説明

ヘッドレスト及び車両用シート

【課題】通常使用時の車両用シートの共振を抑制すると共に、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させる。
【解決手段】車両用シート100のシートバック14に支持されるヘッドレストステー16と、該ヘッドレストステー16に設けられた取付けブラケット18と、該取付けブラケット18のシート下方側にばね体26を介して設けられた質量体22と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレスト及び車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートバック上部のヘッドレストのフレームに、所定の加振力に対するシートバックの振動を抑制するダイナミックダンパを取り付けた構造が開示されている(特許文献1参照)。このダイナミックダンパは、ヘッドレストのフレーム上の固定板上に固着された弾性体と、該弾性体に固着されたウェイトとからなっている。ヘッドレスト内部に空間部を形成するインナカバーの内側のうち、ウェイトに対して車体前後方向に対向する位置には、ゴム製等によるストッパが固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−151135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来例では、ウェイトが、ヘッドレスト内におけるフレームの上方に設けられているので、その分車両用シートの重心が高くなると考えられる。また上記した従来例では、車両の後面衝突時における、ヘッドレストによる乗員の頭部の支持について、特段の考慮はなされていない。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、通常使用時の車両用シートの共振を抑制すると共に、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明(ヘッドレスト)は、車両用シートのシートバックに支持されるヘッドレストステーと、該ヘッドレストステーに設けられた取付けブラケットと、該取付けブラケットのシート下方側にばね体を介して設けられた質量体と、を有している。
【0007】
請求項1に記載のヘッドレストでは、ばね体及び質量体が、取付けブラケットを介して、ヘッドレストステーのシート下方側に設けられているので、該ヘッドレストをシートバックに装着した際の車両用シートの重心が、上記した従来例よりも下がることとなる。そしてこのばね体及び質量体がダイナミックダンパとなることにより、通常使用時の車両用シートの共振を抑制することができる。
【0008】
また車両が後面衝突を受けた際の初期段階では、ヘッドレストがシートバックと共にシート前方側に押し出される。このとき、質量体は慣性により元の位置に留まろうとするため、ばね体が変形して質量体がシート後方側へ振れた状態となる。次の段階では、乗員の頭部にヘッドレストが当接して該頭部の後傾を抑制する。このとき、ヘッドレストのシート前方側への移動が抑制されることから、シート後方側へ振れていた質量体が、ばね体の復元力及び該質量体の慣性によりシート前方側へ振れる。これにより、乗員の頭部からのヘッドレストの跳ね返りが抑制される。このため、頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のヘッドレストにおいて、前記ヘッドレストステーに、前記質量体のシート前方側への振れ幅の上限を規制するストッパが設けられている。
【0010】
請求項2に記載のヘッドレストでは、ストッパにより、質量体のシート前方側への振れ幅の上限が規制されるので、質量体と乗員の頭部との干渉を抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のヘッドレストにおいて、前記質量体が静止状態となる中立位置からの該質量体のシート前方側への振れ幅が所定量以上の領域での前記ばね体のばね定数をKfとし、前記中立位置からの前記質量体のシート後方側への振れ幅が所定量以上の領域での前記ばね体のばね定数をKrとし、前記中立位置からの前記質量体のシート前後方向の振れ幅が夫々所定量未満の領域での前記ばね体のばね定数をKとすると、Kf≧Kr≧Kである。
【0012】
請求項3に記載のヘッドレストでは、ばね体のばね定数が、Kf≧Kr≧Kに設定されている。この不等式には、Kf=Kr>K、Kf>Kr=K、Kf>Kr>K、及びKf=Kr=Kの4態様が含まれる。
【0013】
Kf=Kr>Kの場合、中立位置からの質量体のシート前方側及び後方側への振れ幅が夫々所定量以上の領域でばね定数がKf(=Kr)となり、中立位置からの振れ幅が夫々所定量未満の領域で、ばね定数がK(<Kf=Kr)となる。従って、ばね定数Kとして、車両用シートの共振抑制に最適なものを用い、ばね定数Kf(=Kr)として、後面衝突時の乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を高めるために最適なものを用いることにより、双方の性能を最適化することができる。
【0014】
Kf>Kr=Kの場合、中立位置からの質量体のシート前方側への振れ幅が所定量以上の領域でばね定数がKfとなり、シート後方側への振れ幅が所定量以上の領域でばね定数がKrとなり、中立位置からのシート前後方向の振れ幅が夫々所定量未満の領域でばね定数がK(=Kr)となる。即ち、ばね体が、シート前方側で固く、シート後方側で柔らかくなっている。このようにシート前後方向でばね体のばね定数を変化させることにより、後面衝突時の乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を更に高めることができる。
【0015】
Kf>Kr>Kの場合、中立位置からの質量体のシート前方側への振れ幅が所定量以上の領域でばね定数がKfとなり、シート後方側への振れ幅が所定量以上の領域でばね定数がKr(<Kf)となり、中立位置からのシート前後方向の振れ幅が夫々所定量未満の領域でばね定数がK(<Kr)となる。従って、ばね定数Kとして、車両用シートの共振抑制に最適なものを用い、ばね定数Kf,Krとして、後面衝突時の乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を高めるために最適なものを用いることにより、双方の性能を更に最適化することができる。
【0016】
そして、Kf=Kr=Kの場合、質量体の振れ幅にかかわらず、ばね定数が一定となる。従って、ばね体の構造を簡素化して低コスト化を図ることができる。
【0017】
なお、振れ幅の所定量については、無限大も含まれる。中立位置からシート前方側への振れ幅の所定量を無限大とした場合、Kf=Kとなり、シート後方側への振れ幅の所定量を無限大とした場合、Kr=Kとなる。
【0018】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のヘッドレストにおいて、前記質量体のシート前方側に、該シート前方側に振れた該質量体をロックするロック手段を有している。
【0019】
請求項4に記載のヘッドレストでは、後面衝突時にシート前方側に振れた質量体が、ロック手段によりロックされるので、乗員の頭部からのヘッドレストの跳ね返りが一層抑制される。このため、乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を更に向上させることができる。
【0020】
請求項5の発明(車両用シート)は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のヘッドレストを有している。
【0021】
請求項5に記載の車両用シートでは、通常使用時の共振を抑制できると共に、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のヘッドレスト及び車両用シートによれば、通常使用時の車両用シートの共振を抑制すると共に、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0023】
請求項2に記載のヘッドレスト及び車両用シートによれば、質量体と乗員の頭部との干渉を抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0024】
請求項3に記載のヘッドレスト及び車両用シートによれば、車両用シートの共振抑制性能と、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性とを最適化することができる、という優れた効果が得られる。
【0025】
請求項4に記載のヘッドレスト及び車両用シートによれば、乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を更に向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0026】
請求項5に記載のヘッドレスト及び車両用シートによれば、通常使用時の共振を抑制できると共に、車両の後面衝突時における乗員の頭部に対するヘッドレストの追従性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)第1実施形態に係る車両用シートにおいて、主にヘッドレストを示す斜視図である。(B)車両用シートの主にヘッドレストを示す断面図である。(C)取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。
【図2】(A)後面衝突の初期段階における質量体の挙動を示す模式図である。(B)ヘッドレストが乗員の頭部に当接したときの質量体の挙動を示す模式図である。(C)その後の質量体の挙動により、ヘッドレストが頭部に追従している状態を示す模式図である。
【図3】(A)第2実施形態に係る取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。(B)質量体がシート前方側に振れ、溝においてシート上下方向に対向する壁同士が当接した状態を示す拡大側面図である。(C)ばね定数の変化を示す線図である。
【図4】(A)第2実施形態の変形例に係る取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。(B)質量体がシート前方側に振れ、シート前方側のストッパ部が取付けブラケットにおける基部の下面に当接した状態を示す拡大側面図である。
【図5】(A)第2実施形態の変形例に係る取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。(B)質量体がシート前方側に振れ、ばね体が取付けブラケットにおける基部のストッパ部に当接した状態を示す拡大側面図である。
【図6】(A)第3実施形態に係る取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。(B)質量体がシート前方側に振れ、溝においてシート上下方向に対向する壁同士が当接した状態を示す拡大側面図である。(C)質量体がシート後方側に振れた状態を示す拡大側面図である。(D)ばね定数の変化を示す線図である。
【図7】後面衝突の発生からの時間の経過と頭部加速度との関係を示す線図である。
【図8】(A)第3実施形態の変形例に係る取付けブラケット、ばね体及び質量体を示す拡大側面図である。(B)質量体がシート前方側に振れ、シート前方側のストッパ部が取付けブラケットにおける基部の下面に当接した状態を示す拡大側面図である。(C)質量体がシート後方側に振れ、シート後方側の比較的柔らかなストッパ部が取付けブラケットにおける基部の下面に当接した状態を示す拡大側面図である。(D)ばね定数の変化を示す線図である。
【図9】(A)第4実施形態に係る車両用シートにおいて、主にヘッドレストを示す断面図である。(B)質量体がシート前方側に振れた状態を示す側面図である。(C)質量体がストッパのリブにロックされた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
【0029】
[第1実施形態]
図1(A)において、本実施形態に係る車両用シート100は、乗員12(図2)の背もたれとなるシートバック14と、該シートバック14に支持されるヘッドレスト10とを有している。このヘッドレスト10は、ヘッドレストステー16と、取付けブラケット18と、質量体22と、を有している。
【0030】
ヘッドレストステー16は、車両用シート100のシートバック14に支持される部材であって、例えば金属製の棒材やパイプを逆U字形に形成し、一対の脚部16Aと、該脚部16Aの例えば上端同士をシート幅方向に連結する連結部16Bを設けたものである。ヘッドレストステー16の形状は、逆U字形に限られず、H形等であってもよい。
【0031】
取付けブラケット18は、ヘッドレストステー16に、例えば溶接により固定されている。具体的には、図1(B),(C)に示されるように、取付けブラケット18は、基部18Aと、該基部18Aから立設される縦壁部18Bとを有して構成され、例えば基部18Aの前端がヘッドレストステー16における連結部16Bの下側に溶接されている。基部18Aは、ヘッドレスト10を標準的な傾斜角度のシートバック14に取り付けた際に、略水平となるように配置されている。縦壁部18Bは、基部18A上においてシート幅方向に延びている。この縦壁部18Bには、例えば2箇所のねじ孔18Cが、シート幅方向に離間して形成されている。このねじ孔18Cには、シート前方側に突出するボス24が夫々取り付けられている。
【0032】
質量体22は、取付けブラケット18のシート下方側にばね体26を介して設けられた、例えば略円柱形の部材である。質量体22とばね体26との結合は、加硫接着や締結等により行われる。ばね体26は、少なくともシート前後方向に変形可能な、例えば柱状のゴム体であり、取付けブラケット18における基部18Aの下面にボルト28を用いて締結固定されている。これにより、ばね体26及び質量体22は、取付けブラケット18の基部18Aから垂下した状態となっている。また質量体22は、ヘッドレストステー16の連結部16Bよりシート下方側に位置すると共に、シート正面視で一対の脚部16Aの間に位置している。
【0033】
なお、ばね体26は、コイルばねであってもよい。またばね体26は、質量体22がシート前後方向に振り子状に運動することを可能にする回転ばねであることが望ましい。質量体22がシート前方側に振れた際、該質量体22がシート前方側へ並進する場合と比較して、該質量体22の進む方向が次第にシート上方側となり、該質量体22が乗員12の頭部12H(図2)と干渉し難くなるからである。
【0034】
図1(A),(B)に示されるように、ヘッドレストステー16には、質量体22のシート前方側への振れ幅の上限を規制するストッパ32が設けられている。このストッパ32は、板状の基部32Aと、該基部32Aからからシート後方側に突出形成された格子状のリブ32Bとを有する樹脂成型品であり、ヘッドレストステー16の上部のシート前方側に配置され、ボス24に対して固定されている。通常使用時における質量体22の振れ幅を確保するために、該質量体22とリブ32Bとの干渉が生じ得る一部の領域32Cでは、基部32Aからの該リブ32Bの高さが、他の領域と比べて短く構成されている(図9参照)。なお、一部の領域32Cにおいてリブ32Bを省略してもよい。
【0035】
この他、ヘッドレスト10におけるヘッドレストステー16の上部、取付けブラケット18、質量体22、及びストッパ32の周囲には、クッション材が配置されている(図示せず)。このクッション材の内部に、通常使用時や車両の後面衝突時に質量体22が動くことができる空間が確保されている。
【0036】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1(A)〜(C)において、本実施形態に係る車両用シート100では、ばね体26及び質量体22が、取付けブラケット18を介して、ヘッドレストステー16のシート下方側に設けられているので、ヘッドレスト10をシートバック14に装着した際の車両用シート100の重心が、上記した特許文献1に係る従来例よりも下がることとなる。そしてこのばね体26及び質量体22がダイナミックダンパとなることにより、通常使用時の車両用シート100の共振を抑制することができる。またこれによって、車両のノイズ・バイブレーション(NV)性能を向上させることができる。
【0037】
また車両用シート100の重心が下がるので、該車両用シート100の共振を抑制するために必要な質量体22の質量を小さくすることができる。このため、ヘッドレスト10内の質量体22の搭載スペースを小さくして、その分クッション材(図示せず)の容量を増加させることが可能となる。
【0038】
次に、図2に基づいて、車両が後面衝突を受けた際の作用について説明する。図2(A)〜(C)は、後面衝突の進行に伴う質量体22及びばね体26の動きを分かり易くするために、該質量体22及びばね体26をヘッドレスト10の外側に描いた模式図となっている。まず、図2(A)において、車両が後面衝突を受けた際の初期段階では、その衝突に伴う荷重Fにより、ヘッドレスト10がシートバック14と共にシート前方側に押し出される。このとき、質量体22は慣性により元の位置に留まろうとするため、ばね体26が変形して質量体22が中立位置よりもシート後方側へ振れた状態となる。
【0039】
図2(B),(C)において、次の段階では、乗員12の頭部12Hにヘッドレスト10が当接して該頭部12Hの後傾を抑制する。このとき、ヘッドレスト10のシート前方側への移動が抑制されることから、シート後方側へ振れていた質量体22が、ばね体26の復元力及び該質量体22の慣性により中立位置を経由してシート前方側へ振れる。
【0040】
これにより、質量体22によるシート前方への荷重がヘッドレスト10に作用することから、乗員12の頭部12Hからのヘッドレスト10の跳ね返りが抑制される。このため、該頭部12Hに対するヘッドレスト10の追従性を向上させることができる。またこれによって、ヘッドレスト10から頭部12Hへの反力Fhを長く維持して、該頭部12Hに作用する加速度を維持して、自動車アセスメントにおける後面衝突頚部保護性能を高めることができる。
【0041】
これに加えて、図1(A),(B)において、本実施形態に係るヘッドレスト10では、ストッパ32により、質量体22のシート前方側への振れ幅の上限が規制されるので、質量体22と乗員12の頭部12Hとの干渉を抑制することができる。
【0042】
このように、本実施形態に係る車両用シート100によれば、通常使用時の共振を抑制できると共に、車両の後面衝突時における乗員12の頭部12Hに対するヘッドレスト10の追従性を向上させることができる。
【0043】
なお、本実施形態は、シートバック14に対するヘッドレスト10の支持剛性を高める構造とは異なるため、車両のNV性能を悪化させることがない。また複雑な構造を必要としないため低コストであり、無用な質量の増加も抑制できる。特に、質量体22の振れ幅にかかわらず、ばね体26のばね定数が一定であることから、該ばね体26の構造を簡素化して、低コスト化を図ることができる。ばね定数が一定とは、後述するばね定数の関係に例えると、Kf=Kr=Kであることを意味する。
【0044】
[第2実施形態]
図3(C)に示される変位−荷重線図において、本実施形態では、質量体22が静止状態となる中立位置Oからの該質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量A以上の領域でのばね体26のばね定数をKfとし、中立位置Oからの質量体22のシート後方側への振れ幅が所定量B以上の領域でのばね体26のばね定数をKrとし、中立位置Oからの質量体22のシート前後方向の振れ幅が夫々所定量A,B未満の領域でのばね体26のばね定数を夫々Kとすると、各ばね定数の関係がKf=Kr>Kとなるように設定されている。
【0045】
具体的な態様としては、図3(A)に示されるように、ばね体26のシート前方側のシート上下方向略中央部に溝26Aが形成され、該溝26Aに対応する高さ位置におけるシート後方側に、該溝26Aと幅及び深さ寸法が同一の溝26Bが形成されている。これにより、ばね体26のシート上下方向略中央部がくびれた形状となっている。そのくびれ部分のばね定数がKである。
【0046】
図3(B),(C)に示されるように、質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量Aに達すると、溝26Aにおいてシート上下方向に対向する壁同士が当接して、ばね体26のばね定数がKfに増加するようになっている。同様に、図3(C)に示されるように、質量体22のシート後方側への振れ幅が所定量Bに達すると、溝26Bにおいてシート上下方向に対向する壁同士が当接して、ばね体26のばね定数がKrに増加するようになっている。
【0047】
本実施形態では、所定量A,Bは互いに同一であり、ばね定数Kf,Krも互いに同一である。
【0048】
他の部分については、第1実施形態と同様であるので、同一の部分には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図3(C)において、本実施形態では、ばね体26のばね定数が、Kf=Kr>Kの関係にあり、中立位置Oからの質量体22のシート前方側への振れ幅及び後方側への振れ幅が夫々所定量A,B以上の領域でばね定数がKf(=Kr)となり、振れ幅が夫々所定量未満の領域で、ばね定数がK(<Kf=Kr)となる。従って、ばね定数Kとして、車両用シートの共振抑制に最適なものを用い、ばね定数Kf(=Kr)として、後面衝突時の乗員12の頭部12Hに対するヘッドレストの追従性を高めるために最適なものを用いることにより、双方の性能を最適化することができる。
【0050】
(変形例)
本実施形態でのばね定数の設定に対応する変形例として、例えば図4,図5に示されるものが挙げられる。図4に示される例では、ばね体26は第1実施形態と同様であるが、質量体22の前端側にストッパ部22Aが設けられ、後端側にストッパ部22Bが設けられている。ストッパ部22Aは、図3(C)における中立位置Oからの質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量A未満の領域では、取付けブラケット18における基部18Aの下面に当接せず、振れ幅が所定量A以上の領域で該下面に当接する部位である。またストッパ部22Bは、図3(C)における中立位置Oからの質量体22のシート後方側への振れ幅が所定量B未満の領域では、取付けブラケット18における基部18Aの下面に当接せず、振れ幅が所定量B以上の領域で、該下面に当接する部位である。図4(A)に示されるように、質量体22の中立位置Oでは、ストッパ部22A,22Bは、取付けブラケット18における基部18Aの下面から夫々離間している。
【0051】
ストッパ部22A,22Bが取付けブラケット18の基部18Aに当接すると、ばね体26が変形し難くなるので、該ストッパ部22A,22Bが該基部18Aに当接するか否かによって、ばね体26のばね定数を変化させることができる。即ち、中立位置Oからの質量体22の振れ幅が所定量A,B未満の領域のばね定数をKとし、該振れ幅が所定量A,B以上の領域のばね定数をKよりも大きいKf,Krとすることができる。
【0052】
一方、図5に示される例では、質量体22は第1実施形態と同様であるが、取付けブラケット18における基部18Aの下面にストッパ部18D,18Eが設けられている。ストッパ部18Dは、図3(C)における中立位置Oからの質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量A未満の領域ではばね体26に当接せず、振れ幅が所定量A以上の領域で、該ばね体26に当接する部位である。またストッパ部18Eは、図3(C)における中立位置Oからの質量体22のシート後方側への振れ幅が、所定量B未満の領域ではばね体26に当接せず、該振れ幅が所定量B以上の領域で該ばね体26に当接する部位である。
【0053】
ばね体26がストッパ部18D,18Eに当接すると、該ばね体26が変形し難くなるので、ばね体26が該ストッパ部18D,18Eに当接するか否かによって、ばね体26のばね定数を変化させることができる。これによって、中立位置Oからの質量体22の振れ幅が所定量A,B未満の領域のばね定数をKとし、該振れ幅が所定量A,B以上の領域のばね定数をKよりも大きいKf,Krとすることができる。
【0054】
[第3実施形態]
図6(D)に示される変位−荷重線図において、本実施形態では、質量体22が静止状態となる中立位置Oからの該質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量A以上の領域でのばね体26のばね定数をKfとし、中立位置Oからのシート後方側の領域でのばね体26のばね定数をKrとし、中立位置Oからシート前方側への振れ幅が所定量A未満の領域のばね定数をKとすると、各ばね定数の関係がKf>Kr=Kとなるように設定されている。
【0055】
具体的な態様としては、図6(A)に示されるように、ばね体26のシート前方側のシート上下方向略中央部に溝26Aが形成されている。ばね体26のシート後方側には、そのような溝は形成されていない。該溝26Aにおいてシート上下方向に対向する壁同士が当接しない振れ幅の範囲でのばね定数はKである。
【0056】
図6(B)に示されるように、中立位置Oからの質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量Aに達すると、溝26Aにおいてシート上下方向に対向する壁同士が当接して、ばね体26のばね定数がKfに増加するようになっている。図6(C)に示されるように、中立位置Oからシート後方側の領域でのばね定数KrはKと等しい。
【0057】
なお、図6(D)に示されるばね定数の線図は、図3(C)に示される第2実施形態での所定量Bを無限大に設定したものと考えることができる。この無限大とは、使用するばね体26の変形範囲の外、例えば図6(D)等の横軸の範囲外を意味するものであり、ばね体26が無限に変形できることを意味するものではない。本実施形態のように、中立位置Oからシート後方側への振れ幅の所定量B(図3(C)参照)を無限大とした場合、Kr=Kとなる。逆に中立位置からシート前方側への振れ幅の所定量Aを無限大とした場合、Kf=Kとなる(図示せず)。
【0058】
他の部分については、第1実施形態と同様であるので、同一の部分には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。
【0059】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図6(D)において、本実施形態では、ばね体26のばね定数が、Kf>Kr=Kの関係にあり、該ばね体26が、シート前方側で比較的固く、中立位置O付近及びシート後方側で比較的柔らかくなっている。このようにシート前後方向でばね体26のばね定数を変化させることにより、後面衝突時の乗員12の頭部12Hに対するヘッドレストの追従性を更に高めることができる。
【0060】
後面衝突の発生からの時間の経過と頭部加速度との関係は、図7に示されるとおりである。図中の一点鎖線L1は第1実施形態を示し、実線L3は本実施形態を示している。第1実施形態に係る一点鎖線L1には、従来のものよりは改善されているものの、頭部加速度の落ち込む領域A1,領域A2が残存している。
【0061】
領域A1では、質量体22が中立位置Oよりもシート前方側に振れており、シート前方側のばねが効いている。本実施形態では、このシート前方側のばね定数Kfを比較的大きく設定しているので、質量体22及びヘッドレスト10のシート後方への跳ね返りが抑制される。このため、実線L3で示されるように、領域A1での頭部加速度の落込みを減少させることができる。また領域A2では、質量体22が中立位置Oよりもシート後方側に振れており、シート後方側のばねが効いている。本実施形態では、このシート後方側のばね定数Krを比較的小さく設定しているので、質量体22及びヘッドレスト10が頭部12Hに押さえ付けられてシート後方に移動する際に、実線L3で示されるように、領域A2での頭部加速度の落込みを低減させることができる。
【0062】
このようにして、本実施形態では、頭部加速度の落込みを第1実施形態よりも一層低減させることにより、自動車アセスメントにおける後面衝突頚部保護性能を高めることができる。
【0063】
[第4実施形態]
図8(C)に示される変位−荷重線図において、本実施形態では、中立位置Oからの質量体22のシート前方側への振れ幅が所定量A以上の領域でのばね体26のばね定数をKfとし、中立位置Oからの質量体22のシート後方側への振れ幅が所定量B以上の領域でのばね体26のばね定数をKrとし、中立位置Oからの質量体22のシート前後方向の振れ幅が夫々所定量A,B未満の領域でのばね体26のばね定数をKとすると、各ばね定数の関係が、Kf>Kr>Kとなるように設定されている。
【0064】
具体的な態様としては、図8(A)に示されるように、質量体22の前端側にストッパ部22Aが設けられ、質量体22の後端側にストッパ部22Aよりも柔らかいストッパ部22Bが設けられている。このストッパ部22Bは、例えばゴムにより構成されている。ストッパ部22A,22Bと取付けブラケット18の基部18Aとの位置関係は、図4(A)に示される例と同様である。
【0065】
ストッパ部22A,22Bが取付けブラケット18の基部18Aの下面に当接すると、ばね体26が夫々変形し難くなるので、該ストッパ部22A,22Bが該基部18Aに当接するか否かによって、ばね体26のばね定数を変化させることができる。特にシート前方側では金属同士の接触となるため、ばね体26が一層変形し難くなる。これによって、中立位置Oからの質量体22の振れ幅が所定量A,B未満の領域のばね定数をKとし、該振れ幅が所定量A,B以上の領域のばね定数を夫々Kよりも大きいKf,Krとすることができる。
【0066】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図8(D)において、本実施形態では、ストッパ部22Bをストッパ部22Aよりも柔らかく構成することにより、ばね体26は、シート前方側で比較的固く(図8(B))、シート後方側で比較的柔らかく(図8(C))、中立位置O付近(図8(A))で最も柔らかくなっている。このようにシート前後方向でばね体26のばね定数を変化させることにより、ばね定数Kとして、車両用シート100の共振抑制に最適なものを用い、ばね定数Kf,Krとして、後面衝突時の乗員12の頭部12Hに対するヘッドレストの追従性を高めるために最適なものを用いることにより、双方の性能を更に最適化することができる。またこれによって、第3実施形態と同様に、後面衝突時の乗員12の頭部12Hにおける頭部加速度の落込みを低減させ、自動車アセスメントにおける後面衝突頚部保護性能を一層高めることができる。
【0067】
[第5実施形態]
図9(A)において、本実施形態に係る車両用シート100では、質量体22のシート前方側に、該シート前方側に振れた該質量体22をロックするロック手段34を有している。
【0068】
ロック手段34としては、例えばストッパ32の一部の領域32Cに設けられているリブ32Bが挙げられる。この例では、図9(B),(C)に示されるように、質量体22がシート前方側に振れてストッパ32に当接した際に、リブ32Bが適宜変形することにより、該質量体22をストッパ32に嵌合保持することができる。換言すれば、質量体22は、ストッパ32にめり込むことにより該ストッパ32に嵌合保持されるようになっている。
【0069】
ロック手段34はこれに限られず、磁石、粘着剤、面ファスナ等であってもよい(何れも図示せず)。
【0070】
他の部分については、第1実施形態と同様であるので、同一の部分には図面に同一の符号を付し、説明を省略する。
【0071】
なお、第2実施形態の変形例(図4,図5参照)や第4実施形態(図8参照)のように、ばね体26のばね定数は、該ばね体26自身のばね定数に限られるものではなく、周辺部材の干渉等により変化する系としての変形のし難さも含まれる。また質量体22の変位(ばね体26の変形)と、ばね体26に生じる荷重との関係は、線形に限られず、非線形であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 ヘッドレスト
12 乗員
12H 頭部
14 シートバック
16 ヘッドレストステー
18 取付けブラケット
22 質量体
26 ばね体
32 ストッパ
34 ロック手段
100 車両用シート
A 所定量
B 所定量
K ばね定数
Kf ばね定数
Kr ばね定数
O 中立位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックに支持されるヘッドレストステーと、
該ヘッドレストステーに設けられた取付けブラケットと、
該取付けブラケットのシート下方側にばね体を介して設けられた質量体と、
を有するヘッドレスト。
【請求項2】
前記ヘッドレストステーに、前記質量体のシート前方側への振れ幅の上限を規制するストッパが設けられている請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項3】
前記質量体が静止状態となる中立位置からの該質量体のシート前方側への振れ幅が所定量以上の領域での前記ばね体のばね定数をKfとし、
前記中立位置からの前記質量体のシート後方側への振れ幅が所定量以上の領域での前記ばね体のばね定数をKrとし、
前記中立位置からの前記質量体のシート前後方向の振れ幅が夫々所定量未満の領域での前記ばね体のばね定数をKとすると、
Kf≧Kr≧Kである請求項1又は請求項2に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
前記質量体のシート前方側に、該シート前方側に振れた該質量体をロックするロック手段を有する請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のヘッドレスト。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のヘッドレストを有する車両用シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−107491(P2013−107491A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253791(P2011−253791)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】