酸素とのガス混合物を通す一方、各ラセン状の形状物が1つ又はそれ以上のラセン部を含む1個又はそれ以上のラセン状の形状物を通じて反応帯域を流れる冷却媒体により反応帯域から熱を除去することを特徴とする方法。
【請求項2】
冷却媒体が2個又はそれ以上の同心のラセン状の形状物を流れる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
隣接するラセン状の形状物のねじれ方向が互いに反対方向にある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
中央から一層離れた距離に設置されているラセン状の形状物において一層多い数のラセン部が用いられている、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
円筒状の反応容器を用い、かつ1個又はそれ以上のラセン状に巻いた管又は管束が該反応容器の中央軸線の周りに1つの同心軸又は複数の同心軸になって設置されており、しかも各管束は実質的に同じ寸法の2個又はそれ以上のラセン状に巻いた管を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
100〜350℃の範囲の温度、0.01〜6MPa絶対圧の範囲の全圧、100〜100000h−1の範囲のガス時間空間速度及び0.0001〜500m/sの範囲の線速度にて行う、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
金属触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である請求項1〜6のいずれか記載の方法。

【公開番号】特開2013−91635(P2013−91635A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−176979(P2012−176979)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】