説明

ヘモグロビン組成物

【課題】本発明は、ヘモグロビン、特にPEG化ヘモグロビンを含む組成物を提供する。【解決手段】PEG化ヘモグロビン分子は、それに結合した酸素または一酸化炭素を近接する組織に移動させることができる。例示的な本発明のPEG化ヘモグロビン製剤は、ウイルス不活化されている。本発明の様々な組成物は、1つまたは複数の水溶性ポリマーとコンジュゲートされていてもよい、脱酸素化されたヘモグロビンを含む。PEG化ヘモグロビンは、そのヘモグロビン分子の鉄原子が酸素と結合していない種または任意の他の種、および例えば一酸化炭素のような酸素以外の種が鉄原子に結合したヘモグロビン分子を含む。本発明の組成物は、PEG化ヘモグロビンの、低張、等張または高張溶液として製剤化される。前記組成物は、組織および/または器官の酸素供給を提供することにより、疾患、創傷および傷害を治療および/または改善するために役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2010年6月9日に出願された米国仮特許出願第61/185,547号の優先権を主張し、これは、すべての目的について、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリマー修飾タンパク質、例えば、ヘモグロビン、酸素または一酸化炭素を組織に送達することができる製剤を含めた、代用血液および蘇生液の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
外傷は、米国における死亡の主要原因の1つである。高い死亡率の主な理由は、傷害時と医療施設での手術時との間に、患者の組織酸素供給を維持することができないことである。酸素供給の不足は、組織損傷、臓器不全、および死亡をもたらす。したがって、外傷性ショックの治療における主な焦点は、患者の内部組織および臓器に可能な限り多くの酸素を供給する治療剤を投与することである。
【0004】
酸素供給を維持するための明白な手法は、輸血である。しかし、ポイントオブケア治療において血液を使用することには重大な実用的問題が存在し、これは、医療施設の外でヒトの保存血を普通に使用することを、広い範囲で非現実的にしている。外傷を治療するための標準的な手法は、主に、等張性、高張性(hypertonic)、または高張性の(hyperoncotic)溶液を投与することによる、血管内循環量の維持を伴う。これらの治療は、虚血および臓器不全を有効に防止するのに十分に、内部組織および臓器の酸素供給を均一に増大させることができない。
【0005】
結果として、外傷患者の酸素運搬能力を回復させることができる、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)を開発する主要な取り組みがある。HBOCは、ヒト保存血液を使用することに対するいくつかの利点を有し、疾患伝播の機会の減少、無免疫反応性、型別の必要が無いこと、および最も重要なことに、貯蔵の必要性を減らして、利用可能性が改善されることを含む。いくつかのグループがHBOCを開発し、いくつかの会社が、代用血液としてのその会社のヘモグロビン系製品を開発するために臨床試験を実施している。ヒトもしくは動物の血液から単離されたヘモグロビン(HGB)、またはペルフルオロカーボンなどの合成製造された酸素運搬体は、臨床試験中にある、2つの型の代用血液である。他の代用赤血球も、患者に使用するために開発され、特徴づけられている(例えば、Red Blood Cell Substitutes, 1998, (Eds.) A. S. Rudolph, R. Rabinovici, and G. Z. Feuerstein, Dekker, New York, N.Y.を参照)。そのような代用赤血球は、標準的な医学療法、例えば、輸血された血液または血液産物などとともに使用することができる。具体例として、Enzon,Inc.(Piscataway, N. J.)は、PEG−HGBと省略される、ポリエチレングリコール(PEG)−修飾ウシヘモグロビンを開発した。PEG−HGBは、例えば、Nhoらへの米国特許第5,386,014号および同第5,234,903号に開示されているように、PEGの鎖がHBG分子の表面に架橋されるプロセスによって製造される。他の具体例として、Hemopure(商標)およびオキシグロビン(Biopure, Cambridge, Mass.)が挙げられる。しかし、これらの製品のいずれも、組織酸素供給の有意な増大を生じることが証明されておらず、いずれも、FDA認可を受けておらず、その理由は、これらが効果的でなく、またはかなりの毒性を生じるためである。
【0006】
適当なHBOCの欠如は、組織酸素供給の生理機能への基本研究、ならびにショックおよびその結果として起こる組織損傷に関与する決定的な機構への我々の理解を大いに妨げている。臨床試験にかけられ、かなりの毒性を生じたHBOCに関して、これらの毒性の原因について利用可能な情報は乏しい。
【0007】
したがって、外傷で誘発される出血を治療するための方法は、現在不十分である。輸血は、組織への酸素を回復し、失われた循環量を補充することができるが、医療施設の外で出血を治療するための手段としての血液の使用は、重大な実用的問題を有する。まず第一に、利用可能な血液の量が一般に制限され、免疫反応を通じて患者を殺すのを防止するために、治療される各人について型別が必要である。しかし、医療施設の外で外傷患者を治療するのに血液を使用することにおける最も重要な問題は、この組織を使用することにおける固有の貯蔵および包装の制約である。したがって、輸血は、外傷患者のポイントオブケア治療において、通常使用されない。
【0008】
実際、外傷を治療するための標準的な手法は、主に、等張性、高張性(hypertonic)、または高張性の(hyperoncotic)溶液を投与することによる、血管内循環量の維持を伴う。これらの手法は、循環体積の短期間の補充をもたらすことが意図されており、血流、およびしたがって組織への酸素送達を増大させることもできる。しかし、出血が重度である場合、これらの治療は、虚血および臓器不全を有効に防止するのに十分に、内部組織および臓器の酸素供給を均一に増大させることができない。結果として、重度の外傷を受けた個体は高い死亡率を有する。
【0009】
何年もの間、外傷患者に酸素を供給することができるヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)を開発するための試みが行われている。HBOCは、外傷を治療するための血液の使用に関連する問題の多くを伴うことなく、ヒト保存血の使用に対していくつかの利点を有する。これらの利点は、疾患伝播の機会の減少、無免疫反応性、型別の必要が無いこと、および最も重要なことに、貯蔵の必要性を減らして、利用可能性が改善されることを含む。理想的には、HBOCは、酸素に結合し、必要とされる組織に酸素を放出することができるべきである。これは、ほとんどの環境条件、特に、外傷患者が治療を必要とするポイントオブケア条件において一般に遭遇する環境条件下で、数カ月間安定な形態の、すぐに使える溶液であるべきである。
【0010】
何年にもわたって、天然もしくは組換えのヒトヘモグロビン、ヒトヘモグロビンの修飾型、または他の種に由来するヘモグロビンの修飾型を使用して、酸素治療剤としてのHBOCを開発するためのいくつかの試みが行われている。非修飾ヘモグロビンは、酸素治療剤として使用することができるが、これは、NOに結合し、重度の血管収縮および高血圧症を引き起こす。その分子量の結果として、ヘモグロビンは、特に腎臓に対して重大な毒性を引き起こす場合があり、腎臓においてこれは、糸球体装置を詰まらせる。結果として、ヒトにおいて試験されているほとんどのヘモグロビンは、その半減期を延長し、その毒性を低減するために修飾される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、代用血液として機能を果たし、かつ/または治療活性を有する、新規の酸素および一酸化炭素運搬および送達分子、ならびにこれらの分子を調製するための方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、安定化され、輸血薬剤(transfusion medicine)における治療剤として有用な、ウイルス不活化されたヘモグロビンおよび水溶性ポリマーとのヘモグロビンコンジュゲートを提供することであり、ウイルス不活化は、天然ヘモグロビンおよび得られるヘモグロビン製剤を、伝播性感染因子を本質的に含まない状態にする。コンジュゲートは、ヘモグロビンに結合した酸素または一酸化炭素を組織に送達することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その多くの実施形態の中で、本発明は、PEG−ヘモグロビン(「PEG-Hb」)分子を提供し、これは、哺乳動物の血管系内および血管系に接触し、かつ/またはヘモグロビンと接触した組織中に、酸素または一酸化炭素(CO)の運搬および拡散の両方を行うことができる。本発明の組成物は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含む。この組成物は、機能的な天然ヘモグロビン分子の群を含む、水溶性ヘモグロビン画分を含む。ヘモグロビン分子のこの群の各メンバーは、脱酸素化された状態にあり、化学架橋剤を実質的に含まず、例示的な実施形態では、約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する。この組成物は、水溶性安定剤画分も含む。安定剤画分は、ヘモグロビン分子の群を、脱酸素化された状態に維持する助けになる。様々な実施形態では、安定剤画分は、安定化剤を含む。例示的な安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビン分子より、も酸素(または活性酸素種(ROS))と反応性である構造要素を有する。水性希釈剤画分が場合により組成物中に含められる。希釈剤画分は、ヘモグロビン画分および安定剤画分が可溶性である、薬学的に許容される希釈剤を含む。例示的な実施形態では、組成物は、10%未満のメトヘモグロビンを含む。様々な実施形態では、化合物はウイルス不活化されており、組成物を、ウイルス活性を本質的に含まない状態にしている。
【0014】
例示的な実施形態では、本発明は、酸素または一酸化炭素を、ヘモグロビン分子からインビボで組織に(例えば、組織)に移動させることができるヘモグロビンコンジュゲートを提供する。組成物は、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビン分子と、少なくとも1つの水溶性ポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)部分との間の共有結合性コンジュゲートを含む。ヘモグロビンは、例えば、ペグ化された、水溶性ポリマーとコンジュゲートされ、その理由は、この修飾により、天然ヘモグロビンの半減期が延長されるためである。これは、天然ヘモグロビン自体、および以前に開発されたHBOCのいくつかの短いインビボ半減期という主要な問題を克服する。さらに、そのようなポリマーの結合を通じてヘモグロビンの半減期を延長することによって、分子の物理的サイズが増大する。例示的な実施形態では、コンジュゲーションは、分解産物の形成をより少なくし、天然ヘモグロビンならびに他の安定性の低いHBOCに見られる腎毒性の機会を低減する。ペグ化は、ヘモグロビンの免疫認識を低減する。したがって、非ヒト種に由来するヘモグロビンを、本発明の組成物および方法において利用することができる。例示的な実施形態では、ヘモグロビンはウシヘモグロビンである。例示的な実施形態では、組成物は、ウイルス不活化されたヘモグロビンコンジュゲート組成物である。
【0015】
様々な実施形態では、組成物は、ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分を含む。この群のヘモグロビン分子は、脱酸素化されており、少なくとも1つの水溶性ポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)部分に共有結合的にコンジュゲートされている。例示的な水溶性ポリマーコンジュゲートは、水溶性ポリマーを、アミノ酸残基のアミノ部分を通じてポリペプチドに共有結合することによって形成されるが、任意のヘモグロビンアミノ酸残基を通じてコンジュゲートを形成することは、本発明の範囲内である。ヘモグロビン画分中のヘモグロビンコンジュゲートは、化学架橋剤を実質的に含まず、約9mmHg〜約12mmHgのP50を有する。例示的な組成物は、ヘモグロビン分子の群を酸化耐性にする水溶性安定剤画分も含む。安定剤画分は、安定化剤を含む。例示的な安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンの再酸素化を防止する構造要素を含む。様々な実施形態では、安定化剤は、ヘモグロビン分子の群のメンバーよりも酸素と反応性である。様々な実施形態では、その組成物は、希釈剤画分も含む。例示的な希釈剤画分は、ヘモグロビン画分が可溶性である、薬学的に許容される希釈剤である。例示的な実施形態では、組成物は、ウイルス活性が本質的になく、約10%未満のメトヘモグロビンを含む。
【0016】
様々な実施形態では、本発明は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含むウイルス不活化されたヘモグロビン組成物を提供する。この組成物は、脱酸素化されたヘモグロビンおよび安定化剤の溶液を、熱ウイルス不活化プロセスにかける工程を含む方法によって調製される。熱ウイルス不活化プロセスは、溶液中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇した温度に溶液を曝す工程を含む。高温処理は、溶液中の本質的にすべてのウイルス活性の不活化を達成するのに十分な時間の処理である。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンの再酸素化を防止する構造要素を含む。例示的な実施形態では、この構造要素は、これが、脱酸素化されたヘモグロビンより、酸素またはROSと反応性であるように選択される。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にする機能を果たす。様々な実施形態では、溶液は、熱ウイルス失活プロセスの間に約10%超のメトヘモグロビンが形成するのを防止するのに十分な、ある量の安定化剤を含む。
【0017】
例示的な実施形態では、本発明は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含むヘモグロビン組成物を提供する。この組成物は、10%未満のメトヘモグロビンを含む。組成物がウイルス不活化される場合、これは、前駆体ヘモグロビン溶液を、約60℃に最大約12時間(例えば、約1〜約4時間)加熱する工程を含む方法によって、場合により調製される。前駆体溶液は、安定化剤を含む。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンの再酸素化を防止する構造要素を含む。例示的な実施形態では、この構造要素は、脱酸素化されたヘモグロビンより、酸素と反応性であるように選択される。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にする機能を果たす。
【0018】
例示的な実施形態では、本発明は、本発明のヘモグロビン組成物を調製する方法を提供する。この組成物は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含む。例示的な実施形態では、組成物は、機能的な天然ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分を含み、ヘモグロビン分子の群の各メンバーは、脱酸素化された状態にあり、化学架橋剤を実質的に含まず、約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する。様々な実施形態では、組成物は、安定化剤を含む水溶性安定剤画分を含む。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンの再酸素化を防止する構造要素を含む。例示的な実施形態では、この構造要素は、脱酸素化されたヘモグロビンより、酸素と反応性であるように選択される。安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にする機能を果たし、それによって、ヘモグロビン分子を脱酸素化された状態に維持する。例示的な実施形態では、組成物は希釈剤画分を含む。様々な実施形態では、希釈剤画分は、ヘモグロビン画分が可溶性である、薬学的に許容される希釈剤である。様々な組成物は、ウイルス活性が本質的になく、10%未満のメトヘモグロビンを含む。例示的な実施形態では、組成物は、ウイルス不活化されている。ウイルス不活化された組成物を調製するための例示的な方法は、ヘモグロビン画分および安定剤画分を含む混合物を、熱ウイルス不活化プロセスにかける工程を含む。例示的な熱ウイルス不活化プロセスは、混合物中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇した温度に混合物を曝す工程を含む。混合物が高温にある間の時間は、前記混合物中の本質的にすべてのウイルス活性の前記不活化を達成するのに十分な時間である。
【0019】
上記に示した組成物のそれぞれにおいて、ヘモグロビンは、場合により再酸素化される。一実施形態では、ヘモグロビンは、ウイルス不活化の後に再酸素化される。あるいは、ヘモグロビンは、一酸化炭素に結合している。一酸化炭素への結合は、組成物を調製する間、または組成物が調製された後の本質的に任意の時点で行われることができる。例示的な実施形態では、脱酸素化された組成物中で、ヘモグロビンのFe(II)は、一酸化炭素に結合している。
【0020】
本発明はまた、外傷、ショック、虚血、および組織または臓器の酸素または一酸化炭素含量を増強することによって回復まで修正可能な他の疾病を治療する方法を提供する。本発明の組成物は、対象の少なくとも50%が出血性ショックで通常死ぬ、重度の外傷性ショックの動物モデルの動物モデルにおいて、組織酸素供給を迅速に回復し、酸素負債を完全に償還する。例示的な製剤を利用すると、1ユニットの本発明の組成物は、すべての主要臓器に対する酸素負債を償還し、微小血管系を開き、平均動脈圧を回復する。本発明の様々な組成物は、濃厚赤血球より、酸素負債を逆転するのに有効で迅速である。例示的な実施形態では、本発明の製剤は、対象に製剤を投与して約60分〜約160分以内に、対象における酸素負債の少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%を償還する。あるいは、本発明の組成物は、組織内の一酸化炭素濃度を増大させる。例示的な実施形態では、酸素負債を返済し、または組織の一酸化炭素含量を増強する製剤は、本発明のペグ化ヘモグロビンコンジュゲートを含む。
【0021】
したがって、例示的な実施形態では、本発明は、組織および臓器から選択されるメンバーに酸素または一酸化炭素を送達する必要のある対象の組織および臓器から選択されるメンバーに酸素または一酸化炭素を送達する方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、1つまたは複数の組織および/または臓器への酸素または一酸化炭素の送達を達成するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0022】
様々な実施形態では、本発明は、出血性ショックを被っている対象の組織および臓器から選択されるメンバーにおける酸素負債を逆転する方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、酸素負債を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。同様の方法が、疾患、傷害などによる一酸化炭素含量の減少に応えてであっても、健康な状態または疾患状態における組織に見られる正常なレベルに対して、組織内の一酸化炭素含量を増大させることから治療利益を得るための手段としてであっても、組織の一酸化炭素含量を増大させるために提供される。
【0023】
様々な実施形態では、本発明は、血管新生を誘導するのに有効な、ある量の本発明の組成物を対象に投与することによって、対象の組織内に血管新生を誘導する方法を提供する。例示的な実施形態では、血管新生は、酸素不足を被っている組織内で誘導される。さらなる例示的な実施形態では、血管新生が誘導される組織または臓器は、酸素不足を被っている対象の組織または臓器である。例示的な実施形態では、この方法は、酸素不足を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0024】
様々な実施形態では、本発明は、酸素不足を被っている組織への血流を増大させる方法を提供する。この方法は、酸素不足を被っている組織への血流を増大させるのに有効な、ある量の本発明の組成物を対象に投与する工程からなる。例示的な実施形態では、組織または臓器は、血流不足を被っている対象の組織または臓器である。例示的な実施形態では、この方法は、血流不足を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0025】
様々な実施形態では、本発明は、酸素不足を被っている組織内の神経損傷および/または梗塞組織を減少させる方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、酸素不足を被っている組織内の神経損傷および/または梗塞を減少させるのに十分な、ある量の本発明の組成物を対象に投与する工程を含む。例示的な実施形態では、この方法は、梗塞組織およびまたは神経学的に損傷した組織の量を逆転するのに十分な、ある量の本発明任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0026】
上記に示した実施形態のそれぞれにおいて、製剤中のヘモグロビンは、酸素、一酸化炭素に結合していても、いずれにも結合していなくてもよい。さらに、ヘモグロビンコンジュゲートが組み込まれている製剤は、対象の血液の張性に妥当な、低張性、等張性、または高張性とすることができる。
【0027】
本発明の他の実施形態、目的、および利点は、以下に続く詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】例示的なPEG−Hbの製造の流れ図である。
【図2】外傷性ショックの動物モデルにおいて酸素負債を逆転するためのPEG−Hb/HS処置および他の処置のグラフによる比較を示す図である。
【図3】中大脳動脈閉塞(MCAO)から20分後に、輸液を受けていない、または10mL/kgのPEG−アルブミンもしくはPEG−COHbで輸液を受けているラットの群における、MCAOから2時間、および再灌流の最初の30分の間の、動脈圧(A)、および外側頭頂皮質(lateral parietal cortex)に対して測定し、ベースラインの百分率として表したレーザー−ドップラーフラックス(B)を示す図である(平均±SE; n=群当たり10)。
【図4】MCAOから20分後において、輸液を受けていない、またはPEG−アルブミンもしくはPEG−COHbで輸液を受けている群における、MCAOから2時間後の再灌流から1時間または24時間での、0〜4のスケールに対する神経脱落スコア(0=脱落なし)を示す図である(平均±SE; n=10)。PEG−COHb群対輸液なしの群およびPEG−アルブミン群の間でP<0.05。
【図5】大脳皮質(A)および線条体(B)について、7つの冠状切片(coronal section)のそれぞれにおける梗塞体積、ならびに大脳皮質および線条体について、7つの切片を合計した総梗塞体積(C)をグラフで示した図である。値は、対側全体構造の百分率として表されている(平均±SE; n=10)。PEG−COHb群対輸液なしの群およびPEG−アルブミン群の間でP<0.05。
【図6】生存可能な脳組織の量(暗く着色した)が、本発明のPEG−COHbを注入されていない対照ラット(左の画像)より、本発明のPEG−COHbを輸液されたラット(右の画像)において大きいことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
緒言
疾患、傷害、および発作、例えば、血液喪失(例えば、急性出血から、もしくは外科手術の間のもの)から、貧血(例えば、悪性貧血もしくは鎌状赤血球性貧血)から生じ、またはショック(例えば、低血量性ショック(volume deficiency shock)、アナフィラキシーショック、敗血症ショック、もしくはアレルギー性ショック)から生じる低酸素症を治療または予防するための酸素移動剤の必要性が存在する。これらの立場における全血または血液画分の使用は、不利点を伴う。例えば、全血の使用は、肝炎を生じさせるウイルスおよびAIDSを生じさせるウイルスを含めた、任意の数のウイルスの伝播のリスクを伴うことが多く、これは、患者の回復を複雑にし、または患者の死に至る場合がある。さらに、全血の使用は、免疫血液学的問題およびドナー間不適合性を回避するために、血液型判定および交差マッチングを必要とする。
【0030】
対象における組織に酸素または一酸化炭素を送達することができる治療剤の必要性も存在する。治療剤は、とりわけ、血液減少に関連する状態、および虚血を治療するのに使用するものである。
【0031】
本発明は、ヘモグロビンが酸素に結合し、一酸化炭素に結合し、またはいずれにも結合してないPEG−ヘモグロビン製剤を供給することによって、これらの必要性の両方を満たす。ヘモグロビンコンジュゲートは、製剤が投与される対象の血液の張性に対して低張性、等張性、または高張性である媒質中で製剤化される。
【0032】
酸素送達剤、CO送達剤および/または代用血液としてのヒトヘモグロビンは、浸透圧活性、および酸素を輸送し、移行させる能力を有するが、これは、腎臓経路による、および血管壁を通じた、循環からの急速な排除という不利点を有し、臓器損傷をもたらし、非常に短い、したがって、不満足な半減期を有する。さらに、ヒトヘモグロビンはまた、毒性レベルのエンドトキシン、細菌、および/またはウイルスでしばしば汚染される。
【0033】
非ヒトヘモグロビンも、ヒトヘモグロビンと同じ欠陥を被る。さらに、非ヒト源に由来するヘモグロビンは、レシピエントにおける免疫系応答を引き起こす可能性を有する。
【0034】
本発明は、疾患、傷害、および発作による低酸素症を治療し、回復させ、またはこれらの状態にある組織にCOを送達するためのヘモグロビン製剤およびこの製剤を使用する方法を提供する。例示的な製剤はウイルス不活化されており、ある特定の実施形態では、ヘモグロビンは、例えば、ペグ化された水溶性ポリマーとコンジュゲートされる。例示的な本発明のヘモグロビン製剤は、天然に存在するヒトヘモグロビンのP50と異なるP50を有するヘモグロビン分子を含む。本発明のヘモグロビン製剤は、重度の外傷の動物モデルにおいて実証されたように、外傷における酸素負債を逆転し、これが、他の製品と比較して、インビボで優れた酸素運搬能力を有することを示す。本発明の例示的な製剤は、対象の少なくとも50%が出血性ショックで通常死ぬ、重度の外傷性ショックの動物モデルにおいて実証されたように、組織酸素供給を迅速に回復し、外傷における酸素負債を完全に償還することができる。1ユニットの本発明の例示的な製剤は、すべての主要臓器に対する酸素負債を償還し、微小血管系を開き、平均動脈圧を回復する。例示的な製剤は、任意の他のHBOCに対して優れた安定性および貯蔵能力ももたらす。例示的な製剤は、極端な環境条件である、45℃(113°F)で少なくとも4週間貯蔵した後に、動物モデルにおいて完全に効果的なままであるほど十分に安定であり、これは、本発明の例示的な製剤が、ポイントオブケア緊急状況において有用であることを確証する。
【0035】
臨床用途用の本発明の様々な製剤は、ペグ化ヘモグロビン、例えば、ウシヘモグロビン、および等張性または高張性の食塩水(PEG-Hb/HS)、および高い塩濃度(すなわち、等張性または高張性)を伴う、または伴わないCO形態でのペグ化ヘモグロビン(PEG-Hb-CO)を含む。これらの実施形態による例示的な製剤は、そのヘモグロビン含量を介して血液の酸素運搬能力を増大させ、血管系を拡張し(その高張性膨張作用またはCOの効果を通じて)、かつ赤血球と組織の間の酸素移動剤として作用することによって、組織への酸素の送達を増強する。本発明の例示的な製剤は、鎌状赤血球性貧血、脳卒中、または糖尿病による末梢虚血を治療するのにも役に立つ。例示的な製剤は、PEG−Hb−COを含み、非常に安定であり、望ましい薬理学的性質を有する。様々な実施形態では、PEG−Hb−COは、血管拡張特性を有する。様々な実施形態では、PEG−Hb−COは、抗酸化特性を有する。様々な実施形態では、本発明のPEG−Hb製剤は、組織損傷を引き起こすのに十分な量で活性酸素種を生じさせない。本製剤は、本明細書で論じられる疾患、発作、または傷害のいずれかを治療するのに使用することができる。例示的な実施形態では、製剤は、虚血を治療するのに使用される。本組成物によって治療可能な虚血の例示的な型には、脳虚血および糖尿病性虚血が含まれる。したがって、本発明は、虚血イベントからの下流の損傷を治療し、回復させ、予防するための方法を提供する。本発明の組成物によって治療可能な虚血の例示的な型は、末梢虚血、例えば、末梢糖尿病性虚血である。
【0036】
定義
「CO」は、一酸化炭素を指す。
【0037】
「HS」は、高い塩、高張性の製剤を指す。
【0038】
「Sanguinate(商標)」は、本明細書で使用する場合、本発明のPEG−HbCO組成物を指す。
【0039】
用語「代用血液」、「蘇生液」、「PEG−Hb」、「PEG−CO−Hb」、「ヘモグロビン系酸素運搬体」(HBOC)、および「PEG−Hb/HS」は、本発明のペグ化Hb組成物、およびこれらの組成物を組み込んでいる製剤を指す。これらの用語はまた、組成物およびその製剤の例示的な使用の開示を扱う。例えば、「代用血液」は、例えば、外傷、脳卒中、虚血/再灌流傷害、手術、貧血、または輸血が指示される場合のある他の傷害、発作、および疾患との関連で、血液と差し替えるのに役に立つ。これらの用語は、本明細書で使用する場合、組織に酸素または一酸化炭素を送達することができるHb製剤も指す。これらの製剤は、十分な血液量を有するが、血液が、組織に酸素または一酸化炭素を運搬および/または送達するのに不十分な能力を有する対象を特徴とする傷害、発作、および疾患において役に立つ。PEG−ヘモグロビン誘導体は、低張性、等張性、または高張性の塩溶液中で製剤化される。したがって、Fe(II)が未結合であるか、またはCOに結合している、例示的な脱酸素化されたPEG−Hb組成物は、等張性または高張性溶液中で製剤化することができる。同様に、例示的な酸素化されたPEG−Hbは、等張性または高張性担体中で製剤化することができる。
【0040】
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸、例えば、システイン、および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるもの、ならびに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)、または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造と異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能する化学化合物を指す。
【0041】
「ペプチド」および「ポリペプチド」は、モノマーがアミノ酸であり、アミド結合によって一緒に結合しているポリマーを指し、あるいはポリペプチドと呼ばれる。さらに、非天然アミノ酸、例えば、β−アラニン、フェニルグリシン、およびホモアルギニンも含まれる。遺伝子でコードされないアミノ酸も、本発明で使用することができる。さらに、反応基、グリコシル化部位、ポリマー、治療的部分、生体分子などを含むように修飾されたアミノ酸も、本発明で使用することができる。本発明で使用されるアミノ酸のすべては、D−異性体であっても、L−異性体であってもよい。L−異性体が一般に好適である。さらに、他のペプチド模倣体(peptidomimetic)も本発明で有用である。本明細書で使用する場合、「ペプチド」は、グリコシル化されたペプチドおよびグリコシル化されていないペプチドの両方を指す。ペプチドを発現する系によって不完全にグリコシル化されたペプチドも含まれる。一般的な概説については、Spatola,A.F.,in CHEMISTRY AND BIOCHEMISTRY OF AMINO ACIDS, PEPTIDES AND PROTEINS,B. Weinstein eds.,Marcel Dekker,New York,p.267(1983)を参照。例示的なペプチドはヘモグロビンである。
【0042】
用語「ペプチドコンジュゲート」および「ヘモグロビンコンジュゲート」は、ヘモグロビンポリペプチドが、本明細書で示されているように、水溶性ポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)とコンジュゲートされている、本発明の化学種を指す。
【0043】
「ヘモグロビン」は、本明細書で使用する場合、化学架橋剤、例えば、ジアルデヒドなどを用いた処理によって化学的に架橋されていない、酸素を結合している(または、COを結合している)活性ポリペプチドを指す。例示的なヘモグロビンは、1つまたは複数のPEG(例えば、m-PEG)部分のコンジュゲーション以外に修飾をまったく含まない天然タンパク質である。本明細書で使用する場合、「化学架橋剤を実質的に含まない」は、化学架橋剤で意図的に架橋されていないヘモグロビン分子を指す。これらのヘモグロビン製剤は、5%未満、3%未満、1%未満の架橋されたヘモグロビンを含む。
【0044】
用語「水溶性の」は、水中でいくらかの検出可能な程度の溶解度を有する部分を指す。水溶性を検出および/または定量化するための方法は、当技術分野で周知である。例示的な水溶性ポリマーには、ペプチド、サッカリド、ポリ(エーテル)、ポリ(アミン)ポリ(カルボン酸)などが含まれる。ペプチドは、混合された配列を有するか、または単一のアミノ酸、例えば、ポリ(リシン)からなることができる。例示的な多糖は、ポリ(シアル酸)である。例示的なポリ(エーテル)は、ポリ(エチレングリコール)である。ポリ(エチレンイミン)は、例示的なポリアミンであり、ポリ(アクリル)酸は、代表的なポリ(カルボン酸)である。「水溶性ポリマー」にあるような用語「水溶性の」は、室温で、水中で可溶性であるポリマーである。一般に、水溶性ポリマーの溶液は、濾過後に同じ溶液によって透過される光の少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約95%を透過する。重量に基づいて、水溶性ポリマーまたはそのセグメントは、好ましくは、水中で少なくとも約35%(重量で)可溶性であり、より好ましくは、水中で少なくとも約50%(重量で)可溶性であり、さらにより好ましくは、水中で約70%(重量で)可溶性であり、さらにより好ましくは、水中で約85%(重量で)可溶性である。しかし、水溶性ポリマーまたはセグメントは、水中で約95%(重量で)可溶性であるか、または水中で完全に可溶性であることが最も好適である。
【0045】
本明細書で使用する場合、用語「水溶性ポリマー」は、生体適合性および非免疫原性である水溶性ポリマーを含み、生体適合性および非免疫原性でない任意の水溶性ポリマーセグメントを特に排除する。生体適合性に関して、ある物質は、生きている組織に関連してその物質を単独で、または別の物質(例えば、活性剤)とともに使用すること(例えば、患者への投与)に付随する有益な効果が、臨床家、例えば、医師によって評価される場合に、いずれの有害な効果より勝っている場合、生体適合性であるとみなされる。非免疫原性に関して、ある物質は、インビボでその物質を意図して使用することにより、望まれない免疫応答(例えば、抗体の形成)を生じない、または免疫応答が生じても、そのような応答が、臨床家によって評価される場合に、臨床的に著しい、もしくは重要であるとみなされない場合に、非免疫原性とみなされる。本明細書に記載される水溶性ポリマーセグメント、ならびにコンジュゲートは、生体適合性および非免疫原性であることが特に好適である。
【0046】
水溶性ポリマーのポリマー主鎖は、ポリ(エチレングリコール)(すなわち、PEG)であってもよい。しかし、他の関連ポリマーも、本発明の実践において使用するのに適しており、用語PEGすなわちポリ(エチレングリコール)の使用は、この点において包括的であって、排他的でないことが意図されていることが理解されるべきである。用語PEGは、任意の形態のポリ(エチレングリコール)を含み、アルコキシPEG、二官能性PEG、マルチアームPEG、フォーク形PEG、分岐PEG、ペンダントPEG(すなわち、ポリマー主鎖にぶら下がった1つもしくは複数の官能基を有するPEGもしくは関連ポリマー)、または中に分解性連結を有するPEGを含む。
【0047】
ポリマー主鎖は、直鎖状であっても、分岐であってもよい。分岐ポリマー主鎖は一般に、当技術分野で公知である。一般に、分岐ポリマーは、中心の分岐コア部分および中心の分岐コアに連結した線状ポリマー鎖の群を有する。PEGは、分岐形態で一般に使用され、これは、様々なポリオール、例えば、グリセロール、ペンタエリスリトール、およびソルビトールなどにエチレンオキシドを付加することによって調製することができる。中心の分岐部分は、リシンなどのいくつかのアミノ酸からも得ることができる。分岐ポリ(エチレングリコール)は、R(−PEG−OH)のような一般形式で表すことができ、Rは、グリセロールまたはペンタエリスリトールなどのコア部分を表し、mは、アームの数を表す。その全体が本明細書に参照により組み込まれている米国特許第5,932,462号に記載されているものなどのマルチアームPEG分子も、ポリマー主鎖として使用することができる。
【0048】
多くの他のポリマーも本発明に適している。非ペプチド性および水溶性であり、2〜約300の末端を伴うポリマー主鎖は、本発明において特に有用である。適当なポリマーの例として、それだけに限らないが、他のポリ(アルキレングリコール)、例えば、ポリ(プロピレングリコール)(「PPG」)、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマーなど、ポリ(オキシエチレン化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、その全体が本明細書に参照により組み込まれている米国特許第5,629,384号に記載されているものなどのポリ(N−アクリロイルモルホリン)、ならびにこれらのコポリマー、ターポリマー、および混合物が挙げられる。ポリマー主鎖の各鎖の分子量は変化し得るが、これは一般に、約100Da〜約100,000Da、多くの場合、約6,000Da〜約80,000Daの範囲内である。
【0049】
水溶性ポリマー(ならびにコンジュゲートを形成するために使用されるポリマー試薬)の分子量は多様であることができるが、その分子量は、以下の値の1つまたは複数を満たすであろう:100ダルトン超;200ダルトン超;400ダルトン超;500ダルトン超、750ダルトン超;900ダルトン超;1,000ダルトン超、1,400ダルトン超;1,500ダルトン超、1,900ダルトン超;2,000ダルトン超;2,200ダルトン超;2,500ダルトン超;3,000ダルトン超;4,000ダルトン超;4,900ダルトン超;5,000ダルトン超;6,000ダルトン超;7,000ダルトン超;7,500ダルトン超、9,000ダルトン超;10,000ダルトン超;11,000ダルトン超;14,000ダルトン超、15,000ダルトン超;16,000ダルトン超;19,000ダルトン超;20,000ダルトン超;21,000ダルトン超;22,000ダルトン超、25,000ダルトン超;および30,000ダルトン超。本明細書において有用な、任意の所定の水溶性ポリマーセグメントの分子量の最大限度は約300,000ダルトンであることが理解される。
【0050】
水溶性ポリマー(ならびにコンジュゲートを形成するために使用するポリマー試薬全体)の分子量は、ある分子量の範囲内の値として表現することもできる。例示的な範囲は:約100ダルトン〜約100,000ダルトン;約500ダルトン〜約80,000ダルトン;約1,000ダルトン〜約60,000ダルトン;約2,000ダルトン〜約50,000ダルトン;および約5,000ダルトン〜約40,000ダルトンを含む。
【0051】
ポリマー試薬における任意の所定の水溶性ポリマー(ならびにポリマー試薬全体)の例示的な分子量は、約100ダルトン、約200ダルトン、約300ダルトン、約400ダルトン、約500ダルトン、約600ダルトン、約700ダルトン、約750ダルトン、約800ダルトン、約900ダルトン、約1,000ダルトン、約2,000ダルトン、約2,200ダルトン、約2,500ダルトン、約3,000ダルトン、約4,000ダルトン、約4,400ダルトン、約5,000ダルトン、約6,000ダルトン、約7,000ダルトン、約7,500ダルトン、約8,000ダルトン、約9,000ダルトン、約10,000ダルトン、約11,000ダルトン、約12,000ダルトン、約13,000ダルトン、約14,000ダルトン、約15,000ダルトン、約20,000ダルトン、約22,500ダルトン、約25,000ダルトン、約30,000ダルトン、約40,000ダルトン、約50,000ダルトン、約60,000ダルトン、約75,000ダルトンおよび約80,000ダルトンを含む。
【0052】
当業者は、実質的に水溶性のポリマーに関する前述の考察は、決して網羅的でなく、単に例示的であり、上述した品質を有するすべてのポリマー物質が企図されていることを認識するであろう。本明細書で使用する場合、用語「ポリマー試薬」は一般に、水溶性ポリマーおよび官能基を含むことができる全体の分子を指す。用語「水溶性ポリマー」は一般に、より大きい分子構造、例えば、ポリマー試薬、前駆体分子、コンジュゲートなどの一部分を論じる際に使用するために用意されている。
【0053】
ポリマー試薬の各部分(例えば、官能基、活性剤、水溶性ポリマーなど)、および本明細書に記載される他の構造は、直接的な共有結合を介して互いに直接結合することができる。しかし、より一般的には、各部分は、各部分を一緒に繋ぎ止めて統一体にする機能を果たす、1つまたは複数の原子からなるスペーサー部分を通じて結合される。
【0054】
ポリマー試薬の様々な部分および本明細書に記載される他の構造が結合される好適なスペーサー部分は、炭素、窒素、酸素、および/または硫黄原子でできた原子の鎖を含む。原子のこの鎖に、1つまたは複数の他の原子、例えば、炭素、窒素、酸素、硫黄、および水素などを結合することができる。鎖は短くてもよく、2〜5個ほどの少ない原子の鎖を構成することができる。より長い鎖、例えば、長さが10、15、またはそれ以上の原子の鎖も企図されている。さらに、スペーサー部分は、飽和であっても、不飽和であってもよく、ならびに芳香族であってもよい原子の環を含むことができる。存在する場合、スペーサー部分は、任意の枝分れ原子を除いて、約1〜20個の原子の配列を含むことが好ましい。好ましくは、スペーサー部分を構成する原子(任意の枝分れ原子を含む)は、酸素、炭素、窒素、硫黄、および水素原子のいくつかの組合せを含む。スペーサー部分は、任意の有用な形式のものとすることができる。
【0055】
用語「半減期」または「t1/2」は、患者への薬物の投与の関連で本明細書で使用する場合、患者中の薬物の血漿濃度が2分の1に低減されるのに必要な時間として定義される。「半減期」のさらなる説明は、Pharmaceutical Biotechnology(1997, DFA Crommelin and RD Sindelar, eds., Harwood Publishers, Amsterdam, pp 101 - 120)に見出される。例示的な実施形態では、本発明のPEGコンジュゲートの半減期は約12〜約22時間の間であり、これは、非ペグ化ヘモグロビンより相当に長い。
【0056】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、コンジュゲートと組み合わされるとき、コンジュゲートの活性を保持し、対象の免疫系と非反応性である任意の物質を含む。例には、それだけに限らないが、任意の標準的な医薬担体、例えば、リン酸緩衝食塩溶液、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、および様々なタイプの湿潤剤などが含まれる。他の担体として、滅菌溶液、コーティングされた錠剤を含めた錠剤、およびカプセルも挙げることができる。一般に、そのような担体は、賦形剤、例えば、デンプン、乳、糖、ある特定のタイプの粘土、ゼラチン、ステアリン酸もしくはその塩、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、タルク、植物性脂肪もしくは植物油、ガム、グリコール、または他の公知の賦形剤などを含有する。そのような担体は、香料および着色添加物、または他の成分も含むことができる。そのような担体を含む組成物は、周知の従来方法によって製剤化される。例示的な担体は、高張性塩化ナトリウムおよび等張性塩化ナトリウム(例えば、リン酸緩衝食塩水)である。高張性および等張性の担体は、本発明の脱酸素化されたペグ化ヘモグロビン(例えば、一酸化炭素が結合した鉄、および未結合の鉄)、ならびに鉄原子が酸素に結合している本発明のペグ化ヘモグロビンを製剤化するのに役に立つ。
【0057】
本明細書で使用する場合、「投与すること」は、静脈内、腹腔内、筋肉内、病巣内、または皮下の投与を意味する。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、および頭蓋内が含まれる。
【0058】
用語「回復させること」または「回復させる」は、病態または状態の治療における成功の任意の徴候を指し、客観的または主観的なパラメータ、例えば、症状の寛解、緩解、もしくは減少、または患者の身体的もしくは精神的な健康の改善などを含む。症状の回復は、身体検査および/または精神医学的評価の結果を含む客観的または主観的パラメータに基づくことができる。
【0059】
用語「療法」は、疾患または状態を「治療すること」または「治療」を指し、疾患の症状または副作用からの緩和をもたらすこと(対症治療を含む)、および疾患を緩和すること(疾患の後退を引き起こすこと)を含む。これらの用語は、出血性ショック、脳卒中、虚血/再灌流傷害、外傷などを含めた傷害の治療も指す。様々な実施形態では、これらの用語はまた、疾患にかかりやすいが、疾患の症状をまだ経験していないか、または示していない対象において、疾患または状態が起こるのを予防すること(予防的治療)、疾患を阻害すること(その発展を減速または抑止すること)を指す。
【0060】
用語「有効量」、または「〜に有効な量」、または「治療有効量」、または任意の文法的に等価な用語は、疾患、状態、または傷害を治療するために対象に投与されたとき、その疾患についての治療をもたらすのに十分な量を意味する。例示的な実施形態では、この用語は、疾患、発作、または傷害に起因する組織または臓器の酸素負債の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または最大約100%を償還するのに十分な本発明のコンジュゲート(または本発明のコンジュゲートを含む製剤)の任意の量を指す。組織へのCOの送達との関連で使用される場合、この用語は、組織へのCOの送達から検出可能な治療効果を導き出すのに十分な、投与される量を指す。
【0061】
本発明の例示的なヘモグロビン組成物は、「これに結合した酸素および一酸化炭素から選択されるメンバーを組織に移動させることができる」といわれる。この語句は、ヘモグロビンの鉄原子に結合した酸素または一酸化炭素を組織に移動させる能力を有するヘモグロビン組成物を指す。例示的な組成物では、移動は、組織パラメータ(例えば、血管拡張、組織酸素供給)の変化、または臨床的に関連するエンドポイントの検出可能な変化(例えば、壊死性プロセスの終止、虚血/再灌流傷害の減少)によって測定可能である。例示的な実施形態では、組織への一酸化炭素または酸素の移動は、酸素負債を有する対象(または組織)に選択された量の本発明の組成物を投与することによって、「償還された」酸素負債の量の観点から測定される。別の例示的な実施形態では、組織に送達される酸素または一酸化炭素の量は、予め選択された投与量の本発明の組成物を投与することによって、予め選択された質量の組織(例えば、1グラム)に移された酸素またはCOの質量の観点から測定される。組織に酸素またはCOを移動させる能力はまた、機能的にインビボで、および既知のヘモグロビン系代用血液との比較によって測定することができる。例示的な実施形態では、ヘモグロビンは、これが酸素または一酸化炭素を送達している組織と「接触」または「有効な接触」をしている。有効な接触とは、ヘモグロビンが、酸素または一酸化炭素が直接に、介在する担体を通じて、または組織への拡散を通じて移動されるほど十分に組織に近接していることを意味する。
【0062】
本明細書で使用する場合「天然ヘモグロビン」は、別の化学種に意図的に化学的に架橋またはコンジュゲートされていないヘモグロビンを指す。天然ヘモグロビンは、鉄原子が未結合である、酸素に結合している、または一酸化炭素に結合しているヘモグロビン分子を含む。本発明によれば、天然ヘモグロビンは、本発明のPEG−Hbコンジュゲートのヘモグロビンコアを形成することができる。
【0063】
「脱酸素化された」は、Fe(II)原子が酸素以外の化学種(例えば、一酸化炭素)に結合しているか、または酸素にも任意の他の化学種にも結合していないヘモグロビンを指す。
【0064】
用語「単離された」は、天然で材料が伴っている成分、材料を製造するために使用される成分または材料の製造からの副生成物もしくは分解生成物である成分を、実質的にまたは本質的に含まない材料を指す。本発明のペプチドコンジュゲートについて、用語「単離された」とは、ペプチドコンジュゲートを調製するために使用される混合物中で材料が通常伴う成分を、実質的にまたは本質的に含まない材料を指す。「単離された」と「純粋」は互換的に使用される。例示的には、本発明の単離されたペプチドコンジュゲートは、好ましくはある範囲で表現されるレベルの純度を有する。ペプチドコンジュゲートの純度の範囲の下限は、約60%、約70%または約80%であり、純度の範囲の上限は、約70%、約80%、約90%または約90%超である。本発明のウイルス熱不活化ヘモグロビン組成物は、一般的には水溶性ポリマーとのコンジュゲーションに先立って単離される。例示的な実施形態では、コンジュゲートを作るために使用されるヘモグロビンが単離される。様々な実施形態では、ヘモグロビンPEGコンジュゲートが単離される。例示的な実施形態では、ヘモグロビンまたはPEGヘモグロビンコンジュゲートは、安定化剤および他の賦形剤が存在することを例外として、単離される。様々な実施形態では、ヘモグロビンまたはPEGヘモグロビンコンジュゲートは、他のタンパク質、特にヘモグロビン二量体またはオリゴマーおよび他の酸素運搬タンパク質から選択されるタンパク質から、単離される。
【0065】
ペプチドコンジュゲートが約90%超純粋である場合、これらの純度もまた、好ましくはある範囲で表現される。純度の範囲の下限は、約90%、約92%、約94%、約96%または約98%である。純度の範囲の上限は、約92%、約94%、約96%、約98%または約100%純度である。本発明の目的において、「純粋な」コンジュゲートまたは純粋なコンジュゲートの溶液は、安定化剤を含むことができる。
【0066】
純度は、任意の当技術分野で認められている分析方法(例えば、銀染色ゲル上のバンド強度、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC、または同様の手段)によって求められる。
【0067】
用語「反応性の」または「活性化された」は、特定の官能基とともに使用される場合、別の分子上の求電子体または求核体と容易に反応する反応性官能基を指す。これは、反応するために強い触媒または非常に非現実的な反応条件を必要とする基(すなわち、「非反応性の」または「不活性な」基)と対照的である。
【0068】
「群の各メンバー」という表現は、特定の特徴を有する本発明の製剤中の一亜集団のメンバーを指すのに使用される。したがって、本発明の製剤の一画分中のヘモグロビン分子の群の各メンバーへの言及は、製剤中のあらゆるヘモグロビン分子が列挙された特徴を有することを必ずしも暗示せず、列挙された特徴を有する製剤中のヘモグロビン分子の群(亜集団)を指す。
【0069】
用語「安定化剤」は、脱酸素化されたヘモグロビンの再酸素化を防止し、または遅延させる化学種を指す。例示的な安定化剤は、アミン含有化合物、好都合なことには、排他的ではないが、アミノ酸である。任意のアミン含有化合物が、本発明の製剤中で安定化剤として機能を果たすことができる。追加の例示的な安定化剤は、酸素と反応しているヘモグロビンに対して優先的に酸素と反応する1つまたは複数の構造要素を有する。本発明の安定化剤に見出される例示的な構造要素は、チオール部分である。安定化剤として使用する例示的なスルフヒドリル化合物として、それだけに限らないが、N−アセチル−L−システイン(NAC)、D,L−システイン、γ−グルタミル−システイン、グルタチオン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,4−ブタンジチオール、および他の生物学的に適合性のスルフヒドリル化合物が挙げられる。安定化剤は、生体適合性であり、これが本発明の組成物および製剤中に含められる量において無毒性であることが一般に好適である。例示的な実施形態では、PEGは、それ自体安定化試薬である。したがって、様々な実施形態では、HbにコンジュゲートされたPEGは、別個の安定化剤または別個の水溶性安定化画分の必要性を回避する。したがって、本発明は、水溶性安定化画分を含む、本明細書で示されたものと等価な製剤を提供し、これは、実際にはこの画分を含まない。
【0070】
本明細書で使用する場合、「対象」、「患者」、および「哺乳動物」などの用語は互換的に使用され、ヒトによって例示される。
【0071】
本明細書で使用する場合、「一酸化窒素ドナー」または「NOドナー」は、一酸化窒素化学種を供与、放出し、かつ/または直接もしくは間接的に移動させる化合物、ならびに/あるいはインビボで一酸化窒素もしくは内皮由来弛緩因子(EDRF)の体内生産を刺激する化合物、ならびに/あるいはインビボで一酸化窒素もしくはEDRFの内因性レベルを上昇させる化合物、ならびに/あるいは酸化されることによって一酸化窒素を生成する化合物、ならびに/あるいは一酸化窒素合成酵素および/もしくはチトクロムP450についての基質である化合物を指す。「NOドナー」には、L−アルギニンの前駆体、酵素アルギナーゼの阻害剤、および一酸化窒素メディエーターである化合物も含まれる。
【0072】
用語「一酸化窒素」は、無電荷の一酸化窒素(NO)および帯電した一酸化窒素化学種を包含し、好ましくは帯電した一酸化窒素化学種、例えば、ニトロソニウムイオン(NO)およびニトロキシルイオン(NO)などである。反応型の一酸化窒素は、気体の一酸化窒素によって提供することができる。一酸化窒素を放出、送達し、または移動させる化合物は、構造F−NOを有し、式中、Fは、一酸化窒素を放出、送達し、または移動させる部分であり、その意図された目的にアクティブな形式で、その意図された作用部位に一酸化窒素を供給する任意のおよびすべてのそのような化合物を含む。
【0073】
用語「NO付加体」、「NO前駆体」、および「NO放出剤」は、互換的に使用される。
【0074】
例示的な実施形態では、用語「高張性の」は、約3%〜約7%の塩を有するペグ化Hb溶液を指す。
【0075】
実施形態
以下に示される考察は、以下に本明細書で示される実施形態、ならびに上記および添付の特許請求の範囲において示される実施形態と密接な関係がある。実施形態の要素は、どんなものであれ任意の様式で組み合わされることが意図されており、本明細書に提示される考察は、典型的な組合せの例示的なものであり、限定するものではない。
【0076】
例示的な実施形態では、本発明は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含む組成物を提供する。例示的な組成物は、ウイルス不活化されている。この組成物は、水溶性ヘモグロビン画分を含み、これは、機能的な天然ヘモグロビン分子の群を含む。ヘモグロビン分子のこの群の各メンバーは、脱酸素化された状態にあり、化学架橋剤を含まず、約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する。あるいは、様々な実施形態では、ヘモグロビンのP50は、約9mmHg〜約12mmHgである。この組成物は、水溶性安定剤画分も場合により含む。安定剤画分は、ヘモグロビン分子の群を脱酸素化された状態に維持する助けになる。様々な実施形態では、安定剤画分は、安定化剤を含む。例示的な安定化剤は、脱酸素化されたヘモグロビン分子よりも酸素と反応性である構造要素を有する。水性希釈剤画分もこの組成物中に含められている。希釈剤画分は、ヘモグロビン画分および安定剤画分が可溶性である、薬学的に許容される希釈剤を含む。様々な実施形態では、この組成物は、ウイルス活性が本質的にない。例示的な実施形態では、この組成物は、10%未満のメトヘモグロビンを含む。
【0077】
本発明の任意の種の脱酸素化されたヘモグロビンの鉄(II)は、COに結合することができ、または酸素もしくはCOのいずれにも本質的に非結合であることができる。様々な実施形態では、脱酸素化されたヘモグロビン分子の鉄(II)は、酸素にも一酸化炭素にも結合していない。様々な実施形態では、ヘモグロビン分子は、ヘモグロビン分子の集団のメンバーである。この実施形態では、例示的なヘモグロビン分子の集団は、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満または1%未満のヘモグロビン分子を、酸素化された状態で含む。
【0078】
組成物の安定化画分は、脱酸素化されたヘモグロビンの酸化を防止し、または遅延させる作用剤を含む。任意の好都合で有効な安定化剤を使用することができる。様々な実施形態では、安定化剤は、生物系において耐容性良好である(well-tolerated)ものであり、哺乳動物に安全に投与することができる。安定化画分中の例示的な安定化剤は、アミノ酸などのアミン、またはチオール化合物である。例示的な安定化剤は、チオール含有アミノ酸、アミノ酸類似体、またはアミノ酸模倣体である。様々な実施形態では、アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸、および天然に存在しないアミノ酸、例えば、システインから選択される。
【0079】
様々な実施形態では、組成物は、塩を含む希釈剤画分などの薬学的に許容される担体を含む。塩は、本質的に任意の塩から選択することができるが、現在好適な塩は、哺乳動物に送達するのに薬学的に許容される塩である。様々な実施形態では、組成物は、塩化ナトリウムを含む。本発明の組成物は、等張性、高張性、または低張性である。様々な実施形態では、組成物は高張性である。例示的な実施形態では、組成物は、これを高張性にするのに十分な塩化ナトリウムを含んでいた。他の実施形態では、希釈剤は、緊張性のリン酸緩衝食塩水である。
【0080】
例示的な実施形態では、本発明は、2つまたはそれ以上のヘモグロビン分子を共有結合的に結合する合成架橋基を本質的に含まないヘモグロビン画分を提供する。本発明の組成物の製造または貯蔵の間にヘモグロビン分子間にわずかな比率の架橋が形成されるとしても、これらの架橋種は、全ヘモグロビンのわずかな比率であり、意図的に調製されたもの、または意図的に精製の間に選択されたりしたものではない。したがって、本発明の例示的な組成物は、典型的には、全ヘモグロビン含量の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満が、2つまたはそれ以上のヘモグロビン分子が架橋状態の形態にある、ヘモグロビン分子の集団を含む。
【0081】
本発明で使用するヘモグロビンは、実質的に任意の哺乳動物源から得られる。例示的なヘモグロビン源として、一般的な家畜動物、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジなどが挙げられる。本発明は、ヘモグロビン源によって制限されない。様々な実施形態では、ヘモグロビンは、ウシヘモグロビンである。
【0082】
本発明のヘモグロビン組成物は、最小限の量のメトヘモグロビンを含む。様々な組成物において、メトヘモグロビンの量は、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満である。
【0083】
例示的な実施形態では、ヘモグロビンは、安定化画分と組み合わされる前に単離される。
【0084】
本発明は、水溶性ポリマーとのヘモグロビンの共有結合性コンジュゲートを提供する。多くの水溶性ポリマーが当業者に公知であり、本発明を実施するのに有用である。用語水溶性ポリマーは、サッカリド(例えば、デキストラン、アミロース、ヒアルロン酸、ポリ(シアル酸)、ヘパラン、ヘパリンなど);ポリ(アミノ酸)、例えば、ポリ(アスパラギン酸)およびポリ(グルタミン酸);核酸;合成ポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エーテル)、例えば、ポリ(エチレングリコール));ペプチド、タンパク質などの化学種を包含する。本発明は、任意の水溶性ポリマーを用いて実施することができ、ポリマーは、コンジュゲートの残りが結合することができる箇所を含まなければならないという唯一の制限を有する。
【0085】
したがって、例示的な実施形態では、本発明は、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビン分子と少なくとも1つの水溶性ポリマー部分との間の共有結合性コンジュゲートを含む、ウイルス不活化されたヘモグロビン組成物を提供する。この組成物は、ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分を含む。ヘモグロビン分子の群の各メンバーは、脱酸素化されている。例示的な実施形態では、水溶性ポリマーは、アミノ酸残基のアミン部分を通じてヘモグロビンに共有結合的にコンジュゲートされている。ヘモグロビンは、導入される化学架橋剤を本質的に含まない。様々な実施形態では、ヘモグロビンは、約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する。様々な実施形態では、P50は、約9mmHg〜約12mmHgである。この組成物は、ヘモグロビン分子の群を酸化耐性にする水溶性安定剤画分も含む。安定剤画分は、安定化剤を含む。例示的な安定化剤は、ヘモグロビン分子の群よりも酸素と反応性である、少なくとも1つの構造要素を含む。様々な製剤は、ヘモグロビン画分が可溶性である、薬学的に許容される希釈剤を含む希釈剤画分も含む。例示的な製剤は、ウイルス活性が本質的になく、約10%未満のメトヘモグロビンを含む。
【0086】
ポリマーの活性化方法は、国際公開94/17039号、米国特許第5,324,844号、国際公開94/18247号、国際公開94/04193号、米国特許第5,219,564号、米国特許第5,122,614号、国際公開90/13540号、米国特許第5,281,698号およびさらに国際公開93/15189号中に見出すことができ、そして活性化ポリマーとペプチド(例えば、凝固因子VIII(国際公開94/15625号)、ヘモグロビン(国際公開94/09027号)、酸素運搬分子(米国特許第4,412,989号)、リボヌクレアーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼ(Veronese ら、App. Biochem. Biotech. 11: 141-45 (1985)))との間のコンジュゲートの方法についても見出すことができる。
【0087】
PEGなどの、本発明の組成物中に使用する水溶性ポリマーとの関連での分子量は、数平均分子量または重量平均分子量として表すことができる。別段の指定のない限り、本明細書での分子量へのすべての言及は、重量平均分子量を指す。数平均および重量平均の両方の分子量決定は、ゲル浸透クロマトグラフィーまたは他の液体クロマトグラフィー技法を使用して測定することができる。数平均分子量を求めるための末端基分析の使用、または束一的性質(例えば、凝固点降下、沸点上昇、もしくは浸透圧)の測定、または重量平均分子量を求めるための光散乱技法、超遠心分離法、または粘度測定法の使用など、分子量値を測定するための他の方法も使用することができる。本発明のポリマー試薬は、一般に多分散系であり(すなわち、ポリマーの数平均分子量と重量平均分子量は等しくない)、好ましくは約1.2未満、より好ましくは約1.15未満、さらにより好ましくは約1.10未満、なおさらにより好ましくは約1.05未満、最も好ましくは約1.03未満の低多分散性値を有する。例示的な水溶性ポリマーは、ポリマーの試料中の相当な割合のポリマー分子が、およそ同じ分子量のものであり、そのようなポリマーは、「ホモ分散性(homodisperse)」である。
【0088】
本発明は、ポリ(エチレングリコール)コンジュゲートを参照してさらに例示される。PEGの機能付与およびコンジュゲートについての、複数の考察およびモノグラフが入手可能である。例えば、Harris, Macronol. Chem. Phys. C25: 325-373 (1985);Scouten, Methods in Enzymology 135: 30-65 (1987);Wongら、Enzyme Microb. Technol. 14: 866-874 (1992);Delgadoら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 9: 249-304 (1992);Zalipsky, Bioconjugate Chem. 6: 150-165 (1995);およびBhadraら、Pharmazie, 57:5-29 (2002)を参照されたい。反応性PEG分子の調製経路およびその反応性分子を使用したコンジュゲートの形成は、技術分野で公知である。例えば、米国特許第5,672,662号は、直鎖または分岐ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)およびポリ(アクリロモルホリン)から選択されるポリマー酸の活性エステルの、水溶性かつ単離可能なコンジュゲートを開示する。
【0089】
米国特許第6,376,604号は、有機溶媒中でポリマーの末端ヒドロキシルを、ジ(1−ベンゾトリアゾイル)カーボネートと反応させることによって、水溶性および非ペプチド性ポリマーの水溶性1−ベンゾトリアゾリルカーボネートエステルを調製するための方法を示している。タンパク質またはペプチドなどの生理活性物質とのコンジュゲートを形成するために、活性エステルが使用される。
【0090】
国際公開99/45964号は、生理活性物質および活性化された水溶性ポリマーを含むコンジュゲートであって、活性化された水溶性ポリマーは、ポリマー主鎖であって、このポリマー主鎖に安定な連結によって連結した少なくとも1つの末端を有するポリマー主鎖を含み、少なくとも1つの末端は、枝分れ部分であって、この枝分れ部分に連結した近位の反応基を有する枝分れ部分を含み、生理活性物質は、近位の反応基のうちの少なくとも1つに連結されているコンジュゲートを記載している。他の分岐ポリ(エチレングリコール)は、国際公開96/21469号に記載されており、米国特許第5,932,462号は、反応性官能基を含む分岐末端を含む分岐PEG分子を用いて形成されるコンジュゲートを記載している。タンパク質またはペプチドなどの生物学的に活性な化学種と反応させるために、遊離反応基が利用可能であり、ポリ(エチレングリコール)と生物学的に活性な化学種との間でコンジュゲートを形成する。米国特許第5,446,090号は、二官能性PEGリンカー、およびPEGリンカー末端のそれぞれにおいてペプチドを有するコンジュゲートの形成におけるその使用を記載している。
【0091】
分解可能なPEG結合を含むコンジュゲートは、国際公開99/34833号;および国際公開99/14259号ならびに米国特許第6,348,558号に記載されている。かかる分解可能な結合は、本発明において適用可能である。
【0092】
上記に示したポリマー活性化の当技術分野で認められている方法は、本明細書に示される分岐ポリマーの形成において、およびまた、他の化学種、例えば、糖、糖ヌクレオチドなどへのこれらの分岐ポリマーのコンジュゲーションのために、本発明との関連で役に立つ。
【0093】
例示的な水溶性ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)、例えば、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)である。本発明において使用されるポリ(エチレングリコール)は、任意の特定の形態または分子量範囲に制限されない。直鎖ポリ(エチレングリコール)分子について、分子量は、500〜100,000の間であることが好ましい。2000〜60,000の分子量が使用されるのが好ましく、約5,000〜約40,000の分子量が好ましい。例示的な実施形態では、使用されるPEGは、約5,000の平均分子量を有するメトキシ−PEGである。
【0094】
別の実施形態では、ポリ(エチレングリコール)は、1つまたは複数の接続したPEG部分を有する分岐PEGである。分岐PEGの例は、米国特許第5,932,462号;米国特許第5,342,940号;米国特許第5,643,575号;米国特許第5,919,455号;米国特許第6,113,906号;米国特許第5,183,660号;国際公開02/09766号;Kodera Y., Bioconjugate Chemistry 5: 283-288 (1994);およびYamasakiら、Agric. Biol. Chem., 52: 2125-2127, 1998に記載されている。好ましい実施形態では、分岐PEGの各ポリ(エチレングリコール)の分子量は、40,000ダルトン以下である。
【0095】
様々な実施形態では、本発明は、結合した1つまたは複数のPEG部分を有するヘモグロビンコンジュゲートを提供する。PEG−ヘモグロビンは、CO形態にある。例示的な実施形態では、このコンジュゲートは、リン酸緩衝食塩水中で製剤化される。
【0096】
様々な実施形態では、本発明は、それに結合した1つまたは複数のPEG部分を有するヘモグロビンコンジュゲートを提供する。様々な実施形態では、PEG−ヘモグロビンは脱酸素化されており、かつCO形態にはない。他の実施形態では、PEG−ヘモグロビンはCO形態にある。例示的な実施形態では、このコンジュゲートは、PEG−Hbが酸素化されているか、CO形態か非結合形態であるかにかかわらず、高張性食塩水(高塩)中で製剤化される。これらの高張性製剤において使用する、例示的な塩(例えば、NaCl)濃度は、約4%〜約8%、約4.5%〜約7.5%または約5%〜約7%である。例示的な製剤は、約4%、約5%、約6%、約7%または約8%の塩を含む。ある製剤において、塩濃度は7.5%である。様々な実施形態では、塩はNaClである。例示的な実施形態では、製剤の質量オスモル濃度は約300〜400、または約325〜375、または約340〜360mOsmolである。例示的な実施形態では、塩はNaClである。
【0097】
例示的な実施形態では、本発明は、凝固障害の矯正において、新鮮な凍結血漿と、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または約100%等しい効力を有する、PEG−Hb系蘇生液を提供する。この実施形態による例示的な製剤は、凝固因子、血小板、または凝固障害の軽減の助けになることが知られている他の物質をさらに含む。
【0098】
様々な実施形態では、本発明は、約450mLの総流体量を有し、1ユニットの濃厚赤血球、好ましくはヒト赤血球と等価な酸素運搬能力および/または酸素拡散能力を有するPEG−Hb蘇生液を提供する。
【0099】
様々な実施形態では、本発明は、組織内にCOを運搬し、これを拡散することができるPGE−Hb製剤(例えば、蘇生液)を提供する。例示的な製剤は、約450mLの総流体量を有し、これは、組織に治療的に妥当な量のCOを移動させるのに十分なCO運搬能力および/またはCO拡散能力を有する。
【0100】
例示的な実施形態では、本発明は、凝固因子が存在するPEG−Hb蘇生液を提供する。様々な実施形態では,凝固因子は、新鮮な凍結血漿中に60%以上、70%以上、80%以上または90%以上の量で存在する。
【0101】
例示的な実施形態では,蘇生液は血小板を含む。血小板を含む本発明の蘇生液は、単一アフェレーシス単位の60%以上、70%以上、80%以上、90%以上またはおよそ同等の細胞数および活性を有することが、通常好ましい。
【0102】
貯蔵に対する安定性は、本発明の重要な目的である。様々な実施形態では、本発明は、周囲温度(〜25℃)で少なくとも4ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月または少なくとも12ヶ月安定な、PEG−Hb蘇生液を提供する。
【0103】
様々な実施形態では、本発明はまた、現在の保存血製品よりも免疫原性の高くないPEG−Hb蘇生液も提供する。現在の保存血製品よりも血栓形成作用の高くないPEG−Hb蘇生液も提供する。
【0104】
本発明の例示的な製剤は、これらの特性の1つまたは複数を任意の組み合わせで含む:Hbを約4.0〜4.6wt%、Metを約1.0〜5.0wt%、約0.0〜5.0%のHbO、約95.0〜100.0%のHbCO、約8.10〜8.20のpH、約325〜370mOsmolの質量オスモル濃度、約10.00〜14.00のP50(mmHg)ならびに主要ピーク538nmおよび568nmでそれぞれ約1.4および1.9の吸光度の光学スペクトル、2.5〜3.0の568nm/500nmでのピーク比。他の例示的な製剤では、製剤は主要ピーク541および576nmの光学スペクトルを有する。
【0105】
より一層特定すれば、本発明の例示的な製剤は、これらの特性の1つまたは複数を任意の組み合わせで含む:Hbを約4.5wt%、Metを約1.1wt%、HbOを約1.2%、HbCOを約99.4%、約8.14のpH、約356mOsmolの質量オスモル濃度、約12.2のP50(mmHg)、ならびに主要ピーク538nmおよび568nmでそれぞれ約1,493および約1,465の吸光度の光学スペクトルおよび約2.6の568nm/500nmでのピーク比。
【0106】
コンジュゲートの調製
ウイルス不活化されたヘモグロビンの調製
本発明のコンジュゲートを調製するのに使用する前駆体ヘモグロビンは、赤血球(RBC)から単離することができる。適当なRBC源として、ヒト血液、ウシ血液、ヒツジ血液、ブタ血液、他の対象に由来する血液、およびBIO/TECHNOLOGY,12:55−59(1994)に記載されているトランスジェニックHbなどの遺伝子導入で生成されたヘモグロビンが挙げられる。
【0107】
血液は、生きたドナーまたは新たに屠畜されたドナーから収集することができる。ウシ全血を収集するための一方法は、Rauschらに発行された米国特許第5,084,558号および同第5,296,465号に記載されている。血液は、衛生的な様式で収集されることが好適である。
【0108】
ヘモグロビンを単離および精製するための多くの方法が当技術分野で知られており、これらの方法は、本発明の組成物に一般に適用可能である。本明細書に続く考察は、例示的であり、限定的でない。
【0109】
様々な実施形態では、収集時、または収集直後に、血液は、血液の著しい凝固を防止するために、少なくとも1つの抗凝固剤と場合により混合される。血液のための適当な抗凝固剤は、当技術分野で古典的に知られており、例えば、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、およびヘパリンを含む。血液と混合される場合、抗凝固剤は、粉末などの固体形態にあっても、水溶液中であってもよい。
【0110】
血液溶液は、抗凝固工程の前、または抗凝固工程中に濾す、例えば、濾すことによって大きい凝集物および粒子を除去することができる。600メッシュスクリーニングは、適当なストレーナの一例である。
【0111】
次いで血液溶液中のRBCは、適当な手段、例えば、ダイアフィルトレーション、または等張性溶液などの少なくとも1つの溶液を用いた別個の希釈工程および濃縮工程の組合せなどにより、場合により洗浄されることによって、細胞外血漿タンパク質、例えば、血清アルブミンまたは抗体(例えば、免疫グロブリン(IgG))などからRBCが分離される。RBCは、バッチ、または連続フィード様式で洗浄することができることが理解される。
【0112】
許容できる等張性溶液も当技術分野で公知であり、本発明の製剤を調製するのに一般的に有用なものである。例示的な等張性溶液は、中性のpHおよび約285〜315mOsmの間の容量オスモル濃度を有する。等張性溶液の非限定例には、RBCの細胞膜を破裂させないpHおよび容量オスモル濃度を有し、全血の血漿部分を置換するクエン酸/食塩液などの溶液が含まれる。例示的な等張性溶液は、クエン酸ナトリウム二水和物(6.0g/L)および塩化ナトリウム(8.0g/L)の水溶液からなる。
【0113】
本発明の方法において有用な水として、蒸留水、脱イオン水、注射用水(WFI)、および/または低発熱物質水(LPW)が挙げられる。好適であるWFIは、注射用水のための米国薬理学仕様(U.S. Pharmacological Specifications)を満たす脱イオン化された蒸留水である。WFIは、Pharmaceutical Engineering,11,15−23(1991)にさらに記載されている。好適であるLPWは、0.002EU/ml未満を含有する脱イオン水である。
【0114】
血液溶液中のRBCは、ダイアフィルトレーションによって洗浄することができる。適当なダイアフィルターは、実質的により小さい血液溶液成分からRBCを分離する孔サイズを有する微孔性膜、例えば、0.1μm〜0.5μmのフィルター(例えば、0.2μmのフィルター)などを含む。同時に、ダイアフィルターを越えて失われる濾液の速度(または量)と等しい速度で、補填として、濾過された等張性溶液が連続的に(またはバッチで)添加される。RBC洗浄の間、RBCより直径が著しく小さい、または血漿などの流体である血液溶液の成分は、濾液として、ダイアフィルターの壁を通過する。RBC、血小板、および白血球などの希釈された血液溶液のより大きい物体は、保持され、連続的に、またはバッチ式で添加される等張性溶液と混合されることによって、透析された血液溶液を形成する。
【0115】
RBCは、一連の連続した(または逆の連続した)希釈工程および濃縮工程を通じて洗浄することもでき、ここで血液溶液は、少なくとも1つの等張性溶液を添加することによって希釈され、フィルターを越えて流すことによって濃縮され、それによって、透析された血液溶液を形成する。
【0116】
RBC洗浄は、RBCを不純にしている血漿タンパク質のレベルが実質的に低減されたとき(一般に少なくとも約90%)完了する。追加のRBC洗浄により、RBCから細胞外血漿タンパク質をさらに分離することができる。例えば、6体積の等張性溶液を用いたダイアフィルトレーションは、血液溶液からIgGの少なくとも99%を除去することができる。
【0117】
次いで透析された血液溶液は、遠心分離などによって、透析された血液溶液中のRBCを、白血球および血小板から分離するための手段に場合により曝される。
【0118】
他の血液成分からRBCを分離するための、当技術分野で一般に知られている他の方法を使用することが理解される。例えば、沈降であり、この分離方法は、他の血液成分からRBCを分離する前に、RBCの約30%未満など、RBCの著しい量の細胞膜を破裂させない。
【0119】
RBCを分離した後、ヘモグロビンがRBCから抽出されることによって、ヘモグロビン含有溶液が形成される。抽出は、RBCの溶解および低浸透圧性膨張を含む様々な方法によって実施することができる。溶解は、様々な溶解方法、例えば、機械的溶解、化学的溶解、低張性溶解、または酸素を輸送および放出するHbの能力を著しく損なうことなく、ヘモグロビンを放出する他の既知の溶解方法などを使用することができることを意味する。
【0120】
あるいは、Nature,356:258−260(1992)に記載された組換えで生成されたヘモグロビンなどの組換えで生成されたヘモグロビンを、RBCの代わりに本発明の方法において処理することができる。ヘモグロビンを含有する細菌細胞を、上述したように、混入物から洗浄および分離することができる。次いでこれらの細菌細胞は、ボールミルなどの当技術分野で公知の手段によって機械的に破裂させられることによって、細胞からヘモグロビンが放出され、溶解した細胞相が形成される。次いで、この溶解した細胞相は、溶解したRBC相と同様に処理される。
【0121】
溶解の後、次いで溶解したRBC相は、場合により限外濾過されることによって、約100,000ダルトンを超える分子量を有するタンパク質などの、より大きい細胞残骸が除去される。一般に、細胞残骸は、Hb、より小さい細胞タンパク質、電解質、補酵素、および有機代謝中間体を除いて、すべての完全な、またはフラグメント化された細胞成分を含む。許容できる限外濾過器には、例えば、100,000ダルトンのフィルターが含まれる。
【0122】
沈降、遠心分離、またはマイクロ濾過を含めた、溶解したRBC相からHbを分離するための他の方法も使用することができる。次いでHb濾液を限外濾過することによって、より小さい細胞残骸、電解質、補酵素、代謝中間体、および分子量が約30,000ダルトン未満のタンパク質、および水を、Hb限外濾過液から除去することができる。適当な限外濾過器には、30,000ダルトンの限外濾過器が含まれる。
【0123】
次いで濃縮されたHb溶液を、1つまたは複数の並列のクロマトグラフィーカラム中に誘導して、他の混入物、例えば、抗体、エンドトキシン、リン脂質、および酵素、およびウイルスなどから、高速液体クロマトグラフィーによってヘモグロビンをさらに分離することができる。適当な媒体の例として、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、疎水性相互作用媒体、および親和性媒体が挙げられる。一実施形態では、クロマトグラフィーカラムは、非ヘモグロビンタンパク質からHbを分離するのに適した陰イオン交換媒体を含む。適当な陰イオン交換媒体として、例えば、シリカ、アルミナ、チタニアゲル、架橋デキストラン、アガロース、またはジエチルアミノエチルもしくは4級アミノエチル基などの陽イオン性化学官能性を用いて誘導体化された、誘導体化部分、例えば、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、もしくはスチレンジビニルベンゼンなどが挙げられる。溶解したRBC相中にある可能性のある他のタンパク質および混入物と比較した場合に、Hbを選択的に吸収および脱離するための適当な陰イオン交換媒体および対応する溶離液は、当業者によって容易に決定できる。
【0124】
Hb溶液は、酸化されたヘモグロビン(metHb)の形成の変性から起こるものなどの、Hb溶出液中のHbが酸素を輸送および放出する能力を著しく低減することなく、Hbを実質的に脱酸素化する手段によって、場合により脱酸素化されることによって、脱酸素化されたHb溶液(以下、デオキシ-Hb)が形成される。
【0125】
Hb溶出液は、相膜を越える不活性ガスのガス移動によって脱酸素化することができる。そのような不活性ガスには、例えば、窒素、アルゴン、およびヘリウムが含まれる。当技術分野で公知である、ヘモグロビンの溶液を脱酸素化するための他の手段を、Hb溶出液を脱酸素化するのに使用することができることが理解される。そのような他の手段として、例えば、Hb溶出液の窒素スパージング、還元剤、例えば、N−アセチル−L−システイン(NAC)、システイン、亜ジチオン酸ナトリウムもしくはアスコルビン酸ナトリウムなどを用いた化学的スカベンジング、または光による光分解を挙げることができる。脱酸素化されたヘモグロビンは、CO形態に変換することができる。
【0126】
脱酸素化は、Hb溶液のpOが所望のレベル、例えば、Hb溶液中の酸素化Hb(オキシヘモグロビンまたはHbO)含量が、約20%以下、10%以下、5%以下、3%以下または1%以下、に減少するまで続けられる。
【0127】
脱酸素化の間、Hb溶液の温度は、例示的には、メトヘモグロビン形成の速度に対する脱酸素化の速度が平衡を保つようなレベルに維持される。温度は、メトヘモグロビン含量を20%未満に制限するよう維持される。最適温度は、Hb溶液を脱酸素化し続ける一方で、約5%未満のメトヘモグロビン含量、および好ましくは約2.5%未満のメトヘモグロビン含量を与えるであろう。例示的には、脱酸素化の間、Hb溶液の温度は、約15℃〜約35℃の間に維持される。脱酸素化の間および続く本発明の方法の残りの工程を通じて、Hbは、Hbによる酸素吸収を最小にするために、低酸素環境に維持される。
【0128】
脱酸素化Hbは、酸素化安定化されたデオキシHbを形成するために、安定化剤(例えばスルフヒドリル化合物)を含む低酸素含量貯蔵バッファーで場合により平衡化される。適切なスルフヒドリル化合物としては、非毒性剤、例えば、N−アセチル−L−システイン(NAC)、D,L−システイン、γ−グルタミル−システイン、グルタチオン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,4−ブタンジチオール、および他の生物学的に適合性のスルフヒドリル化合物が挙げられる。貯蔵期間にわたって、メトグロビン含量を約15%未満、約10%未満または約5%未満に維持するよう酸素を除去するスルフヒドリル濃度を達成するような量のスルフヒドリル化合物が添加される。例示的には、添加されるスルフヒドリル化合物の量は、約0.05重量%〜約0.2重量%の間のスルフヒドリル濃度を達成するのに十分な量である。
【0129】
様々な実施形態では、本発明は、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含むウイルス不活化されたヘモグロビン組成物を提供する。この組成物は、脱酸素化されたヘモグロビンおよび安定化剤の溶液を、熱ウイルス不活化プロセスにかける工程を含む方法によって調製される。例示的な実施形態では、熱ウイルス不活化プロセスは、前記溶液中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇した温度に溶液を曝す工程を含み;熱は、溶液中の本質的にすべてのウイルス活性の不活化を達成するのに十分な時間上昇される。例示的な安定化剤は、溶液中の脱酸素化されたヘモグロビンよりも酸素と反応性である構造要素を含み、それによって脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にする。溶液は、熱ウイルス失活プロセスにおいて、約10%、8%、6%、4%、または2%を超えるメトヘモグロビンの形成を防止するのに十分な量の安定化剤を含む。様々な実施形態では、安定化剤は、メトヘモグロビン濃度を約5%以下に維持するように選択され、この濃度以下に維持するのに十分な量で存在する。
【0130】
様々な実施形態では、組成物は、ヘモグロビンと、少なくともヘモグロビンに結合した少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも約10の水溶性ポリマー部分との間の共有結合性コンジュゲートを含む。水溶性ポリマーは、ヘモグロビンの任意の適切な残基に結合する。例示的な本発明のコンジュゲートでは、1つまたは複数の水溶性ポリマー部分が、アミノ酸側鎖、たとえば、リシン残基のε−アミン部分に結合する。例示的な実施形態では、本発明は、各Hb分子が、7、8、9または10のPEG部分とコンジュゲートした、上記のPEG−Hbコンジュゲートを提供する。様々な実施形態では、本発明は、1つのHb分子に対するPEG分子の平均数が約7〜約10または約8および約9である、PEG−Hbコンジュゲートの集団を提供する。例示的な実施形態では、PEG部分はPEG5000部分である。
【0131】
コンジュゲートの合成
様々な実施形態では、本発明は、1つまたは複数の水溶性ポリマー部分とヘモグロビンポリペプチドとの間のコンジュゲートを提供する。例示的な実施形態では、前駆体ヘモグロビンは、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含むウイルス不活化されたヘモグロビン組成物である。この組成物は、脱酸素化されたヘモグロビンおよび安定化剤の溶液を、熱ウイルス不活化プロセスにかける工程を含む方法によって調製される。例示的な実施形態では、熱ウイルス不活化プロセスは、前記溶液中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇した温度に溶液を曝す工程を含み、熱は、溶液中の本質的にすべてのウイルス活性の不活化を達成するのに十分な時間上昇される。例示的な安定化剤は、溶液中の脱酸素化されたヘモグロビンよりも酸素と反応性である構造要素を含み、それによって脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にする。溶液は、熱ウイルス失活プロセスにおいて、約10%、8%、6%、4%、または2%を超えるメトヘモグロビンの形成を防止するのに十分な、ある量の安定化剤を含む。様々な実施形態では、安定化剤は、メトヘモグロビン濃度を約5%以下に維持するように選択され、この濃度以下に維持するのに十分な量で存在する。
【0132】
様々な実施形態では、前駆体ヘモグロビンポリペプチドは、水溶性の、機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含むウイルス不活化されたヘモグロビン組成物である。この組成物は、約10%未満のメトヘモグロビンを含み、前駆体ヘモグロビン溶液を約60℃に、最大約12時間、例えば、約1時間〜約4時間加熱する工程を含む方法によって調製される。前駆体溶液は、安定化剤を場合により含む。安定化剤は、溶液中のヘモグロビン分子が反応するより、酸素または活性酸素種と容易に反応する構造を含み、それによって脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にし、それによって前記組成物を形成する。
【0133】
水溶性ポリマーとウイルス不活化ヘモグロビンペプチドとの間のコンジュゲートは、水溶性ポリマーの活性化誘導体とヘモグロビンを、適切な条件下で反応させることによって形成することができる。様々な実施形態では、水溶性ポリマーは、ヘモグロビンに、アミノ酸残基の側鎖、たとえば、リシン残基のε−アミン部分を通じてコンジュゲートする。本発明の例示的なコンジュゲートは、ヘモグロビンに結合した少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9または少なくとも10の水溶性ポリマー部分を含む。
【0134】
本発明のコンジュゲートを形成する例示的な方法では、前駆体のウイルス不活化されたヘモグロビン組成物は、酸素化されており、酸素化されたヘモグロビンは、ヘモグロビンのアミノ酸残基と相補的な反応性の活性化水溶性ポリマー分子と接触しており、それによって、酸素化されたヘモグロビン溶液中で、水溶性ポリマーと酸素化されたヘモグロビン分子との間で共有結合性コンジュゲートを形成する。例示的な実施形態では、共有結合性コンジュゲートのヘモグロビンは、脱酸素化されており、またはCOに結合している。脱酸素化は、機械的であっても化学的であってもよく、鉄が未結合であるか、COに結合しているヘモグロビン分子をもたらす。
【0135】
一般に、水溶性ポリマー(例えば、PEG)部分およびポリペプチドは、反応基を使用して一緒に連結され、これらの反応基は一般に、連結プロセスによって変換されて、生理学的に妥当な条件下で非反応性である新しい有機官能基または化学種になる。反応性官能基(複数可)は、ペプチドおよび水溶性ポリマー上の任意の位置に配置される。本発明を実施するのに有用な反応基および反応のクラスは一般に、バイオコンジュゲート化学の技術分野で周知であるものである。反応性アミノ酸部分を用いて利用可能な反応の現在好都合なクラスは、相対的に穏やかな条件下で進行するものである。これらには、それだけに限らないが、求核置換(例えば、アミンおよびアルコールの、ハロゲン化アシル、活性エステルとの反応)、求電子置換(例えば、エナミン反応)、ならびに炭素間および炭素−ヘテロ原子多重結合への付加(例えば、マイケル反応、ディールス−アルダー付加)が含まれる。これらの、および他の有用な反応は、例えば、March,ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY,3rd Ed.,John Wiley&Sons、New York,1985;Hermanson,BIOCONJUGATE TECHNIQUES,Academic Press,San Diego,1996;およびFeeneyら、MODIFICATION OF PROTEINS;Advances in Chemistry Series,Vol.198,American Chemical Society,Washington,D.C.,1982に論じられている。
【0136】
ヘモグロビンポリペプチドまたは水溶性ポリマーからぶら下がった有用な反応性官能基として、それだけに限らないが、
(a)それだけに限らないが、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシベンズトリアゾールエステル、酸ハロゲン化物、アシルイミダゾール、チオエステル、p−ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニル、および芳香族エステルを含めたカルボキシル基およびこれらの誘導体;
(b)例えば、エステル、エーテル、アルデヒドなどに変換することができるヒドロキシル基、
(c)ハライドを、求核基、例えば、アミン、カルボキシレート陰イオン、チオール陰イオン、カルボアニオン、またはアルコキシドイオンなどと後に置換することができ、それによって、ハロゲン原子の官能基において新しい基の共有結合をもたらすハロアルキル基;
(d)例えば、マレイミド基などのディールス−アルダー反応に関与することができるジエノフィル基;
(e)カルボニル誘導体、例えば、イミン、ヒドラゾン、セミカルバゾン、もしくはオキシムなどの形成を介して、またはグリニャール付加もしくはアルキルリチウム付加などのメカニズムを介して、引き続いて誘導体化が可能であるようなアルデヒド基またはケトン基;
(f)例えば、スルホンアミドを形成するために、引き続いてアミンと反応させるためのハロゲン化スルホニル基;
(g)例えば、ジスルフィドに変換し、またはハロゲン化アシルと反応し、または例えば、マレイミドとの反応によって、チオエーテルに変換することができるチオール基;
(h)例えば、アシル化、アルキル化、または酸化することができるアミン基またはスルフヒドリル基;
(i)例えば、環付加、アシル化、マイケル付加などを行うことができるアルケン;
(j)例えば、アミンおよびヒドロキシル化合物と反応することができるエポキシド;ならびに
(k)例えば、アミンおよびスルフヒドリルと反応することができるマレイミド
が挙げられる。
【0137】
反応性官能基は、反応性ポリマー修飾基(例えば、PEG)をアセンブルするのに必要な反応に、これらが関与しないか、干渉しないように選ぶことができる。あるいは、反応性官能基は、保護基の存在によって、反応に関与することから保護することができる。当業者は、特定の官能基を、これが、選ばれたセットの反応条件に干渉しないように保護する方法を理解している。有用な保護基の例については、例えば、Greeneら、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS,John Wiley&Sons,New York,1991を参照。
【0138】
適当なコンジュゲーション条件は、ポリマー試薬と活性剤の間でコンジュゲーションを生じさせるのに十分な、時間、温度、pH、試薬濃度、試薬官能基(複数可)、活性剤に対して利用可能な官能基、溶媒などの条件である。当技術分野で知られているように、具体的な条件は、とりわけ、活性剤、望まれるコンジュゲーションの型、反応混合物中の他の物質の存在などに依存する。任意の特定の場合においてコンジュゲーションを生じさせるための十分な条件は、本明細書の開示を読み、該当する文献を参照した後、および/または日常の実験を通じて、当業者によって求めることができる。
【0139】
例えば、ポリマー試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(例えば、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルプロピオネート、およびスクシンイミジルブタノエート)を含有し、活性剤が、アミン基(例えば、ポリペプチドの末端アミン基および/またはリシン含有ポリペプチドのεアミン)を含有する場合、コンジュゲーションは、室温で、約7.5〜約9.5のpHで生じさせることができる。さらに、ポリマーの試薬が、ビニルスルホン反応基またはマレイミド基を含有し、薬理学的活性剤が、スルフヒドリル基(例えば、システイン含有ポリペプチドまたはメチオニン含有ポリペプチドのスルフヒドリル基)を含有する場合、コンジュゲーションは、室温で、約7〜約8.5のpHで生じさせることができる。さらに、ポリマー試薬に付随する反応基がアルデヒドまたはケトンであり、薬理学的活性剤が1級アミンを含有する場合、コンジュゲーションを、還元的アミノ化によって生じさせることができ、ここで、薬理学的活性剤の1級アミンは、ポリマーのアルデヒドまたはケトンと反応する。約6〜約9.5のpHで行われると、還元的アミノ化は、薬理学的活性剤およびポリマーがイミン結合を介して連結されたコンジュゲートを最初にもたらす。NaCNBHなどの適当な還元剤を用いてイミン含有コンジュゲートを引き続いて処理すると、イミンが2級アミンに還元される。
【0140】
例示的なコンジュゲーション条件には、約4〜約10のpHで、および例えば、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、または10.0のpHで、コンジュゲーション反応を実施することが含まれる。反応は、約5分〜約72時間、例えば、約30分〜約48時間、例えば、約4時間〜約24時間進行される。コンジュゲーションを行うことができる温度は一般に、必ずしもではないが、約0℃〜約40℃の範囲内であり、室温以下であることが多い。コンジュゲーション反応は、リン酸緩衝液溶液、酢酸ナトリウム、または同様の系を使用して実施されることが多い。
【0141】
試薬濃度に関して、過剰のポリマー試薬が一般に、ヘモグロビンと混合される。ポリマー試薬とヘモグロビンの例示的な比として、約1:1(ポリマー試薬:ヘモグロビン)、5:1、10:1、15:1、20:1、25:1、または30:1のモル比が挙げられる。様々な実施形態では、コンジュゲーション反応は、さらなるコンジュゲーションが実質的に起こらなくなるまで進行され、これは一般に、経時的に反応の進行をモニターすることによって判定することができる。
【0142】
反応の進行は、様々な時点で反応混合物からアリコートを引き抜き、SDS−PAGE、もしくはMALDI−TOF質量分析法、または任意の他の適当な分析法によって反応混合物を分析することによってモニターすることができる。形成されたコンジュゲートの量、または残っているコンジュゲートされていないポリマー試薬の量に関して安定状態に到達した後、反応は完了していると仮定される。一般に、コンジュゲーション反応は、数分〜数時間のいずれか(例えば、5分〜24時間、またはそれ以上)を要する。得られた生成物混合物は、好ましくは、必ずしもではないが、過剰のポリマー試薬、コンジュゲートしていない反応物(例えば、活性剤)、および望まれない多重コンジュゲートした化学種を分離して除くために精製される。次いで得られたコンジュゲートは、分析法、例えば、MALDI、キャピラリー電気泳動、ゲル電気泳動、および/またはクロマトグラフィーなどを使用してさらに特徴づけられる。
【0143】
ポリマーヘモグロビンコンジュゲートを精製することによって、異なるコンジュゲートされた化学種を得る/単離することができる。あるいは、およびより好ましくは、コンジュゲートを形成するのに使用されるより小さい分子量(例えば、約20,000ダルトン未満、より好ましくは約10,000ダルトン未満)のポリマー試薬について、生成物混合物を精製することによって、活性剤について水溶性ポリマーセグメントの分布を得ることができる。例えば、生成物混合物を精製することによって、Hb分子当たり所望の数の平均のポリマー試薬の結合、一般に、Hb分子当たり平均約7、8、9、または10の結合を得ることができる。最終的なコンジュゲート反応混合物を精製するためのストラテジーは、例えば、使用されるポリマー試薬の分子量、特定のHb製剤、所望の投薬レジメン、ならびに個々のコンジュゲート(複数可)の残効性およびインビボ特性を含めた、いくつかの要因に依存する。
【0144】
必要に応じて、異なる分子量を有するコンジュゲートを、ゲル濾過クロマトグラフィーを使用して単離することができる。すなわち、ゲル濾過クロマトグラフィーが使用されることによって、異なって数えられるポリマー試薬と活性剤の比(例えば、1−mer、2−mer、3−merなどであり、「1−mer」は、活性剤に対して1つのポリマー試薬を示し、「2−mer」は、活性剤に対して2つのポリマー試薬を示すなど)が、その異なる分子量(差異は、水溶性ポリマーセグメントの平均分子量に本質的に対応する)に基づいて分画される。例えば、100,000ダルトンのタンパク質が、約20,000ダルトンの総分子量を有する分岐PEG(分岐PEGの各ポリマー「アーム」は、約10,000ダルトンの分子量を有する)にランダムにコンジュゲートされる例示的な反応では、得られる反応混合物は、非修飾タンパク質(約100,000ダルトンの分子量を有する)、モノペグ化されたタンパク質(約120,000ダルトンの分子量を有する)、ジペグ化されたタンパク質(約140,000ダルトンの分子量を有する)などを含有する場合がある。
【0145】
この手法は、異なる分子量を有するPEGおよび他のポリマー−活性剤コンジュゲートを分離するのに使用することができるが、この手法は、タンパク質内で異なるポリマー結合部位を有する位置異性体を分離するのに、一般に効果的でない。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーは、1−mer、2−mer、3−merなどのPEGの混合物を互いに分離するのに使用することができるが、回収されるPEG−mer組成物のそれぞれは、活性剤内の異なる反応性アミノ基(例えば、リシン残基)に結合されたPEGを含有する場合がある。
【0146】
このタイプの分離を実施するのに適したゲル濾過カラムには、Amersham Biosciences(Piscataway, N.J.)から入手可能なSuperdex(商標)およびSephadex(商標)カラムが含まれる。特定のカラムの選択は、望まれる所望の分画範囲に依存することになる。溶出は一般に、ホスフェート、アセテートなどの適当な緩衝液を使用して実施される。収集された画分は、いくつかの異なる方法、例えば、(i)タンパク質含量についての280nmでの光学密度(OD)、(ii)ウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質分析、(iii)PEG含量についてのヨウ素試験(Simsら、(1980)Anal. Biochem, 107:60-63)、および(iv)デシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)とその後のヨウ化バリウムを用いた染色によって分析することができる。
【0147】
様々な実施形態では、水溶性ポリマーはPEGであり、およそ1kD、5kD、10kD、15kD、20kD、30kDまたは40kDの分子量を有する。PEG部分は直鎖または分岐したPEG種である。ポリペプチド(またはポリペプチドに結合したリンカー)に結合していないPEG部分の末端は、OHまたは他の部分、例えば、O−(C〜C)置換または非置換アルキル基のいずれかであることができる。OMe(ここで、Meはメチル基である)が現在好ましい。
【0148】
例示的な実施形態では、水溶性ポリマーは直鎖または分岐PEGである。様々な実施形態では、コンジュゲートは1つのペプチドあたり、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のPEG部分を含む。例示的な実施形態では、水溶性ポリマーは直鎖PEGであり、コンジュゲートは、1つのペプチド分子あたり、およそ6、7、8、9または10のPEG部分を含む。別の例示的な実施形態では、水溶性ポリマーは分岐PEGであり、コンジュゲートは、1つのペプチド分子あたり、およそ1、2、3、4または5のPEG部分を含む。
【0149】
PEGが直鎖種である例示的な実施形態では、PEG部分は約200D〜約20kDの分子量を有する。PEG部分が直鎖PEG部分である様々な実施形態では、直鎖PEGの分子量は、少なくとも約200D、少なくとも約500D、少なくとも約1kD、少なくとも約2kD、少なくとも約5kD、少なくとも約10kD、少なくとも約20kD、少なくとも約30kDまたは少なくとも約40kDである。
【0150】
本発明において使用される例示的なPEG種は、2つまたはそれ以上のPEGアームを有する分岐PEGである。この実施形態の例は、側鎖アミノ酸、例えば、セリン、システインまたはリシンおよびこれらのアミノ酸のそれぞれからまたはこれらを組み合わせて形成されるジ−、トリ−およびテトラペプチドに基づく。
【0151】
PEG種が分岐した他の例示的な実施形態では、分岐したPEGは、2〜6つの直鎖PEGアームを含む。例示的なPEGアームは、約200D〜約30kDの分子量を有する。様々な実施形態では、各アームは、少なくとも約2kD、少なくとも約5kD、少なくとも約10kD、少なくとも約15kD、少なくとも約20kD、少なくとも約30kDまたは少なくとも約40kDの個別に選択された分子量を有する。
【0152】
様々な実施形態では、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分は、ヘモグロビン分子のアミノ酸残基のアミン部分を通じて共有結合的にコンジュゲートされる。例示的な実施形態では、アミノ酸残基はリシン残基であり、少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)部分は、リシン残基のε−アミン部分に共有結合的にコンジュゲートされる。例示的なコンジュゲーションモチーフは、アミドおよびウレタンから選択されるメンバーである結合を通じたものである。
【0153】
コンジュゲートの安定性
様々な実施形態では、本発明は、メトグロビン形成に対する耐性による測定で、高度に安定なPEG−ヘモグロビンコンジュゲートを提供する。1つの実施形態では、本発明は、45℃で、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、少なくとも約7日間、少なくとも約8日間、少なくとも約9日間、少なくとも約10日間、少なくとも約11日間、少なくとも約12日間、少なくとも約13日間、少なくとも約14日間または少なくとも約15日間貯蔵後、約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%または3%未満のメトヘモグロビンを含むコンジュゲートを提供する。
【0154】
様々な実施形態では、本発明は、メトグロビン形成に対する耐性による測定で、高度に安定なPEG−ヘモグロビンコンジュゲートを提供する。1つの実施形態では、本発明は、4℃で、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間、少なくとも約7週間、少なくとも約8週間、少なくとも約9週間、少なくとも約10週間、少なくとも約11週間、少なくとも約12週間、少なくとも約13週間、少なくとも約14週間、少なくとも約15週間または少なくとも約16週間貯蔵後、約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%または3%未満のメトヘモグロビンを含むコンジュゲートを提供する。
【0155】
様々な実施形態では、本発明は、一酸化炭素(CO)形態のPEG−ヘモグロビンコンジュゲートを提供する。この形態は、表3に示されるように、%MET−Hb形成を低く維持することに関して特に安定であるように思われる。例えば、CO形態は、37℃で16週間貯蔵した後、わずか4.0%の%MET−Hbを示した。これは、機械的に脱酸素化された形態より安定である。
【0156】
本発明の例示的なコンジュゲートは、45℃で少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、または少なくとも約5週間貯蔵した後、循環血液量減少性ショックの動物モデルにおいて完全に効果的である。
【0157】
上記説明のそれぞれによる例示的な製剤では、コンジュゲートのヘモグロビンはCO形態にある。様々な実施形態では、本発明は、4℃で少なくとも約3カ月、少なくとも約6カ月、少なくとも約9カ月、少なくとも約12カ月間安定であるPEG−Hb−COコンジュゲートを提供する。
【0158】
組合せ製剤
様々な例示的な実施形態では、本発明は、別の治療剤、または製剤中のPEG−Hbコンジュゲートの活性を助長、補完、または増強する作用剤と組み合わせて、本発明の1つまたは複数のPEG−Hbコンジュゲートまたは製剤を含む組合せ製剤を提供する。例示的な作用剤には、それだけに限らないが、血液凝固剤、または血液凝固剤の前駆体、抗酸化酵素、および虚血/再灌流傷害を予防し、もしくは治療する作用剤が含まれる。これらの例による例示的な化学種は、以下に示されている。
【0159】
例示的な実施形態では、本発明は、血小板と組み合わせた、本発明の1つまたは複数のPEG−Hb組成物を含む製剤を提供する。
【0160】
血小板は、血管の傷害部位に接着し、血漿フィブリン血餅の形成を促進することによって、傷害された哺乳動物を血液喪失から保護する無核骨髄由来血液細胞である。骨髄不全によって循環血小板が激減したヒトは、生命を危うくする自発性出血を被り、血小板のそれほどひどくない欠乏は、外傷または手術後の出血合併症の一因となる。
【0161】
ヒト血小板細胞については、多くが知られている。血小板の貯蔵の技術、材料および方法を記載した一般的な刊行物は、Murphyら、Blood 60(1):194-200 (1982);Murphyによる“The Preparation and Storage of Platelets for Transfusion”, Mammon, Barnhart, Lusher, and Walsh, PJD Publications, Ltd., Westbury, N.Y. (1980);Murphyによる“Platelet Transfusion”, Progress in Hemostasis and Thrombosis, Vol. III, Ed. by T. Spaet, Grune and Stratton, Inc. (1976);Murphyら、Blood 46(2):209-218 (1975);Kilksonら、Blood 64(2):406-414 (1984);Murphyによる“Platelet Storage for Transfusion”, Seminars in Hematology 22(3): 165-177 (1985);Simonら、Transfusion 23:207-212 (1983); Cesarら、Transfusion 27(5):434-437 (1987)によって記載されている。
【0162】
1μL当たり約70,000未満に循環血小板の数が低下すると、報告によれば、標準化された皮膚出血時間試験の延長をもたらし、出血間隔は、血小板数が0に向けて下がるにつれて無限大付近まで外挿して延長する。1μL当たり20,000未満の血小板数を有する患者は、粘膜表面から自発性出血を非常にしやすいと考えられている。
【0163】
本発明の血小板PEG−Hb製剤は、骨髄不全、例えば、再生不良性貧血、急性および慢性白血病、転移性癌であるが、特に、イオン化放射および化学療法を用いた癌治療から生じるものを患っている対象を治療するのに役に立つ。さらに、この製剤は、主要な手術、傷害(例えば、外傷)、および敗血症に関連する血小板減少症の治療および回復に役に立つ。
【0164】
血小板およびPEG−Hb製剤は、任意の実用的かつ効果的な様式で組み合わせることができる。したがって、例示的な実施形態では、血小板およびPEG−Hbは、得られる組成物が対象に投与される直前に組み合わされる。他の例示的な実施形態では、血小板−PEG−Hb製剤は、調製され、適切な時間貯蔵される。
【0165】
様々な実施形態では、血小板は、単独でまたはPEG−Hb製剤と組み合わせて、安定化剤によって安定化される。本発明で使用する例示的な安定化剤は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第7,241,282号および同第5,466,573号を参照。血小板の源はまた、場合により、米国特許第6,649,072号に開示されているものなどの、血小板およびフィブリノーゲンに富んだ血液組成物である。
【0166】
例示的な実施形態では、本発明は、2つ(またはそれ以上)の成分が存在し、その組合せの前に別個に貯蔵されるキットを提供する。例えば、様々な実施形態では、本発明は、血小板およびPEG−Hb製剤を組み合わせるためのデバイスを提供する。このデバイスは、要素(複数可)を収集または貯蔵するための第1の容器、およびPEG−Hb製剤が貯蔵された、第1の容器と流体連結している少なくとも1つのサテライト容器を含む。使用する際、ブレイクシールバリア(break seal barrier)が第1の容器とサテライト容器の間に置かれており、その結果シールを破ると、製剤の2つの成分を混合し、それを必要とする対象に引き続いて投与することができる。当業者が理解するように、記載されたデバイスの均等物が利用可能であり、本開示の精神および範囲内に入る。例えば、キットは、それぞれが、液体または乾燥形態で本発明の組合せ製剤の成分を含有する、2つ以上のアンプルを含むことができる。アンプルの内容物は、組合せ製剤を、それを必要とする対象に投与する前の適切な時間および適切な様式で混合することができる。
【0167】
さらなる例示的な実施形態では、本発明は、本発明のPEG−Hb製剤が、1つまたは複数の凝固因子と組み合わされる製剤を提供する。そのような製剤は、他の用途の中でも、ある特定の凝固障害(例えば、血液凝固の遺伝性または後天性欠失)、急性出血の治療、および手術前の出血の予防に役に立つ。
【0168】
例示的な実施形態では、本発明は、本発明のPEG−Hb製剤、ならびに因子II、V、VII、VIII、IX、X、XI、およびXII、およびこれらの組合せから選択されるメンバーである凝固因子を含む組合せ製剤を提供する。様々な例示的な実施形態では、因子は、第VII因子、第VIII因子、および第IX因子、またはこれらの組合せから選択される。
【0169】
血液の凝固は、そのほとんどすべてがタンパク質である多数の成分の連続した相互作用を必要とする複雑なプロセスである。これらの成分は、フィブリノーゲン、および因子II、V、VII、VIII、IX、X、XI、およびXIIを含む。これらの成分または非機能的な成分のいずれかの欠如により、必要な場合に血液を凝固することができなくなる場合があり、患者に過剰な、生命を危うくする血液喪失を結果として生じる。
【0170】
当技術分野は、様々な溶媒の凝固因子濃縮物を調製するための確立された方法が豊富である。例えば、第VIII因子複合体の精製は、約90%以上の純度レベルを有し、凍結乾燥形態で長期間貯蔵するのに十分に安定である第VIII因子製剤をもたらした。例えば、米国特許第4,650,858号、および米国特許第5,399,670号を参照。第VIII因子製剤はまた、入手可能である。これらとして、ヒト第VIII因子(Humate(商標)、Monoclate(商標)、lmmunate(商標)、およびHemofil(商標)の活性成分のような)、組換えヒト第VIII因子(PCT特許出願国際公開91/09122に記載されているr−VIII SQ(ReFacto(商標)の活性成分)、またはKogenate(商標)もしくはRecombinate(商標)の活性成分のような)、ブタ第VIII因子(これは、Ipsen, Inc., USAによって販売されている製品Hyate:C(商標)の活性成分である)、または組換えブタ第VIII因子(例えば、特許出願国際公開01/68109に開示され、「POL1212」と識別されたもののような、変性B-ドメインレス型のブタ第VIII因子)が挙げられる。
【0171】
本発明において用いられるさらなる第VIII因子製剤は、米国特許第5,565,427号、米国特許第5,605,884号、米国特許第5,763,401号、米国特許第5,874,408号、米国特許第5,962,650号、米国特許第5,972,885号、国際公開89/09784号および国際公開94/07510号に開示されている。
【0172】
他の因子は、同様に、入手可能でありかつ本発明において用いられる。例示的な実施形態では、第VII因子が本発明のPEG−Hb製剤に組み込まれる。第VII因子は、406アミノ酸の単鎖グリコプロテイン(分子量50,000)であり、血液中に分泌され、チモーゲンの形態で血液内を循環する。FVIIは、in vitroで活性化凝固因子、第X因子(FXa)、第IX因子(FIXa)、第XII因子(FXIIa)または第II因子(FIIa)の作用によって、活性化因子FVIIまたはFVIIaに、タンパク質分解的に(proteolytically)活性化することができる。FVIIaは、それ自身は凝固を促進しないが、損傷部位で組織因子(TF)と複合体化することができる。FVIIa/TF複合体はFXをFXaに変換することができ、それによって損傷部位で局所的止血を誘導する。FVIIのFVIIaへの活性化には、Arg−152とIle−153の間の単一ペプチド結合のタンパク質分解的切断が関与し、152アミノ酸残基の軽鎖と254アミノ酸残基の重鎖からなり単一ジスルフィド結合で一緒に保持された2つの鎖の分子が得られる。
【0173】
第VII因子の製造方法及び精製方法は、技術分野で知られている。例えば、米国特許第6,329,176を参照されたい。いくつかの、タンパク質改変されたFVIIの変異体が報告されている。例えば、Dickinsonら、J. Bio. Chem. 272:19875-19879 (1997)、Kemball-Cookら、J. Biol. Chem. 273:8516-8521 (1998)、Bharadwajら、J. Biol. Chem. 271:30685-30691 (1996)、Ruf ら、Biochemistry, 38:1957-1966 (1999);国際公開99/20767号;国際公開00/11416号;国際公開02/22776号;国際公開02/38162号;国際公開01/83725号;国際公開01/58935号;および米国特許第5,580,560号を参照されたい。FVIIはBHKおよび他の哺乳動物細胞において発現し(国際公開92/15686号、国際公開91/11514号および国際公開88/10295号)、真核生物細胞においてFVIIとkex2エンドプロテアーゼが共発現する(国際公開00/28065号)。ヒト組換えFVIIaの市販調製物は、NovoSeven(商標)として販売されている。NovoSeven(商標)は、血友病AまたはB患者の出血症状の治療のために処方される。
【0174】
血友病Bは、血液の凝固性に影響する第IX因子と呼ばれる血漿タンパク質の欠失によって引き起こされる。この障害は、X染色体上に位置した不完全な遺伝子を伴った、遺伝性X染色体連鎖劣性形質によって引き起こされる。したがって、この障害は、主にオスにおいて起こる。ヒト第IX因子は、ビタミンK依存性チモーゲンであり、これは、血液凝固において重要な役割を果たす。第IX因子は、55,000ダルトンの分子量を有する415アミノ酸単鎖チモーゲンとして循環し、約5μg/mlで正常な血漿中に存在する。
【0175】
血友病Bを患っている患者のための代償療法を提供するために、いくつかの市販形態の第IX因子濃縮物が入手可能である。例えば、血液由来第IX因子複合体製品(他の因子を含有する)が、Bebulin VH(商標)(Baxter Healthcare, Vienna, Austria)、konyne80(商標)(Bayer Corporation, Elkhart Ind.)、Profilnine SD(商標)(Alpha Therapeutic Corporation, Los Angeles Calif.)、およびProplex(商標)(Baxter Healthcare, Glendale Calif.)のブランドで販売されている。いくらかより精製された形態の第IX因子製品は、Alphanine SD(商標)(Alpha Therapeutic Corporation, Los Angeles Calif.)、およびMononine(商標)(Aventis Behring, Kankakee Ill.)のブランドのもとで販売されている。組換えで調製された第IX因子濃縮物に関して、現在、入手可能な1つの製品は、Benefix.(商標)(Wyeth/Genetics Institute, Cambridge Mass.)である。
【0176】
他の凝固因子の組換え合成および精製、ならびにこれらの因子の本発明の製剤への取込みは、当業者の能力に伴う。
【0177】
因子(複数可)およびPEG−Hb製剤は、任意の実用的かつ効果的な様式で組み合わせることができる。したがって、例示的な実施形態では、因子(複数可)およびPEG−Hbは、得られる組成物が対象に投与される直前に組み合わされる。他の例示的な実施形態では、因子(複数可)−PEG−Hb製剤は、調製され、適切な時間貯蔵される。
【0178】
例示的な実施形態では、本発明は、2つ(またはそれ以上)の成分が存在し、その組合せの前に別個に貯蔵されるキットを提供する。例えば、様々な実施形態では、本発明は、因子(複数可)およびPEG−Hb製剤を組み合わせるためのデバイスを提供する。このデバイスは、因子(複数可)を収集または貯蔵するための第1の容器、およびPEG−Hb製剤が貯蔵された、第1の容器と流体連結している少なくとも1つのサテライト容器を含む。使用する際、ブレイクシールバリアが、第1の容器とサテライト容器の間に置かれており、その結果シールを破ると、製剤の2つの成分を混合し、それを必要とする対象に引き続いて投与することができる。当業者が理解するように、記載されたデバイスの均等物が利用可能であり、本開示の精神および範囲内に入る。例えば、キットは、それぞれが、液体または乾燥形態で本発明の組合せ製剤の成分を含有する、2つ以上のアンプルを含むことができる。アンプルの内容物は、組合せ製剤を、それを必要とする対象に投与する前の適切な時間および適切な様式で混合することができる。
【0179】
別の例示的な実施形態では、本発明は、NO源と本発明のPEG−Hb製剤の組合せ製剤を提供する。本発明のこの実施形態は、様々なNOドナー分子を参照して例示されるが、NO源は、これらの例示的な実例に限定されず、NOの他の源を、本発明の組合せ製剤中に組み込むことができることを当業者は容易に理解するであろう。
【0180】
一酸化窒素(NO)は、抗血小板凝集、および抗血小板活性化、血管弛緩、神経伝達、および免疫応答において重要な生理的役割を果たす、重要な細胞内および細胞間メッセンジャー分子である。NO(一酸化窒素)は、血圧を下げ、他の機能の中でも、血小板機能を阻害する生物学的な「メッセンジャー分子」である。NOは、内皮から血管平滑筋および血小板に、ならびに神経細胞シナプス全体にわたって自由に拡散することによって、生物学的な応答を誘起する。
【0181】
血液および酸素が欠乏した組織は、虚血性ネクローシスまたは梗塞を起こし、非可逆性の臓器損傷の可能性を伴う。血液および酸素の流れが臓器または組織に回復しても(再灌流)、臓器は、正常な虚血前の状態に直ちに戻らない。虚血後の機能不全は、様々な要因に起因し得る。酸素フリーラジカルが役割を果たす場合があり、その理由は、気絶心筋中のフリーラジカルの生成が実証されており、フリーラジカルスカベンジャーは、収縮不全を減弱することが示されているためである。初期の再灌流の間の細胞内カルシウム処理の障害およびカルシウム過負荷は、虚血後の機能不全の一因となり得る。
【0182】
フリーラジカルによる過剰な酸化的ストレスは、生物組織に傷害を与え得ることが十分に証明されている。細胞および組織の自然防御能が、高レベルの酸化的ストレスに対して細胞および組織を保護するために発生した抗酸化メカニズムを中心に展開する。我々の酸素に富む大気では、ストレスのある時間での酸素の存在は、傷害性となる場合があり、これは、酸素パラドックスと呼ばれ、フリーラジカルプロセスを生じさせ、これに関与することにおける酸素の役割に関係する。組織への血流の制限、例えば、心発作、脳卒中、および四肢への流れの制限などの期間に関連するある特定の疾患状態では、無血流とその後の血液の再流の断続的なエピソードは、虚血/再灌流(I/R)酸化的ストレスを構成する。
【0183】
本明細書で使用する場合、用語NOドナーは、任意の一酸化窒素を放出、送達し、または移動させる化合物を包含し、例えば、S−ニトロソチオール、亜硝酸塩、硝酸塩、S−ニトロチオール、シドノンイミン、2−ヒドロキシ−2−ニトロソヒドラジン、(NONOate)、(E)−アルキル−2−((E)−ヒドロキシイミノ)−5−ニトロ−3−ヘキセンアミド(FK-409)、(E)−アリル−2−((E)−ヒドロキシイミノ)−5−ニトロ−3−ヘキセンアミン、N−((2Z,3E)−4−エチル−2−(ヒドロキシイミノ)−6−メチル−5−ニトロ−3−ヘプテニル)−3−ピリジンカルボキサミド(FR146801)、N−ニトロソアミン、N−ヒドロキシルニトロソアミン、ニトロソイミン、ジアゼチンジオキシド、オキサトリアゾール5−イミン、オキシム、ヒドロキシルアミン、N−ヒドロキシグアニジン、ヒドロキシウレア、ベンゾフロキサン、フロキサン、ならびに一酸化窒素を合成する内因性酵素の基質を含む。
【0184】
適当なNONOateとして、それだけに限らないが、(Z)−1−(N−メチル−N−(6−(N−メチル−アンモニオヘキシル)アミノ))ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(「MAHMA/NO」)、(Z)−1−(N−(3−アンモニオプロピル)−N−(n−プロピル)アミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(「PAPA/NO」)、(Z)−1−(N−(3−アミノプロピル)−N−(4−(3−アミノプロピルアンモニオ)ブチル)−アミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(スペルミンNONOateまたは「SPER/NO」)、およびナトリウム(Z)−1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼニウム−1,2−ジオレート(ジエチルアミンNONOateまたは「DEA/NO」)、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。NONOateは、米国特許第6,232,336号、同第5,910,316号、および同第5,650,447号にも記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。「NO付加体」は、一酸化窒素の生物学的活性体の様々な自然に影響されやすい、または人工的に提供された結合部位で、モノニトロシル化、ポリニトロシル化、モノニトロソ化および/またはポリニトロソ化することができる。
【0185】
適当なフロキサンとして、それだけに限らないが、CAS1609、C93−4759、C92−4678、S35b、CHF2206、CHF2363などが挙げられる。
【0186】
適当なシドノンイミンとして、それだけに限らないが、モルシドミン(N−エトキシカルボニル−3−モルホリノシドノンイミン)、SIN−1(3−モルホリノシドノンイミン)、CAS936(3−(cis−2,6−ジメチルピペリジノ)−N−(4−メトキシベンゾイル)−シドノンイミン、ピルシドミン)、C87−3754(3−(cis−2,6−ジメチルピペリジノ)シドノンイミン)、リンシドミン、C4144(3−(3,3−ジメチル−1,4−チアザン−4−イル)シドノンイミンヒドロクロリド)、C89−4095(3−(3,3−ジメチル−1,1−ジオキソ−1,4−チアザン−4−イル)シドノンイミンヒドロクロリドなどが挙げられる。
【0187】
適当なオキシムには、それだけに限らないが、NOR−1、NOR−3、NOR−4などが含まれる。
【0188】
NO付加体の1つの群は、S−ニトロソチオールであり、これは、少なくとも1つのSNO基を含む化合物である。これらの化合物として、S−ニトロソ−ポリペプチド(用語「ポリペプチド」は、確認された生物学的機能を有さないタンパク質およびポリアミノ酸、ならびにこれらの誘導体を含む);S−ニトロシル化アミノ酸(天然および合成アミノ酸、ならびにこれらの立体異性体、ならびにこれらのラセミ混合物および誘導体);S−ニトロシル化糖;S−ニトロシル化された、修飾および非修飾の、オリゴヌクレオチド(好ましくは少なくとも5、より好ましくは5〜200ヌクレオチドのもの);直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、脂肪族または芳香族の、置換または非置換のS−ニトロシル化炭化水素;ならびにS−ニトロソ複素環式化合物が挙げられる。S−ニトロソチオール、およびこれらを調製するための方法は、米国特許第5,380,758号、および同第5,703,073号;国際公開97/27749;国際公開98/19672;およびOaeら、Org.Prep.Proc.Int.,15(3):165−198(1983)に記載されており、そのそれぞれの開示は、その全体が本明細書に参照により組み込まれている。
【0189】
別の適当なNOドナークラスは、S−ニトロソアミノ酸であり、この場合、ニトロソ基は、硫黄含有アミノ酸またはその誘導体の硫黄基に連結している。そのような化合物として、例えば、S−ニトロソ−N−アセチルシステイン、S−ニトロソ−カプトプリル、S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、S−ニトロソ−ホモシステイン、S−ニトロソ−システイン、S−ニトロソ−グルタチオン、S−ニトロソ−システイニル−グリシンなどが挙げられる。
【0190】
適当なS−ニトロシル化タンパク質には、組織型プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)およびカテプシンBなどの酵素;リポタンパク質などの輸送タンパク質;ヘモグロビンおよび血清アルブミンなどのヘムタンパク質;ならびに生物学的に保護的なタンパク質、例えば、免疫グロブリン、抗体、およびサイトカインなどを含めた、様々な機能的なクラスに由来するチオール含有タンパク質(この場合、NO基は、アミノ酸またはそのアミノ酸誘導体上の1つまたは複数の硫黄基に結合している)が含まれる。そのようなニトロシル化タンパク質は、国際公開93/09806に記載されており、その開示は、その全体が本明細書に参照により組み込まれている。例として、タンパク質中の1つもしくは複数のチオール、または他の求核中心が修飾されているポリニトロシル化アルブミンが挙げられる。
【0191】
NO付加体が一酸化窒素を供与し、移し、または放出する化合物である、本発明で使用するための別の群のNO付加体には、少なくとも1つのONOまたはONN基を含む化合物が含まれる。少なくとも1つのONOまたはONN基を含む化合物は、好ましくは、ONOまたはONN−ポリペプチド(用語「ポリペプチド」は、確認された生物学的機能を有さないタンパク質およびポリアミノ酸、ならびにこれらの誘導体を含む);ONOまたはONN−アミノ酸(天然および合成のアミノ酸、ならびにこれらの立体異性体およびラセミ混合物を含む);ONO−またはONN−糖;ONOまたはONN修飾または非修飾オリゴヌクレオチド(少なくとも5ヌクレオチド、好ましくは5〜200ヌクレオチドを含む);ONOまたはON直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、脂肪族または芳香族の、置換または非置換の炭化水素;ならびにONO、ONNまたはONC−複素環式化合物である。少なくとも1つのON−OまたはON−N基を含む化合物の好適な例として、亜硝酸ブチル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸tert−ブチル、亜硝酸アミル、亜硝酸イソアミル、N−ニトロソアミン、N−ニトロソアミド、N−ニトロソ尿素、N−ニトロソグアニジン、N−ニトロソカルバメート、N−アシル−N−ニトロソ化合物(N−メチル−N−ニトロソ尿素など);N−ヒドロキシ−N−ニトロソアミン、クペロン、アラノシン、ドパスチン、1,3−二置換ニトロソイミノベンゾイミダゾール、1,3,4−チアジアゾール−2−ニトロソイミン、ベンゾチアゾール−2(3H)−ニトロソイミン、チアゾール−2−ニトロソイミン、オリゴニトロソシドノンイミン、3−アルキル−N−ニトロソ−シドノンイミン、2H−1,3,4−チアジアジンニトロソイミンが挙げられる。
【0192】
本発明で使用するための別の群のNO付加体には、少なくとも1つのONO、ONN、またはON−S基を含む化合物などの、一酸化炭素を供与し、移し、または放出する硝酸塩が含まれる。これらの化合物中で好適なのは、ONO、ONN−、またはONSポリペプチド(用語「ポリペプチド」は、確認された生物学的機能を有さないタンパク質およびまたポリアミノ酸、ならびにこれらの誘導体を含む);ONO、ONN、またはONSアミノ酸(天然および合成のアミノ酸、ならびにこれらの立体異性体およびラセミ混合物を含む);ONO、ONN、またはONS糖;ONO−、ONN、またはONS修飾および非修飾オリゴヌクレオチド(少なくとも5ヌクレオチド、好ましくは5〜200ヌクレオチドを含む);ONO、ONN、またはONS直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、脂肪族または芳香族の、置換または非置換の炭化水素;ならびにO−NO、ONN、またはONS複素環式化合物である。少なくとも1つのONO、ONN、またはONS基を含む化合物の好適な例として、イソソルビドジニトレート、イソソルビドモノニトレート、クロニトレート、四硝酸エリトリチル、六硝酸マンニトール、ニトログリセリン、ペンタエリトルトールテトラニトレート(pentaerythrtoltetranitrate)、ペントリニトロール、プロパチルニトレート、およびスルフヒドリル含有アミノ酸との有機硝酸塩、例えば、SPM3672、SPM5185、SPM5186など、ならびにそのそれぞれが、その全体が本明細書に参照により組み込まれている、米国特許第5,284,872号、同第5,428,061号、同第5,661,129号、同第5,807,847号、および同第5,883,122号、および国際公開97/46521、国際公開00/54756、および国際公開03/013432に開示されているものが挙げられる。
【0193】
別の群のNO付加体は、N−オキソ−N−ニトロソアミンであり、これは、一酸化窒素を供与し、移し、または放出し、式:R1”2”NN(OM)NOによって表され、式中、R1”およびR2”はそれぞれ独立に、ポリペプチド、アミノ酸、糖、修飾もしくは非修飾オリゴヌクレオチド、直鎖もしくは分岐の、飽和もしくは不飽和の、脂肪族もしくは芳香族の、置換もしくは非置換の炭化水素、または複素環基であり、Mは、有機または無機陽イオン、例えば、アルキル置換アンモニウム陽イオンまたはI族金属陽イオンである。
【0194】
NOドナーと組み合わせて、対象に、NOの治療効果を助長する、治療有効量の第2の化合物を投与することができる。第2の化合物は、例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、2−o−プロポキシフェニル−8−アザプリン−6−オン[Zaprinast(商標)]、ジピリダモール、テオフィリン、シルデナフィル[Viagra(商標)]、もしくは1,3−ジメチル−6−[2−プロポキシ−5−メタンスルホニルアミドフェニル]−ピラゾロ[3,4−D]ピリミジン−4−[5H]−オン)、またはスーパーオキシドジスムターゼであってもよい。あるいは第2の化合物は、抗血栓剤、例えば、チクロピジン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、t−PAもしくはその類似体(例えば、met-t-PA、Retevase(商標)、もしくはFE1X)、ヘパリン、ヒルジンもしくはその類似体(例えば、Hurulog(商標))など、非ステロイド性抗炎症剤(例えば、インドメタシンもしくはアスピリン)、糖質コルチコイド(例えば、プレドニゾン)、または細胞毒性薬(例えば、メトトレキセート);または抗白血球抗体などの抗白血球剤であってもよい。
【0195】
一酸化窒素の投与は、虚血/再灌流傷害の予防および治療として使用されている。例えば、米国特許第6,656,452号、およびこれに引用されている参考文献を参照。したがって、虚血−再灌流傷害を治療するためのNO源を含むヘモグロビン系代用血液の製剤を提供することは、本発明のさらなる目的である。例示的な実施形態では、本発明の代用血液は、NOドナー分子を組み合わされる。組合せは、代用血液の製造時、または最初に製造した後の任意の時点とすることができる。例えば、本発明は、2コンパートメントデバイス、または2つの別個の容器を提供する。一方のコンパートメントまたは容器には、代用血液が貯蔵され、第2のコンパートメントまたは容器には、NOドナー分子が供給される。それを必要とする対象に投与する前に、2つのコンパートメントまたは容器の内容物が混合され、得られる製剤が対象に投与される。
【0196】
様々な実施形態では、本発明の製剤は、スーパーオキシドジスムターゼまたはカタラーゼをさらに含む。これらのタンパク質は、それ自体、水溶性ポリマー、例えば、PEGに場合によりコンジュゲートされる。
【0197】
例示的な実施形態では、本発明は、製剤が投与される対象の1つまたは複数の組織に対する虚血/再灌流傷害および/または酸化的ストレスを治療し、回復させ、予防、または低減するのに使用する製剤を提供する。
【0198】
例示的な実施形態では、本発明は、2つ(またはそれ以上)成分が存在し、これらを組み合わせる前に別個に貯蔵されるキットを提供する。例えば、様々な実施形態では、本発明は、NOドナーおよびPEG−Hb製剤を組み合わせるためのデバイスを提供する。このデバイスはNOドナーを収集または貯蔵するための第1の容器、およびPEG−Hb製剤が貯蔵された、第1の容器と流体連結している少なくとも1つのサテライト容器を含む。使用する際、ブレイクシールバリアが、第1の容器とサテライト容器の間に置かれており、その結果シールを破ると、製剤の2つの成分を混合し、それを必要とする対象に引き続いて投与することができる。当業者が理解するように、記載されたデバイスの均等物が利用可能であり、本開示の精神および範囲内に入る。例えば、キットは、それぞれが、液体または乾燥形態で本発明の組合せ製剤の成分を含有する、2つ以上のアンプルを含むことができる。アンプルの内容物は、組合せ製剤を、それを必要とする対象に投与する前の適切な時間および適切な様式で混合することができる。
【0199】
上記に示された組合せ製剤のそれぞれにおいて、PEG−Hbは、酸素、一酸化炭素に結合していても、いずれにも結合していなくてもよい。PEG−Hb自体または製剤全体は、対象の血液に張性に関して、低張性、等張性、または高張性であるように製剤化することができる。
【0200】
使用方法
血液喪失(例えば、急性出血から、もしくは外科手術の間のもの)から生じ、貧血(例えば、悪性貧血もしくは鎌状赤血球性貧血)から生じ、あるいはショック(例えば、低血量性ショック、アナフィラキシーショック、敗血症ショック、もしくはアレルギー性ショック)、心筋梗塞、脳卒中、または外傷性脳障害から生じる低酸素症を治療または予防するための酸素移動剤の必要性が存在する。さらに、放射線療法または化学療法の治療効果を改善するために、腫瘍を過剰酸素化する必要がある。本発明は、例えば、血液喪失、虚血、または低酸素症に関連するこれらの状態および他の状態を治療および予防するのに有用な、先に例示したような化合物および方法を提供する。
【0201】
本明細書に示された製剤のそれぞれは、ショック、出血、貧血、または血液の酸素運搬機能の他の機能不全に関連した状態を治療および予防するための様々な方法において役に立つ。本発明の方法は、手術(例えば、移植手術(特に腎臓もしくは心臓移植手術)、または心臓バイパス手術)、血栓溶解、脳卒中、外傷で誘発される一時的な低血圧、またはレーザー、バルーン、もしくはステントの使用を含む、アテローム切除術もしくは血管形成術などの血管介入手順によって引き起こされるものを含めた虚血−再灌流傷害を治療または予防するのに役に立つ。この方法は、経皮経腔的冠動脈形成術後の虚血−再灌流傷害を治療または予防するのに使用することができる。治療または予防される傷害は、腎臓、心臓、または脳を含めた任意の非肺組織において起こり得る。
【0202】
循環血液量減少性ショックは、血液喪失または不十分な血液量のために、心臓が体に十分な血液を供給することができない、特定の形態のショックである。正常な血液量の約5分の1以上の減少により、循環血液量減少性ショックが生じる。この減少は、外出血(傷口もしくは傷害からの)、消化管出血、他の内出血を含めた任意の原因、または他の体液の過剰な減少(下痢、嘔吐、火傷などとともに起こり得るものなど)から生じる血液量の減少に由来し得る。一般に、より多くの、およびより急速な血液量減少は、より重度のショック症状をもたらす。一般に、より軽度のショックを有する患者は、より重度のショックを有する患者より、良好に推移する傾向がある。しかし、重度の循環血液量減少性ショックの場合では、即時に医学的注意をしてでさえ、死亡の可能性がある。高齢者は、ショックからの転帰が芳しくないリスクが増大した状態にある。
【0203】
戦争において、弾丸、および爆発性軍需品からの貫通性フラグメントは、しばしば生命を危うくする出血を引き起こす。Life Science Research Officeは、失血性の出血が、過去の紛争において死亡した、負傷した軍人の最大50%についての死亡のメカニズムであったこと、および潜在的に救出可能な戦場負傷者における死亡の主な原因であると考えられることを推定している。負傷した肢だけからの出血は、すべての戦死のほぼ10分の1を占めており、その一部は、適切な病院到着前のケアが提供されていれば、予防できると考えられた。
【0204】
貧血は、血液に健康な赤血球が欠乏しているとき発生する任意の状態についての一般的な用語である。あるいは、十分な赤血球があるが、これらにヘモグロビンが欠乏している場合がある。貧血は、米国において最も一般的な血液状態であり、約350万人の米国人に影響している。女性および慢性疾患を有する人は、この状態のリスクが増大している。400種類を超える貧血が存在し、これらは3つのカテゴリー、すなわち、1)血液喪失によって生じる貧血、2)赤血球産生の減少または欠陥によって生じる貧血、または3)赤血球の破壊によって生じる貧血に広く分類することができる。
【0205】
原因にかかわらず、何らかの形態の臨床的酸素不足を患っている相当な数の個体が存在し、これは、PEG−Hb製剤を使用することによって回復させることができる。そのような製品の必要性、および市販の機会は、ほとんど無限である。例えば、鎌状赤血球性貧血は、米国において最も一般的な遺伝性血液障害であり、約72,000の米国人に影響している。これは、危機の間特に有痛性および衰弱性である。危機を予防し、組織に酸素供給するために、毎月ベースで1ユニットのPEG−Hbを用いてこれらの患者を治療することを想像することができる。これは、この指摘だけで、864,000ユニットのPEG−Hbを必要とする。
【0206】
毛細血管またはより太い動脈が、血管を遮断または部分的に遮断する血管狭窄部または固体塞栓などによって、閉塞した状態になる場合、酸素についてこうした血管に依存する組織にとって、酸素供給が損なわれた状態になる。組織低酸素症は、多くの場合不十分な血流すなわち、虚血によって、十分な酸素を輸送することができないことから生じる。低酸素症は、内出血(例えば、脳の低酸素症を生じさせる脳出血)、貧血、または外傷から生じる場合がある。虚血は、血管の機能上の狭窄部または実際の閉塞による、組織への酸素供給の欠乏である。例えば、心筋虚血は、冠動脈の閉塞または狭窄部による、心筋への酸素供給の欠乏である。虚血が数秒を超えて持続する場合、虚血に誘発された組織低酸素症に関連する複雑な一連の生化学的事象から、組織損傷が起きる場合がある。
【0207】
塞栓によって生じる低酸素状態または虚血状態は、損傷される組織が、心臓組織、または中枢神経系(CNS)の神経組織である場合、特に衰弱性である組織損傷をもたらす場合がある。塞栓の2つの最も重大な結果は、心筋の虚血から生じる心発作(急性心筋梗塞、すなわちAMI)、および脳組織の虚血から生じる脳卒中である。AMIまたは脳卒中に至らない虚血は、それにもかかわらず、個体において重大な症状、例えば、胸痛(狭心症)、部分的な麻痺、錯乱、失見当識、および/または記憶喪失などを生じさせる場合がある。
【0208】
血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症を有する個体は、特に、AMIまたは脳卒中を招く場合のある塞栓を発生させるリスクにある。虚血性心疾患は、世界的に数百万人に影響しており、AMIによる突然死に至ることが多い。虚血は、外れて、循環系を通じて移動するプラークの一部から生じた固形塞栓が、毛細血管中に留まり、または血管中の別のプラーク堆積物に付着し、こうして血管または毛細血管を完全または部分的に閉塞するとき起こり得る。アテローム性プラーク粒子は、任意のアテローム硬化性血管(例えば、頸動脈、冠血管、大動脈、大腿血管もしくは膝窩血管)を操作し、または妨げる、血管および心臓の手術手順(例えば、カニューレ挿入、クランピング)の間にも生成され得る。
【0209】
したがって、本発明は、組織および臓器から選択されるメンバーに、酸素を送達する必要のある対象の組織および臓器から選択されるメンバーに、酸素を送達する方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、1つまたは複数の組織および/または臓器に酸素の送達を達成するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。例示的な実施形態では、この方法は、低酸素症、虚血、貧血、および鎌状赤血球性貧血などの状態を治療するのに使用される。
【0210】
様々な実施形態では、本発明は、出血性ショックを患っている対象の組織および臓器から選択されるメンバー内の酸素負債を逆転する方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、酸素負債を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0211】
様々な実施形態では、本発明は、血管新生を誘導するのに有効なある量の本発明の組成物を対象に投与することによって、対象の組織内に血管新生を誘導する方法を提供する。例示的な実施形態では、血管新生は、酸素不足を被っている組織において誘導される。さらなる例示的な実施形態では、血管新生が誘導される組織または臓器は、酸素不足を被っている対象の組織または臓器である。例示的な実施形態では、この方法は、酸素不足を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0212】
様々な実施形態では、本発明は、酸素不足を被っている組織への血流を増大させる方法を提供する。この方法は、酸素不足を被っている組織への血流を増大させるのに有効な、ある量の本発明の組成物を対象に投与する工程からなる。例示的な実施形態では、組織または臓器は、血流不足を被っている対象の組織または臓器である。例示的な実施形態では、この方法は、血流不足を逆転するのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0213】
様々な実施形態では、本発明は、酸素不足を被っている組織内の神経損傷および/または梗塞組織を減少させる方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、酸素不足を被っている組織内の神経損傷および/または梗塞を減少させるのに十分な、ある量の本発明の組成物を対象に投与する工程を含む。例示的な実施形態では、この方法は、梗塞およびまたは神経学的に損傷した組織の量を逆戻りさせるのに十分な、ある量の本発明の任意の組成物を対象に投与する工程を含む。
【0214】
本発明の方法によって形成される酸素移動剤を投与することができる対象として、哺乳動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ラット、ウマ、またはヒツジなどが挙げられる。さらに、酸素移動剤を投与することができる対象には、胎仔(出生前の対象)、出生後の対象、または誕生時の対象が含まれる。
【0215】
本発明の組成物は、1つまたは複数の注射方法によって、対象の循環系中に直接および/または間接的に組成物を注射することによって循環系中に投与することができる。直接的な注射方法の例には、血管内注射、例えば、静脈内および動脈内注射など、ならびに心臓内注射などが含まれる。間接的な注射方法の例には、酸素移動剤がリンパ系によって循環系中に輸送されるような腹腔内注射、皮下注射、またはトロカールもしくはカテーテルによる骨髄中への注射が含まれる。酸素移動剤は、静脈内投与されることが好ましい。
【0216】
治療される対象は、本発明の組成物を注入する前、間、および/または後で、正常血液量性であっても、循環血液量過多であっても、循環血液量減少性であってもよい。組成物は、トップローディング(top loading)などの方法、および交換法によって循環系中に誘導することができる。
【0217】
本発明の組成物は、循環系内の一部、または全体にわたるRBCの流れの低減、貧血、およびショックを含めた多くの異なる原因から生じる対象内の低酸素組織を治療するために、治療的に投与することができる。さらに、酸素移動剤は、対象の組織への、または循環系全体にわたるRBCの流れの予想される、または予期される低減から生じ得る、対象内の組織の酸素激減を防止するために、予防的に投与することができる。本発明の組成物は、低酸素症を治療的または予防的に処置するのに役に立つ。
【0218】
例示的な実施形態では、本発明は、治療をもたらすのに十分な、ある量の本発明の製剤を対象に投与することによって、疾病、傷害、または発作の治療をもたらす。ヘモグロビンは、CO形態にある。例示的な実施形態では、このコンジュゲートは、リン酸緩衝食塩水中で製剤化される。
【0219】
様々な実施形態では、本発明のPEG−Hb−CO製剤は、虚血を治療するのに使用される。この製剤によって治療可能な虚血の例示的な種類は、末梢性糖尿病性虚血などの末梢虚血、および虚血の下流効果である。当業者が理解するように、本発明の組成物は、他の形態の虚血を治療するのにも同様に役に立つ。
【0220】
様々な実施形態では、本発明は、治療をもたらすのに十分な、ある量の本発明の製剤を対象に投与することによって、疾病、傷害、または発作の治療をもたらす。ヘモグロビンは、脱酸素化されており、またはCO形態にあってもよく、高張性塩溶液中で製剤化される。これらの製剤中で使用する例示的な塩濃度は、約4%〜約8%、約4.5%〜約7.5%、または約5%〜約7%である。例示的な製剤は、約4%、約5%、約6%、約7%、または約8%の塩を含む。1つの製剤では、塩濃度は7.5%である。様々な実施形態では、塩はNaClである。様々な実施形態では、この製剤は、鎌状赤血球性貧血、脳卒中、心筋梗塞、または外傷性脳障害を治療するのに使用される。
【0221】
例示的な実施形態では、本発明のPEG−Hb−COは、血管新生を増大させ、血管拡張を増大させ、虚血から心臓および腎臓を保護し、ミトコンドリアのKATPチャネルを活性化し、内皮白血球接着および浸潤を減少させ、マクロファージおよびミクログリアの活性化を減少させ、かつ/またはてんかんで誘導される機能不全から脳血管の血管反応性を保護するのに役に立つ。したがって、本発明は、そのような結果を達成するために、本発明の組成物を使用する方法を提供する。
【0222】
一般に、本発明の酸素移動剤の適当な用量、または用量の組合せは、血漿内に含まる時、約0.1〜約10グラムのHb/dlの間、または約1〜約4グラムのHb/dl、もしくはより多い量の血液喪失を補うために必要とされる場合それ以上の、対象の血漿中の総ヘモグロビン濃度をもたらす量である。
【0223】
本発明の組成物は、任意の有用な様式で対象に投与することができる。例えば、一実施形態では、組成物は、所定の時間、所定の速度で持続注入として投与される。例示的な実施形態では、負荷投与量の本発明の組成物が、妥当な場合、短い期間にわたって投与される。この最初の「バースト」の後に、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約18時間、または少なくとも約24時間にわたる、第2の量の製剤の投与が続く。様々な実施形態では、第2の量は、最初の「バースト」の投与量の少なくとも約60%、少なくとも約80%、少なくとも約100%、または少なくとも約120%である。
【0224】
本発明の例示的な組成物は、約3%〜約6%の量でPEG−Hbコンジュゲートを含む。例示的な組成物は、約4%の量でPEG−Hbコンジュゲートを含む。
【0225】
広い意味において、本発明は、低酸素組織の再酸素供給のための薬物の製造における、合成ヘモグロビン−水溶性ポリマーコンジュゲート系酸素移動剤の使用も提供する。低酸素症は、それだけに限らないが、手術、外傷、虚血、貧血、心筋梗塞、脳卒中、ショック、糖尿病、および外傷性脳障害を含めた任意の発作、傷害、または疾患に起因する場合があり、酸素運搬薬物が、酸素欠乏を伴った1つまたは複数の組織を有するか、有する疑いのある個体に全身的に投与される。
【0226】
上記に示された方法のそれぞれにおいて、PEG−Hbは、酸素、一酸化炭素に結合していても、いずれにも結合していなくてもよい。PEG−Hb自体または製剤全体は、対象の血液の張性に関して、低張性、等張性、または高張性であるように製剤化することができる。
【0227】
以下の実施例は、本発明の選択された実施形態を例示するために提供されており、その範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【実施例】
【0228】
(実施例1)
ヘモグロビンの精製
この第1の工程では、血漿を含まない血液細胞を洗浄する。ベンチスケールで、これは、洗浄、遠心分離、およびデカントを繰り返すことによって達成した。このプロセスは、垂直連続フロー遠心分離機(vertical continuous flow centrifuge)より効率的であると思われる。
【0229】
赤血球を、緩衝液(10mMのホスフェートを有する1.2%のNaCl、pH7.8)を用いて4回洗浄する。次いで、2時間の期間にわたって、1.5体積のWFIをゆっくり添加することによって、赤血球を溶解する(ヘモグロビンが、真の細胞溶解を伴うことなく抽出される)。溶解の状態(やはり、ヘモグロビン抽出)は、伝導率を、これが5.50〜7.00μSの範囲になるまで試料採取することによってモニターする。%Hbを、Radiometer OSM3 Hemoximeterを使用して求める。質量オスモル濃度も試験し、これは、130〜150mOsmolの範囲内である。ヘモグロビン抽出が完了した後、内容物を、1μmのセルロース系デプスフィルター、その後に0.45/0.2μmの滅菌したポリスルホン系フィルターに通して加圧濾過して、次工程のためのリザーバとして機能を果たす第2のタンク中に入れる。次いで、ヘモグロビン溶液を、10℃で、300Kdの限外濾過器に通してジャケット付きタンク中にポンプで送る。これは、最初のウイルス除去ステップとして機能を果たし、高分子量タンパク質を除去する。
【0230】
ヘモグロビンを、10KD MWCOシステムを使用して濃縮し、次いでヘモグロビン溶液のHbOが10%未満になるまで、中空糸膜コンタクターに通して再循環することによって脱酸素化する。安定化剤のシステインを、酸素除去段階の最後付近で、5mMの最終濃度まで添加する。安定化剤は、酸素濃度を10%未満に維持する助けとなり、また加熱不活化段階の間にヘモグロビンを保護するように作用する。
【0231】
ヘモグロビン生成の間のウイルス不活化/除去工程の展開
ウシヘモグロビンを、ヒト用製品中で使用可能とする前に、機能的に活性なタンパク質生物製剤を維持しながら、任意の潜在的なウイルス混入物を不活化するための手順が必要である。FDAは、動物の産物に由来するタンパク質のウイルス不活化を要求している。これは、ウイルス不活化が達成されるまで、この場合、4時間、60℃に曝すことによって達成される。次いで溶液を冷却し、0.45/0.2μで濾過して貯蔵タンク中に入れる。これは、精製ヘモグロビンである。生成物に、FPLC(1本のピーク)、可視スペクトル分析(540nmおよび577nmにおけるピーク)、SDSゲル電気泳動、%Hb、%HbO、%MetHb、pH、質量オスモル濃度、エンドトキシン、脂質、および遊離鉄によるQC分析を行う。
【0232】
図1に記載したように、機械的に脱酸素化されたヘモグロビンをウイルス熱失活させ、この熱失活したウシヘモグロビンは、純粋であった。添加した還元剤を含む機械的に脱酸素化されたヘモグロビンの熱不活化プロセスは、以下のチャート(表1)によって立証したように、低レベルのMET−Hbを維持する(10%未満)一方で、その完全性を保持した。60℃に10時間曝しても、%tHbおよび%METHbに関して、脱酸素化(デオキシ)形態(5mMのシステインを添加した)での生成物に影響はまったくなかった。これは、システインを含まない脱酸素化形態でのウシヘモグロビンには当てはまらず、この場合、タンパク質の約40%が失われた。
【表1】

【0233】

ヘモグロビンのペグ化
希釈緩衝液(25mMのリン酸ナトリウム、120mMの炭酸水素ナトリウム、および4.5%のNaCl、pH8.0)を添加して、ヘモグロビン溶液を4〜5%の濃度にする。ヘモグロビンを、17:1のPEGとヘモグロビンのモル比を使用してペグ化する。反応は、pH7.6〜7.8に維持し、反応を1時間進行させる。この時点で、2つのプロセスのうちの1つを使用することができる。
【0234】
プロセスA
15mMのシステインを添加することによって反応を停止する。その溶液を4℃で一晩貯蔵した後、50Kdのカットオフ膜を使用して、20体積の緩衝液(5.0mMの炭酸水素ナトリウム、1.0mMのリン酸ナトリウム、150mMの塩化ナトリウム、4.7mMの塩化カリウム、2.5mMの硫酸マグネシウム、0.5mMの塩化カルシウム、pH8.1)に対して溶液を透析する。次いでPEG−Hbを4%のHbまで希釈し、デキストロース(5mg/mL)およびシステイン(5mM)を添加し、%HbOが10%未満になるまで、中空糸膜コンタクター中を循環させる。次いで、溶液を無菌濾過して血液バッグ中に入れる。生成物に、FPLC(1本のピーク)、可視スペクトル分析(540nmおよび577nmにおけるピーク)、SDSゲル電気泳動、%Hb、%HbO、%MetHb、pH、質量オスモル濃度、エンドトキシン、脂質、および遊離鉄によるQC分析を行う。
【0235】
プロセスB
15mMのシステインを添加することによって反応を停止する。4℃で一晩貯蔵した後、50Kdのカットオフ膜を使用して、20体積の緩衝液(5.0mMの炭酸水素ナトリウム、1.0mMのリン酸ナトリウム、150mMの塩化ナトリウム、4.7mMの塩化カリウム、2.5mMの硫酸マグネシウム、0.5mMの塩化カルシウム、pH8.1)に対して溶液を透析する。次いでPEG−Hbを4%のHbまで希釈し、デキストロース(5mg/mL)およびL−システイン(5mM)を添加し、溶液を置いて、%酸素が「0」未満になり、一酸化炭素(CO)が95%以上になるまで絶えず混合して、溶液に一酸化炭素をゆっくりバブリングすることによって、一酸化炭素形態にする。次いで、溶液を無菌濾過して血液バッグ中に入れる。生成物に、FPLC(1本のピーク)、可視スペクトル分析(540nmおよび577nmにおけるピーク)、SDSゲル電気泳動、%Hb、%HbO、%MetHb、pH、質量オスモル濃度、エンドトキシン、脂質、および遊離鉄によるQC分析を行う。
【0236】
さらに、熱失活したヘモグロビンをペグ化した。得られたPEG−Hbは、純粋で活性であった。
【化1】

【0237】

120日の期間にわたって、37Cで貯蔵した試料中の%総Hb、%MET−Hb、%HbCO、および%HbO2に変化はまったくなかった(図1)。
【0238】
PEG−Hbの一酸化炭素形態の開発
これらの試験の目的は、PEG−ヘモグロビンの一酸化炭素(CO)形態を開発することであった。この形態は、図1に示したように、%MET−Hb形成を低く維持することに関して特に安定であるように思われる。これは、機械的に脱酸素化された形態より安定である。
【0239】
さらに、CO形態のPEG−Hbを4℃で貯蔵したところ、8週間の貯蔵の後、1.0%がMET−Hbに変換されただけであった。この同じロットのCO形態のPEG−Hbは、4℃で12週間後に、1.3%のMET−Hbを有する。さらに、18℃で6週間貯蔵されたCO形態のPEG−Hbは、7.9%のMET−Hbを含むことが判明した。これは、18℃で10週間の最後で、16.7%のMET−Hbに上昇する。
【0240】
酸素負債を逆転する、PEG−Hb/HSの効力
] 組織への酸素供給における本発明者らのPEG−Hb/HSの活性を試験するための予備試験において、重度の外傷性ショックのブタモデルにおける、組織への酸素送達を増大させ、酸素負債を逆転するその能力を試験した。
【0241】
酸素負債は、好気性代謝を維持するのに要求されるレベル未満である全身酸素消費量の尺度である。これは、生存時間、および外傷で誘導された、出血性ショック後の臓器不全の合併症と相関し、これらを予測することが実証された1つの生理学的変数である。このモデルにおいて、動物同士間のばらつきを低減し、したがって効果が、血液喪失または内因性ヘモグロビンの量に依存しないように、所定の酸素負債まで動物に出血させる。このモデルは、酸素消費量(VO2)、二酸化炭素生成(VCO2)、混合された静脈ヘモグロビン酸素飽和度(SvO2)、動脈ヘモグロビン酸素飽和度(SaO2)、酸素抽出比(OER)、酸素負債、心拍数、血圧、脳組織のヘモグロビン酸素飽和度(StO2脳)、肩骨格筋組織のヘモグロビン酸素飽和度(StO2肩)、心拍出量(CO)の連続的な測定、ならびに骨格筋、肝臓、腸粘膜、口腔粘膜、および腎臓中のPOの測定を可能にする。
【0242】
このモデルにおいて、妥当な組織傷害との闘いを作るために、出血に両後肢の骨格筋傷害および大腿骨骨折を伴わせる。このタイプの組織傷害は、組織酸素送達に独立して影響し、出血単独と比較して、内臓血流のより大きな低下をもたらすことが実証されている。骨格筋を傷害させ、キャプティブボルトを使用して大腿骨を傷害させた後、80mL/kgの所定の酸素負債まで動物に出血させる。均一な酸素負債までの出血は、すべての動物で、その最終的な前処理傷害におけるばらつきが限定されることを保証し、圧力で促進される出血と対照的に、除かれる体積のばらつきを大いに低減する。これらの動物において、酸素負債を、連続的かつ累積的にモニターする。酸素負債は、骨格筋傷害に先立って測ったベースライン値未満のVO2の偏差に基づき、10秒毎に測定する。
【0243】
傷害の後、動物中の酸素負債は、出血の間上昇する。傷害された動物において目標とする酸素負債の100%(80mL/kg)に到達すると同時に、15分の時間にわたって、PEG−Hb(4%のPEG−Hb濃度および5〜7.5%の高張性食塩液)500ccを動物に注入する(蘇生期間)。PEG−Hbを投与した後、酸素負債は迅速に逆転する(4匹の傷害された動物の平均した結果)。蘇生期間の間、組織酸素供給の増大が酸素負債の変化に並行した。次いでこの増大は、3時間の期間にわたって安定化する。
【0244】
PEG−Hbと対照的に、外傷患者の標準的な治療である、ヘタスターチ(Hespan)500mLを用いた2匹の動物の処置により、酸素負債の逆転は生じず、代用血液としてBiopureによって開発されているHBOC製品である、オキシグロビンも酸素負債の逆転を生じさせなかった。これらの知見は重要であり、その理由は、第1に、これらは、外傷のために現在使用されている治療は、組織への酸素供給において効果的でなく、したがって、出血性ショックを受けている患者において効果が限定される可能性があることを示すためである。第2に、これらは、ヒトにおいて広範に試験され、臨床試験で失敗した製品の1つであるオキシグロビンは、組織に酸素供給することができないことを示す。本発明の組成物が酸素負債を逆転したという事実は、本発明の組成物とBiopureのものは非常に異なり、外傷の治療におけるPEG−Hb/HSの可能性は、他のHBOCの失敗に基づいて判断されるべきでないことを明らかに示す。
【0245】
さらに、濃厚赤血球(packed red blood cell)500ccで処置された2匹の傷害された動物は、酸素負債を低減し、これは予期されたことである。しかし、逆転の規模は、PEG−Hbによって誘導されたものほど大きくないように思われた。重要なことに、濃厚赤血球の処置により、PEG−Hbと同じ効果を生じたとしても、HBOCの目的は、輸血と同様に有効であることであるので、これらの結果は、代用血液としてのPEG−Hbの使用を支持する。
【0246】
酸素負債および組織への酸素送達の変化について試験することに加えて、本発明者らは、出血後の組織の再灌流の尺度として、出血させた動物における舌下の微小循環も測定した。機能的な毛細血管密度も、組織の灌流の尺度として、観察した範囲にわたるすべての血管の全長として定性的に測定した。分かることは、出血の間、毛細血管密度は、劇的に減少することである。対照的に、PEG−Hb処置は、試験の最後付近で、ベースラインの正常なレベル付近に戻す。これは、最終ヘモグロビン濃度が12.3g/dlのベースラインから7.1g/dlに低下するにもかかわらず起こる。述べたように、PEG−Hbの注入により、ヘタスターチまたは濃厚赤血球よりも大きい程度に機能性毛細血管密度が増強された。
【0247】
(実施例2)
原理:大腿動脈結紮によって誘導された後肢虚血のマウスモデルにおいて、糖尿病を有するマウスは、非糖尿病動物と比較して、血流および血管新生応答の回復が著しく損なわれることを示す。この試験において、本発明者らは、Sanguinateの投与は、血流および血管新生の回復を促進するという仮説を試験した。
【0248】
方法および結果:生後6週間のC57BL/6マウスを、ストレプトゾトシン(stz)を用いて糖尿病にさせ、生後12週間で、FA結紮を施し、その後4週間毎日、Sanguinate(20ml/kg/日)を腹腔内(i.p.)注射によって投与した。ビヒクル処置される糖尿病マウスに、等体積の1×PBSを用いて毎日i.p.注射を投与する。Sanguinateで処置された糖尿病マウスは、ビヒクル処置群と比較して、FA結紮後28日目のレーザードップラー分析によって、著しく改善された血流比を示した(虚血/シャム(sham))(63.36±5.83対44.39±4.13 BFR(%)、n≧9、p=0.019)。筋肉組織上のCD31に染色する免疫組織化学により、ビヒクル処置群と比較して、FA結紮後28日目で、Sanguinate(商標)で処置した糖尿病マウスにおいて、微小血管密度の著しい増大が実証された(663.86±57.78対461.44±36.19 毛細血管/mm、p<0.0001)。総合すると、これらのデータは、マウスモデルの糖尿病性肢虚血におけるSanguinateの著しい治療効果を明らかにし、長期にわたる糖尿病における相補的な血管救済療法として、この薬剤を使用するための基礎を提供することができる。
【0249】
プロトコール:C57BL/6マウスを、ストレプトゾトシン(複数の低用量注射)を用いて1型糖尿病にした。糖尿病を誘導して1カ月後に、マウスに片側の後肢虚血を施した。血流および血管新生をこの試験においてモニターした。
【0250】
手順:皮膚切開をマウスの大腿上方に行った。左脚に外科手術を施し、右脚に、大腿動脈結紮を実施しなかったことを除いて同一の手順を行った。鼠径靭帯および大腿動脈の上半分を露出した。血管の束を、近位で鼠径靭帯の下で、遠位で浅大腿動脈および深大腿動脈への分岐部の真上で、2本の滅菌した8/0非吸収性絹縫合糸を用いて結紮した。大腿血管の隔たったセグメントに接続されるすべての動脈および静脈のブランチを、8/0非吸収性縫合糸を用いて結紮した。最後に、静脈および動脈を、近位および遠位の結紮の間で切断した。皮膚切開を、滅菌した5/0ナイロン縫合糸を用いて閉じた。
【0251】
マウスの#および群:本発明者らの予備試験に基づいて、本発明者らは、1群当たり15匹を超えるマウスで開始することによって、試験の最後で十分なマウスを有し、分析のための十分な組織を有することを確実にした。
【0252】
追加のビヒクル処置マウスを実施するために、実験を交互にした。
【0253】
群#1 − 糖尿病のWTマウス+大腿動脈結紮直後に開始する20mL/kg/日のSanguinate(IP)
群#2 − 糖尿病のWTマウス+PBS(20mL/kg/日 IP)
エンドポイント
レーザードップラー血流イメージング(28日目)。左(傷害された)および右脚(シャム)において血流を検査し、次いで左/右の比として報告することに注意されたい。糖尿病/Sanguinateおよび糖尿病/PBSの値の平均値を報告する。
【0254】
− CD31への染色を使用する血管新生の定量的評価、および定量的画像法プログラム(28日目)(左脚)
データ
エンドポイント#1:血管新生の定量的評価
28日目に、マウスを屠殺し、大腿動脈結紮の分布区域における後肢骨格筋を回収し、抗cD31 IgGを使用して免疫組織化学にかけた。連続画像を回収し、画像解析を実施することによって、血管新生に対するSanguinateの効果を判定した。
【表2】

【0255】
エンドポイント#2:血流回復
結紮した大腿動脈の肢/対側の(シャム)肢を比較する%血流回復を、レーザードップラーイメージングを使用して評価した。これらの試験において、基礎の血管機能不全を考慮するよう、傷害された脚とその対側のシャムの脚との間の比を報告する。データは以下の通りである。
【表3】

【0256】
結論
大腿動脈結紮によって誘導された後肢の虚血を受けている糖尿病マウスにSanguinateを投与することにより、ビヒクルを使用した知見と比較した場合、血管新生の定量化において著しい改善がもたらされる。大腿動脈結紮によって誘導された後肢の虚血を受けている糖尿病マウスにSanguinateを投与することにより、ビヒクル(PBS)処置と比較した場合、レーザードップラーイメージングによって測定した場合の血流回復が著しく改善される。
【0257】
(実施例3)
ペグ化CO−ヘモグロビン(PEG-COHb)の輸液の効果を、2時間の局所的な脳虚血および1日の再灌流にかけた、麻酔したラットにおいて評価した。PEG−Hbを、カルボキシ状態(PEG-COHb)で貯蔵することによって、CO源を提供し、自動酸化を低減し、有効期間を延ばした。虚血から20分における10ml/kgのPEG−COHbの輸液により、動脈圧は変化せず、虚血性コア内の赤血球フラックスは増大しなかった。血漿ヘモグロビンは、0.6g/dLまでしか増加しなかったが、梗塞体積は著しく減少し、神経障害は改善した。PEG−COHbの初期のトップロード(topload)輸液は、脳を虚血性脳卒中から保護する。
【0258】
外科的準備
すべての手順は、Johns Hopkins University Animal Care and Use Committeeによって認可された。5%のイソフルランを用いてオスのウィスターラット(250〜350g)に麻酔を誘導し、鼻円錐部を介して約2%のイソフルランを用いて維持し、手術の間自発呼吸であった。イソフルラン濃度は、手術後に、約1.5%に減少させた。吸気されるOは、約25〜30%であった。カテーテルを、輸液のために大腿静脈中に、および動脈圧を測定し、動脈血を試料採取するために大腿動脈中に挿入した。加熱灯を使用することによって、虚血および初期再灌流の間、直腸温度を維持した。頭皮に小さい切開を行い、外側の頭頂骨中に、ほんの希薄な量の骨が残るまで、小さい穿頭孔を作った。直径1mmの光ファイバープローブを、薄くなった骨に対して固定した。このプローブを、近赤外光を送受信し、赤血球フラックスの相対的な変化を計算するレーザー−ドップラー流量計に接続した。レーザー−ドップラーフラックスシグナルを使用することによって、虚血期間の間の血管閉塞の妥当性を評価した。
【0259】
中大脳動脈中への血流を閉塞させるための腔内フィラメント技法によって、一過性の局所的な脳虚血を誘導した。右総頸動脈を側方切開によって露出し、閉塞させた。右外頸動脈を解剖および結紮し、外頸動脈の後頭動脈ブランチを隔離し、凝固させた。右内頸動脈の近位翼突口蓋動脈ブランチを結紮し、4−0モノフィラメントナイロン縫合糸(先端部を丸めた)を、内頸動脈中に約2cm進めた。フィラメント位置を調整することによって、レーザー−ドップラーフラックスシグナルの少なくとも60%の低減を生じさせた。閉塞から2時間後に、腔内の縫合糸を引き抜くことによって再灌流を開始した。再灌流から最初の30分間モニターした後、カテーテルを取り出し、切開部を縫合糸で閉じ、麻酔を中止した。
【0260】
実験設計
PEG−アルブミンおよびPEG−COHbは、Prolong Pharmaceuticals(South Plainfield, New Jersey)で合成した。精製ウシHb上の表面リシン残基を、分子量5000のPEGとコンジュゲートした。PEG−Hb溶液をCOでバブリングすることによって、PEG−Hbの80%超をPEG−COHbに変換した後、貯蔵した。4〜6%のタンパク質を含有する溶液を、滅菌した血液バッグ中に、2〜10℃で貯蔵した。10匹のラットの3つの群を試験した:1)輸液なし、2)ウシPEG−アルブミン輸液、および3)ウシPEG−COHbの輸液。実験日に、溶液のアリコートを加温し、体重1kg当たり10mlに等価なトップロードとして輸液した。輸液は、MCAO20分において開始した。静脈内輸液の速度は0.5ml/分であり、約5〜7分かけて行った。平均動脈圧およびレーザー−ドップラー流量の変化率を、2時間のMCAOおよび30分の再灌流の間、15分間隔で記録した。麻酔から回復する動物が暖かい環境にあるように、1時間の再灌流を通じて直腸温度をモニターした。動脈血(約0.7ml)を、ベースライン、MCAO1時間、および再灌流30分で試料採取した。動脈血のpH、PCO、PO、および電解質を、Radiometer血液ガス分析装置(ABL80)で測定した。動脈のHb濃度、O飽和度、MetHb、およびCOHbを、Radiometer Hemoximeter(OSM3)で測定した。試料からの血漿を、Hb濃度について分析した。再灌流1時間および24時間で、0〜4のスケール(0=欠損なし、1=置かれている間前肢を伸ばすことができない、2=旋回、3=片側性の脱力感、および4=自発的な運動活性なし)で、神経障害についてラットを評価した。24時間で、脳を回収して梗塞体積を測定した。脳を、7つの冠状切片(2mmの厚さ)に分割した。切片を、塩化トリフェニルテトラゾリウムの1%溶液を用いて染色した。これは、生存可能な領域を赤色に染色する。大脳皮質および線条体の弱い、生育不能な範囲は、各切片の前方および後方の表面上で測定した。各切片の梗塞体積は、切片の厚さと前方および後方の表面上の梗塞面積の平均との積から計算した。皮質および線条体についての総梗塞体積は、各切片からの体積を合計することによって得た。値は、全体の構造の百分率として表す。測定値は、0.05レベルの有意性で、ANOVAおよびNewman−Keuls多重範囲検定によって、3つの群の中で比較した。データを、平均±SEとして提示する。
【0261】
結果
動脈のpH、PCO、およびPOは、ラットのすべての群において、MCAOおよび初期再灌流の間、安定で、生理学的範囲内のままであった(表1)。MCAO20分で輸液された群の中で有意な差異はまったくなかった。電解質濃度は、輸液後に群の間で同様のままであった(表2)。トップロードタンパク質輸液で予期されるように、ヘマトクリットのわずかな減少が起こった(表3)。
【表4】

【表5】

【表6】

【0262】

しかし、PEG−アルブミンを輸液した群と比較して、PEG−COHbを輸液した群において、ヘマトクリットまたは全血Hb濃度において有意な差異はまったくなかった。全血中のMetHbおよびCOHbの百分率は、PEG−COHbを輸液した後わずかに上昇した(表3)。MCAO60分(PEG−COHbの輸液を完了して約35分後)における血漿Hbの分析は、0.6±0.1g/dL(±SE)の濃度を示し、このレベルは、再灌流30分で比較的変化しないままであった。血漿Hb中のCOHbの百分率は、MCAO60分で11±4%であり、再灌流30分で6±1%であった。平均動脈圧についての値を図3Aに示す。PEG−COHb群においてMCAOが延長される間、圧力がわずかに増大する傾向があったが、値は、任意の時点で、群の間で有意に異なっていなかった。レーザー−ドップラー流量を、虚血が最も高密度である外側皮質にわたってモニターした。値を図3Bに示す。すべての群において、流量は、最初にベースラインの約25%まで減少し、ベースラインの約30%まで経時的にわずかに増加した。再灌流とともに、流量は、すべての群においてベースラインの約80%まで回復した。任意の時点で、群の間に有意な差異はまったくなかった。直腸温度は、虚血の間、およびラットが麻酔から覚醒した後の再灌流1時間において、36.5〜37.0℃の範囲に維持された。さらに、ラットは、24時間で発熱を示さなかった。麻酔から覚醒した後、神経障害スコアは、群の間で同様であった(図4)。しかし、24時間で再試験すると、神経障害スコアは、PEG−COHb群において選択的に改善した。各冠レベルでの梗塞体積および総梗塞体積についての値を図5に示す。梗塞体積は、輸液なしの群およびPEG−アルブミンで輸液された群において同様であった。梗塞体積は、輸液されていない群またはPEG−アルブミン群と比較して、PEGCOHbで輸液された群において著しく低減した。PEG−COHb群において、梗塞体積は、PEG−アルブミン群と比べて、皮質において82%、および線条体において56%低減した(図6)。梗塞体積の低減は、5枚の最も前のスライスのそれぞれにおいて存在し、それによって、組織救済が、中大脳動脈分布範囲全体にわたって広範であったことを示す。
【0263】
考察
一過性の局所的脳虚血の間のPEG−COHbトップロード輸液による組織救済の程度は、ラットにおいてαα−架橋Hb、またはマウスにおいてポリマーHbを用いて、循環血液量過多交換輸血で報告されたものより実質的に大きい。この知見は注目すべきであり、その理由は、10ml/kgのトップロードで達した血漿Hb濃度は、0.6g/dLであったためであり、これは、6g/dLのHbを含有する流体の30〜40%の交換輸血で一般に達する2〜2.5g/dLより相当に低い。さらに、輸血流体中のHbの濃度を増大させることにより、αα−架橋Hbの血漿濃度を10g/dLから20g/dLにさらに増大させることにより、梗塞体積がさらに低減する。これらの比較は、PEG−COHbは、脳卒中から脳を救済することにおいて、αα−架橋HbおよびポリマーHbと比較して、ヘム1モル当たりで優れている場合があることを示唆する。この結果は、脳を救済するのに、高い血漿濃度のペグ化COHbを必要としないことを示す。交換輸血の理論的な利点は、全血粘度を、ヘマトクリットを減少させることによって低減し、側副血流を促進することができることである。交換輸血に対するトップロードの利点は、このプロトコールは、臨床的な脳卒中において実施することがより容易であり、10ml/kgの体積が、顕著な循環血液量過多誘導性高血圧症を生じさせることなく、容易に許容されることである。有意な高血圧症は、本試験において観察されなかった。PEG−COHbによる救済は、1つの部位でのレーザー−ドップラー流量測定によって評価した場合、皮質の虚血コア内の血流の増大に関係しているように思われなかった。しかし、側副血流が、組織を救済するのに十分に、虚血境界領域において改善されたことがありうる。ペグ化Hb溶液の粘度は、架橋HbおよびポリマーHbの溶液と比較して全血の粘度により近く、したがって、内皮の剪断応力および関連するNO生成をより良好に維持することができ、これは、側副動脈の拡張を維持することに役立つことができる。
【0264】
PEG−アルブミンおよびPEG−COHbの10ml/kgのトップロード輸液により、ヘマトクリットの約8〜10%の減少が生じた。ヘマトクリットのこの比較的小さい減少は、血液粘度に対してほんの小さな効果を有し、血液粘度を低減することによって脳傷害を低減するのに十分に灌流を改善する見込みはない。本試験およびより大きい血液希釈を用いた以前の試験において、PEG−アルブミンを輸液された群と、輸液なしの群との間の梗塞体積に差異がないことは、この前提を支持する。さらに、PEG−COHbをトップロードした後に、血漿[Hb]を0.6g/dLに増加させることは、ヘマトクリットの減少を相殺するのに不十分であった。したがって、全血[Hb]および動脈のO含量は、PEG−COHbの輸液によって増加しなかった。しかし、動脈のO含量または血流の増加がなくても、血漿中のO運搬体は、いくつかの理由で、虚血組織へのO送達を増強することができる。第1に、血漿中の酸素溶解度は低く、組織内の赤血球とミトコンドリアの間のO拡散の耐性の主要な部位を示す。血漿中の大量のOを運搬することによって、赤血球膜から内皮へのO輸送が促進される。この点において、溶液が、14MDa超の分子量のポリマーを主に含有する場合、MCAOの間のHbポリマーの輸液の効力は失われる。分子量5000のPEGの約8〜10本の側鎖を有する現在のウシPEG−Hbは、血漿中のO輸送を促進するための高い移動度を有するのに十分小さいが、血管外遊走を制限するのに十分大きいという良好なバランスを示すように思われる。第2に、個々の微小血管を通る赤血球のフラックスは不均質であり、この不均質性は、不完全な虚血の間の低い灌流圧力の条件下で増幅される。赤血球欠乏性である毛細血管中の血漿の流れを通じてOを送達することによって、O送達は、毛細血管の間でより均質になることができる。第3に、赤血球は微粒子であり、その表面積は、任意の一瞬に、毛細血管内皮の全表面積に及ばない。血漿中のO運搬体は、O拡散のための有効表面積を増大させる。したがって、無細胞Hbのトップロード注入は、バルクの動脈のO含量および巨視的な血流から独立したO送達のいくつかの機構を引き出すことができる。
【0265】
本願で引用したすべての刊行物および特許文献は、各個々の刊行物または特許文献がそのように個々に表されているのと同じ程度に、すべての目的について、その全体が参照により組み込まれる。本文書における様々な参考文献のその引用によって、出願人らは、いずれの特定の参考文献も、本出願人らの発明に対する「先行技術」であると認めない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含む組成物であって、
a.機能的な、天然ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分であって、前記ヘモグロビン分子の群のヘモグロビン分子の群は、
i.脱酸素化された状態にあり、
ii.化学架橋剤を含まず、かつ
iii.約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する
水溶性ヘモグロビン画分と、
b.前記ヘモグロビン分子の群を、前記脱酸素化された状態に維持する水溶性安定剤画分であって、前記脱酸素化されたヘモグロビン分子よりも酸素と反応性である構造要素を含む安定化剤を含む水溶性安定剤画分と、
c.前記ヘモグロビン画分および前記安定剤画分が可溶性である薬学的に許容される希釈剤を含む水性希釈剤画分と
を含み、ウイルス活性が本質的になく、10%未満のメトヘモグロビンを含む組成物。
【請求項2】
脱酸素化されたヘモグロビン分子のFe(II)が、酸素にも一酸化炭素にも結合してない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脱酸素化されたヘモグロビン分子のFe(II)が一酸化炭素に結合している、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記脱酸素化されたヘモグロビン分子が、前記脱酸素化されたヘモグロビンが接触している組織に、前記結合した一酸化炭素を移動させることができる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記安定化剤がアミノ酸などのアミンを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸がシステインである、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記希釈剤画分が塩を含む、前記請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記塩が塩化ナトリウムである、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記塩が、前記組成物を、等張性および高張性から選択されるメンバーにするのに十分な量で存在する、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記ヘモグロビン画分が、非架橋ウシヘモグロビンから本質的になる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
5%未満のメトヘモグロビンを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記ヘモグロビン分子の前記群の各メンバーが、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子に共有結合的にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)分子が、前記ヘモグロビン分子のアミノ酸残基のアミン部分を通じて共有結合的にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記アミノ酸残基がリシン残基であり、前記少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)分子が、アミドおよびウレタンから選択されるメンバーである結合を通じて、前記リシン残基のε−アミン部分に共有結合的にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記水溶性ヘモグロビン画分が10%未満のメトヘモグロビンを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物がウイルス不活化されている、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
機能的な天然ヘモグロビン分子と、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子との間の共有結合性コンジュゲートを含む組成物であって、
a.ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分であって、前記ヘモグロビン分子の群の各メンバーが、
i.脱酸素化されており、
ii.アミノ酸残基のアミン部分を通じて、前記ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子に共有結合的にコンジュゲートされており、
iii.化学架橋剤を含まず、かつ
iv.約9mmHg〜約12mmHgのP50を有する
水溶性ヘモグロビン画分と、
b.前記ヘモグロビン分子の群を酸化耐性にする水溶性安定剤画分であって、前記ヘモグロビン分子の群よりも酸素と反応性である構造要素を含む安定化剤を含む水溶性安定剤画分と、
c.前記ヘモグロビン画分が可溶性である薬学的に許容される希釈剤を含む希釈剤画分と
を含み、ウイルス活性が本質的になく、約10%未満のメトヘモグロビンを含む組成物。
【請求項18】
前記ヘモグロビン分子の群の各メンバーが、5つ以上の前記アミノ酸残基の前記アミン部分を通じて、5つ以上の前記ポリ(エチレングリコール)部分に共有結合的にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
前記アミノ酸残基の前記アミン部分が、リシン残基のε−アミン部分である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
前記ヘモグロビン分子が、酸素および一酸化炭素から選択されるメンバーに結合している、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
前記ヘモグロビン分子が、前記結合した酸素および前記結合した一酸化炭素から選択されるメンバーを、前記ヘモグロビンが接触している組織に移動させることができる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
水溶性の、機能的な天然ヘモグロビンを含むヘモグロビン組成物であって、
a.脱酸素化されたヘモグロビンおよび安定化剤の溶液を、前記溶液中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇された温度に、前記溶液中の本質的にすべてのウイルス活性の前記不活化を達成するのに十分な時間、前記溶液を曝すことを含む熱ウイルス不活化プロセスにかける工程であって、
前記安定化剤は、前記溶液中の前記脱酸素化されたヘモグロビンよりも酸素と反応性である構造要素を含み、それによって、前記脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にし、
前記溶液は、前記熱ウイルス失活プロセスにおいて、約10%超のメトヘモグロビンの形成を防止するのに十分な、ある量の前記安定化剤を含む工程
を含む方法によって調製される組成物。
【請求項23】
(b)工程(a)に先立って、酸素化されたヘモグロビンの溶液を脱酸素化する工程であって、それによって前記脱酸素化されたヘモグロビンの前記溶液を形成する工程をさらに含む前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項24】
(c)工程(a)に先立って、前記安定化剤を含む前記脱酸素化されたヘモグロビンの前記溶液を形成する工程をさらに含む前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項25】
前記安定化剤が、約5%超のメトヘモグロビンの形成を防止するのに十分な量で、工程(a)において存在する前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項26】
前記温度が約60℃である前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項27】
前記時間が約10時間である前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項28】
前記脱酸素化工程が、酸素にも一酸化炭素にも結合していない脱酸素化されたヘモグロビン分子を生成する、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項29】
前記脱酸素化工程が、一酸化炭素に結合した脱酸素化されたヘモグロビン分子を生成する、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項30】
d.工程(a)の前記ウイルス不活化されたヘモグロビン溶液を、前記ヘモグロビンのアミノ酸残基と相補的な反応性の活性化ポリ(エチレングリコール)分子と接触させる工程であって、それによって、前記溶液中で、ポリ(エチレングリコール)とヘモグロビン分子との間で共有結合性コンジュゲートを形成する工程をさらに含む前記方法によって調製される、前記請求項のいずれかに記載のヘモグロビン組成物。
【請求項31】
前記ヘモグロビン分子が、酸素および一酸化炭素から選択されるメンバーに結合している、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項32】
前記ヘモグロビン分子が、前記結合した酸素および前記結合した一酸化炭素から選択されるメンバーを組織に移動させることができる、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
水溶性の、機能的な天然ヘモグロビンを含むヘモグロビン組成物であって、10%未満のメトヘモグロビンを含み、
a.前駆体ヘモグロビン溶液を約60℃に約10時間加熱する工程であって、前記前駆体溶液は、前記溶液中の前記ヘモグロビン分子よりも酸素と反応性である構造を含む安定化剤を含み、それによって前記脱酸素化されたヘモグロビンによる酸素結合を最小限にし、それによって前記組成物を形成する工程
を含む方法によって調製されるヘモグロビン組成物。
【請求項34】
前記安定化剤がアミノ酸である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項35】
前記安定化剤がシステインである、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項36】
前記方法が、
b.工程(a)の前記ウイルス不活化されたヘモグロビン溶液を、前記ヘモグロビンのアミノ酸残基と相補的な反応性の活性化ポリ(エチレングリコール)分子と接触させる工程であって、それによって、前記溶液中で、ポリ(エチレングリコール)とヘモグロビン分子との間で共有結合性コンジュゲートを形成する工程
をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項37】
水溶性画分を含み、前記画分が機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビンを含み、前記画分が10%未満のメトヘモグロビンを含む、約60℃の組成物。
【請求項38】
水溶性の、機能的な天然ヘモグロビンを含むウイルス不活化された組成物を調製するための方法であって、前記組成物は、
a.機能的な、天然ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分であって、前記ヘモグロビン分子の群の各メンバーが、
i.脱酸素化された状態にあり、
ii.化学架橋剤を含まず、かつ
iii.約22mmHg〜約26mmHgのP50を有する
水溶性ヘモグロビン画分と、
b.前記ヘモグロビン分子の群を前記脱酸素化された状態に維持する水溶性安定剤画分であって、前記脱酸素化されたヘモグロビン分子よりも酸素と反応性である構造要素を含む安定化剤を含む水溶性安定剤画分と、
c.前記ヘモグロビン画分が可溶性である薬学的に許容される希釈剤を含む希釈剤画分と
を含み、ウイルス活性が本質的になく、10%未満のメトヘモグロビンを含む組成物であり、
前記方法は、
i.脱酸素化されたヘモグロビンおよび前記安定化剤の溶液を、前記混合物中の本質的にすべてのウイルス活性を不活化するのに十分に上昇された温度に、前記混合物中の本質的にすべてのウイルス活性の前記不活化を達成するのに十分な時間、前記溶液を曝すことを含む熱ウイルス不活化プロセスにかける工程を含む
方法。
【請求項39】
工程(a)の前記ウイルス不活化されたヘモグロビン溶液を、前記ヘモグロビンのアミノ酸残基と相補的な反応性の活性化ポリ(エチレングリコール)分子と接触させる工程であって、それによって、前記溶液中で、ポリ(エチレングリコール)とヘモグロビン分子との間で共有結合性コンジュゲートを形成する工程
をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビン分子と、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子との間の共有結合性コンジュゲートを含む組成物であって、
a.ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分であって、前記ヘモグロビン分子の群の各メンバーは、
i.脱酸素化され、COに結合しており、
ii.アミノ酸残基のアミン部分を通じて、前記ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子に共有結合的にコンジュゲートしており、
iii.化学架橋剤を含まず、かつ
iv.約9mmHg〜約12mmHgのP50を有する
水溶性ヘモグロビン画分と、
b.前記ヘモグロビン分子の群を酸化耐性にする水溶性安定剤画分であって、前記ヘモグロビン分子の群よりも酸素と反応性である構造要素を含む安定化剤を含む水溶性安定剤画分と、
c.前記ヘモグロビン画分が可溶性であるリン酸緩衝食塩水希釈剤を含む希釈剤画分と
を含み、ウイルス活性が本質的になく、約10%未満のメトヘモグロビンを含む組成物。
【請求項41】
機能的な、脱酸素化された天然ヘモグロビン分子と、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子との間の共有結合性コンジュゲートを含む組成物であって、
a.ヘモグロビン分子の群を含む水溶性ヘモグロビン画分であって、前記ヘモグロビン分子の群の各メンバーは
i.脱酸素化され、COに結合しておらず、
ii.アミノ酸残基のアミン部分を通じて、前記ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つの分子に共有結合的にコンジュゲートしており、
iii.化学架橋剤を含まず、かつ
iv.約9mmHg〜約12mmHgのP50を有する
水溶性ヘモグロビン画分と、
b.前記ヘモグロビン分子の群を酸化耐性にする水溶性安定剤画分であって、前記ヘモグロビン分子の群よりも酸素と反応性である構造要素を含む安定化剤を含む水溶性安定剤画分と、
c.前記ヘモグロビン画分が可溶性である高張性食塩水希釈剤を含む希釈剤画分と
を含み、ウイルス活性が本質的になく、約10%未満のメトヘモグロビンを含む組成物。
【請求項42】
前記高張性食塩水希釈剤が、約3%〜約7%の濃度でNaClを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−529531(P2012−529531A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515116(P2012−515116)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/038046
【国際公開番号】WO2010/144629
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511280102)プロロング ファーマシューティカルズ,エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】