説明

プローブ、プローブセット、プローブ固定担体及び検査方法

【課題】病原性細菌の種による分類を目的に、株を問わず同じ種の菌であれば一括検出が可能で、かつ、他の菌種の細菌は区別して検出できるような核酸プローブを提供する。
【解決手段】感染症起炎菌DNAを検出するために、複数の特定の配列からなる塩基配列またはこれらの相補配列のいずれか1つに、プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列のいずれか、あるいはその2以上の組み合わせをプローブとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染による疾患の原因菌の検出および同定に有用な感染症起炎菌であるPorphyromonas gingivalisのDNAを検出するプローブ及びプローブセットに関する。また、これらを担体に固定したプローブ固定担体及びこれらを用いたDNA検査方法、ならびにDNA検査のためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の、感染症の原因菌をより迅速かつ確実に検出するための試薬並びに方法が従来より提案されてきている。例えば特許文献1には、カンジダ症及びアスペルギルス症の起炎菌を検出するためのプローブ及びプライマーとして用い得る特定の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及びそれを用いた対象菌の検出方法が開示されている。また、同特許文献には、複数の対象菌を共通にPCRで増幅するためのプライマーセットが開示されている。これらのプライマーは検体中の複数の対象となる真菌由来の核酸断片をPCRで増幅するために用いられるものである。これらのプライマーにより増幅された核酸断片中における各菌に特異的な配列部分の有無を、各菌に固有のプローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイで検出することで、検体中の真菌の菌種を同定することができる。
一方、複数の異なる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを同時的に検出可能な方法として、当該塩基配列の各々に相補的な配列を有するプローブを固相上に隔離して配置したプローブアレイを用いる方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−89254号公報
【特許文献2】特開2004−313181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、試料中に含まれる感染症起炎菌のDNAを特異的に検出するプローブを設定することは決して容易なことではない。即ち、試料中には、検出対象たる感染症起炎菌のDNAだけでなく、他の感染症起炎菌のDNAも存在している可能性がある。このような状況においても、検出対象外の感染症起炎菌DNAの存在による影響(クロスコンタミネーション)を極力抑えつつ検出対象たる感染症起炎菌DNAを特異的に検出可能なプローブを設定することは決して容易なことではないのである。このような状況の下、本願発明者らは、下記の感染症起炎菌について、複数の菌のDNAが存在する試料からもクロスコンタミネーションをより低いレベルに抑えつつ当該感染症起炎菌DNAを精度良く検出できるプローブを得ることを目的として検討を行なった。その結果として当該感染症起炎菌DNAを精度良く検出可能なプローブの複数を得るに至った。
[菌名]
Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス ギンギバリス)
そこで、本発明の第1の目的は、対象菌のDNAを正確に同定することのできるプローブ及びプローブセットを提供することである。
また本発明の他の目的は、様々な菌が同時に存在しうる検体の中から、対象となる菌を正確に同定することのできるプローブ固定担体を提供することである。
【0004】
更にまた本発明の他の目的は、検体中に様々な菌が含まれている場合に、それらをより迅速に、且つより正確に検出することのできる感染症起炎菌の検査方法およびそのためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる感染症起炎菌であるポルフィロモナス ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis)のDNAを検出するためのプローブは、下記の(1)乃至(4)のいずれか1つの塩基配列からなることを特徴とするプローブである。
(1)TTATAGCTGTAAGATAGGCATGCGTCCC(配列番号59)またはその相補配列、
(2)AACGGGCGATACGAGTATTGCATTGA(配列番号60)またはその相補配列、
(3)ATATACCGTCAAGCTTCCACAGCGA(配列番号61)またはその相補配列、
(4)配列番号59から61の配列またはこれらの相補配列のいずれか1つに、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ。
【0006】
また、本発明にかかる感染症起炎菌であるポルフィロモナス ギンギバリス
(Porphyromonas gingivalis)のDNAを検出するためのプローブセットは、下記の(A)乃至(L)のいずれかのプローブの2以上を含むことを特徴とするプローブセットである。
(A)TTATAGCTGTAAGATAGGCATGCGTCCC(配列番号59)で表される塩基配列からなるプローブ、
(B)AACGGGCGATACGAGTATTGCATTGA(配列番号60)で表される塩基配列からなるプローブ、
(C)ATATACCGTCAAGCTTCCACAGCGA(配列番号61)で表される塩基配列からなるプローブ、
(D)配列番号59の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(E)配列番号60の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(F)配列番号61の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(G)配列番号59の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(H)配列番号60の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(I)配列番号61の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(J)配列番号59の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(K)配列番号60の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、及び
(L)配列番号61の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ。
【0007】
本発明のプローブ固定担体は、上記の(A)乃至(L)のプローブの少なくとも1つが固相担体上に固定され、該固定されるプローブが複数の場合は各プローブが互いに隔離して配置されていることを特徴とするプローブ固定担体である。
【0008】
本発明のプローブ固定担体を用いた検体中でのポルフィロモナス ギンギバリスDNAの検出方法は、
(i)本発明にかかるプローブ固定担体と検体とを反応させる工程と、
(ii)前記プローブ固定担体上のプローブと前記検体中の核酸との反応の有無、またはその反応強度を検出する工程と、
を有することを特徴とするポルフィロモナス ギンギバリスDNAの検出方法である。
【0009】
本発明の感染症起炎菌検出用のキットは、上記の(A)乃至(L)のプローブの少なくとも1つのプローブと、プローブと標的核酸との反応を検出するための試薬と、を有することを特徴とするポルフィロモナス ギンギバリスDNA検出用のキットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検体が、上記に示した原因菌に感染している場合に、上記に示した菌以外の菌と同時に複合的に感染している場合であっても、該検体から上記に示した菌をより迅速かつ正確に同定することができる。特に、クロスコンタミネーションの可能性の高いPorphyromonas asaccharolyticaと精度良く区別してPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ギンギバリス)の検出を行うことが可能となる。更に、他の感染症起炎菌と精度良く区別してPorphyromonas gingivalisの検出を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、現在までに敗血症の起炎菌として知られているほぼ全ての細菌(表1の(1)〜(62)に示す。)を各寄託機関より入手し、全ての菌における16S rRNA遺伝子領域のDNA配列の同定を行った。そして、同定されたそれら全ての配列を比較しながら、Porphyromonas gingivalis菌におけるプローブ配列について詳細な分析を行った。その結果、本発明のPorphyromonas gingivalis菌を同定することのできるプローブを見出した。
【0012】
【表1−1】

【0013】
【表1−2】

【0014】
本発明により、感染症の起炎菌同定の為のオリゴヌクレオチドプローブ(以下単にプローブという)及びその2以上の組み合わせからなるプローブセットが提供される。このプローブまたはプローブセットを用いることで感染により炎症を引き起こす以下の菌の検出が可能である。
[菌名]
Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス ギンギバリス)
すなわち、本発明のプローブは、上記の菌のDNAのうち16S rRNA遺伝子領域のDNA配列を検出し得るものであり、以下の各塩基配列からなるものが含まれる。
(A)TTATAGCTGTAAGATAGGCATGCGTCCC(配列番号59)で表される塩基配列からなるプローブ、
(B)AACGGGCGATACGAGTATTGCATTGA(配列番号60)で表される塩基配列からなるプローブ、
(C)ATATACCGTCAAGCTTCCACAGCGA(配列番号61)で表される塩基配列からなるプローブ、
(D)配列番号59の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(E)配列番号60の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(F)配列番号61の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(G)配列番号59の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(H)配列番号60の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(I)配列番号61の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(J)配列番号59の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(K)配列番号60の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、及び
(L)配列番号61の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ。
【0015】
これらのプローブの2つ以上を用いてプローブセットを構成することができる。
【0016】
上記の変異配列は、プローブとしての機能を損なわない範囲内、すなわち、検出対象としての標的核酸配列にハイブリダイズしてこれを検出可能な範囲内での変異を有するものである。なかでも、ストリンジェントな条件で検出対象としての標的核酸配列にハイブリダイズし得る範囲での変異を有することが好ましい。変異の範囲を規定するハイブリダイゼーションの好ましい条件としては、後述する実施例における条件を挙げることができる。なお、ここでいう検出対象は、ハイブリダイゼーションを行う試料中に含まれるもので、感染症起炎菌に特有な塩基配列そのものであってもよいし、この特有な塩基配列の相補配列であってもよい。更に、かかる変異としては、1から数個の塩基の欠失、置換または付加がプローブ機能を保持する範囲内で行われた変異配列を挙げることができる。
【0017】
これらのプローブの機能は、検査対象としての標的核酸配列に対するプローブ配列の特異性に大きく依存している。プローブ配列の特異性は、標的核酸配列に対する塩基の一致度合と、標的核酸配列とプローブ配列との間の融解温度から、評価することが可能である。また、プローブがプローブセットを構成する場合は、他のプローブ配列の融解温度とのバラ付きも性能を左右する条件となる。
【0018】
これらのプローブ配列の設計にあたっては、同一種であれば異なる株であってもバラ付きの無いような当該菌種に対する特異性の高い領域が選択されている。また、当該菌種以外の菌種の配列とは3塩基以上の塩基の不一致箇所がある領域が選択されている。また、プローブ配列と当該菌種の配列との融解温度と、プローブ配列と当該菌種以外の菌種の配列との融解温度の差が、10℃以上となるように設計されている。さらに、同一の担体に固定するプローブのそれぞれの融解温度が一定の範囲内に納まるように、特異性の高い領域に塩基の削除あるいは追加を行なって設計されている。
【0019】
本願の発明者らの実験によれば、プローブ配列のうち、連続した80%以上の配列が保存されている場合は、ハイブリダイゼーションの強度の減衰が少ないことが分かっている。このことから、本願により開示しているプローブ配列のうち連続して80%以上の塩基配列が保存されている変異配列であれば、プローブの機能は損なわないといえる。
【0020】
これらのプローブ配列は、当該菌の16S rRNA遺伝子をコーディングしているDNA配列に対してのみ特異的であるため、ストリンジェントな条件に設定しても当該配列に対して十分なハイブリダイゼーション感度が期待される。また、これらのプローブ配列は、担体上に固定した状態であっても、対象となる検体とのハイブリダイゼーション反応において安定なハイブリッド体を形成し、良好な結果が得られるように設計されている。
【0021】
さらに本発明にかかる感染症起炎菌検出用プローブが固定されたプローブ固定担体(例えばDNAチップ)は、担体の所定位置にプローブを供給し、固定することにより得ることができる。担体へのプローブの供給には、種々の方法が利用できる。例えば、プローブが化学結合(共有結合など)により担体に固定可能な状態としておき、これを含む液体をインクジェット法により担体の所定位置に付与する方法が好適に利用できる。これにより、プローブが担体から剥がれにくくなるうえ、感度が向上するという付帯的な効果も得られる。つまり、従来から一般的に用いられるスタンフォード法と呼ばれるスタンピング法によりDNAチップを作成した場合、塗布したDNAが剥がれやすい場合があるという欠点があった。また、DNAチップの作成方法としては、担体表面上でのDNA合成によりプローブを配置する方法がある(例えばAffymetrix社製のDNAチップ等)。この担体上でのプローブを合成する方法においては、各プローブ配列ごとの合成量を均一に制御することが難しい為に、各プローブの固定領域(スポット)ごとにプローブの固定量が大幅に異なる場合が生じ易い。そのような各プローブの固定量にばらつきがあると、それを用いた検出結果に対する正確な評価ができない場合が生じる。このような観点から、本発明にかかるプローブ担体は、上述したインクジェット法を利用して作成されることが好ましい。上述したインクジェット法によれば、プローブが担体に安定に固定され剥がれにくく、高感度と高精度の検出ができるプローブ担体を効率良く提供できるという利点がある。
【0022】
また、前記配列番号59乃至61及びそれらの相補配列、更にこれらの塩基配列に、当該菌のDNAを検出するプローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列、からなる群から選ばれる少なくとも2つのプローブを用いてプローブセットを構成してもよい。この場合、Porphyromonas gingivalis菌DNAの検出精度のより一層の向上を図ることができる。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明のプローブを担体に固定したプローブ担体(例えば、DNAチップ)を用いた検査対象としての試料には、ヒト、家畜等の動物由来のものがある。例えば、血液、髄液、喀痰、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、尿及び糞便のような排出物等細菌が存在すると思われるあらゆるものが検査対象となる。また、食中毒、汚染の対象となる食品、飲料水及び温泉水のような環境中の水等、または空気清浄機等のフィルタなど、細菌による汚染が引き起こされる可能性のある媒体全てが検査対象として挙げられる。さらに、輸出入時における検疫等の動植物も検体の対象となる。
【0025】
上記のような試料がDNAチップとの反応にそのまま利用できる場合には、それを検体としてDNAチップと反応させて、その結果を分析する。また、試料をそのままDNAチップと反応させることができない場合には、標的物質の抽出、精製などの必要に応じた処理を試料に行なって得たサンプルを検体としてDNAチップと反応させる。例えば、標的核酸が含まれている場合にこれを含むと想定される抽出物を試料から調整し、更に必要に応じて洗浄や希釈などの処理を行なって検体溶液とし、これをDNAチップと反応させてもよい。更に、PCR増幅処理などを含む各種の増幅処理を行って標的核酸が検体に含まれている場合にこれを増幅してDNAチップと反応させる検体としてもよい。このような増幅核酸検体には、以下のものがある。
(a)16S rRNA遺伝子領域のDNA検出用に設計されたPCR反応用プライマーを用いて調整された増幅検体。
(b)PCR増幅物を元にさらにPCR反応等を行なって調整された検体。
(c)PCR以外の増幅方法により調整された検体。
(d)可視化のために各種標識方法により標識された検体。
【0026】
また、DNAチップなどのプローブ固定担体の調製に用いられる担体としては、目的とする固相−液相反応を行うことができる特性を満たすものであればよい。例えば、ガラス基板、プラスチック基板、シリコンウェハー等の平面基板、凹凸のある三次元構造体、ビーズのような球状のもの、棒状、紐状、糸状のもの等を担体として用いることができる。さらに、その担体の表面はプローブの固定化が可能なように処理されたものであってもよい。特に、表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものは、ハイブリダイゼーション反応の過程でプローブが安定に結合している為に、再現性の点で好ましい形態である。
【0027】
プローブの固定化には種々の方法が利用できる。一例として、マレイミド基とチオール(−SH)基との組合せを用いる方法が挙げられる。この方法では、プローブの末端にチオール(−SH)基を結合させておき、担体(固相)表面がマレイミド基を有するように処理しておく。これにより、担体表面に供給されたプローブのチオール基と担体表面のマレイミド基とが反応して共有結合が形成されプローブが固定化される。
【0028】
マレイミド基の導入には、まず、ガラス基板にアミノシランカップリング剤を反応させ、次にそのアミノ基とEMCS試薬(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide:Dojin社製)との反応によりマレイミド基を導入する方法が利用できる。DNAへのチオール基の導入は、DNA自動合成機上5'-Thiol-Modifier C6(Glen Research社製)を用いることにより行なうことができる。
【0029】
固定化に利用する官能基の組合わせとしては、上記したチオール基とマレイミド基の組合わせ以外にも、例えばエポキシ基(固相上)とアミノ基(核酸プローブ末端)の組合わせ等が挙げられる。また、各種シランカップリング剤による表面処理も有効であり、該シランカップリング剤により導入された官能基と反応可能な官能基を導入したプローブが用いられる。さらに、官能基を有する樹脂をコーティングする方法も利用可能である。
【0030】
本発明にかかるプローブ固定担体を用いた感染症起炎菌DNAの検出は、少なくとも以下の工程(i)及び(ii)を有するDNA検出方法により行うことができる。
(i)本発明のかかるプローブを固定したプローブ固定担体と検体とを反応させる工程。
(ii)前記プローブ固定担体上のプローブと前記検体中の核酸との反応の有無、またはその反応強度を検出する工程。
【0031】
更に、少なくとも以下の工程(A)〜(C)の工程を有する検出方法とすることもできる。
(A)本発明のかかるプローブを固定したプローブ固定担体と検体とを反応させる工程。
(B)プローブ固定担体上のプローブと検体中の核酸との反応の有無を検出する工程。
(C)プローブと検体中の核酸の反応が検出される場合に、検体中の核酸と反応したプローブを特定し、プローブの塩基配列に基づいて検体中に含まれる感染症起炎菌DNAを特定する工程。
【0032】
プローブ固定担体に固定するプローブは、先に挙げた(A)乃至(L)の少なくとも1種であり、担体には検査目的に応じてその他のプローブ(Porphyromonas gingivalis以外の菌種を検出するためのプローブ)が固定されていてもよい。この場合、その他のプローブとしてPorphyromonas gingivalis以外の菌種をクロスコンタミネーションを起こすことなく検出可能なプローブを用いることで複数菌種の精度良い同時検出が可能となる。その他のプローブとして、表9に記載の配列番号35乃至58および配列番号62乃至67の塩基配列、並びにそれらの相補配列、更にこれらの塩基配列に各プローブにおける検出対象菌のDNAを検出するプローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列、からなる群から選ばれる少なくとも1つのプローブを好適に用いることができる。当該プローブは、固相担体のPorphyromonas gingivalis菌DNA検出用プローブと離間した位置に固定して用いればよい。
【0033】
更に、先に述べたとおり、検体中に含まれる感染症起炎菌の16S rRNA遺伝子領域のDNA配列をPCRで増幅させてこれをプローブ担体と反応させるサンプルとする場合には、感染症起炎菌の検出用プライマーセットを用いることができる。このプライマーセットとしては、以下の(1)乃至(21)に挙げるオリゴヌクレオチドから選択される1種以上及び(22)乃至(28)に挙げるオリゴヌクレオチドから選択される1種以上を含むものが好適である。更に好ましくは(1)乃至(28)に挙げる全種のオリゴヌクレオチドを含むものが好適である。
(1)5' gcggcgtgcctaatacatgcaag 3'(配列番号1)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(2)5' gcggcaggcctaacacatgcaag 3'(配列番号2)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(3)5' gcggcaggcttaacacatgcaag 3'(配列番号3)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(4)5' gcggtaggcctaacacatgcaag 3'(配列番号4)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(5)5' gcggcgtgcttaacacatgcaag 3'(配列番号5)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(6)5' gcgggatgccttacacatgcaag 3'(配列番号6)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(7)5' gcggcatgccttacacatgcaag 3'(配列番号7)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(8)5' gcggcatgcttaacacatgcaag 3'(配列番号8)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(9)5' gcggcgtgcttaatacatgcaag 3'(配列番号9)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(10)5' gcggcaggcctaatacatgcaag 3'(配列番号10)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(11)5' gcgggatgctttacacatgcaag 3'(配列番号11)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(12)5' gcggcgtgcctaacacatgcaag 3'(配列番号12)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(13)5' gcggcgtgcataacacatgcaag 3'(配列番号13)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(14)5' gcggcatgcctaacacatgcaag 3'(配列番号14)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(15)5' gcggcgcgcctaacacatgcaag 3'(配列番号15)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(16)5' gcggcgcgcttaacacatgcaag 3'(配列番号16)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(17)5' gcgtcatgcctaacacatgcaag 3'(配列番号17)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(18)5' gcgataggcttaacacatgcaag 3'(配列番号18)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(19)5' gcgacaggcttaacacatgcaag 3'(配列番号19)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(20)5' gctacaggcttaacacatgcaag 3'(配列番号20)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(21)5' acagaatgcttaacacatgcaag 3'(配列番号21)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(22)5' atccagccgcaccttccgatac 3'(配列番号22)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(23)5' atccaaccgcaggttcccctac 3'(配列番号23)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(24)5' atccagccgcaggttcccctac 3'(配列番号24)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(25)5' atccagccgcaccttccggtac 3'(配列番号25)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(26)5' atccagcgccaggttcccctag 3'(配列番号26)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(27)5' atccagccgcaggttctcctac 3'(配列番号27)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(28)5' atccagccgcacgttcccgtac 3'(配列番号28)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0034】
この中で、Porphyromonas gingivalis菌の16S rRNA領域のDNAを増幅可能に構成されるプライマーセットとしては、以下の(18)に挙げるオリゴヌクレオチド並びに(22)及び(28)に挙げるオリゴヌクレオチドの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドを含むものが好適である。
【0035】
具体的には、配列番号68に示すPorphyromonas gingivalis(JCM8525)の16S rRNA領域のDNA配列などと上述の配列番号(1)乃至(28)との比較を行なう。その結果、上記のプライマー配列が好適であることを確認することができる。
(18)5' GCGATAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号18)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(22)5' ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC 3'(配列番号22)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(28)5' ATCCAGCCGCACGTTCCCGTAC 3'(配列番号28)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0036】
Porphyromonas gingivalis菌DNAを検出する目的では、少なくとも上記(18)に挙げるオリゴヌクレオチド並びに(22)及び(28)に挙げるオリゴヌクレオチドの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドのみを有していれば良い。
【0037】
以上説明したプローブと、検体中の核酸とプローブとの反応を検出するための試薬とを少なくとも用いて感染症起炎菌検出用のキットを構成することができる。このキットにおけるプローブは上述したプローブ固体担体として提供されていることが好ましい。また、検出用試薬には、反応を検出するための標識や、前処理としての増幅を行う場合のプライマーが含まれる。検出用試薬にプライマーを含む場合は、プライマーはPorphyromonas gingivalisの16S rRNA領域のDNAを増幅するためのプライマーで構成されるものが好適である。更に、検出用試薬としてPorphyromonas gingivalis以外の感染症起炎菌の当該領域のDNAを増幅するためのプライマーを、Porphyromonas gingivalisの当該領域DNAを増幅するためのプライマーとともに含む構成とすることができる。Porphyromonas gingivalisのDNAを少なくとも検出するキットとしては、本発明にかかるPorphyromonas gingivalisのDNA検出用プローブと、検出用試薬としてPorphyromonas gingivalisの16S rRNA領域のDNAを増幅するプライマーと、を有する構成が好適である。キットが、Porphyromonas gingivalisのDNA検出用プローブとともにPorphyromonas gingivalis以外の感染症起炎菌DNAを検出するためのプローブが固定されたプローブ固定担体を有する場合は、検出用試薬として、Porphyromonas gingivalis菌以外の感染症起炎菌の当該領域のDNAを増幅するプライマーも含むことが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、Porphyromonas gingivalis菌を検出するための感染症起炎菌検出用プローブを用いた実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0039】
(実施例1)
以下の実施例では、2 Step PCR法を用いた微生物の検出について説明する。
【0040】
[1.プローブDNAの準備]
Porphyromonas gingivalis菌検出用プローブの塩基配列として、表2に示す核酸配列を設計した。具体的には、Porphyromonas gingivalis菌の16S rRNA遺伝子をコーディングしているゲノム部分より、これらの塩基配列を選択した。これらのプローブ塩基配列群は、当該菌に対して非常に特異性が高く、十分かつそれぞれのプローブ塩基配列でばらつきのないハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている。なお、プローブとしては、表2に示す塩基配列からなるプローブの他に、各塩基配列を含む20から30程度の塩基長を有するプローブも利用可能である。この場合、表2で規定される塩基配列以外の部分については検出精度に影響のない塩基配列を有していることが必要である。
【0041】
【表2】

【0042】
表2中に示した塩基配列を有するプローブには、DNAチップに固定するための官能基として、合成後、定法に従って核酸の5'末端にチオール基を導入した。官能基の導入後、精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥した内部標準用プローブは、−30℃の冷蔵庫に保存した。
【0043】
[2.PCRプライマーの準備]
[2−1.検体増幅用PCRプライマーの準備]
起炎菌検出用の為の16S rRNA遺伝子領域のDNA(標的DNA)増幅用PCRプライマーとして以下の表3に示す核酸配列を設計した。具体的には、16S rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプライマーセット、つまり約1500塩基長の16S rRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えるよう設計されたプライマーを使用した。なお、表1の(1)〜(62)にあげる複数の異なる菌種や、変異株や、ゲノム上に複数存在する16S rRNA遺伝子領域のDNAも同時に増幅できるように複数種類のプライマーが設計されている。なお、起炎菌の16s rRNA遺伝子領域のDNAに対して共通にほぼ全長を増幅できるプライマーセットであれば、下記の表3に挙げたプライマーセットに限定する必要はないのは言うまでもない。
【0044】
【表3】

【0045】
上記表3中に示したプライマーは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。そして、Forwardプライマーを21種、Reverseプライマーを7種それぞれ混合し、それぞれのプライマー濃度が、最終濃度10pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0046】
[2−2.標識用PCRプライマーの準備]
上述の検体増幅用のプライマーと同様に、以下の表4に示す配列を持つオリゴヌクレオチドを標識用のプライマーとして使用した。
【0047】
【表4】

【0048】
表4中に示したプライマーには、蛍光色素としてCy3を用いて標識を行なった。合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、6種類の標識プライマーを混合し、それぞれの標識プライマー濃度が、最終濃度10pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0049】
[3.Porphyromonas gingivalis菌 Genome DNA(モデル検体)の抽出]
[3−1.微生物の培養 & Genome DNAの抽出]
まず、Porphyromonas gingivalis菌(JCM8525)を、定法に従って培養した。この微生物培養液から、核酸精製キット(FastPrep FP100A・FastDNA Kit:フナコシ株式会社製)を用いて、Genome DNAの抽出と精製を行なった。
【0050】
[3−2.回収したGenome DNAの検査]
回収された微生物(Porphyromonas gingivalis菌)のGenome DNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例では、約10μgのGenome DNA が回収され、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。回収したGenome DNAは、最終濃度50ng/μlとなるようにTE緩衝液に溶解し、以下の実施例に使用した。
【0051】
[4.DNAチップの作成]
[4−1.ガラス基板の洗浄]
合成石英のガラス基板(サイズ:25mm×75mm×1mm、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリ のラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて基板を取り出し、軽く純水ですすいだ後、超純水中で20分超音波洗浄をおこなった。次に80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。再び純水洗浄と超純水洗浄を行い、DNAチップ用の石英ガラス基板を用意した。
【0052】
[4−2.表面処理]
シランカップリング剤KBM-603(信越シリコーン社製)を、1重量(wt)%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌した。続いて、先に洗浄したガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置した。ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面を洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させ、基板表面にアミノ基を導入した。次いで、N−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(以下EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合(容量比)溶媒中に最終濃度が0.3mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を用意した。EMCSは、同仁化学研究所社製のN−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N- (6-Maleimidocaproyloxy)succinimido)である。
【0053】
ベークの終了したガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸した。この処理により、シランカップリング剤によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、ガラス基板表面にマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げたガラス基板を、先述のEMCSを溶解した混合溶媒を用いて洗浄し、さらにエタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。
【0054】
[4−3.プローブDNA]
実施例1の[1.プローブDNAの準備]で作製した微生物検出用プローブを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように分注した後、凍結乾燥を行い、水分を除いた。
【0055】
[4−4.BJプリンタによるDNA吐出、および基板への結合]
グリセリン7.5wt%、チオジグリコール7.5wt%、尿素7.5wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0wt%を含む水溶液を用意した。続いて、先に用意した3種類のプローブ(表2)の夫々を上記の混合溶媒に規定濃度なるように溶解した。得られたDNA溶液をインクジェットプリンタ(商品名:BJF-850 キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。
【0056】
なおここで用いたインクジェットプリンタは平板への印刷が可能なように改造を施したものである。またこのインクジェットプリンタは、所定のファイル作成方法に従って印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液を約120μmピッチでスポッティングすることが可能となっている。続いて、この改造インクジェットプリンタを用いて、1枚のガラス基板に対して、印字操作を行い、アレイを作製した。印字が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、ガラス基板表面のマレイミド基と核酸プローブ末端のチオール基とを反応させた。
【0057】
[4−5.洗浄]
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により表面に残ったDNA溶液を洗い流し、ガラス基板表面に一本鎖DNAが固定したDNAチップを得た。
【0058】
[5.検体の増幅と標識化]
[5−1.検体の増幅:1st PCR]
検体となる微生物DNAの増幅(1st PCR)、および、標識化(2nd PCR)反応を以下の表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
上記組成の反応液を図1に示すプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行なった。反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いて精製した後、増幅産物の定量を行なった。
【0061】
[5−2.標識化反応:2nd PCR]
表6の組成の反応液を図2に示すプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行なった。
【0062】
【表6】

【0063】
反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いて精製し、標識化検体とした。
【0064】
[6.ハイブリダイゼーション]
上述の[4.DNAチップの作成]で作成したDNAチップと[5.検体の増幅と標識化]で作成した標識化検体を用いて、検出反応を行なった。
【0065】
[6−1.DNAチップのブロッキング]
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl/10mM Phosphate Bufferに溶解した。次に、この溶液に[4.DNAチップの作製]で作製したDNAチップを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、以下の洗浄液で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
洗浄液:0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2×SSC溶液(NaCl 300mM 、Sodium Citrate(trisodium citrate dihydrate, C6H5Na3・2H2O) 30mM、p.H.7.0)
[6−2.ハイブリダイゼーション]
水切りしたDNAチップをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
【0066】
[6−3.ハイブリダイゼーション溶液]
6xSSPE / 10% Formamide / Target(2nd PCR Products 全量)/ 0.05wt% SDS
(6xSSPE: NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 50mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)
[6−4.ハイブリダイゼーション条件]
65℃ 3min → 55℃ 4hr → Wash 2xSSC / 0.1% SDS at 50℃ → Wash 2xSSC at 20℃ → (Rinse with H2O : Manual) → Spin dry
[7.微生物Genomeの検出(蛍光測定)]
上記ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAチップをDNAチップ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いで蛍光測定を行った。その結果、再現性良く、十分なシグナルでPorphyromonas gingivalis菌を検出することができた。以下の表7に、Porphyromonas gingivalis菌の蛍光測定結果を示す。
【0067】
【表7】

【0068】
[8.他の菌種とのハイブリダイゼーション]
表2に示すプローブセットが、Porphyromonas gingivalis菌のみに特異的にハイブリッド体を形成することを証明するため、Porphyromonas asaccharolytica(JCM6326)とのハイブリダイゼーション反応を行なった結果を、次の表8に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
[9.結果]
以上に説明したように、上記実施例によれば、Porphyromonas gingivalis菌のみを特異的に検出可能なプローブセットを固定したDNAチップを作成することができた。更に、このDNAチップを用いて、感染症起炎菌を同定することが可能になり、微生物由来のDNAプローブの問題を解決した。すなわち、オリゴヌクレオチドプローブは化学的に大量合成が可能であり、精製や濃度のコントロールが可能である。また、微生物の種による分類を目的に、同じ種の菌種は一括検出が可能で、しかも、他の種の菌は区別して検出できるようなプローブセットが提供できた。
【0071】
また、上記と同様にPorphyromonas asaccharolyticaのほかにも、表1の(1)〜(62)に示される菌から抽出した核酸においてもそれぞれハイブリダイゼーション反応を行った。これらの結果も、Porphyromonas gingivalis菌を除き、Porphyromonas asaccharolyticaと同様に実質的に反応しないことが確かめられた。
【0072】
前述の(1)〜(62)に示す菌は、敗血症の起炎菌とされるものであり、過去にヒトの血中で検出された起炎菌のほぼ全てを満足している。よって、本実施形態のプライマーを用いて、血液中の感染症起炎菌の核酸を抽出し、これと本発明のプローブとを反応させることで、ほぼ確実にPorphyromonas gingivalis菌の同定が可能となる。
【0073】
また、上記実施例によれば、感染症起炎菌DNAの16S rRNA遺伝子配列を過不足なく検出することにより、該感染症起炎菌の存在を効率良く、また高い精度で判定することができる。
【0074】
(実施例2)多種の菌種を同時に判定可能なDNAチップの作成
実施例1の[1.プローブDNAの準備]と同様に、以下の表9に示す塩基配列のプローブを準備した。
【0075】
【表9】

【0076】
これらのプローブは、実施例1のPorphyromonas gingivalis菌に特異的なプローブと同様に、表中の左欄に示されている特定の菌種のみを特異的に検出可能なプローブである。
【0077】
そして、それらのプローブ同士は、同じ反応条件でそれぞれの対象菌種の核酸を特異的に検出できるように、ターゲットとのTm値、非対象配列との反応性等を揃えて設計されている。
【0078】
それぞれのプローブに対して、実施例1の[4−3]と同様にプローブ溶液を作成した。その後、[4−4]で使用したインクジェットプリンターを用いて、同一基板上に、それぞれのプローブ溶液を吐出し、各プローブのスポットが120μmのピッチ間隔で離間して配置されたDNAチップを複数枚作成した。このDNAチップの1枚を用いて、実施例1の[6]と同様に、Porphyromonas gingivalis菌から抽出した核酸とハイブリダイゼーション反応させた。この結果、Porphyromonas gingivalis菌を特異的に検出するプローブのスポットにおいては、実施例1とほぼ同じ蛍光輝度を示した。また、残りの他のプローブのスポットにおいては非常に低い蛍光輝度を示した。
【0079】
さらに、用意した他のDNAチップを用いて、表9に記載されているPorphyromonas gingivalis菌以外の菌を対象として、同様にハイブリダイゼーション反応させた。この結果Porphyromonas gingivalis菌のスポットは非常に低い蛍光輝度を示し、且つ対象菌種のプローブのスポットにおいては非常に高い輝度を示した。従って、本実施例で作成されたDNAチップは、Porphyromonas gingivalis菌に加えて、表9中に記載の11種の菌を同時に判定できることが確認できた。
【0080】
(実施例3)
実施例2で作成したDNAチップを用いて、検体中に複数の菌種が存在する場合の検出を試みた。Porphyromonas gingivalis菌および Clostridium difficile菌がともに培養されている培養液を用意し、これを実施例1と同様に処理し、DNAチップと反応させた。
【0081】
この結果、配列番号43、44、45、59、60、61のみのプローブのスポットが高い蛍光輝度を示し、これらの菌が共に存在していることが同時に確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】1st PCRプロトコルを説明する図である。
【図2】2nd PCRプロトコルを説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症起炎菌であるポルフィロモナス ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis)のDNAを検出するためのプローブであって、下記の(1)乃至(4)のいずれか1つの塩基配列からなることを特徴とするプローブ。
(1)TTATAGCTGTAAGATAGGCATGCGTCCC(配列番号59)またはその相補配列、
(2)AACGGGCGATACGAGTATTGCATTGA(配列番号60)またはその相補配列、
(3)ATATACCGTCAAGCTTCCACAGCGA(配列番号61)またはその相補配列、
(4)配列番号59から61の配列またはこれらの相補配列のいずれか1つに、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ。
【請求項2】
感染症起炎菌であるポルフィロモナス ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis)のDNAを検出するためのプローブセットであって、下記の(A)乃至(L)のいずれかのプローブの2以上を含むことを特徴とするプローブセット。
(A)TTATAGCTGTAAGATAGGCATGCGTCCC(配列番号59)で表される塩基配列からなるプローブ、
(B)AACGGGCGATACGAGTATTGCATTGA(配列番号60)で表される塩基配列からなるプローブ、
(C)ATATACCGTCAAGCTTCCACAGCGA(配列番号61)で表される塩基配列からなるプローブ、
(D)配列番号59の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(E)配列番号60の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(F)配列番号61の塩基配列の相補配列からなるプローブ、
(G)配列番号59の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(H)配列番号60の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(I)配列番号61の塩基配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(J)配列番号59の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、
(K)配列番号60の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ、及び
(L)配列番号61の塩基配列の相補配列に、前記プローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列からなるプローブ。
【請求項3】
請求項1に記載のプローブまたは請求項2に記載のプローブセットを構成する複数のプローブの各々が固相担体上に固定され、該固定されるプローブが複数の場合は各プローブが互いに隔離して配置されていることを特徴とするプローブ固定担体。
【請求項4】
前記プローブと離間した位置に、配列番号35乃至58および配列番号62乃至67の塩基配列、並びにそれらの相補配列、更にこれらの塩基配列に各検出対象菌のDNAを検出するプローブとしての機能を保持できる範囲内で、塩基の欠失、置換もしくは付加がなされた変異配列、からなる群から選ばれる少なくとも1つのプローブが固定されている請求項3に記載のプローブ固定担体。
【請求項5】
請求項1に記載のプローブまたは請求項2に記載のプローブセットを構成する複数のプローブと、プローブと標的核酸との反応を検出するための試薬と、を有することを特徴とするポルフィロモナス ギンギバリスDNA検出用のキット。
【請求項6】
前記試薬は、ポルフィロモナス ギンギバリスのDNAを増幅するプライマーを含み、
該プライマーは、以下の(18)のオリゴヌクレオチドと、以下の(22)及び(28)のオリゴヌクレオチドの少なくとも一方とからなる請求項5に記載のキット。
(18)5' GCGATAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号18)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(22)5' ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC 3'(配列番号22)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(28)5' ATCCAGCCGCACGTTCCCGTAC 3'(配列番号28)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
前記プローブが固相担体に固定された状態で提供される請求項5または6に記載のキット。
【請求項8】
請求項4に記載のプローブ固定担体と、プローブと標的核酸との反応を検出するための試薬と、を有するDNA検出用のキットであって、
前記試薬は、感染症起炎菌DNAを増幅するプライマーを含み、
該プライマーとして、以下の(1)乃至(21)から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチドと、以下の(22)乃至(28)から選ばれる少なくとも1つのオリゴヌクレオチドと、を含むことを特徴とするDNA検出用キット。
(1)5' GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG 3'(配列番号1)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(2)5' GCGGCAGGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号2)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(3)5' GCGGCAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号3)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(4)5' GCGGTAGGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号4)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(5)5' GCGGCGTGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号5)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(6)5' GCGGGATGCCTTACACATGCAAG 3'(配列番号6)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(7)5' GCGGCATGCCTTACACATGCAAG 3'(配列番号7)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(8)5' GCGGCATGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号8)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(9)5' GCGGCGTGCTTAATACATGCAAG 3'(配列番号9)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(10)5' GCGGCAGGCCTAATACATGCAAG 3'(配列番号10)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(11)5' GCGGGATGCTTTACACATGCAAG 3'(配列番号11)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(12)5' GCGGCGTGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号12)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(13)5' GCGGCGTGCATAACACATGCAAG 3'(配列番号13)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(14)5' GCGGCATGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号14)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(15)5' GCGGCGCGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号15)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(16)5' GCGGCGCGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号16)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(17)5' GCGTCATGCCTAACACATGCAAG 3'(配列番号17)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(18)5' GCGATAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号18)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(19)5' GCGACAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号19)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(20)5' GCTACAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号20)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(21)5' ACAGAATGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号21)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(22)5' ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC 3'(配列番号22)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(23)5' ATCCAACCGCAGGTTCCCCTAC 3'(配列番号23)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(24)5' ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTAC 3'(配列番号24)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(25)5' ATCCAGCCGCACCTTCCGGTAC 3'(配列番号25)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(26)5' ATCCAGCGCCAGGTTCCCCTAG 3'(配列番号26)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(27)5' ATCCAGCCGCAGGTTCTCCTAC 3'(配列番号27)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(28)5' ATCCAGCCGCACGTTCCCGTAC 3'(配列番号28)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
プローブ固定担体を用いた検体中でのポルフィロモナス ギンギバリスDNAの検出方法において、
(i)請求項3に記載のプローブ固定担体と検体とを反応させる工程と、
(ii)前記プローブ固定担体上のプローブと前記検体中の核酸との反応の有無、またはその反応強度を検出する工程と、
を有することを特徴とするポルフィロモナス ギンギバリスDNAの検出方法。
【請求項10】
前記検体中の標的核酸を、以下の(18)のオリゴヌクレオチドと、以下の(22)及び(28)のオリゴヌクレオチドの少なくとも一方とをプライマーとして用いて、PCR増幅する工程を更に有する請求項9に記載の検出方法。
(18)5' GCGATAGGCTTAACACATGCAAG 3'(配列番号18)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(22)5' ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC 3'(配列番号22)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(28)5' ATCCAGCCGCACGTTCCCGTAC 3'(配列番号28)の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−289179(P2007−289179A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94108(P2007−94108)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】