説明

ベルト式無段変速機のシール構造

【課題】可動シーブ8と回転軸11との間を必要十分にシールでき、しかも組み付け性あるいは製造作業性を向上させることができるベルト式無段変速機のシール構造を提供する。
【解決手段】ベルトが巻き掛けられるプーリが、回転軸11と一体の固定シーブ6と、その固定シーブ6に対して接近し、また離隔するように回転軸11に嵌合された可動シーブ8とによって構成されたベルト式無段変速機のシール構造において、可動シーブ8の内周面のうち固定シーブ側の内周面が回転軸11の外周面との間の隙間が狭い封止嵌合部8dとされ、その封止嵌合部8dとその封止嵌合部8dに対向する回転軸の外周部とのうちの少なくともいずれか一方に、封止嵌合部8dと回転軸11との間隔を局部的に増大させて封止嵌合部8dと回転軸11との間に介在する圧油の圧力を低下させる溝16a,16bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伝動ベルトの巻き掛け半径を変化させて変速比を変化させるベルト式無段変速機のシール構造に関し、特に、その伝動ベルトの巻き掛け半径を変化させるために回転軸に沿って移動する可動シーブと回転軸との隙間から、伝動ベルトが巻き掛けられている箇所へのオイルの漏洩を抑制するベルト式無段変速機のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来知られているベルト式無段変速機は、エンジンから動力が伝達されて駆動するプライマリプーリと、そのプライマリプーリから動力が伝達されて出力側の部材に動力を出力するセカンダリプーリと、それらのプーリに巻き掛けられてプライマリプーリからセカンダリプーリに動力を伝達する伝動ベルト(以下、単にベルトと記す。)とによって構成されている。また、それぞれのプーリは、回転軸と一体に回転する固定シーブと、固定シーブに対向して配置され、回転軸の軸線方向に摺動することができるように構成された可動シーブとによって構成されている。この可動シーブの背面側には、油圧アクチュエータが設けられており、その油圧アクチュエータに供給される油圧もしくは油量を変化させることにより、固定シーブと可動シーブとの隙間が変化させられ、ベルトの巻き掛け半径が変化させられるように構成されている。つまり、油圧もしくは油量によって変速比を変化させるように構成されている。また、ベルトを介したトルクの伝達は、ベルトと各プーリとの間の摩擦力によって行われるから、上記の油圧アクチュエータによる油圧を要求される伝達トルク容量を設定できる圧力に保持している。
【0003】
したがって、その油圧アクチュエータからオイルが漏洩してしまうと油圧や油量が低下してしまい変速比の制御性や応答性が低下し、あるいは伝達トルク容量を確保できなくなり、また油圧アクチュエータにオイルを供給するオイルポンプの動力損失もしくはアキュムレータの圧力損失が増加してしまう可能性ある。このような不都合を解消する装置として、特許文献1には、可動シーブと回転軸との隙間からベルト巻き掛け溝にオイルが漏洩することを抑制するためのOリングが設けられたベルト式無段変速機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−240079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようにOリングを設けることにより、可動シーブと回転軸との隙間からオイルが漏洩すること、すなわち油圧アクチュエータからオイルが漏洩することを抑制することができ、その結果、油圧や油量の制御性あるいは応答性を向上させることや、動力損失や圧力損失による燃費の低下を抑制することができる。このようなベルト式無段変速機は、可動シーブの内周部と回転軸の外周部とのいずれか一方にシール材を組み付けた状態で、可動シーブの内周部に回転軸を挿入して組み付ける。また、シール材は、通常、弾性変形させられて組み付けられることによりシールとして機能するものである。したがって、シール材を可動シーブの内周部と回転軸の外周部とのいずれか一方に組み付けた状態で、回転軸を可動シーブに挿入すると、そのシール材が回転軸を挿入する際の摺動抵抗となり組み付け性が低下してしまったり、シール材が可動シーブや回転軸のエッジ部分に引っかかってしまい、ベルト式無段変速機の製造作業性が損なわれる可能性がある。
【0006】
なお、回転軸の外周面と可動シーブの内周面との間の隙間(クリアランス)を微小とすることにより、両者の間からの油圧の漏洩を防止もしくは抑制することも従来行われている。しかしながら、このような構造では、可動シーブの内周部や回転軸の外周部の加工精度を向上させなければならないので、生産コストが不可避的に増大してしまう可能性がある。
【0007】
この発明は上述した事情を背景としてなされたものであって、可動シーブと回転軸との間を必要十分にシールでき、しかも組み付け性あるいは製造作業性を向上させることができるベルト式無段変速機のシール構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、ベルトが巻き掛けられるプーリが、回転軸と一体の固定シーブと、その固定シーブに対して接近し、また離隔するように前記回転軸に嵌合された可動シーブとによって構成されたベルト式無段変速機のシール構造において、前記可動シーブの内周面のうち前記固定シーブ側の内周面が前記回転軸の外周面との間の隙間が狭い封止嵌合部とされ、その封止嵌合部とその封止嵌合部に対向する前記回転軸の外周部とのうちの少なくともいずれか一方に、前記封止嵌合部と前記回転軸との間隔を局部的に増大させて前記封止嵌合部と前記回転軸との間に介在する圧油の圧力を低下させる溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記溝は、前記ベルトが巻き掛けられている状態で前記可動シーブが前記固定シーブから最も離隔した状態での前記封止嵌合部と、該封止嵌合部と対向する前記回転軸の外周部との少なくともいずれか一方に形成された溝を含むことを特徴とするベルト式無段変速機のシール構造である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記溝は、前記封止嵌合部と前記回転軸の外周面とのそれぞれに複数条、軸線方向に並んで形成され、これら封止嵌合部における溝同士の間隔と前記回転軸の外周面の溝同士の間隔とは、封止嵌合部のいずれか一つの溝と回転軸の外周面のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致した状態で、封止嵌合部の他の少なくともいずれか一つの溝と回転軸の外周面の他のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致しないように構成されていること特徴とするベルト式無段変速機のシール構造である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記封止嵌合部における溝同士の間隔と前記回転軸の外周面の溝同士の間隔とは互いに異なっていることを特徴とするベルト式無段変速機のシール構造である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、可動シーブの内周面のうち固定シーブ側の内周面が回転軸の外周面との間の隙間が狭い封止嵌合部とされている。そのため、その隙間からベルトが巻き掛けられている箇所に圧油が漏洩してしまうことを抑制することができる。また、封止嵌合部とその封止嵌合部と対向する回転軸の外周部とのうちの少なくともいずれか一方に、封止嵌合部と回転軸との間隔を局部的に増大させて封止嵌合部と回転軸との間に介在する圧油の圧力を低下させる溝が形成されているので、溝が形成されている箇所まで圧油が漏洩した場合であっても、その溝により圧油の圧力が低下させられて、ベルトが巻き掛けられている箇所に圧油が漏洩してしまうことを抑制することができる。さらに、圧油は、常時、溝および封止嵌合部と回転軸との隙間に滞留もしくは流動するので、油膜保持性能を向上させることができ、その結果、可動シーブおよび回転軸の耐久性を向上させることができる。また、オイルの漏洩を抑制するためのシール材を設けることがなく、あるいは封止嵌合部と回転軸との隙間を狭く形成するための過剰な加工精度を要求されることがないので、生産コストを削減することができる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、ベルトが巻き掛けられている状態で可動シーブが固定シーブから最も離隔した状態での封止嵌合部と、その封止嵌合部と対向する回転軸の外周部との少なくともいずれか一方に溝が形成されているので、封止嵌合部と回転軸とが嵌合している領域が最も少ない状態であっても必ず圧油の圧力を低下させて、圧油の漏洩を抑制することができる。
【0014】
さらに、請求項3の発明によれば、溝は、封止嵌合部と回転軸の外周面とのそれぞれに複数条、軸線方向に並んで形成され、封止嵌合部における溝同士の嵌合部と回転軸の外周面の溝同士の間隔とは、封止嵌合部のいずれか一つの溝と回転軸の外周面のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致した状態で、封止嵌合部の他の少なくともいずれか一つの溝と回転軸の外周面の他のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致しないように構成されている。また、請求項4の発明によれば、封止嵌合部における溝同士の間隔と回転軸の外周面の溝同士の間隔とは互いに異なっている。したがって、請求項3および請求項4の発明は、回転軸の軸線方向において、より多くの箇所で圧油の圧力を低下させて、圧油の漏洩を抑制する効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係るベルト式無段変速機のシール構造を説明するための拡大断面図である。
【図2】この発明で対象とすることのできるベルト式無段変速機の構成を説明するための模式図である。
【図3】そのベルト式無段変速機におけるセカンダリプーリの断面図である。
【図4】環状溝の断面図であり、その環状溝を流動するオイルの流れを説明するための図である。
【図5】第1封止嵌合部に形成された環状溝同士の間隔と、回転軸に形成された環状溝同士の間隔との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、この発明に係るベルト式無段変速機のシール構造の構成例を図を参照しつつ説明する。図2は、この発明の対象とすることのできるベルト式無段変速機1の構成を示したものである。なお、図2に示すベルト式無段変速機1の基本的な構成は、従来知られたベルト式無段変速機の構成と同様である。まず、図に示すベルト式無段変速機1は、図示しない内燃機関や電動機などの動力源から伝達された動力によって駆動するプライマリプーリ2と、そのプライマリプーリ2から伝達された動力によって駆動するセカンダリプーリ3と、それらプーリ2,3に巻き掛けられたベルト4とによって構成されている。また、それぞれのプーリ2,3は、互いに対向した面がテーパ状に形成された固定シーブ5,6と、可動シーブ7,8とにより構成されている。可動シーブ7,8は、固定シーブ5,6に接近・離隔することができるように構成されている。すなわち、固定シーブ5,6と可動シーブ7,8との間隔を変化させることによりベルト4の巻き掛け半径を変化させて、変速比を変化させることができるように構成されている。さらに、可動シーブ7,8を、固定シーブ5,6側に押圧して変速比や伝達トルク容量を制御する油圧アクチュエータ9,10が可動シーブ7,8の背面側に配置されている。
【0017】
図3は、図2におけるセカンダリプーリ3の構成をより具体的に説明するための断面図である。なお、プライマリプーリ2の構成はセカンダリプーリ3の構成と同様の構成であるので、以下の説明ではセカンダリプーリ3の構成を例に挙げて説明する。図に示すセカンダリプーリ3は、両端を軸受12により保持された出力軸11と、その出力軸11の一方の端部側に一体に形成された円錐状の固定シーブ6と、出力軸11の出力側、すなわち図に示す右側に配置され、固定シーブ6に接近・離隔することができるように出力軸11に嵌合した可動シーブ8とによって構成されている。可動シーブ8の構成を具体的に説明すると、可動シーブ8は、円錐状に形成されたテーパ部8aと、そのテーパ部8aの内周側から背面に向けて、すなわち出力側に向けて突出したボス部8bとにより構成されていて、そのテーパ部8aとボス部8bとの内周部分が中空状に形成されている。このように可動シーブ8を形成することにより、出力軸11を可動シーブ8に挿入して組み付けることができ、また可動シーブ8が出力軸11の軸線方向に移動することができる。また、可動シーブ8の内周面、具体的には、ボス部8bの内周面と出力軸11の外周面とがボールスプラインなどにより係合されており、可動シーブ8と出力軸11とが回転方向において動力伝達可能に形成されている。
【0018】
さらに、可動シーブ8の出力側には、ボス部8bを覆うように形成されたシリンダ13が設けられている。このシリンダ13は、内部にオイルを供給することにより、固定シーブ6側に押圧する荷重を可動シーブ8に作用させるものである。すなわち、シリンダ13は、内周部分を出力軸11と連結し、外周部分を可動シーブ8の外周側から背面側に突出して形成された突出部8cとシール材14を介して液密状に当接することにより、シリンダ13の内部の空間が液密状となるように構成されている。したがって、シリンダ13に供給する油圧あるいは油量を制御することにより、可動シーブ8を押圧する荷重を制御して、固定シーブ6と可動シーブ8との隙間、すなわちベルト巻き掛け溝の幅を制御することやベルト4を挟みつける挟圧力を制御することができる。つまり、変速比や伝達トルク容量を制御することができる。なお、シリンダ13の内部には、可動シーブ8に軸線方向の付勢力を作用させるリターンスプリング15が設けられている。
【0019】
そして、シリンダ13にオイルを供給もしくは排出するための油路11a,11bが出力軸11に形成されている。具体的には、出力軸11の端部に開口した中空部11aが出力軸11に形成され、その中空部11aから可動シーブ8のボス部8bの内周面と出力軸11の外周面との隙間に連通した油路11bが形成され、その出力軸11の開口端に図示しないオイルポンプやアキュムレータなどの油圧源からオイルが供給されるように構成されている。また、油路11bの開口部は、ボールスプラインなどにより係合している部分(以下、スプライン係合部17と記す。)を流通してシリンダ13にオイルが供給されるように、スプライン係合部17の図に示す左側に形成されている。このように油路11a,11bを形成することにより、スプライン係合部17にオイルを流動させて潤滑性を向上させることができる。
【0020】
一方、可動シーブ8に出力軸11を挿入して組み付けることから、可動シーブ8のテーパ部8aの内周面と、出力軸11の外周面とには不可避的な隙間18が形成される。そのため、その隙間18からオイルがベルト巻き掛け溝に漏洩してしまうと、シリンダ13の内部の油圧あるいは油量の制御性や応答性が低下してしまったり、そのオイルを供給するための図示しないオイルポンプの駆動頻度が増大して動力損失が増加してしまったりする可能性がある。したがって、この発明は、可動シーブ8の内周面と出力軸11の外周面とからベルト巻き掛け溝にオイルが漏洩してしまうことを抑制することができる構造となっている。図1は、その構造の一例を示した図であり、図3におけるI部の拡大図である。また、図1は、可動シーブ8が最も固定シーブ6から離れた状態を示している。図に示す例では、スプライン係合部17側からベルト巻き掛け溝にオイルが漏洩してしまうことを抑制するために、可動シーブ8のうち固定シーブ6側の内周面と出力軸11の外周面との隙間が狭くなるように構成されている。具体的には、可動シーブ8の内周部、より具体的には、テーパ部8aの内周部と出力軸11の外周部との隙間が、ボス部8bの内周部と出力軸11の外周部より狭くなるように形成されている。すなわち、テーパ部8aと対向する箇所の出力軸11の外径が、ボス部8bと対向する箇所の出力軸11の外径より大きく形成されている。なお、以下の説明では、テーパ部8aの内周部を第1封止嵌合部8d、出力軸11の外径が大きく形成されている箇所を第2封止嵌合部11cと記す。
【0021】
また、第1封止嵌合部8dの内周面と第2封止嵌合部11cの外周面とには、それぞれ断面形状が矩形の環状溝16a,16bが、軸線方向に複数形成されている。なお、図に示す例では、第1封止嵌合部8dの内周面に2つの環状溝16aが形成され、第2封止嵌合部11cの外周面に3つの環状溝16bが形成されている。また、これら環状溝16a,16bは、第1封止嵌合部8dが移動する範囲内に形成されている。すなわち、可動シーブ8が固定シーブ6から最も離れた状態であっても、軸線方向における第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとが重なり合う部分Lに、第1封止嵌合部8dの内周面に形成された環状溝16aと、第2封止嵌合部11cの外周面に形成された環状溝16bとの少なくとも一つの環状溝16a(16b)があるように形成されている。なお、図1に示す例では、第2封止嵌合部11cの外周面に形成された一つの環状溝16bが、軸線方向における第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとが重なり合う部分Lにあるように形成されている。
【0022】
上述したように環状溝16a,16bを形成することによる作用を説明する。まず、ボス部8bと出力軸11との隙間に供給されたオイルは、第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとの隙間に流入する。ついで、その流入したオイルは、相対的に圧力の低い固定シーブ側に流動して環状溝16a,16bに流入される。環状溝16a,16bの断面積は、第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとの隙間の断面積より大きいため、環状溝16a,16bに流入したオイルは、環状溝16a,16bの内部で断熱膨張する。すなわち、オイルの温度を一定とした状態で膨張することにより、オイルの圧力が低下する。言い換えれば、オイルの運動エネルギが熱エネルギに変換されることによりオイルの圧力が低下する。そのため、環状溝16a,16bの内部の圧力を低下させることにより、固定シーブ6側へ掛かる油圧を低下させることができるので、環状溝16a,16bから固定シーブ6側にオイルが漏洩することを抑制することができる。また、環状溝16a,16bの内部に漏洩したオイルの流れは、図4に示すように渦流Rとなる。そのため、そのオイルの渦流Rによる粘性摩擦抵抗などによってオイルのエネルギを低下させて、上記効果と同様に油圧を低下させることができる。したがって、環状溝16a,16bの内部の油圧を低下させることにより、環状溝16a,16bからベルト巻き掛け溝側にオイルが流動する流速や圧力差を低下させることができ、その結果、ベルト巻き掛け溝側へのオイルの漏洩を抑制することができる。さらに、環状溝16a,16bを軸線方向に複数形成することにより、各環状溝16a,16bで油圧を低下させることができる、すなわち、徐々に油圧を低下させることができるので、よりオイルの漏洩を抑制することができる。
【0023】
また、上述したように可動シーブ8が固定シーブ6から最も離れた状態であっても、軸線方向における第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとがその状態で重なり合う部分Lに、第1封止嵌合部8dの内周面に形成された環状溝16aと、第2封止嵌合部11cの外周面に形成された環状溝16bとの少なくとも一つの環状溝16a(16b)があるように形成されているので、第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとの隙間からベルト巻き掛け溝に至る過程で、必ず油圧を低下させる箇所を設けることができる。そのため、オイルの漏洩を抑制することができる。
【0024】
一方、上述したように環状溝16a,16bを形成した場合であっても、第1封止嵌合部8dの内周面に形成された環状溝16a,16a同士の間隔と、第2封止嵌合部11cの外周面に形成された環状溝16b,16b同士の間隔とが同一である場合には、各環状溝16a,16b同士が軸線方向において一致した部分で油圧を低下させることができるものの、各環状溝16a,16bが形成されていない部分同士が一致する箇所では、油圧を低下させる効果を得ることができない。そのため、図5に示すように第1封止嵌合部8dの内周面に形成された環状溝16a,16a同士の間隔Aと、第2封止嵌合部11cの外周面に形成された環状溝16b,16b同士の間隔Bとが異なるように形成することが好ましい。つまり、各環状溝16a,16b同士が軸線方向において一箇所で一致したとしても、他の箇所で必ず一致しない環状溝16a(16b)があるように形成する。このように環状溝16a,16a(16b,16b)同士の間隔を設定することにより、軸線方向において複数箇所で油圧を低下させることができる。つまり、オイルの漏洩をより低下させることができる。
【0025】
上述したようにシール材などを設けず、かつテーパ部8aの内周面と出力軸11の外周面とに隙間を空けた状態でオイルの漏洩を抑制することができるので、可動シーブ8に出力軸11を挿入する際の組み付け性を向上させることができる。また、第1封止嵌合部8dの内周面と第2封止嵌合部11cの外周面とにはオイルが常時滞留もしくは流動するので、油膜保持性能を向上させることができる。したがって、可動シーブ8や出力軸11の耐久性を向上させることができる。
【0026】
なお、この発明は、可動シーブ8の内周面と出力軸11の外周面との隙間を狭く形成し、かつその隙間が狭く形成された箇所に溝が形成されていればよいので、上述したように出力軸11の外径を大きくして隙間を狭くするように構成されたものに限らず、可動シーブ8のうち固定シーブ6側の内径を小さく形成したものや、可動シーブ8の内径を小さく形成し出力軸11の外径を大きく形成したものであってもよい。また、テーパ部8aの内周面に限らず、ボス部8bの固定シーブ6側の部分を含んで封止嵌合部を形成してあってもよい。さらに、第1封止嵌合部8dと第2封止嵌合部11cとのいずれか一方に溝を形成したものであってもよい。また、溝を形成することにより断面積が増大させてオイルを断熱膨張させることができればよいので、溝の断面形状が矩形でなくてもよい。さらに、その溝は、第1封止嵌合部8dの内周面および第2封止嵌合部11cの外周面の全周に形成されていてもよく、所定の領域に形成された溝を円周方向に複数形成したものであってもよい。また、上述した例では、油圧アクチュエータ9,10のオイルが漏洩することを抑制するように構成しているが、単に可動シーブ8の摺動負荷を抑制するために流動させられる潤滑油の漏洩を抑制するために同様の構成を適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…ベルト式無段変速機、 2…プライマリプーリ、 3…セカンダリプーリ、 4…ベルト、 5,6…固定シーブ 7,8…可動シーブ、 8a…テーパ部、 8b…ボス部、8d…第1封止嵌合部、 11…出力軸、 11c…第2封止嵌合部、 16a,16b…環状溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻き掛けられるプーリが、回転軸と一体の固定シーブと、その固定シーブに対して接近し、また離隔するように前記回転軸に嵌合された可動シーブとによって構成されたベルト式無段変速機のシール構造において、
前記可動シーブの内周面のうち前記固定シーブ側の内周面が前記回転軸の外周面との間の隙間が狭い封止嵌合部とされ、
その封止嵌合部とその封止嵌合部に対向する前記回転軸の外周部とのうちの少なくともいずれか一方に、前記封止嵌合部と前記回転軸との間隔を局部的に増大させて前記封止嵌合部と前記回転軸との間に介在する圧油の圧力を低下させる溝が形成されていることを特徴とするベルト式無段変速機のシール構造。
【請求項2】
前記溝は、前記ベルトが巻き掛けられている状態で前記可動シーブが前記固定シーブから最も離隔した状態での前記封止嵌合部と、該封止嵌合部と対向する前記回転軸の外周部との少なくともいずれか一方に形成された溝を含むことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機のシール構造。
【請求項3】
前記溝は、前記封止嵌合部と前記回転軸の外周面とのそれぞれに複数条、軸線方向に並んで形成され、
これら封止嵌合部における溝同士の間隔と前記回転軸の外周面の溝同士の間隔とは、封止嵌合部のいずれか一つの溝と回転軸の外周面のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致した状態で、封止嵌合部の他の少なくともいずれか一つの溝と回転軸の外周面の他のいずれか一つの溝とが軸線方向で一致しないように構成されている
こと特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機のシール構造。
【請求項4】
前記封止嵌合部における溝同士の間隔と前記回転軸の外周面の溝同士の間隔とは互いに異なっていることを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速機のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−47534(P2013−47534A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185754(P2011−185754)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】