説明

ヘッドアップディスプレイ

【課題】簡易な構成のもので3色以上の多数色の中から任意の単色カラーでの表示を可能とするとともに、表示する色を各種変更したり切替えたりすることができるヘッドアップディスプレイを提供する。
【解決手段】光源30と、液晶表示素子10Bと、光源30と液晶表示素子10Bとの間に配置され、光源30からの光のうち特定波長帯の可視光を選択的に透過する波長変更調整手段60と、波長変更調整手段60又は光源30の姿勢を変更させて、波長変更調整手段60に対する光源30からの光の入射角度を変更させる入射角度変更手段70と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から出射する、可視光帯の各種光の波長の中から何れか所望のものを選択的に透過させることで、照明光の色を変更或いは切替え可能とすることができるヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示パネル等の透過型表示素子から発せられる表示光を車両のフロントガラスあるいはコンバイナ等の専用の反射部材に照射し、この照射によって得られた表示像を車両の利用者に視認させるヘッドアップディスプレイ(以下、HUDと呼ぶ)が提案され開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このHUD100は、図9に示すように、透光性の窓部101を備えたハウジング102の内部に表示装置103及び反射鏡104を収容したものであり、表示装置103が発した表示光Lは、反射鏡4で反射されて車両のフロントガラスあるいはコンバイナに投影(照射)され、虚像(表示像)を表示するものである。この場合、表示装置103は、図10に示すように緑色光L1を発する緑色LEDからなる第1の光源105と、赤色光L2を発する赤色LEDからなる第2の光源106と、緑色光L1を透過させるとともに赤色光L2を反射させるダイクロイックミラー(透過反射部材)107と、緑色光L1と赤色光L2とが混色された混合光L3にて照明される液晶表示パネル(透過型表示素子)108とを有している。
【0004】
第1,第2の光源105,106は、図示しない光源駆動回路から所定の電力(電流値)を供給されて発光する複数個の発光ダイオードからなり、このうち、第1の光源105は、図10において、ダイクロイックミラー107の右方に配設され、第2の光源106は、同図中、ダイクロイックミラー107の下方に配設される。ダイクロイックミラー107は、ガラス基板の前面(液晶表示パネル108の背面と向かい合う面)に蒸着により形成された反射膜107aを有してなるもので、緑色光L1の進行方向並びに赤色光L2の進行方向に対して各々45度の傾きを有するように傾斜配置される。
【0005】
かかる構成によれば、第1の光源105から発せられる緑色光L1と、第2の光源106から発せられる赤色光L2とが、ダイクロイックミラー107を通じて混色されて液晶表示パネル108側に混合光(橙色光)L3として進み、これにより液晶表示パネル108が、混合光L3で透過照明される。そして、液晶表示パネル108を透過照明してなる混合光L3は、液晶表示パネル108から表示光Lとして出射される。かかる液晶表示パネル8が出射してなる表示光Lは、反射鏡104で反射されて前記車両のフロントガラス等に照射され、この照射によって得られた前記表示像を車両の利用者に視認させる。これにより、車両の利用者は、表示像を風景と重畳させて視認することができる。
【0006】
ところで、第1の光源105である緑色LEDや第2の光源106である赤色LEDから発せられる光は、放射角(光照射領域角度)が大きく、様々な方向へ進む。このため、ダイクロイックミラー107に入射される緑色LED(第1の光源105)からの光(放射光)は、ダイクロイックミラー107における背面107b(反射膜107aが形成される面とは反対側の面)に対して入射角が異なる状態で入射される。またダイクロイックミラー107に入射される赤色LED(第2の光源106)からの光(放射光)は、ダイクロイックミラー107における反射膜107aの形成された面に対して入射角が異なる状態で入射される。
【0007】
そして、任意の入射位置からダイクロイックミラー107内を透過した緑色光(緑色光L1の一部)と、その入射位置にてダイクロイックミラー107を通じて反射される赤色光(赤色光L2の一部)とが混色されて、第1の混合光(混合光L3の一部)となる。これと同時に別の入射位置からダイクロイックミラー107内を透過してなる緑色光(緑色光L1の一部)と、その入射位置にてダイクロイックミラー107を通じて反射される赤色光(赤色光L2の一部)とが混色されて、第2の混合光(混合光L3の一部)となる。
【0008】
しかしながら、上述した第1の混合光と第2の混合光のように、ダイクロイックミラー107に対する各光源105a,106aの光の入射角が異なる構成にて混色された光にあっては、第1の混合光を構成する緑色光と赤色光とのバランスと、第2の混合光を構成する緑色光と赤色光とのバランスが崩れてしまうという現象が生じる。その理由は、各光源105a,106aの光が理想入射角を有してダイクロイックミラー107に到達する場合と、理想入射角とは異なる入射角を有してダイクロイックミラー107に到達する場合とでは、ダイクロイックミラー107の透過率特性(つまり、透過率と波長との関係を示す透過率曲線)が大きくシフトしてしまうからである(ここでは図11参照)。換言すれば、ダイクロイックミラー107は、45度の理想(基準)入射角に対して光の入射角のずれが生じると、その透過率特性が大きく変化(変動)するという特性を有するものである。
【0009】
従って、第1の混合光と第2の混合光とからなる第3の混合光は、色ムラを起こした状態(第2の混合光が第3の混合光よりもやや赤っぽくなってしまった状態)で液晶表示パネル108を透過照明し、これに伴い液晶表示パネル108が発する表示光Lの前記フロントガラス等への照射により形成される前記表示像が色ムラを有した状態で利用者に視認されてしまうなど、という問題点を有していた。
【0010】
そこで、表示像の色ムラを抑制し、さらに表示像の視認性を良好にすることも可能としたHUDが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
即ち、このHUD200は、図12に示すように、緑色光L1を発する第1の光源201、赤色光L2を発する第2の光源202、及び、緑色光L1を透過させるとともに赤色光L2を反射させるダイクロイックミラー203を有する光源部210と、緑色光L1並びに赤色光L2を含む照明光L3にて照明される透過型表示素子220とを備え、透過型表示素子220から発せられる表示光Lをフロントガラスに照射し、この照射によって得られた表示像を利用者に視認させるヘッドアップディスプレイであって、第1,第2の光源201,202から発せられる緑色光L1、赤色光L2は、略平行光束化された状態でダイクロイックミラー203に各々入射されてなり、且つダイクロイックミラー203と透過型表示素子220との間に拡散部材230を配設した。これにより、表示像の色ムラを抑制すると同時に表示像の視認性を良好にすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−295105号公報
【特許文献2】特開2008−209665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらのHUDにあっては、光源部にダイクロイックミラーを付設させており、2種類の波長の光を選択的に透過及び反射させるだけである。換言すれば、単に2種類の波長の光を取り扱う構成となっているので、3色以上の多色の色でのディスプレイ表示を行うことができない。このため、多数色のカラーでの表示などが可能となるとともに、表示する色の種類を変更可能とするような、ヘッドアップディスプレイの開発が望まれている。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成のもので3色以上の多数色の中から任意の単色カラーでの表示を可能とするとともに、表示する色を各種変更したり切替えたりすることができるヘッドアップディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するために、本発明に係るヘッドアップディスプレイは、下記(1)を特徴としている。
(1) 可視光帯域の波長の光を出射する光源と、
液晶表示素子と、
前記光源と前記液晶表示素子との間に配置され、前記光源からの光のうち特定波長帯の可視光を選択的に透過する波長変更調整手段と、
前記波長変更調整手段又は前記光源の姿勢を変更させて、前記波長変更調整手段に対する前記光源からの光の入射角度を変更させる入射角度変更手段と、
を備えた、
こと。
【0016】
上記(1)の構成のヘッドアップディスプレイによれば、簡易な構成のもので3色以上の多数色の中から任意の単色カラーでの表示を可能とするとともに、低コストで表示する色を各種変更したり切替えたりすることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘッドアップディスプレイによれば、簡易な構成のもので3色以上の多数色の中から任意の単色カラーでの表示を可能とするとともに、低コストで表示する単色カラーの色を各種変更したり切替えたりすることが可能になる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイを示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイの波長変更調整手段を構成する干渉膜フィルタの透過特性を示すグラフである。
【図3】その干渉膜フィルタの概略構成及び作用を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイの入射角度変更手段の具体例を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイの第1のLEDからの光のみが透過する様子を示す光路図である。
【図6】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイの第2のLEDからの光のみが透過する様子を示す光路図である。
【図7】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイの第3のLEDからの光のみが透過する様子を示す光路図である。
【図8】本発明に係るヘッドアップディスプレイの他の光源での波長分布特性と波長変更調整手段を構成する干渉膜フィルタの透過特性との関係を示すグラフである。
【図9】従来のヘッドアップディスプレイの構成を示す説明図である。
【図10】そのヘッドアップディスプレイの内部に用いる表示装置の構成を示す説明図である。
【図11】その表示装置内部に備えるダイクロイックミラーの透過特性を示すグラフである。
【図12】従来の他のヘッドアップディスプレイの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のヘッドアップディスプレイ10を示すものである。本実施形態のヘッドアップディスプレイ10は、表示色の変更調整可能な光源装置10Aと、液晶表示素子10B、を備えており、光源装置10A及び液晶表示素子10BがハウジングHに収容されている。
【0021】
光源装置10Aは、液晶表示素子10Bのバックライト用光源として用いられている。光源装置10Aには、基板20に実装された光源30と、この光源30から出射される可視光を平行光に加工するレンズアレイ40と、このレンズアレイ40を通過後の可視光の輝度を均等な分布配置に拡散させる拡散手段50と、入射する可視光の波長を変化又は調整させる波長変更調整手段60と、波長変更調整手段60に対する光源30からの可視光の入射角度を変更させる入射角度変更手段70と、を備えている。
【0022】
光源30は、可視光の波長帯域の光を出射する構成のものであって、本実施形態では、図2に示すように、R(赤)、G(緑)、B(青)の各固有波長の光(又はこれに近い波長の光)を出射する3種類のLEDが組み合わせて用いられている。
【0023】
このうち、図2に示すように、第1のLEDは、ピーク波長がλRMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、R(赤色)用のものが用いられている。第2のLEDは、ピーク波長がλGMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、G(緑色)用のものが用いられている。第3のLEDは、ピーク波長がλBMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、B(青色)用のものが用いられている。
【0024】
これらのLEDは、各光軸が基板20に対して垂直上方向(Z方向)となるように配設されており、各光軸方向に対して所定波長で最大光量となるとともに、その波長からずれた波長帯域の部分では光量が大きく減衰する、縦モードの大きな出射分布を有しているものを用いている。なお、これらのLEDについては、上記のような波長分布のものに特に限定されるものではなく、後述する効果を同様に奏することができるものであれば、互いに隣の波長帯域のLEDのものと多少重なり合うような波長分布を有する構成のものなどであっても勿論可能である。
【0025】
また、これらのLEDでは、ここから出射する光が波長変更調整手段60へ入射するときの入射角度がゼロである垂直入射の場合に、後述する波長変更調整手段60のフィルタとしての各波長選択機能が十分に機能しない虞れもある。従って、その場合には、出射する光の進行する光路(光軸)を、基板20に対して垂直方向を避けた状態に設置させる、別言すれば最大光量となる光軸を通過する光源からの光が波長変更調整手段60に対して斜入射するように配置させるのが好ましい。
【0026】
これらのLEDの配置については、出射分布の状態や、その大きさと実装する基板20との相対的な広さとの関係などにもよるが、ある程度の広さを有するエリアにわたってバックライトを供給させる場合には、3種類のLEDを所要の距離間隔及び所定の2次元配置で実装させるようにしてもよい。また、比較的狭いエリアに対してバックライトを供給させる場合には、3種類のLEDを基板20の中央部に集約させて実装させるようにしてもよい。さらに、この光源30としては、後述する所要の効果を奏することができるのであれば、例えば可視光帯域の光をまとめて出射する白色ランプなどを用いるような構成であっても構わない。
【0027】
レンズアレイ40は、光源30から所定の角度範囲内で出射する光を入射させることで、平行光を形成するものであって、例えばコリメータレンズなどで構成されている。このように、平行光を形成することで、領域的に色むらのない、均一なカラーの単色光が形成或いは切替可能となる。その結果、バックライトとして、各種カラーで色むらのない単色光を液晶表示素子10Bに供給させることが可能になる。
【0028】
拡散手段50は、ヘッドアップディスプレイ10の全面に亘って輝度にむらのない、均一光量で視認しやすい画面表示を実現させるものである。本実施形態の拡散手段50には、透過減衰量を可及的に抑えることができる適宜材質を用いて平行平板に形成したガラス基板(或いは、例えばPMMAなどのような透過性の高いプラスチック樹脂製の基板など)において、その表面にすりガラスのような微差な凹凸加工を施した構成となっている。なお、この拡散手段としては、本実施形態のようなすりガラス構造のものに限定されるものではなく、同様の効果を奏するものであればそれでも可能である。
【0029】
波長変更調整手段60は、光源30と液晶表示素子10Bとの間に配置され、光源30から出射の光のうち特定波長の可視光を選択的に透過させるものであり、本実施形態ではフィルタ、より具体的には、例えば誘電体多層膜等で構成した干渉膜フィルタを用いている。この干渉膜フィルタは、原理的には、図3に示すように、大小2種類の屈折率の異なる薄膜を交互に数十層或いは数百層、繰り返し蒸着積層させた構成のものであって、入射角度に応じて一意に決定される光学距離から、この光学距離に対応して一義的に決定される所定波長の光のみが透過するのを許容するものである。
【0030】
即ち、この干渉膜フィルタは、厚さh1で屈折率nの薄膜層1と、厚さh2で屈折率nの薄膜層2とを交互に多数層積層されている。このように構成されている干渉膜フィルタでは、例えば図2に示すように、入射角θのときに波長λRMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、R(赤色)用の第1のLEDが透過特性がほぼ100%(正確には90〜95%)近い割合で透過可能となるような構成になっている。
【0031】
また、上記構成の干渉膜フィルタでは、入射角θのときに波長λGMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、G(緑色)用の第2のLEDが透過特性がほぼ100%(正確には90〜95%)近い割合で透過可能となるような構成になっている。
【0032】
同様に、上記構成の干渉膜フィルタでは、入射角θのときに波長λBMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、B(青色)用の第3のLEDが透過特性がほぼ100%(正確には90〜95%)近い割合で透過可能となるような構成になっている。
【0033】
この波長変更調整手段60は、拡散手段50を透過後に進行する各波長の光、つまり、各LEDから出射して拡散手段50を透過してきた各波長の光が、一定の所定の光路を進行してきて、波長変更調整手段60の第1層目、つまり最下層目のものに入射する。ここで、波長変更調整手段60の姿勢(傾斜角度)が一定不動であれば、内部を通過するときの光学距離も一定不動であるので、最終的に透過が許容される波長も一定不動であって、透過する光の波長も固定され変更させることができない。
【0034】
ところが、本発明では、後述する入射角度変更手段70によって波長変更調整手段60の姿勢(傾斜角度)を変更させることで、各固有波長の光の入射角度がそれぞれ変更させるので、スネルの法則に従ってそれぞれ各波長によって異なる固有の屈折角度で屈折する。その結果、干渉膜フィルタを通過可能となる(予め設計されて決定されている)最適な光学距離に対応する波長光も、入射角度に対応して変動することとなる。このようにして、透過可能な光の固有波長を変更させることが可能となる(つまり、透過波長を可変とする機能が付与されるようになる)ので、波長変更調整手段60を透過可能な光の色(波長)が変化可能となるわけである。換言すれば、波長変更調整手段60の姿勢を変化させることで、入射する各種の固有波長の光から所望の波長の光(色)を選択的に抽出させて透過させ、バックライトの色を変更させることができるようになる。
【0035】
入射角度変更手段70は、波長変更調整手段を傾斜又は所定角度回動させることで、光源30に対する波長変更調整手段の傾斜角度を変更させるものであり、ピエゾ素子、形状記憶合金、ステップモータ、又は手動操作機構などで構成されている。
【0036】
本実施形態の入射角度変更手段70は、図4に示すように、波長変更調整手段60の一側端に固定した突起部材61に、ワイヤW1を介して一端が取り付けられるとともに他端がハウジングHに固定された引張ばね71と、突起部材61にワイヤW2を介して取付けられたスライダ72と、このスライダ72に設けた雌ねじと螺合する雄ねじが切られたボールねじ73と、ボールねじ73の基端部に固着された出力軸を有するステップモータ74と、スライダ72の回り止めとともにスライダ72の移動方向を案内するガイドシャフト75とを備えている。なお、本実施形態では、ステップモータの駆動力でボールねじ73を回転することにより、波長変更調整手段60の傾斜姿勢を精密に角度調整するように構成したが、これ以外に、上記したようなピエゾ素子などを用いて波長変更調整手段60の傾斜姿勢を自動的に角度調整させたり、適宜の構成の手動操作機構を用いて手動操作するように構成してもよい。
【0037】
一方、波長変更調整手段60の中央部には、回動中心となる支軸62を一体に取り付けてあるが、波長変更調整手段60を透過する光の進路の障害となるのを回避するため、光の通過する波長変更調整手段60の全面を避けた側面中央部に設置してある。
【0038】
次に、本実施形態の作用について、主に図2の干渉膜フィルタの透過特性を示すグラフ、及び図5〜図7に示す各LEDからの光の透過光路図を参照しながら、詳細に説明する。
但し、ここでは、干渉膜フィルタの透過特性については、この干渉膜フィルタの傾斜角度(姿勢)が大きくなるにつれて、透過可能となる光の種類もその固有波長の長さが増大したものを透過させるように構成してあるが、特にこれに限定されるものではなく、逆の相関性を有する構成のものであってもよい。つまり、干渉膜フィルタの傾斜角度が大きくなるほど、透過可能な光は次第に波長が短いものとなるような構成であってもよい。
【0039】
I)波長変更調整手段60である干渉膜フィルタが当初水平状態の姿勢の場合;
光源30を点灯動作させると、第1のLED〜第3のLEDからの各出射光、例えば各光軸の近傍付近を進行する光が、干渉膜フィルタの下面から入射する。
その結果、例えば図5に示すように、ピーク波長λRMで波長帯域がλ<λ<λである波長特性を有する、R(赤色)用の第1のLEDは、波長変更調整手段60である干渉膜フィルタに対して入射角度θで入射するので、図2に示すように、ほぼ100%の割合で選択的に透過させることができる。勿論、このような姿勢の干渉膜フィルタに対しては、図2に示す透過特性に従い、第2、第3のLEDから出射する光は全く(100%)透過させない特性なので完全にカットされ、赤色の光のみが液晶表示素子10Bを背面から照明するバックライト光となる。これにより、液晶表示素子10Bは赤色という単色でのカラー画面表示を行う。
【0040】
次に、入射角度変更手段70を作動させると、波長変更調整手段60である干渉膜フィルタはいずれかの方向、つまり時計回り(又は反時計回りでも同様)に回動していくが、その回動角度が、図2に示す入射角度θから十分に離れた小さなものであるとする。そのときには、第1のLEDの波長である赤色の光が透過特性内にあるので、透過率が低下するものの光量を抑えた赤色の光のみが透過する。その結果、液晶表示素子10Bは淡い赤色でのカラー画面表示を行うこととなる。
【0041】
その後、入射角度変更手段70をさらに作動させると、波長変更調整手段60である干渉膜フィルタはさらに回動して姿勢(角度)が傾いていく。そのとき、これに応じて各LEDからの光入射角度も変化するのに対応し、図2に示す、光透過可能となる波長帯域が、各LEDの光が透過可能となるときの入射角度のはざまにある間は、何れのLEDからの光も透過させない。従って、バックライトとしては何らの光も存在しないこととなり、液晶表示素子10Bは表示動作が停止した状態となってしまう。このため、この傾斜角度領域を素早く通過して、第2のLEDの波長帯域内の光を透過可能とする傾斜角度まですばやく回動させるようにする必要がある。従って、図2に示すように、第2のLEDの波長帯域λ〜λの波長を透過させる入射角度θとなるような傾斜角度α(又はその近傍。図6参照)の傾き姿勢となるように、干渉膜フィルタを所定の角度まで速やかに回動(傾斜)させることが好ましい。
【0042】
II)波長変更調整手段60である干渉膜フィルタが傾斜角度α又はこれに近い姿勢の場合;
この場合には、図6に示すように、第2のLEDからの光が干渉膜フィルタに対して入射角度θで入射するので、図2に示すように、第2のLEDからの光である固有波長λの光のみをほぼ100%の割合で選択的に透過させることができる。勿論、このような姿勢の干渉膜フィルタに対しては、第1、第3のLEDから出射する光は全て(100%)透過させないのでこれらは完全にカットされ、緑色の光のみが液晶表示素子10Bを背面から照明するバックライト光となる。これにより、液晶表示素子10Bは緑色という単色でのカラー画面表示を行う。
【0043】
同様にして、入射角度変更手段70をさらに作動させ、図2に示すように、第3のLEDの波長帯域λ〜λの波長を透過させる入射角度θとなるような傾斜角度β(又はその近傍。図7参照)の傾き姿勢とする。
【0044】
III)波長変更調整手段60である干渉膜フィルタが傾斜角度β又はこれに近い姿勢の場合;
この場合には、図7に示すように、第3のLEDからの光が干渉膜フィルタに対して入射角度θで入射するので、図2に示すように、第3のLEDからの光である固有波長λの光のみをほぼ100%の割合で選択的に透過させることができる。勿論、このような姿勢の干渉膜フィルタに対しては、第1、第2のLEDから出射する光は全く(100%)透過させないので完全にカットされ、青色の光のみが液晶表示素子10Bを背面から照明するバックライト光となる。これにより、液晶表示素子10Bは青色という単色でのカラー画面表示を行う。
【0045】
従って、本実施形態によれば、簡易な構成のもので3種類の色のカラー、つまり、RGBの各色のうちのいずれであっても、それらの所望の単色を選択的に抽出してカラー表示させることが可能となる。また、入射角度変更手段70を動作させることで、これらの各色の単色でのカラー表示を機械的に随時変更したり切替えたりすることが、容易に可能になる。
しかも、本実施形態によれば、バックライトとなる光源装置10Aの光源30としてLEDを用いることで、LED発光出力の利用効率を向上し、消費電力と発熱を低減させることも可能となる。
【0046】
さらに、例えば車両の速度を検出する速度計からの速度信号に応じて、上記3種類の光(色)うちのいずれかのカラーでの表示を切り替えるようにすることで、例えば、低速走行時にはR(青色)でのディスプレイ表示、中速走行時にはG(緑色)でのディスプレイ表示、高速走行時にはR(赤色)でのディスプレイ表示などを行うように構成することで、速度の出し過ぎを色で注意喚起することも可能となる。
【0047】
また、上記実施形態では、図2に示すように、第1〜第3のLEDの波長特性を互いに重複させない分布特性としたが、例えば互いに周辺部分で重なり合うような構成、つまり図8に示すような構成の光源(LEDなど)を用いるようにしてもよい。このような光源を用いれば、同図において、波長λ〜λの重合領域Yの波長の光が透過するような、所定の入射角度θで入射する第1及び第2の光源からの光は、それぞれ、波長変更調整手段を透過することができるので、これらR、Gの混合色がバックライトとなって、液晶表示素子10Bを背面から照明することとなる。これにより、液晶表示素子10Bは黄色(Y)という単色でのカラー画面表示を行うことが可能となる。従って、波長変更調整手段60を無段階で回動させることにより、無段階でバックライトの色を変更させることも可能となる。換言すれば、連続的に無段階で表示色を変化させることができる。
【0048】
同様に、同図において、波長λ〜λの重複領域Cの波長の光が透過するような、所定の入射角度θで入射する第2及び第3の光源からの光は、それぞれ、波長変更調整手段を透過することができるので、これらG、Bの混合色がバックライトとなって、液晶表示素子10Bを背面から照明することとなる。これにより、液晶表示素子10Bはシアン(C)という単色でのカラー画面表示を行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、入射角度変更手段70を、波長変更調整手段60を回動させることで実現しているが、光源が実装されている基板側を回動させることで構成することも可能であり、このような構成で同様の効果が得られるようであれば、それでもよい。
【0050】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0051】
10 ヘッドアップディスプレイ
10A (表示色の変更調整可能な)光源装置
10B 液晶表示素子
20 基板
30 光源
40 レンズアレイ
50 拡散手段
60 波長変更調整手段
61 突起部材
62 支軸
70 入射角度変更手段
71 引張ばね
72 スライダ
73 ボールねじ
74 ステップモータ
75 ガイドシャフト
H ハウジング
W1、W2 ワイヤ
α、β (干渉膜フィルタの)傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光帯域の波長の光を出射する光源と、
液晶表示素子と、
前記光源と前記液晶表示素子との間に配置され、前記光源からの光のうち特定波長帯の可視光を選択的に透過する波長変更調整手段と、
前記波長変更調整手段又は前記光源の姿勢を変更させて、前記波長変更調整手段に対する前記光源からの光の入射角度を変更させる入射角度変更手段と、
を備えた、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−58272(P2012−58272A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198295(P2010−198295)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】