プーリ構造体
【課題】ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【解決手段】プーリ構造体1は、ベルト106が巻き掛けられるプーリ2と、プーリ2に対して相対回転可能なハブ3と、プーリ2に設けられ、周方向に交互に配置された3つの第1磁石17と3つの磁性体25からなる第1環状磁石体20と、ハブ3に設けられ、周方向に交互に配置された3つの第2磁石18と3つの磁性体26からなる第2環状磁石体21とを備えている。
【解決手段】プーリ構造体1は、ベルト106が巻き掛けられるプーリ2と、プーリ2に対して相対回転可能なハブ3と、プーリ2に設けられ、周方向に交互に配置された3つの第1磁石17と3つの磁性体25からなる第1環状磁石体20と、ハブ3に設けられ、周方向に交互に配置された3つの第2磁石18と3つの磁性体26からなる第2環状磁石体21とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体を有するプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、相対回転可能に連結された2つの回転体を有するプーリ構造体として、2つの回転体の一方に回転変動が生じたときに、その回転変動を減衰させるための構成を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のプーリ構造体は、ベルトが巻回されるプーリ(第1回転体)と、プーリの内側において、このプーリに対して相対回転可能に設けられ、且つ、エンジンの出力軸に連結されるハブ(第2回転体)と、プーリとハブとを連結するゴム弾性体(ゴムカップリング)とを有する。そして、エンジンのトルク変動に応じてハブに回転変動が生じたときには、ハブとプーリの間のゴム弾性体が弾性変形することによって、その回転変動を吸収するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のプーリ構造体は、クランクシャフトに組み付けられたダンパ本体(第1回転体)と、ダンパ本体内側に設けられたダンパマス(第2回転体)とを有する。ダンパマスには、周方向に配置された複数の永久磁石が固定され、一方、ダンパ本体には、ダンパマスの複数の永久磁石と対向する銅板が固定されている。そして、クランクシャフトに生じた捩り振動に起因して、ダンパ本体とダンパマスの間に回転速度差が発生すると、永久磁石と銅板の間の速度差によって銅板に渦電流が発生する。このとき、銅板に発生した渦電流によって2つの回転体(ダンパ本体とダンパマス)の間に両者間の速度差を小さくするような力が作用し、ダンパ本体の回転変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−68540号公報
【特許文献2】特開2002−286094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のプーリ構造体のように、2つの回転体がゴム弾性体で連結されている場合には、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊に起因する故障が発生する。また、一方の回転体に過大な回転変動が生じたときには、ゴム弾性体にその弾性変形の範囲を超える過大な力が作用し、ゴム弾性体が破損してしまう虞もある。さらに、ゴム弾性体の弾性変形時の発音が問題になる場合もある。
【0007】
一方、特許文献2のプーリ構造体のように、永久磁石と銅板との間の速度差に起因して銅板に生じる渦電流によって、2つの回転体に両者の速度差を小さくするような抑制力を作用させる構成では、ゴム弾性体を用いる必要がないことから、上述したような問題は生じない。しかし、渦電流により2つの回転体に作用させることのできる抑制力はかなり小さいものであり、一方の回転体に生じる回転変動が大きい場合には、その回転変動を速やかに減衰させることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のプーリ構造体は、第1回転体と、前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体に設けられた第1磁石と、前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石とを有し、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように磁性体が配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の構成によれば、第1回転体に設けられた第1磁石と第2回転体に設けられた第2磁石との間の磁束によって、第1回転体と第2回転体が相対回転可能な状態で連結されている。そして、一方の回転体に回転変動が発生して2つの回転体に回転速度差(位相のずれ、位相差)が生じたときには、第1磁石と第2磁石との間に働く磁力によって、第1回転体と第2回転体の間に、回転速度差を解消するようにトルクが作用する。これにより、一方の回転体に生じた回転変動が減衰される。
【0011】
ここで、第1回転体と第2回転体に、回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石と第2磁石の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、一方の回転体に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0012】
さらに、本発明においては、第1磁石と第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように磁性体が配置されている。そのため、第1回転体と第2回転体との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じたときには、相対向していた第1磁石と第2磁石の位相がずれて、一方の磁石が、他方の磁石と周方向に隣接している磁性体と対向することになる。このとき、位相がずれた第1磁石と第2磁石との間には、先にも述べたように、回転速度差を小さくするように磁力が発生するが、一部対向する磁性体と磁石との間では、異極の磁石同士のように反発する方向(即ち、回転速度差を小さくする方向)の磁力が大きく作用することはない。従って、2つの回転体の回転速度差が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、第1回転体と第2回転体の間で共振が発生するのを防止できる。また、磁性体と磁石が対向したときに、磁性体との間で磁石に逆磁場が大きく作用することはないため、逆磁場による磁石の減磁も防止できる。
【0013】
第2の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方が、周方向に関して前記磁性体に挟まれていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、第1回転体と第2回転体との間の回転速度差(位相差)が、周方向2方向の何れの方向に生じても、第1磁石と第2磁石の一方の磁石が、他方の磁石と周方向に隣接している磁性体と対向することになるから、2つの回転体の回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることが抑制される。
【0015】
第3の発明のプーリ構造体は、前記第2の発明において、前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0017】
第4の発明のプーリ構造体は、前記第3の発明において、前記複数の第1磁石の、前記第2磁石との対向面における磁極が全て等しく、前記複数の第2磁石の、前記第1磁石との対向面における磁極が全て等しく、且つ、前記第1磁石の磁極と異なる磁極であることを特徴とするものである。
【0018】
複数の第1磁石の対向面の磁極が全て等しく、また、複数の第2磁石の対向面の磁極が全て等しく、且つ、第1磁石の磁極とは異なっていることから、全ての第1磁石及び第2磁石に逆磁場が作用せず、この逆磁場による不可逆的な減磁が生じることがないため、回転変動の減衰機能の劣化が抑制される。
【0019】
第5の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記第1回転体と前記第2回転体は非磁性材料からなり、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方は、対応する前記回転体に、磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられていることを特徴とするものである。
【0020】
第1回転体と第2回転体とが磁性材料で形成されていると、第1磁石及び第2磁石から発生した磁束が、第1回転体及び第2回転体の内部を通って、両磁石の隙間を通らない閉回路を形成してしまい、磁石のエネルギーを効率的に利用できないという問題がある。しかし、第1回転体と第2回転体を非磁性材料で形成すると、第1磁石と第2磁石のそれぞれの対向面以外の面から、非磁性材料からなる第1回転体及び第2回転体を通過して多くの磁束が外部に漏洩してしまうという問題がある。そこで、本発明では、第1回転体と第2回転体を非磁性材料で形成した上で、さらに、第1磁石と第2磁石のうちの少なくとも一方が、対応する回転体に磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられており、この磁性材料からなる支持部材は、第1磁石と第2磁石の間を通るように磁束を導くヨークの役割を果たすことになる。つまり、第1磁石と第2磁石の互いの対向面以外からの磁束の漏洩を極力抑制し、第1磁石と第2磁石による磁力のエネルギーを、第1磁石と第2磁石の間に効果的に作用させることができるため、第1回転体と第2回転体との間でトルクを効率よく伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る補機駆動システムの概略構成図である。
【図2】プーリ構造体の回転軸を含む面に関する断面図である。
【図3】プーリとハブとの間に配置された環状磁石体の斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】プーリとハブの間に回転速度差がないときの、3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図6】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、プーリ構造体の図4相当の断面図である。
【図7】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図8】磁石のみで構成された環状磁石体の斜視図である。
【図9】変更形態に係るプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図10】別の変更形態の環状磁石体の斜視図である。
【図11】別の変更形態の磁石及び磁性体の周方向配置を示す図である。
【図12】別の変更形態のプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図13】図12のプーリ構造体の環状磁石体を、回転軸方向から見た図である。
【図14】別の変更形態の環状磁石体の斜視図である。
【図15】実施例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図16】実施例2のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図17】実施例3のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図18】比較例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの出力軸のトルクによって補機を駆動する、補機駆動システムに用いられるプーリ構造体に本発明を適用した一例である。
【0023】
図1は本実施形態の補機駆動システムの概略構成図である。図1に示すように、補機駆動システム100は、エンジンの出力軸101(レシプロエンジンのクランクシャフトや、ロータリーエンジンのエキセントリックシャフト等)に連結された駆動プーリ105と、ウォーターポンプやオルタネータ等の各種補機にそれぞれ連結された従動軸(補機軸)102,103と、従動軸102に取り付けられた従動プーリ104と、従動軸103に取り付けられた、本実施形態に係るプーリ構造体1のプーリ2と、駆動プーリ105、従動プーリ104、及び、プーリ構造体1のプーリ2にわたって架け渡された伝動ベルト106とを有する。尚、本実施形態では、伝動ベルト106として、ベルト長手方向に沿って互いに平行に延びる複数のVリブ106aを有するVリブドベルトが用いられている(図2参照)。
【0024】
出力軸101のトルクによって駆動プーリ105が回転駆動されると、その駆動プーリ105の回転により伝動ベルト106が駆動される。すると、この伝動ベルト106の走行に伴って、従動プーリ104やプーリ構造体1のプーリ2がそれぞれ回転駆動されることにより、従動軸102,103に連結されたウォーターポンプやオルタネータ等の補機がそれぞれ駆動される。
【0025】
次に、出力軸101から伝動ベルト106を介して伝達されるトルクを従動軸(補機軸)103に伝える、本実施形態のプーリ構造体1について詳細に説明する。図2は本実施形態のプーリ構造体1の回転軸Cを含む面に関する断面図である。図2に示すように、プーリ構造体1は、伝動ベルト106が巻回される円筒形状のプーリ2(第1回転体)と、従動軸(補機軸)103に連結されるとともにプーリ2の内側に設けられたハブ3(第2回転体)を備えている。また、プーリ2とハブ3は軸受5を介して相対回転可能に連結されている。尚、図2における右側をプーリ構造体1の先端側、図2における左側(従動軸(補機軸)103側)をプーリ構造体1の基端側と定義して以下説明する。
【0026】
プーリ2の外周部には、その周方向に沿って延びる複数のV溝11が形成されている。そして、伝動ベルト106は、その腹面側に形成された複数のVリブ106aが、複数のV溝11にそれぞれ係合した状態で、プーリ2の外周に巻回される。
【0027】
ハブ3は、回転軸方向に沿って同軸状に並ぶ2つの円筒部材3a,3bを有し、これら2つの円筒部材3a,3bは図示しない部分において連結され、一体化されている。このハブ3の2つの円筒部材3a,3bには従動軸103の先端部が嵌挿され、ボルト等の適宜の連結手段によって従動軸103とハブ3とが相対回転不能に連結される。尚、プーリ2、及び、ハブ3を構成する2つの円筒部材3a,3bは、それぞれ非磁性材料(常磁性体や反磁性体、あるいは、反強磁性体)で形成されている。尚、非磁性材料としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、あるいは、合成樹脂等を挙げられる。
【0028】
2つの円筒部材3a,3bのうち、基端側に位置する円筒部材3aに軸受5が設けられ、この軸受5を介してプーリ2が円筒部材3aに回転自在に連結されている。一方、先端側に位置する円筒部材3bと、プーリ2との間には、環状の磁石収容室16が形成され、この磁石収容室16内に、プーリ2に固定された第1環状磁石体20と、ハブ3の円筒部材3bに固定された2つの第2環状磁石体21が収容されている。
【0029】
図3は、図2に示される環状磁石体20,21の斜視図、図4は、図2のIV-IV線断面図である。図3、図4に示すように、第1環状磁石体20はその外周面においてプーリ2に固定されている。この第1環状磁石体20は3つの第1磁石17と3つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体25で構成されている。第1磁石17と磁性体25は、共に、中心角(60度)の略扇形形状を有し、3つの第1磁石17と3つの磁性体25が周方向に交互に並べて配置されることで、第1環状磁石体20が構成されている。
【0030】
第2環状磁石体21は、その内周面においてハブ3に固定されている。また、この第2環状磁石体21も、第1環状磁石体20と同じように、3つの第2磁石18と3つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体26で構成されている。第2磁石18と磁性体26は、共に、中心角(60度)の略扇形形状を有し、3つの第2磁石18と3つの磁性体26が周方向に交互に並べて配置されることで、第2環状磁石体21が構成されている。
【0031】
また、プーリ2に固定された1つの第1環状磁石体20とハブ3に固定された2つの第2環状磁石体21は、プーリ2の回転軸Cの方向に隙間を空けて交互に配置されている。言い換えれば、第1磁石17を含む第1環状磁石体20が、回転軸方向に関して、第2磁石18を含む第2環状磁石体21に挟まれている。
【0032】
尚、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。永久磁石としては、ネオジム、サマリウムコバルト、フェライト、アルニコ、プラチナ、クロム、鉄、マンガン、アルミニウム、プラセオジムなどを成分とするものを使用できる。
【0033】
また、磁性体25と磁性体26を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト)等が挙げられる。他に、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ケイ素鋼等が使用できる。
【0034】
さらに、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ回転軸方向に磁化されている。そして、第1環状磁石体20を構成する3つの第1磁石17は、全て、基端側(図2、図3の左側)の面における磁極がN極、先端側の面(図2、図3の右側)の面における磁極がS極となっている。同じく、第2環状磁石体21を構成する3つの第2磁石18も、全て、基端側の面における磁極がN極、先端側の面における磁極がS極となっている。
【0035】
言い換えれば、第1環状磁石体20を構成する3つの第1磁石17の、第2磁石18との対向面における磁極は全て等しい。また、第2環状磁石体21を構成する3つの第2磁石18の、第1磁石17との対向面における磁極は全て等しく、且つ、第1磁石17の磁極とは異なる磁極となっている。従って、第1磁石17と第2磁石18との間には、常に引き合う方向の磁力が作用する。
【0036】
また、本実施形態では、回転軸Cの方向に関して交互に配置された3つの環状磁石体20,21のうち、中央に位置する第1環状磁石体20はプーリ2の内面に直接取り付けられている。取付方法としては、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。一方、回転軸方向に関して外側に位置する2つの第2環状磁石体21は、それぞれ2つの環状の支持部材22,23を介してハブ3(円筒部材3b)の外周面に取り付けられている。尚、2つの支持部材22,23のハブ3への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。また、2つの第2環状磁石体21の支持部材22,23への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。
【0037】
支持部材22,23は、支持対象である第2環状磁石体21(第2磁石18)の、第1環状磁石体20(第1磁石17)との対向面と反対側の面を覆うように設けられている。即ち、基端側(図2中左側)の支持部材22は第2環状磁石体21の基端側の面(図中左側の面)を覆うとともに、先端側の支持部材23は第2環状磁石体21の先端側の面(図中右側の面)を覆っている。また、2つの支持部材22,23は、それぞれ磁性材料(強磁性体)で形成されている。支持部材22,23を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Ba系フェライト、あるいは、フェロックスプレーナ系フェライト)等が挙げられる。
【0038】
また、2つの支持部材22,23のうち、先端側(図2中右側)の第2環状磁石体21(第2磁石18)を支持する支持部材23は、第2環状磁石体21の外側面をも覆っている。その上で、プーリ2の内側面には環状の摺動部材24が設けられており、支持部材23の、第2環状磁石体21を覆う外周部23aが摺動部材24に対して摺動回転となっている。つまり、支持部材23の外周部23aと摺動部剤24とが軸受の役割を果たしている。尚、摺動部材24としては、表面摩擦抵抗が小さく、且つ、耐摩耗性に優れた材料を使用することが好ましく、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、真鍮、メッキ処理が施された真鍮、青銅、メッキ処理が施された青銅などを使用できる。あるいは、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、高分子量ポリエチレンなどの合成樹脂材料を使用することもできる。
【0039】
次に、本実施形態のプーリ構造体1の作用について説明する。図4に示すように、プーリ2とハブ3の間に回転速度差(位相差)がない状態では、プーリ2に固定された第1環状磁石体20の3つの第1磁石17と、ハブ3に固定された第2環状磁石体21の3つの第2磁石18とが、回転軸方向(図4の紙面垂直方向)に関して互いに対向している。
【0040】
図5は、プーリ2とハブ3の間に回転速度差がないときの、3つの第2環状磁石体21,20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。尚、図5では、各環状磁石体21,20,21に含まれる、1つの磁性体とそれを周方向に挟むように配置された2つの磁石を、環状磁石体の半径方向から見た図で示している。
【0041】
図5に示すように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差(位相差)がなく、両者が一体回転している状態では、第1環状磁石体20の第1磁石17と第2環状磁石体21の第2磁石18の周方向位置が一致しており、両磁石17,18が対向している。このとき、磁石のN極から出た磁束Bは、磁性材料からなる支持部材22,23と、磁石を周方向に挟むように配置された磁性体25,26とを通ってS極に至るように流れるが、2つの環状磁石体20,21の間では磁束Bの向きは回転軸方向(図5の左右方向)と平行である。従って、第1環状磁石体20が設けられているプーリ2と、第2環状磁石体21が設けられているハブ3との間で、トルクは発生していない。
【0042】
このように、プーリ2とハブ3が一体的に回転している状態から、エンジンで発生したトルク変動がベルト106を介して伝達されて、プーリ2に回転変動が生じると、プーリ2とハブ3の間には回転速度差(位相差)が生じる。
【0043】
この回転速度差が比較的小さい場合、図6に示すように、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18の周方向位置が少しずれるため、第1磁石17から見ると、先ほど対向していた第2磁石18と周方向に隣接する磁性体26と一部対向することになる。
【0044】
図7は、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じた状態での、3つの環状磁石体21,20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。この図7に示すように、第1磁石17と第2磁石18の周方向位置がずれることによって、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21との間を流れる磁束Bの向きは、回転軸方向(図7の左右方向)に対して傾くことになり、第1磁石17と第2磁石18の間に、周方向の位置ずれ(位相差)を解消するように磁力が作用する。そのため、第1磁石17(第1環状磁石体20)が固定されているプーリ2と第2磁石18(第2環状磁石体21)が固定されているハブ3の間に回転速度差が小さくなるようにトルクが発生する。これにより、プーリ2に生じた回転変動が、ハブ3に伝達される際に減衰される。
【0045】
このように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差を小さくするように作用する、第1磁石17と第2磁石18の間の磁力は、従来知られている渦電流による回転変動抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、ハブ3に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時における発音といった問題が生じない。
【0046】
ところで、本実施形態では、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21は、永久磁石(第1磁石17と第2磁石18)と磁性体25,26とが交互に配置されて、磁石が磁性体25,26で挟まれた構成となっているが、永久磁石だけで環状磁石体を構成することも十分考えられる。例えば、図8に示すように、磁性体25,26の代わりに永久磁石を用いて、環状磁石体120,121を、周方向に隣接する磁石間で磁極が異なる6つの磁石17,18のみで構成する。この構成でも、上述したような、環状磁石体20,21間で回転速度差が小さくなるようなトルクを発生させるという作用は実現できる。
【0047】
しかし、図8の構成では、以下のような問題が生じる。即ち、プーリ2とハブ3の間(2つの環状磁石体120,121の間)に回転速度差が生じたときに、磁極が同じである第1磁石17と第2磁石18が対向することになる。そのため、異極の第1磁石17と第2磁石18との間の引き合う方向の磁力に加えて、同極の第1磁石17と第2磁石18との間に反発する方向の磁力が作用することになり、回転速度差(位相差)が小さいときであっても、その回転速度差を解消する方向にプーリ2とハブ3に作用するトルクが非常に大きなものとなる。このように、小さな回転速度差に対して、これを解消するトルクが大き過ぎると、プーリ2とハブ3の間で共振が発生する虞がある。従って、回転速度差(位相差)が小さいときにはこれを解消するトルクも小さくなるように、回転速度差(位相差)とトルクの関係が、ほぼリニアな関係に近くなることが好ましい。
【0048】
また、図8の構成では、プーリ2とハブ3の間に回転速度差が生じて、同極の第1磁石17と第2磁石18が対向したときに、相対向する第1磁石17と第2磁石18には、それぞれ、対向相手の磁石からの磁場(逆磁場)が作用することになる。そのため、この逆磁場によって第1磁石17と第2磁石18の双方に不可逆的な減磁が生じ、その結果、プーリ構造体1の回転変動減衰機能が低下する虞がある。
【0049】
一方、本実施形態のプーリ構造体1では、第1磁石17及び第2磁石18と周方向に沿って並ぶ磁性体25,26が設けられている。そして、プーリ2とハブ3との間に比較的小さな回転速度差が生じたときに、各磁石17(18)は、元々対向していた磁石18(17)に隣接する磁性体26(25)と一部対向することになるが、磁性体26(25)と磁石17(18)との間には反発する方向(即ち、位相差を解消する方向)に磁力が作用することはない。従って、回転速度差(位相差)が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、プーリ2とハブ3との間で共振が発生するのを防止できる。尚、磁石17(18)に作用する逆磁場は、図8の構成に比較して小さくなる。
【0050】
また、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じて磁石と磁性体とが対向した場合には、同極の磁石17,18が対向する場合とは異なり、不必要な外部磁界(逆磁場)が磁石17,18に作用することはない。従って、磁石17,18に不可逆的な減磁が生じて、回転変動減衰機能が低下することを防止できる。
【0051】
また、本実施形態では、3つの第1磁石17と3つの磁性体25、及び、3つの第2磁石18と3つの磁性体26が、周方向に交互に配置されることによって、第1磁石17と第2磁石18がそれぞれ磁性体25,26によって周方向に挟まれた構成となっている。そのため、プーリ2とハブ3との間の回転速度差が、周方向2方向の何れの方向に生じても、第1磁石17と第2磁石18が磁性体25,26と対向することになるから、回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることが抑制される。また、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18が周方向に分散して配置されているため、プーリ2とハブ3との間で、周方向に関して均等なトルクを作用させることができる。
【0052】
また、本実施形態のプーリ構造体1においては、前述したように、第1磁石17(第1環状磁石体20)が設けられたプーリ2と、第2磁石18(第2環状磁石体21)が設けられたハブ3は、それぞれ、非磁性材料で形成されている。但し、これでは、第1磁石17と第2磁石18のそれぞれの対向面以外の面から、非磁性材料からなるプーリ2及びハブ3を通過して多くの磁束が外部に漏洩してしまうため、図2、図5、図7に示すように、第1磁石17を挟むように設けられた第2磁石18(第2環状磁石体21)は磁性材料からなる支持部材22,23によってハブ3に取り付けられている。
【0053】
これら磁性材料からなる2つの支持部材22,23は、第1磁石17と第2磁石18の間を通るように磁束を導くヨークの役割を果たすことになり、第1磁石17と第2磁石18の互いの対向面以外の面からの磁束の漏洩を極力抑制し、第1磁石17と第2磁石18による磁力のエネルギーを、第1磁石17と第2磁石18の間に効果的に作用させることができる。これにより、プーリ2とハブ3との間でトルクを効率よく伝達することが可能となる。
【0054】
また、図2に示すように、第1環状磁石体20(第1磁石17)と2つの第2環状磁石体21(第2磁石18)が、回転軸Cの方向に関して交互に配置されているため、第1磁石17と第2磁石18が回転軸方向に1つずつ設けられている場合と比べて、プーリ2とハブ3との間に作用する磁力が大きくなり、両者の間でトルクを確実に伝達できるようになる。また、回転軸方向に並ぶ3つの環状磁石体21,20,21のうち両外側に配置されている2つの第2環状磁石体21の、第1環状磁石体20との対向面と反対側の面が、支持部材22,23で覆われている。そのため、第2磁石18の前記対向面と反対側の面から磁束の一部が回転軸方向(第1磁石17と反対の方向)に漏れるのを確実に防止できる。さらに、図2に示すように、一方の支持部材23は、第2環状磁石体21の外側面をも覆っている。それにより、摺動部材24の軸受けになっている。
【0055】
また、本実施形態では、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。そのため、プーリ2とハブ3とが、永久磁石から半永久的に発せられる磁束によって連結されることになり、長期間の使用によって経年劣化や疲労破壊等が生じるゴム弾性体と比べると、回転変動を減衰させる機能が低下したり、減衰不能に陥ったりという問題が生じにくい。
【0056】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0057】
1]第1磁石17、第2磁石18、及び、それらに設けられる磁性体のサイズ、形状、数、材質、配置等は、プーリやハブの形状や発生しうる回転変動の程度等に応じて、適宜変更可能である。
【0058】
例えば、プーリ2の回転軸方向に並ぶ環状磁石体20,21の数は、前記実施形態のような3つ(1つの第1環状磁石体20と2つの第2環状磁石体21)に限られるものではない。例えば、図9に示すプーリ構造体1Aのように、回転軸Cの方向に関して配置される第1環状磁石体20と第2環状磁石体21の数がそれぞれ1つであってもよい。あるいは、4以上の第1環状磁石体20,21が回転軸方向に交互に並ぶように設けられてもよい。
【0059】
また、1つの環状磁石体20,21を構成する磁石17,18の数も3つである必要はなく、適宜変更できる。別の言い方をすれば、略扇状に形成された1つの磁石17,18の中心角は、60度である必要はなく、45度や30度などの他の角度に変更してもよい。また、図10に示すように、180度の中心角を有する1つの磁石17(18)と1つの磁性体25(26)のみによって環状磁石体20(21)が構成されてもよい。さらに、磁石17,18の中心角と磁性体25,26の中心角を等しくする必要も特になく、両者の中心角を異ならせてもよい。
【0060】
さらには、磁石17,18と磁性体25,26が周方向全周にわたって配置されて環状の磁石体を構成する必要はなく、図11のように、周方向一部分にのみ磁石17(18)と磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。また、1つの磁石17(18)に対して周方向両側に磁性体25(26)が配置されている必要もなく、この図11のように、周方向一方側にのみ磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。
【0061】
また、第1磁石17と第2磁石18の両方に対して周方向に磁性体25,26が配置されている必要は必ずしもなく、第1磁石17と第2磁石18の一方にのみ磁性体が設けられてもよい。
【0062】
2]前記実施形態では、プーリ側の第1磁石17とハブ側の第2磁石18が回転軸方向に対向しているが、第1磁石17と第2磁石18がプーリの径方向に対向してもよい。例えば、図12に示すプーリ構造体1Bにおいては、プーリ2Bに、第1環状磁石体20Bが、磁性材料からなる環状の支持部材22Bを介して固定される一方で、ハブ3Bには、第2環状磁石体21Bが、磁性材料からなる環状の支持部材23Bを介して固定されている。また、プーリ2B側の第1環状磁石体20Bが、ハブ3B側の第2環状磁石体21Bの径よりも径が大きいものに形成された上で、第1環状磁石体20Bの内側に径方向に隙間を空けて第2環状磁石体21Bが配置されている。
【0063】
図13に示すように、外側に位置する第1環状磁石体20Bは、周方向に交互に配置された3つの第1磁石17Bと3つの磁性体25Bで構成されている。3つの第1磁石17Bは半径方向に磁化されており、内側の第2環状磁石体21Bと対向する内周面がN極、外周面がS極となっている。また、内側に位置する第2環状磁石体21Bは、周方向に交互に配置された3つの第2磁石18Bと3つの磁性体26Bで構成されている。3つの第2磁石18Bも半径方向に磁化されており、外側の第1環状磁石体20Bと対向する外周面がS極、内周面がN極となっている。
【0064】
このプーリ構造体1Bの、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときの作用は、前記実施形態のプーリ構造体1と基本的には同じである。即ち、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときには、第1環状磁石体20Bの第1磁石17Bと第2環状磁石体21Bの第2磁石18Bの周方向位置がずれるが、2種類の磁石17B,18B間に作用する引き合う方向の磁力により、プーリ2Bとハブ3Bの間には、回転速度差を解消する方向のトルクが発生する。また、プーリ2Bとハブ3Bの間に回転速度差が生じたときには、磁石17B(18B)と磁性体25B(26B)とが一部対向することになるため、回転速度差を解消する方向に過大なトルクが発生することはない。
【0065】
3]前記実施形態では、環状磁石体20,21を構成する複数の磁石17,18の磁極(別の環状磁石体との対向面の磁極)が、全て同じであったが、図14に示すように、複数の磁石の磁極が異なっていてもよい。この場合、第1磁石17と第2磁石18とが周方向にずれたときに、一方の磁石17(18)に、同極の他方の磁石18(17)の磁界(逆磁場)が多少は作用するかもしれないが、環状磁石体20(21)に含まれる複数の磁石17(18)は、それらの間に磁性体25(26)を介在させて周方向に配置されていることから、同極の第1磁石17と第2磁石18が直接対向することはあまりない。そのため、仮に各磁石17,18に逆磁場が作用したとしても磁石17,18の減磁は起こりにくい。
【0066】
4]プーリ2に生じた回転変動が非常に大きいと、第1磁石17と第2磁石18との間の磁力だけでは回転変動をすぐに減衰させることができないこともあり得る。そこで、プーリ2とハブ3との位相差が一定の角度に達したときに、それ以上の位相差の増大を抑制するストッパー構造が設けられてもよい。例えば、プーリ2の内周面とハブ3の内周面にそれぞれ突出部が設けられ、プーリ2とハブ3の位相差が一定の角度となったときに両者の突出部が周方向に当接(係合)することによりプーリ2とハブ3とを一体回転させ、位相差が増大する方向への相対回転するのを防止するようにしてもよい。
【0067】
5]前記実施形態では、第2磁石18をハブ3に取り付ける支持部材22,23が、磁性材料で形成されていたが、本発明はこのような形態に限られるものではない。例えば、第1磁石17や第2磁石18が、対応するプーリ2やハブ3に直接固定された上で、第1磁石17や第2磁石18にヨークの役割を果たす磁性材料が取り付けられてもよい。さらには、このようなヨークの役割を果たす磁性材料が省略されてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態として、エンジンの補機駆動システムのプーリ構造体に本発明を適用した一例について説明したが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。例えば、建築建材、家具、機械装置などの分野において、窓、ドア、蓋等の開閉部材の開閉角度に応じてトルクを変化させるために使用されるプーリ構造体など、様々な用途に使用されるプーリ構造体にも適用することが可能である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例と共に説明する。
【0070】
(実施例1)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、中心角45度の扇形で、回転軸方向に磁化されたネオジム磁石を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、第1磁石17と同じ形状に形成されたS25C材を使用した。そして、4つの第1磁石17と4つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作製した。
【0071】
ハブ3に設けられる第2磁石18としては、外径56mm、内径24mm、中心角45度の扇形で、回転軸方向に磁化されたネオジム磁石を使用した。また、この第2磁石18と組み合わされる磁性体26は、第2磁石18と同じ形状に形成されたS25C材を使用した。そして、4つの第2磁石18と4つの磁性体26とが周方向に交互に配置された、第2環状磁石体21を2つ作製した。また、一方の第2環状磁石体21のN極側と、他方の第2環状磁石体21のS極側に、外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材(支持部材22,23)をバックヨークとして張り合わせた。
【0072】
それぞれの磁化方向(磁極の位置)が同一になるように、1つの第1環状磁石体20を2つの第2環状磁石体21で挟んで配置した。尚、3つの環状磁石体21,20,21の配置間隔は0.5mmとした。これら3つの環状磁石体を、図1に示すプーリ2及びハブ3に取り付けて、プーリ構造体を作製した。
【0073】
(実施例2)
第1磁石17の外径を68mm、第2磁石18の外径を66mmとした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0074】
(実施例3)
第1磁石17、第2磁石18、及び、両磁石と組み合わされる磁性体25,26の中心角を30度とし、磁石17,18及び磁性体25,26の周方向配置数をそれぞれ6つとした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0075】
(比較例1)
実施例1において第1磁石17及び第2磁石18と周方向に並べて配置されるS25Cの磁性体25,26を、隣接する第1磁石17及び第2磁石18とは磁極が反対となる別の磁石で置き換えた(即ち、環状磁石体が磁石のみで構成された図8の構成)。また、上記以外は実施例1と同じ仕様とした。
【0076】
上述した実施例1〜3及び比較例1のプーリ構造体のそれぞれについて、プーリとハブの位相差とトルクとの関係を求めた。具体的には、ハブに装着された回転軸をトルクメータ(石戸電気製作所製:トルク測定機)の回転軸に挿入して、ハブをトルクメータと一体に回転可能とする一方で、プーリの表面を回転不能に機械的に固定した。この状態で、トルクメータを1.5rpmで反時計回り(正転)に回転させたときの、回転角とトルクの関係を求めた。その結果を図15〜図18に示す。
【0077】
磁石と磁性体とを組み合わせた実施例1〜3(図15〜図17)では、プーリとハブの位相差(回転角)とトルクが広い位相差範囲において、ほぼリニアな関係となっている。言い換えれば、捩りバネ定数が位相差によってそれほど変化しない。そのため、位相差が小さいときのトルクが小さく抑えられるため、共振が起こりにくい。一方、磁石のみを使用した比較例1(図18)では、位相差が小さいときのトルク変化率が非常に大きくなっていることがわかり、少しの位相差でも大きなトルクが作用して共振が生じやすくなる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B プーリ構造体
2,2A,2B プーリ
3,3A,3B ハブ
17,17B 第1磁石
18,18B 第2磁石
22,22A,22B 支持部材
23,23B 支持部材
25,25B 磁性体
26,26B 磁性体
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体を有するプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、相対回転可能に連結された2つの回転体を有するプーリ構造体として、2つの回転体の一方に回転変動が生じたときに、その回転変動を減衰させるための構成を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のプーリ構造体は、ベルトが巻回されるプーリ(第1回転体)と、プーリの内側において、このプーリに対して相対回転可能に設けられ、且つ、エンジンの出力軸に連結されるハブ(第2回転体)と、プーリとハブとを連結するゴム弾性体(ゴムカップリング)とを有する。そして、エンジンのトルク変動に応じてハブに回転変動が生じたときには、ハブとプーリの間のゴム弾性体が弾性変形することによって、その回転変動を吸収するように構成されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のプーリ構造体は、クランクシャフトに組み付けられたダンパ本体(第1回転体)と、ダンパ本体内側に設けられたダンパマス(第2回転体)とを有する。ダンパマスには、周方向に配置された複数の永久磁石が固定され、一方、ダンパ本体には、ダンパマスの複数の永久磁石と対向する銅板が固定されている。そして、クランクシャフトに生じた捩り振動に起因して、ダンパ本体とダンパマスの間に回転速度差が発生すると、永久磁石と銅板の間の速度差によって銅板に渦電流が発生する。このとき、銅板に発生した渦電流によって2つの回転体(ダンパ本体とダンパマス)の間に両者間の速度差を小さくするような力が作用し、ダンパ本体の回転変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−68540号公報
【特許文献2】特開2002−286094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のプーリ構造体のように、2つの回転体がゴム弾性体で連結されている場合には、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊に起因する故障が発生する。また、一方の回転体に過大な回転変動が生じたときには、ゴム弾性体にその弾性変形の範囲を超える過大な力が作用し、ゴム弾性体が破損してしまう虞もある。さらに、ゴム弾性体の弾性変形時の発音が問題になる場合もある。
【0007】
一方、特許文献2のプーリ構造体のように、永久磁石と銅板との間の速度差に起因して銅板に生じる渦電流によって、2つの回転体に両者の速度差を小さくするような抑制力を作用させる構成では、ゴム弾性体を用いる必要がないことから、上述したような問題は生じない。しかし、渦電流により2つの回転体に作用させることのできる抑制力はかなり小さいものであり、一方の回転体に生じる回転変動が大きい場合には、その回転変動を速やかに減衰させることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、ゴム弾性体を使用することなく、回転体に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能なプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のプーリ構造体は、第1回転体と、前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体に設けられた第1磁石と、前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石とを有し、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように磁性体が配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の構成によれば、第1回転体に設けられた第1磁石と第2回転体に設けられた第2磁石との間の磁束によって、第1回転体と第2回転体が相対回転可能な状態で連結されている。そして、一方の回転体に回転変動が発生して2つの回転体に回転速度差(位相のずれ、位相差)が生じたときには、第1磁石と第2磁石との間に働く磁力によって、第1回転体と第2回転体の間に、回転速度差を解消するようにトルクが作用する。これにより、一方の回転体に生じた回転変動が減衰される。
【0011】
ここで、第1回転体と第2回転体に、回転速度差が小さくなるように作用する、第1磁石と第2磁石の間の磁力は、従来の渦電流によって回転体に作用する抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、一方の回転体に大きな回転変動が生じた場合でも、その回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時の発音といった問題が生じない。
【0012】
さらに、本発明においては、第1磁石と第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように磁性体が配置されている。そのため、第1回転体と第2回転体との間に比較的小さな回転速度差(位相差)が生じたときには、相対向していた第1磁石と第2磁石の位相がずれて、一方の磁石が、他方の磁石と周方向に隣接している磁性体と対向することになる。このとき、位相がずれた第1磁石と第2磁石との間には、先にも述べたように、回転速度差を小さくするように磁力が発生するが、一部対向する磁性体と磁石との間では、異極の磁石同士のように反発する方向(即ち、回転速度差を小さくする方向)の磁力が大きく作用することはない。従って、2つの回転体の回転速度差が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、第1回転体と第2回転体の間で共振が発生するのを防止できる。また、磁性体と磁石が対向したときに、磁性体との間で磁石に逆磁場が大きく作用することはないため、逆磁場による磁石の減磁も防止できる。
【0013】
第2の発明のプーリ構造体は、前記第1の発明において、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方が、周方向に関して前記磁性体に挟まれていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、第1回転体と第2回転体との間の回転速度差(位相差)が、周方向2方向の何れの方向に生じても、第1磁石と第2磁石の一方の磁石が、他方の磁石と周方向に隣接している磁性体と対向することになるから、2つの回転体の回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることが抑制される。
【0015】
第3の発明のプーリ構造体は、前記第2の発明において、前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、複数の第1磁石と複数の第2磁石が周方向に分散して配置されることから、第1回転体と第2回転体との間で、周方向に関して均等にトルクを作用させることができる。
【0017】
第4の発明のプーリ構造体は、前記第3の発明において、前記複数の第1磁石の、前記第2磁石との対向面における磁極が全て等しく、前記複数の第2磁石の、前記第1磁石との対向面における磁極が全て等しく、且つ、前記第1磁石の磁極と異なる磁極であることを特徴とするものである。
【0018】
複数の第1磁石の対向面の磁極が全て等しく、また、複数の第2磁石の対向面の磁極が全て等しく、且つ、第1磁石の磁極とは異なっていることから、全ての第1磁石及び第2磁石に逆磁場が作用せず、この逆磁場による不可逆的な減磁が生じることがないため、回転変動の減衰機能の劣化が抑制される。
【0019】
第5の発明のプーリ構造体は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記第1回転体と前記第2回転体は非磁性材料からなり、前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方は、対応する前記回転体に、磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられていることを特徴とするものである。
【0020】
第1回転体と第2回転体とが磁性材料で形成されていると、第1磁石及び第2磁石から発生した磁束が、第1回転体及び第2回転体の内部を通って、両磁石の隙間を通らない閉回路を形成してしまい、磁石のエネルギーを効率的に利用できないという問題がある。しかし、第1回転体と第2回転体を非磁性材料で形成すると、第1磁石と第2磁石のそれぞれの対向面以外の面から、非磁性材料からなる第1回転体及び第2回転体を通過して多くの磁束が外部に漏洩してしまうという問題がある。そこで、本発明では、第1回転体と第2回転体を非磁性材料で形成した上で、さらに、第1磁石と第2磁石のうちの少なくとも一方が、対応する回転体に磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられており、この磁性材料からなる支持部材は、第1磁石と第2磁石の間を通るように磁束を導くヨークの役割を果たすことになる。つまり、第1磁石と第2磁石の互いの対向面以外からの磁束の漏洩を極力抑制し、第1磁石と第2磁石による磁力のエネルギーを、第1磁石と第2磁石の間に効果的に作用させることができるため、第1回転体と第2回転体との間でトルクを効率よく伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る補機駆動システムの概略構成図である。
【図2】プーリ構造体の回転軸を含む面に関する断面図である。
【図3】プーリとハブとの間に配置された環状磁石体の斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】プーリとハブの間に回転速度差がないときの、3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図6】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、プーリ構造体の図4相当の断面図である。
【図7】プーリとハブの間に回転速度差があるときの、3つの環状磁石体間での磁束の流れを模式的に示した図である。
【図8】磁石のみで構成された環状磁石体の斜視図である。
【図9】変更形態に係るプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図10】別の変更形態の環状磁石体の斜視図である。
【図11】別の変更形態の磁石及び磁性体の周方向配置を示す図である。
【図12】別の変更形態のプーリ構造体の、回転軸を含む面に関する断面図である。
【図13】図12のプーリ構造体の環状磁石体を、回転軸方向から見た図である。
【図14】別の変更形態の環状磁石体の斜視図である。
【図15】実施例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図16】実施例2のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図17】実施例3のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【図18】比較例1のプーリ構造体の回転角とトルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンの出力軸のトルクによって補機を駆動する、補機駆動システムに用いられるプーリ構造体に本発明を適用した一例である。
【0023】
図1は本実施形態の補機駆動システムの概略構成図である。図1に示すように、補機駆動システム100は、エンジンの出力軸101(レシプロエンジンのクランクシャフトや、ロータリーエンジンのエキセントリックシャフト等)に連結された駆動プーリ105と、ウォーターポンプやオルタネータ等の各種補機にそれぞれ連結された従動軸(補機軸)102,103と、従動軸102に取り付けられた従動プーリ104と、従動軸103に取り付けられた、本実施形態に係るプーリ構造体1のプーリ2と、駆動プーリ105、従動プーリ104、及び、プーリ構造体1のプーリ2にわたって架け渡された伝動ベルト106とを有する。尚、本実施形態では、伝動ベルト106として、ベルト長手方向に沿って互いに平行に延びる複数のVリブ106aを有するVリブドベルトが用いられている(図2参照)。
【0024】
出力軸101のトルクによって駆動プーリ105が回転駆動されると、その駆動プーリ105の回転により伝動ベルト106が駆動される。すると、この伝動ベルト106の走行に伴って、従動プーリ104やプーリ構造体1のプーリ2がそれぞれ回転駆動されることにより、従動軸102,103に連結されたウォーターポンプやオルタネータ等の補機がそれぞれ駆動される。
【0025】
次に、出力軸101から伝動ベルト106を介して伝達されるトルクを従動軸(補機軸)103に伝える、本実施形態のプーリ構造体1について詳細に説明する。図2は本実施形態のプーリ構造体1の回転軸Cを含む面に関する断面図である。図2に示すように、プーリ構造体1は、伝動ベルト106が巻回される円筒形状のプーリ2(第1回転体)と、従動軸(補機軸)103に連結されるとともにプーリ2の内側に設けられたハブ3(第2回転体)を備えている。また、プーリ2とハブ3は軸受5を介して相対回転可能に連結されている。尚、図2における右側をプーリ構造体1の先端側、図2における左側(従動軸(補機軸)103側)をプーリ構造体1の基端側と定義して以下説明する。
【0026】
プーリ2の外周部には、その周方向に沿って延びる複数のV溝11が形成されている。そして、伝動ベルト106は、その腹面側に形成された複数のVリブ106aが、複数のV溝11にそれぞれ係合した状態で、プーリ2の外周に巻回される。
【0027】
ハブ3は、回転軸方向に沿って同軸状に並ぶ2つの円筒部材3a,3bを有し、これら2つの円筒部材3a,3bは図示しない部分において連結され、一体化されている。このハブ3の2つの円筒部材3a,3bには従動軸103の先端部が嵌挿され、ボルト等の適宜の連結手段によって従動軸103とハブ3とが相対回転不能に連結される。尚、プーリ2、及び、ハブ3を構成する2つの円筒部材3a,3bは、それぞれ非磁性材料(常磁性体や反磁性体、あるいは、反強磁性体)で形成されている。尚、非磁性材料としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、あるいは、合成樹脂等を挙げられる。
【0028】
2つの円筒部材3a,3bのうち、基端側に位置する円筒部材3aに軸受5が設けられ、この軸受5を介してプーリ2が円筒部材3aに回転自在に連結されている。一方、先端側に位置する円筒部材3bと、プーリ2との間には、環状の磁石収容室16が形成され、この磁石収容室16内に、プーリ2に固定された第1環状磁石体20と、ハブ3の円筒部材3bに固定された2つの第2環状磁石体21が収容されている。
【0029】
図3は、図2に示される環状磁石体20,21の斜視図、図4は、図2のIV-IV線断面図である。図3、図4に示すように、第1環状磁石体20はその外周面においてプーリ2に固定されている。この第1環状磁石体20は3つの第1磁石17と3つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体25で構成されている。第1磁石17と磁性体25は、共に、中心角(60度)の略扇形形状を有し、3つの第1磁石17と3つの磁性体25が周方向に交互に並べて配置されることで、第1環状磁石体20が構成されている。
【0030】
第2環状磁石体21は、その内周面においてハブ3に固定されている。また、この第2環状磁石体21も、第1環状磁石体20と同じように、3つの第2磁石18と3つの磁性材料(好ましくは軟磁性材料)からなる磁性体26で構成されている。第2磁石18と磁性体26は、共に、中心角(60度)の略扇形形状を有し、3つの第2磁石18と3つの磁性体26が周方向に交互に並べて配置されることで、第2環状磁石体21が構成されている。
【0031】
また、プーリ2に固定された1つの第1環状磁石体20とハブ3に固定された2つの第2環状磁石体21は、プーリ2の回転軸Cの方向に隙間を空けて交互に配置されている。言い換えれば、第1磁石17を含む第1環状磁石体20が、回転軸方向に関して、第2磁石18を含む第2環状磁石体21に挟まれている。
【0032】
尚、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。永久磁石としては、ネオジム、サマリウムコバルト、フェライト、アルニコ、プラチナ、クロム、鉄、マンガン、アルミニウム、プラセオジムなどを成分とするものを使用できる。
【0033】
また、磁性体25と磁性体26を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト)等が挙げられる。他に、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ケイ素鋼等が使用できる。
【0034】
さらに、第1磁石17と第2磁石18は、それぞれ回転軸方向に磁化されている。そして、第1環状磁石体20を構成する3つの第1磁石17は、全て、基端側(図2、図3の左側)の面における磁極がN極、先端側の面(図2、図3の右側)の面における磁極がS極となっている。同じく、第2環状磁石体21を構成する3つの第2磁石18も、全て、基端側の面における磁極がN極、先端側の面における磁極がS極となっている。
【0035】
言い換えれば、第1環状磁石体20を構成する3つの第1磁石17の、第2磁石18との対向面における磁極は全て等しい。また、第2環状磁石体21を構成する3つの第2磁石18の、第1磁石17との対向面における磁極は全て等しく、且つ、第1磁石17の磁極とは異なる磁極となっている。従って、第1磁石17と第2磁石18との間には、常に引き合う方向の磁力が作用する。
【0036】
また、本実施形態では、回転軸Cの方向に関して交互に配置された3つの環状磁石体20,21のうち、中央に位置する第1環状磁石体20はプーリ2の内面に直接取り付けられている。取付方法としては、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。一方、回転軸方向に関して外側に位置する2つの第2環状磁石体21は、それぞれ2つの環状の支持部材22,23を介してハブ3(円筒部材3b)の外周面に取り付けられている。尚、2つの支持部材22,23のハブ3への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。また、2つの第2環状磁石体21の支持部材22,23への取付方法も、接着や、圧入、あるいは、ネジやボルト等による固定等の方法を採用できる。
【0037】
支持部材22,23は、支持対象である第2環状磁石体21(第2磁石18)の、第1環状磁石体20(第1磁石17)との対向面と反対側の面を覆うように設けられている。即ち、基端側(図2中左側)の支持部材22は第2環状磁石体21の基端側の面(図中左側の面)を覆うとともに、先端側の支持部材23は第2環状磁石体21の先端側の面(図中右側の面)を覆っている。また、2つの支持部材22,23は、それぞれ磁性材料(強磁性体)で形成されている。支持部材22,23を構成する磁性材料としては、軟鉄やフェライト(Ni−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライト、Ba系フェライト、あるいは、フェロックスプレーナ系フェライト)等が挙げられる。
【0038】
また、2つの支持部材22,23のうち、先端側(図2中右側)の第2環状磁石体21(第2磁石18)を支持する支持部材23は、第2環状磁石体21の外側面をも覆っている。その上で、プーリ2の内側面には環状の摺動部材24が設けられており、支持部材23の、第2環状磁石体21を覆う外周部23aが摺動部材24に対して摺動回転となっている。つまり、支持部材23の外周部23aと摺動部剤24とが軸受の役割を果たしている。尚、摺動部材24としては、表面摩擦抵抗が小さく、且つ、耐摩耗性に優れた材料を使用することが好ましく、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、真鍮、メッキ処理が施された真鍮、青銅、メッキ処理が施された青銅などを使用できる。あるいは、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、高分子量ポリエチレンなどの合成樹脂材料を使用することもできる。
【0039】
次に、本実施形態のプーリ構造体1の作用について説明する。図4に示すように、プーリ2とハブ3の間に回転速度差(位相差)がない状態では、プーリ2に固定された第1環状磁石体20の3つの第1磁石17と、ハブ3に固定された第2環状磁石体21の3つの第2磁石18とが、回転軸方向(図4の紙面垂直方向)に関して互いに対向している。
【0040】
図5は、プーリ2とハブ3の間に回転速度差がないときの、3つの第2環状磁石体21,20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。尚、図5では、各環状磁石体21,20,21に含まれる、1つの磁性体とそれを周方向に挟むように配置された2つの磁石を、環状磁石体の半径方向から見た図で示している。
【0041】
図5に示すように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差(位相差)がなく、両者が一体回転している状態では、第1環状磁石体20の第1磁石17と第2環状磁石体21の第2磁石18の周方向位置が一致しており、両磁石17,18が対向している。このとき、磁石のN極から出た磁束Bは、磁性材料からなる支持部材22,23と、磁石を周方向に挟むように配置された磁性体25,26とを通ってS極に至るように流れるが、2つの環状磁石体20,21の間では磁束Bの向きは回転軸方向(図5の左右方向)と平行である。従って、第1環状磁石体20が設けられているプーリ2と、第2環状磁石体21が設けられているハブ3との間で、トルクは発生していない。
【0042】
このように、プーリ2とハブ3が一体的に回転している状態から、エンジンで発生したトルク変動がベルト106を介して伝達されて、プーリ2に回転変動が生じると、プーリ2とハブ3の間には回転速度差(位相差)が生じる。
【0043】
この回転速度差が比較的小さい場合、図6に示すように、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18の周方向位置が少しずれるため、第1磁石17から見ると、先ほど対向していた第2磁石18と周方向に隣接する磁性体26と一部対向することになる。
【0044】
図7は、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じた状態での、3つの環状磁石体21,20,21間での磁束の流れを模式的に示した図である。この図7に示すように、第1磁石17と第2磁石18の周方向位置がずれることによって、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21との間を流れる磁束Bの向きは、回転軸方向(図7の左右方向)に対して傾くことになり、第1磁石17と第2磁石18の間に、周方向の位置ずれ(位相差)を解消するように磁力が作用する。そのため、第1磁石17(第1環状磁石体20)が固定されているプーリ2と第2磁石18(第2環状磁石体21)が固定されているハブ3の間に回転速度差が小さくなるようにトルクが発生する。これにより、プーリ2に生じた回転変動が、ハブ3に伝達される際に減衰される。
【0045】
このように、プーリ2とハブ3との間に回転速度差を小さくするように作用する、第1磁石17と第2磁石18の間の磁力は、従来知られている渦電流による回転変動抑制力に比べると、はるかに強力である。そのため、ハブ3に生じた回転変動を速やかに減衰させることが可能となる。また、回転変動を減衰するためにゴム弾性体を使用しないことから、ゴム弾性体の経年劣化や疲労破壊、あるいは、ゴム弾性体の弾性変形時における発音といった問題が生じない。
【0046】
ところで、本実施形態では、第1環状磁石体20と第2環状磁石体21は、永久磁石(第1磁石17と第2磁石18)と磁性体25,26とが交互に配置されて、磁石が磁性体25,26で挟まれた構成となっているが、永久磁石だけで環状磁石体を構成することも十分考えられる。例えば、図8に示すように、磁性体25,26の代わりに永久磁石を用いて、環状磁石体120,121を、周方向に隣接する磁石間で磁極が異なる6つの磁石17,18のみで構成する。この構成でも、上述したような、環状磁石体20,21間で回転速度差が小さくなるようなトルクを発生させるという作用は実現できる。
【0047】
しかし、図8の構成では、以下のような問題が生じる。即ち、プーリ2とハブ3の間(2つの環状磁石体120,121の間)に回転速度差が生じたときに、磁極が同じである第1磁石17と第2磁石18が対向することになる。そのため、異極の第1磁石17と第2磁石18との間の引き合う方向の磁力に加えて、同極の第1磁石17と第2磁石18との間に反発する方向の磁力が作用することになり、回転速度差(位相差)が小さいときであっても、その回転速度差を解消する方向にプーリ2とハブ3に作用するトルクが非常に大きなものとなる。このように、小さな回転速度差に対して、これを解消するトルクが大き過ぎると、プーリ2とハブ3の間で共振が発生する虞がある。従って、回転速度差(位相差)が小さいときにはこれを解消するトルクも小さくなるように、回転速度差(位相差)とトルクの関係が、ほぼリニアな関係に近くなることが好ましい。
【0048】
また、図8の構成では、プーリ2とハブ3の間に回転速度差が生じて、同極の第1磁石17と第2磁石18が対向したときに、相対向する第1磁石17と第2磁石18には、それぞれ、対向相手の磁石からの磁場(逆磁場)が作用することになる。そのため、この逆磁場によって第1磁石17と第2磁石18の双方に不可逆的な減磁が生じ、その結果、プーリ構造体1の回転変動減衰機能が低下する虞がある。
【0049】
一方、本実施形態のプーリ構造体1では、第1磁石17及び第2磁石18と周方向に沿って並ぶ磁性体25,26が設けられている。そして、プーリ2とハブ3との間に比較的小さな回転速度差が生じたときに、各磁石17(18)は、元々対向していた磁石18(17)に隣接する磁性体26(25)と一部対向することになるが、磁性体26(25)と磁石17(18)との間には反発する方向(即ち、位相差を解消する方向)に磁力が作用することはない。従って、回転速度差(位相差)が小さい場合に、この回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることがなく、プーリ2とハブ3との間で共振が発生するのを防止できる。尚、磁石17(18)に作用する逆磁場は、図8の構成に比較して小さくなる。
【0050】
また、プーリ2とハブ3との間に回転速度差が生じて磁石と磁性体とが対向した場合には、同極の磁石17,18が対向する場合とは異なり、不必要な外部磁界(逆磁場)が磁石17,18に作用することはない。従って、磁石17,18に不可逆的な減磁が生じて、回転変動減衰機能が低下することを防止できる。
【0051】
また、本実施形態では、3つの第1磁石17と3つの磁性体25、及び、3つの第2磁石18と3つの磁性体26が、周方向に交互に配置されることによって、第1磁石17と第2磁石18がそれぞれ磁性体25,26によって周方向に挟まれた構成となっている。そのため、プーリ2とハブ3との間の回転速度差が、周方向2方向の何れの方向に生じても、第1磁石17と第2磁石18が磁性体25,26と対向することになるから、回転速度差を解消するように作用するトルクが大きくなりすぎることが抑制される。また、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18が周方向に分散して配置されているため、プーリ2とハブ3との間で、周方向に関して均等なトルクを作用させることができる。
【0052】
また、本実施形態のプーリ構造体1においては、前述したように、第1磁石17(第1環状磁石体20)が設けられたプーリ2と、第2磁石18(第2環状磁石体21)が設けられたハブ3は、それぞれ、非磁性材料で形成されている。但し、これでは、第1磁石17と第2磁石18のそれぞれの対向面以外の面から、非磁性材料からなるプーリ2及びハブ3を通過して多くの磁束が外部に漏洩してしまうため、図2、図5、図7に示すように、第1磁石17を挟むように設けられた第2磁石18(第2環状磁石体21)は磁性材料からなる支持部材22,23によってハブ3に取り付けられている。
【0053】
これら磁性材料からなる2つの支持部材22,23は、第1磁石17と第2磁石18の間を通るように磁束を導くヨークの役割を果たすことになり、第1磁石17と第2磁石18の互いの対向面以外の面からの磁束の漏洩を極力抑制し、第1磁石17と第2磁石18による磁力のエネルギーを、第1磁石17と第2磁石18の間に効果的に作用させることができる。これにより、プーリ2とハブ3との間でトルクを効率よく伝達することが可能となる。
【0054】
また、図2に示すように、第1環状磁石体20(第1磁石17)と2つの第2環状磁石体21(第2磁石18)が、回転軸Cの方向に関して交互に配置されているため、第1磁石17と第2磁石18が回転軸方向に1つずつ設けられている場合と比べて、プーリ2とハブ3との間に作用する磁力が大きくなり、両者の間でトルクを確実に伝達できるようになる。また、回転軸方向に並ぶ3つの環状磁石体21,20,21のうち両外側に配置されている2つの第2環状磁石体21の、第1環状磁石体20との対向面と反対側の面が、支持部材22,23で覆われている。そのため、第2磁石18の前記対向面と反対側の面から磁束の一部が回転軸方向(第1磁石17と反対の方向)に漏れるのを確実に防止できる。さらに、図2に示すように、一方の支持部材23は、第2環状磁石体21の外側面をも覆っている。それにより、摺動部材24の軸受けになっている。
【0055】
また、本実施形態では、3つの第1磁石17と3つの第2磁石18は、それぞれ永久磁石で構成されている。そのため、プーリ2とハブ3とが、永久磁石から半永久的に発せられる磁束によって連結されることになり、長期間の使用によって経年劣化や疲労破壊等が生じるゴム弾性体と比べると、回転変動を減衰させる機能が低下したり、減衰不能に陥ったりという問題が生じにくい。
【0056】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0057】
1]第1磁石17、第2磁石18、及び、それらに設けられる磁性体のサイズ、形状、数、材質、配置等は、プーリやハブの形状や発生しうる回転変動の程度等に応じて、適宜変更可能である。
【0058】
例えば、プーリ2の回転軸方向に並ぶ環状磁石体20,21の数は、前記実施形態のような3つ(1つの第1環状磁石体20と2つの第2環状磁石体21)に限られるものではない。例えば、図9に示すプーリ構造体1Aのように、回転軸Cの方向に関して配置される第1環状磁石体20と第2環状磁石体21の数がそれぞれ1つであってもよい。あるいは、4以上の第1環状磁石体20,21が回転軸方向に交互に並ぶように設けられてもよい。
【0059】
また、1つの環状磁石体20,21を構成する磁石17,18の数も3つである必要はなく、適宜変更できる。別の言い方をすれば、略扇状に形成された1つの磁石17,18の中心角は、60度である必要はなく、45度や30度などの他の角度に変更してもよい。また、図10に示すように、180度の中心角を有する1つの磁石17(18)と1つの磁性体25(26)のみによって環状磁石体20(21)が構成されてもよい。さらに、磁石17,18の中心角と磁性体25,26の中心角を等しくする必要も特になく、両者の中心角を異ならせてもよい。
【0060】
さらには、磁石17,18と磁性体25,26が周方向全周にわたって配置されて環状の磁石体を構成する必要はなく、図11のように、周方向一部分にのみ磁石17(18)と磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。また、1つの磁石17(18)に対して周方向両側に磁性体25(26)が配置されている必要もなく、この図11のように、周方向一方側にのみ磁性体25(26)が配置された構成であってもよい。
【0061】
また、第1磁石17と第2磁石18の両方に対して周方向に磁性体25,26が配置されている必要は必ずしもなく、第1磁石17と第2磁石18の一方にのみ磁性体が設けられてもよい。
【0062】
2]前記実施形態では、プーリ側の第1磁石17とハブ側の第2磁石18が回転軸方向に対向しているが、第1磁石17と第2磁石18がプーリの径方向に対向してもよい。例えば、図12に示すプーリ構造体1Bにおいては、プーリ2Bに、第1環状磁石体20Bが、磁性材料からなる環状の支持部材22Bを介して固定される一方で、ハブ3Bには、第2環状磁石体21Bが、磁性材料からなる環状の支持部材23Bを介して固定されている。また、プーリ2B側の第1環状磁石体20Bが、ハブ3B側の第2環状磁石体21Bの径よりも径が大きいものに形成された上で、第1環状磁石体20Bの内側に径方向に隙間を空けて第2環状磁石体21Bが配置されている。
【0063】
図13に示すように、外側に位置する第1環状磁石体20Bは、周方向に交互に配置された3つの第1磁石17Bと3つの磁性体25Bで構成されている。3つの第1磁石17Bは半径方向に磁化されており、内側の第2環状磁石体21Bと対向する内周面がN極、外周面がS極となっている。また、内側に位置する第2環状磁石体21Bは、周方向に交互に配置された3つの第2磁石18Bと3つの磁性体26Bで構成されている。3つの第2磁石18Bも半径方向に磁化されており、外側の第1環状磁石体20Bと対向する外周面がS極、内周面がN極となっている。
【0064】
このプーリ構造体1Bの、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときの作用は、前記実施形態のプーリ構造体1と基本的には同じである。即ち、プーリ2Bとハブ3Bとの間に回転速度差が生じたときには、第1環状磁石体20Bの第1磁石17Bと第2環状磁石体21Bの第2磁石18Bの周方向位置がずれるが、2種類の磁石17B,18B間に作用する引き合う方向の磁力により、プーリ2Bとハブ3Bの間には、回転速度差を解消する方向のトルクが発生する。また、プーリ2Bとハブ3Bの間に回転速度差が生じたときには、磁石17B(18B)と磁性体25B(26B)とが一部対向することになるため、回転速度差を解消する方向に過大なトルクが発生することはない。
【0065】
3]前記実施形態では、環状磁石体20,21を構成する複数の磁石17,18の磁極(別の環状磁石体との対向面の磁極)が、全て同じであったが、図14に示すように、複数の磁石の磁極が異なっていてもよい。この場合、第1磁石17と第2磁石18とが周方向にずれたときに、一方の磁石17(18)に、同極の他方の磁石18(17)の磁界(逆磁場)が多少は作用するかもしれないが、環状磁石体20(21)に含まれる複数の磁石17(18)は、それらの間に磁性体25(26)を介在させて周方向に配置されていることから、同極の第1磁石17と第2磁石18が直接対向することはあまりない。そのため、仮に各磁石17,18に逆磁場が作用したとしても磁石17,18の減磁は起こりにくい。
【0066】
4]プーリ2に生じた回転変動が非常に大きいと、第1磁石17と第2磁石18との間の磁力だけでは回転変動をすぐに減衰させることができないこともあり得る。そこで、プーリ2とハブ3との位相差が一定の角度に達したときに、それ以上の位相差の増大を抑制するストッパー構造が設けられてもよい。例えば、プーリ2の内周面とハブ3の内周面にそれぞれ突出部が設けられ、プーリ2とハブ3の位相差が一定の角度となったときに両者の突出部が周方向に当接(係合)することによりプーリ2とハブ3とを一体回転させ、位相差が増大する方向への相対回転するのを防止するようにしてもよい。
【0067】
5]前記実施形態では、第2磁石18をハブ3に取り付ける支持部材22,23が、磁性材料で形成されていたが、本発明はこのような形態に限られるものではない。例えば、第1磁石17や第2磁石18が、対応するプーリ2やハブ3に直接固定された上で、第1磁石17や第2磁石18にヨークの役割を果たす磁性材料が取り付けられてもよい。さらには、このようなヨークの役割を果たす磁性材料が省略されてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態として、エンジンの補機駆動システムのプーリ構造体に本発明を適用した一例について説明したが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。例えば、建築建材、家具、機械装置などの分野において、窓、ドア、蓋等の開閉部材の開閉角度に応じてトルクを変化させるために使用されるプーリ構造体など、様々な用途に使用されるプーリ構造体にも適用することが可能である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例と共に説明する。
【0070】
(実施例1)
プーリ2に設けられる第1磁石17としては、外径58mm、内径26mm、中心角45度の扇形で、回転軸方向に磁化されたネオジム磁石を使用した。また、この第1磁石17と組み合わされる磁性体25は、第1磁石17と同じ形状に形成されたS25C材を使用した。そして、4つの第1磁石17と4つの磁性体25とが周方向に交互に配置された、第1環状磁石体20を1つ作製した。
【0071】
ハブ3に設けられる第2磁石18としては、外径56mm、内径24mm、中心角45度の扇形で、回転軸方向に磁化されたネオジム磁石を使用した。また、この第2磁石18と組み合わされる磁性体26は、第2磁石18と同じ形状に形成されたS25C材を使用した。そして、4つの第2磁石18と4つの磁性体26とが周方向に交互に配置された、第2環状磁石体21を2つ作製した。また、一方の第2環状磁石体21のN極側と、他方の第2環状磁石体21のS極側に、外径56mm、内径24mm、厚み5mmのS25C材(支持部材22,23)をバックヨークとして張り合わせた。
【0072】
それぞれの磁化方向(磁極の位置)が同一になるように、1つの第1環状磁石体20を2つの第2環状磁石体21で挟んで配置した。尚、3つの環状磁石体21,20,21の配置間隔は0.5mmとした。これら3つの環状磁石体を、図1に示すプーリ2及びハブ3に取り付けて、プーリ構造体を作製した。
【0073】
(実施例2)
第1磁石17の外径を68mm、第2磁石18の外径を66mmとした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0074】
(実施例3)
第1磁石17、第2磁石18、及び、両磁石と組み合わされる磁性体25,26の中心角を30度とし、磁石17,18及び磁性体25,26の周方向配置数をそれぞれ6つとした以外は、実施例1と同じ仕様とした。
【0075】
(比較例1)
実施例1において第1磁石17及び第2磁石18と周方向に並べて配置されるS25Cの磁性体25,26を、隣接する第1磁石17及び第2磁石18とは磁極が反対となる別の磁石で置き換えた(即ち、環状磁石体が磁石のみで構成された図8の構成)。また、上記以外は実施例1と同じ仕様とした。
【0076】
上述した実施例1〜3及び比較例1のプーリ構造体のそれぞれについて、プーリとハブの位相差とトルクとの関係を求めた。具体的には、ハブに装着された回転軸をトルクメータ(石戸電気製作所製:トルク測定機)の回転軸に挿入して、ハブをトルクメータと一体に回転可能とする一方で、プーリの表面を回転不能に機械的に固定した。この状態で、トルクメータを1.5rpmで反時計回り(正転)に回転させたときの、回転角とトルクの関係を求めた。その結果を図15〜図18に示す。
【0077】
磁石と磁性体とを組み合わせた実施例1〜3(図15〜図17)では、プーリとハブの位相差(回転角)とトルクが広い位相差範囲において、ほぼリニアな関係となっている。言い換えれば、捩りバネ定数が位相差によってそれほど変化しない。そのため、位相差が小さいときのトルクが小さく抑えられるため、共振が起こりにくい。一方、磁石のみを使用した比較例1(図18)では、位相差が小さいときのトルク変化率が非常に大きくなっていることがわかり、少しの位相差でも大きなトルクが作用して共振が生じやすくなる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B プーリ構造体
2,2A,2B プーリ
3,3A,3B ハブ
17,17B 第1磁石
18,18B 第2磁石
22,22A,22B 支持部材
23,23B 支持部材
25,25B 磁性体
26,26B 磁性体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体に設けられた第1磁石と、
前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石と、
を有し、
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように、磁性体が配置されていることを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方が、周方向に関して前記磁性体に挟まれていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、
前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記複数の第1磁石の、前記第2磁石との対向面における磁極が全て等しく、
前記複数の第2磁石の、前記第1磁石との対向面における磁極が全て等しく、且つ、前記第1磁石の磁極と異なる磁極であることを特徴とする請求項3に記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記第1回転体と前記第2回転体は非磁性材料からなり、
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方は、対応する前記回転体に、磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体に設けられた第1磁石と、
前記第2回転体に前記第1磁石と対向可能に設けられた第2磁石と、
を有し、
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方にあっては、周方向に沿って並ぶように、磁性体が配置されていることを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方が、周方向に関して前記磁性体に挟まれていることを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1回転体に複数の前記第1磁石が設けられ、前記複数の第1磁石と前記磁性体とが周方向に関して交互に配置されるとともに、
前記第2回転体にも複数の前記第2磁石が設けられ、前記複数の第2磁石と前記磁性体とが周方向に介して交互に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記複数の第1磁石の、前記第2磁石との対向面における磁極が全て等しく、
前記複数の第2磁石の、前記第1磁石との対向面における磁極が全て等しく、且つ、前記第1磁石の磁極と異なる磁極であることを特徴とする請求項3に記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記第1回転体と前記第2回転体は非磁性材料からなり、
前記第1磁石と前記第2磁石の少なくとも一方は、対応する前記回転体に、磁性材料からなる支持部材を介して取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のプーリ構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−174908(P2010−174908A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14922(P2009−14922)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
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