説明

ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法

【課題】 これまで廃棄処分するしかなかったヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)製造時に副生するウレア残さに、アルカリ等の加水分解促進剤を添加することなく、再利用可能なヘキサメチレンジアミン(HDA)を回収でき、また、反応装置の腐食性の問題を起こすことのないHDI系ポリウレアの分解処理方法を提供する。
【解決手段】 HDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で加水分解することを特徴とする、HDI系ポリウレア化合物の分解処理方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサメチレンジイソシアネート(以後、HDIと略称する)系ポリウレア化合物を加水分解してヘキサメチレンジアミン(以後、HDAと略称する)を回収する、HDI系ポリウレア化合物の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリオールとの重付加反応により合成される高分子材料である。ポリウレタンは、配合、処方、成形方法等により、種々の物性を付与することが可能である。このため、フォーム、エラストマー、塗料、接着剤等多種多様に利用されている。
【0003】
ポリウレタンの原料であるイソシアネートは、対応するアミンをホスゲンと反応させることにより得られているが、この際の副生成物として、ポリウレア化合物を含有する残さが生成する。この残さは、常温下で固化するタール状の物質であり、ハンドリングが難しいため、従来はもっぱら焼却処理される廃棄物であった。
【0004】
この残さを分解・回収する方法として、超臨界状態又は亜臨界状態の水を用いてウレア残さを処理する方法が特許文献1に提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−136264号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、超臨界状態又は亜臨界状態の水とするためには、高温(臨界温度=374℃)・高圧(臨界圧力=22.1MPa)のという過酷な条件が必要であるため、重厚な設備を必要とする。また超臨界状態又は亜臨界状態の水は、金属腐食の問題を内包しており、反応容器他の装置の維持管理が煩雑となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、これまで廃棄処分するしかなかったHDI製造時に副生するポリウレア化合物を含有する残さに、アルカリ等の加水分解促進剤を添加することなく、再利用可能なアミン化合物を回収でき、また、反応装置の腐食性の問題を起こすことのないHDI系ポリウレア化合物の分解処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、HDI系ポリウレア化合物を、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中にて、加水分解させることにより、HDAの効率的な回収、及びそのための好適条件を見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(4)に示されるものである。
【0009】
(1)HDI系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で加水分解して、HDAを回収することを特徴とする、HDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0010】
(2)加水分解時の圧力が3MPa以上であることを特徴とする、前記(1)のHDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0011】
(3)加水分解時の温度が180℃以上であることを特徴とする、前記(1)、(2)のHDI系ウレア化合物の分解処理方法。
【0012】
(4)HDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍〜120倍であることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかのHDI系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【0013】
本発明において、HDI系ポリウレア化合物とは、主に−NH−CO−NH−なる基(ウレア基)と−(CH26−が隣接する化合物であり、前記ウレア基の一部がビウレット基となっているものも含む。具体的には、主にHDI製造時に副生する残さとして生成するものである。また残さとは、HDI製造時に発生する残さを意味する。
【0014】
本発明の分解に用いられるHDI系ポリウレア化合物としてはHDI製造時に副生する残さであればいずれの工程で発生したものでもよい。具体的には、HDA製造工程、HDAとホスゲンの反応工程、HDI精製工程等のいずれかで副生する残さである。これら残さは各工程においては溶融、溶解していてもよい。なお本発明に適用できる残さとしてはホスゲンを用いて製造されるHDIには限定されず、非ホスゲン法で製造する場合それらの各工程のいずれかの工程で副生する残さをも分解することができることは言うまでもない。
【0015】
残さとしてはいずれを用いても良いが通常、各工程で発生した残さを固液分離工程、蒸留工程等により液状成分と分離した後に用いられる。
【0016】
これらHDI製造時に副生する残さは主としてアミン、イソシアネート等の熱重縮合物からなる混合物である。熱重縮合物は例えばウレア(ウレタン)、ビウレット、カルボジイミド、イソシアヌレート等の基又は環を有している。特にこれらの基又は環を複数有する複雑な構造を有する化合物が多く含有されている。
【0017】
上記の残さ中に含有するHDI系ポリウレア化合物は、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素中で、HDAに加水分解される。加水分解時の圧力は、分解効率の点から3MPa以上であることが好ましく、特に4.8MPa以上が特に好ましい。
【0018】
分解温度は180℃以上が好ましく、特に185℃以上が好ましい。温度が低い場合は分解速度が遅くなる。
【0019】
HDI系ポリウレア化合物と水の割合は、HDI系ウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍〜120倍上であることが好ましく、特に20倍から80倍が好ましい。水の量が少なすぎる場合は、ウレア化合物への水の拡散が不十分になると思われる。多すぎる場合はウレア化合物への二酸化炭素の拡散が不十分になると思われる。
【0020】
HDI系ポリウレア化合物の分解時間は、特に制限されないが、所定温度に達した後、1分〜300分、好ましくは1分〜150分の範囲で行う。
【0021】
水と、HDI系ポリウレア化合物の混合加熱は、以下のいずれの方法によってもよいが、3)が好ましい。
1)水とHDI系ポリウレア化合物とを予め所定の温度にしておいて混合する。
2)水を、HDI系ポリウレア化合物と混合したときに所定温度になるように加熱しておき、加熱された水とHDI系ポリウレア化合物とを混合することにより分解温度とする。
3)水とHDI系ポリウレア化合物を予めスラリー調製ドラム等において所定濃度になるように混合してスラリーを調製した後、分解温度まで加熱する。
【0022】
このようにしてHDI系ポリウレア化合物を分解して得られた水溶液中には、HDAが主成分として含まれていることは言うまでもなく、HDAを通常の蒸留や抽出等の方法によって容易に回収することができる。回収されたHDAは、必要によりさらに精製されたのち、HDI製造工程に原料として用いることができる。その他、ナイロンなどHDAから得られる各種樹脂の原料としても使用可能である。
【0023】
HDAが分離された水溶液中には二酸化炭素を主成分とする軽沸点成分が溶解しているが、これをスチームストリッピング等を実施することにより除去したのち、あるいは除去することなく、加水分解用の水として循環使用することもできる。あるいは、通常の廃水処理をしたのち排水することもできる。
【0024】
HDI製造時の蒸留残さとは、イソシアネートの製造設備のいずれかの工程において蒸留することによって発生した蒸留残さであればいずれでもよい。通常、主にアミン製造工程又はアミンとカルボニル源例えばホスゲンとを反応する工程で得られた反応液を蒸留することにより生じる。
【0025】
この蒸留残さの副生量はその製造方法によって異なるが、製造されるHDIに対して約10wt%程度の量である。この蒸留残さは通常液状であり、揮発成分を数10%、例えば50〜10wt%含有している。
【0026】
本発明において、上記蒸留残さから揮発成分を実質的に含有しない状態までに回収する装置としては薄膜蒸発器、ニーダー等攪拌及び加熱手段を有する装置等通常の揮発回収工程において用いられるものが挙げられる。これらの中で特にピストンフロー性を有する二相流型蒸発装置を用いることが好ましい。
【0027】
ピストンフロー性を有する蒸発装置とは、装置の上流から下流への一定方向に向かって被蒸発体が流れる設備のことを意味する。二相流型蒸発装置とは、少なくとも気液、気固のいずれかの二相の流れを有する蒸発装置であり、気液固の三相が共存してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、従来産業廃棄物として処分されていたHDI製造時の残さをアルカリ等の添加剤を使うことなく、HDAに効率よく変換することが可能となった。
【実施例】
【0029】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を何等制限するものではない。
【0030】
〔HDI系ポリウレア化合物の合成〕
メカニカルスターラーをつけたセパラブルフラスコ中で、減圧蒸留したヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を32.7gをジメチルホルムアミド(DMF)80mlに溶解させた。HDIのDMF溶液を撹拌しながら、蒸留水4.0g/DMF100mlの混合液を、滴下ロートを用いて、室温にて2時間かけてHDIのDMF溶液に加えた。その後、80℃のオイルバスにて8時間、撹拌しながら加熱混合を続けた。加熱後、反応液は乳濁した沈殿物を生じた。これを濾過し、濾物をアセトンとメタノールにて数回洗浄した後、減圧乾燥して、白色粉末状のHDI系ポリウレア化合物を得た。このHDI系ポリウレア化合物は、DMF、ジメチルスホキシド(DMSO)、メタノール、クロロホルムには溶解しなかった。
【0031】
〔ウレア化合物の分解〕
実施例1〜8、比較例1〜5
マグネットスターラーを入れた容量:200mlのステンレス製オートクレーブに、前記HDI系ポリウレア化合物0.5g及び所定量の水(比較例4は不使用)を仕込み、容器内の空気を二酸化炭素で置換した。その後、オートクレーブに液化炭酸ガスを仕込み、バンドヒーターを取り付けて1時間加熱し、所定の内圧及び温度に達したところで、所定の時間撹拌した。その後、氷浴にオートクレーブを浸けて、すばやく冷却した後、常圧に戻し、反応混合物をメタノールで濾過して、メタノールへの可溶物と不溶物に分けて回収した。実施例の結果を表1、2に示す。表2は、表1のデータを後述するグラフのプロットに対応させたものである。不溶物(濾物)をFT−IR測定したところ(図1)、分解前のHDI系ポリウレア化合物のチャートと大きな差は見られなかった。また、可溶物を 1H−NMR測定したところ(図2)、当該物質はヘキサメチレンジアミン(HDA)と同定できた。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
FT−IR測定条件
機器 :FTS3000型FT−IR測定装置(Bio−Rad社製)
測定法 :KBr法
検出器 :MCT
測定範囲:400〜4000cm-1
感度 :2
分解能 :4cm-1
積算回数:32
1H−NMR測定条件
溶媒 :D2
測定装置:超伝導多核種磁気共鳴装置JNM−GC400(日本電子社製)
積算回数:8回
【0035】
表1に示されている温度と圧力は、水の臨界条件(374℃、22.1MPa)に達していないので、水は超臨界状態にはなっていないと判断できる。実施例1〜8の全てでHDI系ポリウレア化合物の加水分解が確認できた。しかし比較例では、HDI系ポリウレア化合物の分解量は不十分であった。
【0036】
表1、2のRun1〜5(比較例1、実施例1〜4)について、縦軸に分解率、横軸に圧力としたグラフを図3に示す。図3から、Run2で分解率99%を達成し、Run3〜5では分解率は100%であった。これは、圧力が高いと、二酸化炭素がHDI系ポリウレア化合物へ十分に拡散し、ウレア基間の水素結合を阻害して、HDI系ポリウレア化合物の結晶性を低下させたためと考えられる。この結果から、分解時の圧力は3MPa以上、好ましくは4.8MPa以上が適しているということが言える。
【0037】
表1、2のRun7、6、3(比較例3、2、実施例3)について、縦軸に分解率、横軸に温度としたグラフを図4に示す。図4から、十分な分解率となるためには、温度が180℃以上であることが分かる。この結果から、分解時の温度は180℃以上、好ましくは185℃以上が適しているということが言える。
【0038】
表1、2のRun9、10、3、11(実施例5、6、2、比較例5)について、縦軸に分解率、横軸に水仕込み量としたグラフを図5に示す。図5から、Run9、10、3は、分解率が90%以上あり、良好な結果となったが、Run11の分解率は非常に低いものであった。水の量が多すぎる場合は、二酸化炭素の拡散レベルが低いためと考えられる。この結果から、HDI系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍〜120倍が最適範囲であることが言える。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Run6における、分解前のHDI系ポリウレア化合物及び分解後の濾物のFT−IRチャートである。
【図2】メタノール可溶物の1H−NMRチャートである。
【図3】温度一定下(190℃)、圧力を変化させたときのHDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図4】圧力一定下(6.8MPa)、温度を変化させたときのHDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【図5】温度一定(190℃)、圧力ほぼ一定(6.8〜7.0MPa)下、水添加量を変化させたときのHDI系ポリウレア化合物の分解結果である。
【符号の説明】
【0040】
図1において
(a):分解前のHDI系ポリウレア化合物のFT−IRチャートである。
(b):分解後の濾物のFT−IRチャートである。
図2において
a:アミノ基に隣接するメチレン基の水素のピークである。
b:アミノ基からメチレン基を1個分乖離したところのメチレン基の水素のピークである。
c:アミノ基からメチレン基を2個分乖離したところのメチレン基の水素のピークである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物を超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素中で加水分解して、ヘキサメチレンジアミンを回収することを特徴とする、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項2】
加水分解時の圧力が3MPa以上であることを特徴とする、請求項1記載のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項3】
加水分解時の温度が180℃以上であることを特徴とする、請求項1又は2記載のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。
【請求項4】
ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の質量に対して、水の質量が20倍〜120倍であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレア化合物の分解処理方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−53055(P2010−53055A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218165(P2008−218165)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】