説明

ヘッドモーショントラッカ装置

【課題】頭部装着装置を装着した装着者の視界の広範囲の視界を確保しつつ、装着者があらゆる方向に向いても、装着者の頭部の動きを測定することができるヘッドモーショントラッカ装置を提供する。
【解決手段】頭頂部材11と透明な顔面部材12とを有する頭部装着装置10と、頭頂部材11に取り付けられる複数の光学マーカーと、顔面部材12に取り付けられ、赤外光を反射する複数の透明な反射マーカーと、赤外光を照射する光源と、立体視で赤外光を検出するカメラ装置と、カメラ装置で検出された赤外光に基づいて、光学マーカー及び/又は反射マーカーのそれぞれの現在位置を含むマーカー位置情報を算出するマーカー位置情報算出部と、マーカー位置情報に基づいて、カメラ装置に対する頭部装着装置10の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学方式のヘッドモーショントラッカ装置(以下、HMT装置ともいう)に関し、例えば、ゲーム機や乗物等で用いられる頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度(すなわち、現在の頭部位置及び頭部角度)を測定するHMT装置等に利用される。
ここで、光学方式のHMT装置とは、反射板や発光体等のマーカーを取り付けたヘルメット等を頭部に装着して、マーカーの位置を立体視が可能なカメラ装置で測定することにより、頭部の動きを追跡する装置をいう。
【背景技術】
【0002】
時々刻々と変動する物体の現在位置や現在角度を正確に測定する技術は、様々な分野で利用されている。例えば、ゲーム機では、バーチャルリアリティ(VR)を実現するために、頭部装着型表示装置付ヘルメットを用いることにより、映像を表示することがなされている。このとき、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度に合わせて、映像を変化させる必要がある。よって、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するために、HMT装置が利用されている。
【0003】
また、救難飛行艇による救難活動では、発見した救難目標を見失うことがないようにするため、頭部装着型表示装置付ヘルメットのバイザーに表示される照準画像と、バイザーを通して視認される救難目標とが対応した時にロックすることにより、ロックされた救難目標の位置を演算することが行われている。このとき、その救難目標の位置を演算するために、飛行体(救難飛行艇)の緯度、経度、高度、姿勢に加えて、飛行体に設定された相対座標系に対するパイロットの頭部位置及び頭部角度を測定している。このときに、HMT装置が利用されている。
【0004】
このような頭部装着型表示装置付ヘルメットに利用されるHMT装置としては、光学的に頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に、光学マーカー群として発光体であるLED(発光ダイオード)を互いに離隔するようにして複数箇所に取り付け、これらのLEDの頭部装着型表示装置付ヘルメット上における相対的な位置関係をHMT装置に予め記憶させておく。そして、これらのLEDを、設置場所が固定された2台のカメラで同時に撮影することで、所謂、三角測量の原理により、現在の少なくとも3個のLEDの相対的な位置関係を測定している。これにより、頭部装着型表示装置付ヘルメット上に固定された3点の位置(3つのLEDの位置)を特定することで、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を算出している。
【0005】
ここで、上述したような光学方式のHMT装置で、3個のLEDの相対的な位置関係を測定するためには、3個のLEDをそれぞれ識別する必要がある。よって、頭部装着型表示装置付ヘルメットには、それぞれが識別可能なLEDが取り付けられている。例えば、頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に、互いに異なる波長の赤外光を発光するLEDを互いに離隔するようにして取り付け、各LEDのそれぞれの相対的な位置関係をHMT装置に予め記憶させておく。そして、3個のLEDを波長差によりそれぞれ識別することで、3個のLEDのそれぞれの現在位置を測定していた。
なお、識別情報を有さない各LEDを、1個1個順番に点灯させることにより、識別することも考えられるが、1個1個順番に点灯させなければならないので、時々刻々と変化する頭部装着型表示装置付ヘルメットの動きをモニタリングすることは困難である。
【0006】
そこで、本出願人は、図4に示すような頭部装着型表示装置付ヘルメット50に取り付けられた、複数個のLED15a〜15iのそれぞれの位置を識別する際に、LED15a〜15iに識別情報を持たせたり、1個1個順番に点灯させたりすることもなく、LED15a〜15iを同一の材料で形成しても、LED15a〜15iのそれぞれの位置を識別することができるものを開示した(例えば、特許文献2参照)。
具体的には、まず、図5に示すように、第一カメラ2aの撮影方向と第二カメラ2bの撮影方向とが定まった状態において、エピポーラ幾何学に基づく予測により、第一カメラ2aで撮影された第一画像Aと第二カメラ2bで撮影された第二画像Bとの間での共通のLEDの組を認識した。
【0007】
ここで、第一画像Aと第二画像Bとの間での共通のLEDの組を認識する方法の一例について簡単に説明する。第一カメラ2aで撮影された第一画像Aには、3個のLED15a、15b、15eのいずれにそれぞれ対応するかは認識できないが、3つのLED像15x、15y、15zが映し出されている。一方、第二カメラ2bで撮影された第二画像Bにも、3個のLED15a、15b、15eのいずれにそれぞれ対応するかは認識できないが、3個のLED像15s、15t、15uが映し出されている。このとき、第一画像Aにおける各LED像15x、15y、15zが、第二画像BにおけるLED像15s、15t、15uのいずれにそれぞれ対応するかは認識できない。
【0008】
そこで、第一画像Aにおける各LED像15x、15y、15zと、第二画像BにおけるLED像15s、15t、15uとの組を対応付けるため、図5に示すように、第一カメラ2aと15a、15b、15eとを結ぶそれぞれのエピポーラライン(仮想直線)が存在するとして、エピポーララインを第二カメラ2bで撮影したとすると、第二画像B上にエピポーララインLx、Ly、Lzが作成されることになる。なお、第二画像B上のエピポーララインLx、Ly、Lzの位置は、第一画像A上でのLED像15x、15y、15zが映し出される位置、及び、第一カメラ2aの撮影方向と第二カメラ2bの撮影方向との関係に基づいて一意的に定まる。
【0009】
このとき、第二画像Bにおいて、3個のLED15a、15b、15eに対応する各LED像15s、15t、15uは、3個のLED15a、15b、15eを映し出したものであるので、それぞれ対応することになるエピポーララインLx、Ly、Lzのいずれかの上の位置に存在することになる。したがって、第二画像B上に映し出されるLED像のうちで、エピポーララインLx上に存在するものがあれば、それがLED像15xに対応するLED像であると特定することができる。同様に、他の2個のLED像15y、15zに対応するLED像ついても特定することにより、第一画像Aに映し出された3個のLED像15x、15y、15zと、第二画像Bに映し出された3個のLED像15s、15t、15uとのそれぞれの組の対応付けを行う。
【0010】
次に、LED像15x、15y、15zとLED像15s、15t、15uとのそれぞれの組の対応付けを行うことができれば、図6に示すように、第一画像A及び第二画像B中に映し出されているLED像の組の位置により、第一カメラ2aからの方向角度(α)と第二カメラ2bからの方向角度(β)とを算出し、第一カメラ2aと第二カメラ2bとの間の距離(d1)を用いることで、所謂、三角測量の手法でLED15oのカメラ装置2(2a、2b)に対する位置を算出する。他のLED15p、15qのカメラ装置2(2a、2b)に対する位置についても、同様に算出する。このとき、算出された各LED15o、15p、15qが、頭部装着型表示装置付ヘルメット50に取り付けられたLED15a〜15iのいずれにそれぞれ対応するかは認識できない。
【0011】
そこで、図7に示すように、時間t1(直前)にLED15a、15b、15eのそれぞれの位置を記憶するとともに、記憶されたそれぞれのLED15a、15b、15eの位置を中心とする一定の大きさの球状である各予想移動範囲(Da、Db、De)を設定することにより、時間t2(現在)に予想移動範囲(Da、Db、De)に存在するLEDを、時間t1に設定された予想移動範囲(Da、Db、De)に対応するLEDと同一のものであると識別した。つまり、時間t2に、予想移動範囲(Da)に存在するLED15o(t2)を、時間t1に設定された予想移動範囲(Da)に対応するLED15a(t1)と同一のものであると識別する。同様に、予想移動範囲(Db)に存在するLED15p(t2)を、LED15b(t1)と同一のものであるとし、予想移動範囲(De)に存在するLED15q(t2)を、LED15e(t1)と同一のものであると識別する。これにより、LED15a、15b、15eのそれぞれの現在位置が算出される。
よって、各LED15a〜15iに識別情報を持たせたり、1個1個順番に点灯させたりすることなく、各LED15a〜15iのそれぞれの現在位置を識別することができ、その結果、時々刻々と変化する頭部装着型表示装置付ヘルメット50の動きをモニタリングすることができる。
【特許文献1】特表平9−506194号公報
【特許文献2】特開2006−284442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、設置場所が固定されたカメラ装置2(2a、2b)により、頭部装着型表示装置付ヘルメット50に取り付けられた複数個のLED15a〜15iを検出するときに、頭部装着型表示装置付ヘルメット50のヘルメット11全面にLED15a〜15iを取り付けても、カメラ装置2(2a、2b)でLED15a〜15iのうち3個未満のLEDしか検出することができないことがあった。例えば、図8に示すように、飛行体30の天井に固定されたカメラ装置2(2a、2b)では、頭部装着型表示装置付ヘルメット50を装着したパイロット3が天井を見たときに、3個未満のLEDしか検出することができなかった。つまり、頭部装着型表示装置付ヘルメット50の現在位置や現在角度を算出することができなかった。
【0013】
なお、頭部装着型表示装置付ヘルメット50を装着したパイロット3が天井を見たときにも、少なくとも3個のLEDを検出することができるように、頭部装着型表示装置付ヘルメット50のバイザー12にLEDを取り付けることも考えられるが、パイロット3の視界の妨げになり、その結果、目標(例えば、救難目標等)を見失う可能性があり問題があった。また、頭部装着型表示装置付ヘルメット50のバイザー12を小さくして、その部分にLEDを取り付けることも考えられるが、パイロット3の視界を狭めることになり、その結果、目標を見失う可能性があり問題があった。つまり、頭部装着型表示装置付ヘルメット50を装着したパイロット3の広範囲の視界を確保しつつ、パイロット3があらゆる方向に向いても、パイロット3の頭部の動きを測定することができるヘッドモーショントラッカ装置はなかった。
【0014】
そこで、本発明は、頭部装着装置を装着した装着者の視界の広範囲の視界を確保しつつ、装着者があらゆる方向に向いても、装着者の頭部の動きを測定することができるヘッドモーショントラッカ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明のヘッドモーショントラッカ装置は、頭頂部材と透明な顔面部材とを有する頭部装着装置と、前記頭頂部材に取り付けられる複数の光学マーカーと、前記顔面部材に取り付けられ、赤外光及び/又は紫外光を反射する複数の透明な反射マーカーと、赤外光及び/又は紫外光を照射する光源と、立体視で赤外光及び/又は紫外光を検出するカメラ装置と、前記カメラ装置で検出された赤外光及び/又は紫外光に基づいて、前記光学マーカー及び/又は反射マーカーのそれぞれの現在位置を含むマーカー位置情報を算出するマーカー位置情報算出部と、前記マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置に対する頭部装着装置の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えるようにしている。
【0016】
ここで、「頭頂部材」としては、例えば、ヘルメット、ヘッドセット等が挙げられる。
また、「顔面部材」としては、顔正面を覆うように配置されるものが挙げられ、例えば、バイザー、コンバイナー等が挙げられる。
さらに、「光学マーカー」としては、自発光するマーカーでもよく、赤外光及び/又は紫外光を反射するマーカーでもよい。なお、自発光するマーカーを用いた場合、お互いに異なる波長の赤外光を発光するLEDでもよく、互いに同じ波長の赤外光を発光するLEDでもよい。
そして、「反射マーカー」としては、赤外光及び/又は紫外光を反射するとともに、可視光を透過する性質のマーカーであればよく、例えば、誘電体多層膜等で形成されたマーカー等が挙げられる。なお、お互いに異なる形状のマーカーでもよく、互いに同じ形状のマーカーでもよい。
【0017】
本発明のモーショントラッカ装置によれば、例えば、飛行体の天井にカメラ装置及び光源を設置する。また、頭部装着装置の頭頂部材の外周面上に、光学マーカーを互いに離隔するようにして複数箇所に取り付けるとともに、頭部装着装置の顔面部材の外周面上に、反射マーカーを互いに離隔するようにして複数箇所に取り付ける。さらに、これらの光学マーカー及び反射マーカーの頭部装着装置上における相対的な位置関係を予め記憶させておく。そして、これらの複数の光学マーカー及び複数の反射マーカーの内の少なくとも3個をカメラ装置で撮影することで、所謂、三角測量の原理により、現在の光学マーカー及び反射マーカーの相対的な位置関係を測定する。例えば、飛行体の天井に設置されたカメラ装置で、頭部装着装置を装着した装着者が正面を見ているときには、3個の光学マーカーを検出し、一方、頭部装着装置を装着した装着者が天井を見ているときには、1個の光学マーカーと2個の反射マーカーとを検出する。これにより、頭部装着型表示装置付ヘルメット上に固定された少なくとも3点の位置(3つの光学マーカー及び/又は反射マーカーの位置)を特定することで、頭部装着装置の現在位置や現在角度を算出する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のモーショントラッカ装置によれば、装着者があらゆる方向に向いても、装着者の頭部の現在位置や現在角度を算出することができる。
また、反射マーカーは透明であり、かつ、赤外光や紫外光を反射するものであるため、装着者の視界を狭めたり妨げたりすることはなく、頭部装着装置を装着した装着者の広範囲の視界を確保することができる。
【0019】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記の発明において、前記反射マーカーは、半球形状の凸部であるようにしてもよい。
ここで、「半球形状」は、実質的に半球形状であればよく、半球形状に近い形状(多角形状)であってもよい。
本発明によれば、光源から照射された赤外光や紫外光を、半球形状の反射マーカーが適切に反射することで、反射マーカーをカメラ装置が確実に検出することができる。
【0020】
また、上記の発明において、算出されたマーカー位置情報を記憶するマーカー記憶部と、前記マーカー位置情報算出部は、直前に記憶されたマーカー位置情報を用いて、光学マーカー及び/又は反射マーカーの球状の予想移動範囲を設定することにより、光学マーカー及び反射マーカーをそれぞれ識別するようにしてもよい。
本発明によれば、上述したように、各光学マーカー及び反射マーカーに識別情報を持たせたりすることなく、光学マーカー及び反射マーカーのそれぞれの現在位置を識別することができる。よって、反射マーカーを同一の材料や形状で形成することができる。
【0021】
そして、上記の発明において、前記光学マーカーは、赤外光を出射する発光ダイオードであるようにしてもよい。
本発明によれば、複数の光学マーカーの内で特定の光学マーカーだけを点灯したり消灯したりすることができるため、頭部装着装置上における光学マーカーの相対的な位置関係を、初期のマーカー位置情報としてマーカー記憶部に容易に記憶することができる。
さらに、上記の発明において、前記頭頂部材は、装着者の頭部に装着されるヘルメットであり、かつ、前記顔面部材は、装着者の顔面に配置されるバイザーであるようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態であるHMT装置の概略構成を示す図であり、図2は、図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメットの側面図であり、図3は、図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメットの平面図である。本実施形態は、飛行体でパイロットが着用する頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度を算出するものである。つまり、HMT装置1は、搭乗体30に設定された相対座標系(XYZ座標系)に対する、パイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を含む相対情報を算出するものである。なお、相対座標系(XYZ座標系)は、後述するカメラ装置2(2a、2b)を基準とするものであり、相対座標記憶部43に記憶されている。
【0024】
HMT装置1は、パイロット3の頭部に装着される頭部装着型表示装置付ヘルメット(頭部装着装置)10と、搭乗体30の天井に取り付けられたカメラ装置2(2a、2b)及び赤外光を照射する光源5(5a、5b)と、コンピュータにより構成される制御部20とから構成される。
搭乗体30は、パイロット3が搭乗する飛行体のコックピットであり、パイロット3が着席する座席30aを備える。
【0025】
頭部装着型表示装置付ヘルメット10は、表示器(図示せず)と、表示器から出射される画像表示光を反射することにより、パイロット3の目に導くバイザー(顔面部材)12と、ヘルメット(頭頂部材)11と、頭部位置や頭部角度を測定する際の指標として機能するLED群(光学マーカー群)15及び反射コーティング膜群(反射マーカー群)16とを有する。なお、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3は、表示器による表示映像とバイザー12の前方実在物とを視認することが可能となっている。
LED群15は、図2及び図3に示すように、同じ波長の赤外光を発光する複数個(14個)のLED15a〜15nがお互い一定の距離(d2)を隔てるようにして取り付けられたものである。
【0026】
反射コーティング膜群16は、図2及び図3に示すように、同じ波長の赤外光(後述する光源5からの赤外光)を反射することができる複数個(4個)の反射コーティング膜16a〜16dが距離(例えば、お互い一定の距離(d2))を隔てるようにして取り付けられたものである。
また、反射コーティング膜16a〜16dは、透明な材料で形成されている。よって、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3は、反射コーティング膜16a〜16dの前方実在物を視認することが可能となっている。
なお、上記反射コーティング膜としては、例えば、赤外光を反射するとともに、可視光を透過する性質の誘電体多層膜等で形成されたものが挙げられる。また、光源として、例えば、紫外光を照射するものを用い、反射コーティング膜として、例えば、紫外光のみを反射するとともに、可視光を透過する性質の誘電体多層膜等で形成されたものが用いられてもよい。また、反射コーティング膜の形状としては、例えば、半球形状等が挙げられる。
【0027】
カメラ装置2は、第一カメラ2aと第二カメラ2bとからなり、撮影方向が頭部装着型表示装置付ヘルメット10に向けられているとともに、頭部装着型表示装置付ヘルメット10の立体視が可能な一定の距離(d1)を隔てるように、搭乗体30の天井に設置されている。これにより、第一カメラ2aで撮影された第一画像Aが作成されるとともに、第二カメラ2bで撮影された第二画像Bが作成されることになる。
よって、上述したように、第一画像A及び第二画像B中に映し出されているLED15a〜15n及び/又は反射コーティング膜16a〜16dの位置により、第一カメラ2aからの方向角度(α)と第二カメラ2bからの方向角度(β)とを算出し、第一カメラ2aと第二カメラ2bとの間の距離(d1)を用いることにより、所謂、三角測量の手法でLED15a〜15n及び/又は反射コーティング膜16a〜16dのカメラ装置2(2a、2b)に対する位置を算出できるようにしてある(図6参照)。
このとき、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの位置を、空間座標で表現することができるようにするために、カメラ装置2(2a、2b)に固定され、カメラ装置2とともに移動する座標系である相対座標系(XYZ座標系)を用いる。なお、相対座標系(XYZ座標系)の具体的な原点位置やXYZ軸方向の説明については後述する。
【0028】
光源5は、第一光源5aと第二光源5bとからなり、赤外光の照射方向が頭部装着型表示装置付ヘルメット10に向けられている。また、第一光源5aは、第一カメラ2aを中心とした環状形状に設置されるとともに、第二光源5bは、第二カメラ2bを中心とした環状形状に設置されている。なお、第一光源5aと第二光源5bとは、同じ波長の赤外光を照射するものである。
【0029】
制御部20は、図1に示すように、CPU21、メモリ41等からなるコンピュータにより構成され、各種の制御や演算処理を行うものである。CPU21が実行する処理を、機能ブロックごとに分けて説明すると、モーショントラッカ駆動部28と、相対情報算出部22と、マーカー位置情報算出部24と、映像表示部25とを有する。
また、メモリ41には、制御部20が処理を実行するために必要な種々のデータを蓄積する領域が形成してあり、相対座標系(XYZ座標系)を記憶する相対座標記憶部43と、LED15a〜15n及び/又は反射コーティング膜16a〜16dのそれぞれの位置を含むマーカー位置情報を記憶するマーカー記憶部44と、(d2)/2を直径とする球状とする予想移動範囲の大きさを記憶する予想移動範囲記憶部45とを有する。
【0030】
なお、相対座標系(XYZ座標系)は、原点及び各座標軸の方向を任意に定めることができるが、本実施形態では、第二カメラ2bから第一カメラ2aへの方向をX軸方向とし、X軸方向に垂直かつ天井に垂直で下向き方向をZ軸方向とし、X軸方向に垂直かつ天井に水平で右向き方向をY軸方向とするように定義し、原点を第一カメラ2aと第二カメラ2bとの中点として定義するように相対座標記憶部43に設定されている。また、後述する角度(Θ)は、ロール方向(X軸に対する回転)の角度であり、角度(Φ)は、エレベーション方向(Y軸に対する回転)の角度であり、角度(Ψ)は、アジマス方向(Z軸に対する回転)の角度である。
また、マーカー記憶部44には、予め、初期のマーカー位置情報として、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの頭部装着型表示装置付ヘルメット10上におけるそれぞれの相対的な位置関係が記憶されている。
【0031】
モーショントラッカ駆動部28は、LED群15及び光源5を点灯させる指令信号を出力するとともに、カメラ装置2(2a、2b)で赤外光の画像データ(第一画像A及び第二画像B)を検出させる制御を行うものである。しかし、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dは、同じ波長の赤外光を出射するものなので、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dを識別することはできない。
そこで、上述したように、エピポーラ幾何学に基づく予測により、第一カメラ2aで撮影された第一画像Aと第二カメラ2bで撮影された第二画像Bとの間での共通の像の組を認識する(図5参照)。しかし、第一画像Aの像と第二画像Bの像とのそれぞれの組の対応付けを行った各像の組が、頭部装着型表示装置付ヘルメット10に取り付けられたLED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dのいずれにそれぞれ対応するかはここでは認識できない。
【0032】
マーカー位置情報算出部24は、直前に記憶されたLED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dのそれぞれの位置に基づいて、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dのそれぞれの予想移動範囲Dを設定することにより、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dのそれぞれの現在位置を含むマーカー位置情報を算出する制御を行うものである。
具体的には、まず、上述したように、マーカー記憶部44に時間t1(直前)に記憶されたLED15a、15b、15eのそれぞれの位置を中心とする(d2)/2を直径とする球状である各予想移動範囲Dを相対座標系(XYZ座標系)に設定する。次に、時間t2(現在)の画像データを用いて、時間t2(現在)に予想移動範囲Dに存在するものを、時間t1に設定された予想移動範囲Dに対応するものと同一のものであると識別する(図7参照)。つまり、時間t2に、予想移動範囲Daに存在するLED15o(t2)を、時間t1に設定された予想移動範囲Daに対応するLED15a(t1)と同一のものであると識別する。同様に、時間t2(現在)に予想移動範囲Dbに存在するLED15p(t2)を、LED15b(t1)と同一のものであるとし、時間t2(現在)に予想移動範囲Deに存在するLED15q(t2)を、LED15e(t1)と同一のものであると識別する。これにより、LED15a、15b、15eのそれぞれの現在位置を算出する。このとき、時間t2(現在)の画像データ(第一画像A及び第二画像B)に3個のLED15a、15b、15eのみしか撮影されていなくても、3個のLED15a、15b、15eが識別できれば、予め、初期情報としてLED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの相対的な位置関係が記憶されているので、他のLED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの現在位置も算出することができる。これにより、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの現在位置を含むマーカー位置情報がマーカー記憶部44に記憶される。このようにマーカー位置情報を時々刻々と算出してマーカー記憶部44に蓄積していく。
【0033】
相対情報算出部22は、マーカー位置情報に基づいて、カメラ装置2(2a、2b)(XYZ座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を含む相対情報を算出する制御を行うものである。
具体的には、カメラ装置2(2a、2b)に対するLED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dの現在位置が特定されるので、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dが取り付けられている頭部装着型表示装置付ヘルメット10の現在位置や現在角度が相対座標系(XYZ座標系)を用いて特定できるようになる。つまり、カメラ装置2(2a、2b)に対する頭部装着型表示装置付ヘルメット10の現在位置や現在角度を算出でき、位置座標や座標軸に対する角度で表現できる。
【0034】
映像表示部25は、相対情報に基づいて、表示器から映像表示光を出射する制御を行うものである。これにより、パイロット3は、表示器による表示映像を視認することができるようになる。
【0035】
以上のように、HMT装置1によれば、例えば、飛行体の天井に設置されたカメラ装置2で、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3が正面を見ているときには、3個のLED15a、15b、15eを検出し、一方、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3が天井を見ているときには、1個のLED15aと2個の反射コーティング膜16a、16bを検出する。したがって、パイロット3があらゆる方向に向いても、パイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を算出することができる。
また、反射コーティング膜16a〜16dは透明であり、かつ、赤外光を反射するものであるため、パイロット3の視界を狭めたり妨げたりすることはなく、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3の広範囲の視界を確保することができる。
さらに、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dに識別情報を持たせたりすることなく、LED15a〜15n及び反射コーティング膜16a〜16dのそれぞれの現在位置を識別することができる。よって、反射コーティング膜16a〜16dを同一の材料や形状で形成することができる。
【0036】
(他の実施形態)
(1)上述したHMT装置1では、カメラ装置2は、搭乗体30の天井に設置されている構成としたが、カメラ装置2は、搭乗体30の前面に2台のカメラ2a、2bが水平となるように設置されているような構成としてもよい(図9参照)。つまり、本発明によれば、パイロットがあらゆる方向に向いても、パイロットの頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を算出することができ、これにより、カメラ装置の設置場所の自由度が高くなり、その結果、カメラ装置が天井に設置できなくても問題がない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のHMT装置は、例えば、ゲーム機や乗物等で用いられる頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度を検出するものとして、利用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態であるHMT装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメットの側面図である。
【図3】図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメットの平面図である。
【図4】従来の頭部装着型表示装置付ヘルメットの側面図である。
【図5】第一画像と第二画像との間での共通のLEDの組を認識する方法について説明するための図である。
【図6】LEDのカメラ装置に対する位置を算出する方法について説明するための図である。
【図7】算出された各LEDが頭部装着型表示装置付ヘルメットに取り付けられたLEDのいずれかに対応付ける方法について説明するための図である。
【図8】従来のHMT装置の概略構成を示す図である。
【図9】本発明の他の一実施形態であるHMT装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ヘッドモーショントラッカ装置
2 カメラ装置
3 パイロット
5 光源
10 頭部装着型表示装置付ヘルメット(頭部装着装置)
11 頭頂部材(ヘルメット)
12 顔面部材(バイザー)
15 光学マーカー(LED)
16 反射マーカー(反射コーティング膜)
22 相対情報算出部
24 マーカー位置情報算出部
44 マーカー記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭頂部材と透明な顔面部材とを有する頭部装着装置と、
前記頭頂部材に取り付けられる複数の光学マーカーと、
前記顔面部材に取り付けられ、赤外光及び/又は紫外光を反射する複数の透明な反射マーカーと、
赤外光及び/又は紫外光を照射する光源と、
立体視で赤外光及び/又は紫外光を検出するカメラ装置と、
前記カメラ装置で検出された赤外光及び/又は紫外光に基づいて、前記光学マーカー及び/又は反射マーカーのそれぞれの現在位置を含むマーカー位置情報を算出するマーカー位置情報算出部と、
前記マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置に対する頭部装着装置の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えることを特徴とするヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項2】
前記反射マーカーは、半球形状の凸部であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項3】
算出されたマーカー位置情報を記憶するマーカー記憶部と、
前記マーカー位置情報算出部は、直前に記憶されたマーカー位置情報を用いて、光学マーカー及び/又は反射マーカーの球状の予想移動範囲を設定することにより、光学マーカー及び反射マーカーをそれぞれ識別することを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項4】
前記光学マーカーは、赤外光を出射する発光ダイオードであることを特徴とする請求項3に記載のヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項5】
前記頭頂部材は、装着者の頭部に装着されるヘルメットであり、かつ、
前記顔面部材は、装着者の顔面に配置されるバイザーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘッドモーショントラッカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−262264(P2008−262264A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102537(P2007−102537)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】