説明

ヘルペスウイルス免疫回避分子を機能評価できる細胞株

【課題】ヘルペスウイルスMIR1の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングできるシステムを提供すること。
【解決手段】MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする細胞株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルペスウイルス免疫回避分子を機能評価できる細胞株に関する。より具体的には、本発明は、MHCクラスI分子を発現し、さらにMIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子が導入されているヒト由来細胞株、及びそれを用いたMIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルペスウイルスは急性感染の後、様々な部位(神経、免疫系組織)に潜伏し、宿主の免疫力の低下に伴って回帰感染を起こす。すなわち、ヘルペスウイルスは、宿主の免疫機構から回避し、宿主の一部の臓器に潜伏すると考えられている。近年、我々は、このヘルペスウイルスによる免疫回避の機構に関与するタンパク質MIR1(modulator of immune recognition 1)を見出した。 MIR1はCD8 T細胞(キラー細胞)の認識に重要であるMHC class Iを強力に抑制し、CD8 T細胞によるMIR1発現細胞の認識を抑制する。これにより、ヘルペスウイルスはCD8 T細胞による障害を逃れて、細胞内にて増殖する事が出来ると考えられる。 事実、MIR1を失ったヘルペスウイルスは、潜伏感染を効率よく起こすことができないことが明らかとなっている。
【0003】
【非特許文献1】Satoshi Ishido, et al., Immunity, Vol.13, 365-374, 2000
【非特許文献2】Satoshi Ishido, et al., Journal of Virology, Vol.74, No.11, p.5300-5309, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようにMIR1の機能、すなわちMIR1によるMHC class Iを抑制する機能を抑制する方法を見出すことは、ヘルペスウイルスの潜伏感染を制御する新たな手段を提供することになると考えられる。 本発明は、ヘルペスウイルスMIR1の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングできるシステムを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株に、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入することによって細胞株を構築した。そして、本発明者らは、この細胞株を用いてプロテアソーム抑制剤MG132がMIR1の機能を抑制することを実証することによって、この細胞株がヘルペスウイルスMIR1の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングするのに有用であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0006】
即ち、本発明によれば、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする細胞株が提供される。
【0007】
好ましくは、本発明の細胞株は、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオンにした場合に、細胞膜上のMHCクラスI分子をエンドサイトーシスにより細胞内に取り込むことができる。
【0008】
好ましくは、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株は、ヒトB細胞株である。
好ましくは、本発明の細胞株は、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオン・オフをドキシサイクリン依存的に調節することができる。
【0009】
好ましくは、本発明の細胞株は、ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、MIR1発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することにより作製される。
【0010】
好ましくは、本発明の細胞株は、受託番号FERM P−20649を有する細胞株である。
【0011】
好ましくは、本発明の細胞株は、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をさらに発現する。
好ましくは、本発明の細胞株は、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオンにした場合に、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をエンドサイトーシスにより細胞内に取り込むことができる。
【0012】
本発明の別の側面によれば、MIR1蛋白質の発現をオンにした本発明の細胞株に被験物質を投与し、MHCクラスI分子の細胞表面における発現を測定することを含む、MIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、MIR1蛋白質の発現をオンにした本発明の細胞株に被験物質を投与し、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質の細胞表面における発現を測定することを含む、MIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のスクリーニング方法により得られるMIR1蛋白質の抑制剤を有効成分として含む抗ウイルス剤が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による細胞株を用いることにより、ヘルペスウイルスMIR1の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)の持つMIR1,2蛋白(Modulator of immune recognition 1, 2)が、抗原提示分子であるMHC class Iを抑制し、宿主からの免疫認識を回避することを明らかにしてきた。この機構はヘルペスウイルスによる潜伏感染成立に重要である。本発明者らは、MIR蛋白の機能を抑制する薬剤は、ウイルス感染制御に応用できる可能性があることを見出し、新たな抗ウイルス剤の開発のためのスクリーニングシステムの構築を試みた。本発明では、ヒトB細胞株(BJAB細胞)を基本とし、FLP-In T-Rex (invitrogen)を用いてドキシサイクリンにてMIR1を誘導的に発現でき、MHC class Iの発現が経時的に観察できる細胞(T-Rex-MIR1細胞)を構築した。 さらに、MHC class Iの動態をより詳細に観察できるように、T-Rex-MIR1細胞に、MHC class Iの細胞内領域と膜貫通領域とCD8の細胞外領域を持つキメラ分子(CD8キメラ分子)を発現する細胞(T-Rex-MIR1-CD8細胞)を作成した。
【0017】
T-Rex-MIR1-CD8細胞にドキシサイクリン(1μg/ml)投与した後18時間以降に、MIR1の明らかな発現と同時に、MHC class IとCD8キメラ分子の抑制が認められた。さらに、MHC class IとCD8キメラ分子は、ともにドキシサイクリンの添加によってリソソームに集積した。このT-Rex-MIR1-CD8細胞を用いたシステムにより、MG132がMIR1の機能に対する強力な抑制作用を持つことが見出された。上記の通り、本発明の細胞株は、ウイルス蛋白MIR1の抑制剤のスクリーニングに有用であることが明らかとなった。
【0018】
本発明の細胞株は、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする。
【0019】
MHCクラスI分子としては、ヒトでは、HLA-A、HLA-B、HLA-Cの三種類がある。いずれのMHCクラスI分子もα鎖とβ2マイクログロブリンからなる二量体である。α鎖はN末端からα1、α2、α3の3個のドメインからなる。α1とα2ドメインが形成する溝のような構造の中に抗原ペプチドは挟まれるようになる。なお、MHCクラスI分子の発現は、免疫担当細胞の表面だけでなく、ほとんどの体細胞上にも認められる。MHCクラスI分子は、細胞質内のタンパク質由来のペプチドを提示することができる。細胞質内タンパク質はプロテアソームによって8〜10アミノ酸残基のペプチドに分解された後に粗面小胞体に運ばれ、そこで合成されたMHCクラスI分子に結合し、細胞表面にクラスI分子とともに提示されることになる。
【0020】
本発明で用いることができるMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株としては、ヒトB細胞(例えば、BJAB細胞)、HeLa細胞、及びA7細胞等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明の細胞株は、MIR1蛋白質の発現のオンにした場合に、細胞膜上のMHCクラスI分子をエンドサイトーシスにより細胞内に取り込むことができる。本発明の細胞株では、外部から導入したMIR1蛋白質が細胞内で機能的に発現していることにより、上記のような特徴を発揮することができる。
【0022】
本発明の細胞株では、MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができればよく、用いる薬剤は特に限定されない。一例としては、MIR1蛋白質の発現のオン・オフをドキシサイクリン依存的に調節することができるようなシステムを用いることができる。MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)及びその遺伝子は公知であり、例えば、MIR1のACCESSIONはU93872 REGION: complement(18589..19557) VERSION U93872.2 GI:14627174であり、MIR1の参考文献としては、Ishido, S., Wang, C., Lee, BS., Cohen, GB. and Jung, JU. Downregulation of major histocompatibility complex class I molecules by Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus K3 and K5 proteins. J. Virol. 74(11):5300-5309, 2000などが挙げられる。MIR1遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
【0023】
MIR1蛋白質をコードする遺伝子の導入を含む本発明の細胞株の作成方法は、特に限定されず、MIR1蛋白質をコードする遺伝子は、細胞のゲノムに挿入されていてもよいし、あるいは細胞内の染色体外に存在していてもよい。好ましくは、MIR1蛋白質をコードする遺伝子は細胞のゲノムに挿入されている。一例としては、ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、MIR1発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することによって、本発明の細胞株を作製することができる。
【0024】
本発明の細胞株の一例として本明細書の実施例で作製した細胞株であるT-Rex-MIR1 BJAB細胞は、受託番号FERM P−20649として、平成17年9月1日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(郵便番号305−8566、日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。
【0025】
上記したような、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されている、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株には、さらにCD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をコードする遺伝子を導入して、このキメラ蛋白質を発現させることができる。このような細胞株においては、MIR1蛋白質の発現のオンにした場合、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質はエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることになる。
【0026】
本発明はさらに、MIR1蛋白質の発現をオンにした本発明の細胞株に被験物質を投与し、MHCクラスI分子(又は、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質を導入した細胞の場合には、当該キメラ蛋白質)の細胞表面における発現を測定することを含む、MIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【0027】
被験物質としては、任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、蛋白質、ペプチド、細胞抽出物などでもよい。あるいは、被験物質は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー、コンビナトリアルライブラリーでもよい。被験物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0028】
さらに、上記したようなスクリーニング方法により得られるMIR1蛋白質の抑制剤を含む抗ウイルス剤も本発明の範囲内である。
【0029】
本発明の抗ウイルス剤 は、本発明のスクリーニング方法により得られるMIR1蛋白質の抑制剤を有効成分として、例えば1日当たり1μg〜100mgの投与量で、1日当たり1〜5回に分けて投与することができる。なお、投与量は、用いる化合物の種類、投与対象の年齢、性別、体重、疾患、症状等を考慮して適宜決定することができる。投与は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与でもよいし、静注、筋注等の注射剤、坐剤、経皮剤等による非経口投与のいずれの形態でもよい。本発明の抗ウイルス剤の形態、使用すべき製剤用添加物、製剤の製造方法などは、いずれも当業者であれば適宜選択することができる。
【0030】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(方法)
(1)T-Rex-MIR1 BJAB細胞及びT-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞の作成
テトラサイクリンにてMIR1の発現が誘導出来うる細胞株(T-Rex-MIR1 BJAB細胞)の作成は、Invitrogen社のFlp-In T-Rex Core Kitを用いて添付のプロトコールに従って行った。具体的には以下の通りである。
【0032】
ヒトB細胞株(BJAB細胞)にpFRT/lacZeo vectorをエレクトロポレーション法により導入し、48時間後、200ng/ml Zeocin でセレクションを開始した。約一週間後、Zeocin耐性の細胞コロニーをpick upし、genomic DNAを抽出した。サザンブロット法により確認し、Flp recombination Target (FRT) siteが一つ挿入されたゲノムを持つBJAB細胞を得た。さらに、この細胞の中から、β-Gal Assay Kit (Invitrogen) を用いてβ-Galactosidase活性が高いものを選び出し、pcDNA6/TR vectorをエレクトロポレーション法により導入した。48時間後、200ng/ml Zeocin, 10μg/ml Blasticidinでセレクションをした。約一週間後、Zeocin, Blasticidin耐性の細胞コロニーをpick upし, Flp-In T-Rex host cellを得た。この細胞に、MIR1発現カセット(MIR1遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す)をFlprecombinaseを用いてFRT siteに挿入し、125μg/ml Hygromycin Bにてセレクションし、テトラサイクリンにてMIR1の発現が誘導出来うる細胞株(T-Rex-MIR1 BJAB細胞)を作成した。
【0033】
同様にして、T-Rex-MIR1 BJAB細胞に、細胞外にFLAGタグ、CD8細胞外領域を持ち、膜貫通領域、細胞内領域がHLA-A2であるキメラ分子を導入し、新たな細胞株(T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞)を作成した。
【0034】
(2)CD8/MHC I-BJAB細胞の維持
細胞はRPMI-1640に10% Fetal Bovine Serum、100U/ml Penicillin-100μg/ml Streptomycin、および0.0003%2-Mercaptoethanolを加えたものを培地とし、これに1mg/ml G418、125μg/ml Hygromycin B、および10μg/ml Blasticidinを加えて37℃、5%CO2で培養する。
【0035】
(3)Doxycyclineによる誘導
4x106個の細胞を採り、25℃、800rpmで遠心して細胞ペレットを回収し、10ml PBSで2回洗う。4x104 cells/mlの濃度になるようにAIM-V (serum free-lymphocyte medium、GIBCO社)に縣濁し、10mlずつ25cm2フラスコに移し、1μg/ml の濃度になるようにDoxycyclineを加えて37℃、5%CO2で培養する。
【0036】
(4)フローサイトメトリー
試薬
・1%FCS、2%FCS(PBSにfetal calf serumを溶かす)
・2%パラホルムアルデヒド(PBSで溶かす)
・HLA-ABC Antigen/RPE(Dako R7000)
方法
800rpm 3min 4℃にて細回収。
2%FCSを7ml入れ、800rpm 3min 4℃で遠心。
2%FCSで細胞浮遊液100μlを作り、HLA-ABC Antigen/RPE 5μl(図1の場合)あるいはCD8抗
体(図3、5の場合)を加える。 on ice で1時間反応させる(遮光)。
1%FCS 7ml入れ、800rpm 3min 4℃で遠心。
2%パラホルムアルデヒドを300μl加え、細胞浮遊液を作る。
測定する。
【0037】
(5)蛍光抗体法による細胞内局在の観察
図2では、細胞は4%パラフォルムアルデヒドを用いて室温、15分間固定後、PBSで10分、2回洗い、-20℃アセトンで15分間permeabilizationした。細胞が完全に乾いた後、10%goat serumで30分間ブロッキングした。MIR1の発現は一次抗体として、His-probe (1/1000希釈)を用いて室温で一時間染色し、PBSで10分、3回洗った後、TSA Kit (Molecular Probes)を用いて検出した。MHC class IとLAMP2の局在は、まずanti-human MHCclass I (1/200希釈)を用いて室温で一時間染色し、PBSで10分、3回洗った後、二次抗体 Alexa-594-anti-mouse-IgG (1/500希釈)で室温、30分間反応させた。PBSで10分、3回洗った後、FITC anti-human CD107b(LAMP2) (1/200希釈)を用いて室温で一時間染色し、PBSで10分、3回洗った後、検出した。
図4では、CD8キメラ分子とLAMP2の局在は、まずanti-human CD8(1/2000希釈) を用いて室温で一時間染色し、その後は図2の場合と同様にして、LAMP2との二重染色を行った。
【0038】
(結果)
(1)T-Rex-MIR1 BJAB細胞の特徴
T-Rex-MIR1 BJAB細胞を無血清培地にて、ドキシサイクリン1μg/mlにて刺激を行い、経時的にMHC class I, B7-2, MHC class IIの細胞表面における発現をフローサイトメーターにて調べた。その結果、MHC class Iの抑制は18時間より認められ、24時間後に最大の抑制を認めた。 しかしながら、B7-2, MHC class IIの発現には大きな変化が認められなかった(図1)。
【0039】
さらに、MIR1の発現とMHC class Iの細胞内局在の変化を蛍光抗体法にて調べた。図2に示すように、MIR1の発現は、18時間後から明らかとなり、24時間にかけて強くなった。 それに呼応して、MHC class Iの細胞内局在は、LAMP2陽性の小胞であるリソソームに集積する事が明らかとなった。 このように、T-Rex-MIR1 BJAB細胞では、ドキシサイクリンにてMIR1が発現誘導され、MIR1の機能であるMHC class Iの特異的抑制が観察できる事が明らかとなった。
【0040】
(2)T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞の特徴
図3に示すように、T-Rex-MIR1 BJAB細胞にCD8キメラ分子を発現させ、MHC class I分子のより詳細な細胞内局在が観察出来うる細胞T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞の作成を行った。 T-Rex-MIR1 BJAB細胞と同様にドキシサイクリン1μg/mlを投与し、CD8キメラ分子の細胞表面における発現をフローサイトメーターにて観察した。図3に示すように、24時間の間に段階的にCD8キメラ分子の発現が抑制される事が明らかとなった。
【0041】
さらに、CD8キメラ分子の細胞内局在の変化を蛍光抗体法にて調べた。抗体はCD8抗体を使用した。図4に示すように、CD8キメラ分子はMHC class I分子と同様に、リソソームへ集積することが明らかとなった。 また、MHC class Iにては明らかではなかった、細胞内の小胞と思われる部位にも、CD8キメラ分子が集積している像も認められた。 このように、T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞におけるCD8キメラ分子は、MHC class I分子と同様の動態を示し、さらにCD8抗体によって、その動態をより詳細に観察できる事が明らかとなった。
【0042】
(3)T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞を用いた抑制剤の検討
T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞を用いて、プロテアソーム抑制剤であるMG132を検定した。 ドキシサイクリンを添加11時間後に、MG132(Johann Zimmermann et al., The Journal of Biological Chemistry, Vol.276, N0.14, pp.10759-10766, 2001)を投与し、12,15,18時間においてCD8キメラ分子の細胞表面における発現をフローサイトメーターにて検討した。MG132の構造を以下に示す。
【0043】
【化1】

【0044】
図5に示すように、MG132は強力にMIR1によるCD8キメラの発現抑制を抑制した。
【0045】
(4)まとめ
ヘルペスウイルスMIR1の機能(MHC class Iの抑制作用)をフローサイトメーター、蛍光抗体法にてモニター出来る細胞株, T-Rex-MIR1 BJAB細胞、T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞を構築した。両者とも、MIR1の機能を詳細に検討する事が出来るが、T-Rex-MIR1-CD8細胞は、細胞染色(蛍光抗体法)にて、さらにMIR1の機能を詳細にモニターすることが可能である事が明らかとなった。 このシステムを用いてMG132がMIR1の強力な抑制剤であることが見出された。
【0046】
上記の通り、本発明の細胞株は、ヘルペスウイルスMIR1の機能抑制物質のスクリーニングに有用であり、新たな抗ウイルス薬剤の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、T-Rex-MIR1 BJAB細胞の特徴を示す。T-Rex-MIR1 BJAB細胞にドキシサイクリンを添加し、MHC class I,II, B7-2の細胞表面における発現の変化をFACSにて解析した。
【図2】図2は、 T-Rex-MIR1 BJAB細胞の特徴を示す。T-Rex-MIR1 BJAB細胞にドキシサイクリンを添加し、MIR1, MHC class Iの細胞内局在を蛍光抗体法にて観察した。最後にLAPM-2の染色にてリソソームの局在を示している。
【図3】図3は、 T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞の特徴を示す。T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞にドキシサイクリンを添加し、CD8キメラ分子の細胞表面における発現をFACSにて観察した。
【図4】図4は、T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞の特徴を示す。T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞にドキシサイクリンを添加し、CD8キメラ分子の細胞内局在を蛍光抗体法にて観察した。最後にLAPM-2の染色にてリソソームの局在を示している。
【図5】図5は、MG132によるMIR1の抑制を示す。T-Rex-MIR1-CD8細胞にドキシサイクリンを添加し、11時間後にMG132あるいはDMSO(コントロール)を投与し、18時間後までCD8キメラ分子の抑制状況をFACSにて観察した。
【配列表フリーテキスト】
【0048】
SEQUENCE LISTING
<110> Riken
<120> A cell strain capable of evaluating the function of herpesvirus immune-avoiding molecule
<130> A51746A
<160> 1
<210> 1
<211> 969
<212> DNA
<213> herpesvirus
<400> 1
atggaagatg aggatgttcc tgtctgctgg atttgcaacg aggagctcgg aaatgagaga 60
tttagagcct gtggatgcac aggagagctc gagaacgtcc atagaagttg tttaagcacc 120
tggctcacta tctctagaaa cacggcctgt cagatatgtg gcgtcgtata caacacgcgc 180
gtggtctggc gacccttgcg cgaaatgacg ctattgcctc ggctgactta ccaggagggt 240
ctggaactga ttgtttttat tttcattatg acattggggg ccgctggcct tgccgctgcg 300
acgtgggttt ggctatatat agtgggcggt catgacccag agatagatca cgtcgctgca 360
gccgcgtact acgttttttt cgtgttttac caattgtttg tcgtttttgg gttgggtgcg 420
tttttccaca tgatgcgcca cgtggggcgg gcatacgctg ctgtaaacac ccgggttgaa 480
gtgtttccat atagacctcg gccgacatca ccagagtgtg cggtagagga ggtcgagctt 540
caggaaattc ttccccgtgg ggataaccag gacgaggagg ggcccgcggg ggcagctcca 600
ggcgaccaaa atggccccgc ggatggcgct cctgtgcatc gcgactcaga agaatccgtg 660
gatgaagctg cagggtacaa ggaagcggga gaaccaacac ataatgatgg acgtgatgac 720
aatgtagagc caaccgcggt tgggtgtgac tgtaacaact tgggcgctga gcggtatagg 780
gccacttact gtggcggtta tgttggtgtc cagtcgggcg atggggctta tagtgtctcc 840
tgccataata aggctggacc ctcctctcta gttgatatcc ctccacaggg tttgcctggg 900
ggtggctatg gttccatggg cgtgattagg aaacgttcgg ctgtttcgtc tgcccttatg 960
tttcattaa 969

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)をコードする遺伝子を当該MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする細胞株。
【請求項2】
MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオンにした場合に、細胞膜上のMHCクラスI分子をエンドサイトーシスにより細胞内に取り込むことができる、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株が、ヒトB細胞株である、請求項1又は2に記載の細胞株。
【請求項4】
MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオン・オフをドキシサイクリン依存的に調節することができる、請求項1から3の何れかに記載の細胞株。
【請求項5】
ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、MIR1発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することにより作製される、請求項1から4の何れかに記載の細胞株。
【請求項6】
受託番号FERM P−20649を有する細胞株。
【請求項7】
CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をさらに発現する、請求項1から6の何れかに記載の細胞株。
【請求項8】
MIR1蛋白質(Modulator of immune recognition 1)の発現のオンにした場合に、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をエンドサイトーシスにより細胞内に取り込むことができる、請求項7に記載の細胞株。
【請求項9】
MIR1蛋白質の発現をオンにした請求項1から6の何れかに記載の細胞株に被験物質を投与し、MHCクラスI分子の細胞表面における発現を測定することを含む、MIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
MIR1蛋白質の発現をオンにした請求項7又は8に記載の細胞株に被験物質を投与し、CD8細胞外領域とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質の細胞表面における発現を測定することを含む、MIR1蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のスクリーニング方法により得られるMIR1蛋白質の抑制剤を有効成分として含む抗ウイルス剤。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−97405(P2007−97405A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287308(P2005−287308)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】