ベルト伝動装置
【課題】 高負荷伝動用Vベルト5とプーリ2,4とが組み合わされてなるベルト伝動装置において、該プーリ2,4の耐久性を確保しつつ、ベルト走行によって生じる騒音を低減する。
【解決手段】 プーリ2,4のベルト溝6の溝面にマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理を施し、その表面粗さが、y≦−0.9×tp+100という関係になるようにする。ここで、tpは、前記プーリ2,4の溝面の表面形状を示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置での負荷長さ率を示し、yは、谷深さが最大値となる谷底からの前記所定位置での高さの最大高さRyに対する比を百分率で示したもの(高度)である。
【解決手段】 プーリ2,4のベルト溝6の溝面にマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理を施し、その表面粗さが、y≦−0.9×tp+100という関係になるようにする。ここで、tpは、前記プーリ2,4の溝面の表面形状を示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置での負荷長さ率を示し、yは、谷深さが最大値となる谷底からの前記所定位置での高さの最大高さRyに対する比を百分率で示したもの(高度)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用Vベルトを備えたベルト伝動装置に関し、特に、そのベルト走行によって生じる騒音を低減する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、VプーリにVベルトを巻き掛けて摩擦接触させることで該Vベルトを介して動力伝達を行うようにしたベルト伝動装置では、Vベルトとして、一対の張力帯に多数のブロックを嵌合させる構造のものが知られているが、このような構造の場合、Vベルト走行時の走行ノイズが比較的、大きくなるという問題があった。すなわち、VベルトがVプーリに対して出入りする際には、該VベルトのブロックがVプーリの表面に接触して衝突音を生じ、該ブロックがVプーリから離れるときには引っ掛かり音が発生する。
【0003】
このような走行ノイズを低減するための構造として、例えば、特許文献1に開示されるように、前記Vプーリの溝面の表面粗さが所定の算術平均粗さRaになるように表面粗さを調整したものや、特許文献2に開示されるように、前記溝面上にシェル形部材を設けたものなどが知られている。
【0004】
より詳しくは、前記特許文献1には、Vプーリの溝面の表面粗さを所定の算術平均粗さRaにして、VベルトとVプーリとの接触時の干渉によって生じるエネルギーを低下させることで、ベルト走行時の騒音を低減するようにしたものが開示されている。
【0005】
一方、前記特許文献2には、断面略三角形状に形成された薄板状のシェル形部材が、Vプーリの溝面全体を覆うように配設されていて、例えばシェル形部材とVプーリの溝面との間に配設された緩衝材や液体によってVベルトとVプーリとの接触時に発生するエネルギーを吸収し、ベルト走行時の騒音を低減するようにしたものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−176668号公報
【特許文献2】特開平10−122318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のように、Vプーリの溝面の表面粗さを算術平均粗さRaによって評価した場合、この評価には前記溝面の表面における微細な山部分の高さについては反映されるものの、その山部分の形状については正確に反映されているわけではなく、同程度の算術平均粗さRaを有する表面であっても山部分が全体的に高い(急峻でない)場合には、VベルトとVプーリとの微視的な接触面積が大きくなるため、該VベルトとVプーリとが接触するときの摩擦抵抗が大きくなり、発生する騒音も大きくなってしまう。
【0007】
また、前記特許文献2のように、Vプーリの溝面上にシェル形部材を配設した場合には、ベルトとの摩擦接触によってシェル形部材が損傷を受ける可能性があり、Vプーリの耐久性の観点から好ましい構造とはいえない。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、VプーリとVベルトとからなるベルト伝動装置において、該Vプーリの耐久性を確保しつつ、ベルト走行によって生じる騒音を効果的に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト伝動装置では、Vプーリの溝面における表面粗さを山部分の高さだけでなく幅も考慮した負荷長さ率tpで評価して、この負荷長さ率tpと粗さ曲線における谷底からの高さを示す高度yとが所定の関係式を満たすように、前記溝面の表面粗さを調整するようにした。
【0010】
すなわち、請求項1の発明では、一対の張力帯に多数のブロックが噛合状態で係合固定された伝動用Vベルトと、該Vベルトを巻き掛けるための溝部が形成されたVプーリとを備え、前記Vベルトの側面とVプーリの溝面との接触により動力の授受を行うようにしたベルト伝動装置を前提とする。
【0011】
そして、前記Vプーリの溝面の表面粗さを示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置における負荷長さ率tpと、谷深さが最大値となる谷底から前記所定位置までの高さの最大高さRyに対する比を百分率で示す高度yとの間に、
y≦−0.9×tp+100
という関係式が成立するように前記Vプーリの溝面が形成されているものとする。
【0012】
この構成により、Vプーリの溝面の表面形状が負荷長さ率tp(JIS B0601)という指標に基づいて判断されるため、算術平均粗さRaのように山部分の高さ方向だけでなく、山部分の幅方向もベルト溝面の表面状態として考慮される。ここで、一般的に、ベルト伝動装置では、Vベルトの側面がVプーリの溝面に押し付けられ、微視的に該溝面の山部分が潰れて変形すると考えられるため、VベルトがVプーリに接触した状態での該VベルトとVプーリの溝面との微視的な接触面積は、該溝面の山部分の幅に対応していると考えられる。
【0013】
また、上式は、Vプーリの溝面の粗さ曲線における谷底からの高さを示す高度yと、その位置での負荷長さ率tpとの関係を示すもので、上式の関係を満たしている場合には、山部分が比較的、急峻な形状をしており、VベルトとVプーリとの微視的な接触面積は、Vベルトの負荷状態に関係なく、上式の関係を満たさない場合に比べて小さくなる。
【0014】
したがって、Vプーリの溝面の表面粗さが、VベルトとVプーリの溝面との接触面積を考慮した上式の関係を満たすように、該溝面を形成することで、上式の関係を満たさない場合に比べてVベルトとVプーリとが接触した状態での微視的な接触面積を小さくすることができ、これにより、ベルト走行時に生じる騒音を確実に低減することができる。
【0015】
上述の構成において、Vプーリの溝面は、略3μm〜40μmの直径を有する砥粒によってブラスト処理されているのが好ましい(請求項2の発明)。また、前記溝面は、先端が略1.5mm〜3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具によってバニシ処理されるようにしてもよい(請求項3の発明)。これにより、Vプーリの溝面は、その表面粗さが上式の関係を満たすものとなり、請求項1の作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係るベルト伝動装置によれば、Vプーリの溝面の表面粗さを表す指標として負荷長さ率tpを用い、これが所定の関係を満たすように該溝面を形成することで、Vプーリの溝面とVベルトの側面との微視的な接触面積を小さくすることができ、これにより、ベルト走行時に発生する騒音を効果的に低減することができる。
【0017】
請求項2及び3の発明によれば、Vプーリの溝面を、所定の条件でブラスト処理またはバニシ処理することで、請求項1の構成を実現してベルト走行時の騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1〜3は本発明の実施形態に係るベルト伝動装置を示し、1は駆動回転軸、3は従動回転軸で、これら両回転軸1,3は互いに平行に配置されている。
【0020】
前記駆動回転軸1上には変速プーリからなる駆動プーリ2(Vプーリ)が配設されている。この駆動プーリ2は、前記駆動回転軸1上に回転一体にかつ摺動不能に固定されたフランジ状の固定シーブ2aと、前記駆動回転軸1上に固定シーブ2aに対向するように摺動可能にかつ回転一体に支持されたフランジ状の可動シーブ2bとからなり、これら両シーブ2a,2b間にベルト溝6(溝部)が形成されている。
【0021】
一方、前記従動回転軸3には前記駆動プーリ2と同径の変速プーリからなる従動プーリ4(Vプーリ)が設けられている。この従動プーリ4は、前記駆動プーリ2と同様の構成を有していて、従動回転軸3上に回転一体にかつ摺動不能に固定されたフランジ状の固定シーブ4aと、従動回転軸3上に、固定シーブ4aに対し前記駆動プーリ2の固定シーブ2aに対する可動シーブ2bの対向方向と反対方向でもって対向するように摺動可能にかつ回転一体に支持されたフランジ状の可動シーブ4bとからなり、これら両シーブ4a,4b間にベルト溝6(溝部)が形成されている。
【0022】
そして、前記駆動プーリ2と従動プーリ4とのベルト溝6,6間には高負荷伝動用Vベルト5が掛け渡されている。このVベルト5は、図4に示すように、左右1対のエンドレスの張力帯8,8と、この張力帯8,8にベルト長手方向に連続的に係合固定された多数のブロック7,7,…とからなる。
【0023】
前記各張力帯8は、硬質ゴムからなる保形ゴム層13の内部に、例えばアラミド繊維(組紐)等の高強度高弾性率の心線(心体)がスパイラル状に配置されて埋設されたもので、この各張力帯8の上面にはベルト幅方向に延びる一定ピッチ(例えば略3.0mmピッチ)の溝状の上側凹部9,9,…が、また下面には前記上側凹部9,9,…に対応してベルト幅方向に延びる一定ピッチの下側凹部10,10,…がそれぞれ形成されている。また、張力帯8の上下表面には、そのクラックの発生を防止し或いは耐摩耗性を向上させる等の目的で帆布11,11が一体的に接着されている。
【0024】
前記保形ゴム層13をなす硬質ゴムは、例えばメタクリル酸亜鉛を強化された水素添加NBRゴムからなり、それに補強を目的として有機短繊維12,12,…を全体に混入して強化することで、耐熱性に優れ且つ永久変形し難いように構成されている。尚、前記硬質ゴムの硬さは、JIS−C硬度計で測定したときに75゜以上のゴム硬度が必要である。
【0025】
一方、前記各ブロック7は、ベルト幅方向左右側部に前記各張力帯8を幅方向から着脱可能に嵌装せしめる切欠き溝状の嵌合部7a,7aを有する。この各嵌合部7aを除いた左右側面は駆動及び従動プーリ2,4のベルト溝6,6に接触する接触部7b,7bを構成し、このブロック7の左右の接触部7b,7b同士がなすベルト角度は、各プーリ2,4のベルト溝6の角度と同じとされている。そして、前記各ブロック7の嵌合部7a,7aにそれぞれ張力帯8,8を圧入して嵌合することで、ブロック7,7,…が張力帯8,8にベルト長手方向に連続的に固定されている。
【0026】
すなわち、前記各ブロック7における各嵌合部7aの上壁面には前記張力帯8上面の各上側凹部9に噛合する上側噛合部としての凸条からなる上側凸部7cが、また嵌合部7aの下壁面には張力帯8下面の各下側凹部10に噛合する下側噛合部としての凸条からなる下側凸部7dがそれぞれ互いに平行になるように形成されており、この各ブロック7の上下の凸部7c,7dをそれぞれ張力帯8の上下の凹部9,10に噛合せしめることで、ブロック7,7,…を張力帯8,8にベルト長手方向に圧入により係合固定し、この係合状態で各張力帯8の外側側面と各ブロック7の側面である接触部7bとの双方がプーリ2,4のベルト溝6に接触するとともに、ブロック7の上下の凸部7c,7dと各張力帯8の上下の凹部9,10との噛合によって動力授受が行われるようになっている。
【0027】
前記各ブロック7はフェノール樹脂等の硬質樹脂材料からなり、その内部には該ブロック7の略中央に位置するように軽量アルミニウム合金等からなる補強部材(図示せず)が埋設されている。この補強部材は、少なくとも上下の凸部7c,7d(張力帯8との噛合部分)や左右側面の接触部7b,7bでは硬質樹脂中に埋め込まれてブロック7表面に顕れないが(つまり、これらの部分は硬質樹脂からなっている)、その他の部分ではブロック7表面に露出していてもよい。
【0028】
そして、前記ベルト伝動装置は、両プーリ2,4の可動シーブ2b,4bをそれぞれ固定シーブ2a,4aに対して接離させて各プーリ2,4のベルト巻き付け径を変更するように構成されている。具体的には、図1に示す高速状態の場合は、駆動プーリ2の可動シーブ2bを固定シーブ2aに接近させ、かつ従動プーリ4の可動シーブ4bを固定シーブ4aから離隔させて、駆動プーリ2のベルト巻き付け径を従動プーリ4よりも大きくすることにより、駆動回転軸1の回転を従動回転軸3に増速して伝達する高速状態とする一方、逆に図3に示す低速状態の場合は、駆動プーリ2の可動シーブ2bを固定シーブ2aから離隔させ、かつ従動プーリ4の可動シーブ4bを固定シーブ4aに接近させて、駆動プーリ2のベルト巻き付け径を従動プーリ4よりも小さくして、駆動回転軸1の回転を減速して従動回転軸3に伝える低速状態とする。また、図2に示す中間状態では、前記高速状態及び低速状態の中間の状態で駆動及び従動プーリ2,4のベルト巻き付け径が略同じとなっている。
【0029】
さらに、本発明の特徴部分であるが、本実施形態に係るベルト伝動装置では、ベルト5の側面が接触する各変速プーリ2,4のベルト溝6の溝面の表面粗さは均一な表面粗さになっていて、図5に一例を示す粗さ曲線(JIS B0601)において、高さ方向の所定位置での山部分の割合を示す負荷長さ率tp(%)と、最大高さRyに対する谷底線v(谷深さが最大となる谷底を通過し且つ後述の平均線mに対して平行な線)から前記所定位置までの高さaの比を百分率で示す高度yとの間に、下式(1)のような関係が成立するように設定されている。なお、本実施形態において、前記所定位置は、粗さ曲線における高さ方向の任意の位置を意味する。
【0030】
y≦−0.9×tp+100 (1)
ここで、高度yはy=a/Ry×100(%)であり、また、負荷長さ率tp(JIS B0601)は、具体的には、次のように求められる。まず、図5に示すように、粗さ曲線から基準長さLだけ抜き取る。そして、この抜き取り部分の粗さ曲線を山頂線p(山高さが最大となる山頂を通過し且つ前記平均線mに対して平行な線)に平行な切断レベルc(高さ方向の任意の位置であり、谷底線vからの高さで考えると前記高度yに相当)で切断し、下式(2)に示すように、この各切断レベルcで得られる切断長さの和(負荷長さηp)の基準長さLに対する比を百分率で表すことにより、各切断レベルcにおける負荷長さ率tpがそれぞれ算出される。
【0031】
tp=ηp/L×100 (2)
上記(2)式において、ηp=b1+b2+…+bnであり、b1,b2,…,bnは各切断長さを示す。
【0032】
そして、前記各変速プーリ2,4のベルト溝6の溝面の表面粗さが、上述の(1)式の関係を満たすように、各変速プーリ2,4の表面をMCやフライス盤等の工作機械を用いて研削した後、前記ベルト溝6の溝面にはマイクロブラスト処理(ブラスト処理)若しくはバニシ処理が行われる。
【0033】
前記マイクロブラスト処理は、#400〜#3000(直径3μm〜40μm)の微細砥粒を圧縮空気によって前記変速プーリ2,4の溝面に高速で衝突させるもので、該溝面の表面層を除去するとともに所定の表面粗さに加工することができる。一方、前記バニシ処理は、先端が1.5mm〜3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具を前記溝面に押し付け、圧力をかけて擦ることで表面を平滑にするもので、表面層を除去することなく所定の表面粗さにすることができる。なお、加工性、生産性の観点から、溝面に施す表面処理としては、マイクロブラスト処理のほうが好ましい。
【0034】
前記ベルト溝6の溝面に上述のようなマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理をそれぞれ施した場合の表面状態を図6に示す。この図6は、横軸を負荷長さ率tp、縦軸を高度yとして、高さ方向の任意の位置である各高度y(上述の各切断レベルcに相当、本実施形態では13箇所)における負荷長さ率tpをプロットしたもので、前記ベルト溝6の溝面の表面に急峻な山が多い場合には、高度yが大きい位置での負荷長さ率tpが比較的、小さくなる一方、急峻でなく山全体が高いような場合には、高度yが大きい位置での負荷長さ率tpが比較的、大きくなる。
【0035】
前記図6から分かるように、前記ベルト溝6の溝面にマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理を施すことによって、表面形状における山部分の形状は上述の(1)式の関係を満たす(図6において斜線部分)ように形成される一方、従来の表面処理(MCやフライス盤で研削した後、防錆防食のために行う無電解ニッケルメッキ等のメッキ処理)を施した場合には、上述の(1)式の関係を満たすことができない。
【0036】
このように、ベルト溝6の表面の微細な山部分の形状を、上述の(1)式を満たすように調整することにより、Vベルト5とプーリ2,4のベルト溝6,6との微視的な接触面積も制御できるようになる。すなわち、前記プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面に前記Vベルト5が接触すると、微視的に、該ベルト溝6,6の溝面の微細な山部分の山頂付近がVベルト5の負荷に応じて潰れて若干変形するが、該山部分の形状(特に、山部分の幅)を調整することにより、このVベルト5とベルト溝6との微視的な接触面積を制御することが可能となる。
【0037】
すなわち、前記Vベルト5に作用する負荷が変化して、例えば負荷大の状態になった場合には、プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面の微小な山部分が大きく潰れて変形するため、図6において、高度yの低い部分(図6の下向きの白抜き矢印)でVベルト5とプーリ2,4とが接触することになるが、上述のように山部分の形状を調整することで、該Vベルト5とプーリ2,4との微視的な接触面積を従来の表面処理方法で処理した場合よりも小さくすることが可能となり、該Vベルト5とプーリ2,4との間の摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0038】
以上より、高負荷伝動用Vベルト5とプーリ2,4との接触の際のエネルギーを低下させる手段として、プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面での表面粗さが上述の(1)式の関係になるように設定されているので、ベルト5のブロック7とプーリ2,4のベルト溝6,6の溝面との間の微視的な接触面積を小さくして摩擦抵抗を下げることができ、ベルト走行ノイズの発生原因となるベルト5とプーリ2,4との干渉の際に発生するエネルギーを低下させてベルト走行ノイズの低減を図ることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、プーリ2,4のベルト溝面の粗さ曲線における高さ方向の任意の位置を所定位置として、すべての高さ方向位置で上述の(1)式の関係を満たすものとしているが、ベルト5に作用する負荷によって前記ベルト溝面の微細な山部分が潰れて変形する場合のその高さ方向位置で、上述の(1)式の関係を満たし、微視的な接触面積が比較的、小さくなればよいので、該高さ方向位置を含む、ベルト5に作用する負荷の変動範囲に対応した所定範囲で上述の(1)式の関係を満たすようにしてもよい。この場合の所定位置は、前記所定範囲内での任意の位置を意味する。
【0040】
また、本実施形態では、ベルト伝動装置として固定シーブと可動シーブとから成る変速プーリを有するベルト伝動装置を用いたが、一対の固定シーブのみから成り、ベルト巻き付け径が不変の定速プーリで構成されるプーリを有するベルト伝動装置にも本発明を適応することができるのは言うまでもない。
【0041】
−比較検証−
次に、プーリの溝面をマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理して該溝面の表面粗さが上述の(1)式の関係を満たした場合の効果を確認する確認試験を行った。図7に本実施例で用いた騒音試験装置を概略的に示す。この図7に示す騒音試験装置には、駆動回転軸16aに設けられたピッチ径(ベルト巻き付け径)151.0mmの駆動プーリ16と、従動回転軸15aに設けられたピッチ径61.5mmの従動プーリ15とがそれぞれ所定の軸間距離をあけて配置されている。これら両プーリ15,16間に、上述の高負荷伝動用Vベルト17(図4参照)を巻き掛け、従動プーリ15の設定荷重SW1(=980、1960、2940、3920N)を図7の矢印方向に加えた状態で、両プーリ15,16を回転させる。
【0042】
なお、前記Vベルト17は、ベルト長さが612mmで、ベルト角度26度、ベルトピッチ幅25mm、ブロックのピッチ3mm、該ブロックの厚み2.95mmのものを用いた。
【0043】
さらに、図7(b)に示すように、前記駆動回転軸16aの中心から左側(従動回転軸15a側)に80mm、前記駆動回転軸16aの中心と従動回転軸15aの中心とを結んだ線から上方へ125mm、奥側(図7(a)において上側)へ57mm離れた位置に測温手段としてのマイクロフォン18を設けた。
【0044】
そして、前記各プーリ15,16の溝面に、それぞれ、従来の表面処理(MCやフライス盤で研削した後、防錆防食のために行う無電解ニッケルメッキ等のメッキ処理)、マイクロブラスト処理、バニシ処理を施したものを準備し、従動プーリ15の設定荷重SW1を980N、1960N、2940N、3920Nの4条件に設定して、該駆動プーリ16の回転数を100〜3000rpmまで変化させたときに、前記マイクロフォン18でベルト伝動装置の作動中に発生する騒音レベル(単位dBA)を測定した。測定結果を図8及び図9にそれぞれ示す。なお、前記各プーリ15,16の溝面に、それぞれ、従来の表面処理、マイクロブラスト処理、バニシ処理を施した場合の該各溝面の負荷長さ率tpは、図6に示すとおりであり、算術平均粗さRaは、それぞれ、0.296μm、0.475μm、0.406μmであった。ここで、tp等の表面形状の計測は、島津製作所(株)製の接触式表面粗さ測定機(型式CS−411)を用いて行った。
【0045】
図8は駆動プーリ16のベルト溝面に各種処理を施したものにおいて、従動プーリ15の設定荷重SW1を変化させたときの騒音レベル(OVERALL値)を示したものである。この結果を考察すると、設定荷重SW1の大きさ、すなわちVベルト17の負荷の大小に関係なく、従来の表面処理方法よりもマイクロブラスト処理やバニシ処理の方が発生する騒音が小さくなることが判った。
【0046】
また、図9はVベルト17のブロックのピッチ(3mm)に対応する周波数成分の騒音レベルを示したものである。この図9からも上述のマイクロブラスト処理やバニシ処理を施したものの方が従来の表面処理方法よりも騒音を低減できることが判る。一般的に、Vベルト17の走行時に生じる騒音は、該Vベルト17を構成するブロックによって発生する音が支配的であるが、前記図9から、そのブロック音も大幅に低減できることが判る。
【0047】
以上より、プーリ16の溝面をマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理することで、すなわち、該溝面の表面粗さが上述の(1)式を満たすような表面処理を行うことで、ベルト走行ノイズを効果的に下げることができ、低騒音化の有効性を確認することができた。
【0048】
−耐久性の確認−
さらに、プーリの溝面に上述のような各種表面処理を施した場合の装置の耐久性を確認する確認試験も行った。
【0049】
図10に本実施例で用いた耐久試験装置を概略的に示す。この図10に示す耐久試験装置は、駆動回転軸20aに設けられたピッチ径126.4mmの駆動プーリ20と、従動回転軸21aに設けられたピッチ径70.8mmの従動プーリ21とがそれぞれ所定の軸間距離をあけて配置されていて、その外側を耐熱性のケース23によって覆われている。このケース23には、該ケース23内に熱風を送り込むための送風口23aとケース23外へ排出するための排風口23bとが形成されていて、高温状態でのベルト伝動装置の耐久性を試験できるようになっている。
【0050】
前記両プーリ20,21間には、上述の高負荷伝動用Vベルト22(図4参照)が巻き掛けられていて、従動プーリ21の設定荷重SW2(=1764±49N)を図10(b)の矢印方向に加えた状態で、両プーリ15,16を高速回転(5285±60rpm)させるように構成されている。その他の具体的な試験条件は図11に示す。
【0051】
上述のような耐久試験において、ベルト伝動装置は500時間までVベルト22の損傷等が生じず、十分な耐久性を有することを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係るベルト伝動装置の高速状態を示す、(a)上面図(b)正面図である。
【図2】ベルト伝動装置の中間状態を示す図1相当図である。
【図3】ベルト伝動装置の低速状態を示す図1相当図である。
【図4】高負荷伝動用Vベルトの斜視図である。
【図5】粗さ曲線の一例を示す説明図である。
【図6】各種方法で表面処理した場合の負荷長さ率と高度との関係を示すグラフ図である。
【図7】騒音試験装置の概略構成を示す、(a)上面図(b)正面図である。
【図8】各種方法で表面処理した場合の騒音測定結果(OVERALL値)を示す図である。
【図9】各種方法で表面処理した場合の騒音測定結果(Vベルトのブロックのピッチに対応する周波数成分のみ)を示す図である。
【図10】耐久試験装置の概略構成を示す、(a)ケースの上板を取り外した状態の上面図(b)ケースの側板の一部を取り外した状態の正面図である。
【図11】耐久試験の試験条件を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 駆動回転軸
2 駆動プーリ(Vプーリ)
3 従動回転軸
4 従動プーリ(Vプーリ)
5 高負荷伝動用Vベルト(伝動用Vベルト)
6 ベルト溝(溝部)
7 ブロック
8 張力帯
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用Vベルトを備えたベルト伝動装置に関し、特に、そのベルト走行によって生じる騒音を低減する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、VプーリにVベルトを巻き掛けて摩擦接触させることで該Vベルトを介して動力伝達を行うようにしたベルト伝動装置では、Vベルトとして、一対の張力帯に多数のブロックを嵌合させる構造のものが知られているが、このような構造の場合、Vベルト走行時の走行ノイズが比較的、大きくなるという問題があった。すなわち、VベルトがVプーリに対して出入りする際には、該VベルトのブロックがVプーリの表面に接触して衝突音を生じ、該ブロックがVプーリから離れるときには引っ掛かり音が発生する。
【0003】
このような走行ノイズを低減するための構造として、例えば、特許文献1に開示されるように、前記Vプーリの溝面の表面粗さが所定の算術平均粗さRaになるように表面粗さを調整したものや、特許文献2に開示されるように、前記溝面上にシェル形部材を設けたものなどが知られている。
【0004】
より詳しくは、前記特許文献1には、Vプーリの溝面の表面粗さを所定の算術平均粗さRaにして、VベルトとVプーリとの接触時の干渉によって生じるエネルギーを低下させることで、ベルト走行時の騒音を低減するようにしたものが開示されている。
【0005】
一方、前記特許文献2には、断面略三角形状に形成された薄板状のシェル形部材が、Vプーリの溝面全体を覆うように配設されていて、例えばシェル形部材とVプーリの溝面との間に配設された緩衝材や液体によってVベルトとVプーリとの接触時に発生するエネルギーを吸収し、ベルト走行時の騒音を低減するようにしたものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−176668号公報
【特許文献2】特開平10−122318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のように、Vプーリの溝面の表面粗さを算術平均粗さRaによって評価した場合、この評価には前記溝面の表面における微細な山部分の高さについては反映されるものの、その山部分の形状については正確に反映されているわけではなく、同程度の算術平均粗さRaを有する表面であっても山部分が全体的に高い(急峻でない)場合には、VベルトとVプーリとの微視的な接触面積が大きくなるため、該VベルトとVプーリとが接触するときの摩擦抵抗が大きくなり、発生する騒音も大きくなってしまう。
【0007】
また、前記特許文献2のように、Vプーリの溝面上にシェル形部材を配設した場合には、ベルトとの摩擦接触によってシェル形部材が損傷を受ける可能性があり、Vプーリの耐久性の観点から好ましい構造とはいえない。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、VプーリとVベルトとからなるベルト伝動装置において、該Vプーリの耐久性を確保しつつ、ベルト走行によって生じる騒音を効果的に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト伝動装置では、Vプーリの溝面における表面粗さを山部分の高さだけでなく幅も考慮した負荷長さ率tpで評価して、この負荷長さ率tpと粗さ曲線における谷底からの高さを示す高度yとが所定の関係式を満たすように、前記溝面の表面粗さを調整するようにした。
【0010】
すなわち、請求項1の発明では、一対の張力帯に多数のブロックが噛合状態で係合固定された伝動用Vベルトと、該Vベルトを巻き掛けるための溝部が形成されたVプーリとを備え、前記Vベルトの側面とVプーリの溝面との接触により動力の授受を行うようにしたベルト伝動装置を前提とする。
【0011】
そして、前記Vプーリの溝面の表面粗さを示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置における負荷長さ率tpと、谷深さが最大値となる谷底から前記所定位置までの高さの最大高さRyに対する比を百分率で示す高度yとの間に、
y≦−0.9×tp+100
という関係式が成立するように前記Vプーリの溝面が形成されているものとする。
【0012】
この構成により、Vプーリの溝面の表面形状が負荷長さ率tp(JIS B0601)という指標に基づいて判断されるため、算術平均粗さRaのように山部分の高さ方向だけでなく、山部分の幅方向もベルト溝面の表面状態として考慮される。ここで、一般的に、ベルト伝動装置では、Vベルトの側面がVプーリの溝面に押し付けられ、微視的に該溝面の山部分が潰れて変形すると考えられるため、VベルトがVプーリに接触した状態での該VベルトとVプーリの溝面との微視的な接触面積は、該溝面の山部分の幅に対応していると考えられる。
【0013】
また、上式は、Vプーリの溝面の粗さ曲線における谷底からの高さを示す高度yと、その位置での負荷長さ率tpとの関係を示すもので、上式の関係を満たしている場合には、山部分が比較的、急峻な形状をしており、VベルトとVプーリとの微視的な接触面積は、Vベルトの負荷状態に関係なく、上式の関係を満たさない場合に比べて小さくなる。
【0014】
したがって、Vプーリの溝面の表面粗さが、VベルトとVプーリの溝面との接触面積を考慮した上式の関係を満たすように、該溝面を形成することで、上式の関係を満たさない場合に比べてVベルトとVプーリとが接触した状態での微視的な接触面積を小さくすることができ、これにより、ベルト走行時に生じる騒音を確実に低減することができる。
【0015】
上述の構成において、Vプーリの溝面は、略3μm〜40μmの直径を有する砥粒によってブラスト処理されているのが好ましい(請求項2の発明)。また、前記溝面は、先端が略1.5mm〜3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具によってバニシ処理されるようにしてもよい(請求項3の発明)。これにより、Vプーリの溝面は、その表面粗さが上式の関係を満たすものとなり、請求項1の作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係るベルト伝動装置によれば、Vプーリの溝面の表面粗さを表す指標として負荷長さ率tpを用い、これが所定の関係を満たすように該溝面を形成することで、Vプーリの溝面とVベルトの側面との微視的な接触面積を小さくすることができ、これにより、ベルト走行時に発生する騒音を効果的に低減することができる。
【0017】
請求項2及び3の発明によれば、Vプーリの溝面を、所定の条件でブラスト処理またはバニシ処理することで、請求項1の構成を実現してベルト走行時の騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1〜3は本発明の実施形態に係るベルト伝動装置を示し、1は駆動回転軸、3は従動回転軸で、これら両回転軸1,3は互いに平行に配置されている。
【0020】
前記駆動回転軸1上には変速プーリからなる駆動プーリ2(Vプーリ)が配設されている。この駆動プーリ2は、前記駆動回転軸1上に回転一体にかつ摺動不能に固定されたフランジ状の固定シーブ2aと、前記駆動回転軸1上に固定シーブ2aに対向するように摺動可能にかつ回転一体に支持されたフランジ状の可動シーブ2bとからなり、これら両シーブ2a,2b間にベルト溝6(溝部)が形成されている。
【0021】
一方、前記従動回転軸3には前記駆動プーリ2と同径の変速プーリからなる従動プーリ4(Vプーリ)が設けられている。この従動プーリ4は、前記駆動プーリ2と同様の構成を有していて、従動回転軸3上に回転一体にかつ摺動不能に固定されたフランジ状の固定シーブ4aと、従動回転軸3上に、固定シーブ4aに対し前記駆動プーリ2の固定シーブ2aに対する可動シーブ2bの対向方向と反対方向でもって対向するように摺動可能にかつ回転一体に支持されたフランジ状の可動シーブ4bとからなり、これら両シーブ4a,4b間にベルト溝6(溝部)が形成されている。
【0022】
そして、前記駆動プーリ2と従動プーリ4とのベルト溝6,6間には高負荷伝動用Vベルト5が掛け渡されている。このVベルト5は、図4に示すように、左右1対のエンドレスの張力帯8,8と、この張力帯8,8にベルト長手方向に連続的に係合固定された多数のブロック7,7,…とからなる。
【0023】
前記各張力帯8は、硬質ゴムからなる保形ゴム層13の内部に、例えばアラミド繊維(組紐)等の高強度高弾性率の心線(心体)がスパイラル状に配置されて埋設されたもので、この各張力帯8の上面にはベルト幅方向に延びる一定ピッチ(例えば略3.0mmピッチ)の溝状の上側凹部9,9,…が、また下面には前記上側凹部9,9,…に対応してベルト幅方向に延びる一定ピッチの下側凹部10,10,…がそれぞれ形成されている。また、張力帯8の上下表面には、そのクラックの発生を防止し或いは耐摩耗性を向上させる等の目的で帆布11,11が一体的に接着されている。
【0024】
前記保形ゴム層13をなす硬質ゴムは、例えばメタクリル酸亜鉛を強化された水素添加NBRゴムからなり、それに補強を目的として有機短繊維12,12,…を全体に混入して強化することで、耐熱性に優れ且つ永久変形し難いように構成されている。尚、前記硬質ゴムの硬さは、JIS−C硬度計で測定したときに75゜以上のゴム硬度が必要である。
【0025】
一方、前記各ブロック7は、ベルト幅方向左右側部に前記各張力帯8を幅方向から着脱可能に嵌装せしめる切欠き溝状の嵌合部7a,7aを有する。この各嵌合部7aを除いた左右側面は駆動及び従動プーリ2,4のベルト溝6,6に接触する接触部7b,7bを構成し、このブロック7の左右の接触部7b,7b同士がなすベルト角度は、各プーリ2,4のベルト溝6の角度と同じとされている。そして、前記各ブロック7の嵌合部7a,7aにそれぞれ張力帯8,8を圧入して嵌合することで、ブロック7,7,…が張力帯8,8にベルト長手方向に連続的に固定されている。
【0026】
すなわち、前記各ブロック7における各嵌合部7aの上壁面には前記張力帯8上面の各上側凹部9に噛合する上側噛合部としての凸条からなる上側凸部7cが、また嵌合部7aの下壁面には張力帯8下面の各下側凹部10に噛合する下側噛合部としての凸条からなる下側凸部7dがそれぞれ互いに平行になるように形成されており、この各ブロック7の上下の凸部7c,7dをそれぞれ張力帯8の上下の凹部9,10に噛合せしめることで、ブロック7,7,…を張力帯8,8にベルト長手方向に圧入により係合固定し、この係合状態で各張力帯8の外側側面と各ブロック7の側面である接触部7bとの双方がプーリ2,4のベルト溝6に接触するとともに、ブロック7の上下の凸部7c,7dと各張力帯8の上下の凹部9,10との噛合によって動力授受が行われるようになっている。
【0027】
前記各ブロック7はフェノール樹脂等の硬質樹脂材料からなり、その内部には該ブロック7の略中央に位置するように軽量アルミニウム合金等からなる補強部材(図示せず)が埋設されている。この補強部材は、少なくとも上下の凸部7c,7d(張力帯8との噛合部分)や左右側面の接触部7b,7bでは硬質樹脂中に埋め込まれてブロック7表面に顕れないが(つまり、これらの部分は硬質樹脂からなっている)、その他の部分ではブロック7表面に露出していてもよい。
【0028】
そして、前記ベルト伝動装置は、両プーリ2,4の可動シーブ2b,4bをそれぞれ固定シーブ2a,4aに対して接離させて各プーリ2,4のベルト巻き付け径を変更するように構成されている。具体的には、図1に示す高速状態の場合は、駆動プーリ2の可動シーブ2bを固定シーブ2aに接近させ、かつ従動プーリ4の可動シーブ4bを固定シーブ4aから離隔させて、駆動プーリ2のベルト巻き付け径を従動プーリ4よりも大きくすることにより、駆動回転軸1の回転を従動回転軸3に増速して伝達する高速状態とする一方、逆に図3に示す低速状態の場合は、駆動プーリ2の可動シーブ2bを固定シーブ2aから離隔させ、かつ従動プーリ4の可動シーブ4bを固定シーブ4aに接近させて、駆動プーリ2のベルト巻き付け径を従動プーリ4よりも小さくして、駆動回転軸1の回転を減速して従動回転軸3に伝える低速状態とする。また、図2に示す中間状態では、前記高速状態及び低速状態の中間の状態で駆動及び従動プーリ2,4のベルト巻き付け径が略同じとなっている。
【0029】
さらに、本発明の特徴部分であるが、本実施形態に係るベルト伝動装置では、ベルト5の側面が接触する各変速プーリ2,4のベルト溝6の溝面の表面粗さは均一な表面粗さになっていて、図5に一例を示す粗さ曲線(JIS B0601)において、高さ方向の所定位置での山部分の割合を示す負荷長さ率tp(%)と、最大高さRyに対する谷底線v(谷深さが最大となる谷底を通過し且つ後述の平均線mに対して平行な線)から前記所定位置までの高さaの比を百分率で示す高度yとの間に、下式(1)のような関係が成立するように設定されている。なお、本実施形態において、前記所定位置は、粗さ曲線における高さ方向の任意の位置を意味する。
【0030】
y≦−0.9×tp+100 (1)
ここで、高度yはy=a/Ry×100(%)であり、また、負荷長さ率tp(JIS B0601)は、具体的には、次のように求められる。まず、図5に示すように、粗さ曲線から基準長さLだけ抜き取る。そして、この抜き取り部分の粗さ曲線を山頂線p(山高さが最大となる山頂を通過し且つ前記平均線mに対して平行な線)に平行な切断レベルc(高さ方向の任意の位置であり、谷底線vからの高さで考えると前記高度yに相当)で切断し、下式(2)に示すように、この各切断レベルcで得られる切断長さの和(負荷長さηp)の基準長さLに対する比を百分率で表すことにより、各切断レベルcにおける負荷長さ率tpがそれぞれ算出される。
【0031】
tp=ηp/L×100 (2)
上記(2)式において、ηp=b1+b2+…+bnであり、b1,b2,…,bnは各切断長さを示す。
【0032】
そして、前記各変速プーリ2,4のベルト溝6の溝面の表面粗さが、上述の(1)式の関係を満たすように、各変速プーリ2,4の表面をMCやフライス盤等の工作機械を用いて研削した後、前記ベルト溝6の溝面にはマイクロブラスト処理(ブラスト処理)若しくはバニシ処理が行われる。
【0033】
前記マイクロブラスト処理は、#400〜#3000(直径3μm〜40μm)の微細砥粒を圧縮空気によって前記変速プーリ2,4の溝面に高速で衝突させるもので、該溝面の表面層を除去するとともに所定の表面粗さに加工することができる。一方、前記バニシ処理は、先端が1.5mm〜3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具を前記溝面に押し付け、圧力をかけて擦ることで表面を平滑にするもので、表面層を除去することなく所定の表面粗さにすることができる。なお、加工性、生産性の観点から、溝面に施す表面処理としては、マイクロブラスト処理のほうが好ましい。
【0034】
前記ベルト溝6の溝面に上述のようなマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理をそれぞれ施した場合の表面状態を図6に示す。この図6は、横軸を負荷長さ率tp、縦軸を高度yとして、高さ方向の任意の位置である各高度y(上述の各切断レベルcに相当、本実施形態では13箇所)における負荷長さ率tpをプロットしたもので、前記ベルト溝6の溝面の表面に急峻な山が多い場合には、高度yが大きい位置での負荷長さ率tpが比較的、小さくなる一方、急峻でなく山全体が高いような場合には、高度yが大きい位置での負荷長さ率tpが比較的、大きくなる。
【0035】
前記図6から分かるように、前記ベルト溝6の溝面にマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理を施すことによって、表面形状における山部分の形状は上述の(1)式の関係を満たす(図6において斜線部分)ように形成される一方、従来の表面処理(MCやフライス盤で研削した後、防錆防食のために行う無電解ニッケルメッキ等のメッキ処理)を施した場合には、上述の(1)式の関係を満たすことができない。
【0036】
このように、ベルト溝6の表面の微細な山部分の形状を、上述の(1)式を満たすように調整することにより、Vベルト5とプーリ2,4のベルト溝6,6との微視的な接触面積も制御できるようになる。すなわち、前記プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面に前記Vベルト5が接触すると、微視的に、該ベルト溝6,6の溝面の微細な山部分の山頂付近がVベルト5の負荷に応じて潰れて若干変形するが、該山部分の形状(特に、山部分の幅)を調整することにより、このVベルト5とベルト溝6との微視的な接触面積を制御することが可能となる。
【0037】
すなわち、前記Vベルト5に作用する負荷が変化して、例えば負荷大の状態になった場合には、プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面の微小な山部分が大きく潰れて変形するため、図6において、高度yの低い部分(図6の下向きの白抜き矢印)でVベルト5とプーリ2,4とが接触することになるが、上述のように山部分の形状を調整することで、該Vベルト5とプーリ2,4との微視的な接触面積を従来の表面処理方法で処理した場合よりも小さくすることが可能となり、該Vベルト5とプーリ2,4との間の摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0038】
以上より、高負荷伝動用Vベルト5とプーリ2,4との接触の際のエネルギーを低下させる手段として、プーリ2,4のベルト溝6,6の溝面での表面粗さが上述の(1)式の関係になるように設定されているので、ベルト5のブロック7とプーリ2,4のベルト溝6,6の溝面との間の微視的な接触面積を小さくして摩擦抵抗を下げることができ、ベルト走行ノイズの発生原因となるベルト5とプーリ2,4との干渉の際に発生するエネルギーを低下させてベルト走行ノイズの低減を図ることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、プーリ2,4のベルト溝面の粗さ曲線における高さ方向の任意の位置を所定位置として、すべての高さ方向位置で上述の(1)式の関係を満たすものとしているが、ベルト5に作用する負荷によって前記ベルト溝面の微細な山部分が潰れて変形する場合のその高さ方向位置で、上述の(1)式の関係を満たし、微視的な接触面積が比較的、小さくなればよいので、該高さ方向位置を含む、ベルト5に作用する負荷の変動範囲に対応した所定範囲で上述の(1)式の関係を満たすようにしてもよい。この場合の所定位置は、前記所定範囲内での任意の位置を意味する。
【0040】
また、本実施形態では、ベルト伝動装置として固定シーブと可動シーブとから成る変速プーリを有するベルト伝動装置を用いたが、一対の固定シーブのみから成り、ベルト巻き付け径が不変の定速プーリで構成されるプーリを有するベルト伝動装置にも本発明を適応することができるのは言うまでもない。
【0041】
−比較検証−
次に、プーリの溝面をマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理して該溝面の表面粗さが上述の(1)式の関係を満たした場合の効果を確認する確認試験を行った。図7に本実施例で用いた騒音試験装置を概略的に示す。この図7に示す騒音試験装置には、駆動回転軸16aに設けられたピッチ径(ベルト巻き付け径)151.0mmの駆動プーリ16と、従動回転軸15aに設けられたピッチ径61.5mmの従動プーリ15とがそれぞれ所定の軸間距離をあけて配置されている。これら両プーリ15,16間に、上述の高負荷伝動用Vベルト17(図4参照)を巻き掛け、従動プーリ15の設定荷重SW1(=980、1960、2940、3920N)を図7の矢印方向に加えた状態で、両プーリ15,16を回転させる。
【0042】
なお、前記Vベルト17は、ベルト長さが612mmで、ベルト角度26度、ベルトピッチ幅25mm、ブロックのピッチ3mm、該ブロックの厚み2.95mmのものを用いた。
【0043】
さらに、図7(b)に示すように、前記駆動回転軸16aの中心から左側(従動回転軸15a側)に80mm、前記駆動回転軸16aの中心と従動回転軸15aの中心とを結んだ線から上方へ125mm、奥側(図7(a)において上側)へ57mm離れた位置に測温手段としてのマイクロフォン18を設けた。
【0044】
そして、前記各プーリ15,16の溝面に、それぞれ、従来の表面処理(MCやフライス盤で研削した後、防錆防食のために行う無電解ニッケルメッキ等のメッキ処理)、マイクロブラスト処理、バニシ処理を施したものを準備し、従動プーリ15の設定荷重SW1を980N、1960N、2940N、3920Nの4条件に設定して、該駆動プーリ16の回転数を100〜3000rpmまで変化させたときに、前記マイクロフォン18でベルト伝動装置の作動中に発生する騒音レベル(単位dBA)を測定した。測定結果を図8及び図9にそれぞれ示す。なお、前記各プーリ15,16の溝面に、それぞれ、従来の表面処理、マイクロブラスト処理、バニシ処理を施した場合の該各溝面の負荷長さ率tpは、図6に示すとおりであり、算術平均粗さRaは、それぞれ、0.296μm、0.475μm、0.406μmであった。ここで、tp等の表面形状の計測は、島津製作所(株)製の接触式表面粗さ測定機(型式CS−411)を用いて行った。
【0045】
図8は駆動プーリ16のベルト溝面に各種処理を施したものにおいて、従動プーリ15の設定荷重SW1を変化させたときの騒音レベル(OVERALL値)を示したものである。この結果を考察すると、設定荷重SW1の大きさ、すなわちVベルト17の負荷の大小に関係なく、従来の表面処理方法よりもマイクロブラスト処理やバニシ処理の方が発生する騒音が小さくなることが判った。
【0046】
また、図9はVベルト17のブロックのピッチ(3mm)に対応する周波数成分の騒音レベルを示したものである。この図9からも上述のマイクロブラスト処理やバニシ処理を施したものの方が従来の表面処理方法よりも騒音を低減できることが判る。一般的に、Vベルト17の走行時に生じる騒音は、該Vベルト17を構成するブロックによって発生する音が支配的であるが、前記図9から、そのブロック音も大幅に低減できることが判る。
【0047】
以上より、プーリ16の溝面をマイクロブラスト処理若しくはバニシ処理することで、すなわち、該溝面の表面粗さが上述の(1)式を満たすような表面処理を行うことで、ベルト走行ノイズを効果的に下げることができ、低騒音化の有効性を確認することができた。
【0048】
−耐久性の確認−
さらに、プーリの溝面に上述のような各種表面処理を施した場合の装置の耐久性を確認する確認試験も行った。
【0049】
図10に本実施例で用いた耐久試験装置を概略的に示す。この図10に示す耐久試験装置は、駆動回転軸20aに設けられたピッチ径126.4mmの駆動プーリ20と、従動回転軸21aに設けられたピッチ径70.8mmの従動プーリ21とがそれぞれ所定の軸間距離をあけて配置されていて、その外側を耐熱性のケース23によって覆われている。このケース23には、該ケース23内に熱風を送り込むための送風口23aとケース23外へ排出するための排風口23bとが形成されていて、高温状態でのベルト伝動装置の耐久性を試験できるようになっている。
【0050】
前記両プーリ20,21間には、上述の高負荷伝動用Vベルト22(図4参照)が巻き掛けられていて、従動プーリ21の設定荷重SW2(=1764±49N)を図10(b)の矢印方向に加えた状態で、両プーリ15,16を高速回転(5285±60rpm)させるように構成されている。その他の具体的な試験条件は図11に示す。
【0051】
上述のような耐久試験において、ベルト伝動装置は500時間までVベルト22の損傷等が生じず、十分な耐久性を有することを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係るベルト伝動装置の高速状態を示す、(a)上面図(b)正面図である。
【図2】ベルト伝動装置の中間状態を示す図1相当図である。
【図3】ベルト伝動装置の低速状態を示す図1相当図である。
【図4】高負荷伝動用Vベルトの斜視図である。
【図5】粗さ曲線の一例を示す説明図である。
【図6】各種方法で表面処理した場合の負荷長さ率と高度との関係を示すグラフ図である。
【図7】騒音試験装置の概略構成を示す、(a)上面図(b)正面図である。
【図8】各種方法で表面処理した場合の騒音測定結果(OVERALL値)を示す図である。
【図9】各種方法で表面処理した場合の騒音測定結果(Vベルトのブロックのピッチに対応する周波数成分のみ)を示す図である。
【図10】耐久試験装置の概略構成を示す、(a)ケースの上板を取り外した状態の上面図(b)ケースの側板の一部を取り外した状態の正面図である。
【図11】耐久試験の試験条件を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 駆動回転軸
2 駆動プーリ(Vプーリ)
3 従動回転軸
4 従動プーリ(Vプーリ)
5 高負荷伝動用Vベルト(伝動用Vベルト)
6 ベルト溝(溝部)
7 ブロック
8 張力帯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の張力帯に多数のブロックが噛合状態で係合固定された伝動用Vベルトと、該Vベルトを巻き掛けるための溝部が形成されたVプーリとを備え、前記Vベルトの側面とVプーリの溝面との接触により動力の授受を行うようにしたベルト伝動装置であって、
前記Vプーリの溝面の表面形状を示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置における負荷長さ率tpと、谷深さが最大値となる谷底から前記所定位置までの高さの最大高さRyに対する比を百分率で示す高度yとの間に、
y≦−0.9×tp+100
という関係式が成立するように前記Vプーリの溝面が形成されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項2】
請求項1において、
Vプーリの溝面は、略3μm乃至40μmの直径を有する砥粒によってブラスト処理されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項3】
請求項1において、
Vプーリの溝面は、先端が略1.5mm乃至3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具によってバニシ処理されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項1】
一対の張力帯に多数のブロックが噛合状態で係合固定された伝動用Vベルトと、該Vベルトを巻き掛けるための溝部が形成されたVプーリとを備え、前記Vベルトの側面とVプーリの溝面との接触により動力の授受を行うようにしたベルト伝動装置であって、
前記Vプーリの溝面の表面形状を示す粗さ曲線において、高さ方向の所定位置における負荷長さ率tpと、谷深さが最大値となる谷底から前記所定位置までの高さの最大高さRyに対する比を百分率で示す高度yとの間に、
y≦−0.9×tp+100
という関係式が成立するように前記Vプーリの溝面が形成されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項2】
請求項1において、
Vプーリの溝面は、略3μm乃至40μmの直径を有する砥粒によってブラスト処理されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項3】
請求項1において、
Vプーリの溝面は、先端が略1.5mm乃至3.0mmの曲率半径を有するように形成された工具によってバニシ処理されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−242361(P2006−242361A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62637(P2005−62637)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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