説明

ベンズイミダゾール系カプセル製剤

【課題】水分に弱いベンズイミダゾール系化合物を封入したカプセル製剤を生産、輸送する際に、カプセル製剤を保存する環境の水分を減らすことによりカプセルの破損が発生していた。
【解決手段】カプセル材質に可塑剤、特にポリエチレングリコールを混入させることにより、カプセル製剤を保存する環境の水分を低下させても破損しないカプセル製剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産時、輸送時に割れかけのないベンズイミダゾールカプセル製剤の設計に関する。
【背景技術】
【0002】
オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールをはじめとするベンズイミダゾールを骨格とする化合物(以下「ベンズイミダゾール系化合物」とする)はプロトンポンプであるH+,K+-ATPaseを阻害することによる胃酸の分泌抑制作用を示すことが明らかになっている(特許文献1)。また、最近では胃潰瘍の原因であるH.piroliをアモキシシリン、クラリスロマイシンと併用投与することにより除菌することができることも明らかになっている(特許文献2)。このようにベンズイミダゾール系化合物は現在、胃領域の治療に大きく貢献している。
【0003】
ベンズイミダゾール系化合物は非常に有用な薬物である反面、熱、pH、水分により分解しやすいことが知られている。従って、これらの環境下においても問題ないように様々な工夫がされている。例えば、ベンズイミダゾール系化合物はpHが低い環境下では分解が促進されるため、胃の中での分解を抑えるために低pHでは溶解しない腸溶性基材で製剤自身を覆っている。また、ベンズイミダゾール系化合物自身をより安定にするためにマグネシウムおよび/またはカルシウムの塩基性無機塩を安定化剤として加えている例もある(特許文献3)。
【0004】
しかし、ベンズイミダゾール系化合物は水分に弱いにも関わらず、水分についてはどのような文献にも製剤的な工夫がなされた事例がない。通常、水分に弱い薬物を製剤化する場合は気密包装内に製剤を包装し、その製剤と共に乾燥剤を加えて水分を極力製剤に即ち薬効成分に接触させないように工夫がされている。
通常、経口投与をする場合に生産性等を加味すると最も簡便な製剤は顆粒剤である。しかし、顆粒剤は服用時に飛散する、定量的な服用は非常に困難であることから、現在はあまり汎用されない剤形である。このような問題より現在では錠剤やカプセル剤が汎用されている。このうち、カプセル剤は錠剤の圧縮成型時における打錠障害、圧縮時における熱発生等がないので錠剤に比べると工程中の注意点が少なく、安定に製造できる剤形でもある。従って、ベンズイミダゾール系化合物の製剤においても錠剤若しくはカプセル剤のどちらかが選択されている。
【0005】
しかし、カプセル剤を選択する場合、カプセル自体が含有する水分により問題が生ずる場合がある。現在最も汎用されているゼラチンカプセルのカプセルの主成分であるゼラチンは水分量によって非常に影響を受け易いる物質である。ゼラチンを主要成分としているゼラチンカプセルは水分をある程度含んでいないと破損することが知られているが、一方で、先に述べたようにベンズイミダゾール系化合物は水分が多く存在すると不安定になる性質を有している。
【0006】
【特許文献1】特公平2−44473号公報
【特許文献2】特公平7−20865号公報
【特許文献3】特公平3−38247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水分を極力少なくすることによりベンズイミダゾールの安定性を向上させることができるが、逆にカプセルの破損を招くことにもなる。従って、本発明は水分を極力減らしてベンズイミダゾール系化合物の安定を図りつつ、カプセルの破損を抑えることができる製剤を供給することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題を解決するために、本発明者らは様々な検討を実施した結果、カプセルに可塑剤を加えることにより生産時及び輸送時に破損しないベンズイミダゾール系化合物のカプセル剤を得ることに成功した。
本発明の趣旨は下記の通りである。
(1)可塑剤含有したカプセルに充てんしたベンズイミダゾール系化合物のカプセル製剤
(2)可塑剤がポリエチレングリコール若しくはカラギーナンから選ばれた(1)のカプセル製剤
(3)カプセルの基材としてゼラチンを用いた(1)ないし(2)の製剤
(4)ベンズイミダゾール系化合物がランソプラゾールである(1)ないし(3)の製剤
【発明の効果】
【0009】
本発明はベンズイミダゾール系化合物を含有するカプセル製剤のカプセル基材に可塑剤を混入させることにより、生産時若しくは輸送時等に破損しないベンズイミダゾール系化合物含有カプセル製剤を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用するカプセル剤皮に混入させる可塑剤は通常カプセル製剤に添加する可塑剤であれば特に限定されない。具体的にはポリエチレングリコール、カラギーナン等が挙げられる。これらはカプセル全体に対して0.1〜20%、更に好ましくは1〜10%含有されていればよい。
カプセルの剤皮としては通常使用することのできる添加剤であれば特に限定されない。具体的にはゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、ポリビニルアルコール、アセチルアルコール、キトサンが挙げられ、更に好ましくはゼラチンが挙げられる。
【0011】
本製剤に用いることのできるベンズイミダゾール系化合物としては例えば、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール等が挙げられる。この中でも本発明を実施することに適しているベンズイミダゾール系化合物としては、特にランソプラゾールが挙げられる。
【0012】
本発明のカプセル製剤は、カプセル剤皮として前記のものを使用する以外は、常法に従ってベンズイミダゾール系化合物を製剤化し、カプセルに充填することにより製造される。すなわち、ベンズイミダゾール系化合物を、一般的に使用される添加剤と共に、顆粒、細粒等の組成物として製剤し、これをカプセル剤に充填、封入することにより製造される。
【0013】
上記製剤化に用いられる添加剤としては、従来公知の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を挙げることができる。
【0014】
このうち賦形剤としては、例えば乳糖、精製白糖、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール、無機塩、デキストラン、デキストリン、ブドウ糖、粉糖等が挙げられる。また、崩壊剤としては例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。更に、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
【0015】
一方、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。
さらに、カプセル内の薬物や添加剤を充填した後に、遮蔽性を向上させるために適宜バンドシールなどを施し、内部の顆粒を取り出せなくすることも可能である。
また、包装については特段規定は無いが、本発明に使用されるベンズイミダゾール系化合物は水に対して反応性の高い薬物であるので、乾燥剤を添付することも可能である。乾燥剤を添付する場合は特に本発明は有効に発揮される。
【実施例】
【0016】
実施例1
ランソプラゾール 210g、乳糖200M 192.5g、クムライト 70g、ポリソルベート80 4.2g、TC−5(E) 126gを精製水 1260gに懸濁・溶解させた。この溶液を用いてノンパレル101 784gに流動層造粒機を用いてコーティングを実施した。この顆粒に更に精製水 1830gにTC−5(E) 105g 酸化チタン 68.6gを懸濁させた液を流動層造粒機を用いてコーティングを実施した。そして更にコーティングした顆粒にオイドラギットL30−D55 741.3g、マクロゴール6000 21.56g、タルク 66.85gを精製水 650gに懸濁させた懸濁液を流動層造粒機を用いてコーティングを行った。
実施例2
実施例1で作成した顆粒を可塑剤であるポリエチレングリコール含有(全体の約5.7%)のゼラチンカプセルに充てんした。
比較例1
実施例1で作成した顆粒を通常のゼラチンカプセルに充てんした。
試験例1.
実施例2及び比較例1で充てんしたカプセルについて50℃の環境下で10日間密閉容器にて保管した。保管したカプセルを用いて、高さ10cmの位置から50gのおもりを落下させ、その際のカプセルの割れについて測定した。その結果を表1に示す。なお、試験を実施したカプセルの個数は5個である。
【0017】
【表1】

【0018】
表1のように可塑剤であるポリエチレングリコールを含有したカプセルを用いたランソプラゾールカプセルは破損しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、水分に弱いベンズイミダゾール系化合物を封入したカプセルにおいて、カプセルを保存する環境下の水分をコントロールしても、破損しないカプセル製剤を得ることができる。この発明により、生産時、輸送時でのカプセル破損も防ぐことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤含有したカプセルに充てんしたベンズイミダゾール系化合物のカプセル製剤
【請求項2】
可塑剤がポリエチレングリコール若しくはカラギーナンから選ばれた請求項1のカプセル製剤
【請求項3】
カプセルの基材としてゼラチンを用いた請求項1ないし2の製剤
【請求項4】
ベンズイミダゾール系化合物がランソプラゾールである請求項1ないし3の製剤

【公開番号】特開2007−15949(P2007−15949A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196982(P2005−196982)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】