説明

プーリ

【課題】異音が発生するのを効果的に抑制することができるプーリを提供する。
【解決手段】プーリPは、互いに逆向きで軸方向に並設される一対のプーリ部1を備えている。各プーリ部1は、内側円筒部11と、内側円筒部11と同心に配置されているとともに外周にベルト3が巻き掛けられる円筒状の外側円筒部12と、内側円筒部11と外側円筒部12との間に配置された円環部13とを有している。一対のプーリ部1における各円環部13の側面13a1同士は、各円環部13の軸方向の振動を吸収する軸方向吸振部材4を挟んで軸方向に対向して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンの補機等に用いられるプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において、オルタネータ等の補機にエンジンの回動動力を伝達するためのベルト伝動系には、テンショナプーリやアイドラプーリ等のベルトをガイドするプーリが設けられている。このプーリとして、転がり軸受の外周において互いに軸方向に逆向きに並設された一対のプーリ部(環状板)を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された各プーリ部は、転がり軸受の外輪に外嵌される内側円筒部と、外周にベルトが巻き掛けられる外側円筒部と、内側円筒部と外側円筒部とを相互に連結する円環部とを備えている。前記内側円筒部、外側円筒部及び円環部は、単一の金属板を断面が「コ」の字形になるようにプレス加工することによって一体に形成されており、一対のプーリ部の円環部同士は、その一側面同士を互いに軸方向に対向させた状態で、リベット等により一体化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−20957号公報(第4図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたプーリにあっては、各プーリ部を形成する金属板の加工精度等に起因して、軸方向に対向して配置された各円環部の一側面同士の間に隙間が生じることがあった。このような隙間が生じると、プーリの回転中に各円環部が振動することによって異音が発生するという問題があった。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、異音が発生するのを効果的に抑制することができるプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明のプーリは、互いに逆向きで軸方向に並設される一対のプーリ部を備え、前記各プーリ部は、内側円筒部と、前記内側円筒部と同心に配置されているとともに外周にベルトが巻き掛けられる円筒状の外側円筒部と、前記内側円筒部と外側円筒部とを連結する環状の円環部とを有し、前記一対のプーリ部における各円環部の一側面同士が互いに軸方向に対向して配置されるプーリであって、前記一対のプーリ部における各円環部の一側面の間に介在し、当該各円環部の軸方向の振動を吸収する軸方向吸振部材を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明のプーリによれば、一対のプーリ部の各円環部が軸方向に振動したときに、その振動を軸方向吸振部材によって吸収することができるため、ベルトの回転中に各円環部が軸方向に振動するのを抑制することができる。これにより、各円環部の振動に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0008】
また、前記プーリは、前記一対のプーリ部の各内側円筒部は、転がり軸受の外輪の径方向外方に配置されており、前記外輪と前記各内側円筒部との間に介在し、前記各内側円筒部の径方向の振動を吸収する径方向吸振部材をさらに備えていることが好ましい。
この場合、転がり軸受の外輪と一対のプーリ部の各内側円筒部との間に隙間が生じることに起因して各内側円筒部が径方向に振動したときに、その振動を径方向吸振部材によって吸収することができる。これにより、ベルトの回転中に各内側円筒部が径方向に振動するのを抑制することができるため、各内側円筒部の振動に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプーリによれば、各円環部の振動に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るプーリを示す正面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図1のB−B矢視断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るプーリを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明のプーリの実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るプーリを示す正面図であり、図2は図1のA−A矢視断面図である。図2において、プーリPは、転がり軸受2の外周に装着されるものであり、このプーリPの外周にベルト3が巻き掛けられている。
【0012】
転がり軸受2は、内輪21と、内輪21と同心に配置された外輪22と、内輪21と外輪22との間に転動自在に配置された複数個の玉(転動体)23と、これらの玉23を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器24と、内輪21と外輪22との間の環状空間を軸方向両外側で密封する一対のシール部材25とを備えたラジアル玉軸受である。内輪21の内周面には、軸(図示省略)が嵌合され、この軸とプーリPとが転がり軸受2を介して相対回転可能とされる。
【0013】
プーリPは、互いに逆向きで軸方向に並設された一対のプーリ部1を備えている。各プーリ部1は、外輪22の径方向外方に配置された円筒状の内側円筒部11と、内側円筒部11の径方向外方において内側円筒部11と同心に配置された円筒状の外側円筒部12と、内側円筒部11と外側円筒部12との間に配置された円環状の円環部13とを有している。内側円筒部11、外側円筒部12及び円環部13は、ステンレス鋼からなる単一の金属板をプレス加工(深絞り加工)することによって一体に形成されている。金属板の板厚は、従来の板厚(約1.6mm〜2.0mm)の約50%以下となるように、1.0mm以下に設定されている。
各プーリ部1の内側円筒部11は、外輪22の軸方向両外側からそれぞれ外輪22に外嵌固定されている。
【0014】
外側円筒部12の外周には、ベルト3を巻き掛けた状態でガイドする案内面12aが形成されている。また、外側円筒部12は、その軸方向外端部において径方向内側に向かって円弧状に折り曲げて形成された折曲部12bを有している。この折曲部12bは、外側円筒部12の軸方向外端部が変形するのを防止する補強部として機能している。なお、折曲部12bは、円弧状に折り曲げられているが、径方向内側に向かって直角に折り曲げて形成されていてもよい。
【0015】
円環部13は、内側円筒部11と外側円筒部12とを軸方向内端部において相互に連結している。この円環部13は、図1及び図2に示すように、円環本体部13aと、円環本体部13aの軸方向外側において円周方向に所定間隔毎に形成された複数のリブ部13bとを有している。各プーリ部1の円環本体部13a同士は、その軸方向内側の側面(一側面)13a1同士を後述する軸方向吸振部材4を挟んで互いに軸方向に対向して配置させた状態で、例えばリベット(図示省略)により一体化されている。
【0016】
図3は図1のB−B矢視断面図である。図2及び図3において、リブ部13bは、円環部13を補強するものであって、円環本体部13aに対して軸方向外側に突出して形成されている。より具体的には、リブ部13bは、その径方向外端から径方向内端に向かって軸方向外側に漸次傾斜するように形成されている。
【0017】
プーリPは、一対のプーリ部1の各円環部13の間に介在する軸方向吸振部材4をさらに備えている。軸方向吸振部材4は、各円環部13の軸方向の振動を吸収するものであり、ゴム等のエラストマー材料により円環状に形成されている。また、軸方向吸振部材4は、各円環部13の円環本体部13aの軸方向内側の側面に面接触した状態で、前記リベットにより各円環部13に固定されている。軸方向吸振部材4の内径は、転がり軸受2の外輪22と干渉しないように、内側円筒部11の内径よりも大径に形成されている。また、軸方向吸振部材4の外径は、ベルト3と干渉しないように、外側円筒部12の外径よりも小径に形成されている。
【0018】
以上、本発明の実施形態に係るプーリPによれば、一対のプーリ部1の各円環部13が軸方向に振動したときに、その振動を軸方向吸振部材4によって吸収することができるため、ベルト3の回転中に各円環部13が軸方向に振動するのを抑制することができる。これにより、各円環部13の振動に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。なお、「軸方向に振動」とは、軸方向にのみ振動する場合だけでなく、軸方向に対して傾斜した方向に振動する場合においてその傾斜方向の振動に対する軸方向の分力による振動も含む意味である。
【0019】
また、各プーリ部1の外側円筒部12の折曲部12b及び円環部13のリブ部13bにより、各プーリ部1の剛性を確保することができるため、各プーリ部1を形成する金属板の板厚を薄くすることができる。この結果、プーリPの軽量化を図ることができ、エンジンの燃費性能を向上させることができる。本実施形態では、上述のように金属板の板厚を1.0mm以下に設定することにより、プーリP及び転がり軸受2の全重量を、従来のプーリ及び転がり軸受の全重量と比較して、約80%低減することができる。
さらに、各プーリ部1の内側円筒部11、外側円筒部12及び円環部13は、防錆性に優れたステンレス鋼からなる金属板により形成されていることから、金属板に防錆のための表面処理を施す必要がないので、製造コストを低減することができる。
【0020】
図4は、本発明の他の実施形態に係るプーリを示す側断面図である。このプーリPは、転がり軸受2の外輪22と各プーリ部1の内側円筒部11との間に介在する径方向吸振部材5をさらに備えている。この径方向吸振部材5は、各内側円筒部11の径方向の振動を吸収するものであり、ゴム等のエラストマー材料により円筒状に形成されている。径方向吸振部材5の内周面は、外輪22の外周面に面接触しており、径方向吸振部材5の外周面は、各プーリ部1の内側円筒部11の内周面に面接触している。なお、径方向吸振部材5は、軸方向吸振部材4と別体として設けられているが、軸方向吸振部材4と一体に形成されていてもよい。
【0021】
以上、この実施形態に係るプーリPにおいても、軸方向吸振部材4によってベルト3の回転中に各円環部13が軸方向に振動するのを抑制することができるため、各円環部13の振動に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
また、転がり軸受2の外輪22と一対のプーリ部1の各内側円筒部11との間に隙間が生じることに起因して各内側円筒部11が径方向に振動したときに、その振動を径方向吸振部材5によって吸収することができる。これにより、ベルト3の回転中に各内側円筒部11が径方向に振動するのを抑制することができるため、各内側円筒部11の振動に起因する異音の発生も効果的に抑制することができる。なお、「径方向に振動」とは、径方向にのみ振動する場合だけでなく、径方向に対して傾斜した方向に振動する場合においてその傾斜方向の振動に対する径方向の分力による振動も含む意味である。
【0022】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、各円環部の間に単一の軸方向吸振部材が固定されているが、この軸方向吸振部材を軸方向(厚み方向)に2分割し、これら2つの軸方向吸振部材を各円環部にそれぞれ固定するようにしてもよい。
また、プーリ部の各部を一体に形成する金属板は、ステンレス鋼以外に、SPCC等の冷延鋼板からなるものであってもよい。
さらに、上記実施形態のプーリは、転がり軸受の外周に装着される場合について例示したが、軸に直接的に固定されるボスの外周に装着されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0023】
1:プーリ部、2:転がり軸受、3:ベルト、4:軸方向吸振部材、5:径方向吸振部材、11:内側円筒部、12:外側円筒部、13:円環部、13a1:側面(一側面)、22:外輪、P:プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに逆向きで軸方向に並設される一対のプーリ部を備え、
前記各プーリ部は、内側円筒部と、前記内側円筒部と同心に配置されているとともに外周にベルトが巻き掛けられる円筒状の外側円筒部と、前記内側円筒部と外側円筒部とを連結する環状の円環部とを有し、前記一対のプーリ部における各円環部の一側面同士が互いに軸方向に対向して配置されるプーリであって、
前記一対のプーリ部における各円環部の一側面の間に介在し、当該各円環部の軸方向の振動を吸収する軸方向吸振部材を備えていることを特徴とするプーリ。
【請求項2】
前記一対のプーリ部の各内側円筒部は、転がり軸受の外輪の径方向外方に配置されており、
前記外輪と前記各内側円筒部との間に介在し、前記各内側円筒部の径方向の振動を吸収する径方向吸振部材をさらに備えている請求項1に記載のプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87901(P2013−87901A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230547(P2011−230547)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】