説明

プロピレン系樹脂組成物、該組成物からなる成形体および電線

【課題】無機系充填剤を高い割合で含み、かつ、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物を提供すること。また、その組成物からなる成形体を提供すること。
【解決手段】本発明のプロピレン系樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃であるプロピレン系重合体(A)を5〜84.5重量%、極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体の重量を100重量%とした場合に0.01〜10重量%である、グラフト変性重合体(B)を0.5〜20重量%、および、無機系充填剤(C)を15〜80重量%含む(ここで、(A)、(B)、および(C)成分の合計量は100重量%である。)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物、および該組成物から得られる成形体に関する。より詳しくは、本発明は、無機系充填剤を高い割合で含み、かつ、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物に関し、さらに、このプロピレン系樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂(ポリエチレン系エラストマー)よりも耐熱性、機械強度、耐傷付き性に優れた材料であり、その成形品は幅広い用途に用いられている。一般のポリプロピレンおよび無機系充填剤から得られる成形品も、耐熱性、機械強度に優れるが、その反面、柔軟性、耐衝撃性が劣っている。このため、柔軟性、耐衝撃性のような特性が必要とされる用途には、主にポリエチレン系樹脂が用いられていた。しかしながら、ポリエチレン系樹脂から得られる成形品は耐傷付き性に劣るという問題点があった。
【0003】
一方、ポリプロピレン系樹脂と無機系充填剤(難燃剤)とからなる成形体としては、耐傷付き性が要求される電線またはワイヤーハーネスが知られている。また、特許文献1には、特定のプロピレン重合体を用いた自動車用絶縁電線が開示されている。しかしながら、特許文献1に用いられる成形体は、柔軟性、耐衝撃性に優れているが、耐傷付き性が不充分であった。
【特許文献1】特開2003-313377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、無機系充填剤を高い割合で含み、かつ、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れたプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、該組成物からなる成形体、ならびに、該組成物を用いてなる絶縁体および/またはシースを有する電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体を用いることで、無機系充填剤の取り込み性に優れ、従来の組成物よりも、耐傷付き性に優れたプロピレン系樹脂組成物が得られることを見出した。さらに、このような特定の極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体を含むプロピレン系樹脂組成物を用いることで、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れた成形体が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃であるプロピレン系重合体(A)を5〜84.5重量%、 極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体の重量を100重量%とした場合に0.01〜10重量%である、グラフト変性重合体(B)を0.5〜20重量%、
無機系充填剤(C)を15〜80重量%含む(ここで、(A)、(B)、および(C)成分の合計量は100重量%である。)ことを特徴とする。上記無機系充填剤(C)は、金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0007】
本発明の成形体は、上記のようなプロピレン系樹脂組成物からなることを特徴とする。
上記成形体は、電線の絶縁体または電線シースであること好ましい。
【0008】
本発明の電線は、上記のようなプロピレン系樹脂組成物を用いてなる絶縁体、および/または、上記のようなプロピレン系樹脂組成物を用いてなるシースを有する電線であることを特徴とする。
上記電線は、自動車用電線または機器用電線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、無機系充填剤を高い割合で含み、かつ、優れた機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れる。さらに、本発明のプロピレン系樹脂組成物からは、難燃性を有し、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れた成形体を与えることが出来、特に電線などに好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
<プロピレン系重合体(A)>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)としては、プロピレン単独重合体、または、プロピレンと、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα-オレフィンの少なくとも1種との共重合体を挙げることができる。ここで、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられるが、エチレンまたは炭素原子数が4〜10のα-オレフィンが好ましい。これらのα-オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0011】
これらのα-オレフィンから導かれる構成単位は、プロピレン系重合体(A)の全構成単位中に35モル%以下、好ましくは30モル%以下の割合で含まれていてもよい。
【0012】
プロピレン系重合体(A)において、ASTM D 1238に準拠して、230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)は、通常0.01〜1000g/10分であり、好ましくは0.05〜100g/10分であり、より好ましくは0.1〜50g/10分の範囲にある。
【0013】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)について、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点は、120℃以上、好ましくは120〜170℃、より好ましくは125〜165℃である。
【0014】
プロピレン系重合体(A)は、アイソタクチック構造、シンジオタクチック構造のどちらを有していてもよいが、耐熱性などの点でアイソタクチック構造を有することが好ましい。
【0015】
また、必要に応じて複数のプロピレン系重合体(A)を併用することができ、例えば、融点および剛性の異なる2種類以上の成分を用いることもできる。
【0016】
また、プロピレン系重合体(A)としては、耐熱性に優れるホモポリプロピレン(通常プロピレン以外の共重合成分が3モル%以下である公知のもの)、耐熱性と耐衝撃性とのバランスに優れるブロックポリプロピレン(通常3〜30wt%のノルマルデカン溶出ゴム成分を有する公知のもの)、または柔軟性と透明性とのバランスに優れるランダムポリプロピレン(通常示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピークが120℃以上、好ましくは125℃〜150℃の範囲にある公知のもの)を、目的の物性を得るために選択して用いてもよく、また、これらを併用して用いることが可能である。
【0017】
このようなプロピレン系共重合体(A)は、例えば、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および電子供与体からなるチーグラー触媒系、またはメタロセン化合物を触媒の一成分として用いたメタロセン触媒系を用いて、プロピレンを重合して、あるいは、プロピレンと他のα-オレフィンとを共重合して製造できる。
【0018】
<グラフト変性重合体(B)>
グラフト変性重合体(B)の原料に用いられる重合体としては、例えば、1種以上のα-オレフィンの重合体、スチレン系ブロック共重合体などが挙げられ、特にエチレン系重合体、スチレン系ブロック共重合体などが好ましく挙げられる。上記α-オレフィンとしては、炭素数2〜20のα-オレフィンを例示することができる。
【0019】
上記エチレン系重合体としては、ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。上記エチレン・α-オレフィン共重合体の中でも、エチレンと炭素数3〜10のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。この炭素数3〜10のα-オレフィンとしては、具体的に、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちで、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0020】
上記エチレン系共重合体中の各構成単位の含量は、エチレンから誘導される構成単位の含量が75〜95モル%であり、炭素数3〜10のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種の化合物から誘導される構成単位の含量が5〜20モル%であることが好ましい。
【0021】
上記エチレン・α-オレフィン共重合体は、
(i)密度が0.855〜0.910g/cm3、好ましくは0.857〜0.890g/cm3であり、
(ii)メルトフローレート(MFR、190℃、2.16kg荷重下)が0.1〜100g/10分、好ましくは、0.1〜20g/10分の範囲にあり、
(iii)GPC法により評価される分子量分布の指数(Mw/Mn)が1.5〜3.5、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.8〜2.5の範囲にあり、
(iv)13C-NMRスペクトルおよび下記式から求められるB値が0.9〜1.5、好ましくは1.0〜1.2であることが望ましい。
【0022】
B値=[POE]/(2・[PE][PO])
(式中、[PE]は、共重合体中のエチレンから誘導される構成単位の含有モル分率であり、[PO]は、共重合体中のα-オレフィンから誘導される構成単位の含有モル分率であり、[POE]は、共重合体中の全ダイアド(dyad)連鎖に対するエチレン・α-オレフィン連鎖数の割合である。)
【0023】
本発明に用いられるグラフト変性重合体は、例えば、α-オレフィン重合体、スチレン系ブロック共重合体などを、極性基を有するビニル化合物でグラフト変性して得られる。上記ビニル化合物としては、酸、酸無水物、エステル、アルコール、エポキシ、エーテル等の酸素含有基を有するビニル化合物、イソシアネート、アミド等の窒素含有基を有するビニル化合物、ビニルシラン等のケイ素含有基を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0024】
この中でも、酸素含有基を有するビニル化合物が好ましく、具体的には、不飽和エポキシ単量体、不飽和カルボン酸およびその誘導体などが好ましい。
【0025】
上記不飽和エポキシ単量体としては、不飽和グリシジルエーテル、不飽和グリシジルエステル(例えば、グリシジルメタクリレート)などが挙げられる。
【0026】
上記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)などが挙げられる。
【0027】
また、上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記不飽和カルボン酸の酸ハライド化合物、アミド化合物、イミド化合物、酸無水物、およびエステル化合物などを挙げることができる。具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどが挙げられる。
【0028】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物がより好ましく、特にマレイン酸、ナジック酸TMおよびこれらの酸無水物が特に好ましく用いられる。
【0029】
なお、上記未変性のエチレン系共重合体にグラフトされる不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト位置は特に制限されず、このエチレン系重合体の任意の炭素原子に不飽和カルボン酸またはその誘導体が結合していればよい。
【0030】
上記のようなグラフト変性重合体(B)は、従来公知の種々の方法、例えば、次のような方法を用いて調製できる。
【0031】
(1)上記未変性重合体を押出機などで溶融させて、不飽和カルボン酸などを添加してグラフト共重合させる方法。
(2)上記未変性重合体を溶媒に溶解させて、不飽和カルボン酸などを添加してグラフト共重合させる方法。
【0032】
いずれの方法も、上記不飽和カルボン酸などのグラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させるために、ラジカル開始剤の存在下でグラフト反応を行うことが好ましい。
上記ラジカル開始剤として、例えば、有機ペルオキシド、アゾ化合物などが使用される。
【0033】
上記有機ペルオキシドとしては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシドなどが挙げられ、上記アゾ化合物としては、アゾビスイソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどが挙げられる。
【0034】
このようなラジカル開始剤としては、具体的には、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましく用いられる。
【0035】
これらのラジカル開始剤は、未変性重合体100重量部に対して、通常は0.001〜1重量部、好ましくは0.003〜0.5重量部、さらに好ましくは0.05〜0.3重量部の量で用いられる。
【0036】
上記のようなラジカル開始剤を用いたグラフト反応、あるいは、ラジカル開始剤を使用しないで行うグラフト反応における反応温度は、通常60〜350℃、好ましくは150〜300℃の範囲に設定される。
【0037】
このようにして得られるグラフト変性重合体(B)中の極性基を有するビニル化合物のグラフト量は、グラフト変性重合体の重量を100重量%とした場合に、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。本発明においては、上記のようなグラフト変性重合体(B)を用いることで、特に、無機系充填剤と、プロピレン系重合体、との相互作用が強化され、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れた成形体が得られる。
【0038】
<無機系充填剤(C)>
本発明に用いる無機系充填剤(C)としては、特に制限はなく、例えば、金属化合物;ガラス、セラミック、タルク、マイカ等の無機化合物などが幅広く用いられる。これらのうちで、金属水酸化物、金属炭酸塩(炭酸化物)、金属酸化物が好ましく用いられる。本発明において、無機系充填剤(C)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば
金属水和酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを、
金属炭酸塩としては炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを、
金属酸化物としては酸化亜鉛、亜鉛華、酸化マグネシウム、酸化アンチモンなどを、
挙げることができる。
【0039】
ここで無機系充填剤としては難燃剤の働きをするものが好ましく、例えば金属水酸化物や金属酸化物からえらばれる1種または2種以上の無機系充填剤であることが好ましい。
【0040】
無機系充填剤(C)の平均粒径としては、通常0.1〜20μm、好ましくは0.5〜15μmである。ここで、平均粒子径はレーザー法により求めた値である。
【0041】
また、本発明で使用される無機系充填剤(C)は、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸、有機シランなどにより表面処理されたものであってもよく、上記平均粒子径を有する微粒子が凝集体を形成したものであってもよい。
【0042】
<プロピレン系樹脂組成物および成形体>
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)を5〜84.5重量%、極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体の重量の100重量%とした場合に0.01〜10重量%である、グラフト変性重合体(B)を0.5〜20重量%、および無機系充填剤(C)15〜80重量%を含む(ここで、(A)、(B)、および(C)成分の合計量は100重量%である。)。
【0043】
プロピレン系重合体(A)の配合量は、(A)、(B)、および(C)成分の合計量100重量%に対し、5〜84.5重量%、好ましくは20〜69.5重量%、さらに好ましくは35〜69.5重量%である。
【0044】
グラフト変性重合体(B)の配合量は、(A)、(B)、および(C)成分の合計量100重量%に対し、0.5〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。グラフト変性重合体(B)の配合量がこの範囲にあると、耐傷付き性改善効果が顕著であり、組成物の流動性に優れるため好ましい。
【0045】
無機充填剤(C)の配合量は、(A)、(B)、および(C)成分の合計量100重量%に対し、15〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは30〜60重量%である。
【0046】
また、本発明のプロピレン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、他の合成樹脂、他のゴム、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、顔料、塩酸吸収剤、銅害防止剤等の添加物などを含んでいてもよい。このような他の合成樹脂、他のゴム、添加物などの添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、プロピレン系組成物全体において、(A)、(B)、および(C)成分の合計が60〜100重量%、好ましくは80重量%〜100重量%となるように含まれている態様が好ましい。残部は、上記の他の合成樹脂、他のゴム、添加物、滑剤などである。
【0047】
<成形体>
本発明の成形体は、上記のようなプロピレン系樹脂組成物からなる。上記プロピレン系樹脂組成物を用いて、従来公知の溶融成形法によって、種々の形状の成形体が得られる。従来公知の溶融成形法としては、例えば、押出成形、回転成形、カレンダー成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、粉末成形、ブロー成形、真空成形などが挙げられる。上記成形体は、他の材料からなる成形体との複合体、例えば、積層体などであってもよい。
【0048】
上記成形体は、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れ、例えば、電線の絶縁体、電線シースなどの電線被覆の用途に好適に使用できる。また、この電線の絶縁体、電線シースなどの被覆層は、従来公知の方法、例えば、押出成形などの方法により電線の周囲に形成される。
【0049】
本発明の電線は、上記のようなプロピレン系樹脂組成物を用いてなる絶縁体、および/または、上記のようなプロピレン系樹脂組成物を用いてなるシースを有する。特に、上記電線は、自動車用電線および機器用電線であることが好ましい。
また、上記のようなプロピレン系樹脂組成物は、建材などにも好適に用いられる。
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
<成分(A)〜(C)>
(A)プロピレン系重合体
アイソタクティックホモポリプロピレン(h-PP)
(Tm=165℃、MFR(230℃)=0.6g/10min)を使用した。
(B)グラフト変性重合体
以下のエチレン・1-ブテン共重合体(B−1)を用いて、無水マレイン酸グラフト変性エチレン・1-ブテン共重合体(B−2)を製造した。
【0052】
【表1】

【0053】
メタロセン触媒を用いて製造した、表1に記載の性状を有するエチレン・1-ブテン共重合体(B−1)10kgと、無水マレイン酸50gおよびジ-tert-ブチルペルオキシド3gをアセトン50gに溶解した溶液とをヘンシェルミキサー中でブレンドした。
【0054】
次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径40mm、L/D=26の1軸押出機のホッパーより投入し、樹脂温度260℃、押出量6kg/時間でストランド状に押し出した。次いで、水冷した後、ペレタイズして、無水マレイン酸グラフト変性エチレン・1-ブテン共重合体(B−2)を得た。
【0055】
得られたグラフト変性エチレン・1-ブテン共重合体(B−2)から、未反応の無水マレイン酸をアセトンで抽出後、この共重合体中における無水マレイン酸グラフト量を測定した結果、グラフト量は0.43重量%であった。
【0056】
(C)無機系充填剤
水酸化マグネシウム(Mg(OH)2、商品名、キスマ5B、協和化学(株)製)を使用した。
【0057】
<各成分の物性値の測定方法>
上記各成分の物性値は下記のように測定した。
(1)メルトフローレート(MFR)
ASTM D-1238に準拠し、190℃または230℃で2.16kg荷重下で測定した。
(2)分子量分布(Mw/Mn)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、オルトジクロロベンゼン溶媒を用いて、140℃で測定した。
(3)密度
ASTM D1505に記載の方法に従って測定した。
【0058】
<実施例1、2、比較例1、2、参考例1、2の評価項目>
(1)破断点強度(TS)、破断点伸び(EL)
JIS K7113-2に準拠し、2mmtプレスシートにて、破断点強度(TS)、破断点伸び(EL)を測定した。
(2)耐傷付き性(スクレープ摩耗)
スクレープ摩耗試験機(安田精機製作所 製)、および0.45mmφのピアノ線、摩耗圧子700gを用いた。23℃で、このピアノ線を先端に取り付けた摩耗圧子の往復回数50回、往復速度1回/sec、ストローク10mmの条件下で、2mmφのストランドサンプルを摩耗させた。摩耗前後の厚み変化から耐傷付き性を評価した。上記条件で摩耗前後の厚み変化が0.15mm以下であれば耐傷付き性が特に優れる。
(2)D硬度(HD-D)
ASTM D2240に準じて測定した。
【0059】
[実施例1]
表2の配合からなる組成物をラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて混練した。プレス成形機によって、これを厚さ2mmのシートに成形した(加熱:190℃ 7min、冷却:15℃ 4min、冷却速度約:40℃/min)。このシートについて実施した上記評価項目(1)の結果を表2に示す。また表2の配合からなる組成物を230℃で2mmφのストランドにしたものを用いて実施した上記評価項目(2)の結果も表2に示す。
【0060】
[比較例1、2]
表2の配合からなる組成物に変更したほかは、実施例1と同様にして評価を行った。
【0061】
【表2】

【0062】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、比較例と比較して、無機系充填剤(水酸化マグネシウム)を配合した際に、破断点強度で代表される機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、無機系充填剤を高い割合で含み、かつ、機械強度と、柔軟性と、耐傷付き性とのバランスに優れる。さらに、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、無機系充填剤を高い割合で含むことから、難燃性を有した成形体、例えば、電線、建材などに幅広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃であるプロピレン系重合体(A)を5〜84.5重量%、
極性基を有するビニル化合物のグラフト量がグラフト変性重合体の重量を100重量%とした場合に0.01〜10重量%である、グラフト変性重合体(B)を0.5〜20重量%、
無機系充填剤(C)を15〜80重量%含む(ここで、(A)、(B)、および(C)成分の合計量は100重量%である。)ことを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機系充填剤(C)が、金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【請求項4】
前記成形体が、電線の絶縁体または電線シースであることを特徴とする請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
請求項1〜2のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物を用いてなる絶縁体、および/または、請求項1〜2のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物を用いてなるシースを有する電線。
【請求項6】
前記電線が、自動車用電線または機器用電線であることを特徴とする請求項5に記載の電線。

【公開番号】特開2008−169256(P2008−169256A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1893(P2007−1893)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】