説明

ヘテロ環縮環オリゴチオフェン及びその製造方法、並びにポリマー

【課題】電子供与性が高く、安定性に優れるヘテロ環縮環チオフェン化合物及びポリマー、並びにヘテロ環縮環チオフェン化合物の効率的な製造方法を提供。
【解決手段】立体反発が小さいため、2つの骨格が約168°の二面角をなす構造が安定配座であるビ(チエノ[2,3−c]チオフェン)骨格を有する、優れた電荷輸送能を有するヘテロ環縮環チオフェン化合物及びポリマー、並びにヘテロ環縮環チオフェン化合物の効率的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヘテロ環縮環オリゴチオフェン及びその製造方法に関する。また、本発明は、ヘテロ環縮環オリゴチオフェン単位を含むポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機材料の電荷輸送能を利用した各種素子(例えば、有機EL等の有機発光素子、有機トランジスタ、及び有機トランジスタ素子)が提案されている。これらの素子に有機材料を用いることにより、軽量、安価、低製造コスト、及びフレキシブル等の利点が期待される。電荷輸送能を有する有機化合物は、高分子化合物及び低分子化合物を問わずこれまで活発に研究されている。電荷輸送能を有する有機化合物として、チオフェン及び該チオフェン単位を含むポリマーが提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−104471号公報
【特許文献2】特開2007−261961号公報
【特許文献3】特開2008−504379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
優れた電荷輸送能を有する有機化合物は限られている。そこで、優れた電荷輸送能を有する新規な有機化合物の開発が、この分野の最大の課題となっている。また、優れた物性をもつ有機化合物を簡便且つ効率的に合成する方法も同時に要求されている。
【0005】
本発明の目的は、電子供与性が高く、安定性に優れる新規なヘテロ環縮環チオフェン化合物及び該化合物由来の単量体単位を含むポリマーを提供することである。また、本発明の他の目的は、上記ヘテロ環縮環チオフェン化合物を効率よく合成することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヘテロ環縮環チオフェン化合物は、下記式(1)で表される化合物(以下、「チオフェン(1)」という。)である。式(1)中、R及びR’は一価の基である。R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。
【0007】
【化1】

【0008】
本発明のポリマーは、式(2)で表されるヘテロ環縮環チオフェン単位(以下、「チオフェン単位(2)」という。)を少なくとも一部に有する。式(2)中、R及びR’は一価の基である。R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。XおよびX’は独立に、2価のアリール基である。nは任意の整数である。
【0009】
【化2】

【0010】
本発明のヘテロ環縮環チオフェン化合物の製造方法は、式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」という。)と、式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」という。)とを反応させ、チオフェン(1)を得る方法である。式(1)、(3)及び(4)中、R及びR’は一価の基である。R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。R11及びR12は独立に、アルキルチオ基、フェニルチオ基、又はアルコキシフェニル基である。
【0011】
【化3】

【発明の効果】
【0012】
本発明のヘテロ環縮環チオフェン化合物は、無置換のクォーターチオフェンと比べて高い酸化還元電位を有し、電子供与性が高い。また、本発明のヘテロ環縮環チオフェン化合物は、酸化還元が可逆的且つ安定に進行し、酸化還元に対して安定である。更に、本発明のヘテロ環縮環チオフェン化合物は、化学修飾が容易である。よって、必要に応じて適宜化学修飾することにより、種々の物性を有するヘテロ環縮環チオフェン化合物を調製することができる。本発明のポリマーは、上記ヘテロ環縮環チオフェン化合物由来の単位を含む。よって、本発明のポリマーは、電子供与性が高く、安定性に優れる。本発明の製造方法によれば、上記ヘテロ環縮環チオフェン化合物を効率よく合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】X線単結晶構造解析により求めた化合物(1B)の分子構造を示す図である。
【図2】化合物(1B)のジオキサン中でのサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1>チオフェン(1)
式(1)中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子としては、例えば、F、Cl、Br、及びIが挙げられる。
【0015】
上記一価の基の種類及び構造には特に限定はない。該基として具体的には、例えば、一価の炭化水素基が挙げられる。上記一価の炭化水素基として具体的には、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。
【0016】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の構造に特に限定はない。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基等)でもよい。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、構造中に他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。上記アルキル基等は、構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0017】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニルアルキル基としては、例えば、アリル基及びイソプロペニル基が挙げられる。
【0018】
上記アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の構造には特に限定はない。上記アリール基としては、例えば、ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基及び非ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基が挙げられる。上記ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基として具体的には、例えば、フェニル基、オリゴアリール基(ナフチル基等)、ヘテロアリール基(フラン、チオフェン、ピロール、及びイミダゾール等)が挙げられる。
【0019】
上記アリール基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基は、無置換のアリール基でもよく、置換アリール基でもよい。芳香環に位置する置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ニトロ基、置換アミノ基、及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。
【0020】
上記一価の基としてその他には、例えば、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シアノ基、カルバモイル基、置換カルバモイル基、ホルミル基、スタンニル基、置換スタンニル基、イミノ基、置換イミノ基、ボリル基、置換ボリル基、ホスフィノ基、置換ホスフィノ基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、及びアリールスルホニルオキシ基が挙げられる。例えば、上記一価の基をトリアルキルシリル基とすることができる。該トリアルキルシリル基中のアルキル基は、通常、炭素数1〜6である。上記トリアルキルシリル基として具体的には、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn−プロピルシリル基、及びトリi−プロピルシリル基が挙げられる。
【0021】
式(1)中、R〜Rの一部又は全部は同じ基でもよい。また、R〜Rの全てが異なる基でもよい。例えば、R及びRを「A」(A;水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基)とし、R及びRを「B」(B;水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基)とすることができる。
【0022】
式(1)中、R〜Rの具体的な組み合わせには特に限定はない。例えば、R及びRを上記一価の基とすることができる。より具体的には、例えば、R及びRを水素原子とし、R及びRを上記一価の基とすることができる。R及びRが上記一価の基であると、安定性に優れ、また、副反応を抑えて効率的にチオフェン(1)を得ることができるので好ましい。この場合、R及びRは通常同一の基であるが、異なる基でもよい。R及びRは、C3−8第二級又は第三級アルキル基以外の一価の炭化水素基とすることができる。
【0023】
式(1)中、R及びR’は一価の基である。該一価の基の内容は、R〜Rでの説明が妥当する。上記一価の基として好ましくは、アリール基が挙げられる。式(1)中、R及びR’の一方又は両方をアリール基とすることができる。
【0024】
上記アリール基の種類及び構造に特に限定はない。上記アリール基としては、例えば、ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基及び非ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基が挙げられる。上記ベンゼン系芳香族化合物由来のアリール基として具体的には、例えば、フェニル基、オリゴアリール基(ナフチル基等)、ヘテロアリール基(フラン、チオフェン、ピロール、及びイミダゾール等)が挙げられる。上記アリール基に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記フェニル基は、無置換のフェニル基(C−)だけでなく、置換フェニル基も含む。
【0025】
上記アリール基として好ましくは、下記式(A)で表される基(以下、「アリール基(A)」という。)が挙げられる。式(A)中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。R〜Rは同一の原子又は基でもよく、異なる原子又は基でもよい。例えば、Rを一価の基とし、R及びRを水素原子とすることができる。式(1)中、R及びR’の少なくとも一方は、アリール基(A)とすることができる。
【0026】
【化4】

【0027】
式(1)中、R及びR’の具体的な組み合わせには特に限定はない。R及びR’は同一の基でもよく、異なる基でもよい。R及びR’のいずれも上記アリール基であることが好ましい。より具体的には、Rをアリール基(A)とし、R’を式(B)で表される基(以下、「アリール基(B)」という。)とすることができる。式中、R〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。R〜RとR〜R10は同一の基でもよく、異なる基でもよい(即ち、アリール基(A)及びアリール基(B)は同一の基でもよい。)。例えば、R及びRを一価の基とし、R及びR並びにR及びR10を水素原子とすることができる。
【0028】
【化5】

【0029】
チオフェン(1)を得る方法には特に限定はない。チオフェン(1)は通常、後述する本発明の製造方法により得ることができる。チオフェン(1)は、化学修飾が容易である。よって、必要に応じてチオフェン(1)を適宜化学修飾することにより、種々の物性を有するチオフェン化合物を調製することができる。
【0030】
チオフェン(1)は、ビ(チエノ[2,3−c]チオフェン)骨格を有する。ビ(チエノチオフェン)骨格には、以下のように、チエノチオフェン中の4個の4個の硫黄原子が内側に位置する骨格(I)と、外側に位置する骨格(II)に位置する骨格がある。チオフェン(1)は骨格(I)を有する。骨格(I)及び(II)について、理論計算を用いて気相中単分子での安定構造を比較した(B3LYP/6−311+G*レベル)。骨格(I)は、ビ(チエノ[2,3−c]チオフェン)骨格同士の立体反発が小さいため、2つの骨格が約168°の二面角をなす構造が安定配座である。一方骨格(II)は、約1146°の二面角をなす構造が安定配座であり、骨格(I)と比べてより捻れた構造をとっている。即ち、骨格(I)の方がπ共役の効果的な拡張に有利な構造を有する。
【0031】
【化6】

【0032】
<2>ポリマー
本発明のポリマーは、構造中、チオフェン単位(2)を少なくとも一部に有する。式(2)中、式中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。R〜Rの内容は、チオフェン(1)の項での説明が妥当する。
【0033】
式(2)中、X及びX’は二価のアリール基(芳香族化合物の芳香環に結合する2個の水素原子が脱離して生じる基)である。上記二価のアリール基の種類及び構造に特に限定はない。上記二価のアリール基としては、例えば、二価のベンゼン系芳香族化合物由来の基及び非ベンゼン系芳香族化合物由来の基が挙げられる。上記二価のベンゼン系芳香族化合物由来の基として具体的には、ベンゼン、縮合環芳香族化合物(ナフチル基等)、複素芳香族化合物(フラン、チオフェン、ピロール、及びイミダゾール等)由来の基が挙げられる。本発明では、X及びX’の一方又は両方を上記二価のアリール基とすることができる。上記二価のアリール基に含まれる芳香環は、無置換でもよく、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。
【0034】
上記二価のアリール基として好ましくは、式(A’)で表される基(以下、「アリール基(A’)」という。)が挙げられる。式(A’)中、R及びRは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。R及びRは同一の原子又は基でもよく、異なる原子又は基でもよい。例えば、R及びRはいずれも水素原子又は一価の基としてもよく、あるいは一方を水素原子とし、他方を一価の基としてもよい。X及びX’の少なくとも一方は、アリール基(A’)とすることができる。
【0035】
【化7】

【0036】
式(2)中、X及びX’の具体的な組み合わせには特に限定はない。X及びX’は同一の基でもよく、異なる基でもよい。より具体的には、Xをアリール基(A’)とし、X’を式(B’)で表される基(以下、「アリール基(B’)」という。)とすることができる。式中、R、R、R、及びR10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。R及びRとR及びR10は同一の基でもよく、異なる基でもよい(即ち、アリール基(A’)及びアリール基(B’)は同一の基でもよい。)。例えば、R及びR並びにR及びR10をいずれも水素原子とすることができる。
【0037】
【化8】

【0038】
式(2)中、nは任意の整数である。nは必要な物性を実現する等の目的で適宜の範囲とすることができる。nの下限値として具体的には、例えば1、5、10、20、又は50が挙げられる。nの上限値として具体的には、例えば10、30、50、100、500、1,000、2,000、5,000、10,000、20,000、50,000、又は100,000が挙げられる。nはより具体的には、例えば1〜50,000、2〜20,000、5〜10,000、10〜10,000、20〜5,000の範囲とすることができる。
【0039】
チオフェン単位(2)として具体的には、例えば、式(2−1)で表されるヘテロ環縮環オリゴチオフェン単位が挙げられる。
【0040】
【化9】

【0041】
式(2−1)中、Yは二価の基である。該二価の基の構造には特に限定はない。該二価の基は、鎖状構造でもよく、環状構造でもよく、両者を含む構造でもよい。上記二価の基は側鎖又は他の官能基を有していてもよい。上記二価の基は飽和結合のみで構成されていてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。不飽和結合を含む上記二価の基としては、例えば、二価のπ共役基(π結合を有する二価の基であって、式(2−1)中のビ(チエノ[2,3−c]チオフェン)骨格、X及びX’とπ共役骨格を形成することができる基)が挙げられる。上記二価の基として具体的には、例えば、アルキル基、−CZ=CZ−基(Z及びZ;水素原子又は一価の炭化水素基。該一価の炭化水素基の内容は、上記の説明が妥当する。)、−C≡C−基、二価のアリール基、−Si(R1314)−、−Si(R1516)−O−Si(R1718)−、N(R19)−、−B(R20)−が挙げられる。上記二価のアリール基の内容は、上記の説明が妥当する。R13〜R20は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。該ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。R13及びR14は同一の基でもよく、異なる基でもよい。また、R15〜R18は同一の基でもよく、異なる基でもよい。
【0042】
本発明のポリマーは、チオフェン単位(2)を少なくとも一部に有していればよい。本発明のポリマーは、チオフェン単位(2)のみからなるポリマーでもよく、チオフェン単位(2)と他の単量体単位とからなる共重合体でもよい。本発明のポリマーが共重合体の場合、全単量体単位中のチオフェン単位(2)の割合には特に限定はない。該割合は、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。上記割合の下限値としては、例えば1%、5%、10%、20%、30%、40%、又は50%が挙げられる。上記割合の上限値としては、例えば50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%が挙げられる。上記割合として具体的には、通常10〜90%、好ましくは20〜85%、更に好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜70%である。
【0043】
上記他の単量体単位の種類及び構造には特に限定はない。上記他の単量体単位として、導電性重合体を形成することができる公知の単量体を用いることができる。
【0044】
本発明のポリマーの分子量には特に限定はない。本発明のポリマーの分子量は、必要な物性を実現する等の目的で適宜の範囲とすることができる。本発明のポリマーの分子量は通常、重量平均分子量又は数平均分子量で1万〜500万である。
【0045】
本発明のポリマーとしてより具体的には、例えば、式(2−2)で表されるポリマーが挙げられる。式中、R〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。nは任意の整数である。上記ハロゲン原子及び一価の基の内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。また、nの内容は、上記の説明が妥当する。
【0046】
【化10】

【0047】
本発明のポリマーを得る方法には特に限定はない。本発明のポリマーは、チオフェン(1)をモノマーとして用い、必要に応じて他のモノマーを用いて重合することにより得ることができる。上記重合の内容及び条件には特に限定はない。上記重合は公知のチオフェン重合体を得る方法により行うことができる。
【0048】
上記のように、本発明のポリマーは、チオフェン単位(2)を有する。該単位はチオフェン(1)と同様の性質を有する。従って、本発明のポリマーは高い酸化電位を持ち、電子供与性が高い。よって、本発明のポリマーは、優れたp型半導体材料として有機トランジスタ及び有機太陽電池へ応用することができる。
【0049】
<3>チオフェン(1)の製造方法
本発明の製造方法では、化合物(3)及び(4)を反応させ、チオフェン(1)を得る。式(1)及び(3)中、R、R’及びR〜Rは、上記の説明が妥当する。
【0050】
化合物(3)を得る方法には特に限定はない。例えば、化合物(3)は、以下の方法により得ることができる(参考文献;Org.Lett.2008,10,3591−3594)。
【0051】
【化11】

【0052】
化合物(4)は、いわゆるローソン試薬又はその類縁体として知られている化合物を包含する。式(4)中、R11及びR12は独立に、RS−(R;一価の炭化水素基)又はアリール基である。R11及びR12は通常は同一の基であるが、異なる基でもよい。
【0053】
上記一価の炭化水素基の種類及び構造には特に限定はない。上記一価の炭化水素基として具体的には、例えば、上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。これらの内容は、上記のR〜Rでの説明が妥当する。
【0054】
上記アリール基の構造には特に限定はない。上記アリール基は、無置換のアリール基だけでなく、置換アリール基でもよい。また、上記アリール基はヘテロアリール基でもよい。芳香環に位置する置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。該置換基として具体的には、例えば、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、及びフェノキシ基等)の1種又は2種以上が挙げられる。
【0055】
化合物(4)として具体的には、例えば、R11及びR12がメトキシフェニル基(ローソン試薬)又はフェノキシフェニル基(ベレオー試薬)である化合物、並びにR11及びR12がチオアルキル基(デービー試薬;アルキル基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、又はブチル基)又はチオフェニル基(ジャパニーズ試薬)である化合物が挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法は、通常、溶媒中で行う。該溶媒の種類には特に限定はない。該溶媒は極性溶媒でもよく、非極性溶媒でもよい。該極性溶媒はプロトン性極性溶媒でもよく、非プロトン性極性溶媒でもよい。また、上記溶媒は1種の溶媒でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。上記極性溶媒として具体的には、例えば、THF、アニソール、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、及びアリルアルコール)、及びエステル化合物(例えば、酢酸エチル)が挙げられる。また、上記非プロトン性極性溶媒として具体的には、例えば、DMSO、アミド系溶媒(DMF、DMA、DMI及びNMP等)、ウレア系溶媒、リン酸アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、及びニトロアルカン系溶媒が挙げられる。上記非極性溶媒は、脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。該脂肪族有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、及びヘプタンが挙げられる。更に、上記芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法において、化合物(3)及び(4)の量及び割合には特に限定はない。化合物(3)及び(4)の量及び割合は、必要に応じて適宜調整することができる。
【0058】
本発明の製造方法の反応条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは2〜12時間とすることができる。反応温度は20〜200℃、好ましくは40〜150℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気及びアルゴンガス雰囲気が挙げられる。本発明の製造方法では、チオフェン(1)を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0059】
本発明の製造方法は、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。例えば、反応終了後、公知の方法、例えば、蒸留、吸着、抽出、及び再結晶等の方法又はこれらの方法を組み合わせて、チオフェン(1)の回収及び精製を行うことができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0061】
以下の実施例において、反応は、特に記述がない限り、アルゴン雰囲気下で脱水溶媒を用いて行った。また、反応に用いたトルエン及びTHFは、市販の脱水溶媒(関東化学製)を用いた。
【0062】
(1)実験例1
以下に記載の方法により、化合物(1A)(2,2’−ビ{4−トリイソプロピルシリル−4−(2’−チエニル)チエノ[2,3−c]チオフェン})を合成した。また、以下に記載の方法により、化合物(1A)を化学修飾し、化合物(1B)を合成した。合成スキームを以下に示す。尚、出発物質であるビス(3−ブロモ−5−トリイソプロピルシリルチエニルアセチレン)は公知の化合物である(参考文献;Angew.Chem.Int.Ed.2008,47,5582)。
【0063】
【化12】

【0064】
ビス(3−ブロモ−5−トリイソプロピルシリルチエニル)アセチレン(3.30 g、5.00 mmol)のTHF溶液(50 ml)に、t−ブチルリチウム1.6Mペンタン溶液(12.5 ml、20.0 mmol)を−78℃で7分間かけて加えた。1.5時間攪拌した後、2?チオフェンアルデヒド(1.03ml、1.23g、11.0mmol)を3分かけて加え、1時間撹拌した。反応溶液に水を加え、THFを減圧下で留去したのち、水層をクロロホルムで抽出し、得られた有機層をあわせて水、塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥した。これを減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/1)で精製することで、ビス〔3−(2’−チエニル)−ヒドロキシメチル−5−トリイソプロピルシリルチエニル〕アセチレン1.91gを得た(2.63mmol、収率53%)。
【0065】
次に、ビス〔3−(2’−チエニル)−ヒドロキシメチル−5−トリイソプロピルシリルチエニル〕アセチレン(1.59g、2.20mmol)のジクロロエタン溶液(22ml)に酸化マンガン(4.62g、53mmol)を加え、40℃で48時間撹拌した。反応混合物から不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮した後、クロロホルムで再結晶することにより、化合物(3A)を得た(1.50g、収率45%)。
【0066】
化合物(3A)(300mg、0.414mmol)及びローソン試薬(2,4−ビス(4−メトキシフェニル)−1,3,2,4−ジチアジホスフェタン−2,4−ジスルフィド)(185mg、0.456mmol)をトルエン溶液(10ml)に加えた。次いで、これを3時間加熱還流することにより、化合物(3A)及びローソン試薬を反応させた。反応混合物をクロロホルムで再結晶することにより、化合物(1A)を得た(248mg、0.329mmol、収率80%)。
【0067】
ジイソプロピルアミン(93μl、67mg、0.66mmol)のTHF溶液(2ml)に、n−ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液(0.38ml、0.61mmol)を−78℃で2分間かけて加え、30分攪拌した後、0℃に昇温させ、更に40分間攪拌することにより、系中でリチウムジイソプロピルアミドを調製した。
【0068】
この溶液を、化合物(1A)(200mg、0.265mmol)のTHF溶液(3ml)に−78℃で3分間かけて加え、1時間攪拌した後、クロロトリイソプロピルシラン(130μl、117mg、0.609mmol)を加えた。反応混合物に塩化アンモニウム水溶液を加え、水層をCHClで抽出した後、有機層を合わせて水及び塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。これを減圧濃縮した後、アルゴン雰囲気下、脱気したクロロホルムを用いて再結晶することで、濃赤色結晶の化合物(1B)を得た(234mg、0.219mmol、収率83%)。
【0069】
化合物(1A)及び化合物(1B)のスペクトルデータを以下に示す。H−NMR及び13C−NMRスペクトルは、日本電子社製「AL−400」及び「GSX−270」により測定した。
【0070】
化合物(1A)のスペクトルデータ;
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl);δ1.12(d,36H,J=7.6Hz),1.43(sept,6H,J=7.6Hz),7.10(pseudo t,2H,J=4.0Hz),7.31(d,2H,J=4.0Hz),7.33(d,2H,J=3.6Hz),7.38(s,2H)
〔2〕13C−NMR(100MHz,CDCl):δ11.9,18.8,119.7,122.1,124.2,124.8,125.7,128.1,136.8,139.7,146.3,147.1
【0071】
化合物(1B)のスペクトルデータ;
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl);δ1.16(d,36H,J=7.6Hz),1.21(d,36H,J=7.6Hz),1.39−1.46(m,12H),7.24(d,2H,J=3.2Hz),7.42(d,2H,J=3.2Hz),7.43(s,2H)
【0072】
X線単結晶構造解析により、化合物(1B)の分子構造を調べた。X線結晶構造解析に用いた化合物(1B)の単結晶は、それぞれクロロホルムにより得た。強度データは、Rigaku single crystal CCD X線解析装置(Saturn70 with MicroMax−007,MoKα照射(λ=0.71070Å,graphite monochrometer)を用いて測定した。構造は直接法(SHELXS-97)により解き、full−matrix least−squares on F2(SHELXS-97)により最適化した。水素以外の原子は異方的に最適化し、水素原子はAFIX instruction を用いて配置した。結果を図1に示す。
【0073】
化合物(1B)の酸化還元特性を調べるため、電気化学アナライザー ALS/chi−617A(BAS)を用いて、化合物(1B)のジオキサン中でのサイクリックボルタモグラムを調べた。グラッシーカーボン電極、白金のカウンター電極、及びAg/AgNOの参照電極を用いた。0.1MのBuPFを支持電解質として含む試料のジオキサン溶液を用い、アルゴン雰囲気下測定を行った。酸化還元電位は、フェロセンを基準として決定した。その結果を図2に示す。
【0074】
図1より、化合物(1B)の2個のビ(チエノ[2,3−c]チオフェン)骨格は平面構造であり、上記の理論計算の結果と近似した安定配座であることが分かる。この結果より、化合物(1B)は、π共役の効果的な拡張に有利な構造を有することが分かる。
【0075】
図2より、正側の電圧を加えることにより、2段階での酸化反応が認められた。1段階目の酸化電位(E1/2=+0.07V)がフェロセンと同程度であり、化合物(1B)は、フェロセンと同様に酸化され易く、電子供与性が高い性質を有することが分かる、また、酸化後に逆向きの電圧をかけて還元したところ、還元も可逆的且つ安定に進行した。化合物(1B)は、この酸化還元の過程を経ても分解されなかったことから、酸化還元に対して安定であることが分かる。この結果より、化合物(1B)は、優れたp型半導体材料として有用であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるヘテロ環縮環チオフェン化合物。
【化1】

(式中、R及びR’は一価の基である。R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項2】
R及びR’の少なくとも一方はアリール基である請求項1記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物。
【請求項3】
R及びR’の少なくとも一方は、式(A)で表される基である請求項1記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物。
【化2】

(式中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項4】
Rが式(A)で表される基であり、R’が式(B)で表される基である請求項1記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物。
【化3】

(式中、R〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項5】
及びRが一価の基である請求項1乃至4のいずれかに記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物。
【請求項6】
式(2)で表されるヘテロ環縮環チオフェン単位を少なくとも一部に有するポリマー。
【化4】

(式中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。X及びX’は二価のアリール基である。nは任意の整数である。)
【請求項7】
式(2−1)で表されるヘテロ環縮環オリゴチオフェン単位を少なくとも一部に有する請求項6記載のポリマー。
【化5】

(式中、Yは二価の基である。)
【請求項8】
X及びX’の少なくとも一方は、式(A’)で表される基である請求項6又は7記載のポリマー。
【化6】

(式中、R及びRは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項9】
Xが式(A’)で表される基であり、X’が式(B’)で表される基である請求項6又は7記載のポリマー。
【化7】

(式中、R、R、R、及びR10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項10】
式(2−2)で表される請求項6記載のポリマー。
【化8】

(式中、R〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。nは任意の整数である。)
【請求項11】
下記式(3)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物とを反応させ、下記式(1)で表されるヘテロ環縮環チオフェン化合物を得るヘテロ環縮環チオフェン化合物の製造方法。
【化9】

(式中、R及びR’は一価の基である。R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。R11及びR12は独立に、RS−(R;一価の炭化水素基)又はアリール基である。)
【請求項12】
R及びR’の少なくとも一方はアリール基である請求項11記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物の製造方法。
【請求項13】
R及びR’の少なくとも一方は、式(A)で表される基である請求項11記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物の製造方法。
【化10】

(式中、R〜Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)
【請求項14】
Rが式(A)で表される基であり、R’が式(B)で表される基である請求項11記載のヘテロ環縮環チオフェン化合物の製造方法。
【化11】

(式中、R〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の基である。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202554(P2010−202554A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48542(P2009−48542)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】