ヘモグロビンA1c測定装置
【課題】ヘモグロビン(以下Hb)に糖化ペプチドが結合したヘモグロビンA1c(以下HbA1c)の測定において、共存するHbが可視波長の光を吸収し、なおかつ高い酸化還元電位を有するために吸光度法および電気的な信号(電圧や電流など)を計測する測定法を行う上で測定の妨害となり、感度が低下する問題を解決すること。
【解決手段】HbA1cから糖化ペプチドを切り出した後、残存するHbを高分子電解質を含む沈殿剤により沈殿し、沈殿物を除去することで、Hbを含まない糖化ペプチド溶液を得る工程を含むことを特徴とするHbA1c測定装置を提供する。
【解決手段】HbA1cから糖化ペプチドを切り出した後、残存するHbを高分子電解質を含む沈殿剤により沈殿し、沈殿物を除去することで、Hbを含まない糖化ペプチド溶液を得る工程を含むことを特徴とするHbA1c測定装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビンA1cを高感度で測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病診断の検査項目として血液中のヘモグロビンA1c(以下HbA1c)の測定が重要視されている。HbA1cはヘモグロビン(Hb)に糖鎖が結合したものであり、臨床的には、血中に存在する総Hb濃度に対するHbA1c濃度の割合が検査値として診断に利用される。HbA1cの測定は、従来クロマトグラフィーを用いて行われてきたが、より簡便な測定法として、免疫比濁法や酵素法を用いた分光的な測定法がある。また、いわゆるセンサーによる検出方法として、電気化学的な信号を検出する方法が特許文献1に開示されている。一方、Hbは幅広い波長の光を吸収し、なおかつ鉄の錯体構造を有するために高い酸化還元電位を示すことが知られている。HbA1cはHbに糖化ペプチドが結合したものであることから、上記の様な測定法においてはHb自身が、目的とするHbA1cに由来する吸光度または電気化学的な信号のS/N比を低下させるノイズを発生する。そのため、分光法を利用した測定法においては、Hbを含有した全血試料の希釈や、光路長を短くすることでHbにより吸収される光量が抑制されHbA1cの測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−155684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、HbA1cに由来する電気化学的な信号を検出する測定方法においては、Hbに由来する電気的な信号を軽減する有効な手段がなかった。また、分光的な測定方法においては、高倍率に希釈することで測定感度が低下するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、高分子沈殿剤を用いてHbを沈殿し、ろ過または上澄みを抽出することでHbA1cより糖化ペプチドを遊離したHbを除去して、HbA1c測定における測定精度向上を図る。
【発明の効果】
【0006】
本発明の開示する測定装置によれば、高分子沈殿剤を用いることで温度やpH変化を生じることなく、温和な条件でHbを沈殿/除去して、HbA1c測定における測定精度向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した測定装置の一実施形態を示した図である。
【図2】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図3】本発明における容器の一実施形態を示した図である。
【図4】本発明における送液方法の一実施形態を示した図である。
【図5】本発明における送液方法の一実施形態を示した図である。
【図6】本発明における沈殿物分離機構の一実施形態を示した図である。
【図7】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図8】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図9】実施例1の結果を示す図である。
【図10】実施例1の結果を示す図である。
【図11】実施例2の結果を示す図である。
【図12】実施例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を実施するための望ましい形態を例示する。
【0009】
望ましい実施の形態では、測定試料として全血を利用した、HbA1c濃度を高感度で測定するための方法および装置が提供される。
【0010】
本発明の測定装置は、試料が導入され、化学反応または物理的な手段によりHbA1cから糖化ペプチドを遊離させる前処理容器と、前処理容器で糖化ペプチドから切断されたHbまたはもとより糖化ペプチドを持たないHbを沈殿する沈殿容器と、沈殿物を測定試料中から除去する沈殿物分離機構と、糖化ペプチドを定量するための測定容器と、測定容器内の試料中の糖化ペプチドを定量する測定機構からなる。一つの容器で複数の容器の機能を兼ねることもできる。容器は溶液を保持できる構造体であれば良く、カップ,フィルタ,膜,チューブなどが望ましい。
【0011】
測定試料には全血試料を用いる。試料は測定開始前に抗凝固剤や溶血試料により処理されたものであっても良い。反応容器に導入される試料液量は、0.1μL以上が望ましく、最も望ましい実施形態では、10μL以上である。
【0012】
前処理容器に測定試料が添加された後、溶血剤およびHbA1cから糖化ペプチドを切り出すための分解酵素が添加され、溶血剤により溶血した試料中のHbA1cから糖化ペプチドが遊離される。この際、溶血剤や分解酵素は予め容器中に保持されていても良い。容器中には、溶血剤や分解酵素の反応を阻害するものでなければ抗凝固剤等の他の試薬が含まれていても良い。溶血剤は、イオン性または非イオン性の界面活性剤,有機溶媒,塩,酵素を用いることができる。界面活性剤としてはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:トリトンX100),ドデシル硫酸ナトリウム(以下SDS),サポニンなどが望ましい。有機溶媒としては、ホルムアルデヒド,ヘキサン,アセトンなどが望ましい。塩としては、塩化アンモニウム,塩化アルミニウムなどが望ましい。より望ましい例は、SDSである。この場合、望ましい濃度は1〜20v/v%である。また、蒸留水で希釈するなど塩濃度の変化により溶血を促しても良い。分解酵素は、HbA1cからHbA1cに固有の糖化ペプチドを遊離することができる酵素を用いることができる。例えば、プロテアーゼ,プロテイナーゼ,エンドヌクレアーゼを挙げることができる。望ましい例は、プロテアーゼXIV(Sigma社),ブロメラインF(天野エンザイム社),プロテアーゼN(天野エンザイム社),プロタメックス(ノボザイム社)などであり、最も望ましくは、プロテアーゼN(天野エンザイム社)である。
【0013】
前処理容器における処理が終了した後、前処理溶液中の遊離の糖化ペプチドとHbを含む試料溶液は沈殿容器に移動される。沈殿容器では、試料溶液に沈殿剤が添加され、沈殿剤との反応によりHbが沈殿する。沈殿が生じた反応液は、沈殿物分離機構を通して沈殿が除去され、遊離の糖化ペプチドを含む測定試料が分離される。
【0014】
沈殿剤は、界面活性剤無機塩,有機塩,高分子電解質,タンパク質変性剤およびそれらの混合物を用いることができ、特にアニオン性の界面活性剤と金属塩の組み合わせが望ましい。界面活性剤は、アニオン性の官能基を持ち、Hbと結合して複合体を形成することのできる水溶性の界面活性剤が望ましい。SDSやデキストラン硫酸ナトリウム,ヘパリンナトリウムが望ましく、もっとも望ましくはSDSである。SDSの濃度は100mmol/L以上が望ましく、最も望ましくは、640mmol/L程度である。金属塩は水溶性で、水に溶けて多価金属カチオンを生じるものが望ましい。具体的には、マグネシウム,マンガン,カルシウム,亜鉛,アルミニウム,セシウムなどの塩が用いることができ、最も望ましくは塩化マグネシウムである。濃度は10mmol/L以上が望ましく、最も望ましくは600mmol/L以上である。さらに沈殿性能を向上する目的で、上記SDSと金属塩の混合物に、ポリエチレングリコール(以下PEG)を加えることも効果的である。この場合、PEGの平均分子量は1,000〜10,000程度が望ましく最も望ましくは6,000程度である。濃度は100〜1,000g/Lが望ましい。
【0015】
沈殿物分離機構は、糖化ペプチドを含む反応液成分とHbを含む沈殿物を分離できる構造であれば良く、ろ過機構や遠心分離機構,上澄みの抽出機構などが含まれる。ろ過機構は分離したHbによる詰まりを除く目的で複数の孔径のフィルタが積層された構造が望ましい。フィルタはシリンジやチューブのような筒状構造体に備え付けられ、引圧または加圧により分離を促進しても良い。遠心分離機構は小型で定常回転数3,000rpm以上のものが用いることができ、最も望ましくは定常回転数6,000rpm程度のものである。上澄みの抽出機構は、沈殿物を含まない上澄み部分を部分的に吸引することができる機構であれば良く、ピペッタやチューブなどが望ましい。分離を容易にするために吸引部分にさらにフィルタを備えても良い。
【0016】
測定機構は、安定して再現性良くHbA1c濃度を定量できる機構であれば良く、測定原理は、分光法,電流法,電圧法,交流インピーダンス法,伝導度法のいずれの方式であっても良い。望ましくは、従来から多くの装置に用いられ測定方法が確立されている分光法や、Hb分離後、少量の試料でも測定が可能な電圧計測方式のセンサーである。
【0017】
本発明の開示する装置の最も望ましい実施形態を図1に示す。
【0018】
最も望ましい実施形態では、前処理容器1,沈殿容器2,沈殿物分離機構3,測定容器4がフィルタからなり、それらが積層されることで、毛細管現象により容器間の液の移動が行われる。沈殿容器には、沈殿剤が含有されており、試料溶液が沈殿容器へ浸透すると共に沈殿剤と反応して凝固する。凝固したHbは沈殿物分離機構であるフィルタ中の移動速度が著しく低下するため、糖化ペプチドを含む溶液成分が第一に測定容器へ到達する。溶液成分中の糖化ペプチドは測定容器に含まれる反応試薬と反応し反応生成物を生じる。測定容器に接する測定機構5で反応生成物を検出することでHbA1cの定量が可能になる。この場合、測定機構は電気的な信号や吸光度を検出することによりHbA1cを定量するセンサーである。
【0019】
沈殿剤組成:試料添加により以下の濃度になるよう、各試薬濃度を調製する。
【0020】
SDS:640mmol/L
塩化マグネシウム:600mmol/L
PEG:600g/L
【0021】
以上、測定機構にセンサーを用いたが、測定容器として分光セルを用い、測定機構として分光光度計を用いて分光法により測定を行っても良い(図2)。また、前処理容器および沈殿容器にフィルタを用いたが、カップ状の容器を用いて分注機構により次の容器へ移動(図3)しても良い。さらに、測定試料が沈殿物分離機構を通過するための推進力として、ポンプを用いて引圧(図4)または加圧(図5)することで送液を促しても良い。沈殿物分離機構として、小型の遠心分離を備えることも可能である(図6)。また、Hb測定部とHbA1c測定部を一続きに連結することで、Hbを測定した検体を、そのままHbA1c測定に用いることも可能である(図7)、導入された検体を二つ以上に分割する機構を設けることで、導入された検体を、Hb測定部とHbA1c測定部に分配し、平行して測定することも可能である(図8)。
【0022】
実施例1:最も望ましい形態による測定値と除去機構を含まない装置の比較
最も望ましい実施形態により、電位差計測方式のセンサーを用いて濃度の異なる全血試料を測定し、検量線を作成した。検量線の傾きを測定感度と定義し、最も望ましい実施形態(実施例1)と、Hb除去機構を含まない形態での感度の比較を行った結果、Hb除去機構を含まない形態では、ネルンストの式から算出される感度の理論値(−59.2mV/dec)と比較して大きく低下し、感度は−4.3mV/decであった(図9)。一方、最も望ましい実施形態では理論値に近い感度−56.3mV/decが得られ(図10)、除去機構を含まない形態での感度と比較して、13倍程度の感度向上が確認された。
【0023】
実施例2:沈殿剤の組成最適化
沈殿剤としてSDSと塩化マグネシウムを用い、それぞれの濃度を振って混合することで、種々の組成の沈殿剤を作製した。各種組成の沈殿剤とHbを含む試料とを反応させ沈殿を生じた後遠心分離を行い、上澄み液に含まれるHb濃度を測定することで、沈殿能力の評価を行った。Hb濃度の測定は吸光度法を用いて行った。結果を図11に示す。SDS濃度が320〜640mmol/L、塩化マグネシウム濃度が300〜600mmol/Lの範囲で、各々の濃度が高いほど残存するHb濃度を減少できる(沈殿させやすい)傾向がみられ、SDS濃度640mmol/L,塩化マグネシウム濃度600mmol/Lで、最も効果的にHbを沈殿することができた。
【0024】
実施例3:沈殿剤の沈殿能力向上
実施例2で最適化した組成の沈殿剤に対して、タンパク質の沈殿剤として一般的に用いられるPEG(平均分子量6,000)をさらに添加し、実施例2と同様の方法で沈殿能力の評価を行った。結果を図12に示す。PEG濃度が高くなるほど沈殿できるHb濃度は向上し、PEG濃度600g/Lで残存するHbは分光法の検出限界値以下まで減少した。
【符号の説明】
【0025】
1 HbA1c用前処理容器
2 Hb沈殿容器
3 沈殿物分離機構
4 HbA1c測定容器
5 HbA1c測定機構
6 Hb測定機構
7 Hb測定容器
8 検体分配機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビンA1cを高感度で測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病診断の検査項目として血液中のヘモグロビンA1c(以下HbA1c)の測定が重要視されている。HbA1cはヘモグロビン(Hb)に糖鎖が結合したものであり、臨床的には、血中に存在する総Hb濃度に対するHbA1c濃度の割合が検査値として診断に利用される。HbA1cの測定は、従来クロマトグラフィーを用いて行われてきたが、より簡便な測定法として、免疫比濁法や酵素法を用いた分光的な測定法がある。また、いわゆるセンサーによる検出方法として、電気化学的な信号を検出する方法が特許文献1に開示されている。一方、Hbは幅広い波長の光を吸収し、なおかつ鉄の錯体構造を有するために高い酸化還元電位を示すことが知られている。HbA1cはHbに糖化ペプチドが結合したものであることから、上記の様な測定法においてはHb自身が、目的とするHbA1cに由来する吸光度または電気化学的な信号のS/N比を低下させるノイズを発生する。そのため、分光法を利用した測定法においては、Hbを含有した全血試料の希釈や、光路長を短くすることでHbにより吸収される光量が抑制されHbA1cの測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−155684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、HbA1cに由来する電気化学的な信号を検出する測定方法においては、Hbに由来する電気的な信号を軽減する有効な手段がなかった。また、分光的な測定方法においては、高倍率に希釈することで測定感度が低下するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、高分子沈殿剤を用いてHbを沈殿し、ろ過または上澄みを抽出することでHbA1cより糖化ペプチドを遊離したHbを除去して、HbA1c測定における測定精度向上を図る。
【発明の効果】
【0006】
本発明の開示する測定装置によれば、高分子沈殿剤を用いることで温度やpH変化を生じることなく、温和な条件でHbを沈殿/除去して、HbA1c測定における測定精度向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した測定装置の一実施形態を示した図である。
【図2】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図3】本発明における容器の一実施形態を示した図である。
【図4】本発明における送液方法の一実施形態を示した図である。
【図5】本発明における送液方法の一実施形態を示した図である。
【図6】本発明における沈殿物分離機構の一実施形態を示した図である。
【図7】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図8】本発明における測定機構の一実施形態を示した図である。
【図9】実施例1の結果を示す図である。
【図10】実施例1の結果を示す図である。
【図11】実施例2の結果を示す図である。
【図12】実施例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を実施するための望ましい形態を例示する。
【0009】
望ましい実施の形態では、測定試料として全血を利用した、HbA1c濃度を高感度で測定するための方法および装置が提供される。
【0010】
本発明の測定装置は、試料が導入され、化学反応または物理的な手段によりHbA1cから糖化ペプチドを遊離させる前処理容器と、前処理容器で糖化ペプチドから切断されたHbまたはもとより糖化ペプチドを持たないHbを沈殿する沈殿容器と、沈殿物を測定試料中から除去する沈殿物分離機構と、糖化ペプチドを定量するための測定容器と、測定容器内の試料中の糖化ペプチドを定量する測定機構からなる。一つの容器で複数の容器の機能を兼ねることもできる。容器は溶液を保持できる構造体であれば良く、カップ,フィルタ,膜,チューブなどが望ましい。
【0011】
測定試料には全血試料を用いる。試料は測定開始前に抗凝固剤や溶血試料により処理されたものであっても良い。反応容器に導入される試料液量は、0.1μL以上が望ましく、最も望ましい実施形態では、10μL以上である。
【0012】
前処理容器に測定試料が添加された後、溶血剤およびHbA1cから糖化ペプチドを切り出すための分解酵素が添加され、溶血剤により溶血した試料中のHbA1cから糖化ペプチドが遊離される。この際、溶血剤や分解酵素は予め容器中に保持されていても良い。容器中には、溶血剤や分解酵素の反応を阻害するものでなければ抗凝固剤等の他の試薬が含まれていても良い。溶血剤は、イオン性または非イオン性の界面活性剤,有機溶媒,塩,酵素を用いることができる。界面活性剤としてはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:トリトンX100),ドデシル硫酸ナトリウム(以下SDS),サポニンなどが望ましい。有機溶媒としては、ホルムアルデヒド,ヘキサン,アセトンなどが望ましい。塩としては、塩化アンモニウム,塩化アルミニウムなどが望ましい。より望ましい例は、SDSである。この場合、望ましい濃度は1〜20v/v%である。また、蒸留水で希釈するなど塩濃度の変化により溶血を促しても良い。分解酵素は、HbA1cからHbA1cに固有の糖化ペプチドを遊離することができる酵素を用いることができる。例えば、プロテアーゼ,プロテイナーゼ,エンドヌクレアーゼを挙げることができる。望ましい例は、プロテアーゼXIV(Sigma社),ブロメラインF(天野エンザイム社),プロテアーゼN(天野エンザイム社),プロタメックス(ノボザイム社)などであり、最も望ましくは、プロテアーゼN(天野エンザイム社)である。
【0013】
前処理容器における処理が終了した後、前処理溶液中の遊離の糖化ペプチドとHbを含む試料溶液は沈殿容器に移動される。沈殿容器では、試料溶液に沈殿剤が添加され、沈殿剤との反応によりHbが沈殿する。沈殿が生じた反応液は、沈殿物分離機構を通して沈殿が除去され、遊離の糖化ペプチドを含む測定試料が分離される。
【0014】
沈殿剤は、界面活性剤無機塩,有機塩,高分子電解質,タンパク質変性剤およびそれらの混合物を用いることができ、特にアニオン性の界面活性剤と金属塩の組み合わせが望ましい。界面活性剤は、アニオン性の官能基を持ち、Hbと結合して複合体を形成することのできる水溶性の界面活性剤が望ましい。SDSやデキストラン硫酸ナトリウム,ヘパリンナトリウムが望ましく、もっとも望ましくはSDSである。SDSの濃度は100mmol/L以上が望ましく、最も望ましくは、640mmol/L程度である。金属塩は水溶性で、水に溶けて多価金属カチオンを生じるものが望ましい。具体的には、マグネシウム,マンガン,カルシウム,亜鉛,アルミニウム,セシウムなどの塩が用いることができ、最も望ましくは塩化マグネシウムである。濃度は10mmol/L以上が望ましく、最も望ましくは600mmol/L以上である。さらに沈殿性能を向上する目的で、上記SDSと金属塩の混合物に、ポリエチレングリコール(以下PEG)を加えることも効果的である。この場合、PEGの平均分子量は1,000〜10,000程度が望ましく最も望ましくは6,000程度である。濃度は100〜1,000g/Lが望ましい。
【0015】
沈殿物分離機構は、糖化ペプチドを含む反応液成分とHbを含む沈殿物を分離できる構造であれば良く、ろ過機構や遠心分離機構,上澄みの抽出機構などが含まれる。ろ過機構は分離したHbによる詰まりを除く目的で複数の孔径のフィルタが積層された構造が望ましい。フィルタはシリンジやチューブのような筒状構造体に備え付けられ、引圧または加圧により分離を促進しても良い。遠心分離機構は小型で定常回転数3,000rpm以上のものが用いることができ、最も望ましくは定常回転数6,000rpm程度のものである。上澄みの抽出機構は、沈殿物を含まない上澄み部分を部分的に吸引することができる機構であれば良く、ピペッタやチューブなどが望ましい。分離を容易にするために吸引部分にさらにフィルタを備えても良い。
【0016】
測定機構は、安定して再現性良くHbA1c濃度を定量できる機構であれば良く、測定原理は、分光法,電流法,電圧法,交流インピーダンス法,伝導度法のいずれの方式であっても良い。望ましくは、従来から多くの装置に用いられ測定方法が確立されている分光法や、Hb分離後、少量の試料でも測定が可能な電圧計測方式のセンサーである。
【0017】
本発明の開示する装置の最も望ましい実施形態を図1に示す。
【0018】
最も望ましい実施形態では、前処理容器1,沈殿容器2,沈殿物分離機構3,測定容器4がフィルタからなり、それらが積層されることで、毛細管現象により容器間の液の移動が行われる。沈殿容器には、沈殿剤が含有されており、試料溶液が沈殿容器へ浸透すると共に沈殿剤と反応して凝固する。凝固したHbは沈殿物分離機構であるフィルタ中の移動速度が著しく低下するため、糖化ペプチドを含む溶液成分が第一に測定容器へ到達する。溶液成分中の糖化ペプチドは測定容器に含まれる反応試薬と反応し反応生成物を生じる。測定容器に接する測定機構5で反応生成物を検出することでHbA1cの定量が可能になる。この場合、測定機構は電気的な信号や吸光度を検出することによりHbA1cを定量するセンサーである。
【0019】
沈殿剤組成:試料添加により以下の濃度になるよう、各試薬濃度を調製する。
【0020】
SDS:640mmol/L
塩化マグネシウム:600mmol/L
PEG:600g/L
【0021】
以上、測定機構にセンサーを用いたが、測定容器として分光セルを用い、測定機構として分光光度計を用いて分光法により測定を行っても良い(図2)。また、前処理容器および沈殿容器にフィルタを用いたが、カップ状の容器を用いて分注機構により次の容器へ移動(図3)しても良い。さらに、測定試料が沈殿物分離機構を通過するための推進力として、ポンプを用いて引圧(図4)または加圧(図5)することで送液を促しても良い。沈殿物分離機構として、小型の遠心分離を備えることも可能である(図6)。また、Hb測定部とHbA1c測定部を一続きに連結することで、Hbを測定した検体を、そのままHbA1c測定に用いることも可能である(図7)、導入された検体を二つ以上に分割する機構を設けることで、導入された検体を、Hb測定部とHbA1c測定部に分配し、平行して測定することも可能である(図8)。
【0022】
実施例1:最も望ましい形態による測定値と除去機構を含まない装置の比較
最も望ましい実施形態により、電位差計測方式のセンサーを用いて濃度の異なる全血試料を測定し、検量線を作成した。検量線の傾きを測定感度と定義し、最も望ましい実施形態(実施例1)と、Hb除去機構を含まない形態での感度の比較を行った結果、Hb除去機構を含まない形態では、ネルンストの式から算出される感度の理論値(−59.2mV/dec)と比較して大きく低下し、感度は−4.3mV/decであった(図9)。一方、最も望ましい実施形態では理論値に近い感度−56.3mV/decが得られ(図10)、除去機構を含まない形態での感度と比較して、13倍程度の感度向上が確認された。
【0023】
実施例2:沈殿剤の組成最適化
沈殿剤としてSDSと塩化マグネシウムを用い、それぞれの濃度を振って混合することで、種々の組成の沈殿剤を作製した。各種組成の沈殿剤とHbを含む試料とを反応させ沈殿を生じた後遠心分離を行い、上澄み液に含まれるHb濃度を測定することで、沈殿能力の評価を行った。Hb濃度の測定は吸光度法を用いて行った。結果を図11に示す。SDS濃度が320〜640mmol/L、塩化マグネシウム濃度が300〜600mmol/Lの範囲で、各々の濃度が高いほど残存するHb濃度を減少できる(沈殿させやすい)傾向がみられ、SDS濃度640mmol/L,塩化マグネシウム濃度600mmol/Lで、最も効果的にHbを沈殿することができた。
【0024】
実施例3:沈殿剤の沈殿能力向上
実施例2で最適化した組成の沈殿剤に対して、タンパク質の沈殿剤として一般的に用いられるPEG(平均分子量6,000)をさらに添加し、実施例2と同様の方法で沈殿能力の評価を行った。結果を図12に示す。PEG濃度が高くなるほど沈殿できるHb濃度は向上し、PEG濃度600g/Lで残存するHbは分光法の検出限界値以下まで減少した。
【符号の説明】
【0025】
1 HbA1c用前処理容器
2 Hb沈殿容器
3 沈殿物分離機構
4 HbA1c測定容器
5 HbA1c測定機構
6 Hb測定機構
7 Hb測定容器
8 検体分配機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンA1cから糖化ペプチドを遊離させる遊離機構と、該遊離機構で処理した液体からヘモグロビンを除去する前処理機構と、
を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記前処理機構は、ヘモグロビンを沈殿させる沈殿剤と、該沈殿剤により沈殿した沈殿物と糖化ペプチドを含む液体を分離する沈殿物分離機構と、
を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項3】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構は、ろ紙,フィルタ,膜,多孔質材料,カラムの少なくともいずれかから選択される、ろ過材を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項4】
請求項3記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記ろ過材が、セルロース,ポリ塩化ビニル,ポリビニリデン,ポリプロピレン,ガラス,石英の少なくともいずれかから選択された、1種または2種以上の物質からなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項5】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿剤が、高分子電解質,界面活性剤,無機塩,有機塩,タンパク質変性剤から選択された1種以上の物質からなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項6】
請求項5記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿剤が、ドデシル硫酸塩,デキストラン硫酸塩,ヘパリン塩からなる群から選択された物質と、マグネシウム塩,カルシウム塩,亜鉛塩からなる群から選択された物質の組合せからなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項7】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構が、沈殿生成後、上澄み部分を抽出する上澄み抽出機構を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項8】
請求項7記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記上澄み抽出機構が、ピペッタ,シリンジ,ノズル,チューブから選択される吸引機構を備えることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項9】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構は遠心分離機構を備えることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項10】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記前処理機構を二つ以上備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項11】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
ヘモグロビン測定部とヘモグロビンA1c測定部が一続きに接続され、Hb測定部での測定が完了した検体がHbA1c測定部に送液されることで連続して同じ検体を測定することを特徴とするHbA1c測定装置。
【請求項12】
導入された検体を二つ以上の流路に分割する機構を備え、同時に複数の測定部に送液できることを特徴とする請求項10記載のHbA1c測定装置。
【請求項1】
ヘモグロビンA1cから糖化ペプチドを遊離させる遊離機構と、該遊離機構で処理した液体からヘモグロビンを除去する前処理機構と、
を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記前処理機構は、ヘモグロビンを沈殿させる沈殿剤と、該沈殿剤により沈殿した沈殿物と糖化ペプチドを含む液体を分離する沈殿物分離機構と、
を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項3】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構は、ろ紙,フィルタ,膜,多孔質材料,カラムの少なくともいずれかから選択される、ろ過材を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項4】
請求項3記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記ろ過材が、セルロース,ポリ塩化ビニル,ポリビニリデン,ポリプロピレン,ガラス,石英の少なくともいずれかから選択された、1種または2種以上の物質からなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項5】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿剤が、高分子電解質,界面活性剤,無機塩,有機塩,タンパク質変性剤から選択された1種以上の物質からなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項6】
請求項5記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿剤が、ドデシル硫酸塩,デキストラン硫酸塩,ヘパリン塩からなる群から選択された物質と、マグネシウム塩,カルシウム塩,亜鉛塩からなる群から選択された物質の組合せからなることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項7】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構が、沈殿生成後、上澄み部分を抽出する上澄み抽出機構を備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項8】
請求項7記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記上澄み抽出機構が、ピペッタ,シリンジ,ノズル,チューブから選択される吸引機構を備えることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項9】
請求項2記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記沈殿物分離機構は遠心分離機構を備えることを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項10】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
前記前処理機構を二つ以上備えたことを特徴とするヘモグロビンA1c測定装置。
【請求項11】
請求項1記載のヘモグロビンA1c測定装置において、
ヘモグロビン測定部とヘモグロビンA1c測定部が一続きに接続され、Hb測定部での測定が完了した検体がHbA1c測定部に送液されることで連続して同じ検体を測定することを特徴とするHbA1c測定装置。
【請求項12】
導入された検体を二つ以上の流路に分割する機構を備え、同時に複数の測定部に送液できることを特徴とする請求項10記載のHbA1c測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−197369(P2010−197369A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123680(P2009−123680)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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