説明

ベルト式無段変速機

【課題】オイルポンプの駆動損失の増加を抑制すること。
【解決手段】静止部材に対して回転運動するプライマリプーリ50及びセカンダリプーリ60と、これらに巻き掛けられたベルト110と、プライマリプーリ50にてベルト挟圧力を発生させるプライマリ油圧室55と、プライマリ油圧室55へと作動油の供給を行う際及びプライマリ油圧室55から作動油を排出する際に開弁する作動油供給排出弁70と、駆動油圧室81の油圧でピストン82を初期位置から摺動させて作動油供給排出弁70を強制的に開弁させるアクチュエータ80と、を備え、このアクチュエータ80に、プライマリプーリ50の回転に伴う駆動油圧室81の遠心油圧によってピストン82に作用した開弁方向の力に抗して当該ピストン82を機械的な力で初期位置に保持させるピストン初期位置保持手段(遠心油圧取消室84,遠心油圧取消部材85)を設けること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車輌には、駆動源である内燃機関や電動機から出力された駆動力(即ち、出力トルク)を車輌の走行状態に応じた最適の条件で路面へと伝達するために、その駆動源の出力側に変速機が設けられている。一般に、その変速機は、手動変速機と自動変速機とに大別され、更に、その自動変速機は、変速比を無段階(連続的)に可変制御する無段変速機と、変速比を段階的(不連続)に可変制御する有段変速機と、に区別される。
【0003】
ここで、その無段変速機としては、主たる構成部品として、2つのプーリ(駆動源からの出力トルクが伝達されるプライマリプーリ及びこのプライマリプーリに伝達された出力トルクを変化させて出力するセカンダリプーリ)と、これらの各々のV字形状の溝に巻き掛けて、そのプライマリプーリに伝達された出力トルクをセカンダリプーリに伝達するベルトと、を備えたベルト式無段変速機が知られている。そのプライマリプーリとセカンダリプーリは、夫々に主要部品が同等の構成からなるものであり、平行に配置された回転軸としての夫々のプーリ軸(プライマリプーリ軸、セカンダリプーリ軸)と、自己のプーリ軸上に固定された固定シーブ(プライマリ固定シーブ、セカンダリ固定シーブ)と、自己のプーリ軸上で固定シーブに対して軸線方向に対向させて配置され、そのプーリ軸上を軸線方向に摺動する可動シーブ(プライマリ可動シーブ、セカンダリ可動シーブ)と、ベルトに対してのベルト挟圧力を発生させる挟圧力発生油圧室(プライマリ油圧室、セカンダリ油圧室)と、により各々構成されている。例えば、この種のベルト式無段変速機としては、下記の特許文献1に開示されている。
【0004】
これらプライマリプーリとセカンダリプーリにおいては、夫々に固定シーブと可動シーブとの間でV字形状の溝が形成され、その夫々のV字形状の溝にベルトが巻き掛けられている。そして、これらプライマリプーリとセカンダリプーリにおいては、その夫々の挟圧力発生油圧室の油圧を調圧することによって各々の可動シーブがプーリ軸上で軸線方向へと摺動し、その夫々のV字形状の溝の幅が変化する。このベルト式無段変速機は、その夫々のV字形状の溝の幅を可変制御することによって、そのプライマリプーリ及びセカンダリプーリの各々のV字形状の溝においてのベルトとの接触半径を無段階に変化させ、変速比を無段階に可変制御するものである。つまり、このベルト式無段変速機は、駆動源からの出力トルクを無段階に変化させるものである。また、その夫々の挟圧力発生油圧室は、その油圧により可動シーブを固定シーブ側に押圧し、ベルトに対してベルト挟圧力を発生させる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−323978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のベルト式無段変速機では、可動シーブの軸線方向への移動を規制し、固定シーブに対する可動シーブの軸線方向における位置を一定に保持して変速比を固定する場合がある。従って、この従来のベルト式無段変速機においては、固定シーブに対する可動シーブの軸線方向における位置を一定にするために挟圧力発生油圧室の油圧を所定の油圧に保持する必要があるので、変速比の変更時のみならず変速比を固定する際にも挟圧力発生油圧室に作動油を供給し続ける必要がある。
【0007】
しかしながら、従来のベルト式無段変速機において常に挟圧力発生油圧室へと作動油を供給し続けるためには、その作動油の供給を行う作動油供給制御装置のオイルポンプが駆動され続けていなければならず、そのオイルポンプの駆動損失が増加してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、オイルポンプの駆動損失の増加を抑制することのできるベルト式無段変速機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、静止部材に対して回転運動する2つのプーリと、これら各プーリに巻き掛けられ、一方のプーリに伝達された駆動源からの駆動力を他方のプーリに伝達するベルトと、これら各プーリに形成され、油圧によりベルトに対してベルト挟圧力を発生させる挟圧力発生油圧室と、これら各プーリの内の少なくとも何れか一方に当該プーリと一体回転すべく設け、このプーリの挟圧力発生油圧室へと作動油の供給を行う際に開弁する作動油供給弁と、作動油の供給された挟圧力発生油圧室から当該作動油を排出する際に開弁し、そのプーリと一体回転する作動油排出弁と、駆動油圧室の油圧により、ピストンを初期位置から当該駆動油圧室に対する摺動方向の内の一方に摺動させることで作動油供給弁及び作動油排出弁を強制的に開弁させる弁開閉手段と、を備えるベルト式無段変速機において、その弁開閉手段は、プーリの回転に伴う駆動油圧室の遠心油圧によってピストンに作用した開弁方向の力に抗して当該ピストンを機械的な力で初期位置に保持させるピストン初期位置保持手段を設けている。
【0010】
例えば、そのピストン初期位置保持手段は、請求項2記載の発明の如く、プーリの回転時に掛かる遠心力によりピストンを作動油供給弁の閉弁方向及び作動油排出弁の閉弁方向へと押圧する遠心油圧取消部材を備えている。
【0011】
この請求項1,2記載のベルト式無段変速機においては、弁開閉手段を作動させる必要の無いときに、そのピストン初期位置保持手段によってピストンが初期位置に保持されるので、弁開閉手段の作動が抑制されて、作動油供給弁及び作動油排出弁の開弁を防ぐことができる。
【0012】
また、上記目的を達成する為、請求項3記載の発明では、上記請求項2記載のベルト式無段変速機において、作動油供給弁の弁体と当該作動油供給弁に係るピストンに対してのピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材、作動油排出弁の弁体と当該作動油排出弁に係るピストンに対してのピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材を夫々に一体化している。
【0013】
また、上記目的を達成する為、請求項4記載の発明では、上記請求項2記載のベルト式無段変速機において、作動油供給弁と作動油排出弁とは共通の弁体を備え、この弁体とピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材を一体化している。
【0014】
この請求項3,4記載のベルト式無段変速機においては、作動油供給弁や作動油排出弁にピストン初期位置保持手段の機能を併用させることができるので、部品点数の削減や小型化が可能になる。
【0015】
また、上記目的を達成する為、請求項5記載の発明では、上記請求項2,3又は4に記載のベルト式無段変速機において、ピストン及び遠心油圧取消部材よりも外径側に空間を備えるようにピストン初期位置保持手段を構成している。
【0016】
この請求項5記載のベルト式無段変速機においては、その空間に作動油を貯留できるので、その作動油を遠心油圧取消部材におけるピストンなどとの摺動部分の潤滑油として利用することができる。また、その空間に異物を捕集できるので、その摺動部分における異物の噛み込みを防ぐことができる。
【0017】
また、上記目的を達成する為、請求項6記載の発明では、上記請求項1,2,3,4又は5に記載のベルト式無段変速機において、油圧の力も利用してピストンを初期位置に保持させるようピストン初期位置保持手段を構成している。
【0018】
この請求項6記載のベルト式無段変速機においては、冷間時などのように作動油の粘度が低く、遠心油圧に抗する力を遠心油圧取消部材のみで発生させることができないときであっても、その油圧を用いて遠心油圧に抗する力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るベルト式無段変速機においては、弁開閉手段を作動させる必要の無いとき(例えば、挟圧力発生油圧室の油圧を一定に保ちたいとき)に作動油供給弁及び作動油排出弁の開弁を防ぐことができるので、そのときに挟圧力発生油圧室から作動油が排出されず、この挟圧力発生油圧室に油圧を一定に保つ為の作動油を供給しなくてもよくなる。これが為、このベルト式無段変速機によれば、挟圧力発生油圧室の油圧を一定に保つ為にオイルポンプを駆動させる必要がないので、そのオイルポンプの駆動損失の増加を抑制することができる。また、油圧の力を利用せずに機械的な力を用いるピストン初期位置保持手段によって、遠心油圧に抗する力を発生させる為にオイルポンプを駆動させる必要がないので、これによっても、そのオイルポンプの駆動損失の増加を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係るベルト式無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。ここで、以下の実施例においてはベルト式無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源として内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を例示するが、その駆動源については、必ずしもこれに限定されるものではない。また、以下の実施例においては、一方のプーリをプライマリプーリとし、他方のプーリをセカンダリプーリとして説明するが、その一方のプーリをセカンダリプーリとし、その他方のプーリをプライマリプーリとしてもよい。
【実施例1】
【0021】
本発明に係るベルト式無段変速機の実施例1を図1から図13に基づいて説明する。
【0022】
ここでは、本実施例1のベルト式無段変速機1Aについて動力伝達装置の全体構成と共に説明する。
【0023】
この動力伝達装置は、図1に示す如く、駆動源である内燃機関10と、この内燃機関10の出力側に配置された静止部品としてのトランスアクスル20と、で構成される。
【0024】
そのトランスアクスル20は、図1に示す如く、内燃機関10の出力側から順に、この内燃機関10に取り付けられたトランスアクスルハウジング21と、このトランスアクスルハウジング21に取り付けられたトランスアクスルケース22と、このトランスアクスルケース22に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー23と、を備えており、これらにより筐体が構成されている。
【0025】
そのトランスアクスルハウジング21の内部には、トルクコンバータ(発進装置)30が収納されている。このトルクコンバータ30は、駆動源からの駆動力(即ち、内燃機関10の出力トルク)を増加又はそのまま後述するベルト式無段変速機1Aに伝達するものであり、ポンプ(ポンプインペラ)31,タービン(タービンランナ)32,ステータ33,ロックアップクラッチ34及びダンパ装置35を少なくとも備えて構成されている。
【0026】
先ず、そのポンプ31は、内燃機関10のクランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能な中空軸36に取り付けられている。つまり、このポンプ31は、その中空軸36と共にクランクシャフト11と同一の軸線を中心にして回転可能である。また、このポンプ31は、フロントカバー37に接続されている。このフロントカバー37は、内燃機関10のドライブプレート12を介してクランクシャフト11に連結されている。
【0027】
また、タービンランナ32は、上記ポンプ31と対向するように配置されている。このタービンランナ32は、上記中空軸36内部に配置され、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能なインプットシャフト38に取り付けられている。つまり、このタービンランナ32は、インプットシャフト38と共にクランクシャフト11と同一の軸線を中心にして回転可能である。
【0028】
また、そのポンプ31とタービンランナ32との間には、ワンウェイクラッチ39を介してステータ33が配置されている。このワンウェイクラッチ39は、上記トランスアクスルハウジング21に固定されている。また、このタービンランナ32とフロントカバー37との間には、ロックアップクラッチ34が配置されており、このロックアップクラッチ34は、ダンパ装置35を介してインプットシャフト38に連結されている。なお、上記ポンプ31やフロントカバー37により形成されるケーシングは、作動油供給部分であり、作動油供給部分に作動油を供給する作動油供給制御装置130から作動流体として作動油が供給されている。
【0029】
ここで、このトルクコンバータ30の動作について説明する。
【0030】
内燃機関10の出力トルクは、クランクシャフト11からドライブプレート12を介してフロントカバー37に伝達される。その際、ロックアップクラッチ34がダンパ装置35により解放されている場合には、フロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクがポンプ31に伝達され、このポンプ31とタービンランナ32との間を循環する作動油を介してタービンランナ32に伝達される。そして、このタービンランナ32に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、インプットシャフト38に伝達される。つまり、このトルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して、内燃機関10からの出力トルクを増加してベルト式無段変速機1Aに伝達する。上記においては、ステータ33により、ポンプ31とタービンランナ32との間を循環する作動油の流れを変化させ所定のトルク特性を得ることができる。
【0031】
一方、上記ロックアップクラッチ34がダンパ装置35によりロック(フロントカバー37と係合)されている場合、そのフロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、作動油を介さずに直接インプットシャフト38に伝達される。つまり、このトルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して内燃機関10からの出力トルクをそのままベルト式無段変速機1Aに伝達する。
【0032】
次に、上記トランスアクスルケース22及びトランスアクスルリヤカバー23の内部には、前後進切換機構40とベルト式無段変速機1Aと差動装置たる最終減速機90とが収納されている。
【0033】
先ず、その前後進切換機構40について説明する。
【0034】
この前後進切換機構40は、図1に示す如く、トルクコンバータ30内のインプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクを後述するベルト式無段変速機1Aのプライマリプーリ50に伝達するものであり、少なくとも遊星歯車装置41と、フォワードクラッチ42と、リバースブレーキ43と、から構成されている。
【0035】
その遊星歯車装置41は、サンギヤ44と、ピニオン(プラネタリピニオン)45と、リングギヤ46と、により構成されている。
【0036】
ここで、そのサンギヤ44は連結部材(図示略)にスプライン嵌合されており、その連結部材はプライマリプーリ50の回転軸たるプライマリプーリ軸51にスプライン嵌合されている。従って、サンギヤ44に伝達されたトルクは、プライマリプーリ軸51に伝達される。
【0037】
また、上記ピニオン45は、サンギヤ44の周囲に複数個(例えば3個)配置され、そのサンギヤ44に噛み合わされている。ここで、夫々のピニオン45は、ピニオン45自身を自転可能に支持すると共にサンギヤ44の周囲で一体に公転可能に支持する切換用キャリヤ47に保持されている。この切換用キャリヤ47は、その外周端部でリバースブレーキ43に接続されている。
【0038】
また、上記リングギヤ46は、切換用キャリヤ47に保持されている各ピニオン45に噛み合わされ、フォワードクラッチ42を介してトルクコンバータ30のインプットシャフト38に接続されている。
【0039】
続いて、この前後進切換機構40を構成するフォワードクラッチ42は、作動油供給部分であるインプットシャフト38の中空部に作動油供給制御装置130から作動油が供給されることにより、ON/OFF制御されるものである。このフォワードクラッチ42のOFF時には、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクがリングギヤ46に伝達される。一方、このフォワードクラッチ42のON時には、リングギヤ46とサンギヤ44と各ピニオン45とが互いに相対回転することなく、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクが直接サンギヤ44に伝達される。
【0040】
更に、この前後進切換機構40を構成するリバースブレーキ43は、作動油供給部分である図示しないブレーキピストンに作動油供給制御装置130から作動油が供給されることにより、ON/OFF制御されるものである。このリバースブレーキ43がON時には、切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できない状態となる。一方、このリバースブレーキ43がOFF時には、切換用キャリヤ47が解放され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できる状態となる。
【0041】
次に、本実施例1のベルト式無段変速機1Aの構成について説明する。
【0042】
このベルト式無段変速機1Aは、上記インプットシャフト38と同心円上に配置されたプライマリプーリ軸51を有するプライマリプーリ50と、そのプライマリプーリ軸51に対して所定の間隔を設けて平行に配置されたセカンダリプーリ軸61を有するセカンダリプーリ60と、そのプライマリプーリ50とセカンダリプーリ60とに巻き掛けられたベルト110と、を備えている。
【0043】
先ず、そのプライマリプーリ50側の構成について説明する。
【0044】
プライマリプーリ50は、静止部品(例えば、トランスアクスル20)に対して回転運動するベルト式無段変速機1Aにおける一方のプーリであり、前後進切換機構40を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト110によってセカンダリプーリ60へと伝達するものである。このプライマリプーリ50は、図1及び図2に示すように、プライマリプーリ軸51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁54と、プライマリ油圧室55と、により構成されている。
【0045】
そのプライマリプーリ軸51は、図2に示すように、プーリ軸受111,112によって回転可能に支持されている。このプライマリプーリ軸51には、軸線方向における両端部の内の一方の端部(同図右側端部)にのみ開口する供給排出側主通路51aと、他方の端部(同図左側端部)にのみ開口する駆動側主通路51bと、が形成されている。
【0046】
その供給排出側主通路51aは、プライマリ油圧室55に対しての作動油供給経路及び作動油排出経路の一部を形成するものであり、プライマリ固定シーブ52側に形成されて作動油供給制御装置130の後述する油路R7と連通している。この供給排出側主通路51aには、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55に供給される作動油が流入する一方、プライマリ油圧室55から排出された作動油が流入する。即ち、この供給排出側主通路51aは、作動油供給制御装置130とプライマリ油圧室55との間で供給又は排出される作動油を通過させるものである。この供給排出側主通路51aは、その先端部近傍に形成された軸側連通通路51c、プライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間に形成された環状の空間部T1及びプライマリ隔壁54とプライマリ可動シーブ53とプライマリプーリ軸51との間に形成された環状の空間部T2を介して、プライマリ隔壁54の隔壁側連通通路54bと連通している。なお、その空間部T1,T2は、後述するプライマリ可動シーブ53のスプライン53cとプライマリプーリ軸51との間を介して連通している。また、本実施例1の軸側連通通路51cは、供給排出側主通路51aの円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成されている。
【0047】
一方、駆動側主通路51bは、後述するアクチュエータ80の駆動油圧室81に対しての作動油供給経路及び作動油排出経路の一部を形成するものであり、プライマリ可動シーブ53側に形成されて作動油供給制御装置130の後述する油路R8と連通している。この駆動側主通路51bには、作動油供給制御装置130から駆動油圧室81に供給されるアクチュエータ80の作動油が流入する一方、その駆動油圧室81から排出された作動油が流入する。即ち、この駆動側主通路51bは、作動油供給制御装置130と駆動油圧室81との間で供給又は排出される作動油を通過させるものである。この駆動側主通路51bは、その先端部近傍に形成された軸側連通通路51d、プライマリ隔壁54とプライマリプーリ軸51との間に形成された環状の空間部T3及びプライマリ隔壁54に形成された駆動連通通路54eを介して、駆動油圧室81と連通している。なお、本実施例1の軸側連通通路51dは、駆動側主通路51bの円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成されている。また、本実施例1においては、その軸側連通通路51dの本数に合わせて、プライマリ隔壁54の駆動連通通路54eが同じく円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成されている。
【0048】
また、このプライマリプーリ50の一部を成すプライマリ固定シーブ52は、図2に示すように、プライマリ可動シーブ53と対向する位置にプライマリプーリ軸51と一体回転するように設けられている。ここで例示するプライマリ固定シーブ52は、プライマリプーリ軸51の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、本実施例1のプライマリ固定シーブ52は、プライマリプーリ軸51の外周に一体的に形成されている。
【0049】
一方、プライマリ可動シーブ53は、図2に示すように、円筒部53aと、環状部53bと、により構成されている。その円筒部53aはプライマリプーリ軸51と同一回転軸を中心に形成されており、その環状部53bは円筒部53aのプライマリ固定シーブ52側の端部から径方向外側に突出させて形成されている。このプライマリ可動シーブ53は、円筒部53aの内周面に形成されたスプライン53cとプライマリプーリ軸51の外周面に形成されたスプライン51eとをスプライン嵌合させることによって、プライマリプーリ軸51に対して軸線方向へと摺動できるように支持されている。
【0050】
ここで、そのプライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間(即ち、プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との夫々に対向する面の間)には、ベルト110を巻き掛けるV字形状のプライマリ溝110aが形成されている。
【0051】
また、このプライマリプーリ50の一部を成すプライマリ隔壁54は、図2に示すように、環状部材であり、プライマリプーリ軸51と同一回転軸を中心にして、且つ、プライマリ可動シーブ53を挟んでプライマリ固定シーブ52と軸線方向で対向する位置関係に配置されている。このプライマリ隔壁54は、プライマリプーリ軸51に圧入し、プーリ軸112を介してナットで締め付けることによって、このプライマリプーリ軸51と一体回転するように設けられている。
【0052】
このプライマリ隔壁54には、径方向内側に、軸線方向へと延在させた弁配置通路54aが形成されている。この弁配置通路54aは、一方の端部(図右側端部)をプライマリ油圧室55に開口させ、他方の端部(同図左側端部)をプライマリ隔壁54の内部で閉塞させると共に隔壁側連通通路54bに連通させている。また、この弁配置通路54aには、作動油供給排出弁70の後述する弁体71により閉塞される環状の弁座面72が形成されている。ここで、この弁座面72は、弁配置通路54aにおける上記の一方の端部に形成される。
【0053】
従って、このプライマリ隔壁54の隔壁側連通通路54bは、作動油供給排出弁70を介してプライマリプーリ50に作動油を供給する作動油供給経路の一部を成す作動油の供給通路として機能すると共に、作動油供給排出弁70を介してプライマリプーリ50から作動油を排出する作動油排出経路の一部を成す作動油の排出通路としても機能する。この隔壁側連通通路54bは、一方の端部(同図径方向外側端部)を弁配置通路54aと連通させ、他方の端部(同図径方向内側)をプライマリ隔壁54の内周面に開口して空間部T2と連通させている。なお、本実施例1の弁配置通路54a及び隔壁側連通通路54bは、円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成されている。また、夫々の弁配置通路54aには、作動油供給排出弁70が各々配置されている。
【0054】
また、このプライマリ隔壁54には、各弁配置通路54aと同一軸線上に図2に示す摺動支持孔54cが夫々形成されている。これら各摺動支持孔54cは、一方の端部(同図右側端部)を弁配置通路54aに連通させ、他方の端部(同図左側端部)をアクチュエータ80のピストン82(ピストン主体82a)の往復移動方向(軸線方向)の内の一方の側面(同図右側側面)と対向する対向面54dに開口させている。
【0055】
また、このプライマリ隔壁54には、駆動側主通路51bと駆動油圧室81との間で作動油を供給又は排出させる駆動連通通路54eが形成されている。ここで、本実施例1においては、このプライマリ隔壁54とプーリ軸受112との間にその夫々と軸線方向にて対向する環状部を備えた後述するカバー部材83が設けられている。このカバー部材83は、例えばプライマリプーリ軸51に嵌合されている。これが為、本実施例1においては、プライマリ隔壁54のカバー部材83との対向面に駆動油圧室81へと連通する溝を形成し、この溝を駆動連通通路54eとして利用する。これにより、このプライマリ隔壁54における駆動連通通路54eの形成部分の肉厚を薄くできるので、ベルト式無段変速機1Aのプライマリプーリ50側の軸線方向長さを短縮化することができる。
【0056】
続いて、このプライマリプーリ50の一部を成すプライマリ油圧室55は、ベルト式無段変速機1Aにおける一方の挟圧力発生油圧室であり、図2に示すように、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側に押圧することで、プライマリプーリ50(換言すれば、V字形状のプライマリ溝110aに巻き掛けられたベルト110)に対してベルト挟圧力を発生させるものである。このプライマリ油圧室55は、プライマリ可動シーブ53とプライマリ隔壁54とにより形成される空間部である。ここで、プライマリ可動シーブ53の円筒状の突出部53dとプライマリ隔壁54との間及びプライマリ可動シーブ53の円筒部53aとプライマリ隔壁54との間には、例えばシールリングなどのプライマリ油圧室用シール部材S1が夫々設けられている。つまり、プライマリ油圧室55を構成するプライマリ可動シーブ53とプライマリ隔壁54とにより形成される空間部は、プライマリ油圧室用シール部材S1によりシールされて油密性を確保している。
【0057】
このプライマリ油圧室55には、プライマリプーリ軸51の供給排出側主通路51aに流入した作動油供給制御装置130からの作動油が供給される。具体的に、このプライマリ油圧室55は、作動油供給制御装置130から供給された作動油の圧力(即ち、プライマリ油圧室55の油圧P1)によりプライマリ可動シーブ53を軸線方向に摺動させ、このプライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52に対して接近又は離隔させるものである。これにより、このプライマリ油圧室55は、そのプライマリ油圧室55の油圧P1によりベルト110に対してベルト挟圧力を発生させ、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置を変更させる。従って、このプライマリ油圧室55は、主にベルト式無段変速機1Aの変速比を変更する際に油圧の調節が行われる。
【0058】
ここで、作動油供給排出弁70について説明する。
【0059】
この作動油供給排出弁70は、作動油供給弁であると共に作動油排出弁でもある。つまり、この作動油供給排出弁70は、ベルト式無段変速機1Aにおける一方の挟圧力発生油圧室であるプライマリ油圧室55に作動油を供給する際に開弁するものであると共に、プライマリ油圧室55から作動油を排出する際に開弁するものでもある。この作動油供給排出弁70は、図2、図7、図9に示すように、プライマリ油圧室55の外部(即ち、プライマリプーリ50の外部)からこのプライマリ油圧室55への作動流体である作動油の供給、そのプライマリ油圧室55からプライマリプーリ50の外部への作動油の排出、そのプライマリ油圧室55の作動油の保持を行うものである。本実施例1の作動油供給排出弁70は、プライマリプーリ50のプライマリ隔壁54に形成された各弁配置通路54a内に夫々配置されている(即ち、本実施例1の作動油供給排出弁70は、円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成されている)。つまり、本実施例1の各作動油供給排出弁70は、プライマリプーリ50と一体回転するように配置及び構成されている。
【0060】
例えば、本実施例1の各作動油供給排出弁70は、ボール式の逆止弁であり、弁体71と、弁座面72と、弁体弾性部材73と、押圧力伝達部材74と、スナップリング75と、により構成されている。
【0061】
その弁体71は、弁座面72の最小内径よりも大きい直径の球状体であり、その弁座面72よりもプライマリ油圧室55側に配置する。ここでの弁座面72は、プライマリ固定シーブ52側(弁配置通路54aの他方の端部から一方の端部)へと向かうほどに径の大きくなる円錐台の如きテーパー形状であり、後述するピストン82の押圧部82bと同心円上に配置する。従って、この作動油供給排出弁70は、弁体71を弁座面72に接触させることで、弁配置通路54aとプライマリ油圧室55との連通を遮断させる一方、弁体71を弁座面72から離すことで、弁配置通路54aとプライマリ油圧室55とを連通させる。つまり、本実施例1の各作動油供給排出弁70は、弁体71がプライマリ固定シーブ52側へと移動して弁座面72から離れることで開弁動作を行い、弁体71がそれとは逆方向に移動して弁座面72に接触することで閉弁動作を行う。
【0062】
弁体弾性部材73は、弁体閉弁方向押圧力発生手段である。この弁体弾性部材73は、押圧力伝達部材74を介して弁体71を弁座面72へと押し付ける方向に付勢された状態で配置されている。例えば、ここでは、その弁体弾性部材73としてプライマリプーリ軸51と同一軸線上に配置した環状の皿バネを用い、その押圧力伝達部材74としてプライマリプーリ軸51と同一軸線上で且つ弁体弾性部材73よりも弁体71側に配置した環状部材を用いる。ここでの弁体弾性部材73は、作動油供給排出弁70の閉弁状態においてその外郭側のみが押圧力伝達部材74に閉弁方向の付勢力を発生させるよう配置する。これが為、この弁体弾性部材73の内周面側がプライマリ隔壁54に対して作動油供給排出弁70の開弁方向へと移動しないようにスナップリング75で押さえている。また、ここでの押圧力伝達部材74は、プライマリ隔壁54におけるプライマリ可動シーブ53の円筒部53aを覆う円筒部の外周面上を軸線方向へと摺動できるよう配置する。スナップリング75は、そのプライマリ隔壁54の円筒部の外周面上で弁体弾性部材73を保持している。従って、この弁体弾性部材73は、弁体71を弁座面72に接触させる方向への閉弁付勢力を発生させるので、この閉弁付勢力が作動油供給排出弁70の閉弁方向の弾性部材押圧力である弁体閉弁方向押圧力として弁体71に押圧力伝達部材74を介して作用する。これにより、弁体71が弁座面72に押さえつけられ、各作動油供給排出弁70が逆止弁として機能する。
【0063】
ここで、プライマリ隔壁54には、押圧力伝達部材74との対向面に当該押圧力伝達部材74と同等以上の大きさの環状凹部54fが形成されており、その押圧力伝達部材74を介して弁体閉弁方向押圧力を弁体71に働かせることができる。また、その押圧力伝達部材74には弁体71との接触部分に当該弁体71の接触端が落ち込む凹部を形成しておくことが好ましく、これにより、その弁体71が開弁又は閉弁動作を行うときの押圧力伝達部材74上での転動を回避することができるので、その開弁又は閉弁時における弁体71への押圧力の分散を防ぎ、応答性よく作動油供給排出弁70を作動させることができる。
【0064】
続いて、アクチュエータ80について説明する。
【0065】
このアクチュエータ80は、各作動油供給排出弁70の弁開閉手段であり、その各作動油供給排出弁70を強制的に開弁するものである。このアクチュエータ80は、駆動油圧室81とピストン82とにより構成されたものであり、プライマリ隔壁54を挟んで作動油供給排出弁70とは反対側に配設される。
【0066】
その駆動油圧室81は、作動油が供給されるものであり、供給された作動油の圧力(即ち、駆動油圧室81の油圧P2)によって上記各作動油供給排出弁70の開閉動作を制御するものである。この駆動油圧室81は、ピストン82の往復移動方向(軸線方向)の内の他方の側面(同図左側側面)側に配設されたものであり、その側面と図2に示すカバー部材83との間に形成される環状の空間部により構成される。そのカバー部材83は、プライマリ隔壁54とプーリ軸受112との間に挟持される前述した環状部と、この環状部の外周端から軸線方向へと延設されてピストン82の環状のピストン主体82aの外周面を覆う円筒部と、を備えている。ここで、そのピストン82のピストン主体82aの外周面とカバー部材83の円筒部との間及びそのピストン主体82aの内周面とプライマリ隔壁54との間には、例えばシールリングなどの駆動油圧室用シール部材S2,S3が設けられている。つまり、駆動油圧室81を構成するピストン82のピストン主体82aとカバー部材83とにより形成される空間部は、駆動油圧室用シール部材S2によりシールされて油密性を確保している。
【0067】
また、ピストン82は、駆動油圧室81の油圧P2の作用により軸線方向へと摺動する環状のピストン主体82aと、このピストン主体82aにより押動されることで各作動油供給排出弁70の弁体71に押圧力を掛ける複数の円柱状又は円筒状の押圧部82bと、により構成され、駆動油圧室81に対して軸線方向に摺動自在に支持されている。
【0068】
このピストン82のピストン主体82aは、駆動油圧室81の油圧P2によって作用するピストン開弁方向押圧力により、弁体71に向けた軸線方向(即ち、各作動油供給排出弁70の開弁方向)へと摺動する。一方、このピストン82の各押圧部82bは、プライマリ隔壁54の各摺動支持孔54cに各々挿入され、その各摺動支持孔54cにおいて軸線方向へと摺動自在に支持されている。これが為、この夫々の押圧部82bは、プライマリプーリ50と一体になって回転する。また、これら各押圧部82bは、一方の端部(図2の右側端部)が各作動油供給排出弁70の弁体71に夫々接触し、他方の端部(同図左側端部)がピストン主体82aと接触できるようにする。従って、その各押圧部82bは、各弁体71とピストン主体82aに接触した状態でプライマリプーリ50に対して軸線方向へと摺動することで、アクチュエータ80と各作動油供給排出弁70との間において軸線方向の力(即ち、ピストン82のピストン主体82aに作用するピストン開弁方向押圧力)を夫々の弁体71に伝達する。これにより、このピストン82は、各作動油供給排出弁70を開弁させることができる。なお、各押圧部82bは、ピストン主体82aとは別体のものであってもよく、そのピストン主体82aに対して一体的に設けたものであってもよい。本実施例1においては、前者の別体構造のものを例示する。
【0069】
ここで、上述した各作動油供給排出弁70の弁体71には、弁座面72から離間させる方向(即ち、作動油供給排出弁70の開弁方向)の弁体開弁方向押圧力と、弁座面72に接触させる方向(即ち、作動油供給排出弁70の閉弁方向)の弁体閉弁方向押圧力と、が働く。その弁体閉弁方向押圧力としては、上記弁体弾性部材73の閉弁付勢力により弁体71に作用する弾性部材押圧力と、プライマリ油圧室55の油圧P1により弁体71に作用する作動油閉弁方向押圧力と、が含まれる。これが為、この各作動油供給排出弁70は、その弁体開弁方向押圧力が弁体閉弁方向押圧力を超えることによって、弁体71が弁座面72から離れて開弁する。一方、この各作動油供給排出弁70は、その弁体閉弁方向押圧力が弁体開弁方向押圧力を超えることによって、弁体71が弁座面72に接触して閉弁する。つまり、本実施例1においては、その弁体開弁方向押圧力をピストン82のピストン開弁方向押圧力により増加させることによって、各作動油供給排出弁70を強制的に開弁させる。従って、本実施例1においては、プライマリ油圧室55に作動油を供給する際及びプライマリ油圧室55から作動油を排出する際にこのアクチュエータ80を作動させて各作動油供給排出弁70を強制的に開弁し、強制的に作動油の供給及び排出を行わせる。
【0070】
なお、プライマリ油圧室55の油圧P1により弁体71に作用する作動油閉弁方向押圧力は、上述のように閉弁方向の押圧力として弁体71に作用するため、プライマリ油圧室55の油圧P1が上昇しても弁体71が弁座面72から離れることはない。従って、その弁体71に作用する弁体開弁方向押圧力が弁体開弁方向押圧力を超えない限り各作動油供給排出弁70の閉弁状態は維持されるので、一方の挟圧力発生油圧室であるプライマリ油圧室55の作動油がこのプライマリ油圧室55に確実に保持され、このプライマリ油圧室55の油圧を一定に保つことができる。
【0071】
従って、従来のベルト式無段変速機のように、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置を一定に維持するために、作動油供給制御装置130から一方の挟圧力発生油圧室であるプライマリ油圧室55へ作動油を供給し続ける場合には、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55までの作動油供給経路に所定圧力の作動油が存在することとなる。そして、この従来の作動油供給経路には、静止部材と可動部材との摺動部が複数箇所含まれており、変速比の固定時において所定圧力の作動油が摺動部から作動油供給経路の外部に漏れる虞があった。
【0072】
ここで、その静止部材とは、ベルト式無段変速機1Aを構成する部材において、回転、摺動などを行わない部材のことである。例えばトランスアクスル20のトランスアクスルハウジング21,トランスアクスルケース22及びトランスアクスルリヤカバー23である。一方、可動部材とは、ベルト式無段変速機1Aを構成する部材において、回転、摺動などを行う部材である。例えばプライマリプーリ軸51などである。従って、摺動部とは、例えば、トランスアクスル20のトランスアクスルハウジング21、トランスアクスルケース22、トランスアクスルリヤカバー23などに対して、プライマリプーリ軸51が回転する部分などが含まれる。
【0073】
その従来のベルト式無段変速機に対して、本実施例1のベルト式無段変速機1Aは、各作動油供給排出弁70がプライマリ油圧室55と上記摺動部との間に配置されている。つまり、各作動油供給排出弁70を閉弁状態に維持してプライマリ油圧室55に作動油を保持した状態にした場合には、そのプライマリ油圧室55と各作動油供給排出弁70との間に従来の如き固定部材と可動部材との摺動部が存在しない。これにより、本実施例1のベルト式無段変速機1Aにおいては、その摺動部からの作動油の漏れを抑制することができるようになるので、作動油供給制御装置130における後述するオイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。
【0074】
また、本実施例1の各作動油供給排出弁70は、作動油供給弁と作動油排出弁とを共用させたものであるので、開弁(実施例1では強制的に開弁)することで、プライマリ油圧室55への作動油の供給動作とこのプライマリ油圧室55からの作動油の排出動作を、また、閉弁することで、プライマリ油圧室55内の作動油の保持動作を1つの弁で行うことができる。なお、本実施例1においては各作動油供給排出弁70を強制的に開弁する為のアクチュエータ80の駆動源として駆動油圧室81の油圧P2を用いているが、その駆動源は、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えばモータなどの回転力や電磁力などを用いてもよい。
【0075】
ところで、プライマリプーリ軸51の軸側連通通路51dやプライマリ隔壁54の駆動連通通路54eは、プライマリプーリ50の回転と共に一体になって回転する。これが為、その軸側連通通路51dや駆動連通通路54eの作動油がプライマリプーリ50の回転に伴う遠心力によって駆動油圧室81側へと流動し、駆動油圧室81の油圧P2を上昇させてしまう可能性がある。つまり、各作動油供給排出弁70の閉弁状態を維持したい場合(即ち、変速比固定時のように駆動油圧室81に作動油を供給する必要のない場合)であるにも拘わらず、その駆動油圧室81に発生した遠心油圧によってアクチュエータ80(ピストン82のピストン主体82a)が作動し、各作動油供給排出弁70を開弁させてしまう虞がある。
【0076】
そこで、本実施例1のアクチュエータ80には、そのような遠心油圧によるアクチュエータ80の作動を回避し、各作動油供給排出弁70を閉弁状態に保持する閉弁状態保持手段を設ける。
【0077】
具体的に、ピストン82が初期位置(ここでは、図2に示す各作動油供給排出弁70が閉弁状態のときの位置を初期位置とする。)に保持されていれば各作動油供給排出弁70が閉弁状態に保たれるので、本実施例1の閉弁状態保持手段としては、遠心油圧に抗する機械的な押圧力をピストン82に付与し、これにより、そのピストン82を初期位置に保持するピストン初期位置保持手段について例示する。
【0078】
このピストン初期位置保持手段は、図2〜図4−2に示す如く、ピストン82を中心にして駆動油圧室81とは反対側に形成した遠心油圧取消室84と、この遠心油圧取消室84内で少なくとも駆動油圧室81の遠心油圧に抗する押圧力をピストン82に付与する遠心油圧取消部材85と、により構成する。
【0079】
その遠心油圧取消室84とは、図3及び図4−1に示す如く、ピストン82のピストン主体82aを挟んで駆動油圧室81とは反対の面(以下、「遠心油圧抗力発生面」という。)82a1側に設けた空間部であり、その遠心油圧抗力発生面82a1とプライマリ隔壁54における遠心油圧抗力発生面82a1との当接面に穿設した凹部とカバー部材83とで囲まれた空間のことをいう。また、その遠心油圧取消部材85とは、プライマリプーリ50の回転に伴う遠心力によって径方向外側への押圧力を遠心油圧取消室84内で発生させるものであり、その押圧力の分力の一部を遠心油圧取消室84の形状に従ってピストン主体82aの遠心油圧抗力発生面82a1に付与するものである。
【0080】
ここでは、この遠心油圧取消部材85として、球状や円柱状などの如く遠心油圧取消室84内で転動自在であり、且つ、ピストン82のピストン主体82aを遠心力による径方向外側への押圧力の一部で遠心油圧に抗して初期位置に保持することのできる程度の質量を有している錘を使用する。本実施例1においては、円柱状の錘(以下、「ローラー」という。)を例示する。また、本実施例1の遠心油圧取消室84には、径方向外側に向かうにつれてピストン主体82aの遠心油圧抗力発生面82a1との間隔が狭まる傾斜面84aを形成する。
【0081】
従って、ローラー85が遠心油圧抗力発生面82a1と傾斜面84aとに挟持された状態でローラー85に遠心力が働くので、その遠心力による径方向外側への押圧力の一部が軸線方向の遠心油圧抗力として遠心油圧抗力発生面82a1に作用する。これが為、各作動油供給排出弁70を開弁させるべく駆動油圧室81に遠心油圧が発生したとしても、少なくともこれに抗する遠心油圧抗力を遠心油圧取消室84とローラー85とによりピストン82のピストン主体82aに発生させるので、そのピストン82が初期位置を保持して各作動油供給排出弁70の無用な開弁を回避することができる。そして、これにより、各作動油供給排出弁70の閉弁状態を維持したい場合にこれを保つことができるようになるので、例えば、アクチュエータ80の作動が望まれるまでプライマリ油圧室55の油圧を一定に保持し、変速比を固定し続けることができる。一方、アクチュエータ80を作動させたときには、図4−2に示す如く、ローラー85はピストン主体82aに押されて傾斜面84a径方向内側へと転動していく。
【0082】
また、このような機械的なピストン初期位置保持手段を配備することによって、ピストン82の小型化や軽量化を図ることができる。即ち、ピストン初期位置保持手段の遠心油圧抗力の発生源として油圧を用いる場合には、その油圧による押圧力を大きくする為にピストン主体82aにおける油圧との接触面積を拡げる必要があり、ピストン主体82aが大型化してしまう。また、ピストン82は、質量が小さいほど駆動油圧室81の遠心油圧の影響を受けやすいので、このようなピストン初期位置保持手段が配備されていない場合、質量を大きくして遠心油圧の影響を少なくする必要があった。しかしながら、本実施例1においては、この機械的な力を利用したピストン初期位置保持手段によって遠心油圧の影響を取り消すことができるので、ピストン82の小型化や軽量化が可能になる。そして、これに付随して、作動油供給排出弁70の弁体弾性部材73についても弾発力を低下させることができる。従って、本実施例1のピストン初期位置保持手段は、ピストン82を軽快に往復移動させることができるようになるので、アクチュエータ80の作動時の応答性を向上させることができる。
【0083】
更に、このピストン初期位置保持手段が無ければ、例えば変速比固定時に作動油供給排出弁70が遠心油圧により開弁してしまうので、プライマリ油圧室55の油圧を一定に保持する為には、オイルポンプ132を駆動してプライマリ油圧室55に作動油を供給しなければならないが、ここでは、その為のオイルポンプ132の駆動が不要なので、オイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。また更に、本実施例1のピストン初期位置保持手段は、その遠心油圧抗力の発生源としてローラー85による遠心力という自然発生的な機械的な力を利用し、油圧を利用していないので、遠心油圧抗力を発生させる為に例えば作動油供給制御装置130のオイルポンプ132を駆動させる必要がなく、そのオイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができ、また、その遠心油圧抗力発生時の制御性や信頼性を高めることができる。
【0084】
ここで、そのローラー85は、運転開始時(換言すれば、プライマリプーリ50が回転し始めたとき)の遠心油圧の影響を防ぐ為に、少なくともプライマリプーリ50が回転し始めたとき直ぐに遠心油圧抗力発生面82a1と傾斜面84aとに接触させ、その遠心油圧抗力発生面82a1に遠心油圧抗力を働かせることが好ましい。ここでは、その為に、図4−1に示す如く、遠心油圧取消室84の径方向内側の面84bとピストン主体82aの内周面との間の最短距離L1、その面84bと傾斜面84aの平面部分との間の最短距離L2を規定し、これら各最短距離L1,L2がローラー85の半径r(球状体の場合も同じくその半径r)よりも大きくなるように設定する(r>L1,L2)。これにより、本実施例1においては、ローラー85が運転開始時に遠心油圧取消室84内やピストン主体82aへ引っ掛からず滑らかに転動するので、即座に遠心油圧抗力発生面82a1と傾斜面84aとに接触させることができ、運転開始時の遠心油圧によるアクチュエータ80の作動を回避して信頼性の高い変速比制御を精度良く実行させることができる。
【0085】
このピストン初期位置保持手段においては、例えば、摺動支持孔54cとピストン82の押圧部82bとの間からピストン主体82a側へと流入した作動油がプライマリ隔壁54とピストン主体82aとの間の微小隙間から遠心油圧取消室84に伝わってくる。これが為、その作動油が潤滑油となり、ローラー85と遠心油圧抗力発生面82a1、ローラー85と傾斜面84aとの間の摺動抵抗や磨耗を防いでいる。ここで、その作動油は、このベルト式無段変速機1Aのあらゆる摺動部分を流れているので、微小ながらも磨耗粉や塵埃などの異物を含んでいる可能性がある。そこで、本実施例1においては、遠心油圧取消室84におけるローラー85よりも径方向外側に図4−1に示す空間84cを設け、この空間84cに異物を捕集させる。これにより、異物をローラー85よりも径方向外側に閉じ込めることができ、ローラー85がその摺動部分にて異物を噛み込むなどの状況が回避されるので、そのローラー85の円滑な動きが担保され、また、ローラー85やこれとの摺動面の磨耗や傷が防がれて、ピストン初期位置保持手段の信頼性の向上が図れる。
【0086】
一方、遠心油圧取消室84の作動油が増えすぎると、この作動油が逆に抵抗となってローラー85の円滑な動きを妨げてしまう。これが為、本実施例1においては、遠心油圧取消室84における余剰分の作動油を抜くことのできる図4−1に示す油抜き孔86を設ける。ここで、遠心油圧取消室84における油抜き孔86の開口位置は、回転軸中心から起算した以下の図4−1に示す3つの径(R1,R2,R3)を用いて規定し、ローラー85の夫々の摺動面に作動油が行き渡るようにする。その「R1」は回転軸中心から油抜き孔86の開口位置までの径、「R2」は回転軸中心からローラー85とピストン主体82aの摺動面までの径、「R3」は回転軸中心からローラー85と傾斜面84aの摺動面までの径を表しており、その油抜き孔86の開口位置までの径R1が夫々のローラー摺動面までの径R2,R3よりも小さくなるように設定する(R1<R2,R3)。即ち、油抜き孔86の開口位置は、ローラー85の夫々の摺動面よりも径方向内側に配置する。これにより、ローラー85の夫々の摺動面に作動油が行き渡り、そのローラー85や摺動面の磨耗を防ぐことができるので、ピストン初期位置保持手段の耐久性が向上する。
【0087】
これら遠心油圧取消室84と遠心油圧取消部材(ローラー)85の組み合わせは、ピストン82のピストン主体82aの全体に均衡の取れた押圧力を掛けるように、複数組(ここでは、図3に示す如く3組)用意し、更に、軸線を中心にしてその夫々を均等に配置することが好ましい。
【0088】
続いて、セカンダリプーリ60側の構成について説明する。
【0089】
このセカンダリプーリ60は、静止部品、例えばトランスアクスル20に対して回転運動するベルト式無段変速機1Aにおける他方のプーリであり、ベルト110を介してプライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1Aの最終減速機90に伝達するものである。このセカンダリプーリ60は、図1に示すように、セカンダリプーリ軸61と、セカンダリ固定シーブ62と、セカンダリ可動シーブ63と、セカンダリ油圧室64、セカンダリ隔壁65と、トルクカム66により構成されている。なお、符号69は、パーキングブレーキギヤを示している。
【0090】
そのセカンダリプーリ軸61は、プーリ軸受113,114により回転可能に支持されている。また、このセカンダリプーリ軸61は、内部に図示しない作動油通路を有しており、この作動油通路には、作動油供給制御装置130からセカンダリ油圧室64に供給される作動油が流入する。
【0091】
また、セカンダリ固定シーブ62は、セカンダリ可動シーブ63と対向する位置にセカンダリプーリ軸61と一体回転するように設けられている。ここで例示するセカンダリ固定シーブ62は、セカンダリプーリ軸61の外周から径方向外側に突出する環状部として形成されている。つまり、本実施例1のセカンダリ固定シーブ62は、セカンダリプーリ軸61の外周に一体的に形成されている。
【0092】
一方、セカンダリ可動シーブ63は、その内周面に形成された図示しないスプラインと、セカンダリプーリ軸61の外周面に形成された図示しないスプラインとがスプライン嵌合することで、このセカンダリプーリ軸61に対して軸線方向へと摺動できるように支持されている。
【0093】
ここで、そのセカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間(即ち、セカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との夫々に対向する面の間)には、ベルト110を巻き掛けるV字形状のセカンダリ溝110bが形成されている。
【0094】
また、セカンダリ油圧室64は、ベルト式無段変速機1Aにおける他方の挟圧力発生油圧室であり、図1に示すように、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62側に押圧することで、セカンダリプーリ60(換言すれば、V字形状のセカンダリ溝110bに巻き掛けられたベルト110)に対してベルト挟圧力を発生させるものである。このセカンダリ油圧室64は、セカンダリプーリ軸61と、セカンダリ可動シーブ63と、そのセカンダリプーリ軸61に固定された円板形状のセカンダリ隔壁65と、により形成される空間部である。
【0095】
ここで、セカンダリ可動シーブ63には、軸線方向の一方に突出(即ち、最終減速機90側に突出)させた環状の突出部63aが形成されている。一方、セカンダリ隔壁65には、軸線方向の他方向に突出(即ち、セカンダリ可動シーブ63側に突出)させた環状の突出部65aが形成されている。そして、その夫々の突出部63aと突出部65aとの間には、例えばシールリングなどの図示しないシール部材が設けられている。つまり、セカンダリ油圧室64を構成するセカンダリ可動シーブ63とセカンダリ隔壁65とにより形成される空間部は、図示しないセカンダリ油圧室用シール部材によりシールされて油密性を確保している。
【0096】
また、セカンダリ油圧室64には、図示しない作動流体供給孔を介して、セカンダリプーリ軸61の図示しない作動油通路に流入した作動油供給制御装置130からの作動油が供給される。つまり、このセカンダリ油圧室64は、作動油供給制御装置130から供給された作動油の圧力(即ち、セカンダリ油圧室64の内圧)によりセカンダリ可動シーブ63を軸線方向に摺動させ、このセカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に対して接近又は離隔させるものである。これにより、このセカンダリ油圧室64は、そのセカンダリ油圧室64の内圧によりベルト110に対してベルト挟圧力を発生させ、このベルト110のプライマリプーリ50及びセカンダリプーリ60に対しての接触半径を一定に維持することができる。
【0097】
また、トルクカム66は、図5−1に示すように、セカンダリプーリ60のセカンダリ可動シーブ63に環状に設けられた山谷状の第1係合部63bと、この第1係合部63bとセカンダリプーリ軸61の軸線方向において対向する後述する中間部材67に形成された第2係合部67aと、この第1係合部63bと第2係合部67aとの間に配置された円板形状の複数の伝達部材68と、により構成されている。
【0098】
その中間部材67は、セカンダリ隔壁65と一体に形成、またはセカンダリ隔壁65に固定され、プーリ軸受け113、115によりセカンダリプーリ軸61やセカンダリ可動シーブ63に対してセカンダリプーリ軸61上で相対回転可能に支持されている。この中間部材67は、動力伝達経路100の入力軸101と例えばスプライン嵌合によって固定されている。つまり、セカンダリプーリ60に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、この中間部材67を介して動力伝達経路100に伝達される。
【0099】
ここで、このトルクカム66の動作について説明する。プライマリプーリ50に内燃機関10からの出力トルクが伝達され、このプライマリプーリ50が回転すると、ベルト110を介してセカンダリプーリ60が回転する。このとき、セカンダリプーリ60のセカンダリ可動シーブ63は、このセカンダリ固定シーブ62、セカンダリプーリ軸61、プーリ軸受113ともに回転するため、このセカンダリ可動シーブ63と中間部材67との間に相対回転が発生する。そして、図5−1に示す第1係合部63bと第2係合部67aとが接近した状態から、複数の伝達部材68によって、図5−2に示すように第1係合部63bと第2係合部67aとが離隔した状態に変化する。これにより、このトルクカム66は、セカンダリプーリ60におけるベルト110に対してのベルト挟圧力を発生する。
【0100】
つまり、このセカンダリプーリ60には、ベルト110に対してベルト挟圧力を発生させる手段として、挟圧力発生油圧室であるセカンダリ油圧室64以外にトルクカム66が備えられている。ここでは、このトルクカム66が主としてベルト挟圧力を発生させ、セカンダリ油圧室64はトルクカム66により発生したベルト挟圧力の不足分を発生させるものである。なお、セカンダリプーリ60においてベルト110に対してのベルト挟圧力を発生する手段については、セカンダリ油圧室64のみであってもよい。
【0101】
このベルト式無段変速機1Aのベルト110は、プライマリプーリ50を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをセカンダリプーリ60に伝達するものである。このベルト110は、図1に示すように、プライマリプーリ50のプライマリ溝110aとセカンダリプーリ60のセカンダリ溝110bとの間に巻き掛けられている。本実施例1のベルト110は、例えば多数の金属製の駒と複数本のスチールリングで構成された無端ベルトである。
【0102】
続いて、トランスアクスルケース22とトランスアクスルリヤカバー23の内部に収納された最終減速機90について説明する。
【0103】
この最終減速機90は、動力伝達経路100を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクを車輪120,120から路面に伝達するものである。この最終減速機90は、中空部が形成されたデフケース91と、ピニオンシャフト92と、デフ用ピニオン93,94と、サイドギヤ95,96と、により構成されている。
【0104】
そのデフケース91は、軸受97,98により回転可能に支持されている。また、このデフケース91の外周には、リングギヤ99が設けられており、このリングギヤ99がファイナルドライブピニオン105と噛み合わされている。また、ピニオンシャフト92は、デフケース91の中空部に取り付けられている。また、デフ用ピニオン93,94は、そのピニオンシャフト92に回転可能に取り付けられている。サイドギヤ95,96は、そのデフ用ピニオン93,94の両方に噛み合わされている。このサイドギヤ95,96は、夫々ドライブシャフト121,122の一方の端部に固定されている。そのドライブシャフト121,122の他方の端部には、車輪120,120が取り付けられている。
【0105】
ここで、上述した動力伝達経路100は、図1に示すように、セカンダリプーリ60と最終減速機90との間に配置されている。この動力伝達経路100は、セカンダリプーリ軸61と同一軸線上の入力軸101と、この入力軸101と平行なインターミディエイトシャフト102と、カウンタドライブピニオン103と、カウンタドリブンギヤ104と、ファイナルドライブピニオン105とにより構成されている。その入力軸101及びこの入力軸101に固定されているカウンタドライブピニオン103は、軸受118,119により回転可能に保持されている。また、インターミディエイトシャフト102は、軸受116,117により回転可能に支持されている。また、カウンタドリブンギヤ104は、インターミディエイトシャフト102に固定されており、カウンタドライブピニオン103と噛み合わされている。また、ファイナルドライブピニオン105は、インターミディエイトシャフト102に固定されている。
【0106】
続いて、作動油供給制御装置130について説明する。
【0107】
この作動油供給制御装置130は、ベルト式無断変速機1A及び内燃機関10が搭載されている車輌において作動油の供給を必要とする作動油供給部分に作動油を供給するものである。この作動油供給制御装置130は、図6に示すように、プライマリ油圧室55、セカンダリ油圧室64、駆動油圧室81などに作動油を供給し、これらの油圧、作動油の供給流量、作動油の排出流量を制御することによってベルト式無段変速機1Aの変速比を制御するものでもある。なお、同図では、プライマリ油圧室55、セカンダリ油圧室64、駆動油圧室81を除く作動油供給部分(上述した作動油供給部分や、内燃機関10の作動油供給部分(例えば、可動部品との間に摺動部を有する静止部品、可動部品又は静止部品との間に摺動部を有する可動部品、加熱される部品やオイルにより駆動する駆動装置))の図示は省略する。
【0108】
この作動油供給制御装置130は、図6に示すように、オイルパン131と、オイルポンプ132と、ライン圧制御装置133と、一定圧制御装置134と、プライマリ油圧室用制御装置135と、駆動油圧室用制御装置136と、セカンダリ油圧室用制御装置137と、により構成されている。
【0109】
そのオイルポンプ132は、オイルパン131に貯留されている作動油を吸引、加圧して、吐出するものである。このオイルポンプ132は、油路R1を介してライン圧制御装置133に接続されている。従って、このオイルポンプ132によって加圧され、吐出された作動油は、ライン圧制御装置133に供給される。つまり、オイルポンプ132の吐出圧Poutは、ライン圧制御装置133に導入される。このオイルポンプ132は、図1に示すように、トルクコンバータ30と前後進切換機構40との間に配置されている。このオイルポンプ132は、ロータ132aと、ハブ132bと、ボディ132cと、により構成されている。このオイルポンプ132は、ロータ132aにより円筒形状のハブ132bを介して上記ポンプ31に接続されている。また、ハブ132bは、上記中空軸36にスプライン嵌合されている。また、ボディ132cは、上記トランスアクスルケース22に固定されている。従って、このオイルポンプ132は、内燃機関10からの出力トルクがポンプ31を介してロータ132aに伝達されることによって、駆動することができる。つまり、オイルポンプ132は、内燃機関10の回転数の上昇に応じて吐出される作動油の吐出量が増量、即ち吐出圧Poutが上昇する。
【0110】
また、ライン圧制御装置133は、オイルポンプ132の吐出圧Poutが所定のライン圧PLとなるように調圧するものである。つまり、このライン圧制御装置133は、入力油圧である油路R1の吐出圧Poutをライン圧PLへと調圧し、このライン圧PLを出力油圧として油路R2に出力するものである。このライン圧制御装置133は、その油路R2を介してプライマリ油圧室用制御装置135の後述する供給側流量制御弁135cの第2ポート135lに接続され、油路R2及び分岐油路R21を介して一定圧制御装置134に接続され、油路R2及び分岐油路R22を介してセカンダリ油圧室用制御装置137に接続されている。従って、このライン圧制御装置133により調圧されたライン圧PLは、供給側流量制御弁135cの第2ポート135l、一定圧制御装置134、セカンダリ油圧室用制御装置137に導入される。このライン圧制御装置133は、内燃機関10の出力トルクに応じてライン圧PLを調圧するものである。このライン圧制御装置133には、オイルポンプ132から吐出された作動油の圧力を調圧する図示しない電磁弁、例えばリニアソレノイド弁が備えられている。かかるライン圧制御装置133は、ECU(Engine Control Unit)140と電気的に接続されおり、このECU140からの制御信号によりリニアソレノイド弁の弁開度が制御されることで、ライン圧PLを調圧することができる。
【0111】
また、一定圧制御装置134は、ライン圧制御装置133から出力されたライン圧PLを常に一定の圧力となるように調圧するものである。つまり、この一定圧制御装置134は、入力油圧である油路R2の油圧PLを調圧して、出力油圧を一定圧PSとするものである。この一定圧制御装置134は、油路R3を介してプライマリ油圧室用制御装置135の後述する供給側制御弁135aの第1ポート135eに接続され、油路R3及び分岐油路R31を介してプライマリ油圧室用制御装置135の後述する排出側制御弁135bの第1ポート135hに接続され、油路R3及び分岐油路R32を介して駆動油圧室用制御装置136に接続されている。従って、この一定圧制御装置134により調圧された一定圧PSは、その供給側制御弁135aの第1ポート135e、排出側制御弁135bの第1ポート135h、駆動油圧室用制御装置136に導入される。
【0112】
また、プライマリ油圧室用制御装置135は、プライマリ油圧室55への作動油の供給又はプライマリ油圧室55からの作動油の排出を制御するものである。本実施例1のプライマリ油圧室用制御装置135は、プライマリ油圧室55へ供給される作動油の供給流量及びプライマリ油圧室55から排出された作動油の排出流量を制御するものであり、供給側制御弁135aと、排出側制御弁135bと、供給側流量制御弁135cと、排出側流量制御弁135dと、により構成されている。
【0113】
その供給側制御弁135aは、供給側流量制御弁135cによってプライマリ油圧室55に供給される作動油の供給流量制御を行うものである。この供給側制御弁135aは、ON/OFFによって3つのポート(即ち、第1ポート135e,第2ポート135f及び第3ポート135g)の連通を切り換えるものである。その第1ポート135eは、上述のように一定圧制御装置134と接続されている。第2ポート135fは、油路R4を介して供給側流量制御弁135cの後述する第1ポート135kと接続されている。この第2ポート135fは、更に油路R4と分岐油路R41を介して排出側流量制御弁135dの後述する第4ポート135uに接続されている。第3ポート135gは、合流油路R51及び油路R5を介してオイルパン131と接続されている。つまり、この第3ポート135gは、大気圧に解放されている。
【0114】
この供給側制御弁135aは、ONとなると、第1ポート135eと第2ポート135fとが連通する。従って、この供給側制御弁135aに導入された一定圧PSが供給側流量制御弁135cの第1ポート135kに導入される(図8参照)。つまり、この供給側制御弁135aに導入された一定圧PSが第1ポート135kと連通する供給側流量制御弁135cの後述する制御油圧室135oに導入される。また、この供給側制御弁135aに導入された一定圧PSが排出側流量制御弁135dの第4ポート135uに導入される(同図参照)。一方、この供給側制御弁135aは、OFFとなると、第2ポート135fと第3ポート135gとが連通する。従って、供給側流量制御弁135cの第1ポート135kは、この供給側制御弁135aを介して大気圧に解放される(図10参照)。つまり、供給側流量制御弁135cの第1ポート135kを介して制御油圧室135oが大気圧に解放される。また、排出側流量制御弁135dの第4ポート135uは、供給側制御弁135aを介して大気圧に解放される(図10参照)。ここで、供給側制御弁135aは、図6に示すように、ECU140と電気的に接続されており、このECU140からの制御信号によりデューティー制御される。従って、この供給側制御弁135aは、ECU140からの制御信号により、供給側流量制御弁135cの制御油圧室135oを一定圧PSから大気圧までの間で調圧することができる。
【0115】
次にプライマリ油圧室用制御装置135を構成する排出側制御弁135bは、排出側流量制御弁135dによるプライマリ油圧室55から排出される作動油の排出流量制御を行うものである。この排出側制御弁135bは、ON/OFFによって3つのポート(即ち、第1ポート135h,第2ポート135i及び第3ポート135j)の連通を切り換えるものである。その第1ポート135hは、上述のように一定圧制御装置134と接続されている。第2ポート135iは、油路R6を介して排出側流量制御弁135dの後述する第1ポート135rと接続されている。また、第2ポート135iは、油路R6及び分岐油路R61を介して供給側流量制御弁135cの後述する第4ポート135nと接続されている。第3ポート135jは、油路R5を介してオイルパン131と接続されている。つまり、この第3ポート135jは、大気圧に解放されている。
【0116】
この排出側制御弁135bは、ONとなると、第1ポート135hと第2ポート135iとが連通する。従って、この排出側制御弁135bに導入された一定圧PSが排出側流量制御弁135dの第1ポート135rに導入される(図10参照)。つまり、この排出側制御弁135bに導入された一定圧PSが第1ポート135rと連通する排出側流量制御弁135dの後述する制御油圧室135vに導入される。また、この排出側制御弁135bに導入された一定圧PSが供給側流量制御弁135cの第4ポート135nに導入される(同図参照)。一方、この排出側制御弁135bは、OFFとなると、第2ポート135iと第3ポート135jとが連通する。従って、排出側流量制御弁135dの第1ポート135rは、この排出側制御弁135bを介して大気圧に解放される(図8参照)。つまり、排出側流量制御弁135dの第1ポート135rを介して制御油圧室135vが大気圧に解放される。また、供給側流量制御弁135cの第4ポート135nは、排出側制御弁135bを介して大気圧に解放される(同図参照)。ここで、排出側制御弁135bは、図6に示すように、ECU140と電気的に接続されており、このECU140からの制御信号によりデューティー制御される。従って、排出側制御弁135bは、ECU140からの制御信号により、排出側流量制御弁135dの制御油圧室135vを一定圧PSから大気圧までの間で調圧することができる。
【0117】
次にプライマリ油圧室用制御装置135を構成する供給側流量制御弁135cは、プライマリ油圧室55に供給される作動油の供給流量を制御するものである。この供給側流量制御弁135cは、第1ポート135kと、第2ポート135lと、第3ポート135mと、第4ポート135nと、制御油圧室135oと、スプール135pと、スプール弾性部材135qと、により構成されている。第1ポート135kは、上述のように供給側制御弁135aの第2ポート135fと接続されている。第2ポート135lは、上述のように、ライン圧制御装置133と接続されている。第3ポート135mは、油路R7を介してプライマリ油圧室55と接続されている。本実施例1の第3ポート135mは、油路R7、供給排出側主通路51a、軸側連通通路51c、空間部T1,T2、隔壁側連通通路54b及び弁配置通路54aを介してプライマリ油圧室55と接続されている。第4ポート135nは、上述のように排出側制御弁135bの第2ポート135iと接続されている。なお、同図に示すように、供給側制御弁135aの第2ポート135fと供給側流量制御弁135cの第1ポート135kとの間、ライン圧制御装置133と供給側流量制御弁135cの第2ポート135lとの間に、オリフィス、即ち絞りを設け、供給側制御弁135aから供給側流量制御弁135cへ流入する作動油及びライン圧制御装置133から供給側流量制御弁135cへ流入する作動油の圧力又は流量を調整してもよい。
【0118】
制御油圧室135oは、第1ポート135kと連通するものであり、その油圧によりスプール135pをスプール135pが移動する方向の内の一方向(同図では、上方向)に押圧するスプール開弁方向押圧力をスプール135pに作用させるものである。そのスプール135pは、プライマリ油圧室用制御装置135内で移動自在に支持されており、その移動方向の内の一方向に移動することで第2ポート135lと第3ポート135mとを連通し、その移動方向の内の他方向に移動することで第2ポート135lと第3ポート135mと連通を遮断するものである。スプール弾性部材135qは、スプール135pとスプール135pに対して静止している部材との間に付勢された状態で配置されている。従って、このスプール弾性部材135qは、スプール付勢力を発生しており、このスプール付勢力によりスプール135pをスプール135pが移動する方向の内の他方向(同図では、下方向)に押圧するスプール閉弁方向押圧力をスプール135pに作用させるものである。
【0119】
供給側流量制御弁135cは、スプール135pに作用する上記スプール開弁方向押圧力が上記スプール閉弁方向押圧力を超えることで、スプール135pが移動方向の内の一方向に移動する。ここで、この供給側流量制御弁135cは、そのスプール135pの移動方向の内の一方向への移動量の増加に伴い、第2ポート135lと第3ポート135mと連通の度合い、即ち第2ポート135lと第3ポート135mとを連通する流路の流路断面積が増加する。つまり、この供給側流量制御弁135cは、供給側制御弁135aにより調圧された制御油圧室135oの油圧によってスプール135pが移動することで、2つのポート(即ち、第2ポート135lと第3ポート135m)の連通を制御し、供給流量を制御するものである。
【0120】
排出側流量制御弁135dは、プライマリ油圧室55から排出される作動油の排出流量を制御するものである。この排出側流量制御弁135dは、第1ポート135rと、第2ポート135sと、第3ポート135tと、第4ポート135uと、制御油圧室135vと、スプール135wと、スプール弾性部材135xと、により構成されている。その第1ポート135rは、上述のように排出側制御弁135bの第2ポート135iと接続されている。第2ポート135sは、合流油路R52、合流油路R51及び油路R5を介してオイルパン131と接続されている。つまり、この第2ポート135sは、大気圧に解放されている。第3ポート135tは、分岐油路R71及び油路R7を介してプライマリ油圧室55と接続されている。本実施例1の第3ポート135tは、分岐油路R71、油路R7、供給排出側主通路51a、軸側連通通路51c、空間部T1,T2、隔壁側連通通路54b及び弁配置通路54aを介してプライマリ油圧室55と接続されている。第4ポート135uは、上述のように供給側制御弁135aの第2ポート135fと接続されている。なお、同図に示すように、排出側制御弁135bの第2ポート135iと排出側流量制御弁135dの第1ポート135rとの間に、オリフィス、即ち絞りを設け、排出側制御弁135bから排出側流量制御弁135dへ流入する作動油の圧力又は流量を調整してもよい。
【0121】
制御油圧室135vは、第1ポート135rと連通するものであり、その油圧によりスプール135wをスプール135wが移動する方向の内の一方向(同図では、上方向)に押圧するスプール開弁方向押圧力をスプール135wに作用させるものである。そのスプール135wは、プライマリ油圧室用制御装置135内で移動自在に支持されており、移動方向の内の一方向に移動することで第2ポート135sと第3ポート135tとを連通し、その移動方向の内の他方向に移動することで、第2ポート135sと第3ポート135tと連通を遮断するものである。スプール弾性部材135xは、スプール135wとスプール135wに対して静止している部材との間に付勢された状態で配置されている。従って、このスプール弾性部材135xは、スプール付勢力を発生しており、このスプール付勢力によりスプール135wをスプール135wが移動する方向の内の他方向(同図では、下方向)に押圧するスプール閉弁方向押圧力をスプール135wに作用させるものである。
【0122】
排出側流量制御弁135dは、スプール135wに作用する上記スプール開弁方向押圧力が上記スプール閉弁方向押圧力を超えることで、スプール135wが移動方向の内の一方向に移動する。ここで、この排出側流量制御弁135dは、スプール135wの移動方向の内の一方向への移動量の増加に伴い、第2ポート135sと第3ポート135tと連通の度合い、即ち第2ポート135sと第3ポート135tとを連通する流路の流路断面積が増加する。つまり、この排出側流量制御弁135dは、排出側制御弁135bにより調圧された制御油圧室135vの油圧によってスプール135wが移動することで、2つのポート(即ち、第2ポート135sと第3ポート135t)の連通を制御し、供給流量を制御するものである。
【0123】
また、駆動油圧室用制御装置136は、駆動油圧室81の油圧P2を調圧するものであり、油路R8を介して駆動油圧室81と接続されている。この駆動油圧室用制御装置136には、上述のように、一定圧制御装置134から一定圧PSが導入される。本実施例1の駆動油圧室用制御装置136は、油路R8、駆動側主通路51b、軸側連通通路51d及び駆動連通通路54eを介して駆動油圧室81と接続されている。この駆動油圧室用制御装置136は、図示しない切換弁が備えられている。この駆動油圧室用制御装置136は、ECU140と電気的に接続されおり、このECU140からの制御信号によってON/OFF弁をON/OFF制御する。この駆動油圧室用制御装置136は、ON制御される(即ち、切替弁がONとされる)と、分岐油路R32と油路R8とが連通し、駆動油圧室用制御装置136に導入された一定圧PSが駆動油圧室81に導入され、駆動油圧室81の油圧P2が一定圧PSとなる。一方、この駆動油圧室用制御装置136は、OFF制御される(即ち、切替弁がOFFとされる)と、分岐油路R32と油路R8との連通が遮断されると共に油路R8が外部に解放され、駆動油圧室81の油圧P2が大気圧となる。ここで、その際の一定圧PSとは、少なくとも駆動油圧室81の油圧P2が一定圧PSとなった際に駆動油圧室81の油圧P2によって各作動油供給排出弁70を開弁することができる油圧以上の圧力のことである。
【0124】
また、セカンダリ油圧室用制御装置137は、セカンダリ油圧室64への作動油の供給又はセカンダリ油圧室64からの作動油の排出を制御するものであり、油路R9を介してセカンダリ油圧室64と接続されている。このセカンダリ油圧室用制御装置137には、上述のように、ライン圧制御装置133からライン圧PLが導入される。本実施例1のセカンダリ油圧室用制御装置137は、油路R9、セカンダリプーリ軸61の図示しない作動油通路及び図示しない作動流体供給孔を介してセカンダリ油圧室64と接続されている。このセカンダリ油圧室用制御装置137は、図示しない流量制御弁などを備える。このセカンダリ油圧室用制御装置137は、ECU140と電気的に接続されおり、このECU140からの制御信号により制御され導入されたライン圧PLを調圧する。
【0125】
以上示した如く、作動油供給制御装置130は、少なくとも内燃機関10の運転制御を行うECU140と接続されている。従って、この作動油供給制御装置130は、そのECU140からの制御信号に基づいて、プライマリ油圧室用制御装置135、駆動油圧室用制御装置136、セカンダリ油圧室用制御装置137を制御することによって、少なくともベルト式無段変速機1Aの変速比を制御するものである。
【0126】
以下に、本実施例1のベルト式無段変速機1Aの動作について説明する。
【0127】
一般的な車輌の前進、後進について説明する。車輌に設けられた図示しないシフトポジション装置を用いて運転者が前進ポジションを選択した場合は、ECU140が作動油供給制御装置130から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をON、リバースブレーキ43をOFFにして、前後進切換機構40を制御する。これにより、インプットシャフト38とプライマリプーリ軸51が直結状態となる。つまり、遊星歯車装置41のサンギヤ44とリングギヤ46を直接連結し、内燃機関10のクランクシャフト11の回転方向と同一方向にプライマリプーリ軸51を回転させ、この内燃機関10からの出力トルクをプライマリプーリ50に伝達する。このプライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、ベルト110を介してセカンダリプーリ60に伝達され、このセカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61を回転させる。
【0128】
そのセカンダリプーリ60に伝達された内燃機関10の出力トルクは、中間部材67から動力伝達経路100の入力軸101、カウンタドライブピニオン103及びカウンタドリブンギヤ104を介してインターミディエイトシャフト102に伝達され、このインターミディエイトシャフト102を回転させる。このインターミディエイトシャフト102に伝達された出力トルクは、ファイナルドライブピニオン105及びリングギヤ99を介して最終減速機90のデフケース91に伝達され、このデフケース91を回転させる。このデフケース91に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、デフ用ピニオン93,94及びサイドギヤ95,96を介してドライブシャフト121,122に伝達され、その端部に取り付けられた車輪120,120に伝達される。これにより、その夫々の車輪120,120が図示しない路面に対して回転させられるので、車輌は前進する。
【0129】
一方、車輌に設けられた図示しないシフトポジション装置を用いて運転者が後進ポジションを選択した場合は、ECU140が、作動油供給制御装置130から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をOFF、リバースブレーキ43をONとし、前後進切換機構40を制御する。これにより、遊星歯車装置41の切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45が自転のみを行うように切換用キャリヤ47に保持される。従って、リングギヤ46がインプットシャフト38と同一方向に回転し、このリングギヤ46と噛合っている各ピニオン45もインプットシャフト38と同一方向に回転し、この各ピニオン45と噛合っているサンギヤ44がインプットシャフト38と逆方向に回転する。つまり、サンギヤ44に連結されているプライマリプーリ軸51は、インプットシャフト38と逆方向に回転する。これにより、セカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61、入力軸101、インターミディエイトシャフト102、デフケース91、ドライブシャフト121,122などは、運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転し、車輌が後進する。
【0130】
ここで、ECU140は、車輌の速度や運転者のアクセル開度などの所条件とECU140の記憶部に記憶されているマップ(例えば、機関回転数とスロットルバルブのスロットル開度に基づく最適燃費曲線など)とに基づいて、内燃機関10の運転状態が最適となるように、作動油供給制御装置130を介してベルト式無段変速機1Aの変速比を制御する。このベルト式無段変速機1Aの変速比の制御には、変速比の変更と変速の固定(変速比γ定常)とがある。その変速比の変更や変速比の固定は、プライマリ油圧室用制御装置135、駆動油圧室用制御装置136、セカンダリ油圧室用制御装置137を制御することで行われる。
【0131】
変速比の変更については、主に作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55への作動油の供給、あるいは作動油供給制御装置130を介してのプライマリ油圧室55からプライマリプーリ50の外部への作動油の排出により行われる。即ち、その作動油の供給又は排出が行われた場合には、その供給又は排出に応じたプライマリプーリ軸51の軸線方向へとプライマリ可動シーブ53が摺動し、このプライマリ可動シーブ53とプライマリ固定シーブ52との間の間隔、即ちプライマリ溝110aの幅が調整される。そして、これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が変化し、プライマリプーリ50の回転数とセカンダリプーリ60の回転数との比である変速比が無段階(連続的)に制御される。一方、変速比の固定については、主にプライマリ油圧室55内での作動油の保持により行われる。
【0132】
なお、セカンダリプーリ60においては、ECU140がセカンダリ油圧室用制御装置137を制御することによってセカンダリ油圧室64の油圧が調圧され、セカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間のベルト110を挟み付けるベルト挟圧力が調整される。これにより、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間に巻き掛けられたベルト110のベルト張力が制御される。
【0133】
ここで、変速比の変更には、アップシフト(即ち、変速比を減少させる変速比減少変更)と、ダウンシフト(即ち、変速比を増加させる変速比増加変更)とがある。以下、夫々の変更動作について説明する。
【0134】
先ず、変速比減少変更動作について図7及び図8を用いて説明する。
【0135】
変速比減少変更は、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55へ作動油を供給し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側に摺動(移動)させることによって行われる。従って、変速比減少変更を行う際には、図7に示すように、各作動油供給排出弁70をアクチュエータ80によって強制的に開弁し、作動油供給制御装置130からプライマリ油圧室55に作動油を供給する。その際、ECU140は、減少変速比と変速速度とを算出し、これらに基づいた変速比の制御信号を作動油供給制御装置130に出力する。
【0136】
具体的に、駆動油圧室用制御装置136は、ECU140によりON制御される。従って、この駆動油圧室用制御装置136に導入された一定圧PSが駆動油圧室81に導入され、駆動油圧室81の油圧P2が一定圧PSとなる。これにより、アクチュエータ80は、駆動油圧室81の油圧P2によりピストン82に作用するピストン開弁方向押圧力を弁体開弁方向押圧力として各作動油供給排出弁70の弁体71に夫々作用させる。ここで、このアクチュエータ80は、上述したが如く、駆動油圧室81の油圧P2が一定圧PSとなると、その油圧P2により各作動油供給排出弁70を開弁することができるので、弁体開弁方向押圧力は、これとは逆方向の弁体閉弁方向押圧力を超えることになる。従って、各作動油供給排出弁70においては、図7に示すように、アクチュエータ80の作用により弁体71が弁座面72に対して離れる方向(開弁方向)へと移動して開弁動作を行う。
【0137】
プライマリ油圧室用制御装置135の供給側制御弁135aは、ECU140によりデューティー制御されることで、供給側流量制御弁135cによるプライマリ油圧室55への作動油の供給流量制御を行う。その供給側制御弁135aは、ECU140によってデューティー制御されると、図8に示すようにONとOFFとを繰り返し、供給側流量制御弁135cの制御油圧室135oの制御油圧を供給時所定圧に調圧し、排出側流量制御弁135dの第4ポート135uに供給時所定圧を導入する。ここで、その供給時所定圧とは、スプール135pに作用するスプール開弁方向押圧力で第2ポート135lと第3ポート135mとの連通状態を制御することによって制御される供給流量に関する圧力のことであり、その供給流量を減少変速比と変速速度とに基づいた供給流量にすることができる圧力のことをいう。従って、供給側流量制御弁135cにおいては、制御油圧室135oの制御油圧(即ち、上記の供給時所定圧)に基づいたスプール開弁方向押圧力がスプール閉弁方向押圧力を超えるので、同図の矢印Aに示すように、第2ポート135lと第3ポート135mとを連通させる方向へとスプール135pが移動する。これにより、この供給側流量制御弁135cが開弁され、プライマリ油圧室55への作動油の供給流量が減少変速比と変速速度とに基づいた供給流量となる。
【0138】
一方、プライマリ油圧室用制御装置135の排出側制御弁135bは、ECU140によりデューティー制御されることで、排出側流量制御弁135dによるプライマリ油圧室55からの作動油の排出流量制御を行う。この排出側制御弁135bは、ECU140によってデューティー制御されると、図8に示すように、OFFを維持し、供給側流量制御弁135cの第4ポート135n及び排出側流量制御弁135dの制御油圧室135vを大気圧に解放する。従って、排出側流量制御弁135dにおいては、スプール閉弁方向押圧力のみがスプール135wに作用するので、第2ポート135sと第3ポート135tとの間の遮断状態を保つ位置にスプール135wが保持される。これにより、この排出側流量制御弁135dが閉弁を維持し、プライマリ油圧室55からの作動油の排出流量が0となる。
【0139】
この際、上述したが如く、アクチュエータ80により各作動油供給排出弁70が強制的に開弁されている。従って、供給側流量制御弁135cにライン圧PLで導入された作動油(ライン圧制御装置133と供給側流量制御弁135cの第2ポート135lとの間にオリフィスが設けられている場合、ライン圧PLから調整された圧力で挿入された作動油)は、供給側流量制御弁135cにより減少変速比と変速速度とに基づいた供給流量に制御されて、図7の矢印Uに示すように、油路R7を介して供給排出側主通路51aに流入する。供給排出側主通路51aに流入した作動油は、供給排出側主通路51aから軸側連通通路51c、空間部T1,T2、隔壁側連通通路54b、弁配置通路54aを介してプライマリ油圧室55に供給される。つまり、本実施例1のベルト式無段変速機1Aにおいては、その一方の挟圧力発生油圧室であるプライマリ油圧室55に作動油を供給する際に、作動油排出弁と作動油供給弁との共用化を図った各作動油供給排出弁70をプライマリ油圧室55へ供給される作動油の供給圧力によって開弁しなくてもよい。従って、本実施例1においては、そのプライマリ油圧室55へ供給される作動油の供給圧力を増加させるときに、ライン圧制御装置133によって供給側流量制御弁135cに導入されるライン圧PLの増加を抑制することができる。
【0140】
この際のベルト式無段変速機1Aにおいては、各作動油供給排出弁70の開弁に伴い供給された作動油によりプライマリ油圧室55の油圧P1が上昇し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側に移動させる押圧力が上昇するので、そのプライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側へと軸線方向に摺動する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が増加し、セカンダリプーリ60におけるベルト110の接触半径が減少し、変速比が減少され、減少変速比となる。
【0141】
続いて、変速比増加変更動作について図9及び図10を用いて説明する。
【0142】
変速比増加変更は、プライマリ油圧室55から作動油供給制御装置130を介して作動油を外部に排出し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側とは反対側に摺動(移動)させることによって行われる。従って、変速比増加変更を行う際には、図9に示すように、各作動油供給排出弁70をアクチュエータ80によって強制的に開弁し、プライマリ油圧室55から作動油を排出する。その際、ECU140は、増加変速比と変速速度とを算出し、これらに基づいた変速比の制御信号を作動油供給制御装置130に出力する。
【0143】
具体的に、駆動油圧室用制御装置136は、上述した変速比減少変更時と同様にECU140によりON制御される。従って、各作動油供給排出弁70においては、図9に示すように、上述した変速比減少変更時と同様にして、アクチュエータ80の作用により弁体71が弁座面72に対して離れる方向(開弁方向)へと移動して開弁動作を行う。
【0144】
プライマリ油圧室用制御装置135の供給側制御弁135aは、ECU140によりデューティー制御されることで、供給側流量制御弁135cによるプライマリ油圧室55への作動油の供給流量制御を行う。その供給側制御弁135aは、ECU140によってデューティー制御されると、図10に示すようにOFFを維持し、供給側流量制御弁135cの制御油圧室135o及び排出側流量制御弁135dの第4ポート135uを大気圧に解放する。従って、供給側流量制御弁135cにおいては、スプール閉弁方向押圧力のみがスプール135pに作用するので、第2ポート135lと第3ポート135mとの間の遮断状態を保つ位置にスプール135pが保持される。これにより、この供給側流量制御弁135cが閉弁を維持し、プライマリ油圧室55への作動油の供給流量が0となる。
【0145】
一方、プライマリ油圧室用制御装置135の排出側制御弁135bは、ECU140によりデューティー制御されることで、排出側流量制御弁135dによるプライマリ油圧室55からの作動油の排出流量制御を行う。この排出側制御弁135bは、ECU140によってデューティー制御されると、図10に示すようにONとOFFとを繰り返し、供給側流量制御弁135cの第4ポート135nに排出時所定圧を導入し、排出側流量制御弁135dの制御油圧室135vの制御油圧を排出時所定圧に調圧する。ここで、その排出時所定圧とは、スプール135wに作用するスプール開弁方向押圧力で第2ポート135sと第3ポート135tとの連通状態を制御することによって制御される排出流量に関する圧力のことであり、その排出流量を増加変速比と変速速度とに基づいた排出流量にすることができる圧力のことをいう。従って、排出側流量制御弁135dにおいては、制御油圧室135vの制御油圧(即ち、上記の排出時所定圧)に基づいたスプール開弁方向押圧力がスプール閉弁方向押圧力を超えるので、同図の矢印Cに示すように、第2ポート135sと第3ポート135tとを連通させる方向へとスプール135wが移動する。これにより、この排出側流量制御弁135dが開弁され、プライマリ油圧室55からの作動油の排出流量が増加変速比と変速速度とに基づいた排出流量となる。
【0146】
この際、上述したが如く、アクチュエータ80により各作動油供給排出弁70が強制的に開弁されている。従って、プライマリ油圧室55内の作動油は、図9の矢印Dに示すように、プライマリ油圧室55から弁配置通路54a、隔壁側連通通路54b、空間部T1,T2、軸側連通通路51cを介して供給排出側主通路51aに流入する。この供給排出側主通路51aに流入したプライマリ油圧室55内の作動油は、油路R7及び分岐油路R71を介して排出側流量制御弁135dに流入し、この排出側流量制御弁135dにより増加変速比と変速速度とに基づいた排出流量に制御されて、合流油路R52,R51及び油路R5を介して、オイルパン131、即ちプライマリ油圧室55の外部に排出される。
【0147】
この際のベルト式無段変速機1Aにおいては、各作動油供給排出弁70を介してプライマリ油圧室55から作動油が排出されることにより、そのプライマリ油圧室55の油圧P1が減少し、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側に移動させる押圧力が減少するので、そのプライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側とは反対の軸線方向に摺動する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が減少し、セカンダリプーリ60におけるベルト110の接触半径が増加し、変速比が増加され、増加変速比となる。
【0148】
続いて、変速比の固定動作について図2及び図6を用いて説明する。
【0149】
変速比の固定(即ち、変速比を定常にする)は、プライマリ油圧室55への作動油の供給とこのプライマリ油圧室55からの作動油の排出を行わずに、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置を一定にすることによって行われる。即ち、変速比を固定する際には、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対しての軸線方向への移動を規制する。なお、変速比の固定は、車輌の走行状態が安定している場合など、大幅な変速比の変更を行う必要がないとECU140が判断した場合に行う。
【0150】
変速比固定時には、図2に示すように、各作動油供給排出弁70を閉弁し、これら各作動油供給排出弁70を介してのプライマリ油圧室55への作動油の供給及び各作動油供給排出弁70を介してのプライマリ油圧室55からの作動油の排出を禁止する。その際、ECU140は、変速比の固定に基づいた制御信号を作動油供給制御装置130に出力する。
【0151】
具体的に、駆動油圧室用制御装置136は、ECU140によりOFF制御される。これが為、駆動油圧室81が大気圧に解放され、この駆動油圧室81の油圧P2が大気圧となる。従って、ピストン82には、押圧力伝達部材74を介して弁体弾性部材73によるピストン閉弁方向押圧力が作用し、更に、プライマリプーリ50の回転に伴う遠心力によってピストン初期位置保持手段のローラー85からの遠心油圧抗力が作用する。これが為、このピストン82は、閉弁方向に摺動する。これにより、各作動油供給排出弁70の弁体71には、弁体開弁方向押圧力が作用せず、弁体閉弁方向押圧力のみが作用することとなるので、各作動油供給排出弁70は、夫々の弁体71が閉弁方向に移動し、弁座面72と接触して閉弁する。
【0152】
プライマリ油圧室用制御装置135の供給側制御弁135aは、ECU140によりデューティー制御されることで、供給側流量制御弁135cによるプライマリ油圧室55への作動油の供給流量制御を行う。この供給側制御弁135aは、ECU140によってデューティー制御されると、図6に示すようにOFFを維持し、供給側流量制御弁135cの制御油圧室135o及び排出側流量制御弁135dの第4ポート135uを大気圧に解放する。従って、供給側流量制御弁135cにおいては、スプール閉弁方向押圧力のみがスプール135pに作用するので、第2ポート135lと第3ポート135mとの間の遮断状態を保つ位置にスプール135pが保持される。これにより、この供給側流量制御弁135cが閉弁を維持し、プライマリ油圧室55への作動油の供給流量が0となるので、各作動油供給排出弁70を介したプライマリ油圧室55への作動油の供給が禁止される。
【0153】
一方、プライマリ油圧室用制御装置135の排出側制御弁135bは、ECU140によりデューティー制御されることで、排出側流量制御弁135dによるプライマリ油圧室55からの作動油の排出流量制御を行う。この排出側制御弁135bは、ECU140によってデューティー制御されると、図6に示すようにOFFを維持し、供給側流量制御弁135cの第4ポート135n及び排出側流量制御弁135dの制御油圧室135vを大気圧に解放する。従って、排出側流量制御弁135dにおいては、スプール閉弁方向押圧力のみがスプール135wに作用するので、第2ポート135sと第3ポート135tとの間の遮断状態を保つ位置にスプール135wが保持される。これにより、この排出側流量制御弁135dが閉弁を維持し、プライマリ油圧室55からの作動油の排出流量が0となるので、各作動油供給排出弁70を介したプライマリ油圧室55からの作動油の排出が禁止される。
【0154】
ところで、この変速比固定時においてもベルト110のベルト張力が変化するので、その際にプライマリプーリ50におけるベルト110の接触半径が変化しようとし、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置を変化させてしまう虞がある。しかしながら、本実施例1のベルト式無段変速機1Aにおいては、プライマリ油圧室55への作動油の供給及びこのプライマリ油圧室55からの作動油の排出を禁止することによって、変速比固定時にプライマリ油圧室55内の作動油が保持される。更に、本実施例1においては、ピストン初期位置保持手段の機械的な押圧力によって駆動油圧室81の遠心油圧による各作動油供給排出弁70の開弁方向への押圧力を取り消すことができるので、そのプライマリ油圧室55内の作動油の保持が確実なものとなる。従って、このベルト式無段変速機1Aにおいては、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置が変化しようとすると、プライマリ油圧室55の油圧P1は変化するが、このプライマリ油圧室55に作動油が保持された状態なので、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置は一定に維持される。これが為、この本実施例1のベルト式無段変速機1Aにおいては、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸線方向における位置を一定に維持するために、プライマリ油圧室55に作動油を供給して、このプライマリ油圧室55の油圧P1を上昇させなくとも済む。これにより、変速比固定時においては、プライマリ油圧室55へと作動油を供給する為のオイルポンプ132の駆動が不要になるので、そのオイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。
【0155】
ここで、上述した本実施例1のアクチュエータ80のピストン82は、そのピストン主体82aを図11に示すピストン主体182aへと変更してもよい。この図11に示すピストン主体182aは、上述したピストン主体82aにおいて、プライマリ隔壁54との対向面に、ピストン82の押圧部82bとの接触面182a1及びピストン初期位置保持手段のローラー85との接触面182a2を除いて凹部182a3を設けた形状のものである。これにより、摺動支持孔54cとピストン82の押圧部82bとの間からピストン主体182a側へと漏れ出た作動油が遠心油圧取消室84に流れやすくなり、更に、その凹部182a3におけるプライマリ隔壁54及びカバー部材83との閉塞された空間にその作動油を留めておき、遠心油圧取消室84の作動油切れを回避することができるようになる。従って、このようなピストン主体182aを用いることによって、ローラー85の円滑な動きやピストン初期位置保持手段の信頼性を上述したピストン主体82aよりも大幅に向上させることができる。また、このピストン主体182aは、凹部182a3により軽量化されているので、アクチュエータ80の作動時の応答性を更に向上させることができる。
【0156】
また、本実施例1のピストン82は、図12に示すものへと変更してもよい。この図12に示すピストン282は、上述したピストン主体82aにおける押圧部82bとの接触面に円柱状の凹部282a1が形成されたピストン主体282aと、その凹部282a1の深さ応じて延長された押圧部282bと、により構成したものである。その押圧部282bは、凹部282a1に例えば嵌合固定しておいてもよく、その凹部282a1から着脱できるような外径に成形しておいてもよい。ここで、前者の場合には問題無いが、後者の場合、その凹部282a1の深さと押圧部282bの延長分の長さについては、少なくともピストン主体282aの軸線方向への往復移動によって相互に離間しないように設定しておく。これにより、その押圧部282bがピストン主体282aの回り止めとしての機能を為す。従って、このピストン282によれば、ピストン主体282aのプライマリプーリ50に対する無用な相対回転を防ぐことができるので、駆動油圧室用シール部材S2の磨耗を低減でき、耐久性や駆動油圧室81の油密性向上による信頼性の向上を図ることができる。また、上述した図11のピストン主体182aの形状をこのピストン282に適用した場合には、ピストン主体282aの回転に伴って押圧部282bが図11の凹部182a3に落下し、作動油供給排出弁70を開弁させることができない、という不都合を解消することができる。なお、後者の場合、作動油供給排出弁70の開弁応答性を高める為には、初期位置において押圧部282bの両端が各々弁体71と凹部282a1の底面に接触させておくことが好ましい。
【0157】
更に、そのピストン282と同様のピストン主体282aの回り止め手段は、次のように構成してもよい。これは、上述したピストン82においてピストン主体82aを図13に示すピストン主体382aに置き換えて構成したものである。この図13に示すピストン主体382aは、ローラー85との接触面に凹部382a2を形成したものであり、この凹部382a2内でローラー85を転動させるようにしたものである。ここでは、図11に示すピストン主体182aにその凹部382a2を形成したものを例示する。即ち、この図13に示すピストン主体382aは、その図11のピストン主体182aにおけるローラー85との接触面182a2に凹部382a2を穿設したものである。ローラー85は、このピストン主体382aを用いることによって、凹部382a2の底面に接触して遠心油圧抗力を発生させると共に、その何れか一端が凹部382a2の側面に当接してピストン主体382aの回転を係止する。このようなピストン主体382aを用いたとしても、上記の図12のピストン282と同様の効果を奏する。なお、その凹部382a2は、ピストン282のピストン主体282aにも適用可能である。
【0158】
また、本実施例1においては各作動油供給排出弁70をプライマリ隔壁54に設けたが、各作動油供給排出弁70は、プライマリプーリ50と一体回転することができればよく、必ずしもかかる態様に限定されるものではない。例えば、各作動油供給排出弁70は、プライマリプーリ軸51内、プライマリ固定シーブ52に設けられていてもよい。
【0159】
また、本実施例1においては各作動油供給排出弁70により作動油供給弁及び作動油排出弁を同一としているが、その作動油供給弁と作動油排出弁とは別々に備えていてもよい。
【実施例2】
【0160】
次に、本発明に係るベルト式無段変速機の実施例2を図14及び図15に基づいて説明する。
【0161】
本実施例2のベルト式無段変速機1Bは、実施例1において種々例示したベルト式無段変速機1Aの閉弁状態保持手段(ピストン初期位置保持手段)に変更を加えたものであり、これ以外は実施例1のベルト式無段変速機1Aと同様に構成する。本実施例2においては、図2に示す遠心油圧取消室84と遠心油圧取消部材(ローラー)85からなるピストン初期位置保持手段を有するベルト式無段変速機1Aを基にしたものを代表して例示する。
【0162】
一般に、長期に渡りベルト式無段変速機1Bが運転されなかった場合には、遠心油圧取消室84の作動油が切れてしまうので、ローラー85と遠心油圧抗力発生面82a1や傾斜面84aとの間の摺動抵抗が大きくなる。これが為、かかる場合には、運転開始時にローラー85が円滑に転動できなくなるので、的確な遠心油圧抗力をピストン82のピストン主体82aに作用させることができず、作動油供給排出弁70を開弁させてしまう虞がある。また、かかる場合には、ローラー85と夫々の摺動面との間の摩擦抵抗が大きくなるので、これらの間で磨耗が発生して耐久性を悪化させてしまう虞もある。そして、この場合の運転開始時には、ベルト式無段変速機1Bが冷間状態で作動油の粘度が高いので、直ぐに作動油が遠心油圧取消室84に導かれるとは限らず、かかる運転を開始する度に上記の不都合が繰り返される。更に、遠心油圧取消室84内に作動油が貯留されていたとしても、運転開始時などの冷間時には、粘度の高い作動油が抵抗になってローラー85が滑らかに動かず、的確な遠心油圧抗力をピストン主体82aに作用させることができないことも考えられる。
【0163】
そこで、本実施例2のアクチュエータ480のピストン初期位置保持手段は、油圧の力も利用して遠心油圧抗力をピストン主体82aに働かせるよう構成する。具体的に、ここで例示するピストン初期位置保持手段は、遠心油圧取消室84とローラー85を備えた実施例1のピストン初期位置保持手段において、その遠心油圧取消室84に作動油の供給を行う遠心油圧取消作動油供給経路を設ける。
【0164】
例えば、この遠心油圧取消作動油供給経路は、遠心油圧取消室84と空間部T2とを連通させる図14に示す遠心油圧取消油路487によって構成する。これにより、油路R7を介して供給排出側主通路51aに流入した作動油は、軸側連通通路51c、空間部T1,T2を介して遠心油圧取消油路487に流入させ、遠心油圧取消室84に供給することができる。この場合、作動油供給制御装置130においては、ECU140がローラー85の動きが悪いとき(例えば、作動油温度や内燃機関の水温又は油温などを参照して冷間時)と判断した際に、ピストン82を初期位置に保持しておく必要があれば、その作動油温度やプライマリプーリ50の回転数などに応じた適切な遠心油圧抗力をピストン主体82aに働かせることができるように油路R7の油圧を調圧する。この調圧時に作動油温度の情報を用いたのは、作動油温度に応じて作動油の粘度が変わるので、その粘度に応じた適切な油圧を遠心油圧取消室84内で発生させる為である。また、この調圧時にプライマリプーリ50の回転数の情報を用いたのは、その回転数に応じて遠心油圧の大きさが異なるので、その遠心油圧の大きさ応じた適切な油圧を遠心油圧取消室84内で発生させる為である。
【0165】
従って、本実施例2においては、運転開始時などの冷間時においてローラー85が円滑に動けなくても、遠心油圧取消油路487から供給された作動油の油圧によってピストン主体82aへの遠心油圧抗力の不足分を補うことができるので、無用な作動油供給排出弁70の開弁を防ぐことができる。また、本実施例2のピストン初期位置保持手段は、その遠心油圧取消油路487から遠心油圧取消室84に作動油が供給されるので、ローラー85と夫々の摺動面との間の磨耗が減り、耐久性が向上する。
【0166】
ここで、その遠心油圧取消油路487の径(即ち、断面積So)は、所謂オリフィスの如き小さなものにし、更に、油抜き孔86の径(即ち、断面積Sd)よりも小さくする(So<Sd)ことが好ましい。これにより、遠心油圧取消室84内の油圧が無駄に上昇していかないので、その油圧がアクチュエータ80を作動させる(即ち、作動油供給排出弁70を開弁させる)ときの妨げにならずとも済む。そして、これが為、本実施例2のベルト式無段変速機1Bは、駆動油圧室81の油圧P2の上昇を防ぐことができ、オイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。また、アクチュエータ80を作動させているときにも遠心油圧取消室84内の油圧が無駄に上昇していかないので、油路R7の油圧の上昇についても防ぐことができ、オイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。
【0167】
更に、そのような遠心油圧取消油路487は、図15に示す如く、各々に対向しているピストン82のピストン主体82aとプライマリ隔壁54の対向面54dにより形成される空間部分(即ち、ピストン82の押圧部82bの一部が配置されている空間)に設けてもよく、これにより、遠心油圧抗力を発生させる際の油路R7の油圧を小さくすることができるので、これによってもオイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。
【0168】
ところで、ここでは上記の如き遠心油圧取消油路487を設けているが、ピストン主体82aを初期位置に保持させる為の油圧は、例えば、その遠心油圧取消油路487から供給された作動油の油圧に替えて又はこの油圧と共に、摺動支持孔54cとピストン82の押圧部82bとの間からピストン主体82a側へと漏れ出て遠心油圧取消室84に送られた作動油の油圧、駆動油圧室81から駆動油圧室用シール部材S2を介して漏れ出て遠心油圧取消室84に送られた作動油の油圧を利用してもよい。これにより、供給排出側主通路51aからの油圧の負担を無くす又は減らすことができるので、オイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制することができる。
【0169】
また、ここでは図2のピストン主体82aを具備しているピストン初期位置保持手段について例示したが、例えば、図11や図13に示すピストン主体182a,382aに置き換えることによって、その凹部182a3が遠心油圧取消室84への作動油の供給を容易にし、所望の遠心油圧抗力を発生させやすくなる。
【実施例3】
【0170】
次に、本発明に係るベルト式無段変速機の実施例3を図16から図19に基づいて説明する。
【0171】
本実施例3のベルト式無段変速機1Cは、実施例1,2で種々例示したベルト式無段変速機1A,1Bにおいて、閉弁状態保持手段(ピストン初期位置保持手段)の機能を作動油供給排出弁70に持たせたものである。本実施例3においては、図2に示す実施例1のベルト式無段変速機1Aを基にしたものを代表して例示する。
【0172】
具体的に、本実施例3のベルト式無段変速機1Cは、その実施例1のベルト式無段変速機1Aにおいて、作動油供給排出弁70とアクチュエータ80を各々図16に示す作動油供給排出弁170とアクチュエータ580に置き換え、その作動油供給排出弁170の弁体171をピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材85としても利用させるべく構成したものである。
【0173】
先ず、本実施例3のアクチュエータ580について説明する。このアクチュエータ580は、図16に示す如く、上述したピストン主体82aと同様のピストン主体582aと、上述した押圧部82bと同様の押圧部582bと、を備えたピストン582を有するものであるが、本実施例3においては押圧部582bにおける弁体171側の先端面が径方向内側に向くように傾斜させておく。即ち、本実施例3の押圧部82bは、その図17に示す傾斜面582b1を弁体171に接触させておき、押圧部582bが軸線方向へと移動した際にその傾斜面582b1によって弁体171を弁座面172から離座させる。従って、本実施例3のアクチュエータ580は、その押圧部582bの傾斜面582b1と弁体171とが接触できなくなると、上述したアクチュエータ80と同様の機能を発揮できなくなるので、これらの位置関係のズレを防ぐべく、ピストン主体82aと押圧部82bを嵌合などにより一体化する。
【0174】
続いて、本実施例3の作動油供給排出弁170は、上述した作動油供給排出弁70と同様に、ベルト式無段変速機1Aにおける一方の挟圧力発生油圧室であるプライマリ油圧室55に作動油を供給する際に開弁するものであると共に、プライマリ油圧室55から作動油を排出する際に開弁するものでもある。従って、この作動油供給排出弁170は、図16、図18、図19に示すように、プライマリ油圧室55の外部(即ち、プライマリプーリ50の外部)からこのプライマリ油圧室55への作動流体である作動油の供給、そのプライマリ油圧室55からプライマリプーリ50の外部への作動油の排出、そのプライマリ油圧室55の作動油の保持を行うものである。本実施例3の作動油供給排出弁170は、プライマリプーリ50のプライマリ隔壁154に形成された各弁配置通路54a内に夫々配置され(即ち、本実施例3の作動油供給排出弁170についても、円周上に等間隔に複数箇所(例えば、3箇所)形成され)、プライマリプーリ50と一体回転する。
【0175】
例えば、本実施例3の各作動油供給排出弁170は、ボール式の逆止弁であり、図17に示す如く、弁体171と、弁座面172と、弁体弾性部材173と、押圧力伝達部材174と、スナップリング175と、により構成されている。
【0176】
その弁体171は、弁座面172の最小内径よりも大きい直径の球状体であり、その弁座面172よりもプライマリ油圧室55側に配置する。ここでの弁座面172は、プライマリ油圧室55側で且つ径方向内側へと向かうほどに径の大きくなる円錐台の如きテーパー形状であり、後述するピストン582の押圧部582bの軸線方向に対して径方向内側に傾けて配置する。この作動油供給排出弁170は、弁体71を弁座面72に接触させることで、弁配置通路54aとプライマリ油圧室55との連通を遮断させる一方、弁体71を弁座面72から離すことで、弁配置通路54aとプライマリ油圧室55とを連通させる。つまり、本実施例3の各作動油供給排出弁170は、上述した作動油供給排出弁70と同様に、弁体171がプライマリ油圧室55側へと移動して弁座面172から離れることで開弁動作を行い、弁体171がそれとは逆方向に移動して弁座面172に接触することで閉弁動作を行う。
【0177】
弁体弾性部材173は、上述した作動油供給排出弁70の弁体弾性部材73と同様の弁体閉弁方向押圧力発生手段であり、押圧力伝達部材174を介して弁体171を弁座面172へと押し付けるよう付勢された状態で配置されている。例えば、ここでも、その弁体弾性部材173としてプライマリプーリ軸51と同一軸線上に配置した環状の皿バネを用い、その押圧力伝達部材174としてプライマリプーリ軸51と同一軸線上で且つ弁体弾性部材173よりも弁体171側に配置した環状部材を用いる。ここでの弁体弾性部材173は、その内径側のみが押圧力伝達部材174に閉弁方向の付勢力を発生させるよう成形したものを配置する。これが為、この弁体弾性部材173の外郭側がプライマリ隔壁154に対して作動油供給排出弁170の開弁方向へと移動しないようにスナップリング175で押さえている。また、本実施例3の押圧力伝達部材174は、プライマリ隔壁154からプライマリ油圧室55側へと突出させたプライマリプーリ軸51と同一軸線上の円筒部の内周面上を軸線方向へと摺動できるよう配置する。スナップリング175は、そのプライマリ隔壁154の円筒部の内周面上で弁体弾性部材173を保持している。従って、この弁体弾性部材173は、弁体171を弁座面172に接触させる方向への閉弁付勢力を発生させるので、この閉弁付勢力が作動油供給排出弁170の閉弁方向の弾性部材押圧力である弁体閉弁方向押圧力として弁体171に押圧力伝達部材174を介して作用する。これにより、変速比固定時には、図16に示す如く弁体171が弁座面172に押さえつけられ、各作動油供給排出弁170が逆止弁として機能する。
【0178】
ここで、その押圧力伝達部材174の内径は、その内周面とプライマリ可動シーブ53の円筒部53a外周面との間に間隔を空けるように設定されており、これが為、図18及び図19に示す如く弁体171が弁座面172から離座したときに、変速比減少時であれば作動油が図18の矢印Uの経路を経て弁配置通路54aからプライマリ油圧室55に流れ込み、変速比増加時であれば図19の矢印Dを経てプライマリ油圧室55から作動油が排出される。なお、その際のECU140や作動油供給制御装置130の動作については、実施例1にて説明したものと同様にして行われる。
【0179】
また、この押圧力伝達部材174は、弁体171の中心よりも径方向内側の内径側から弁体171に向けて突出させた円筒部を備えており、この円筒部の突出端にて弁体171を保持して弁座面172からの落下を防いでいる。その円筒部の突出端の端面は、弁体171に向かうにつれて径方向内側に傾斜させた傾斜面174aとする。そして、この押圧力伝達部材174は、その傾斜面174aにおいて弁体171を保持すると共に弁座面172へと押圧力伝達部材174の閉弁付勢力で押し付けている。この場合には、弁座面172におけるピストン582側の傾斜角θ1よりも押圧力伝達部材174の傾斜面174aの傾斜角θ2の方が大きくなるようにする(θ1<θ2)。これにより、その傾斜面174aと弁座面172やその近傍におけるプライマリ隔壁154との間の最小間隔が弁体171の直径よりも小さくなるので、弁体171の落下を確実に防ぐことができる。
【0180】
また、本実施例3の弁体171は、上述したピストン582における押圧部582bの傾斜面582b1よりも径方向内側にて当該傾斜面582b1に接触している。これが為、プライマリプーリ50の回転に伴って弁体171に遠心力が発生したときには、この遠心力によって押圧部582bの傾斜面582b1に押圧力が働き、この押圧力が上述した遠心油圧抗力として押圧部582bに作用する。従って、その遠心油圧抗力が少なくとも駆動油圧室81の遠心油圧に抗する力として働くので、アクチュエータ580の作動が不要なときには、ピストン582を初期位置に保持することができる。即ち、本実施例3においては、主として、その弁体171と押圧部582bの傾斜面582b1とによってピストン初期位置保持手段が構築される。
【0181】
このように、本実施例3においては、作動油供給排出弁170に閉弁状態保持手段(ピストン初期位置保持手段)の機能を併用させるべく構成及び配置しているので、前述した各実施例1,2と同様の効果(オイルポンプ132の駆動損失の増加を抑制など)を奏するのみならず、その閉弁状態保持手段の為の専用部品が不要になり、その各実施例1,2よりも部品点数を削減することができる。従って、この本実施例3のベルト式無段変速機1Cは、低コスト化や小型化を図ることができ、更に、信頼性までもが向上する。
【0182】
また、この場合、弁体171と押圧部582bの傾斜面582b1との間及び弁体171と押圧力伝達部材174の傾斜面174aとの間には作動油が満たされているので、その弁体171の円滑な動作の確保や各々の間の磨耗の回避については、別途潤滑構造を設けずとも実現することができる。これが為、本実施例3のベルト式無段変速機1Cは、このことによって更なる低コスト化、小型化、信頼性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
以上のように、本発明に係るベルト式無段変速機は、オイルポンプの駆動損失の増加を抑制させる技術に適している。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明に係るベルト式無段変速機を備えた動力伝達装置の全体構成を示すスケルトン図である。
【図2】実施例1のベルト式無段変速機におけるプライマリプーリの構成を示す要部断面図であって、変速比固定時の状態を示す図である。
【図3】図2に示すX−X線から見た実施例1のピストン初期位置保持手段を説明する要部断面図である。
【図4−1】実施例1のピストン初期位置保持手段の構成を示す要部断面図である。
【図4−2】実施例1のピストン初期位置保持手段の動作説明図である。
【図5−1】セカンダリプーリのトルクカムを示す図である。
【図5−2】トルクカムの動作説明図である。
【図6】作動油供給制御装置の構成例を示す図であって、変速比固定時の動作について説明する図である。
【図7】変速比減少時におけるプライマリプーリの動作説明図である。
【図8】変速比減少時における作動油供給制御装置の動作説明図である。
【図9】変速比増加時におけるプライマリプーリの動作説明図である。
【図10】変速比増加時における作動油供給制御装置の動作説明図である。
【図11】ピストン主体の他の構成例を示す図である。
【図12】ピストンの他の構成例を示す図である。
【図13】ピストン主体の他の構成例を示す図である。
【図14】実施例2のピストン初期位置保持手段の構成を示す要部断面図である。
【図15】実施例2のピストン初期位置保持手段の他の構成例を示す要部断面図である。
【図16】実施例3のベルト式無段変速機におけるプライマリプーリの構成を示す要部断面図であって、変速比固定時の状態を示す図である。
【図17】実施例3のピストン初期位置保持手段の構成について説明する要部断面図である。
【図18】変速比減少時における実施例3のプライマリプーリの動作説明図である。
【図19】変速比増加時における実施例3のプライマリプーリの動作説明図である。
【符号の説明】
【0185】
1A,1B,1C ベルト式無段変速機
10 内燃機関(駆動源)
20 トランスアクスル
30 トルクコンバータ
40 前後進切換機構
50 プライマリプーリ
51 プライマリプーリ軸
52 プライマリ固定シーブ
53 プライマリ可動シーブ
54 プライマリ隔壁
54a 弁配置通路
55 プライマリ油圧室(一方の挟圧力発生油圧室)
60 セカンダリプーリ
61 セカンダリプーリ軸
62 セカンダリ固定シーブ
63 セカンダリ可動シーブ
64 セカンダリ油圧室(他方の挟圧力発生油圧室)
70 作動油供給排出弁(作動油供給弁、作動油排出弁)
71 弁体
72 弁座面
73 弁体弾性部材
74 押圧力伝達部材
75 スナップリング
80 アクチュエータ(弁開閉手段)
81 駆動油圧室
82 ピストン
82a ピストン主体
82a1 遠心油圧抗力発生面
82b 押圧部
83 カバー部材
84 遠心油圧取消室
84c 空間
84a 傾斜面
85 遠心油圧取消部材(ローラー)
86 油抜き孔
90 最終減速機
100 動力伝達経路
110 ベルト
130 作動油供給制御装置
132 オイルポンプ
133 ライン圧制御装置
134 一定圧制御装置
135 プライマリ油圧室用制御装置
136 駆動油圧室用制御装置
137 セカンダリ油圧室用制御装置
154 プライマリ隔壁
170 作動油供給排出弁(作動油供給弁、作動油排出弁)
171 弁体
172 弁座面
173 弁体弾性部材
174 押圧力伝達部材
174a 傾斜面
175 スナップリング
182a ピストン主体
182a1 押圧部との接触面
182a2 ローラーとの接触面
182a3 凹部
282 ピストン
282a ピストン主体
282a1 凹部
282b 押圧部
382a ピストン主体
382a2 凹部
480 アクチュエータ(弁開閉手段)
487 遠心油圧取消油路
580 アクチュエータ(弁開閉手段)
582 ピストン
582a ピストン主体
582b 押圧部
582b1 傾斜面
S1 プライマリ油圧室用シール部材
S2,S3 駆動油圧室用シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止部材に対して回転運動する2つのプーリと、
前記各プーリに巻き掛けられ、一方のプーリに伝達された駆動源からの駆動力を他方のプーリに伝達するベルトと、
前記各プーリに形成され、油圧により前記ベルトに対してベルト挟圧力を発生させる挟圧力発生油圧室と、
前記各プーリの内の少なくとも何れか一方に当該プーリと一体回転すべく設け、該プーリの挟圧力発生油圧室へと作動油の供給を行う際に開弁する作動油供給弁と、
作動油の供給された前記挟圧力発生油圧室から当該作動油を排出する際に開弁し、該プーリと一体回転する作動油排出弁と、
駆動油圧室の油圧により、ピストンを初期位置から当該駆動油圧室に対する摺動方向の内の一方に摺動させることで前記作動油供給弁及び前記作動油排出弁を強制的に開弁させる弁開閉手段と、
を備えるベルト式無段変速機であって、
前記弁開閉手段は、プーリの回転に伴う前記駆動油圧室の遠心油圧によって前記ピストンに作用した開弁方向の力に抗して当該ピストンを機械的な力で前記初期位置に保持させるピストン初期位置保持手段を設けたことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記ピストン初期位置保持手段は、前記プーリの回転時に掛かる遠心力により前記ピストンを前記作動油供給弁の閉弁方向及び前記作動油排出弁の閉弁方向へと押圧する遠心油圧取消部材を備えることを特徴とした請求項1記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記作動油供給弁の弁体と当該作動油供給弁に係る前記ピストンに対しての前記ピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材、前記作動油排出弁の弁体と当該作動油排出弁に係る前記ピストンに対しての前記ピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材を夫々に一体化したことを特徴とする請求項2記載のベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記作動油供給弁と前記作動油排出弁とは共通の弁体を備え、該弁体と前記ピストン初期位置保持手段の遠心油圧取消部材を一体化したことを特徴とする請求項2記載のベルト式無段変速機。
【請求項5】
前記ピストン初期位置保持手段は、前記ピストン及び前記遠心油圧取消部材よりも外径側に空間を備えることを特徴とした請求項2,3又は4に記載のベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記ピストン初期位置保持手段は、油圧の力も利用して前記ピストンを前記初期位置に保持させるよう構成したことを特徴とする請求項1,2,3,4又は5に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−101736(P2008−101736A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286140(P2006−286140)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】